(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-26
(45)【発行日】2023-11-06
(54)【発明の名称】リーン型車両
(51)【国際特許分類】
B62K 5/10 20130101AFI20231027BHJP
B62K 5/027 20130101ALI20231027BHJP
B62K 5/06 20060101ALI20231027BHJP
B62K 5/08 20060101ALI20231027BHJP
B62K 23/06 20060101ALI20231027BHJP
B62J 45/00 20200101ALI20231027BHJP
【FI】
B62K5/10
B62K5/027
B62K5/06
B62K5/08
B62K23/06
B62J45/00
(21)【出願番号】P 2019236740
(22)【出願日】2019-12-26
【審査請求日】2022-05-16
(73)【特許権者】
【識別番号】521431099
【氏名又は名称】カワサキモータース株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118784
【氏名又は名称】桂川 直己
(72)【発明者】
【氏名】中島 健志
(72)【発明者】
【氏名】石井 宏志
(72)【発明者】
【氏名】岩本 太郎
(72)【発明者】
【氏名】長坂 和哉
(72)【発明者】
【氏名】稲場 太一
【審査官】中川 隆司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第08070172(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0105483(US,A1)
【文献】特開2019-077368(JP,A)
【文献】特開2018-167678(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62K 5/10
B62K 5/027
B62K 5/06
B62K 5/08
B62K 23/06
B62J 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体と、
車幅方向の第1側に位置している第1前輪と、
車幅方向の第1側の反対側である第2側に位置している第2前輪と、
前記車体が前後方向を回転中心として傾斜した際に前記第1前輪及び前記第2前輪を前後方向を回転中心として傾斜させるリーン機構と、
走行中における前記リーン機構によるリーン動作を制動するリーンブレーキ機構と、
ステアリングハンドルと、
前記ステアリングハンドルの車幅方向の前記第1側に取り付けられている第1グリップと、
前記ステアリングハンドルの車幅方向の前記第2側に取り付けられており、
駆動源の回転速度を上昇させる操作であるスロットル操作を行うための第2グリップと、
前記車幅方向の前記第1側に位置しており、前記第1グリップと一体的に位置が変化し、前記リーンブレーキ機構に制動を行わせる操作を行うためのリーンブレーキ操作部と、
を備えることを特徴とするリーン型車両。
【請求項2】
請求項1に記載のリーン型車両であって、
前記第1グリップに配置され、複数のスイッチが配置されたハンドルスイッチケースを備え、
前記ハンドルスイッチケースの一部は、平面視で、前記第1グリップよりも前方に位置しており、
前記リーンブレーキ操作部の一部は、平面視で、前記第1グリップよりも後方に位置していることを特徴とするリーン型車両。
【請求項3】
請求項2に記載のリーン型車両であって、
前記リーンブレーキ操作部は、前記第1グリップよりも低い位置にあることを特徴とするリーン型車両。
【請求項4】
請求項1から3までの何れか一項に記載のリーン型車両であって、
前記第1グリップに配置され、一部が前記第1グリップよりも前方に位置しており、一部が前記第1グリップの車幅方向外側に位置している第1操作子を備え、
前記リーンブレーキ操作部の一部は、前記第1グリップよりも後方に位置しており、
前記リーンブレーキ操作部の一部は、車幅方向で前記第1グリップと重なる範囲に位置していることを特徴とするリーン型車両。
【請求項5】
請求項
4に記載のリーン型車両であって、
前記第1操作子は、駆動源が発生させた駆動力を駆動輪に伝達する状態と伝達しない状態とを切り替えるクラッチ操作子であることを特徴とするリーン型車両。
【請求項6】
請求項1から5までの何れか一項に記載のリーン型車両であって、
前記第2グリップに配置され、車輪を制動するブレーキ操作子を備えることを特徴とするリーン型車両。
【請求項7】
請求項
1から6までの何れか一項に記載のリーン型車両であって、
前記リーンブレーキ操作部は、操作力が与えられている間は位置又は姿勢が変化し、操作力が与えられなくなると元の位置に戻るオートリターン型であることを特徴とするリーン型車両。
【請求項8】
請求項1から5までの何れか一項に記載のリーン型車両であって、
前記リーンブレーキ操作部は、運転者の操作力が解除されても直前のレバー位置を維持し続け、
前記リーンブレーキ操作部のレバー位置に応じて、制動力が離散的にかつ多段階に変化することを特徴とするリーン型車両。
【請求項9】
請求項1から8までの何れか一項に記載のリーン型車両であって、
前記リーンブレーキ機構を制御する制御装置を備え、
前記制御装置は、発生条件を満たしたと判定した場合に、前記リーンブレーキ機構を作動させてリーン動作を制動することを特徴とするリーン型車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、旋回時等に車体を傾斜させるリーン型車両に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、2つの前輪と、1つの後輪と、を備える三輪の車両を開示する。この車両は、チルトロック機構を備える。チルトロック機構とは、車体の傾斜動作をロックすることで、車両の停止時における車両の傾斜を防止するものである。チルトロック機構は、車体を傾斜させるためのリンク機構に設けられたストップエレメントとロックキャリパで構成される。運転者の操作に応じてロックキャリパが動作して、ストップエレメントとロックキャリパの間で摩擦力が発生することで、リンク機構の動作(即ち、車体の傾斜動作)をロックする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
リーン型車両は、低速走行時は車体が安定しないので、例えば低速での旋回時に運転者が意図よりも大きく車体が傾斜することがある。また、低速での直進時においても、運転者の意図に反して車体が傾斜することもある。また、特許文献1は、車両の停止時における車体の傾斜をロックする機構を開示しているが、走行中の車体の傾斜を調整すること及びその操作については記載されていない。
