(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-26
(45)【発行日】2023-11-06
(54)【発明の名称】電磁気測定による厚さ測定用マスターカーブの作成方法とその使用方法
(51)【国際特許分類】
G01B 7/06 20060101AFI20231027BHJP
【FI】
G01B7/06 M
(21)【出願番号】P 2020053220
(22)【出願日】2020-03-24
【審査請求日】2022-12-26
(73)【特許権者】
【識別番号】593199530
【氏名又は名称】一般財団法人発電設備技術検査協会
(74)【代理人】
【識別番号】100082429
【氏名又は名称】森 義明
(74)【代理人】
【識別番号】100162754
【氏名又は名称】市川 真樹
(72)【発明者】
【氏名】程 衛英
【審査官】櫻井 仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-121616(JP,A)
【文献】特開平05-231810(JP,A)
【文献】特開2008-304471(JP,A)
【文献】特開2009-186367(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 7/00- 7/34
G01N 27/00-27/10
G01N 27/14-27/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数掃引により、厚さ測定に使用されるコイル2の自己インピーダンスZo(ω)を計測するステップ1
1と、
厚さT
1の異なる単層標準試験体10上に前記コイル2を設置し、前記周波数掃引にて前記コイル2に通電し、前記複数の単層標準試験体10に渦電流をそれぞれ発生させて
前記コイル2のインピーダンスZ(ω)をセンシングするステップ2
1と、
前記インピーダンスZ(ω)を正規化
して前記単層標準試験体10の正規化インピーダンスZnor(ω)を算出するステップ3
1と、
ステップ3
1
で正規化された前記正規化インピーダンスZnor(ω)の周波数差分
値d
f(Znor)を算出するステップ4
1と、
前記周波数差分
値d
f(Znor)から特徴量となる極値を抽出し、前記特徴量と前記各単層標準試験体10の厚さT
1とをそれぞれ対応させ、前記
単層標準試験体10の厚さT
1に関する単層用マスターカーブを作成するステップ5
1とで構成されることを特徴とする厚さ測定用マスターカーブの作成方法。
【請求項2】
前記特徴量を、複素数である前記周波数差分
値d
f(Znor)の虚数部d
f(Xnor)の最小値d
f(Xnor)min
を極値とすることを特徴とする請求項1に記載の厚さ測定用マスターカーブの作成方法。
【請求項3】
請求項1又は2で作成した単層用マスターカーブを予め用意し、
測定現場における単層被検体上にコイル2を配置し、
ステップ2
1
で、前記周波数掃引で前記コイル2に通電して単層被検体に渦電流を発生させ
て前記コイル2のインピーダンスZ(ω)をセンシングし、
ステップ3
1
で、前記単層被検体のインピーダンスを正規化し
て前記単層被検体の正規化インピーダンスZnor(ω)を算出し、
ステップ4
1
で、前記正規化インピーダンスZnor(ω)の周波数差分
値d
f(Znor)を算出し、
ステップ5
1
で、前記周波数差分
値d
f(Znor)から特徴量となる極値を抽出し、
前記特徴量を
前記単層用マスターカーブに当て嵌めて前記単層被検体の厚さを同定することを特徴とする厚さ測定用マスターカーブを使用した測定現場での使用方法。
【請求項4】
周波数掃引にて測定に使用するコイル2の自己インピーダンスZo(ω)を計測するステップ1
2と、
上層部材の導電率σ
Aが下層部材の導電率σ
Bより大きく、
上層部材の厚さT
U,
下層部材の厚さT
D
が異なり、上・下層部材の厚さの和T
U+T
D
である複数の第1二層標準試験体20上に前記コイル2をそれぞれ配置し、前記周波数掃引にて前記コイル2に通電し、第1二層標準試験体20に渦電流をそれぞれ発生させて
前記コイル2のインピーダンスZ(ω)をセンシングするステップ2
2と、
前記インピーダンスZ(ω)を正規化
して前記第1二層標準試験体20の正規化インピーダンスZnor(ω)を算出するステップ3
2と、
ステップ3
2
で正規化された前記正規化インピーダンスZnor(ω)の周波数差分値d
f(Znor)を演算するステップ4
2と、
前記周波数差分
値d
f(Znor)の高周波領域H
fから特徴量を抽出し、前記特徴量と前記上層部材の厚さT
Uとを対応させ、
続いて、上層部材の厚さT
U毎に低周波領域L
fから特徴量を抽出し、前記特徴量と前記下層部材の厚さT
Dとを対応させて第1二層標準試験体20の上層部材及び下層部材の厚さT
U・T
Dに関する上層用と下層用の第1マスターカーブを作成するステップ5
2とで構成されることを特徴とする厚さ測定用マスターカーブの作成方法。
【請求項5】
請求項4
で作成した第1マスターカーブを予め用意し、
上層部材の導電率σ
Aが下層部材の導電率σ
Bより大であることが分かっている検査箇所における二層部材(被検体)の上層部材上にコイル2を配置し、
ステップ2
2
で、前記周波数掃引にて前記コイル2に通電して前記検査箇所における二層部材に渦電流を発生させて
、前記コイル2のインピーダンスZ(ω)をセンシングし、
ステップ3
2
で、前記インピーダンスZ(ω)を正規化して
第1二層標準試験体20の正規化インピーダンスZnor(ω)を算出し、
ステップ4
2
で、前記正規化インピーダンスZnor(ω)の周波数差分
値d
f(Znor)を演算し、
ステップ5
2
で、前記周波数差分
値d
f(Znor)の高周波領域H
fから特徴量となる
前記周波数差分値d
f(Znor)の位相最大値を抽出し、前記特徴量を上層用の第1マスターカーブに当て嵌めて前記検査箇所における二層部材の上層部材の厚さT
Uを同定し、
前記周波数差分
値d
f(Znor)の低周波領域L
fから特徴量となる
前記周波数差分値d
f(Xnor)
の最小値を抽出し、前記検査箇所における二層部材の上層部材の厚さT
Uに対応する下層用の第1マスターカーブに前記特徴量を当て嵌めて前記検査箇所における二層部材の下層部材の厚さT
Dを同定することを特徴とする厚さ測定用マスターカーブを使用した測定現場での使用方法。
【請求項6】
周波数掃引にて測定に使用されるコイル2の自己インピーダンスZ
O(ω)を計測するステップ1
3と、
下層部材の導電率が上層部材の導電率より大きく、
上層部材の厚さT
U,
下層部材の厚さT
D
が異なり、上・下層部材の厚さの和がT
U+T
D
である複数の第2二層標準試験体30上に前記コイル2をそれぞれ配置し、前記周波数掃引にて前記コイル2に通電し
、第2二層標準試験体30に渦電流をそれぞれ発生させて
前記コイル2のインピーダンスZ(ω)をセンシングするステップ2
3と、
前記インピーダンスZ(ω)を正規化
して前記第2二層標準試験体30の正規化インピーダンスZnor(ω)を算出するステップ3
3と、
ステップ3
3
で正規化された前記正規化インピーダンスZnor(ω)の周波数差分
値d
f(Znor)を算出するステップ4
3と、
前記周波数差分
値d
f(Znor)の高周波領域H
fの虚数部d
f(Xnor)の最小値d
f(Xnor)minを第1の特徴量として抽出し、前記第1の特徴量と前記上層部材の厚さT
