(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-26
(45)【発行日】2023-11-06
(54)【発明の名称】肝臓脂肪を減らすことにおいて使用するための3-ヒドロキシ酪酸化合物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/19 20060101AFI20231027BHJP
A61K 31/22 20060101ALI20231027BHJP
A61K 31/765 20060101ALI20231027BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20231027BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20231027BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20231027BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20231027BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20231027BHJP
C07C 59/01 20060101ALI20231027BHJP
C07C 69/675 20060101ALI20231027BHJP
A23L 2/52 20060101ALN20231027BHJP
【FI】
A61K31/19
A61K31/22
A61K31/765
A61P1/16
A61P3/04
A61P3/10
A61P3/06
A23L33/10
C07C59/01
C07C69/675
A23L2/00 F
A23L2/52
(21)【出願番号】P 2019572783
(86)(22)【出願日】2018-06-22
(86)【国際出願番号】 GB2018051752
(87)【国際公開番号】W WO2019002828
(87)【国際公開日】2019-01-03
【審査請求日】2021-06-18
(32)【優先日】2017-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】519462942
【氏名又は名称】ティーデルタス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】クラーク,キーラン
【審査官】平井 裕彰
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/123229(WO,A1)
【文献】特表2012-500264(JP,A)
【文献】特表2004-507572(JP,A)
【文献】国際公開第2004/108740(WO,A1)
【文献】特表2001-515510(JP,A)
【文献】国際公開第2011/078204(WO,A1)
【文献】特表2001-527101(JP,A)
【文献】JACOBS, R. L. et al,Creatine Supplementation may prevent NAFLD by stimulating fatty acid oxidation,The FASEB Journal,2013年,Vol.27, Issue S1,p.222.2
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00~33/44
A61P 1/00~43/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
肝臓脂肪を減らすことによって脂肪肝障害を予防又は治療することにおいて使用するための医薬組成物であって
、有効成分として、
(i)(R)-3-ヒドロキシ酪酸、及び
(ii)(R)-3-ヒドロキシ酪酸のエステル、
又は、その薬学的に許容される塩若しくは溶媒和化合物、
から選択される化合物を含有する医薬組成物。
【請求項2】
前記(R)-3ヒドロキシ酪酸のエステルは、一般式I
【化1】
の化合物であり、式中、
- R
1は、C
1~C
6のアルキル基であり、前記アルキル基は、5までの-OR
2置換基を有し、R
2は、水素若しくはC
1~C
6のアルキルを表しているか、又は、-OR
2は、(R)-3-ヒドロキシ酪酸部分を表している、又は、
- R
1は、アルコールHOR
1から得られる部分であり、前記アルコールは糖である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
R
1は、1、2又は3の-OR
2置換基で置換されたC
1~C
6のアルキル基である、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
R
2はHである、請求項2又は3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
R
1が式-CH
2-CH(OH)-CH
2(OH)又は-CH
2-CH
2-CH(OH)-CH
3を有する場合の請求項2乃至4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
R
1はアルコールHOR
1から得られる部分であり、前記アルコールは、アルトロース、アラビノース、デキストロース、エリトロース、フルクトース、ガラクトース、グルコース、グロース、イドース、ラクトース、リキソース、マンノース、リボース、リブロース、スクロース、タロース、トレオース、及びキシロースから選択される糖である、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項7】
式
【化2】
の(R)-3-ヒドロキシ酪酸(R)-1,3-ブタンジオールモノエステルである、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
脂肪肝を患う対象を治療することにおいて使用するためのものである、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記対象は、
1H磁気共鳴分光法(MRS)を使用して測定された5重量%を超える肝臓脂肪を有する、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記医薬組成物は、少なくとも1日1回対象に投与され、肝臓内の脂肪のレベルは、第1の処置の5日後に、前記第1の処置の前の肝臓内の脂肪のレベルと比較して、前記肝臓の少なくとも1重量パーセントポイント分、好ましくは少なくとも3重量パーセントポイント分、望ましくは前記肝臓の少なくとも5重量パーセントポイント分減らされる、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記障害は脂肪肝疾患であり、好ましくは、前記障害は、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、アルコール性脂肪性肝炎(ASH)、又は非アルコール性脂肪肝(NAFL)である、請求項1乃至10のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
