(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-26
(45)【発行日】2023-11-06
(54)【発明の名称】顕微鏡システム及び顕微鏡システムを作動させる方法
(51)【国際特許分類】
G02B 21/00 20060101AFI20231027BHJP
【FI】
G02B21/00
(21)【出願番号】P 2019552099
(86)(22)【出願日】2018-03-29
(86)【国際出願番号】 EP2018058266
(87)【国際公開番号】W WO2018188978
(87)【国際公開日】2018-10-18
【審査請求日】2021-03-18
(31)【優先権主張番号】102017108016.3
(32)【優先日】2017-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】506151659
【氏名又は名称】カール ツァイス マイクロスコピー ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】CARL ZEISS MICROSCOPY GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】110003487
【氏名又は名称】弁理士法人東海特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キューム,アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】プレッサー,ニコ
【審査官】瀬戸 息吹
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-333522(JP,A)
【文献】特開2016-009955(JP,A)
【文献】特開2013-025023(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0370264(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0122242(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 19/00 - 21/36
H04N 7/12 - 7/137
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプルを観察するための少なくとも1つの顕微鏡センサ(20、30)を備える顕微鏡(10)であって、各顕微鏡センサ(20、30)は、サンプル信号を記録するための測定装置(22、32)と、
当該顕微鏡センサ(20、30)の前記測定装置(22、32)によって記録された
前記サンプル信号をデジタルデータに変換するためのアナログ・デジタル変換器(24、34)と、
当該顕微鏡センサ(20、30)の前記アナログ・デジタル変換器(24、34)によって変換された前記デジタルデータを出力するデータ出力インターフェース(29、39)と、を備える、顕微鏡
(10)と、
前記顕微鏡(10)と通信可能に接続されて、前記顕微鏡センサ(20、30)の前記データ出力インターフェース(29、39)を介して出力されたデータを受信し、受信した前記データに基づいてサンプル画像を算出して表示するように構成されている
、ユーザコンピュータ(50)と、
を備える顕微鏡システムであって、
各顕微鏡センサ(20、30)は、
当該顕微鏡センサ(20、30)の前記アナログ・デジタル変換器(24、34)
によって変換された前記デジタルデータを圧縮することで圧縮データストリーム(27、37)を生成するように構成されている圧縮装置(26、36)を備え、
各顕微鏡センサ(20、30)は、
当該顕微鏡センサの前記圧縮装置(26、36)によって生成された前記圧縮データストリーム(27、37)と、
当該圧縮データストリーム(27、37)を生成するのに用いられた未圧縮の
前記デジタルデータ又は
当該圧縮データストリーム(27、37)を生成するのに用いられた前記デジタルデータを少なくとも
前記圧縮データストリーム(27、37)よりも低い圧縮率で圧縮したデジタルデータを含む生データストリーム(28、38)とを、
前記データ出力インターフェース
(29、39)を介して出力するように構成され、
前記ユーザコンピュータ(50)及び前記顕微鏡(10)は、前記圧縮データストリーム(27、37)
を前記ユーザコンピュータに送信可能に接続されており、
データメモリ(70)が存在し、前記生データストリーム(28、38)
を前記データメモリ(70)に送信可能に、前記顕微鏡(10)に接続され、
前記ユーザコンピュータ(50)は、前記圧縮データストリーム(27、37)からリアルタイム画像を算出して表示し、且つ、後続するデータ分析のため、前記データメモリ(70)からの前記生データストリーム(28、38)、又は、前記データメモリから得られる
