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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-26
(45)【発行日】2023-11-06
(54)【発明の名称】工作機械および加工方法
(51)【国際特許分類】
   B23B 5/18 20060101AFI20231027BHJP
   B23B 1/00 20060101ALI20231027BHJP
   B23B 31/36 20060101ALI20231027BHJP
【FI】
B23B5/18
B23B1/00 Z
B23B31/36 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019120052
(22)【出願日】2019-06-27
(65)【公開番号】P2021003793
(43)【公開日】2021-01-14
【審査請求日】2022-06-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000137856
【氏名又は名称】シチズンマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002343
【氏名又は名称】弁理士法人 東和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 光
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-200302(JP,A)
【文献】実開平05-039801(JP,U)
【文献】特開2002-263909(JP,A)
【文献】特開2014-046374(JP,A)
【文献】実開昭61-035703(JP,U)
【文献】特開2011-194501(JP,A)
【文献】特開2003-245803(JP,A)
【文献】特開2008-183678(JP,A)
【文献】特開2002-028801(JP,A)
【文献】国際公開第2013/031818(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 5/18
B23B 1/00
B23B 31/36
B23B 3/30
B23B 13/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の回転軸の軸心に対して偏心した状態でワークを保持する偏心チャックと、該偏心チャックに対向して回転自在に配置された対向チャックと、前記偏心チャックに保持されたワークの偏心加工を行う工具を搭載した工具台と、前記偏心チャック、前記対向チャックおよび前記工具台の作動を制御する制御手段と、を備える工作機械であって、
前記制御手段が、
前記ワークのワーク先端の後側を前記工具で偏心加工して前記偏心チャックの中心に対して偏心したワーク中心を有する第1の偏心加工部分と同心の前記ワークのワーク先端前記対向チャックに保持させる先端保持手段と、
該先端保持手段により前記対向チャックが前記ワークのワーク先端を保持した状態で前記偏心チャックによる前記ワークの保持を解除させるワーク保持解除手段と、
該ワーク保持解除手段により前記偏心チャックによる前記ワークの保持を解除した状態で前記偏心チャックまたは前記対向チャック回転させて前記偏心チャックと前記ワークとの間の位相を変更するワーク位相変更手段と、
該ワーク位相変更手段により前記偏心チャックと前記ワークとの間の位相が変更された状態で前記偏心チャックに前記ワークの未加工部分を保持させるワーク保持手段と、
前記ワーク位相変更手段により前記ワークとの間の位相が変更された前記偏心チャックが前記ワークの未加工部分を保持した状態で前記偏心チャックを回転させて前記ワークの第1の偏心加工部分の後側を偏心加工して前記偏心チャックの中心に対して偏心すると共に前記ワークの第1の偏心加工部分のワーク中心からも偏心したワーク中心を有する第2の偏心加工部分を形成する工具台移動手段と、を有する工作機械。
【請求項2】
前記対向チャックの回転軸に対する前記対向チャックの偏心量が、前記偏心チャックの回転軸に対する前記偏心チャックの偏心量と同一に構成されている請求項1に記載の工作機械。
【請求項3】
前記制御手段は、前記対向チャックが前記偏心チャックに近づく、あるいは、該偏心チャックから離れるように前記対向チャックを移動させるチャック移動手段をさらに有する請求項1または請求項2に記載の工作機械。
【請求項4】