Uとを対応させ、
続いて、上層部材の厚さT
U毎に前記周波数差分
値d
f(Znor)の低周波領域L
fの虚数部d
f(Xnor)の最小値d
f(Xnor)minを第2の特徴量として抽出し、前記第2の特徴量と前記下層部材の厚さT
Dとを対応させて、第2二層標準試験体30の厚さT
U・T
Dに関する上層用と下層用の第2マスターカーブを作成するステップ5
3とで構成されることを特徴とする厚さ測定用のマスターカーブ作成方法。
【請求項7】
請求項6
で作成した第2マスターカーブを予め用意し、
下層部材の導電率σ
Aが上層部材の導電率σ
Bより大きいことが分かっている検査箇所における二層部材(被検体)の上層部材上にコイル2を配置し、
ステップ2
3
で、前記周波数掃引にて前記コイル2に通電して前記検査箇所における二層部材に渦電流を発生させて
前記コイル2のインピーダンスZ(ω)をセンシングし、
ステップ3
3
で、第2二層標準試験体30の前記インピーダンスZ(ω)を正規化し
て第2二層標準試験体30の正規化インピーダンスZnor(ω)を算出し、
ステップ4
3
で、前記正規化インピーダンスZnor(ω)の周波数差分値d
f
(Znor)を算出し、
ステップ5
3
で、前記周波数差分
値d
f(Znor)の高周波領域H
fの虚数部の最小値を、検査箇所における二層部材の第1の特徴量として抽出し、
前記周波数差分
値d
f(Znor)の低周波領域L
fの虚数部の最小値を、検査箇所における二層部材の第2の特徴量として抽出し、
前記第1の特徴量を上層用及び下層用の第2マスターカーブに当て嵌めて前記検査箇所における二層部材の上層部材の厚さT
Uを同定すると共に、前記上層部材の厚さT
Uに対応する下層用の第2マスターカーブに前記第2の特徴量に当て嵌めて前記検査箇所における二層部材の下層部材の厚さT
Dを同定することを特徴とする厚さ測定用マスターカーブを使用した測定現場での使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁気測定法を用いて被検体の厚さ測定が実行される現場で適用しやすいマスターカーブを作成する方法と、該マスターカーブを用いて単層又は二層の被検体の厚さを同定する測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
単層又は積層(二層)部材の厚さ評価が産業界のあらゆる場所で求められ、その評価方法として様々な手段が取られてきた。例えば、単層金属部材の厚さ測定の例としては、圧延現場が挙げられる。圧延された素材の厚みを測定するためにエックス線厚み計や、ガンマ線厚み計、レーザー厚み計が使用されている。これらの装置は圧延機と一体になって設置された大掛かりな装置で生産ラインでしか使用することができない。
一方、金属部材の厚み測定が必要とされる場面は、このような圧延現場のような設備の整った工場のみならず、橋梁、ビルディングなどの既設構造物の躯体や配管その他のメンテナンス、モニタリングなど実に様々な場所で求められている。このような場所では、検査部分の構造物は、金属母材に断熱材やメッキ、コーティングや溶射などが施されていたり、二種類の金属がクラッドされた二層部材が使用されているなど様々な部材が使用されている。しかも、このような場所は狭く或いは高所で、携帯可能で取り扱いが簡単な計測器が要求される。
【0003】
その一つとして超音波厚み計がある(特許文献1)。超音波厚み計は接触式のため、例えば、タンクに接続され、断熱材に覆われた金属配管(このような場所では断熱材を剥離して金属配管を露出させる必要がある)や、上記のようなアクセスしにくい箇所、被計測部分が高温である場合などでは計測が困難であった。
また、被測定物が鋼材である場合、同じ鋼材でも鋼種によっては鋼材内を伝わる音速が異なり、実際の計測では音速調整(校正)を行う必要があり、非常に使いにくいという問題があった。
【0004】
これに対して非接触で測定箇所を測定する方法として電磁気検査法が知られている。現有の電磁気式厚み計には、渦電流式のものや電磁式のものがあるが、前者の渦電流式厚み計は、現状では非磁性金属上の絶縁被膜の測定しか使えず、しかも母材の非磁性金属の導電率を事前に把握しておかなければならないという制約がある(特許文献2)。その上、被検体の導電率は製造メーカの違いや経年劣化で変化し、測定結果の信頼性が必ずしも高いとは言えないという問題があった。
後者の電磁式厚み計は、磁性金属母材上の非磁性金属層や有機・無機層の厚み測定しかできず、いずれも母材の厚み測定ができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3857122号
【文献】特開2018-119795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑みてなされたもので、検査箇所の材質の把握や電磁気特性(特に正確な導電率)の把握が不要で、現場での使い勝手のよいマスターカーブの作成方法と、該マスターカーブを用いた単層又は二層の被検体の厚さ測定方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1は、以下のようにして単層標準試験体10の単層用マスターカーブ(
図5)を作成する(
図1の左半分の図)。
単層用のマスターカーブの作成方法(
図24)は、
周波数掃引により、厚さ測定に使用されるコイル2の自己インピーダンスZ
O(ω)を計測するステップ1
1と、
厚さT
1の異なる単層標準試験体10上に前記コイル2を設置し、前記周波数掃引にて前記コイル2に通電し、前記複数の単層標準試験体10に渦電流をそれぞれ発生させてそのインピーダンスZ(ω)をセンシングするステップ2
1と、
前記インピーダンスZ(ω)を正規化
し、正規化インピーダンスZ
nor
(ω)を算出するステップ3
1と、
前記正規化インピーダンスZ
nor(ω)の周波数差分
値d
f(Z
nor)を算出するステップ4
1と、
前記周波数差分
値d
f(Z
nor)から特徴量となる極値を抽出し、前記特徴量と前記各単層標準試験体10の厚さT
1とをそれぞれ対応させ、前記標準試験体10の厚さT
1に関する単層用マスターカーブを作成するステップ5
1とで構成されることを特徴とする。
【0008】
請求項2は、請求項1における特徴量に関し、
前記特徴量を、複素数である前記周波数差分値df(Znor)の虚数部df(Xnor)の最小値df(Xnor)minを極値とすることを特徴とする。
【0009】
請求項3は、請求項1又は2における単層用マスターカーブを利用して検査箇所の単層被検体の厚さを同定する方法(
図25)に関し、該方法は、
請求項1で作成した単層用マスターカーブを予め用意し、
単層被検体上にコイル2を配置し、
ステップ2
1
で、前記周波数掃引で前記コイル2に通電して単層被検体に渦電流を発生させて
前記コイル2のインピーダンスZ(ω)をセンシングし、
ステップ3
1
で、前記インピーダンスZ(ω)を正規化し
て前記単層被検体の正規化インピーダンスZnor(ω)を算出し、
ステップ4
1
で、前記正規化インピーダンスZ
nor(ω)の周波数差分
値d
f(Z
nor)を算出し、
ステップ5
1
で、前記周波数差分
値d
f(Z
nor)から特徴量となる極値を抽出し、
前記特徴量を単層用マスターカーブに当て嵌めて前記単層被検体の厚さを同定することを特徴とする。
【0010】
