(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-26
(45)【発行日】2023-11-06
(54)【発明の名称】吸収性物品用表面シート
(51)【国際特許分類】
A61F 13/511 20060101AFI20231027BHJP
【FI】
A61F13/511 400
A61F13/511 110
A61F13/511 300
(21)【出願番号】P 2019228999
(22)【出願日】2019-12-19
【審査請求日】2022-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長島 啓介
(72)【発明者】
【氏名】辰巳 湧太
【審査官】山尾 宗弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-068319(JP,A)
【文献】特開2013-126455(JP,A)
【文献】特開2012-005701(JP,A)
【文献】特開2010-115479(JP,A)
【文献】特開2012-239531(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 13/511
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
肌当接面側に配される上層と、非肌当接面側に配される下層とを備える吸収性物品用表面シートであって、
前記上層は熱伸長性繊維を含む繊維集合体であり、
前記下層は熱伸長性繊維を含まないか、又は熱伸長性繊維を前記上層よりも低い質量割合で含む繊維集合体であり、
前記上層を構成する繊維と水との接触角が、前記下層を構成する繊維と水との接触角よりも大きく、
前記上層と前記下層を跨ぎ、かつ水との接触角が前記下層を構成する繊維と水との接触角よりも大きい跨ぎ繊維を含んでいる、
吸収性物品用表面シート。
【請求項2】
前記上層は、接触角が互いに異なる複数種の繊維を含んで構成されており、
前記上層における最も接触角が大きい繊維が、両層の境界面を越えて前記下層に侵入している前記跨ぎ繊維である、請求項1に記載の吸収性物品用表面シート。
【請求項3】
前記上層を構成する各繊維と水との接触角がいずれも、前記下層を構成する繊維と水との接触角よりも大きい、請求項2に記載の吸収性物品用表面シート。
【請求項4】
前記上層を構成する繊維のうち最も平均繊維径が小さい繊維の平均繊維径が、前記下層を構成する繊維の平均繊維径よりも大きい、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の吸収性物品用表面シート。
【請求項5】
前記上層と前記下層とを互いに接合する固着部が形成されており、
平面視において、前記固着部として、直線状の第1固着部と、第1固着部よりも長さが短い直線状の第2固着部とが交互に且つ一方向に延びるように複数配置された固着部列を有し、
前記固着部列は、互いに交差しないように複数列形成された第1固着部列と、互いに交差しないように且つ、第1固着部列と交差する方向に延びるように複数列形成された第2固着部列とを有し、
第1固着部列における第1固着部及び第2固着部と、第2固着部列における第1固着部及び第2固着部とは、いずれも互いに交差しないように配されており、
第1固着部列において前後に隣り合う2つの固着部の間を、第2固着部列における各固着部が通過しないように、且つ、第2固着部列において前後に隣り合う2つの固着部の間を、第1固着部列における各固着部が通過しないように、第1固着部列及び第2固着部列が配されている、請求項1ないし4のいずれか一項に記載の吸収性物品用表面シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸収性物品用表面シートに関する。
【背景技術】
【0002】
生理用ナプキン、失禁パット、パンティライナー等の、身体から排出される液の吸収に用いられる吸収性物品の表面シートとして、二層構造の不織布が用いられている。本出願人は、シート内に液が残りにくく、肌触りを向上させることを目的として、熱伸長性繊維を用いて形成され、該熱伸長性繊維どうしの交点が接合された繊維接合部を有する上層と、熱伸長性繊維を含まないか又は熱伸長性繊維を上層より低い割合で含む下層とを有し、上層の繊維間距離が下層の繊維間距離よりも大きい表面シートを提案した(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の表面シートは、シート内に液が残りにくく、且つ肌触りが良好なものであるが、表面シートの肌対向面に残存する液量の低減に関して改善の余地があった。
【0005】
したがって、本発明は、シート表面の液残り性を改善し得る吸収性物品用表面シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、肌当接面側に配される上層と、非肌当接面側に配される下層とを備える吸収性物品用表面シートであって、前記上層は熱伸長性繊維を含む繊維集合体であり、前記下層は熱伸長性繊維を含まないか、又は熱伸長性繊維を前記上層よりも低い質量割合で含む繊維集合体であり、前記上層を構成する繊維と水との接触角が、前記下層を構成する繊維と水との接触角よりも大きく、前記上層と前記下層を跨ぎ、かつ水との接触角が前記下層を構成する繊維と水との接触角よりも大きい跨ぎ繊維を含んでいる、吸収性物品用表面シートを提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、シート表面に液が残りにくく、液吸収後であっても肌触りが良好な吸収性物品用表面シートが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の吸収性物品用表面シートの一実施形態における断面模式図である。
【
図2】
図2は、本発明の吸収性物品用表面シートをその上層側から視た状態を示す平面模式図である。
【
図3】
図3は、本発明の表面シートの製造方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。
図1及び
図2に示す吸収性物品用表面シート10(以下、単に「表面シート10」ともいう。)
は、上層11と、下層12とを備える液透過性且つ二層構造のシートである。表面シート10は、尿や経血等の体液を吸収する吸収性物品の構成部材として用いられる。表面シート10は、上層11が着用者の肌と当接する面である肌当接面側に配され、下層12が肌当接面とは反対側の面である非肌当接面側に配されるように構成されており、典型的には、下層12は液保持性の吸収体と当接して配される。
