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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-26
(45)【発行日】2023-11-06
(54)【発明の名称】工作機械の誤差補正方法及び工作機械
(51)【国際特許分類】
   B23Q 15/24 20060101AFI20231027BHJP
   G05B 19/404 20060101ALI20231027BHJP
【FI】
B23Q15/24
G05B19/404 G
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019201711
(22)【出願日】2019-11-06
(65)【公開番号】P2021074807
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-07-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121142
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 恭一
(72)【発明者】
【氏名】小島 拓也
(72)【発明者】
【氏名】松下 哲也
(72)【発明者】
【氏名】近藤 康功
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-038902(JP,A)
【文献】特開平03-277449(JP,A)
【文献】特公平08-000350(JP,B2)
【文献】特開2017-159376(JP,A)
【文献】特開2018-142064(JP,A)
【文献】特開2011-036959(JP,A)
【文献】特開平08-261711(JP,A)
【文献】特開2018-043333(JP,A)
【文献】特表2000-501505(JP,A)
【文献】特開2015-203567(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 15/22 - 15/24
G05B 19/18 - 19/46
B23Q 17/00 - 17/24
G01B 5/00 - 5/30
G01B 21/00 - 21/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2軸以上の並進軸と、工作物を保持可能なテーブルと、工具を保持可能な主軸とを有し、前記主軸に保持された工具が、前記並進軸により、工作物に対して並進2自由度以上の相対運動が可能であると共に、出力手段を備えた工作機械において、前記並進軸の運動誤差を補正パラメータに従って補正する方法であって、
複数のターゲットを有する基準器の種類と、前記基準器の設置方向と、前記基準器の設置位置とを含む複数の基準器条件のうちの少なくとも1つの前記基準器条件を、前記出力手段に出力する基準器条件出力ステップと、
出力された前記基準器条件に従って前記基準器を前記テーブルに設置する基準器設置ステップと、
前記主軸に取り付けたセンサを用いて、前記基準器条件における前記複数のターゲットの位置を検出することで、前記ターゲットの位置に関する計測値を取得する基準器計測ステップと、
前記基準器条件において得られた前記計測値と、前記ターゲットの位置に関する校正値とを用いて誤差値を算出する誤差値算出ステップと、
前記計測値と前記誤差値との関係を曲線近似及び直線近似し、前記基準器計測ステップにて前記基準器を計測した際の前記並進軸の指令値の範囲内においては近似曲線をもとに前記並進軸の位置決め誤差の前記補正パラメータを算出し、
前記基準器計測ステップにて前記基準器を計測した際の前記並進軸の指令値の範囲外においては近似直線をもとに前記位置決め誤差の前記補正パラメータを算出する補正パラメータ算出ステップと、
を実行することを特徴とする工作機械の誤差補正方法。
【請求項2】
前記補正パラメータ算出ステップでは、前記基準器条件において得られた前記誤差値と前記計測値とに対して、1つの前記近似曲線又は前記近似直線を求めることを特徴とする請求項1に記載の工作機械の誤差補正方法。
【請求項3】
前記補正パラメータ算出ステップでは、前記位置決め誤差の前記補正パラメータを算出する際に、
複数の前記基準器条件のうちの2つの組み合わせにおいて、前記設置位置がマイナス側の第1の基準器条件において、一部の前記誤差値と前記計測値との関係を直線近似し、
前記設置位置がプラス側の第2の基準器条件において、一部の前記誤差値と前記計測値との関係を直線近似し、
前記第1の基準器条件の前記設置方向のプラス端の前記計測値と、前記第2の基準器条件のマイナス端の前記計測値との中間点において、前記第1の基準器条件の近似直線と、前記第2の基準器条件の近似直線とが交点を持つように、前記誤差値をオフセットすることを特徴とする請求項1又は2に記載の工作機械の誤差補正方法。
