(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-26
(45)【発行日】2023-11-06
(54)【発明の名称】鋳造物を加工する方法
(51)【国際特許分類】
A61F 2/06 20130101AFI20231027BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20231027BHJP
【FI】
A61F2/06
B33Y10/00
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022074387
(22)【出願日】2022-04-28
(62)【分割の表示】P 2020565294の分割
【原出願日】2019-05-21
【審査請求日】2022-05-25
(32)【優先日】2018-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】500026418
【氏名又は名称】ザ・ユニバーシティ・オブ・シドニー
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】アンソニー スティーブン ワイス
(72)【発明者】
【氏名】リチャード ワン
【審査官】中尾 麗
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-501810(JP,A)
【文献】特開昭64-082910(JP,A)
【文献】特開2013-144403(JP,A)
【文献】特表2009-530042(JP,A)
【文献】特開平04-259509(JP,A)
【文献】実公平04-054042(JP,Y2)
【文献】特開昭62-244548(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/06
B33Y 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳造生体材料を加工する方法であって、前記方法は、
基質生体材料を犠牲氷モールドに適用することであって、前記犠牲氷モールドは、前記基質生体材料を受容し、受容面に対応する成形構造を有する前記基質生体材料の鋳造物を提供するための成形非平面受容面を含む、ことと、
前記犠牲氷モールドおよび鋳造物を凍結乾燥条件に曝し、前記鋳造物から前記犠牲氷モールドを昇華させることにより、前記成形構造を含む鋳造生体材料を形成することと
を含む、方法。
【請求項2】
前記犠牲氷モールドは、氷から成る、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記基質生体材料は、オリゴマー、タンパク質、ポリペプチド、アミノ酸、多糖類、糖類、植物または動物組織、植物または動物細胞、食品材料、前述のうちの少なくとも1つを含む複合材料、およびそれらの混合物から成る群から選択される1つ以上の材料を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
基質生体材料を前記犠牲氷モールドに適用するステップに先立って、前記方法は、固体氷から前記犠牲氷モールドを彫刻または機械加工すること、または、水を含む液体モールド材料を鋳造または3D印刷し、前記水を含む液体モールド材料を固化させることにより、前記犠牲氷モールドを形成することから選択される方法によって、前記犠牲氷モールドを形成することをさらに含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記犠牲氷モールドを形成するステップは、前記水を含む液体モールド材料を3D印刷することを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記液体モールド材料を3D印刷するステップは、前記液体モールド材料の固相線温度を少なくとも5℃下回る温度における環境内で実行される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記液体モールド材料は、水から成る、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
前記基質生体材料を前記犠牲氷モールドに適用することにより、前記犠牲氷モールドの前記受容面上に前記基質生体材料の前記鋳造物を形成するステップは、10mm以下の層厚さを伴う前記基質生体材料の層を形成することを含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記鋳造物から前記犠牲氷モールドを昇華させるステップの後、前記方法は、1つ以上のコーティング層を前記鋳造生体材料の少なくとも1つの表面に適用し、コーティングされたおよび/または多層状の鋳造生体材料を形成することをさらに含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記受容面は、外部受容面であり、基質生体材料を前記犠牲氷モールドに適用するステップは、前記基質生体材料を用いて前記外部受容面の少なくとも一部をコーティングすることを含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記基質生体材料は、前記犠牲氷モールドを前記基質生体材料の中にディップコーティングすること、または、前記基質生体材料を前記犠牲氷モールドの前記外部受容面上にスプレーコーティングすることによって、前記犠牲氷モールドの前記外部受容面に適用される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記基質生体材料を前記犠牲氷モールドに適用するステップは、前記犠牲氷モールドの管状受容面の周囲に前記基質生体材料の管状層を形成することを含む、請求項1~
11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記鋳造物から前記犠牲氷モールドを昇華させるステップに先立って、前記方法は、1つ以上のコーティング層を前記鋳造物の少なくとも1つの表面に適用し、コーティングされたおよび/または多層状の鋳造物を形成することをさらに含む、請求項1~
12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
請求項1~
13のいずれか1項に記載の方法に従って加工される鋳造生体材料。
【請求項15】
請求項1~
13のいずれか1項に記載の方法に従って形成される血管構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、犠牲モールドを使用して鋳造物を加工する方法およびそれによって形成される鋳造物に関する。
【背景技術】
【0002】
多種多様な技術分野において鋳造物を形成するための多数の方法が、存在する。しかしながら、採用される方法論に応じて、これらの方法は、高価であり、労働集約的であり、時間がかかること、狭い範囲の材料に限定されること、ある用途に限定されること、および、例えば、複雑な形状および/または微細な細部を伴う鋳造物を提供する、結果として生じる鋳造物の材料および幾何学的性質に対する限定を含む、いくつかの欠点を有し得る。
【0003】
概して、複雑な形状において、かつ微細な細部を伴って、広い範囲の異なる材料から鋳造物を形成するための型板として使用され得るモールド、ブランク、または鋳型を形成する比較的に単純かつ費用効果の高い方法を提供することが、望ましいであろう。そのような方法は、種々の用途および技術分野における使用法を見出すであろう。
【0004】
上記にもかかわらず、下記の議論は、器官等の組織が、足場上で調製され、または別様に生育され得、その足場が、概して、モールドから形成される、組織工学設計用途に関する。合成組織を形成するための足場およびモールドの使用は、困難な課題を提供する。これは、組織自体が、精巧な構造を伴う生物学的材料の複雑な組み合わせであるためである。
【0005】
多大な進歩および革新にもかかわらず、本分野は、細胞が密集している全組織および器官の需要をまだ満たしていない。細胞の成長および機能を支援および調整するための吸収性および多孔性の足場の使用等の一般的な方略は、細胞生存能力を適切に支援するための酸素、栄養素、および老廃物の拡散限界に起因して、サイズおよび厚さにおいて制約される。身体の天然の広汎な血管網は、大きい組織を成長させるための適正な拡散近接を提供することによって、これらの限界に対処する。しかしながら、形態および機能において類似する効果的な血管系は、生体外でまだ正常に模倣されていない。天然の血管系は、より大きい血管(直径において0.4~8mm)から毛細血管および微小血管(直径において10~50μm)に及ぶ複雑な網目構造から成る。天然の血管系が階層的であることは、加圧血液輸送から、低流率における拡散促進に及ぶ、血管系に沿った多様な機能局在性を反映している。そのような構造は、現在の材料および方法論が、階層的網目構造の中に製造されるべき機械的強度、生物活性、および可撓性を同時に付与する能力を欠いているため、モールドまたは足場を使用して形成される等の合成血管系内で複製することが困難である。
【0006】
主として、移植およびグラフトの目的のために、より大きい血管(6mm直径よりも大きい)の構築が、進歩している。並行して、毛細血管網の誘導された自己組織化およびマイクロパターニングを含む、生体外組織工学設計のための毛細血管および微小血管網を形成するための複数の方略が、開発されている。しかしながら、機能的な合成血管系は、線形血管から網目構造およびループに及ぶ構造を横断して大きい血管および小さい毛細血管の両方を保有しなければならない。本階層系は、細胞動員、酸素および栄養素輸送、機械的圧力およびコンプライアンス、および組織グラフトと宿主脈管との間の外科手術吻合を実証しなければならない。現在まで、いかなる合成血管系も、これらの要件を包括的に満たしていない。
【0007】
本明細書における任意の従来技術の言及は、本従来技術が、任意の管轄区域における共通の一般的な知識の一部を形成すること、または本従来技術が、当業者によって理解される、関連すると見なされる、および/または従来技術の他の部分と組み合わせられることが合理的に予期され得ることの承認または示唆ではない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の側面では、鋳造品を加工する方法が、提供され、本方法は、