前記生データストリーム
(28、38)を読み込んで処理することを特徴とする、顕微鏡システム。
【請求項2】
データメモリ(70)が、前記ユーザコンピュータ(50)が間に介在して接続されることなく前記少なくとも1つの顕微鏡センサ(20、30)に接続されることで、前記ユーザコンピュータ(50)は、前記生データストリーム(28、38)を記憶する又は前記データメモリ(70)に送信する必要がないことを特徴とする、請求項1に記載の顕微鏡システム。
【請求項3】
前記ユーザコンピュータ(50)はデータ入力装置を備え、前記データ入力装置を介してユーザは前記リアルタイム画像から選択することができ、
前記ユーザコンピュータ(50)は、前記ユーザによる選択に応じて、前記データメモリ(70)から前記選択に対応する前記生データストリーム(28、38)の一部を読み込み、処理し、出力するように構成されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の顕微鏡システム。
【請求項4】
前記ユーザコンピュータ(50)は、
処理及び表示用の受信した前記圧縮データストリーム(27、37)を揮発性データメモリに記憶し、
受信した前記圧縮データストリーム(27、37)を不揮発性データメモリに記憶せず又は一時的に記憶するのみであるように構成されていることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の顕微鏡システム。
【請求項5】
前記データ圧縮装置(26、36)は、前記アナログ・デジタル変換器の前記デジタルデータを非可逆圧縮することで、前記圧縮データストリーム(27、37)を生成するように構成され、
前記データ出力インターフェース(29、39)で前記生データストリームは損失を有しない又は少なくとも前記圧縮データストリーム(27、37)よりも損失の少ないことを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の顕微鏡システム。
【請求項6】
前記顕微鏡センサ(20、30)は、前記圧縮データストリーム(27、37)のどの情報が前記生データストリーム(28、38)のどの情報に対応するかを指定するために、前記圧縮データストリーム(27、37)及び前記生データストリーム(28、38)にマーカを記憶するように構成され、
前記ユーザコンピュータ(50)は、前記ユーザによる前記選択に応じて、前記ユーザによる前記選択に対応する前記生データストリーム(28、38)の一部を前記マーカを用いて確定するように構成されていることを特徴とする、請求項3に記載の顕微鏡システム。
【請求項7】
前記顕微鏡(10)は、測定装置(22、32)の点で異なる複数の顕微鏡センサ(20、30)を備え、
前記顕微鏡センサ(20、30)の前記データ圧縮装置(26、36)は、前記測定装置(22、32)の種類によって異なることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一つに記載の顕微鏡システム。
【請求項8】
前記顕微鏡センサ(20)のうち1つの前記測定装置(22)は画像記録のために構成され、
前記顕微鏡センサ(20)の前記データ圧縮装置(26)は画像データを圧縮するために構成され、
他の前記顕微鏡センサ(30)のうち1つの前記測定装置(32)はスペクトルデータ記録のために構成され、
前記顕微鏡センサ(30)の前記データ圧縮装置(36)はスペクトルデータを圧縮するために構成されていることを特徴とする、請求項7に記載の顕微鏡システム。
【請求項9】
前記顕微鏡センサ(20、30)の前記データ圧縮装置(26、36)はプログラマブル論理回路、特に、デジタルデータを圧縮するようにプログラムされたFPGA又はASICを備えることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の顕微鏡システム。
【請求項10】
前記顕微鏡センサ(20、30)の少なくとも1つのデータ圧縮装置(26、36)は、前記圧縮データストリーム(27、37)用の記録されたサンプル画像からサンプル画像の一部のみを使用するように構成され、且つ/又は、
前記顕微鏡センサ(20、30)の少なくとも1つのデータ圧縮装置(26、36)は、記録されたサンプル信号のビット深度を低減して前記圧縮データストリームを生成するように構成されていることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の顕微鏡システム。
【請求項11】
各顕微鏡センサ(20、30)は、前記圧縮データストリームおよび前記生データストリームを出力するための別個のケーブル接続を備え、又は、各顕微鏡センサ(20、30)は、前記圧縮データストリーム(27、37)および前記生データストリーム(28、38)を出力するための共通のケーブル接続を備え、