過体重である(25から30未満の範囲のBMIを有する)対象、肥満である(30から40未満の範囲のBMIを有する)対象、又は重度の肥満である(40以上のBMIを有する)対象を治療することにおいて使用するための、請求項1乃至11のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
対象は、糖尿病性又は前糖尿病性である、請求項1乃至12のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
健康な対象の肝臓内の脂肪のレベルを低下させることにおいて使用するための、請求項1乃至10のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
対象に投与される投与量は、1日あたり100mg/kgを超え、好ましくは1日あたり300mg/kgを超える、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項16】
請求項1乃至15のいずれか一項に記載の医薬組成物、及び、1つ又は複数の薬学的に許容される賦形剤を含む、肝臓脂肪を減らすことによって脂肪肝障害を予防又は治療することにおいて使用するための医薬組成物。
【請求項17】
請求項1乃至15のいずれか一項に記載の医薬組成物を含み、任意的に、水と、香料、タンパク質、炭水化物、糖、脂肪、繊維、ビタミン、及びミネラルのうち1つ又は複数とをさらに含む、肝臓脂肪を減らすことによって脂肪肝障害を予防又は治療することにおいて使用するための栄養組成物。
【請求項18】
中鎖脂肪酸トリグリセリドをさらに含み、好ましくは、前記中鎖脂肪酸トリグリセリドは、式CH
2R
a-CH
2R
b-CH
2R
cを有し、式中、R
a、R
b、及びR
cは、5から12の炭素原子を有する脂肪酸である、請求項17に記載の栄養組成物。
【請求項19】
好ましくは請求項8乃至15のいずれか一項に記載の対象の肝臓脂肪を減らすことによって脂肪肝障害を予防又は治療することにおいて使用するための薬物の製造における、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の医薬組成物、又は、請求項16乃至18のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象の肝臓脂肪を減少させることにおいて使用するための化合物、及び、例えば、脂肪症及び肝疾患等、脂肪肝に関連する状態の治療に関する。本発明は、脂肪肝に関連する疾患にかかるリスクを回避する又は減らすための対象の予防的処置にも関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪肝又は脂肪症は、肝臓における脂肪の蓄積を表す用語である。対象は、脂肪が肝臓の少なくとも5重量%を占める場合に脂肪肝を有する。
【0003】
対象の脂肪肝は、多くの異なる病因から生じ得る。肝臓脂肪は、加齢、高い肥満度指数(BMI)、血圧の上昇、及び2型糖尿病に関連している。肝臓脂肪の増加は、例えばアルコール又は脂肪分の多い食べ物の過剰摂取のために、特に先進国及びカロリー摂取量が多い環境においてますます一般的になってきている。肝臓における脂肪の堆積によって肝腫大が引き起こされ、線維症によって瘢痕組織の形成が結果として生じる可能性があり、これによって、肝臓の硬化、機能の低下、最終的には機能不全に至る。従って、肝臓脂肪の増加は、公衆衛生に対して大きな懸念事項を示している。
【0004】
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は、肝臓における過剰な脂肪の蓄積から生じる慢性肝疾患であり、過剰なアルコール消費を伴わずに肝臓に脂肪が蓄積することから始まる進行性の肝疾患であり、メタボリックシンドローム(肥満、インスリン抵抗性、及び脂質異常症)に強く関連している。NAFLDは、単純な脂肪症から非アルコール性脂肪性肝炎、肝硬変、及び肝癌に及ぶ、病理学的状態の範囲を包含する。この疾患は蔓延しており、西洋諸国では慢性肝疾患の最も一般的な原因である。西洋諸国の一般集団における成人の約20から30%は、非アルコール性脂肪性肝疾患を有しており、その有病率は肥満であるか又は糖尿病を有する人々の間で70から90%まで増加している。NAFLDは、小児集団にも影響を及ぼしている。肥満との密接な関連性から、この状態は米国の小児において最も一般的な肝疾患となってきている。
【0005】
NAFLDは、心血管疾患由来の罹患率及び死亡率の増加に関連しているということが把握されている。実際、心血管疾患が、進行したNAFLDを有する患者の死の主な原因であること、及び、この心血管疾患のリスクの増加は、肥満に関連したメタボリックシンドロームの従来のリスク因子及び構成要素によってもたらされるリスクとは無関係であることを示す証拠が増えている。NAFLDは心血管疾患の発病に関与し得るという可能性がある。
【0006】
脂肪肝は、通常、異常な肝機能検査の結果を有するか又は肝肥大を有する患者において疑われる。脂肪肝は、肝臓の針生検を使用して診断することができる。しかし、この手技は有痛性であり、合併症のリスクを伴うため、肝線維症の評価のための非侵襲的方法が過去10年間に開発されている。大まかに、非侵襲的技術は、線維症の直接的及び間接的な血清マーカーに基づくものと、画像診断又は電位記録に基づくものとに分けることができる。磁気共鳴技術は、肝臓評価のための魅力的な非侵襲的選択肢を提供することができる。
【0007】
肝臓脂肪の増加は、過体重ではなく、肝疾患のいかなる徴候も外見上は示さない対象においても認められ得る。公衆衛生は、健康であるか否か、又は、肝臓脂肪の増加に関連した疾患を有しているか否か、又は、痩せている若しくは過体重であるか否かにかかわらず、肝臓脂肪が増加している対象において正常レベルにまで肝臓脂肪を減らすことによって改善することができる。
【0008】
現在、NAFLDの治療に対する有効な承認された治療法はない。典型的には、対象には、体重を減らすこと、運動を行うこと、アルコール摂取を減らすこと又は回避すること、及びバランスのとれた健康的な食事を確実にすることがアドバイスされる。糖尿病に対するインスリン抵抗性改善薬等、メタボリックシンドロームの個々の構成要素に対して治療が推奨され得る。減量は、対象が過体重又は肥満である場合、肝機能検査の結果を改善する可能性があるが、一般的に、適切な運動及び食事管理を維持することを対象に要求し、これは、多くの理由から困難であることがわかる。