以下で述べる二層標準試験体20・30には2種類がある。二層標準試験体20・30の一方の層を構成するA部材の導電率をσAで表し、他方のB部材の導電率をσBで表す。導電率は、A部材の導電率σAの方がB部材の導電率σBより大とする(導電率σA>導電率σB)。
第1二層標準試験体20は、A部材(導電率σA)を上層とし、B部材(導電率σB)を下層として積層した(解析例では、上層σA(10MS/m)>下層σB(2MS/m)とした。)。
第2二層標準試験体30は第1二層標準試験体20の逆で、B部材(導電率σB)を上層とし、A部材(導電率σA)を下層として積層した(解析例では上層σB(2MS/m)<下層σA(10MS/m)とした。)。
【0011】
請求項4は、第1二層標準試験体20の第1マスターカーブを作成する方法である(
図24)。
該方法は、
周波数掃引にて測定に使用するコイル2の自己インピーダンスZ
O(ω)を計測するステップ1
2と、
上層部材の導電率σ
Aが下層部材の導電率σ
Bより大きく、
上層部材の厚さT
U,
下層部材の厚さT
D
が異なり、上・下層部材の厚さの和がT
U+T
D
である複数の第1二層標準試験体20上に前記コイル2をそれぞれ配置し、前記周波数掃引にて前記コイル2に通電し、第1二層標準試験体20に渦電流をそれぞれ発生させて
前記コイル2のインピーダンスZ(ω)をセンシングするステップ2
2と、
前記インピーダンスZ(ω)を正規化
して前記第1二層標準試験体20の正規化インピーダンスZ
nor
(ω)を算出するステップ3
2と、
ステップ3
2
で正規化された前記正規化インピーダンスZ
nor(ω)の周波数差分
値d
f(Z
nor)を演算するステップ4
2と、
前記周波数差分
値d
f(Z
nor)の高周波領域H
fから特徴量となる周波数差分値d
f(Z
nor)の位相の最大値(最大位相)を抽出し、前記最大値(最大位相)である特徴量と前記上層部材の厚さT
Uとを対応させ、
続いて、上層部材の厚さT
U毎に低周波領域L
fから特徴量となる周波数差分
値d
f(Z
nor)の虚数部であるd
f(X
nor)の最小値d
f(X
nor)minを抽出し、前記最小値である特徴量と前記下層部材の厚さT
Dとを対応させて第1二層標準試験体20の上層部材及び下層部材の厚さT
U・T
Dに関する上層用と下層用の第1マスターカーブを作成するステップ5
2とで構成されることを特徴とする。
【0012】
請求項5は、請求項4において作成した第1二層標準試験体20の第1マスターカーブを利用して上層部材の導電率σ
Aが下層部材の導電率σ
Bより大である(上層σ
A>下層σ
B)ことが分かっている検査箇所の二層部材(被検体)の上層部材と下層部材の厚さをそれぞれ同定する方法(
図25)に関し、該方法は、
請求項4
で作成した第1二層標準試験体20
における第1マスターカーブを予め用意し、
上層部材の導電率σ
Aが下層部材の導電率σ
Bより大である(上層σ
A>下層σ
B)ことが分かっている検査箇所における二層部材(被検体)の上層部材上にコイル2を配置し、
ステップ2
2
で、前記周波数掃引にて前記コイル2に通電して前記検査箇所における二層部材に渦電流を発生させて
、前記コイル2のインピーダンスZ(ω)をセンシングし、
ステップ3
2
で、前記インピーダンスZ(ω)を正規化し
て第1二層標準試験体20の正規化インピーダンスZnor(ω)を算出し、
ステップ4
2
で、前記正規化インピーダンスZ
nor(ω)の周波数差分
値d
f(Z
nor)を演算し、
ステップ5
2
で、前記周波数差分値d
f(Z
nor)の高周波領域H
fから特徴量となる周波数差分
値d
f(Z
nor)の位相の最大値(最大位相)を抽出し、前記特徴量を上層用の第1マスターカーブに当て嵌めて前記検査箇所における二層部材の上層部材の厚さT
Uを同定し、
前記周波数差分
値d
f(Z
nor)の低周波領域L
fから特徴量となるその虚数部d
f(X
nor)の最小値d
f(X
nor)minを抽出し、前記検査箇所における二層部材の上層部材の厚さT
Uに対応する下層用の第1マスターカーブに前記特徴量を当て嵌めて前記検査箇所における二層部材の下層部材の厚さT
Dを同定することを特徴とする。
【0013】
請求項6は、下層部材の導電率σ
Aが上層部材の導電率σ
Bより大である(上層σ
B<下層σ
A)、第2二層標準試験体30の第2マスターカーブを作成する方法(
図24)である。
該方法は、
周波数掃引にて測定に使用されるコイル2の自己インピーダンスZ
O(ω)を計測するステップ1
3と、
下層部材の導電率が上層部材の導電率より大きく、
上層部材の厚さT
U,
下層部材の厚さT
D
が異なり、上・下層部材の厚さの和がT
U+T
D
である複数の第2二層標準試験体30上に前記コイル2をそれぞれ配置し、前記周波数掃引にて前記コイル2に通電して第2二層標準試験体30に渦電流をそれぞれ発生させて
前記コイル2のインピーダンスZ(ω)をセンシングするステップ2
3と、
前記インピーダンスZ(ω)を正規化
して前記第2二層標準試験体30の正規化インピーダンスZ
nor(ω)を算出するステップ3
3と、
前記正規化インピーダンスZ
nor(ω)の周波数差分
値d
f(Z
nor)を算出するステップ4
3と、
前記周波数差分
値d
f(Z
nor)の高周波領域H
fの虚数部d
f(X
nor)の最小値d
f(X
nor)minを第1の特徴量として抽出し、前記第1の特徴量と前記上層部材の厚さT
Uとを対応させ、
続いて、上層部材の厚さT
U毎に前記周波数差分
値d
f(Z
nor)の低周波領域L
fの虚数部の最小値d
f(X
nor)minを第2の特徴量として抽出し、前記第2の特徴量と前記下層部材の厚さT
Dとを対応させて、第2二層標準試験体30の厚さT
U・T
Dに関する上層用と下層用の第2マスターカーブを作成するステップ5
3とで構成されることを特徴とする。
【0014】
請求項7は、請求項6において作成した第2二層標準試験体30の第2マスターカーブを利用して下層部材の導電率σ
Aが上層部材の導電率σ
Bより大である(上層σ
B<下層σ
A)ことが分かっている検査箇所の二層部材(被検体)の上層部材と下層部材の厚さT
U・T
Dをそれぞれ同定する方法(
図25)に関し、該方法は、
請求項6
で作成した第2二層標準試験体30
における第2マスターカーブを予め用意し、
下層部材の導電率σ
Aが上層部材の導電率σ
Bより大きい(上層σ
B<下層σ
A)ことが分かっている検査箇所における二層部材(被検体)の上層部材上にコイル2を配置し、
ステップ2
3
で、前記周波数掃引にて前記コイル2に通電して前記検査箇所における二層部材に渦電流を発生させて
前記コイル2のインピーダンスZ(ω)をセンシングし、
ステップ3
3
で、第2二層標準試験体30の前記インピーダンスZ(ω)を正規化し
て第2二層標準試験体30の正規化インピーダンスZnor(ω)を算出し、
ステップ4
3
で、前記正規化インピーダンスZnor(ω)の周波数差分
値d
f(Znor)を
算出し、
ステップ5
3
で、前記周波数差分
値d
f(Z
nor)の高周波領域H
fの虚数部d
f(X
nor)の最小値d
f(X
nor)minを、検査箇所における二層部材の第1の特徴量として抽出し、
前記周波数差分
値d
f(Z
nor)の低周波領域L
fの虚数部の最小値を、検査箇所における二層部材の第2の特徴量として抽出し、
前記第1の特徴量を上層用及び下層用の第2マスターカーブに当て嵌めて前記検査箇所における二層部材の上層部材の厚さT
