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特許7373872初代乳房上皮細胞培養培地、培養方法、及びその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-26
(45)【発行日】2023-11-06
(54)【発明の名称】初代乳房上皮細胞培養培地、培養方法、及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20231027BHJP
   C12N 5/09 20100101ALI20231027BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20231027BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20231027BHJP
【FI】
C12N5/071
C12N5/09
C12Q1/02
C12Q1/04
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022526407
(86)(22)【出願日】2019-11-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-05
(86)【国際出願番号】 CN2019119116
(87)【国際公開番号】W WO2021088119
(87)【国際公開日】2021-05-14
【審査請求日】2022-07-05
(31)【優先権主張番号】201911085968.8
(32)【優先日】2019-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】522178669
【氏名又は名称】合肥中科普瑞昇生物医▲薬▼科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【弁理士】
【氏名又は名称】籾井 孝文
(74)【代理人】
【識別番号】100150212
【弁理士】
【氏名又は名称】上野山 温子
(72)【発明者】
【氏名】▲劉▼ 青松
(72)【発明者】
【氏名】▲劉▼ ▲飛▼▲揚▼
(72)【発明者】
【氏名】梅 ▲滬▼生
(72)【発明者】
【氏名】王 文超
(72)【発明者】
【氏名】▲趙▼ 明
(72)【発明者】
【氏名】▲蒋▼ 宗儒
(72)【発明者】
【氏名】任 涛
(72)【発明者】
【氏名】王 黎
【審査官】野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-536827(JP,A)
【文献】特表2018-503360(JP,A)
【文献】国際公開第2016/180421(WO,A1)
【文献】特表2009-528034(JP,A)
【文献】特表2016-535591(JP,A)
【文献】SILVY, M., et al.,BRITISH JOURNAL OF CANCER,2001年,Vol.84,pp.936-945
【文献】BERGSTRAESSER, L.M., et al.,CANCER RESEARCH,1993年,Vol.53, No.11,pp.2644-2654
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00- 7/08
C12Q 1/00- 3/00
C12N 15/00-15/90
C12M 1/00- 3/10
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
初代乳房上皮細胞を培養する初代細胞培養培地であって、前記培地がアンフィレグリン、上皮成長因子、インスリン、B27、ROCKキナーゼ阻害剤Y27632、ニューレグリン1、線維芽細胞成長因子7、TGFβタイプI受容体阻害剤A8301、及びP38/MAPK阻害剤SB202190を含み、
前記アンフィレグリンの含有量は、10ng/ml~100ng/mlであり、
前記上皮成長因子の含有量は、2.5ng/ml~20ng/mlであり、
前記インスリンの含有量は、1μg/ml~10μg/mlであり、
前記B27は、1:25~1:100の最終濃度で希釈され、
前記Y27632の含有量は、5μM~15μMであり、
前記ニューレグリン1の含有量は、5nM~20nMであり、
前記線維芽細胞成長因子7の含有量は、2.5ng/ml~20ng/mlであり、
前記A8301の含有量は、100nM~500nMであり、
前記SB202190の含有量は、100nM~500nMであり、
血清、ウシ脳下垂体抽出物、Wntアゴニスト、R-スポンジンファミリータンパク質、BMP阻害剤、線維芽細胞成長因子10、ニコチンアミド、及びN-アセチルシステインを含まないことを特徴とする、初代細胞培養培地。
【請求項2】
前記初代乳房上皮細胞は、乳房腫瘍細胞、正常乳房上皮細胞、又は乳房上皮幹細胞であることを特徴とする、請求項1に記載の初代細胞培養培地。
【請求項3】
初代乳房上皮細胞の培養方法であって、以下の工程:
(1)請求項1又は2に記載の初代細胞培養培地を調製する工程と、
(2)培養容器を細胞外マトリックスゲル希釈剤でコーティングする工程と、
(3)コーティングされた前記培養容器において初代乳房上皮細胞を接種し、前記細胞を、正常酸素条件又は低酸素条件下で前記初代細胞培養培地を使用することによって培養し、前記初代乳房上皮細胞が前記培養容器の底部面積の80%~90%を占める細胞密度まで成長したときに前記細胞を消化して継代する工程と、
を含むことを特徴とする、培養方法。
【請求項4】
前記細胞外マトリックスゲルは、低成長因子型のものであり、
前記細胞外マトリックスゲルは、無血清培地で希釈され、前記細胞外マトリックスゲルの希釈比は、1:50~1:400であり、
前記コーティングする工程は、希釈された前記細胞外マトリックスゲルを前記培養容器へと加えて、前記培養容器の底部を完全に覆い、30分間以上放置することを含むことを特徴とする、請求項に記載の培養方法。
【請求項5】
乳房疾患を治療する薬物の有効性を評価する方法であって、以下の工程:
(1)請求項又はに記載の培養方法を使用することによって乳房上皮細胞を培養する工程と、
(2)試験する薬物を選択する工程と、
(3)基準として前記薬物の最大血漿濃度Cmaxに基づき、初期濃度としてCmaxの2倍~5倍を取り、前記薬物を種々の薬物濃度勾配へと希釈する工程と、
(4)工程(1)において培養した前記乳房上皮細胞を消化して単一細胞懸濁液にし、細胞外マトリックスゲルを含む請求項1又は2に記載の初代細胞培養培地で前記単一細胞懸濁液を希釈し、希釈された前記細胞懸濁液を1ウェル当たり1000個~10000個の細胞の密度でマルチウェルプレートに加え、一晩付着させる工程と、
(5)工程(4)において得られた付着細胞に前記薬物を勾配希釈で添加する工程と、
(6)細胞生存率を検出する工程と、
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項6】
細胞生存率の検出において、細胞生存率検出試薬を各ウェルに加え、均一に振盪した後に、蛍光マイクロプレートリーダーを用いて各ウェルの化学発光強度を測定し、測定値に基づいて薬物用量-効果曲線をプロットし、細胞の増殖に対する各薬物の阻害強度を計算することを特徴とする、請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医学の技術分野、特にin vitroで初代乳房上皮細胞を培養又は増幅する培養培地及び培養方法、並びに薬効の評価及び薬物のスクリーニングにおける培養細胞の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