【0005】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その主要な目的は、走行中の車体の傾斜を調整する操作を高い操作性で行うことが可能なリーン型車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0007】
本発明の観点によれば、以下の構成のリーン型車両が提供される。即ち、1と2を逆転(整合性)このリーン型車両は、車体と、第1前輪と、第2前輪と、リーン機構と、リーンブレーキ機構と、ステアリングハンドルと、第1グリップと、第2グリップと、リーンブレーキ操作部と、を備える。前記第1前輪は、車幅方向の第1側に位置している。前記第2前輪は、車幅方向の第1側の反対側である第2側に位置している。前記リーン機構は、前記車体が前後方向を回転中心として傾斜した際に前記第1前輪及び前記第2前輪を前後方向を回転中心として傾斜させる。前記リーンブレーキ機構は、走行中における前記リーン機構によるリーン動作を制動する。前記第1グリップは、前記ステアリングハンドルの車幅方向の前記第1側に取り付けられている。前記第2グリップは、前記ステアリングハンドルの車幅方向の前記第2側に取り付けられており、駆動源の回転速度を上昇させる操作であるスロットル操作を行う。前記リーンブレーキ操作部は、前記車幅方向の前記第1側に位置しており、前記第1グリップと一体的に位置が変化し、前記リーンブレーキ機構に制動を行わせる操作を行う。
【0008】
これにより、走行中にリーン動作を制動する操作を行うことができる。また、リーンブレーキ操作部を第2グリップに対して車幅方向の反対側に配置することで、走行中におけるリーンブレーキ操作部の操作性を高くすることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、走行中の車体の傾斜を調整する操作を高い操作性で行うことが可能なリーン型車両が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1実施形態のリーン型車両の側面図。
【
図4】リーン機構にブレーキパッドを取り付ける様子を示す斜視図。
【
図5】リーン機構にブレーキキャリパーを取り付ける様子を示す斜視図。
【
図6】リーン動作及びリーンブレーキ動作を示す概略正面図。
【
図7】第2実施形態のリーン型車両の前部の側面図。
【
図9】第2実施形態のリーンブレーキ動作を示す概略背面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の説明では、リーン型車両1に乗車した運転者から見た方向で、リーン型車両1の左右方向を定義する。従って、リーン型車両1が直立している状態では、前後方向は車長方向に一致し、左右方向は車幅方向に一致する。また、上下方向(鉛直方向)は高さ方向に一致する。
【0012】
以下の説明では、AがBに取り付けられる(支持される)と記載した場合は、AがBに直接取り付けられる(支持される)構成だけでなく、別の部材を介して取り付けられる(支持される)構成も含むものとする。また、Aが車幅方向中央と重なるとは、例えば平面視又は正面視においてリーン型車両の車幅方向中央を通る仮想線がAと重なることである。また、前部とは、前後方向に2分割又は3分割した場合の最も前側の部分である(後部等についても同様)。また、部材の位置について説明するときは、リーン型車両1が直立している状態、舵角が中立である状態、かつ、自重以外の荷重が掛かっていない状態における位置を示すものとする。
【0013】
初めに、
図1と
図2を参照して、リーン型車両1の概要について説明する。
【0014】
リーン型車両1は、車体2と、左前輪(第1前輪)31Lと、右前輪(第2前輪)31Rと、後輪9と、を備える。車体2は、リーン型車両1の骨格となる車体フレーム3を含んでいる。車体フレーム3は、複数のフレーム要素がボルト又は溶接等で連結された構成である。
【0015】
左前輪31Lは、車幅方向中央に対して左側(第1側)に配置されている。左前輪31Lは、車幅方向中央に対して右側(第2側)に配置されている。左前輪31L及び右前輪31Rは、車体フレーム3に取り付けられる。左前輪31L及び右前輪31Rの詳細な取付方法については後述する。
【0016】
後輪9は、車幅方向中央に配置されている。車体フレーム3の後部には、車体フレーム3に対して上下に搖動可能なスイングアーム4が取り付けられている。後輪9は、スイングアーム4に取り付けられている。
【0017】
車体フレーム3には、エンジン5が取り付けられている。エンジン5は、リーン型車両1を走行させるための駆動源である。エンジン5が発生させた動力は、ドライブチェーン6を介して後輪9に伝達される。これにより、リーン型車両1を走行させることができる。エンジン5に代えて又は加えて他の駆動源、例えば走行用の電動モータが設けられていてもよい。あるいは、エンジン5に代えて、走行用の動力を運転者が付与するためのペダル等が設けられていてもよい。
【0018】
車体フレーム3には、バーハンドル型のステアリングハンドル7が取り付けられている。運転者がステアリングハンドル7に回転操舵力を加えることで、この回転操舵力が後述の機構及び操舵ロッド26を介して左前輪31L及び右前輪31Rに伝達される。その結果、リーン型車両1の進行方向を変化させることができる。以下では、リーン型車両1の進行方向が変化することをリーン型車両1が旋回すると称することがある。また、リーン型車両1は、後述のリーン機構により、旋回時において、路面に対して旋回中心側に傾斜する(リーンする)。なお、ステアリングハンドル7は、バーハンドル型に限られず、ステアリングホイールであってもよい。
【0019】
ステアリングハンドル7の後方には、運転者が着座するためのシート8が配置されている。車体2の左側面と右側面にはそれぞれ図略のステップが配置されている。運転者は、シート8に跨って、左右のステップに足を載せる。このように、リーン型車両1は、運転者がシート8に跨って着座する種類の車両(鞍乗型車両)である。
【0020】
次に、
図2及び
図3を参照して、リーン型車両1が備える前側のサスペンション10について説明する。
【0021】
サスペンション10は、車体2と、左前輪31L及び右前輪31Rと、を連結している。サスペンション10は、路面の凹凸等による左前輪31L及び右前輪31Rの振動が車体2に直接伝達しないように、車体2に伝達される振動を軽減する。また、以下の説明では、サスペンション10を境界として、左前輪31L及び右前輪31R側(振動する側)に取り付けられている部材を「振動側の部材」と称する。サスペンション10を境界として、車体2側(制振されている側)に取り付けられている部材を「制振側の部材」と称する。
【0022】
サスペンション10は、第1筒状サスペンション11と、第2筒状サスペンション12と、第3筒状サスペンション13と、を備える。以下では、第1筒状サスペンション11、第2筒状サスペンション12、及び第3筒状サスペンション13をまとめて「筒状サスペンション11,12,13」と称する。筒状サスペンション11,12,13は、それぞれ同じ構成である。筒状サスペンション11,12,13は、自動二輪車に一般的に採用されるフロントフォークと同じ構成である。なお、サスペンション10は、フロントフォーク型に限られない。
