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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-26
(45)【発行日】2023-11-06
(54)【発明の名称】積層コイル部品
(51)【国際特許分類】
   H01F 17/00 20060101AFI20231027BHJP
   H01F 17/04 20060101ALI20231027BHJP
【FI】
H01F17/00 D
H01F17/04 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018246828
(22)【出願日】2018-12-28
(65)【公開番号】P2020107780
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-11-30
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126572
【弁理士】
【氏名又は名称】村越 智史
(72)【発明者】
【氏名】制野 博太朗
(72)【発明者】
【氏名】新井 隆幸
(72)【発明者】
【氏名】寺内 直也
【審査官】後藤 嘉宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-228768(JP,A)
【文献】国際公開第2018/030194(WO,A1)
【文献】特開2017-028143(JP,A)
【文献】国際公開第2010/084794(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/121828(WO,A1)
【文献】特開2015-198242(JP,A)
【文献】特開2006-041184(JP,A)
【文献】特開平08-316037(JP,A)
【文献】特開2018-206887(JP,A)
【文献】特開2011-204899(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 17/00
H01F 17/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層方向と交差する交差方向のうち第1方向に沿って延びる絶縁体層と、
前記絶縁体層の前記積層方向の一方の面に設けられ、前記第1方向に沿って延び、前記第1方向に直交する幅方向を有する第1導体層と、
前記絶縁体層の前記積層方向の他方の面に設けられ、前記第1方向に沿って延び、前記第1導体層と電気的に接続された第2導体層と、
前記第1導体層、前記絶縁体層、及び前記第2導体層を覆う基体部と、を備え、
前記第1導体層と前記第2導体層とは前記基体部の内部においてコイル導体を構成し、
前記第1導体層は、前記幅方向における端部から凹む凹部を有し、
前記凹部の少なくとも一部は、前記絶縁体層の前記一方の面と、前記絶縁体層の前記一方の面に接し前記絶縁体層の前記一方の面に交差する方向に延びる前記第1導体層の平面とによって画定されている、積層コイル。
【請求項2】
前記第2導体層は、前記幅方向における当該第2導体層の端部から凹む凹部を有し、
前記凹部の少なくとも一部は、前記絶縁体層の前記他方の面によって画定されている、請求項1に記載の積層コイル。
【請求項3】
前記第1導体層及び前記第2導体層のそれぞれは、前記基体部に面する側面を有し、
前記交差方向から見て、前記凹部の少なくとも一部は、前記側面によって画定されている、請求項1~2の何れか一項に記載の積層コイル部品。
【請求項4】
前記基体部は、前記絶縁体層及び前記第2導体層に接触する第1磁性体層と、前記第1磁性体層に対して、前記第1磁性体層と他の前記第1磁性体層との間に積層された第2磁性体層と、を含み、
前記第1磁性体層における磁性体粒子の充填率は、前記第2磁性体層における磁性体粒子の充填率より高い、請求項1~3の何れか一項に記載の積層コイル部品。
【請求項5】
前記交差方向から見て、前記凹部は、略矩形状を有する
請求項1~4の何れか一項に記載の積層コイル部品。
【請求項6】
請求項1~5の何れか一項に記載の積層コイル部品を含む、回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層コイル部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、フェライト等の磁性材料によって形成された基体部と、当該基体部に埋設された複数の導体層と、複数の導体層の間に配置された絶縁体層とを備える積層コイル部品が知られている。積層コイル部品の一つの例として、積層インダクタが挙げられる。積層インダクタは、電子回路において用いられる受動素子である。積層インダクタは、例えば、電源ラインや信号ラインにおいて、ノイズを除去するために用いられる。このような積層コイル部品は、例えば特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-121023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のような積層コイル部品は、例えば、複数のグリーンシートを積層することにより作製される。グリーンシートは、フェライト等の磁性材料から成る。当該複数のグリーンシートの各々には、積層前に、対応する導体パターンが形成される。複数のグリーンシートを積層した後、積層方向において複数のグリーンシートを圧着する工程が行われる。
