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特許7373933高い耐化学性および耐亀裂性を有する化学強化可能なガラス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-26
(45)【発行日】2023-11-06
(54)【発明の名称】高い耐化学性および耐亀裂性を有する化学強化可能なガラス
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/087 20060101AFI20231027BHJP
   C03C 3/091 20060101ALI20231027BHJP
   C03C 3/093 20060101ALI20231027BHJP
   C03C 1/00 20060101ALI20231027BHJP
【FI】
C03C3/087
C03C3/091
C03C3/093
C03C1/00
【請求項の数】 20
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019126148
(22)【出願日】2019-07-05
(65)【公開番号】P2020007218
(43)【公開日】2020-01-16
【審査請求日】2022-03-17
(31)【優先権主張番号】10 2018 116 483.1
(32)【優先日】2018-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】504299782
【氏名又は名称】ショット アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】SCHOTT AG
【住所又は居所原語表記】Hattenbergstr. 10, 55122 Mainz, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ウルリヒ フォザリンガム
(72)【発明者】
【氏名】ホルガー ヴェーゲナー
(72)【発明者】
【氏名】オリヴァー ホーホライン
(72)【発明者】
【氏名】ズィモーネ モニカ リッター
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルフガング マンシュタット
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ ベアントホイザー
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ グロース
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-523307(JP,A)
【文献】特開2012-136431(JP,A)
【文献】特表2017-533877(JP,A)
【文献】特表2016-537290(JP,A)
【文献】特開2017-218353(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00 - 14/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスを構成する以下の相:
【表1】
を特徴とする組成を有し、ここで、一方では熱膨張係数の1000倍(ppm/K)と、他方ではpH値とISO 695に従ったアルカリ性媒体中の除去速度(mg/(dm3h))の積との商が、少なくとも8であり、かつ前記ISO 695に従ったアルカリ性媒体中の除去速度が最大115mg/(dm3h)である、ガラス。
【請求項2】
最大3モル%または最大2モル%の酸化ホウ素割合を有する、請求項1記載のガラス。
【請求項3】
最大15モル%、好ましくは最大12モル%かつ/または少なくとも3モル%もしくは少なくとも6モル%のコージエライト割合を有する、請求項1または2記載のガラス。
【請求項4】
少なくとも30モル%、特に少なくとも40モル%かつ/または最大でも55モル%もしくは最大でも51モル%のアルバイト割合を有する、請求項1から3までのいずれか1項記載のガラス。
【請求項5】
少なくとも2モル%かつ/または最大15モル%、好ましくは最大10モル%のオーソクレース割合を有する、請求項1から4までのいずれか1項記載のガラス。
【請求項6】
最大5モル%または最大3モル%のパラケルディシット割合を有する、請求項1から5までのいずれか1項記載のガラス。
【請求項7】
モルパーセントにおける酸化ホウ素に対するコージエライトの比が、少なくとも3、特に少なくとも4であり、かつ/または25もしくは20の値を超えない、請求項1から6までのいずれか1項記載のガラス。
【請求項8】
コージエライトの割合がオーソクレースの割合を超える、請求項1から7までのいずれか1項記載のガラス。
【請求項9】
リードマーグネライト、アルバイトおよびコージエライトの割合の合計が少なくとも70モル%である、請求項1から8までのいずれか1項記載のガラス。
【請求項10】
ケイ酸亜鉛二ナトリウムの割合が、8モル%超、特に10モル%超である、請求項1から9までのいずれか1項記載のガラス。
【請求項11】
前記ガラスが、ナルサルスカイト、パラケルディシットおよび/またはダンビュライトを含まない、請求項1から10までのいずれか1項記載のガラス。
【請求項12】
前記ガラス中の更なる成分の割合が、最大でも3モル%である、請求項1から11までのいずれか1項記載のガラス。
【請求項13】
215未満の酸指数k、最大115mg/(dm3h)のISO 695に従った除去速度および/または7~10ppm/KのCTEを有する、請求項1から12までのいずれか1項記載のガラス。
【請求項14】
一方では熱膨張係数の1000倍(ppm/K)と、他方ではpH値とISO 695に従ったアルカリ性媒体中の除去速度(mg/(dm 3h))の積との商が、少なくとも8.25である、請求項1から13までのいずれか1項記載のガラス。
【請求項15】
厚さ2mm未満のガラス物品の形態の、請求項1から14までのいずれか1項記載のガラスからのガラス物品。
【請求項16】
なくとも400K/分×600μm/ガラス物品厚さの冷却速度Kを伴う温度T1から温度T2への連続冷却に対応する冷却状態を有し、ここで、前記温度T1は、前記ガラスのガラス転移温度Tよりも少なくとも高く、前記温度T2は、T1よりも少なくとも150℃低い、請求項15記載のガラス物品。
【請求項17】
少なくとも20mmのペン落下高さを有する、請求項15または16記載のガラス物品。
【請求項18】
容器、特に医薬品容器、または板ガラス、特に、厚さ2mm未満、特に1mm未満の薄板ガラスの製造のための、請求項1から14までのいずれか1項記載のガラスの使用。
【請求項19】
次の工程:
- ガラス原料を溶融する工程、
- 得られたガラスを冷却する工程
を有する、請求項1から14までのいずれか1項記載のガラスの製造方法。
【請求項20】
次の工程:
- 特にダウンドロー法、オーバーフローフュージョン法、リドロー法、フローティング法または管引き上げ法によって、形成されたガラス物品を製造する工程
を有する、請求項19記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば薄板ガラスもしくは超薄板ガラスなどのガラスのほかに、管ガラス、カートリッジおよびシリンジ、ならびに他の医薬品容器の製造用のガラスにも関する。これらのガラスは、非常に良好な耐アルカリ性、耐加水分解性および/または耐酸性、ならびに有利な熱膨張係数を備えた高い化学強化性を有している。さらに、本発明の文脈においては、ガラスの耐亀裂性に特に注意が向けられる。そのようなガラスの製造方法およびそれらの使用も本発明による。
【0002】
従来技術
化学強化可能なガラスは、多くの用途、特に医薬品包装またはタッチセンシティブディスプレイ(「タッチパネル」)の分野における用途に必要とされている。一般的に、ある一定の熱膨張係数が依然として求められており、化学強化性ゆえに一般に多数のナトリウムイオンが存在するにもかかわらず、耐アルカリ性、耐加水分解性および耐酸性に関して妥協してはならない。耐化学性を評価するために、今日、数多くの規則および規準が存在し、特に耐アルカリ性についてはISO 695、耐加水分解性についてはISO 719/720、ならびに耐酸性についてはISO 1776およびDIN 12116が適用される。
【0003】
耐引掻性および耐衝撃性も、多くのガラス、特にディスプレイ用途のガラス、つまり、例えばスマートフォンまたは他の電子機器のカバーガラスにとって重要である。多くのガラスは良好な化学強化性を達成するが、そのようなガラスの引掻抵抗はそれほど顕著ではない。
【0004】
独国特許出願公開第102015116097号明細書(DE 10 2015 116097 A1)、米国特許第9783453号明細書(US 9,783,453 B2)、米国特許出願公開第2015/030827号明細書(US 2015/030827 A1)、米国特許第9701580号明細書(US 9,701,580 B2)、米国特許第9156725号明細書(US 9,156,725 B2)、米国特許第9517967号明細書(US 9,517,967 B2)、米国特許出願公開第2014/050911号明細書(US 2014/050911 A1)、米国特許第9822032号明細書(US 9,822,032 B2)、米国特許出願公開第2015/147575号明細書(US 2015/147575 A1)、米国特許出願公開第2015/140299号明細書(US 2015/140299 A1)、国際公開第2015/031427号(WO 2015/031427 A2)、米国特許出願公開第2017/320769号明細書(US 2017/320769 A1)、国際公開第2017/151771号明細書(WO 2017/151771 A1)、米国特許出願公開第2016/251255号明細書(US 2016/251255 A1)、独国特許出願公開第102013114225号明細書(DE 10 2013 114225 A1)は、「タッチパネル」の分野での使用を目的としたガラスを教示している。ただし、そこに記載されているガラスは、化学強化性に関して、主に構成相としてガラス様アルバイト(曹長石)(12.5モル%のNaO、12.5モル%のAl、75モル%のSiO)の大部分についてのみ強調し、化学強化性に好ましい影響を与えることができる他の相は考慮していない。
【0005】
主成分としてのガラス様アルバイトの選択は、このガラス系におけるナトリウムイオンの高い移動度に基づくものであり、これがナトリウムとカリウムとの交換による化学強化時に大きな交換深さ(典型的には30~50μm)を可能にする(一方で鉱物のアルバイトもナトリウムイオンの高い移動度を有する)。表面近くの層の強化の程度は、この移動度ではなく、出発ガラス中のナトリウム濃度に依存する。
【0006】
明らかに、超薄板ガラス(<100μm)のこの移動度は、通常の厚さが500μm~1000μmの薄板ガラスの場合と同じように重要ではない。後者の場合、深い亀裂に対しても亀裂の先端が圧縮応力ゾーン内にあることを保証するために、交換深さを50μmまでの大きさにすることが推奨される。前者の場合、これは寸法上の理由から意味がない。
【0007】
アルバイトガラス中のナトリウムイオンの高い移動度はアルミニウムの高い割合と結び付いており(アルバイトのホウ素類似体、リードマーグネライト(Reedmergnerit)は、ナトリウムイオン移動度が著しく低い)、高いアルミニウム割合が耐酸性を大幅に低下させるので、超薄板ガラスの場合、アルバイトガラスに加えて、他のナトリウム源、例えば上述のリードマーグネライト、またはナトロシライトなどの単純なケイ酸ナトリウムも用いることに意味がある。現在市販されているアルミノケイ酸塩ガラスの耐酸性は、DIN 12116によればクラス4に過ぎない。
【0008】
従来技術は、化学強化性と、良好な耐化学性、なかでも良好な耐引掻性および耐衝撃性とを兼ね備えたガラスを欠いている。さらに、これらのガラスは所望の熱膨張特性を有するべきである。そのうえ、これらのガラスは最新の板ガラスドロー法(Flachglasziehverfahren)で製造可能であることが望ましい。
【0009】
発明の説明
この課題は、特許請求の範囲の主題によって解決される。この課題は、化学量論的ガラス、つまり、結晶と同じ化学量論比で存在し、それらの特性が-文献中でNMR測定等によって多くの例を用いて調べられているように-いずれの場合もガラスおよび結晶の集合体(Baugruppen)の同一のトポロジーゆえに非常に類似していると想定され得るガラスの適切な組合せによって解決される。このために、その混合物が本発明による課題の解決に適した挙動を達成可能にする化学量論的ガラスが選択される。本出願では、これらの化学量論的ガラスは、「ベースガラス」または「構成相」とも呼ばれる。
【0010】
ガラスを分類される構成相ごとに記述することは新しい着想ではない。ベースガラスを示すことによって、ガラスの化学構造についての結論を引き出すことができる(Conradt R:“Chemical structure,medium range order,and crystalline reference state of multicomponent oxide liquids and glasses”,in Journal of Non-Crystalline Solids,Volumes 345-346,15 October 2004,Pages 16-23を参照されたい)。
【0011】
本発明は、以下のガラス構成相によって特徴付けられる組成を有するガラスに関し、この構成相によって定義されるこのベース系は、本発明により所与の組成範囲によって制限される:
【表1】
【0012】
好ましい実施形態は、以下の構成相を上述の割合範囲で含む。
【表2】
【0013】
ベース系は、単純酸化物ではなく、それぞれ示される構成相を明示的に指す。しかしながら、構成相の課題設定および選択から、12.5モル%超、最大13モル%超の酸化アルミニウムを有するガラスでは、これらの構成相の空間で意味をもつ解決策が得られないことになる。したがって、酸化物組成への変換後に13モル%を超える、特に12.5モル%を超える酸化アルミニウムを有するガラスは、本発明の一部ではないことが有利である。ガラス中に少なくとも3モル%または少なくとも5モル%さえの酸化アルミニウムを提供することが有利であることがわかった。
【0014】
さらに、本発明によるガラスは、有利には、以下に示される構成相の組成または単純酸化物の組成と式的な関係にある更なる条件を満たすことを意図している。
【0015】
構成相で示された組成と単純酸化物で示された組成との両方の種類の関係が互いに使用されるので、最初に両方の組成データの相互変換のための変換行列を示す。
【0016】
構成相の組成の単純酸化物の組成への変換およびその逆の変換
構成相の組成は、変換を目的として、以下のように正規化された式で示される:
【表3】
【0017】
(第1の実施形態の場合と同じ)単純酸化物に関する組成データ(モル%)へのこれらの組成物の変換は、ここに示される行列を使って行われる。組成データ(モル%)は、ベースガラスに関して右から行列への列ベクトルとして再び乗算される:
