(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-26
(45)【発行日】2023-11-06
(54)【発明の名称】風速分布推定装置及び風速分布推定方法
(51)【国際特許分類】
G01M 9/06 20060101AFI20231027BHJP
【FI】
G01M9/06
(21)【出願番号】P 2020017607
(22)【出願日】2020-02-05
【審査請求日】2022-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】中村 良平
【審査官】岩永 寛道
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-049298(JP,A)
【文献】特開平04-291160(JP,A)
【文献】特開2019-097794(JP,A)
【文献】特開2018-004568(JP,A)
【文献】特開平08-184526(JP,A)
【文献】特開2005-121474(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0125294(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 9/00- 10/00
G06Q 10/00- 10/30
G06Q 30/00- 30/08
G06Q 50/00- 50/20
G06Q 50/26- 99/00
G16Z 99/00
G01P 5/00- 5/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物周辺の風速分布を推定する、風速分布推定装置であって、
前記風速分布の推定対象となる全体領域を、互いに重複する重複部を有するように、複数の個別領域へと分割する、全体領域分割部と、
複数の前記個別領域内の前記風速分布を推定する、風速分布推定部と、
前記個別領域の各々に対し、前記重複部に含まれる地点である重複地点ごとに、個別に重みが設定されている、重み設定部と、
前記重複地点の、前記重みと前記風速分布の推定結果を基に、当該重複地点の風速が調整された推定結果を算出する、推定結果調整部と、
前記調整された推定結果を基に、複数の前記個別領域内の前記風速分布の前記推定結果を結合して、前記全体領域の前記風速分布の推定結果を生成する、推定結果結合部と、
を備え
、
前記推定結果調整部は、前記重複地点の各々に対し、当該重複地点に設定された前記重みの総和を計算し、当該重複地点に設定された前記重みの各々に対して当該重みを前記重みの総和により除算した後に当該重複地点における前記推定結果を乗算した乗算値を計算し、当該乗算値の総和を計算することで、前記重複地点の前記調整された推定結果を算出する、風速分布推定装置。
【請求項2】
建物周辺の風速分布を推定する、風速分布推定方法であって、
前記風速分布の推定対象となる全体領域を、互いに重複する重複部を有するように、複数の個別領域へと分割し、
複数の前記個別領域内の前記風速分布を推定し、
前記個別領域の各々に対し、前記重複部に含まれる地点である重複地点ごとに、個別に設定された重みと、前記風速分布の推定結果を基に、
前記重複地点の各々に対し、当該重複地点に設定された前記重みの総和を計算し、当該重複地点に設定された前記重みの各々に対して当該重みを前記重みの総和により除算した後に当該重複地点における前記推定結果を乗算した乗算値を計算し、当該乗算値の総和を計算することで、当該重複地点の風速が調整された推定結果を算出し、
前記調整された推定結果を基に、複数の前記個別領域内の前記風速分布の前記推定結果を結合して、前記全体領域の前記風速分布の推定結果を生成する、風速分布推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風速分布推定装置及び風速分布推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば高層建築物の周辺におけるビル風等の風環境を評価することが行われている。風環境は、例えば風洞実験や数値流体解析により、風速分布として評価されることがある。
風洞実験においては、評価の対象となる建物を再現した模型に風を当て、模型の周りの風速等を模型に設けられたセンサで測定することにより、建物周辺の風環境、風速分布が評価される。特許文献1には、風洞実験時に使用される風速測定装置が開示されている。
数値流体解析においては、コンピュータ上に評価の対象となる建物をモデリングし、これに対して、離散化・モデル化された流体運動に関する方程式を適用することによって、風速の近似解が計算される。特許文献2には、流体解析の結果を基にした風環境予測方法が開示されている。
【0003】
一般に、建物の周りに形成される風速分布は、当該建物の形状や風向以外に、当該建物の周辺の建物群にも影響される。このため、風速分布を評価する領域を広くすればするほど、風速分布を正確に評価することができる。
しかし、風洞実験においては、評価対象領域が広大になると、相応の大きさの風洞装置や、多くの建物の模型が必要となる。
また、数値流体解析においては、一般に市街地を対象とした解析では大規模な3次元計算となるため、計算時間が相応にかかる。したがって、評価対象領域が広大になると、非常に多くの計算時間を要する。
このように、風洞実験や数値流体解析においては、広い領域の風速分布を、コストや計算時間等の観点で容易に、かつ正確に、評価することが難しい。
【0004】
上記のような風洞実験や数値流体解析に加え、特に近年、ニューラルネットワークにより風速分布を評価する試みが行われている。
例えば特許文献3には、ニューラルネットワークによる風速分布の評価に関する、建物周辺の風速分布推定装置が開示されている。
特許文献3の風速分布推定装置は、推定する高さ情報を表わす高さ画像と、建物の断面形状情報を表わす形状画像と、風向き情報を表わす風向き画像とを入力する入力手段と、建物周辺の風速分布を表す画像である風速分布画像を作成する風速分布画像作成手段とを備えている。風速分布画像作成手段は、高さ画像と形状画像と風向き画像とを入力画像とし、風速分布画像を出力画像とする畳み込みニューラルネットワークから構成されている。
ニューラルネットワークを用いた場合には、汎用的なコンピュータで評価装置を実現可能であり、風洞実験のような大掛かりな装置は不要である。また、一般に数値流体解析より計算時間が高速である。このため、風洞実験や数値流体解析と比べると、コストや計算時間の観点においては、広い領域の風速分布を、より容易に評価することができる可能性がある。
【0005】
しかし、ニューラルネットワークにより広い領域の風速分布を評価しようとした場合においては、機械学習器を学習させるための学習データ、すなわち、広い領域における風速分布を計測した実験データ(例えば、計測データ、数値流体解析による詳細な解析結果)を、十分に用意するのが難しい。実験データの数が少ない場合であっても、評価の対象となる領域が狭小であれば、例えば実験データを当該領域の大きさに合わせて任意の場所で切り出すことによって、学習データを増やすことができる。しかし、評価対象領域が広くなると、切り出すことで生成される学習データの数も低減する。
したがって、ニューラルネットワークを用いた場合には、広い領域の風速分布を評価するに際し、学習データを十分に用意できないために機械学習器を十分に学習させることができず、評価精度が低減する可能性がある。
【0006】
広い評価対象領域を複数の狭小の個別領域に分割し、その各々に対して風速分布を評価して、評価結果を結合することにより、広い領域の風速分布を評価することも、理論的には可能である。