Uを同定すると共に、前記上層部材の厚さT
Uに対応する下層用の第2マスターカーブに前記第2の特徴量に当て嵌めて前記検査箇所における二層部材の下層部材の厚さT
Dを同定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明は上記構成から、検査箇所の被検体の材質が持つ電磁気特性(特に正確な導電率)の把握が不要となり、現場での使い勝手のよいマスターカーブを作成することができた。そしてこのマスターカーブを用いることで、測定困難な現場でも、単層や二層の検査箇所の上層・下層のそれぞれの厚さ測定を正確且つ簡単に行えるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の検査装置による検査状態を示す概略正面図である。
【
図2】厚さの異なる単層標準試験体の正規化インピーダンスを示すグラフである。
【
図3】厚さの異なる単層試験体の正規化インピーダンスの周波数差分
値のリサージュ波形を示すグラフである。
【
図4】周波数差分
値から極値{虚数部d
f(X
nor)の最小値}を抽出するためのグラフである。
【
図5】周波数差分
値の極値と単層標準試験体の厚さとを対比させた単層用マスターカーブである。
【
図6】第2実施形態における厚さの異なる第1二層標準試験体の正規化インピーダンスを示すグラフである。
【
図7】正規化インピーダンスの周波数差分
値のリサージュ波形を示すグラフである。
【
図8】周波数差分値の極値{高周波領域の周波数差分
値d
f(Z
nor)の位相の最大値}と第1二層標準試験体の上層の厚さとを対比させた二層用第1マスターカーブである。
【
図9】周波数差分
値の極値{低周波領域の虚数部d
f(X
nor)の最小値}と、上層の厚さ毎に第1二層標準試験体の下層の厚さとを対比させたマスターカーブである。
【
図10】本発明の第2及び3実施形態の実測例で使用される第1及び第2二層標準試験体の上層と下層の構成を示す表である。
【
図11】第二実施形態の実測例の正規化インピーダンスのリサージュ波形を示すグラフである。
【
図12】第二実施形態の実測例の正規化インピーダンスの周波数差分
値のリサージュ波形を示すグラフである。
【
図13】
正規化インピーダンスの周波数差分
値d
f(Z
nor)の極値{高周波領域H
fの周波数差分
値d
f(Z
nor)の位相の最大値}と実測例における第1二層標準試験体の上層の厚さとを対比させた二層用第1マスターカーブ(上層用)である。
【
図14】
正規化インピーダンスの周波数差分
値d
f(Z
nor)の極値{低周波領域L
fの虚数部d
f(X
nor)の最小値d
f(X
nor)min}と、上層の厚さ毎に実測例における第1二層標準試験体の下層の厚さとを対比させた二層用第1マスターカーブ(下層用)である。
【
図15】第3実施形態における複数の第2二層標準試験体の正規化インピーダンスの周波数差分
値d
f(Z
nor)のリサージュ波形を示すグラフである。
【
図16】正規化インピーダンスの周波数差分
値の虚数部の周波数に伴う変化を示すグラフである。
【
図17】周波数差分
値d
f(Z
nor)の極値{高周波領域の虚数部d
f(X
nor)の最小値d
f(X
nor)min}と第2二層標準試験体の上層の厚さとを対比させた二層用第1マスターカーブ(上層用)である。
【
図18】周波数差分
値d
f(X
nor)の演算値の極値{低周波領域L
fの周波数差分
値d
f(X
nor)の最小値d
f(X
nor)min}と、上層の厚さ毎に第2二層標準試験体の下層の厚さとを対比させた二層用第1マスターカーブ(下層用)である。
【
図19】第3実施形態の実測例の正規化インピーダンス
Z
nor
(ω)のリサージュ波形を示すグラフである。
【
図20】
図19の正規化インピーダンスZ
nor
(ω)の周波数差分
値d
f
(Z
nor
)のリサージュ波形を示すグラフである。
【
図21】
図20の周波数差分
値の虚数部と周波数の関係を示すグラフである。
【
図22】二層用第2マスターカーブ(上層用)を示すグラフである。
【
図23】上層の厚さ毎の二層用第2マスターカーブ(下層用)を示すグラフである。
【
図24】
標準試験体を用いてマスターカーブを作成するフローチャートである。
【
図25】現場での被検体の
厚さ測定手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を図示実施形態に従って詳述する。本発明では、第1に既述のように様々な検査対象に適用するために電磁気特性が把握されていない測定現場の検査対象(被検体)の厚さを同定するためのマスターカーブ、換言すれば、電磁気信号と検査対象の肉厚とだけが対応するマスターカーブを作成する。
測定現場の検査対象にはさまざまなのもがあるが、本発明では単層部材と2種類の部材(A部材、B部材)を積層した二層部材とを対象とする。後者の場合は、上層と下層の肉厚をそれぞれ測定する。
【0018】
二層部材では、標準試験体に使用される部材を上記のようにA部材、B部材とする。ただし、その正確な電磁気特性(特に、その導電率をそれぞれσA、σBとする。)は把握されていない。導電率は渦電流の大きさに影響し、導電率が大きいと渦電流は大きくなり、逆に、導電率が小さいと渦電流も小さくなる。それ故、従来例で述べたように板厚測定では、測定対象の導電率が重要になるが、正確な測定対象の導電率の把握は困難なので、本発明では測定対象の導電率に影響を受けない測定方法を確立しようとするものである。なお、本発明の対象は非磁性体(金属)である。
【0019】
添付したグラフにおけるA部材、B部材の上層・下層の厚さを符号TU、TDで表し、それぞれの厚さTU、TDを符号A、Bの数で表し、且つ左から部材の積層順を表す。A、B1文字は1mmを表す。例えば、AAであればA部材が単層で2mm、AABであれば、二層部材で上層が2mmのA部材、下層が1mmのB部材を示す。上記AAは、1mmのA部材が2枚積層している場合も考えられるが、このAAは同じ導電率であるから二層と識別できず、上記のように「2mmの単層A部材」と認識される。二層部材の全体の厚さは(TU+TD)となる。
【0020】
二層部材では上層部材と下層部材とで材質が異なるため、上層部材と下層部材の導電率が異なっている。導電率の組み合わせでは、上層部材の導電率が下層部材の導電率より大である場合(上層部材の導電率>下層部材の導電率)と、これとは逆に上層部材の導電率が下層部材の導電率より小である場合(上層部材の導電率<下層部材の導電率)とがある。
(上層部材の導電率>下層部材の導電率)の場合、下層からの電磁気信号が上層を通ってコイル2にセンシングされにくいが、逆の、(上層部材の導電率<下層部材の導電率)の場合、下層からの電磁気信号が上層を通ってコイル2にセンシングされやすく、センシングのために別別の手段を取る必要があるためである。
【0021】
標準試験体は測定現場の検査対象(被検物)に即して作成される。従って、厚さと材質の異なるのもの(即ち、導電率の異なるもの)が用いられる。
上記3グループ{単層/二層(上層部材の導電率>下層部材の導電率)/二層(上層部材の導電率<下層部材の導電率)}に付いては肉厚を検出するためには、それぞれグループ毎のマスターカーブを作成する必要があり、そのために測定現場の検査対象に合った標準検査体が必要となる。
単層の測定対象に対しては単層標準試験体10が用意される。
二層の測定対象で(上層部材の導電率>下層部材の導電率)の場合は、(上層部材の導電率>下層部材の導電率)となる二層標準試験体20が用意される。