【0005】
しかしながら、積層方向において複数のグリーンシートを圧着すると、導体層の変形が生じる場合がある。このような場合、積層方向において隣り合う導体層同士が短絡するおそれがある。
【0006】
本発明の目的の一つは、導体層同士の短絡を抑制することが可能なコイル部品を提供することである。本発明のこれ以外の目的は、明細書全体の記載を通じて明らかにされる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態に係る積層コイル部品は、積層方向と交差する交差方向に沿って延びる絶縁体層と、絶縁体層の積層方向の一方の面に設けられた第1導体層と、絶縁体層の積層方向の他方の面に設けられた第2導体層と、第1導体層、絶縁体層、及び第2導体層を覆う基体部と、を備え、第1導体層は、交差方向における当該第1導体層の端部から凹む凹部を有し、凹部の少なくとも一部は、絶縁体層の一方の面によって画定されている。
【0008】
この積層コイル部品の第1導体層は、交差方向における当該第1導体層の端部から凹む凹部を有し、凹部の少なくとも一部は、絶縁体層の一方の面によって画定されている。このような凹部を第1導体層が有していることにより、当該凹部が設けられた箇所において、第1導体層と第2導体層と間の積層方向の距離が大きくなっている。このため、仮に第1導体層及び/又は第2導体層が変形した場合であっても、第1導体層と第2導体層とが接触する可能性が低減されている。したがって、導体層同士の短絡を抑制することが可能である。
【0009】
本発明の一実施形態において、第2導体層は、交差方向における当該第2導体層の端部から凹む凹部を有し、凹部の少なくとも一部は、絶縁体層の他方の面によって画定されていてもよい。この構成によれば、交差方向における第2導体層の端部にも凹部が設けられているので、当該凹部が設けられた箇所において、第1導体層と第2導体層との距離が更に大きくなっている。したがって、より確実に導体層同士の短絡を抑制することが可能である。
【0010】
本発明の一実施形態において、第1導体層及び第2導体層のそれぞれは、基体部に面する側面を有し、交差方向から見て、凹部の少なくとも一部は、側面によって画定されていてもよい。
【0011】
本発明の一実施形態において、基体部は、絶縁体層及び第2導体層に接触する第1磁性体層と、第1磁性体層に対して積層された第2磁性体層と、を含み、第1磁性体層における磁性体粒子の充填率は、第2磁性体層における磁性体粒子の充填率より高くてもよい。この構成によれば、第1磁性体層は、第2磁性体層及び第2導体層よりも流動しにくくなっている。このため、第1磁性体層によって、積層方向に圧力が加わった際に第2導体層が交差方向に流動して変形することを抑制できる。したがって、より確実に導体層同士の短絡を抑制することが可能である。
【0012】
本発明の一実施形態に係る積層コイル部品は、積層方向と交差する交差方向に沿って延びる絶縁体層と、絶縁体層の積層方向の一方の面に設けられた第1導体層と、絶縁体層の積層方向の他方の面に設けられた第2導体層と、第1導体層、絶縁体層、及び第2導体層を覆う基体部と、を備え、基体部は、絶縁体層及び第2導体層に接触する第1磁性体層と、第1磁性体層に対して積層された第2磁性体層と、を含み、第1磁性体層における磁性体粒子の充填率は、第2磁性体層における磁性体粒子の充填率より高い。
【0013】
この積層コイル部品の基体部は、絶縁体層及び第2導体層に接触する第1磁性体層と、第1磁性体層に対して積層された第2磁性体層と、を含む。第1磁性体層における磁性体粒子の充填率は、第2磁性体層における磁性体粒子の充填率より高くなっているので、第1磁性体層は、第2磁性体層及び第2導体層よりも流動しにくくなっている。このため、第1磁性体層によって、積層方向に圧力が加わった際に第2導体層が交差方向に流動して変形することを抑制できる。したがって、導体層同士の短絡を抑制することが可能である。
【0014】
本発明の一実施形態において、第1磁性体層は、第1導体層に接触してもよい。この構成によれば、第1磁性体層は、絶縁体層及び第2導体層に加え、第1導体層にも接触している。これにより、第1磁性体層によって、積層方向に圧力が加わった際に第1導体層が交差方向に流動して変形することも抑制できる。したがって、より確実に導体層同士の短絡を抑制することが可能である。