この場合においては、各個別領域における風速分布は、それぞれ独立して評価される。単純に境界線によって評価対象領域を分割すると、境界線を挟んだ2つの地点の各々は異なる評価対象領域に属するため、境界線を挟んだ地点間で風速分布の評価値の差が大きくなる可能性がある。したがって、評価結果を結合する際に、境界線において個別領域間で風速分布が連続しない。
特に、各個別領域の風速分布を評価するに際し、境界線すなわち個別領域の外縁よりも外側の建物に関する情報は、評価時には与えられないために、考慮されない。したがってこれらの建物の影響は、評価に反映されない。このため、個別領域の外縁近傍においては、風速分布の推定精度が低減しがちである。
このような理由に因り、単純に境界線によって評価対象領域を分割した場合には、境界線近傍における評価精度が低減する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2014-48120号公報
【文献】特開2018-165884号公報
【文献】特開2018-4568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、広い領域における風速分布を、容易に、かつ精度よく推定可能な、風速分布推定装置及び風速分布推定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。すなわち、本発明は、建物周辺の風速分布を推定する、風速分布推定装置であって、前記風速分布の推定対象となる全体領域を、互いに重複する重複部を有するように、複数の個別領域へと分割する、全体領域分割部と、複数の前記個別領域内の前記風速分布を推定する、風速分布推定部と、前記個別領域の各々に対し、前記重複部に含まれる地点である重複地点ごとに、個別に重みが設定されている、重み設定部と、前記重複地点の、前記重みと前記風速分布の推定結果を基に、当該重複地点の風速が調整された推定結果を算出する、推定結果調整部と、前記調整された推定結果を基に、複数の前記個別領域内の前記風速分布の前記推定結果を結合して、前記全体領域の前記風速分布の推定結果を生成する、推定結果結合部と、を備えている、風速分布推定装置を提供する。
また、本発明は、建物周辺の風速分布を推定する、風速分布推定方法であって、前記風速分布の推定対象となる全体領域を、互いに重複する重複部を有するように、複数の個別領域へと分割し、複数の前記個別領域内の前記風速分布を推定し、前記個別領域の各々に対し、前記重複部に含まれる地点である重複地点ごとに、個別に設定された重みと、前記風速分布の推定結果を基に、当該重複地点の風速が調整された推定結果を算出し、前記調整された推定結果を基に、複数の前記個別領域内の前記風速分布の前記推定結果を結合して、前記全体領域の前記風速分布の推定結果を生成する、風速分布推定方法を提供する。
上記のような構成によれば、風速分布の推定対象となる全体領域が複数の個別領域へと分割され、これら複数の個別領域の各々に対して風速分布が推定され、複数の推定結果が結合されて、全体領域の風速分布の推定結果が生成される。
すなわち、広い領域を小さい個別領域へと分割し、この各々に対して風速分布を推定するため、比較的容易に、広い領域の風速分布を推定可能である。
ここで、全体領域は、互いに重複する重複部を有するように、複数の個別領域へと分割される。すなわち、全体領域を個別領域へと分割するに際し、単純に一つの境界線で区画せず、隣接する個別領域が互いに共通の重複部を有するように分割する。この状態において、個別領域の推定結果を全体領域の推定結果として結合する際に、個別領域の各々に対して重複地点ごとに適切に設定された重みを基に、各個別領域の推定結果が調整される。このため、個別領域間の不連続性が緩和される。
更に、重複部は、互いに隣接する複数の個別領域に、異なる方向から含まれている。このため、各個別領域において外縁近傍に位置する重複部の推定精度が、外縁より外側に位置する建物の情報の欠落により低減しているとしても、これらの建物は、当該重複部を挟んで隣接する他の個別領域内に位置しているため、上記の欠落した情報は、この隣接する個別領域における、風速分布の推定に反映されている。したがって、個別領域の推定結果を全体領域の推定結果として結合する際に、重複部の周囲に位置する全ての建物に関する情報が、重複部の推定結果に反映されて調整される。これにより、単純に評価対象領域を、重複部を設けずに境界線で分割した場合に比べると、個別領域の外縁近傍の推定精度の低下を抑制可能である。
上記のような理由に因り、広い領域のほぼ全域において、風速分布の推定精度を高めることができる。
【0010】
本発明の一態様においては、前記推定結果調整部は、前記重複地点の各々に対し、当該重複地点に設定された前記重みの総和を計算し、当該重複地点に設定された前記重みの各々に対して当該重みを前記重みの総和により除算した後に当該重複地点における前記推定結果を乗算した乗算値を計算し、当該乗算値の総和を計算することで、前記重複地点の前記調整された推定結果を算出する。
上記のような構成によれば、上記のような風速分布推定装置を適切に実現可能である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、広い領域における風速分布を、容易に、かつ精度よく推定可能な、風速分布推定装置及び風速分布推定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態における風速分布推定装置のブロック図である。
【
図2】上記風速分布推定装置における機械学習器の模式的な説明図である。
【
図3】上記機械学習器の入力となる建物情報データの説明図である。
【
図4】上記風速分布推定装置における全体領域分割部の説明図である。
【
図5】上記機械学習器の学習が終了した学習モデルの模式的な説明図である。
【
図6】上記風速分布推定装置における重み設定部において設定される重みの説明図である。
【
図7】上記風速分布推定装置を用いた風速分布推定方法のフローチャートである。
【
図8】上記風速分布推定装置における風速推定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、複数の建物群を含む市街地を対象とする、風速情報と風向情報を含む市街地風環境の推定装置、およびその推定方法である。具体的には、市街地を形成する分割エリアごとに、風速情報と風向情報を含む詳細な風速分布を取得し、各分割エリアを一部重複させることで、市街地における詳細な風速分布を推定する。
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本実施形態における風速分布推定装置のブロック図である。
本実施形態における風速分布推定装置1は、上記のように、任意の建物において、建物周辺の風速分布を推定する装置である。風速分布推定装置1は、例えばパーソナルコンピュータ等の情報処理装置である。風速分布推定装置1は、学習部20、風速分布推定部21、及び学習モデルパラメータ記憶部22を備えている。風速分布推定装置1は、更に、全体領域分割部50、重み設定部51、推定結果調整部52、及び推定結果結合部53を備えている。
これら風速分布推定装置1の構成要素のうち、学習部20、風速分布推定部21、全体領域分割部50、推定結果調整部52、及び推定結果結合部53は、例えば上記情報処理装置内のCPUにより実行されるソフトウェア、プログラムであってよい。また、学習モデルパラメータ記憶部22と重み設定部51は、上記情報処理装置内外に設けられた半導体メモリや磁気ディスクなどの記憶装置により実現されていてよい。学習部20は、例えばGPU(Graphics Processing Unit)によって処理される。
【0014】
後に説明するように、風速分布推定部21は、建物の形状情報を含む建物情報データ31と風向データ32が入力されると、これに対応する風速分布を推定する。この推定を効果的に行うために、風速分布推定部21は、特に本実施形態においては、学習部20に設けられた機械学習器24を機械学習することにより生成された学習モデル25を備えている。より詳細には、学習部20は、学習データ2を機械学習器24に入力して機械学習を行い、風速分布の推定に関する学習モデルパラメータを生成する。