【表4】
【0018】
行列への列ベクトルの乗算の結果として、単純酸化物をベースとするモルパーセントにおけるガラスの組成が再び得られる。
【0019】
逆に、モルパーセントにおける組成は、それぞれの逆行列を介してベースガラス組成に容易に変換することができる。当然ながら、変換時にベースガラスに負の値を与えないベースガラス組成のみが本発明によるものと見なされる。
【0020】
本発明の課題に関する構成相およびそれらの選択の意義
組成は、ガラス構成相に関して本明細書に記載されている範囲内で選択される。当然ながら、ガラス構成相そのものはガラス生成物中で結晶質ではなく非晶質である。しかしながら、これは、非晶質状態の構成相が結晶質状態とは全く異なる集合体を有することを意味しない。上述したように、集合体のトポロジー、つまり、例えば、周囲の酸素原子に関与するカチオンの配位、またはこれらのカチオンと周囲の酸素原子との間の結合の配位と強度に起因する原子間距離は同程度である。それゆえ、本発明のガラスの多くの特性は、特に本発明による性能および本発明により克服された問題を説明するために、構成相を使って十分に説明することができる(これに関しては、上記に示したConradt R.を参照されたい)。当然ながら、化学量論比のみがベースガラスの対応する集合体の形成を可能にする限り、対応する結晶を使用するだけでなく、(むしろ好ましくは)通常のガラス原料も使用してガラスを製造することができる。
【0021】
相の選択は、イオン輸送への適合性またはイオン輸送への有益な影響ならびに耐加水分解性および熱膨張へのそれらの影響に鑑みて行われる。以下において、計算方法は、これらのパラメーターが構成相の所与の組成からどのように計算され得るのかに関して示される。これらの計算方法は、構成相の選択と、これらの構成相からなる本発明によるガラスのまさに組成の選択の両方において重要である。
【0022】
本明細書中で規格が指定されている場合、特に明記されていない限り、意図されているバージョンは、この特許出願の出願日における最新の規格である。
【0023】
ISO 719/720に従った耐加水分解性およびISO 695に従った耐アルカリ性の両方は、ヒドロキシルイオンの攻撃に対するガラスの耐性を本質的に含む。ISO 695の場合、アルカリ液中のヒドロキシルイオンの濃度は、0.5モル/lの水酸化ナトリウムおよび0.25モル/lの炭酸ナトリウムを有する緩衝溶液を使用することによって決定される。ISO 719/720の場合、ガラスが中性水に加えられ、そのpH値が最初に5.5に調整される(メチルレッド指示薬溶液による調査)が、ガラスの溶解によって非常に急速にアルカリ性範囲に移動する。その結果、ガラス中に含まれる弱酸(または酸無水物)、とりわけケイ酸、およびpHが9~10の範囲の強アルカリ液(例えば水酸化ナトリウム)の緩衝液が得られる(Susanne Fagerlund,Paul Ek,Mikko Hupa und Leena Hupa:On determining chemical durability of glasses,Glass Technol.:Eur.J.Glass Sci.Technol.A,December 2010,51(6),235-240を参照されたい)。緩衝液のpHを決定づけるのは、弱酸のpKa値である。得られる緩衝液のpH値は、ガラスタイプに依存するだけでなく、溶解の進行と共に増加し、ヒドロキシルイオンの濃度を決定する。これらのヒドロキシルイオンによってもたらされる溶解は、耐アルカリ性測定の時と同じメカニズムに従って生じる。
【0024】
ガラスに耐アルカリ性および耐加水分解性の両方の性質を持たせるために、まず第一にISO 695に従った試験における除去速度を低い値に設定しなければならない。第二にISO 719/720に従った試験中に生じるpH値と、試験水溶液への一定量のガラス溶解を制限しなければならない。試験の過程でこのpH値が高くなるほど、正のフィードバック効果の危険性が高くなり、すなわち、pHが高くなるにつれて、除去速度が高くなり、水溶液中での除去量が増えるにつれてまた、そのpH値は高くなることなどがある。
【0025】
耐化学性ガラス(ISO 719に準拠した加水分解クラスHGB IまたはISO 720に準拠した加水分解クラスHGA I)は、典型的には試験中に除去を被り、これは水溶液中で100μモル以下のガラスをもたらし、その除去は小さければ小さいほど、完全に除去される部分は少なくなる。
【0026】
ガラスの比較は固定された条件に当てはめなければならないので、ここで、関連するpHとして、完全に除去されたと思われる50μモルのガラスの中性水への溶解後に生じるpHを定義する。特に、pHが9.05未満、好ましくは9.04未満、特に好ましくは9.03未満、非常に好ましくは9.02未満、さらにより好ましくは9.01未満、最も好ましくは9.00未満であるガラスが本発明によるものである。
【0027】
本発明により、ISO 695に従った除去速度は、最大115mg/(dm3h)であり、好ましくは最大110mg/(dm3h)、好ましくは最大105mg/(dm3h)、特に非常に好ましくは最大100mg/(dm3h)、最も好ましくは最大95mg/(dm3h)である。これは、本発明のガラスについて式(2)および(3)を使って計算することができる除去速度を指す。
【0028】
第一の上記の値は、ISO 695に準拠したアルカリクラス2と3の間の範囲をクラス幅の半分よりも大きく下回る。この間隔は、式(2)と(3)の予測精度に許容範囲がある場合でもクラス3までの大きな安全間隔を保つために意図的に大きく選択される。
【0029】
DIN 12116に準拠した酸中の除去速度に関して、これは、本発明によるガラスにおいて、下記に定義される指数<200では、酸クラス3以下に対応し、指数>215では酸クラス3以上、つまり酸クラス4に対応し、一部ではクラス3と4の間にある除去速度の範囲よりも数桁高くなる。その間には遷移領域がある。本発明により好ましいのは、<215、好ましくは<210、特に好ましくは<205、非常に好ましくは<204、さらに好ましくは<203、さらにより好ましくは<202、重ねてさらにより好ましくは<201、最も好ましくは<200の指数を有するガラスである。
【0030】
熱膨張係数は、本発明によれば、好ましくは7~10ppm/K、さらに好ましくは7.5~9ppm/Kである。これは、本発明のガラスについて式(8)を用いて計算することができるCTEの値である。
【0031】
耐加水分解性試験における水溶液中のpH値の計算
水溶液中のpH値の計算は、単純酸化物の組成データに基づいている。ガラス成分の希薄溶液中で、対応するカチオンは高度に酸化された水酸化物に変換される(表5を参照されたい)。これらの水酸化物のHまたはOHの放出は、それぞれの場合において対応するpKaまたはpKb値によって記載される。
【0032】
pH値については、室温(25℃)に冷却した後に1リットルの水溶液中に50μモルを溶解した後に存在する値を適用する。
【表5】
)Pure Appl.Chem.,1969,Vol.20,No.2,pp.133-236,176番;本文献中「G40」で表される出典からの値
)R.H.Byrne,Inorganic speciation of dissolved elements in seawater:the influence of pH on concentration ratios,Geochem.Trans.3(2)(2002)11-16.
2a)Pure Appl. Chem.,1969,Vol.20,No.2,pp.133-236,149番;本文献中「M11」で表される出典からの値
)David W.Hendricks,Water Treatment Unit Processes:Physical and Chemical,CRC Taylor and Francis,Boca Raton,London,New York,2006,S.307;本文献中「4」、「5」、「11」、「12」で表される出典からの値
)Artur Krezel,Wolfgang Maret,The biological inorganic chemistry of zinc ions,Archives of Biochemistry and Biophysics (2016),S.1-17
)水酸化バリウムと同様に(Pure Appl.Chem.,1969,Vol.20,No.2,pp.133-236,12番)、全てのアルカリ土類金属MについてM(OH)→M(OH)+OHがいかなる場合にも完全に進行することを前提とする;この最初の解離では、pKb値としてこの表で発生するpKbの最大値、すなわち水酸化カリウムの値を想定する。
)Pure Appl.Chem.,1969,Vol.20,No.2,pp.133-236,115番;本文献中「S74」で表される出典からの値
)Pure Appl.Chem.,1969,Vol.20,No.2,pp.133-236,18番;本文献中「D9」で表される出典からの値
10)Pure Appl.Chem.,1969,Vol.20,No.2,pp.133-236,178番;本文献中「G26」で表される出典からの値
11)Pure Appl.Chem.,1969,Vol.20,No.2,pp.133-236,164番;本文献中「K2」で表される出典からの値
【0033】
pH値は、所与の組成で、異なる濃度[...]について方程式系を解くことによって出される(pKaとpKbには上記の値を用いる)。
【0034】
方程式系 (1)
1.[HSiO --][H]/[HSiO ]=10-pka
2.[HSiO ][H]/[HSiO]=10-pka
3.[HSiO --]+[HSiO ]+[HSiO]=50(μモル/l)SiO2
4.[Zr(OH) ][H]/[Zr(OH)]=10-pka
5.[Zr(OH)][H]/[Zr(OH) ]=10-pka
6.[Zr(OH) ]+[Zr(OH)]+[Zr(OH) ]=50(μモル/l)ZrO2
7.[HBO ][H]/[HBO]=10-pka
8.[HBO ]+[HBO]=50(μモル/l)B2O3
9.[Al(OH) ][H]/[Al(OH)]=10-pka、[Al(OH)][H]/[Al(OH) ]=10-pka
10.[Al(OH) ]+[Al(OH)]+[Al(OH) ]=50(μモル/l)Al2O3
11.[ZnOH][H]/[Zn++]=10-pka
12.[Zn(OH)][H]/[ZnOH]=10-pka
13.[Zn(OH) ][H]/[Zn(OH)]=10-pka
14.[Zn(OH) --][H]/[Zn(OH) ]=10-pka
15.[ZnOH]+[Zn++]+[Zn(OH)]+[Zn(OH) ]+[Zn(OH) --]=50(μモル/l)ZnO
16.[MgOH][OH]/[Mg(OH)]=10-pkb、[Mg++][OH]/[MgOH]=10-pkb
17.[MgOH]+[Mg(OH)]+[Mg++]=50(μモル/l)MgO
18.[CaOH][OH]/[Ca(OH)]=10-pkb、[Ca++][OH]/[CaOH]=10-pkb
19.[CaOH]+[Ca(OH)]+[Ca++]=50(μモル/l)CaO
20.[Na][OH]/[NaOH]=10-pkb
21.[Na]+[NaOH]=50(μモル/l)Na2O
22.[K][OH]/[KOH]=10-pkb
23.[K]+[KOH]=50(μモル/l)K2O
24.[OH][H]=10-14
25.2[HSiO --]+[HSiO ]+[Zr(OH) ]+[Al(OH) ]+2[Zn(OH) --]+[Zn(OH) ]+[OH]=[Zr(OH) ]+[Al(OH) ]+2[Zn++]+[ZnOH]+2[Ba++]+[BaOH]+2[Ca++]+[CaOH]+2[Mg++]+[MgOH]+[Na]+[K]+[H
【0035】
方程式1~24は平衡条件であり、方程式25は電気的中性条件である。
【0036】
方程式系は、例えばWolfram Research Inc.のMATHEMATICAなどの慣用の数学コードの1つを用いて明確に解くことができる。MATHEMATICAは解決策のリストを提供するが、そのうちの1つだけが、全ての濃度は正の値を有していなければならないという必要な追加条件を満たす。
【0037】
pH値は、定義により[H]の負の10進対数として出される。さらに、室温でpka+pkb=14であることに留意する。
【0038】
ISO 695に従った耐アルカリ性の計算
本発明は、トポロジー的考察により構成されたパラメーターおよびISO 695に従って試験中に測定された除去速度との間の驚くべきことに発見された関係に基づいている。
【0039】
トポロジー的考察の本質は、例えば独国特許出願公開第102014119594号明細書(DE 10 2014 119 594 A1)に詳細に記載されているように、隣接する原子への結合によって原子に課される拘束数を数えることである。これらの制約は、一方では原子間距離(「距離拘束」)に、他方では結合角度(「角度拘束」)に関する。1個の原子にr個の隣接原子がある場合(r=配位数)、これらの隣接原子に対するrの距離拘束から、この距離拘束が2つの結合相手の間で均等に分配されるのであれば、これらの原子に割り当てられるべきr/2の距離拘束が結果として生じる。これらの隣接原子間の結合角から、それぞれの角度の頂点における考察される原子により、この原子に割り当てられるべき更なる2r-3の角度拘束が結果として生じる。
【0040】
独国特許出願公開第102014119594号明細書(DE 10 2014 119 594 A1)には、距離および角度拘束の計算時に、全ての条件に単結合強度による重み付けおよび角度拘束のそれぞれの共有結合度による再度の追加の重み付け(酸素-カチオン-酸素の角度に由来するもののみ:カチオン―酸素-カチオンの角度に属する拘束は無視される)を行う方法が記載されている。重み付け係数は、それぞれが単結合強度またはケイ素-酸素結合の共有結合度で除算することによって正規化されるので、石英ガラスの場合、1原子当たり(端数処理した)1.333333333(すなわち4/3)の距離拘束および(端数処理した)1.666666667(すなわち5/3)の角度拘束の数が生じる。これは、独国特許出願公開第102014119594号明細書(DE 10 2014 119 594 A1)に記載されているように、単純に距離および角度拘束を全て数えて、ケイ素-酸素-ケイ素の角度の角度拘束を無視した場合、石英ガラスのトポロジーの直接分析に対応する。
【0041】
このように、石英ガラスは1原子当たり「3」の拘束数を持ち、これは1原子あたりの自由度の数に正確に対応する。つまり、石英ガラスは、1原子当たりの自由度の数が全くない(または現実的には非常に小さい)ことになり、これは示差熱量測定ガラス転移における石英ガラスの小さいcジャンプに対応する(R.Bruening,“On the glass transition in vitreous silica by differential thermal analysis measurements”,Journal of Non-Crystalline Solids 330 (2003)13-22を参照されたい)。