乳癌は、女性の健康に影響を及ぼす主要な悪性腫瘍の1つである。最新の統計結果によると、世界では、乳癌の発生率及び死亡率は、女性の悪性腫瘍の発生率と死亡率とにおいてそれぞれ1位と2位とに位置づけられている。近年、乳癌の分子タイピング及び病因に関する研究において多くの進歩が見られているが、乳癌の現在の標準的な薬物治療は依然としてホルモン及び細胞傷害性薬物が優位を占めており、これらは個別化された精密投薬指導に欠けている。乳癌分類の多様性及び複雑さ、並びに高い不均一性のため、機能的試験なしで分子診断又は遺伝子診断のみに基づいて臨床薬の有効性を実質的に予測することは困難である(非特許文献1)。
【0003】
機能的試験とは、癌患者の細胞に対する抗腫瘍薬の感受性を検出するin vitro法を指す。このアプローチを適用する鍵となるのは、短い成長周期を有し、乳癌患者の生物学的特徴を表し得る腫瘍細胞モデルを開発することである。さらに、癌患者に適時に精密投薬指導を与えるには、この細胞モデルは、臨床投薬の有効性を迅速かつ効率的に予測する操作が容易であるべきである。しかしながら、癌患者の初代腫瘍細胞からの細胞モデルのin vitroでの樹立の成功率が通常低いこと、成長周期が長いこと、及び間葉系細胞(例えば、線維芽細胞等)の過剰増殖等の問題は全て、この分野における開発を制限する。現在、腫瘍細胞の機能的試験の分野において比較的成熟している初代上皮/幹細胞を培養する技術は2つ存在する。一方は、照射されたフィーダー細胞及びROCKキナーゼ阻害剤Y27632を使用して初代上皮細胞の成長を促進し、個別の患者における薬物感受性を調査することであり、つまり、条件付き細胞リプログラミング技術である(非特許文献2)。もう一方の技術は、成体幹細胞をin vitroで3D培養して、組織及び器官に類似したオルガノイドを得ることである(非特許文献3)。
【0004】
しかしながら、どちらの技術にも或る特定の制限がある。細胞リプログラミングは、患者の自己初代上皮細胞をマウス由来のフィーダー細胞と共培養する技術であるが、これらのマウス由来の細胞の存在は、患者の初代細胞に対する薬物感受性試験の間に、患者の自己初代細胞の薬物感受性試験の結果に干渉する可能性があり、一方で、マウス由来のフィーダー細胞がノックアウトされると、患者の自己初代細胞がリプログラミング環境から外れる可能性があり、細胞増殖速度及び細胞内シグナル伝達経路が大幅に変化する可能性があることから(非特許文献4、非特許文献5)、薬物に対する患者の自己初代細胞の奏効が大きく影響されるという結果がもたらされる。オルガノイド技術は、3D in vitro培養用の細胞外マトリックス内に患者の自己初代上皮細胞を埋め込むフィーダー細胞を必要としない技術であるため、マウス由来のフィーダー細胞の干渉の問題はない。しかしながら、オルガノイド技術の培地には、様々な特定の成長因子を加える必要があることから、これは高価であり、臨床における広範な使用には適していない。さらに、培養過程全体を通して、オルガノイドは細胞外マトリックスゲル内に埋め込まれている必要があり、細胞接種、継代、及び薬物感受性試験の播種工程は、2D培養操作と比較して面倒で時間がかかる。さらに、この技術によって形成されるオルガノイドのサイズを制御することは困難であり、一部のオルガノイドは大きくなりすぎて内部壊死を引き起こす可能性がある。したがって、オルガノイド技術は2D培養技術よりも操作性及び適用性に劣っている。これには専門の技術者が操作する必要があるため、臨床におけるin vitroでの薬物感受性試験のための広範囲かつ幅広い使用には適していない(非特許文献6)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Adam A. Friedman et al., Nat Rev Cancer, 15(12): 747-56, 2015
【文献】Liu et al., Am J Pathol, 180: 599-607, 2012
【文献】Hans Clevers et al., Cell, 11; 172(1-2): 373-386, 2018
【文献】Liu et al., Am J Pathol, 183(6): 1862-1870, 2013
【文献】Liu et al., Cell Death Dis., 9(7): 750, 2018
【文献】Nick Barker, Nat Cell Biol, 18(3): 246-54, 2016
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の技術の制限に鑑みて、外因性細胞からの干渉なしに、短い培養期間、抑制可能なコスト、簡便な操作をもたらし得る、臨床における初代乳房上皮細胞用の培養技術を開発することが必要とされている。この技術を適用して初代乳房腫瘍細胞モデルを構築すると、培養乳房腫瘍細胞は、乳癌患者の生物学的特徴を表し得る。個別の癌患者に由来する細胞モデルにおいて抗腫瘍薬の感受性をin vitroで評価することにより、抗腫瘍薬の奏効率を臨床において改善することができ、不適切な薬物によって患者に引き起こされる痛み及び医療資源の浪費を減らすことができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
従来技術の不足に鑑みて、本発明は、初代乳房上皮細胞を培養する初代乳房上皮細胞培養培地、及び該培養培地を使用して初代乳房上皮細胞を培養する方法を提供することを意図している。本発明の初代乳房上皮細胞培養培地及び培養方法は、in vitroでの培養期間が短く、コストを抑制可能であり、操作が簡便であり、外因性細胞からの干渉がないという目標を達成することができる。この技術を適用して初代乳房腫瘍細胞モデルを構築すると、乳癌患者の生物学的特徴を有する初代乳房腫瘍細胞を得ることができ、これらを新薬スクリーニング及びin vitroでの薬物感受性試験において適用することができる。
【0008】
本発明の一態様は、初代乳房上皮細胞を培養する初代細胞培養培地であって、アンフィレグリンを含み、アンフィレグリンの含有量が10ng/ml以上であり、コストの観点から、好ましくは10ng/ml~100ng/mlである、初代細胞培養培地を提供することである。
【0009】
本発明の初代細胞培養培地は、好ましくは、以下の、上皮成長因子(EGF)、インスリン、B27、ROCKキナーゼ阻害剤Y27632、ニューレグリン1、線維芽細胞成長因子7(FGF7)、TGFβタイプI受容体阻害剤A8301、及びP38/MAPK阻害剤SB202190の1つ以上又は全てを更に含む。好ましくは、EGFの含有量は2.5ng/ml~20ng/mlであり、インスリンの含有量は1μg/ml~10μg/mlであり、B27は1:25~1:100の最終濃度で希釈され、Y27632の含有量は5μM~15μMであり、ニューレグリン1の含有量は5nM~20nMであり、FGF7の含有量は2.5ng/ml~20ng/mlであり、A8301の含有量は100nM~500nMであり、SB202190の含有量は100nM~500nMである。
【0010】
条件付き細胞リプログラミング培地及び乳房上皮細胞オルガノイド培地と比較して、この培地の組成にはアンフィレグリンが補充されているが、血清、ウシ脳下垂体抽出物等の不確定成分、Wntアゴニスト、R-スポンジンファミリータンパク質、BMP阻害剤等のオルガノイド培養に必要とされるニッチ因子は含まれず、そしてまた線維芽細胞成長因子10(FGF10)、ニコチンアミド、及びN-アセチルシステインも含まれないため、培地のコストが大幅に削減され、培地を調製する操作方法が簡易化され、抑制可能なコスト及び簡便な操作で初代乳房上皮細胞のin vitroでの培養が実現される。
【0011】
本発明においては、初代乳房上皮細胞は、乳房腫瘍細胞、正常乳房上皮細胞、及び乳房上皮幹細胞から選択され得る。
【0012】
本発明の一態様は、以下の工程を含む、初代乳房上皮細胞を培養する方法を提供することである:
【0013】
(1)本発明の初代細胞培養培地を上記組成に従って調製する工程。
【0014】
(2)培養容器を細胞外マトリックスゲル希釈剤でコーティングする工程。
【0015】
