(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-26
(45)【発行日】2023-11-06
(54)【発明の名称】構造物劣化抑制システム及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
E01D 22/00 20060101AFI20231027BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20231027BHJP
G01N 17/00 20060101ALI20231027BHJP
【FI】
E01D22/00 A
E04G23/02 Z ESW
G01N17/00
(21)【出願番号】P 2020042868
(22)【出願日】2020-03-12
【審査請求日】2022-12-23
(31)【優先権主張番号】P 2019044540
(32)【優先日】2019-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】大谷 紀昭
(72)【発明者】
【氏名】浜岡 弘一
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 仁志
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-182601(JP,A)
【文献】特開2018-150448(JP,A)
【文献】特開2007-249707(JP,A)
【文献】特開2006-031673(JP,A)
【文献】特開2014-214208(JP,A)
【文献】特開2005-002269(JP,A)
【文献】特開2017-222155(JP,A)
【文献】特開2017-218577(JP,A)
【文献】特開平09-165558(JP,A)
【文献】特開平07-263381(JP,A)
【文献】特開2016-067996(JP,A)
【文献】特開2017-140607(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 22/00
E04G 23/02
G01N 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の表面に接合させることにより、前記構造物の劣化を抑制する劣化抑制手段と、
前記構造物の劣化に関する情報を記録する第1の情報記録手段と、
前記劣化抑制手段を加熱する加熱手段とを含み、
前記劣化抑制手段は、加熱されることにより前記構造物に対する接合力が低下する部材であ
り、
前記劣化抑制手段と前記第1の情報記録手段とが、一体化しているか、又は、前記第1の情報記録手段が、前記劣化抑制手段から分離して、前記構造物に接合可能であることを特徴とする構造物劣化抑制システム。
【請求項2】
前記劣化抑制手段が、加熱されることにより接合力が低下する粘着テープである請求項
1に記載の構造物劣化抑制システム。
【請求項3】
前記第1の情報記録手段が、バーコード情報、QRコード(登録商標)情報、電子情報及び磁気情報から選ばれる少なくとも1種を記録可能な記録媒体である請求項1
又は2に記載の構造物劣化抑制システム。
【請求項4】
前記加熱手段が、熱風放出装置、赤外線照射装置、電磁誘導装置及びマイクロ波照射装置から選ばれる少なくとも1種である請求項1~
3のいずれか1項に記載の構造物劣化抑制システム。
【請求項5】
前記構造物が、セメント系構造物である請求項1~
4のいずれか1項に記載の構造物劣化抑制システム。
【請求項6】
前記構造物の劣化に関する情報を記録する第2の情報記録手段を更に含み、前記第2の情報記録手段が、前記構造物が設置されている屋外環境とは異なる環境下に配置されている請求項1~
5のいずれか1項に記載の構造物劣化抑制システム。
【請求項7】
前記第2の情報記録手段が、パーソナルコンピュータ、タブレット、スマートホン及びサーバーから選ばれる少なくとも1種である請求項
6に記載の構造物劣化抑制システム。
【請求項8】
前記粘着テープが、基材と、粘着層とを含み、
前記粘着層は、粘着剤と、側鎖結晶化ポリマー又は熱膨張性粒子とを含み、
表面粗さRaが100μm以下のセメント系構造物に対する前記粘着層側の粘着力が、JIS Z0237の規定に準じて測定した180°ピール力として、温度23℃、相対湿度50%の環境下で測定した場合に、6N/10mm以上であり、温度60℃以上、相対湿度5%以下の環境下で測定した場合に、1N/10mm以下である請求項
2に記載の構造物劣化抑制システム。
【請求項9】
前記粘着層は、電磁誘導又はマイクロ波照射により加熱が可能な材料を更に含む請求項
8に記載の構造物劣化抑制システム。
【請求項10】
前記粘着テープが、基材と、粘着層と、機能層とをこの順に含み、
前記粘着層は、粘着剤を含み、
前記機能層は、タック性樹脂と、側鎖結晶化ポリマー又は熱膨張性粒子とを含み、
表面粗さRaが100μm以下のセメント系構造物に対する前記粘着層側の粘着力が、JIS Z0237の規定に準じて測定した180°ピール力として、温度23℃、相対湿度50%の環境下で測定した場合に、6N/10mm以上であり、温度60℃以上、相対湿度5%以下の環境下で測定した場合に、1N/10mm以下であり、
前記機能層側のタック性が、JIS Z0237に規定するボールタック試験におけるボールナンバーとして、5以上である請求項
2に記載の構造物劣化抑制システム。
【請求項11】
前記粘着層及び前記機能層から選ばれる少なくとも一方が、電磁誘導又はマイクロ波照射により加熱が可能な材料を更に含む請求項
10に記載の構造物劣化抑制システム。
【請求項12】
前記粘着層と前記機能層との間に、開口部を備えた金属層を更に含み、
前記金属層は、電磁誘導又はマイクロ波照射により加熱が可能である請求項
10に記載の構造物劣化抑制システム。
【請求項13】
示差走査熱量測定法で測定した前記側鎖結晶化ポリマーの吸熱ピークが、50℃以上である請求項
8又は10に記載の構造物劣化抑制システム。
【請求項14】
前記熱膨張性粒子を60℃以上に加熱した時の膨張倍率が、前記熱膨張性粒子の23℃の体積に対して、2倍以上150倍以下である請求項
8又は10に記載の構造物劣化抑制システム。
【請求項15】
請求項1~
5又は8~14のいずれか1項に記載の構造物劣化抑制システムの使用方法であって、
前記構造物を検査して、前記構造物の劣化情報を含む初期情報を取得する工程と、
前記初期情報から前記構造物に劣化があるか否かを判断する工程と、
前記構造物に劣化があると判断した場合に、前記構造物の補修が必要か否かを判断する工程と、
前記構造物に劣化はあるが、補修は必要ないと判断した場合に、前記初期情報を前記第1の情報記録手段に記録する工程と、
前記構造物に劣化はあるが、補修は必要ないと判断した場合に、前記構造物の劣化部分に、前記構造物の劣化を抑制する前記劣化抑制手段を接合させる工程と、
前記劣化抑制手段を接合させた前記構造物を一定期間、自然環境下で放置する工程と、
前記構造物を一定期間、自然環境下で放置した後に、前記劣化抑制手段を前記加熱手段により加熱して、前記構造物に対する前記劣化抑制手段の接合力を低下させる工程と、
前記劣化抑制手段の接合力を低下させた後に、前記劣化抑制手段を前記構造物から分離する工程と、
前記劣化抑制手段を前記構造物から分離した後に、前記構造物を検査して、前記構造物の劣化情報を含む放置後情報を取得すると共に、前記放置後情報を前記第1の情報記録手段に記録する工程と、
前記放置後情報から前記構造物の補修が必要か否かを判断する工程と、
