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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-26
(45)【発行日】2023-11-06
(54)【発明の名称】鉄損の算出方法及び算出装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 33/12 20060101AFI20231027BHJP
   H01F 41/00 20060101ALI20231027BHJP
【FI】
G01R33/12 Z
H01F41/00 E
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2019177605
(22)【出願日】2019-09-27
(65)【公開番号】P2021056042
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126572
【弁理士】
【氏名又は名称】村越 智史
(72)【発明者】
【氏名】富田 梓
【審査官】島▲崎▼ 純一
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-100000(JP,A)
【文献】特開2012-026960(JP,A)
【文献】特開2015-156755(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 33/12
H01F 41/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数のべき関数を含む計算式を用いて、磁性体材料を用いた磁性部品の鉄損特性を算出するステップを含み、
前記鉄損特性を算出するステップは、前記周波数のべき関数の指数部分を直流重畳電流による鉄損対周波数特性の指数変化に置換するステップを含
前記計算式は、Steinmetzの式における交流最大磁束密度を交流電流に置換して簡略化した下記の数式(B)である、算出方法。
【数1】
ここで、Pcoreは鉄損特性、fは周波数、Iacは交流電流、A,B,Cはそれぞれ係数である。
【請求項2】
交流電流のべき関数を含む計算式を用いて、磁性体材料を用いた磁性部品の鉄損特性を算出するステップと、
前記鉄損特性を算出するステップは、前記交流電流のべき関数の指数部分を直流重畳電流による鉄損対交流電流特性の指数変化に置換するステップを含
前記計算式は、Steinmetzの式における交流最大磁束密度を交流電流に置換して簡略化した下記の数式(B)である、算出方法。
【数2】
ここで、Pcoreは鉄損特性、fは周波数、Iacは交流電流、A,B,Cはそれぞれ係数である。
【請求項3】
前記計算式は、交流電流のべき関数を更に含み、
前記鉄損特性を算出するステップは、前記計算式の前記交流電流のべき関数の指数部分を前記直流重畳電流による鉄損対交流電流特性の指数変化に置換するステップを更に含む、請求項1に記載の算出方法。
【請求項4】
前記鉄損特性を算出するステップは、前記直流重畳電流による鉄損対周波数特性の指数変化を算出するステップを更に含む、請求項1又は3に記載の算出方法。
【請求項5】
前記直流重畳電流による鉄損対周波数特性の指数変化は、n次関数である、請求項4に記載の算出方法。
【請求項6】
前記鉄損特性を算出するステップは、前記直流重畳電流による鉄損対交流電流特性の指数変化を算出するステップを更に含む、請求項2又は3に記載の算出方法。
【請求項7】
前記直流重畳電流による鉄損対交流電流特性の指数変化は、n次関数である、請求項6に記載の算出方法。
【請求項8】
前記鉄損特性と、前記直流重畳電流による前記磁性部品における鉄損の変化率とを乗算するステップを更に含む、請求項1~7の何れか一項に記載の算出方法。
【請求項9】
前記鉄損の変化率を算出するステップを更に含む、請求項8に記載の算出方法。
【請求項10】
前記直流重畳電流が流れていない場合の前記磁性部品における鉄損を測定するステップと、
前記直流重畳電流が流れている場合の前記磁性部品における鉄損を、複数の直流重畳電流値についてそれぞれ測定するステップとを更に含む、請求項1~9の何れか一項に記載の算出方法。
【請求項11】
指数関数に基づいた変化率計算式を用いて前記鉄損の変化率を算出する、請求項8~10の何れか一項に記載の算出方法。
【請求項12】
前記変化率計算式として下記の数式(C)を用いる、請求項11に記載の算出方法。
【数3】
ここで、g(Idc)は鉄損の変化率、Idcは直流重畳電流、D,Eはそれぞれ係数である。
【請求項13】
n次関数(nは自然数である。)に基づいた変化率計算式を用いて前記鉄損の変化率を算出する、請求項8~10の何れか一項に記載の算出方法。
【請求項14】
前記n次関数に基づいた変化率計算式として下記の数式(D)を用いる、請求項13に記載の算出方法。
【数4】
ここで、g(Idc)は鉄損の変化率、Idcは直流重畳電流、Diは係数、iは自然数である。
【請求項15】
指数関数同士の乗算を含む変化率計算式を用いて前記鉄損の変化率を算出する、請求項8~10の何れか一項に記載の算出方法。
【請求項16】
前記変化率計算式として下記の数式(E)を用いる、請求項15に記載の算出方法。
【数5】
ここで、g(Idc)は鉄損の変化率、Idcは直流重畳電流、Di,Eiは係数、i,nは自然数である。
【請求項17】
一又は複数のコンピュータプロセッサを備え、
前記一又は複数のコンピュータプロセッサは、コンピュータ読み取り可能な命令を実行することにより、
周波数のべき関数を含む計算式を用いて、磁性体材料を用いた磁性部品の鉄損特性を算出し、
前記鉄損特性の算出において、前記周波数のべき関数の指数部分を直流重畳電流による鉄損対周波数特性の指数変化に置換し、