【請求項4】
前記補正パラメータ算出ステップでは、前記並進軸の真直度に関する補正パラメータをさらに算出し、
前記真直度の補正パラメータの算出において、複数の前記基準器条件の前記計測値が重複する範囲において、前記誤差値と前記計測値との関係を前記基準器条件のそれぞれで近似した直線が一致するように、前記誤差値を修正することを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の工作機械の誤差補正方法。
【請求項5】
前記補正パラメータ算出ステップでは、前記近似曲線を多次式とし、
前記誤差値の数と前記多次式の次数との差が所定のしきい値未満の場合は、前記次数を減らすことを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の工作機械の誤差補正方法。
【請求項6】
前記補正パラメータ算出ステップでは、算出した前記補正パラメータの絶対値の最大値が所定の検証用しきい値を超える場合、前記補正パラメータが過大である旨を前記出力手段によって報知することを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の工作機械の誤差補正方法。
【請求項7】
前記補正パラメータ算出ステップでは、算出した前記補正パラメータの絶対値の最大値が、前記検証用しきい値を超える場合、前記補正パラメータの絶対値が前記検証用しきい値と同一になるように前記補正パラメータを置き換えることを特徴とする請求項6に記載の工作機械の誤差補正方法。
【請求項8】
2軸以上の並進軸と、工作物を保持可能なテーブルと、工具を保持可能な主軸とを有し、前記主軸に保持された工具が、前記並進軸により、工作物に対して並進2自由度以上の相対運動が可能であると共に、出力手段を備えて、前記並進軸の運動誤差を補正パラメータに従って補正可能な工作機械であって、
複数のターゲットを有する基準器の種類と、前記基準器の設置方向と、前記基準器の設置位置とを含む複数の基準器条件のうちの少なくとも1つの前記基準器条件を、前記出力手段に出力する基準器条件出力手段と、
出力された前記基準器条件に従って前記基準器が前記テーブルに設置された状態で、前記主軸に取り付けたセンサを用いて、前記基準器条件における前記複数のターゲットの位置を検出することで、前記ターゲットの位置に関する計測値を取得する基準器計測手段と、
前記基準器条件において得られた前記計測値と、前記ターゲットの位置に関する校正値とを用いて誤差値を算出する誤差値算出手段と、
前記計測値と前記誤差値との関係を曲線近似及び直線近似し、前記基準器計測ステップにて前記基準器を計測した際の前記並進軸の指令値の範囲内においては近似曲線をもとに前記並進軸の位置決め誤差の前記補正パラメータを算出し、
前記基準器計測ステップにて前記基準器を計測した際の前記並進軸の指令値の範囲外においては近似直線をもとに前記位置決め誤差の前記補正パラメータを算出する補正パラメータ算出手段と、
を備えることを特徴とする工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械に生じる運動誤差を補正する方法と、当該方法を実行可能な工作機械とに関する。
【背景技術】
【0002】
図1は、3つの並進軸を有する工作機械(マシニングセンタ)の模式図である。
主軸頭2は、並進軸であり互いに直交するX軸・Z軸によって並進2自由度の運動が可能であり、テーブル3は、並進軸でありX・Z軸に直交するY軸により並進1自由度の運動が可能である。したがって、テーブル3に対して主軸頭2は並進3自由度を有する。各軸は、数値制御装置により制御されるサーボモータにより駆動され、被加工物をテーブル3に固定し、主軸頭2の主軸2aに工具を装着して回転させ、被加工物を任意の形状に加工する。
このような工作機械の運動誤差として、位置決め誤差や真直度といったものがある。これらの運動誤差は、被加工物の形状に転写され、被加工物の形状・寸法誤差の要因となる。これに対して、位置決め誤差や真直度をパラメータとして補正制御を行うことで、高精度な加工を実現できる。例えば特許文献1には、タッチプローブを用いてマスタブロックの基準直線部を計測し、計測結果と予め入力されたマスタワーク形状データの偏差とをもとに、直線補間送りの誤差に対する補正パラメータを計算し、計算した補正パラメータをもとに補正制御を行う方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平6-138921号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のようなタッチプローブによる計測結果には、測定ばらつきによる誤差が含まれており、計測結果をそのまま補正量とすると、その測定ばらつきが運動誤差となってしまう。