前記構造物の補修の要否を判断した結果、補修不要と判断された場合には、前記構造物の劣化部分に、新たな劣化抑制手段を再度接合させる工程とを含むことを特徴とする構造物劣化抑制システムの使用方法。
【請求項16】
前記初期情報と、前記放置後情報とを比較する工程を更に含む請求項
15に記載の構造物劣化抑制システムの使用方法。
【請求項17】
請求項
6又は7に記載の構造物劣化抑制システムの使用方法であって、
前記構造物を検査して、前記構造物の劣化情報を含む初期情報を取得する工程と、
前記初期情報から前記構造物に劣化があるか否かを判断する工程と、
前記構造物に劣化があると判断した場合に、前記構造物の補修が必要か否かを判断する工程と、
前記構造物に劣化はあるが、補修は必要ないと判断した場合に、前記初期情報にコード情報を付与し、前記コード情報を前記第1の情報記録手段に記録すると共に、前記初期情報と前記コード情報とを前記第2の情報記録手段に記録する工程と、
前記構造物に劣化はあるが、補修は必要ないと判断した場合に、前記構造物の劣化部分に、前記構造物の劣化を抑制する前記劣化抑制手段を接合させる工程と、
前記劣化抑制手段を接合させた前記構造物を一定期間、自然環境下で放置する工程と、
前記構造物を一定期間、自然環境下で放置した後に、前記劣化抑制手段を前記加熱手段により加熱して、前記構造物に対する前記劣化抑制手段の接合力を低下させる工程と、
前記劣化抑制手段の接合力を低下させた後に、前記劣化抑制手段を前記構造物から分離する工程と、
前記劣化抑制手段を前記構造物から分離した後に、前記構造物を検査して、前記構造物の劣化情報を含む放置後情報を取得すると共に、前記放置後情報を前記第2の情報記録手段に記録する工程と、
前記放置後情報から前記構造物の補修が必要か否か判断する工程と、
前記構造物の補修の要否を判断した結果、補修不要と判断された場合には、前記構造物の劣化部分に、新たな劣化抑制手段を再度接合させる工程とを含むことを特徴とする構造物劣化抑制システムの使用方法。
【請求項18】
前記第1の情報記録手段に記録された前記コード情報に基づき、前記第2の情報記録手段から前記初期情報を読み出して、前記初期情報と、前記放置後情報とを比較する工程を更に含む請求項
17に記載の構造物劣化抑制システムの使用方法。
【請求項19】
前記初期情報及び前記放置後情報は、それぞれ、前記構造物の位置情報、前記劣化部分の位置情報及び前記構造物の環境情報から選ばれる少なくとも1種を更に含む請求項
15~
18のいずれか1項に記載の構造物劣化抑制システムの使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ひび割れしたコンクリート構造物等に対する構造物劣化抑制システム及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁やトンネル等に使用されているコンクリート構造物は、時間とともに疲労や塩害やアルカリ骨材反応等によりひび割れが発生することがある。ひび割れた状態で長期間経過すると、ひび割れ部分から雨水や炭酸ガス等がコンクリートの深部まで進入し、鉄筋が腐食することによりコンクリートそのものの強度が低下し、橋梁やトンネルの崩落といった重大な事故を引き起こす可能性がある。このような状況において、コンクリート構造物をはじめとしたインフラの点検が5年に1回確実に行われる枠組みが構築されている。
【0003】
環境条件にもよるが、ひび割れを放置することはコンクリートの劣化の進行を意味することから、何らかの対処ができることが望ましい。このため、コンクリートにひび割れが生じた早い段階での補修対策が必要となる。コンクリートのひび割れの補修方法として、アルカリ金属ケイ酸塩を含有する水溶液からなる下地処理剤を塗布してひび割れの内部に浸入させた後、無機フィラーが分散したパテ材を上記ひび割れの内部に充填して補修する方法(例えば、特許文献1)や、コンクリートのひび割れ部分に沿って、自己修復材料を含むペーストを塗布する方法(例えば、特許文献2)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-001195号公報
【文献】特開2013-014453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1及び2に記載のようにひび割れ部に補修材料を直接的に充填又は塗布する方法では、その実施に際して、作業用の足場を設けたり、専門家による補修作業を伴うような大規模工事が必要となる。一方、地方自治体におけるコンクリート構造物の維持管理では、補修費が十分に確保できなかったり、ひび割れに伴う劣化グレードの判断が曖昧になったりするなど、点検者が点検時に発見した比較的幅の広いひび割れにその場で対応できないといった問題があった。
【0006】
本発明は、上記問題を解消するためになされたものであり、構造物のひび割れ等の劣化を発見した点検者が簡単に施工でき、施工中は構造物の劣化を抑制すことができる構造物劣化抑制システム及びその使用方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の構造物劣化抑制システムは、構造物の表面に接合させることにより、前記構造物の劣化を抑制する劣化抑制手段と、前記構造物の劣化に関する情報を記録する第1の情報記録手段と、前記劣化抑制手段を加熱する加熱手段とを含み、前記劣化抑制手段は、加熱されることにより前記構造物に対する接合力が低下する部材である。
【0008】
また、本発明の第1の構造物劣化抑制システムの使用方法は、上記本発明の構造物劣化抑制システムを使用する方法であって、前記構造物を検査して、前記構造物の劣化情報を含む初期情報を取得する工程と、前記初期情報から前記構造物に劣化があるか否かを判断する工程と、前記構造物に劣化があると判断した場合に、前記構造物の補修が必要か否かを判断する工程と、前記構造物に劣化はあるが、補修は必要ないと判断した場合に、前記初期情報を前記第1の情報記録手段に記録する工程と、前記構造物に劣化はあるが、補修は必要ないと判断した場合に、前記構造物の劣化部分に、前記構造物の劣化を抑制する前記劣化抑制手段を接合させる工程と、前記劣化抑制手段を接合させた前記構造物を一定期間、自然環境下で放置する工程と、前記構造物を一定期間、自然環境下で放置した後に、前記劣化抑制手段を前記加熱手段により加熱して、前記構造物に対する前記劣化抑制手段の接合力を低下させる工程と、前記劣化抑制手段の接合力を低下させた後に、前記劣化抑制手段を前記構造物から分離する工程と、前記劣化抑制手段を前記構造物から分離した後に、前記構造物を検査して、前記構造物の劣化情報を含む放置後情報を取得すると共に、前記放置後情報を前記第1の情報記録手段に記録する工程と、前記放置後情報から前記構造物の補修が必要か否かを判断する工程と、前記構造物の補修の要否を判断した結果、補修不要と判断された場合には、前記構造物の劣化部分に、新たな劣化抑制手段を再度接合させる工程とを含む。
【0009】