基質を犠牲モールドに適用するステップであって、犠牲モールドは、基質を受容し、受容面に対応する成形構造を有する基質の鋳造物を提供するための成形非平面受容面を含む、ステップと、
【0009】
犠牲モールドおよび鋳造物を凍結乾燥条件に曝し、鋳造物から犠牲モールドを昇華させ、成形非平面構造を含む鋳造品を形成するステップとを含む。
【0010】
本方法は、有利なこととして、モールドが容易に除去されることを可能にしながら、鋳造品が種々の異なる、および/または複雑な形状において形成されることを可能にする。
【0011】
ある実施形態では、犠牲モールドを昇華させ、鋳造物から犠牲モールドを除去するステップは、鋳造物を凍結乾燥プロセスに曝すステップを含む。
【0012】
ある実施形態では、犠牲モールドは、剛性である。一形態では、犠牲モールドは、少なくとも0.1GPaのヤング係数を有する材料から形成される。より好ましくは、ヤング係数は、少なくとも0.5GPaである。なおもより好ましくは、ヤング係数は、少なくとも1GPaである。さらにより好ましくは、ヤング係数は、少なくとも2GPaである。さらにより好ましくは、ヤング係数は、少なくとも4GPaである。最も好ましくは、ヤング係数は、少なくとも8GPaである。
【0013】
ある実施形態では、犠牲モールドは、氷またはドライアイス等の凍結材料から形成される。一形態では、犠牲モールドは、氷を含む、本質的にそれから成る、またはそれから成る。しかしながら、犠牲モールドは、氷モールドの性質を改変するために、金属塩または溶解した有機化合物等の他の添加剤を含み得ることを理解されたい。実施例として、添加剤は、氷の融点を変化させるために、および/またはその表面に適用される基質に対する氷の親和性を改変するために使用されてもよい。添加剤が存在する実施形態では、モールドは、氷と、0.1質量%以下の1つ以上の添加剤とから成ることが、好ましい。より好ましくは、モールドは、氷と、0.05質量%以下の1つ以上の添加剤とから成る。最も好ましくは、モールドは、氷と、0.01質量%以下の1つ以上の添加剤とから成る。
【0014】
当業者は、犠牲モールドの昇華をもたらすために要求される温度および圧力を理解するであろう。しかしながら、本発明者らは、約-40℃~-120℃の範囲内の温度および約300μB未満の圧力が、氷に関して有用であることを見出している。好ましくは、温度は、約-50℃~最大約-102℃の範囲内であり、圧力は、約<250μB未満の圧力である。好ましい温度は、-55℃である。凍結乾燥プロセスの持続時間は、構造物のサイズに応じて変動するが、例えば、最大16時間であり得る。
【0015】
ある実施形態では、基質は、ポリマー(熱可塑性および熱硬化性ポリマーの両方)、樹脂、オリゴマー、モノマー、タンパク質、ポリペプチド、アミノ酸、多糖類、糖類、無機繊維、有機繊維、植物または動物組織、植物または動物細胞、食品材料、セラミック材料、前述のうちの少なくとも1つを含む複合材料、およびそれらの混合物から成る群から選択される、1つ以上の材料を含む、本質的にそれから成る、またはそれから成る。
【0016】
1つ以上の実施形態では、基質は、溶媒中に分散される上記に列挙される基質材料のうちの1つ以上のものを含む、本質的にそれから成る、またはそれから成る基質組成物の形態において提供される。そのような実施形態では、溶媒は、犠牲モールドを凍結乾燥条件に曝すステップの間に昇華されることが、好ましい。
【0017】
当業者は、多種多様な溶媒が、使用され得、溶媒の選択は、それから基質が形成される材料に依存することを理解するであろう。実施例として、溶媒の非限定的開示は、ペンタン、シクロペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、1,4-ジオキサン、クロロホルム、ジエチルエーテル、またはジクロロメタン等の非極性溶媒、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、アセトン、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、ニトロメタン、または炭酸プロピレン等の極性非プロトン溶媒、蟻酸、n-ブタノール、イソプロピルアルコール、n-プロパノール、エタノール、メタノール、酢酸、または水等の極性プロトン性溶媒を含む。好ましい溶媒は、水が、他の列挙される溶媒に優るいくつかの利点を呈するため、水である。例えば、水は、安価であり、容易に入手可能であり、非毒性である。さらに、基質が生物学的材料である好ましい実施形態では、水は、生体適合性であり、他の材料の場合に要求され得る洗浄ステップを要求しない。
【0018】
ある実施形態では、基質を犠牲モールドに適用するステップに先立って、本方法はさらに、固体犠牲モールド材料から犠牲モールドを彫刻または機械加工するステップ、または液体モールド材料を鋳造または3D印刷し、液体モールド材料を固化させ、犠牲モールドを形成するステップから選択される方法によって、犠牲モールドを形成するステップを含む。
【0019】
ある実施形態では、犠牲モールドを形成するステップは、液体モールド材料を3D印刷するステップを含む。好ましくは、液体モールド材料を3D印刷するステップは、液体モールド材料の固相線温度を下回る温度における環境内で実行される。好ましくは、温度は、固相線温度よりも少なくとも10℃冷温である。より好ましくは、温度は、固相線温度よりも少なくとも20℃冷温である。さらにより好ましくは、温度は、固相線温度よりも少なくとも25℃冷温である。最も好ましくは、温度は、固相線温度よりも少なくとも40℃冷温である。液体モールド材料が水である本実施形態の一具体的実施例では、3D印刷するステップは、-30℃に設定される冷凍機内で実行される。液体モールド材料が水である本実施形態の別の実施例では、3D印刷するステップは、-80℃に設定される冷凍機で実行される。
【0020】
上記の実施形態の一形態では、液体モールド材料は、水である。一形態では、液体モールド材料は、水を含む、本質的にそれから成る、またはそれから成る。本実施形態の一特定の形態では、液体モールド材料は、水と、0.1質量%以下の1つ以上の添加剤とから成る。好ましくは、液体モールド材料は、水と、0.05質量%以下の1つ以上の添加剤とから成る。最も好ましくは、液体モールド材料は、水と、0.01質量%以下の1つ以上の添加剤とから成る。
【0021】
液体モールド材料が水である上記の実施形態の形態では、好適な添加剤は、塩または有機化合物を含んでもよい。塩の添加は、氷の融点を変化させる。これは、液体モールド材料を3D印刷するステップが、液体と、1つ以上の溶解した添加剤(前述で説明されるような0.1質量%以下において等)とから成る液体モールド材料から第1のモールド構成要素を3D印刷するステップと、第2のモールド構成要素を第1のモールド構成要素の少なくとも一部に適用するステップであって、第2のモールド構成要素は、第1のモールド構成要素および第2のモールド構成要素の融点が、異なるように、異なる組成であるが、同一の液体から形成される、ステップとを含む実施形態において有用である。好ましくは、第1のモールド構成要素は、第2のモールド構成要素よりも低い融点を有する。本実施形態は、第2のモールド構成要素のための淡水氷に戻るように切り替える前に、塩水氷の第1のモールド構成要素を3D印刷するときに有用である。
【0022】
ある実施形態では、受容面は、外部受容面であり、基質を犠牲モールドに適用するステップは、基質を用いて外部受容面の少なくとも一部をコーティングするステップを含む。好ましくは、基質は、犠牲モールドを基質の中にディップコーティングする、または基質を犠牲モールド上にスプレーコーティングすることによって、犠牲モールドの外部受容面に適用される。当業者は、類似するコーティングプロセスが使用され得ることを理解するであろう。
【0023】
一実施形態では、基質を犠牲モールドに適用するステップは、第1の基質材料を犠牲モールドの受容面に適用し、犠牲モールドの受容面上に第1の基質材料の第1の層を形成するステップと、第2の基質材料を第1の層の少なくとも一部に適用し、第1の層上に第2の基質材料の第2の層を形成するステップとを含む。基質の1つ以上のさらなる層が、多層状基質を形成するために適用される、および/または第1の層の異なる部分に適用され得ることを理解されたい。第1の基質、第2の基質、および任意のさらなる基質は、同一である、または異なってもよい。犠牲モールドから形成される鋳造品が、管または血管の構造を有する場合、本プロセスは、その長さの中で管管腔(tube lumen)が多かれ少なかれ一定の直径を有する、管の長さに沿った管の壁の厚さを変動させることを可能にしてもよい。本実施形態によると、その長さの中で管管腔が様々な直径を有する、管の長さに沿った管の壁の厚さを変動させることもまた、可能である。
【0024】
一定の管直径を維持しながら、管または血管の壁厚さを変動させるために犠牲モールドを利用するための別の選択肢は、内側および外側犠牲氷足場を利用することである。本実施形態では、内側および外側犠牲モールドは、該モールドの受容面への鋳造品を形成するための基質の適用に応じて、内側犠牲モールドが、鋳造品の内面を画定および形成し、外側犠牲モールドが、鋳造品の外面を画定および形成するような配列において形成される。内側犠牲モールドの受容面に対して外側犠牲モールドの受容面を変動させることによって、管腔直径を維持しながら、壁厚さを変動させることが、可能になる。鋳造品の外壁上にパターンを画定するように、外側犠牲モールドの受容面を形成または適合させることによって、鋳造品の外壁上にパターンまたは繰り返し形成を提供することもまた、可能である。その長さの中で管管腔が様々な直径を有する、管の長さに沿った管の壁の厚さを変動させることもまた、可能である。一実施形態では、内側犠牲モールドは、外側犠牲モールドと一体的に形成されてもよい。
【0025】
