(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-26
(45)【発行日】2023-11-06
(54)【発明の名称】フィルム、セキュリティカード、パスポート、および、フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 101/12 20060101AFI20231027BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20231027BHJP
C08K 3/01 20180101ALI20231027BHJP
B42D 25/24 20140101ALI20231027BHJP
【FI】
C08L101/12
C08J5/18 CEZ
C08K3/01
B42D25/24
(21)【出願番号】P 2019182720
(22)【出願日】2019-10-03
【審査請求日】2022-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】597003516
【氏名又は名称】MGCフィルシート株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】若山 彰太
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/046357(WO,A1)
【文献】特開2016-108372(JP,A)
【文献】特開2010-254735(JP,A)
【文献】特開2007-161907(JP,A)
【文献】特開2010-195990(JP,A)
【文献】特開平05-112709(JP,A)
【文献】特開2016-060997(JP,A)
【文献】特開2009-000829(JP,A)
【文献】特開2010-043393(JP,A)
【文献】特表2009-510662(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 - 101/14
C08K 3/00 - 13/08
C08J 5/18
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)熱可塑性樹脂と(B)繊維状成形体とを含み、
前記(B)繊維状成形体は、熱可塑性樹脂(b)を含み、前記熱可塑性樹脂(b)は、示差走査熱量計で測定したとき、ガラス転移温度T
2[℃]および融点T
3[℃]の少なくとも一方を示し、
(A)熱可塑性樹脂のせん断速度1,216[1/s]における溶融粘度が500[Pa・s]となる温度をT
1[℃]としたとき、前記温度T
1[℃]、ガラス転移温度T
2[℃]および融点T
3[℃]が下記式(1)および(2)のうち少なくとも一方を満た
し、
(A)熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリオキシメチレン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルサルファイド、熱可塑性ポリエーテルイミド、熱可塑性ポリアミドイミドおよび熱可塑性ポリイミド樹脂の少なくとも1種を含み、熱可塑性樹脂(b)が、ポリアリレート、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリマー、ポリエステル、および、ポリアミドらなる群から選択される少なくとも1種を含む、フィルム。
(1)T
2 > T
1 - 30
(2)T
3 > T
1 + 50
【請求項2】
前記(B)繊維状成形体の含有量が、前記(A)熱可塑性樹脂100質量部に対し、0.01~10.0質量部である、請求項1に記載のフィルム。
【請求項3】
前記(B)繊維状成形体の含有量が、前記(A)熱可塑性樹脂100質量部に対し、2.0質量部未満である、請求項1に記載のフィルム。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂(b)のガラス転移温度T
2[℃]が、150≦T
2≦300である、請求項1~3のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂(b)の融点T
3[℃]が、230≦T
3≦380である、請求項1~3のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項6】
前記(B)繊維状成形体が、数平均直径200μm以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項7】
前記(B)繊維状成形体の数平均繊維長が、500μm以上である、請求項1~6のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項8】
前記(A)熱可塑性樹脂が、ポリカーボネートおよびポリエステルからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項9】
前記(B)繊維状成形体が、ポリアリレートおよびポリエーテルエーテルケトンからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項10】
前記(B)繊維状成形体が、蛍光体を含む、請求項1~9のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項11】
厚みが800μm以下である、請求項1~10のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項12】
セキュリティカードまたはパスポート用である、請求項1~11のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載のフィルムを含む、セキュリティカード。
【請求項14】
請求項1~
12のいずれか1項に記載のフィルムを含む、パスポート。
【請求項15】
(A)熱可塑性樹脂と(B)繊維状成形体とを含む樹脂組成物であって、
前記(B)繊維状成形体は、熱可塑性樹脂(b)を含み、
前記熱可塑性樹脂(b)は、示差走査熱量計で測定したとき、ガラス転移温度T
2[℃]および融点T
3[℃]の少なくとも一方を示し、かつ、
(A)熱可塑性樹脂のせん断速度1,216[1/s]における溶融粘度が500[Pa・s]となる温度をT
