(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-26
(45)【発行日】2023-11-06
(54)【発明の名称】スクロール圧縮機
(51)【国際特許分類】
F04C 18/02 20060101AFI20231027BHJP
F04C 29/00 20060101ALI20231027BHJP
【FI】
F04C18/02 311P
F04C29/00 E
(21)【出願番号】P 2019146112
(22)【出願日】2019-08-08
【審査請求日】2022-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】316011466
【氏名又は名称】日立ジョンソンコントロールズ空調株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】新村 修平
(72)【発明者】
【氏名】中野 泰典
(72)【発明者】
【氏名】上橋 佑介
【審査官】所村 陽一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-118893(JP,A)
【文献】特開平03-115791(JP,A)
【文献】国際公開第2014/103204(WO,A1)
【文献】特開2010-180703(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 18/02
F04C 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケース内に、固定スクロールと旋回スクロールを噛み合わせて構成される圧縮機構部と、この圧縮機構部を駆動するための電動機部と、この電動機部の回転力を圧縮機構部に伝達するためのクランクシャフトと、該クランクシャフトを支持するすべり軸受で構成された主軸受と、この主軸受を保持すると共に、前記旋回スクロールとの間に背圧室を形成する主フレームを備えているスクロール圧縮機において、
前記主フレームの一部を前記旋回スクロール
の背面側に突出させて旋回スクロール背面と主フレームとの間にシール部を設けて、前記背圧室を、前記シール部よりも内径側の内側空間と、前記シール部よりも外径側の外側空間とに形成し、
前記背圧室の内側空間を形成している前記主フレームにおける前記主軸受の上端の外径側に異物を溜めるためのポケット部を形成し
、
前記ポケット部の上部に前記主フレームから内径側に突出する凸部を設けて前記ポケット部が形成され、前記凸部は前記主軸受の上端よりも上方に形成され、
前記凸部の下端面を前記旋回スクロールの旋回ボス部の下端面よりも上方に位置するように構成し、
前記主軸受は前記主フレームに形成された軸受支持部に設けられ、この軸受支持部における旋回スクロール側には薄肉部が設けられ、この薄肉部で前記主軸受の旋回スクロール側を支持する構成とし、
前記クランクシャフトは、前記主軸受に支持される主軸部と、前記旋回スクロールの背面に設けられた旋回軸受を有する前記旋回ボス部に挿入される偏心軸部と、前記主軸部の上端部に設けられた鍔部とを備え、前記軸受支持部における薄肉部の上端面で前記クランクシャフトの鍔部を支持する構成としていることを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項2】
請求項
1記載のスクロール圧縮機において、
前記主フレームの一部を前記旋回スクロール
の背面側に突出させて主フレーム台座部を設け、この主フレーム台座部の上端面に前記シール部を形成し、前記主フレーム台座部の内径側下部に前記凸部が設けられていることを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項3】
請求項1記載のスクロール圧縮機において、
前記主フレームを鋳物素材で製作することにより、前記ポケット部は鋳物素材で成形されていることを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項4】
請求項
1記載のスクロール圧縮機において、
前記薄肉部は前記主軸受の端部よりも旋回スクロール側に延長されていることを特徴と
するスクロール圧縮機。
【請求項5】
請求項
1記載のスクロール圧縮機において、
前記軸受支持部において、前