【0009】
従って、対象において、特に脂肪肝を患う対象において肝臓脂肪を減らすための新しい有効な治療が必要である。
【0010】
「ケトン体」という用語は、3つの化合物、すなわち、D-β-ヒドロキシ酪酸、アセト酢酸、及びアセトンを包含するということが一般的に理解される。D-β-ヒドロキシ酪酸は、別の言い方では、(R)-3-ヒドロキシ酪酸として知られており、以下においては後者の用語が使用される。ケトン体は、食物摂取量が少ない期間に脂肪酸から肝臓によって産生される。
【0011】
ケトン体及びケトン体エステルは、血清コレステロール及び/又はトリグリセリドのレベルを低下させることが示されてきた。例えば、特許文献1は、投与後に血漿β-ヒドロキシ酪酸濃度を2倍にするケトン食を開示している。総血清コレステロール、並びに、HDL及びLDLのレベルは、このケトン食が与えられたラットにおいて有意に低かった。
【0012】
脂肪肝の治療の難しさを考慮に入れると、上述したように、血清中の脂肪レベルを低下させるのに有効な化合物が、肝臓においても同じ効果を有するとは予想しなかったであろう。
【0013】
非特許文献1において、コレステロール恒常性に対するケトンの効果が研究された。R-3-ヒドロキシブチルR-3-ヒドロキシ酪酸エステルをラットに与えたところ、対照と比較して、肝臓におけるメバロン酸前駆体であるアセトアセチルCoA及びHMG-CoAのレベルの低下を示した。肝臓のラノステロール及び脂肪酸合成前駆体であるマロニルCoAのレベルも低かった。しかし、この参照文献は、肝臓における脂肪のレベルに対するいかなる効果を開示も示唆もしていない。
【0014】
特許文献2は、血中グルコースレベルの低下を含む様々な代謝バイオマーカーを改善するための、健康な対象におけるβ-ヒドロキシ酪酸鉱物塩の使用を開示している。この文献は、特に、ケトンにより食品栄養補充した後の4週間にわたるラットの体重増加の量を調査している。ケトン補充の効果は、対照動物と比較して全体的な体重増加を減少させるということが分かった。特許文献2のデータは、ケトン補充で処置されたラットの肝臓の重量が、全体的な体重の増加に比例して増加したということを示している。特許文献2は、ケトン補充が、例えば脂肪症を患う患者において蓄積した肝臓脂肪を選択的に標的とすることにおいて有効性を有し得るということを示唆していない。
【0015】
ケトン体及びケトン体エステルはまた、筋肉障害又は疲労の治療及び放射線被曝からの保護等、様々な他の用途を有するということも示されてきた。これらの化合物の一部は、肝臓においても試験されてきた。例えば、一部の研究が、D-β-ヒドロキシ酪酸を、脂質過酸化により誘発される肝損傷を防ぐために使用することができるということを示唆してきた(非特許文献2)。しかし、これらの化合物が肝臓脂肪レベルを低下させることは示されていない。
【0016】
特許文献3は、筋パワー出力を維持又は改善するためのケトン体及びケトン体エステルに関する。実施例5は、特定のエステルであるR-3-ヒドロキシ酪酸-R-1,3-ブタンジオールモノエステルを使用し、これは、血中R-3-ヒドロキシ酪酸濃度を、他のケトンでは以前に報告されていないレベルまで上げると示されている。肝臓脂肪の減少は開示されていない。
【0017】
特許文献4は、オリゴマーケトジェニック化合物の形成方法に関する。この文献は、段落[0029]において、この化合物を使用して、種々の神経学的及び精神医学的障害を治療することができるということを開示している。ここでも、肝臓脂肪の減少は開示されていない。
【0018】
現在、驚くべきことに、対象が肝臓脂肪の増加に関連する疾患を有するか否かに関係なく、肝臓脂肪は対象において減らすことができるということが分かっている。本発明の化合物は、肝臓脂肪の増加に関連する疾患を患う対象だけでなく、健康な対象を治療するために利用されてもよい。本発明の化合物の投与は、脂肪肝に関連する疾患にかかる対象のリスクを低下させることにおいて予防効果も提供し得る。本発明の化合物は、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、アルコール性脂肪性肝炎(ASH)及び非アルコール性脂肪肝(NAFL)を含む脂肪肝疾患、肝硬変、並びに肝細胞癌に対する効果的な治療を提供する。先に詳述したように、これまでのところ、これらの状態を臨床において制御することは非常に困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【文献】WO2009/089144
【文献】WO2014/153416
【文献】US2015/164855
【文献】US2007/208081
【文献】WO2004/108740
【文献】WO2014/140308
【非特許文献】
【0020】
【文献】Kemper et al, Lipids (2015) 50:1185-1193
【文献】Mol Endocrinol, August 2015, 29(8):1134-1143
【文献】“Metabolic Regulation:A Human Perspective”by K N Frayn
【文献】Pavlides M et al, J Hepatol 2016; 64: 308-315
【文献】Thomas EL et al,Gut 2005; 54: 122-127
【文献】Handbook of Pharmaceutical Excipients, 2nd Edition, (1994), Edited by A Wade and PJ Weller
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
従って、本発明は、公衆衛生に対して重要な利点を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0022】
従って、本発明は、第1の態様において、対象の肝臓脂肪を減らすことにおいて使用するための化合物を提供し、当該化合物は:
(i)(R)-3-ヒドロキシ酪酸;
(ii)(R)-3-ヒドロキシ酪酸のエステル;及び
(iii)(R)-3-ヒドロキシ酪酸部分を重合することによって入手可能なオリゴマー;
又は、その薬学的に許容される塩若しくは溶媒和化合物、
から選択される。
【0023】
本発明の第2の態様において、本発明の第1の態様において記載された化合物、及び、1つ又は複数の薬学的に許容される賦形剤を含む、肝臓脂肪を減らすことにおいて使用するための医薬組成物も提供される。
【0024】