1[℃]としたとき、前記温度T
1[℃]、ガラス転移温度T
2[℃]および融点T
3[℃]が下記式(1)および(2)のうち少なくとも一方を満たす樹脂組成物を押出成形することを含
み、
(A)熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリオキシメチレン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルサルファイド、熱可塑性ポリエーテルイミド、熱可塑性ポリアミドイミドおよび熱可塑性ポリイミド樹脂の少なくとも1種を含み、熱可塑性樹脂(b)が、ポリアリレート、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリマー、ポリエステル、および、ポリアミドらなる群から選択される少なくとも1種を含む、フィルムの製造方法。
(1)T
2 > T
1 - 30
(2)T
3 > T
1 + 50
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム、セキュリティカード、パスポート、および、フィルムの製造方法
に関する。特に、識別用のフィルム等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、IDカード、e-パスポート、および、非接触型ICカード等において、樹脂フィルムやその積層体を含むカード類が使用され始めている。偽造を防止することを目的として、樹脂フィルムの表面にQRコード(登録商標)等の暗号化コードや所持者の写真等を貼付することが行われている。しかし、これでは、QRコード等について印字ごと複写されたり、写真を剥がして挿げ替えたりするなどの処理により、偽造される可能性が残るものであった。
これに対し、特許文献1では、合成繊維製の蛍光繊維が2種以上抄きこまれている偽造防止シートであって、前記蛍光繊維は、長さが相違する2種以上の蛍光繊維であり、前記蛍光繊維の種類および配合割合は、製造者によって前記偽造防止シートの固有情報として記録され、前記固有情報との照合により真偽の判別が可能とされることを特徴とする偽造防止シートが提案されている。
特許文献2では、紫外線照射によって蛍光を生じる繊維状液晶ポリマーを含んでなる偽造防止用紙が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-000829号公報
【文献】特開2016-060997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の通り、繊維状成形体を含むフィルム等が、偽造防止や真贋判定などの識別用に用いることが検討されている。しかしながら、このような繊維状成形体が、熱可塑性樹脂から構成される場合、繊維状成形体を、熱可塑性樹脂に添加し、溶融混練して、フィルム状に成形する際に、繊維状成形体自体が溶融してしまい、繊維状成形体が有する識別機能が十分に発揮されない場合があることが分かった。
本発明はかかる課題を解決することを目的とするものであって、熱可塑性樹脂と繊維状成形体を含むフィルムであって、前記繊維状成形体によって、識別機能が十分に発揮されるフィルム、ならびに、セキュリティカード、パスポート、および、フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題のもと、本発明者が検討を行った結果、下記手段により、上記課題は解決された。
<1>(A)熱可塑性樹脂と(B)繊維状成形体とを含み、前記(B)繊維状成形体は、熱可塑性樹脂(b)を含み、前記熱可塑性樹脂(b)は、示差走査熱量計で測定したとき、ガラス転移温度T2[℃]および融点T3[℃]の少なくとも一方を示し、(A)熱可塑性樹脂のせん断速度1,216[1/s]における溶融粘度が500[Pa・s]となる温度をT1[℃]としたとき、前記温度T1[℃]、ガラス転移温度T2[℃]および融点T3[℃]が下記式(1)および(2)のうち少なくとも一方を満たす、フィルム。
(1)T2 > T1 - 30
(2)T3 > T1 + 50
<2>前記(B)繊維状成形体の含有量が、前記(A)熱可塑性樹脂100質量部に対し、0.01~10.0質量部である、<1>に記載のフィルム。
<3>前記(B)繊維状成形体の含有量が、前記(A)熱可塑性樹脂100質量部に対し、2.0質量部未満である、<1>に記載のフィルム。
<4>前記熱可塑性樹脂(b)のガラス転移温度T2[℃]が、150≦T2≦300である、<1>~<3>のいずれか1つに記載のフィルム。
<5>前記熱可塑性樹脂(b)の融点T3[℃]が、230≦T3≦380である、<1>~<3>のいずれか1つに記載のフィルム。
<6>前記(B)繊維状成形体が、数平均直径200μm以下である、<1>~<5>のいずれか1つに記載のフィルム。
<7>前記(B)繊維状成形体の数平均繊維長が、500μm以上である、<1>~<6>のいずれか1つに記載のフィルム。
<8>前記(A)熱可塑性樹脂が、ポリカーボネートおよびポリエステルからなる群から選択される少なくとも1種を含む、<1>~<7>のいずれか1つに記載のフィルム。
<9>前記(B)繊維状成形体が、ポリアリレートおよびポリエーテルエーテルケトンからなる群から選択される少なくとも1種を含む、<1>~<8>のいずれか1つに記載のフィルム。
<10>前記(B)繊維状成形体が、蛍光体を含む、<1>~<9>のいずれか1つに記載のフィルム。
<11>厚みが800μm以下である、<1>~<10>のいずれか1つに記載のフィルム。
<12>セキュリティカードまたはパスポート用である、<1>~<11>のいずれか1つに記載のフィルム。
<13><1>~<12>のいずれか1つに記載のフィルムを含む、セキュリティカード。
<14><1>~<13>のいずれか1つに記載のフィルムを含む、パスポート。
<15>(A)熱可塑性樹脂と(B)繊維状成形体とを含む樹脂組成物であって、前記(B)繊維状成形体は、熱可塑性樹脂(b)を含み、前記熱可塑性樹脂(b)は、示差走査熱量計で測定したとき、ガラス転移温度T2[℃]および融点T3[℃]の少なくとも一方を示し、かつ、(A)熱可塑性樹脂のせん断速度1,216[1/s]における溶融粘度が500[Pa・s]となる温度をT1[℃]としたとき、前記温度T1[℃]、ガラス転移温度T2[℃]および融点T3[℃]が下記式(1)および(2)のうち少なくとも一方を満たす樹脂組成物を押出成形することを含む、フィルムの製造方法。
