(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-26
(45)【発行日】2023-11-06
(54)【発明の名称】樹脂材のレーザー溶着方法
(51)【国際特許分類】
B29C 65/18 20060101AFI20231027BHJP
【FI】
B29C65/18
(21)【出願番号】P 2019209343
(22)【出願日】2019-11-20
【審査請求日】2022-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】501410126
【氏名又は名称】ブランソン・ウルトラソニックス・コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100073324
【氏名又は名称】杉山 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100134898
【氏名又は名称】岩田 克子
(72)【発明者】
【氏名】仙石 大祐
(72)【発明者】
【氏名】池田 貴志
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-255575(JP,A)
【文献】特開2015-103390(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03181331(EP,A1)
【文献】特開2008-055620(JP,A)
【文献】特開2008-272955(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 65/00 - 65/82
B23K 26/00 - 26/70
F21S 41/00
F21S 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下a.~d.の工程からなることを特徴とする樹脂材のレーザー溶着方法。
a.レーザー光に対して透過性のある熱可塑性樹脂材からなり、接合部の一部において折り返し方向の屈曲部を有する一方の樹脂材と、レーザー光に対して吸収性のある熱可塑性樹脂材からなり、接合部の一部において前記一方の樹脂材の接合部における屈曲部と一致する屈曲部を有するもう一方の樹脂材とを、夫々の接合部を当接させた状態において、両樹脂材の接合部における屈曲部を、該屈曲部と同一角度で屈曲すると共に、二回目照射側に延びる部分における前記一方の樹脂材に接する面の延出端側の一部に刳り部を形成した一回目照射用治具で外方から加圧する一回目の段取り工程。
b.レーザー光を一回目照射用治具を介して両樹脂材の接合部に照射する一回目の溶着工程。
c.両樹脂材の屈曲した接合部以外の部分の接合部を当接させた状態において、両樹脂材の接合部の形状に合わせた二回目照射用治具で、両樹脂材を外方から加圧する二回目の段取り工程。
d.レーザー光を二回目照射用治具を介して両樹脂材の接合部に、一回目の照射範囲以外の部分は強く、一回目の照射範囲であって、一回目照射用治具における前記一方の樹脂材に接する面に形成された刳り部の部分においては一回目の照射範囲以外の部分よりも弱く、一回目の照射範囲であって、一回目照射用治具における前記一方の樹脂材に接する面に刳り部が形成されていない部分においては最も弱く照射する二回目の溶着工程。
【請求項2】
レーザー光の照射を
、接合する両樹脂材の全ての接合部に、接合部の形状に沿って配列された複数のレーザー光源から同時にレーザー光を一括照射する一括照射方式により行うことを特徴とする請求項1記載の樹脂材のレーザー溶着方法。
【請求項3】
レーザー光の照射をガルバノスキャナ方式により行うことを特徴とする請求項1記載の樹脂材のレーザー溶着方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂材のレーザー溶着方法に関し、更に詳細には、一回のレーザー光の照射では接合部の全体に亘る接合をなし得ない折り返し方向の屈曲部を有する二つの樹脂材のレーザー溶着方法に係る。
【背景技術】
【0002】
加熱源としてのレーザー光に対して透過性のある熱可塑性樹脂材と、レーザー光に対して吸収性のある熱可塑性樹脂材とを接合部において突き合わせ、レーザー光に対して透過性のある熱可塑性樹脂材側からレーザー光を照射して、これらの樹脂材の当接界面で吸収されるエネルギーにより相互を熱溶融させて接合するレーザー溶着方法、特に接合する樹脂材の全ての接合ラインに同時にレーザー光を一括照射する一括照射方式のレーザー溶着方法において、近時、一回のレーザー光の照射では接合部の全体に亘る接合をなし得ない折り返し方向の屈曲部を有する二つの樹脂材の接合を要求される場合がある。そしてまた、この場合において、両樹脂材の成形精度のバラツキを吸収すると共に確実な接合を得るために、両樹脂材の溶着部分は一定量以上の充分な溶け込み量となることが要求される。尚、ここで溶け込み量とは、樹脂材の溶着において接合する樹脂材に圧力を加えた時に熱溶解した樹脂の、圧力により生じた樹脂材の加圧方向の寸法変化量のことを言う。