【0015】
本発明の一実施形態は、上記の積層コイル部品を備える回路基板に関する。
【0016】
本発明の一実施形態は、上記の回路基板を備える電子部品に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、導体層同士の短絡を抑制することが可能なコイル部品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係るコイル部品の斜視図である。
図2図1のコイル部品の分解斜視図である。
図3図1のI―I線に沿った積層コイル部品の断面を模式的に示す図である。
図4図1のコイル部品の積層体における積層構造の一部を拡大して示す断面図である。
図5】変形例に係るコイル部品の積層体における積層構造の一部を拡大して示す断面図である。
図6】変形例に係るコイル部品の積層体における積層構造の一部を拡大して示す断面図である。
図7】変形例に係るコイル部品の積層体における積層構造の一部を拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、適宜図面を参照し、本発明の様々な実施形態を説明する。なお、複数の図面において共通する構成要素には当該複数の図面を通じて同一の参照符号が付されている。各図面は、説明の便宜上、必ずしも正確な縮尺で記載されているとは限らない点に留意されたい。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態に係るコイル部品1の斜視図であり、図2は、図1に示したコイル部品1の分解斜視図である。図3は、図1のI―I線に沿ったコイル部品1の断面を模式的に示す図である。図3においては、後述の積層体10に含まれる各磁性体層を省略している。
【0021】
これらの図には、コイル部品1の一例として、様々な回路で受動素子として用いられる積層インダクタが示されている。積層インダクタは、本発明を適用可能な積層コイル部品の一例である。本発明は、電源ラインに組み込まれるパワーインダクタ及びそれ以外の様々な積層コイル部品に適用することができる。
【0022】
図示の実施形態におけるコイル部品1は、磁性材料から成る磁性体層が積層された積層体10と、この積層体10に埋設された導体パターンC11~C16と、当該導体パターンC11の一端と電気的に接続された外部電極21と、当該導体パターンC16の一端と電気的に接続された外部電極22と、を備える。導体パターンC11~C16の各々は、隣接する導体パターンと後述するビアV1~V5を介して電気的に接続され、このようにして接続された導体パターンC11~C16がコイル導体25を構成する。導体パターンC11は、後述する引出導体23を介して外部電極21と接続され、導体パターンC16は、後述する引き出し導体24を介して外部電極22と接続される。
【0023】
図示のように、本発明の一実施形態において、積層体10はおおむね直方体状に形成される。積層体10は、第1の主面10e、第2の主面10f、第1の端面10a、第2の端面10c、第1の側面10b、及び第2の側面10dを有する。積層体10は、これらの6つの面によってその外面が画定される。第1の主面10eと第2の主面10fとは互いに対向し、第1の端面10aと第2の端面10cとは互いに対向し、第1の側面10bと第2の側面10dとは互いに対向している。積層体10が直方体形状に形成される場合には、第1の主面10eと第2の主面10fとは平行であり、第1の端面10aと第2の端面10cとは平行であり、第1の側面10bと第2の側面10dとは平行である。
【0024】
図1の実施形態において、第1の主面10eは積層体10の上側にあるため、本明細書において第1の主面10eを「上面」と呼ぶことがある。同様に、第2の主面10fを「下面」と呼ぶことがある。コイル部品1は、第2の主面10fが回路基板(不図示)と対向するように配置されるので、本明細書において第2の主面10fを「実装面」と呼ぶこともある。また、コイル部品1の上下方向に言及する際には、図1の上下方向を基準とする。
【0025】
本明細書においては、文脈上別に理解される場合を除き、コイル部品1の「長さ」方向、「幅」方向、及び「厚さ」方向はそれぞれ、図1の「L」方向、「W」方向、及び「T」方向とする。
【0026】
本発明の一実施形態において、コイル部品1は、長さ寸法(L軸方向の寸法)が0.2~6.0mm、幅寸法(W軸方向の寸法)が0.1~4.5mm、厚さ寸法(T軸方向の寸法)が0.1~4.0mmとなるように形成される。これらの寸法はあくまで例示であり、本発明を適用可能なコイル部品1は、本発明の趣旨に反しない限り、任意の寸法を取ることができる。一実施形態において、コイル部品1は、低背に形成される。例えば、コイル部品1は、その幅寸法が厚さ寸法よりも大きくなるように形成される。