(1)T2 > T1 - 30
(2)T3 > T1 + 50
【発明の効果】
【0006】
本発明により、熱可塑性樹脂と繊維状成形体を含むフィルムであって、前記繊維状成形体によって、識別機能が十分に発揮されるフィルム、ならびに、セキュリティカード、パスポート、および、フィルムの製造方法を提供可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明のフィルムの一例を示す模式図である。
図1は、本発明のフィルムの一例を示す模式図であって、1はフィルムを、2は繊維状成形体を示している。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
【0009】
[フィルム]
本発明のフィルムは、(A)熱可塑性樹脂と(B)繊維状成形体とを含み、前記(B)繊維状成形体は、熱可塑性樹脂(b)を含み、前記熱可塑性樹脂(b)は、示差走査熱量計で測定したとき、ガラス転移温度T
2[℃]および融点T
3[℃]の少なくとも一方を示し、前記(A)熱可塑性樹脂のせん断速度1,216[1/s]における溶融粘度が500[Pa・s]となる温度をT
1[℃]としたとき、前記温度T
1[℃]、ガラス転移温度T
2[℃]および融点T
3[℃]が下記式(1)および(2)のうち少なくとも一方を満たすことを特徴とする。
(1)T
2 > T
1 - 30
(2)T
3 > T
1 + 50
このような構成とすることにより、(A)熱可塑性樹脂と(B)繊維状成形体を含むフィルムであって、前記(B)繊維状成形体によって、識別機能が十分に発揮されるフィルムを提供可能になる。
すなわち、本発明では、フィルムの主材となる(A)熱可塑性樹脂と(B)繊維状成形体の各種温度関係を調整することにより、(B)繊維状成形体が、溶融状態の(A)熱可塑性樹脂中に存在していても、その繊維状の形状を高い割合で保つことが可能になる。より具体的には、本発明で用いる(B)繊維状成形体は、(A)熱可塑性樹脂と共にフィルム状に押出成形しても、得られるフィルム中に、その形状を概ね保ったまま、分散して存在することができる。より具体的には、
図1に示すように、フィルム1中に、(B)繊維状成形体2がその形態を保持しつつ分散し、特有の模様を示して存在する。そのため、他の同一または同種の材料からなるフィルムとは、(B)繊維状成形体の分散状態が異なることによって、識別できる。
具体的には、本発明では、(B)繊維状成形体を構成する熱可塑性樹脂(b)は、示差走査熱量計で測定したとき、ガラス転移温度T
2[℃]および融点T
3[℃]の少なくとも一方を示し、(A)熱可塑性樹脂のせん断速度1,216[1/s]における溶融粘度が500[Pa・s]となる温度をT
1[℃]としたとき、前記温度T
1[℃]、ガラス転移温度T
2[℃]および融点T
3[℃]が下記式(1)および(2)のうち少なくとも一方を満たす。
(1)T
2 > T
1 - 30
(2)T
3 > T
1 + 50
【0010】
本発明では、下記式(1)および(2)のうち少なくとも一方を満たせばよい。本発明の好ましい実施形態の1つは、式(1)を満たし、式(2)を満たさない態様である。本発明の好ましい実施形態の他の1つは、式(2)を満たし、式(1)を満たさない態様である。
式(1)は、以下の理由により、(B)繊維状成形体がその形状を保つことができる。
温度T1[℃]はフィルムの主材となる(A)熱可塑性樹脂をフィルム状に成形する温度の水準を示し、その成形温度T1[℃]において(B)繊維状成形体が繊維状形態を保持するためには、式(1)および式(2)のうち少なくとも一方を満たすことが必要となる。すなわち、(B)繊維状成形体は、(A)熱可塑性樹脂と共にフィルム状に押出成形する際に溶融分散せずに繊維状形態を保持することが可能となる。また、(B)繊維状成形体が非晶性樹脂からなる場合、通常、示差走査熱量計で示すガラス転移点T2[℃]が基準の一つとなり、結晶性樹脂からなる場合、通常、示差走査熱量計で示す融点T3[℃]が基準の一つとなる。
式(1)において、T1-T2は25[℃]以下であることが好ましい。また、T1-T2の下限値が、-30[℃]以上であることが好ましい。
式(2)において、T3-T1が60[℃]以上であることが好ましく、70[℃]以上であることがより好ましく、80[℃]以上であることがさらに好ましい。また、T3-T1の上限値が110[℃]以下であることが好ましく、さらには、100[℃]以下であることがより好ましい。
せん断速度1,216[1/s]における溶融粘度が500[Pa・s]となる温度T1は、200[℃]以上であることが好ましく、220[℃]以上であることが好ましい。また、290[℃]以下であることが好ましく、270[℃]以下であることがより好ましい。
本発明において、(A)熱可塑性樹脂を2種以上含むとき、T1[℃]は、混合物のT1[℃]とする。また、(B)繊維状成形体を構成する熱可塑性樹脂(b)が2種以上からなるときも、混合物のT2[℃]、T3[℃]を熱可塑性樹脂(b)のT2[℃]、T3[℃]とする。
【0011】
本発明のフィルムの厚さは、特に定めるものではないが、厚みが800μm以下であることが好ましく、300μm以下であることがより好ましく、200μm以下であることがさらに好ましい。また、本発明のフィルムの厚さの下限値は、50μm以上が実際的である。
【0012】
<(A)熱可塑性樹脂>
本発明では、(A)熱可塑性樹脂を含む。
(A)熱可塑性樹脂はその種類は特に限定されず、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリカーボネート、ポリオキシメチレン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトンケトン等のポリエーテルケトン、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルサルファイド、熱可塑性ポリエーテルイミド、熱可塑性ポリアミドイミド、全芳香族ポリイミド、半芳香族ポリイミド等の熱可塑性ポリイミド樹脂類等が例示され、ポリカーボネートおよびポリエステルからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0013】
<<ポリカーボネート>>