二層の測定対象で(上層部材の導電率<下層部材の導電率)の場合は、(上層部材の導電率<下層部材の導電率)となる二層標準試験体30が用意される。
これら3グループに付いては肉厚を検出するためのパラメータが異なるので、
(1)単層部材の肉厚検出を(第1実施形態)、
(2)上層部材の導電率>下層部材の導電率を(第2実施形態)、
(3)上層部材の導電率<下層部材の導電率を(第3実施形態)として説明する。
【0022】
本発明で使用される厚さ測定装置1の概略を
図1に示す。厚さ測定装置1は、コイル2を収納したプローブ(図示せず)、周波数掃引測定器3、パーソナルコンピューター4及び電源(周波数掃引測定器3に一体化されているので、図示せず)で概略構成される。
【0023】
コイル2は、ケーシングであるプローブ内に収納され、周波掃引測定器3に接続されている。そしてコイル2は、周波掃引測定器3からの出力を受け、測定対象に交番磁界を印加して渦電流を発生させる装置である。
本実施例では、コイル2はピックアップセンサとしても働き、測定対象に渦電流を発生させた状態でのインピーダンスZ(ω)をセンシングして周波掃引測定器3に出力する。コイル2の形状(内径、外径、高さ、巻数、リング型、矩形)には様々なものがあるが、検査対象に合わせて最適のものが使用される。本発明で使用されるコイル2はパンケーキ型の空芯コイルである。
なお、図示していないが、ピックアップセンサを別体としてコイルと同軸に、或いは近接させて設けるようにしてもよい。
コイル2は、測定対象に対してリフトオフして使用される。リフトオフ間隔はマスターカーブ作成時と現場での被検体の測定時とは同じ間隔Sが取られる。本発明では、例えば、0.5mmのリフトオフ間隔Sが採用されている。
【0024】
周波掃引測定器3は、スタート周波数からストップ周波数まで、周波数が上昇または下降する方向にリニアまたはログ間隔で指定された掃引速度でその出力を変化させ、これをコイル2に出力すると共に測定対象に発生した渦電流によるインピーダンスZ(ω)を測定する計測器である。本発明では、周波数がログ等間隔で変化するように設定されている。
スタート周波数は、本発明では、例えば、スタート周波数は200Hz、ストップ周波数は200kHzである。スタート周波数からストップ周波数まで多周波数(例えば、200Hz,204.66Hz, ・・・2kHz・・20kHz・・200kHzの範囲で、対数スケールで300等間隔)で掃引する。掃引では正弦波が用いられる。計測値(インピーダンスZ(ω))は接続されているパーソナルコンピューター4に転送される。
【0025】
パーソナルコンピューター4は、周波掃引測定器3からの出力(インピーダンスZ(ω))を受けて、決められた手順でデータ処理を行う。測定現場での厚さ測定では、必要なマスターカーブが予め記憶されており、現場での測定値をマスターカーブに当て嵌め、被検体の肉厚を測定する。
【0026】
(第1実施形態:
図1の左半分の図)
本発明の第1実施形態は、電磁気特性が把握されていない測定現場の単層部材(被検体)の厚さを同定するための単層用マスターカーブ(
図5)を作成することである。
1:単層用マスターカーブの作成
ステップ1
1:コイル2の自己インピ―ダンスZ
0(ω)の測定
測定に用いられるコイル2を空中に配置し、この状態でコイル2にスタート周波数からストップ周波数まで対数等間隔で周波数掃引を行う。コイル2の自己インピーダンスZ
0(ω)は、(式1)で表示される。
【0027】
【数1】
ここで、ωは角周波数、R
0はコイル2の
自己インピーダンスの実数部、ωL
0は虚数部、L
0はコイル2のリアクタンスである。理想のコイルにおいて、R
0は0であるため、Z
0(ω)=R
0+jωL
0=jωL
0となる。しかし、実際のコイルでは、巻き線に抵抗があるが、R
0はほぼ周波数により変化しない値である。
【0028】
ステップ2
1:各単層標準試験体10のインピーダンスZ(ω)の測定(
図1)
単層用マスターカーブ作成の基準となる単層標準試験体10として、厚さT
1の異なる非磁性導電性単層板(例えば、アルミニウム板、SUS板)を複数枚用意する。単層標準試験体10の導電率σ
1は事前に把握されていないが、厚さT
1は予め正確に把握されている。
コイル2は、単層標準試験体10に対してリフトオフ(隙間S)して配置される(
図1)。この状態でコイル2に通電し、各単層標準試験体10に対してステップ1と同じ条件(同じ対数等間隔)で周波数掃引する。これにより単層標準試験体10に渦電流が発生し、ファラディの法則により、この渦電流はコイル2が発生した磁場の変化を妨げるように反磁束が発生させる。その結果、コイル2のインピーダンスが変わる。これをインピーダンス変化といいΔZ(ω)表す。この変化した渦電流測定信号(インピーダンス変化ΔZ(ω))に単層標準試験体10の厚さ変化が現れる。
【0029】
【数2】
単層標準試験体10の存在による
インピーダンス変化ΔZ(ω)はインピーダンスZ(ω)とコイルの自己インピーダンスZ
0
(ω)の差である。
【0030】
【数3】
この渦電流測定信号(インピーダンスZ(ω))は単層標準試験体10の厚さT
1、コイル2の構造や励磁周波数の関数であるので、この渦電流測定信号(インピーダンスZ(ω))の分析によって、単層標準試験体10の厚さT
1とこの渦電流測定信号との対応関係を知ることができる。
【0031】
ステップ31:インピーダンス信号の正規化
インピーダンスZ(ω)は、式(2)(3)に示すように、周波数の増大と共に大きくなり、これを1つの複素平面に収めると、分析しやすくなる。このプロセスがインピーダンス正規化である。
正規化インピーダンスZnorは、ステップ2
1
で測定したインピーダンスZ(ω)とコイルの自己インピーダンスの実数部、すなわち抵抗R
0
の差である (Z(ω)-R
0
)をコイル2の自己インピーダンスZ
0
(ω)の虚数部であるωL
0
で割ることで算出する(式4)。
【0032】
【数4】
ここで、Z
nor;正規化インピーダンス。
その虚数部は、(虚数部)jX
nor=(jωΔL/ωL
o)+j
その実数部は、(実数部)R
nor
=(ΔR/ωL
o
)である。
【0033】
ステップ3
1
での正規化により、広い周波数範囲で掃引する信号を同じレベルにすることができ、1つの複素平面に描くことができる(
図2)。
図2の縦軸は、正規化インピーダンスZ
norの虚数部、横軸は実数部である。
【0034】
ステップ41:正規化インピーダンスZnor(ω)の周波数差分値df(Znor)の演算
各単層標準試験体10の正規化インピーダンスZnor(ω)の周波数差分値df(Znor)は、式5によりそれぞれ演算される。
【0035】
【数5】
(i=1,N-1) N:スタート周波数~ストップ周波数までの離散周波数
の数
【0036】
この各単層標準試験体10の周波数差分
値d
f(Z
nor)を複素平面に表したもの(リサージュ曲線)が
図3である。横軸が実数部、縦軸が虚数部である。
図3では7つの
厚さ(図3の右肩の数値はmm単位の各試験片の厚さT
1
である)の各単層標準試験体10の周波数差分
値d
f(Z
nor)を示す。
【0037】
ステップ5
1:特徴量となる極値の抽出
ここでは周波数差分
値d
f(Z
nor)から各単層標準試験体10の特徴量となる極値を抽出する。
各単層標準試験体10の周波数差分
値d
f(Z
nor)の虚数部d
f(X