本発明の第3の態様では、本発明の第1の態様において記載された化合物を含み、任意的に、水と、香料、タンパク質、炭水化物、糖、脂肪、繊維、ビタミン、及びミネラルのうち1つ又は複数とをさらに含む、肝臓脂肪を減らすことにおいて使用するための栄養組成物が提供される。
【0025】
本発明の第4の態様では、対象の肝臓脂肪を減らすことにおいて使用するための薬物の製造における、本発明の第1の態様において記載された化合物又は本発明の第2若しくは第3の態様による組成物の使用が提供される。
【0026】
本発明の第5の態様では、本発明の第1の態様において記載された化合物又は本発明の第2若しくは第3の態様による組成物を対象に投与するステップを含む、対象の肝臓脂肪を減らす方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】393mg/kg体重の(R)-3-ヒドロキシ酪酸-(R)-1,3-ブタンジオールモノエステル(ΔG(登録商標))を1日3回、5日間飲んだ後の7名の痩せた対象(左)と3名の肥満対象(右)の同じ体重減少を示した図である。
【
図2a】393mg/kg体重の(R)-3-ヒドロキシ酪酸-(R)-1,3-ブタンジオールモノエステル(ΔG(登録商標))を1日3回、5日間飲んだ後の7名の痩せた対象の肝臓脂肪の減少はなかったことと、3名の肥満対象の肝臓脂肪は減少したこととを比較した図(上のパネル)である。
【
図2b】正常肝及び脂肪肝の組織像を、それぞれのダイアグラムと共に示した図である。
【
図3a】正常肝の
1H磁気共鳴スペクトルを示した図(下のパネル)であり、肝臓脂肪の定量化のためのスペクトルのフィッティングを示した図(上の3つのパネル)である。
【
図3b】脂肪肝の
1H磁気共鳴スペクトルを示した図(下のパネル)であり、肝臓脂肪の定量化のためのスペクトルのフィッティングを示した図(上の3つのパネル)である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の化合物は、対象の体内に(R)-3-ヒドロキシ酪酸の供給源を提供する。従って、化合物は、(R)-3-ヒドロキシ酪酸自体、又は、体内で分解されて(R)-3-ヒドロキシ酪酸を形成することができる、(R)-3-ヒドロキシ酪酸に対する前駆体、例えば、そのエステル又はオリゴマー等であってもよい。
【0029】
(R)-3-ヒドロキシ酪酸はケトン体であり、非特許文献3において定義されている。
【0030】
特許文献5は、ケトン体のレベルの上昇を達成するために、対象にケトン体を直接投与することができるということを開示している。しかし、直接投与は、特定の状況下では、困難且つ危険である恐れがあり、従って、エステルの使用が好ましい代替案として提案されてきた。ケトンエステルの製造は、例えば、(R)-3-ヒドロキシブチル(R)-3-ヒドロキシ酪酸を生成するプロセスを記載する特許文献6において開示されている。
【0031】
(R)-3-ヒドロキシ酪酸のエステルは、エチル-(R)-3-ヒドロキシ酪酸のアルコールとのエステル交換反応を介して生成することができる。この反応は、酵素触媒によるものであってもよい。例えば、(R)-3-ヒドロキシ酪酸及び(R)-1,3-ブタンジオールのエチルエステルを、穏和な減圧のもと、固定化リパーゼの存在下で共に反応させて、結果として生じるエタノール副生成物を除去することができる。
【0032】
本発明の好ましい実施形態では、(R)-3ヒドロキシ酪酸のエステルは、一般式I:
【0033】
【化1】
の化合物であり、式中、
- R
1は、C
1~C
6のアルキル基であり、このアルキル基は、5までの-OR
2置換基を有し、
- R
2は、水素若しくはC
1~C
6のアルキルを表しているか、又は、-OR
2は、(R)-3-ヒドロキシ酪酸部分を表している、又は、
- R
1は、アルコールHOR
1から得られる部分であり、このアルコールは糖である。
【0034】
典型的には、ゼロ、1、又は2の-OR2基は、(R)-3-ヒドロキシ酪酸部分を表す。好ましくは、ゼロ又は1の-OR2基のみが、(R)-3-ヒドロキシ酪酸部分を表す。
【0035】
本発明の好ましい化合物はエステルであり、特に上記の式Iにおいて概要を述べたものである。R1部分は、対応するアルコールHO-R1から得られる。アルコールHO-R1は、例えば、モノアルコール、ジオール、ポリオール、又は糖であってもよい。
【0036】
好ましくは、式Iにおいて、R1は、0、1、2、3、4、又は5の-OR2置換基で置換されたC1~C6のアルキル基である。最も好ましくは、R1は、1、2、又は3の-OR2置換基、典型的には1又は2の-OR2置換基で置換されたC1~C6のアルキル基である。
【0037】
好ましくは、R2はHである。
【0038】
好ましくは、R1は、式-CH2-CH(OH)-CH2(OH)又は-CH2-CH2-CH(OH)-CH3を有する。これらの場合、R1は、それぞれブタンジオール及びグリセロールに対応するアルコールHO-R1から得られる部分である。ブタンジオールは、ラセミの1,3ブタンジオールであってもよい。最も好ましくは、アルコールHO-R1は、R-1,3ブタンジオールに対応する。この場合、基R1は、式:
【0039】
【0040】
好ましくは、本発明の化合物はモノエステルであり、すなわち、アルコールHO-R1が2つ以上のペンダントヒドロキシルを含む場合には、これらのうちの1つのみが反応してヒドロキシ酪酸部分を形成する。部分エステルは、アルコールHO-R1が2つ以上のペンダントヒドロキシルを含み、これらのうち全てが反応してヒドロキシ酪酸部分を形成したわけではない化合物である。
【0041】
本発明の特に好ましい化合物は、式:
【0042】
【化3】
の(R)-3-ヒドロキシ酪酸(R)-1,3-ブタンジオールモノエステルであり、別名(R)-3-ヒドロキシブチル-(R)-3-ヒドロキシ酪酸として知られている。
【0043】
本発明のさらなる好ましい化合物は、(R)-3-ヒドロキシ酪酸-グリセロール部分エステル、すなわち(R)-3-ヒドロキシ酪酸-グリセロールモノエステル又はジエステルである。
【0044】
本発明の異なる実施形態では、R1はアルコールHOR1から得られ、このアルコールは糖である。糖は、アルトロース、アラビノース、デキストロース、エリトロース、フルクトース、ガラクトース、グルコース、グロース、イドース、ラクトース、リキソース、マンノース、リボース、リブロース、スクロース、タロース、トレオース、及びキシロースから選択されてもよい。
【0045】
R1が、ポリオールであるアルコールHOR1から得られる場合、ポリオールは、グリセロール、リビトール、及びキシリトールから選択されてもよい。
【0046】
本発明の代替的な実施形態では、本発明の化合物は、式II:
【0047】
【化4】
の化合物であり、式中、
- R
1は、本発明の第1の態様において先に記載されたものであり、さらに、
- nは、2から100の整数である。
【0048】