【0042】
他の酸化物ガラスについては、一般的に、1原子当たりの距離および角度拘束の数に対して、(端数処理した)1.333333333(4/3)および1.666666667(5/3)よりもそれぞれ低い値が与えられている。それに応じて、差は1原子当たりの距離および角度自由度の数である。角度自由度では、関連する角度拘束が全て1つの平面内にある角度を指すのか(三角配位)、そうでないのか(四面体またはそれ以上の配位)をさらに区別することができる。後者は、ここでは3D角度拘束と呼ばれる;それに応じて(端数処理した)1.666666667(4/3)との差は、3D角度自由度と呼ばれる。
【0043】
驚くべきことに、1原子当たりの3D角度自由度の数と、耐アルカリ性クラスに関してガラスの状況を推定することができるISO 695テストの除去速度rとの間には関係が見出される。特にアルカリ含有量の高いガラスへの適用性を考慮して最適化され、様々なガラスでテストされたこの関係は、次の式によって示される:
【数1】
【0044】
「c」は、mg/(dm3h)の次元を有する定数である。数値は163.9である。「f」は、1原子当たりの3D角度自由度の数である。「c’」は、1.8の値の無次元定数である。指数「6」は、経験的に見出されたものである。Λは、光学塩基度である。
【0045】
係数N/NSiO2は、上記の蓋然性を考慮した原子団から1モルに変換するために用いられる。Nは、1モル当たりの原子の数である。NSiO2は、石英ガラス1モル当たりの原子の数(すなわち3N、Nアボガドロ数)であり、この表現を正規化するのに用いられる。この係数をあまり誤差のない定数に設定し、狭い範囲のガラスファミリー内でのみ移動する場合は、この定数を前係数「c」に引き込むことが可能である。係数M/MSiO2は、上記の原子対価を質量対価に換算するために用いられる。Mは1モルの質量である。MSiO2は、1モルの石英ガラスの質量(すなわち60.08g)であり、この表現を正規化するために用いられる。この係数もあまり誤差のない定数に設定し、狭い範囲のガラスファミリー内でのみ移動する場合は、この定数を前係数「c」に引き込むことが可能である。
【0046】
除去速度と3D角度自由度の数との間の関係は、上述のとおり、経験的に見出されているが、OHイオンのガラスへの侵入の速度は、ガラスのエントロピーに依存するという事実に鑑みて妥当と思われる。係数(0.9483333-Λ)は、プロセスの速度とは関係がなく、ガラスがアルカリ液に溶解する間に起こる酸-塩基反応の推進力(Triebkraft)と関係がある。
【0047】
本発明によるガラスは上記の構成相の組合せを有するので、1原子当たりの3D角度自由度の数の計算には、まず各構成相についてそれらを数値的に示すことが好都合である。以下が適用される:
【表6】
【0048】
数値は、独国特許出願公開第102014119594号明細書(DE 10 2014 119 594 A1)に示される方法に従って計算されており、この場合、全てのカチオンに対する角度自由度の数が計算されており、具体的には独国特許出願公開第102014119594号明細書(DE 10 2014 119 594 A1)に示されているとおりである(ただし該文献中ではホウ素およびアルミニウムについてのみ);さらに、カチオン-酸素化合物のイオン化度は、独国特許出願公開第102014119594号明細書(DE 10 2014 119 594 A1)からの式(8)によるのではなく、Alberto Garcia,Marvon Cohen,First Principles Ionicity Scales,Phys.Rev.B 1993からの式(3)に従って計算されている。このために、それぞれのカチオンの配位数についての情報がさらに必要であり、それに関しては、上記に示したConradtに従って、それぞれの構成相における配位数を用い、酸化ホウ素を除き、結晶相およびガラス相の配位数を特定する(カチオンがいくつかの配位数で生じる場合、異なる配位数の割合に従って平均化される)。上記の配位数は、文献から導き出され、リードマーグネライトについては:D.Appleman,J.R.Clark,Crystal Structure of Reedmergnerite,The American Mineralogist Vol 50,November/December,1965から、この出典を見ればSiおよびBが4重配位され、Naが5重配位されていると考えられる;アルバイトについては:American Mineralogist,Volume 61,pages 1213-1225,1976,American Mineralogist,Volume 62,pages 921-931,1977,American Mineralogist,Volume 64,pages 409-423,1979,American Mineralogist,Volume 81,pages 1344-1349,1996から、これらの出典を見ればSiおよびAlが4重配位され、Naが5重配位されていると考えられる:ネフェリンについては:M.J.Buerger,Gilbert E.Klein,Donnay: Determination of the crystal structure of nepheline,American Mineralogist,Volume 83.pages 63 I-637,1998から、この出典を見れば天然のネフェリンNaAlSi32には、ナトリウムの6つの6配位サイトおよびカリウムの2つの9配位サイトが含まれ、ここで考察される、カリウムが存在しない場合にのみ生じる純粋なNaネフェリンでは、NaのKサイトも占有されており、ケイ素とアルミニウムの両方が四面体的に配位されている;オーソクレース(正長石)については:Canadian Mineralogist,Volume 17 pages 515-525,1979から、この出典を見ればアルミニウムが4重配位され、カリウムが9重配位され、ケイ素が4重配位されていると考えられる;パラケルディシット(Parakeldyshit)については:Acta Chemica Scandinavia,1997,51,259-263から、この出典を見ればケイ素が4重配位され、ジルコニウムが6重配位され、ナトリウムが8重配位されていると考えられる;ナルサルスカイト(Narsarsukit)については:American Mineralogist 47(1962),539から、この出典を見ればケイ素が4重配位され、チタンが6重配位され、ナトリウムが7重配位されていると考えられる;ケイ酸亜鉛二ナトリウムについては:Acta Cryst.(1977),B33,1333-1337から、この出典を見ればケイ素および亜鉛が4重配位され、ナトリウムが7重配位されていると考えられる;ガラス状酸化ホウ素については、三角配位が一般的に知られていると考えられる;コージエライト(菫青石)については:American Mineralogist,Volume 77,pages 407-411,1992から、この出典を見ればケイ素およびアルミニウムが4重配位され、マグネシウムが6重配位されていると考えられる;ダンビュライトについては:American Mineralogist,Volume 59,pages 79-85,1974から、この出典を見ればケイ素およびホウ素が4重配置され、カルシウムが7重配位されていると考えられる。
【0049】
完成したガラスの1原子当たりの3D角度自由度fを求めるための計算規則は次のようになる:
【数2】
[式中、cは、考察されるガラス組成物中のi番目の構成相のモル分率であり、zは、i番目の構成相中の構成単位当たりの原子の数(またはi番目の構成相中の1モル当たりの原子の数;この場合、N、Nアボガドロ数の単位における)であり、fは、i番目の構成相中における1原子当たりの角度自由度の数である。「n」は構成相の数である]。
【0050】
M/MSiO2を求めるための計算規則は次のようになる:
【数3】
[式中、cは、考察されるガラス組成物中のi番目の構成相のモル分率であり、Mは、対応するモル質量であり、「n」は構成相の数である]。
【0051】
N/NSiO2を求めるための計算規則は次のようになる:
【数4】
[式中、cは、考察されるガラス組成物中のi番目の構成相のモル分率であり、zは、i番目の構成相中の構成単位当たりの原子の数(またはi番目の構成相中の1モル当たりの原子の数;この場合、N、Nアボガドロ数の単位における)であり、「n」は構成相の数である]。
【0052】
係数(0.9483333-Λ)は、以下の考察によって溶解の推進力と関係している。ガラスが「酸性」であるほど、すなわち、酸無水物の割合が高いほど、かつ塩基無水物の割合が低いほど、この推進力は高くなる。これの定量的尺度は光学塩基度である(C.P.Rodriguez,J.S.McCloy,M.J.Schweiger,J.V.Crum,A,Winschell,Optical Basicity and Nepheline Crystallization in High Alumina Glasses,Pacific Northwest National Laboratories,PNNL 20184,EMSP-RPT 003,prepared for the US Department of Energy under contract DE-AC05-76RL01830を参照されたい)。光学塩基度が低いほど、推進力は高い。「推進力ゼロ」となるのは、酸-塩基反応が完了した物質の場合である。前述の場合が考えられるのは、特に、ガラスが、メタケイ酸ナトリウム、つまり固体として存在する全てのケイ酸ナトリウムとして、最も高いナトリウム含有量を有するものの化学量論を有する場合である(オルトケイ酸ナトリウムは水溶液中でのみ発生する)。その光学塩基度は、それを計算するための以下に記載される方法に従って、ちょうど0.9483333であり、つまり、上記係数(0.9483333-Λ)の構築によってゼロになる値である。
【0053】
光学塩基度Λを、C.P.Rodriguez,J.S.McCloy,M.J.Schweiger,J.V.Crum,A,Winschell,Optical Basicity and Nepheline Crystallization in High Alumina Glasses,Pacific Northwest National Laboratories,PNNL 20184,EMSP-RPT 003,prepared for the US Department of Energy under contract DE-AC05-76RL01830からのセクションB.1.6および表B.1に記載の係数Λχav(LiおよびXueに従った光学塩基度)を用いて式B.1に従って計算する。単純酸化物の表に1つの係数しか示されていない場合、これが使用される。単純酸化物の表にいくつかの係数が示されている場合、構成相中のそれぞれのカチオンの配位数と一致するものが使用される。上記のベース系では、これは酸化アルミニウムおよび酸化マグネシウムの場合にのみ必要である。アルミニウムはベース系の全ての構成相中で4重配位されて存在し、対応して上記に示したConradtも想定し、配位数4の酸化アルミニウムについて表B.1に示された係数ΛICPの値も使用される。マグネシウムはベース系の唯一のマグネシウム含有構成相中で6重配位されて存在しているので、配位数6の酸化マグネシウムについて表B.1に示された係数Λχavの値が使用される。
【0054】
耐酸性
驚くべきことに、耐酸性も、容易に計算される指数を用いて推定することができる。この背景にある考察の出発点は、ケイ酸塩ガラス中のイオン移動度に関するアンダーソンとスチュアートの理論である(O.L.Anderson,D.A.Stuart,Calculation of Activation Energy of Ionic Conductivity in Silica Glasses by Classical Methods,Journal of the American Ceramic Society,Vol.37,No.12(1954),573-580を参照されたい)。その理論に従って、ケイ酸塩、したがって酸化物ガラス中のカチオンの移動の活性化エネルギーは、周囲の酸素イオンとの克服すべき静電的相互作用と、ケイ酸塩網目構造の一方のメッシュから他方のメッシュに移り変わるときに克服すべき機械的抵抗とに依存する。1つ目に挙げた寄与は、考察されるカチオンの電荷数にクーロンの法則に従って比例し、誘電率に反比例し、2つ目に挙げた寄与は、せん断弾性率および考察されるカチオンの直径が網目構造のメッシュ幅を超える程度の二乗に比例する。1つ目に挙げた寄与のおかげで、一般的に、一価カチオンのみが移動可能になり、アルミニウムのような多価カチオンは固定される。
【0055】
高濃度の酸と接触すると、ISO 1776またはDIN 12116によれば、6N塩酸は異なる。この場合、プロトンまたはヒドロニウムイオンがガラス中に拡散し、表面に電気二重層を形成し、酸浴中に塩化物イオンが残る。ISO 1776に従って行われた測定からの溶出液の分析において、この電気二重層は、それゆえに接触する電場がそれぞれのカチオンと周囲の酸素イオンとの静電相互作用を補償することができるほどに形成されるので、高い電荷数のイオンも移動できるようになる(上記の二重層の電場の力の影響、ならびに考察されるカチオンの静電相互作用は、その電荷数に依存する;それゆえ、前者は後者を補償することができる)。
【0056】
これは、同じ実験条件(ISO 1776のもの)の下で、無アルカリディスプレイガラスを離れるアルミニウムイオンのほうが、ソーダ石灰ガラスを離れるナトリウムイオンよりもかなり多いという結果につながり得る。他方で、同じ実験条件下ではまた、ホウケイ酸ガラスを離れるホウ素原子のほうが、アルミノシリケートガラスを離れるアルミニウム原子よりも少ない。これは、アルミニウムまたはナトリウムの場合よりも、塩酸と反応する、他の電気陰性度の値に応じてホウ素またはケイ素の著しく低い傾向を考慮することによって理解することができる。酸化ナトリウムと塩酸との反応は、強塩基または強塩基無水物と強酸との反応であり、アルミニウムは中間で両性として存在し、酸化ホウ素または酸化ケイ素は弱酸の無水物である。
【0057】
カチオンがガラス複合体を離れる傾向は、Alberto Garcia,Marvon Cohen,First Principles Ionicity Scales,Phys.Rev.B 1993からの式(3)に従って計算する、対応するカチオン-酸素化合物のイオン化度の程度によって決定することができる。
【0058】