【0010】
図1に示すように、表面シート10は、境界面Fによって区分された上層11と下層12とを有する。同図に示す上層11と下層12とは、両層11,12が互いに接合された固着部15と、上層11と下層12とが固着部15によって接合されていない非固着部16とを有している。非固着部16には上層11と下層12との境界面Fが存在するが、固着部15には境界面Fが存在していない。本実施形態における固着部15は、上層11を構成する繊維集合体と、下層を構成する繊維集合体とを積層して積層体とし、その積層体にエンボス加工を施して形成するか、あるいは、両層11,12間に接着剤を間欠的に施して形成することができる。
【0011】
図1に示すように、上層11と下層12とを互いに接合する固着部15が形成されている場合、表面シート10は、上層11の肌当接面側が凹凸形状をなしている。表面シート10における固着部15には、上層11及び下層12それぞれに凹部17が形成されている。上層11の肌当接面における凹部17どうしの間は凸部18となっている。後述するとおり、凸部18は凹部17を構成する固着部15に囲まれた領域に存在している。このような構成になっていることによって、該表面シート10を吸収性物品に組み込んで使用したときに、表面シート10と着用者の肌との接触面積が低減して蒸れやかぶれが効果的に防止される。
【0012】
図2に示すように、表面シート10は、固着部15として、X方向に対して互いに逆向きに傾斜した、固着部15を含んで構成される第1固着部列L1及び第2固着部列L2を有していることが好ましい。
図2に示す第1固着部列L1及び第2固着部列L2はそれぞれ、互いに平行に多数本形成されており、それぞれ、隣接する固着部列間の間隔が広い箇所と該間隔が狭い箇所とを交互に有している。
図2に示す第1固着部列L1及び第2固着部列L2を構成する固着部15は、不連続線となっている。
【0013】
第1固着部列L1及び第2固着部列L2において固着部15が形成されている部位は、各固着部列に沿って延びるように溝状の凹部17が複数形成されている。固着部15に囲まれた領域には、面積がそれぞれ異なる三種類の凸部18a,18b,18cが肌当接面側に突出するように形成されている。各凸部18a,18b,18cはそれぞれ、凸部の高さが異なっていてもよく、同じであってもよい。同図に示す第1凸部18a及び第3凸部18cは、いずれも菱形状であり、第1凸部18aは、第3凸部18cと比較して平面視面積が大きい。第2凸部18bは、平面視して平行四辺形状をなしており、第1凸部18aと第3凸部18cの中間の平面視面積を有している。固着部15はいずれも凹部17となっており、他の各凸部18a,18b,18cよりも厚みが薄い部位である。
【0014】
表面シート10の上層11は、熱伸長性繊維を含む繊維集合体から構成されている。上層11は、熱伸長性繊維のみから構成されていてもよく、熱伸長性繊維に加えて、熱伸長性繊維とは別の第2繊維を更に含んでいてもよい。第2繊維の詳細は後述する。
【0015】
熱伸長性繊維としては、例えば加熱により樹脂の結晶状態が変化して伸長する繊維や、あるいは捲縮加工が施された繊維であって捲縮が解除されて見かけの長さが伸びる繊維が挙げられる。上層11に熱伸長性繊維を含むことによって、熱伸長性繊維の伸長に起因して、上層11及び表面シート10が嵩高く且つ立体的となり、良好な外観を呈することができる。また、後述するように、上層11に含まれる繊維の一部が、両層11,12の境
界面Fを越えて下層12に侵入した表面シート10を容易に形成することができる。
【0016】
好ましい熱伸長性繊維としては、第1樹脂成分と、第1樹脂成分の融点より低い融点又は軟化点を有する第2樹脂成分とからなり、第2樹脂成分が繊維表面の一部又は全体に連続して存在する複合繊維が挙げられる。また、熱伸長時に他の繊維との熱融着が起こる繊維であることも好ましい。熱伸長性繊維における第1樹脂成分は、典型的には繊維の熱伸長性を発現する成分であり、第2樹脂成分は、典型的には熱融着性を発現する成分である。このような成分で構成された繊維は、第1樹脂成分の融点よりも低い温度を付与することによって、伸長可能に構成されている。
【0017】
このような熱伸長性繊維としては、例えば特開2004-218183号公報、特開2005-350836号公報、特開2007-303035号公報、特開2007-204899号公報、特開2007-204901号公報及び特開2007-204902号公報、又は特開2008-101285号公報等に記載の繊維を用いることができる。
【0018】
詳細には、第1樹脂成分としては、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン樹脂を除く)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などのポリエステル系樹脂等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
また、第2樹脂成分としては、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、及び直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)等のポリエチレン樹脂が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。またポリエチレン樹脂に加えて、PP、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)等の他の樹脂を混合して用いてもよい。繊維どうしが熱融着した熱接着点を形成して、嵩高で、且つ風合い及び強度に優れた表面シートを得る観点から、第2樹脂成分としてポリエチレン樹脂のみを用いることが好ましい。
【0020】
第1樹脂成分と第2樹脂成分との組み合わせとしては、第1樹脂成分としてPP又はPETを用い、第2樹脂成分としてHDPEを用いることによって、熱融着性が付与された熱伸長性繊維が容易に得られる点で好ましい。
【0021】
第1樹脂成分及び第2樹脂成分の融点は、示差走査型熱量計(セイコーインスツルメンツ株式会社製DSC6200)を用いて測定する。細かく裁断した繊維試料(サンプル質量2mg)の熱分析を昇温速度10℃/minで行い、各樹脂の融解ピーク温度を測定する。融点は、その融解ピーク温度で定義される。樹脂成分の融点がこの方法で明確に測定できない場合、この樹脂を「融点を持たない樹脂」と定義する。この場合、樹脂成分の分子の流動が始まる温度として、繊維の融着点強度が計測できる程度に樹脂どうしが融着する温度を軟化点とする。