さらに、マスタブロックの代わりに精度基準となる基準器を用いて並進軸の誤差を計測する場合、どの基準器をどのように設置するかを作業者自身が考える必要があり、不慣れなオペレータには難しい作業となる。
【0005】
そこで、本発明は、不慣れなオペレータでも容易に実施でき、測定ばらつきによる補正制御時の運動誤差を低減することができる工作機械の誤差補正方法及び工作機械を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、2軸以上の並進軸と、工作物を保持可能なテーブルと、工具を保持可能な主軸とを有し、前記主軸に保持された工具が、前記並進軸により、工作物に対して並進2自由度以上の相対運動が可能であると共に、出力手段を備えた工作機械において、前記並進軸の運動誤差を補正パラメータに従って補正する方法であって、
複数のターゲットを有する基準器の種類と、前記基準器の設置方向と、前記基準器の設置位置とを含む複数の基準器条件のうちの少なくとも1つの前記基準器条件を、前記出力手段に出力する基準器条件出力ステップと、
出力された前記基準器条件に従って前記基準器を前記テーブルに設置する基準器設置ステップと、
前記主軸に取り付けたセンサを用いて、前記基準器条件における前記複数のターゲットの位置を検出することで、前記ターゲットの位置に関する計測値を取得する基準器計測ステップと、
前記基準器条件において得られた前記計測値と、前記ターゲットの位置に関する校正値とを用いて誤差値を算出する誤差値算出ステップと、
前記計測値と前記誤差値との関係を曲線近似及び直線近似し、前記基準器計測ステップにて前記基準器を計測した際の前記並進軸の指令値の範囲内においては近似曲線をもとに前記並進軸の位置決め誤差の前記補正パラメータを算出し、
前記基準器計測ステップにて前記基準器を計測した際の前記並進軸の指令値の範囲外においては近似直線をもとに前記位置決め誤差の前記補正パラメータを算出する補正パラメータ算出ステップと、を実行することを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、上記構成において、前記補正パラメータ算出ステップでは、前記基準器条件において得られた前記誤差値と前記計測値とに対して、1つの前記近似曲線又は前記近似直線を求めることを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、上記構成において、前記補正パラメータ算出ステップでは、前記位置決め誤差の前記補正パラメータを算出する際に、
複数の前記基準器条件のうちの2つの組み合わせにおいて、前記設置位置がマイナス側の第1の基準器条件において、一部の前記誤差値と前記計測値との関係を直線近似し、
前記設置位置がプラス側の第2の基準器条件において、一部の前記誤差値と前記計測値との関係を直線近似し、
前記第1の基準器条件の前記設置方向のプラス端の前記計測値と、前記第2の基準器条件のマイナス端の前記計測値との中間点において、前記第1の基準器条件の近似直線と、前記第2の基準器条件の近似直線とが交点を持つように、前記誤差値をオフセットすることを特徴とする。
請求項4に記載の発明は、上記構成において、前記補正パラメータ算出ステップでは、前記並進軸の真直度に関する補正パラメータをさらに算出し、
前記真直度の補正パラメータの算出において、複数の前記基準器条件の前記計測値が重複する範囲において、前記誤差値と前記計測値との関係を前記基準器条件のそれぞれで近似した直線が一致するように、前記誤差値を修正することを特徴とする。
請求項5に記載の発明は、上記構成において、前記補正パラメータ算出ステップでは、前記近似曲線を多次式とし、
前記誤差値の数と前記多次式の次数との差が所定のしきい値未満の場合は、前記次数を減らすことを特徴とする。
請求項6に記載の発明は、上記構成において、前記補正パラメータ算出ステップでは、算出した前記補正パラメータの絶対値の最大値が所定の検証用しきい値を超える場合、前記補正パラメータが過大である旨を前記出力手段によって報知することを特徴とする。
請求項7に記載の発明は、上記構成において、前記補正パラメータ算出ステップでは、算出した前記補正パラメータの絶対値の最大値が、前記検証用しきい値を超える場合、前記補正パラメータの絶対値が前記検証用しきい値と同一になるように前記補正パラメータを置き換えることを特徴とする。
上記目的を達成するために、請求項8に記載の発明は、上記構成において、2軸以上の並進軸と、工作物を保持可能なテーブルと、工具を保持可能な主軸とを有し、前記主軸に保持された工具が、前記並進軸により、工作物に対して並進2自由度以上の相対運動が可能であると共に、出力手段を備えて、前記並進軸の運動誤差を補正パラメータに従って補正可能な工作機械であって、