【0027】
図2は、図1のコイル部品1の分解斜視図である。図2においては、図示の便宜上、外部電極21及び外部電極22を省略している。図示のように、積層体10は、基体部20、この基体部20の上面に設けられた上部カバー層18、この基体部20の下面に設けられた下部カバー層19を備える。基体部20は、積層された磁性体層11~16を含む。この積層体10においては、図2の上から下に向かって、上部カバー層18、磁性体層11、磁性体層12、磁性体層13、磁性体層14、磁性体層15、磁性体層16、磁性体層17、下部カバー層19の順に積層されている。
【0028】
上部カバー層18は、4枚の磁性体層18a~18dを含む。この上部カバー層18においては、図2の下から上に向かって、磁性体層18a、磁性体層18b、磁性体層18c、磁性体層18dの順に積層されている。
【0029】
下部カバー層19は、4枚の磁性体層19a~19dを含む。この下部カバー層19においては、図2の上から下に向かって、磁性体層19a、磁性体層19b、磁性体層19c、磁性体層19dの順に積層されている。
【0030】
後述するように、磁性体層11~磁性体層16の各々には、対応する導体パターンC11~C16が埋め込まれている。磁性体層11~磁性体層16を積層する前の状態では、導体パターンC11~C16の上面は、それぞれ磁性体層11~16の上面から露出している。これらの導体パターンC11~C16及び引き出し導体23、24により、コイル導体25が構成される。このコイル導体25は、コイル軸Aを有する。各導体パターンC11~C16は、コイル軸Aの周りに延伸するように形成される。図示の実施形態において、コイル軸Aは、T軸方向に延伸しており、磁性体層11~磁性体層16の積層方向と一致する。
【0031】
また、磁性体層11~磁性体層16の各々には、導体パターンC11~C16に対応した絶縁体層IS11~IS16が埋め込まれている。絶縁体層IS11~IS16は、それぞれ導体パターンC11~C16の下に配置されている。絶縁体層IS11~IS16のそれぞれは、T軸方向(積層方向)に交差する方向において、導体パターンC11~C16より一回り大きく形成されている。磁性体層11~磁性体層16を積層する前の状態では、絶縁体層IS11~IS16のそれぞれは、磁性体層11~磁性体層16の下面において露出している。絶縁体層IS11~IS16を構成する絶縁性材料としては、例えば、アルミナ、シリカ、ジルコニア、及び酸化鉄等といった鉄を含む酸化物が用いられ得る。
【0032】
本発明の他の実施形態においては、磁性体層11~磁性体層16をL軸方向に積層してもよい。この場合、磁性体層11~磁性体層16の表面に導体パターンC11~C16を形成することにより、コイル軸Aは、磁性体層11~磁性体層16の積層方向と同じL軸方向を向く。本発明の他の実施形態においては、磁性体層11~磁性体層16をW軸方向に積層してもよい。この場合、磁性体層11~磁性体層16の表面に導体パターンC11~C16を形成することにより、コイル軸Aは、磁性体層11~磁性体層16の積層方向と同じW軸方向を向く。
【0033】
磁性体層11~磁性体層16、磁性体層18a~磁性体層18d、及び磁性体層19a~磁性体層19dに含まれる樹脂は、絶縁材料から形成される。一実施形態において、この絶縁材料は、絶縁性に優れた樹脂材料である。この樹脂材料として、例えば、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂、エチルセルロース樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、又はアクリル樹脂を用いることができる。磁性体層11~磁性体層16、磁性体層18a~磁性体層18d、及び磁性体層19a~磁性体層19dに含まれる樹脂は、絶縁性に優れた熱硬化性樹脂であってもよい。この熱硬化性樹脂として、例えばエポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリスチレン(PS)樹脂、高密度ポリエチレン(HDPE)樹脂、ポリオキシメチレン(POM)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリフッ化ビニルデン(PVDF)樹脂、フェノール(Phenolic)樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、又はポリベンゾオキサゾール(PBO)樹脂を用いることができる。各絶磁性体層及び各シートに含まれる樹脂は、他の磁性体層及び他のシートに含まれる樹脂と同種であってもよく異種であってもよい。
【0034】