記薄肉部の厚さを、前記主軸受の中央から下方を支持する部分の厚さよりも薄く形成し、且つ前記薄肉部の軸方向の長さを該薄肉部の径方向の厚さよりも大きく構成していることを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項6】
請求項
1に記載のスクロール圧縮機において、
前記ポケット部の上端部にテーパ部を設け、前記ポケット部の上端と前記凸部との間を前記テーパ部で接続し、前記テーパ部の上端部は旋回スクロールの旋回ボス部の下端面よりも上方に位置するように構成していることを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項7】
請求項
2に記載のスクロール圧縮機において、
前記主フレーム台座部の内径を前記軸受支持部の薄肉部の外径よりも小さく構成していることを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項8】
請求項
1に記載のスクロール圧縮機において、
前記主軸受としてカーボン軸受を使用していることを特徴とするスクロール圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスクロール圧縮機に関し、特に、冷凍空調用などの冷媒圧縮機として好適なものである。
【背景技術】
【0002】
冷凍空調用などの冷媒圧縮機として使用されているスクロール圧縮機としては、例えば、特開平7-233790号公報(特許文献1)に記載のものがある。この特許文献1のものでは、密閉容器内に、固定スクロールと旋回スクロールを噛み合わせて構成される圧縮機構部と、この圧縮機構部を駆動するための電動機部と、この電動機部の回転力を圧縮機構部に伝達するためのクランクシャフトと、該クランクシャフトを微小隙間を介して保持するすべり軸受と、このすべり軸受を保持するためのフレームなどを備えている。
【0003】
また、特許文献1記載のスクロール圧縮機では、運転時に、ガス圧縮作用により前記クランクシャフトが傾斜するため、前記すべり軸受を薄肉のすべり軸受とし、軸受両端部分とその背面に対向するフレームとが接触しないようにして、すべり軸受の両端に変形可能な張出部分を形成している。このように構成することにより、前記クランクシャフトの傾斜に対し、薄肉のすべり軸受の両端部が追随して変形することができるようにして、すべり軸受の端部が片当たりするのを抑制し、すべり軸受の信頼性を確保している。
【0004】
この特許文献1のものでは、薄肉のすべり軸受の両端にフレームから張り出す張出部分を形成することにより、クランクシャフトの傾斜に対してすべり軸受の両端が変形可能な構成としている。このため、すべり軸受の材料として高い可撓性と強度が求められ、カーボン軸受などのように、硬度が高く摩耗しにくいので寿命は長いが、脆い特性を持つ軸受材は、可撓性が得られないために使用できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1のものでは、クランクシャフトとすべり軸受との摺動により発生する摩耗粉等の異物が、潤滑油と共に、旋回スクロール背面に形成された背圧室に流出し、ここから潤滑油と共に前記固定スクロールと前記旋回スクロールにより形成される吸込室や圧縮室に流入する。このため、固定スクロールと旋回スクロールとの摺動部に異物が流入するため、前記摺動部の摩耗を引き起こし、スクロール圧縮機の信頼性を低下させることに関しては配慮されていない。
【0007】
本発明の目的は、すべり軸受で発生する摩耗粉等の異物が固定スクロールと旋回スクロールとの摺動部に流入するのを抑制して、信頼性を向上できるスクロール圧縮機を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は、ケース内に、固定スクロールと旋回スクロールを噛み合わせて構成される圧縮機構部と、この圧縮機構部を駆動するための電動機部と、この電動機部の回転力を圧縮機構部に伝達するためのクランクシャフトと、該クランクシャフトを支持するすべり軸受で構成された主軸受と、この主軸受を保持すると共に、前記旋回スクロールとの間に背圧室を形成する主フレームを備えているスクロール圧縮機において、前記主フレームの一部を前記旋回スクロール背面側に突出させて旋回スクロール背面と主フレームとの間にシール部を設けて