すなわち、風速分布推定装置1は大別して、風速分布の学習と、風速分布の推定の、2通りの動作を行う。説明を簡単にするために、以下ではまず、風速分布の学習時における、風速分布推定装置1の各構成要素の説明をした後に、風速分布の推定時での各構成要素の挙動について説明する。
なお、風速分布推定装置1は、後に説明するように、例えば一辺が250m以上の、広い領域の風速分布を推定する。このような広い領域の風速分布を精度よく推定するために、風速分布推定装置1は、風速分布の推定時には、広い領域(全体領域)を複数のより小さい個別領域に分割し、各個別領域において風速分布を推定して、これらの推定結果を結合する。すなわち、風速分布の推定時には、風速分布推定装置1には広い全体領域が入力されるが、実際に風速分布を推定する学習モデル25には、分割された個別領域が入力される。したがって、機械学習器24には、後に個別領域として説明される、例えば一辺が250mより小さい領域に相当する情報が、学習データ2として入力される。
【0015】
風速分布の学習時には、上記のように、例えば一辺が250mより小さい領域に相当する情報である学習データ2を基に、学習部20が機械学習器24を機械学習させる。この機械学習器24が深層学習されることにより、学習モデル25が生成される。
図2は、機械学習器24の模式的な説明図である。学習データ2は、建物情報データ3、風向データ4、及び教師データとしての風速分布データ5を備えている。
建物情報データ3は、建物の外形に関する情報を有するデータであり、建物形状画像6と建物高さ画像7を備えている。
図3(a)と
図3(b)は、それぞれ、建物形状画像6と建物高さ画像7の説明図である。
建物形状画像6は、任意の地域を俯瞰した状態における、建物の形状を表現する画像である。より詳細には、建物形状画像6においては、建物に相当する部分である建物部分6a内の画素と、建物に相当しない部分である非建物部分6b内の画素とが、異なる画素値を有するように設定されている。本実施形態においては、建物形状画像6は1チャンネルの画像であり、建物部分6aと非建物部分6bは、それぞれ黒と例えば白等の画素値の最大値に相当する色、例えば画素値(輝度値)が8ビットで表現される場合においては0と255で表現されている。
以降、この建物形状画像6をはじめとした本実施形態における各画像において、横に延在する軸線方向をX方向、水平面内でX方向に直交して縦に延在する軸線方向をY方向、及び水平面に直交する軸線方向をZ方向と呼称する。
【0016】
建物高さ画像7は、建物形状画像6内に表現されたものと同一の地域を俯瞰した状態における、建物の高さを表現する画像である。より詳細には、建物高さ画像7においては、例えば道路や地表等の建物に相当しない部分である非建物部分7bを高さが0mの基準面としたときに、建物に相当する建物部分7a内の画素が、当該画素が含まれる建物の高さに相当する画素値を有するように設定されている。本実施形態においては、建物高さ画像7は1チャンネルの画像であり、非建物部分7bは黒、例えば0で表現されている。また、建物部分7aは中間色、例えば1以上の画素値で表現されている。特に本実施形態においては、建物部分7a内の画素は、画素値が、当該画素が含まれる建物の高さと同じ値となるように設定されている。例えば画素値が8ビットで表現される場合においては、高さが10mの建物に相当する建物部分7a内の画素は画素値が10となり、高さが35mの建物に相当する建物部分7a内の画素は画素値が35となっている。高さが255mの建物に相当する建物部分7a内の画素は、画素値が最大値すなわち255となっている。
建物高さ画像7は、上記のように建物形状画像6内に表現されたものと同一の地域を表現する画像であるため、建物形状画像6と同じ解像度を備えている。
風速分布推定装置1において風速分布を推定する対象として、例えば画素値が8ビットで表現される場合において、255mを超える高層建築物が多いことが想定される場合には、例えば0から最も高い建物の高さの値の範囲を、画素値の範囲すなわち0から255の範囲へと変換し、これを建物高さ画像7の画素値として用いてもよい。
【0017】
風向データ4は、風向に関する情報を有するデータである。より詳細には、風向データ4は、既に説明した建物情報データ3内に表現された地域内の建物あるいは建物群に対して、地域外から吹き込む風の風向を表現するデータである。風向は、建物情報データ3における地域内の地点に依らず、地域内の全ての地点において一意に定められている。
風向データ4は、上記のように風向を表現するものであり、なおかつ全ての地点において値が一意であるため、1つのベクトルと見做すことができる。風向データ4は、このベクトルを建物情報データ3におけるX方向及びY方向の各々に成分分解した際の、X方向における成分値を1チャンネルの画像として表現した風向X成分画像8と、Y方向における成分値を1チャンネルの画像として表現した風向Y成分画像9を備えている。例えば、風向X成分画像8は、ベクトルが成分分解されたX方向上での成分値に対応する画素値に、全画素の画素値が設定された画像とすることができる。また、風向Y成分画像9は、ベクトルが成分分解されたY方向上での成分値に対応する画素値に、全画素の画素値が設定された画像とすることができる。
【0018】
風向を、例えばある2次元の座標系において、原点を上流としたときの下流への風の吹く方向すなわちベクトルと考えた場合には、これを成分分解して得られた各軸線方向における成分値は、ベクトルの方向によっては負の値を取り得る。このため、風向X成分画像8及び風向Y成分画像9において風向を表現するに際し、上記のように負の値を取り得る、成分分解して得られた成分値を、0から画素値の最大値までの正の値の範囲に、例えば画素値が8ビットで表現される場合においては、0から255の値の画素値の範囲に変換する必要がある。本実施形態においては、成分値が0の場合には画素値を画素値の取り得る値の範囲の中心値、例えば128とし、正の値の場合には画素値を129から255までの範囲内の値とし、及び負の値の場合には画素値を0から127までの範囲内の値としている。
例えば、建物情報データ3におけるX方向及びY方向により形成される座標系において、西からの風の場合には、原点を上流とするとX軸上の正の方向への風向となるため、X方向上での成分値が正の値となりY方向上での成分値が0となる。したがって、風向X成分画像8は、全ての画素の画素値が画素値の最大値、例えば255に設定された、例えば白一色の画像となり得る。また、風向Y成分画像9は、全ての画素の画素値が画素値の取り得る値の範囲の中心値、例えば128に設定された、特定の中間色一色の画像となり得る。逆に、東からの風の場合には、原点を上流とするとX軸上の負の方向への風向となるため、X方向上での成分値が負の値となりY方向上での成分値が0となる。したがって、風向X成分画像8は全ての画素の画素値が画素値の最小値、例えば0に設定された、黒一色の画像となり、風向Y成分画像9は全ての画素の画素値が例えば128に設定された、特定の中間色一色の画像となり得る。
【0019】
風速分布データ5は、建物情報データ3内に表現された地域における、風速の分布に関する情報、すなわち建物の周囲の各地点における風速に関するデータである。風速分布データ5は、建物情報データ3と風向データ4に対応して得られるデータであり、建物の形状や高さに関する情報と、建物情報データ3内に表現された地域に吹き込む風に関する情報が与えられた際に、これらを基に一意に決定される。