前記計算式は、Steinmetzの式における交流最大磁束密度を交流電流に置換して簡略化した下記の数式(B)である、算出装置。
【数6】
ここで、Pcoreは鉄損特性、fは周波数、Iacは交流電流、A,B,Cはそれぞれ係数である。
【請求項18】
一又は複数のコンピュータプロセッサを備え、
前記一又は複数のコンピュータプロセッサは、コンピュータ読み取り可能な命令を実行することにより、
交流電流のべき関数を含む計算式を用いて、磁性体材料を用いた磁性部品の鉄損特性を算出し、
前記鉄損特性の算出において、前記交流電流のべき関数の指数部分を直流重畳電流による鉄損対交流電流特性の指数変化に置換
前記計算式は、Steinmetzの式における交流最大磁束密度を交流電流に置換して簡略化した下記の数式(B)である、算出装置。
【数7】
ここで、Pcoreは鉄損特性、fは周波数、Iacは交流電流、A,B,Cはそれぞれ係数である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄損の算出方法及び算出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁性材料を用いた磁性部品に交流電流が流れると、部品内部における磁束変化及び渦電流に起因する損失(すなわち、鉄損)が発生する。鉄損は、磁性部品のコアに用いられる材料の物性、磁性部品の形状及び構造、磁性部品に流れる交流電流の周波数及び振幅等によって変化する。従って、磁性部品の使用条件に応じた鉄損の値を算出する必要がある。例えば、特許文献1には、軟磁性材料の偏磁状態下における磁気特性データに基づいて、交番磁界偏磁量値、振幅値、及び周波数を用いた鉄損関数を設定し、当該鉄損関数と磁束密度の値に基づいて軟磁性材料のキャリア損の値を算出して鉄損を推定する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-26960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の算出方法では、磁性部品に流れる直流重畳電流による鉄損への影響が考慮されていないので、算出結果の値と、実際の使用条件下における鉄損の値との間にずれが生じる場合がある。このため、鉄損の値を精度よく算出することが困難である。
【0005】
本発明の目的の一つは、鉄損の算出結果の高精度化を図ることが可能な算出方法及び算出装置を提供することである。本発明のこれ以外の目的は、明細書全体の記載を通じて明らかにされる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態に係る算出方法は、周波数のべき関数を含む計算式を用いて、磁性体材料を用いた磁性部品の鉄損特性を算出するステップを含み、鉄損特性を算出するステップは、周波数のべき関数の指数部分を直流重畳電流による鉄損対周波数特性の指数変化に置換するステップを含む。
【0007】
この算出方法は、周波数のべき関数の指数部分を直流重畳電流による鉄損対周波数特性の指数変化に置換するステップを含んでいる。これにより、実際の使用条件に応じた直流重畳電流による鉄損への影響が算出結果に反映されるので、鉄損の算出結果の高精度化を図ることが可能である。
【0008】
本発明の一実施形態に係る算出方法は、交流電流のべき関数を含む計算式を用いて、磁性体材料を用いた磁性部品の鉄損特性を算出するステップを含み、鉄損特性を算出するステップは、交流電流のべき関数の指数部分を直流重畳電流による鉄損対交流電流特性の指数変化に置換するステップを含む。
【0009】
この算出方法は、交流電流のべき関数の指数部分を直流重畳電流による鉄損対交流電流特性の指数変化に置換するステップを含んでいる。これにより、実際の使用条件に応じた直流重畳電流による鉄損への影響が算出結果に反映されるので、鉄損の算出結果の高精度化を図ることが可能である。
【0010】
本発明の一実施形態において、計算式は、交流電流のべき関数を更に含み、鉄損特性を算出するステップは、計算式の交流電流のべき関数の指数部分を直流重畳電流による鉄損対交流電流特性の指数変化に置換するステップを更に含んでもよい。この構成によれば、直流重畳電流による鉄損対周波数特性の指数変化に加え、直流重畳電流による鉄損対交流電流特性の指数変化も算出結果に反映されるので、鉄損の算出結果の更なる高精度化を図ることが可能である。
【0011】
本発明の一実施形態において、鉄損特性を算出するステップは、直流重畳電流による鉄損対周波数特性の指数変化を算出するステップを更に含んでもよい。
【0012】
本発明の一実施形態において、直流重畳電流による鉄損対周波数特性の指数変化は、n次関数であってもよい。
【0013】
本発明の一実施形態において、鉄損特性を算出するステップは、直流重畳電流による鉄損対交流電流特性の指数変化を算出するステップを更に含んでもよい。
【0014】
本発明の一実施形態において、直流重畳電流による鉄損対交流電流特性の指数変化は、n次関数であってもよい。
【0015】
本発明の一実施形態において、算出方法は、鉄損特性と、直流重畳電流による磁性部品における鉄損の変化率とを乗算するステップを更に含んでもよい。この構成によれば、直流重畳電流による鉄損の変化率が算出結果に更に反映されるので、鉄損の算出結果の更なる高精度化を図ることが可能である。
【0016】
本発明の一実施形態において、算出方法は、鉄損の変化率を算出するステップを更に含んでもよい。
【0017】
本発明の一実施形態において、算出方法は、直流重畳電流が流れていない場合の前記磁性部品における鉄損を測定するステップと、直流重畳電流が流れている場合の磁性部品における鉄損を、複数の直流重畳電流値についてそれぞれ測定するステップとを更に含んでもよい。
【0018】