磁性体層11~磁性体層16、磁性体層18a~磁性体層18d、及び磁性体層19a~磁性体層19dが樹脂材料から作製される場合には、これらの磁性体層は、フィラー粒子を含んでもよい。このフィラー粒子は、例えば、フェライト材料の粒子、軟磁性金属粒子、SiO2やAl23などの無機材料粒子、又はガラス系粒子である。本発明に適用可能なフェライト材料の粒子は、例えば、Ni-Znフェライトの粒子またはNi-Zn-Cuフェライトの粒子である。本発明に適用可能な軟磁性金属粒子は、酸化されていない金属部分において磁性が発現する材料であり、例えば、酸化されていない金属粒子や合金粒子を含む粒子である。本発明に適用可能な軟磁性金属粒子には、例えば、合金系のFe-Si-Cr、Fe-Si-Al、もしくはFe-Ni、非晶質のFe―Si-Cr-B-C、もしくはFe-Si-B-Cr、Fe、またはこれらの混合材料の粒子が含まれる。
【0035】
磁性体層11~磁性体層16、磁性体層18a~磁性体層18d、及び磁性体層19a~磁性体層19dは、表面に絶縁被膜が形成された軟磁性金属粒子を多数結合させることによって形成されてもよい。この絶縁被膜は、例えば、軟磁性金属の表面が酸化することで形成される酸化被膜である。結合した多数の軟磁性金属粒子からなる磁性体層は、樹脂を含まなくともよい。本発明に適用可能な軟磁性金属粒子には、例えば、合金系のFe-Si-Cr、Fe-Si-Al、もしくはFe-Ni、非晶質のFe―Si-Cr-B-C、もしくはFe-Si-B-Cr、Fe、またはこれらの混合材料の粒子が含まれる。磁性体層11~磁性体層16、磁性体層18a~磁性体層18d、及び磁性体層19a~磁性体層19dとして用いることができる、軟磁性金属粒子から成る構造物は、例えば、特開2013-153119号公報に開示されている。
【0036】
コイル部品1は、磁性体層11~磁性体層16、磁性体層18a~磁性体層18d、及び磁性体層19a~磁性体層19d以外にも、必要に応じて、任意の数の磁性体層を含むことができる。磁性体層11~磁性体層16、磁性体層18a~磁性体層18d、及び磁性体層19a~磁性体層19dの一部は、適宜省略することができる。
【0037】
導体パターンC11~C16及び絶縁層IS11~IS16は、対応する磁性体層11~16にそれぞれ埋め込まれて形成されている。導体パターンC11~C16及び絶縁層IS11~IS16は、スクリーン印刷等の印刷、メッキ、エッチング、又はこれら以外の任意の公知の手法を用いて形成される。
【0038】
磁性体層11~磁性体層15の所定の位置には、ビアV1~V5がそれぞれ形成される。ビアV1~V5は、絶縁体層IS11~IS16の所定の位置に、当該絶縁体層IS11~IS16をT軸方向に貫く貫通孔を形成し、当該貫通孔に金属材料を埋め込むことにより形成される。
【0039】
導体パターンC11~C16及びビアV1~V5は、導電性に優れた金属を含むように形成され、例えば、Ag、Pd、Cu、Al、又はこれらの合金から形成される。
【0040】
本明細書で説明される具体的な材料は例示であり、本明細書で例示されない材料もコイル部品1の構成要素の材料として適宜用いることができる。
【0041】
一実施形態において、外部電極21は、積層体10の第1の端面10aに設けられ、外部電極22は、積層体10の第2の端面10cに設けられる。外部電極21及び外部電極22は、図示のように、積層体10の上面10e、下面10f、第1の側面10b、及び第2の側面10dまで延伸しても良い。この場合、外部電極21は、積層体10の第1の端面10aの全体と、上面10e、下面10f、第1の側面10b、及び第2の側面10dの各々の一部を覆うように設けられ、外部電極22は、積層体10の第2の端面10cの全体と、上面10e、下面10f、第1の側面10b、及び第2の側面10dの各々の一部を覆うように設けられる。外部電極21及び外部電極22の形状は特に限定されず、適宜変更可能である。例えば、外部電極21は、第1の端面10a及び下面10fの各々の一部を覆うL字形状であってもよいし、下面10fの一部を覆う板状であってもよい。同様に、外部電極22は、第2の端面10c及び下面10fの各々の一部を覆うL字形状であってもよいし、下面10fの一部を覆う板状であってもよい。
【0042】
次に、図4を参照して、積層体10における磁性体層11~16、導体パターンC11~C16、及び絶縁体層IS11~IS16の積層構造、並びに導体パターンC11~C16の形状について詳細に説明する。図4は、積層体10における積層構造の一部を拡大して示す断面図である。図4は、導体パターンC12~C15が積層された部分を示している。
【0043】