ポリカーボネートとしては、分子主鎖中に炭酸エステル結合を含む-[O-R-OCO]-単位(Rが脂肪族基、芳香族基、または脂肪族基と芳香族基の双方を含むもの、さらに直鎖構造あるいは分岐構造を持つもの)を含むものであれば、特に限定されるものではない。ただし、耐衝撃性、耐熱性の点から、また芳香族ジヒドロキシ化合物としての安定性、さらにはそれに含まれる不純物の量が少ないものの入手が容易である点から、芳香族ポリカーボネートがより好ましいものとして挙げられる。芳香族ポリカーボネートとして、例えばビスフェノールA骨格を有するものが挙げられる。
【0014】
ポリカーボネートの具体的な種類に制限はないが、例えば、ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体とを反応させてなるポリカーボネートが挙げられる。この際、ジヒドロキシ化合物およびカーボネート前駆体に加えて、ポリヒドロキシ化合物等を反応させるようにしてもよい。また、二酸化炭素をカーボネート前駆体として、環状エーテルと反応させる方法も用いてもよい。また、ポリカーボネートは1種の繰り返し単位からなる単重合体であってもよく、2種以上の繰り返し単位を有する共重合体であってもよい。このとき共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体等、種々の共重合形態を選択することができる。
【0015】
ポリカーボネートの製造方法は、特に限定されるものではなく、任意の方法を採用できる。その例を挙げると、界面重合法、溶融エステル交換法、ピリジン法、環状カーボネート化合物の開環重合法、プレポリマーの固相エステル交換法などを挙げることができる。
【0016】
ポリカーボネートの分子量は、溶媒としてメチレンクロライドを用い、温度25℃で測定された溶液粘度より換算した粘度平均分子量で、10,000~35,000であることが好ましく、より好ましくは10,500以上、さらに好ましくは11,000以上、一層好ましくは11,500以上、より一層好ましくは12,000以上である。また、好ましくは32,000以下、より好ましくは29,000以下である。粘度平均分子量を上記範囲の下限値以上とすることにより、本発明のフィルムの機械的強度をより向上させることができ、粘度平均分子量を上記範囲の上限値以下とすることにより、樹脂の流動性低下を抑制して改善でき、成形加工性が向上する傾向にある。
なお、粘度平均分子量の異なる2種以上のポリカーボネートを混合して用いてもよく、この場合には、粘度平均分子量が上記の好適な範囲外であるポリカーボネートを混合してもよい。
ここで、粘度平均分子量[Mv]とは、溶媒としてメチレンクロライドを使用し、ウベローデ粘度計を用いて温度25℃での極限粘度[η](単位dL/g)を求め、Schnellの粘度式、すなわち、η=1.23×10
-4Mv
0.83から算出される値を意味する。また、極限粘度[η]とは、各溶液濃度[C](g/dL)での比粘度[η
sp]を測定し、下記式により算出した値である。
【数1】
【0017】
<<ポリエステル>>
ポリエステル樹脂としては、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)やPETGやPCTG等(シクロヘキサンジメタノールによりグリコール変性されたポリエチレンテレフタレート)等が使用され、PETGやPCTGが好ましい。
【0018】
本発明のフィルムは、(A)熱可塑性樹脂をフィルムの90質量%以上含むことが好ましく、95質量%以上含むことがより好ましく、97質量%以上含むことがさらに好ましい。(A)熱可塑性樹脂の含有量の上限は、例えば、99.999質量%である。
また、本発明のフィルムの一実施形態は、ポリカーボネートをフィルムの90質量%以上含む形態であり、95質量%以上含むことが好ましく、97質量%以上含むことがより好ましい。ポリカーボネートの含有量の上限は、例えば、99.999質量%である。
また、本発明のフィルムの他の一実施形態は、ポリエステルをフィルムの90質量%以上含む形態であり、95質量%以上含むことが好ましく、97質量%以上含むことがより好ましい。ポリエステルの含有量の上限は、例えば、99.999質量%である。
【0019】
本発明のフィルムは、(A)熱可塑性樹脂を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0020】
<(B)繊維状成形体>
本発明のフィルムは、上記(B)繊維状成形体を含む。繊維状とは、断面に対して長さが十分に長い形状を意味する。より具体的には、後述する数平均直径と数平均繊維長を満たすものであることが好ましい。本発明においては、(B)繊維状成形体は、(A)熱可塑性樹脂と共に押出すと、概ね、(A)熱可塑性樹脂フィルム中に、分散して存在する。そして、本発明で用いる(B)繊維状成形体が存在しているフィルムは、他の同種の材料からなるフィルムとは、(B)繊維状成形体の分散状態が異なり、識別用に好適に用いることができる。
【0021】
(B)繊維状成形体の数平均直径は、200μm以下であることが好ましく、160μm以下であることがより好ましく、120μm以下であることがさらに好ましい前記上限値以下とすることにより、得られるフィルムの凹凸をより効果的に低減するとともに、繊維状成形体をフィルム中から脱落しにくくすることができる。また、前記数平均直径の下限値は、10μm以上であることが好ましく、50μm以上であることがより好ましく、80μm以上であることがさらに好ましい。前記下限値以上とすることにより、識別する際に目視での観察が容易になる傾向にある。
また、(B)繊維状成形体の断面は、円形であってもよいし、非円形であってもよい。(B)繊維状成形体の断面が非円形の場合、数平均直径は、断面の面積に相当する円の直径とする。
(B)繊維状成形体の数平均繊維長は、500μm以上であることが好ましく、900μm以上であることがより好ましく、1300μm以上であることがさらに好ましく、1700μm以上であることが一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、視認性がより向上する傾向にある。また、前記数平均繊維長の上限値は、5mm以下であることが好ましく、4mm以下であることがより好ましく、3mm以下であることがさらに好ましく、2600μm以下であることが一層好ましく、2200μm以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、フィルムの押出成形中の凝集をより効果的に抑制することができる。