本発明の一実施形態において、計算式は、Steinmetzの式における交流最大磁束密度を交流電流に置換した下記の数式(A)であってもよい。実際の回路では、磁性部品に発生する磁界の計測に比べ、磁性部品に流れる電流の計測がより容易である。このため、交流最大磁束密度を交流電流に置換した数式(A)を用いることにより、鉄損特性の算出を容易に行うことができる。
【数1】
ここで、Pcoreは鉄損特性、fは周波数、Iacは交流電流、kh’,ke’,kr’,βはそれぞれ係数である。
【0019】
本発明の一実施形態において、計算式は、Steinmetzの式における交流最大磁束密度を交流電流に置換して簡略化した下記の数式(B)であってもよい。この場合、数式(A)よりも簡略化された数式が用いられるので、鉄損特性の算出を更に容易に行うことができる。
【数2】
ここで、Pcoreは鉄損特性、fは周波数、Iacは交流電流、A,B,Cはそれぞれ係数である。
【0020】
本発明の一実施形態において、指数関数に基づいた変化率計算式を用いて鉄損の変化率を算出してもよい。
【0021】
本発明の一実施形態において、変化率計算式として下記の数式(C)を用いてもよい。
【数3】
ここで、g(Idc)は鉄損の変化率、Idcは直流重畳電流、D,Eはそれぞれ係数である。
【0022】
本発明の一実施形態において、n次関数に基づいた変化率計算式を用いて鉄損の変化率を算出してもよい。また、変化率計算式として下記の数式(D)を用いる、請求項15に記載の算出方法。
【数4】
ここで、g(Idc)は鉄損の変化率、Idcは直流重畳電流、Diは係数、i,nは自然数である。
【0023】
本発明の一実施形態において、指数関数同士の乗算を含む変化率計算式を用いて鉄損の変化率を算出してもよい。また、変化率計算式として下記の数式(E)を用いてもよい。
【数5】
ここで、g(Idc)は鉄損の変化率、Idcは直流重畳電流、Di,Eiは係数、i,nは自然数である。
【0024】
本発明の一実施形態に係る算出装置は、一又は複数のコンピュータプロセッサを備え、一又は複数のコンピュータプロセッサは、コンピュータ読み取り可能な命令を実行することにより、周波数のべき関数を含む計算式を用いて、磁性体材料を用いた磁性部品の鉄損特性を算出し、鉄損特性の算出において、周波数のべき関数の指数部分を直流重畳電流による鉄損対周波数特性の指数変化に置換する。
【0025】
この算出装置のコンピュータプロセッサは、鉄損特性の算出において、周波数のべき関数の指数部分を直流重畳電流による鉄損対周波数特性の指数変化に置換する。これにより、実際の使用条件に応じた直流重畳電流による鉄損への影響が算出結果に反映されるので、鉄損の算出結果の高精度化を図ることが可能である。
【0026】
本発明の一実施形態に係る算出装置は、一又は複数のコンピュータプロセッサを備え、一又は複数のコンピュータプロセッサは、コンピュータ読み取り可能な命令を実行することにより、交流電流のべき関数を含む計算式を用いて、磁性体材料を用いた磁性部品の当該磁性部品の鉄損特性を算出し、鉄損特性の算出において、交流電流のべき関数の指数部分を直流重畳電流による鉄損対交流電流特性の指数変化に置換する。
【0027】
この算出装置のコンピュータプロセッサは、鉄損特性の算出において、交流電流のべき関数の指数部分を直流重畳電流による鉄損対交流電流特性の指数変化に置換する。これにより、実際の使用条件に応じた直流重畳電流による鉄損への影響が算出結果に反映されるので、鉄損の算出結果の高精度化を図ることが可能である。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、鉄損の算出結果の高精度化を図ることが可能な算出方法及び算出装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】一実施形態に係る鉄損の算出装置を含むシステムを示す図である。
図2】一実施形態に係る鉄損の算出方法を示すフローチャートである。
図3】鉄損特性を算出するステップを示すフローチャートである。
図4】鉄損と周波数との関係を示すグラフである。
図5】直流重畳電流を変化させた場合の鉄損対周波数特性の傾きの変化を示す図である。
図6】鉄損と交流電流との関係を示すグラフである。
図7】直流重畳電流を変化させた場合の鉄損対交流電流特性の傾きの変化を示す図である。
図8】直流重畳電流と鉄損の変化率との関係を示すグラフである。
図9】数式(2)によるフィッティング結果及び数式(7)によるフィッティング結果を示すグラフである。
図10】磁性部品が使用される回路の一例を示す図である。
図11】本実施形態に係る算出装置及び算出方法による算出結果を示すグラフである。
図12図10の回路図の電力変換効率の実測値を示すグラフである。
図13】数式(9)によるフィッティング結果を示すグラフである。
図14】数式(11)によるフィッティング結果を示すグラフである。
図15】数式(13)によるフィッティング結果を示すグラフである。
図16】数式(13)によるフィッティング結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、適宜図面を参照し、本発明の様々な実施形態を説明する。なお、複数の図面において共通する構成要素には、当該複数の図面を通して同一の参照符号が付されている。各図面は、説明の便宜上、必ずしも正確な縮尺で記載されているとは限らない点に留意されたい。
【0031】
図1は、本実施形態に係る鉄損の算出装置1を含むシステムを示す図である。図1に示される算出装置1は、例えば、巻線型コイル及び積層型コイル等のコイル部品、インダクタ部品、又は高周波ノイズの除去に用いられるビーズインダクタ等といった、磁性材料を用いた磁性部品(不図示)における鉄損を算出する装置である。より具体的には、算出装置1は、実際の回路において所定の条件下で磁性部品を使用した場合に、当該磁性部品に発生する鉄損の値を算出するための装置である。図1に示されるように、算出装置1は、コンピュータプロセッサ10と、通信I/F20と、ストレージ30と、を備えている。算出装置1は、例えばネットワーク40を介して、複数のクライアント装置50a~50cと相互に通信可能に接続されている。