nor)の、掃引周波数に対する変化を示したのが
図4である。縦軸が虚数部d
f(X
nor)、横軸が掃引周波数である。
図4の各曲線(図では7本の曲線)の虚数部d
f(X
nor)の最小値d
f(X
nor)minが各単層標準試験体10の厚さT
1に対応しており、この最小値d
f(X
nor)minが各単層標準試験体10の厚さT
1
と関連する特徴量となる。
そして、前記特徴量と前記各単層標準試験体10の厚さT
1とを対応させて単層用標準試験体10の厚さT
1に関する単層用マスターカーブを作成する(
図5)。横軸に単層標準試験体10の厚さT
1をとり、縦軸に各単層標準試験体10の演算値d
f(Z
nor)の虚数部d
f(X
nor)の最小値d
f(Z
nor)minを取った。
この単層用マスターカーブは測定現場の被検体の導電率に関係せず、厚さのみに関係し、且つ単調な曲線であるから現場での利便性が高い。換言すれば、正確な導電率が不明な測定対象についても正確な測定が可能であることを意味する。
【0038】
上記
図3~
図5は、下記単層標準試験体10の実測結果である。
用意した単層標準試験体は以下の通りである。
SUS304板(150mm×150mm)厚さ(mm):1,2,3,4,5
SUS304板(100mm×100mm)厚さ(mm):3,4,5
Al板 (150mm×150mm)厚さ(mm):0.5,1,2
Al5052板(150mm×150mm)厚さ(mm):3,4,5,6
これら単層標準試験体には同じ周波数掃引測定を上記のように行った。
【0039】
次にこの単層用マスターカーブを用いて測定現場における単層の被検体の厚さを同定する作業について説明する。
測定に使用されるコイル2は測定現場における単層部材(被検体)に最適のものが選ばれ、単層用マスターカーブも当然測定現場で使用されるコイル2を使ったものが用いられる。単層の被検体の導電率は不明である。
被検体の厚さの測定は、上記ステップ21~51に従って行われる。即ち、コイルは、単層用マスターカーブ作成に使われたものを使用する。そして前記測定用のコイルによる単層用マスターカーブは予め用意されており、パーソナルコンピューターに記憶をさせておく。
次に、被検体上にリフトオフ間隔を設けて上記コイルを配置する。リフトオフ間隔は単層用マスターカーブ作成時と同じ間隔にする。
そして、単層用マスターカーブ作成時と同じ周波数掃引で前記コイルに通電して被検体に渦電流を発生させる。
被検体の存在している場合のインピーダンスZ(ω)をコイルでセンシングし、パーソナルコンピューターに送る。
【0040】
次に、式4に従って、このインピーダンスZ(ω)と予め記憶されているコイルの自己インピーダンスの実数部である抵抗R
0
の差である(Z(ω)‐R
0
)を自己インピーダンスの虚数部であるωL
o
で割ることで、被検体のインピーダンスZ(ω)を正規化する。
そして、この正規化インピーダンスZ
nor
(ω)の周波数差分を演算し、周波数差分値の虚数部から特徴量となる極値(虚数部df(Xnor)の最小値df(Xnor)min)を抽出し、この特徴量(最小値)を予め記憶されている単層用マスターカーブに当て嵌めて被検体の厚さを同定する。
【0041】
(第2実施形態)
1.二層用第1マスターカーブの作成(
図1の右半分の図、
図6~
図9)
ここでは、測定対象の被検体(上層の導電率は下層の導電率より大である:上層σ
A>下層σ
B)に合わせて、第1二層標準試験体20の組み合わせを上層の導電率σ
Aが下層の導電率σ
Bより大になる(上層σ
A>下層σ
B)ようにその材質を選定する。そして、この第1二層標準試験体20を用いて測定現場の検査積層箇所(二層部材の被検体)の上層と下層のそれぞれの厚さT
U、T
Dを同定するための二層用第1マスターカーブを作成する。
【0042】
ステップ12:第1実施形態と同じ方法で、測定に使用されるコイル2の自己インピ―ダンスZ0(ω)を測定する。
次に、第1二層標準試験体20として、厚さTUの上層部材と厚さTDの下層部材が積層された二層部材20を用意する。
上層に配置されるA部材の導電率σA、下層に配置されるB部材の導電率σBは上記のようにいずれも事前に把握されていないが、上層の厚さTU、下層の厚さTDは事前にそれぞれ正確に把握されている。
【0043】
ステップ2
2:複数用意された第1二層標準試験体20の各インピーダンスZ(ω)の測定(
図1の右の図)が第1実施形態と同じ方法で行われる。
第1二層標準試験体20の存在によるインピーダンスZ(ω)を第1実施形態と同様の手順でコイル2にてセンシングする。
【0044】
ステップ3
2:インピーダンス信号Z(ω)の正規化
第1実施形態と同様、パーソナルコンピューター4では検出したインピーダンス信号Z(ω)
とコイルの自己インピーダンスの実数部であるR
0
の差である(Z(ω)‐R
0
)をコイル2の自己インピ―ダンスZ
0(ω)
の虚数部であるωL
o
で割ることでインピーダンス信号Z(ω)の正規化を行う。
図6では5本の正規化インピーダンス信号
Z
nor
(ω)が示され、これらを結ぶと、同じ傾向を示す曲線(リサージュ波形)に纏まる。各曲線は板厚毎に曲線を形成する。
図中の符号A、Bで示す表は標準試験体20の板厚と積層順を示す。この5つの曲線の一番上の第1二層標準試験体20は符号AAで示され、最下段の部材は符号AAAで示されている。これは、2mm、3mmのA部材で構成された単層標準試験体で、2~4番目以降の二層部材との比較のために使用される。2~4番目は、上層が2mmのA部材で、残りが下層である。
【0045】
ステップ4
2:第1実施形態と同様、上記正規化インピーダンスZ
nor(ω)の周波数差分
値d
f(Z
nor)を演算する(
図7)。
図7は周波数差分
値d
f(Z
nor)のリサージュ波形で、縦軸にその虚数部、横軸に実数部を取った複素平面である。
【0046】
ステップ5
2:前記周波数差分
値d
f(Z
nor)の高周波領域H
fから特徴量となる周波数差分
値d
f(Z
nor)の位相の最大値と、低周波領域L
fから特徴量となる虚数部d
f(X
nor)の最小値とを抽出する(
図7)。高周波領域H
f及び低周波領域L
fにおける極値は
図7に破線、及び実線でそれぞれ囲まれた部分で求められる。
ここでは、5本の曲線の特徴量となる高周波領域H
fの周波数差分
値d
f(Z
nor)の位相の最大値(最大位相)と上層の厚さT
Uとを対応させ、上層の厚さT
U毎にプロットしたのが
図8である。
【0047】
図8において、
正規化インピーダンスZ
nor
(ω)の周波数差分
値d
f(Z
nor)の高周波領域H
fの位相最大値(最大位相)は、上層の厚さT
Dと良い相関を示している。
【0048】
上層の厚さT
Uが同定されると、次に下層の厚さT
Dの同定に移る。下層は上層の厚さに影響されるため、上層の厚さT
U毎に下層の厚さT
Dの算出が行われる。
図9の右肩の表で第1二層標準試験体20の上層の材質と厚さを示す。Aは、上層がA部材で厚さが1mm、・・・AAAAAは5mmである。
この場合は、まず、上層がA部材で厚さが1mmの第1二層標準試験体20の特徴量となる低周波領域L
fの周波数差分
値d
f(Z
nor)の虚数部d
f(X
nor)の最小値d
f(X
nor)minと下層の厚さT
Dとを対応させ、上層の厚さT
U毎にプロットする。これを◆(塗潰し菱形)で示す。同様にして、上層がA部材で厚さが2mmの第1二層標準試験体20をプロットする。これを■(塗潰し正方形)で示す。これを5本示したのが