、前記背圧室を、前記シール部よりも内径側の内側空間と、前記シール部よりも外径側の外側空間とに形成し、前記背圧室の内側空間を形成している前記主フレームにおける前記主軸受の上端の外径側に異物を溜めるためのポケット部を形成していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、すべり軸受で発生する摩耗粉等の異物が固定スクロールと旋回スクロールとの摺動部に流入するのを抑制して、信頼性を向上できるスクロール圧縮機が得られる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明のスクロール圧縮機の実施例1を示す縦断面図である。
【
図3】
図1に示す主レームを拡大して示す断面図である。
【
図4】本発明のスクロール圧縮機の実施例2を示す図で、
図2に相当する図である。
【
図5】実施例2における副軸受付近の断面図である。
【
図6】本発明のスクロール圧縮機の実施例3を示す図で、
図3に相当する図である。
【
図7】本発明のスクロール圧縮機の実施例4を示す図で、背圧室付近の要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のスクロール圧縮機の具体的実施例を、図面に基づいて説明する。各図において、同一符号を付した部分は同一部分である。
【実施例1】
【0012】
本発明のスクロール圧縮機の実施例1を
図1~
図3を用いて説明する。
図1は本発明のスクロール圧縮機の実施例1を示す縦断面図、
図2は
図1に示す背圧室付近の要部拡大図、
図3は
図1に示す主レームを拡大して示す断面図である。
【0013】
まず、
図1を用いて本実施例1のスクロール圧縮機の全体構成について説明する。
スクロール圧縮機100は、縦型構造であり、ケース(密閉容器)1内に、圧縮機構部2、この圧縮機構部2の下方に設けられた電動機部3、及び前記電動機部3の回転力を前記圧縮機構部2に伝達するためのクランクシャフト(以下、シャフトともいう)4を備えている。
【0014】
前記圧縮機構部2は、前記ケース1に固定された主フレーム5と、鏡板6aに渦巻状のラップ6bを直立して形成すると共に中心部に吐出口6cを有する固定スクロール6と、鏡板7aに渦巻状のラップ7bを直立して形成すると共に、前記鏡板7aの背面中央に旋回軸受7cを有する旋回ボス部7dを設けている旋回スクロール7と、前記旋回スクロール7の自転を阻止して旋回運動をさせるオルダムリング8等により構成されている。
【0015】
前記固定スクロール6は数本のボルト(図示せず)により主フレーム5に結合されている。前記旋回スクロール7は、前記主フレーム5と前記固定スクロール6との間に挟持されるように配置され、前記固定スクロール6と互いにラップを噛み合わせて、吸込室9a及び圧縮室9bを形成している。
【0016】
前記圧縮室9bは、固定スクロール6と旋回スクロール7との間に複数形成され、前記圧縮機構部2は、固定スクロール6に対して旋回スクロール7を自転させずに旋回運動させることにより、前記圧縮室9bを外径側から内径側に向かって移動させながら次第に縮小させて圧縮動作を行う。
【0017】
前記主フレーム5には、前記旋回ボス部7dと前記オルダムリング8との間に、円筒形状に形成された主フレーム台座部(旋回スクロールとの接触部)5aが設けられている。この主フレーム台座部5aは前記主フレーム5の一部を前記旋回スクロール7の背面側に突出させることにより形成されており、この主フレーム台座部5aは、前記旋回ボス部7dと前記オルダムリング8に干渉しないようにその径方向の寸法が決められている。また、前記主フレーム台座部5aには、旋回スクロール7の鏡板7a背面との間をシールするシール部5bを設けている。
【0018】
前記シール部5bには、旋回スクロール7の背面と主フレーム台座部5aとの間をシールするOリング等のシール部材を設けても良いし、或いは前記主フレーム台座部5aの上端面と旋回スクロール7の背面との隙間を小さくして前記シール部5bとしても良い。
【0019】
本実施例においては、前記旋回スクロール7の背面側に、旋回スクロール7を固定スクロール6に押し付けるための圧力を形成する背圧室10が形成されており、この背圧室10は、前記主フレーム台座部5aにより、内側空間10aと外側空間10bの二つの空間に仕切られている。