【0032】
コンピュータプロセッサ10は、ストレージ20又はそれ以外のストレージからオペレーティングシステムや様々な機能を実現する様々なプログラムをメモリにロードし、ロードしたプログラムに含まれる命令を実行する演算装置である。コンピュータプロセッサ10は、例えば、CPU、MPU、DSP、GPU、これら以外の各種演算装置、又はこれらの組み合わせである。コンピュータプロセッサ10は、ASIC、PLD、FPGA、MCU等の集積回路により実現されてもよい。図1においては、コンピュータプロセッサ10が単一の構成要素として図示されているが、コンピュータプロセッサ10は複数の物理的に別体のコンピュータプロセッサの集合であってもよい。本明細書において、コンピュータプロセッサ10によって実行されるとして説明されるプログラム又は当該プログラムに含まれる命令は、単一のコンピュータプロセッサで実行されてもよいし、複数のコンピュータプロセッサにより分散して実行されてもよい。また、コンピュータプロセッサ10によって実行されるプログラム又は当該プログラムに含まれる命令は、複数の仮想コンピュータプロセッサにより実行されてもよい。
【0033】
通信I/F20は、ハードウェア、ファームウェア、又はTCP/IPドライバやPPPドライバ等の通信用ソフトウェア又はこれらの組み合わせとして実装される。算出装置1は、通信I/F20を介して、他の装置(例えばクライアント装置50a~50c)とデータを送受信することができる。
【0034】
ストレージ30は、コンピュータプロセッサ10によりアクセスされる記憶装置である。ストレージ30は、例えば、磁気ディスク、光ディスク、半導体メモリ、又はデータを記憶可能な前記以外の各種記憶装置である。ストレージ30には、様々なプログラムが記憶され得る。ストレージ30に記憶され得るプログラム及び各種データの少なくとも一部は、算出装置1とは物理的に別体のストレージ(例えば、ストレージ60)に格納されてもよい。本実施形態に係る鉄損の算出方法に用いられる各数式及びデータ等は、ストレージ30又はストレージ60に保存される。
【0035】
次に、算出装置1のコンピュータプロセッサ10により実現される機能について具体的に説明する。コンピュータプロセッサ10は、コンピュータ読み取り可能な命令を実行することにより、鉄損特性演算部11、変化率演算部12、及び鉄損値演算部13として機能する。鉄損特性演算部11は、磁性部品(不図示)に直流重畳電流が流れていない場合の磁性部品の鉄損特性を算出する機能を有する。変化率演算部12は、直流重畳電流による磁性部品における鉄損の変化率を算出する機能を有する。鉄損値演算部13は、鉄損特性演算部11によって算出された鉄損特性と、変化率演算部12によって算出された鉄損の変化率とを乗算する機能を有する。コンピュータプロセッサ10により実現される機能の少なくとも一部は、算出装置1のコンピュータプロセッサ10以外のコンピュータプロセッサにより実現されてもよい。コンピュータプロセッサ10により実現される機能の少なくとも一部は、例えば、クライアント装置50a~50cに搭載されたコンピュータプロセッサによって実現されてもよい。
【0036】
以下、図2及び図3を参照して、本実施形態に係る鉄損の算出方法について説明する。図2は、本実施形態に係る鉄損の算出方法を示すフローチャートである。図3は、鉄損特性を算出するステップを示すフローチャートである。
【0037】
本実施形態に係る鉄損の算出方法では、まず、周波数f、交流電流Iac、及び直流重畳電流Idcに関してそれぞれ複数の条件を設定し、磁性部品の鉄損を測定する(ステップS1)。具体的には、直流重畳電流Idcが流れていない場合の磁性部品における鉄損を測定する。また、直流重畳電流Idcが流れている場合の磁性部品における鉄損を、複数の直流重畳電流値についてそれぞれ測定する。鉄損の測定には、例えば、BHアナライザ又はLC共振法等の公知の測定手法が用いられ得る。各条件下で測定された鉄損の値は、例えば算出装置1のストレージ30、又はストレージ60等に保存される。
【0038】
次に、ステップS1で測定された鉄損の値に基づいて、磁性部品の鉄損特性を算出する(ステップS2)。鉄損特性の算出は、コンピュータプロセッサ10の鉄損特性演算部11によって行われる。鉄損特性の算出には、周波数のべき関数及び交流電流のべき関数の少なくとも一方を含む計算式が用いられる。一例として、磁性体材料の鉄損に関する公知の計算式である、Steinmetz式を変換した下記の数式(1)が用いられ得る。数式(1)は、Steinmetz式における交流最大磁束密度を交流電流Iacに置換したものである。数式(1)において、Pcoreは鉄損特性、fは周波数、Iacは交流電流、kh’,ke’,kr’,βはそれぞれ係数である。数式(1)の第1項は、ヒステリシスに起因する損失を表す部分である。数式(1)の第2項は、渦電流に起因する損失を表す部分である。数式(1)の第3項は、残留損を表す部分である。
【数6】
【0039】
鉄損特性Pcoreの算出には、数式(1)を簡略化した下記の数式(2)が用いられてもよい。数式(2)は、残留損を表す数式(1)の第3項を省略し、ヒステリシスによる損失を表す第1項と渦電流による損失を表す第2項とをまとめた式である。数式(2)において、Pcoreは鉄損特性、fは周波数、Iacは交流電流、A,B,Cはそれぞれ係数である。
【数7】
【0040】