前記偏心チャックと前記対向チャックとの間に配置され、前記偏心チャックの中心と同心の偏心ガイドブッシュをさらに備えた請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の工作機械。
【請求項5】
所定の回転軸の軸心に対して偏心した状態でワークを保持する偏心チャックと、該偏心チャックに対向して回転自在に配置された対向チャックと、を有し、前記偏心チャックに保持されたワークの偏心加工を行う加工方法であって、
前記ワークのワーク先端の後側を偏心加工して前記偏心チャックの中心に対して偏心したワーク中心を有する第1の偏心加工部分を形成する第1偏心加工工程と、
前記第1の偏心加工部分のワーク中心と同心の前記ワークのワーク先端前記対向チャックに保持させる先端保持工程と、
該先端保持工程により前記対向チャックが前記ワークのワーク先端を保持した状態で前記偏心チャックによる前記ワークの保持を解除させるワーク保持解除工程と、
該ワーク保持解除工程により前記偏心チャックによる前記ワークの保持を解除した状態で前記偏心チャックまたは前記対向チャック回転させて前記偏心チャックと前記ワークとの間の位相を変更するワーク位相変更工程と、
該ワーク位相変更工程により前記偏心チャックと前記ワークとの間の位相が変更された状態で前記偏心チャックに前記ワークの未加工部分を保持させるワーク保持工程と、
前記ワーク位相変更工程により前記ワークとの間の位相が変更された前記偏心チャックが前記ワークの未加工部分を保持した状態で前記偏心チャックを回転させて前記ワークの第1の偏心加工部分の後側を偏心加工して前記偏心チャックの中心に対して偏心すると共に前記ワークの第1の偏心加工部分のワーク中心からも偏心したワーク中心を有する第2の偏心加工部分を形成する第2偏心加工工程と、を含む加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械および加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、主軸の軸心に対して偏心した状態でワークを支持する偏心チャックを設け、この偏心チャックに保持されたワークの偏心加工を行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4054199号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のようにワークを偏心チャックに保持するだけでは、偏心加工を連続して行うことは容易ではない。
本発明は、上述のような実情に鑑みてなされたもので、偏心加工を連続して容易に行う工作機械および加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、第1に、所定の回転軸の軸心に対して偏心した状態でワークを保持する偏心チャックと、該偏心チャックに対向して回転自在に配置された対向チャックと、前記偏心チャックに保持されたワークの偏心加工を行う工具を搭載した工具台と、前記偏心チャック、前記対向チャックおよび前記工具台の作動を制御する制御手段と、を備える工作機械であって、前記制御手段が、前記ワークのワーク先端の後側を前記工具で偏心加工して前記偏心チャックの中心に対して偏心したワーク中心を有する第1の偏心加工部分と同心の前記ワークのワーク先端前記対向チャックに保持させる先端保持手段と、該先端保持手段により前記対向チャックが前記ワークのワーク先端を保持した状態で前記偏心チャックによる前記ワークの保持を解除させるワーク保持解除手段と、該ワーク保持解除手段により前記偏心チャックによる前記ワークの保持を解除した状態で前記偏心チャックまたは前記対向チャック回転させて前記偏心チャックと前記ワークとの間の位相を変更するワーク位相変更手段と、該ワーク位相変更手段により前記偏心チャックと前記ワークとの間の位相が変更された状態で前記偏心チャックに前記ワークの未加工部分を保持させるワーク保持手段と、前記ワーク位相変更手段により前記ワークとの間の位相が変更された前記偏心チャックが前記ワークの未加工部分を保持した状態で前記偏心チャックを回転させて前記ワークの第1の偏心加工部分の後側を偏心加工して前記偏心チャックの中心に対して偏心すると共に前記ワークの第1の偏心加工部分のワーク中心からも偏心したワーク中心を有する第2の偏心加工部分を形成する工具台移動手段と、を有することを特徴とする。
【0006】
第2に、前記対向チャックの回転軸に対する前記対向チャックの偏心量が、前記偏心チャックの回転軸に対する前記偏心チャックの偏心量と同一に構成されていることを特徴とする。