【0020】
前記内側空間10aと前記外側空間10bは、前記シール部5bを介して連通しているので、前記内側空間(旋回ボス部内空間も含む)10aは、ほぼ吐出圧力に近い圧力となり、前記外側空間10bは、吐出圧力と吸込圧力との間の圧力(中間圧力)となる。
【0021】
前記電動機部3は、前記ケース1の内面に固定されたステータ3aと、前記ステータ3a内を回転するロータ3bを備え、前記ロータ3bは、前記クランクシャフト4と結合されている。また、3c、3dは前記ロータ3bの両端部側に設けられたバランスウェイト、3eはステータ3aの上下両端に設けられコイルが巻かれるインシュレータである。
【0022】
前記クランクシャフト4の上端部側には偏心軸部4aが設けられており、この偏心軸部4aは前記旋回スクロール7の背面中央に設けられた旋回ボス部7dの旋回軸受7cに挿入されている。前記旋回軸受7cはすべり軸受で構成されており、前記偏心軸部4aは前記旋回軸受7cと摺動する。
【0023】
前記クランクシャフト4の主軸部4bは、前記電動機部3の上部側で前記主フレーム5に設けられた主軸受11により支持され、前記電動機部3よりも下部側で副軸受12により支持されている。これら主軸受11及び副軸受12はすべり軸受で構成されている。また、前記副軸受12は、前記ケース1に固定された副フレーム13に設けられている。
【0024】
前記ケース1の内面底部には潤滑油が溜まる油溜り14が設けられている。前記クランクシャフト4には軸方向に貫通する貫通穴15が形成されており、このシャフト4の下端部は給油パイプ16を介して前記油溜り14に浸漬されている。
【0025】
17は冷凍サイクル(図示せず)から戻った低圧冷媒ガスを前記圧縮機構部2の吸込室9aに導入するための吸入管、18は前記圧縮機構部2で圧縮されて固定スクロール6の吐出口6cからケース1の上部の吐出室19に吐出された高圧冷媒ガスを前記冷凍サイクルに送り出すための吐出管である。
【0026】
各摺動部等を潤滑して圧縮室9bに流入した潤滑油も、圧縮された冷媒ガスと共に前記吐出口6cから吐出されるが、前記吐出室19に吐出された潤滑油は冷媒ガスとは分離されて、ケース1底部の油溜り14に溜められる。即ち、前記吐出室19と前記油溜り14とは、前記主フレーム5の外周面に形成された軸方向の連通溝(図示せず)や前記ステータ3aの外周面に形成された軸方向の連通溝(図示せず)等を介して連通しており、油溜り14は吐出圧力の雰囲気となっている。また、前記吐出室19に吐出された油は前記主フレーム5や前記ステータ3aに形成されている前記連通溝等を介して油溜り14に戻されるように構成されている。
【0027】
前記油溜り14の油は前記給油パイプ16及び前記貫通穴15を介して、圧力差等により、旋回スクロール7の旋回ボス部7d内に供給される。その後この油は、前記旋回軸受7c、前記主軸受11、前記オルダムリング8等を潤滑し、一部の油は吸込室9aから圧縮室9bに流れて、固定スクロール6と旋回スクロール7との摺動面を潤滑するように構成されている。
【0028】
また、前記背圧室10の内側空間10aはほぼ吐出圧力となり、外側空間10bは吸込圧力と吐出圧力の間の圧力(中間圧力)となるので、これらの背圧室圧力により旋回スクロール7を固定スクロール6に押し付ける押付力が発生する。
【0029】
上述したように構成されているスクロール圧縮機では、クランクシャフト4の旋回スクロール7を駆動する側の偏心軸部4a側は、主軸受11から圧縮機構部2側に突出した片持ち支持となる。また、一般に、主軸受11などの軸受内径とクランクシャフト4との間には微小なクリアランスが設けられており、油膜を介してシャフト4を保持している。
【0030】
スクロール圧縮機が運転されると、圧縮荷重などにより生じる負荷反力が、クランクシャフト4の偏心軸部4aに作用する。このため、クランクシャフト4は、傾斜したり撓みが発生する。その際、前記クリアランスにより前記傾斜や撓みを吸収できない場合、主軸受11にシャフト4が片当たりすることになり、主軸受11の両端近傍において片当たり現象が生じる。特に、主軸受11の旋回スクロール7側端部11aには、反旋回スクロール側端部よりも大きな負荷が作用するため、より強い片当りを生じ易い。主軸受11に片当たりが発生すると油膜厚さを確保し難くなるため、主軸受11が摩耗してスクロール圧縮機の信頼性が低下する。