前記圧縮データストリーム(27、37)のみを前記ユーザコンピュータ(50)に送信し、前記生データストリーム(28、38)のみを前記データメモリ(70)に送信する少なくとも1つのデータスプリッタが、前記顕微鏡センサ(20、30)と前記ユーザコンピュータ(50)との間に設けられていることを特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載の顕微鏡システム。
【請求項12】
顕微鏡システムを作動させる方法であって、
顕微鏡(10)の少なくとも1つの顕微鏡センサ(20、30)はサンプルを観察するために使用され、
各顕微鏡センサ(20、30)の測定装置(22、32)は
、サンプル信号を記録し、
各顕微鏡センサ(20、30)のアナログ・デジタル変換器(24、34)は、
当該顕微鏡センサ(20、30)の前記測定装置(22、32)によって記録された
前記サンプル信号をデジタルデータに変換し、
各顕微鏡センサ(20、30)のデータ出力インターフェース(29、39)は
、当該顕微鏡センサ(20、30)の前記アナログ・デジタル変換器(24、34)によって変換された前記デジタルデータをユーザコンピュータ(50)に出力し、
前記ユーザコンピュータ(50)は
、受信した前記
デジタルデータに基づいてサンプル画像を算出して表示し、
各顕微鏡センサ(20、30)のデータ圧縮装置(26、36)は、
当該顕微鏡センサ(20、30)の前記アナログ・デジタル変換器(24、34)
によって変換された前記デジタルデータを圧縮することで圧縮データストリーム(27、37)を生成し、
各
前記圧縮データストリーム(27、37)は、前記データ出力インターフェース(29、39)を介して
前記ユーザコンピュータ(50)に送信され、
各前記圧縮データストリーム(27、37)を生成するのに用いられた未圧縮の
前記デジタルデータ又は
各前記圧縮データストリーム(27、37)を生成するのに用いられた前記デジタルデータを少なくとも
前記圧縮データストリーム(27、37)よりも低い圧縮率で圧縮したデジタルデータを含む各生データストリーム(28、38)は、前記データ出力インターフェース(29、39)を介してデータメモリ(70)に送信され、
前記ユーザコンピュータ(50)は、前記圧縮データストリーム(27、37)からリアルタイム画像を算出して表示し、且つ、後続するデータ分析のため、前記データメモリ(70)からの前記生データストリーム(28、38)、又は、前記データメモリ(70)から得られる
前記生データストリーム
(28、38)を読み込んで処理することを特徴とする、方法。
【請求項13】
前記少なくとも1つの測定装置(22、32)によるサンプル信号の記録が終了し、もはや圧縮データストリーム(28、38)が前記少なくとも1つの顕微鏡センサ(20、30)から前記ユーザコンピュータ(50)に送信されない場合のみ、前記生データストリーム(29、39)又は前記生データストリームの一部が前記データメモリ(70)からユーザコンピュータ(50)に送信されることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は第1態様において、クレーム1の前提部分に記載の顕微鏡システムに関する。
【0002】
本発明は第2態様において、クレーム12の前提部分に記載の顕微鏡システムを作動させる方法に関する。
【0003】
汎用の顕微鏡システムは、サンプルを観察するための少なくとも1つの顕微鏡センサを備えた顕微鏡を備える。顕微鏡は、例えば、光学顕微鏡、電子顕微鏡、走査型フォース顕微鏡、X線顕微鏡、磁気共鳴顕微鏡、又はこれらのうちの組み合わせであってもよい。サンプルは、任意の種類のものでよく、例えば、生体サンプル、電子コンポーネント、液体、又は固体であってもよい。それぞれの場合における汎用の顕微鏡システムの各顕微鏡センサは、サンプル信号を記録するための測定装置、記録されたサンプル信号をデジタルデータに変換するためのアナログ・デジタル変換器、及びデータ出力インターフェースを備える。顕微鏡センサの種類は顕微鏡により異なってもよい。例えば、顕微鏡センサは、光学センサ、カメラ、屈折可能プローブ又はカンチレバー、特定のスペクトル領域における電磁放射線(例えば、X線)用の測定装置、又は磁気センサ(例えば、SQUIDセンサ又はホールセンサ)を備えてもよい。汎用の顕微鏡システムはさらに、顕微鏡から離れた場所に配置可能な、又は、顕微鏡に一体化(組み込み)可能なユーザコンピュータを備えてもよい。ユーザコンピュータは、顕微鏡又は残りの顕微鏡コンポーネントに通信可能に接続され、顕微鏡センサのデータ出力インターフェースを介して出力されたデータを受信する。さらに、ユーザコンピュータは、受信したデータに基づいてサンプル画像を算出して表示するように構成されている。また、ユーザコンピュータは、顕微鏡を制御するためのコマンドをユーザが入力可能な制御コマンド入力装置(例えば、キーボード、ジョイスティック、コンピュータマウス、又はタッチ式スクリーン)を備えてもよい。