このために、それぞれのカチオンの配位数についての情報がさらに必要であり、それに関しては、上記に示したConradtに従って、それぞれの構成相における配位数を用いる(カチオンがいくつかの配位数で生じる場合、異なる配位数の割合に従って平均化される)。上記の配位数は、文献から導き出され、リードマーグネライトについては:D.Appleman,J.R.Clark,Crystal Structure of Reedmergnerite,The American Mineralogist Vol 50,November/December,1965から、この出典を見ればSiおよびBが4重配位され、Naが5重配位されていると考えられる;アルバイトについては:American Mineralogist,Volume 61,pages 1213-1225,1976,American Mineralogist,Volume 62,pages 921-931,1977,American Mineralogist,Volume 64,pages 409-423,1979,American Mineralogist,Volume 81,pages 1344-1349,1996から、これらの出典を見ればSiおよびAlが4重配位され、Naが5重配位されていると考えられる:ネフェリンについては:M.J.Buerger,Gilbert E.Klein,Donnay: Determination of the crystal structure of nepheline,American Mineralogist,Volume 83.pages 63 I-637,1998から、この出典を見れば天然のネフェリンNaAlSi32には、ナトリウムの6つの6配位サイトおよびカリウムの2つの9配位サイトが含まれ、ここで考察される、カリウムが存在しない場合にのみ生じる純粋なNaネフェリンでは、NaのKサイトも占有されており、ケイ素とアルミニウムの両方が四面体的に配位されている;オーソクレース(正長石)については:Canadian Mineralogist,Volume 17 pages 515-525,1979から、この出典を見ればアルミニウムが4重配位され、カリウムが9重配位され、ケイ素が4重配位されていると考えられる;パラケルディシット(Parakeldyshit)については:Acta Chemica Scandinavia,1997,51,259-263から、この出典を見ればケイ素が4重配位され、ジルコニウムが6重配位され、ナトリウムが8重配位されていると考えられる;ナルサルスカイト(Narsarsukit)については:American Mineralogist 47(1962),539から、この出典を見ればケイ素が4重配位され、チタンが6重配位され、ナトリウムが7重配位されていると考えられる;ケイ酸亜鉛二ナトリウムについては:Acta Cryst.(1977),B33,1333-1337から、この出典を見ればケイ素および亜鉛が4重配位され、ナトリウムが7重配位されていると考えられる;酸化ホウ素については、三角配位が一般的に知られていると考えられる;コージエライト(菫青石)については:American Mineralogist,Volume 77,pages 407-411,1992から、この出典を見ればケイ素およびアルミニウムが4重配位され、マグネシウムが6重配位されていると考えられる;ダンビュライトについては:American Mineralogist,Volume 59,pages 79-85,1974から、この出典を見ればケイ素およびホウ素が4重配置され、カルシウムが7重配位されていると考えられる。
【0059】
化合物のイオン化度(Paulingに従ったイオン化度、Alberto Garcia,Marvon Cohen,First Principles Ionicity Scales,Phys.Rev.B 1993からの式(3)(上記を参照されたい)に従って計算)にカチオンの価数または原子価を乗算すると、カチオンが網目構造を離れることによって引き起こされる網目構造の破壊を表す指数が得られる。カチオンの原子価は、電気的中性の理由からカチオンを置き換えなければならないヒドロニウムイオンの数を示す。各ヒドロニウムイオンはガラス中の1.5個の酸素架橋を破壊し、これは酸攻撃時に観察されるゲル化をもたらす(例えばT.Geisler,A.Janssen,D.Scheiter,T.Stephan,J.Berndt,A.Putnis,Aqueous corrosion of borosilicate glass under acidic conditions:A new corrosion mechanism,Journal of Non-Crystalline Solids 356(2010)1458-1465を参照されたい)。
【0060】
それぞれの指数と1モルのガラス中の考察されるカチオンのモル数との乗算および全てのカチオンにわたる加算は、ガラスへの酸攻撃が最初に引き起こす網目構造破壊の程度の指標となる(これ以降:「酸指数」)。特に、そのつど構成相から製造されるガラスの酸指数を突き止める。ガラスの分解が構成相にある場合、モル百分率で示されるそれぞれの構成相の割合に、上述の酸指数を乗じ、引き続き全ての構成相にわたって加算される。
【0061】
注目すべきことに、DIN 12116に従った酸のクラスとの明確な関係がある;酸指数範囲200~215では、酸クラスは急激に増加する。その結果、<200の酸指数が望ましい。
【0062】
本発明によるベースガラス系の構成相について、酸指数kが以下の表にまとめられているので、本発明によるガラスの酸指数は次の式に従って計算することができる:
【数5】
【0063】
式中、nは構成相の数であり、cはそれぞれのモル分率(モルパーセント/100)である。
【表7】
【0064】
熱膨張係数
驚くべきことに、所望の範囲内の熱膨張係数の位置も、非常に単純な計算規則によって表すことができる。これは平均結合強度によるものである。
【0065】
文献から、熱膨張係数は、例えば金属の場合、結合エネルギー(または「原子間ポテンシャル井戸の深さ」)に反比例することが知られている(例えばH.Foell,Skript zur Vorlesung “Einfuehrung in die Materialwissenschaft I”,Christian Albrechts-Universitaet Kiel,pp.79-83を参照されたい)。
【0066】
酸化物ガラスの簡単なイメージでは、カチオンはそれぞれ周囲の酸素原子によって形成されたポテンシャル井戸に配置され、周囲の酸素原子への異なる単結合の結合強度の合計をその深さとして、つまり、中心のカチオンおよび周辺の酸素原子を持つポテンシャル井戸に相互作用エネルギー全体を集中させたものとして想定する。それにより、逆の場合を考慮する必要がもはやなくなる;酸素原子はいくつかの異なる種類のカチオンの間に位置する可能性があるため、分析がより困難になる可能性があるが、これは逆に純粋に酸化物ガラスでは起こり得ない。これらの値は、例えば独国特許出願公開第102014119594号明細書(DE 10 2014 119 594 A1)において表にまとめられている:
【表8】
【0067】
Ti、Zr、Sr、BaおよびZnに関するこれらの値は、独国特許出願公開第102014119594号明細書(DE 10 2014 119 594 A1)から得られるものではないが、そこに引用されている出典を用いて、そこに記載されているのと全く同じ方法に従って計算されている。
【0068】
上記の構成相からのガラスの組成、それぞれの相に含まれる異なるカチオンの数、およびカチオンごとに上で表にしたポテンシャル井戸深さから、平均ポテンシャル井戸深さを算出することができる:
【数6】
【0069】
式中、mは、発生するカチオン型の数であり、Epot,jは、上で表にしたj番目のカチオン型に関するポテンシャル井戸深さであり、zj、iは、i番目の構成相におけるj番目のカチオン型のカチオンの数である。jに関する合計は以下の表にまとめている:
【表9】
【0070】
この平均結合強度は、例えば金属の場合のように(上記で示したH.Foellを参照されたい)、熱膨張係数に反比例の関係にある。いくつかの関連しているガラスを評価すると、次の式が得られる:
【数7】
【0071】
結合強度は融点に反比例するので、融点と膨張係数との間にも逆比例が当てはまる(これに関しても上記で示したH.Foellを参照されたい)。融点は非化学量論的ガラスについては明確に定義されていないので、一般的に融点と呼ばれる温度(粘度は100dPas)と膨張係数との間には傾向に従った関係だけがある。これに関して、本発明によるガラスは確実に溶融される。
【0072】
良好な溶融性に対する要求は、可能な限り高い熱膨張係数を示唆しているが、それとは逆に、場合によっては必要な熱後処理時における可能な限り低い熱応力に対する要求は、可能な限り低い熱膨張係数を示唆している。2つの要件と以下で説明される強化性の考慮事項とを組み合わせることにより、膨張係数または平均ポテンシャル井戸深さに関して、ここで好ましい中間範囲がもたらされる。
【0073】
本発明による熱膨張係数は、好ましくは7~10ppm/K、特に7.5~9ppm/Kである。これは、本発明のガラスについて式(8)を使って計算することができるCTEの値である。
【0074】
化学強化性
最適な交換性を確保するのと同時に、ナトリウム含有量が高すぎることに伴う耐加水分解性の低下を回避するために、本発明によるガラスのNaO含有量は、特に8モル%~16モル%、好ましくは12モル%~14モル%、特に好ましくは12.5モル%~13.5モル%、非常に好ましくは12.7モル%~13.3モル%である。これは、組成物を対応する酸化物組成に変換した後のこの酸化物のモル分率を指す。
【0075】
さらに、熱膨張係数との関係から高い交換性を確保するためには、熱膨張係数の高い値が求められている(Journal of Non-Crystalline Solids 455(2017)70-74を参照されたい)。熱膨張係数に関する上記の説明から読み取られるように、これは特にアルカリ金属またはアルカリ土類金属イオンの添加によって増大する。これは、同様に耐アルカリ性に関する上記の説明から読み取られるように、アルカリ性媒体への溶解における推進力との関係から、高いアルカリ耐性にもつながる。しかしながら、これはまた、上記の規則に従って決められたpH値の増大にもつながり、そのことによりまた耐加水分解性が低下する。
【0076】
それゆえ、一方では熱膨張係数の1000倍(ppm/K)と、他方ではpH値とISO 695に従って計算されたアルカリ性媒体中の除去速度(mg/(dm3h))の積との商が、少なくとも8、好ましくは少なくとも8.25、特に好ましくは少なくとも8.5、非常に好ましくは少なくとも8.75、さらにより好ましくは少なくとも9、最も好ましくは少なくとも9.25であるガラスが本発明によるものである。これらは、いずれの場合も、熱膨張係数、pH値およびISO 695に従った除去速度の計算値である。
【0077】
適切な構成相の選択
アルバイト
本発明のガラスにおいて構成相として表されるベースガラスは、アルバイトガラスである。理想的なアルバイト(NaAlSi)は、その構造が骨格内で可動性のナトリウムイオンを有するSiO-およびAlO四面体の骨格からなることに基づき高いナトリウム拡散率を有することが知られている(Geochimica et Cosmochimica Acta,1963,Vol.27,pp.107-120を参照されたい)。それゆえ、ある割合のアルバイトガラスは、高いナトリウム移動度に寄与し、これはイオン交換ひいてはガラスの化学強化性を促進する結果になる。さらに高いナトリウム拡散率を有するネフェリン(霞石)(カリウムを含まない人工変種:NaAlSiO)と比較して、アルバイトは、はるかに低い融点(1100~1120℃)という利点を有し、これはガラスの溶融性を改善する。
【0078】
アルバイトの量が少なすぎると、ナトリウムのカリウムへの交換に関してイオン交換性または化学強化性が損なわれる。純粋なアルバイトガラスは、おそらく最適な化学強化性を有するであろうが、要求される耐化学性、特に耐酸性に関しては満足のいくものではないであろう。本発明によれば、1モルのアルバイトは、1モルの(NaO・Al・6SiO)/8を意味すると理解される。
【0079】
本発明によるガラス中のアルバイトの割合は、少なくとも20モル%かつ最大でも60モル%である。本発明によるガラス中の好ましい割合は、少なくとも30モル%または少なくとも40モル%である。有利には、アルバイトの含有量は、最大55モル%または51モル%までである。
【0080】
全ての成分は、水酸化物として、耐加水分解性の測定においてpH値に影響を及ぼす。水酸化アルミニウムは、中性水溶液および弱アルカリ液には難溶性である;しかしながら、溶解度限界は、耐加水分解性の測定において生じる濃度をはるかに超えている。
【0081】
ネフェリン
構成相として表される更なるベースガラスは、ネフェリンガラスである。これらの特性は、上記アルバイトの箇所で既に提示している。ネフェリンの一部は、特に耐酸性に同時に影響を与えながら、多数の容易に移動可能なナトリウムイオンをもたらす。
【0082】
ネフェリンが耐アルカリ性および耐酸性を大幅に下げる作用、ならびにネフェリンがpHを高める作用を考慮すると、ネフェリンの割合は制限する必要がある。
【0083】
本発明によるガラス中のネフェリンの割合は、0モル%~20モル%である。本発明によるガラス中の好ましい割合は、少なくとも10モル%または少なくとも15モル%である。特定の実施形態では、ガラスはネフェリンを含んでいなくてもよく、特に、ネフェリンの含有量は、酸化ホウ素および/またはケイ酸亜鉛二ナトリウムの含有量よりも少なくてよい。1モルのネフェリンは、1モルの(NaO・Al・2SiO)/4に相当する。
【0084】
全ての成分は、水酸化物として、耐加水分解性の測定においてpH値に影響を及ぼす。水酸化アルミニウムは、中性水溶液および弱アルカリ液には難溶性である;しかしながら、溶解度限界は、耐加水分解性の測定において生じる濃度をはるかに超えている。
【0085】
リードマーグネライト
アルバイトのホウ素類似体であるリードマーグネライト(理想的な組成NaBSiを意味する)は、アルバイトよりも1原子当たりの角度自由度の数が著しく少なく、すなわち0.235470229である。それゆえ、本発明によるガラスは、更なるベースガラスとしてリードマーグネライトガラスを含有する。このベースガラスは、アルバイトガラスと同様にSiOおよびBO四面体から構成されているが、Al-O結合と比較してB-O結合の結合強度が大きいため、緊密なメッシュ構造を有している。さらに、B-O結合はAl-O結合よりも共有結合的である。両方とも、骨格中で可動性のナトリウム原子にアンダーソンとスチュアートの理論に従って(Journal of the American Ceramic Society,Vol.37,No.12,573-580)アルバイトガラスよりも高い熱活性化エンタルピーを持たせるので、同じ温度でのナトリウムイオン移動度への寄与は、アルバイトガラスよりもリードマーグネライトガラスにおいて低い。本発明によれば、1モルのリードマーグネライトは、1モルの(NaO・B・6SiO)/8を意味すると理解される。
【0086】
本発明によるガラス中のリードマーグネライトの割合は、少なくとも15モル%かつ最大でも60モル%である。本発明によるガラス中の好ましい割合は、少なくとも20モル%かつ/または最大でも40モル%もしくは最大でも30モル%である。
【0087】
全ての成分は、水酸化物として、耐加水分解性の測定においてpH値に影響を及ぼす。
【0088】