ここで、細胞外マトリックスゲルとしては、低成長因子型の細胞外マトリックスゲルを使用することができ、例えば、市販のMatrigel(Corning:354230)又はBME(Trevigen:3533-010-02)を使用することができる。より詳細には、細胞外マトリックスゲルは、本発明の初代細胞培養培地又はDMEM/F12(Corning:R10-092-CV)であり得る無血清培地で希釈される。細胞外マトリックスゲルの希釈比は、1:50~400、好ましくは1:100~200である。コーティング法は、希釈された細胞外マトリックスゲルを培養容器に加えて、培養容器の底部を完全に覆い、30分間以上放置し、好ましくはコーティングを37℃で30分間~60分間放置することを含む。コーティングが完了した後に、余分な細胞外マトリックスゲル希釈剤を廃棄することで、培養容器は後続使用の準備が整う。
【0016】
(3)初代乳房上皮細胞を乳房組織から分離する工程。
【0017】
初代乳房上皮細胞は、例えば、乳癌組織試料及び傍癌組織試料から取得され得る。例えば、乳癌組織試料は、説明を受けた上で同意した乳房腫瘍患者の癌組織から外科的切除によって取得され、傍癌組織試料は、乳癌組織から少なくとも5cm離れた乳房組織から採集される。上述の組織試料の採集は、外科的摘除又は生検から30分以内に行われる。より詳細には、滅菌環境において、非壊死部位からの組織試料を0.5cmを超える体積で切り取った後に、組織試料を予冷した10mL~50mLのDMEM/F12培地中に入れ、これを蓋付きのプラスチック製滅菌遠心分離チューブ内に入れて、氷上で研究室に輸送する。ここで、DMEM/F12培地は、50U/mL~200U/mL(例えば、100U/mL)のペニシリン及び50U/mL~200U/mL(例えば、100U/mL)のストレプトマイシンを含む(以下、輸送液と呼ぶ)。
【0018】
生物学的安全キャビネット内で、組織試料を細胞培養ディッシュに移した後に、これを輸送液ですすぎ、組織試料の表面上の血球を洗い流し、組織試料の表面上の皮膚及び筋膜等の不要な組織を取り除く。
【0019】
すすいだ組織試料を別の新しい培養ディッシュに移し、5mL~25mLの輸送液を加え、滅菌メス刃及び鉗子を使用して組織試料を直径1mm未満の組織片に分ける。
【0020】
組織試料片を遠心分離チューブに移し、これを卓上遠心分離機において1000rpm以上で3分間~10分間遠心分離し、上清を遠心分離チューブからピペットで慎重に除去した後に、これをコラゲナーゼII(0.5mg/mL~5mg/mL、例えば1mg/mL)及びコラゲナーゼIV(0.5mg/mL~5mg/mL、例えば1mg/mL)を含む5mL~25mLの無血清DMEM/F12培地を使用して再懸濁し、37℃の一定温度のシェーカーにおいて少なくとも1時間振盪消化を行い(消化時間は試料サイズに依存する;試料が1gより大きければ、消化時間を1.5時間~2時間に増やす)、次に、これを卓上遠心分離機において300g/分以上で3分間~10分間遠心分離し、上清を廃棄した後に、消化された組織細胞を、例えば10%ウシ胎児血清を含む5mL~25mLのDMEM/F12培地で再懸濁し、次いで、破砕して、例えば100μmの細胞シーブ孔径で篩別し、篩別された細胞懸濁液を遠心分離チューブに収集し、細胞を血球計算盤で計数する。
【0021】
次に、細胞懸濁液を遠心分離機において300g/分以上で3分間~10分間遠心分離し、上清を廃棄した後に、これを本発明の初代細胞培養培地中に再懸濁する。
【0022】
(4)工程(3)において分離された初代乳房上皮細胞をコーティングされた培養容器において接種する工程。
【0023】
より詳細には、初代乳房腫瘍細胞を、T12.5培養フラスコにおいて1mL当たり1×10個~1×10個の細胞(例えば、1mL当たり1×10個の細胞)の密度で接種し、1mL~10mLの初代上皮細胞培養培地を添加した後に、細胞インキュベーターにおいて、例えば37℃、5%のCOの条件下にて、正常酸素濃度(15%~20%の酸素濃度)又は低酸素濃度(0.5%~4%の酸素濃度)のいずれかで8日間~10日間培養し、培養の間に4日ごとに培地交換するために新たな初代細胞培養培地を使用し、初代乳房上皮細胞が培養フラスコの底部面積の約80%~90%を占める細胞密度まで成長したときに消化及び継代を行う。
【0024】
この接種工程はフィーダー細胞の使用を必要とせず、条件付き細胞リプログラミング技術と比較して、フィーダー細胞を培養及び照射する操作工程が省略される。オルガノイド技術と比較して、この工程は、初代細胞とマトリックスゲルとを氷上で均一に混合して、ゲル液滴を形成し、ゲル液滴の固化を待ってから培地を添加することを必要としない。事前にコーティングされた培養容器を、初代細胞の接種に直接的に使用することができる。さらに、培養容器をコーティングするのに少量の希釈された細胞外マトリックスゲルしか必要とされないため、オルガノイド技術と比較して、高価な細胞外マトリックスゲルの節約となるとともに、操作工程の簡素化がもたらされる。
【0025】
(5)任意に、接種した初代乳房上皮細胞を4日間~10日間培養した後に、培養フラスコにおいて形成された細胞クローンの最大直径が500μmに達したときに、上清を廃棄し、1mL~2mLの0.05%トリプシン(Thermo Fisher:25300062)を添加して細胞消化を行い、次に、これを室温で5分間~20分間インキュベートする工程。消化された細胞を、例えば10%(容量/容量)のウシ胎児血清、100U/mLのペニシリン、及び100U/mLのストレプトマイシンを含む1mL~10mLの培地中に再懸濁し、300g/分以上で3分間~10分間遠心分離する。消化された単一細胞を、本発明の初代細胞培養培地を使用して再懸濁し、得られた細胞懸濁液を、細胞外マトリックスゲルでコーティングされたT25細胞培養フラスコに入れて連続培養する。T25細胞培養フラスコのコーティング操作は、工程(2)における操作と同じである。
【0026】
増殖した乳房上皮細胞は2Dで成長することから、オルガノイド技術を使用した増殖において起こり得る、不均一なサイズのオルガノイド及び過剰成長したオルガノイドの内部壊死が回避される。
【0027】
さらに、本発明の初代乳房上皮細胞の培養方法によって培養した乳房上皮細胞、特に乳房腫瘍細胞を、以下の工程を含む薬効評価及び薬物スクリーニングに使用することができる:
【0028】
(1)初代乳房上皮細胞を得て、より好ましくは、乳癌患者に由来する癌組織試料又は生検癌組織試料を得て、初代乳房上皮細胞を分離し、上記の方法に従って初代乳房上皮細胞(特に初代乳房腫瘍細胞)を少なくとも10個の大きさ、好ましくは少なくとも10個の大きさの細胞数まで培養して増殖させる工程。
【0029】
(2)試験する薬物を選択する工程。
【0030】
(3)基準として薬物の最大血漿濃度Cmaxに基づき、初期濃度としてCmaxの2倍~5倍を取り、薬物を種々の濃度勾配、例えば5個~10個の薬物濃度勾配、好ましくは6個~8個の薬物濃度勾配へと希釈する工程。
【0031】
(4)工程(1)において培養した乳房上皮細胞を消化して単一細胞懸濁液にし、血球計算盤で細胞数を計数し、細胞外マトリックスゲルを含む本発明の初代細胞培養培地で単一細胞懸濁液を希釈し、希釈された細胞懸濁液を1ウェル当たり1000個~10000個の細胞の密度でマルチウェルプレートに一様に、例えば1ウェル当たり50μLの細胞希釈液で加え、一晩付着させる工程。
【0032】
この工程により、フィーダー細胞の存在が初代細胞の計数及びその後の初代細胞生存率アッセイに干渉し得るという細胞リプログラミング技術の問題が避けられ、オルガノイド技術でのようなマトリックスゲルを含む細胞懸濁液を氷上で混合し、埋め込み、その後に播種するという面倒な工程の必要性が排除されることから、操作法が大幅に簡易化され、技術の操作性及び実用性が向上する。接種される細胞はオルガノイドのような3D構造ではなく単一細胞懸濁液であるため、この技術では、オルガノイド技術と比較して、播種細胞数がより均一になり、ウェル間の細胞数の変動がより小さくなり得ることから、その後の高スループット薬物スクリーニング操作により適したものとなる。
【0033】