基質の壁厚さに関するいかなる特定の限界も、存在しないが、ある実施形態では、基質を犠牲モールドに適用し、犠牲モールドの表面上に基質の層を形成するステップは、10mm以下の層厚さを伴う基質の層を形成するステップを含む。好ましくは、層厚さは、7mmまたはそれを下回る。より好ましくは、層厚さは、5mmまたはそれを下回る。さらにより好ましくは、層厚さは、4mmまたはそれを下回る。最も好ましくは、層厚さは、3mmまたはそれを下回る。加えて、または代替として、ある形態では、壁厚さは、0.1mm以上である。
【0026】
ある実施形態では、基質を犠牲モールドに適用するステップは、犠牲モールドの管状受容面の周囲等、犠牲モールドの1つ以上の受容面の周囲に基質の管状層を形成するステップを含む。
【0027】
一実施形態では、モールドは、モールドが、基質を用いてコーティングされるとき、血管または管の形態における基質からの鋳造物または鋳造品の形成を可能にする形状を備える。本実施形態では、モールドの受容面は、血管の管腔面を画定してもよい。
【0028】
一実施形態では、モールドの受容面は、1つ以上の溝、スリット、または裂溝を備え、各溝、スリット、または裂溝は、モールドが、基質を用いてコーティングされるとき、鋳造品または鋳造物の管腔面上の基質からのフラップまたは膜の形成を可能にする。好ましくは、溝、スリット、または裂溝は、フラップまたは膜が構成される血管鋳造物の管腔を通した流体の速さまたは方向を制御するためのフラップまたは膜の形成を可能にするように構築される。より好ましくは、溝、スリット、または裂溝は、弁として機能する鋳造物の管腔面上の1つ以上のフラップまたは膜の配列を形成するように、モールドの受容面上に位置付けられる。
【0029】
ある実施形態では、基質から犠牲モールドを昇華させるステップに先立って、本方法はさらに、1つ以上のコーティング層を鋳造物の少なくとも1つの表面に適用し、コーティングおよび/または多層状鋳造物を形成するステップを含む。代替として、または加えて、ある実施形態では、基質から犠牲モールドを昇華させるステップ後、本方法はさらに、1つ以上のコーティング層を鋳造品の表面の少なくとも一部に適用し、コーティングおよび/または多層状鋳造品を形成するステップを含む。1つ以上のコーティング層が、多層状コーティングを形成するために適用される、および/または鋳造物および/または鋳造品の表面の異なる部分をコーティングするために適用され得ることを理解されたい。1つ以上のコーティング層は、基質と同一の材料または異なる材料から形成されてもよい。
【0030】
ある実施形態では、鋳造物および/または鋳造品は、管様形状を呈する少なくとも1つの部分を含む。
本発明の第2の側面では、内部階層構造を伴う鋳造生体材料を加工する方法が、提供され、本方法は、
【0031】
階層構造を有する犠牲氷モールドの外部受容面の少なくとも一部の上に生体材料組成物をコーティングし、氷モールドの外面上に生体材料組成物の鋳造物を形成するステップであって、鋳造物は、犠牲氷モールドの外部受容面に対応する内部階層構造を有する、ステップと、
【0032】
鋳造物をある温度および圧力に曝し、鋳造物から犠牲氷モールドを凍結乾燥させ、内部階層構造を伴う鋳造生体材料を形成するステップとを含む。
本発明の第3の側面では、階層構造を有する鋳造物または鋳造品を加工する方法が、提供され、本方法は、
【0033】
コーティングからモールドの外面によって画定される階層構造を有する鋳造物を形成するための条件において、基質を用いて犠牲モールドの外面の階層構造の少なくとも一部をコーティングするステップと、
【0034】
モールドを分解させるための条件に鋳造物および/またはモールドを曝し、モールドからの鋳造物の解放を可能にするステップとを含み、
【0035】
それによって、階層構造を有する鋳造物を加工する。
【0036】
第3の側面の一実施形態では、モールドの外部受容面の少なくとも一部の上に適用されている基質を架橋または硬化させるステップが、含まれ、基質の該架橋または硬化は、それによって、モールドの外面によって画定される階層構造を有する鋳造物をモールド上に形成する。
【0037】
一実施形態では、鋳造物および/またはモールドは、モールドを昇華または凍結乾燥させ、それによって、モールドを分解させ、モールドから鋳造物を解放するための条件に曝される。
【0038】
ある実施形態では、鋳造物をある温度および圧力に曝し、鋳造物から犠牲氷モールドを凍結乾燥させるステップは、鋳造物を凍結乾燥プロセスに曝すステップを含む。
【0039】
鋳造物および/または鋳造生体材料の壁厚さに関するいかなる特定の限界も、存在しないが、ある実施形態では、鋳造物および/または鋳造生体材料は、10mm以下の壁厚さを有する。好ましくは、壁厚さは、7mmまたはそれを下回る。より好ましくは、壁厚さは、5mmまたはそれを下回る。さらにより好ましくは、壁厚さは、4mmまたはそれを下回る。最も好ましくは、壁厚さは、3mmまたはそれを下回る。加えて、または代替として、ある形態では、壁厚さは、0.1mm以上、または0.1~1.0mm、または0.3、または0.6、または0.9mmである。
【0040】
ある実施形態では、鋳造物または鋳造生体材料は、自立階層血管構造である。
【0041】
ある実施形態では、鋳造物の階層構造は、少なくとも親血管と、親血管の末端から延在する複数の娘血管と、ある形態では、娘血管のうちの1つ以上のものまたはそれぞれの末端から延在する複数の孫娘血管とを含む。孫娘および曾孫娘血管(以下同様である)を提供するため等、さらなる枝部が、可能であることを理解されたい。階層構造(存在する場合)は、マレーの法則に従うことが、好ましい。すなわち、親血管が、娘血管に分岐するとき、親血管の半径の3乗は、娘血管の半径の3乗の和に等しい。
【0042】
娘、孫娘、および曾孫娘血管は、ループ、分岐部、多重分岐部、および/またはそれらの組み合わせを含む血管構造の形態であってもよい。簡潔にする目的のために、階層構造という用語は、分岐および収束の両方を行う娘、孫娘、および曾孫娘血管、例えば、1つのより大きい直径の血管を形成するようにともに収束する2つ以上のより小さい直径の血管を有する構造を含む。
【0043】
一実施形態では、血管は、閉鎖端を有してもよい。
【0044】
本方法の利点は、これが幅狭血管の形成を可能にすることである。好ましい形態では、階層構造は、2mm以下の直径に対応する断面積を有する少なくとも1つの血管を含む。好ましくは、断面積は、1.5mm以下の直径に対応する。より好ましくは、断面積は、1mm以下の直径に対応する。最も好ましくは、断面積は、0.5mm以下の直径に対応する。本方法を使用して形成される階層構造における任意の特定の血管の直径に対するいかなる特定の上限サイズも、存在しない。人体内の血管系の最も大きい血管は、約20mmの直径を有する大動脈である。他の動物は、より大きい直径の血管を保有し、本方法は、これらのより大きい血管を形成するために使用され得ることを理解されたい。他の実施形態では、直径は、20mmよりも大きい、例えば、特に、血管系以外のための血管構造が要求される場合、25~50mmであってもよい。
【0045】
ある実施形態では、基質は、犠牲モールドの外部受容面を基質の中にディップコーティングする、または基質を犠牲モールドの外部受容面上にスプレーコーティングすることによって、犠牲モールドの外部受容面に適用される。当業者は、類似するコーティングプロセスが使用され得ることを理解するであろう。
【0046】
ある実施形態では、犠牲氷モールドの外部受容面の少なくとも一部の上に基質または生体材料をコーティングするステップに先立って、本方法はさらに、犠牲氷モールドを形成するために、水を3D印刷することによって犠牲氷モールドを形成するステップを含む。
【0047】
上記の実施形態の一形態では、液体モールド材料を3D印刷するステップは、液体モールド材料の固相線温度よりも少なくとも5℃冷温である温度における環境内で実行される。好ましくは、温度は、固相線温度よりも少なくとも10℃冷温である。より好ましくは、温度は、固相線温度よりも少なくとも20℃冷温である。さらにより好ましくは、温度は、固相線温度よりも少なくとも25℃冷温である。最も好ましくは、温度は、固相線温度よりも少なくとも40℃冷温である。液体モールド材料が水である本実施形態の一具体的実施例では、3D印刷するステップは、-30℃に設定される冷凍機内で実行される。液体モールド材料が水である本実施形態の別の実施例では、3D印刷するステップは、-80℃に設定される冷凍機内で実行される。
【0048】
上記の実施形態の別の形態では、液体モールド材料を3D印刷するステップは、液体モールド材料を堆積させ、液体窒素を用いて液体モールド材料に噴霧し、液体モールド材料を凍結させるステップを含む。
【0049】
ある実施形態では、基質または生体材料組成物を犠牲モールドに適用するステップは、基質または生体材料組成物を適用した後、さらなる材料を鋳造層または生体材料鋳造層の少なくとも一部に適用し、鋳造層または生体材料鋳造層の表面上にさらなる材料の層を形成するステップを含む。さらなる材料のさらなる層は、生体材料組成物の表面上に多層状基質を形成するために適用される、および/または第1の層の異なる部分に適用され得ることを理解されたい。生体材料、基質、および任意のさらなる基質は、同一である、または異なってもよい。
【0050】
ある実施形態では、犠牲氷モールドを凍結乾燥させるステップ後、本方法はさらに、1つ以上のコーティング層を鋳造生体材料の表面に適用し、コーティングおよび/または多層状鋳造生体材料を形成するステップを含む。1つ以上のコーティング層は、多層状コーティングを形成するために適用される、および/または鋳造生体材料の表面の異なる部分をコーティングするために適用され得ることを理解されたい。1つ以上のコーティング層は、鋳造生体材料と同一の材料または異なる材料から形成されてもよい。
【0051】
ある実施形態では、本方法は、最初に、血管構造の画像を取得し、その血管構造のネガティブ氷モールドを3D印刷するステップを含む。画像は、例えば、患者の血管構造のCT/MRI走査から、または血管構造のデータベースから取得されてもよい。このように、本発明の方法は、血管(または他の)構造を調製するための特注プロセスを提供する。
【0052】
鋳造物または鋳造品が血管または管構造を含む、本発明の第2または第3の側面の実施形態では、壁厚さは、本発明の第1の側面に関連して説明されるように、固定管腔直径の領域を横断して変動してもよい、または壁厚さは、様々な管腔直径の領域を横断して変動してもよい。