【0023】
筒状サスペンション11,12,13は、それぞれ、筒体10aと、スライド体10bと、スプリング10cと、を備える。
【0024】
筒体(アウターチューブ)10aは、細長い筒状の部材である。筒体10aには、スライド体(インナーチューブ)10bが挿入されている。スライド体10bは、径が筒体10aよりも小さい細長い筒状の部材である。スライド体10bは、筒体10aに対して、長手方向に沿って相対移動可能である。スライド体10bの内部にはスプリング10cが挿入されている。筒体10aとスライド体10bは、スプリング10cを介して接続されている。この構成により、スライド体10bから筒体10aに伝達される振動を軽減できる。サスペンション10の内部にはオイルが封入されており、筒体10aに対してスライド体10bを移動させることでオイルが移動する。このオイルの移動が抵抗力(減衰力)となり、振動を短時間で減衰することができる。
【0025】
本実施形態では、筒体10aがスライド体10bよりも上側に位置しており、上述の「制振側の部材」は基本的には筒体10aと一体的に振動する。スライド体10bは、筒体10aよりも下側に位置している。上述の「振動側の部材」は、基本的にはスライド体10bと一体的に振動する。なお、筒体10aとスライド体10bの上下の位置を反転させてもよい。
【0026】
筒状サスペンション11,12,13のそれぞれのスライド体10bは、一体的にスライドする構成である。具体的には、サスペンション10は、上連結部材14と、下連結部材15と、を備える。
【0027】
上連結部材14は、筒状サスペンション11,12,13のそれぞれの筒体10aを連結する。これにより、筒状サスペンション11,12,13のそれぞれの筒体10aが相対移動できないため、それぞれの筒体10aを一体化できる。また、筒状サスペンション11,12,13の筒体10aの少なくとも1つは、車体フレーム3の前部に位置する前フレーム3aに取り付けられている。
【0028】
下連結部材15は、筒状サスペンション11,12,13のそれぞれのスライド体10bを連結する。これにより、筒状サスペンション11,12,13のそれぞれのスライド体10bが相対移動できないため、それぞれのスライド体10bを一体的にスライドさせることができる。また、筒状サスペンション11,12,13のスライド体10bの少なくとも1つは、下連結ベース16に取り付けられている。下連結ベース16には、後述の機構を介して、左前輪31L及び右前輪31Rが取り付けられている。
【0029】
次に、
図1及び
図2を参照して、前輪の概要について説明する。
【0030】
左前輪31Lと右前輪31Rは、車幅方向中央を基準として左右対称である。そのため、以下では、左前輪31Lのみを説明し、右前輪31R(右ホイール32R、右タイヤ33R)及び右ブレーキ34R等に関する説明を省略する。
【0031】
左前輪31Lは、左ホイール32Lと、左タイヤ33Lと、を備える。また、左ホイール32Lの車幅方向外側には、左ブレーキ(前輪ブレーキ機構)34Lが取り付けられている。左ブレーキ34Lは、左ホイール32Lに取り付けられたブレーキディスク34aをブレーキキャリパー34bで挟むことで、左前輪31Lを制動する。なお、左ブレーキ34Lは、左ホイール32Lの車幅方向内側に取り付けられていてもよい。
【0032】
左ホイール32Lは、ハブ32aと、スポーク32bと、リム32cと、を備える。ハブ32aには、車軸が挿入されるハブ孔が形成されている。スポーク32bは、ハブ32aから放射状に外側に延びる形状である。リム32cは、スポーク32bの径方向外側に接続されており、左タイヤ33Lが取り付けられる。
【0033】
左ホイール32Lには、左ナックル部材としての左アーム45が取り付けられている。上述の操舵ロッド26の車幅方向外側の端部は左アーム45に回転可能に取り付けられている。操舵ロッド26は、左アーム45を介して、操舵力を左前輪31Lに伝達する。なお、左アーム45は、後述のリーン機構の一部としても構成されている。つまり、本実施形態の左アーム45は、実舵角を変更するためのナックル部材と、リーン型車両1をリーンさせるための部材と、を共通化したものである。
【0034】
次に、
図2及び
図3を参照して、運転者が加えた回転操舵力を伝達する機構について説明する。
【0035】
ステアリングハンドル7の下方には、リアブラケット21が設けられている。ステアリングハンドル7とリアブラケット21は、例えば固定具で連結されている。ステアリングハンドル7及びリアブラケット21は、操舵回転軸線7a(上下方向に略平行な線)を回転中心として一定的に回転可能である。また、この操舵回転軸線7aを中心としたステアリングハンドル7の回転角度を操舵角と称することがある。
【0036】
リアブラケット21には伝達アーム(回転伝達部)22の後端が回転可能に取り付けられている。伝達アーム22は、リアブラケット21と、第1操舵部23と、を接続する。伝達アーム22は、ステアリングハンドル7に加えられた回転操舵力を第1操舵部23に伝達する。
【0037】
第1操舵部23は、リアブラケット21及びステアリングハンドル7の前方に位置している。また、第1操舵部23は、車幅方向中央に重なるように位置している。第1操舵部23には、伝達アーム22の前端が取り付けられている。この構成により、ステアリングハンドル7及びリアブラケット21の回転に伴って、第1操舵部23を回転させることができる。
【0038】
第1操舵部23には、パンタグラフ機構24が取り付けられている。パンタグラフ機構24は、車幅方向中央に重なるように位置している。パンタグラフ機構24は、第1リンク部24aと、第2リンク部24bと、を備える。第1リンク部24aは、第1操舵部23に、車幅方向を回転中心として回転可能に取り付けられている。第2リンク部24bは、後述の第2操舵部25に、車幅方向を回転中心として回転可能に取り付けられている。また、第2操舵部25は、「振動側の部材」である。第1リンク部24aと第2リンク部24bは、車幅方向を回転中心として回転可能に互いに連結されている。
【0039】
以上の構成により、第1操舵部23と第2操舵部25の相対距離が変化した場合であっても、第1操舵部23と第2操舵部25が連結された状態を維持することができる。従って、路面の凹凸等によりサスペンション10が伸縮した場合であっても、回転操舵力が伝達可能な状態を維持できる。
【0040】
第2操舵部25は、車幅方向中央に重なるように位置している。第2操舵部25は、パンタグラフ機構24を介して伝達された回転操舵力を操舵ロッド26に伝達する。第2操舵部25は、サスペンション取付部25aと、ロッド取付部25bと、を備える。
【0041】