特に本実施形態においては、風速分布データ5は各地点における風向に関する情報をも含む。このために、風速分布データ5が風向に関する情報を保持し得るように、風速分布データ5は、それぞれが1チャンネルの画像である、風速分布X成分画像10、風速分布Y成分画像11、及び風速分布Z成分画像12を備えている。風速分布X成分画像10は、各画素の画素値が、建物情報データ3内に表現された地域内の当該画素に対応する地点における風向及び風速を表現するベクトルを、建物情報データ3におけるX方向とY方向、及びZ方向の各々に成分分解した際の、X方向における成分値に相当する値に設定された画像である。風速分布Y成分画像11及び風速分布Z成分画像12は、同様に、各画素の画素値が、Y方向及びZ方向の各々における成分値に相当する値に設定された画像である。各画素に対応する地点が建物の場合には、当該画素の画素値は無風に相当する値に設定されている。
【0020】
上記のように、風速分布データ5は風向に関する情報を含むため、風向データ4の場合と同様に、風速の各軸線方向における成分値は必ずしも正の値とはならず、風向によっては、すなわち正の値となり得る方向とは反対側の方向に風が吹く場合には、成分値は負の値となる。画像においてこのような正負の値を表現し得るように、本実施形態においては、想定し得る最大風速の正値を画素値の最大値、例えば画素値が8ビットで表現される場合においては255に対応させ、無風すなわち風速ゼロの場合を画素値の取り得る値の範囲の中心値、例えば128に対応させ、更に、最大風速の負値を画素値の最小値より1大きい値、例えば1に対応させている。建物形状画像6の建物部分6aに相当する画素は、画素値の最小値、例えば0に設定される。このうえで、最大風速の負値から最大風速の正値までの範囲内の風速を画素値の取り得る値の範囲の最小値より1大きい値から最大値までの値に対応付けし、この対応関係に基づいて、各画素の画素値が、当該画素において情報として保持するべき風速に対応する値となるように設定されている。
学習データ2の各画像は、本実施形態においては実際には、学習部20に入力される際に、各画素の値を画素値の最大値、例えば255により除算して、0から1までの値の範囲へと基準化されて用いられる。
【0021】
機械学習器24を機械学習する際に、建物情報データ3と風向データ4は機械学習器24への入力として使用される。この際の機械学習器24の出力である学習時推定結果15は、建物情報データ3と風向データ4に対応する風速分布データ5と比較され、この比較結果を基に機械学習器24が機械学習される。このように、風速分布データ5は機械学習における正解値すなわち教師データとして使用され、機械学習器24は風速分布データ5に近い学習時推定結果15を出力するように学習される。
既に説明したように、建物情報データ3、風向データ4、及び教師データとしての風速分布データ5の各々は、画像である。したがって、風速分布データ5と比較される学習時推定結果15も当然画像である。このため、本実施形態においては、機械学習器24は、画像を入出力とした場合の処理と相性の良い全層畳み込みネットワーク(Fully Convolutional Network、以下FCNと記載する)により実現されている。FCNは、以下に説明するように、全結合層を備えず、畳み込み層において処理、生成された特徴マップを直接、転置畳み込み層への入力とするものである。
【0022】
図2に示されるように、機械学習器24は、畳み込み処理部27と転置畳み込み処理部28を備えている。畳み込み処理部27は、直列に接続された、複数の畳み込み層27a、27b、27cを備えている。転置畳み込み処理部28は、同様に直列に接続された、複数の転置畳み込み層28c、28b、28aを備えている。模式的に示された
図2においては、畳み込み層と転置畳み込み層の数はそれぞれ3となるように図示されているが、これら畳み込み層と転置畳み込み層の数は3に限られない。
学習部20は、建物情報データ3と風向データ4を初段の畳み込み層27aへ入力する。既に説明したように、本実施形態においては、建物情報データ3の建物形状画像6と建物高さ画像7、及び風向データ4の風向X成分画像8と風向Y成分画像9の各々は、1チャンネルの画像として実現されている。したがって、建物形状画像6、建物高さ画像7、風向X成分画像8、及び風向Y成分画像9は、これら4枚の1チャンネルの画像が1枚の4チャンネルの画像として結合された学習時入力データ14として、機械学習器24へ入力される。
【0023】
畳み込み層27aは、所定の数のフィルタを備えている。機械学習器24は、各フィルタに対し、これを学習時入力データ14上に位置付け、フィルタ内の学習時入力データ14の各画素の画素値に対して、フィルタ内に画素位置に対応して設定された重みを付けて和を計算することで、畳み込みフィルタ処理を実行する。これにより、畳み込み層27aにおける1つの画素の画素値が演算される。機械学習器24は、フィルタを学習時入力データ14上で所定の解像度刻みで移動させつつ、このような畳み込みフィルタ処理を実行することで複数の画素値を演算し、これを並べて、フィルタに対応した1枚の画像を生成する。
機械学習器24は、この処理を、全てのフィルタに対して実行し、フィルタの数に応じた特徴マップを生成する。
特徴マップに対しては、必要に応じて、バッチ正規化処理やプーリング処理、活性化関数が実行される。
畳み込み層27aにおいて生成された特徴マップは、次段の畳み込み層27bの入力画像となる。
【0024】
畳み込み層27bにおいては、畳み込み層27aにおいて生成された特徴マップに対して、畳み込み層27aと同様に、畳み込みフィルタ処理が実行される。畳み込み層27bは、所定の数のフィルタを備えており、これらを用いて畳み込みフィルタ処理を実行し、更に必要に応じてバッチ正規化処理やプーリング処理を実行することで、フィルタの数に応じた所定の数の特徴マップを生成する。
畳み込み層27cにおいては、畳み込み層27bにおいて生成された特徴マップに対して、畳み込みフィルタ処理が実行される。畳み込み層27cは、所定の数のフィルタを備えており、これらを用いて畳み込みフィルタ処理を実行し、更に必要に応じてバッチ正規化処理やプーリング処理を実行することで、フィルタの数に応じた所定の数の特徴マップを生成する。
各畳み込み層27a、27b、27cにおけるフィルタの重みは、機械学習により調整される。
畳み込み層27cにおいて生成された特徴マップは、転置畳み込み処理部28の転置畳み込み層28cへの入力となる。
【0025】
転置畳み込み処理部28は、畳み込み処理部27と対称的な構造となっている。すなわち、学習時入力データ14は畳み込み処理部27により低次元に圧縮されたが、転置畳み込み処理部28においては、低次元に圧縮された状態から拡大し、復元されるように動作する。より詳細には、畳み込み層27cに対応する転置畳み込み処理を実行する転置畳み込み層28c、畳み込み層27bに対応する転置畳み込み処理を実行する転置畳み込み層28b、及び畳み込み層27aに対応する転置畳み込み処理を実行する転置畳み込み層28aを順に経ることで、出力データが生成される。
転置畳み込み処理部28すなわち機械学習器24の出力データは、本実施形態においては、入力された学習時入力データ14内の建物情報データ3と風向データ4に対応する、建物情報データ3内に表現された地域における風速、風向の学習時推定結果15である。学習時推定結果15は、風速分布データ5と同様に、建物情報データ3内に表現された地域内の各地点における、X方向、Y方向、及びZ方向の各々に対応して成分分解された風速、風向情報が格納された、3枚の1チャンネルの画像であり、これが1枚の3チャンネルの画像として出力される。
【0026】
機械学習器24では、学習時推定結果15における推定結果が、入力された学習時入力データ14に対応する風速分布データ5すなわち教師データに近い値となるように、機械学習が行われる。このために、学習部20は、学習時入力データ14に対応する風速分布データ5と、当該学習時入力データ14を入力した際の出力である学習時推定結果15を画素単位で比較して、例えば各画素間の画素値の差分の2乗誤差をコスト関数として計算する。