(5)高スループット自動ワークステーションを使用して、工程(4)において得られた付着細胞に、従来の化学療法薬、標的薬、抗体薬、又はそれらの組合せ等の選択された候補薬物を勾配希釈で添加する工程。
【0034】
(6)薬物を添加した数時間後、例えば72時間後に、Cell-Titer Glo発光細胞生存率検出キット(Promega:G7573)を使用して乳房上皮細胞の生存率を検出して、薬物活性をスクリーニングする工程。
【0035】
詳細には、各ウェルに、例えば50μLのCell Titer-Glo試薬(Promega:G7573)を加え、均一に振盪した後に、蛍光マイクロプレートリーダーを用いて各ウェルの化学発光強度を測定する。横軸として薬物濃度を取り、縦軸として蛍光強度を取ることで、GraphPad Prism 7.0ソフトウェアを使用して、測定値に基づいて薬物用量-効果曲線を作成し、試験された細胞の増殖に対する薬物の阻害強度を計算する。
【0036】
本発明の初代乳房腫瘍細胞を薬物スクリーニング及びin vitroでの薬物感受性試験において使用する場合に、これは細胞共培養システムではないため、細胞リプログラミング技術におけるフィーダー細胞が試験結果に干渉するという現象が起こることはない。細胞の2D成長のため、薬物との相互作用もオルガノイド技術における薬物試験時間より迅速である(オルガノイド技術における平均投与時間は6日である)。
【0037】
本発明の有益な効果としては、以下のことも挙げられる:
【0038】
(1)初代乳房上皮細胞の培養の成功率は、90%超の成功率で改善され得る。
【0039】
(2)in vitroで初代培養した乳房上皮細胞は、初代細胞の由来患者の病理学的表現型及び不均一性を再現することを確実にし得る。
【0040】
(3)培養される初代乳房上皮細胞は、線維芽細胞及び脂肪細胞等の間葉系細胞によって干渉されない純粋な乳房上皮細胞である。
【0041】
(4)培地の組成には血清が含まれていないため、様々なバッチからの血清の質及び量によって影響されない。
【0042】
(5)乳房上皮細胞は高効率で増殖することができ、ここで、10個レベルの開始細胞数から約2週間以内に10個の規模の乳房上皮細胞の増殖に成功し、増殖した乳房上皮細胞は継続的な継代能力を有する。
【0043】
(6)氷上で操作する必要がなく、継代工程においてマトリックスゲルを解離させる必要がなく、細胞の消化及び継代を10分~15分以内に完了することができる。
【0044】
(7)初代乳癌培地は、高価なWntアゴニスト、R-スポンジンファミリータンパク質、BMP阻害剤、FGF10等の因子を必要としないため、培養するコストを抑制可能であり、したがって、これは初代乳房上皮細胞用の既存のオルガノイド培養培地の簡易化及び改善となり、細胞接種には、初代細胞と混合してゲル液滴を形成するのにより高濃度の細胞外マトリックスを使用する必要がなく、その代わりに少量の細胞外マトリックスゲル希釈液しか必要とされないことから、コストのかかる細胞外マトリックスの量が節約される。
【0045】
(8)操作が簡便である:条件付きリプログラミング技術と比較して、本技術はフィーダー細胞を培養又は照射する必要がないことから、様々なバッチからのフィーダー細胞の質及び量が初代細胞培養の効率に影響を与え得るという問題が回避され、薬物スクリーニングにおける播種及び試験の対象は初代乳房上皮細胞だけであり、条件付き細胞リプログラミング技術において記載されるような共培養システムにおけるフィーダー細胞の干渉はなく、オルガノイド技術と比較して、本発明において採用される細胞外マトリックスゲルをコーティングする方法において、培養容器を事前に準備することができ、オルガノイド技術でのようにマトリックスゲル内に細胞を埋め込む必要がなく、操作工程は簡単かつ容易である。
【0046】
(9)本技術は、乳房上皮細胞を大量に培養して高い均一性で提供することができることから、新しい候補化合物の高スループットスクリーニング及び患者に対するin vitroでの高スループット薬物感受性機能的試験に適している。
【0047】
この実施形態の細胞培養培地を使用して、乳房腫瘍細胞、正常乳房上皮細胞、乳房上皮幹細胞、又はこれらの細胞の少なくともいずれかを含む組織を含む、ヒト又は他の哺乳動物に由来する乳房上皮細胞を培養することができる。
【0048】
さらに、細胞及び組織の少なくとも1つからオルガノイドを形成することもできる。
【0049】
さらに、この実施形態の培養方法により得られた細胞を、再生医療、乳房上皮細胞の基礎医学研究、薬物奏効のスクリーニング、及び乳房疾患に関する新薬の開発等において使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
図1】本発明の初代細胞培養方法を使用して、臨床乳房組織試料から分離された細胞を培養することによって得られた初代乳房上皮細胞の倒立位相差顕微鏡下での写真である。
図2】細胞外マトリックスゲルでコーティングされた培養プレート及びコーティングを一切有しない培養プレートにおける2つの異なる乳癌臨床組織試料(HMFL-XN30、HMFL-XN22)から分離された初代乳房腫瘍細胞を接種して培養することによって得られた細胞の顕微鏡下での写真である。
図3】初代乳房腫瘍細胞の増殖に対するアンフィレグリンの効果を説明するグラフである。
図4】条件付き細胞リプログラミング技術、本発明の技術、及びオルガノイド技術をそれぞれ使用して、2つの乳癌臨床組織試料(HMFL-XN12、HMFL-XN21)から分離された細胞を培養することによって得られた細胞成長曲線の比較、並びに27日目まで培養したHMFL-XN21の顕微鏡下での写真である。
図5】乳癌臨床組織試料(HMFL-XN12)から分離され、本発明の技術を使用して9日目及び22日目まで培養した乳房腫瘍細胞の倒立顕微鏡下での写真である。
図6】外科的切除された乳癌試料(HMFL-XN7)から分離され、本発明の技術によって培養した乳房腫瘍細胞の免疫蛍光染色の結果と、組織試料の当初の組織切片の免疫組織学的な結果との比較を示す図である。
図7】本発明の技術を使用して2症例の乳癌外科的切除試料から分離された細胞を培養することによって得られた異なる継代の乳房腫瘍細胞の遺伝子突然変異一致性分析(gene mutation consistency analysis)、及び1症例の染色体核型分析の結果を示す図である。
図8】本発明の技術を使用して病理学的に診断された2症例のトリプルネガティブ乳癌患者の癌組織に由来する初代乳房腫瘍細胞を培養することによって得られたマウスにおける乳房腫瘍細胞の腫瘍形成性を示す図である。
図9】様々な化学療法薬及び標的薬に対する本発明の技術によって培養した初代乳房腫瘍細胞の用量-応答曲線、並びに計算された半阻害率(half-inhibition rate)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【実施例
【0051】
[実施例1]
ヒト初代乳房上皮細胞の分離及び初代乳房上皮細胞培養培地の最適化
(1)ヒト初代乳房上皮細胞の分離
説明を受けた上で同意した5人の乳房腫瘍患者の癌組織から、外科的切除によって乳癌組織試料を得た(すなわちHMFL-XN1、HMFL-XN3、HMFL-XN4、HMFL-XN6、及びHMFL-XN8)。試料の1つ(HMFL-XN1)を以下に説明する。上述の組織試料を、外科的摘除又は生検後の30分以内に採集した。より詳細には、滅菌環境において、非壊死部位からの組織試料を0.5cmを超える体積で切り取り、予冷した20mLのDMEM/F12培地(Corning Inc.製)中に入れた。この培地を蓋付きの50mLのプラスチック製滅菌遠心分離チューブ内に入れて、氷上で研究室に輸送した。ここで、DMEM/F12培地は、100U/mLのペニシリン及び100U/mLのストレプトマイシンを含有していた(以下、輸送液と呼ぶ)。
【0052】
生物学的安全キャビネット内で、組織試料(HMFL-XN1)を100mmの細胞培養ディッシュに移した。この組織試料を輸送液ですすいだ。組織試料の表面上の血球を洗い流した。組織試料の表面上の皮膚及び筋膜等の不要な組織を取り除いた。
【0053】