【0053】
鋳造物または鋳造品が血管または管構造を含む、本発明の第2または第3の側面の実施形態では、管腔面は、本発明の第1の側面に関連して説明されるように、流体速さまたは方向を制御するための1つ以上のフラップまたは膜を具備してもよい。
【0054】
本発明の第4の側面では、本発明の第1、第2、または第3の側面の方法、およびそれらの実施形態に従って加工される、鋳造生体材料等の鋳造品が、提供される。
【0055】
本発明の第5の側面では、本発明の第1、第2、または第3の側面の方法、およびそれらの実施形態に従って形成される、階層血管構造が、提供される。
【0056】
本発明の第6の側面では、血管系において使用するために好適な鋳造品が、提供され、鋳造品は、本発明の第1、第2、または第3の側面の方法に従って形成され、
【0057】
血管管腔を画定する内面を有する、第1の層であって、該第1の層は、血管管腔への、およびそれからの栄養素および/またはガスの拡散を可能にする、多孔性ポリマーから成る、第1の層と、
【0058】
第1の層の外面上に形成される、第2の層であって、該第2の層は、血管細胞浸潤および/または付着を可能にする、第2の層と、
随意に、
【0059】
第2の層の外面上に形成される、第3の層であって、該第3の層は、鋳造品に機械的強度を提供し、縫合および縫合糸留保のための強度を可能にするためのものである、第3の層とを含む。
【0060】
一実施形態では、第1の層は、アガロースを含んでもよく、第2の層は、エラスチンまたはコラーゲン等の細胞外タンパク質および/または線維芽細胞または内皮細胞の等の1つ以上の細胞を含んでもよく、第3の層は、ポリカプロラクトン等の合成ポリマーを含んでもよい。
【0061】
好ましくは、鋳造品は、動脈または静脈系における使用のために好適である。物品は、リンパ系における使用のために好適であってもよい。本発明のさらなる側面および前述の段落に説明される側面のさらなる実施形態が、実施例を用いて与えられる以下の説明から、および付随の図面を参照して明白となるであろう。
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
鋳造物を加工する方法であって、前記方法は、
基質を犠牲モールドに適用するステップであって、前記犠牲モールドは、前記基質を受容し、受容面に対応する成形構造を有する前記基質の鋳造物を提供するための成形非平面受容面を含む、ステップと、
前記犠牲モールドおよび鋳造物を凍結乾燥条件に曝し、前記鋳造物から前記犠牲モールドを昇華させ、前記成形非平面構造を含む鋳造品を形成するステップと
を含む、方法。
(項目2)
前記犠牲モールドは、少なくとも0.1GPaのヤング係数を有する材料から形成される、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記犠牲モールドは、氷から形成される、項目1または2に記載の方法。
(項目4)
前記基質は、ポリマー、樹脂、オリゴマー、モノマー、タンパク質、ポリペプチド、アミノ酸、多糖類、糖類、無機繊維、有機繊維、植物または動物組織、植物または動物細胞、食品材料、セラミック材料、前述のうちの少なくとも1つを含む複合材料、およびそれらの混合物から成る群から選択される1つ以上の材料を含む、前記項目のいずれか1項に記載の方法。
(項目5)
前記基質を前記犠牲モールドに適用するステップに先立って、前記方法はさらに、固体犠牲モールド材料から前記犠牲モールドを彫刻または機械加工するステップ、または液体モールド材料を鋳造または3D印刷し、前記液体モールド材料を固化させ、前記犠牲モールドを形成するステップから選択される方法によって、前記犠牲モールドを形成するステップを含む、前記項目のいずれか1項に記載の方法。
(項目6)
前記犠牲モールドを形成するステップは、前記液体モールド材料を3D印刷するステップを含む、項目5に記載の方法。
(項目7)
前記液体モールド材料を3D印刷するステップは、前記液体モールド材料の固相線温度を少なくとも5℃下回る温度における環境内で実行される、項目6に記載の方法。
(項目8)
前記液体モールド材料は、水である、項目6または7に記載の方法。
(項目9)
前記基質を前記犠牲モールドに印加し、前記犠牲モールドの受容面上に前記基質の鋳造物を形成するステップは、10mm以下の層厚さを伴う前記基質の層を形成するステップを含む、前記項目のいずれか1項に記載の方法。
(項目10)
前記基質から前記犠牲モールドを昇華させるステップ後、前記方法はさらに、1つ以上のコーティング層を前記鋳造品の少なくとも1つの表面に適用し、コーティングおよび/または多層状鋳造品を形成するステップを含む、前記項目のいずれか1項に記載の方法。
(項目11)
前記受容面は、外部受容面であり、前記基質を前記犠牲モールドに適用するステップは、前記基質を用いて前記外部受容面の少なくとも一部をコーティングするステップを含む、前記項目のいずれか1項に記載の方法。
(項目12)
前記基質は、前記犠牲モールドを前記基質の中にディップコーティングする、または前記基質を前記犠牲モールドの外部受容面上にスプレーコーティングすることによって、前記犠牲モールドの外部受容面に適用される、項目11に記載の方法。
(項目13)
内部階層構造を伴う鋳造生体材料を加工する方法であって、前記方法は、
階層構造を有する犠牲氷モールドの外面の少なくとも一部の上に生体材料をコーティングし、前記犠牲氷モールド上に前記生体材料の鋳造物を形成するステップであって、前記鋳造物は、前記犠牲氷モールドの外面に対応する内部階層構造を有する、ステップと、
前記鋳造物をある温度および圧力に曝し、前記鋳造物から前記犠牲氷モールドを凍結乾燥させ、内部階層構造を伴う前記鋳造生体材料を形成するステップと
を含む、方法。
(項目14)
前記階層構造は、50mm以下、好ましくは、10mm以下の直径に対応する断面積を伴う1つ以上の枝部を含む、項目13に記載の方法。
(項目15)
前記断面積は、5mm以下の直径に対応する、項目14に記載の方法。
(項目16)
前記犠牲氷モールドの外面の少なくとも一部の上に生体材料をコーティングするステップに先立って、前記方法はさらに、前記犠牲氷モールドを形成するために、水を3D印刷することによって前記犠牲氷モールドを形成するステップを含む、項目13-15のいずれか1項に記載の方法。
(項目17)
液体モールド材料を3D印刷するステップは、前記液体モールド材料の固相線温度よりも少なくとも5℃冷温である温度における環境内で実行される、項目13-16のいずれか1項に記載の方法。
(項目18)
前記犠牲氷モールドの外面の少なくとも一部の上に前記生体材料をコーティングするステップは、10mm以下の壁厚さを伴う前記鋳造物を形成する、項目13-17のいずれか1項に記載の方法。
(項目19)
前記階層構造は、少なくとも親血管と、前記親血管の末端から延在する複数の娘血管とを含み、前記親血管および前記複数の娘血管は、前記階層構造が、マレーの法則に従うようにサイズ決めされる、項目13-18のいずれか1項に記載の方法。
(項目20)
前記基質を前記犠牲モールドに適用するステップは、前記犠牲モールドの管状受容面の周囲に前記基質の管状層を形成するステップを含む、前記項目のいずれか1項に記載の方法。
(項目21)
前記基質から前記犠牲モールドを昇華させるステップに先立って、前記方法はさらに、1つ以上のコーティング層を前記鋳造物の少なくとも1つの表面に適用し、コーティングおよび/または多層状鋳造物を形成するステップを含む、前記項目のいずれか1項に記載の方法。
(項目22)
前記項目のいずれか1項に記載の方法に従って加工される、鋳造品。
(項目23)
項目1-21のいずれか1項に記載の方法に従って形成される、階層血管構造。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【
図1】
図1aは、ポジティブモールドが、ポリジメチルシロキサン(PDMS)中に浸漬され、ネガティブモールドを作成する前に、最初に、デジタル的に設計され、3D印刷された、設計段階を図示する。
図1bは、水が、瞬間凍結され、氷から作製される犠牲モールドを形成する前に、PDMSモールドの中に注入された、鋳造段階を図示する。
図1cは、犠牲氷モールドが、基質、この場合では、溶解したトロポエラスチンを用いてディップコーティングされた、コーティング段階を図示する。基質コーティング犠牲モールドは、本基質コーティングを固化させるために瞬間凍結された。後続凍結乾燥は、基質コーティングに影響を及ぼすことなく犠牲氷モールドを除去した。最後に、トロポエラスチン基質コーティングの熱安定化は、トロポエラスチン血管構造をもたらした。
図1dは、分岐血管、小さい直径の線形血管、複数分岐血管、大動脈弓、より大きい直径の線形血管、および厚い壁の血管を含む、広範な範囲の血管構造が、本方法を使用して作製され得ることを図示する。
図1eは、限定ではないが、トロポエラスチン、ポリカプロラクトン(PCL)と組み合わせられたトロポエラスチン、PDMSと組み合わせられたトロポエラスチン、絹、およびPDMSと組み合わせられた絹を含む、犠牲氷モールド上にコーティングされ得るある範囲の基質材料を図示する。
【0063】
【
図2】
図2aは、直径において10μm未満の細孔を有するトロポエラスチン血管の管腔面のSEM画像である(スケールバー、10μm)。拡大画像は、これらの細孔が、血管壁内のサブ構造に接続されたことを露見させる(スケールバー、2μm)。
図2bは、管腔壁と管腔外壁との間に半径方向に接続されたチャネルを呈する、トロポエラスチン血管の断面のSEM画像である(スケールバー、100μm)。拡大画像は、半径方向に整合されたチャネルが、幅において約2μmであったことを示す(スケールバー、2μm)。
図2cは、トロポエラスチン血管の管腔外面が、管腔面上の細孔よりも小さい細孔を有していたことを示す、SEM画像である(スケールバー、10μm)。拡大画像は、管腔外面上の細孔が、典型的には、直径において2μm未満であり、また、血管壁内のサブ構造に接続されたことを示す(スケールバー、2μm)。