【0004】
顕微鏡を作動させる汎用の方法において、対応して、顕微鏡の少なくとも1つの顕微鏡センサはサンプルを観察するために使用される。この場合において、各顕微鏡センサの測定装置はサンプル信号を記録する。各顕微鏡センサのアナログ・デジタル変換器は、記録されたサンプル信号をデジタルデータに変換する。各顕微鏡センサのデータ出力インターフェースはデータをユーザコンピュータに出力する。ユーザコンピュータは、受信したデータに基づいてサンプル画像を算出して表示する。
【0005】
サンプル観察をできる限り正確にするために、顕微鏡センサは、ユーザコンピュータに送信される大量のデータを生成する。データレートは毎秒数ギガビットの範囲であってもよく、生成されるデータ量はさらに増加し、例えば20~30Gbit/sで、顕微鏡センサによって生成されてもよい。ユーザコンピュータは、例えばサンプルのリアルタイム画像を表示するため、受信したデータを極めて速く処理しなければならない。そのため、ユーザコンピュータに関する要求は非常に高く、その結果、技術的な実装と関連するコストに課題が生じる。
【発明の概要】
【0006】
本発明の目的は、サンプル観察をできる限り正確にすることを可能にし、できる限り簡単に且つ効率的に処理で得られたデータ量を扱うことができる、顕微鏡システム及び顕微鏡を作動させる方法を提供することであると考えることができる。
【0007】
この目的は、請求項1の特徴を有する顕微鏡システムによって、及び請求項12の特徴を有する方法によって、達成される。
【0008】
本発明の顕微鏡システム及び本発明の方法の好適な変形例は従属請求項の主題であり、以下の説明においてさらに説明される。
【0009】
上記の種類の顕微鏡システムにおいて、本発明によれば、各顕微鏡センサは、各場合において、アナログ・デジタル変換器のデジタルデータを(特に、非可逆)圧縮することで、圧縮データストリームを生成するように構成された圧縮装置を備える。圧縮は、1つとしては、例えばビデオ圧縮アルゴリズム又はJPEG圧縮の場合での、略同じ情報コンテンツを用いるデータレートの低減を指してもよい。しかし、圧縮は、例えば記録されたカラー画像の単一カラーチャネル、つまり、白黒画像のみが圧縮データストリームのために使用されることにより、圧縮データストリームのために記録されたデータの一部を用いないことを意味すると理解されてもよい。各顕微鏡センサはさらに、各圧縮データストリームと、データ圧縮装置によって圧縮されていない又は少なくとも圧縮データストリームよりも低い圧縮率で圧縮したデジタルデータを含む生データストリームとを、データ出力インターフェースを介して出力するように構成されてもよい。従って、顕微鏡センサは、同一の記録されたサンプルデータから、オンザフライで、つまり、データ記録後同時に且つ直接、異なるデータレートを用いて2つの相互に異なるデータストリームを生成する。両方のデータストリームが、同時に、又は、例えば時分割多重化を用いて交互に出力される。ユーザコンピュータ及び顕微鏡は、圧縮データストリームがユーザコンピュータに送信可能に接続され、生データストリームは、顕微鏡に接続されたデータメモリに送信される。特に、生データストリームではなく、圧縮データストリームのみが、このようにユーザコンピュータに送信される。ユーザコンピュータは、圧縮データストリームからリアルタイム画像をサンプル画像として算出して表示するように構成されている。後続するデータ分析のため、ユーザコンピュータは、データメモリからの生データストリーム、又は、データメモリから得られる生データストリームを読み込んで処理することができる。
【0010】
したがって、上記汎用の方法において、本発明によれば次のように規定される。
・各顕微鏡センサのデータ圧縮装置は、アナログ・デジタル変換器のデジタルデータを圧縮することで、圧縮データストリームを生成する。
・各圧縮データストリームと、未圧縮の又は少なくとも圧縮データストリームよりも低い圧縮率で圧縮したデジタルデータを含む生データストリームとを、データ出力インターフェースを介して出力する。
・圧縮データストリームはユーザコンピュータに送信される。
・生データストリームはデータメモリに送信される。
・ユーザコンピュータは、圧縮データストリームからリアルタイム画像を算出して表示し、後続するデータ分析のため、データメモリからの生データストリーム、又は、データメモリから得られる生データストリームを読み込んで処理する。
【0011】