オーソクレース
可能性としてある分離傾向を抑えるために、第二の相として、アルバイトのカリウム類似体であるオーソクレースが加えられる。1モルのオーソクレースは、1モルの(KO・Al・6SiO)/8を意味すると理解される。
【0089】
本発明によるガラス中のオーソクレースの割合は、0モル%~最大でも20モル%である。本発明によるガラス中の好ましい割合は、少なくとも2モル%、少なくとも4モル%かつ/または最大15モル%もしくは10モル%までである。
【0090】
全ての成分は、水酸化物として、耐加水分解性の測定においてpH値に影響を及ぼす。
【0091】
好ましくは、オーソクレースおよび酸化ホウ素の割合の合計に対するネフェリンの割合の比は、最大でも10、さらに好ましくは最大でも8、さらに好ましくは最大でも5、さらに好ましくは最大でも3である。そのような比は、なかでも可能性としてある分離傾向を抑えるために特に有利である。
【0092】
パラケルディシット
更なるナトリウム伝導相として、パラケルディシットが添加される。結晶として、パラケルディシットは、ケイ素四面体とジルコニウム八面体の三次元網目構造であり、その間のボイドに8重配位のナトリウム原子がある。このゼオライト様の緩い(ナトリウムの非常に高い配位数)構造はイオン移動度を支持する。構造的に関連したカリウム類似体、キビンスカイト(Khibinskit)が存在するので、ナトリウムをカリウムと交換することも可能である(G.Raabe,M.H.Mladeck,Parakeldyshit from Norway,Canadian Mineralogist Vol.15,pp.102-107(1977)を参照されたい)。
【0093】
これは、イオン交換中にナトリウムイオンおよびカリウムイオンを迅速に移動させるのに有利である。ナトリウムをカリウムと交換したときの張力の増大は、緩い網目構造のためにかなり低い;しかしながら、上記の用途のために、高い強化よりも大きな交換深さを達成することがより重要である(イオン交換時の交換深さがスクラッチなどの可能性としてある表面損傷の深さよりも大きい場合にのみ、強化はその目的を果たす)。
【0094】
含有ジルコニウムは、耐加水分解性の測定にとって重要である。水酸化ジルコニウムは水溶液中および弱アルカリ液中で沈殿するが、特定の濃度から初めて沈殿し、これは耐加水分解性測定では達成されない。そのpka値のために、これにはpH低下効果がある。
【0095】
1モルのパラケルディシットは、1モルの(NaO・ZrO・2SiO)/4を意味すると理解される。本発明によるガラス中のパラケルディシットの割合は0~20モル%である;上限は、ジルコニウムに関連した失透問題を考慮して選択される。本発明によるガラス中の好ましい割合は、5モル%までまたは3モル%までである。特定の実施形態では、ガラスはパラケルディシットを含んでいなくてもよく、特に、パラケルディシットの含有量は、酸化ホウ素および/またはケイ酸亜鉛二ナトリウムの含有量よりも少なくてよい。
【0096】
ナルサルスカイト
結晶として、ナルサルスカイトは、ケイ素四面体とチタン八面体の三次元網目構造であり、その間のボイドに7重配位のナトリウム原子がある。この構造はイオン移動度を支持する(D.R.Peacor,M.J.Buerger,The Determination and Refinement of the Structure of Narsarsukite,NaTiOSi10,American Mineralogist Vol.67,5-6 pp.539-556 (1962)を参照されたい)。カリウム類似体が存在するので(K.Abraham,O.W.Floerke,and K.Krumbholz,Hydrothermaldarstellung und Kristalldaten von KTiSi,KTiSi11,KTiSi15,KZrSi und KO・4SiO・HO,Fortschr.Mineral 49(1971),5-7を参照されたい)、ナトリウムをカリウムと交換することも可能である。
【0097】
含有チタンは、水溶液およびアルカリ液中で二酸化チタンとして沈殿し、耐加水分解性の測定に影響を及ぼさない。
【0098】
1モルのナルサルスカイトは、1モルの(NaO・TiO・4SiO)/6を意味すると理解される。本発明によるガラス中のナルサルスカイトの含有量は0~20モル%である。本発明によるガラス中の好ましい割合は、最大でも10モル%、最大でも5モル%または最大でも2モル%である。特定の実施形態では、ガラスはナルサルスカイトを含んでいなくてもよく、特に、ナルサルスカイトの含有量は、酸化ホウ素および/またはケイ酸亜鉛二ナトリウムの含有量よりも少なくてよい。
【0099】
ケイ酸亜鉛二ナトリウム
結晶として、ケイ酸亜鉛二ナトリウムは、ケイ素四面体と亜鉛四面体の三次元網目構造であり、その間のボイドに少なくとも7重配位のナトリウム原子がある。この構造はイオン移動度を支持する(K.-F.Hesse,F.Liebau,H.Boehm,Disodiumzincosilicate,NaZnSi,Acta.Cryst.B33(1977),1333-1337を参照されたい)。カリウム類似体が存在するので(W.A.Dollase,C.R.Ross II,Crystal Structure,of KZnSi,Zeitschrift fuer Kristallographie 206(1993),25-32を参照されたい)、カリウムをナトリウムと交換することが容易に可能であるが、大きなボイドは、イオン交換時の構造の大きな「膨張」を示唆するものではないので、表面上で高い圧縮強化が所望される場合には、ケイ酸亜鉛二ナトリウムの割合は制限されていなければならない。
【0100】
含有亜鉛は、両性水酸化亜鉛として、耐加水分解性の測定においてpH値にほとんど影響を及ぼさない。中性水溶液には難溶性である;しかしながら、溶解度限界は、耐加水分解性の測定において生じる濃度をはるかに超えている。
【0101】
1モルのケイ酸亜鉛二ナトリウムは、1モルの(NaO・ZnO・3SiO)/5を意味すると理解される。本発明によるガラス中のケイ酸亜鉛二ナトリウムの含有量は0.1モル%~30モル%である。
【0102】
本発明によるガラス中の好ましい割合は、少なくとも0.4モル%、少なくとも8モル%または少なくとも10モル%である。好ましい実施形態では、含有量は、最大25モル%、最大21モル%、最大20モル%または最大16モル%である。
【0103】
酸化ホウ素、コージエライト、ダンビュライト
これまでに述べた全ての6つの構成相はアルカリを含む。アルカリ含有ガラスは、アルカリ含有量のレベルに応じて、高い膨張係数(例えば8~10ppm/K)を有する。平均膨張係数も可能にするために、その寄与が膨張係数を大幅に下げる(B、SiO)か、平均値にシフトさせる相が添加される。そのうえ、構成相としての純粋な酸化ホウ素は、耐亀裂性に大きな影響を及ぼす;これは、それに伴うボロキソール環の発生に関連している。
【0104】
耐アルカリ性、耐加水分解性、耐酸性に関しては、これらの更なる相の挙動が異なるため、混合物が望ましい。必要に応じてガラスに提供される純粋な酸化ホウ素は、耐アルカリ性および耐酸性の低下につながる。さらに、純粋な酸化ホウ素は、耐加水分解性の増加をもたらし、アルカリ土類金属アルミノケイ酸塩は減少をもたらす。アルカリ土類金属化合物は、耐加水分解性の測定においてpH値に影響を及ぼす。対応する水酸化物は、中性水溶液およびアルカリ液には難溶性である;しかしながら、溶解度限界は、耐加水分解性の測定において生じる濃度をはるかに超えている。
【0105】
構成相としてのBの割合(これは、例えばリードマーグネライトに含まれるホウ素割合を明示的に含まない)は、本発明によれば0モル%~4モル%、特に少なくとも0.1モル%、好ましくは少なくとも0.5モル%である。好ましくは、含有量は3モル%までまたは2モル%までである。
【0106】
構成相としての酸化ホウ素の最小含有量は、ガラスまたはガラスで作られたガラス物品、特に薄板ガラス物品の耐衝撃性を改善することができる。ガラス中のボロキソール環は、材料の弾性を改善し、それにより機械的安定性を高めると考えられる。ボロキソール環は、グラファイトから知られているように、互いに潤滑層を形成することができる。耐衝撃性は、ペン落下試験(Pen Drop-Test)で測定することができる。対応する試験方法は、当業者に知られている。試験は以下のとおり実施することができる。ガラス物品は、金属板、例えば0.5mm厚さの鋼板に取り付ける。炭化タングステンの5gのボールをガラス物品の上に10mmの高さで配置し、ガラス物品の上に落下させる。高さは、例えば1mm単位で広げ、ボールを再び落下させる。ガラス物品が破損するまで実験を繰り返す。物品が破損しない最終的な高さが、物品のペン落下の高さである。本明細書でペン落下高さの値が与えられている場合、30回の測定からの算術平均を意味する。1モルのコージエライトは、1モルの(2MgO・2Al・5SiO)/9を意味すると理解される。本発明によるガラス中のコージエライトの割合は0~20モル%である。本発明によるガラス中の好ましい割合は、15モル%までまたは12モル%までである。有利には、コージエライトの含有量は、少なくとも3モル%または少なくとも6モル%である。
【0107】
好ましい実施形態では、酸化ホウ素に対するコージエライトのモルパーセントにおける比は、少なくとも3、特に少なくとも4である。代替的にまたは追加的に、この比は25または20の値を上回らないことが有利には適用される。1つの実施形態では、コージエライトの割合は、ガラス中のオーソクレースの割合を超える。1つの実施形態では、リードマーグネライト、アルバイトおよびコージエライトの割合の合計は少なくとも70モル%である。
【0108】
1モルのダンビュライトは、1モルの(CaO・B・2SiO)/4を意味すると理解される。本発明によるガラス中のダンビュライトの割合は、0~20モル%である。本発明によるガラス中の好ましい割合は、最大でも10モル%、最大でも5モル%または最大でも2モル%である。
【0109】
1つの実施形態では、ガラスは、ナルサルスカイト、パラケルディシットおよび/またはダンビュライトを含まない。
【0110】
更なる成分
既に述べた成分に加えて、ガラスは、本明細書で「残分」と呼ばれる更なる成分を含有してもよい。本発明によるガラスの残分の割合は、適切なベースガラスを慎重に選択することによって設定されるガラス特性を乱さないために、有利には最大でも3モル%である。特に、個々の酸化物、特に二酸化リチウムの含有量は、最大1.5モル%に制限される。特に好ましい実施形態では、ガラス中の残分の割合は、最大でも2モル%、より好ましくは最大でも1モル%または最大でも0.5モル%である。残分は、本明細書に記載のベースガラスに含まれない酸化物を特に含む。したがって、残分は、SiO、Al、ZrO、TiO、ZnO、MgO、CaO、SrO、BaO、NaOまたはKOを特に含まない。
【0111】
本明細書においてガラスが成分もしくは構成相を含まないか、または特定の成分または構成相を含まないとされる場合、この成分または構成相は、せいぜいガラス中の不純物として存在し得ることを意味する。これは、実質的な量で添加されていないことを意味する。実質的でない量は、本発明によれば、1000ppm(モル)未満、または300ppm(モル)未満、好ましくは100ppm(モル)未満、特に好ましくは50ppm(モル)未満、最も好ましくは10ppm(モル)未満の量である。本発明のガラスは、鉛、ヒ素、アンチモン、ビスマスおよび/またはカドミウムを特に含まない。
【0112】
式中で残分は生じない。pH値の式を除いて、全ての公式は、構成相からなる割合が100%になるように与えられている。pH値の式において、残分は無視されている。
【0113】
酸化物組成への変換後、本発明のガラス中のPの割合は、好ましくは4モル%未満、より好ましくは3モル%未満、さらにより好ましくは2モル%未満、さらにより好ましくは1モル%未満、さらにより好ましくは0.5モル%未満である。特に好ましくは、ガラスはPを含まない。
【0114】
酸化物組成への変換後、本発明のガラス中のCaOのモル割合に対するBのモル割合の比は、好ましくは少なくとも1、さらに好ましくは少なくとも1.1である。
【0115】
酸化物組成への変換後、本発明のガラス中のMgOのモル割合に対するAlのモル割合の比は、好ましくは少なくとも1、さらに好ましくは少なくとも1.1である。
【0116】
酸化物組成への変換後、本発明のガラス中のKOのモル割合に対するAlのモル割合の比は、好ましくは少なくとも1、さらに好ましくは少なくとも1.1である。
【0117】
酸化物組成への変換後、本発明のガラス中のSrOおよび/またはBaOの割合は、好ましくは最大でも3モル%、さらに好ましくは最大でも2モル%、さらに好ましくは最大でも1モル%、さらに好ましくは最大でも0.5モル%である。特に好ましくは、ガラスはSrOおよび/またはBaOを含まない。
【0118】
酸化物組成への変換後、本発明のガラス中のLiOの割合は、好ましくは最大でも4モル%、さらに好ましくは最大でも3モル%、さらに好ましくは最大でも2モル%、さらに好ましくは最大でも1モル%、さらに好ましくは最大でも0.5モル%である。特に好ましくは、ガラスはLiOを含まない。
【0119】
酸化物組成への変換後、本発明のガラス中のフッ素の割合は、好ましくは最大でも4モル%、さらに好ましくは最大でも3モル%、さらに好ましくは最大でも2モル%、さらに好ましくは最大でも1モル%、さらに好ましくは最大でも0.5モル%である。特に好ましくは、ガラスはフッ素を含まない。
【0120】
好ましいガラス組成
好ましい実施形態は、上述のベース系の範囲で、所望の熱膨張および所望のナトリウム濃度の規準値から生じる。
【0121】
本発明による課題の解決策は、規準値を維持しながら、アルカリ性媒体中での低い除去速度(上記のISO 695を参照されたい)、低いpH値および高い耐酸性の組合せを達成することである。これは上記式(1)~(6)を使って行われる。本明細書において、耐酸性指数、ISO 695に従った除去速度、CTEおよび/またはpH値について言及する場合、他に明記されない限り、それらは常に計算値を意味する。
【0122】
好ましい組成は、ガラスを構成する以下の相によって特徴付けられる:
【表10】
【0123】
製造
本発明のガラスの、以下の工程を有する製造方法も、本発明によるものである:
- ガラス原料を溶融する工程、
- 任意に、溶融ガラスからガラス物品、特にガラス管、ガラスリボン、またはガラス板を形成する工程、
- ガラスを冷却する工程
を有する。
【0124】
ガラスの形成は、引き上げ法、特に管引き上げ法または板ガラスの引き上げ法、例えば、特にダウンドロー法、例えばスロットダウンドロー法またはオーバーフローフュージョン法を含み得る。
【0125】