また、本発明の第2の構造物劣化抑制システムの使用方法は、上記本発明の構造物劣化抑制システムを使用する方法であって、前記構造物を検査して、前記構造物の劣化情報を含む初期情報を取得する工程と、前記初期情報から前記構造物に劣化があるか否かを判断する工程と、前記構造物に劣化があると判断した場合に、前記構造物の補修が必要か否かを判断する工程と、前記構造物に劣化はあるが、補修は必要ないと判断した場合に、前記初期情報にコード情報を付与し、前記コード情報を前記第1の情報記録手段に記録すると共に、前記初期情報と前記コード情報とを前記第2の情報記録手段に記録する工程と、前記構造物に劣化はあるが、補修は必要ないと判断した場合に、前記構造物の劣化部分に、前記構造物の劣化を抑制する前記劣化抑制手段を接合させる工程と、前記劣化抑制手段を接合させた前記構造物を一定期間、自然環境下で放置する工程と、前記構造物を一定期間、自然環境下で放置した後に、前記劣化抑制手段を前記加熱手段により加熱して、前記構造物に対する前記劣化抑制手段の接合力を低下させる工程と、前記劣化抑制手段の接合力を低下させた後に、前記劣化抑制手段を前記構造物から分離する工程と、前記劣化抑制手段を前記構造物から分離した後に、前記構造物を検査して、前記構造物の劣化情報を含む放置後情報を取得すると共に、前記放置後情報を前記第2の情報記録手段に記録する工程と、前記放置後情報から前記構造物の補修が必要か否か判断する工程と、前記構造物の補修の要否を判断した結果、補修不要と判断された場合には、前記構造物の劣化部分に、新たな劣化抑制手段を再度接合させる工程とを含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、構造物の点検者が、点検直後に簡便な方法で施工でき、且つ、施工中は構造物の劣化を十分抑制すことができ、また、必要時に簡単に再点検できる構造物劣化抑制システム及びその使用方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施形態の構造物劣化抑制システムの一例を示す概略図である。
【
図2】
図2は、実施形態の構造物劣化抑制システムの他の例を示す概略図である。
【
図3】
図3は、実施形態の粘着テープの一例を示す概略断面図である。
【
図4】
図4は、実施形態の粘着テープの他の例を示す概略断面図である。
【
図5】
図5は、実施形態の粘着テープの更に他の例を示す概略断面図である。
【
図6】
図6は、実施形態の構造物劣化抑制システムの使用方法のフローチャートの一例である。
【
図7】
図7は、実施形態の粘着テープをコンクリートのひび割れ部に貼り合わせた状態の一例を示す概略断面図である。
【
図8】
図8は、コンクリートに貼り合わせた実施形態の粘着テープを加熱している状態の一例を示す概略断面図である。
【
図9】
図9は、コンクリートのひび割れ部から実施形態の粘着テープを剥離した状態の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(構造物劣化抑制システム)
本願で開示する構造物劣化抑制システムの実施形態について説明する。本実施形態の構造物劣化抑制システムは、構造物の表面に接合させることにより、上記構造物の劣化を抑制する劣化抑制手段と、上記構造物の劣化に関する情報を記録する第1の情報記録手段と、上記劣化抑制手段を加熱する加熱手段とを備え、上記劣化抑制手段は、加熱されることにより上記構造物に対する接合力が低下する部材で構成されている。
【0013】
本実施形態の構造物劣化抑制システムによれば、構造物の点検者が、点検直後に簡便な方法で施工でき、且つ、施工中は構造物の劣化を十分抑制すことができ、また、必要時に簡単に再点検できる。
【0014】
上記劣化抑制手段と上記第1の情報記録手段とは、一体化していてもよい。一体化している場合には、構造物への上記劣化抑制手段と上記第1の情報記録手段との設置工程を簡便に行なうことができる。
【0015】
また、上記第1の情報記録手段は、上記劣化抑制手段から分離して、上記構造物に接合可能であってもよい。分離している場合には、上記劣化抑制手段の作製を簡便に行なえる。
【0016】
上記劣化抑制手段は、加熱されることにより接合力が低下する粘着テープであることが好ましい。上記粘着テープは、容易に構造物に接合できるからである。
【0017】
上記第1の情報記録手段は、バーコード情報、QRコード(登録商標)情報、電子情報及び磁気情報から選ばれる少なくとも1種を記録可能な記録媒体であることが好ましい。これらの情報は、入出力が容易だからである。
【0018】
上記加熱手段は、熱風放出装置、赤外線照射装置、電磁誘導装置及びマイクロ波照射装置から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。これらの装置により、上記劣化抑制手段を簡便に加熱できるからである。
【0019】
検査対象となる構造物は、通常、セメントを含む材料から形成されているセメント系構造物である。本願において、セメント系構造物には、コンクリート構造物及びモルタル構造物が含まれる。
【0020】
本実施形態の構造物劣化抑制システムは、上記構造物の劣化に関する情報を記録する第2の情報記録手段を更に備え、上記第2の情報記録手段は、上記構造物が設置されている屋外環境とは異なる環境下に配置することが好ましい。通常、上記第1の情報記録手段は、上記構造物と共に屋外に設置されるため、屋外環境によっては記録した情報が消失する可能性があるが、上記第2の情報記録手段は、上記構造物が設置されている屋外環境とは異なる環境下に配置されるため、記録した情報が消失する可能性が小さいからである。
【0021】
上記第1の情報記録手段及び上記第2の情報記録手段は、どちらか一方だけでもよく、両方を備えてもよい。
【0022】
上記第2の情報記録手段としては、具体的には、パーソナルコンピュータ、タブレット、スマートホン及びサーバーから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。情報の保存安定性に優れているからである。
【0023】
上記粘着テープは、基材と、粘着層とを備え、上記粘着層は、粘着剤と、側鎖結晶化ポリマー又は熱膨張性粒子とを含み、表面粗さRaが100μm以下のセメント系構造物に対する上記粘着層側の粘着力が、JIS Z0237の規定に準じて測定した180°ピール力として、温度23℃、相対湿度50%の環境下で測定した場合に、6N/10mm以上であり、温度60℃以上、相対湿度5%以下の環境下で測定した場合に、1N/10mm以下であることが好ましい。加熱することにより、簡便に粘着テープを構造物から剥離することができるからである。
【0024】
上記粘着層は、電磁誘導又はマイクロ波照射により加熱が可能な材料を更に含むことが好ましい。電磁誘導加熱又はマイクロ波加熱という簡便な加熱方法で粘着テープを加熱できるからである。
【0025】
また、上記粘着テープは、基材と、粘着層と、機能層とをこの順に備え、上記粘着層は、粘着剤を含み、上記機能層は、タック性樹脂と、側鎖結晶化ポリマー又は熱膨張性粒子とを含み、表面粗さRaが100μm以下のセメント系構造物に対する上記粘着層側の粘着力が、JIS Z0237の規定に準じて測定した180°ピール力として、温度23℃、相対湿度50%の環境下で測定した場合に、6N/10mm以上であり、温度60℃以上、相対湿度5%以下の環境下で測定した場合に、1N/10mm以下であり、上記機能層側のタック性が、JIS Z0237に規定するボールタック試験におけるボールナンバーとして、5以上であることが好ましい。貼り合わせた直後の粘着テープの剥離を防止でき、且つ、加熱することにより、簡便に粘着テープを構造物から剥離することができるからである。
【0026】
上記粘着層及び上記機能層から選ばれる少なくとも一方が、電磁誘導又はマイクロ波照射により加熱が可能な材料を更に含むことが好ましい。電磁誘導加熱又はマイクロ波加熱という簡便な加熱方法で粘着テープを加熱できるからである。
【0027】
上記粘着テープは、上記粘着層と上記機能層との間に、開口部を備えた金属層を更に備え、上記金属層は、電磁誘導又はマイクロ波照射により加熱が可能であることが好ましい。電磁誘導加熱又はマイクロ波加熱という簡便な加熱方法で金属層を加熱でき、これにより金属層に近接する機能層をも加熱できるからである。
【0028】