公知の顕微鏡システムでは、ユーザコンピュータは、生データストリームを受信して、そこからリアルタイム画像を生成しなければならず、また、生データストリームを記憶しなければならない。生データストリームのみからのリアルタイム画像の算出と表示は、ユーザコンピュータに莫大な要求を課す一方、データメモリに対する生データストリームの同時書き込み又は転送は、ユーザコンピュータに関連する負荷をさらにもたらす。先行技術のこのような欠点は本発明により回避又は軽減される。例えば、ユーザコンピュータは、リアルタイム画像を生成するために生データストリームのデータを大量に処理する必要はない。むしろ、ユーザコンピュータは、この目的のため、比較的低減されたデータストリーム、詳細には、上述の圧縮データストリームを受信する。結果として、ユーザコンピュータに課された要求は著しく減少する。さらに、本発明においてユーザコンピュータは、好ましくは、同時に異なるタスクを用いても、もはや負荷はかからない。何故なら、ユーザコンピュータは、生データストリームを記憶するために使用されず、好ましくは、顕微鏡センサからデータメモリへのデータの転送はユーザコンピュータを介して行われない。例えば、生データストリームの高いデータレートを考慮すると、データの転送でさえもユーザコンピュータに大きな負荷をもたらすであろう。それにも関わらず、サンプル観察の品質低減は生じない。なぜなら、より正確な生データ(圧縮データではない)が記録されたサンプルデータの処理及び表示に使用され、これはリアルタイムでは行われないからである。
【0012】
従って、データメモリは、好ましくは、ユーザコンピュータが間に介在して接続されることなく少なくとも1つの顕微鏡センサに接続される。ユーザコンピュータは、このように配置され、生データストリームを記憶する又はデータメモリに送信する必要がない。データメモリは、例えば、1つ又は複数のHDD又はSSDドライブ又は同等のデータメモリと、データの受信、書き込み、及び転送のための関連する計算装置とを備えてもよい。
【0013】
本発明の方法においてユーザコンピュータの負荷軽減に関係することは、顕微鏡センサが記録されたサンプルデータから2つのデータストリームを生成することである。この目的のため、顕微鏡センサは、各顕微鏡センサ用に特別に適応させたハードウェアコンポーネントなしで生データストリームを処理しなければならないであろう高性能のユーザコンピュータと比べて、比較的コスト効率の高い特別設計された電子回路を備えてもよい。
【0014】
顕微鏡センサのアナログ・デジタル変換器とそのデータ圧縮装置は、効率的なデータ送信のため、同じ筐体に、特に、同じ回路基板又は2つの隣接し接続された回路基板に配置されてもよい。しかし、特に、アナログ・デジタル変換器とデータ圧縮装置は、空間的に離れて配置されてもよく、データ圧縮装置が空間的にユーザコンピュータに位置してもよい。しかし、この場合、それにも関わらず、ユーザコンピュータのコンポーネントは、圧縮データストリームを処理するため及び圧縮データストリームからリアルタイム画像を表示するために用いられ、生データストリームを記憶するため及び顕微鏡センサのデータ出力インターフェースからの生データストリームを送受信するためには使用されないように規定される。
【0015】
本明細書の導入部分で論じたとおり、顕微鏡センサは顕微鏡に応じて異なってもよい。各場合において、顕微鏡センサは、例えば、感光性の、又は、他の電磁放射線又は電磁場に反応可能な測定装置を備える。上述の記録されたサンプル信号は、例えば、サンプル画像又は周波数依存強度であってもよい。測定装置によって生成された信号は、初めはアナログ形式で存在し、その後アナログ・デジタル変換器によってデジタル信号に変換される。測定装置の種類に応じて、単一のコンポーネントが、例えばCMOSセンサの場合に可能なように、測定装置とアナログ・デジタル変換器の両方を形成してもよい。概して、アナログ・デジタル変換器は、(信号高さが測定値を示す)アナログ信号から(高低の信号レベルの連続によって測定値がコード化されている)デジタル信号を生成するコンポーネントを意味すると理解されるべきである。ここで、アナログ・デジタル変換器によって出力されたデータは生データストリームと称される。概して、ここで言及されていないさらなるデータ処理ステップが提供されてれもよい。例えば、生データストリームは、データ圧縮装置に送信される前に、又は、データ出力インターフェースで出力される前に、変更されてもよい。データメモリでの生データ処理も、そのような処理済みの生データストリームがデータメモリからユーザコンピュータに送信される前に可能である。関係することは、生データストリームのデータレート及び処理済みの生データストリームのデータレートは、圧縮データストリームのデータレートよりも大きいということのみである。以降の文章で生データストリームに言及する場合、この用語は、圧縮データストリームよりも大きいデータレートを有する処理済みの生データストリームも意味すると理解されてもよい。
【0016】
顕微鏡センサのデータ圧縮装置は、電子コンポーネントによって形成され、場合によっては、入ってくる生データストリームが処理され、データレートの点で縮小されるソフトウェアであってもよい。データ圧縮装置はリアルタイムに作動する。リアルタイムは、高々20秒、好ましくは高々5秒の遅延を意味すると理解されてもよい。遅延は、測定装置を用いたデータ記録の時点からデータ出力、つまり、特に、データ圧縮装置のデータ出力又はリアルタイム画像を表示するためのユーザコンピュータのデータ出力までと規定されてもよい。リアルタイム画像は、1つ又は複数の二次元サンプル画像、三次元サンプル画像、例えば光波長の作用として測定された光強度を示すダイアグラム、又は相関データ、つまり、後の時点でのみ任意に画像データに変換される時間的イベントを意味すると理解されてもよい。