図2dは、トロポエラスチン血管の巡回試験の代表的応力-歪み曲線である。500サイクルを横断する重畳された曲線は、機械的分解のいかなる兆候も存在せず、その弾性が保全されることを示した。材料は、最初に高く、続けて減少する堅性と、最初に低く、続けて増加するコンプライアンスとを伴う二相性負荷相を呈した。堅性およびコンプライアンスが変化する点は、臨界応力と称された。
図2eは、ヒステリシスが、明白であり、また、巡回試験全体を通して一貫し、試験の持続時間にわたって機械的性質の保全を証明したことを呈する、グラフである。
図2fは、トロポエラスチン血管の破裂圧力が、二次基質としてのPCLの添加を通して有意に改良されたことを示す、グラフである。これは、ヒト伏在静脈(灰色区域)の破裂圧力に匹敵した。
図2gは、トロポエラスチン血管の弾性率が、PCLの添加を通して有意に改良されたことを示す、グラフである。PCLの3つの層が、ヒト伏在静脈のものに匹敵する弾性率を提供するために要求された。エラーバーは、標準偏差であるp値、すなわち、* < 0.05, ** < 0.01, *** < 0.001, **** < 0.0001を表す。
図2hは、トロポエラスチン血管の最終引張強度(UTS)が、PCLの添加を通して有意に改良されたことを示す、グラフである。PCLの5つの層が、ヒト伏在静脈のものに匹敵するUTSをもたらした。エラーバーは、標準偏差であるp値、すなわち、* < 0.05, ** < 0.01, *** < 0.001, **** < 0.0001を表す。
図2iは、ラット腹部大動脈およびヒト伏在静脈と比較してより強い、PCLの添加を通して改良された縫合糸留保強度を示す、グラフである。エラーバーは、標準偏差であるp値、すなわち、* < 0.05, ** < 0.01, *** < 0.001, **** < 0.0001を表す。
【0064】
【
図3】
図3aは、100%ウシ胎児血清(FBS)またはリン酸塩緩衝液(PBS)のいずれかにおいてインキュベートされた血管の2週間の分解アッセイが、構造完全性の保全を実証したことを図示する。
図3bは、FBSまたはPBS中でインキュベートされる2週間分解の間のトロポエラスチン血管の質量留保分析を示す、グラフである。本質量損失は、3日後に安定化し、いかなる有意な質量損失も、FBS中でインキュベートされた血管において第3日目~第14日目に観察されなかった。エラーバーは、標準偏差であるp値、すなわち、* < 0.05, ** < 0.01, *** < 0.001, **** < 0.0001を表す。
図3cは、4時間の過程にわたって、グルコース注入PBSが、トロポエラスチン血管を通して圧送されるにつれて、管腔外空間内で測定されたグルコース濃度が、増加したことを示す、グラフである。エラーバーは、標準偏差であるp値、すなわち、* < 0.05, ** < 0.01, *** < 0.001, **** < 0.0001を表す。
図3dは、トロポエラスチン血管の管腔面上で増殖しているヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)のDNA定量が、第1日目~第7日目に細胞集団の有意な増加を示したことを示す、グラフである。エラーバーは、標準偏差であるp値、すなわち、* < 0.05, ** < 0.01, *** < 0.001, **** < 0.0001を表す。
図3eは、トロポエラスチン血管の管腔面上のHUVEC増殖の一連の共焦点顕微鏡画像である。HUVEC集団は、7日間の増殖持続時間にわたって合流まで成長した(スケールバー、100μm)。
図3fは、特徴的な単層を形成するHUVECを実証した一連の3D zスタックビューである(スケールバー、100μm)。
図3gは、パルス状圧力波が、トロポエラスチン血管を拡張および膨張させたことを示す、グラフである。1つの圧力波の間に撮影された連続写真は、トロポエラスチン血管が全体的に弾性の跳ね返りを実証することを示し、物理的変形のいかなる観察も示さなかった。
【0065】
【
図4】
図4aは、犠牲氷モールドを正確に印刷するために、印刷命令が3Dプリンタに送信される前に、デジタル的に設計され、氷印刷のために最適化された血管構造のデジタル設計を図示する。
図4bは、3Dプリンタアセンブリを示す、概略図である。3Dプリンタは、氷の印刷を促進するために、零度以下の環境内に格納される。3Dプリンタコントローラおよび水送達ポンプは、送達ライン内の水の損傷および凍結を防止するために、零度以下の周囲環境の外側に位置付けられた。
図4cは、3D印刷条件の最適化を示す。一貫した液滴発生が、高忠実度印刷のために要求され、圧力および作動周波数のある組み合わせ(強調される)を用いて達成可能であった(スケールバー、5mm)。
図4dは、3Dプリンタの忠実度が、分岐部、網目構造、およびループを含む、基本血管系形状の氷犠牲モールドを加工するために十分であったことを図示する(全てのスケールバー、2mm)。
【0066】
【
図5】
図5aは、分岐血管設計を図示する(スケールバー、4mm)。
図5bは、血管網設計を図示する(スケールバー、4mm)。
図5cは、血管ループ設計を図示する(スケールバー、4mm)。
【0067】
【
図6】
図6は、マイクロ分注弁のための駆動電子機器の概略図である。
【0068】
【
図7】
図7は、印刷ヘッドブロックの概略図である(全ての寸法はミリメートル単位)。
【0069】
【
図8】
図8は、鋳造物の壁厚さ測定値の散布プロットである(スケールバー、500μm)。
【0070】
【
図9】
図9は、3次元モールド形成の画像である(スケールバー、4mm)。
【0071】
【
図10】
図10は、差のある壁厚さを有する鋳造物を形成するための内側および外側氷足場を説明する、画像である。
【0072】
【
図11】
図11は、内部弁構造を含有する鋳造物の形成のための1つ以上の溝を有する氷足場を示す、画像である。
【0073】
【
図12】
図12は、氷足場の選択的コーティングを示す、概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0074】
本発明は、基質を犠牲モールドの受容面に適用し、犠牲モールド上に基質の鋳造物を形成するステップと、犠牲モールドを昇華させ、鋳造物から犠牲モールドを除去し、鋳造品を形成するステップとを広範に含む、鋳造品を形成するための方法に関する。
【0075】
本方法は、広い範囲の材料から鋳造物を形成するために適用されてもよい。しかしながら、本発明の好ましい形態では、犠牲モールドは、氷から形成される。これを前提として、本方法は、10℃以下の温度において等、氷モールドの融解を最小限にするために十分な温度において適用され得る基質との特定の併用を見出す。好ましくは、基質は、4℃以下の温度において適用される。
【0076】
基質は、概して、液体の形態における犠牲モールドに適用される。基質自体は、液体(例えば、犠牲モールドとの接触に応じて固化する、またはより高い温度において固化/ゲル化するもの)である、または液体溶媒内で溶解されてもよい。代替として、基質は、犠牲モールドを粉末コーティングすることによって等、粉末の形態において提供されてもよい。好適な基質は、ポリマー(熱可塑性および熱硬化性ポリマーの両方)、樹脂、オリゴマー、モノマー、タンパク質、ポリペプチド、アミノ酸、多糖類、糖類、無機繊維、有機繊維、植物または動物組織、植物または動物細胞、食品材料、セラミック材料、前述のうちの少なくとも1つを含む複合材料、およびそれらの混合物を含む。
【0077】
基質が、(ディップコーティングまたはスプレーコーティングまたは他の類似するプロセスによって等)基質コーティング犠牲モールドを形成するように犠牲モールドに適用された後、基質は、さらなる処理プロセスに曝されてもよく、例えば、基質は、表面処理プロセスに曝される、および/または付加的層を用いてコーティングされてもよい。実施例として、基質は、硬化反応または架橋反応に曝されてもよい。当業者は、硬化または架橋反応が、例えば、基質を1つ以上のさらなる反応物質、UV光、または他の刺激に暴露するステップを伴い得ることを理解するであろう。
【0078】
続けて、基質コーティング犠牲モールドは、犠牲モールドを基質から昇華させ、鋳造物を形成するための温度および圧力条件に暴露される。再び、本発明の好ましい形態では、犠牲モールドは、氷から形成される。水の三重点は、273.16Kおよび611.657パスカルの部分的蒸気圧にある。したがって、氷から水蒸気への昇華は、これらの値を下回る適切な温度および圧力における。便宜的に、氷を昇華または凍結乾燥させる本ステップは、凍結乾燥器内で実行されてもよい。当業者は、犠牲モールドが、有用な温度および圧力範囲において昇華する他の材料から作製され得ることを理解するであろう。
【0079】
犠牲モールドは、鋳造または3D印刷によって調製されてもよい。すなわち、1つ以上の形態では、液体モールド材料が、犠牲モールドを形成するために、鋳造または印刷および固化されてもよい。これにもかかわらず、本発明者らは、3D印刷の使用が、微細かつ緻密な特徴を伴う犠牲モールドを提供し得ることを見出している。そのような犠牲モールドは、血管組織を生産するためのモールドの調製において等、生物学的設定において特に有用である。
【0080】
本発明は、内部階層構造を伴う生体材料の鋳造物を形成または加工するための方法の好ましい実施形態に関連して下記に説明および例示されるであろう。本方法は、階層構造を有する犠牲氷モールドの外面の少なくとも一部の上に生体材料をコーティングし、氷モールド上に生体材料の鋳造物を形成するステップであって、鋳造物は、犠牲氷モールドの外面に対応する内部階層構造を有する、ステップと、鋳造物をある温度および圧力に曝し、鋳造物から犠牲氷モールドを凍結乾燥させるステップとを広範に含む。当業者は、本方法が、特定の実施形態の例証であるが、本発明は、そのような材料、用途、および方法論によって限定されることを意図していないことを理解するであろう。
【実施例】
【0081】
本明細書に説明される概念および方法は、階層的血管系全体を工学設計するために特に有用である。そのような実施形態では、その上に生物学的および合成材料がコーティングされ、血管構造を形成し得る、犠牲モールドを加工するための氷の使用が、特に関連する。氷を使用することによって、本方法は、単純であり、費用効果が高く、他のコーティング材料に適合可能である。さらに、氷は、毒性残留物を残さず、完全に清浄かつ生体適合性の製造プロセスをもたらす。これらの有利な性質は、加工プロセスを簡略化し、規制当局の承認を合理化し、将来の製造拡大を促す。