冷却は、冷却剤、例えば冷却液を使用した能動的な冷却であり得るか、または受動冷却によって実施することができる。有利には、平均して少なくとも400K/分×600μm/ガラス物品厚さの冷却速度が望ましく、好ましくは平均して少なくとも450K/分×600μm/ガラス物品厚さの冷却速度が望ましい。例えば、厚さ100μmのガラス物品の冷却速度は、少なくとも2400K/分、有利には2700K/分である必要がある。これは、付形の目標厚さを指して言う。冷却速度が速いと、イオン交換性が向上する。なぜなら、こうして冷却されたガラスは、ゆっくりと冷却されたガラスよりも高い仮想温度ひいては低い密度を有するからである(米国特許第9914660号明細書(US 9,914,660 B2)を参照されたい)。さらに、この場合に好ましい引き上げ法では引き上げ速度と相関するより高い冷却速度が、こうして製造されたガラスのうねりおよび反り(「warp」)を最小限にするためのより管理しやすいプロセスをもたらすことがわかった。この観察の可能な説明は、ガラスが粘弾性材料であり、これは同じ温度で無限に遅いプロセスの境界例では粘性液体のように挙動し、無限に速いプロセスの境界例では弾性固体のように挙動するということである。したがって、高速プロセスでは、引き上げプロセスにおいてガラス物品をスムーズに引き上げることができる。
【0126】
ただし、冷却速度が極端に速いとガラスに応力が生じる可能性があり、ガラスに誤差が生じる可能性があることに留意されたい。薄板ガラスの引き上げにおいては、薄板ガラス物品の有用な部分は両側、いわゆる(ガラスの)耳の2つの増厚部の間にあることができ、ガラスの引き上げは、(ガラスの)耳の機械的操作によって行われることに留意されたい。(ガラスの)耳とガラスの有用な部分との間の温度差は大きすぎてはならない。したがって、好ましい実施形態では、冷却速度は、平均して最大でも1000K/分×600μm/ガラス物品厚さに制限される。これは、付形の目標厚さを指して言う。
【0127】
前の段落で説明した冷却速度は、溶融ガラスが温度T1から温度T2に冷却される平均冷却速度に関し、ここで、温度T1は、ガラスのガラス転移温度Tよりも少なくとも高く、温度T2は、T1よりも少なくとも150℃低い。
【0128】
本発明のガラスは、有利には、バルクガラスと、ガラスから製造されたガラス物品の表面との間の特性勾配によって特徴付けられる。本明細書に記載されるガラスのガラス物品も本発明の一部である。
【0129】
本発明によれば、「表面」は、ガラス/空気界面に近いガラスの部分を意味すると理解される。表面を形成するガラスは、ここでは「表面ガラス」と呼ばれる;さらに内側にある残りのガラスは、ここでは「バルクガラス」と呼ばれる。表面とバルクとの正確な境界を定めることは困難であり、それゆえ本発明では、表面ガラスは約6nmの深さで存在すると定義される。その結果、深さ約6nmの表面ガラスの特性が決定される。ガラス組成は、より深いところでは製造を通して変化しないため、バルクガラスの特性が計算により突き止められる。いずれにしても、バルクガラスは深さ500nmで存在する。表面は、ガラス製造中の特定の措置によって好影響が生じ得る。表面ガラスの特性は、表面上で測定されるガラスの特定の特性にとって重要である。これらには、特に耐アルカリ性および耐加水分解性が含まれる。約6nmの深さにおける表面ガラスの組成は、Cs-TOF-SIMSによって1000eVで測定され得る。
【0130】
本発明によるガラスの製造中に生じる表面材料の損失は、ナトリウムおよびホウ素の大部分に影響を及ぼすことが判明した。ナトリウムは、本発明によるガラスでは、とりわけリードマーグネライトおよびアルバイトに割り当てられる。ホウ素は、本発明によるガラスでは、例えばリードマーグネライトに割り当てられるか、または固有の構成相Bとして存在する。さらに、ナトリウム、ホウ素およびその他の構成成分の損失と引き換えにケイ素の相対的な表面での濃縮が行われることが判明した。ただし、これは制限値内でのみ望ましい。
【0131】
独国特許出願公開第102014101756号明細書(DE 10 2014 101 756 B4)によれば、特にナトリウムイオンの表面での減少は、耐加水分解性にとって好ましい。ただし同時に、この減少は、脆弱性または角度自由度の数および熱膨張係数にも影響を及ぼす。後者は、個々のカチオンの正規化された割合d/Σdとの関係が明確になるように、平均ポテンシャル井戸深さの上記式(7)を再定式化すると特に明確になる:
【数8】
【0132】
明らかに、平均ポテンシャル井戸深さの計算は、表8による低いポテンシャル井戸深さを有するカチオンの割合が低下すると、表面範囲のより高い値につながる。これは、表面での熱膨張係数が低く、ひいては内部と表面上での膨張係数が異なることを意味する。
【0133】
有利には本発明のガラスが供される熱間成形が前提となって、ガラス組成の変化が表面上で生じる。この変化は、バルクガラスと比較して表面ガラスの熱膨張の差異につながる。組成に基づき、かつ製造方法の好ましい態様と組み合わせて、本発明によるガラスは、表面上に約6nmの深さで、式(8)に従ってCs-TOF-SIMSを用いて測定された組成から計算された、バルクガラスの熱膨張係数の少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、少なくとも70%または少なくとも80%の熱膨張係数(CTE)を有することが可能であり、本発明によれば特に有利である。耐加水分解性の観点に関して、式(8)に従って計算された表面上の熱膨張は、約6nmの深さで、バルクガラスの熱膨張と比較して、最大でも99%、特に最大でも98%または最大でも95%である。これらの値は、特にガラスの製造直後に測定することができる。
【0134】
ガラスの表面上の特定のガラス成分の損失ひいては熱膨張も、ガラス組成だけでなく、製造方法にも依存する。特に、ガラス物品の成形時に水蒸気分圧を調整することにより、遊離Bの損失を調整することができる。より高い水蒸気分圧では、より多くの酸化ホウ素がメタホウ酸の形態で蒸発すると言える。同様に、引き上げ速度を上げて水蒸気の分圧を下げることにより、表面ガラスの熱膨張にも影響を及ぼすことができる。したがって、当業者は所望の特性を調整することができる。
【0135】
本発明のガラスは、ガラス物品の形態、特に板ガラスまたはガラスシートの形態で存在してよく、少なくとも1つ、特に2つの火炎研磨された表面を有し得る。「火炎研磨された表面」は、特に低い粗さを特徴とする表面である。本発明による製造方法は、特別な表面仕上げを有するガラス製品を製造することを可能にする。ガラス製品は、使用可能な製造方法に基づき、少なくとも1つ、特に2つの火炎研磨された表面を有する。機械研磨とは対照的に、表面は火炎研磨中に摩耗除去されず、被研磨材料は、滑らかに流れるほど非常に高温に加熱される。それゆえ、火炎研磨によって滑らかな表面を製造するためのコストは、機械的に研磨された表面を製造する場合よりも大幅に低くなる。火炎研磨された表面の粗さは、機械的に研磨された表面の粗さよりも低くなる。「表面」とは、成形ガラス物品に関して、上面および/または下面、つまり、他の面と比較して最大の2つの側面を意味する。
【0136】
本発明のガラスの火炎研磨された表面は、有利には、最大でも5nm、好ましくは最大でも3nm、特に好ましくは最大でも1nmの二乗平均平方根粗さ(RqまたはRMS)を有する。ガラスの表面粗さRtは、有利には最大でも6nm、さらに好ましくは最大でも4nm、特に好ましくは最大でも2nmである。
【0137】
粗さ深さは、DIN EN ISO 4287に従って決定される。本発明による粗さRaは、好ましくは1nm未満である。
【0138】
機械的に研磨された表面の場合、粗さの値は悪化する。さらに、機械的に研磨された表面の場合、原子間力顕微鏡(AFM)で研磨軌跡が識別可能である。さらに、ダイヤモンドパウダー、酸化鉄および/またはCeOなどの機械研磨剤の残留物もAFMで同様に識別することができる。機械的に研磨された表面は、研磨後に常に洗浄しなければならないため、特定のイオンの浸出がガラスの表面上で生じる。特定のイオンのこの減少は、二次イオン質量分析(ToF-SIMS)によって検出することができる。そのようなイオンは、例えば、Ca、Zn、Baおよびアルカリ金属である。
【0139】
使用およびガラス物品
ガラスに加えて、ガラスから形成されたガラス物品、例えばガラスリボン、ガラスシート、ガラスウェハ、ガラス管および容器(ボトル、アンプル、カートリッジ、注射器など)、ならびに化学強化用のガラスの使用およびガラス管および医薬品容器、特に一次包装の製造用の使用も、本発明によるものである。ガラス物品は、医薬製品の包装手段として、特に液体用の容器として使用することを好ましくは意図している。これらの使用の範囲で、耐加水分解性および耐アルカリ性が特に重要である。
【0140】
好ましいガラス物品は、2mm未満、特に1mm未満、500μm未満、200μm未満、100μm未満、さらには50μm未満の厚さ(この厚さは、例えば医薬品容器の肉厚を指し得る)を有する。特にそのような薄いガラスの場合、本発明のガラスは、従来技術の同様のガラスと比較してアルバイトが少ないので適している。交換深さの付随的な損失は、これらの非常に薄いガラスにおいて許容される。
【0141】
1つの実施形態では、ガラス物品は、少なくとも20mm、少なくとも30mm、少なくとも40mm、少なくとも50mm、少なくとも60mm、少なくとも70mm、少なくとも80mmまたは少なくとも90mmのペン落下高さを有する。
【0142】
ガラス物品は、有利には、少なくとも400K/分×600μm/ガラス物品厚さの冷却速度Kを伴う温度T1から温度T2への連続冷却に対応する冷却状態を有し、ここで、温度T1は、ガラスのガラス転移温度Tよりも少なくとも高く、温度T2は、T1よりも少なくとも150℃低い。好ましい実施形態では、Kは、少なくとも450K/分×600μm/ガラス物品厚さである。Kは、最大でも1000K/分×600μm/ガラス物品厚さに制限されていてよい。これは、付形の目標厚さを指して言う。対応する冷却速度は、米国特許第9914660号明細書(US 9,914,660 B2)に記載されているように、ガラス物品で簡単に測定することができる。冷却速度に関してそこに示される関係および説明は、本発明にも適用される。特に、より速く冷却されたガラス物品は、より遅く冷却されたガラス物品よりも密度が低くなる。
【0143】
従来技術からの比較例
以下、多数の従来技術からのガラス組成物を、これらの組成物が本発明のベースガラス系を使って説明することが可能であるかどうか、もしそうであれば、組成範囲が重複するかどうかについて調べる。
【0144】
比較例1
第1の比較例は、以下の組成を有する市販のガラスである:
【表11】
【0145】
本発明のベースガラス系による構成相への変換により次の結果が得られる:
【表12】
【0146】
つまり、このガラスは、本発明によるベース系に含まれるが、構成相の割合に関する条件は満たさない。さらに計算することで次の結果が得られる:
1.耐酸性指数215.11
2.ISO 695に従った耐アルカリ性の計算値113.94mg/(dm3h)
3.膨張係数の計算値8.03ppm/K
4.pH値は8.96である。
【0147】
耐酸性指数は215を超えるので、ガラスは本発明の目的にとって好ましい耐酸性を有していない。
【0148】
比較例2~9
比較例2~9は、独国特許出願公開第102015116097号明細書(DE 10 2015 116097 A1)から引用している。独国特許出願公開第102015116097号明細書(DE 10 2015 116097 A1)は、耐加水分解性の高い化学強化可能なガラスを教示している。独国特許出願公開第102015116097号明細書(DE 10 2015 116097 A1)は、そこにV1~8として記載されている以下の比較例の欠点を議論することにより、これまでの一般的な従来技術とは区別される。これらの組成は次のとおりである:
【表13】
【0149】
構成相への変換から、組成物V1~V8のいずれも本発明によるベース系には含まれないことがわかる。
【0150】
比較例10~17
比較例10~17は、独国特許出願公開第102015116097号明細書(DE 10 2015 116097 A1)のそこでの発明に対応し、明細書中でガラス1~8として表される実施例である。これらの組成は次のとおりである:
【表14】
【0151】
構成相への変換から、組成物1~8のいずれも本発明によるベース系には含まれないことがわかる。
【0152】
比較例18~162
比較例18~162は、米国特許第9783453号明細書(US 9,783,453 B2)のそこでの発明に対応し、明細書中で通し番号1~145で表される実施例である。これらは全て少なくとも4モル%のPを含み、本発明によるベース系には含まれない。
【0153】
比較例163~213
比較例163~213は、米国特許出願公開第2015/030827号明細書(US 2015/030827 A1)のそこでの発明に対応し、明細書中で通し番号A1~A27ならびにC1~C24で表される実施例である。これらは全て8%未満のNaOを含み、本発明によるベース系には含まれない。
【0154】
比較例214~261
比較例214~261は、米国特許第9701580号明細書(US 9,701,580 B2)のそこでの発明に対応し、明細書中で通し番号1~48で表される実施例である。独立請求項1によれば、59モル%~76モル%のSiO、16モル%~20モル%のAl、0モル%のB、0モル%~20モル%のLiO、12.3モル%~20モル%のNaO、0モル%~8モル%のKO、0モル%~10モル%のMgOおよび0モル%~10モル%のZnOを有するガラスからのガラス製品が特許請求され、Al(モル%)-NaO(モル%)≧-4モル%;さらに、ガラスについては「液相線粘度」(この概念は、液相線点の粘度を意味すると理解される)の特定の範囲の値(20~64キロポアズ)、ガラス製品については表面で1.1GPaの最小値を有するプレストレスが求められる。
【0155】
米国特許第9701580号明細書(US 9,701,580 B2)に記載されている例の中で、番号1~6を次の表で説明する。番号7~10は全て15%を超える酸化アルミニウムを含み、本発明によるベース系には含まれない。番号11~16については、次の表で説明する。番号17~20は全て15%を超える、さらには16%を超える酸化アルミニウムを含み、本発明によるベース系には含まれない。番号21~26は全て酸化ホウ素が同時に存在しない状態で7%を超える酸化カルシウムを含み、本発明によるベース系には含まれない。番号27~40は全て14%を超える酸化アルミニウムを含み、本発明によるベース系には含まれない。番号41~48は全て3%を超える酸化ストロンチウムまたは酸化バリウムを含み、本発明によるベース系には含まれない。
【表15】
【0156】
構成相への変換から、組成物1~6のいずれも本発明によるベース系には含まれないことがわかる。
【表16】
【0157】
構成相への変換から、米国特許第9701580号明細書(US 9,701,580 B2)において11~13で表される比較例は、本発明によるベース系には含まれない。米国特許第9701580号明細書(US 9,701,580 B2)において14~16で表される比較例も同様に、本発明によるベース系には含まれない。
【0158】
比較例262~354