第3に、前記制御手段は、前記対向チャックが前記偏心チャックに近づく、あるいは、該偏心チャックから離れるように前記対向チャックを移動させるチャック移動手段をさらに有することを特徴とする。
第4に、前記偏心チャックと前記対向チャックとの間に配置され、前記偏心チャックの中心と同心の偏心ガイドブッシュをさらに備えたことを特徴とする。
【0007】
第5に、所定の回転軸の軸心に対して偏心した状態でワークを保持する偏心チャックと、該偏心チャックに対向して回転自在に配置された対向チャックと、を有し、前記偏心チャックに保持されたワークの偏心加工を行う加工方法であって、前記ワークのワーク先端の後側を偏心加工して前記偏心チャックの中心に対して偏心したワーク中心を有する第1の偏心加工部分を形成する第1偏心加工工程と、前記第1の偏心加工部分のワーク中心と同心の前記ワークのワーク先端前記対向チャックに保持させる先端保持工程と、該先端保持工程により前記対向チャックが前記ワークのワーク先端を保持した状態で前記偏心チャックによる前記ワークの保持を解除させるワーク保持解除工程と、該ワーク保持解除工程により前記偏心チャックによる前記ワークの保持を解除した状態で前記偏心チャックまたは前記対向チャック回転させて前記偏心チャックと前記ワークとの間の位相を変更するワーク位相変更工程と、該ワーク位相変更工程により前記偏心チャックと前記ワークとの間の位相が変更された状態で前記偏心チャックに前記ワークの未加工部分を保持させるワーク保持工程と、前記ワーク位相変更工程により前記ワークとの間の位相が変更された前記偏心チャックが前記ワークの未加工部分を保持した状態で前記偏心チャックを回転させて前記ワークの第1の偏心加工部分の後側を偏心加工して前記偏心チャックの中心に対して偏心すると共に前記ワークの第1の偏心加工部分のワーク中心からも偏心したワーク中心を有する第2の偏心加工部分を形成する第2偏心加工工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明は以下の効果を得ることができる。
対向チャックによるワークの偏心加工部分の保持・保持解除と偏心チャックによるワークの保持・保持解除の切り替えにより、連続した偏心加工を行うことができる。偏心チャックとワークとの間の位相を変更すれば、任意の偏心量による偏心加工が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施例による工作機械の概略を示す図である。
図2】偏心加工を説明する図である。
図3A】実施例1による偏心加工プロセスを説明する図である。
図3B】実施例1による偏心加工プロセスを説明する図である。
図3C】実施例1による偏心加工プロセスを説明する図である。
図3D】実施例1による偏心加工プロセスを説明する図である。
図3E】実施例1による偏心加工プロセスを説明する図である。
図3F】実施例1による偏心加工プロセスを説明する図である。
図3G】実施例1による偏心加工プロセスを説明する図である。
図3H】実施例1による偏心加工プロセスを説明する図である。
図3I】実施例1による偏心加工プロセスを説明する図である。
図4】実施例1の完成品を説明する図である。
図5A】実施例2による偏心加工プロセスを説明する図である。
図5B】実施例2による偏心加工プロセスを説明する図である。
図5C】実施例2による偏心加工プロセスを説明する図である。
図5D】実施例2による偏心加工プロセスを説明する図である。
図5E】実施例2による偏心加工プロセスを説明する図である。
図5F】実施例2による偏心加工プロセスを説明する図である。
図5G】実施例2による偏心加工プロセスを説明する図である。
図5H】実施例2による偏心加工プロセスを説明する図である。
図5I】実施例2による偏心加工プロセスを説明する図である。
図6】実施例2の完成品を説明する図である。
図7】実施例3による偏心加工プロセスを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(実施例1)
以下、図面を参照しながら本発明の工作機械および加工方法について説明する。
図1に示すように、工作機械1は正面主軸2および工具台6を備えている。正面主軸2は、偏心チャック3を介して加工対象となるワークWを把持(保持)することができる。偏心チャック3は正面主軸2とともに一体的に回転自在である。偏心チャック3は、正面主軸(所定の回転軸)2の軸心に対して偏心した軸線を有するワークWの保持部7(図2)を備え、該保持部7によって、正面主軸2の軸心に対して偏心した状態でワークWを支持する。