サスペンション取付部25aは、パンタグラフ機構24(詳細には第2リンク部24b)に取り付けられている。サスペンション取付部25aは、更に、下連結ベース16に取り付けられている。第2操舵部25は操舵に応じて回転するが、下連結ベース16は操舵に応じて回転しない。そのため、第2操舵部25は、下連結ベース16に対して相対回転可能に取り付けられている。
【0042】
ロッド取付部25bは、サスペンション取付部25aの下部に取り付けられている。ロッド取付部25bは、略L字状であり、サスペンション取付部25aから前方に延びる部分と、下方に延びる部分と、を含んでいる。この構成により、サスペンション取付部25aの下方に空間を形成できる。この空間には、後述のリーン機構の一部が配置される。
【0043】
操舵ロッド26は、ロッド取付部25bに対して回転可能に取り付けられている。操舵ロッド26の長手方向は車幅方向に一致している。操舵ロッド26の左端は、左前輪31L(詳細には左前輪31Lのうち車軸よりも前方)に取り付けられている。操舵ロッド26の右端は、右前輪31R(詳細には右前輪31Rのうち車軸よりも前方)に取り付けられている。運転者が加えた回転操舵力によってロッド取付部25bが所定の回転軸線を中心に回転することで、操舵ロッド26が左右の何れかに移動する。その結果、実舵角が変化する。実舵角とは、左前輪31L及び右前輪31Rの向き(詳細には略上下方向を回転中心とした回転角度)である。以上のようにして、運転者の操作に応じてリーン型車両1の進行方向を変化させることができる。
【0044】
次に、
図4から
図6を参照して、リーン機構42について説明する。
【0045】
また、リーン機構42の説明において、回転可能に取り付けられているとは、前後方向を回転中心として、相対回転可能に取り付けられていることを意味する。
【0046】
下連結ベース16の後部には、下連結ベース16から下側に延びるリーンベース41が取り付けられている。リーンベース41は、リーン機構42を支持するとともに、リーン機構42を車体2側(車体フレーム3側)に連結するための部材である。リーンベース41は、車幅方向中央と重なるように位置している。
【0047】
リーンベース41及びリーン機構42は、下連結ベース16に取り付けられているので、「振動側の部材」である。また、リーンベース41及びリーン機構42は、比較的低い位置(側面視で一部又は全体が左前輪31Lと重なる位置)に配置されている。これにより、重量物を低い位置に配置できるので、リーン型車両1を安定させることができる。
【0048】
リーンベース41は、上取付部41aと、下取付部41cと、を備える。上取付部41a及び下取付部41cは、前側(前後方向の一側、以下同じ)の面に形成されている。上取付部41aは、下取付部41cよりも上方かつ後方に位置している。上取付部41aには、前方に突出する上突出筒41bが形成されている。下取付部41cには、前方に突出する下突出筒41dが形成されている。なお、後述の第2実施形態で示すように、リーンベース41の構成は第1実施形態とは異なっていてもよい。
【0049】
リーン機構42は、上アーム43と、下アーム44と、左アーム(第1アーム)45と、右アーム(第2アーム)46と、を備える。上アーム43は、下アーム44よりも上方に位置している。上アーム43の左端、及び、下アーム44の左端には、左アーム45がそれぞれ回転可能に連結されている。上アーム43の右端、及び、下アーム44の右端には、右アーム46がそれぞれ回転可能に連結されている。リーン機構42は、車幅方向中央と重なるように位置しており、左アーム45と右アーム46は車幅方向中央を基準として左右対称である。
【0050】
上アーム43の左端には二股状の取付部がそれぞれ形成されている。上アーム43は、二股状の取付部で左アーム45の上部を前後方向で挟み込むようにして、左アーム45に取り付けられる。これにより、左前輪31Lを適切に傾斜させることができる。上アーム43の右端、下アーム44の左端及び右端についても、同様に二股状の取付部が形成されている。
【0051】
上アーム43の長手方向の中央には、上支点部43aが形成されている。上支点部43aは、軸方向が前後方向となる筒状の部分である。上支点部43aは上取付部41aに回転可能に取り付けられている。また、上支点部43aの前端には、連結リンク48が回転可能に取り付けられている。連結リンク48は、上支点部43aの前端に加え、上突出筒41bの前端にも回転可能に取り付けられている。これにより、リーンベース41と連結リンク48で上アーム43を前後方向で挟み込むように支持できるので、片持ちの場合と比較して上アーム43を安定的に支持できる。なお、上突出筒41bと連結リンク48は省略してもよい。
【0052】
下アーム44は、上アーム43と同様に取り付けられている。具体的には、下アーム44の長手方向の中央には、下支点部44aが形成されている。下支点部44aは、軸方向が前後方向となる筒状の部分である。下支点部44aは下取付部41cに回転可能に取り付けられている。また、下支点部44aの前端には、リーンブラケット49が回転可能に取り付けられている。リーンブラケット49は、下支点部44aの前端に加え、下突出筒41dの前端にも回転可能に取り付けられている。これにより、リーンベース41とリーンブラケット49で下アーム44を前後方向で挟み込むように支持できるので、片持ちの場合と比較して下アーム44を安定的に支持できる。
【0053】
また、本実施形態のリーンブラケット49は、下アーム44だけでなく、リーンに関する別の機構(例えばリーンブレーキ機構50の一部)をリーンベース41に取り付ける機能も有している。リーンブレーキ機構50は、リーン動作を制動するための機構である。なお、リーンブラケット49は、下アーム44のみを取り付けるための部材(連結リンク48と同様の部材)であってもよい。
【0054】
また、上突出筒41b及び下突出筒41dは、何れも、上アーム43より下方であって、下アーム44よりも上方に位置している。これにより、例えば上突出筒41bが上取付部41aよりも上方にある構成等と比較して、リーン機構42の上下方向のサイズを小さくすることができる。
【0055】
左アーム45は、左ホイール32Lに回転可能に取り付けられている。具体的には、左アーム45は、左ホイール32Lのハブ32aに取り付けられている。左アーム45は、左ホイール32Lと一体的に動くように、左ホイール32Lに固定されている。同様に、右アーム46は、右ホイール32Rのハブ32aに固定されている。
【0056】
4つのアームは平行リンクを構成している。従って、
図6に示すように、リーン動作時においても、上アーム43と下アーム44は平行を維持する。また、上アーム43は、上支点部43aを回転中心として、リーンベース41に対して相対回転する。同様に、下アーム44は、下支点部44aを回転中心として、リーンベース41に対して相対回転する。このように、リーン機構42は、リーンベース41に対して相対回転する。
【0057】
