(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-26
(45)【発行日】2023-11-06
(54)【発明の名称】表面保護フィルム
(51)【国際特許分類】
C09J 7/38 20180101AFI20231027BHJP
C09J 153/02 20060101ALI20231027BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20231027BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20231027BHJP
【FI】
C09J7/38
C09J153/02
C09J11/06
B32B27/00 M
(21)【出願番号】P 2020056957
(22)【出願日】2020-03-27
【審査請求日】2023-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000106151
【氏名又は名称】株式会社サンエー化研
(73)【特許権者】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100148862
【氏名又は名称】赤塚 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100179811
【氏名又は名称】石井 良和
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 貴士
(72)【発明者】
【氏名】山口 和也
(72)【発明者】
【氏名】加藤 修平
(72)【発明者】
【氏名】能任 亮
【審査官】澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-70133(JP,A)
【文献】特開2003-49132(JP,A)
【文献】特開平9-241595(JP,A)
【文献】特開平9-316412(JP,A)
【文献】特開2005-54191(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
B32B 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と、粘着剤層とを有し、
前記粘着剤層がスチレン系ブロック共重合体と、脂肪酸アマイドと、を含み、
前記脂肪酸アマイドの融点が、220℃以上270℃以下であることを特徴とする表面保護フィルム。
【請求項2】
前記脂肪酸アマイドの酸価は、4.3以上10.0以下である請求項1に記載の表面保護フィルム。
【請求項3】
前記脂肪酸アマイドのアミン価は、3.6以上9.0以下である請求項1または2に記載の表面保護フィルム。
【請求項4】
前記粘着剤層中における前記脂肪酸アマイドの含有量は、0.5質量%以下である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の表面保護フィルム。
【請求項5】
前記粘着剤層中における前記脂肪酸アマイドの含有量は、0.4質量%以下である請求項1ないし4のいずれか1項に記載の表面保護フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面保護フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
合成樹脂板、化粧合板、金属板などの表面の加工時及び運搬時の傷防止や汚れ防止のために、表面保護フィルムが汎用されている。
【0003】
このような表面保護フィルムとして、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系の熱可塑性樹脂からなる基材層と、スチレン系ブロック共重合体からなる粘着剤層とが共押出しによって製膜されたものが知られている(例えば、特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-49132号公報
【文献】特開2001-302995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ポリオレフィン系樹脂の基材層とスチレン系ブロック共重合体とを含有する粘着剤層が共押出しによって製膜された表面保護フィルムは、被着体と貼り合わせ後高温下で保管した場合、その粘着力が上昇してしまう問題があった。このような粘着力上昇は、剥離不良を引き起こし、被着体を汚染するといった問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、被着体と貼り合わせ後高温下で保管した場合であっても、粘着力の上昇を抑制することができ、被着体が汚染されるのを防止することができる表面保護フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る表面保護フィルムは、基材層と、粘着剤層とを有し、
前記粘着剤層がスチレン系ブロック共重合体と、脂肪酸アマイドと、を含み、
前記脂肪酸アマイドの融点が、220℃以上270℃以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、被着体と貼り合わせ後高温下で保管した場合であっても、粘着力の上昇を抑制することができ、被着体が汚染されるのを防止することができる表面保護フィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に係る表面保護フィルムの構成例を示す断面図である。程図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の表面保護フィルムの好適な実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明に係る表面保護フィルムの構成例を示す断面図である。
