(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-26
(45)【発行日】2023-11-06
(54)【発明の名称】ブレーキディスク
(51)【国際特許分類】
F16D 65/12 20060101AFI20231027BHJP
B61H 5/00 20060101ALI20231027BHJP
【FI】
F16D65/12 U
B61H5/00
F16D65/12 P
F16D65/12 B
F16D65/12 R
(21)【出願番号】P 2019063070
(22)【出願日】2019-03-28
【審査請求日】2022-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中野 勝啓
(72)【発明者】
【氏名】谷田 幸夫
(72)【発明者】
【氏名】原田 尚紀
【審査官】久慈 純平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/071169(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/099074(WO,A1)
【文献】特開2007-205428(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 49/00 ー 71/04
B61H 1/00 ー 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面側を摺動面とするドーナツ形円板状の板部と、
上記板部の裏面に互いに間隔を空けて放射状に延びるように突設され、長手方向中間に設けたボルト挿通孔に締結用ボルトを挿通して車輪に締結される複数のボルト締結用フィン部と、
上記板部の裏面に突設され、上記ボルト締結用フィン部を
、隣り合う上記ボルト締結用フィン部とスリットなく連続して
上記車輪の円板部に接するように接続する
、円周方向に延びるリブ部とを備え、
上記リブ部は、該リブ部の径方向に見た幅方向中心が、上記ボルト挿通孔の中心から半径方向外側に11mm以上21mm未満の範囲に配置されるように形成されている
ことを特徴とするブレーキディスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両などの車両に用いるブレーキディスクに関し、特に、制動中の摩擦熱によって、ブレーキディスクに生じる応力を低減する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両、自動車などの制動に用いられるディスクブレーキは、車軸や車輪とともに回転するブレーキディスクにブレーキパッドを押し付けて制動力を発生させ、これにより車軸又は車輪の回転を制動して車両の速度を制御することが知られている。
【0003】
新幹線などの高速鉄道車両は、高速化が推進されて時速300kmを超える速度での運転が行われている。
【0004】
特許文献1のブレーキディスクは、制動中の摩擦熱によって発生する反りなどの変形を低減する目的で、被締結部材(車輪など)に設けた凸部と嵌合する凹部を、その締結面に有している。
【0005】
また、特許文献2のブレーキディスクでは、締結部と非締結部の合計体積の比を規定し、一部にひずみが集中するのを防いで、反りやうねりを抑制するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2001-311441号公報
【文献】特開2005-321091号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、上記特許文献1及び2のブレーキディスクでは、発生する熱応力に対処する方法が明記されているが、応力の発生要因である熱を低減し、ブレーキディスクの熱変形を抑制するまでには到っていない。
【0008】
本発明は、上記の問題に着目し、制動時における熱分散性能を向上させ、かつ制動中の摩擦熱によるブレーキディスクに発生する応力を低減できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、この発明では、ボルト締結用フィン部間に円周方向に延びるリブ部を、リブ部の径方向に見た幅方向中心が半径方向の最適な位置にくるように設けた。
【0010】
具体的には、第1の発明では、
表面側を摺動面とするドーナツ形円板状の板部と、
上記板部の裏面に互いに間隔を空けて放射状に延びるように突設され、長手方向中間に設けたボルト挿通孔に締結用ボルトを挿通して車輪に締結される複数のボルト締結用フィン部と、
上記ボルト締結用フィン部を隣り合う上記ボルト締結用フィン部と接続する円周方向に延びるリブ部とを備え、
上記リブ部は、該リブ部の径方向に見た幅方向中心が、上記ボルト挿通孔の中心から半径方向内側に19mm以内かつ上記ボルト挿通孔の中心から半径方向外側に21mm以内の範囲に配置されるように形成されている。
【0011】
上記の構成によると、ボルト締結用フィン部間を円周方向に延びるリブ部を最適な範囲内に配置することで、ブレーキ時に発生する摩擦熱を分散させ、熱変形が抑制される。
【0012】
第2の発明では、第1の発明において、
上記板部の裏面に上記複数のボルト締結用フィン部の間に間隔を空けて放射状に延びるように突設された複数の放射状フィン部をさらに備え、
上記リブ部は、上記ボルト締結用フィン部と上記放射状フィン部と接続する円周方向に延びている。
【0013】
上記の構成によると、放熱状フィン部をさらに設けることで、放熱効果が向上し、熱変形がさらに抑制される。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明によれば、ボルト締結用フィン部間を円周方向に延びるリブ部を、ボルト挿通孔の半径方向内側及び外側の所定範囲内に形成したことにより、制動中の摩擦熱によるブレーキディスクの締結用ボルトに発生する応力を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】本発明の実施形態に係るブレーキディスクが締結された車輪を示す正面図である。