また、示差走査熱量測定法で測定した上記側鎖結晶化ポリマーの吸熱ピークが、50℃以上であることが好ましい。これにより、粘着テープを50℃以上に加熱することにより、粘着テープの粘着力を低下させることができる。
【0029】
更に、上記熱膨張性粒子を60℃以上に加熱した時の膨張倍率が、上記熱膨張性粒子の23℃の体積に対して、2倍以上150倍以下であることが好ましい。これにより、粘着テープを60℃以上に加熱することにより、粘着テープの粘着力を低下させることができる。
【0030】
次に、本実施形態の構造物劣化抑制システムを図面に基づき説明する。
【0031】
図1は、本実施形態の構造物劣化抑制システムの一例を示す概略図である。
図1において、構造物劣化抑制システム10は、劣化抑制手段11と、第1の情報記録手段12と、加熱手段13と、第2の情報記録手段14とを備えている。第1の情報記録手段12は、劣化抑制手段11の上に設置されており、劣化抑制手段11と第1の情報記録手段12とは、一体化されて構造物15に接合されている。また、第1の情報記録手段12は、劣化抑制手段11の内部に配置してもよい。
【0032】
劣化抑制手段11としては、例えば、前述の粘着テープが使用できる。また、第1の情報記録手段12としては、例えば、バーコード、QRコード(登録商標)等を表示可能なシート、電子情報を記録可能なICチップ、磁気情報を記録可能な磁気シート等を使用できる。
【0033】
加熱手段13としては、例えば、熱風放出装置、赤外線照射装置、電磁誘導装置、マイクロ波照射装置等を使用できる。
【0034】
第2の情報記録手段14としては、パーソナルコンピュータ、タブレット、スマートホン、サーバー等を使用できる。
【0035】
劣化抑制手段11は、構造物15の表面に接合させることにより、構造物15を外気と遮断し、構造物15の劣化を抑制するために使用され、第1の情報記録手段12は、構造物の劣化情報等を記録するために使用され、加熱手段13は、劣化抑制手段11を加熱するために使用される。第2の情報記録手段14を備えていなくてもよいが、第2の情報記録手段14は、通常、屋外環境以外の環境下に設置されるので、屋外に設置される第1の情報記録手段12に比べて、情報の保存安定性に優れている。
【0036】
図2は、本実施形態の構造物劣化抑制システムの他の例を示す概略図である。
図2において、構造物劣化抑制システム20は、劣化抑制手段11と第1の情報記録手段12とが、分離して、それぞれ構造物15に接合されている以外は、
図1に示した構造物劣化抑制システム10と同様の構成であり、同様に機能する。
【0037】
<粘着テープ>
次に、本実施形態の構造物劣化抑制システムにおいて、劣化抑制手段として用いる粘着テープについて詳細に説明する。
【0038】
本願で開示する第1の形態の粘着テープは、基材と、粘着層とを備え、上記粘着層は、粘着剤と、側鎖結晶化ポリマー又は熱膨張性粒子とを含み、表面粗さRaが100μm以下のセメント系構造物に対する上記粘着層側の粘着力が、JIS Z0237の規定に準じて測定した180°ピール力として、温度23℃、相対湿度50%の環境下で測定した場合に、6N/10mm以上であり、温度60℃以上、相対湿度5%以下の環境下で測定した場合に、1N/10mm以下である。
【0039】
また、本願で開示する第2の形態の粘着テープは、基材と、粘着層と、機能層とをこの順に備え、上記粘着層は、粘着剤を含み、上記機能層は、タック性樹脂と、側鎖結晶化ポリマー又は熱膨張性粒子とを含み、表面粗さRaが100μm以下のセメント系構造物に対する上記粘着層側の粘着力が、JIS Z0237の規定に準じて測定した180°ピール力として、温度23℃、相対湿度50%の環境下で測定した場合に、6N/10mm以上であり、温度60℃以上、相対湿度5%以下の環境下で測定した場合に、1N/10mm以下であり、上記機能層側のタック性が、JIS Z0237に規定するボールタック試験におけるボールナンバーとして、5以上である。
【0040】
上記粘着テープは、その粘着層に粘着剤を含むことにより、セメント系構造物といった凹凸面に追従可能で、且つ、上記粘着テープとセメント系構造物とを確実に接着でき、広い温度領域で外気とセメント系構造物との接触を遮断できる。これにより、セメント系構造物のひび割れ等の劣化部分から雨水やCO2の侵入を抑制できると共に、セメント系構造物の塩害やアルカリ骨材反応を防止することが可能となり、セメント系構造物内に鉄筋等が存在する場合でも、その鉄筋等の腐食を防止でき、ひび割れしたセメント系構造物に対しての保護性能を確保することができる。
【0041】
また、上記粘着テープは、側鎖結晶化ポリマー又は熱膨張性粒子を含んでいるので、上記粘着テープを加熱することにより、上記粘着テープの粘着力を低下させることができ、セメント系構造物側に粘着層の残渣(糊残り)を生じることなく、セメント系構造物から上記粘着テープを剥がすことができる。具体的には、表面粗さRaが100μm以下のセメント系構造物に対する上記粘着層側の粘着力を、JIS Z0237の規定に準じて測定した180°ピール力として、温度23℃、相対湿度50%の環境下で測定した場合に、6N/10mm以上とすることができ、通常の環境下では粘着力を維持できる。また、表面粗さRaが100μm以下のセメント系構造物に対する上記粘着層側の粘着力を、JIS Z0237の規定に準じて測定した180°ピール力として、温度60℃以上、相対湿度5%以下の環境下で測定した場合に、1N/10mm以下にすることができ、上記粘着テープを60℃以上に加熱することにより、粘着力を低下させることができ、必要に応じて糊残りなく簡単に剥離できる。
【0042】
上記セメント系構造物の表面粗さRaは、例えば、キーエンス社製のレーザー顕微鏡“VK-9710”で測定できる。
【0043】
以下、本願で開示する粘着テープの実施形態について説明する。
【0044】
〔基材〕
上記基材としては、樹脂製基材が挙げられ、その樹脂製基材としては、具体的には、ポリオレフィン系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体、アイオノマー系樹脂、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-ヘキセン共重合体、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエーテルケトン系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ポリカーボネート系樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、セルロース系樹脂、及び、これらの樹脂の架橋体等の構成材料からなる基材が挙げられる。これらの中でも、ポリエステル系樹脂であるポリエチレンテレフタレート(PET)が機械的特性及び価格面からより好ましい。これらの構成材料は、1種又は2種以上を使用できる。また、上記構成材料は、必要に応じて、官能基を有していてもよい。また、機能性モノマーや改質性モノマーが構成材料にグラフトされていてもよい。
【0045】
上記基材の厚さは、特に制限されるものではないが、好ましくは30~300μmであり、より好ましくは50~150μmである。上記基材の厚さが30μm未満の場合、本実施形態の粘着テープ自体の強度が不足する傾向があり、300μmを超えると、コストが高くなる。
【0046】
〔粘着層〕
本実施形態の粘着テープに用いる粘着層は、上記粘着テープに本来の粘着力を付与するためのものであり、より具体的には、表面粗さRaが100μm以下のセメント系構造物に対する上記粘着テープの粘着層側の粘着力を、JIS Z0237の規定に準じて測定した180°ピール力として、温度23℃、相対湿度50%の環境下で測定した場合に、6N/10mm以上とするために設けるものである。