【0017】
各顕微鏡センサのデータ出力インターフェースは、2つのデータストリームが出力される1つ又は複数のケーブル用の接続であってもよい。原則として、2つのデータストリームの無線伝送もデータ出力インターフェースとして考えられる。各顕微鏡センサは、圧縮データストリームと生データストリームを出力するための別個のケーブル接続を備えることが好ましいかもしれない。この場合、2つのケーブル接続が存在する。あるいは、顕微鏡センサは、圧縮データストリームと生データストリームを出力するための共通のケーブル接続を有してもよく、少なくとも1つのデータスプリッタが顕微鏡センサとユーザコンピュータとの間に設けられる。データスプリッタは、「ルーティングインターフェース」と称されてもよく、圧縮データストリームのみをユーザコンピュータに送信する一方、生データストリームのみをデータメモリに記憶する。
【0018】
ユーザコンピュータは、ユーザが記録されたサンプルデータを閲覧し評価することができるコンピュータを意味すると理解されるべきである。顕微鏡の制御もユーザコンピュータを介して可能である。多くの場合、分析中の測定工程に介入し、所望の結果のため特定の顕微鏡変数を適合させる必要がある。ライフデータストリーム、つまり、圧縮データストリームはこの点で非常に役立つ。ユーザコンピュータは、一般的に、1つ又は複数のプロセッサ(CPU)、不揮発性データメモリ、メインメモリ、及び関連するスクリーンを備える。
【0019】
複数の顕微鏡センサが存在する場合、これらは同じ種類であってもよいし、異なる形態であってもよい。顕微鏡センサは、特に、それぞれの測定装置の点で異なる。例えば、ある測定装置は光学顕微鏡用のカメラを備え、別の測定装置は分光計を備えてもよい。特に、光学顕微鏡と電子顕微鏡の組み合わせを構成する顕微鏡では、測定装置及びそれに関連する記録されたサンプルデータの種類も異なる。しかし、効率的なデータ縮小には、特にサンプルデータの種類が関係する。例えば、2D画像はスペクトルデータとは異なる方法で効率的に圧縮されることができる。そのため、顕微鏡センサのデータ圧縮装置は、好ましくは、それぞれの測定装置の種類に応じて異なる。
【0020】
例えば、顕微鏡センサのうち1つの測定装置は画像記録のために構成され、該顕微鏡センサのデータ圧縮装置は画像データを圧縮するために構成されてもよい。他の顕微鏡センサのうち1つの測定装置はスペクトルデータ記録のために構成され、該顕微鏡センサのデータ圧縮装置はスペクトルデータを圧縮するために構成されてもよい。ここで、画像データ圧縮のため及びスペクトルデータ圧縮のために用いられるハードウェアコンポーネント及び/又は圧縮アルゴリズムは異なる。
【0021】
ユーザコンピュータにおける従来の場合のような汎用CPUよりもむしろ圧縮用の特定のハードウェアを用いることで、リアルタイム表示に必要とされるデータを非常に速くより効率的に取得することが可能である。特に、顕微鏡センサのデータ圧縮装置は、プログラマブル論理回路、特に、デジタルデータを圧縮するようにプログラムされたFPGA(フィールドプログラマブルゲートアレイ)又はASIC(特定用途向け集積回路)を備えてもよい。顕微鏡センサの測定装置の種類に応じて、異なる顕微鏡センサが、結果として、異なるようにプログラムされたFPGA又はASICを備えてもよい。
【0022】
データ圧縮の一例において、顕微鏡センサの少なくとも1つのデータ圧縮装置は、圧縮データストリーム用の記録されたサンプル画像からサンプル画像の一部のみを使用するように構成される。例えば、nが1より大きい整数である場合に、n番目毎の画像のみが使用される。例えば、10番目毎の画像のみが圧縮データストリームに使用される。この手順は、主目的ができる限り完璧なデータ圧縮ではなく、安価な装置コストでリアルタイム処理のために十分な画像品質を提供することであるため、非常に効率的が良い。あるいは又はこれに加えて、顕微鏡センサの少なくとも1つのデータ圧縮装置は、A/D変換器によってデジタル化された記録されたサンプル信号のビット深度を低減して圧縮データストリームを生成するように構成されてもよい。例えば、A/D変換器は、32ビット(概してnビット)のビット深さを有するデジタル信号として、記録されたサンプル信号、例えば光強度を出力するように具現化されてもよい。この例におけるデータ圧縮装置は、デジタル信号のビット深さを、例えば32ビットから12ビットに低減する。異なる顕微鏡センサの測定装置が異なる場合、上述のように、あるデータ圧縮装置はビット深さを低減するために構成される一方、別の1つのデータ圧縮装置はn番目毎の画像のみを使用するために構成されてもよい。