【0031】
そこで、本実施例では、
図2に示すように、すべり軸受で構成されている前記主軸受11を主フレーム5の軸受支持部5cに圧入などで強固に固定(保持)すると共に、主軸受11はその全長において主フレーム5から張り出さず、主フレーム5に保持される構成にしている。また、前記主軸受11の旋回スクロール7側端部11aを保持している前記軸受支持部5cの部分を薄肉部5caに形成している。
【0032】
即ち、軸受支持部5cにおける旋回スクロール側には薄肉部5caが設けられ、この薄肉部5caで前記主軸受11の旋回スクロール側を支持する構成としている。具体的には、前記軸受支持部5cの厚さをA、前記薄肉部5caの厚さをBとすれば、「A>B」とし、軸受支持部5cにおいて、主軸受11の前記旋回スクロール7側端部11aを支持する薄肉部5caの厚さBを、前記主軸受11の中央から下方を支持する部分の厚さAよりも薄く形成している。
【0033】
また、前記薄肉部5caの軸方向長さをLとすれば、「L>B」とし、前記薄肉部5caの軸方向の長さLを該薄肉部5caの径方向の厚さBよりも大きくし、薄肉部5caの断面を縦長の薄い長方形状に構成して、径方向に撓みやすくしている。
【0034】
なお、前記薄肉部5caは前記主軸受11の端部よりも旋回スクロール側に延長されており、主軸受11はその全長に亘って前記薄肉部5caを含む軸受支持部5c内に圧入などで強固に保持されている。
【0035】
このように、本実施例では、主軸受11を保持している主フレーム5の部分を薄肉部5caとして、この薄肉部5caの部分の強度を弱くしている。従って、クランクシャフト4と主軸受11との間のクリアランスにより、シャフト4の傾斜や撓みを吸収できない場合であっても、シャフト4の傾きや撓みを主フレーム5の薄肉部5caで吸収することができ、クランクシャフト4の片当たりを防止することができる。また、クランクシャフト4に作用する荷重を、主軸受11と、主軸受11全体を強固に保持している軸受支持部5cにより支持することができるので、スクロール圧縮機の信頼性を向上できる。
【0036】
なお、本実施例では、クランクシャフト4の主軸部4bの上端部には鍔部4cが設けられており、クランクシャフト4が下方に移動すると、前記鍔部4cを前記薄肉部5caの上端面で受け止めることができるように構成されている。従って、クランクシャフト4に発生するスラスト力を、前記鍔部4cを介して前記薄肉部5caで支持することができる。
【0037】
クランクシャフト4にスラスト力が発生する理由を説明する。クランクシャフト4の上端面と下端面に作用する圧力はほぼ同じであるので、クランクシャフト4には基本的にスラスト力は発生しないか小さいスラスト力が発生するだけである。しかし、この状態でスクロール圧縮機100を運転すると、クランクシャフト4は上下に変動し、安定した運転ができない。そこで、一般には、電動機部3のステータ3aの位置に対し、ロータ3bの位置を軸方向に僅かにずらす構成としており、これによりクランクシャフト4には下方へのスラスト力が安定して発生するようにしている。なお、クランクシャフト4に発生するスラスト力は過大にならないように、発生するスラスト力が最小限になるように設計されている。
【0038】
本実施例1のスクロール圧縮機は、上述したように構成されているので、クランクシャフト4が傾斜したり撓みが発生しても、主フレーム5の薄肉部5caで、前記クランクシャフト4の傾斜や撓みを吸収できる。また、主軸受11及び主軸受11全体を強固に保持している軸受支持部5cにより、前記クランクシャフト4に作用する大きな荷重も十分に支持することができる。これにより、クランクシャフト4の片当たりを防止することができると共に、主軸受11に過度な曲げモーメントが作用するのを抑制でき、主軸受11の信頼性を向上できる。従って、主軸受11としてカーボン軸受のように硬度が高く寿命は長いが、脆い特性を持つ軸受材を使用できる効果も得られる。
【0039】
また、クランクシャフト4と主軸受11との摺動や偏心軸部4aと旋回軸受7cとの摺動により摩耗粉が発生し、この摩耗粉等の異物が潤滑油と共に、旋回スクロール7背面に形成された背圧室10に流出し、ここから潤滑油と共に前記固定スクロール6と前記旋回スクロール7により形成される吸込室9aや圧縮室9bに流入する。固定スクロール6と旋回スクロール7との摺動部に異物が流入すると、前記摺動部の摩耗を引き起こし、スクロール圧縮機100の信頼性を低下させる。