図4に示されるように、コイル部品1の積層体10は、少なくとも、積層方向(本実施形態では、T軸方向)と交差する交差方向(本実施形態では、WL平面に沿った方向)に沿って延びる絶縁体層と、絶縁体層の積層方向の一方の面に設けられた第1の導体パターン(第1導体層)と、絶縁体層の積層方向の他方の面に設けられた第2の導体パターン(第2導体層)と、を備えている。第1の導体パターン及び第2の導体パターンは、共に公差方向に沿って延びている。絶縁体層は第1の導体パターンに対して積層され、第2の導体パターンは、絶縁体層に対して積層されている。積層体10では、導体パターンC11~C16及び絶縁体層IS11~IS16は、積層方向から見て、それぞれ略同一のパターンを有している。すなわち、積層体10では、略同一の構造を有する一組の導体パターン及び絶縁体層が繰り返し積層されている。例えば、導体パターンC13、C14に着目した場合、導体パターンC14が第1導体層に相当し、導体パターンC13が第2導体層に相当する。導体パターンC12、C13に着目した場合には、導体パターンC13が第1導体層に相当し、導体パターンC12が第2導体層に相当する。
【0044】
導体パターンC11~C16のそれぞれは、交差方向における当該導体パターンの端部Eから凹む凹部Oを有している。本明細書中において、導体パターンC11~C16の「端部E」とは、交差方向における導体パターンC11~C16の幅が最も大きい位置における、当該導体パターンC11~C16と基体部20とが接触する箇所をいう。以下の説明では、交差方向における導体パターンC11~C16の幅が最大となる箇所の寸法(すなわち、端部Eにおける交差方向の寸法)を幅W2、交差方向における導体パターンC11~C16の幅が最小となる箇所の寸法を幅W1として説明する。図4に示される実施形態では、導体パターンC11~C16のそれぞれは、交差方向の両端側にそれぞれ凹部Oを有している。一実施形態において、凹部Oは略矩形状であり、交差方向に沿って延在している。これにより、各導体パターンC11~C16では、凹部Oが形成された箇所における交差方向の寸法が幅W1となっている。各絶縁体層IS11~IS16の幅W3は、各導体パターンC11~C16の幅W1、W2より大きくなっている。
【0045】
凹部Oの少なくとも一部は、当該凹部Oを有する導体パターンの直下に位置する絶縁体層によって画定されている。例えば、導体パターンC13、C14に着目し、導体パターンC13が第2の導体パターンに相当する場合、導体パターンC13の凹部Oの少なくとも一部は、導体パターンC13の直下に位置する絶縁体層IS13によって画定されている。各導体パターンC11~C16の凹部Oには、基体部20が入り込んでいる。これにより、各導体パターンC11~C16の交差方向の両端部においては、基体部20が絶縁体層と導体パターンとの間に介在している。
【0046】
次に、コイル部品1の製造方法の一例を説明する。まず、上部カバー層18となる上部積層体、中間積層体、及び下部カバー層18となる下部積層体を形成する。上部積層体は、磁性体層18a~18dとなる複数の磁性体シートを積層することによって形成される。同様に、下部積層体は、磁性体層19a~19dとなる複数の磁性体シートを積層することによって形成される。磁性体シートは、例えば、プラスチック製のベースフィルムの表面にスラリーを塗布して乾燥させ、乾燥後のスラリーを所定のサイズに切断することで得られる。スラリーは、例えばフィラー粒子を含む樹脂材料に溶剤を加えて作製される。フィラー粒子が分散された樹脂としては、例えば、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂、エポキシ樹脂等の絶縁性に優れた樹脂材料が用いられ得る。
【0047】
中間積層体は、絶縁体層、導体パターン、及び磁性体層を含む複数のシートを積層することによって形成される。それぞれのシートの作製に際しては、まず、スクリーン印刷等によりベースフィルム上に、当該シートが含む導体パターンCの形状に対応した絶縁体層を形成する。このとき、当該絶縁体層を積層方向に貫通し、ビアが形成される貫通孔を形成する。次に、絶縁体層上に、対応する導体パターンを印刷する。これにより、導体パターンを構成する金属材料が貫通孔内に埋め込まれ、ビアが形成される。その後、導体パターンが形成されていない領域において、磁性体層を形成する。各導体パターンC11~C16を含むシートをそれぞれ形成した後、ベースフィルムを除去し、導体パターンC16を含むシートから導体パターンC11を含むシートまで順番に積層する。
【0048】
次に、上記のように作製された中間積層体を上下から上部積層体及び下部積層体で挟み込み、この上部積層体及び下部積層体を中間積層体に熱圧着して本体積層体を得る。次に、ダイシング機やレーザ加工機などの切断機を用いて当該本体積層体を所望のサイズに個片化することで、積層体10に相当するチップ積層体が得られる。次に、このチップ積層体を脱脂し、脱脂されたチップ積層体を加熱処理する。次に、加熱処理されたチップ積層体の両端部に導体ペーストを塗布することにより、外部電極21及び外部電極22を形成する。以上の工程により、コイル部品1が得られる。
【0049】