図9である。なお、縦軸は虚数部d
f(X
nor)の最小値d
f(X
nor)min、横軸は下層の厚さT
Dである。
即ち、第1二層標準試験体20の下層の場合は、上層の厚みT
Uごとに下層用のマスターカーブが描かれることになる。
【0049】
(二層用第1マスターカーブの実測例)
測定用の二層標準試験体20(30)のA部材・B部材の選定は、現地の二層部材である被検体の上層と下層の導電率に合わせて
図10の組み合わせによる。
図10は、本発明で使用されるA部材、B部材の例である。組み合せに当たっては、A部材の導電率σ
Aの方がB部材の導電率σ
Bより大きくなるように選ばれる。導電率はAl>Al合金>SUSの順である。
【0050】
ステップ1
2
~3
2
:上記組み合わせの標準試験体の正規化インピーダンスZ
nor(ω)の
リサージュ波形を複素平面に描くと(
図11)のようになる。
図11では、上層のリサージュ波形がその材質(アルミニウム、Al5052)に拘わらず、換言すれば導電率に拘わらず、厚みT
U(0.5、1、2,3、4,5mm)毎に描かれる。なお、厚みT
Uは、曲線に重ねて書かれている数字である。
【0051】
そして
ステップ4
2
でこの正規化インピーダンスZ
nor(ω)の周波数差分
値d
f(Z
nor)を算出して上層の厚さT
U毎のリサージュ波形を複素平面に描くと
図12のようになる。
なお、厚みT
U
は、曲線に重ねて書かれている数字である。
【0052】
ステップ5
2
に従って、周波数差分値d
f
(Z
nor
)の高周波領域H
f
と低周波領域L
f
から特徴量図を抽出する。
図13は、二層部材の上層の厚さT
U
と周波数差分値d
f
(Z
nor
)の高周波領域の特徴量の関係を示すプロット
である。
図14は上層の厚さT
U毎に下層の厚さT
Dと
周波数差分値d
f
(Z
nor
)の低周波領域の特徴量の関係をプロットしたものである。
図13では標準試験体の導電率の相違に拘わらず、板厚毎に点が一致している。
図14も同様である。なお、
図14の右肩の表で、塗潰し菱形(◆)Alを繋いだカーブは上層の厚さT
Uが0.5mmのほぼ直線、塗潰し正方形(■)Alは同1mmのほぼ直線、塗潰し三角形(▲)Alは同2mmのほぼ直線、バツ印(×)Al5052は同3mmのほぼ直線である。バツに縦棒印・Al5052は同4mm、塗潰し丸印(●)Al5052は同5mmのほぼ直線である。この場合も導電率には左右されない。
【0053】
次にこの二層用第1マスターカーブを用いて測定現場における二層部材である被検体の上層及び下層の厚さを同定する作業について説明する。
被検体は二層部材で、上・下層の導電率は不明である。ただし、上・下層の材質は把握されており、この場合は、A部材である上層の導電率σAは、B部材である下層の導電率σBより大であることは把握されている(上層σA>下層σB)。
従って作業者は、(上層σA>下層σB)用である二層用第1マスターカーブを用いることになり、パーソナルコンピューター4にこの条件に合う二層用第1マスターカーブが予め格納されることになる。なお、上記同様、測定に使用されるコイル2は測定現場における二層部材(被検体)に最適のものが選ばれ、二層用第1マスターカーブも当然測定現場で使用されるコイル2を使ったものが用いられる。
そして、被検体の厚さの測定は、上記ステップ22~52に従って行われる。即ち、
コイルは、上記のように二層用第1マスターカーブ作成に使われたものを使用する。そしてそのコイルによる二層用第1マスターカーブは予め用意されており、パーソナルコンピューターに記憶をさせておく。コイルの自己インピーダンスZ
0
(ω)もパーソナルコンピューターに記憶をさせておく。
次に、被検体上にリフトオフ間隔を設けて上記コイルを配置する。リフトオフ間隔は二層用第1マスターカーブ作成時と同じ間隔にする。
そして、二層用第1マスターカーブ作成時と同じ周波数掃引(対数等間隔でスタート周波数もストップ周波数も同じ)で前記コイルに通電して被検体に渦電流を発生させる。
上記コイルで被検体が存在する時のインピーダンスZ(ω)をセンシングし、パーソナルコンピューターに送る。
【0054】
次に、
ステップ3
2
の手順に従って、このインピーダンスZ(ω)とコイルの自己インピーダンスの実数部であるR
0
の差である(Z(ω)‐R
0
)をコイル2の自己インピ―ダンスZ
0
(ω)の虚数部であるωL
o
で割ることで、被検体のインピーダンスを正規化
し、正規化インピーダンスZ
nor
(ω)を算出する。
そして、
ステップ4
2
の手順に従って、この正規化インピーダンスZ
nor(ω)の周波数差分
値d
f(Z
nor)を演算し、
ステップ5
2
の手順に従って、前記周波数差分
値d
f(Z
nor)の高周波領域H
fから特徴量となる周波数差分
値d
f(Z
nor)の最大位相d
f(X
nor)と、低周波領域L
fから特徴量となる最小値d
f(X
nor)minとを抽出する。
抽出した高周波領域H
fの周波数差分
値d
f(Z
nor)の最大位相である特徴量を
図8の二層用第1マスターカーブ(上層用)に当て嵌め、被検体の上層の厚さを同定する。
【0055】
同様に低周波領域L
fの最小値d
f(X
nor)である特徴量を
図9の二層用第1マスターカーブ(下層用)から上層と同じ厚さのカーブを選び、このカーブに上記低周波領域L
fの最小値d
f(X
nor)である特徴量を当て嵌め、被検体の下層の厚さを同定する。これにより被検体の上・下層の
厚さ同定が完了する。
【0056】
(第3実施形態)
二層用第2マスターカーブの作成(
図1の右の図、
図15~
図23)
この場合は、第2実施形態の逆で、第2二層標準試験体30の組み合わせを上層の導電率σ
Bが下層の導電率σ
Aより小になる(上層σ
B<下層σ
A)ようにその材質を選定する。電磁気特性は同様に把握されていない。そして、この第2二層標準試験体30を用いて測定現場の検査積層箇所(二層部材)の上層と下層のそれぞれの厚さを同定するための二層用第2マスターカーブを作成する。
【0057】
ステップ13:第1又は第2実施形態と同じ方法でコイル2の自己インピ―ダンスZ0(ω)を測定する。
次に、第2二層標準試験体30として、厚さTUの上層部材と厚さTDの下層部材の積層体を用意するが、これらの点は第2実施形態と同様である。しかしながら、上記のように導電率は(上層σB<下層σA)である。
【0058】
ステップ2
3:複数用意された第2二層標準試験体30の各インピーダンスZ(ω)の測定
第2二層標準試験体30の各インピーダンスZ(ω)の測定(
図1の右の図)が第2実施形態と同じ方法で行われ、インピーダンスZ(ω)を第2実施形態と同様の手順でコイル2にてセンシングし、パーソナルコンピューター4に送る。
【0059】
ステップ33:インピーダンス信号Z(ω)の正規化
第2実施形態と同様、式4に従って、パーソナルコンピューター4でインピーダンス信号Z(ω)の正規化を行い、正規化インピーダンスZ
nor
(ω)を算出する。そこで、次のステップに進む。
【0060】
ステップ4
3
:正規化インピーダンスZ
nor(ω)の周波数差分
値d
f(Z
nor)の
演算
ここでは、
式5に従って、第2実施形態と同様、正規化インピーダンスZ
nor(ω)の周波数差分
値d
f(Z
nor)の演算を行う。
図15は周波数差分値d
f(Z
nor)のリサージュ波形である。上層の導電率が下層の導電率より小さいため、上下層の情報が混じっており、この波形から特徴量が見いだせない。