【0040】
この課題を解決するため、本実施例では、前記背圧室10の内側空間10aを形成している前記主フレーム5における前記主軸受11上端の外径側に摩耗粉等の異物を溜めるためのポケット部(溝部)5dを形成している。本実施例では、前記薄肉部5caの外径側の背圧室10の内側空間10aに前記ポケット部5dが設けられており、主軸受11や旋回軸受7cで発生する摩耗粉等を集めて溜めるように構成されている。
【0041】
前記ポケット部5dは、具体的には、前記主フレーム台座部5aの内径側下部に、内径側に突出する凸部5eを設け、この凸部5eが前記薄肉部5ca上端よりも上方に位置するように構成することにより、前記背圧室10の内側空間10aの外径側に前記ポケット部5dが形成されるように構成されている。
【0042】
前記凸部5eは、前記主フレーム台座部5aの内径側下部に、前記主フレーム台座部5aよりも内径側に突出するようにして形成しても、或いは前記主フレーム台座部5aの内径側全体を前記背圧室10の内側空間10aの外径側内周面よりも更に内径側に位置させて前記凸部5eを形成しても良い。本実施例では、前記凸部5eは、前記主フレーム台座部5aの内周面を、前記背圧室10の内側空間10aの外径側内周面よりも内径側に位置する構成とすることにより、前記ポケット部5dを形成している。
【0043】
このように構成することにより、クランクシャフト4と主軸受11との摺動により摩耗粉等の異物が発生して、潤滑油と共に、前記薄肉部5ca上端と前記鍔部4cとの間から径方向に流出しても、異物は前記ポケット部5dに捕捉されて蓄積される。
【0044】
更に、本実施例では、前記凸部5eの下端面を前記クランクシャフト4に形成した前記鍔部4c上端よりも上方に位置するように構成している。なお、前記凸部5eの下端面を前記旋回スクロール7の旋回ボス部7d下端面よりも上方に位置するように構成すると、なお好ましい。このように構成することにより、偏心軸部4aと旋回軸受7cとの摺動により発生する摩耗粉等の異物が潤滑油と共に、前記鍔部4cと前記旋回ボス部7dとの間から径方向に流出しても、この異物も前記ポケット部5dに捕捉して蓄積することができる。
【0045】
上述したように本実施例では、前記ポケット部5dを設けているので、主軸受11や旋回軸受7cで発生する異物が、潤滑油と共に前記固定スクロール6と前記旋回スクロール7により形成される吸込室9aや圧縮室9bに流入するのを抑制できる。従って、固定スクロール6と旋回スクロール7との摺動部への異物流入を抑制できるから、前記摺動部の摩耗を抑制して、スクロール圧縮機の信頼性を向上させることができる。
【0046】
図3は
図1に示す主フレーム5を拡大して示す断面図である。本実施例では、前記主フレーム5をFC200等の鋳物素材で製作している。前記主フレーム5を鋳物素材で製作することにより、前記ポケット部5dを鋳物素材で成形することができ、前記ポケット部5dを成形するための加工が不要となる。従って、ポケット部5dを有する主フレーム5を容易に製作することが可能となる。また、鋳物素材FC200は硬度の高い材料であるため、フレーム5の薄肉部5caの上端面をスラスト受部としても、スラスト軸受としての機能を充分に果たすことができる。
【0047】
なお、本実施例では、
図3に示すように、主軸受11の下方の前記軸受支持部5cに補助軸受11´を設けている。この補助軸受11´はクランクシャフト4において特に大きなラジアル荷重が作用する主軸部4bの部分の支持面積を拡大して主軸受11の負荷を軽減するために設けられている。
【実施例2】
【0048】
本発明のスクロール圧縮機の実施例2を
図4、
図5を用いて説明する。
図4は本実施例2のスクロール圧縮機を示す図で、
図2に相当する図、
図5は実施例2における副軸受付近の断面図である。なお、
図4、
図5の説明において、
図1~
図3と同一符号を付した部分は同一或いは相当する部分を示し、実施例1と同様の部分については説明を省略し、実施例1と異なる部分を中心に説明する。
【0049】
本実施例2においても、主軸受11を保持している主フレーム5の軸受支持部5cにおける旋回スクロール7側を薄肉部5caとして、クランクシャフト4の傾きや撓みを主フレーム5の薄肉部5caで吸収できるようにしている。また、背圧室10の内側空間10aにおける前記薄肉部5caの外径側に摩耗粉などの異物を集めるポケット部5dを設けている。