鉄損特性を算出するステップS2は、鉄損特性Pcoreの計算式における周波数fのべき関数の指数部分を直流重畳電流Idcによる鉄損対周波数特性の指数変化h(Idc)に置換するステップS21と、直流重畳電流Idcによる鉄損対周波数特性の指数変化h(Idc)を算出するステップS22と、鉄損特性Pcoreの計算式における交流電流Iacのべき関数の指数部分を直流重畳電流Idcによる鉄損対交流電流特性の指数変化j(Idc)に置換するステップS23と、直流重畳電流Idcによる鉄損対交流電流特性の指数変化j(Idc)を算出するステップS24と、を含む。ステップS21~S24を実施する順番は図3に示される順に限定されず、適宜変更可能である。一例として、数式(2)の周波数fのべき関数の指数部分B及び交流電流Iacの指数部分Cを置換する(ステップS21、S23)と、鉄損特性Pcoreの計算式は、下記の数式(3)となる。
【数8】
【0041】
直流重畳電流Idcによる鉄損対周波数特性の指数変化h(Idc)及び直流重畳電流Idcによる鉄損対交流電流特性の指数変化j(Idc)は、それぞれn次関数であってもよい。以下の説明では、鉄損対周波数特性の指数変化h(Idc)及び鉄損対交流電流特性の指数変化j(Idc)が一次関数である場合について説明する。この場合、鉄損特性Pcoreの計算式は、下記の数式(4)となる。数式(4)において、Pcoreは鉄損特性、fは周波数、Iacは交流電流、A,B,C,D,Eはそれぞれ係数である。
【数9】
【0042】
次に、ステップ2における鉄損特性Pcoreの具体的な算出方法について、図4図7を参照して説明する。図4は、鉄損と周波数との関係を示すグラフである。図5は、直流重畳電流を変化させた場合の鉄損対周波数特性の傾きの変化を示す図である。図6は、鉄損と交流電流との関係を示すグラフである。図7は、直流重畳電流を変化させた場合の鉄損対交流電流特性の傾きの変化を示す図である。図4及び図6においては、直流重畳電流Idcの値を0A、0.4A、0.8A、1.2Aとした場合の4種類の条件のデータが示されている。本実施形態では、数式(4)を用いて鉄損特性Pcoreを算出する場合を例に説明する。数式(4)を用いる場合、図4図7に示されるデータと数式(4)の特性とが一致するように、係数A,B,C,D,Eをフィッティングする。図5に示される鉄損対周波数特性の傾きの変化は、数式(4)の周波数fの指数部分(すなわち、指数変化h(Idc))であるB・Idc+Cに相当する。このため、図5から数式(4)の係数B,Cを算出することができる(ステップS22)。図7に示される鉄損対交流電流特性の傾きの変化は、数式(4)の交流電流Iacの指数部分(すなわち、指数変化j(Idc))であるD・Idc+Eに相当する。このため、図7から数式(4)の係数D,Eを算出することができる(ステップS24)。数式(4)における係数Aは、図5又は図7を用いて算出された係数B,C,D,E、及び直流重畳電流Idc=0のときの鉄損の測定値を用いて算出することができる。以上の工程により、鉄損特性Pcoreが算出される。
【0043】
次に、ステップS1で測定された直流重畳電流Idcに関するデータに基づいて、直流重畳電流Idcによる鉄損の変化率を算出する(ステップS3)。変化率の算出は、コンピュータプロセッサ10の変化率演算部12によって行われる。変化率の算出には、例えば下記の数式(5)が用いられ得る。数式(5)は、指数関数に基づいた計算式である。数式(5)において、g(Idc)は直流重畳電流による鉄損の変化率、Idcは直流重畳電流、F,Gはそれぞれ係数である。鉄損の変化率g(Idc)は、下記の数式(6)を用いて求めることができる。数式(6)において、係数A~Eは既に算出されているので、数式(6)により鉄損の変化率g(Idc)を計算すると図8に示される特性が得られ、係数F及びGを算出することができる。これにより、直流重畳電流Idcによる鉄損の変化率が算出される。
【数10】
【数11】
【0044】
次に、ステップS2で算出された鉄損特性Pcoreと、ステップS3で算出された直流重畳電流Idcによる鉄損の変化率g(Idc)とを乗算することにより、鉄損の値を算出する(ステップS4)。すなわち、鉄損の値は、下記の数式(7)を計算することによって算出される。鉄損の値の算出は、コンピュータプロセッサ10の鉄損値算出部13によって行われる。
【数12】
【0045】
図9は、数式(2)フィッティング結果及び数式(7)によるフィッティング結果を示すグラフである。図9では、数式(2)によるフィッティング結果、及び数式(7)によるフィッティング結果を示している。図9に示されるように、数式(2)では直流重畳電流Idcが考慮されていないので、直流重畳電流Idcの値が変化しても鉄損の値は一定であり、実測値にフィッティングできていないことが確認できる。一方、数式(7)では、直流重畳電流Idcによる周波数f、交流電流Iac、及び鉄損の変化率g(Idc)に対する影響が考慮されているので、実測値に良好にフィッティングされていることが確認できる。
【0046】
次に、図10図12を参照して、本実施形態に係る算出装置及び算出方法による鉄損の算出結果の一例を示すと共に、本実施形態に係る算出装置及び算出方法の効果について説明する。図10は、磁性部品が使用される回路の一例を示す図である。図11は、本実施形態に係る算出装置及び算出方法による算出結果を示すグラフである。図12は、図10の回路図の電力変換効率の実測値を示すグラフである。ここでは、図10の回路に用いられる磁性部品としてインダクタを選定する場合を例に説明する。
【0047】
図10に示される回路100は、いわゆる降圧電源回路であり、磁性部品としてのインダクタLと、スイッチング素子SW1,SW2と、スイッチング素子SW1,SW2を駆動するゲートドライバGDと、キャパシタCと、を備えている。スイッチング素子SW1,SW2は、例えばMOSFETである。このような回路図100における電力変換効率は、インダクタLの鉄損によって変化する。具体的には、インダクタLの鉄損の値が大きいほど回路100における電力変換効率は低くなり、インダクタLの鉄損の値が小さいほど回路100における電力変換効率は高くなる。したがって、回路100を設計する際には、回路100における電力変換効率が高くなるように、鉄損の値を考慮してインダクタLを選定する必要がある。