図15の標準試験体30の内、3つを使用して図16を作成した。虚数部d
f(X
nor)の周波数に伴
う変化を
図16に示す。これにより、正規化インピーダンスZ
nor(ω)の変化を明確に表せるようになる。
図16の縦軸が周波数差分d
f
(Z
nor
)の虚数部、横軸が周波数である。図16の左側が低周波領域L
f
、右側が高周波領域H
f
である。高周波数H
f
及び低周波数L
f
領域には破線と実線の長円で囲まれた極小値d
f(X
nor)minが2箇所表れている。
ステップ5
3
:前記正規化インピーダンスZ
nor
(ω)の周波数差分値d
f
(Z
nor
)の高周波領域H
f
から特徴量となる虚数部d
f
(X
nor
)の極値(最小値d
f
(X
nor
)min)と低周波領域であるL
f
から特徴量である虚数部d
f
(X
nor
)の極値(最小値d
f
(X
nor
)min)を抽出する(図16)
そしてこの
図16の長円で囲んだ高周波領域H
fの虚数部d
f(X
nor)の極値(最小値d
f(X
nor)min)を第1の特徴量として、上層の厚さを同定する。
続いて低周波領域L
fの虚数部d
f(X
nor)の極値(最小値d
f(X
nor)min)を第2の特徴量として、上層の厚さ毎に下層の厚さを同定する。
【0061】
図17は、第1の特徴量である高周波領域H
fの虚数部d
f(X
nor)の極値(最小値d
f(X
nor)min)を抽出し、これらを縦軸に、上層の厚さT
Uを横軸としてグラフにした図である。上層では複数の標準試験体30が示す極値(最小値)は、複数の標準試験体30の上層の厚さT
Uの増加に対してほぼ単調に低減している。このグラフを第3実施形態の二層用第2マスターカーブ(上層用)とする。
【0062】
図18は、第2の特徴量である低周波領域L
fの虚数部d
f(X
nor)の極値(最小値d
f(X
nor)min)を抽出し、これらを縦軸に、下層の厚さT
Dを横軸としてグラフにした図である。第2実施形態と同様、ここでも上層の厚さT
U毎にプロットされる。
図18では、4つの上層厚の標準試験体30を用いた。
図18の右肩の表で、塗潰し菱形(◆)Bを繋いだ右上がりの直線は上層の厚さT
Uが1mm、塗潰し正方形(■)BBは同2mm、塗潰し三角(▲)BBBは同3mm、×印(×)BBBBは同4mmである。この場合も導電率には左右されない。グラフを二層用第2マスターカーブ(下層用)とする。
【0063】
(二層用第2マスターカーブの実測例)
測定用の第2二層標準試験体30は、第2実施形態と同様、
図10の組み合わせによる。
上記と同じ手順
(ステップ1
3
~3
3
)で複数の第2二層標準試験体30の正規化インピーダンスZ
nor(ω)のリサージュ波形を複素平面に描く(
図19)。このリサージュ波形は複雑すぎて特徴量を抽出できない。
【0064】
そして
ステップ4
3
に従って、この正規化インピーダンスZ
nor(ω)の周波数差分
値d
f(Z
nor)を算出してそのリサージュ波形を複素平面に描くと
図20のようになる。この場合もリサージュ波形が複雑すぎて特徴量を抽出できない。
【0065】
そこで、正規化インピーダンスZ
norの周波数差分
値d
f(Z
nor)の虚数部d
f(X
nor)と周波数との関係を取った(
図21)。
図21において、縦軸が周波数差分の虚数部、横軸が周波数である。
図21における曲線は、
図19、20の内の5本を示した。選択された第2二層標準試験体30は
図18の右肩の表に示す。この5本の曲線は高周波領域H
f(破線長円で囲まれた部分)と低周波領域L
f(実線長円で囲まれた部分)において、それぞれ極値(最小値d
f(X
nor)min)を示す。
【0066】
この高周波領域H
fの虚数部d
f(X
nor)の最小値d
f(X
nor)minを第1の特徴量として抽出し、前記第1の特徴量と前記上層部材の厚さT
Uとを対応させる。第1の特徴量である最小値d
f(X
nor)minと上層とを対応させたのが
図22である。これを二層用第2マスターカーブ(上層用)とする。
【0067】
そして、周波数差分
値d
f(Z
nor)の低周波領域L
fの虚数部d
f(X
nor)の最小値d
f(X
nor)minを第2の特徴量として抽出し、前記第2の特徴量と上層の厚さT
U毎に下層部材の厚さT
Dとを対応させたのが
図23である。これを二層用第2マスターカーブ(下層用)とする。
二層用第2マスターカーブ(下層用)では、図中の表に示す上層(SUS304)の厚み(0.5、1、2、3、4mm)毎に下層(Al又はAl合金)のカーブが異なる。
【0068】
次にこの二層用第2マスターカーブを用いて測定現場における二層部材である被検体の上層及び下層の厚さを同定する作業について説明する。この作業は第2実施形態とほぼ同じである。
被検体は二層部材で、この場合も上・下層の導電率は不明である。ただし、上・下層の材質は把握されており、この場合は、B部材である上層の導電率σBは、A部材である下層の導電率σAより小であることは把握されている(上層σB<下層σA)。
従って作業者は、(上層σB<下層σA)用である二層用第2マスターカーブを用いることになり、パーソナルコンピューター4に二層用第2マスターカーブが予め格納されることになる。なお、上記同様、測定に使用されるコイル2は測定現場における二層部材(被検体)に最適のものが選ばれ、二層用第2マスターカーブも当然測定現場で使用されるコイル2を使ったものが用いられる。
そして、被検体の厚さの測定は、上記ステップ23~53に従って行われる。
次に、被検体上にリフトオフ間隔を設けて上記コイルを配置する。リフトオフ間隔は二層用第2マスターカーブ作成時と同じ間隔にする。
そして、二層用第2マスターカーブ作成時と同じ周波数掃引(対数等間隔でスタート周波数もストップ周波数も同じ)で前記コイルに通電して被検体に渦電流を発生させる。
インピーダンスZ(ω)をコイルでセンシングし、
【0069】
次に、予め記録されているコイルの自己インピーダンスを用いて、このインピーダンスZ(ω)を式4に従って演算し、正規化する。更にこの正規化インピーダンスZnor(ω)の周波数差分値の虚数部df(Xnor)から第1の特徴量(高周波領域における最小値df(Xnor)min)を抽出し、この第1の特徴量を二層用第2マスターカーブ(上層用)に適用して被検体の上層の厚さを同定する。
そして、第2の特徴量(低周波領域Lfの虚数部df(Xnor)の最小値df(Xnor)min)を抽出し、同定した上層の厚さの二層用第2マスターカーブ(下層用)にこの第2の特徴量を適用して被検体の下層の厚さを同定する。これにより被検体の上・下層の厚さ同定が完了する。
【符号の説明】
【0070】
1:厚さ測定装置
2:コイル
3:周波掃引測定器
4:パーソナルコンピューター
10:単層標準試験体
20:第1二層標準試験体
30:第2二層標準試験体
T1:単層標準試験体の厚さ
TU:二層標準試験体の上層の厚さ
TD:二層標準試験体の下層の厚さ
σA:A部材の導電率
σB:B部材の導電率
Hf:高周波領域
Lf:低周波領域
S:(リフトオフ)間隔
ZO(ω):コイルの自己インピーダンス
ΔZ(ω):インピーダンス変化
Z(ω):インピーダンス
Znor(ω):正規化インピーダンス
df(Znor):正規化インピーダンスの周波数差分値
df(Xnor):周波数差分値df(Znor)のの虚数部
df(Xnor)min:周波数差分値の虚数部の最小値