また、4つのアームは平行リンクなので、リーン動作時においても、左アーム45と右アーム46は平行を維持する。従って、左前輪31Lと右前輪31Rを同じリーン角度で傾斜させることができる。リーン角度とは、リーン型車両1の車高方向と、路面に垂直な方向と、がなす角である。
【0058】
また、リーンベース41は、上アーム43の長手方向の中央(上支点部43a)と、下アーム44の長手方向中央(下支点部44a)と、を連結している。従って、リーンベース41は、左前輪31L及び右前輪31Rと同じリーン角度で傾斜する。言い換えれば、車体2も左前輪31L及び右前輪31Rと同じリーン角度で傾斜する。また、後輪9は車体2と一体的にリーンする。以上のようにして、リーン型車両1はリーン可能に構成されている。
【0059】
次に、
図3を参照して、ステアリングハンドル7及びその周囲に配置される操作子について詳細に説明する。
【0060】
ステアリングハンドル7は、ハンドルバー61と、左グリップ(第1グリップ)62と、スロットルグリップ(第2グリップ)63と、を備える。ハンドルバー61は、運転者の回転操舵力に応じて回転する。本実施形態のハンドルバー61は1本のバーであるが、左右のバーが分離していてもよい。左グリップ62は、運転者が左手で握る部分である。スロットルグリップ63は、運転者が右手で握る部分である。運転者がスロットルグリップ63を回転させることで、エンジン5の回転速度を上昇させることができる。
【0061】
また、スロットルグリップ63の周囲には、左ブレーキ34Lと右ブレーキ34Rを作動させるためのブレーキレバー64が設けられている。
【0062】
また、左グリップ62の周囲には、ハンドルスイッチケース65、クラッチレバー66、及びリーンブレーキ操作部67が設けられている。
【0063】
ハンドルスイッチケース65は、左グリップ62の車幅方向内側に位置している。ハンドルスイッチケース65には、運転者がリーン型車両1に対して様々な指示を行うための操作子が設けられている。
【0064】
クラッチレバー66は、平面視で左グリップ62の前方に位置している。運転者は、左グリップ62から手を離さずにクラッチレバー66を操作可能である。クラッチレバー66は、エンジン5が後輪9に動力を伝達する状態と、エンジン5が後輪9に動力を伝達しない状態と、を切り替えるためのレバーである。
【0065】
リーンブレーキ操作部67は、後述のリーンブレーキ機構50を主にリーン型車両1の走行中に作動させるためのレバーである。リーンブレーキを作動させることで、リーン型車両1のリーンの発生を抑止したり、リーン角度を小さくしたりすることができる。
【0066】
リーンブレーキ操作部67は、車幅方向中央に対して左側(スロットルグリップ63の反対側)に位置している。リーンブレーキ操作部67は、ハンドルバー61に取り付けられているため、ハンドルバー61及び左グリップ62等とともに一体的に回転する。リーンブレーキ操作部67は、運転者が左グリップ62を握った状態で、親指を用いて操作するための操作子である。そのため、例えば、左グリップ62の下方にリーンブレーキ操作部67が位置している。また、リーンブレーキ操作部67は、左グリップ62の長手方向中央よりも車幅方向中央側に位置している。以上の構成により、運転者が親指で操作し易い位置にリーンブレーキ操作部67が配置される。
【0067】
また、リーンブレーキ操作部67は、運転者が親指で前に押し込むようにして操作される。具体的には、リーンブレーキ操作部67は、待機位置(
図3の実線位置)と、動作位置(
図3の鎖線位置)と、の間で位置を変更可能に構成されている。従って、リーンブレーキ操作部67の操作方向(押圧方向)と、運転者が親指で操作し易い方向と、を一致させることができる。
【0068】
また、リーン型車両1の走行中において、運転者はスロットルグリップ63の回転角度を細かく調整する。そのため、仮にスロットルグリップ63の近傍にリーンブレーキ操作部67を配置した場合、運転者が慎重にリーンブレーキ操作部67を操作しないと、スロットルグリップ63の回転角度が意図せず変化する可能性がある。この点、本実施形態では、スロットルグリップ63の反対側の左グリップ62の周りにリーンブレーキ操作部67が位置しているので、運転者のスロットル操作を妨げない。
【0069】
また、リーンブレーキ操作部67は、車幅方向中央に対してブレーキレバー64の反対側に位置している。これにより、左前輪31L及び右前輪31Rのブレーキを作動させる操作と、リーンブレーキを作動させる操作と、が左右に分かれる。従って、運転者にとって分かり易い操作を実現できる。
【0070】
また、リーンブレーキ操作部67は、例えば低速走行時のリーン型車両1のリーンを防止するために、低速走行時に操作される可能性がある。低速走行時はリーン型車両1の姿勢が安定しにくいので、運転者は左右のグリップを強く保持する傾向にある。リーンブレーキ操作部67は、左グリップ62を握った状態で操作可能であるため、低速走行時の操作にも適している。
【0071】
また、リーンブレーキ操作部67は、例えば旋回中のリーン角度を小さくするために、旋回の開始前に操作される可能性もある。一方で、旋回の開始前において、運転者は前方を注視するため手元を確認する余裕がないことが多い。この点、本実施形態では、ハンドルスイッチケース65から独立した位置にリーンブレーキ操作部67が配置されている。言い換えれば、リーンブレーキ操作部67の近傍には、他の操作子が位置していない。そのため、運転者は手元を確認することなくリーンブレーキ操作部67を操作できる。
【0072】
なお、リーンブレーキ操作部67のレイアウトは一例であり、例えばハンドルスイッチケース65にリーンブレーキ操作部67が設けられていてもよい。また、クラッチ操作が不要な車両又は別にクラッチ操作子が配置される車両では、本実施形態のクラッチレバー66に相当する位置にリーンブレーキ操作部67が設けられていてもよい。また、運転者が足で操作できるように、ステップの近傍にリーンブレーキ操作部67が設けられていてもよい。
【0073】
次に、
図4から
図6を参照して、リーンブレーキ機構50について説明する。
【0074】
リーンブレーキ機構50は、リーン動作に伴って、リーンベース41と下アーム44の相対位置が変化することを利用して、リーンブレーキを作動させる。リーンブレーキ機構50は、ブレーキディスク(第1ブレーキ部材)51と、ブレーキキャリパー(第2ブレーキ部材)52と、を備える。
【0075】
ブレーキディスク51は、下アーム44に取り付けられている。詳細には、下アーム44には、固定具を締結可能な2つの筒状のディスク取付部44bが溶接等により接続されている。2つのディスク取付部44bは、車幅方向中央を挟んで左右対称である。2つのディスク取付部44bにブレーキディスク51の2つの取付孔をそれぞれ合わせて固定具を締結することで、ブレーキディスク51が下アーム44に取り付けられる。このように固定されるので、ブレーキディスク51は、下アーム44と一体的に移動する。
【0076】