【0047】
上記粘着剤は、天然ゴム系粘着成分、合成ゴム系粘着成分、シリコーン系粘着成分、アクリル系粘着成分、及びポリエステル系粘着成分からなる群から選択される少なくとも1種の粘着成分を含んでいる。
【0048】
[天然ゴム系粘着成分]
天然ゴム系粘着成分としては、ゴムの木(ヘベアブラジリエンシス)の樹脂液のみから採取されるシス-1,4-ポリプレン系からなるゴム等が挙げられる。
【0049】
[合成ゴム系粘着成分]
合成ゴム系粘着成分としては、スチレン・ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、ブチルゴム、エチレン・プロピレンゴム、エチレン・プロピレン・ジエンゴム等が挙げられる。
【0050】
[シリコーン系粘着成分]
シリコーン系粘着成分としては、付加反応型シリコーン系粘着成分及び過酸化物硬化型シリコーン系粘着成分が挙げられ、これらを単独で用いてもよく、併用してもよい。
【0051】
[アクリル系粘着成分]
アクリル系粘着成分としては、(メタ)アクリル酸エステルモノマーを共重合させることにより得られるものが挙げられる。(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル等が挙げられる。また、(メタ)アクリル酸エステルモノマーに、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、フマル酸、イタコン酸、(無水)マレイン酸等の官能基を含むモノマーや、酢酸ビニル、アクリロニトリル、スチレン、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、2-メチロールエチルアクリルアミド等を添加して共重合させてもよい。
【0052】
[ポリエステル系粘着成分]
ポリエステル系粘着成分としては、多価カルボン酸(例えば、ジカルボン酸)とポリアルコール(例えば、ジオール)とを重縮合体させることにより得られるものが挙げられる。上記ジカルボン酸としては、例えば、アジピン酸、アゼライン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、4-メチル-1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、ドデセニル無水琥珀酸、フマル酸、琥珀酸、ドデカン二酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸等の脂肪族や脂環族ジカルボン酸等や、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、2,2’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸等が挙げられる。上記ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、2,2,4-トリメチル-1,5-ペンタンジオール、2-エチル-2-ブチルプロパンジオール、1,9-ノナンジオール、2-メチルオクタンジオール、1,10-デカンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,2-シクロヘキサンジメタノール等の脂肪族グリコール等が挙げられる。
【0053】
上記粘着剤は、上記粘着成分と共に架橋剤を含むことが好ましく、更に必要に応じて架橋促進剤、充填剤、軟化剤、粘着付与剤、老化防止剤等を含むことができる。
【0054】
上記粘着層の厚さは、セメント系構造物の凹凸面への追従性に応じて決定でき、特に制限されるものではないが、200~5000μmが好ましく、500~1000μmがより好ましい。上記粘着層の厚さが、200μm未満だと、セメント系構造物のひび割れ表面の凹凸に追従できない傾向があり、また、温度23℃、相対湿度50%の環境下でのJIS Z0237の規定に準じて測定した180°ピール力が6N/10mmを得られない傾向にある。一方、上記粘着層の厚さが、5000μmを超えても、ひび割れ表面の凹凸に対する追従性に大きな変化はないが、剥離時にセメント系構造物に糊残りが生じる傾向がある。
【0055】
上記第1の形態の粘着テープの粘着層は、更に側鎖結晶化ポリマー又は熱膨張性粒子を含んでいる。上記側鎖結晶化ポリマー及び上記熱膨張性粒子は、上記粘着テープを加熱した際に上記粘着テープの粘着力を低下させる成分である。上記側鎖結晶化ポリマー及び上記熱膨張性粒子は、上記第2の形態の粘着テープの機能層に含まれる側鎖結晶化ポリマー及び熱膨張性粒子と同様のものであり、上記側鎖結晶化ポリマー及び上記熱膨張性粒子の詳細については後述する。
【0056】
〔機能層〕
上記第2の形態の粘着テープは機能層を備え、上記機能層は、上記粘着テープを60℃以上に加熱した際に上記粘着テープの粘着力を低下させる機能、及び、セメント系構造物に上記粘着テープを貼り合わせた直後の初期接着性を高める機能を付与するためのものである。上記機能層は、タック性樹脂と、側鎖結晶化ポリマー又は熱膨張性粒子とを含んでいる。
【0057】
[側鎖結晶化ポリマー]
上記側鎖結晶化ポリマーは、上記粘着テープを50℃以上で加熱した際に上記粘着テープの粘着力を低下させる成分である。上記側鎖結晶化ポリマーは、示差走査熱量測定法(DSC)で測定した吸熱ピークが50℃以上である。DSCは、測定試料と基準物質との間の熱量の差を示差走査熱量計で計測することで、測定試料の融点等を測定する熱分析手法であり、上記基準物質としてα-アルミナ等を用いることができる。
【0058】
上記側鎖結晶化ポリマーは、炭素数18以上のアルカン鎖を有する直鎖アクリレートと、溶解度パラメータ(SP値)が7.3~9.5のアクリル系モノマーとの共重合体であることが好ましい。
【0059】
上記炭素数18以上のアルカン鎖を有する直鎖アクリレートとしては、例えば、ステアリルアクリレート、ベヘニルアクリレート、リグノセリチルアクリレート、セロチニルアクリレート、モンタンニルアクリレート、メリシンニルアクリレート等を使用できる。上記直鎖アクリレートを用いることにより、上記側鎖結晶化ポリマーのDSCで測定した吸熱ピークを50℃以上とすることができる。
【0060】
また、上記溶解度パラメータが7.3~9.5のアクリル系モノマーとしては、例えば、アクリル酸、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル等を使用できる。上記アクリル系モノマーを用いることにより、上記側鎖結晶化ポリマーと上記タック性樹脂との相溶性を向上できる。
【0061】
また、上記側鎖結晶化ポリマーの重量平均分子量は、1000~15000であることが好ましく、5000~12000がより好ましい。
【0062】
上記粘着テープの機能層における上記側鎖結晶化ポリマーの含有量は、上記タック性樹脂100質量部に対して、1~20質量部であることが好ましく、1~10質量部であることがより好ましい。上記含有量が1質量部より少ないと、50℃以上で加熱した後の粘着力が低下せず、セメント系構造物からの剥離が難しくなる。また、上記含有量が20質量部より多いと、50℃まで加熱する前に、夏場の高温時に剥離してしまう恐れがある。
【0063】
[熱膨張性粒子]