【0022】
<<熱可塑性樹脂(b)>>
本発明で用いる(B)繊維状成形体は、熱可塑性樹脂(b)から構成される。すなわち、熱可塑性趣旨(b)は、通常、(B)繊維状成形体として、熱可塑性樹脂(A)中に、繊維の形で、分散して存在している。熱可塑性樹脂(A)と熱可塑性樹脂(b)は、上記式(1)および式(2)の少なくとも一方を満たす関係にある。(B)繊維状成形体は、その主成分が、熱可塑性樹脂(b)であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、他の成分を含んでいてもよい。
本発明では、熱可塑性樹脂(b)のガラス転移温度T2[℃]が、150≦T2≦300であることが好ましく、170≦T2≦300であることがより好ましく、190≦T2≦300であることがさらに好ましい。前記下限値以上とすることにより、一定の耐熱性を有することとなり、フィルム成形時に(B)繊維状成形体が繊維状形態を保持し易くなる傾向にある。また、前記上限値以下とすることで、熱可塑性樹脂(b)を繊維状に成形する際の成形加工性が優れる。
【0023】
本発明では、熱可塑性樹脂(b)の融点T3[℃]が、230≦T3≦380であることが好ましく、250≦T3≦380であることがより好ましく、270≦T3≦360であることがさらに好ましい。前記下限値以上とすることにより、一定の耐熱性を有することとなり、フィルム成形時に(B)繊維状成形体が繊維状形態を保持し易くなる傾向にある。また、前記上限値以下とすることで、熱可塑性樹脂(b)を繊維状に成形する際の成形加工性が優れる。
【0024】
本発明では、(B)繊維状成形体が、ポリアリレート、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリマー、ポリエステル、および、ポリアミドらなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、ポリアリレートおよびポリエーテルエーテルケトンからなる群から選択される少なくとも1種を含むことがより好ましい。特に、ポリアリレートおよびポリエーテルエーテルケトンのようにガラス転移温度または融点が高い樹脂を(B)繊維状成形体の主成分として用いることにより、フィルム等の主成分となる溶融樹脂に配合しても、その繊維状の形態をより良好に保つことが可能になる。
【0025】
(B)繊維状成形体は、熱可塑性樹脂(b)を総量で、90質量%以上含むことが好ましく、93質量%以上含むことがより好ましく、95質量%以上含むことがさらに好ましい。また、前記総量の上限は、99.99質量%以下であることが好ましく、99.9質量%以下であることがさらに好ましい。
【0026】
本発明で用いるポリアリレートは、示差走査熱量計で測定したガラス転移温度が180℃以上であることが好ましく、185℃以上であることがより好ましく、190℃以上であることがさらに好ましく、195℃以上であることが一層好ましく、さらには、200℃以上、210℃以上であってもよい。前記下限値以上とすることにより、フィルムの押出成形時に繊維状形態をより効果的に維持できる傾向にある。また、前記ポリアリレートのガラス転移温度の上限は、300℃以下であることが好ましく、280℃以下であることがより好ましい。前記上限値以下とすることにより、樹脂の分解温度から遠ざかる傾向にあるため、成形時の分子量低下等による劣化をより効果的に抑制できる。
【0027】
本発明で用いるポリアリレートは、芳香族ジカルボン酸由来の繰り返し単位とビスフェノール由来の繰り返し単位とから構成される芳香族ポリエステルであることが好ましい。
芳香族ジカルボン酸としては、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ベンゾフェノンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、3,3’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸等が挙げられる。
ビスフェノールとしては、例えば、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジブロモフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジクロロフェニル)プロパン、4,4'-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4'-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4'-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4'-ジヒドロキシジフェニルケトン、4,4'-ジヒドロキシジフェニルメタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン等が挙げられる。これらの化合物は単独で使用してもよいし、あるいは、2種以上混合して使用してもよい。
【0028】
ポリアリレートの製造方法は、特に限定はされず、公知の方法により得られたものを使用することができる。界面重合法、溶融重合法で得られたポリアリレートは好適に用いることができる。
【0029】
本発明で用いるポリエーテルエーテルケトン(PEEK)は、示差走査熱量計で測定した融点が320℃以上であることが好ましく、325℃以上であることがより好ましい。前記下限値以上とすることにより、フィルムの押出成形時に繊維状形態をより効果的に維持できる傾向にある。また、前記ポリエーテルエーテルケトンの融点の上限は、380℃以下であることが好ましく、350℃以下であることがより好ましい。前記上限値以下とすることにより、樹脂の分解温度から遠ざかる傾向にあるため、成形時の分子量低下等による劣化をより効果的に抑制できる。
また、ポリエーテルエーテルケトンの示差走査熱量計で測定したガラス転移温度は120℃以上であることが好ましく、130℃以上であることがより好ましい。前記下限値以上とすることにより、フィルムの押出成形時に繊維状形態をより効果的に維持できる傾向にある。また、前記ポリエーテルエーテルケトンのガラス転移温度の上限は、170℃以下であることが好ましく、160℃以下であることがより好ましい。前記上限値以下とすることにより、樹脂の分解温度から遠ざかる傾向にあるため、成形時の分子量低下等による劣化をより効果的に抑制できる。