好ましくは、nは、2から50であり、例えば、2から20、2から10、又は2から5である。オリゴマーは、例えば、2、3、4、又は5の反復単位(n=2、3、4、又は5)のみを含んでもよい。オリゴマーは、実際は直鎖状又は環状であってもよい。
【0049】
本発明の好ましい実施形態では、R1は、式-CH2-CH(OH)-CH2(OH)又は-CH2-CH2-CH(OH)-CH3を有し、すなわち、エステルを形成するために使用されるアルコールは、グリセロール又は1,3ブタンジオールである。ブタンジオールは、ラセミの1,3ブタンジオール又は(R)-1,3ブタンジオールであってもよい。好ましくは、(R)-1,3ブタンジオールである。
【0050】
本発明の化合物が、上記の式において描かれているものに加えてキラル中心を有する場合、化合物は、ラセミ体又は純粋なエナンチオマー形態として存在し得る。
【0051】
本発明の化合物は、生理学的に適合性のある塩として存在してもよい。例えば、そのナトリウム、カリウム、カルシウム、又はマグネシウムの塩が利用されてもよい。
【0052】
本発明者等は、(R)-3-ヒドロキシ酪酸-(R)-1,3-ブタンジオールモノエステル及び(R)-3-ヒドロキシ酪酸-グリセロール部分エステルが、血中の(R)-3-ヒドロキシ酪酸の高い循環レベルを提供し、肝臓脂肪を減少させるということを見出した。さらに、これらのエステルは、驚くほど高いレベルの腸における取り込みを提供し、その結果、(R)-3-ヒドロキシ酪酸の高い血中濃度が飲料の消費時に達成されることを可能にする。
【0053】
従って、好ましい実施形態において、本発明は、対象の肝臓脂肪を減少させることにおいて使用するためのヒドロキシ酪酸エステル又は部分エステル、例えば(R)-3-ヒドロキシ酪酸ブタン-1,3-ジオールモノエステル及び(R)-3-ヒドロキシ酪酸グリセロール部分エステル等を提供する。
【0054】
特に有利なのは、(R)-3-ヒドロキシブチル-(R)-3-ヒドロキシ酪酸であり、これは、ラセミのケトンよりも少量の物質の経口摂取で、血中(R)-3-ヒドロキシ酪酸の大幅な増加が達成されるのを可能にするためである。物質を摂取する対象は、(例えば、大量の液体の摂取、又は、苦い/さもなければ嫌悪的なフレーバーによる)身体的不快感のリスクなしに、生理学的に有益な反応を提供するために、十分なケトンをより容易に摂取することができる。(R)-3-ヒドロキシブチル-(R)-3-ヒドロキシ酪酸はまた、ケトン塩よりも長い期間、(R)-3-ヒドロキシ酪酸濃度を上昇させる。従って、より少ない投薬の回数が、(R)-3-ヒドロキシ酪酸レベルの上昇を維持するのに必要とされる。これは、投与計画に対する対象の服薬遵守も容易にする。
【0055】
対象への本発明の化合物の投与は、対象における肝臓脂肪のレベルを下げることができる。有利には、これは、疾患関連の肝臓脂肪の増加が発生する、又は、肝臓脂肪の増加に関連する疾患にかかりやすくなる対象のリスクを減らす。
【0056】
肝臓脂肪とは、肝臓細胞(肝細胞)内に貯蔵される脂質を意味する。これに関連して、「脂質」という用語は、トリ-、ジ-、モノグリセリドを含む脂肪酸及びその誘導体、並びに、リン脂質を含む。本発明における肝臓脂肪という用語は、ラノステロール及びメバロン酸、並びに、メバロン酸前駆体のアセトアセチルCoA及びHMG-CoA等、コレステロール又はコレステロール生合成の前駆体を包含しない。肝臓脂肪という用語は、マロニルCoA等の脂肪酸合成前駆体も包含しない。好ましくは、肝臓脂肪という用語は、トリ、ジ、又はモノグリセリドのみを指し、最も典型的には、トリグリセリドのみを指す。
【0057】
本発明の化合物は、標的とされた肝臓における脂肪の減少、特に、標的とされた肝臓における蓄積された脂肪の減少に特に有用である。従って、本発明における肝臓脂肪の減少は、意図された治療の結果であり、単に、一般的に、例えば、肥満の治療における体脂肪の減少の避けられない結果ではない。この標的とされた治療では、肝臓内の脂肪の量は、体内全般の脂肪のレベルの減少よりも大きな割合が減少する可能性がある。
【0058】
本発明の化合物は、脂肪肝を患っている対象における治療に特に有用である。肝臓内の脂肪のレベルは、非特許文献4及び非特許文献5に記載されている方法を使用して肝臓脂肪の割合を決定するために、プロトン磁気共鳴分光法(1H MRS)を使用して測定することができる。この方法を使用して、脂肪の正常値は約2%であってもよく、増加した又は高い肝臓脂肪は5%を超えてもよく、場合によってはおそらく20から30%ほど高くあってもよい。本発明において、「脂肪肝」とは、5重量%を超える脂肪含有量を有する肝臓を意味する。
【0059】
従って、本発明は、肝臓脂肪のレベルを下げるために、少なくとも5重量%の脂肪含有量を有する肝臓を有する対象において使用するための先に記載された化合物を提供する。
【0060】
対象は、その生理機能に応じて異なるレベルの肝臓脂肪を有することになる。例えば、異なる対象が健康であると考えられ得るが、異なる体格により、有意に異なるBMI及び異なるレベルの肝臓脂肪を有し得る。本発明は、それぞれのケースにおける肝臓脂肪の減少において利点を提供する。
【0061】
好適には、5から10重量%の肝臓脂肪を有する対象に対しては、化合物は、脂肪のレベルが少なくとも2パーセントポイント分だけ減らされるような、すなわち、3から8%以下の範囲の肝臓脂肪の最終レベルを与えるようなレベル及びレジメにて与えられる。対象が10から15%の肝臓脂肪レベルを有する場合、脂肪のレベルは少なくとも5パーセントポイント分だけ減らされ、すなわち、5から10%以下の範囲の肝臓脂肪の最終レベルを与える。対象が15%を超える肝臓脂肪レベルを有する場合、脂肪のレベルは少なくとも5パーセントポイント分だけ減らされる。全てのパーセンテージは、肝臓の重量に対して与えられている。
【0062】
さらなる態様において、本発明は、肝臓脂肪を減らすために対象を治療することにおいて、本発明の第1の態様において記載される化合物、好ましくはエステル、又は本発明による組成物を提供し、上記の治療は、5日間、本発明による化合物又は組成物を対象に投与することを含み、肝臓内の脂肪のレベルは、少なくとも1パーセントポイント分だけ、好ましくは少なくとも3パーセントポイント分だけ、及び、望ましくは少なくとも5パーセントポイント分だけ減らされる。例えば、肝臓内の脂肪のレベルが15重量%で始まる場合、治療後の肝臓内の脂肪のレベルは14重量%未満、好ましくは12重量%未満、及び、望ましくは10重量%未満である。
【0063】
典型的には、対象は過体重であり、及び/又は、脂肪肝を患っている。
【0064】