【
図4】本発明の実施形態に係るブレーキディスクの裏面を示す背面図である。
【
図5】リブ部の位置を変化させたときの実施例1と比較例1に係るブレーキディスクの温度解析結果を示す表である。
【
図6】リブ部の位置を変化させたときの実施例1と比較例1に係るブレーキディスクの応力解析結果を示す表である。
【
図7】リブ部の太さを変化させたときの実施例2と比較例2に係るブレーキディスクに加わる応力の解析結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0017】
図1~
図4は、本発明の実施形態に係る鉄道車両用のブレーキディスク1を示し、このブレーキディスク1は、鉄道車両の車輪20の円板部20aの表裏両面に、例えば締結用ボルトとしての締結用ボルト21と締結用ナット22とによってそれぞれ着脱可能に取り付けられるものである。ブレーキディスク1は、例えば、鋳鋼よりなる。
【0018】
ブレーキディスク1は、表面側(外側面側)を摺動面とする、中央に円形開口が設けられたドーナツ形板状の板部1aを備えている。この板部1aの裏面(内側面)には、互いに間隔を空けて複数のボルト締結用フィン部2が一体に突設されている。各ボルト締結用フィン部2の長手方向中間に設けたボルト挿通孔2aに締結用ボルト21を挿通して締結することで、ブレーキディスク1が車輪20に締結されるようになっている。本実施形態では、30°ずつ間隔を空けて合計12本のボルト締結用フィン部2が設けられている。なお、この本数は、12本に必ずしも限定されず、多くても少なくてもよい。
【0019】
本実施形態では、一対のボルト締結用フィン部2の間に例えば1本ずつ、合計12本の放射状フィン部3が放射状に延びるように円板部20aに一体に突設されている。放射状フィン部3の太さは、ボルト締結用フィン部2の太さと同等としているが、ボルト締結用フィン部よりも細くても太くてもよい。また、その本数は本実施形態に必ずしも限定されず、多くても少なくてもよく、場合によっては放射状フィン部3はなくてもよい。
【0020】
さらに、板部1aの裏面には、ボルト締結用フィン部2と放射状フィン部3と接続する円周方向に延びるリブ部4がそれぞれ突設されている。
【0021】
そして、一対のブレーキディスク1は、
図3に示すように、車輪20の円板部20aを、その厚さ方向両側から挟み込んだ状態で、ボルト挿通孔2aに挿通した締結用ボルト21に締結用ナット22を締結することで、車輪20に脱着可能に固定されるようになっている。
【0022】
本実施形態では、
図1にも拡大して示すように、リブ部4は、リブ部4の径方向に見た幅方向中心が、ボルト挿通孔2aの中心から半径方向内側に19mm以内かつボルト挿通孔2aの中心から半径方向外側に21mm以内の範囲に配置されるように形成されている。
【0023】
-実施例1-
上記実施形態のブレーキディスク1で、車輪径860mm、ブレーキディスク1の外径720mmを実施例1として想定する。実施例1では、
図1に示すように、リブ部4の径方向に見た幅方向中心位置とボルト挿通孔2aの中心との間の距離rを変化させた場合について解析した。
【0024】
比較例1として、実施例1と同サイズであるが、リブ部4を有さないブレーキディスクを想定する。
【0025】
これらの実施例1及び比較例1を有する車両が速度300km/hから非常ブレーキを1回制動させたときにブレーキディスク1の温度及びブレーキディスク1に発生する応力を有限要素法で解析した結果を
図5及び
図6に示す。距離rを、ボルト挿通孔2aの中心から半径方向内側へ29mmの位置から半径方向外側41mmの位置まで変化させた場合について解析した。
【0026】
図5及び
図6における「表面」とは、摺動面のことを指し、「裏面」とは、摺動面と反対側でボルト締結用フィン部2と放射状フィン部3が存在する面を示す。表中の()で示す値は、比較例1に対する実施例1の低下率(%)を示す。rの値は、半径方向外側(外周側)がプラスで、半径方向内側(内周側)がマイナスで示されている。
【0027】
図5に示す、温度解析結果によると、r=-29mmでは比較例1に対する温度の低下率平均が1%程度であり、十分な低下率が得られないことがわかった。
【0028】
一方、
図6に示す応力解析結果によると、r=31mm、41mmで比較例1に対して発生する応力の低下率が十分ではないことがわかった。
【0029】
このことから、温度及び応力のいずれも低減できるrが半径方向内側に0以上19mm以下で、半径方向外側に0以上21mm以下の範囲にリブ部4を設けるのが望ましいことがわかった。
【0030】
-実施例2-
実施例2としては、上記実施例1と同じサイズのブレーキディスク1でr=-9mmのものを想定し、リブ部4の太さ(径方向に見た幅)を5mm,7mm,9mmに変えた場合について解析した。比較例2は、比較例1と同様にリブ部4のないものを使用した。その結果を
図7に示す。
【0031】
図7を見てわかるように、太さを変化させてもそれほどブレーキディスク1に発生する応力について変化はないことがわかった。
【0032】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物や用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【符号の説明】
【0033】
1 ブレーキディスク
1a 板部
2 ボルト締結用フィン部
2a ボルト挿通孔
3 放射状フィン部
4 リブ部
20 車輪
20a 円板部
21 締結用ボルト
22 締結用ナット