【0022】
熱伸長性繊維は、第1樹脂成分と第2樹脂成分とを含む好適な態様において、第2樹脂成分の融点又は軟化点よりも10℃高い温度での熱伸長率が、好ましくは0.5%以上、より好ましくは3%以上、更に好ましくは5%以上であり、好ましくは20%以下である。
【0023】
繊維の熱伸長率は、例えば以下の方法で測定することができる。測定装置として、セイコーインスツルメンツ株式会社製の熱機械的分析装置TMA/SS6000を用いる。試料として、繊維長さが10mm以上の繊維を、繊維長さ10mmあたりの合計質量が0.5mgとなるように複数本採取したものを用意する。これらの繊維を平行に並べた後、繊維がたるまないように、繊維の両端を前記装置のチャックに装着する。チャック間の距離
は、10mmに設定する。そして、測定開始温度を25℃とし、0.73mN/dtexの一定荷重を繊維長さ方向に負荷した状態で5℃/minの昇温速度で昇温させる。その際の繊維の伸び量を測定し、第2樹脂成分の融点又は軟化点より10℃高い温度での伸び量C(mm)を測定する。伸び量C(mm)は、測定後の繊維長さから測定前の繊維長さを差し引くことで算出することができる。
繊維の熱伸長率(%)は、「(C[mm]/チャック間距離[mm])×100」から算出する。
【0024】
表面シート10の下層12は、上述した熱伸長性繊維を含まないか、又は熱伸長性繊維を上層11よりも低い質量割合で含む繊維集合体から構成されている。詳細には、下層12は、熱伸長性繊維以外の他の繊維のみで構成されているか、熱伸長性繊維に加えて、他の繊維を含んで構成されている。また
図1に示すように、非固着部16において、跨ぎ繊維13が、上層11と下層12とを跨いでおり、且つ両層11,12に含まれるように構成されている。
図1に示される表面シート10のように、跨ぎ繊維13として、上層11に含まれる繊維の一部が下層12に侵入していることが好ましい。下層12に侵入した繊維は、好ましくは熱伸長性繊維であり、また、好ましくは下層12を構成する繊維と融着して存在している。このような構成を有する表面シート10は、例えば後述する製造方法によって製造することができる。
【0025】
下層12において「熱伸長性繊維を含まない」とは、下層12の繊維集合体を構成する繊維として熱伸長性繊維が混合されていないことを指し、上層11に含まれる熱伸長性繊維が、下層12に侵入して存在している態様は除かれる。下層12に含まれる熱伸長性繊維の質量割合は、下層12の繊維集合体の全質量に対する割合として、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは実質的に非含有である。
【0026】
上層11に含まれる繊維の一部が、両層11,12の境界面Fを越えて下層12に侵入しているか否かは、例えば以下の方法で判定することができる。表面シート10が積層の場合、表面シート10を作製する際に、予め上層11に含まれる繊維を公知の染料で染色することにより、上層11の構成繊維と下層12の構成繊維との識別が容易となり、また、上層11と下層12との境界面を容易に判別することができる。
【0027】
詳細には、上述の方法で上層11の繊維を着色し、その後、表面シート10の断面における非固着部16をKEYENCE社製デジタルマイクロスコープVHX-6000(倍率50倍)で観察したときに、色が異なる部分の繊維集合体の境界を上層11と下層12との境界面Fと定義し、境界面Fから下層12側に0.2mm平行移動した位置に形成される仮想面よりも下層12側に存在する上層11の繊維の本数を測定する。この条件における上層11の繊維本数が、表面シート10の面方向に沿う長さ2mm当たり5本以上であるときに、「上層11に含まれる繊維の一部が境界面を越えて下層12に侵入している」とする。
【0028】
また、上層11と下層12で含まれる繊維の繊維長や繊維径等の物性値が異なる場合や、繊維を構成する樹脂の種類等が異なる場合には、その差異を測定することによって、跨ぎ繊維13が上層11の構成繊維に由来するものであるか否かを判定することができる。特に後述するように、例えば上層11を構成する繊維の繊維径と、下層12を構成する繊維の繊維径とが互いに異なる場合には、以下の方法で判定することができる。表面シート10の上層11及び下層12の各繊維集合体の存在領域を繊維径を測定することによって画定し、繊維径の差異が生じている境界を境界面Fとする。そして、境界面Fから下層12側に0.2mm平行移動した位置に形成される仮想面よりも下層12側に存在する上層11の繊維の本数を測定する。この条件における上層11の繊維が、表面シート10の面方向に沿う長さ2mm当たり5本以上観察されれば、跨ぎ繊維13として、「上層11に
含まれる繊維の一部が境界面を越えて下層12に侵入している」と判断することができる。各層11,12に含まれる繊維の構成樹脂が異なる場合には、例えば、表面シート10の上層11及び下層12の各繊維集合体の存在領域を、示差走査熱量測定装置等を用いて樹脂の種類を測定することによって画定し、構成樹脂の差異が生じている境界を境界面Fとすることができる。
【0029】
上層11に含まれる繊維の一部が境界面を越えて下層12に侵入している場合において、跨ぎ繊維13の本数、すなわち、上層11の構成繊維の侵入本数は、表面シート断面の面方向に沿う長さ2mm当たり、好ましくは5本以上、更に好ましくは7本以上である。繊維の侵入本数は、上述した方法で測定することができる。
【0030】
表面シート10は、上層11を構成する繊維と水との接触角が、下層12を構成する繊維と水との接触角よりも大きくなるように構成されていることが好ましい。繊維と水との接触角は、繊維の親水性の指標の一つであり、繊維と水との接触角が小さいほど親水性が高いことを示す。すなわち、表面シート10は、下層12の構成繊維が、上層11の構成繊維よりも親水性が高くなるように構成されている。
【0031】
上層11を構成する繊維と水との接触角は、下層12を構成する繊維と水との接触角よりも大きくなることを条件として、好ましくは60°以上、より好ましくは65°以上、更に好ましくは70°以上であり、また、好ましくは95°以下、より好ましくは90°以下、更に好ましくは85°以下である。同様に、下層12を構成する繊維と水との接触角は、好ましくは55°以上、より好ましくは60°以上、更に好ましくは65°以上であり、また、好ましくは90°以下、より好ましくは85°以下、更に好ましくは80°以下である。繊維と水との接触角は、例えば繊維の原材料を変更したり、繊維表面に親水化処理又は疎水化処理を施したりすることによって適宜調整することができる。繊維と水との接触角を上述の範囲に調整することによって、上層11と下層12との間に、下層12の親水性が上層11よりも大きい親水勾配ができるので、上層11側に排泄された体液を、親水性の高い下層12側に浸透させやすくすることができる。なお、跨ぎ繊維13と水との接触角の好適な範囲は、上述した上層11を構成する繊維と水との接触角の好ましい範囲と同じ範囲とすることができる。