好適には、本発明の化合物、好ましくは(R)-3-ヒドロキシ酪酸-(R)-1,3-ブタンジオールモノエステルは、1日あたり少なくとも100mg/kg体重のレベルのケトンで摂取される。望ましくは、ケトン体又はケトン体エステルは、少なくとも0.1mM、好ましくは少なくとも0.2mM、より好ましくは少なくとも1mM、及び、最適には少なくとも2mMの血漿ケトンレベルを提供するのに十分なレベルで摂取される。好適には、ケトン体又はケトン体エステルは、血漿ケトンレベルが20mMを超えず、好適には10mM又は8mMを超えず、5mMを超えなくてもよいようなレベルで摂取される。
【0065】
ケトンの血漿レベルは個人の体重次第であり、少なくとも300mg/kg体重の(R)-3-ヒドロキシ酪酸-(R)-1,3-ブタンジオールモノエステルの経口投与によって、約1.5mMの(R)-3-ヒドロキシ酪酸の血漿濃度が提供され、さらに、500mg/kgの投与によって、少なくとも3mM (R)-3-ヒドロキシ酪酸が提供されるということがわかった。対象の体重1kgあたり1gの用量で、血中(R)-3-ヒドロキシ酪酸濃度は、好適には、少なくとも4mM、好ましくは5mMである。対象の体重1kgあたり1.5gのモノエステルの経口投与によって、血中(R)-3-ヒドロキシ酪酸濃度は、好適には、少なくとも7mM、好ましくは少なくとも8mM、特に少なくとも9mMである。投与計画は、複数の飲料が別々に消費されることを含む。
【0066】
(R)-3-ヒドロキシ酪酸の血中レベルは、市販の検査キットによって決定されてもよく、例えば、(R)-3-ヒドロキシ酪酸は、ハンドヘルドモニター及び試薬ストリップ(Precision Xtra, Abbott Diabetes Care, UK)を使用して全血で測定することができる。
【0067】
本発明の化合物は、痩せ、過体重、肥満、又は重度の肥満であろうとなかろうと、脂肪肝を有する対象、すなわち、それぞれ25を下回る、25から29.9のBMI、30から39のBMI、及び40以上のBMIを有する対象を治療して、肝臓脂肪を減少させるのに適している。当該化合物は、糖尿病又は糖尿病前症を有する対象を治療して肝臓脂肪を減少させるのに適している。
【0068】
本発明の化合物は、肝臓脂肪のレベルを下げるように健康な対象を治療するために、又は、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、アルコール性脂肪性肝炎(ASH)、及び/又は非アルコール性脂肪肝(NAFL)を治療することを含む、例えば脂肪肝疾患等の肝臓疾患を有する対象を治療するために使用されてもよい。
【0069】
従って、本発明の一態様は、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、アルコール性脂肪性肝炎(ASH)、及び非アルコール性脂肪肝(NAFL)の治療又は予防において使用するための化合物を提供し、ここで、化合物は:
(i)(R)-3-ヒドロキシ酪酸;
(ii)(R)-3-ヒドロキシ酪酸のエステル;及び
(iii)(R)-3-ヒドロキシ酪酸部分を重合することによって入手可能なオリゴマー;
又は、その薬学的に許容される塩若しくは溶媒和化合物;
から選択される。
【0070】
典型的には、脂肪肝又は脂肪肝疾患を有する対象は、過体重、肥満、又は重度の肥満であり、例えば、対象は、25から29.9のBMI(過体重)、30から39.9のBMI(肥満)、及び40以上のBMI(重度の肥満)を有する。本発明は、特に、94cm(37インチ)のウエスト周囲を有する男性の対象、及び、80cm(約31.5インチ)以上のウエスト周囲を有する女性の対象に適用可能である。
【0071】
本発明の化合物は、栄養組成物に含まれてもよい。好適には、栄養組成物は、水及び(R)-3-ヒドロキシ酪酸の供給源を含む。好ましくは、当該組成物は、(R)-3-ヒドロキシ酪酸のエステル、香料、及び任意的に、タンパク質、炭水化物、糖、脂肪、繊維、ビタミン、及びミネラルのうち1つ又は複数を含む。好適には、香料は、フルーツベースの香料を含んでもよい。一実施形態では、香料は、好適には、例えばコーヒー、チョコレート、及びクランベリー等、苦味がある。苦味の香料は、例えばグレープフルーツ、ラズベリー、及びクランベリーのようなフルーツベースの香料等、他の香料と組み合わされてもよい。
【0072】
本発明において有用な組成物は、上述の化合物の異性体の混合物を含み得る。
【0073】
当該組成物は、好適には、感覚的に許容されるものである。「感覚的に許容される」とは、当該組成物は、味、色、感じること、及び匂いの許容される感覚特性を有していなければならないということを意味する。
【0074】
当該組成物は、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)を含んでもよい。存在する場合、中鎖脂肪酸トリグリセリドは、好ましくは、式CH2Ra-CH2Rb-CH2Rc(式中、Ra、Rb、及びRcは5から12の炭素原子を有する脂肪酸である)を有する中鎖脂肪酸トリグリセリドを含む。好適には、tri-C6:0 MCTsは、胃腸管によって非常に速やかに吸収されることが報告されているため、Ra、Rb、及びRcは、6炭素骨格(tri-C6:0)を有する脂肪酸である。
【0075】
本発明の組成物は、L-カルニチン又はL-カルニチンの誘導体を含んでもよい。L-カルニチンの誘導体の例として、デカノイルカルニチン、ヘキサノイルカルニチン、カプロイルカルニチン、ラウロイルカルニチン、オクタノイルカルニチン、ステアロイルカルニチン、ミリストイルカルニチン、アセチル-L-カルニチン、O-アセチル-L-カルニチン、及びパルミトイル-L-カルニチンが挙げられる。カルニチンが利用される場合、好適には、本発明の組成物は、i)ケトン体、好ましくはケトンモノエステル、より好ましくは(R)-3-ヒドロキシ酪酸モノエステル、並びに、ii)L-カルニチン又はL-カルニチンの誘導体、及び任意的にMCTを含む。
【0076】
MCT及びL-カルニチン又はその誘導体が利用される場合、好適には、MCTは、カルニチンで乳化される。好ましくは、10から500gの乳化されるMCTが、10から2000mgのカルニチンと組み合わされ、例えば、50gのMCT(95%トリC8:0)が、500mgのL-カルニチンと組み合わされた50gのモノグリセリド及びジグリセリドで乳化される。好ましくは、(R)-3-ヒドロキシ酪酸の供給源のレベルは、MCTのレベルよりも大きい。
【0077】
本発明による組成物は、例えば粉末、錠剤、バー、菓子製品、若しくは顆粒等の固体、例えば飲料、ゲル、カプセル等の液体を含む任意の適した形態で、又は、任意の他の従来の製品の形態で提供することができる。当該組成物は、食料製品、栄養補助食品(food supplement)、健康補助食品(dietary supplement)、機能性食品、若しくは栄養機能食品(nutraceutical)、又はその成分であってもよい。