以上説明したように、コイル部品1の導体パターンC11~C16は、交差方向における当該導体パターンC11~C16の端部Eから凹む凹部Oを有し、凹部Oの少なくとも一部は、導体パターンC11~C16の直下に位置する絶縁体層によって画定されている。コイル部品1の製造過程には、上述のように、積層方向において複数の層を熱圧着する工程が含まれている。この工程により、導体パターンC11~C16の変形及び/又は位置ずれが生じる場合がある。これに対し、凹部Oを導体パターンC11~C16が有していることにより、当該凹部Oが設けられた箇所において、第1の導体パターン(例えば、導体パターンC14)と第2の導体パターン(この場合おいては、導体パターンC13)との間の積層方向の距離が大きくなっている。このため、仮に第1の導体パターン及び/又は第2の導体パターンが変形した場合であっても、積層方向において隣り合う導体パターン同士(すなわち、第1の導体パターンと第2の導体パターン)が接触する可能性が低減されている。したがって、導体パターンC11~C16同士の短絡を抑制することが可能である。
【0050】
また、コイル部品1では、各絶縁体層IS11~IS16の幅W3は、各導体パターンC11~C16の幅W1、W2より大きくなっている。これにより、仮に積層方向において複数の層を熱圧着する工程において導体パターンC11~C16の位置ずれが生じた場合であっても、積層方向において隣り合う導体パターンC11~C16同士が接触する可能性が低減されている。
【0051】
次に、図5を参照して、変形例に係るコイル部品1Aについて説明する。変形例に係るコイル部品1Aは、コイル部品1と同様に、コイル導体25が埋設された積層体10と、当該コイル導体25の一端と電気的に接続された外部電極21と、当該コイル導体25の他端と電気的に接続された外部電極22と、を備える。積層体10は、少なくとも、積層方向と交差する交差方向に沿って延びる第1の導体パターン(第1導体層)と、第1の導体パターンに対して積層される絶縁体層と、当該絶縁体層に対して積層され、交差方向に沿って延びる第2の導体パターン(第2導体層)と、を有している。図5の実施形態においては、積層体10は、導体パターンC11~C16と、絶縁体層IS11~IS16と、基体部20とを有している。
【0052】
変形例に係るコイル部品1Aがコイル部品1と相違する点は、図5に示されるように、導体パターンC11~C16のそれぞれが、凹部Oに加え、他の凹部O’を更に有する点である。凹部O’の少なくとも一部は、当該凹部O’を有する導体パターンの直上に位置する絶縁体層によって画定されている。例えば、導体パターンC13、C14に着目し、導体パターンC14が第1の導体パターンに相当する場合、導体パターンC14の凹部O’の少なくとも一部は、導体パターンC14の直上に位置する絶縁体層IS13によって画定されている。各導体パターンC11~C16の凹部O’には、基体部20が入り込んでいる。このように、変形例に係る導体パターンC11~C16のそれぞれが他の凹部O’を有することにより、当該凹部O’が設けられた箇所において、第1の導体パターン(例えば、導体パターンC14)と、第2の導体パターン(この場合おいては、導体パターンC13)との間の積層方向の距離が更に大きくなる。したがって、より確実に導体パターンC11~C16同士の短絡を抑制することが可能である。
【0053】
次に図6を参照して、変形例に係るコイル部品1Bについて説明する。変形例に係るコイル部品1Bは、コイル部品1と同様に、コイル導体25が埋設された積層体10と、当該コイル導体25の一端と電気的に接続された外部電極21と、当該コイル導体25の他端と電気的に接続された外部電極22と、を備える。積層体10は、導体パターンC11~C16と、絶縁体層IS11~IS16と、基体部20とを有している。
【0054】
変形例に係るコイル部品1Bがコイル部品1と相違する点は、交差方向から見て、導体パターンC11~C16の側面Sが、積層方向に対して傾斜している点である。導体パターンC11~C16の側面Sは、基体部20に面している。コイル部品1Bにおいては、導体パターンC11~C16の凹部Oの少なくとも一部は、当該導体パターンC11~C16の側面Sによって画定されている。このように導体パターンC11~C16の側面Sが傾斜していることにより、交差方向から見た凹部Oの形状は三角形状となっている。このような場合おいても、凹部Oを導体パターンC11~C16が有していることにより、当該凹部Oが設けられた箇所において、第1の導体パターン(例えば、導体パターンC14)と、第2の導体パターン(この場合おいては、導体パターンC13)との間の積層方向の距離が大きくなっている。したがって、積層方向において隣り合う導体パターン同士(すなわち、第1の導体パターンと第2の導体パターン)が接触する可能性が低減され、導体パターンC11~C16同士の短絡を抑制することが可能である。
【0055】