【0032】
繊維と水との接触角は、例えば以下の方法で測定することができる。すなわち、表面シート10を構成する上層11の外面(肌当接面)に位置する繊維と、下層12の外面(非肌当接面)に位置する繊維とを、繊維長1mmとなるようにそれぞれ裁断して測定サンプルとし、これらの測定サンプルに対する水の接触角を測定する。測定装置として、協和界面科学株式会社製の自動接触角計MCA-Jを用いる。接触角の測定には蒸留水を用いる。測定サンプルを接触角計のサンプル台に載せて、水平に維持する。インクジェット方式水滴吐出部(クラスターテクノロジー社製、吐出部孔径が25μmのパルスインジェクターCTC-25)から吐出される液量を10ピコリットルに設定して、測定サンプルの繊維の真上に水滴を滴下する。滴下の様子を水平に設置されたカメラに接続された高速度録画装置に録画する。録画装置は後に画像解析や画像解析をする観点から、高速度キャプチャー装置が組み込まれたパーソナルコンピュータが望ましい。本測定では、17msec毎に画像が録画される。録画された映像において、不織布から取り出した繊維に水滴が着滴した最初の画像を、付属ソフトFAMAS(ソフトのバージョンは2.6.2、解析手法は液滴法、解析方法はθ/2法、画像処理アルゴリズムは無反射、画像処理イメージモードはフレーム、スレッシホールドレベルは200、曲率補正はしない、とする)にて画像解析を行い、水滴の空気に触れる面と繊維のなす角を算出し、接触角とする。測定サンプル1本につき異なる2箇所の接触角を測定する。測定サンプルN=5本の接触角を小数点以下1桁まで計測し、合計10箇所の測定値を算術平均した値(小数点以下第2桁で四捨五入)を、本発明の接触角と定義する。上層11と下層12との境界は、例えば、表面
シート10の上層11及び下層12の各繊維集合体の存在領域を、各繊維の接触角によって画定し、繊維の接触角が異なる境界を境界面Fとすることができる。
【0033】
上述した構成を有する表面シートによれば、下層12を構成する繊維の親水性が、上層11を構成する繊維の親水性よりも高いので、上層11側に排泄された体液は、親水性の高い下層12側に浸透しやすくなる。これに加えて、表面シート10は、上層11と下層12とを跨ぐように存在する跨ぎ繊維13を含み、跨ぎ繊維13と水との接触角が下層12に含まれる繊維と水との接触角よりも大きい。特に、表面シート10の好適な態様では、跨ぎ繊維13として、上層11に含まれる繊維の一部を下層12に積極的に侵入させた形態となっている。この構成によって、跨ぎ繊維13が、より具体的には、下層12側に侵入した上層11の構成繊維が、上層11側に排泄された体液を下層12側に移行させやすくするガイドのような役割を果たし、上層11の肌当接面に残存する体液や、上層11と下層12との境界面付近に滞留してしまった体液を下層12側に効果的に引き込むことができる。その結果、シート表面に液が残りにくく、液吸収後であっても肌触りが良好な表面シートとなる。
【0034】
シート表面に液を一層残りにくくする観点から、上層11は、上述した繊維と水との接触角の範囲を満たすことを条件として、該接触角が互いに異なる複数種の繊維を含んで構成されていることが好ましい。つまり、上層11は、熱伸長性繊維と、該熱伸長性繊維とは別の第2繊維とを含み、各繊維の親水性が異なるように構成された繊維集合体であることが好ましい。このような構成を有していることによって、表面シート10の強度を向上させることができるとともに、シート厚み方向の嵩高さを向上させて、肌触りが良好なシートを得られるという利点がある。
【0035】
これに加えて、跨ぎ繊維13として、上層11を構成する最も接触角が大きい繊維が、下層12に侵入していることも好ましく、上層11を構成する最も接触角が大きい繊維が熱伸長性繊維であることも更に好ましい。このような構成とすることによって、構成繊維の親水性の度合が上層11内で異なるようにして、吸収した体液をシート平面方向や厚み方向に分散させやすくするとともに、下層12の構成繊維と、下層12に侵入した上層11の繊維との親水性の勾配によって、上層11に残存する体液を下層12側に効率よく引き込みやすくすることができる。その結果、シート表面に体液が残りにくく、液吸収後であっても肌触りが良好なシートとなる。
【0036】
特に、上層11と下層12との親水勾配を発現させて、上層11の肌当接面に残存する体液の下層12側への引き込み性を更に高める観点から、上層11を構成する各繊維と水との接触角がいずれも、下層12を構成する繊維と水との接触角よりも大きくなっていることが好ましい。下層12が複数種の繊維を含んで構成される場合、上層11の構成繊維のうち最も接触角が大きい繊維における水との接触角が、下層12の構成繊維のうち最も含有質量割合の高い繊維と水との接触角よりも大きいことが好ましく、上層11を構成する各繊維と水との接触角がいずれも、下層12の構成繊維のうち最も含有質量割合の高い繊維と水との接触角よりも大きいことがより好ましく、上層11を構成する各繊維と水との接触角がいずれも、下層12を構成する各繊維と水との接触角よりも大きいことが更に好ましい。
【0037】
上層11が熱伸長性繊維に加えて、熱伸長性繊維とは別の第2繊維を含む場合、第2繊維としては、例えば、融点の異なる二種の成分を含み、加熱によって繊維が実質的に伸長しない非熱伸長性の熱融着性繊維を用いることができる。詳細には、例えば高融点成分と該高融点成分の融点より低い融点を有する低融点成分とを含み、該低融点成分が繊維表面の少なくとも一部を長さ方向に連続して存在している複合繊維を用いることができる。熱融着性複合繊維の形態としては、芯鞘型やサイド・バイ・サイド型など種々の形態が挙げ
られ、芯部が高融点成分で構成され、鞘部が低融点成分で構成されている同芯型又は偏芯型の芯鞘型繊維を用いることが好ましい。また、第2繊維における熱融着性を効率的に発現させる観点から、第2繊維を構成する高融点成分及び低融点成分は、いずれも樹脂成分であることが好ましい。
【0038】
第2繊維として非熱伸長性の熱融着性繊維を用いる場合、高融点成分と低融点成分との好ましい組み合わせは、以下のとおりである。詳細には、高融点成分としてPPを用い、低融点成分としてHDPE、LDPE及びLLDPE等のポリエチレン、エチレンプロピレン共重合体、並びにポリスチレン等のうち一種又は二種以上を用いることができる。