【0030】
ポリエーテルエーテルケトンは、下記式で表される繰り返し単位を含むポリマーである。
-Ar-C(=O)-Ar-O-Ar’-O-
(式中、Ar及びAr’は、それぞれ独立に、アリーレン基を表す。)
ポリエーテルエーテルケトンの詳細は、特開2017-003722号公報の段落0036~0038の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0031】
PEEKの市販品としては、例えば、ビクトレックス(Victrex)社製の商品名「ビクトレックスPEEK」シリーズが挙げられ、ビクトレックス社PEEK 450G、381G、151G、90G(商品名)等が挙げられる。また、ダイセル・デグサ社のVESTAKEEP(商品名)等が挙げられる。ほかにソルベイ社からも上市されている。
【0032】
本発明で用いる液晶ポリマーは、例えば、パラヒドロキシ安息香酸を基本とした構造が例示される。より具体的には、パラヒドロキシ安息香酸と6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、さらには、他のモノマーを重合させた液晶ポリエステルが例示される。
液晶ポリマーの市販品としては、上野製薬社製UENO LCP、住友化学製スミカスーパーLCP、KDA社製液晶ポリマーなどが例示される。
【0033】
ポリエステルは、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどを用いることができる。ポリエステルの融点としては、250~270℃のものが例示される。
【0034】
ポリアミドは、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド6T、ポリアミド6I/6T、キシリレンジアミン系ポリアミド(MXD6など)などを用いることができる。ポリアミドの融点としては、250~350℃のものが例示される。
【0035】
本発明のフィルムは、前記(B)繊維状成形体を(A)熱可塑性樹脂100質量部に対し、0.01質量部以上の割合で含むことが好ましく、0.02質量部以上であることがより好ましい。また、前記(B)繊維状成形体を(A)熱可塑性樹脂100質量部に対し、10.0質量部以下の割合で含むことが好ましく、7.0質量部以下であることがより好ましく、5.0質量部以下であることがさらに好ましく、2.0質量部未満であることが一層好ましく、1.0質量部以下であることがより一層好ましく、0.5質量部以下であってもよく、さらには、0.3質量部以下、0.1質量部以下であってもよい。
本発明のフィルムは、前記(B)繊維状成形体を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計が上記範囲となることが好ましい。
【0036】
<<蛍光体>>
本発明で用いる(B)繊維状成形体は、蛍光体を含むことが好ましい。蛍光体を含むことにより、光線の照射による識別がより容易になる。
蛍光体としては、光(例えば、紫外光および赤外光から選ばれる少なくとも1種)の照射により発光するものであれば特に制限されず、好ましくは紫外光等の照射により可視光または赤外光を発光するものが好ましい。蛍光体は、無機蛍光体であっても、有機蛍光体であってもよい。
本発明で用いる(B)繊維状成形体は、(B)繊維状成形体を構成する熱可塑性樹脂(b)100質量部に対し、蛍光体を、蛍光体(特に、無機蛍光体の場合)を、0.01質量部以上含むことが好ましく、0.03質量部以上含むことがより好ましく、1.0質量部以上含むことがさらに好ましい。また、本発明で用いる(B)繊維状成形体は、ポリアリレートおよびポリエーテルエーテルケトンの総量100質量部に対し、蛍光体を、5質量部以下含むことが好ましく、3質量部以下含むことがより好ましく、2.5質量部以下含むことがさらに好ましい。
特に、蛍光体が有機蛍光体(特に、染料)の場合、0.01質量部以上含むことが好ましく、0.02質量部以上含むことがより好ましく、0.03質量部以上含むことがさらに好ましい。また、本発明で用いる(B)繊維状成形体は、ポリアリレートおよびポリエーテルエーテルケトンの総量100質量部に対し、有機染料を、1.0質量部以下含むことが好ましく、0.5質量部以下含むことがより好ましく、0.3質量部以下含むことがさらに好ましい。
(B)繊維状成形体は、蛍光体を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0037】
<<<無機蛍光体>>>
無機蛍光体は、B、F、Mg、Al、Si、P、S、Cl、Ca、V、Mn、Cu、Zn、Ge、Sr、Y、Ba、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuからなる群から選択される元素を含む化合物が挙げられる。蛍光体を構成する化合物としては、例えば、これらの元素と酸素原子の複合酸化物が挙げられる。
【0038】
蛍光体は、赤外光または紫外光で発光する蛍光体を用いることが好ましく、紫外光で発光する蛍光体を用いることがより好ましい。紫外光で発光する蛍光体としては、紫外光により励起され、発するスペクトルのピークが青、緑、赤等の波長域にあるものが挙げられる。具体的には、硫化亜鉛やアルカリ土類金属の硫化物などの高純度蛍光体に発光をより強くするために微量の金属(銅、銀、マンガン、ビスマス、鉛など)を付活剤として加え高温焼成して得られるものが挙げられる。紫外光で発光する蛍光体は、母体結晶と付活剤の組み合わせにより色相、明るさ、色の減衰の度合いを調整することができる。
【0039】
無機蛍光体は、その平均粒子径(D50)が0.01μm以上であることが好ましい。また、前記平均粒子径(D50)の上限値としては、50μm以下であることが好ましく、10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがさらに好ましい。前記上限値以下とすることにより、繊維へ加工する際に、糸切れ等の成形不具合が生じる可能性をより低くできる。
【0040】