ブレーキディスク51は、車幅方向中央に重なるように位置している。また、上述したように下アーム44も車幅方向の中央に重なるリーンベース41に取り付けられる。つまり、ブレーキディスク51を下アーム44に取り付ける位置と、下アーム44をリーンベース41に取り付ける位置と、が近くなる。詳細には、上述の2つのディスク取付部44bの間に、下アーム44をリーンベース41に取り付けるための下支点部44aが形成されている。また、ブレーキディスク51は、半円状であり、かつ、中心の近傍が切り欠かれている。ブレーキディスク51の切り欠かれた部分からは、下支点部44aが露出する。以上のようにして、狭い空間に2つの部材を効率的に取り付けることができる。
【0077】
ブレーキディスク51は、下アーム44から前方かつ下方に突出する向きで下アーム44に取り付けられている。言い換えれば、ブレーキディスク51の上端が下アーム44の前端に取り付けられている。これにより、リーン機構42及び操舵ロッド26等と、ブレーキディスク51(あるいは、その周囲に位置するブレーキディスク51)と、が干渉しにくくなる。特に、本実施形態では、ブレーキディスク51の上方に操舵ロッド26が位置している(平面視で両者が重なる)。そのため、ブレーキディスク51を下方に突出する向きで取り付けることで、特にブレーキディスク51と操舵ロッド26との干渉を防止できる。
【0078】
ブレーキディスク51は、ベース部材51aと、ゴムシート(接触部材)51bと、で構成されている。ベース部材51aは、金属製であり、ゴムシート51bよりも剛性が高い。ゴムシート51bは、ベース部材51aの両面に貼り付けられている。ゴムシート51bは、ゴム製であり、可撓性を有している。ゴムシート51bは、接触相手の素材及び環境にもよるが基本的には、ベース部材51aよりも摩擦係数が高い傾向にある。この構成により、高い剛性と高い摩擦係数を両立できる。なお、ベース部材51a及びゴムシート51bの材料は一例であり、上述した特徴を有する限り、異なる材料であってもよい。また、ゴムシート51bを省略してもよい。
【0079】
ブレーキキャリパ52は、車幅方向中央に重なるように位置している。ブレーキキャリパ52は、キャリパー本体52aと、ブレーキパッド52bと、を備える。
【0080】
キャリパー本体52aは、リーンブラケット49を介して、下突出筒41d及び下支点部44aに回転可能に取り付けられている。上述したように、リーンブラケット49は、下アーム44と下突出筒41dを連結する機能も有している。このように、リーンブラケット49に2つの機能を持たせ、更に、下突出筒41dを介して2つの部材を取り付けることで、部品点数を削減したり、構成を単純化したりすることができる。
【0081】
キャリパー本体52aは、溝状のクランプ部を有しており、このクランプ部の間にブレーキディスク51の一部が位置している。クランプ部の側壁には、それぞれブレーキパッド52bが貼り付けられている。ブレーキキャリパ52にはブレーキホースが接続されている。運転者がリーンブレーキ操作部67を操作すると、ブレーキキャリパ52に作動油が供給される。
【0082】
これにより、クランプ部が閉じることで、ブレーキディスク51にブレーキパッド52bが押し付けられる。以上によりリーンブレーキが作動する。なお、リーンブレーキ機構50は、油圧式に代えて、電動式であってもよいし、ワイヤ式であってもよい。
【0083】
以下、
図6を参照して、リーン動作時におけるブレーキディスク51及びブレーキキャリパ52の動きについて説明する。ブレーキディスク51は、下アーム44に相対回転できないように取り付けられているので、下アーム44と一体的に移動する。また、下アーム44はリーンベース41に対して相対回転可能である。従って、ブレーキディスク51は、リーン動作時において、リーンベース41に対して(下支点部44aを回転中心として)相対回転する。
【0084】
一方、ブレーキキャリパ52は、リーンブラケット49を介して、リーンベース41に2箇所で取り付けられている。従って、ブレーキキャリパ52は、リーン動作時において、リーンベース41に対して相対回転しない。
【0085】
以上により、本実施形態では、リーン動作時において、下支点部44aを回転中心として、ブレーキディスク51とブレーキキャリパ52が相対回転する。従って、リーンブレーキを作動させて、ブレーキパッド52bをブレーキディスク51に押し付けることで発生する摩擦力は、リーン動作の制動力(抵抗力)となる。このようにして、リーンブレーキ機構50はリーン動作に対して制動力を発生させる。
【0086】
リーン動作時において、ブレーキキャリパ52に対するブレーキディスク51の相対回転角度は、90度以下である。また、リーンブレーキ機構50は、他との干渉を防止するためにあまり大きくすることができない。従って、リーン動作時において、ブレーキキャリパ52に対してブレーキディスク51が相対移動する距離は短い。そのため、ベース部材51aにゴムシート51bを貼り付けて摩擦力を高くすることで、高い制動力を実現している。なお、ブレーキディスク51とブレーキパッド52bの接触による摩擦係数(静止摩擦係数又は動摩擦係数)は、左前輪31Lを制動するためのブレーキディスク34aとブレーキキャリパー34bの摩擦係数よりも高い。
【0087】
なお、ブレーキキャリパ52に対してブレーキディスク51が相対移動する距離を長くするために、以下の構成としてもよい。即ち、下アーム44にブレーキディスク51を取り付ける。ブレーキディスク51は、正面視で上アーム43と重なる大きさとする。そして、上支点部43aにブレーキキャリパ52を取り付ける。これにより、相対回転の半径を大きくすることができるので、相対移動する距離を長くすることができる。
【0088】
また、ブレーキディスク51とブレーキキャリパ52が相対回転するため、ブレーキディスク51を半円状とすることで、ブレーキディスク51を必要最小限な形状とすることができる。また、ブレーキディスク51とブレーキキャリパ52が直線又は直線に近い相対移動を行う構成と比較して、リーンブレーキ機構50を小さくすることができる。
【0089】
なお、本実施形態のリーンブレーキ機構50の構成は一例である。例えば、下アーム44に対して相対回転する部材が、リーンベース41以外にも周囲に存在する場合、その部材にブレーキキャリパ52を取り付けてもよい。また、本実施形態の構成に代えて、ブレーキディスク51がリーンベース41に対して相対回転しないようにリーンベース41に取り付けられており、かつ、ブレーキキャリパ52がリーンベース41に対して相対回転するように下アーム44に取り付けられていてもよい。
【0090】
また、下アーム44に代えて上アーム43にブレーキディスク51が取り付けられていてもよい。ブレーキディスク51を上アーム43に取り付ける場合、上アーム43の上側に突出するようにすることで、リーンブレーキ機構50とリーン機構42等が干渉しにくい。更に、リーンブレーキ機構50の位置が高くなるので、最低地上高が高くなったり、路面から跳ねた水及び石等からリーンブレーキ機構50を保護したりできる。また、例えば操舵ロッド26がリーン機構42の後方に位置する場合、上アーム43又は下アーム44から後方に突出するようにブレーキディスク51を取り付けてもよい。これにより、リーン機構42周りの部材を集約して配置できる。