また、高融点成分と低融点成分との好適な組み合わせの別の例としては、高融点成分としてPET及びPBT等のポリエステル系樹脂を用い、低融点成分としてHDPE、LDPE及びLLDPE等のポリエチレン、エチレンプロピレン共重合体、ポリスチレン、PP、並びに共重合ポリエステル等のうち一種又は二種以上を用いることができる。
高融点成分と低融点成分との好適な組み合わせの更に別の例としては、高融点成分としてポリアミド系重合体や上述した高融点成分の2種以上の共重合体のうち一種又は二種以上を用い、低融点成分としては上述した低融点成分の2種以上の共重合体のうち一種又は二種以上を用いることができる。
上述した各組み合わせに加えて、コットンやパルプ等の天然繊維、並びに、レーヨンやアセテート繊維等の熱融着性を有さず且つ非熱伸長性の繊維を更に含んでいてもよい。
【0039】
表面シート10における上層11に熱伸長性繊維が含まれているか否かは、表面シート10から取り出した繊維について、以下の方法で熱伸長率を測定することで判定することができる。
(熱伸長性繊維の判別方法)
まず、表面シートから繊維を10本採取する。採取する繊維の長さは1mmとする。採取した繊維をプレパラートに挟み、挟んだ繊維の全長を測定する。測定には、KEYENCE社製デジタルマイクロスコープVHX-6000を用いる。測定は50~100倍の倍率で前記繊維を観察し、その観察像に対して装置に組み込まれた計測ツールを用いて行った。前記測定で得られた長さを「表面シートから採取した繊維の全長」F1とする。全長を測定した繊維を、エスアイアイナノテクノロジー株式会社製のDSC6200用の試料容器(品名:ロボット用容器52-023P、15μL、アルミ製)に入れる。前記繊維の入った容器を、予め繊維の低融点成分(第2樹脂成分)の融点又は軟化点より10℃低い温度にセットされたDSC6200の加熱炉中の試料置き場に置く。DSC6200の試料置き場直下に設置された熱電対で測定された温度(計測ソフトウェア中の表示名:試料温度)が低融点成分(第2樹脂成分)の融点又は軟化点より10℃高い温度±1℃の範囲になってから、60秒間加熱し、その後素早く取り出す。加熱処理後の繊維をDSCの試料容器から取り出しプレパラートに挟み、挟んだ繊維の全長を測定する。測定には、KEYENCE製のマイクロスコープVHX-900、レンズVH-Z20Rを用いた。測定は50~100倍の倍率で前記繊維を観察し、その観察像に対して装置に組み込まれた計測ツールを用いて行った。前記、測定で得られた長さを「加熱処理後の繊維の全長」F2とする。熱伸長率(%)は以下の式から算出する。この熱伸長率が0%より大きい場合、測定対象の繊維は熱伸長性繊維であると判定し、熱伸長率が0%である場合は、測定対象の繊維は熱伸長性繊維でないと判定する。熱伸長率が0%である繊維は、本発明における第2繊維とする。
繊維の熱伸長率(%)=100×(F2-F1)/F1
また上述の方法にて、上層11が熱伸長性繊維に加えて第2繊維を含むと判定された場合は、各繊維につきそれぞれ独立して、上述した方法で接触角を測定する。
【0040】
上述のとおり、上層11が、熱伸長性繊維と、該熱伸長性繊維とは別の第2繊維(非熱伸長性の熱融着性繊維)とを含んでいる場合において、下層12に侵入している繊維の熱
伸長率を測定することによって、跨ぎ繊維13、すなわち下層12に侵入している繊維が上層11に存在する熱伸長性繊維であるか否かを判別することができる。例えば、表面シート10の断面における非固着部16をKEYENCE社製デジタルマイクロスコープVHX-6000(倍率50~100倍)で観察したときに、下層12側に侵入した上層11の繊維を繊維長1mmで裁断し、上述の方法で繊維の熱伸長率を測定することで、熱伸長性繊維であるか否かを判別することが出来る。
またこのとき、下層12に侵入した上層11の繊維と水との接触角は、例えば、以下の方法で調べることができる。まず、表面シート10の断面における非固着部16をKEYENCE社製デジタルマイクロスコープVHX-6000(倍率50~100倍)で観察したときに、下層12側に侵入した上層11の繊維を繊維長1mmで裁断した後、上述した方法にて繊維に対する水の接触角を測定する。このように、跨ぎ繊維13の熱伸長率と、跨ぎ繊維13の水との接触角を測定することによって、下層12に侵入している繊維が上層11に存在する熱伸長性繊維であることを判別することができる。
【0041】
表面シート10は、上層11を構成する繊維のうち最も平均繊維径が小さい繊維の平均繊維径が、下層12を構成する繊維の平均繊維径よりも大きいことが好ましい。このような構成になっていることによって、下層12の繊維密度が、上層11の繊維密度と比較して密になるので、下層12に強い毛管力が発現し、上層11から下層12への体液の引き込み性に優れたものとなる。その結果、吸収した体液を非肌当接面側に効率よく移行させて、液残りを知覚しにくい肌触りが良好なシートとなる。下層12の構成繊維は、一種又は二種以上の繊維を用いることができ、下層12に複数種の繊維を含む場合には、上層11の構成繊維の繊維径は、下層12を構成する繊維のうち最も平均繊維径が大きい繊維の繊維径と比較する。
【0042】
上層11を構成する繊維のうち、最も平均繊維径が小さい繊維の平均繊維径は、繊維の繊度(デシテックス:dtex)で表したときに、好ましくは2.0dtex以上、より好ましくは2.5dtex以上、更に好ましくは3.0dtex以上であり、好ましくは8.0dtex以下、より好ましくは7.0dtex以下、更に好ましくは6.0dtex以下である。同様に、下層12の構成繊維の繊維径は、繊度で表して、好ましくは1.0dtex以上、より好ましくは1.2dtex以上、更に好ましくは1.5dtex以上であり、好ましくは5.0dtex以下、より好ましくは4.0dtex以下、更に好ましくは3.0dtex以下である。下層12に複数種の繊維を含む場合には、下層12を構成する繊維のうち最も平均繊維径が大きい繊維が上述の範囲であればよい。
【0043】
繊維の繊度は、以下の方法で測定することができる。すなわち、荷重がかかっていない状態の表面シート10から、表面シート10を50mm×100mm(面積5000mm2)の長方形状に切り出して測定用サンプルを作製する。次いで、上層11の繊維の繊度に関しては、測定用サンプルを断面視して、測定用サンプルの上層11の外面(肌当接面)に位置する標準的な繊維10本を対象として、繊維太さを電子顕微鏡を用いて実測し、繊維太さの算術平均値Dn(μm)を算出する。次いで、示差走査熱量測定器(DSC)を用いて、前記肌当接面から10mm間隔を空けた位置での標準的な繊維の構成樹脂を特定し、理論繊維密度Pn(g/cm3)を求める。得られた繊維太さの算術平均値Dn(μm)及び理論繊維密度Pn(g/cm3)から、繊維長さ10000m当たりの重さ(g)を算出して、この算出された値を上層11の繊維の繊度(dtex)とする。下層12の繊維の繊度に関しては、測定用サンプルを断面視して、測定用サンプルの外面(非肌当接面)に位置する標準的な繊維10本を対象として、肌当接面側の繊維の繊度と同様にして測定する。