【0011】
ワークWは丸棒状の長尺の棒材であって、正面主軸2の後方にはバーフィーダが設置され、ワークWは、バーフィーダによって正面主軸2の後方から正面主軸2の前方に向けて供給される。
正面主軸2は、Z軸方向を軸線として回転可能に構成され、主軸モータ4の動力によって回転駆動される。
【0012】
工具台6は正面主軸2に対向して配置される。工具台6は、Z軸方向およびこのZ軸方向に対して直交するX軸方向に移動自在である。工具台6をZ軸方向およびX軸方向に移動させることによって、所定の工具T1で偏心チャック3に保持されたワークWの加工を行うことができる。工具台6のZ軸方向への移動は、正面主軸2をZ軸方向に移動自在に設け、正面主軸2をZ軸方向に移動させることによって、工具台6をワークWに対して相対的にZ軸方向に移動させてもよい。
【0013】
工作機械1は、正面主軸2の対向位置に、背面主軸12を備えている。背面主軸12は、対向チャック13を介してワークの偏心加工部分を把持(保持)できる。対向チャック13は背面主軸12とともに一体的に回転自在である。対向チャック13は、背面主軸12の軸心と同心の軸線を有するワークWの保持部17(図3A)を備え、該保持部17によって、ワークWを一体的に支持する。
背面主軸12は、Z軸方向を軸線として回転可能に構成され、主軸モータ14の動力によって回転駆動される。
背面主軸12はX軸レール16に装着され、X軸レール16はベースを介してZ軸レール15に装着されており、背面主軸12はX軸方向およびZ軸方向に移動自在である。
【0014】
正面主軸2や背面主軸12の回転、工具台6や背面主軸12の移動は、制御装置20で制御される。制御装置20は、入力部21、制御部(制御手段)22を有し、これらはバスを介して接続される。
制御部22は、CPUやメモリ等からなり、例えばROMに格納されている各種のプログラムやデータをRAMにロードし、このプログラムを実行する。これにより、プログラムに基づいて工作機械1の動作を制御できる。
正面主軸2や背面主軸12の回転、偏心チャック3や対向チャック13のワークWの保持や解放のための開閉、工具台6や背面主軸12の移動等はプログラムで、あるいは入力部21への入力によって設定可能である。
【0015】
図2では、偏心チャック3を断面図で示している。偏心チャック3は、保持部7の中心(偏心チャック3の中心C2:破線で示す)が、正面主軸2の軸心C1(1点鎖線で示す)に対して偏心量Eだけ偏心して正面主軸2に装着されている。偏心量EはワークWの半径よりも小さい。偏心チャック3の中心C2とワーク中心とを一致させてワークWを保持する。
【0016】
ワークWを偏心チャック3で保持した状態において、制御部22は、正面主軸2を所定の回転速度で回転させると、ワークWは、正面主軸2の軸心C1を中心に回転する。図2のワークWに示した2点鎖線は、加工前におけるワーク先端の挙動を示す。
【0017】
次に、ワークWに連続した偏心加工を行う例を説明する。この場合、正面主軸2と背面主軸12の双方を使用する。
図3Aでは、制御部22がワーク保持手段30として機能することによって、偏心チャック3にワークWを保持させるとともに、制御部22がチャック回転手段32として機能することによって、正面主軸2を例えば図示の矢印方向に回転させる(ワーク保持工程、チャック回転工程)。これにより、ワークWは、偏心チャック3から突出した状態で、正面主軸2の軸心C1を中心に回転する。
【0018】
続いて、図3Bでは、制御部22が工具台移動手段37として機能することによって、工具台6をワークWに向けて移動させ、工具T1をワークWに当接させる(工具台移動工程)。工具T1がワークWに接触すると、ワークWは正面主軸2の軸心C1を中心に加工されるため、ワークWの先端部分に、偏心チャック3の中心(ワーク中心に一致)C2に対して偏心量Eだけ偏心した形状の加工部(正面主軸2の軸心C1を中心とする大径の断面円形状:ワーク先端Fと称する)が加工形成される。
次いで、図3Cでは、工具台移動手段37が、工具T1をワークWにさらに当接させる(工具台移動工程。第1偏心加工工程ともいう)。これにより、ワーク先端Fの後側に、偏心チャック3の中心C2に対して偏心量Eだけ偏心し、ワーク先端Fと同心で、且つワーク先端Fより小径の断面円形状の小径加工部(第1の偏心加工部分)Aが加工形成される。
【0019】