【0082】
犠牲モールドのために以前に使用されていた他のより軟質のポリマーと比較して、氷はまた、高忠実度を伴う明確に画定された形状および寸法を作成するための要求される構造的剛性を保有する。これらの性質を使用して、本発明者らは、微細な細部、より高い分解能、および複雑性とともに作製され得る氷モールドを鋳造および3D印刷するための技術を開発した。これらの技法を使用して、加工され得る機能的血管構造の設計の創造性および範囲は、拡張される。複雑な血管形状を加工する能力とともに、これらの具体的実施例では、動的血流のための適切な条件を確実にする要件もまた、存在する。
(脈管の加工のための氷モールドを鋳造する方法)
【0083】
本明細書に提示されるものは、血管を加工するための鋳造氷モールドの使用である。氷は、完全に生体適合性であり、凍結乾燥を通して容易に除去され、毒性化合物または残留物がなく、複雑かつ自立する血管アーキテクチャが高忠実度を伴って工学設計されることを可能にするための構造的剛性を保有する。これは、自立血管設計を作成することの困難を有し、細胞に毒性であり得る残留物を除去するための複数の洗浄ステップを要求する、ヒドロゲルまたはバイオインクベースの犠牲モールドの従来的アプローチに優って有利である。さらに、加工材料としての水の入手性は、費用または量において法外ではなく、効率的な商業的拡大のための一意の機会を提示する。
【0084】
氷(または場合によっては水)は、異なる血管設計の分解能および複雑性の要件に応じて、犠牲氷モールドを形成するために鋳造および3D印刷され得るため、氷は、それから犠牲モールドを形成するための多用途材料である。これらの犠牲モールドは、加えて、それを用いて合成血管壁を形成するための種々の異なる材料を用いてコーティングされることができる。
【0085】
本方法の多用性を実証するために、本発明者らは、このように加工される血管の機能性を検証する重要な疑問を調査した。具体的には、本発明者らは、(a)本方法が、様々な複雑度を伴うサイズおよび形状のある範囲内の血管構造を作成するための柔軟性を有し、(b)本方法が、血管壁を形成するために種々の材料を使用することと適合し、(c)血管が、高精度で工学設計され、非乱流性の分岐流体流を促進するように設計され得、(d)加工された血管流動システムが、加圧された血流、吻合のための外科手術的取扱、および生存可能グルコース栄養素送達を持続させるように調整され得、(e)トロポエラスチンの使用が、ヒト臍帯静脈内皮細胞増殖を支援する生体適合性血管壁を提供することを示す。まとめると、報告された実験および理論的所見は、例えば、3D印刷複製を促すための患者の血管のCT/MRI走査から、複雑な工学設計組織だけではなく、また、患者にカスタマイズされた血管グラフトを支援するための階層的血管構造の設計および工学設計のための新しいプラットフォーム加工システムを実証する。
【0086】
広い範囲の材料が、基質として使用されてもよいが、本実施例は、主として、氷モールドをコーティングし、工学設計血管の血管壁を構築するための主要な材料として、トロポエラスチンの使用に焦点を当てる。トロポエラスチンは、エラスチンの基礎的要素であり、哺乳類の血管細胞外マトリクスにおける最も一般的かつ耐久性のある成分である。人工血管を生体加工することの要求される目標に向けて、トロポエラスチンは、これが、(i)無数のエラスチンベースの材料中に酵素的および非酵素的の両方で架橋されるための多用性を有し、(ii)ヒト冠動脈および微小血管内皮細胞を動員することを通して内皮化を助長することによって、血管役割に関する正しい生物学的シグナリングを保有し、(iii)内膜過形成および再狭窄を予防し、(iv)血管新生を助長し、(v)水和に応じたその自然な弾性状態への後続変換を伴って、長期の貯蔵寿命にわたって乾燥状態で保管され得るため、非常に魅力的な材料候補である。
【0087】
本実施例では、氷モールドを鋳造するプロセスは、設計、鋳造、およびコーティングの3つの主要な段階に分割されることができる。設計段階(
図1a)の間、カスタムポジティブモールドが、デジタル的に設計され、3D印刷された。これは、ある範囲の血管構造が設計されるための柔軟性を与える。3D印刷されたポジティブモールドは、次いで、不活性かつ再使用可能なネガティブモールドを生産するために、ポリジメチルシロキサン(PDMS)中に浸漬された。鋳造段階(
図1b)の間、水が、ネガティブモールドの中に注入され、元々のデジタル設計の形状における氷を形成するために瞬間凍結された。瞬間凍結の使用は、随意である。しかしながら、瞬間凍結は、水充填PDMSモールドを冷凍機内に放置することと比較して、プロセスを大幅に高速化する。
【0088】
氷は、次いで、犠牲モールドとして使用されるようにPDMSから脱型され得る。しかしながら、脱型の行為は、氷の脆性に起因して、非常に薄い氷モールドに関して困難が増加する。したがって、本鋳造方法は、より大きい直径の血管設計のために最良に適している。いったん犠牲氷足場が、PDMSモールド、またはこれが3D印刷された場合、プリントベッドのいずれかから除去されると、これは、随意に、液体窒素中等、さらなる瞬間凍結プロセスに曝される。これは、氷モールドが、コーティングプロセスに先立って完全に凍結されることを確実にすることに役立つ。
【0089】
コーティングの最終段階(
図1c)では、氷モールドは、血管構造の壁を形成するために、溶解したトロポエラスチンを用いてディップコーティングされた。基質コーティング氷モールドは、材料コーティングを固化させるために、再び瞬間凍結された。コーティングプロセスは、通常の周囲温度および条件において実行されることができる。本実施例では、溶解した基質自体は、<10℃の温度にある。これは、いったん基質が、氷と接触すると、温度差が、氷の融解を最小限にするようにするためである。
【0090】
トロポエラスチンベース鋳造物の壁厚さを査定するためのプロセスが、ここで説明される。簡潔に述べると、トロポエラスチン血管は、可変時間長(n=3)にわたって氷足場を溶解したトロポエラスチンの中に浸すことによって作成された。結果として生じる血管は、縦方向に3つの区分に切断され、SEM下で視認された。壁厚さの4つの測定が、各断面図から、円周の周囲の約0°、90°、180°、および270°において行われた。これは、血管サンプル毎に均一性の12個の測定値をもたらした。PCLコーティングサンプル(<1秒にわたって浸されたトロポエラスチン血管を使用する)もまた、含まれた(
図8参照)。
【0091】
氷足場は、種々の方法を使用して、複数の材料を用いて選択的にコーティングされてもよい(
図12)。
図12Aは、異なる材料の3つの明確に異なる層の添加を実証する(i-iii)。これは、内膜、中膜、および外膜を表す、天然の血管構造を複製するために使用されてもよい。
図12Bは、異なる材料の3つの明確に異なる層の選択的添加を実証する。異なる場所において氷足場を選択的にコーティングすることによって、可変機能および壁厚さ(x、y、およびz)が、血管壁に付与されることができる。例えば、材料は、(i)栄養素に対して浸透性があり、栄養素を送達するために使用され得る多孔性ポリマー(アガロース等)であり得、材料は、(ii)血管細胞浸潤を助長する生体由来細胞外マトリクス成分(トロポエラスチンまたはコラーゲン等)であり得、材料は、(iii)吻合における縫合糸留保のための機械的強度を改良する合成ポリマー(ポリカプロラクトン等)であり得る。
図12Cは、氷足場の異なる部分への異なる方法を介した異なる材料の選択的添加を実証する。本実施例では、1つの材料が、氷足場上に直接塗装されてもよく(i)、別の材料が、氷足場上に直接ディップコーティングされてもよく(ii)、別の材料が、氷足場上に直接、および/または事前材料コーティング上に直接噴霧されてもよく(iii)、最終材料が、任意の事前材料上にディップコーティングされてもよい(iv)。
図12Bのように、このような材料の適用は、血管壁に可変機能および壁厚さ(x、y、およびz)を付与することができる。
【0092】
氷が、基質中でコーティングされた後、これは、再び瞬間凍結される。本ステップは、基質が、液体または液体溶液の形態において提供される場合に特に重要である。コーティングの直後、基質は、依然として、液体形態にあり得る。この時点での瞬間凍結は、基質コーティングを凍結させ、これを正しい/所望の形状に固定する。本ステップはまた、基質が(コーティング直後の温度差に起因して)氷モールドを融解させることを防止することに役立つ。いったん瞬間凍結されると、基質コーティング氷モールドは、長い周期にわたって液体窒素中で安全に保管されることができる。
【0093】
最後に、凍結乾燥が、基質コーティングから犠牲氷モールドおよび溶媒を除去した。本発明者らは、様々な直径および壁厚さの線形血管、分岐血管、複数分岐血管、および大動脈弓を生産するための氷モールドの使用を実証した(
図1d)。本全体的プロセスは、種々の血管設計を自立血管構造に変えることを可能にする。
【0094】
本実施例は、水中で可溶性であることおよび熱処理を通して容易に安定化されることの両方であるタンパク質である、基質候補としてのトロポエラスチンの使用を報告する。これは、これが、毒性残留物をもたらし得る化学溶媒または架橋剤の使用を回避するため、特に有利であった。本氷システムの多用性はまた、モールドが多様な範囲の基質および異なる基質の複数コーティングを用いてコーティングされることを可能にした。特に、本明細書に実証されるものは、トロポエラスチン、ポリカプロラクトン(PCL)、PDMS、絹、およびそれらの組み合わせを使用して作製される血管である(
図1e)。異なる基質の組み合わせを利用する自由を有することは、具体的な機械的および生物学的用途のために血管を調整する機会を提示した。
(複雑な血管設計を工学設計するための氷の3D印刷)
【0095】