【0044】
図1及び
図2に示すように、上層11と下層12とを互いに接合する固着部15が形成されている場合、固着部15は、
図2に示すように、表面シート10の平面視において、
直線状の第1固着部15a及び第2固着部15bが交互に且つ一方向に沿って配置された固着部列からなる巨視的パターンが形成されていることが好ましい。
【0045】
詳細には、
図2に示すように、表面シート10は、直線状の第1固着部15aと、第1固着部15aよりも長さが短い直線状の第2固着部15bとが、交互に且つ一方向(
図2の紙面上、左上から右下)に延びるように複数個配置された第1固着部列L1を有している。第1固着部列L1は、隣り合う第1固着部列L1どうしの間隔が異なるように複数列形成されている。第1固着部列L1は同図中X方向に対して傾斜しており、且つ各第1固着部列L1どうしは交差しておらず、互いに平行となって配されている。同様に、第2固着部列L2は、第1固着部15aと第2固着部15bとが交互に且つ一方向(
図2の紙面上、右上から左下)に延びるように複数個配置されている。第2固着部列L2は、隣り合う第2固着部列L2どうしの間隔が異なるように複数列形成されている。第2固着部列L2は同図中X方向に対して傾斜しており、且つ各第2固着部列L2どうしは交差しておらず、互いに平行となって配されている。各第2固着部列L2は、各第1固着部列L1と交差する方向に延びるように配されている。
【0046】
また
図2に示すように、第1固着部列L1における第1固着部15a及び第2固着部15bと、第2固着部列L2における第1固着部15a及び第2固着部15bとは、いずれも互いに交差しないように配されていることも好ましい。第1固着部列L1に着目すると、第1固着部列L1の延在方向において前後に隣り合う第1固着部15aと第2固着部15bとの間には、第2固着部列L2を構成する第1固着部15a及び第2固着部15bがいずれも通過しないように配置されている。また、第2固着部列L2に着目すると、第2固着部列L2の延在方向において前後に隣り合う第1固着部15aと第2固着部15bとの間には、第1固着部列L1を構成する第1固着部15a及び第2固着部15bがいずれも通過しないように配されている。
【0047】
第1固着部列L1と第2固着部列L2との交点を含む領域は、各固着部15a,15bによって接合されていない非接合領域N1となっている。非接合領域N1は、第1固着部列L1において列方向の前後に隣り合う第1固着部15aと第2固着部15bとの間に位置する第1非固着領域と、第2固着部列L2において列方向の前後に隣り合う第1固着部15aと第2固着部15bとの間に位置する第2非固着領域とで形成されている。非接合領域N1は、X方向及びX方向に直交するY方向に隣り合う第1凸部18aと第3凸部18cとの間にそれぞれ形成されており、非接合領域N1によって、各凸部18a,18b,18cはそれぞれ連続している。第1固着部15a及び第2固着部15bはいずれも凹部17となっており、各凸部18及び非接合領域N1よりも厚みが薄い部位となっている。
【0048】
以上のとおり、
図2に示すように、二種類の固着部15a,15bを有する第1固着部列L1及び第2固着部列L2が非接合領域N1を形成するように配置されることによって、各固着部15間に形成された非接合領域N1を介して、シート平面方向に体液を効率的に拡散させながら下層12側に吸収させることができるので、その結果、シート表面での液残りが一層効果的に低減される。
【0049】
上層11における熱伸長性繊維の含有割合は、上層11の全質量中、好ましくは20質量%以上、更に好ましくは30質量%以上であり、好ましくは80質量%以下、更に好ましくは70質量%以下である。また、第2繊維の含有割合は、上層11の全質量中、好ましくは20質量%以上、更に好ましくは30質量%以上であり、好ましくは80質量%以下、更に好ましくは70質量%以下である。
【0050】
下層12を構成する繊維としては、例えば、融点の異なる2成分を含み、加熱によって
繊維が実質的に伸長しない非熱伸長性の熱融着性繊維を用いることができる。非熱伸長性の熱融着性繊維としては、上述した上層11の第2繊維と同様の繊維を使用することができる。また、コットンやパルプ等の天然繊維、並びに、レーヨンやアセテート繊維等の熱融着性を有さず且つ非熱伸長性の繊維を更に含んでいてもよい。
【0051】
以下に、この熱伸長性複合繊維を用いた表面シート10の好ましい製造方法を、
図3を参照しながら説明する。
図3には、本製造方法に好適に用いられる製造装置の一実施形態が示されている。まず、所定のウエブ形成手段(図示せず)を用いて下層12の原反となる下層ウエブ12Aを作製する。下層ウエブ12Aは、熱伸長性繊維を含まないか、又は熱伸長性繊維を上層11より低い割合で含むように構成されている。また下層ウエブ12Aとは別に、所定のウエブ形成手段(図示せず)を用いて、上層11の原反となる上層ウエブ11Aを作製する。上層ウエブ11Aは、熱伸長性繊維を含むものである。ウエブ形成手段としては、特に制限はなく、例えばカード法やエアレイ法等を用いることができる。
【0052】
次いで、上層ウエブ11Aと、下層ウエブ12Aとを一方向Rに搬送しながら重ねて積層体10Aとし、この積層体を搬送して、ヒートエンボス装置21に導入する。ヒートエンボス装置21は、周面に固着部15に対応する形状の凸部が形成されている彫刻ロール22と、周面が平滑となっている平滑ロール23とを備えており、各ロール22,23は所定温度に加熱可能になっている。積層体10Aを各ロール22,23間に導入することによって、積層体10Aに一体的にヒートエンボス加工が施される。ヒートエンボス加工によって、上層ウエブ11Aと、下層ウエブ12Aとが剥離不能に接合された固着部15が形成された加工積層体10Bとなる。
【0053】
ヒートエンボス加工は、上層ウエブ11A及び下層ウエブ12Aの少なくとも一方を構成する成分が溶融し、各ウエブ11A,12Aが熱融着する温度で好適に行われる。ヒートエンボス加工の加工温度は、上層ウエブ11A中の熱伸長性繊維における低融点成分の融点以上で且つ高融点成分の融点未満の温度で行われることが好ましい。
【0054】