【0003】
例えば、
図22及び
図23に示す車両用灯具について説明すると、該車両用灯具1は、レーザー光に対して吸収性のある熱可塑性樹脂材からなるランプハウジング2と、レーザー光に対して透過性のある熱可塑性樹脂材からなるランプレンズ3とからなり、ランプハウジング2の開口部にランプレンズ3を被せた状態においてそれらの周縁の接合部をレーザー溶着により接合するものである。尚、ランプハウジング2におけるベース2Aから立ち上がる左右の側壁2B、2Bと後壁2Cの上端部には、接合部としてのフランジ2′が形成される一方、ランプレンズ3におけるランプハウジング2との接合部位には、接合リブ3′が形成されている。
【0004】
ところで、近時、車両用灯具については、デザイン面から複雑な立体形状が要求されることがあり、上記
図22及び
図23に示す車両用灯具1についても、ランプレンズ3の前部3Aが折り返し方向にくの字状に屈曲Rしている。また、ランプハウジング2におけるベース2Aから立ち上がる前壁2Dも、該ランプレンズ3の屈曲角度に合わせている。
【0005】
そして、このようにランプレンズ3の前部3Aが折り返し方向にくの字状に屈曲していると、一括照射方式による一回のレーザー光の照射では、ランプハウジング2とランプレンズ3との接合部の全体に亘る一定量の溶け込みを有する接合をなし得ない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の点に鑑みなされたものであって、一回のレーザー光の照射では接合部の全体に亘る一定量の溶け込みを有する接合をなし得ない折り返し方向の屈曲部を有する二つの樹脂材を、接合部の全体に亘って一定量以上の充分な溶け込み量で接合することができるようになしたレーザー溶着方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
而して、本発明の要旨は、以下a.~d.の工程からなることを特徴とする樹脂材のレーザー溶着方法にある。
a.レーザー光に対して透過性のある熱可塑性樹脂材からなり、接合部の一部において折り返し方向の屈曲部を有する一方の樹脂材と、レーザー光に対して吸収性のある熱可塑性樹脂材からなり、接合部の一部において前記一方の樹脂材の接合部における屈曲部と一致する屈曲部を有するもう一方の樹脂材とを、夫々の接合部を当接させた状態において、両樹脂材の接合部における屈曲部を、該屈曲部と同一角度で屈曲すると共に、二回目照射側に延びる部分における前記一方の樹脂材に接する面の延出端側の一部に刳り部を形成した一回目照射用治具で外方から加圧する一回目の段取り工程。
b.レーザー光を一回目照射用治具を介して両樹脂材の接合部に照射する一回目の溶着工程。
c.両樹脂材の屈曲した接合部以外の部分の接合部を当接させた状態において、両樹脂材の接合部の形状に合わせた二回目照射用治具で、両樹脂材を外方から加圧する二回目の段取り工程。
d.レーザー光を二回目照射用治具を介して両樹脂材の接合部に、一回目の照射範囲以外の部分は強く、一回目の照射範囲であって、一回目照射用治具における前記一方の樹脂材に接する面に形成された刳り部の部分においては一回目の照射範囲以外の部分よりも弱く、一回目の照射範囲であって、一回目照射用治具における前記一方の樹脂材に接する面に刳り部が形成されていない部分においては最も弱く照射する二回目の溶着工程。
【0008】
また、上記樹脂材のレーザー溶着方法において、レーザー光の照射を一括照射方式により行うようにしてもよい。ここにおいて、一括照射方式とは、接合する両樹脂材の全ての接合部に、接合部の形状に沿って配列された複数のレーザー光源から同時にレーザー光を一括照射する方式を意味するものである。
【0009】
また、上記樹脂材のレーザー溶着方法において、レーザー光の照射をガルバノスキャナ方式により行うようにしても良い。
【発明の効果】
【0010】
本発明は上記の如き工程からなる樹脂材のレーザー溶着方法であるから、一回のレーザー光の照射では接合部の全体に亘る一定量の溶け込みを有する接合をなし得ない折り返し方向の屈曲部を有し、且つ一定量以上の充分な溶け込み量を要求される二つの樹脂材を、接合部の全体に亘って一定量以上の充分な溶け込み量で接合することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係る樹脂材のレーザー溶着方法の一回目の段取り工程の説明図である。