上記熱膨張性粒子は、上記粘着テープを60℃以上に加熱した際に上記粘着テープの粘着力を低下させる成分である。上記熱膨張性粒子は、60℃以上に加熱した時の膨張倍率が、23℃の体積に対して、2倍以上150倍以下、好ましくは5倍以上30倍以下となるものであれば、特にその構成は限定されないが、熱可塑性樹脂からなる外殻と、上記外殻内に内包された炭素数5~12の炭化水素とを含む熱膨張性粒子が好ましく用いられる。
【0064】
上記熱膨張性粒子の外殻を構成する熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂、アクリル系樹脂、アクリロニトリル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリビニルブチラール系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂等が挙げられる。
【0065】
また、上記熱膨張性粒子の外殻内に内包される炭素数5~12の炭化水素は、常温で液状であり、60℃以上で気化する低沸点炭化水素であれば特にその種類は限定されない。
【0066】
上記熱膨張性粒子の平均粒子径は特に限定されないが、例えば、5~50μmのものが用いられる。また、上記外殻の膜厚も特に限定されないが、例えば、2~15μmのものが用いられる。更に、上記熱膨張性粒子の膨張開始温度は60~100℃が好ましい。本実施形態の粘着テープを60~100℃に加熱することは比較的容易だからである。
【0067】
上記熱膨張性粒子としては、具体的には、例えば、松本油脂製薬社製の熱膨張マイクロカプセル“マツモトマイクロスフェアー”(商品名)、日本フィライト社製の熱膨張マイクロカプセル“エクスパンセル”(商品名)、大日精化工業社製の熱膨張性微粒子“ダイフォーム”(商品名)等を用いることができる。
【0068】
上記粘着テープの機能層における上記熱膨張性粒子の含有量は、上記タック性樹脂100質量部に対して、1~35質量部であることが好ましく、3~15質量部であることがより好ましい。上記含有量が1質量部より少ないと、上記粘着テープを60℃以上に加熱しても粘着力が低下しない傾向があり、セメント系構造物からの剥離が難しくなる。また、上記含有量が35質量部より多いと、上記粘着テープの常温での粘着力が低下する傾向がある。
【0069】
[タック性樹脂]
上記タック性樹脂は、上記機能層に、セメント系構造物に上記粘着テープを貼り合わせた直後の初期接着性を高める機能を付与する成分である。上記タック性樹脂としては、上記粘着テープの機能層側のタック性を、JIS Z0237に規定するボールタック試験におけるボールナンバーとして、5以上とすることができる樹脂であれば特に限定されないが、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、フッ素系樹脂、アラミド系樹脂、天然ゴム系樹脂、合成ゴム系樹脂、シリコーン系樹脂、及びウレタン系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂が使用できる。
【0070】
上記機能層にタック性樹脂を含ませることで、セメント系構造物に上記粘着テープを貼り合わせた直後の初期接着性を高め、貼り合わせ直後の粘着テープの端部の剥離が防止できる。具体的には、上記粘着テープの上記機能層側のタック性を、JIS Z0237に規定するボールタック試験におけるボールナンバーとして、5以上にできる。
【0071】
上記機能層の厚さは特に限定されないが、通常、5~100μmに設定される。上記機能層の厚さが上記範囲内であれば、前述の、上記粘着テープを60℃以上で加熱した際に上記粘着テープの粘着力を低下させる機能、及び、セメント系構造物に上記粘着テープを貼り合わせた直後の初期接着性を高める機能を発揮できるからである。
【0072】
<電磁誘導又はマイクロ波照射により加熱が可能な材料>
上記第1の形態の粘着テープでは、上記粘着層に電磁誘導又はマイクロ波照射により加熱が可能な材料を含めることが好ましい。また、上記第2の形態の粘着テープでは、上記粘着層及び上記機能層から選ばれる少なくとも一方に電磁誘導又はマイクロ波照射により加熱が可能な材料を含ませることが好ましい。
【0073】
上記電磁誘導又はマイクロ波照射により加熱が可能な材料を粘着テープに含ませることにより、例えば、電磁誘導加熱又はマイクロ波加熱という比較的簡便な加熱方法で、上記粘着テープを加熱して、上記粘着テープの粘着力を低下させることができ、セメント系構造物から上記粘着テープを残渣(糊残り)なく剥がすことができる。
【0074】
[電磁誘導加熱が可能な材料]
電磁誘導加熱は、電磁誘導により被加熱物に電流を流して発熱させるため、被加熱物は導電体であることが必要である。よって、上記電磁誘導加熱が可能な材料は、導電体から構成される。上記導電体としては、金属材料、導電性非金属材料等を使用できる。上記金属材料としては、例えば、アルミニウム、鉄、銅、銀、金、ニッケル、白金、亜鉛、鉛、ステンレス鋼等が好ましく、上記導電性非金属材料としては、例えば、カーボンブラック、炭素繊維、グラフェン等が好ましい。
【0075】
[マイクロ波加熱が可能な材料]
マイクロ波加熱は、300MHz~300GHzの電磁波の作用により被加熱物の分子運動とイオン伝導により発熱させるため、誘電体、導電体、磁性体の加熱が可能であるが、現実的には、主として誘電体の加熱に適している。上記誘電体としては、例えば、各種合成樹脂;炭化ケイ素、窒化ケイ素等のセラミックス;雲母等が使用でき、上記導電体としては、前述の電磁誘導加熱が可能な材料と同様の金属材料、導電性非金属材料等を使用でき、上記磁性体としては、例えば、酸化鉄、各種フェライト材料等を使用できる。
【0076】
上記機能層における上記電磁誘導加熱が可能な材料又は上記マイクロ波加熱が可能な材料の含有量は、上記粘着テープの機能層を60℃以上の温度に加熱できる量であれば特に限定されないが、例えば、上記タック性樹脂100質量部に対して、1~20質量部とすればよい。
【0077】
また、上記粘着層における上記電磁誘導加熱が可能な材料又は上記マイクロ波加熱が可能な材料の含有量も、上記粘着テープの粘着層又は機能層を60℃以上の温度に加熱できる量であれば特に限定されないが、例えば、上記粘着成分100質量部に対して、1~20質量部とすればよい。
【0078】
<金属層>
本実施形態の粘着テープは、上記粘着層と上記機能層との間に、開口部を備えた金属層を配置することができる。上記金属層は、電磁誘導又はマイクロ波照射により加熱が可能であり、加熱した金属層に近接する機能層を加熱する機能を有する。
【0079】
上記金属層は、アルミニウム、鉄、銅、銀、金、ニッケル、白金、亜鉛、鉛及びステンレス鋼からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0080】
一方、上記金属層は、粘着層と機能層との間に配置されるため、粘着層と機能層との接合を確保するために、開口部を備えている。
【0081】
上記金属層は、開口部を備え、電磁誘導又はマイクロ波照射により加熱が可能であればその形態は特に限定されないが、例えば、エキスパンドメタル、パンチングメタル、メッシュメタル等を使用できる。これらを金属層として使用する場合、その開口径は、開口部に内接する円の直径として、0.02~10.00mmの大きさであることが好ましい。
【0082】
また、金属不織布も小さな開口部を有するので、上記金属層として使用できる。上記金属不織布を金属層として用いる場合には、金属不織布のフラジール法で測定した通気度が、0.5~500cm3/cm2/secであることが好ましい。
【0083】