その上で、このコスト関数を小さくするように、誤差逆伝搬法等により、各フィルタの重みの値等を調整することで、機械学習器24が機械学習される。
結果として、機械学習器24は、学習時入力データ14が入力されたときに、これに含まれる建物情報データ3と風向データ4に対応する風速分布データ5に近い学習時推定結果15を出力するように学習される。
【0027】
学習部20は、学習が終了すると、調整が終了した各フィルタの重みの値等のパラメータを、学習モデルパラメータとして、学習モデルパラメータ記憶部22に記憶する。学習モデルパラメータ記憶部22に記憶された学習モデルパラメータは、後に説明する風速分布推定部21において取得され、風速分布を推定する学習モデル25が構築される。
すなわち、学習部20は、人工知能ソフトウェアの一部であるプログラムモジュールとして利用される、適切な学習パラメータが学習された学習済みの学習モデル25を生成するものである。
【0028】
次に、風速分布の推定時での各構成要素の挙動について説明する。
既に説明したように、風速分布推定装置1は、風速分布の推定時には、広い領域(全体領域)を複数の個別領域に分割し、各個別領域において風速分布を推定して、これらの推定結果を結合する。したがって、風速分布の推定時における風速分布推定装置1への入力データである推定時入力データ30は、例えば一辺が250m以上の、広い全体領域に相当する情報である。推定時入力データ30は、実際に風速分布の推定対象となる地域及び風向が情報として格納された、建物情報データ31と風向データ32である。建物情報データ31は、建物形状画像33と建物高さ画像34を備えており、これらの各々は、全体領域に対応するため画像がより大きい点を除けば、学習時に学習データ2として使用された建物形状画像6及び建物高さ画像7と同様に構成されている。風向データ32は、風向X成分画像35と風向Y成分画像36を備えており、これらの各々は、全体領域に対応するため画像がより大きい点を除けば、学習時に学習データ2として使用された風向X成分画像8及び風向Y成分画像9と同様に構成されている。建物形状画像33、建物高さ画像34、風向X成分画像35、及び風向Y成分画像36は、それぞれが1チャンネルの画像であり、推定時入力データ30は、これら4枚の1チャンネルの画像が1枚の4チャンネルの画像として結合された画像データである。
推定時入力データ30の各画像は、本実施形態においては実際には、学習時と同様に、風速分布推定部21に入力される際に、各画素の値を画素値の最大値、例えば255により除算して、0から1までの値の範囲へと基準化されて用いられる。
【0029】
全体領域分割部50は、風速分布の推定対象となる全体領域を、互いに重複する重複部を有するように、複数の個別領域へと分割する。より正確には、全体領域分割部50は、全体領域に相当する画像である推定時入力データ30を、個別領域に相当する画像である個別入力データへと、個別領域が互いに重複するように分割する。
図4は、全体領域分割部50の説明図である。説明を簡単にするために、全体領域GRに相当する推定時入力データ30は、解像度が横方向Xと縦方向Yの双方において20画素であり、これから、解像度が横方向Xと縦方向Yの双方において8画素の、個別領域LRに相当する個別入力データを切り出して分割する場合を説明する。実際には、推定時入力データ30と個別入力データの双方は、上記よりも大きな解像度を備えている。
以下の説明においては、全体領域GRと記載したときにはこれに対応する推定時入力データ30をともに示し、個別領域LRと記載したときにはこれに対応する個別入力データをともに示すものとする。また、全体領域GRまたは個別領域LRを画像としてみたときの、これら画像内の画素の位置を、当該画像の左上の画素を原点(0、0)としたときの座標値、すなわち(横方向Xにおける画素の座標値、縦方向Yにおける画素の座標値)として示す。
【0030】
全体領域分割部50は、まず、
図4(a)に示されるように、個別領域LRの左上の原点(0、0)に位置する画素を、全体領域GRの原点(0、0)と一致させたときの個別領域LR1を、個別入力データとして、全体領域GRすなわち推定時入力データ30から切り出して分割する。
次に、全体領域分割部50は、
図4(b)に示されるように、個別領域LR1から一定の、横方向Xのストライド(移動量、本実施形態においては4画素)だけ、個別領域LRを横方向Xに移動させる。これにより、個別領域LRの原点を、全体領域GRの(4、0)に位置せしめて、この状態における個別領域LR2を、全体領域GRから切り出して分割する。
横方向Xのストライドの大きさは、個別領域LRの横方向Xの解像度よりも小さく設定されている。より詳細には、横方向Xのストライドの大きさは、個別領域LRの横方向Xの解像度の半分以下とするのが望ましい。これにより、個別領域LR1と個別領域LR2は、互いに重複する重複部OR(OR1)を有するように、全体領域GRから分割されている。
全体領域分割部50は更に、
図4(c)に示されるように、個別領域LR2から横方向Xのストライドだけ、個別領域LRを横方向Xに移動させ、この状態における個別領域LR3を、全体領域GRから切り出して分割する。個別領域LR2と個別領域LR3は、互いに重複する重複部OR2を有するように、全体領域GRから分割されている。
同様に、全体領域分割部50は、
図4(d)に示されるように、個別領域LR3から横方向Xのストライドだけ、個別領域LRを横方向Xに移動させ、この状態における個別領域LR4を、全体領域GRから切り出して分割する。
【0031】
図4(d)に示されるように、全体領域GRの最上段において、個別領域LRの移動と分割が終了すると、全体領域分割部50は、個別領域LRを縦方向Yに移動させる。すなわち、全体領域分割部50は、
図4(e)に示されるように、
図4(a)に示される個別領域LR1から一定の、縦方向Yのストライド(本実施形態においては4画素)だけ、個別領域LRを縦方向Yに移動させる。これにより、個別領域LRの原点を、全体領域GRの(0、4)に位置せしめて、この状態における個別領域LR5を、全体領域GRから切り出して分割する。
縦方向Yのストライドの大きさは、個別領域LRの縦方向Yの解像度よりも小さく設定されている。より詳細には、縦方向Yのストライドの大きさは、個別領域LRの縦方向Yの解像度の半分以下とするのが望ましい。これにより、個別領域LR1と個別領域LR5は、互いに重複する重複部OR3を有するように、全体領域GRから分割されている。
次に、全体領域分割部50は、
図4(f)に示されるように、個別領域LR5から横方向Xのストライドだけ、個別領域LRを横方向Xに移動させる。これにより、個別領域LRの原点を、全体領域GRの(4、4)に位置せしめて、この状態における個別領域LR6を、全体領域GRから切り出して分割する。
個別領域LR5と個別領域LR6は、互いに重複する重複部OR4を有するように、全体領域GRから分割されている。また、上下に隣り合う個別領域LR2と個別領域LR6は、互いに重複する重複部OR5を有するように、全体領域GRから分割されている。
同様に、全体領域分割部50は、
図4(g)に示されるように、個別領域LR6から横方向Xのストライドだけ、個別領域LRを横方向Xに移動させ、この状態における個別領域LR7を、全体領域GRから切り出して分割する。
【0032】
このように、全体領域GR上で個別領域LRを横方向X及び縦方向Yに移動させつつ切り出すことで、全体領域分割部50は全体領域GRすなわち推定時入力データ30から、個別領域LRすなわち個別入力データを分割する。
図4の例においては、全体領域GRから16個の個別領域LRが分割される。
図4(h)には、最後に分割される個別領域LR16が示されている。
【0033】
次に、風速分布推定部21は、学習モデルパラメータ記憶部22から学習モデルパラメータを取得し、学習モデル25を構築する。