本発明において無機蛍光体として用いることができる化合物としては、例えば、特開2015-168728号公報の段落0019、0090~0097の記載等、特開平10-129107号公報の段落0033、0034、0069等を参照することができ、これらの記載を本明細書に組み込まれる。
【0041】
<<<有機蛍光体>>>
有機蛍光体として用いる化合物としては、通常、顔料または染料であり、染料が好ましい。
有機蛍光体として用いる化合物は、有機蛍光体としては、例えば、次のようなものが挙げられる。
赤色発光蛍光体:Eu錯体化合物、Sm錯体化合物、Pr錯体化合物等の希土類錯体化合物、ジシアノメチレン系化合物、ベンゾピラン誘導体、ローダミン誘導体、ベンゾチオキサンテン誘導体、ポリアルキルチオフェン誘導体
黄色発光蛍光体:ルブレン系化合物、ペリミドン誘導体
青色発光蛍光体:クマリン系化合物、ペリレン系化合物、ピレン系化合物、アントラセン系化合物、ナフタレン系化合物、ジスチリル誘導体、ポリジアルキルフルオレン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ベンゾオキサゾール誘導体
緑色発光蛍光体:クマリン系化合物、Tb錯体化合物等の希土類錯体化合物、キナクリドン化合物、キノリン系化合物
【0042】
このような有機蛍光体としては、市販品を用いることができ、例えば、青色発光蛍光体としては、セントラルテクノ社製「ルミシス/B-800」、「ルミシス/B-1400」、昭和化学工業社製「Hakkol PSR」、クラリアントジャパン社製「Hostalux KS」、緑色発光蛍光体としては、セントラルテクノ社製「ルミシス/G-900」、「ルミシス/G-3300」、赤色発光蛍光体としては、セントラルテクノ社製「ルミシス/E-400」などを用いることができる。
【0043】
<その他の成分>
フィルムを構成する成分は、上述の成分に加えて、酸化防止剤、熱安定剤、難燃剤、難燃助剤、離型剤等の添加剤を含有してもよい。あるいは、本発明の効果を損なわない限り、紫外光吸収剤、帯電防止剤、蛍光増白剤、防曇剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤等の添加剤を含有してもよい。上述したような添加剤の含有量は、(A)熱可塑性樹脂全体の質量を基準として、1.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下であることがさらに好ましい。
【0044】
<フィルムの製造方法>
本発明のフィルムの製造方法は特に定めるものではないが、溶融状態の(A)熱可塑性樹脂に、(B)繊維状成形体を配合し、混練して、押出成形することが例示される。
また、ペレット状の(A)熱可塑性樹脂に、(B)繊維状成形体を配合した後、(A)熱可塑性樹脂を溶融させ、両者を混練して、押出成形することも例示される。
本発明では、溶融状態の(A)熱可塑性樹脂に(B)繊維状成形体に配合したり、(A)熱可塑性樹脂に(B)繊維状成形体を配合してから、前記(A)熱可塑性樹脂を溶融させても、繊維状の形状を保つことができる。
より具体的には、本発明のフィルムの製造方法は、(A)熱可塑性樹脂と(B)繊維状成形体とを含む樹脂組成物であって、前記(B)繊維状成形体は、熱可塑性樹脂(b)を含み、前記熱可塑性樹脂(b)は、示差走査熱量計で測定したとき、ガラス転移温度T2[℃]および融点T3[℃]の少なくとも一方を示し、かつ、(A)熱可塑性樹脂のせん断速度1,216[1/s]における溶融粘度が500[Pa・s]となる温度をT1[℃]としたとき、前記温度T1[℃]、ガラス転移温度T2[℃]および融点T3[℃]が下記式(1)および(2)のうち少なくとも一方を満たす樹脂組成物を押出成形することを含む。
(1)T2 > T1 - 30
(2)T3 > T1 + 50
【0045】
また、本発明のフィルムを含む多層体としてもよく、この場合は、各層を構成する(A)熱可塑性樹脂を、共押出成形することもできる。
【0046】
[フィルムの用途]
本発明のフィルムに、真贋判定に好ましく用いられる。特に、光を照射して識別する真贋判定に好ましく用いられる。
本発明のフィルムは、さらに、他の層と組み合わせて用いることができる。
また、本発明のフィルムは、セキュリティカードまたはパスポートに用いることができる。より具体的には、IDカード、e-パスポート、非接触型ICカード等として好適に用いられる。ただし、その用途が限定されるものではなく、製品のタグや、流通情報、個人データ管理、防犯システムなど、偽造の防止が望まれる分野で広く活用することができる。
また、本明細書では、本発明のフィルムを含むセキュリティカードおよび本発明のフィルムを含むパスポートを開示する。
【0047】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、特表2010-514950号公報の記載、特表2006-504883号公報の記載、特開2009-228172号公報の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【実施例】
【0048】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0049】
[(B)繊維状成形体の製造]
<(B)繊維状成形体を構成する熱可塑性樹脂(b)>
VICTREX PEEK 450G:ビクトレックス社製、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、ガラス転移温度(T2)146℃、融点(T3)331℃
Uポリマー Dタイプ:ユニチカ社製、ポリアリレート樹脂(PAR)、ガラス転移温度(T2)198℃、DSCによる測定では融点(T3)を示さなかった
Uポリマー T-240AF:ユニチカ社製、ポリアリレート樹脂(PAR)、ガラス転移温度(T2)218℃、DSCによる測定では融点(T3)を示さなかった
Uポリマー T-200:ユニチカ社製、ポリアリレート樹脂(PAR)、ガラス転移温度(T2)260℃、DSCによる測定では融点(T3)を示さなかった
トレリナ A-900:東レ社製、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)、ガラス転移温度(T2)92℃、融点(T3)273℃
【0050】
<蛍光体>
緑色蛍光体 D1164:無機蛍光体、根本特殊化学社製、組成BaMg
2Al
16O
27:Eu,Mn)、平均粒子径(D