【
図3】同レーザー光の一括照射による一回目の溶着工程の説明図である。
【
図4】同一回目の溶着工程を終了したときにおける両樹脂材の接合部における溶け込み量の違いを示す説明図である。
【
図7】同二回目の段取り工程とレーザー光の一括照射による二回目の溶着工程の説明図である。
【
図8】同二回目の溶着工程におけるレーザー光の照射強度の説明図である。
【
図18】一回目照射用治具の他の例の説明図である。
【
図20】レーザー光の照射をガルバノスキャナ方式によって行う場合における一回目の段取り工程とレーザー光の照射による一回目の溶着工程の説明図である。
【
図21】同二回目の段取り工程とレーザー光の照射による二回目の溶着工程の説明図である。
【
図22】ランプハウジングとランプレンズとからなる車両用灯具の分解斜視図である。
【
図23】接合を完了した状態における車両用灯具の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。
【0013】
本発明の実施形態に係る樹脂材のレーザー溶着方法は、以下の工程からなるものである。
【0014】
尚、本実施形態は、前記
図22及び
図23に示した車両用灯具の例と同様の車両用灯具を例として示すものであり、よって各部材及び符号は
図22及び
図23と同一としている。
【0015】
先ず、一回目の段取り工程を行う。
図1及び
図2に示す如く、レーザー光に対して透過性のある熱可塑性樹脂材からなり、接合部の一部において折り返し方向の屈曲部Rを有する一方の樹脂材、即ち、車両用灯具1におけるランプレンズ3と、レーザー光に対して吸収性のある熱可塑性樹脂材からなり、接合部の一部において前記一方の樹脂材の接合部における屈曲部Rと一致する屈曲部を有するもう一方の樹脂材、即ち、車両用灯具1におけるランプハウジング2とを、夫々の接合部、即ち、接合フランジ2′と接合リブ3′を当接させた状態において、両樹脂材、即ち、ランプレンズ3とランプハウジング2の接合部における屈曲部Rを、該屈曲部Rと同一角度で屈曲すると共に、二回目照射側に延びる部分4′における前記一方の樹脂材、即ち、ランプレンズ3に接する面の延出端側の一部に刳り部Sを形成した一回目照射用治具4で外方から加圧するものである。
【0016】
また、前記一回目照射用治具4における刳り部Sは、その始端S′が、二回目照射側に延びる部分4′における中央よりやや屈曲部R寄りの位置であり、そして、その形態は、本実施形態においては屈曲部R側から延出端側に行くに従って徐々に深くなるようになしている。
【0017】
尚、
図18及び
図19は一回目照射用治具4の他の例を示しており、該刳り部Sについては、該
図18及び
図19に示す如く、始端S′から終端S″まで同一の深さとしても良い。
【0018】
また、該一回目照射用治具4において前記の如くランプレンズ3に接する面に刳り部Sを形成する理由は、
図1及び
図2に示す如く、該一回目照射用治具4によって両樹脂材、即ち、ランプレンズ3とランプハウジング2の接合部における屈曲部R側を加圧したときにおいて一方の樹脂材、すなわち、ランプレンズ3が、一回目照射用治具4により加圧している部分、即ち、屈曲部Rから遠ざかるに従って、
図5及び
図6に示す如く、その弾性によってもう一方の樹脂材、即ち、ランプハウジング2から離れる方法に変形しようとするため、この変形を破損のストレスのない程度に抑えるためである。したがって、一回目照射用治具4によって加圧したときには、
図3に示す如く、ランプレンズ3の外面は一回目照射用治具4の刳り部Sに接触し、該刳り部Sによって内向きに押し付けられており、そして、外方に反っている分だけランプハウジング2との接触の度合いは弱くなっている。
【0019】
そしてまた、この結果、この部分における両樹脂材の接合部の圧着度に差が出ることから、第一回目のレーザー光の一括照射後においては、
図4に示す如く、一方の樹脂材、即ち、ランプレンズ3ともう一方の樹脂材、即ち、ランプハウジング2との接合部における溶け込みMの量は、ランプレンズ3とランプハウジング2との圧着度が弱まるに従って減少することになるものである。
【0020】
次に、一回目の溶着工程を行う。
図3に示す如く、レーザー光Lを一回目照射用治具4を介して両樹脂材、即ち、ランプレンズ3とランプハウジング2との接合部に一括照射する。また、該レーザー光Lの一括照射は、接合部に対して直角に且つ全体的に同一の強度で行う。尚、このときには、前記の通り、両樹脂材の内の一方、即ち、ランプレンズ3は、一回目照射用治具4における刳り部Sにおいて変形して該一回目照射用治具4に接触しており、そしてこの範囲においてもう一方の樹脂材、即ち、ランプハウジング2との圧着度は弱まっている。尚、