図5は、学習モデル25の模式的な説明図である。風速分布推定部21は、この学習モデル25を、例えばCPU上でプログラムとして実行することで、風速分布を推定する。
風速分布推定部21は、学習モデル25に、上記のように生成した個別領域LR1~LR16の各々に対応する個別入力データを順次入力し、各個別領域LRに相当する風速分布を推定する。
【0034】
より詳細には、風速分布推定部21が学習モデル25に個別入力データを入力すると、学習モデル25は、畳み込み層27a、27b、27cと、及び転置畳み込み層28c、28b、28aを順に辿りながら、畳み込み処理及び転置畳み込み処理を実行する。最終的に転置畳み込み層28aから、推定時入力データ30に対応する個別画像が出力される。
個別画像は、学習時推定結果15と同様に、建物情報データ31内に表現された地域内の各地点における、X方向、Y方向、及びZ方向の各々に対応して成分分解された風速、風向情報が格納された、3枚の1チャンネルの画像であり、これが1枚の3チャンネルの画像として出力される。
風速分布推定部21は、各個別入力データに対応する個別画像の各々に対し、個別画像からX方向、Y方向、及びZ方向の各々に対応する1チャンネルの画像、すなわち各方向に対応して成分分解された風速、風向情報であるX成分個別画像、Y成分個別画像、及びZ成分個別画像を抽出する。
【0035】
風速分布推定部21は、X成分個別画像、Y成分個別画像、及びZ成分個別画像の各々の情報を合成して、個別推定結果画像(個別領域内の風速分布の推定結果)を生成する。個別推定結果画像は、X成分個別画像、Y成分個別画像、及びZ成分個別画像と同等の解像度を備えた画像である。風速分布推定部21は、X成分個別画像、Y成分個別画像、及びZ成分個別画像の互いに対応する画素の各々に対し、これら画像の各々から画素値、すなわち当該画素に対応する地点における風向風速のX成分値、Y成分値、及びZ成分値の各々に対応する値を取得し、これらの各々をベクトルとして、X方向、Y方向、及びZ方向の3つの軸線方向により形成される3次元座標系上で合成する。風速分布推定部21は、合成により生成されたベクトルの大きさを基に風速を、及び向きを基に風向を計算する。風速分布推定部21は、全画素に関して風速及び風向情報を計算し、これらをまとめて一つの画像すなわち個別推定結果画像を生成する。
このようにして、風速分布推定部21は、個別領域LRすなわち個別入力データの各々に対し、当該個別領域LRに含まれる複数の地点(例えば
図4各図における一つの画素)の各々における風速を推定して、個別領域LR内の風速分布を個別推定結果画像として推定する。
図4を用いた例においては、16個の個別領域LR1~LR16の各々に対応する、16個の個別推定結果画像が出力される。
【0036】
上記のように出力された、個別領域LR内の風速分布の推定結果である個別推定結果画像に対しては、次に説明する重み設定部51に設定されている重みが、推定結果調整部52において適用される。
図6は、個別領域LRに対して設けられる重みを、3次元曲面を有する重み関数Wで表示した一例である。重み関数Wは、横方向Xまたは縦方向Yから視たときに、正規分布の確率密度関数の形状となるように設定されている。確率密度関数は、その中央値が、個別領域LRの横方向X及び縦方向Yの各々における中心に位置するように設定されている。また、確率密度関数の定義域は、標準偏差の-2倍から2倍までの間として設けられており、この定義域が、個別領域LRの横方向X及び縦方向Yの領域と一致するように、確率密度関数は設けられている。これにより、正規分布として実現される確率密度関数の95%程度が、個別領域LRに対応付けて設けられる。
【0037】
重みが、上記のような重み関数Wに基づいて、個別領域LRに対応されて設定された結果、個別領域LRの中心に近く位置する地点ほど重みの値が大きくなり、外縁に近く位置する地点ほど重みの値が小さくなる。例えば、個別領域LRの横方向X及び縦方向Yの双方において中心に位置する地点PAにおいては、値VAとして示されるように、1の重みが対応付けられている。また、個別領域LRの横方向X及び縦方向Yの双方において外縁に位置する地点PBにおいては、値VBとして示されるように、0に近い例えば0.1の重みが対応付けられている。更に、地点PAと地点PBの中間に位置する地点PCにおいては、これらの間の、例えば0.6等の値が対応付けられている。
【0038】
個別領域LR1~LR16の各々においては、個別に上記のような重み関数Wが設定されている。本実施形態においては、個別領域LR1~LR16の各々に対し、同一の重み関数Wが設定されている。このため、全体領域GR上に位置する同一の地点であっても、それが重複部ORに含まれた重複地点である場合には、当該重複地点に対応する重みが、当該重複地点が属する個別領域LR1~LR16によって異なる。
例えば、
図4に示される地点P1は、個別領域LR1のみに属する。したがって、地点P1は重複地点ではない。また、地点P1は、個別領域LR1の、横方向X及び縦方向Yの双方において外縁に位置しているため、個別領域LR1における地点P1の重みは、例えば0.1と、小さい値となる。
【0039】
また、
図4に示される地点P2は、2つの個別領域LR1、LR2に属する、重複地点である。
この地点P2は、個別領域LR1において、縦方向Yにおいては外縁に位置しているものの、横方向Xにおいては中心に位置しているため、0.1よりは大きいが1よりは小さい、例えば0.3等の重みの値を取り得る。
また、地点P2は、横方向X及び縦方向Yの双方において個別領域LR2の外縁に位置しているため、個別領域LR2における地点P2の重みは、例えば0.1と、小さい値となる。
【0040】
更に、
図4に示される地点P3は、4つの個別領域LR1、LR2、LR5、LR6に属する、重複地点である。
この地点P3は、個別領域LR1の横方向X及び縦方向Yの双方において外縁に位置しているため、個別領域LR1における地点P3の重みは、例えば0.1と、小さい値となる。
また、地点P3は、個別領域LR2において、縦方向Yにおいては外縁に位置しているものの、横方向Xにおいては中心に位置しているため、0.1よりは大きいが1よりは小さい、例えば0.3等の重みの値を取り得る。個別領域LR5においても、同様な理由で、地点P3の重みは、例えば0.3等の値となる。
更に、地点P3は、個別領域LR6においては横方向X及び縦方向Yの双方においてその中心に位置しているため、個別領域LR6における地点P3の重みは、例えば1と、大きな値となる。
このように、各重複地点においては、これが属する個別領域LRによって、それぞれ異なる値が重みとして設定されている。
【0041】
上記のように、重み設定部51においては、重複部ORに含まれる地点である重複地点の各々に対し、個別領域LRごとに、個別に重みが設定されている。
また、重み設定部51においては、複数の個別領域LRの各々において、正規分布の確率密度関数の中央値を当該個別領域LRの中心に位置付けたときに、当該個別領域LR内の地点に対応する位置における確率密度関数の値が、当該地点における重みとして設定されている。
【0042】
推定結果調整部52は、各個別領域LRの各々において重み設定部51に設定された、各重複地点の重みを基に、重複地点を含む各地点の推定結果を調整する。
より詳細には、推定結果調整部52は、重複地点を含む各地点の各々に対し、まず、個別領域LRの各々において当該地点に設定された重みの総和SLを計算する。次に、推定結果調整部52は、個別領域LRの各々において、当該地点に設定された重みを重みの総和SLで除算した除算値と、当該地点における風速の推定結果、すなわち個別推定結果画像における対応する画素の画素値とを乗算した乗算値である、個別領域調整値LVを計算する。最後に、推定結果調整部52は、個別領域LRの各々における個別領域調整値LVの総和を計算し、これを当該地点の、風速が調整された推定結果として算出する。