比較例262~354は、米国特許第9156725号明細書(US 9,156,725 B2)のそこでの発明に対応し、明細書中で通し番号1~93で表される実施例である。独立請求項1によれば、55モル%のSiO、当該請求項では定量化されていないAlの割合、10モル%未満のLiO、当該請求項では定量化されていないNaOの割合、ならびに当該請求項では定量化されていないMgO、CaOおよび/またはZnOの割合を有するガラスが特許請求され、ここで、液相線点の粘度は、少なくとも200キロポアズであり、弾性率は少なくとも80GPaである。
【0159】
番号1~93は全て4%を超える酸化リチウムを含み、本発明によるベース系には含まれていない。
【0160】
比較例355~589
比較例355~589は、米国特許第9517967号明細書(US 9,517,967 B2)のそこでの発明に対応し、明細書中で通し番号1~235で表される実施例である。米国特許第9517967号明細書(US 9,517,967 B2)は、独立請求項1において、50モル%のSiO、少なくとも10モル%のRO(そのうち少なくとも10パーセントポイントはNaOである)、12モル%~22モル%のAl、>0モル%~5モル%のB、少なくとも0.1モル%のMgOおよび/またはZnOを有するガラスが特許請求され、ここで、B(モル%)-(RO(モル%)-Al(モル%))≧4.5である。
【0161】
番号1は13%を超える酸化アルミニウムを含む。番号2~4は、次の表で説明する。番号5~8は13%を超える酸化アルミニウムを含み、本発明によるものではない。番号9~11は、次の表で説明する。番号12~24は13%を超える酸化アルミニウムを含む。番号25は、次の表で説明する。番号26は13%を超える酸化アルミニウムを含む。番号27は、次の表で説明する。番号28~30は13%を超える酸化アルミニウムを含む。番号31~32は、次の表で説明する。番号33~72は13%を超える酸化アルミニウムを含む。番号73~74は次の表で説明する。番号75~103は13%を超える酸化アルミニウムを含む。番号104~109は、次の表で説明する。
【表17】
【0162】
構成相への変換から、米国特許第9517967号明細書(US 9,517,967 B2)において2~4および9~11および25および27のそれぞれで表される比較例は、本発明によるベース系に含まれるが、ネフェリンの割合が高すぎることから、本発明による組成範囲には含まれないことがわかる。
【表18】
【表19】
【0163】
構成相への変換から、米国特許第9517967号明細書(US 9,517,967 B2)において31~32で表される比較例は、本発明によるベース系には含まれることがわかる。構成相への変換からさらに、米国特許第9517967号明細書(US 9,517,967 B2)において73~74および105~109で表される比較例は、本発明によるベース系には含まれないことがわかる。
【表20】
【0164】
これらのガラスにおける構成相としての酸化ホウ素の割合は、本発明によるガラスと比較して高すぎるため、その結果、なかでも耐アルカリ性が損なわれることがわかる。
【表21】
【0165】
構成相への変換から、米国特許第9517967号明細書(US 9,517,967 B2)において175~179で表される比較例は、本発明によるベース系には含まれるが、ネフェリンの割合が高すぎることから、本発明による組成範囲には含まれないことがわかる。
【表22】
【0166】
比較例590~612
比較例590~612は、米国特許出願公開第2014/050911号明細書(US 2014/050911 A1)のそこでの発明に対応し、明細書中で「ベースガラス」または通し文字A-Vで表される実施例である。これは独立請求項1において、少なくとも65モル%のSiOおよび少なくとも6モル%のNaOを有するガラスまたはガラス製品を特許請求し、ここで、ガラス転移点の上下の熱膨張係数の差は10.7ppm/K未満であり、ガラス製品は、厚さ400μm未満を有するシート(Scheibe)である。
【0167】
「ベースガラス」および文字A~Eを以下の表で説明する。文字F~Kは1.5%超の酸化リチウムを含み、本発明によるベース系には含まれない。文字L~Nは以下の表で説明する。
【表23】
【0168】
構成相への変換から、米国特許出願公開第2014/050911号明細書(US 2014/050911 A1)においてベースガラスまたはA~Nで表される比較例は、本発明によるベース系には含まれないことがわかる。
【0169】
比較例613~647
比較例613~647は、米国特許第9822032号明細書(US 9,822,032 B2)のそこでの発明に対応し、明細書中で通し番号1~35で表される実施例である。これは独立請求項1において、少なくとも65モル%のSiOおよび少なくとも6モル%のNaOを有するガラスまたはガラス製品を特許請求し、ここで、ガラス転移点の上下の熱膨張係数の差は10.7ppm/K未満であり、ガラス製品は、厚さ400μm未満を有するシートである。
【0170】
番号1~35を以下の表で説明する。
【表24】
【0171】
構成相への変換から、米国特許第9822032号明細書(US 9,822,032 B2)において1~7で表される比較例は、本発明によるベース系には含まれないことがわかる。
【表25】
【0172】
構成相への変換から、米国特許第9822032号明細書(US 9,822,032 B2)において8~11で表される比較例は、本発明によるベース系には含まれないことがわかる。構成相への変換からさらに、米国特許第9822032号明細書(US 9,822,032 B2)において12で表される比較例は、本発明によるベース系に含まれるが、その高いネフェリン含有量のために、本発明による組成範囲には含まれないことがわかる。構成相への変換からさらに、米国特許第9822032号明細書(US 9,822,032 B2)において13~14で表される比較例は、本発明によるベース系には含まれないことがわかる。
【表26】
【表27】
【0173】
構成相への変換から、米国特許第9822032号明細書(US 9,822,032 B2)において15で表される比較例は、本発明によるベース系には含まれないことがわかる。構成相への変換からさらに、米国特許第9822032号明細書(US 9,822,032 B2)において16~19で表される比較例は、本発明によるベース系に含まれることがわかる。ただし、ネフェリン含有量に関して、番号17のみが本発明による組成範囲に含まれる。しかしながら、含有するリードマーグネライトの割合が低すぎる。構成相への変換からさらに、米国特許第9822032号明細書(US 9,822,032 B2)において20~21で表される比較例は、本発明によるベース系には含まれないことがわかる。
【表28】
【表29】
【0174】
構成相への変換から、米国特許第9822032号明細書(US 9,822,032 B2)において22~23で表される比較例は、本発明によるベース系には含まれないことがわかる。構成相への変換からさらに、米国特許第9822032号明細書(US 9,822,032 B2)において24~28で表される比較例は、本発明によるベース系に含まれることがわかる。ただし、ネフェリン含有量に関して、番号24および26のみが本発明による組成範囲に含まれる。
【表30】
【0175】
計算した特性は次のとおりである:
【表31】
【0176】
番号24および26は、本発明の範囲においてISO 695で計算された除去速度に関して本発明によるものではない。
【表32】
【0177】
構成相への変換から、米国特許第9822032号明細書(US 9,822,032 B2)において29~35で表される比較例は、本発明によるベース系には含まれることがわかる。ただし、ネフェリン含有量に関して、番号29、32および34のみが本発明による組成範囲に含まれる。これらはケイ酸亜鉛二ナトリウムを有しない。
【表33】
【0178】
比較例648~869
比較例648~869は、米国特許出願公開第2015/147575号明細書(US 2015/147575 A1)のそこでの発明に対応し、明細書中で通し文字A~Eおよび通し番号1~217で表される実施例である。独立請求項1によれば、米国特許出願公開第2015/147575号明細書(US 2015/147575 A1)は、50モル%~72モル%のSiO、12モル%~22モル%のAl、6.5モル%までのB、1モル%までのP、11モル%~21モル%のNaO、0.95モル%までのKO、4モル%までのMgO、5モル%までのZnO、2モル%までのCaOからのガラスを特許請求し、ここで、NaO+KO-Al≒2.0モル、B-(NaO+KO-Al)>1モル%、24モル%<RAlO<45モル%、ここで、Rは、Na、KおよびAgの少なくとも1つの代表例であり、ガラスは本質的にTiOを含まない。米国特許出願公開第2015/147575号明細書(US 2015/147575 A1)の通し文字A~Eおよび通し番号1~56、58~95、97~120、122~128、130~137、139~151、155、157~169、171~173、176~182、184~185、188~191、193~200、203~204、206~217で表される例は、13%を超える酸化アルミニウムを含み、本発明によるベース系には含まれない。番号57、96、121、129、138、152~154、156、170、174~175、183、186~187、192、201~202、205は、以下の表で扱う。
【表34】
【0179】
構成相への変換から、米国特許出願公開第2015/147575号明細書(US 2015/147575 A1)において57、96、121、129、138、152、153で表される比較例は、本発明によるベース系には含まれるが、高いアルバイト含有量(>60%)またはネフェリン含有量(>20%)ゆえに、本発明による組成範囲には含まれない。
【表35】
【表36】
【0180】
構成相への変換から、米国特許出願公開第2015/147575号明細書(US 2015/147575 A1)において154、156、170、174、175、186、187で表される比較例は、本発明によるベース系には含まれるが、リードマーグネライト割合が低いために、本発明による組成範囲には含まれない。
【表37】
【表38】
【0181】
構成相への変換から、米国特許出願公開第2015/147575号明細書(US 2015/147575 A1)において192、201、202、205で表される比較例は、本発明によるベース系には含まれるが、本発明による組成範囲には含まれない。
【表39】
【0182】
比較例870~879
比較例870~879は、米国特許出願公開第2015/140299号明細書(US 2015/140299 A1)のそこでの発明に対応し、明細書中で通し番号1~10で表される例である。独立請求項1によれば、米国特許出願公開第2015/140299号明細書(US 2015/140299 A1)は、50~70モル%のSiO、5~12モル%のAl、5~35モル%のB、LiO、NaOおよびKOの少なくとも1つの代表例、ここで、1モル%≦LiO+NaO+KO≦15%、5モル%までのMgO、5モル%までのCaO、2モル%までのSrOを有するガラスを特許請求している。番号1~6は、8モル%未満の酸化ナトリウムを含み、本発明によるベース系には含まれない。番号7~10は以下の表で説明する。
【表40】
【0183】
構成相への変換から、米国特許出願公開第2015/140299号明細書(US 2015/140299 A1)において7で表される例は、本発明によるベース系には含まれないことがわかる。構成相への変換からさらに、米国特許出願公開第2015/140299号明細書(US 2015/140299 A1)において8~10で表される例は、本発明によるベース系に含まれるが、ケイ酸亜鉛二ナトリウムの含有量が低すぎることから、本発明による組成範囲には含まれない。
【表41】
【0184】
比較例880~1014
比較例880~1014は、国際公開第2015/031427号(WO 2015/031427 A2)のそこでの発明に対応し、明細書中で通し番号1~135で表される例である。番号1~128は全て13%を超える酸化アルミニウムまたは3%を超える酸化リンまたは両方を含む。番号129~134は以下の表で説明する。番号135は3%を超える酸化リチウムを含む。
【表42】
【0185】
構成相への変換から、国際公開第2015/031427号(WO 2015/031427 A2)において134で表される例は、本発明によるベース系には含まれないことがわかる。構成相への変換からさらに、国際公開第2015/031427号(WO 2015/031427 A2)において129~133で表される例は、本発明によるベース系には含まれるが、高いネフェリン含有量または低いリードマーグネライト含有量のために、本発明による組成範囲には含まれない。
【表43】
【0186】
比較例1015~1026
比較例1015~1026は、米国特許出願公開第2017/320769号明細書(US 2017/320769 A1)のそこでの発明に対応し、明細書中で通し番号1~12で表される実施例である。その独立請求項1において、この文献は、少なくとも約50モル%のSiO、少なくとも約10モル%のNaOおよびMgOを含むアルカリアルミノケイ酸塩ガラスを特許請求し、ここで、アルカリアルミノケイ酸塩ガラスは、KO、B、CaO、BaOおよびPの構成成分のうちの少なくとも1種を含まず、アルカリアルミノケイ酸塩ガラスは、5重量パーセントのHClの酸溶液に7時間浸漬したときに0.030mg/cm以下の質量損失をこうむる。番号1~7および10は以下の表で説明する。番号8、9、11、12は、1.5モル%超の酸化リチウムを含み、本発明によるベース系には含まれない。例1および7は、それぞれ1モル%の酸化リチウムを含み、これは残分に追加され、番号4は0.99%の酸化リチウムを含み、番号10は、1.02%の酸化リチウムを含み、これもそれぞれ残分に追加される。
【表44】
【0187】
構成相への変換から、米国特許出願公開第2017/0320769号明細書(US 2017/0320769 A1)において1~7および10のそれぞれで表される例は、本発明によるベース系に含まれない。
【0188】
比較例1027~1044
比較例1027~1044は、国際公開第2017/151771号(WO 2017/151771 A1)のそこでの発明に対応し、明細書中で通し文字A~Rで表される実施例である。それらは全て1.5モル%を超える酸化リチウムを含み、本発明によるベース系には含まれない。
【0189】
比較例1045~1056
比較例1045~1056は、米国特許出願公開第2016/251255号明細書(US 2016/251255 A1)のそこでの発明に対応し、明細書中で通し番号1~12で表される実施例である。それらは全て16モル%を超える酸化ナトリウムを含み、本発明によるベース系には含まれない。
【0190】
比較例1057~1060
比較例1057~1060は、独国特許出願公開第102013114225号明細書(DE102013114225)のそこでの発明に対応し、明細書中で通し番号A1~A4で表される実施例である。A1およびA4は、次の表で説明する。A2およびA3は、それぞれ5%のフッ素を含む。