複数のターゲットを有する基準器の種類と、前記基準器の設置方向と、前記基準器の設置位置とを含む複数の基準器条件のうちの少なくとも1つの前記基準器条件を、前記出力手段に出力する基準器条件出力手段と、
出力された前記基準器条件に従って前記基準器が前記テーブルに設置された状態で、前記主軸に取り付けたセンサを用いて、前記基準器条件における前記複数のターゲットの位置を検出することで、前記ターゲットの位置に関する計測値を取得する基準器計測手段と、
前記基準器条件において得られた前記計測値と、前記ターゲットの位置に関する校正値とを用いて誤差値を算出する誤差値算出手段と、
前記計測値と前記誤差値との関係を曲線近似及び直線近似し、前記基準器計測ステップにて前記基準器を計測した際の前記並進軸の指令値の範囲内においては近似曲線をもとに前記並進軸の位置決め誤差の前記補正パラメータを算出し、
前記基準器計測ステップにて前記基準器を計測した際の前記並進軸の指令値の範囲外においては近似直線をもとに前記位置決め誤差の前記補正パラメータを算出する補正パラメータ算出手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、出力される基準器条件に従って基準器を設置するだけで、不慣れなオペレータでも計測を実施して補正パラメータを設定することが可能となる。
また、計測結果を曲線で近似し、近似曲線をもとに補正パラメータを算出するので、測定ばらつきによる補正制御時の運動誤差を低減することができる。特に、基準器を計測した際の並進軸の指令値の範囲内で近似曲線をもとにした補正パラメータによる高精度な補正制御を行うだけでなく、当該指令値の範囲外でも近似直線をもとにした補正パラメータにより補正制御を行うので、並進軸ストロークの全域で運動誤差を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】X軸、Y軸、Z軸の並進軸を有する工作機械の模式図である。
図2】数値制御のブロック線図である。
図3】数値制御装置を示すブロック図である。
図4】本発明の誤差補正方法のフローチャートである。
図5】本発明の基準器条件の一例である。
図6】タッチプローブとテーブル上に設置された基準器の模式図である。
図7】基準器の一例である。
図8】同じ設置方向の基準器条件における基準器の設置方法の例である。
図9】誤差値の修正方法のフローチャートである。
図10】複数の基準器条件における位置決め誤差の誤差値と計測値との例である。
図11】複数の基準器条件における位置決め誤差の修正後の誤差値と計測値との例である。
図12】複数の基準器条件における真直度の誤差値と計測値との例である。
図13】複数の基準器条件における真直度の修正後の誤差値と計測値との例である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。ここでは工作機械として、図1のマシニングセンタを例に説明する。
まず、図2は、マシニングセンタの数値制御装置による数値制御の一例である。加工プログラム11が入力されると、指令値生成手段12において各駆動軸の指令値が生成される。生成された指令値をもとに、補正値演算手段16により各軸の補正値が演算され、指令値と補正値との合計値がサーボ指令値変換手段13に送られてサーボ指令値が演算され、各軸のサーボ指令値が各軸のサーボアンプ14a~14cに送られる。各軸のサーボアンプ14a~14cは、それぞれサーボモータ15a~15cを駆動し、テーブル3に対する主軸2aの相対位置を制御する。
【0010】
補正値のもととなる補正パラメータは、並進軸の位置とその位置における誤差を点群データとして持つ。各点間の補正値は、線形補間などで補間して計算することができる。 また、数値制御装置21は、図3に示すように、記憶手段22を持ち、補正パラメータや基準器条件などを記憶することができる。また、計測対象の入力などを行う入力手段23や、オペレータに情報を伝達する表示部等の出力手段24を備えている。 さらに、数値制御装置21は、本発明の基準器条件出力手段、基準計測手段、誤差値算出手段、補正パラメータ算出手段として機能する。
【0011】
続いて、数値制御装置21が実行する本発明の誤差補正方法について、図4のフローチャートにもとづいて説明する。
はじめにオペレータから計測対象が入力手段23により入力される。計測対象には少なくとも1つの基準器条件が紐づけられている。基準器条件には、予め基準器の種類と、設置方向と、設置位置とが定められている。S1で入力された基準器条件を順次出力手段24に表示し(S2:基準器条件出力ステップ)、出力された基準器条件に従ってオペレータが基準器をテーブル3上に設置する(S3:基準器設置ステップ)。ここでは、計測対象がX軸とY軸との位置決め誤差及び真直度であり、図5のような基準器条件を例とする。