すすいだ組織試料を別の新しい100mmの培養ディッシュに移し、10mLの輸送液を加え、滅菌メス刃及び鉗子を使用して、組織試料を直径1mm未満の組織片に分けた。
【0054】
組織試料片を50mLの遠心分離チューブに移し、卓上遠心分離機を使用して1200rpmで5分間遠心分離し、上清を遠心分離チューブからピペットで慎重に除去した後に、残りをコラゲナーゼII(1mg/mL)及びコラゲナーゼIV(1mg/mL)を含む10mLの無血清DMEM/F12培地中で再懸濁した。これを37℃の一定温度のシェーカーに置いて1時間振盪消化を行った後に、卓上遠心分離機において350g/分で5分間遠心分離した。上清を廃棄した後に、消化された組織細胞を、10%ウシ胎児血清を含む10mLのDMEM/F12培地中に再懸濁した後に、これを破砕して、100μmの細胞シーブ孔径で篩別し、篩別された細胞懸濁液を50mLの遠心分離チューブ内に収集し、細胞を血球計算盤で計数した。
【0055】
次に、細胞懸濁液を遠心分離機において350g/分で5分間遠心分離し、上清を廃棄した後に、これを本発明の初代細胞培養培地中に再懸濁した。
【0056】
他の4つの乳房腫瘍組織試料も上記と同様にして分離した。
【0057】
(2)初代乳房上皮細胞培養培地の最適化
Matrigel(登録商標)(BD Biosciences製)を無血清DMEM/F12培地中に1:100で希釈して、細胞外マトリックス希釈液を調製し、これを48ウェル培養プレートに1ウェル当たり200μlで加えて、培養プレートのウェルの底部を完全に覆った。得られたものを37℃のインキュベーター内で1時間放置した。1時間後に、細胞外マトリックス希釈液を除去して、Matrigelでコーティングされたプレートを得た。
【0058】
最初に、基礎培地を調製した。市販のDMEM/F-12培地に、GlutaMAX-I(Thermo Fisher SCIENTIFIC製)を指定の濃度で添加し(1:100希釈)、ヒトインスリン(Sigma製)を10μg/mlの最終濃度で添加し、ROCKキナーゼ阻害剤Y27632(Sigma製)を10μMの最終濃度で添加し、ペニシリン-ストレプトマイシン(Thermo Fisher SCIENTIFIC製)を1:100の希釈比で添加して、基礎培地を得る。
【0059】
次に、様々な種類の添加剤(表1に示される)を基礎培地に添加して、様々な補充成分を含む乳房上皮細胞培養培地を調製し、様々な成分を含む培地を1ウェル当たり500μlの容量で、細胞外マトリックスゲル(Matrigel)でコーティングされた48ウェルプレートに加えた。この実施例の工程(1)において乳癌組織から分離された乳房腫瘍細胞(HMFL-XN1)を、Matrigelでコーティングされた48ウェル培養プレートにおいて1ウェル当たり1×10個の細胞の細胞密度で接種し、等しい数の新たに分離された乳房腫瘍細胞(HMFL-XN1)を、37℃にて、5%のCO濃度及び20%の酸素濃度で様々な培地処方の下で培養した。培養開始後、培地を4日ごとに一新した。培養10日後に、細胞計数を行った。実験コントロールとして、添加剤を一切含まない基礎培地を使用した。残りの4つの乳癌組織試料から分離された乳房腫瘍細胞を、上記と同様にして培養して計数した。実験結果を表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
[実施例2]
ヒト初代乳房上皮細胞の培養
(1)初代乳房上皮細胞培養培地の調製
最初に、実施例1の工程(2)と同様にして基礎培地を調製した。基礎培地に、ヒトアンフィレグリン(R&D Systems製)を20ng/mlの最終濃度で添加し、EGF(Peprotech製)を10ng/mlの最終濃度で添加し、B27(Thermo Fisher SCIENTIFIC製)を1:50の希釈比で添加し、ヒトニューレグリン1(Peprotech製)を10nMの最終濃度で添加し、FGF7(R&D Systems製)を10ng/mlの最終濃度で添加し、TGFβ1阻害剤A8301(MCE製)を500nMの最終濃度で添加し、P38/MAPK阻害剤SB202190(MCE製)を500nMの最終濃度で添加して、初代乳房上皮細胞培養培地を調製した。
【0062】
(2)乳癌組織に由来する初代乳房腫瘍細胞及び傍癌組織に由来する正常乳房上皮細胞の培養
実施例1の工程(1)と同じ方法を使用して、癌組織に由来する乳房上皮細胞及び傍癌組織に由来する乳房上皮細胞を、それぞれ同じ乳癌患者の癌組織及び傍癌乳房組織から分離した。傍癌乳房組織試料を、乳癌組織から少なくとも5cm離れた乳房組織から採集した。次に、癌組織に由来する乳房腫瘍細胞を血球計算盤で計数した後に、Matrigel(登録商標)(BD Biosciences製)でコーティングされた12ウェルプレートへと1ウェル当たり4×10個の細胞の密度で接種した。2mLの調製された初代乳房上皮細胞培養培地を12ウェルプレートに加え、これを37℃にて5%のCO濃度、及び20%の酸素濃度の条件下で培養した。
【0063】
図1(A)は、外科的切除された乳房腫瘍試料から分離され、接種後7日目まで培養した乳房腫瘍細胞(HMFL-XN11)の顕微鏡画像(50倍の倒立位相差顕微鏡下)を示している。顕微鏡観察は、癌組織に由来する培養される初代乳房腫瘍細胞が高純度であり、線維芽細胞等の間質細胞を含まなかったことを示している。図1(B)は、HMFL-XN11と同じ患者の傍癌組織試料から分離され、Matrigelでコーティングされた12ウェルプレートへと1ウェル当たり4×10個の細胞の密度で接種され、接種後7日目まで培養された初代乳房正常上皮細胞(HMFL-XN11-N)の顕微鏡画像(50倍の倒立位相差顕微鏡下)を示している。図1(A)及び図1(B)は、本発明の初代乳房上皮細胞培養培地及び培養方法を使用することで、乳癌組織に由来する乳房腫瘍細胞及び傍癌組織に由来する正常乳房上皮細胞の両方についてin vitroで効率的な培養が達成され得ることを示している。培養される初代細胞は、線維芽細胞等の間質細胞を含まない。
【0064】
図1(C)及び図1(D)は、それぞれ接種後4日目まで培養した及び接種後10日目まで培養した初代乳房腫瘍細胞(HMFL-XN15)の顕微鏡画像(100倍の倒立位相差顕微鏡下)の比較であり、ここで、初代乳房腫瘍細胞(HMFL-XN15)は、外科的切除された別の乳癌組織試料から分離され、Matrigelでコーティングされた12ウェルプレートへと1ウェル当たり4×10個の細胞の密度で接種された。図1(D)は、乳腺を構成する2つの異なる細胞亜集団、すなわち内腔細胞及び筋上皮細胞を、本発明の初代細胞培養培地及び培養方法を使用することによって培養することができ、したがって腫瘍組織の不均一性を維持し得るin vitro培養が達成されることを示している。図1(C)及び図1(D)を比較すると、本発明の培地及び培養方法を使用して乳癌組織試料を分離し、接種し、培養した結果、接種及び培養後4日目に明らかな乳房上皮細胞クローンが形成され、培養10日目に細胞数が指数関数的に拡大することが確認され得ることから、本発明の技術がin vitroで乳房上皮細胞を増殖させるのに効率的な技術であることが示唆される。
【0065】
(3)正常酸素条件及び低酸素条件下での初代乳房上皮細胞の培養
乳癌組織に由来する初代乳房腫瘍細胞(HMFL-XN30)を、実施例1の工程(1)と同じ方法を使用して乳癌患者の癌組織から分離した。次に、等しい細胞数(1ウェル当たり4×10個の細胞)の初代乳房腫瘍細胞HMFL-XN30を、Matrigel(登録商標)(BD Biosciences製)でコーティングされた12ウェルプレートへと接種した。2mLの調製された初代乳房上皮細胞培養培地を12ウェルプレートに加え、等しい数の乳房腫瘍細胞を、それぞれ20%の酸素濃度の条件(正常酸素条件)及び2%の酸素濃度の条件(低酸素条件)下で培養した。7日目まで培養した後に、顕微鏡写真(100倍の倒立位相差顕微鏡下)を撮影した。図1(E)及び図1(F)は、それぞれ正常酸素条件及び低酸素条件下で癌組織に由来する乳房上皮細胞を培養することによって得られた細胞の比較である。図1(E)及び図1(F)から、本発明の培養培地及び培養方法を使用した場合に、癌組織に由来する初代乳房上皮細胞の高効率培養が正常酸素条件(20%の酸素濃度)及び低酸素条件(2%の酸素)の両方で達成され得ることを確認することができる。