【0023】
概して、任意の所望の種類のデータ圧縮が実行されてよいが、データ圧縮装置がアナログ・デジタル変換器のデジタルデータの非可逆圧縮によって圧縮データストリームを生成するように構成されている場合、よりコスト効率が良く、速いかもしれない。特に、一方で、データ出力インターフェースで出力された生データストリームは、非可逆な方法で圧縮されないことが可能である。あるいは、いずれの場合においても、そのデータレートが圧縮データストリームよりも大きいままであるような方法においてのみである。
【0024】
ユーザコンピュータはデータ入力装置を備え、該データ入力装置を介してユーザがリアルタイム画像から選択することができてもよい。さらに、ユーザコンピュータは、ユーザによる選択に応じて、データメモリから該選択に対応する生データストリームの一部を読み込み、処理し、出力するように構成されている。例えば、ユーザは興味のあるデータを選択してもよく、対応するサンプル信号に関して、関連する生データがユーザコンピュータによって読み込まれる。該選択は、例えば、時間的な選択、つまり、開始時点と終了時点の間の記録されたサンプルデータであってもよい。あるいは又はそれに加えて、該選択は、記録されたリアルタイム画像からある画像セクションを表示してもよい。ユーザコンピュータは、ユーザが上述の選択を行った場合に圧縮データストリームの処理及び表示を停止し、全ての利用可能な計算能力を生データストリームの対応する部分の読み込み、処理、及び出力に費やすように規定されてもよい。
【0025】
同様に、少なくとも1つの測定装置によるサンプル信号の記録が終了し、もはや圧縮データストリームが少なくとも1つの顕微鏡センサからユーザコンピュータに送信されない場合のみ、生データストリーム又は生データストリームの一部がデータメモリからユーザコンピュータに送信されるように規定されてもよい。このようにして、ユーザコンピュータに二重の負荷や過負荷が確実に生じない。
【0026】
ユーザコンピュータは、処理及び表示用の受信した圧縮データストリームを揮発性データメモリ(例えば、RAM又はCPU内メモリ)に記憶し、受信した圧縮データストリームを不揮発性データメモリ(例えば、HDD又はSSDメモリ)に記憶せず又は一時的に記憶するのみであるように構成されてもよい。圧縮データストリームはリアルタイム画像を表示するため、場合によっては、ユーザに可能な選択を与えるために用いられるのみであり、永続的なデータ記憶装置は必要ではない。この理由のため、好ましくは、ユーザコンピュータは、例えば、一時的に記憶された圧縮データストリームが特定のデータサイズ又は特定の寿命に達した場合に、圧縮データストリームの過去の部分を自動的に且つ継続的に削除する。
【0027】
特に、ユーザがユーザコンピュータでリアルタイム画像から選択した場合、生データストリームから対応するデータを特定する必要がある。この理由のため、顕微鏡センサは、圧縮データストリームのどの情報が生データストリームのどの情報に対応するかを指定するために、圧縮データストリーム及び生データストリームにマーカを記憶するように構成されるように規定されてもよい。マーカは、記録されたサンプル信号に含まれる又は付加される識別子(ID)であってもよく、生データストリームおよび圧縮データストリームの両方に保持される。例えば、マーカはカウンタ読み出しによって形成されてもよく、これを用いて、記録されたサンプル信号又はサンプル画像が開始時点から番号付けされる。あるいは、マーカはタイムスタンプであってもよく、これを用いて、サンプル信号又は2つのデータストリームが提供される。ここで、ユーザコンピュータは、ユーザによる選択に応じて、該選択に対応する生データストリームの一部をマーカを用いて確定するように構成される。ここで、この選択のみがユーザコンピュータによって処理され表示される。
【0028】
本発明の顕微鏡システムについて記載された任意の特徴は本発明の方法の変形例としても解釈され、逆の場合も同様である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
本発明のさらなる利点及び特徴を、添付の概略図を参照して以下に説明する。
【
図1】本発明の顕微鏡システムの例示的な実施形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1は、本発明の顕微鏡システム100の例示的な実施形態を概略的に示す。顕微鏡システム100は顕微鏡10を備え、顕微鏡10は、例えば、光学顕微鏡(例えば、レーザ走査型顕微鏡、又は、原則として他の任意の顕微鏡)であってもよい。顕微鏡システム100はさらに、顕微鏡10から離れて配置されたユーザコンピュータ50を備える。ユーザコンピュータは、記録されたサンプルデータを顕微鏡10から受信し、画面に表示する。さらに、ユーザコンピュータは、例えば、サンプルの観察又はデータの記録を開始、終了し、又は、顕微鏡のパラメータ、特に照明又はサンプルステージの位置を調整するために、顕微鏡10を制御するように構成されていてもよい。