S2にて表示される基準器条件1に従って、S3にて図6に示すようにX軸と平行にX=0の位置に基準器32を設置する。本例の基準器32には、図7に示すように、相対位置が校正された複数のターゲット球33(P~P10)が取り付けられている。
【0012】
次に、設置した基準器32上のターゲット球33の位置を、主軸2aに装着したタッチプローブ31を用いて測定する(S4:基準器計測ステップ)。ターゲット球33を測定することで、ターゲット球P(i=1~10)の位置に関する計測値X,Y,Z(i=1~10)が得られる。
数値制御装置21の補正値演算手段16は、ターゲット球PとPとの相対位置をXCi,YCi,ZCiとして、ターゲット球Pの計測値の誤差値δxi,δyi,δziを、下記の数1で求める(S5:誤差値算出ステップ)。
なお、Pを基準とするため、i=1のときの誤差値δxi,δyi,δziは0となる。
[数1]
δxi=(X-X)-XCi
δyi=(Y-Y)-YCi
δzi=(Z-Z)-ZCi
【0013】
以上のS2~S5を、表示される基準器条件に従って基準器32の種類、設置方向、設置位置を変更して順次実施することで、補正値演算手段16は、各基準器条件jにおいて、誤差値δxi,j,δyi,j,δzi,jと、ターゲット球33の位置の計測値Xi,j,Yi,j,Zi,jとを得ることができる。
次に、補正値演算手段16は、全基準器条件において得られた誤差値のうち、図8のように設置方向がともにX方向である基準器条件1,2で得られた誤差値の修正を行う(S6)。この誤差値の修正方法について、図9のフローチャートにもとづいて説明する。
【0014】
まず、S6-1~S6-3の位置決め誤差(ここではX方向誤差値)の修正方法について、図10のような計測値および誤差値のデータを例に説明する。
はじめに誤差値を修正する際に参照するデータを抽出する(S6-1)。ここでは基準器条件1(設置位置がマイナス側の第1の基準器条件)のターゲット球33の位置の計測値X1,1~X10,1と、基準器条件2(設置位置がプラス側の第2の基準器条件)のターゲット球33の位置の計測値X1,2~X10,2とを比較して、重複範囲X7,1~X10,1(プラス端),X1,2~X4,2(マイナス端)を参照データとする。そのほかの方法として各基準器条件の端2点であるX9,1,X10,1とX1,2,X2,2を参照データとすることもできる。
抽出した参照データを直線で近似し、近似直線の傾きa,aと切片b,bとを求める(S6-2)。
求めた傾きと切片とを用いて、図11のように2つの基準器条件1,2の計測値の中間点(X10,1+X1,2)/2で近似直線が交わるように、下記の数2に従って基準器条件2の誤差値δxi,2(i=1~10)をオフセットし、修正後の誤差値δxi,2’を得る(S6-3)。
[数2]
δxi,2’=δxi,2+(a-a)(X10,1+X1,2)/2+(b-b
【0015】
続けて、S6-4~S6-6の真直度(ここではY,Z方向誤差値)の修正方法について、図12のような計測値および誤差値のデータを例に説明する。Y方向誤差値を例にして説明するが、Z方向誤差値の修正方法についても同様である。
基準器条件1のターゲット球33の位置の計測値X1,1~X10,1と基準器条件2のターゲット球33の位置の計測値X1,2~X10,2とを比較して、重複範囲X7,1~X10,1,X1,2~X4,2を得る(S6-4)。
次に、重複範囲内の誤差値δy7,1~δy10,1,δy1,2~δy4,2をそれぞれ直線近似し、直線の傾きa,aと切片b,bとを求める(S6-5)。
求めた2つの近似直線が図13のように一致するように基準器条件2の誤差値δyi,2(i=1~10)を下記の数3に従って修正し、修正後の誤差値δyi,2’を得る(S6-6)。
[数3]
δyi,2’=δyi,2+(a-a)Xi,2+(b-b
【0016】
そして、S6で修正した誤差値を直線と曲線とのそれぞれで近似する(S7)。近似曲線をm次の多項式とすると、X方向誤差値δ’は、計測値Xを用いて下記の数4のように近似することができる。
[数4]
δ’=cx0+ cx1X+ ・・+cxm
【0017】
設置方向がともにX方向である基準器条件1,2で得られた誤差値と計測値とを数4に代入することで、下記数5が得られる。
【0018】
【数5】
【0019】
数5を多項式の係数cx0,cx1,cx2,・・,cxmについて解くことで、近似曲線が求められる。この際、次数mと誤差値の総数NとがN-m>α(しきい値αは0以上の整数)の関係にある場合には、次数m=N+αに修正する。
近似直線を1次の多項式とすると、1次の多項式の係数dx0,dx1については、数5においてm=1とすることで同様に求められる。Y,Z方向誤差値についても同様の方法で近似する。
基準器条件3で得られた計測結果については、設置方向がYであるため、計測値Xの代わりに計測値Yを用いて同様の計算を行う。