図6に示す例において、導体パターンC11~C16の側面Sは、当該導体パターンC11~C16の上側の幅が広くなるように傾斜しているが、導体パターンC11~C16の側面Sは、当該導体パターンC11~C16の下側の幅が広くなるように傾斜していてもよい。また、交差方向から見た凹部Oの形状は矩形状及び三角形状等に限定されず、例えば楔状であってもよい。
【0056】
次に、図7を参照して、変形例に係るコイル部品1Cについて説明する。変形例に係るコイル部品1Cは、コイル部品1と同様に、コイル導体25が埋設された積層体10と、当該コイル導体25の一端と電気的に接続された外部電極21と、当該コイル導体25の他端と電気的に接続された外部電極22と、を備える。積層体10は、少なくとも、積層方向と交差する交差方向に沿って延びる第1の導体パターン(第1導体層)と、第1の導体パターンに対して積層される絶縁体層と、当該絶縁体層に対して積層され、交差方向に沿って延びる第2の導体パターン(第2導体層)と、を有している。図5の実施形態においては、積層体10は、導体パターンC11~C16と、絶縁体層IS11~IS16と、基体部20とを有している。
【0057】
コイル部品1Cがコイル部品1と相違する点は、導体パターンC11~C16が凹部Oを有していない点、及び、基体部20が第1導体層26と第2磁性体層27とを有する点である。第1導体層26は、絶縁体層及び第2の導体パターンに接触する層である。例えば、導体パターンC13、C14に着目した場合、第1磁性体層26は、第2の導体パターンに相当する導体パターンC13、及び絶縁体層IS13に接触する。第2磁性体層27は、第1磁性体層26に対して積層されている。第1磁性体層26における磁性体粒子の充填率は、第2磁性体層27における磁性粒子の充填率より高くなっている。一例として、第1磁性体層26における磁性体粒子の充填率は70%~90%程度であり、第2磁性体層27における磁性体粒子の充填率は65%~85%程度である。磁性体粒子の充填率は、第1磁性体層26又は第2導体層27を構成する材料に含まれるバインダの量を調整することにより変更することができる。バインダの量を少なくすると磁性体粒子の充填率は高くなり、バインダの量を多くすると磁性体粒子の充填率は低くなる。
【0058】
上述のように、コイル部品1Cの基体部20は、絶縁体層及び第2の導体パターンに接触する第1磁性体層26と、第1磁性体層26に対して積層された第2磁性体層27と、を含む。第1磁性体層26における磁性体粒子の充填率は、第2磁性体層27における磁性体粒子の充填率より高くなっているので、第1磁性体層26は、第2磁性体層27及び導体パターンC11~C16よりも流動しにくくなっている。このため、第1磁性体層26によって、製造工程において積層方向に圧力が加わった際に第2の導体パターンが交差方向に流動して変形することを抑制できる。したがって、導体パターンC11~C16同士の短絡を抑制することが可能である。
【0059】
なお、第1磁性体層26は、第1の導体パターン(導体パターンC13、C14に着目した場合には、導体パターンC14)にも接触してもよい。この場合、第1磁性体層26によって、積層方向に圧力が加わった際に第1の導体パターンが交差方向に流動して変形することも抑制できる。したがって、より確実に導体パターンC11~C16同士の短絡を抑制することが可能である。
【0060】
以上、本発明の一実施形態について説明してきたが、本発明は上記の実施形態に限定されず、種々の変更を行うことができる。例えば、上述のコイル部品1、1A、1Bの基体部20も、コイル部品1Cと同様に、第1磁性体層26及び第2磁性体層27を含んでいてもよい。この場合、第1磁性体層26がコイル部品1、1A、1Bの凹部O及び/又は凹部O’に入り込んでいてもよい。
【0061】
また、上記の実施形態では、コイル部品の導体パターンC11~C16のそれぞれが凹部Oのみを有する形態、及び、導体パターンC11~C16のそれぞれが凹部O及び凹部O’を有する形態について説明したが、コイル部品の導体パターンC11~C16のそれぞれは、凹部O’のみを有していてもよい。
【0062】
本明細書で説明された各構成要素の寸法、材料、及び配置は、実施形態中で明示的に説明されたものに限定されず、この各構成要素は、本発明の範囲に含まれうる任意の寸法、材料、及び配置を有するように変形することができる。また、本明細書において明示的に説明していない構成要素を、説明した実施形態に付加することもできるし、各実施形態において説明した構成要素の一部を省略することもできる。
【符号の説明】
【0063】
1,1A,1B,1C…コイル部品、20…基体部、26…第1磁性体層、27…第2磁性体層、C11~C16…導体パターン(第1導体層、第2磁性体層)、IS11~IS16…絶縁体層、O,O’…凹部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7