続いて、固着部15が形成された加工積層体10Bは、熱風吹き付け装置25に導入される。加工積層体10Bは、熱風吹き付け装置25に導入されたあと、所定温度に加熱された熱風を吹き付けられて、エアスルー加工が施される。エアスルー加工は、加工積層体10B中の熱伸長性繊維が伸長する温度で、且つ熱伸長性繊維の低融点成分の融点以上で且つ高融点成分の融点未満の温度で好適に行うことができる。
【0055】
加工積層体10Bにエアスルー加工を施すことによって、上層11に含まれる熱伸長性繊維が、固着部15以外の部分において伸長する。伸長した熱伸長性繊維の伸長分は、加工積層体10Bの厚み方向外方へ移動し、上層11における固着部15に囲まれた領域内に凸部18が形成される。これとともに、伸長した熱伸長性繊維の伸長分は、加工積層体10Bの厚み方向内方にも移動して、下層12側へ積極的に入り込み、該熱伸長性繊維が跨ぎ繊維13となる。このようにして、不織布からなる目的とする表面シート10が得られる。
【0056】
なお、このように製造された表面シート10は、エアスルー加工によって熱伸長させた熱伸長性繊維が熱伸長可能になっており、依然として熱伸長性繊維である。つまり、表面シート10に存在する熱伸長性繊維は、熱伸長可能な状態で存在している。エアスルー加工後も熱伸長可能な繊維とするためには、例えば、エアスルー加工において加工積層体10Bに対して吹き付ける熱風の温度を、加工積層体10B中の熱伸長性繊維を構成する第2樹脂成分の融点又は軟化点以上とし、第2樹脂成分の融点又は軟化点+10℃以下の範囲に設定し、且つ第1樹脂成分の融点又は軟化点未満の温度に設定すればよい。表面シー
ト10を製造する際に、このような条件で熱処理することによって、低融点の第2樹脂成分を溶融させて、繊維どうしの融着点を形成させることができるので、嵩高で、且つ風合い及び強度に優れた表面シート10を得ることができる。これに加えて、熱伸長性繊維が過度に溶融してしまうことに起因するシートの風合い悪化やシートの強度低下を防ぐことができる。
【0057】
エアスルー加工の条件としては、熱風の温度として、加工積層体10B中の熱伸長性繊維が伸長する温度で、且つ熱伸長性繊維の高融点成分の融点未満とすることができる。また、熱風の風速は、好ましくは0.1m/s以上、更に好ましくは0.2m/s以上であり、好ましくは0.8m/s以下、更に好ましくは0.7m/s以下である。熱風の吹き付け時間は、加工積層体10Bの搬送速度に応じて適宜変更可能であるが、好ましくは2秒以上、更に好ましくは3秒以上であり、好ましくは10秒以下、更に好ましくは9秒以下である。
【0058】
エアスルー加工を施して得られた表面シート10は、一旦巻き取られてロールの形態で保管された後、該ロールから繰り出して用いることができる。この場合、繰り出された表面シート10にエアスルー方式で熱風を吹き付けて、表面シート10の嵩高さを回復させる処理(以下、この処理を「熱風回復処理」ともいう。)を更に行うことが好ましい。本処理は、シートの嵩高さを回復する処理であり、不織布化を目的とする上述のエアスルー加工と区別される。このような熱風回復処理の方法としては、例えば特開2008-231609号公報等に記載の技術を用いることができる。熱風回復処理の条件は、上述したエアスルー加工の条件と同様に行うことができる。このような熱風回復処理を行うことによって、エアスルー加工後も熱伸長性を有する熱伸長性繊維を更に伸長させることができるので、伸長した熱伸長性繊維の伸長分は、表面シート10の厚み方向外方へ移動し、各凸部18a,18b,18cの高さを回復させることができる。これとともに、伸長した熱伸長性繊維の伸長分は、表面シート10の厚み方向内方に移動し、上層11から下層12への繊維の侵入の度合を更に高めて、上層11から下層12への体液の引き込み性に一層優れたものとなる。その結果、シート表面の液残りが少なく、液吸収後であっても肌触りが良好なシートとなる。
【0059】
特に、下層12の構成繊維の繊維径が、上層11の構成繊維の繊維径よりも小さくなっている場合には、材料の曲げの指標となる断面二次モーメントが、上層11の構成繊維よりも、下層12の繊維のほうが低くなっている。そのため、エアスルー加工及び熱風回復処理によって伸長した上層11の熱伸長性繊維が、下層12側に効率よく入り込みやすくなる。これによって、排出された体液を、肌当接面側に配される上層11から下層12側へ効率よく移行させることができる。その結果、シート表面の液残りが少なく、且つ液吸収後であっても肌触りが良好な表面シート10を生産性高く得ることができる。
【0060】
また、上層11から下層12側に侵入する繊維、及び下層12を構成する繊維の少なくとも一方に熱融着性を発現する繊維を用いてエアスルー加工及び熱風回復処理を施すことによって、上層11から下層12へ侵入した繊維と、下層12を構成する繊維との間で熱融着が生じ、上層11から下層12に侵入した繊維が下層12の構成繊維と融着する。このように、上層11から下層12に繊維を侵入させ、且つ該繊維を下層12に融着させて固定することができるので、表面シート10に付与される外力によっても繊維の侵入度合が変化しにくくなり、体液を下層12側へ効率良く移行させることができる。その結果、シート表面の液残りが更に少なく、且つ液吸収後であっても肌触りが一層良好な表面シート10を得ることができる。
【0061】
上述した表面シート10を備えた吸収性物品は、主として尿や経血等の排泄体液を吸収保持するために用いられる。このような吸収性物品として、例えば使い捨ておむつ、生理
用ナプキン、失禁パッド等が包含されるが、これらに限定されるものではなく、人体から排出される液の吸収に用いられる物品を広く包含する。
【0062】
表面シート10の坪量は、吸収性物品の具体的な用途に応じて適宜選択され、一般的に、好ましくは10g/m2以上、更に好ましくは20g/m2以上であり、好ましくは80g/m2以下、更に好ましくは70g/m2以下である。また、表面シート10を構成する上層11及び下層12の坪量は、それぞれ独立して、好ましくは5g/m2以上、更に好ましくは10g/m2以上であり、好ましくは40g/m2以下、更に好ましくは35g/m2以下である。
【0063】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。
【実施例】
【0064】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。
【0065】
〔実施例1〕
図3に示す製造装置を用いて、熱伸長性繊維(芯樹脂:PP(融点164℃)/鞘樹脂:HDPE(融点126℃))と、第2繊維として熱融着性繊維(芯樹脂:PET(融点251℃)/鞘樹脂:HDPE(融点126℃))との二種類の繊維のみからなる上層11(坪量12.5g/m