【0020】
こうして求めた近似曲線と近似直線とをもとに、補正値演算手段16は、補正パラメータを計算する(S8:補正パラメータ算出ステップ)。補正パラメータは、各軸のn点の指令値に対する点群データとして持つ。
まず、X軸の位置決め誤差(X方向誤差)に対する補正パラメータを計算する。
設置方向がX方向である基準器条件1,2の計測値の最小値をXmin、最大値をXmaxとする。X軸の指令値X(k=1~n)が、Xmin≦X≦Xmaxである場合、X軸の位置決め誤差の補正パラメータExxkは、下記の数6で算出できる。
[数6]
xxk=cx0+cx1 +・・+cxm
【0021】
一方、X軸の指令値Xが、計測範囲外(X<XminもしくはX>Xmax)の場合、軸全体の伸縮膨張成分のみ補正する。このため、補正パラメータExxkは、下記の数7で表すことができる。
[数7]
<Xminの場合 Exxk=dx1(X-Xmin)+Exxmin
>Xmaxの場合 Exxk=dx1(X-Xmax)+Exxmax
ただし、Exxmin=cx0+cx1min+・・+cxmmin
xxmax=cx0+cx1max+・・+cxmmax
【0022】
次に、X軸の真直度(Y,Z方向誤差)に対する補正パラメータを計算する。指令値XがXmin≦X≦Xmaxのときの真直度の補正パラメータEyxk,Ezxkは、近似直線を用いて基準器32の設置傾きの影響を取り除くことで、下記の数8のように求められる。
[数8]
yxk=cy0+cy1+・・+cym -(dy0+dy1
zxk=cz0+cz1+・・+czm -(dz0+dz1
一方、X軸の指令値Xが、計測範囲外(X<XminもしくはX>Xmax)の場合、X軸の指令値がXminやXmaxのときの補正パラメータで代用できる。
【0023】
補正パラメータの算出後、補正パラメータの絶対値が、検証用しきい値Ethrを超えるかどうか判定する(S9)。ここでは、補正パラメータExxkを例に説明する。
補正パラメータExxk(i=1~n)の絶対値が検証用しきい値を超える場合、警告メッセージを出力手段24に出力し(S10)、補正パラメータExxk>0の場合はExxk=Ethrに、Exxk<0の場合はExxk=-Ethrにそれぞれ置換する(S11)。Eyxk,Ezxkについても同様である。
その他の軸についても、本質的にX軸と同じであり、X軸と同様の方法で補正パラメータの算出や検証用しきい値による判定を行う。
【0024】
このように、上記形態のマシニングセンタでは、誤差補正方法として、基準器条件を出力手段24に出力する基準器条件出力ステップと、出力された基準器条件に従って基準器32をテーブル3に設置する基準器設置ステップと、主軸2aに取り付けたタッチプローブ31(センサ)を用いて、基準器条件における複数のターゲット球33(ターゲット)の位置を検出することで、ターゲット球33の位置に関する計測値を取得する基準器計測ステップと、基準器条件において得られた計測値と、ターゲット球PとPとの相対位置(ターゲットの位置に関する校正値)とを用いて誤差値を算出する誤差値算出ステップと、計測値と誤差値との関係を曲線近似及び直線近似し、指令値が計測範囲内である場合(並進軸ストロークの一部の範囲)においては近似曲線をもとに並進軸の位置決め誤差の補正パラメータを算出し、指令値が計測範囲外(並進軸ストロークの別の範囲)においては近似直線をもとに位置決め誤差の補正パラメータを算出する補正パラメータ算出ステップと、を実行する。
【0025】
この構成によれば、出力手段24に出力される基準器条件に従って基準器32を設置するだけで、不慣れなオペレータでも計測を実施して補正パラメータを設定することが可能となる。
また、計測結果を曲線で近似し、近似曲線をもとに補正パラメータを算出するので、測定ばらつきによる補正制御時の運動誤差を低減することができる。特に、基準器32の計測範囲内で近似曲線をもとにした補正パラメータによる高精度な補正制御を行うだけでなく、計測範囲外でも近似直線をもとにした補正パラメータにより補正制御を行うので、並進軸ストロークの全域で運動誤差を低減することができる。
【0026】
なお、上記形態では、S6において誤差値の修正を行っているが、このステップは省略してもよい。
また、S8の補正パラメータ算出ステップにおいては、真直度の補正パラメータの算出による誤差値の修正を省略してもよい。
その他、基準器の形態やターゲット球の形態や数についても上記形態に限らず、適宜変更可能である。工作機械もマシニングセンタに限定されない。
【符号の説明】
【0027】
1・・ベッド、2・・主軸頭、2a・・主軸、3・・テーブル、31・・タッチプローブ、32・・基準器、33・・ターゲット球。
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