【0048】
図11は、2種類のインダクタa、インダクタbについて、本実施形態に係る算出方法(すなわち、数式(7)による算出方法)を適用し、鉄損の値をそれぞれ算出した結果を示している。インダクタa及びインダクタbは、共にインダクタL(図10参照)として用いられ得る磁性部品であり、略同一のインダクタンスを有している。インダクタaについて算出された数式(7)における各係数の値は、A=0.07035、B=-0.02988、C=1.35384、D=-0.09175、E=2.37416、F=0.43369、G=0.98588である。同様に、インダクタbについて算出された数式(7)における各係数の値は、A=0.07672、B=0.14414、C=1.36606、D=-0.34259、E=2.47015、F=1.18159、G=1.23541である。図11において、直流重畳電流Idc=0のときの値は、直流重畳電流Idcによる影響を考慮しなかった場合の鉄損の値に相当する。図11に示されるように、直流重畳電流Idcが考慮されていない数式(2)を用いて鉄損の値を算出した場合では、インダクタaの鉄損の値は、インダクタbの鉄損の値より小さくなっている。このため、仮に、直流重畳電流Idcによる影響を考慮していない従来の算出方法(例えば、数式(2)による算出方法)が用いられた場合、鉄損の値は直流重畳電流Idcによって変化しないので、電力変換効率を高める観点からインダクタaを選定すべきであると推測される。
【0049】
しかしながら、実際のインダクタa、インダクタbの鉄損の値は、回路100における実際の使用条件によって変化する。このため、直流重畳電流Idcによる鉄損への影響が考慮されていない場合には、算出結果の値と、実際の使用条件下における鉄損の値との間にずれが生じることがある。これに対し、本実施形態に係る算出方法(すなわち、数式(7)を用いた算出方法)によれば、直流重畳電流Idcによる鉄損への影響が算出結果に反映されるので、鉄損の算出結果の高精度化を図ることができる。例えば、図11に示されるように、点線tの位置(回路100における出力電流Iout=100mAの場合の直流重畳電流Idcに相当)においては、数式(2)を用いた場合(すなわち、Idc=0の場合)とは反対に、インダクタbの鉄損の値がインダクタaの鉄損の値よりも小さくなると算出されている。この算出結果より、出力電流Iout=100mA以下の使用条件で回路100が動作する場合には、インダクタaではなく、インダクタbを選定すべきであると推測することができる。
【0050】
図12は、図10の回路100のインダクタLとして、インダクタa、インダクタbをそれぞれ適用した場合の電力変換効率の実測値を示している。図12のデータは、スイッチング周波数Fsw=2.2MHz、入力電圧Vin=3.6V、Vout=1.2Vの条件下で測定されたものである。図12に示されるように、出力電流Iout=100mA以下の領域においては、インダクタbの電力変換効率がインダクタaの電力変換効率より高くなっている。この結果から、本実施形態に係る算出方法により、鉄損の算出結果の高精度化が実現されていることが確認できる。
【0051】
以上説明したように、本実施形態に係る鉄損の算出方法は、周波数fのべき関数の指数部分を直流重畳電流Idcによる鉄損対周波数特性の指数変化h(Idc)に置換するステップS21を含んでいる。また、この算出方法は、交流電流Iacのべき関数の指数部分を直流重畳電流Idcによる鉄損対交流電流特性の指数変化j(Idc)に置換するステップS23を含んでいる。これにより、実際の使用条件に応じた直流重畳電流Idcによる鉄損への影響(すなわち、直流重畳電流による鉄損対周波数特性の指数変化、及び直流重畳電流による鉄損対交流電流特性の指数変化)が算出結果に反映されるので、鉄損の算出結果の高精度化を図ることが可能である。
【0052】
また、本実施形態に係る鉄損の算出方法は、鉄損特性Pcoreと直流重畳電流Idcによる磁性部品における鉄損の変化率g(Idc)とを乗算するステップS3を更に含んでいる。これにより、直流重畳電流Idcによる鉄損の変化率g(Idc)が算出結果に更に反映されるので、鉄損の算出結果の更なる高精度化を図ることが可能である。
【0053】
また、鉄損特性Pcoreを算出するステップS2では、計算式として、Steinmetzの式における交流最大磁束密度を交流電流に置換した数式(1)を簡略化した数式(2)を用いることもできる。実際の回路では、磁性部品に発生する磁界の計測に比べ、磁性部品に流れる電流の計測がより容易である。このため、鉄損特性Pcoreの算出を容易に行うことができる。また、数式(1)よりも簡略化された計算式が用いられるので、鉄損特性Pcoreの算出を更に容易に行うことができる。
【0054】
本実施形態に係る鉄損の算出装置1のコンピュータプロセッサ10の鉄損特性演算部11は、鉄損特性Pcoreの算出において、周波数fのべき関数の指数部分を直流重畳電流Idcによる鉄損対周波数特性の指数変化h(Idc)に置換する。また、鉄損特性演算部11は、鉄損特性Pcoreの算出において、交流電流Iacのべき関数の指数部分を直流重畳電流Idcによる鉄損対交流電流特性の指数変化j(Idc)に置換する。これにより、実際の使用条件に応じた直流重畳電流Idcによる鉄損への影響が算出結果に反映されるので、鉄損の算出結果の高精度化を図ることが可能である。
【0055】