2)と、熱融着性繊維(芯樹脂:PET(融点251℃)/鞘樹脂:HDPE(融点126℃))のみからなる下層12(坪量12.5g/m
2)とを備える表面シート10を作製した。上層11における熱伸長性繊維の含有割合は、上層11の全質量中50質量%であり、熱融着性繊維の含有割合は、上層11の全質量中50質量%であった。表面シート10は、上層11に含まれる熱伸長性繊維の一部が、両層11,12の境界面Fを越えて下層12に侵入して、跨ぎ繊維13となっていた。
この表面シート10には、
図2で示す巨視的パターンからなる固着部15がヒートエンボス加工によって形成されているものであり、各固着部列L1,L2における第1固着部15aの長さが8.1mm、第2固着部15bの長さが5.6mm、一つの固着部列における第1固着部15aと第2固着部15bとの間隔が2.0mmとなるように配置したものである。両層11,12の構成繊維における接触角及び平均繊維径は、以下の表1に示した。作製した表面シート10の坪量は25g/m
2であった。エアスルー加工の条件は、熱風温度136℃、熱風風速0.4m/s、吹き付け時間4秒とした。
【0066】
〔実施例2〕
固着部15の巨視的パターンを、特開2010-168721号公報に記載のパターンとなるようにヒートエンボス加工によって形成した他は、実施例1と同様に表面シート10(坪量25g/m
2)を作製した。表面シート10は、上層11に含まれる熱伸長性繊維の一部が、両層11,12の境界面Fを越えて下層12に侵入して、跨ぎ繊維13となっていた。
本実施例における固着部15のパターンは、実施例1のパターンとは異なり、一方向に延び、0.5mm幅の連続直線状の第1固着線と、一方向に延び、0.5mm幅の連続直線状の第2固着線とがX方向に対して互いに逆向きに傾斜して複数本形成されており、第1固着線と第2固着線とが互いに交差しているものである。本実施例における固着部15のパターンは、
図2に示す非接合領域N1が形成されていない。各第1固着線どうしはそれぞれ交差しておらず、互いに平行となって配されている。同様に、各第2固着線どうしはそれぞれ交差しておらず、互いに平行となって配されている。平面視において、隣り合う第1固着線間及び隣り合う第2固着線間で画成される領域は、菱形(斜め格子)の形状を有する非固着部となっており、該形状がシートのX方向及びY方向のそれぞれに連続的
に繰り返されていた。平面視における非固着部は、その菱形形状の一方の対角線がX方向に沿って延び、他方の対角線がY方向に沿って延びるように形成されており、X方向に沿って延びる対角線の長さが8mm、Y方向に沿って延びる対角線の長さが13mmであった。
【0067】
〔比較例1〕
まず、実施例1における上層11と同様の構成を有する繊維集合体に、実施例1のエアスルー加工の条件でエアスルー加工を施して、坪量12.5g/m2の上層11を構成した。
これとは別に、実施例1における下層12と同様の構成を有する繊維集合体に、実施例1のエアスルー加工の条件でエアスルー加工を施して、坪量12.5g/m2の下層12を構成した。
そして、下層12の上に上層11を重ね合わせた後、実施例2と同様の固着部15の巨視的パターンを形成し、本比較例の表面シート10(坪量25g/m2)を作製した。この表面シート10は、上層11に含まれる熱伸長性繊維の一部が、両層11,12の境界面Fを越えて下層12に侵入していない。つまり、本比較例の表面シート10は、跨ぎ繊維13が存在していない。
【0068】
〔比較例2〕
実施例1にて用いた上層11と同様の構成を有する繊維集合体(坪量25g/m2)に、実施例1のエアスルー加工の条件でエアスルー加工を施したあと、実施例2と同様の固着部15の巨視的パターンを形成し、本比較例の単層の表面シート10(坪量25g/m2)を作製した。
【0069】
〔下層12への上層11の構成繊維の侵入本数〕
上層11の構成繊維の侵入本数は、上述した方法で測定した。なお比較例2の表面シート10は単層のものであるので、本測定を実施していない。結果を表1に示す。
【0070】
〔シート表面の液残り量の評価〕
まず、実施例及び比較例で作製した表面シート10をそれぞれ組み込んだ吸収性物品(生理用ナプキン)を製造した。表面シート10以外の吸収性物品の構成は、花王株式会社製の生理用ナプキン(ロリエ(登録商標) スリムガード多い昼用~普通の日用)と同一とした。
この生理用ナプキンを生理用ショーツに固定し、人体の動的モデルに装着した。人体の動的モデルとしては、両脚を歩行運動させることが可能な可動式女性腰部モデルを用いた。動的モデルの歩行動作を開始させ、歩行動作開始より1分後に、液排泄点より3gの脱繊維馬血(株式会社日本バイオテスト研究所製)を15秒間かけて注入した(1回目)。脱繊維馬血は、日本バイオテスト(株)製脱繊維馬血で且つ液温25℃における粘度が8cpに調整されたものであり、また、その粘度は、東機産業株式会社製TVB‐10M形粘度計において、ロータ名称L/Adp(ロータコード19)のロータで回転速度30rpmにて測定した場合の粘度である。更に1回目の繊維馬血注入終了時点から3分後に、3gの脱繊維馬血を15秒間かけて更に注入した(2回目)。2回目の注入が終了した直後、動的モデルの歩行動作を停止させて、生理用ショーツに固定された生理用ナプキンから表面シートを剥がして、平らな面に静置させる。また、これとは別に、ティッシュペーパーを予め秤量しておき、その質量をW1(mg)とする。
【0071】
剥がした表面シートを50秒静置後、表面シートにおける液排泄点及びその近傍領域の上に予め秤量したティッシュペーパーを載せ、そのティッシュペーパーの上に2.5gf/cm2の荷重が付与されるようにおもりを載せ、5秒間静置する。その後、荷重を解除し、ティッシュペーパーの質量W2(mg)を測定する。シート表面の液残り量(mg)
は、質量W2から質量W1を差し引くことによって算出される。液残り量の値が小さいほど、表面シートの肌対向面上に液が残りにくく、液吸収後も肌触りが良好であることを意味する。結果を表1に示す。
【0072】
【0073】
表1に示すように、各実施例の表面シートは、比較例のものと比較して、表面液残り量が少なく、シート表面に液が残存しづらく、液吸収後であっても肌触りが良好なものとなっていることが判る。特に、固着部15と非接合領域N1とが形成された
図2に示すパターンとなっている実施例1の表面シートは、この効果が顕著に奏されることも判る。
【符号の説明】
【0074】
10 表面シート
11 上層
12 下層
15 固着部
16 非固着部
17 凹部
18 凸部