【0043】
例えば、
図4に示される地点P1は、重複地点ではなく、個別領域LR1のみに属する。この個別領域LR1における地点P1の重みを例えば0.1とすると、推定結果調整部52は、まず、重みの総和SLとして0.1を計算する。次に、推定結果調整部52は、個別領域LR1における地点P1の重み0.1を重みの総和SLで除算した除算値と、地点P1における風速の推定結果V1、すなわち個別領域LR1に対応する個別推定結果画像における地点P1の風速推定結果V1とを乗算して、個別領域調整値LVを計算する。この場合においては、除算値は0.1/0.1=1となるため、個別領域調整値LVはV1となる。最後に、推定結果調整部52は、個別領域LRの各々における個別領域調整値LVの総和としてV1の値を計算し、これを地点P1の、風速が調整された推定結果として算出する。
すなわち、重複地点ではない地点Pにおいては、当該地点Pを含む個別領域LRに対応する個別推定結果画像において、当該地点Pに対して算出された風速が、そのまま、風速が調整された推定結果として算出される。
【0044】
また、
図4に示される地点P2は、重複地点であり、2つの個別領域LR1、LR2に属する。個別領域LR1における地点P2の重みを例えば0.3とし、個別領域LR2における地点P2の重みを例えば0.1とすると、推定結果調整部52は、まず、重みの総和SLとして0.3+0.1=0.4を計算する。次に、推定結果調整部52は、個別領域LR1に対応する個別推定結果画像における、地点P2の風速の推定結果V21を用いて、個別領域LR1における個別領域調整値LV21を、LV21=V21×(0.1/0.4)と計算する。また、推定結果調整部52は、個別領域LR2に対応する個別推定結果画像における、地点P2の風速の推定結果V22を用いて、個別領域LR2における個別領域調整値LV22を、LV22=V22×(0.3/0.4)と計算する。最後に、推定結果調整部52は、個別領域LR1、LR2の各々における個別領域調整値LV21、LV22の総和として値V2=LV21+LV22を計算し、これを地点P2の、風速が調整された推定結果として算出する。
【0045】
更に、
図4に示される地点P3は、重複地点であり、4つの個別領域LR1、LR2、LR5、LR6に属する。個別領域LR1、LR2、LR5、LR6の各々における地点P3の重みを例えば0.1、0.3、0.3、1とすると、推定結果調整部52は、まず、重みの総和SLとして0.1+0.3+0.3+1=1.7を計算する。次に、推定結果調整部52は、個別領域LR1、LR2、LR5、LR6の各々に対応する個別推定結果画像における、地点P3の風速の推定結果V31、V32、V35、V36を用いて、個別領域LR1、LR2、LR5、LR6の各々における個別領域調整値LV31、LV32、LV35、LV36を、それぞれ、LV31=V31×(0.1/1.7)、LV32=V32×(0.3/1.7)、LV35=V35×(0.3/1.7)、LV36=V36×(1/1.7)と計算する。最後に、推定結果調整部52は、個別領域LR1、LR2、LR5、LR6の各々における個別領域調整値LV31、LV32、LV35、LV36の総和として値V3=LV31+LV32+LV35+LV36を計算し、これを地点P3の、風速が調整された推定結果として算出する。
【0046】
地点P2、P3により例示したように、複数の個別領域LRに含まれる重複地点については、各個別領域LRに対応する個別推定結果画像における当該地点Pの風速の推定結果が、重みを付けられて平均化される。この際に用いられる重みは、
図6を用いて説明したように、各個別領域LRの中央付近が大きく、外縁付近が小さくなるような関数Wにより実装されている。これにより、風速分布の推定精度が低減する要因となる、個別領域LRの外縁付近の影響が小さくなる。
また、地点Pごとに重複回数、すなわち地点Pが属する個別領域LRの数が異なっている。このため、平均化する際に用いる重みを、重みの総和SLにより各個別領域LRの重みを除算することにより基準化された値としている。
このようにして、推定結果調整部52は、重複地点P2、P3を含む地点P1、P2、P3の各々に対し、個別領域LRの各々における当該地点P1、P2、P3の重みと風速の推定結果LV1、LV21、LV22、LV31、LV32、LV35、LV36を基に、当該地点P1、P2、P3の風速の調整された推定結果V1、V2、V3を算出する。
【0047】
推定結果結合部53は、推定結果調整部52において調整された推定結果を基に、複数の個別領域LR内の風速分布の推定結果を結合して、全体領域GRの風速分布の推定結果を生成する。
より詳細には、推定結果結合部53は、全体領域GRに対応する、推定時入力データ30と同一の解像度(例えば
図4の例示によると横方向Xと縦方向Yにともに20画素)の、推定結果結合画像(全体領域GRの風速分布の推定結果)54を生成する。推定結果結合画像54においては、各画素に、当該画素に対応する地点Pに関して推定結果調整部52によって計算された、風速の調整された推定結果V1、V2、V3が格納されている。
推定結果結合部53は、推定結果結合画像54を外部へ出力する。
【0048】
次に、
図1~
図6、及び
図7を用いて、上記の風速分布推定装置1を用いた風速分布推定方法を説明する。
図7(a)は風速分布の学習時のフローチャートであり、
図7(b)は風速分布の推定時のフローチャートである。
まず、風速分布の学習時における、風速分布推定装置1の各構成要素の動作を説明する。
学習部20は、建物情報データ3と風向データ4を学習時入力データ14として機械学習器24の畳み込み処理部27へ入力して、学習時推定結果15を出力する。
学習部20は、入力された学習時入力データ14に対応する風速分布データ5を取得し、風速分布データ5すなわち教師データと学習時推定結果15を画素単位で比較して、例えば各画素間の画素値の差分の2乗誤差をコスト関数として計算する。
その上で、このコスト関数を小さくするように、誤差逆伝搬法等により、各フィルタの重みの値等を調整することで、機械学習器24が機械学習される(ステップS1)。
学習部20は、学習が終了すると、調整が終了した各フィルタの重みの値等のパラメータを、学習モデルパラメータとして、学習モデルパラメータ記憶部22に記憶する(ステップS3)。
【0049】
次に、風速分布の推定時での各構成要素の挙動について説明する。
前提として、風速分布推定装置1では、推定対象とする全体領域GRが風速分布推定部21で推定可能な領域より大きい場合は、複数の個別領域LRに分割し、各個別領域において風速分布を推定する。よって、推定したい領域(全体領域GR)が個別領域LRと同等または個別領域より小さい場合は、複数に分割する必要はない。
全体領域分割部50は、風速分布の推定対象となる全体領域を、互いに重複する重複部を有するように、複数の個別領域LRへと分割し、個別入力データを生成する(ステップS11)。
風速分布推定部21は、学習モデルパラメータ記憶部22から学習モデルパラメータを取得し、学習モデル25を構築する(ステップS13)。
風速分布推定部21は、学習モデル25に、個別領域LRの各々に対応する個別入力データを順次入力し、各個別領域LRに相当する風速分布を推定して、個別推定結果画像を生成する(ステップS15)。
推定結果調整部52は、重複地点を含む各地点の各々に対し、まず、個別領域LRの各々において当該地点に設定された重みの総和SLを計算する。次に、推定結果調整部52は、個別領域LRの各々において、当該地点に設定された重みを重みの総和SLで除算した除算値と、当該地点における風速の推定結果、すなわち個別推定結果画像における対応する画素の画素値とを乗算した乗算値である、個別領域調整値LVを計算する。最後に、推定結果調整部52は、個別領域LRの各々における個別領域調整値LVの総和を計算し、これを当該地点の、風速が調整された推定結果として算出する。