その後、チャック回転手段32が、正面主軸2の回転を停止させるとともに、制御部22がチャック移動手段33として機能することによって、背面主軸12を正面主軸2の軸心と同心に移動して配置する。図3Dに矢印で示すように、対向チャック13が偏心チャック3に近づくように背面主軸12を移動させ、制御部22が先端保持手段34として機能することによって、対向チャック13にワーク先端Fを保持させる(チャック回転工程、チャック移動工程、先端保持工程)。
ワーク先端Fおよび小径加工部Aは、正面主軸2の軸心C1を中心に加工されるため、背面主軸12を正面主軸2の軸心C1と同心に配置することによって、背面主軸12の軸心と同心の軸線を有する対向チャック13の保持部17により、ワーク先端Fを背面主軸12と同心で保持することができる。
次に、図3Eでは、制御部22がワーク保持解除手段31として機能することによって、偏心チャック3によるワークWの保持を解除させるとともに、小径加工部Aの後側を連続して偏心加工するために、チャック移動手段33が、対向チャック13が偏心チャック3から離れるように背面主軸12を正面主軸2から離反する方向に移動させる(ワーク保持解除工程、チャック移動工程)。これにより、ワークWが正面主軸2の前方に引き出される。
【0020】
続いて、図3Fでは、制御部22がワーク位相変更手段36として機能することによって、正面主軸2を偏心チャック3とともに矢印で示すように回転させ、偏心チャック3とワークWとの間の位相を所定角度ずらして偏心チャック3に対するワークWの位相を変更する(ワーク位相変更工程)。
詳しくは、対向チャック13がワーク先端Fを保持し、かつ、偏心チャック3によるワークWの保持を解除したままの状態において、正面主軸2を例えば180°回転させる。この場合、ワークWは回転せず、偏心チャック3とワークWとの間の位相が180°ずれる(偏心チャック3の中心に対するワークWの位相が180°変更される)。これにより、偏心チャック3の中心C2が、正面主軸2の軸心C1、すなわちワーク先端Fおよび小径加工部Aに対して、正面主軸2を180°回転させる前の偏心チャック3の中心(図3Eに示したC2)とは逆の位置に配置される。なお本実施例においてワークWは、前記偏心量に対して撓みを許容し得る可撓性材料からなる。
【0021】
次いで、制御部22が先端保持解除手段35として機能することによって、対向チャック13によるワーク先端Fの保持を解除させるとともに、チャック移動手段33が、図3Gに矢印で示すように、対向チャック13が偏心チャック3から離れるように背面主軸12を移動させる(先端保持解除工程、チャック移動工程)。
対向チャック13によるワーク先端Fの保持の解除によって、図3Gに示すように、ワークWは、撓みが解消され、直線形状に復帰する。
その後、図3Hでは、ワーク保持手段30が、偏心チャック3にワークWを保持させるとともに、チャック回転手段32が、正面主軸2を矢印方向に回転させる(ワーク保持工程、チャック回転工程)。
【0022】
次に、図3Iでは、工具台移動手段37が、工具T1をワークWに当接させる(工具台移動工程。第2偏心加工工程ともいう)。これにより、小径加工部Aの後側に、偏心チャック3の中心C2に対して偏心量2Eだけ偏心した加工部が加工形成される。例えば小径加工部Aと同径で加工することによって、小径加工部Aの後側に、加工部として小径加工部Aと同径の小径加工部B(第2の偏心加工部分)が加工形成される(図4)。このように、小径加工部Bのワーク中心C2’(図に破線で示す)は、小径加工部Aのワーク中心(図に示すC2に一致)に対して偏心量2Eだけ偏心している。
【0023】
その後、小径加工部Bの後側を突っ切り加工すると、図4に示すようなワーク先端F、小径加工部A、小径加工部B、ワーク後端Rからなる完成ワークCPがワークWから切り落とされる。
なお、小径加工部Bの後方に、ワーク先端Fと同径で且つ小径加工部Bと同心のワーク後端を加工部として加工してから切り落とすこともできる。
完成ワークCPをワークWから切り落とさずに、背面主軸12で保持してもよい。
【0024】
このように、対向チャック13によるワーク先端Fの保持・保持解除と偏心チャック3によるワークWの保持・保持解除の切り替えにより、小径加工部Aと小径加工部Bのような、連続した偏心加工を行うことができる。
また、偏心チャック3とワークWとの間の位相を180°ずらすことにより、小径加工部Aと小径加工部Bとの間の偏心量を、偏心チャック3自体の偏心量Eの2倍まで設定することができる。
【0025】
小径加工部Aと小径加工部Bとの間の偏心量を、偏心チャック3の偏心量Eの2倍に設定した例を挙げて説明した。一方、正面主軸2を60°未満の範囲で回転すれば、偏心チャック3自体の偏心量E以下の偏心量に設定可能である。