【0031】
顕微鏡10は、1つ又は複数の顕微鏡センサ20、30を備える。
図1には2つの顕微鏡センサ20、30が図示されているが、他の任意の数を使用することも可能である。顕微鏡センサ20、30はそれぞれ、サンプル信号を記録するための測定装置22、32(例えば、カメラ、干渉計又は分光計、及び/又は光検出器)を備える。顕微鏡センサ20、30はそれぞれ、アナログ・デジタル変換器24、24をさらに備え、アナログ・デジタル変換器24、24は、関連する測定装置の記録されたアナログサンプル信号をデジタルデータに変換する。顕微鏡センサ20、30はそれぞれ、データ出力インターフェース29,39を介してデータを出力する。
【0032】
従来、顕微鏡センサは、記録されたサンプル信号から単一のデータストリームのみを生成し出力するが、本発明によれば、顕微鏡センサ20、30はそれぞれ、記録されたサンプル信号から、つまり、1つの同じデータから、2つの異なるデータストリームを生成し、両方のデータストリームを出力する。2つのデータストリームはデータレートの点で異なる。データレートがより小さいデータストリームは、圧縮データストリーム27、37と称され、データ圧縮装置26、36を用いてA/D変換器24、34のデジタルデータから生成される。データレートがより大きいデータストリームは、生データストリーム28、38と称される。原則として、生データストリームは、A/D変換器24、34の出力データと同一である必要はないが、同様に処理されてもよい。しかし、ここで関係することは、そのデータレートが、圧縮データストリーム27、38の場合よりも大きいことである。
【0033】
顕微鏡センサ20、30はそれぞれ、生データストリーム28、38と圧縮データストリーム27、37をデータ出力インターフェース29、39を介して出力する。
【0034】
圧縮データストリーム27、37はユーザコンピュータ50に送信されて処理され、画面に表示される。対照的に、生データストリーム28、38はユーザコンピュータ50に送信されないが、データメモリ70に送信され、生データストリーム28、38、又は、生データストリーム28、38から生成された、処理済みの生データストリーム28、38が、データメモリ70に記憶される。ユーザコンピュータ50は、圧縮データストリーム27、37のより少量のデータのみ処理する必要があるので、サンプル画像を非常に速く表示することができ、利点がある。さらに、ユーザコンピュータ50は、生データストリーム28、38の記憶又は送信を扱わない。結果として、ユーザコンピュータ50は、サンプル画像をリアルタイム画像として表示することができる。リアルタイム画像は、生データストリーム28、38から得ることができるサンプル画像よりも、画像品質が低い、又は、時間分解能が低い。リアルタイム画像は、ユーザが測定動作を監視することができる、又は、ユーザが興味のあるデータを選択することができる、プレビュー画像としても利用できる。ユーザコンピュータ50がより長く圧縮データストリーム27、37を受信し、処理する場合、生データストリーム28、38をデータメモリ70から読み込み、処理し、後続するデータ分析のために(つまり、もはやリアルタイムではなく、又は、対応するリアルタイム画像の表示よりも後で)出力又は表示することができる。
【0035】
結果として、ユーザコンピュータ50は顕微鏡センサ20、30の生データストリーム28、38の大きさに関わらず、比較的コスト効率の良いセットアップの場合でさえも、リアルタイム画像を表示することができる。データ圧縮装置26、36はデータ圧縮用の特定のハードウェア(例えば、相応にプログラムされたFPGA又はASIC)によって構成されてもよく、この場合、これらのコストを考慮しても、ユーザコンピュータが生データストリームを直接受信し、生データストリームを用いてリアルタイム画像を表示しなければならない場合よりも、装置の観点で設計コストが低く、コスト効率がより高くなる。さらに、説明した実施形態では、ユーザコンピュータがリアルタイム表示だけでなく生データストリームのデータメモリへの送信も行うというような二重の負荷を、ユーザコンピュータに課す必要がなくなる。
【0036】
したがって、本発明により、極めて高いサンプルデータレートを用いることを可能にすると共に、装置の観点でのコストが過度に高くなることなく、サンプルデータのリアルタイム表示を行うことができる顕微鏡システム100を提供でき、利点がある。
【符号の説明】
【0037】
100 顕微鏡システム
10 顕微鏡
20,30 顕微鏡センサ
22,32 測定装置
24,34 アナログ・デジタル変換器
26,36 データ圧縮装置
27,37 圧縮データストリーム
28,38 生データストリーム
29,39 データ出力インターフェース
50 ユーザコンピュータ
70 データメモリ