【0050】
本実施例2のスクロール圧縮機が上記実施例1と異なる点を説明する。実施例1では、主フレーム5の軸受支持部5cに形成している薄肉部5caの上端面が、クランクシャフト4の鍔部4cを支持し、クランクシャフト4に発生するスラスト力を前記薄肉部5caで支持する構成としている。これに対し、本実施例2では、主フレーム5に形成している軸受支持部5cの薄肉部5ca上端は、クランクシャフト4の鍔部4cとは接触せず隙間が形成されるように構成している。これにより前記薄肉部5caの上端は背圧室10の内側空間10aに開口し、該内側空間10aと連通する構成となる。
【0051】
従って、本実施例2によれば、クランクシャフト4と主軸受11との摺動により発生する摩耗粉等の異物を、前記薄肉部5ca上端と前記鍔部4cとの隙間から径方向に容易に流出させることができ、主軸受11で発生する異物を前記ポケット部5dに、より確実に蓄積することができる。
【0052】
なお、本実施例2では、主フレーム5に形成している軸受支持部5cの薄肉部5caでクランクシャフト4に発生するスラスト力を受けるように構成していないため、前記スラスト力を受けるためのスラスト受部が必要である。そこで、本実施例2では、前記クランクシャフト4に発生するスラスト力を支持するためのスラスト受部23を前記ケース1に取り付けている。
【0053】
上記スラスト受部23の構成例を、
図5を用いて詳しく説明する。
図5は本実施例2における副軸受12付近を示す図で、クランクシャフト4の下端部側を支持する副軸受12は副フレーム13に副軸受ハウジング21を介して取り付けられている。また、前記副軸受12には、クランクシャフト4に形成されている貫通穴15から横給油穴22を介して潤滑油が供給される。本実施例2では、更に前記副軸受ハウジング21にスラスト受部23を取り付け、このスラスト受部23でクランクシャフト4の下端面を支持することにより、クランクシャフト4に発生するスラスト力を支持するようにしている。
なお、本実施例では、前記スラスト受部23を前記副軸受ハウジング21に溶接等により取り付ける構成としているが、前記スラスト受部23を前記副軸受ハウジング21に一体に形成する構成としても良い。また、前記スラスト受部23を副軸受ハウジング21に設けるものには限られず、前記スラスト受部23を副フレーム13やケース1等の静止部材に取り付ける構成としても良い。
他の構成は上述した実施例1と同様である。
【0054】
本実施例2によれば、主軸受11で発生する摩耗粉等の異物を、前記薄肉部5ca上端から径方向に容易に流出させることができるので、異物を前記ポケット部5dにより確実に蓄積でき、また、クランクシャフト4に発生するスラスト力もスラスト受部23で支持することができる。
【実施例3】
【0055】
本発明のスクロール圧縮機の実施例3を、
図1~
図3を引用しつつ
図6を用いて説明する。
図6は本実施例3のスクロール圧縮機を示す図で、
図3に相当する図である。なお、
図6において、
図1~
図3と同一符号を付した部分は同一或いは相当する部分を示し、実施例1と同様の部分については説明を省略し、実施例1と異なる部分を中心に説明する。
【0056】
図6は、
図1や
図2に示す主フレーム5を拡大して示す図であり、基本的には
図3を用いて説明したものと同様であり、主フレーム5は鋳物素材で製作されている。
本実施例3のスクロール圧縮機100が上述した実施例1と異なる点は、摩耗粉等の異物が流入するポケット部5dの入口上端部にテーパ部5fを設けていることである。具体的には、前記ポケット部5dの上端と主フレーム台座部5aの下端に形成されている凸部5eとの間を、テーパ部5fで接続した構成にしている。
【0057】
前記テーパ部5fの上端部は、好ましくは、旋回スクロール7の旋回ボス部7d(
図1、
図2参照)の下端面よりも上方に位置するように構成すると、旋回軸受7cで発生する摩耗粉等の異物も効率よく前記ポケット部5dに導いて蓄積させることができる。即ち、旋回ボス部7d下端部から径方向に流出した摩耗粉等の異物は前記テーパ部5fに衝突すると、テーパ部5fの傾斜面に沿ってポケット部5dへと導かれる。従って、ポケット部5dの上方に流出した異物も効率良く前記ポケット部5dに集めて蓄積することが可能となる。