氷モールドの加工を改良するために、本発明者らは、より微細な分解能においてより複雑な血管設計を作成するために氷モールドを3D印刷する能力を開発した。所望のモールドの中に直接氷を3D印刷することは、これが、入り組んだ脆弱な氷モールド設計を脱型することの困難を回避するため、鋳造氷モールドに優って有利である。氷モールドを3D印刷するために、設計が、最初に、デジタル的に作成され、それに沿って氷印刷の間に印刷ヘッドが移動する経路を最適化するためにスライサプログラムに入力された(
図4a)。これは、印刷スクリプトを生成し、これは、次いで、3Dプリンタにロードされ、これは、氷において元々の設計を複製するために命令を実行した。3Dプリンタ全体は、零度以下の温度内に設置され、水が、外部リザーバから印刷ヘッドに空気圧的に送達された(
図4b)。これは、水を液体として印刷ヘッドに送達させるが、堆積に応じて氷に凍結させるために必要であった。凝結損傷を防止するために、3Dプリンタコントローラは、零度以下の環境の外側に設置された。印刷ヘッド筐体は、元々のプリンタシステムへの簡単な統合を可能にするためにカスタム設計および機械加工されたアルミニウム筐体を伴う商業的に入手可能な液滴発生器を含む(
図7)。これはまた、氷構造を形成するために、制御された方式で水を分注するマイクロ分注弁を格納した。水の熱調節が、印刷の忠実度を制御するために重要であった。したがって、カスタム印刷ヘッドはまた、印刷の間に液体として水を維持するために不可欠である、印刷ヘッドアセンブリの熱制御を提供する加熱要素を格納した。
【0096】
印刷された氷特徴の分解能は、マイクロ分注弁から射出される水流の品質に正比例した。本パラメータは、駆動周波数および空気圧の両方の関数であった(
図4c)。本実施例に関して、本発明者らは、0.09atmの最小圧力が、マイクロ分注弁から水を射出し、水の流れを生成するために要求されることを見出した。しかしながら、流れの定常性における目に見える差異が、存在し、それによって、流れがより低い周波数および圧力において噴霧する傾向が、存在した。これは、3D印刷された氷の忠実度および分解能を有意に減少させるであろう。射出される水の品質を査定するために、本発明者らは、マイクロ分注弁によって射出される水滴の一貫性を分析した。本発明者らは、本特定の設定に関して、200Hzの最小駆動周波数が、規則的に離間およびサイズ決めされた液滴を生成するが、0.11atmのより高い圧力および400Hzのより高い周波数が、改良された液滴分解能および一貫性をもたらすことを見出した。理想的条件下で、液滴は、直径において約0.5mmであるように測定され得る。当業者は、(圧力または周波数が全くないことを含む)圧力および周波数の異なるセットが、異なる水射出システムのために要求され得ることを理解するであろう。
【0097】
マイクロ分注弁のための圧力および駆動周波数および印刷の間の印刷ヘッドの移動経路を最適化することによって、複雑かつ緻密な血管設計が、氷モールドに正確に変えられ得る。これは、直径において約1mmへの3D印刷される氷特徴のサイズの縮小を可能にした。実証するために、本発明者らは、印刷される特徴の精度および一貫性を維持しながら、分岐部、網目構造、およびループの3つの主要な基本血管形状のそれぞれにおいて氷モールド設計を3D印刷した(
図4d)。
【0098】
氷足場が、同様に氷から作製される外部足場に付随する構成において加工されることができる(
図10)。このように、材料が、コーティングを形成するために、内部足場と外部足場との間の空洞の中に注入されてもよい。本構成はまた、内部および/または外部足場の幾何学形状に応じて、壁厚さを変動させる代替方法を可能にする。本実施例では、結果として生じる壁厚さは、xおよびyの寸法の間でテーパ状になるであろう。
【0099】
氷足場が、鋳造物内の管腔構造の加工を可能にするために、付加的表面特徴とともに加工されることができる(
図11)。本実施例では、氷足場は、肋材状特徴を含有するように作成される。これらの空洞は、材料コーティングによって浸潤され、構造を複製するであろう。これは、静脈用途のための管腔弁のような特徴を作成するために使用されることができる。
水を印刷するための3Dプリンタの修正
【0100】
全ての3D印刷は、自動化水堆積を可能にするためのカスタム設計された印刷ヘッドを用いて修正されたCocoon Create 3D Printer(Winplus, Australasia)を使用して実施された。当業者は、任意の修正可能3Dプリンタが、使用され得ることを理解するであろう。印刷ヘッドは、制御された蒸留水を空気圧的に分注するために使用されるマイクロ分注弁(Lee Company)を格納した。マイクロ分注弁は、マイクロコントローラ基板(Arduino LLC)によって発生される方形波制御信号と併せた駆動装置(Lee Company)によって制御された(
図6)。
【0101】
図6は、マイクロ分注弁のための駆動電子機器の概略図である。電気回路は、3Dプリンタからの信号または手動オーバーライド特徴のいずれかが、Arduinoマイクロプロセッサを駆動することを可能にする。Arduinoマイクロプロセッサは、続けて、0V~+5Vの方形波制御信号を弁駆動装置に送信する。方形波制御信号は、弁駆動装置がマイクロ分注弁を作動させる周波数を決定する。弁を動作させるために、弁駆動装置は、弁を作動させるための+21Vのスパイク電圧を動作させるが、弁自体を過熱させることなく弁の開放位置を維持するために十分である、+3.3Vのより低い保持電圧に迅速に戻る。
【0102】
マイクロコントローラ基板は、手動および自動的の両方で動作され得る。手動動作下で、モーメンタリスイッチが、方形波制御信号の開始および終了の両方を行うために、マイクロコントローラ基板を制御した。本制御信号は、マイクロ弁の駆動装置に送信された。自動化動作下で、マイクロ分注弁は、3Dプリンタ軸方向移動と同期してオンまたはオフに切り替えられることが可能であった。手動動作からの制御信号は、自動動作からの信号をオーバーライドする。
【0103】
カスタム印刷ヘッドが、3Dプリンタと統合するための修正の必要性を最小限にするように設計された(
図7)。印刷ヘッドブロックは、アルミニウムから機械加工され、熱センサおよび加熱要素を格納する2つの貫通孔と、マイクロ分注弁を格納する中心ねじ山付き貫通孔とから成っていた。本設計は、印刷ヘッドが、熱制御を提供するために原料加熱要素および温度センサを格納することを可能にした。水送達管が、加熱された印刷ヘッドと零度以下の周囲環境に外部的に位置する水リザーバとの間の水輸送装置として作用した。その修正を含む3Dプリンタは、堆積に応じて氷に凍結するために射出された水に関して必要な-30℃の周囲温度を提供する、冷凍機(SANYO)の中に設置された。零度以下の周囲環境の内側の送達管内の水は、断熱材およびサーモスタットに結合されるロープヒータ(Omega Engineering Inc.)の組み合わせを使用して、凍結温度を上回って維持された。凝結の潜在的に有害な効果を回避するために、電力供給源およびプリンタ制御ユニットは、零度以下の環境の外側に設置された。
(階層的血管構造の設計および加工)
【0104】
氷を3D印刷することはまた、広範な範囲の血管設計のための氷モールドを作成するための機会を提示した。しかしながら、複雑な血管構造に関して、階層的寸法が、有効な流体流を有するために考慮されなければならない。3D印刷を通して増加された分解能の最も大きい利点のうちの1つは、血管の寸法に対するより微細な制御もまた有し、本発明者らが真の階層的血管構造を加工することを可能にすることである。本発明者らの知る限り、これは、これが、生物学的材料を使用して複雑な自立血管構造を工学設計するためのプロセスの一部として、マレーの法則等の設計パラメータを利用したため、新規である。概念実証として、本発明者らは、血管分岐部、網目構造、およびループにおける階層的に寸法決定された枝部を導入することに焦点を当てた。
【0105】
第1の事例では、本発明者らは、分岐血管構造に階層的寸法決定を導入した(
図5a)。親枝部の直径は、質量保存を促進し、非乱流性の流体流を持続させるように、分岐された娘枝部よりも大きいように3D印刷された。これらの直径の間の理想的関係は、管腔ベースのシステムに関して分岐された娘枝部の寸法を親枝部に相関させる、マレーの法則によって以前に定義されている。本発明者らは、階層における各分岐部に沿った親枝部と娘枝部との間の関係が、マレーの法則によって説明されるような理論と一貫することを確認した(
図5a)。
【0106】
複雑性を増加させるために、階層的寸法決定が、血管網設計に導入された。本文脈では、血管網は、その分岐する階層において複数のレベルを含む設計として定義された(
図5b)。3D印刷された氷モールドはまた、理論的関係に従う親および娘枝部を含有するようにマレーの法則によって検証された(
図5b)。本血管網設計は、加えて、約1mm直径の枝部であるように3D印刷システムの下限を例証した。本限界は、現在のハードウェアによって決定され、本システムのさらなる最適化およびアップグレードとともに改良されるであろう。現在のシステムは、印刷可能階層的網目構造に対する上限にそのような限界を課していない。したがって、ある範囲の直径を伴う階層的血管網のための氷モールドを3D印刷することが、可能である。
【0107】
最後に、本発明者らは、血管ループ設計に階層的寸法決定を導入することに進んだ。本文脈では、血管ループは、階層においてより小さい直径の枝部に分岐するが、また、同一の構造内のより大きい直径の枝部に戻るように収束する設計として定義された(
図5c)。本3D印刷されたモールドでは、親枝部と娘枝部との間の関係は、階層に沿って分岐する枝部および収束する枝部の両方に沿ってマレーの法則によって検証された(
図5c)。階層的血管ループのための氷モールドを3D印刷する能力は、生体外での合成組織成長を支援するための血管床構造を加工するための概念的先駆けである。
【0108】
次に、階層的血管分岐部、網目構造、およびループのための氷モールドは、自立血管構造を形成するために絹中にディップコーティングされた(
図5d-f)。これらの血管構造は、続けて、液体流に対して灌流可能であることが証明された(
図5g-i)。まとめると、これらのステップは、効果的な階層的血管設計を設計、コーティング、および実装することの単純さの実証であった。
【0109】