【0078】
当該組成物を添加剤として組み込むことができる食料製品の例として、スナックバー、シリアル、菓子、及びヨーグルトを含むプロバイオティック製剤が挙げられる。飲料の例には、ソフト飲料、アルコール飲料、エナジー飲料、ドライドリンクミックス、栄養飲料、及び、煎じるためのハーブティー又は水で煮出すためのハーブブレンドが含まれる。
【0079】
栄養機能食品は、食品成分、栄養補助食品、又は食料製品であり、疾患の予防及び治療を含む、医療又は健康上の利益をもたらすと考えられる。一般に、栄養機能食品は、具体的には、消費者に対して健康上の利益を与えるように適応する。栄養機能食品は、典型的には、対応する通常の食料製品において見られるよりも高いレベルで、ビタミン、ミネラル、ハーブ、又は植物性化学物質等の微量栄養素を含む。そのレベルは、典型的には、1回限りのものとして、又は、食事計画若しくは栄養療法のコースのうちの一部として摂取された場合に、栄養機能食品の意図された健康上の利益を最適化するように選択される。
【0080】
本発明の化合物は、典型的には、栄養機能食品として処方される。
【0081】
固体形態の場合、当該組成物は、好適には、好ましくはエステルであり、より好ましくは当該組成物の少なくとも10重量%から95重量%までである、少なくとも5重量%の本発明の化合物を含む。例えば、組成物が、液体と共に使用して液体組成物をもたらすことを意図した乾燥粉末である場合、15から30重量%のレベルの乾燥組成物が好適であり得るけれども、固体のバー又は製品の形態は、好適には、30から95重量%、特に50から95重量%の組成物を含む。
【0082】
組成物が固体形態である場合、組成物は、以下の成分:
- 例えば、ラクトース、デキストロース、サッカロース、セルロース、コーンスターチ、又はジャガイモデンプン等の希釈剤;
- 例えば、シリカ、タルク、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム若しくはステアリン酸カルシウム、及び/又はポリエチレングリコール等の潤滑剤;
- 例えば、デンプン、アラビアゴム、ゼラチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、又はポリビニルピロリドン等の結合剤;
- デンプン、アルギン酸、アルギン酸塩、又はグリコール酸デンプンナトリウム等の崩壊剤;
- 発泡剤;
- 染料;
- 香料;
- 例えば、レシチン、ポリソルベート、ラウリル硫酸塩等の湿潤剤;及び/又は
- キャリア;
のうち1つ又は複数をさらに含んでもよい。
【0083】
当該組成物が液体形態である場合、組成物は、好適には、例えば液体組成物の3から40重量%等、少なくとも1重量%のレベルで本発明の化合物を含むが、所望の血中ケトンレベルに達するために、組成物が単一用量として又は複数のより少ない用量で摂取されることを意図するかに応じて、例えば組成物の50重量%まで等、より高くあってもよい。
【0084】
液体形態の組成物は、好適には共にブレンドされるいくつかの液体成分を含んでもよく、又は、必要に応じて液体成分と混合されるか若しくは液体成分において溶解される液体及び固体の成分を含んでもよい。一実施形態では、ケトンを含む乾燥組成物は、例えば、水、フルーツジュース、ヨーグルト、又はミルク等の適した液体で、好ましくは1:1から1:10、より好ましくは1:3から1:7の乾燥組成物対液体の比にて希釈される。
【0085】
当該組成物は、要望通り、消費される準備が整った形態の液体製品として、又は、使用時に希釈するのに適した濃縮物若しくはペーストとして提供されてもよい。液体組成物と共に使用するための希釈剤は、好ましくは、ミルク、フルーツジュース、又は水である。
【0086】
所望により、カプセル化材料及びそれが使用される量が安全なヒトによる消費に適している限り、組成物はカプセル化形態で提供することもできる。
【0087】
本発明は、さらなる態様において、本発明の第1の態様による化合物、好ましくはエステル、又は、本発明による組成物、並びに、ケトンモニター及び任意的に単位体重あたりの消費する製品のレベルに関する説明書及び肝臓脂肪を減らすための投与計画を含むキットを提供する。好適には、使用者は製品を消費し、次に、その血漿ケトンレベルを定期的に検査して、所望の血漿ケトンレベルに達するため又はそのレベルを維持するためにさらなるケトンの摂取が必要かどうかを決定することができる。
【0088】
本発明の一態様は、1つ又は複数の薬学的に許容される賦形剤と共に、医薬組成物において上記の本発明の化合物を提供する。
【0089】
本発明の化合物は、薬学的に許容される塩として存在してもよい。本明細書において使用される場合、薬学的に許容される塩は、薬学的に許容される酸又は塩基を有する塩である。薬学的に許容される酸には、塩酸、硫酸、リン酸、二リン酸、臭化水素酸、又は硝酸等の無機酸も、クエン酸、フマル酸、マレイン酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、コハク酸、酒石酸、安息香酸、酢酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、又はp-トルエンスルホン酸等の有機酸も含まれる。薬学的に許容される塩基には、アルカリ金属(例えば、ナトリウム又はカリウム等)及びアルカリ土類金属(例えば、カルシウム又はマグネシウム等)水酸化物及びアルキルアミン、アラルキルアミン、及びヘテロサイクリックアミン等の有機塩基が含まれる。
【0090】
本発明の化合物は、溶媒和化合物として存在してもよい。「溶媒和化合物」という用語は、溶質の1つ又は複数の分子によって形成される複合体又は凝集体、すなわち、本発明の化合物又はその薬学的に許容される塩、及び、溶媒の1つ又は複数の分子を指す。そのような溶媒和化合物は、典型的には、実質的に固定されたモル比の溶質及び溶媒を有する結晶性固体である。代表的な溶媒には、例として、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、及び酢酸等が含まれる。溶媒が水である場合、形成される溶媒和化合物は水和物である。
【0091】
本発明の化合物はキラル中心を有する。従って、本発明の化合物は、ラセミ体、エナンチオマー、又は1つ又は複数の立体異性体が豊富な混合物の形態で使用することができる。記載され且つ請求される本発明の範囲は、本発明の化合物のラセミ形態、並びに、個々のエナンチオマー及び立体異性体に富む混合物を包含する。
【0092】
「又はその薬学的に許容される塩又は溶媒和化合物」という用語は、本発明の化合物の薬学的に許容される塩の溶媒和化合物等、塩及び溶媒和化合物の全ての順列を含むことを意図しているということが正しく理解されることになる。
【0093】