【0091】
また、本実施形態では、ブレーキディスク51にゴムシート51bを設ける構成であるが、それに代えて又は加えて、ブレーキパッド52bにゴムシートを設ける構成であってもよい。あるいは、ブレーキパッド52bの全体をゴムにしてもよい。また、摩擦係数を高くするために、ブレーキディスク51及びブレーキパッド52bの少なくとも一方に対して、表面粗さを高くする加工を行ってもよい。
【0092】
次に、リーンブレーキ操作部67の操作に応じてリーンブレーキをどのように作動させるかについて説明する。
【0093】
以下では、リーンブレーキ操作部67の操作に応じたリーンブレーキ機構50の動作態様を3つ説明する。リーン型車両1は、3つのうち1つの動作態様しか実行できない構成であってもよいし、実行する動作態様を切替可能な構成であってもよい。
【0094】
1つ目の動作態様では、リーンブレーキ操作部67の操作に応じて、リーンブレーキの制動力が連続的に変化する。具体的には、運転者がリーンブレーキ操作部67を操作することで、レバー位置(姿勢)が変化する。そして、リーンブレーキ操作部67のレバー位置の変化が大きくなるに連れて、ブレーキキャリパ52がキャリパー本体52aをブレーキディスク51に押し付ける力が大きくなる(制動力が大きくなる)。
【0095】
これにより、運転者は、状況等に応じた任意の制動力でリーンブレーキを作動させることができる。また、1つ目の動作態様を実行する場合、リーンブレーキ操作部67がオートリターン型であることが好ましい。オートリターン型とは、操作力を加えている間だけリーンブレーキ操作部67のレバー位置が待機位置から動作位置に変化し、操作力を解除すると付勢力等が作動して自動的にレバー位置が待機位置に戻る構成である。
【0096】
2つ目の動作態様では、リーンブレーキ操作部67の操作に応じて、リーンブレーキの作動の有無が切り替わる。具体的には、リーンブレーキ操作部67のレバー位置が、第1位置(有効状態)と、第2位置(無効状態)に切替可能に構成されている。そして、リーンブレーキ操作部67のレバー位置が第1位置にある間は、所定の制動力でリーンブレーキが作動する。リーンブレーキ操作部67のレバー位置が第2位置にある間は、リーンブレーキが作動しない。
【0097】
この所定の制動力を事前に設定可能であってもよい。これにより、例えば旋回時にのみリーンブレーキ操作部67を第1位置にすることで、旋回時のリーン角度を抑えることができる。なお、制動力を離散的に多段階に変更可能であってもよい。
【0098】
なお、2つ目の動作態様を実行する場合、リーンブレーキ操作部67は切替式であることが好ましい。切替式とは、運転者の操作力が解除されても直前のレバー位置を維持し続ける構成である。また、リーンブレーキ操作部67が切替式である場合、エンジン5を停止させた状態においてもリーンブレーキが作動し続ける構成であってもよい。これにより、停車時にリーン型車両1がリーンすることを防止できる。
【0099】
3つ目の動作態様では、リーンブレーキ操作部67を操作して自動リーンブレーキ機能を有効にすることで、発生条件を満たした場合に
図1に示す制御装置90がブレーキキャリパ52に作動油又は電気信号を送信することで、リーンブレーキを作動させる。発生条件としては、例えば車速が閾値以下、又は、リーン角度が閾値以上とすることが好ましい。制御装置90は、CPU等の演算装置と、フラッシュメモリ等の記憶装置と、を有しており、演算装置がプログラムを実行することで、制御を行うことができる。制御装置90は、エンジン制御ユニットであってもよいし、別の制御装置であってもよい。
【0100】
次に、
図7から
図9を参照して、第2実施形態のリーン型車両1について説明する。
【0101】
第2実施形態の説明では、主として第1実施形態と相違する構成について説明する。また、第2実施形態の説明では、第1実施形態と同一又は類似の部材には図面に同一の符号を付し、説明を省略又は簡略化する場合がある。
【0102】
第1実施形態のサスペンション10は、3本の筒状サスペンション11,12,13を備える。これに対し、第2実施形態のサスペンション10は、2本の筒状サスペンション11,12を備える。第1筒状サスペンション11と第2筒状サスペンション12は車幅方向に並ぶように位置している。
【0103】
第1実施形態では、ステアリングハンドル7の回転操舵力は第1操舵部23を介してパンタグラフ機構24に伝達される。これに対し、第2実施形態では、ステアリングハンドル7の回転操舵力は、パンタグラフ機構24に直接伝達される。従って、ステアリングハンドル7と同軸で回転する部材にパンタグラフ機構24が取り付けられる。
【0104】
また、第2実施形態では、下連結ベース16が第2操舵部25と交差しておらず、下連結ベース16の真下にリーンベース41が位置している。また、上アーム43及び下アーム44は、リーンベース41よりも後方側に位置している。それに伴い、操舵ロッド26及びリーンブレーキ機構50についても、リーンベース41よりも後方側に位置している。このように、リーン及び操舵に関する部材をリーンベース41の一側(第1実施形態では前側、第2実施形態では後側)にすることで、リーン及び操舵に関する部材を集約して配置できる。
【0105】
また、
図8に示すように、上アーム43及び下アーム44の取付構造についても、第1実施形態とは異なる。第1実施形態では、リーンベース41の上取付部41aと下取付部41cは、前後方向の位置が異なっていた。これに対し、第2実施形態では、上取付部41aと下取付部41cの前後方向の位置は同じである。そのため、上アーム43及び下アーム44は、前後方向の位置が同じである。
【0106】
また、第1実施形態では、リーンベース41には、上突出筒41bと下突出筒41dが形成されていたが、第2実施形態では、この両方の機能を有する中突出筒41eが形成されている。従って、リーンブラケット49は、上支点部43a、中突出筒41e、下支点部44a、及びリーンブレーキ機構50をまとめてリーンベース41に取り付ける。
【0107】
第1実施形態では、リーンブレーキ機構50が下アーム44の近傍に位置しているが、第2実施形態では、リーンブレーキ機構50は上アーム43の近傍に位置している。具体的には、上アーム43には、上支点部43aを左右方向で挟むように2つのディスク取付部44bが形成されている。ブレーキディスク51は、ディスク取付部44bに取り付けられる。ブレーキディスク51は、上アーム43から上方に突出するように取り付けられている。つまり、第1実施形態及び第2実施形態の両方において、リーンブレーキ機構50がリーン機構42から上下方向の外側に突出するように取り付けられているため、リーン機構42とリーンブレーキ機構50の位置が干渉しにくい。
【0108】