【0066】
(4)細胞外マトリックスゲルのコーティングを有する条件及び有しない条件下での乳癌組織に由来する初代乳房腫瘍細胞の培養結果の比較
癌組織に由来する初代乳房腫瘍細胞(HMFL-XN30、HMFL-XN22)を、実施例1の工程(1)と同じ方法を使用して2人の乳癌患者の癌組織から分離した。次に、等しい数(1ウェル当たり4×10個の細胞)の初代乳房腫瘍細胞HMFL-XN30を、それぞれMatrigel(登録商標)(BD Biosciences製)でコーティングされた12ウェルプレート及び何の処理もなされていない12ウェルプレートへと接種した。2mLの調製された初代乳房上皮細胞培養培地を12ウェルプレートに加え、等しい数の初代乳房腫瘍細胞を20%の酸素濃度の条件下で培養した。10日目まで培養した後に写真を撮影した。HMFL-XN22(P3)は、分離後にそれぞれMatrigelでコーティングされた条件及びMatrigelでコーティングされていない条件下で3回目の継代まで連続培養した乳房腫瘍細胞HMFL-XN22であった。残りの工程は、HMFL-XN30の工程と同じである。
【0067】
図2は、それぞれMatrigelでコーティングされた条件及びMatrigelでコーティングされていない条件下で10日目まで培養した乳癌組織由来の初代乳房腫瘍細胞HMFL-XN30及びHMFL-XN22(P3)の顕微鏡画像である。図2によれば、Matrigelでコーティングされた培養プレートが、何の処理もなされていない培養プレートよりも乳房腫瘍細胞の増殖に有利であることを確認することができる。
【0068】
[実施例3]
乳癌組織に由来する初代乳房腫瘍細胞に対するアンフィレグリンの増殖効果
(1)初代乳房上皮細胞培養培地を、実施例2の工程(1)と同様にして調製した。さらに、アンフィレグリンを含まない別の初代培地を、初代乳房上皮細胞培養培地の処方からアンフィレグリンを除くことによって調製した。
【0069】
(2)実施例1の工程(1)と同じ方法を使用することにより、2人の異なる乳癌患者の外科的切除された癌組織試料に由来する初代乳房腫瘍細胞(HMFL-XN2、HMFL-XN12)及び乳癌患者の穿刺試料に由来する初代乳房腫瘍細胞(HMFL-XN13)を得た。
【0070】
外科的切除された癌組織に由来する初代乳房腫瘍細胞(HMFL-XN2)を、Matrigel(登録商標)(BD Biosciences製)でコーティングされた12ウェルプレートへと同じ密度(1ウェル当たり5×10個の細胞)で接種した。アンフィレグリンを含む本発明の初代乳房上皮細胞培地及びアンフィレグリンを含まない初代培地において1群当たり2つの反復実験ウェルで、37℃及び20%の酸素濃度にて細胞を培養した。図3(A)は、アンフィレグリンを含まない初代培養培地及びアンフィレグリンを含む初代培養培地において6日目まで培養した後に形成された腫瘍細胞クローンの顕微鏡画像(100倍の倒立位相差顕微鏡下)を示しており、ここで、培養される細胞(HMFL-XN2)は、同じ乳癌患者から分離され、同じ細胞数(1ウェル当たり5×10個の細胞)で接種された。
【0071】
図3(B)は、それぞれアンフィレグリンを含まない初代培養培地及びアンフィレグリンを含む初代培養培地において、各群に2つの反復実験ウェルで10日目まで培養した後の、3症例の乳癌組織由来の乳房腫瘍細胞(HMFL-XN2、HMFL-XN-12、及びHMFL-XN13)についての細胞計数の結果を示している。図3(B)から、アンフィレグリンを含まない培養培地において培養した細胞の群をコントロールとすると、アンフィレグリンを添加することにより初代乳房上皮細胞の増殖が促進され、それにより初代乳房上皮細胞の増殖が少なくとも50%から最大250%まで促進され得ることが分かる。
【0072】
[実施例4]
乳癌組織に由来する初代乳房腫瘍細胞の連続培養及びそれについての成長曲線の作成
(1)初代乳房上皮細胞培養培地を、実施例2の工程(1)と同様にして調製した。コントロールとして、条件付き細胞リプログラミング技術用の別の培養培地(以下、「条件付き細胞リプログラミング培地」とも呼ぶ)を調製した。調製工程については、Liu et al., Nat Protoc., 12(2): 439-451, 2017を参照のこと。培養培地の処方を表2に示す。さらに、別のコントロールとして、乳腺オルガノイド用の培養培地(以下、「オルガノイド培地」とも呼ぶ)を調製した。調製工程については、非特許文献3を参照のこと。培養培地の処方を表3に示す。
【0073】
【表2】
【0074】
【表3】
【0075】
(2)実施例1の工程(1)と同じ方法を使用することにより、2症例の乳癌組織に由来する初代乳房腫瘍細胞(HMFL-XN12及びHMFL-XN21)を得た。次に、HMFL-XN12及びHMFL-XN21を、同じ密度(1ウェル当たり4×10個の細胞)で以下の3つの培養条件下にて培養した:
A.本発明の技術:初代乳房腫瘍細胞を、Matrigel(登録商標)(BD Biosciences製)でコーティングされた12ウェルプレートへと1ウェル当たり4×10個の細胞の密度で接種し、2mLの本発明の初代乳房上皮細胞培養培地を使用して培養した;
B.条件付き細胞リプログラミング技術:初代乳房腫瘍細胞を、γ線照射されたマウス線維芽細胞系統J2細胞(Kerafastから購入)へと1ウェル当たり4×10個の細胞の密度で接種し、12ウェルプレートにおいて条件付き細胞リプログラミング培地(詳細な手順は、非特許文献4を参照)を使用して培養した;
C.初代乳房腫瘍細胞を、Matrigel(登録商標)(BD Biosciences製)でコーティングされた12ウェルプレートへと1ウェル当たり4×10個の細胞の密度で接種し、12ウェルプレートにおいて2mLのオルガノイド培地を使用して培養した。
【0076】
上記の3つの培養において、3つの培養条件下で培地を4日ごとに一新して細胞を培養した。
【0077】
(3)本発明の技術により培養した初代乳房腫瘍細胞(HMFL-XN12及びHMFL-XN21)については、培養プレートにおける細胞の成長がプレートの底部面積の約80%を覆ったときに、12ウェルプレートにおける培養培地の上清を廃棄し、1mLの0.05%トリプシン(Thermo Fisher:25300062)を添加して細胞を消化し、37℃で15分間インキュベートした後に、消化された細胞を10%(容量/容量)のウシ胎児血清、100U/mLのペニシリン、及び100U/mLのストレプトマイシンを含む5mLのDMEM/F12培地中に再懸濁し、得られたものを遠心分離チューブ内に収集して350g/分で5分間遠心分離し、遠心分離された細胞沈降物を本発明の培養培地中に再懸濁し、細胞を血球計算盤で計数し、細胞を細胞外マトリックスゲルでコーティングされた別の12ウェル培養プレートへと1ウェル当たり4×10個の細胞の密度で接種して、更に培養した。
【0078】
他の2つの培養条件下で培養した細胞を、上記と同様にして消化し、継代し、計数し、細胞をそれぞれ実施例4の工程(2)に記載される工程B又は工程Cに従って接種した。
【0079】
継代した細胞が培養プレートにおいて成長してプレートの底部面積の約80%を再び覆ったときに、培養細胞を上記の操作方法に従って消化し、収集し、計数した。細胞を再び1ウェル当たり4×10個の細胞の密度で接種し、連続培養した。
【0080】
以下は、様々な培養条件下での初代乳房上皮細胞の細胞集団の倍加数を計算する式である:
細胞集団の倍加数=[log(N/X)]/log2
(式中、Nは継代する細胞数であり、Xは最初の接種時の細胞数である)(Greenwood et al., Environ Mol Mutagen 2004, 43(1): 36-44を参照)。
【0081】