【0026】
(実施例2)
実施例1の対向チャック13は、保持部17の軸線が背面主軸12の軸心と同心のチャックとする他、背面主軸12の軸心に対して偏心した対向偏心チャック13aとしてもよい。
図5Aでは、対向偏心チャック13aを断面図で示している。対向偏心チャック13aは背面主軸12とともに一体的に回転自在である。
【0027】
対向偏心チャック13aは、保持部17の中心(対向偏心チャック13aの中心)が、背面主軸12の軸心C1’(1点鎖線で示す)に対して所定の偏心量だけ偏心して背面主軸12に装着される。背面主軸12を、背面主軸12の軸心C1’と正面主軸2の軸心C1とが一致するように配置することによって、対向偏心チャック13aの中心と偏心チャック3の中心とが同心になる。このため、対向偏心チャック13aの保持部17の中心(偏心チャック3の中心C2に一致)は、背面主軸12の軸心C1’に対して、正面主軸2に対する偏心チャック3の偏心量と同一の偏心量Eだけ偏心している。
ワークWに連続した偏心加工を行う場合、図5Aでは、ワーク保持手段30が、偏心チャック3にワークWを保持させるとともに、チャック回転手段32が、正面主軸2を矢印方向に回転させる(ワーク保持工程、チャック回転工程)。
【0028】
続いて、図5Bでは、工具台移動手段37が、工具T1をワークWに当接させる(工具台移動工程)。次いで、図5Cでは、工具台移動手段37が、工具T1をワークWにさらに当接させる(工具台移動工程)。これにより、ワーク先端Fの後側に、偏心チャック3の中心C2に対して偏心量Eだけ偏心した、ワーク先端Fより小径の断面円形状の小径加工部Aが加工形成される。
【0029】
その後、チャック回転手段32が、正面主軸2の回転を停止させるとともに、チャック移動手段33が、図5Dに矢印で示すように、背面主軸12の軸心C1’が偏心チャック3の中心C2に一致する背面主軸12の回転位相において、対向偏心チャック13aが偏心チャック3に近づいてワーク先端Fを保持できるように背面主軸12を移動させ、先端保持手段34が、対向偏心チャック13aにワーク先端Fを保持させる(チャック回転工程、チャック移動工程、先端保持工程)。
【0030】
次に、図5Eでは、ワーク保持解除手段31が、偏心チャック3によるワークWの保持を解除させるとともに、小径加工部Aの後側を連続して偏心加工するために、チャック移動手段33が、対向偏心チャック13aが偏心チャック3から離れるように背面主軸12を移動させる(ワーク保持解除工程、チャック移動工程)。
【0031】
続いて、図5Fでは、ワーク位相変更手段36が、背面主軸12を対向偏心チャック13aとともに矢印で示すように回転させ、偏心チャック3とワークWとの間の位相を所定角度ずらして偏心チャック3に対するワークWの位相を変更する(ワーク位相変更工程)。
詳しくは、対向偏心チャック13aがワーク先端Fを保持し、かつ、偏心チャック3によるワークWの保持を解除したままの状態において、例えば、背面主軸12を180°回転させる。この場合、ワークWは、偏心チャック3の中心(背面主軸12の軸心C1’に一致)を軸線として回転し、偏心チャック3とワークWとの間の位相が180°ずれる(偏心チャック3の中心に対するワークWの位相が180°変更される)。これにより、対向偏心チャック13aが、図5Eに示した背面主軸12を180°回転させる前の対向偏心チャック13aとは逆の位置になる。
このように、ワーク位相変更手段36が対向偏心チャック13aを回転させれば、ワークWが偏心チャック3の中心を中心として回転してワークWの撓みを防止し、ワークWへの負荷を小さくできる。
【0032】
次いで、先端保持解除手段35が、対向偏心チャック13aによるワーク先端Fの保持を解除させるとともに、チャック移動手段33が、図5Gに矢印で示すように、対向偏心チャック13aが偏心チャック3から離れるように背面主軸12を移動させる(先端保持解除工程、チャック移動工程)。
その後、図5Hでは、ワーク保持手段30が、偏心チャック3にワークWを保持させるとともに、チャック回転手段32が、正面主軸2を矢印方向に回転させる(ワーク保持工程、チャック回転工程)。
【0033】