また、鉄損の算出装置1は、ネットワーク40を介して他の装置とデータの送受信が可能な通信I/F20を備えている。これにより、算出装置1は、クライアント装置50a~50c等を介して入力された回路の動作条件等に基づいて、鉄損の算出結果を磁性部品のユーザに提示することができる。したがって、磁性部品のユーザは、算出装置1による算出結果に基づいて、実際の使用条件下における鉄損の値が低い磁性部品を選定できるので、回路の実機試作の回数を低減でき、回路設計を効率的に行うことができる。回路の動作条件の例としては、磁性部品に流れる交流電流の周波数、交流電流値、直流重畳電流値等が挙げられる。また、これらの値を算出可能な情報として、DC/DCコンバータの回路構成、入力電圧、出力電圧、動作周波数等が入力されてもよい。
【0056】
また、本実施形態に係る鉄損の算出方法を使用して、磁性部品のSPICEモデル等に鉄損の特性を組み込んでもよい。これにより、回路シミュレーションでの損失特性の計算が可能となる。
【0057】
次に、図13を参照して、他の実施形態に係る鉄損の算出方法及び算出装置について説明する。上記の実施形態では、数式(7)を計算することによって鉄損の値を算出する例について説明したが、鉄損の値は下記の数式(8)をによって算出されてもよい。すなわち、他の実施形態に係る鉄損の算出方法は、鉄損特性Pcoreの計算式(すなわち、数式(2))における交流電流Iacの指数関数の指数部分を直流重畳電流Idcによる鉄損対交流電流特性の指数変化j(Idc)に置換するステップS23を含まなくてもよい。また、他の実施形態に係る鉄損の算出方法は、直流重畳電流Idcによる鉄損の変化率g(Idc)を算出するステップS3、及び鉄損特性Pcoreと、鉄損の変化率g(Idc)とを乗算するステップS4を含まなくてもよい。
【数13】
【0058】
以下の説明では、鉄損対周波数特性の指数変化h(Idc)が一次関数である場合について説明する。この場合、鉄損特性Pcoreの計算式は、下記の数式(9)となる。数式(9)において、Pcoreは鉄損特性、fは周波数、Iacは交流電流、A,C,H,J,Mはそれぞれ係数である。係数A,C,H,Jは、数式(7)を用いる例と同様の方法により算出することができる。係数Mは、規格化のための定数であり、その値は実測値と算出結果の一致度を参照して選定される。h(Idc)が単調増加する場合、Mの値は1よりも大きく設定される。h(Idc)が単調減少する場合、0<M<1に設定される。
【数14】
【0059】
図13は、数式(9)によるフィッティング結果を示すグラフである。図13に示されるように、数式(9)では、直流重畳電流Idcによる周波数fに対する影響が考慮されているので、鉄損対周波数特性の実測値に良好にフィッティングされていることが確認できる。したがって、数式(9)を用いた場合にも、実際の使用条件に応じた直流重畳電流Idcによる鉄損への影響(すなわち、直流重畳電流による鉄損対周波数特性の指数変化)が算出結果に反映されるので、鉄損の算出結果の高精度化を図ることが可能である。また、数式(9)は、数式(7)に比べて簡略化されているので、数式(9)を用いることにより鉄損の値をより容易に算出することができる。ただし、数式(9)では直流重畳電流による鉄損対交流特性の指数変化が考慮されていないので、数式(9)による算出方法は、直流重畳電流による鉄損対交流電流特性の指数変化が少ない磁性部品の鉄損の算出に適している。
【0060】
次に、図14を参照して、他の実施形態に係る鉄損の算出方法及び算出装置について説明する。上記の実施形態では、数式(7)を計算することによって鉄損の値を算出する例について説明したが、鉄損の値は下記の数式(10)をによって算出されてもよい。すなわち、他の実施形態に係る鉄損の算出方法は、鉄損特性Pcoreの計算式(すなわち、数式(2))における周波数fの指数関数の指数部分を直流重畳電流Idcによる鉄損対周波数特性の指数変化h(Idc)に置換するステップS21を含まなくてもよい。また、他の実施形態に係る鉄損の算出方法は、直流重畳電流Idcによる鉄損の変化率g(Idc)を算出するステップS3、及び鉄損特性Pcoreと、鉄損の変化率g(Idc)とを乗算するステップS4を含まなくてもよい。
【数15】
【0061】
以下の説明では、鉄損対交流電流特性の指数変化j(Idc)が一次関数である場合について説明する。この場合、鉄損特性Pcoreの計算式は、下記の数式(11)となる。数式(11)において、Pcoreは鉄損特性、fは周波数、Iacは交流電流、A,B,K,L,Nはそれぞれ係数である。係数A,B,K,Lは、数式(7)を用いる例と同様の方法により算出することができる。係数Nは、規格化のための定数であり、その値は実測値と算出結果の一致度を参照して選定される。j(Idc)が単調増加する場合、Nの値は1よりも大きく設定される。j(Idc)が単調減少する場合、0<N<1に設定される。
【数16】
【0062】
図14は、数式(11)によるフィッティング結果を示すグラフである。図14に示されるように、数式(11)では、直流重畳電流Idcによる交流電流Iacに対する影響が考慮されているので、鉄損対交流電流特性の実測値に良好にフィッティングされていることが確認できる。したがって、数式(11)を用いた場合にも、実際の使用条件に応じた直流重畳電流Idcによる鉄損への影響(すなわち、直流重畳電流による鉄損対交流電流特性の指数変化)が算出結果に反映されるので、鉄損の算出結果の高精度化を図ることが可能である。また、数式(11)は、数式(7)に比べて簡略化されているので、数式(11)を用いることにより鉄損の値をより容易に算出することができる。ただし、数式(11)では直流重畳電流による鉄損対周波数の指数変化が考慮されていないので、数式(11)による算出方法は、直流重畳電流による鉄損対周波数特性の指数変化が少ない磁性部品の鉄損の算出に適している。
【0063】