より入り組んだ複雑な脈管のための氷モールドを3D印刷することは、具体的目的のための血管構造を設計するための大きな潜在性を提供する。これらは、患者内の損傷した分岐血管の置換から、合成組織成長を支援するための階層的血管網システム全体に及ぶことができる。これらの用途に関して、本加工方法は、生物学的脈管を複製し、および合成血管系を設計する能力を有する。後者は、特に、分岐部の領域における流体流の機械的効果の考慮を要求する。
【0110】
図9は、自立し、空間に分岐し得る氷足場を加工する能力を実証する。階層的寸法決定は、3つの階層的段(それぞれ、A、B、およびCと標識化される)を用いて例示されるように、加工プロセスの間に保全される。レベルA枝部は、4mmの直径を有し、レベルB枝部は、3.17mmの直径を有し、レベルC枝部は、2.5mmの直径を有する。
(物理的および機械的性質)
【0111】
加工された血管は、次いで、グラフトのためのそれらの適合性を検証するために、一連の物理的および機械的試験に曝された。走査型電子顕微鏡(SEM)下の検査は、トロポエラスチン血管が、直径において10μm未満である細孔を伴う多孔性管腔面を保有することを露見させた(
図2a)。これらの細孔は、血管内のサブ構造に接続された(
図2aの拡大画像)。トロポエラスチン血管の断面は、管腔面と管腔外面との間に半径方向に接続されるチャネルを露見させた(
図2b)。これらのチャネルは、幅において約2μm(
図2bの拡大画像)であり、管腔面と管腔外面との間の拡散を可能にする。断面血管壁における均一かつ規則的な構造に起因して、トロポエラスチン血管は、円周方向および縦方向における機械的性質が、同等であるように、横方向に等方性であると見なされた。管腔外面もまた、多孔性であった(
図2c)が、細孔のサイズは、管腔面上で観察されたものよりもはるかに小さかった。管腔面と同様に、管腔外面上の細孔もまた、血管壁内のサブ構造に接続された(
図2cの拡大画像)。まとめると、管腔面と管腔外面との間の浸透性は、管腔空間と管腔外空間との間の栄養素の拡散における潜在的機能性を示した。
【0112】
本発明者らは、次に、トロポエラスチン血管を、15%延在状態で50mm/分の歪み速度における巡回引張試験に曝した。結果として生じる巡回応力-歪み曲線は、形状および大きさにおいて類似し、生理学的状況に典型的な歪み条件の範囲内の材料の一貫した機械的挙動を実証した(
図2d)。ヒステリシスが、試験された全てのサンプルに関する500サイクル全体を通して76.60±1.40%の計算されたエネルギー損失を伴って、巡回応力-歪み曲線から明白であった(
図2e)。ヒト血管における厳密なエネルギー損失に関する情報が、限定されているが、トロポエラスチン血管の計算されたエネルギー損失は、15~20%の血管に関する文献上の範囲と比較して、比較的に高い。しかしながら、本不一致は、トロポエラスチン血管における平滑筋系およびコラーゲンの欠如に起因し得る。したがって、本発明者らは、移植後の細胞動員および後続リモデリングが、エネルギー損失が、原位置で経時的に改良され得るように、両方の成分の添加をもたらすであろうと予期する。本エネルギー損失にもかかわらず、重畳された応力-歪みサイクルは、試験条件下で血管へのいかなる塑性変形も示さなかった。
【0113】
トロポエラスチン血管に関する巡回応力-歪みグラフの負荷段階は、二相性機械的挙動を反映し、それによって、堅性は、最初により高いが、第2の段階の間に減少し、コンプライアンスは、最初により低いが、第2の段階にわたって増加した(
図2d)。堅性およびコンプライアンスが変化する点は、臨界応力と称された。破裂圧力に関して、本挙動は、トロポエラスチン血管支持圧力が、臨界応力まで小さい変形とともに増加し、その後、圧力の小さい増加が、大きい変形をもたらすであろうことを示した。臨界応力は、したがって、血管の破裂圧力を効果的に定義した。トロポエラスチン血管に関して、本破裂圧力は、動脈血圧を持続させるために適正ではなかった。本発明者らは、したがって、加えて、一般的に使用されるFDA承認生体材料である、ポリカプロラクトン(PCL)を用いてトロポエラスチン血管をコーティングした。PCLを伴わないトロポエラスチン血管に関する21.23±0.71mmHgの破裂圧力と比較して、PCLを用いてコーティングされたトロポエラスチンは、1128.33±68.82mmHgの破裂圧力を達成した。本改良された破裂圧力は、自己血管グラフトに関する現在のベンチマーク基準である、ヒト伏在静脈のもの(1599±877mmHg)により近かった(
図2f)。トロポエラスチン/PCL血管が、初期外科手術移植に応じた超生理学的血圧に耐えるであろうことは、グラフト用途における手術直後の成功のための都合のよい条件を示した。
【0114】
トロポエラスチン血管へのPCLの添加はまた、PCLを伴わないトロポエラスチン血管と比較して、ヤング係数を有意に増加させた。本増加は、付加的PCLの層の数に依存し、より多くのPCL層は、ヤング係数を有意に改良した。特に、PCLの5つの層は、伏在静脈の円周および縦方向係数に匹敵するヤング係数をもたらした(
図2g)。同様に、最終引張強度(UTS)もまた、PCLの添加とともに改良された。PCLの少なくとも3つの層の添加が、PCLを伴わないトロポエラスチン血管と比較して有意な改良のために必要とされた(
図2h)。PCLの5つの層の添加は、伏在静脈の円周の最終引張強度(1.8±0.8MPa)により近いUTSをもたらした。
【0115】
縫合糸留保強度もまた、PCLを伴わないトロポエラスチンと比較して、層依存様式で、トロポエラスチン血管へのPCLの添加を通して有意に改良された(
図2h)。付加的関係が、PCLを伴わないトロポエラスチン、トロポエラスチンを伴わないPCLの3つの層、およびPCLの3つの層を伴うトロポエラスチンの縫合糸留保強度を比較したときに観察された。これは、トロポエラスチン/PCL血管の縫合糸留保強度が、別個のトロポエラスチンおよびPCLの縫合糸強度の和であることを示した。これはさらに、機械的性質が、異なる材料を組み合わせることを通してモジュール化され得ることを示唆した。トロポエラスチン/PCL血管の縫合糸留保強度は、ラット腹部大動脈およびヒト伏在静脈のもの(196±2gf)と比較してより強かった。
(生物学的統合に関する特性)
【0116】
次に、加工された血管の性能が、生物学的観点から調査された。生体内条件をシミュレートする、100%ウシ胎児血清(FBS)中のトロポエラスチン血管の分解が、ベースライン対照としてのリン酸塩緩衝液(PBS)に対して査定された。トロポエラスチン血管は、それらが、それらの管状形状を維持しながら、第14日目後であっても物理的完全性を留保することが可能であった(
図3a)。最初の6時間後のトロポエラスチン血管の質量留保は、PBS中でインキュベートされたときに95.56±6.49%であり、これは、96.99±2.19%における質量留保を伴う100%FBS中でインキュベートされた血管に匹敵した(
図3b)。比較的に高速であり、匹敵して類似する、最初の6時間以内の初期質量損失は、液体媒体中での浸漬に応じて血管から排出された非安定化タンパク質からもたらされた可能性がある。第14日目の終わりまでに、PBS中でインキュベートされたトロポエラスチン血管の質量留保は、有意に変化せず、93.61±1.59%のままであった。100%FBS中でインキュベートされたトロポエラスチン血管は、第3日目まで有意な質量損失を実証し、77.77±7.71%の質量留保をもたらした。しかしながら、第3日目後にいかなるさらなる有意な質量損失も、存在せず、留保された質量は、第14日目の終わりまで一定のままであった。これは、血管が安定していたことを示唆した。本発明者らは、PCLが、比較的に緩慢に分解することが公知であるため、トロポエラスチン/PCL血管を査定しなかった。
【0117】
本発明者らは、次に、トロポエラスチン血管壁を横断するグルコース拡散を査定した。トロポエラスチン血管の管腔空間と管腔外空間との間のグルコースの受動的拡散を測定することによって(
図3c)、本発明者らは、合成組織生存能力を支援するためのその潜在性を検証した。トロポエラスチン血管を通したグルコースの拡散速度は、0.384±0.088mmol/m
2/分であるように測定され、これは、0.4~2.1mmol/m
2/分(身体組織面積に正規化される)の全身グルコース摂取に匹敵した。しかしながら、身体組織の同一の面積が、典型的には、存在する毛細血管および微小脈管の量に起因して、血管組織のより広い面積を有するであろうことに留意されたい。したがって、全身組織におけるグルコース拡散速度は、いったん血管組織の対応する面積に対して正規化されると、減少し、トロポエラスチン血管の測定されたグルコース拡散速度により直接的に匹敵する状態になると推測されることができる。
【0118】
本発明者らはまた、トロポエラスチン血管の生体適合性を評価した。トロポエラスチン血管のサンプルが、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を用いて播種され、細胞接着および増殖を支援するその能力を査定するために最大1週間にわたって培養された。7日間の過程にわたって、細胞DNA含有量における有意な倍数の変化が、存在し、トロポエラスチン血管が、本時間周期にわたってHUVEC増殖を支援することを示した(
図3d)。共焦点顕微鏡画像はさらに、細胞接着および増殖を検証し、HUVECが、正しい玉石の外観を維持しながら、7日間の過程にわたって単層を形成することを示した(
図3e)。3D zスタック画像は、細胞が、生体内内皮化に関する予期される成果でもある、特徴的な単層(
図3f)を形成することを確認した。
【0119】
トロポエラスチン血管はまた、血管を修正されたランゲンドルフ灌流システム上に組み込むことによって、モデル化された生理学的環境内でシミュレートされた。導入されたパルス状流動は、トロポエラスチンが膨張し、その元々の物理的形状に戻るように収縮することの観察を導き出し、血管のいかなる塑性変形も示さなかった(
図3g)。
【0120】
本明細書に開示および定義される発明は、テキストまたは図面に言及される、またはそれから明白な個々の特徴のうちの2つ以上のものの全ての代替組み合わせに及ぶことを理解されたい。これらの異なる組み合わせは全て、本発明の種々の代替側面を構成する。