【表45】
【0191】
構成相への変換から、A1、A4は本発明によるベース系には含まれないことがわかる。
【0192】
比較例1061~1086
比較例1061~1086は、米国特許出願公開第2017/0121220号明細書(US 2017/0121220 A1)のそこでの発明に対応し、明細書中で通し番号1~26で表される例である。この文献は、その独立請求項において、63~76質量%のSiO、0~2質量%のB、2~12質量%のMgO、1~8質量%のCaO、14.5~19質量%のNaO、0~3質量%のKOを有するガラスを特許請求している。例1~18および20は全て、モルパーセントに換算して、Alよりも多くのMgOを含み、本発明によるベース系には含まれない。例19および例21~26は、カルシウムを含んでいるが、ホウ素は含まず、同様に本発明によるベース系には含まれない。
【0193】
比較例1087~1105
比較例1087~1105は、米国特許出願公開第2017/0305789号明細書(US 2017/0305789 A1)のそこでの発明に対応し、明細書中で通し番号1~19で表される例である。この文献は、その独立請求項において、60~68モル%のSiO、8~12モル%のAl、6.4~12.5モル%のMgO、12~20モル%のNaO、0.1~6モル%のKO、0.001~4モル%のZrOを有するガラスを特許請求し、ここで、B、P、CaO、SrO、BaOの総含有量は0~1モル%であり、不等式2×Al/SiO≦0.4および0<KO/NaO≦0.3が満たされる。例1~17は、モルパーセントでAlよりも多くのMgOおよびKOを含み、本発明によるベース系には含まれない。例18は下記で説明する。例19は13モル%超のAlを含み、本発明によるベース系には含まれない。
【表46】
【0194】
構成相への変換から、米国特許出願公開第2017/0305789号明細書(US 2017/0305789 A1)において18で表される例は、本発明によるベース系には含まれないことがわかる。
【0195】
比較例1106~1126
比較例1106~1126は、米国特許出願公開第2017/0260077号明細書(US 2017/0260077 A1)のそこでの発明に対応し、明細書中で通し番号1-1~1-8および2-1~2-13で表される例である。この文献は、その独立請求項において、65~72質量%のSiO、3.6~8.6質量%のAl、3.3~6質量%のMgO、6.5~9質量%のCaO、13~16質量%のNaO、0~0.9質量%のKOを有する化学強化用のフロートガラスを特許請求し、ここで、2.2<(NaO+KO)/Al<5、厚さ0.1~2mmであり、表面上のスズ含有量の上限が示される。全ての例は、モルパーセントでAlよりも多くのMgOを含み、本発明によるベース系には含まれない。
【0196】
比較例1127~1141
比較例1127~1141は、米国特許出願公開第2017/0217825号明細書(US 2017/0217825 A1)のそこでの発明に対応し、明細書中で通し番号1~8で表される例および通し番号1~7で表される比較例である。この文献は、その独立請求項において、化学強化されたカバーガラスを有する構成部材を特許請求する。例1~4、6~7は、モルパーセントでAlよりも多くのMgOを含み、本発明によるベース系には含まれない。比較例1~4として表される更なる例は、モルパーセントでAlよりも多くのMgOを含み、本発明によるベース系のいずれにも含まれない。比較例5は、例5と同じ組成を有している。比較例6は、3モル%超のBaOを含み、本発明によるベース系には含まれない。同じことが、例5および8にも当てはまる。比較例7はNaOを含まない。
【0197】
比較例1142~1198
比較例1142~1198は、米国特許第8715829号明細書(US 8,715,829 B2)のそこでの発明に対応し、明細書中で通し番号1~57で表される例である。この文献は、その独立請求項において、50~74モル%のSiO、1~10モル%のAl、6~15モル%のNaO、4~15モル%のKO、6.5質量%~15モル%のMgO、0~0.5モル%のCaOおよび0~5モル%のZrOを有するガラスからの化学強化ガラスプレートを特許請求し、ここで、SiO+Al≦75モル%、12モル%<NaO+KO<25モル%、MgO+CaO<15モル%が適用され、ここで、プレート厚さは0.2~1mmである。例1~57は全て、Alと比較して非常に多くのMgOおよびKOを含んでいるため、>10モル%のアルバイト割合は可能ではなく、本発明によるベース系には含まれない。
【0198】
比較例1199~1221
比較例1199~1221は、米国特許第9060435号明細書(US 9,060,435 B2)のそこでの発明に対応し、明細書中で通し番号1~23で表される例である。この文献は、その独立請求項において、67~75モル%のSiO、0~4モル%のAl、7~15モル%のNaO、1~9モル%のKO、6~14モル%のMgOおよび0~0.7%のZrOを有し、71モル%<SiO+Al<75モル%、12モル%<NaO+KO<20モル%、CaO<1モル%であるガラスからの化学強化ガラスプレートを特許請求し、ここで、プレート厚さは<1mmである。例1~23は全て、Alと比較して非常に多くのMgOおよびKOを含んでいるため、>10モル%のアルバイト割合は可能ではなく、本発明によるベース系には含まれない。
【0199】
比較例1222~1236
比較例1222~1236は、米国特許出願公開第2017/0107141号明細書(US 2017/0107141)のそこでの発明に対応し、明細書中で通し番号E1~E15で表される例である。この文献は、その独立請求項において、61~75質量%のSiO、2.5~10質量%のAl、6~12モル%のMgO、0.1~8質量%のCaO、14~19質量%のNaO、0~1.8モル%のKOを有する化学強化可能なガラスを特許請求する。例E1~E15は、単純なソーダ石灰ガラスに属する例E10、E11を除いて、全てAlと比較して非常に多くのMgOおよびKOを含んでいるため、>10モル%のアルバイト割合は可能ではなく、本発明によるベース系には含まれない。E10およびE11は、1.5%超のCaOを含んでいるが、ホウ素は含まず、本発明によるベース系には含まれない。
【0200】
比較例1237~1241
比較例1237~1241は、米国特許第9890073号明細書(US 9,890,073 B2)のそこでの発明に対応し、明細書中で通し番号1-1~1-3ならびに「例1」および「例2」で表される例である。この文献は、その独立請求項において、60~75質量%のSiO、3.6~9質量%のAl、2~10質量%のMgO、0~10質量%のCaO、0~3質量%のSrO、0~3質量%のBaO、10~18質量%のNaO、0~8質量%のKO、0~3質量%のZrO、0~0.3質量%のTiO、0.005~0.2質量%のFe、0.02~0.4質量%のSOを有する化学強化可能なガラスを特許請求し、このガラスは同時に粘度および表面のOH含有量に関する特定の条件を満たす。全ての例はAlと比較して非常に多くのMgOおよびKOを含んでいるため、>10モル%のアルバイト割合は可能ではなく、本発明によるベース系には含まれない。
【0201】
比較例1242~1259
比較例1242~1259は、米国特許出願公開第2016/0355431号明細書(US 2016/0355431 A1)のそこでの発明に対応し、明細書中で通し番号1~18で表される例である。この文献は、その独立請求項において、60~75質量%のSiO、3~9質量%のAl、2~10質量%のMgO、3~10質量%のCaO、10~18質量%のNaO、0~4質量%のKO、0~3質量%のZrO、0~0.3質量%のTiO、0.02~0.4質量%のSOを有する化学強化可能なガラスを特許請求し、このガラスは同時に粘度および化学強化性に関する特定の条件を満たす。全ての例はAlと比較して非常に多くのMgOおよびKOを含んでいるため、>10モル%のアルバイト割合は可能ではなく、または1.5%超のCaOをホウ素なしで含んでおり、本発明によるベース系には含まれない。
【0202】
比較例1260~1283
比較例1260~1283は、米国特許出願公開第2016/0355430号明細書(US 2016/0355430 A1)のそこでの発明に対応し、明細書中で通し番号1~24で表される例である。この文献は、その独立請求項において、63~75質量%のSiO、3~12質量%のAl、3~10質量%のMgO、0.5~10質量%のCaO、0~3質量%のSrO、0~3質量%のBaO、10~18質量%のNaO、0~8質量%のKO、0~3質量%のZrO、0.005~0.25質量%のFeを有し、2≦(NaO+KO)/Al≦4.6の化学強化可能なガラスを特許請求し、これは同時に特定の条件を満たす。全ての例は、Alと比較して非常に多くのMgOおよびKOを含んでいるため、>10モル%のアルバイト割合は可能ではなく、または1.5%超のCaOをホウ素なしで含んでおり、本発明によるベース系には含まれない。
【0203】
比較例1284~1306
比較例1284~1306は、米国特許出願公開第2017/0001903号明細書(US 2017/0001903 A1)のそこでの発明に対応し、明細書中で通し番号1~23で表される例である。この文献は、その独立請求項において、60~72質量%のSiO、4.4~10質量%のAl、5~10.9質量%のMgO、0.1~5質量%のCaO、10~19質量%のNaO、0~3質量%のKOを有し、7≦RO≦11およびRO/(RO+RO)>0.2(ここで、ROは、全てのアルカリ土類金属酸化物の合計であり、ROは、全てのアルカリ金属酸化物の合計である)の化学強化可能なガラスを特許請求し、これは同時に特定の条件を満たす。全ての例はAlと比較して非常に多くのMgOおよびKOを含んでいるため、>10モル%のアルバイト割合は可能ではなく、本発明によるベース系には含まれない。
【0204】
比較例1307~1332
比較例1307~1332は、米国特許出願公開第2016/0083288号明細書(US 2016/0083288 A1)のそこでの発明に対応し、明細書中で通し番号1-1~1-8、2-1~2-14、3-1~3-2、4-1~4-2で表される例である。この文献は、その独立請求項において、65~72質量%のSiO、3.4~8.6質量%のAl、3.3~6質量%のMgO、6.5~9質量%のCaO、13~16質量%のNaO、0~1質量%のKO、0~0.2質量%のTiO、0.01~0.15質量%のFe、0.02~0.4質量%のSOを有し、1.8≦(NaO+KO)/Al<5である化学強化可能なガラスを特許請求する。全ての例は、1.5%超のCaOをホウ素なしで含んでおり、本発明によるベース系には含まれない。
【0205】
比較例1333~1423
比較例1333~1423は、米国特許第8518545号明細書(US 8,518,545 B2)のそこでの発明に対応し、明細書中で通し番号α1、α2およびA1~A27ならびに1~62で表される例である。この文献は、その独立請求項において、65~85モル%のSiO、3~15モル%のAl、5~15モル%のMgO、6.5~9質量%のCaO、5~15モル%のNaO、0~2モル%のKO、0~1モル%のZrOを有し、(SiO+Al)<88%およびD<0.18、ここで、D=12.8-0.123SiO-0.16Al-0.157MgO-0.163ZrO-0.113NaOである化学強化ガラスを特許請求する。例α1、α2、A1~A26、1~16、18、20~22、24~36、38~49、51~58では、KOおよびMgOの割合の合計はAlの割合を超えているか、または差が非常に小さいので、>10モル%のアルバイト割合は可能ではないので、これらの例は本発明によるベース系には含まれない。例19では、Al含有量は13%を超えるため、この例は、本発明によるベース系には含まれない。例A27、59および62は、ホウ素なしでカルシウムを含む。これらの例は、本発明によるベース系には含まれない。例17、23、37、50、60、61は以下の表で説明する。
【表47】
【0206】
構成相への変換から、これらのガラスは本発明によるベース系には含まれないことがわかる。
【0207】
比較例1424~1468
比較例1424~1468は、米国特許出願公開第2014/0364298号明細書(US 2014/0364298 A1)のそこでの発明に対応し、明細書中で通し番号1~45で表される例である。独立請求項1によれば、60~75モル%のSiO、5~15モル%のAl、7~12モル%のMgO、0~3%のCaO、0~3%のZrO、10~20%のLiO、0~8%のNaOおよび0~5%のKOを有し、ここで、LiO+NaO+KO<25%および0.5<LiO/(LiO+NaO+KO)<1である化学強化可能なガラスが特許請求される。番号1~45は全て10%を超える酸化リチウムを含み、本発明によるベース系には含まれない。
【0208】
比較例1469~1524
比較例1469~1524は、米国特許第9896374号明細書(US 9,896,374 B2)のそこでの発明に対応し、明細書中で通し番号1~56で表される例である。この文献は、その独立請求項1において、62~69モル%のSiO、11.5~14モル%のAl、0~14モル%のMgO、11~16モル%のNaO、0~2モル%のKO、0~2モル%のZrOを有し、ここで、NaO-Al<5%、X=41.5-0.4SiO-0.5Al-0.4MgO-0.4NaO<1.3、Z=2SiO+55Al+22NaO+15MgO-30-126O>870であるガラスが特許請求される。例2、3、5、6、8~12、22~26、31~37では、Al割合>13%またはNaO割合>16%である。これらの例は、本発明によるベース系には含まれない。例16、17、19、20、21、27、48、49では、コージエライト割合は30%超であり、またはホウ素なしでカルシウムが存在する。これらの例は、本発明によるベース系には含まれない。例1、4、7、13、14、15、18、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、50、52、53、54、55、56は以下の表で説明する。
【表48】
【0209】
構成相への変換からにわかることはさらに、米国特許第9896374号明細書(US 9,896,374 B2)において13、29、38、39、41、43、47、50、54で表される例は、本発明によるベース系には含まれないことである。
【表49】
【0210】
構成相への変換からわかることはさらに、米国特許第9896374号明細書(US 9,896,374 B2)において1、4、7、18、30、40、42~46、52、53、55で表される例は、本発明によるベース系には含まれないことである。
【0211】
比較例1525~1543
比較例1525~1543は、欧州特許第2474511号明細書(EP 2 474 511 B1)のそこでの発明に対応し、明細書中で通し番号1~19で表される例である。それらは全て本発明によるベース系には含まれない。
【0212】
本発明の実施例
【表50】
【0213】
計算した特性は次のとおりである:
【表51】