上記金属層の開口率は、10~85%であることが好ましい。上記開口率が、10%未満では粘着層と機能層との接合力が低下し、粘着層と機能層とが剥離してしまう虞があると共に、上記粘着テープの粘着力が低下する傾向にある。また、上記開口率が、85%を超えると電磁誘導又はマイクロ波照射による加熱が困難となる傾向がある。
【0084】
上記金属層の厚さは、10~500μmであることが好ましい。上記厚さが、10μm未満では電磁誘導又はマイクロ波照射により機能層を50℃以上に加熱できない傾向にあり、500μmを超えると粘着層と機能層との接合が困難になる傾向がある。
【0085】
次に、本実施形態の粘着テープを図面に基づき説明する。
図3は、本実施形態の粘着テープの一例を示す概略断面図である。
図3において、粘着テープ30は、基材31の上に粘着層32を備えている。また、
図4は、本実施形態の粘着テープの他の例を示す概略断面図である。
図4において、粘着テープ40は、基材41の上に粘着層42を備え、粘着層42の上に機能層43を備えている。
図5は、本実施形態の粘着テープの更に他の例を示す概略断面図である。
図5において、粘着テープ70は、基材71の上に粘着層72を備え、粘着層72の上に開口部73aを有する金属層73を備え、金属層73の上に機能層74を備えている。金属層73の開口部73aには、粘着層72の粘着剤が充填されており、この開口部73aに充填された粘着剤により、粘着層72と機能層74とは金属層73を介して接合される。
【0086】
本実施形態の粘着テープは、JIS K7126に規定する20℃での二酸化炭素透過率が、0.5g/(m2・24hr・1atm)以下であることが好ましい。上記二酸化炭素透過率が上記範囲内であれば、セメント系構造物の劣化を促進する二酸化炭素は勿論、セメント系構造物の劣化を促進する塩素イオン、水、酸素等も遮断することができる。
【0087】
(構造物劣化抑制システムの使用方法)
本願で開示する構造物劣化抑制システムの使用方法の実施形態を説明する。本実施形態の構造物劣化抑制システムの使用方法によれば、構造物の点検者が、点検直後に簡便な方法で施工でき、且つ、施工中は構造物の劣化を十分抑制すことができ、また、必要時に簡単に再点検できる。
【0088】
本願で開示する第1の形態の構造物劣化抑制システムの使用方法は、前述した構造物劣化抑制システムを使用する方法であり、前記構造物を検査して、前記構造物の劣化情報を含む初期情報を取得する工程と、前記初期情報から前記構造物に劣化があるか否かを判断する工程と、前記構造物に劣化があると判断した場合に、前記構造物の補修が必要か否かを判断する工程と、前記構造物に劣化はあるが、補修は必要ないと判断した場合に、前記初期情報を前記第1の情報記録手段に記録する工程と、前記構造物に劣化はあるが、補修は必要ないと判断した場合に、前記構造物の劣化部分に、前記構造物の劣化を抑制する前記劣化抑制手段を接合させる工程と、前記劣化抑制手段を接合させた前記構造物を一定期間、自然環境下で放置する工程と、前記構造物を一定期間、自然環境下で放置した後に、前記劣化抑制手段を前記加熱手段により加熱して、前記構造物に対する前記劣化抑制手段の接合力を低下させる工程と、前記劣化抑制手段の接合力を低下させた後に、前記劣化抑制手段を前記構造物から分離する工程と、前記劣化抑制手段を前記構造物から分離した後に、前記構造物を検査して、前記構造物の劣化情報を含む放置後情報を取得すると共に、前記放置後情報を前記第1の情報記録手段に記録する工程と、前記放置後情報から前記構造物の補修が必要か否か判断する工程と、前記構造物の補修の要否を判断した結果、補修不要と判断された場合には、前記構造物の劣化部分に、新たな劣化抑制手段を再度接合させる工程とを備えている。
【0089】
上記第1の形態の構造物劣化抑制システムの使用方法は、上記初期情報と、上記放置後情報とを比較する工程を更に備えることができる。これにより、構造物の劣化の進行状況を容易に把握できる。
【0090】
また、本願で開示する第2の形態の構造物劣化抑制システムの使用方法は、前述した構造物劣化抑制システムを使用する方法であり、前記構造物を検査して、前記構造物の劣化情報を含む初期情報を取得する工程と、前記初期情報から前記構造物に劣化があるか否かを判断する工程と、前記構造物に劣化があると判断した場合に、前記構造物の補修が必要か否かを判断する工程と、前記構造物に劣化はあるが、補修は必要ないと判断した場合に、前記初期情報にコード情報を付与し、前記コード情報を前記第1の情報記録手段に記録すると共に、前記初期情報と前記コード情報とを前記第2の情報記録手段に記録する工程と、前記構造物に劣化はあるが、補修は必要ないと判断した場合に、前記構造物の劣化部分に、前記構造物の劣化を抑制する前記劣化抑制手段を接合させる工程と、前記劣化抑制手段を接合させた前記構造物を一定期間、自然環境下で放置する工程と、前記構造物を一定期間、自然環境下で放置した後に、前記劣化抑制手段を前記加熱手段により加熱して、前記構造物に対する前記劣化抑制手段の接合力を低下させる工程と、前記劣化抑制手段の接合力を低下させた後に、前記劣化抑制手段を前記構造物から分離する工程と、前記劣化抑制手段を前記構造物から分離した後に、前記構造物を検査して、前記構造物の劣化情報を含む放置後情報を取得すると共に、前記放置後情報を前記第2の情報記録手段に記録する工程と、前記放置後情報から前記構造物の補修が必要か否か判断する工程と、前記構造物の補修の要否を判断した結果、補修不要と判断された場合には、前記構造物の劣化部分に、新たな劣化抑制手段を再度接合させる工程とを備えている。
【0091】
上記第2の形態の構造物劣化抑制システムの使用方法は、上記第1の情報記録手段に記録された上記コード情報に基づき、上記第2の情報記録手段から上記初期情報を読み出して、上記初期情報と、上記放置後情報とを比較する工程を更に備えることができる。これにより、構造物の劣化の進行状況を容易に把握できる。
【0092】
また、上記の第1の形態及び第2の形態の構造物劣化抑制システムの使用方法において、上記初期情報及び上記放置後情報は、それぞれ、上記構造物の位置情報、上記劣化部分の位置情報及び上記構造物の環境情報から選ばれる少なくとも1種を更に含むことが好ましい。これにより、構造物の劣化部分の詳細情報を把握できる。
【0093】
続いて、本実施形態の構造物劣化抑制システムの使用方法をフローチャートを用いて説明する。
図6は、本実施形態の構造物劣化抑制システムの使用方法のフローチャートの一例である。
【0094】
図6に示すように、本実施形態の構造物劣化抑制システムは、通常、構造物が新築又は補修され、その後当該構造物が自然環境下で一定期間放置された場合(ステップ1)の後に適用される。
【0095】
先ず、一定期間放置後の構造物を検査して、上記構造物の劣化情報を含む初期情報を取得する(ステップ2)。橋梁やトンネル等のコンクリート構造物の場合には、通常、5年間放置後に劣化の有無について検査が行なわれることになっている。
【0096】
次に、上記初期情報から上記構造物に劣化があるか否かを判断する(ステップ3)。その結果、上記構造物に劣化がないと判断した場合(ステップ3:No)には、ステップ1に戻り、更に上記構造物を自然環境下で一定期間放置する。
【0097】
一方、上記構造物に劣化があると判断した場合(ステップ3:Yes)には、上記構造物の補修が必要か否かを判断する(ステップ4)。その結果、上記構造物の補修が必要と判断した場合(ステップ4:Yes)には、補修を行なう(ステップ12)。次に、補修が終了するとステップ1に戻り、更に上記構造物を自然環境下で一定期間放置する。
【0098】