また、第1実施形態と第2実施形態では、ロッド取付部25bの形状が異なる。第1実施形態では、下アーム44の近傍にリーンブレーキ機構50が位置しているため、ロッド取付部25bとリーンブレーキ機構50は干渉しない。しかし、第2実施形態では、上アーム43の近傍にリーンブレーキ機構50が位置している。従って、ロッド取付部25bは、リーンブレーキ機構50を迂回する形状である。上アーム43と下アーム44の前後方向の位置が異なり、それで生じた空間に操舵ロッド26が配置されている。一方で、第2実施形態では、上アーム43と下アーム44は前後方向の位置が同じである。そのため、第2操舵部25が、リーンブレーキ機構50を迂回する形状である。具体的には、ロッド取付部25bは、正面視でリーンブレーキ機構50と重なる部分が後方(リーンブレーキ機構50の反対側)に突出する形状である。
【0109】
また、上アーム43は、下アーム44と同様、リーン動作時にリーンベース41に対して相対回転する。そのため、
図9に示すように、リーンブレーキを動作せることができる。なお、第2実施形態のリーンブレーキ機構50は、リーン機構42の背面側に取り付けられているため、
図9は背面図である。
【0110】
以上に説明したように、上記実施形態のリーン型車両1は、車体2と、左前輪31Lと、右前輪31Rと、リーン機構42と、リーンブレーキ機構50と、ステアリングハンドル7と、左グリップ62と、スロットルグリップ63と、リーンブレーキ操作部67と、を備える。左前輪31Lは、車幅方向の第1側(左側)に位置している。右前輪31Rは、車幅方向の第1側の反対側である第2側(右側)に位置している。リーン機構42は、車体2が前後方向を回転中心として傾斜した際に左前輪31L及び右前輪31Rを前後方向を回転中心として傾斜させる。リーンブレーキ機構50は、走行中におけるリーン機構42によるリーン動作を制動する。左グリップ62は、ステアリングハンドル7の車幅方向の第1側に取り付けられている。スロットルグリップ63は、ステアリングハンドル7の車幅方向の第2側に取り付けられており、スロットル操作を行う。リーンブレーキ操作部67は、車幅方向の第1側に位置しており、左グリップ62と一体的に位置が変化し、リーンブレーキ機構50に制動を行わせる操作を行う。
【0111】
これにより、走行中にリーン動作を制動する操作を行うことができる。また、リーンブレーキ操作部67をスロットルグリップ63に対して車幅方向の反対側に配置することで、走行中におけるリーンブレーキ操作部67の操作性を高くすることができる。
【0112】
また、上記実施形態のリーン型車両1において、リーンブレーキ操作部67は、左グリップ62の車幅方向の中央よりも車幅方向の中央側に位置している。
【0113】
これにより、運転者は左グリップ62を握った状態で親指を使って、リーンブレーキ操作部67を操作することができる。
【0114】
また、上記実施形態のリーン型車両1において、リーンブレーキ操作部67は、左グリップ62よりも低い位置にある。
【0115】
これにより、運転者は左グリップ62を握った状態から親指をあまり動かすことなく、リーンブレーキ操作部67を操作することができる。
【0116】
また、上記実施形態のリーン型車両1において、リーンブレーキ操作部67は、少なくとも待機位置と、待機位置よりも前方でありリーンブレーキを作動させるための動作位置と、の間で位置を変更可能である。
【0117】
これにより、運転者は、親指を前方に移動させるという自然な動きで、リーンブレーキ操作部67を操作することができる。
【0118】
また、上記実施形態のリーン型車両1は、左グリップ62の車幅方向の内側に位置しており、複数のスイッチが配置されたハンドルスイッチケース65を備える。リーンブレーキ操作部67は、ハンドルスイッチケース65とは異なる箇所に設けられている。
【0119】
これにより、リーンブレーキ操作部67が他と独立した位置に存在するので、運転者は手元をあまり確認することなくリーンブレーキ操作部67を操作することができる。
【0120】
また、上記実施形態のリーン型車両1において、リーンブレーキ操作部67は、加えられた操作に応じて位置又は姿勢が変化する。リーンブレーキ操作部67の位置又は姿勢に応じて、リーンブレーキ機構50の制動力が変化する。
【0121】
これにより、リーン動作をどの程度制動するかを運転者がコントロールすることができる。
【0122】
また、上記実施形態のリーン型車両1において、リーンブレーキ操作部67は、操作力が与えられている間は位置又は姿勢が変化し、操作力が与えられなくなると元の位置に戻るオートリターン型である。
【0123】
これにより、運転者がリーンブレーキ操作部67に操作力を与えなくなることでリーン動作の制動が解除されるので、リーン動作の制動を簡単な操作で解除することができる。
【0124】
また、上記実施形態のリーン型車両1において、リーンブレーキ操作部67は、加えられた操作に応じて有効状態と無効状態との間で状態が切り替わる。リーンブレーキ操作部67が有効状態である場合はリーンブレーキ機構50はリーン動作を一定の制動力で制動し、リーンブレーキ操作部67が無効状態である場合はリーンブレーキ機構50はリーン動作を制動しない。
【0125】
これにより、リーン動作の制動力の微調整が不要なので、リーンブレーキ操作部67の操作が簡単になる。
【0126】
また、上記実施形態のリーン型車両1において、このリーン型車両1は、リーンブレーキ機構50を制御する制御装置90を備える。制御装置90は、発生条件を満たしたと判定した場合に、リーンブレーキ機構50を作動させてリーン動作を制動する。
【0127】
これにより、リーン動作が不要なタイミングで自動的にリーン動作を制動できる。
【0128】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0129】
上述した第1実施形態と第2実施形態の特徴を適宜組み合わせてもよい。例えば、第2実施形態の筒状サスペンションの本数又はリーン機構42等を第1実施形態に適用することができる。他の特徴についても同様である。
【0130】
上述した様々な機構において、部品の形状、部品のレイアウト、部品の取付構造、動力の伝達構造等は一例であり、異なる構成であってもよい。例えば、左アーム45と操舵力を伝達する部品を共通とせずに、別々の部品とすることができる。
【0131】
上記実施形態では、2つの前輪及び1つの後輪を有するリーン型車両1に本発明を適用する例を説明したが、車輪数はこれに限られず、後輪が2つであってもよい。また、リーン型車両1に乗車可能な人の数も1又は2に限られず、3以上であってもよい。
【符号の説明】
【0132】
1 リーン型車両
2 車体
7 ステアリングハンドル
10 サスペンション
23 第1操舵部
24 パンタグラフ機構
25 第2操舵部
31L 左前輪(第1前輪)
31R 右前輪(第2前輪)
32L 左ホイール
32R 右ホイール
42 リーン機構
50 リーンブレーキ機構