50)1~3μm
赤色蛍光体 D1124:無機蛍光体、根本特殊化学社製、組成Y
2O
2S:Eu、平均粒子径1~3μm
蓄光体 G-300FF:無機蛍光体、根本特殊化学社製、「N夜光 Gシリーズ」、(組成SrAl
2O
4:Eu,Dy)、平均粒子径(D
50)3μm
赤外励起蛍光体 VIR-009-AA:無機蛍光体、根本特殊化学社製、平均粒子径(D
50)1μm
Hakkol PSR:有機蛍光体、昭和化学工業社製、下記化合物
【化1】
【0051】
[製造例1]
<樹脂ペレットの製造>
表1に示す熱可塑性樹脂と蛍光体を、表1(各成分の単位は質量部である)に示すように配合し、各成分をタンブラーにてブレンドした。次に、二軸溶融押出機(東洋精機製作所社製「ラボプラストミル」)を用い、シリンダー温度340~370℃、スクリュー回転数25rpmで溶融混錬し、ストランドカットによりペレットを得た。
<繊維状成形体の製造>
得られた樹脂ペレットを用いて、キャピログラフ1D(東洋精機製作所社製)を用いて、シリンダー温度320~370℃で直径100μmの繊維状に加工した。得られた繊維状樹脂成形体を長さ2mmにカットし、数平均直径100μm、数平均繊維長は2mmの繊維状成形体を得た。
【0052】
[製造例2~9]
製造例1において、熱可塑性樹脂の種類と、蛍光体の種類を表1に示すように変更し、他は同様に行って、繊維状成形体を得た。得られた繊維状成形体は、いずれも数平均直径は100μm、数平均繊維長は2mmであった。
【0053】
<ガラス転移温度Tg(T2)および融点Tm(T3)の測定>
ガラス転移温度および/または融点は以下の通り測定した。
下記のDSCの測定条件のとおりに、昇温、降温を2サイクル行い、2サイクル目の昇温時のガラス転移温度および/または融点を測定した。
低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、変曲点の接線の交点を開始ガラス転移温度とし、高温側のベースラインを低温側に延長した直線と、変曲点の接線の交点を終了ガラス転移温度とし、この開始ガラス転移温度をガラス転移温度(Tg)とした。また、吸熱ピークトップを示す温度を融点とした。測定開始温度:30℃、昇温速度:10℃/分、到達温度:400℃、降温速度:20℃/分とした。
測定装置は、示差走査熱量計(DSC、(株)日立ハイテクサイエンス社製、「DSC7020」)を使用した。
後述する表2~4において、ガラス転移温度や融点について「-」の記載があるものは、本測定方法により測定できなかったことを意味する。
【0054】
<せん断速度1,216[1/s]における溶融粘度が500[Pa・s]となる温度T1[℃]>
せん断速度1,216[1/s]における溶融粘度が500[Pa・s]となる温度T1[℃]は、以下の通り測定した。
キャピログラフ1D(東洋精機製作所社製)を用いて、ノズル長10.0mm、ノズル径1.0mm、せん断速度1,216[1/S]、シリンダー温度200~320℃の範囲で20℃毎に溶融粘度を測定した。測定により得られた溶融粘度をY軸に、温度をX軸にプロットし、溶融粘度が500[Pa・s]未満で最も高い溶融粘度を示す点と、溶融粘度が500[Pa・s]以上で最も低い溶融粘度を示す点の2点を結ぶ直線から、溶融粘度が500[Pa・s]となる温度求めた。
【0055】
【0056】
[フィルムの製造]
<(A)熱可塑性樹脂>
E-2000F:PC、ポリカーボネート、粘度平均分子量Mv28,000、三菱エンジニアリングプラスチックス社製
H-4000F:PC、ポリカーボネート、粘度平均分子量Mv16,000、三菱エンジニアリングプラスチックス社製
S2008:PETG、高強度ポリエチレンテレフタレート樹脂、SKケミカル社製
【0057】
<(B)繊維状成形体>
上記製造例1~9で得られた繊維状成形体
ポリアミド(PA)繊維:PETREL社製、Security Fiber、融点(T2)250℃、数平均直径100μm、数平均繊維長2mm、ガラス転移温度(T3)は、上記DSC法では測定できなかった。
【0058】
実施例1~8、比較例1~5
<フィルムの製造>
表2~4(各成分の単位は質量部である)に示す(A)熱可塑性樹脂と(B)繊維状成形体を用いて以下のとおりフィルムを製造した。表2(各成分の単位は質量部である)に示すように、各成分をタンブラーにてブレンドした。次に、スクリュー径26mmのベント付二軸押出機(東芝機械社製「TEM26」)を用い、表2~4に示す成形温度、スクリュー回転数100rpmで溶融混練し、ストランドカットによりペレットを得た。
得られた樹脂ペレットを用いて、Tダイ付単軸押出機(プラエンジ社製PSV-30)を用いて、表2~4に示す成形温度、ロール温度110℃、吐出5kg/h、スクリュー回転数30rpmの条件で、幅25cm、厚み150μmのフィルムを得た。
【0059】
<蛍光性能>
得られたフィルムについて、蛍光性能を以下の通り評価した。評価は、5人で行い、最も評価数が多かった評価区分を、本実施例における評価とした。
A:紫外線照射によって、繊維状成形体部分が発光していることを目視および/または赤外線カメラで確認できた。
B:上記A以外であった。例えば、繊維状成形体が溶融してしまい、紫外線または赤外線を照射することによって、フィルム面全体が、発光していた。
【0060】
<繊維状形態維持性能>
得られたフィルムを目視で確認し、以下の通り評価した。評価は、5人で行い、最も評価数が多かった評価区分を、本実施例における評価とした。
A:フィルム中で繊維状成形体がその繊維形状を維持できていることを確認できた。
B:上記A以外であった。例えば、繊維状成形体が溶融してしまっていた等。
【0061】
<区別(形態)>
得られたフィルムを目視で確認し、以下の通り評価した。評価は、5人で行い、最も評価数が多かった評価区分を、本実施例における評価とした。
A:繊維状の形態を維持しており、繊維状成形体の形態から他のフィルムと識別できた。
B:上記A以外であった。
【0062】
<区別(発光)>
得られたフィルムを目視で確認し、以下の通り評価した。評価は、5人で行い、最も評価数が多かった評価区分を、本実施例における評価とした。
A:繊維状の形態を維持しており、紫外線照射時に、繊維状成形体の部分が発光することによって、他のフィルムと識別できた。
B:上記A以外であった。
【0063】
【符号の説明】
【0064】
1 フィルム
2 繊維状成形体