一方、上記構造物に劣化はあるが、補修は必要ないと判断した場合(ステップ4:No)には、上記第1の形態の構造物劣化抑制システムの使用方法では、上記初期情報を上記第1の情報記録手段に記録し、上記第2の形態の構造物劣化抑制システムの使用方法では、上記初期情報にコード情報を付与し、上記コード情報を上記第1の情報記録手段に記録すると共に、上記初期情報と上記コード情報とを上記第2の情報記録手段に記録する(ステップ5)。ここで、他の実施形態では、上記初期情報と上記コード情報とを上記第2の情報記録手段のみに記録してもよい。
【0099】
また、上記構造物に劣化はあるが、補修は必要ないと判断した場合に、上記構造物の劣化部分に、上記構造物の劣化を抑制する上記劣化抑制手段を接合させる(ステップ6)。具体的には、例えば、上記構造物の劣化部分に、上記構造物の劣化を抑制する前述の粘着テープを接合させる。
【0100】
その後、上記劣化抑制手段を接合させた上記構造物を一定期間、自然環境下で放置する(ステップ7)。放置期間は、前述のとおり、橋梁やトンネル等のコンクリート構造物の場合には、通常、5年である。
【0101】
次に、上記構造物を一定期間、自然環境下で放置した後に、上記劣化抑制手段を加熱手段により加熱して、上記構造物に対する上記劣化抑制手段の接合力を低下させる(ステップ8)。上記加熱としては、上記劣化抑制手段を直接加熱する熱風放出装置(例えば、ドライヤー等)、赤外線照射装置(例えば、赤外線ヒータ等)等を使用してもよいし、上記劣化抑制手段を間接的に加熱する電磁誘導装置、マイクロ波照射装置を用いてもよい。
【0102】
続いて、上記劣化抑制手段の接合力を低下させた後に、上記劣化抑制手段を上記構造物から分離する(ステップ9)。放置後の構造物の劣化状態を確認するためである。ここで、上記劣化抑制手段は、加熱により接合力が低下しているので、上記劣化抑制手段を上記構造物から容易に分離できる。
【0103】
次に、上記劣化抑制手段を上記構造物から分離した後に、上記構造物を検査して、上記構造物の劣化情報を含む放置後情報を取得し、上記第1の形態の構造物劣化抑制システムの使用方法では、上記放置後情報を上記第1の情報記録手段に記録し、上記第2の形態の構造物劣化抑制システムの使用方法では、上記放置後情報を上記第2の情報記録手段に記録する(ステップ10)。
【0104】
次に、上記放置後情報から上記構造物の補修が必要か否かを判断する(ステップ11)。その結果、補修不要と判断された場合(ステップ11:No)には、ステップ6に戻り、上記構造物の劣化部分に、新たな劣化抑制手段を再度接合させる。
【0105】
一方、上記構造物の補修が必要と判断された場合には、補修を行なう(ステップ12)。次に、補修が終了するとステップ1に戻り、更に上記構造物を自然環境下で一定期間放置する。
【0106】
本実施形態の構造物劣化抑制システムは、上記のとおり、運用できるが、必要に応じて、各ステップの順序は入れ替えることができる。例えば、ステップ10において、第1の形態の構造物劣化抑制システムの使用方法で、放置後情報の第1の情報記録手段への記録、及び、第2の形態の構造物劣化抑制システムの使用方法で、放置後情報の第2の情報記録手段への記録は、ステップ11の後において、劣化抑制手段を再度接合させた後に行なってもよい。そして、実際には、上記各ステップを繰り返して上記構造物の維持・管理が行なわれる。
【0107】
次に、上記劣化抑制手段として前述の第2の形態の粘着テープをコンクリート構造物に用いた構造物劣化抑制システムの使用方法の実施形態を図面に基づき説明する。但し、上記粘着テープの機能層は、側鎖結晶化ポリマー及び電磁誘導又はマイクロ波照射により加熱が可能な材料を含んでいるものとする。
【0108】
本実施形態の構造物劣化抑制システムの使用方法では、先ず、
図7に示すように、コンクリート50のひび割れ部51の上に、粘着テープ40の機能層43側を貼り合わせる。この際、粘着テープ40を基材41側から加圧してもよい。
【0109】
図7の状態で、次回の点検時まで一定期間放置する。その放置期間、例えば、5年間は、コンクリート50のひび割れ部51が粘着テープ40で覆われているため、それ以上コンクリートの劣化は進行しないか、又はその進行が遅くなる。
【0110】
次に、例えば、5年後の次回点検時に、
図8に示すように、粘着テープ40に、電磁誘導又はマイクロ波照射60を印加して、例えば、粘着テープ40を60℃以上に加熱する。その際、粘着テープ40の機能層43には、前述の側鎖結晶化ポリマーを含んでいるため、上記加熱時に粘着テープ40の粘着力が低下する。そのため、その後にコンクリート50から粘着テープ40を剥離しても、
図9に示すように、コンクリート50の表面に上記粘着層の糊残りが生じることがない。これにより、コンクリートの劣化状態の確認が容易となる。その後、コンクリート50のひび割れ部51の大きさ、深さ等を中心に、コンクリート構造物の全体の劣化状況を検討し、補修の要否を判断する。
【0111】
以上の工程により、簡便な方法でコンクリートの劣化防止と、コンクリート構造物の補修の必要性の判断が可能となる。
【0112】
上記粘着テープを用いることにより、コンクリート構造物の点検直後に簡便に上記粘着テープをコンクリートの劣化部分に常温で貼り付けて、確実に接着を維持できると共に、必要に応じて加熱することにより糊残りなく簡単に剥がすことができる。また、上記粘着テープをコンクリートの劣化部分に貼り付けている間、コンクリートの劣化を防止できると共に、上記粘着テープ自体の耐久性及び耐疲労性が大きいため、長期間に渡ってコンクリートの劣化を防止できる。
【0113】
また、上記粘着テープは、その粘着層に粘着剤を含むことにより、コンクリート構造物の表面といった凹凸面に追従可能で、広い温度領域で外気とコンクリートとの接触を遮断でき、コンクリートのひび割れ等の劣化部分から雨水やCO2の侵入を抑制できると共に、コンクリートの塩害やアルカリ骨材反応を防止することが可能となるため、コンクリート内の鉄筋の腐食を防止でき、ひび割れしたコンクリート構造物に対しての保護性能を確保することができる。
【0114】
また、上記粘着テープの機能層は、側鎖結晶化ポリマーを含んでいるので、上記粘着テープを、上記側鎖結晶化ポリマーの融点以上の温度で加熱することにより、上記粘着テープの粘着力を低下させることができ、コンクリート側に粘着層の残渣(糊残り)を生じることなく、コンクリートから上記粘着テープを剥がすことができる。これにより、コンクリートのひび割れ部等の劣化部分の大きさを目視で容易に確認でき、その時点(通常は前回の点検時から5年経過時)において本格的な補修工事が必要か否か判断できる。一般的には、この時点で当該コンクリートの劣化(ひび割れ)が大きく進んでいる場合には、補修工事がなされ、当該コンクリートの劣化が進んでいない場合には、更に5年間の経過観察が行われる。
【0115】
更に、上記加熱のためには、例えば、電磁誘導、マイクロ波照射等の簡便な方法を使用できるので、比較的簡便な方法で、上記粘着テープを加熱して、上記粘着テープの粘着力を低下させることができ、コンクリートから上記粘着テープを残渣(糊残り)なく剥がすことができる。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本願で開示する構造物劣化抑制システムは、簡便な方法で構造物の劣化防止と、その維持・管理ができ、特に土木・建設分野において有用である。
【符号の説明】
【0117】
10、20 構造物劣化抑制システム
11 劣化抑制手段
12 第1の情報記録手段
13 加熱手段
14 第2の情報記録手段
15 構造物
30、40、70 粘着テープ
31、41、71 基材
32、42、72 粘着層
43、74 機能層
50 コンクリート
51 ひび割れ部
60 電磁誘導又はマイクロ波照射
73 金属層
73a 開口部