図4(A)及び図4(B)は、Graphpad Prism 7.0ソフトウェアによって作成された3つの異なる培養条件下での2症例の細胞の成長曲線であり、横軸として培養日数を取り、縦軸として細胞集団の倍加数を取っている。図4(A)及び図4(B)から、本発明の技術により培養した乳房上皮細胞の増殖速度が、条件付き細胞リプログラミング技術の増殖速度よりも高く、オルガノイド培養技術の増殖速度と同等であることを確認することができる。
【0082】
図4(C)における細胞の写真は、3つの異なる培養条件下で3回目の継代(27日目)まで培養したHMFL-XN21の顕微鏡画像(50倍の倒立位相差顕微鏡下)である。
【0083】
図5は、本発明の培養培地を用いて9日目及び22日目まで培養したHMFL-XN12の顕微鏡画像(100倍の倒立位相差顕微鏡下)の比較である。図5から、本発明の技術が、初代乳房上皮細胞を連続培養することができ、多数の継代及び連続培養後の細胞の形態が、継代前の形態と比較して大きく変化しないことを確認することができる。
【0084】
[実施例5]
腫瘍組織由来の初代乳房腫瘍細胞の免疫マーカーの特定
(1)初代乳房腫瘍細胞培養培地を、実施例2の工程(1)と同様にして調製した。
【0085】
(2)乳癌患者の外科的切除試料からほぼ大豆大の癌組織を採取し、10mLの4%パラホルムアルデヒド中に浸した。乳房上皮細胞(HMFL-XN7)を、残りの癌組織から実施例1の工程(1)と同様にして得た。HMFL-XN7を、実施例4の工程(3)に記載したのと同じ方法を使用して3回目の継代まで連続培養した。
【0086】
(3)免疫蛍光アッセイを使用して、ヒト乳房腫瘍細胞上の重要な癌関連バイオマーカーの発現を検出した。使用した一次抗体は、CK8(Abcam製)、CK14(Abcam製)、ER(Cell Signaling Technology製)、PR(Cell Signaling Technology製)、HER2(Cell Signaling Technology製)、及びKi67(Cell Signaling Technology製)であった。使用した二次抗体は、抗ウサギIgG(H+L),F(ab’)2フラグメント(Alexa Fluor(商標)488コンジュゲート)(Cell Signaling Technology製)、抗マウスIgG(H+L),F(ab’)2フラグメント(Alexa Fluor(商標)594コンジュゲート)(Cell Signaling Technology製)であった。ER及びPRは、患者が内分泌療法を受け入れることができるかどうかを予測するのに重要な指標であり、HER2は、患者が抗HER2標的療法を受け入れることができるかどうかを予測するのに重要な指標であり、Ki67は、乳癌の悪性度及び予後を判断する指標であり、CK8及びCK14は、乳癌の特定及び診断にも使用される上皮細胞用のバイオマーカーである。
【0087】
本発明の技術に従って3回目の継代まで培養した乳房腫瘍細胞(HMFL-XN7)を、Matrigelでコーティングされたスライドガラス上に接種した。コーティング方法は、実施例1の工程(2)と同じであった。本発明の初代乳房上皮細胞培養培地を使用することによって細胞を培養し、スライドガラス上で細胞を成長させた。PBSバッファーで2回すすいだ後に、細胞を4%パラホルムアルデヒドで15分間固定し、次にTBST(TBS+0.1%のTween 20)中の1%のBSA、1%のTriton X-100とともに室温で1時間インキュベートした。細胞をPBSバッファーにより毎回3分間で3回すすいだ。PBS溶液を除去し、50μLの一次抗体希釈剤(抗体の使用説明書に従って調製)をスライド上に滴下し、細胞を室温で60分間インキュベートし、次にPBSにより毎回3分間で3回すすぎ、二次抗体希釈剤(抗体の使用説明書に従って調製)を滴加し、細胞を室温で60分間インキュベートし、次にPBSにより毎回3分間で3回すすいだ。細胞を1μg/mLのDAPI色素(Sigma製)とともに10分間インキュベートした後に、PBSで1回すすいだ。1滴の封入剤(Thermo Fisher Scientific製)でカバースリップを密封した後に、細胞上の乳癌関連バイオマーカーER、PR、HER2、CK8、CK14、及びKi67の発現を(400倍の蛍光顕微鏡下で)写真撮影した。結果を図6(A)に示した。免疫蛍光染色の結果は、本発明の技術により3回目の継代まで培養した乳房上皮細胞におけるER(+)、PR(+)、HER2(-)、及びKi67陽性細胞の数が約20%であったことを示している。
【0088】
(4)HMFL-XN7細胞の由来元の組織における乳癌に関連する重要なバイオマーカーの発現を、免疫組織化学によって検出した。組織を4%パラホルムアルデヒドで固定し、パラフィン中に包埋し、ミクロトームで4μmの厚さの組織切片に切断した。次に、定型的な免疫組織化学的検出を行った(詳細な工程については、Yu et al., Science, 345(6193): 216-220, 2014を参照)。使用した一次抗体は、免疫蛍光で使用した一次抗体と同じであった。細胞上の癌関連バイオマーカーER、PR、HER2、CK8、CK14、及びKi67の発現を(200倍の生物学的顕微鏡下で)写真撮影し、結果を図6(B)に示す。患者に関する免疫組織化学の結果は、ER(+)、PR(+)、HER2(-)、及びKi67陽性細胞数が約20%であったことを示している。
【0089】
図6(A)及び図6(B)により、本発明の技術によって乳房腫瘍細胞(HMFL-XN7)から3回目の継代まで培養した細胞上での乳癌関連バイオマーカーの発現が、細胞の由来元の組織切片上のマーカーの発現と一致していたことが確認される。これは、本発明の技術によって培養した細胞が、乳癌患者の癌組織の元の病理学的特徴を維持していることを示唆している。
【0090】
[実施例6]
癌組織に由来する初代乳房腫瘍細胞の遺伝子突然変異及び核型分析
(1)遺伝子突然変異分析:乳房腫瘍細胞(HMFL-XN10、HMFL-XN12)を、実施例4の工程(3)に従って本発明の方法によって連続培養し、3回目の継代までin vitroで培養した乳房腫瘍細胞(P3)及び乳癌患者に直接由来する継代されていない癌腫瘍細胞(P0)を遠心分離によって収集し、細胞のゲノムDNAをDNeasy血液・組織キット(DNeasy blood & tissue kit)(QIAGEN製)を使用して抽出した。細胞を提供した患者から2mLの末梢血を収集し、同じ方法によってバックグラウンドコントロールとしてゲノムDNAを抽出した。引き続き、細胞及び血液試料のゲノムDNAに対して全エクソームシーケンシングを行い(詳細な手順については、非特許文献3を参照)、シーケンシングの結果を腫瘍の高頻度突然変異遺伝子について分析した。MuSiCソフトウェアを使用して、腫瘍の高頻度突然変異を分析した。MuSiCは、腫瘍試料を提供する患者の末梢血の遺伝子突然変異をバックグラウンドとして、遺伝子上の各突然変異型について統計的検定を行い、バックグラウンドよりも有意に高い突然変異率を有する遺伝子を検出した。分析結果は図7(A)に示されている。図7(A)のベン図は、本発明の技術を使用することによって培養した異なる継代の乳房腫瘍細胞が有する高頻度突然変異遺伝子の数のアラインメントを示している。HMFL-XN10(P3)は、本発明の培養方法によって3回目の継代まで培養した乳癌患者からの乳房腫瘍細胞の高頻度突然変異分析を表し、HMFL-XN10(P0)は、同じ乳癌患者に由来する最初に分離された継代されていない乳房腫瘍細胞の分析を表している。上記の分析結果は、https://bioinfogp.cnb.csic.es/tools/venny/index.htmlで利用可能なソフトウェアを使用して作成された。腫瘍の高頻度突然変異分析の結果は、2つの群の高頻度突然変異遺伝子が実質的に同じであったことを示している。HMFL-XN12細胞及びHMFL-XN10細胞は、同じ方法を使用して並行して操作されていた。図7(A)により、本発明の技術によって培養した癌組織由来の乳房腫瘍細胞が、患者の癌組織の元の遺伝子突然変異特徴を維持し得ることが確認される。