本発明の医薬組成物は、1つ又は複数の薬学的に許容される希釈剤、賦形剤、又はキャリアと混合された本発明の化合物を含む。本発明の化合物(その薬学的に許容される塩、エステル、及び薬学的に許容される溶媒和化合物を含む)は、単独で投与することができるけれども、それらは、一般的に、特にヒトの治療のために、薬学的なキャリア、賦形剤、又は希釈剤と混合して投与される。医薬組成物は、人間医学及び獣医学におけるヒト又は動物による使用のためのものであってもよい。
【0094】
本明細書において記載される様々な異なる形態の医薬組成物に対するそのような適した賦形剤の例は、非特許文献6において見つけることができる。
【0095】
本発明の組成物は(医薬組成物も栄養組成物も)、薬学的に許容される吸着剤を含み得る。好適には、吸着剤は、吸着剤内又は吸着剤上で本発明の化合物を吸着する。有利には、化合物の(口にするには嫌悪的であるかもしれない)フレーバーが、吸着剤なしで同じ組成物を消費した場合に経験されるよりも低い度合でユーザによって経験される。好ましくは、吸着剤は、本発明の化合物を保持することができる格子又はボイドを含む。食料製品において使用されるか又は使用することが知られているいかなる吸着剤も利用することができる。適した吸着剤の例として、例えば架橋ポリカルボキシレートホモポリマー又はコポリマーのポリマー等の高分子ヒドロゲル、クラスレート、例えばシクロデキストリン等の環状オリゴ糖、及び粉乳が挙げられる。吸着剤は、特定の処方に従って任意の所望のレベルで存在してもよく、例えば10から50重量%等、組成物の5重量%から80重量%であってもよい。
【0096】
典型的には、本発明の対象は、例えばヒト等の哺乳動物である。
【0097】
典型的には、本発明の使用は、経口的に、非経口的に、又は静脈内に化合物を投与することを含む。経口投与が好ましい。
【0098】
本発明はまた、本明細書において記載されるように、対象の肝臓脂肪を減らす方法において使用するために、実質的に純粋な形態で、又は、1つ又は複数の薬学的に許容される希釈剤又はキャリアに伴って化合物を提供する。
【0099】
本明細書において使用される場合、「実質的に純粋な形態」という用語は、典型的には、50%以上、好ましくは75%以上、より好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上、及び、最も好ましくは99%以上の純度の化合物を指す。
【0100】
以下の実施例は、本発明を例示している。
【0101】
実施例
本発明は、以下の非限定的な実施例を参照することにより記載される。
【0102】
実施例-肝臓の1H 磁気共鳴分光法(MRS)
年齢、性別、糖尿病期間、治療、及びHBA1cが一致した3名の肥満対象(BMI33±3kg/m2)及び7名の痩せた対象(BMI23±2kg/m2)に、脂肪肝の定量化のために1H‐MRSスキャンを受けさせた。
【0103】
全ての対象の体重を測定し、5日間の治療計画を受けさせ、各対象は、0.393g/kg体重の(R)-3-ヒドロキシ酪酸-R-1,3-ブタンジオールモノエステルを有する飲料を1日3回摂取し、最終容量は3.3ml/kg体重までとした。以下の表1は、飲料の処方を示している。
【0104】
【表1】
対象には、通常の食事を変更するよう求めなかったが、食事日記を書かせた。対象は、開始時の体重に関係なく、5日間で1.3kg減った。体重減少の結果が、
図1において示されている。7名の痩せた対象(
図1a)及び3名の肥満対象(
図1b)における体重減少は、393mg/kg体重の(R)-3-ヒドロキシ酪酸-(R)-1,3ブタンジオールモノエステル(ΔG(登録商標))を1日3回5日間飲んだ後も1.3kgと同じであった。
【0105】
肝臓脂肪の変化を決定するために、5日間の開始時と終了時に対象のそれぞれに肝臓1H‐MRSを行った。1H‐MRS測定は、シグナル受信のために6チャンネルの前側+24チャンネルの後側のフェイズドアレイコイル及びホールボディコイルを使用して、3T Siemens Tim Trioで実行した。肝臓の1H-MRSを得るために、8-mlボクセル(2×2×2)を肝臓内に配置し、肉眼的血管(gross vascular)、胆管構造、及び脂肪組織デポを避けた。水抑制の有無にかかわらず、スペクトルを得て、水に対する割合として肝臓トリグリセリド含有量(トリグリセリド/水×100)を計算した。最適な水抑制パルススケーリング因子を評価するために較正パルスシーケンスを実施した。個々のコイル信号を、特別に書かれたモジュールを使用してMatlab内で結合させた。水抑制スキャンを、周波数修正を含めて建設的に平均化した。スペクトルを、Advanced Method of Accurate,Robust and Efficient Spectroscopic(AMARES)フィッティングアルゴリズムを使用して定量化した。代謝産物ピーク(脂質/トリグリセリドを含む)を分析し、事前知識を、ソフト制約を使用することによって全てのピーク位置に対して使用した。全てのピークを、Lorentz型線形を使用してフィットさせた。
【0106】
結果
本発明は、健康な対象も肥満対象も体重を減らすことを可能にするということが体重減少の結果(
図1)によって実証されている。痩せた対象では、肝臓脂肪の減少は観察されなかった(2.3%及び2.5%)。肥満対象の肝臓トリグリセリドレベルは5日間で約3.4%(17.5から14.1%に)低下した。結果が、正常肝/痩せた肝臓及び脂肪肝の画像と共に、
図2においてプロットされている。脂肪肝の画像には脂肪の島が存在するということが観察される。
【0107】
図2aは、393mg/kg体重の(R)-3-ヒドロキシ酪酸-(R)-1,3ブタンジオールモノエステル(ΔG(登録商標))を1日3回5日間飲んだ後の3名の肥満対象における3.4%の肝臓脂肪の減少を示しており、7名の痩せた対象においては肝臓脂肪の減少はなかった。
図2(b)は、正常肝及び脂肪肝の組織像を、それぞれのダイアグラムと共に例示している。これらの試料の組織像には明らかな差がある。
【0108】
痩せた対象及び肥満対象における
1H-MRSスペクトルの代表的な例が、それぞれ
図3a及び3bにおいて示されている。
図3aは、肝臓トリグリセリドレベルが2.6%の痩せた対象の
1H-MRスペクトルを示している。これは、正常肝(下のパネル)の
1H磁気共鳴スペクトルであり、肝臓脂肪の定量化のためのスペクトルのフィッティング(上の3つのパネル)を示している。
【0109】
図3bは、肝臓トリグリセリドレベルが16.1%の肥満対象の
1H-MR MRスペクトルを示している。これは、脂肪肝(下のパネル)の
1H磁気共鳴スペクトルであり、肝臓脂肪の定量化のためのスペクトルのフィッティング(上の3つのパネル)を示している。
【0110】
見て分かるように、1H-MRを使用して、脂肪肝を患っている対象を診断することができる。