【0058】
なお、主軸受11で発生する摩耗粉等の異物は、実施例1と同様に前記ポケット部5dに蓄積される。従って、本実施例3によれば、スクロール圧縮機100の信頼性を更に向上できる効果が得られる。
他の構成は上述した実施例1と同様である。
【実施例4】
【0059】
本発明のスクロール圧縮機の実施例4を、
図7を用いて説明する。
図7は本実施例4を説明する図で、背圧室付近の要部拡大図である。なお、
図7において、
図1~
図3と同一符号を付した部分は同一或いは相当する部分を示し、実施例1と同様の部分については説明を省略し、実施例1と異なる部分を中心に説明する。
【0060】
本実施例4は、主フレーム5の主フレーム台座部5aの内径をL1、軸受支持部5cの薄肉部5caの外径をL2としたとき、「L1<L2」としたものである。
本実施例4においては、
図1、
図2に示す鍔部4cを設けていないので、上記実施例2の
図5に示すように、副軸受ハウジング21にスラスト受部23を設けている。
なお、実施例1と同様に鍔部4cを設けて薄肉部5caの上端面で前記鍔部4cを支持する構成とすれば、前記スラスト受部23を設ける必要はない。
【0061】
また、本実施例4では、薄肉部5caの外径側の背圧室10に、主軸受11や旋回軸受7cで発生する摩耗粉等の異物を集めて溜めるポケット部5dを設けている点では、実施例1と同様である。しかし、本実施例では、主フレーム台座部5aの内径L1を薄肉部5caの外径L2よりも小さい径となるように構成しているので、前記主フレーム台座部5aの下部に設けている凸部5eの内径は前記薄肉部5ca外径よりも小さくできる。従って、前記ポケット部5dをより深く形成することが可能となり、前記ポケット部5dに溜められた異物が固定スクロール6と旋回スクロール7により形成される吸込室9aや圧縮室9bに流入するのをより確実に抑制することが可能となる。
【0062】
更に、本実施例4によれば、クランクシャフト4の主軸部4bの径や、前記クランクシャフト4を支持する主軸受11の径をより大きく構成することが可能となるから、強度が高く、より高い信頼性のスクロール圧縮機を得ることができる。
【0063】
以上説明した本発明の各実施例によれば、背圧室の内側空間を形成している主フレームにおける主軸受上端の外径側に異物を溜めるためのポケット部を形成しているので、すべり軸受で発生する摩耗粉等の異物が固定スクロールと旋回スクロールとの摺動部に流入するのを抑制して、スクロール圧縮機の信頼性を向上できる。
【0064】
また、主フレームの軸受支持部に主軸受の全体を圧入などで強固に固定し、この軸受支持部における旋回スクロール側に薄肉部を設け、この薄肉部で主軸受の旋回スクロール側を支持する構成としているので、クランクシャフトの傾斜や撓みが生じても、クランクシャフトが主軸受に片当たりするのを抑制できる。従って、主軸受としてカーボン軸受のように硬度が高く寿命は長いが、脆い特性を持つ軸受材を使用できる効果も得られる。
【0065】
なお、本発明は上述した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。
更に、上述した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0066】
1:ケース、2:圧縮機構部、
3:電動機部、3a:ステータ、3b:ロータ、
3c,3d:バランスウェイト、3e:インシュレータ、
4:クランクシャフト、4a:偏心軸部、4b:主軸部、4c:鍔部、
5:主フレーム、5a:主フレーム台座部、5b:シール部、
5c:軸受支持部、5ca:薄肉部、5d:ポケット部、5e:凸部、5f:テーパ部、
6:固定スクロール、6a:鏡板、6b:ラップ、6c:吐出口、
7:旋回スクロール、7a:鏡板、7b:ラップ、7c旋回軸受、7d:旋回ボス部、
8:オルダムリング、9a:吸込室、9b:圧縮室、
10:背圧室、10a:内側空間、10b:外側空間、
11:主軸受、11a:旋回スクロール側端部、11´:補助軸受、
12:副軸受、13:副フレーム、14:油溜り、15:貫通穴、
16:給油パイプ、17:吸込管、18:吐出管、19:吐出室、20:隙間、
21:副軸受ハウジング、22:横給油穴、23:スラスト受部、
100:スクロール圧縮機。