次に、図15及び図16を参照して、更なる他の実施形態に係る鉄損の算出方法及び算出装置について説明する。上記の実施形態では、数式(7)を計算することによって鉄損の値を算出する例について説明したが、鉄損の値は下記の数式(12)をによって算出されてもよい。すなわち、他の実施形態に係る鉄損の算出方法は、直流重畳電流Idcによる鉄損の変化率g(Idc)を算出するステップS3、及び鉄損特性Pcoreと、鉄損の変化率g(Idc)とを乗算するステップS4を含まなくてもよい。
【数17】
【0064】
以下の説明では、鉄損対周波数特性の指数変化h(Idc)及び鉄損対交流電流特性の指数変化j(Idc)が一次関数である場合について説明する。この場合、鉄損特性Pcoreの計算式は、下記の数式(13)となる。数式(13)において、Pcoreは鉄損特性、fは周波数、Iacは交流電流、A,B,H,J,K,L,M,Nはそれぞれ係数である。係数A,B,H,J,K,Lは、数式(7)を用いる例と同様の方法により算出することができる。係数M,Nは、規格化のための定数であり、その値は実測値と算出結果の一致度を参照して選定される。h(Idc)が単調増加する場合、Mの値は1よりも大きく設定される。h(Idc)が単調減少する場合、0<M<1に設定される。j(Idc)が単調増加する場合、Nの値は1よりも大きく設定される。j(Idc)が単調減少する場合、0<N<1に設定される。
【数18】
【0065】
図15及び図16は、数式(13)によるフィッティング結果を示すグラフである。図15に示されるように、数式(13)では、直流重畳電流Idcによる周波数fに対する影響が考慮されているので、鉄損対周波数特性の実測値に良好にフィッティングされていることが確認できる。また、図16に示されるように、数式(13)では、直流重畳電流Idcによる交流電流Iacに対する影響も考慮されているので、鉄損対交流電流特性の実測値にも良好にフィッティングされていることが確認できる。したがって、数式(13)を用いた場合にも、実際の使用条件に応じた直流重畳電流Idcによる鉄損への影響が算出結果に反映されるので、鉄損の算出結果の高精度化を図ることが可能である。また、数式(13)は、数式(7)に比べて簡略化されているので、数式(13)を用いることにより鉄損の値をより容易に算出することができる。
【0066】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は上記の実施形態に限定されず、種々の変更を行うことができる。例えば、上記の実施形態では、数式(2)に基づいて鉄損特性Pcoreを算出する例について説明したが、鉄損特性Pcoreは数式(1)に基づいて算出されてもよい。この場合、数式(2)では省略されていた残留損による影響も算出結果に反映されるので、数式(2)を用いた場合に比べ、更に算出結果の高精度化を図ることが可能である。
【0067】
また、上記の実施形態では、変化率演算部12が指数関数に基づいた数式(5)を用いて鉄損の変化率を算出する例について説明したが、変化率演算部12は、n次関数に基づいた計算式を用いて鉄損の変化率を算出してもよい。この場合、変化率計算式として下記の数式(14)を用いてもよい。ここで、g(Idc)は鉄損の変化率、Idcは直流重畳電流、Diは係数、i,nは自然数である。このように、n次関数に基づいた数式(14)を用いる場合においても、数式(5)を用いる場合と同様に直流重畳電流Idcによる鉄損の変化率を表現することができる。したがって、上記の実施形態と同様に、実際の使用条件に応じた直流重畳電流Idcによる鉄損への影響が算出結果に反映されるので、鉄損の算出結果の高精度化を図ることが可能である。
【数19】
【0068】
また、変化率演算部12は、指数関数同士の乗算を含む計算式を用いて鉄損の変化率を算出してもよい。また、変化率計算式として下記の数式(15)を用いてもよい。ここで、g(Idc)は鉄損の変化率、Idcは直流重畳電流、Di,Eiは係数、i,nは自然数である。
【数20】
【0069】
また、上記の実施形態では、鉄損特性演算部11によって直流重畳電流Idcによる鉄損対周波数特性の指数変化h(Idc)及び/又は鉄損対交流電流特性の指数変化j(Idc)を算出する例について説明したが、h(Idc)及び/又はj(Idc)がすでに判明している場合には、鉄損特性演算部11による算出を行わなくてもよい。同様に、変化率演算部12によって鉄損の変化率g(Idc)を算出する例について説明したが、鉄損の変化率g(Idc)が既に判明している場合には、変化率演算部12によって鉄損の変化率g(Idc)の算出を行わなくてもよい。上記の実施形態では、磁性部品の鉄損を測定するステップS1を行う例について説明したが、鉄損の測定を行わず、既存のデータを使用してもよい。
【0070】
一実施形態において、鉄損の値は、下記の数式(16)又は数式(17)によって算出されてもよい。ここで、A,B,Cは係数である。
【数21】
【数22】
【0071】
本明細書において説明された処理手順、特にフロー図を用いて説明された処理手順においては、その処理手順を構成する工程(ステップ)の一部を省略すること、その処理手順を構成する工程として明示されていない工程を追加すること、及び/又は当該工程の順序を入れ替えることが可能であり、このような省略、追加、順序の変更がなされた処理手順も本発明の趣旨を逸脱しない限り本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0072】
1…算出装置、10…コンピュータプロセッサ、11…鉄損特性演算部、12…変化率演算部、13…鉄損値演算部、20…通信I/F、30…ストレージ、100…回路、C…キャパシタ、h(Idc)…鉄損対周波数特性の指数変化、j(Idc)…鉄損対交流電流特性の指数変化、g(Idc)…変化率、GD…ゲートドライバ、Idc…直流重畳電流、Iout…出力電流、L…インダクタ、Pcore…鉄損特性、SW1,SW2…スイッチング素子。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16