【0091】
(2)染色体核型分析:乳房腫瘍細胞(HMFL-XN10)を、実施例4の工程(3)に従って本発明の同じ方法を使用して3回目の継代(P3)まで連続培養した。細胞を収集する1日前に、0.1μg/mLのコルカミン(Gibco製)を培養培地に添加し、16時間後に、細胞を消化し、収集し、75mMの低透過性KClで処理し、次に3:1のメタノール:氷酢酸溶液で30分間固定した。固定した細胞をスライドガラス上に均一に滴下して乾燥させ、細胞核を5mg/mlのDAPI(Sigma製)で15分間染色し、共焦点レーザー顕微鏡(Leicaから購入)を使用して細胞中期を写真撮影し、染色体を対で整列させた。
【0092】
図7(B)は、HMFL-XN10について本発明の技術を使用することによって3回目の継代まで培養した乳房腫瘍細胞の染色体形態及び数が正常であり、倍数性又は低倍数性が現れないことを示しているが、核内の染色体は2回複製され、幾つかの染色体は互いに接近していて、腫瘍細胞の核型と一致していることから、細胞が異常な染色体を有し、腫瘍細胞の特徴を有することが示唆される。図7(B)により、本発明の培養方法によって培養した癌組織由来の乳房腫瘍細胞が、乳癌患者の染色体核型特徴を維持し得ることが確認される。
【0093】
[実施例7]
マウスにおける癌組織由来の初代乳房腫瘍細胞の異種移植腫瘍形成実験
乳房腫瘍細胞(HMFL-XN5、HMFL-XN29)を、実施例1における工程(1)と同じ方法を使用することによって、2症例の病理学的に診断されたトリプルネガティブ乳癌患者の癌組織から分離して得た。HMFL-XN5及びHMFL-XN29を、それぞれ実施例2の工程(2)の方法に従って培養し、乳房腫瘍細胞の数が1×10個に達したとき、乳房腫瘍細胞を消化し、実施例4の工程(3)に記載されるように本発明の同じ方法を使用して収集した。本発明の乳房腫瘍細胞培養培地及びMatrigel(登録商標)(BD Biosciences製)を1:1の比率で混合し、Matrigelと混合した100μLの培養培地を使用して5×10個の乳房腫瘍細胞を再懸濁し、得られたものを6週齢の雌の高度免疫不全マウス(NCG)(南京モデル動物研究センター(Nanjing Model Animal Research Center)から購入)の乳房脂肪パッド及び右前肢の腋窩にそれぞれ注射した。乳房腫瘍細胞から生成されたマウスにおける腫瘍の体積及び成長速度を3日ごとに観察して写真撮影した。
【0094】
図8により、腫瘍細胞接種後13日目にマウスの2つの腫瘍細胞接種部位において腫瘍形成が観察され得ることが確認される。13日目から22日目まで、マウスにおける腫瘍増殖は明らかであった。これは、本発明の培養方法により培養した癌組織由来の乳房腫瘍細胞がマウスにおいて腫瘍形成性を有することを示している。
【0095】
[実施例8]
癌組織由来の乳房腫瘍細胞の薬物感受性機能的試験
乳癌患者の外科的切除試料を例に取ると、患者由来の乳房腫瘍試料から培養した乳房腫瘍細胞を使用して、様々な薬物に対する患者の腫瘍細胞の感受性を試験することができることが確認される。
【0096】
1.初代乳房腫瘍細胞の播種:実施例4の工程(3)に従って本発明の同じ方法によって得られた乳房腫瘍細胞(HMFL-XN5、HMFL-XN7、HMFL-XN10、HMFL-XN12、及びHMFL-XN29)の単一細胞懸濁液を、384ウェルプレートにおいて1ウェル当たり3000個~5000個の細胞の密度で接種し、細胞を一晩付着させた。
【0097】
2.薬物勾配実験:
(1)薬物貯蔵プレートを勾配希釈法によって調製した:10μLの試験される薬物ストック溶液(薬物ストック溶液の濃度は、人体における薬物の最大血中濃度Cmaxの2倍に基づいて決定された)をそれぞれ取り、20μLのDMSOを含む0.5mLのEPチューブに加え、上記のEPチューブからの10μLの溶液を、20μLのDMSOを入れた2つ目の0.5mLのEPチューブへとピペットで移した。つまり、薬物を1:3の比率で希釈した。上記の方法を繰り返して段階的に希釈し、投薬に必要とされる7個の濃度を得た。異なる濃度の薬物を384ウェルの薬物貯蔵プレートに加えた。等容量のDMSOを、コントロールとして溶剤コントロール群の各ウェルに加えた。この実施例において、試験される薬物は、エピルビシン(MCE製)、ラパチニブ(MCE製)、ドセタキセル(MCE製)、及びタモキシフェン(MCE製)であった。
【0098】
(2)高スループット自動ワークステーション(Perkin Elmerから購入)を使用して、384ウェルの薬物貯蔵プレートにおける様々な濃度の薬物及び溶剤コントロールを、乳房腫瘍細胞が播種された384ウェルの細胞培養プレートに加えた。薬物群及び溶剤コントロール群を、それぞれ3つの反復実験ウェルで配置した。各ウェルに加えた薬物の容量は100nLであった。
【0099】
(3)細胞生存率の試験:投与72時間後に、Cell Titer-Gloアッセイキット(Promega製)を使用して、薬物投与後の培養細胞の化学発光値を検出した。化学発光値の大きさは、細胞生存率及び細胞生存率に対する薬物の効果を反映している。調製されたCell Titer-Glo検出液を各ウェルに加え、マイクロプレートリーダーを使用して、混合後に化学発光値を検出した。
【0100】
Graphpad Prism 7.0ソフトウェアを使用してグラフを作成し、半阻害率IC50を計算した。
【0101】
(4)薬物感受性試験の結果を図9に示す。
【0102】
図9(A)~図9(D)はそれぞれ、5人の異なる乳癌患者の外科的切除された癌組織試料から培養した乳房腫瘍細胞の、2つの化学療法薬のエピルビシン及びドセタキセル、内分泌療法薬のタモキシフェン、並びに標的薬のラパチニブに対する感受性を表している。これらの結果は、同じ患者からの細胞が異なる薬物に対して異なる感受性を有し、異なる患者からの細胞も同じ薬物に対して異なる感受性を有することを示している。
【0103】
詳細には、ホルモン受容体陽性でHER2受容体陰性の乳癌患者に由来する乳房腫瘍細胞(HMFL-XN7)は、他の患者よりも内分泌療法薬のタモキシフェンに対して感受性が高く、0.98μMの半阻害率を有するが、HER2標的薬のラパチニブに対する感受性はより低く、2.5μMの半阻害率を有していた。HER2陽性の乳癌患者に由来する乳房腫瘍細胞(HMFL-XN12)の試験結果は、この細胞が他の患者よりも抗HER2標的薬のラパチニブに対して感受性が高く、0.92μMの半阻害量を有することを示している。さらに、トリプルネガティブ乳癌患者に由来する乳房腫瘍細胞(HMFL-XN29)は、他の患者からの乳房腫瘍細胞よりも内分泌療法薬のタモキシフェン及び抗HER2標的薬のラパチニブに対する感受性が低かった。一方で、別のトリプルネガティブ乳癌患者からの乳房腫瘍細胞(HMFL-XN5)は、4つの試験薬物のいずれに対しても感受性がなかった。
【0104】
図9によれば、本発明によって乳癌患者の癌組織から培養した乳房腫瘍細胞の化学療法薬及び標的薬に対する感受性試験の結果が、患者の臨床病理学的分子タイピングと一致したことが確認されることから、本発明の技術によって培養した乳房腫瘍細胞が、乳癌患者の臨床的有効性の予測において潜在的な用途を有することが示唆される。
【0105】
本発明を一般的な説明及び特定の実施形態により上記で詳細に記載してきたが、本発明に基づいて、幾つかの変更又は改善を行うことができ、これらは当業者には明らかである。したがって、本発明の趣旨から逸脱せずに行われるこれらの変更又は改善は、本発明の保護範囲内にあるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明は、in vitroで初代乳房上皮細胞を培養又は増殖させる培養培地及び培養方法を提供する。本発明の初代乳房上皮細胞の培養培地及び培養方法から得られた細胞モデルを使用して、乳房疾患を治療する薬物を評価又はスクリーニングすることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9