図5及び
図6は、一回目の溶着部分を示すものであり、M1は溶け込み量の多い部分、M2は溶け込み量の少ない部分である。
【0021】
次に、二回目の段取り工程を行う。
図7に示す如く、両樹脂材、即ち、ランプレンズ3とランプハウジング2の前記屈曲した接合部R以外の部分を当接させた状態において、両樹脂材、即ち、ランプレンズ3とランプハウジング2の接合部の形状に合わせた二回目照射用治具5で、両樹脂材、即ち、ランプレンズ3とランプハウジング2を外方から加圧するものである。
【0022】
そして、次に、
図7に示す如く、レーザー光Lによる二回目の溶着工程を行うものである。これは、レーザー光Lを二回目照射用治具5を介して両樹脂材、即ち、ランプレンズ3とランプハウジング2の接合部に一括照射して行うものであるが、接合部の各範囲においてレーザー光Lの照射強度を異なるよう調整して行うものである。
【0023】
具体的には、
図8に示す如く、一回目の照射範囲以外の部分は強く、即ち、一回目のレーザー光の照射強度と同等とし、一回目の照射範囲であって、一回目照射用治具4における一方の樹脂材、即ち、ランプレンズ3に接する面の刳り部Sにおいては一回目の照射範囲以外の部分よりも弱く、一回目の照射範囲であって、一回目照射用治具4における一方の樹脂材、即ち、ランプレンズ3に接する面の刳り部Sが形成されていない部分においては最も弱くなるようにするものである。
【0024】
以上の二回目の段取り工程と二回目の溶着工程の要旨について改めて説明すると、上記二回目の段取り工程は、二回目照射用治具5をもって一方の樹脂材、即ち、ランプレンズ3の変形を矯正し、両樹脂材、即ち、ランプレンズ3とランプハウジング2の接合部を全体に亘って均一に圧着するものであり、そして、二回目の溶着工程において、一回目のレーザー光の一括照射時において溶け込みMの量が少なかった部分、即ち、
図5及び
図6においてM2で示す部分において、これと同程度の溶け込み量とするものである。尚、
図9及び
図10は、二回目の溶着部分を示すものであり、M3は前記M1と同等の溶け込み量の部分、M4は前記M2と同等の溶け込み量の部分である。
【0025】
図11及び
図12は、上記工程を完了した状態を示すものであり、一括照射方式による一回のレーザー光の照射では接合部の全体に亘る一定量の溶け込みを有する接合をなし得ない折り返し方向の屈曲部を有し、且つ一定量以上の充分な溶け込み量を要求される二つの樹脂材、即ち、一方の樹脂材であるランプレンズ3ともう一方の樹脂材であるランプハウジング2が、接合部の全体に亘って一定量以上の充分な溶け込み量で接合されている。
【0026】
尚、上記実施形態では、レーザー光の照射について一括照射方式を例にとって説明したが、ガルバノスキャナ方式を採用しても本発明の目的とする効果を奏することができるものである。
【0027】
ガルバノスキャナは、固定されたレーザー光発振器と、複数のレーザー光反射鏡(ガルバノミラー)と、該レーザー光反射鏡(ガルバノミラー)の夫々の軸を適切な角度に回転させるモーター(ガルバノモーター)と、該モーター(ガルバノモーター)の回転角度制御機構と、集光レンズとからなるものであり、レーザー光反射鏡(ガルバノミラー)を制御することによってレーザー光をピンポイントで照射するものである。また、レーザー光反射鏡(ガルバノミラー)の反射角度を制御することによってレーザー光を高精度且つ高速に走査することが出来るものである。
【0028】
そして、斯かるガルバノスキャナ方式を用いてレーザー光の照射を行うようにしても、上記実施形態と同様の効果を得ることができるものである。
【0029】
また、
図20及び
図21は、斯かるガルバノスキャナ方式によりレーザー光の照射を行う場合の説明図であり、接合する二つの樹脂材、一回目照射用治具、二回目照射用治具については、前記実施形態におけると同様であり、また、全体の工程も同様であるから、これらについての再度の説明は省略する。
【0030】
図20は一回目の段取り工程とレーザー光の照射による一回目の溶着工程を示すものであり、図においては二つの樹脂材の接合部のみを示し、一回目照射用治具については図示を省略している。また、図において、6はレーザー光反射鏡(ガルバノミラー)である。
【0031】
図21は二回目の段取り工程とレーザー光の照射による二回目の溶着工程を示すものであり、図においては二つの樹脂材の接合部のみを示し、二回目照射用治具については図示を省略している。また、6はレーザー光反射鏡(ガルバノミラー)である。
【符号の説明】
【0032】
1 車両用灯具
2 ランプハウジング
3 ランプレンズ
4 一回目照射用治具
5 二回目照射用治具
6 レーザー光反射鏡(ガルバノミラー)
L レーザー光
R 屈曲部
S 刳り部