推定結果結合部53は、推定結果調整部52において調整された推定結果を基に、複数の個別領域LR内の風速分布の推定結果を結合して、全体領域GRの風速分布の推定結果である、推定結果結合画像54を生成する(ステップS17)。
【0050】
次に、上記の風速分布推定装置1及び風速分布推定方法の効果について説明する。
【0051】
本実施形態の風速分布推定装置1は、建物周辺の風速分布を推定する、風速分布推定装置1であって、風速分布の推定対象となる全体領域GRを、互いに重複する重複部ORを有するように、複数の個別領域LRへと分割する、全体領域分割部50と、複数の個別領域LR内の風速分布を推定する、風速分布推定部21と、個別領域LRの各々に対し、重複部ORに含まれる地点Pである重複地点ごとに、個別に重みが設定されている、重み設定部51と、重複地点の、重みと風速分布の推定結果を基に、当該重複地点の風速が調整された推定結果を算出する、推定結果調整部52と、調整された推定結果を基に、複数の個別領域LR内の風速分布の推定結果を結合して、全体領域の風速分布の推定結果54を生成する、推定結果結合部53と、を備えている。
また、本実施形態の風速分布推定方法は、建物周辺の風速分布を推定する、風速分布推定方法であって、風速分布の推定対象となる全体領域GRを、互いに重複する重複部ORを有するように、複数の個別領域LRへと分割し、複数の個別領域LR内の風速分布を推定し、個別領域LRの各々に対し、重複部ORに含まれる地点Pである重複地点ごとに、個別に設定された重みと、風速分布の推定結果を基に、当該重複地点の風速が調整された推定結果を算出し、調整された推定結果を基に、複数の個別領域LR内の風速分布の推定結果を結合して、全体領域GRの風速分布の推定結果54を生成する。
上記のような構成によれば、風速分布の推定対象となる全体領域GRが複数の個別領域LRへと分割され、これら複数の個別領域LRの各々に対して風速分布が推定され、複数の推定結果が結合されて、全体領域GRの風速分布の推定結果54が生成される。
すなわち、広い領域GRを小さい個別領域LRへと分割し、この各々に対して風速分布を推定するため、比較的容易に、広い領域の風速分布を推定可能である。
ここで、全体領域GRは、互いに重複する重複部ORを有するように、複数の個別領域LRへと分割される。すなわち、全体領域GRを個別領域LRへと分割するに際し、単純に一つの境界線で区画せず、隣接する個別領域LRが互いに共通の重複部ORを有するように分割する。この状態において、個別領域LRの推定結果を全体領域GRの推定結果として結合する際に、個別領域LRの各々に対して重複地点ごとに適切に設定された重みを基に、各個別領域LRの推定結果が調整される。このため、個別領域LR間の不連続性が緩和される。
更に、重複部ORは、互いに隣接する複数の個別領域LRに、異なる方向から含まれている。このため、各個別領域LRにおいて外縁近傍に位置する重複部ORの推定精度が、外縁より外側に位置する建物の情報の欠落により低減しているとしても、これらの建物は、当該重複部ORを挟んで隣接する他の個別領域LR内に位置しているため、上記の欠落した情報は、この隣接する個別領域LRにおける、風速分布の推定に反映されている。したがって、個別領域LRの推定結果を全体領域GRの推定結果として結合する際に、重複部ORの周囲に位置する全ての建物に関する情報が、重複部ORの推定結果に反映されて調整される。これにより、単純に評価対象領域を、重複部ORを設けずに境界線で分割した場合に比べると、個別領域LRの外縁近傍の推定精度の低下を抑制可能である。
上記のような理由に因り、広い領域のほぼ全域において、風速分布の推定精度を高めることができる。
【0052】
また、推定結果調整部は、重複地点の各々に対し、当該重複地点に設定された重みの総和を計算し、当該重複地点に設定された重みの各々に対して当該重みを重みの総和により除算した後に当該重複地点における推定結果を乗算した乗算値を計算し、乗算値の総和を計算することで、重複地点の調整された推定結果を算出する。
上記のような構成によれば、上記のような風速分布推定装置1を適切に実現可能である。
【0053】
また、重み設定部51では、正規分布の確率密度関数の中央値を個別領域LRの各々の中心に位置付けたときに、当該個別領域内の地点Pに対応する位置における確率密度関数の値が、当該地点Pにおける重みとして設定されている。
既に説明したように、複数の個別領域LRに含まれる重複地点については、各個別領域LRに対応する個別推定結果画像における当該地点Pの風速の推定結果が、重みを付けられて平均化される。この際に用いられる重みは、各個別領域LRの中央付近が大きく、外縁付近が小さくなるような関数により実装されると、風速分布の推定精度が低減する個別領域LRの外縁付近の影響が小さくなる。
したがって、上記のような構成によれば、上記のような風速分布推定装置1を適切に実現可能である。
【0054】
図8は、3次元の建物情報と、上記実施形態における風速分布推定装置1によって出力された、推定結果結合画像54を重ねた一例である。この
図8に示されるように、上記実施形態の構成によれば、広い領域のほぼ全域において値に連続性のある風速分布を出力することができる。
【0055】
なお、本発明の風速分布推定装置及び風速分布推定方法は、図面を参照して説明した上述の実施形態に限定されるものではなく、その技術的範囲において他の様々な変形例が考えられる。
【0056】
例えば、上記実施形態においては、機械学習器24及び学習モデル25としてFCNを用いたが、推定精度が損なわれないのであれば、他の構造のニューラルネットワークを使用してもかまわない。
また、FCNの構造は、
図2及び
図5を用いて説明した上記の構造に限られず、他の構造を備えていてもよい。例えば、上記実施形態においては、畳み込み処理部27及び転置畳み込み処理部28はともに3層構造とした模式的な例を用いて説明したが、各々の層数は3以外であってもよいし、畳み込み処理部27の層数と転置畳み込み処理部28の層数が異なっていてもよい。
更には、上記実施形態においては、風速分布推定部21は、全層畳み込みネットワークに基づいた学習モデル25により個別領域LRの風速分布を推定した。しかし、風速分布推定部21は、風洞実験や数値流体解析によって、個別領域LRの風速分布を推定しても構わない。
【0057】
また、上記実施形態においては、学習データ2としては、個別入力データと同等の、小さい領域に相当する解像度の画像が用いられた。この学習データ2自体も、何らかのより広い領域のデータを、全体領域分割部50と同様の要領で切り出して分割することで、生成されていてもよい。
また、上記実施形態においては、横方向X及び縦方向Yのストライドは、個別領域LRの横方向X及び縦方向Yの解像度の半分以下とするのが望ましいと説明した。実際には、ストライドを小さくすればするほど、各地点の重複回数、すなわち地点Pが属する個別領域LRの数が増加し、重みを付けられて平均化される対象が増加するため、個別領域LR間の不連続性が、より緩和される。ただし、ストライドを小さくすることにより風速分布推定装置1における処理内容も増加するため、実際にはストライドの大きさは、処理速度と精度の双方を考慮して決定するのが望ましい。
【0058】
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0059】
1 風速分布推定装置 51 重み設定部
2 学習データ 52 推定結果調整部
5 風速分布データ 53 推定結果結合部
21 風速分布推定部 54 推定結果結合画像(全体領域の風速分布の推定結果)
24 機械学習器 GR 全体領域
25 学習モデル OR 重複部
30 推定時入力データ LR 個別領域
50 全体領域分割部 W 重み関数(重み)