次に、図5Iでは、工具台移動手段37が、工具T1をワークWに当接させる(工具台移動工程)。これにより、小径加工部Aの後側に、偏心チャック3の中心(図5Iに示す背面主軸12の軸心C1’に一致)に対して偏心量2Eだけ偏心した加工部が加工形成される。例えば小径加工部Aと同径で加工することによって、小径加工部Aの後側に、加工部として小径加工部Aと同径の小径加工部Bが加工形成される。このように、小径加工部Bのワーク中心C2’(図5Iに破線で示す)は、小径加工部Aのワーク中心(図5Iに示すC1’に一致)に対して偏心量2Eだけ偏心している。
【0034】
この結果、図6に示すように、小径加工部Aと小径加工部Bによる連続した偏心加工を行うことができる。さらに、小径加工部Aと小径加工部Bとの間の偏心量を、偏心チャック3自体の偏心量Eの2倍に設定することができる。
【0035】
(実施例3)
図7に示すように、偏心チャック3と対向チャック13との間に、偏心ガイドブッシュ5を配置してもよい。対向チャック13に替えて対向偏心チャック13aを用いた場合にも、偏心ガイドブッシュ5を配置できる。
偏心ガイドブッシュ5は、偏心チャック3と同様に、正面主軸2の軸心C1に対して偏心量Eだけ偏心した状態でワークWを支持する。このため、偏心ガイドブッシュ5は、偏心チャック3の中心と同心に構成されている。
制御部22は、偏心ガイドブッシュ5を正面主軸2および偏心チャック3と同期させ、偏心ガイドブッシュ5の回転速度と正面主軸2および偏心チャック3の回転速度とを一致させて、回転中に位相差が生じないように制御することができる。
【0036】
(実施例4)
正面主軸2の後方に、正面主軸2と一体的にワークWの振れを抑制する振れ止め装置を設けることができる。振れ止め装置として、開閉自在な複数のローラから構成され、各ローラが互いに近接する閉状態で、各ローラ間に位置するワークWに各ローラが当接することによってワークWの振れを防止する構造のものが考えられる。これにより、偏心チャック3によって正面主軸2に対して偏心した状態でワークWが保持されている場合でも、ワークWの振れを効果的に抑制することができる。ただし、上記の各実施例では、正面主軸2が移動しない例を挙げて説明したが、正面主軸2はZ軸方向に移動自在であってもよく、正面主軸2がZ軸方向に移動自在の場合は、正面主軸2がZ軸方向に移動すると、振れ止め装置も正面主軸2と連動してZ軸方向に移動する。このため、振れ止め装置と、バーフィーダの先端に設けられてワークWの後端を把持するフィンガーチャックとが干渉する虞がある。
【0037】
特に正面主軸2によるワークWの掴み替えの際、偏心チャック3によるワークWの保持を解除した状態において、正面主軸2をバーフィーダに向けて後方に移動させる場合に、振れ止め装置がフィンガーチャックに近づくと、各ローラを開くことにより、振れ止め装置とフィンガーチャックとの接触を回避するように振れ止め装置(ローラ)の開閉を制御することができる。
【0038】
なお正面主軸2の内径をフィンガーチャックの外径よりも大きくすることにより、フィンガーチャックが振れ止め装置を通過して正面主軸2の内部に収容されるように、正面主軸2の掴み替え時に移動することができる。その後、振れ止め装置により、バーフィーダのフィンガーチャックが装着された押し棒を保持することによって、ワークWの振れを防止して偏心加工を行うことができる。
【符号の説明】
【0039】
1 ・・・ 工作機械
2 ・・・ 正面主軸(所定の回転軸)
3 ・・・ 偏心チャック
4 ・・・ 主軸モータ
5 ・・・ 偏心ガイドブッシュ
7 ・・・ 保持部
12 ・・・ 背面主軸
13 ・・・ 対向チャック
13a ・・・ 対向偏心チャック
14 ・・・ 主軸モータ
15 ・・・ Z軸レール
16 ・・・ X軸レール
17 ・・・ 保持部
20 ・・・ 制御装置
21 ・・・ 入力部
22 ・・・ 制御部(制御手段)
30 ・・・ ワーク保持手段
31 ・・・ ワーク保持解除手段
32 ・・・ チャック回転手段
33 ・・・ チャック移動手段
34 ・・・ 先端保持手段
35 ・・・ 先端保持解除手段
36 ・・・ ワーク位相変更手段
37 ・・・ 工具台移動手段
C1 ・・・ 正面主軸の軸心
C1’ ・・・ 背面主軸の軸心
C2 ・・・ 偏心チャックの中心
C2’ ・・・ 第2加工領域のワーク中心
E ・・・ 偏心量
W ・・・ ワーク
CP ・・・ 完成品
F ・・・ ワーク先端
A ・・・ 小径加工部
B ・・・ 小径加工部
R ・・・ ワーク後端
T1 ・・・ 工具
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図3G
図3H
図3I
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図5G
図5H
図5I
図6
図7