【0011】
本発明に係る表面保護フィルムは、例えば
図1に示すように、基材層1と、基材層1上に形成された粘着剤層2とを有する。
【0012】
基材層1は、熱可塑性樹脂で構成されていることが好ましく、使用後に焼却しても有毒ガスを発生せず、後処理面でも問題が少ないことから、ポリオレフィン系樹脂が好ましい。ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、エチレン-αオレフィン共重合体、プロピレン-αオレフィン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-メチルメタクリレート共重合体、エチレン-nブチルアクリレート共重合体、ポリプロピレンなどが挙げられる。基材層1を形成するための熱可塑性樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、熱可塑性樹脂には、必要に応じて、光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、充填剤、滑剤などを添加することができる。
基材層1の厚みは、20μm以上100μm以下とすることができる。
【0013】
粘着剤層2は、スチレン系ブロック共重合体と脂肪酸アマイドとを含んでいる。
スチレン系ブロック共重合体は、一般に、A-B-Aで表されるブロック共重合体、又はA-B-Aで表されるブロック共重合体とA-Bで表されるブロック共重合体との混合物であって、Aがスチレン重合体ブロック、Bが他の重合体ブロックである。他の重合体ブロックとしては、エチレン重合体ブロック、プロピレン重合体ブロック、ブチレン重合体ブロック等のオレフィン系重合体ブロック;ブタジエン重合体ブロック、イソプレン重合体ブロック等のジエン系重合体ブロック;ジエン系重合体ブロックの少なくとも一部を水素添加して得られる水素添加ブロックが挙げられる。AとBの重量比は、A/B=5/95~50/50である。
【0014】
スチレン系ブロック共重合体として、例えば、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレン型ブロック共重合体(SEBS)、スチレン-エチレン/プロピレン-スチレン型ブロック共重合体(SEPS)、スチレン-ブタジエン-スチレン型ブロック共重合体(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレン型ブロック共重合体(SIS)、又はスチレン-イソブチレン-スチレン型ブロック共重合体(SIBS)、及びこれら共重合体の水添物等を挙げることができる。
【0015】
粘着剤層2に含まれる脂肪酸アマイドは、融点が220℃以上270℃以下のものである。このような融点を有する脂肪酸アマイドを含むことにより、被着体と貼り合わせ後高温下で保管した場合であっても、粘着力の上昇を抑制することができ、被着体が汚染されるのを防止することができる。
【0016】
本発明で用いる脂肪酸アマイドの融点は、220℃以上270℃以下であるが、225℃以上265℃以下であることが好ましく、230℃以上260℃以下であることがより好ましい。これにより、本発明の効果がより顕著なものとなる。一方、本発明で用いる脂肪酸アマイドの融点が前記下限値未満であると、高温保管した場合における粘着力の上昇が顕著となり、被着体の汚染を防止することができない。これに対して、本発明で用いる脂肪酸アマイドの融点が前記上限値を超えると、被着体に対する粘着性が十分に得られない。
【0017】
また、本発明で用いる脂肪酸アマイドの酸価は、4.3以上10.0以下であることが好ましく、5.0以上9.0以下であることがより好ましい。脂肪酸アマイドの酸価が上記範囲内であると、高温保管した場合における、粘着力の上昇をより効果的に抑制することができる。
【0018】
また、本発明で用いる脂肪酸アマイドのアミン価は、3.6以上9.0以下であることが好ましく、4.0以上8.0以下であることがより好ましい。脂肪酸アマイドのアミン価が上記範囲内であると、高温保管した場合における、粘着力の上昇をより効果的に抑制することができる。
【0019】
粘着剤層2中における脂肪酸アマイドの含有量は、0.5質量%以下であることが好ましく、0.4質量%以下であることがより好ましく、0.35質量%以下であることがさらに好ましい。脂肪酸アマイドの含有量が多すぎると、粘着剤層2の粘着力の低下や粘着剤層2形成時の製膜性が低下する場合がある。
また、粘着剤層中における前記脂肪酸アマイドの含有量は、0.025質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましい。脂肪酸アマイドの含有量が少なすぎると、粘着剤層2の厚みやスチレン系ブロック共重合体の種類等によっては、脂肪酸アマイドの添加による効果が十分に得られない場合がある。
【0020】
粘着剤層2を構成する粘着剤層形成材料は、スチレン系ブロック共重合体及び脂肪酸アマイドを含むが、必要に応じて、紫外線防止剤、酸化防止剤、充填剤、滑剤などの添加剤を含むこともできる。
【0021】
また、粘着剤層2は粘着付与樹脂を含んでいてもよい。粘着付与樹脂としては、粘着剤層2に粘着性を付与可能な樹脂であればよく、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂、脂肪族石油系樹脂、脂環族石油系樹脂、芳香族系樹脂などが挙げられる。粘着付与樹脂は、常温(25℃)で粉末状又はペレット状であることが好ましい。
さらに、粘着剤層2には、基材層1との密着性を向上させるために、低密度ポリエチレンなどのポリオレフィン系樹脂が含まれていてもよい。
粘着剤層2の厚みは、2μm以上50μm以下とすることができる。
表面保護フィルムには、必要に応じて、ロール状に巻かれた表面保護フィルムを展開しやすくするための離型層等の他の層が形成されていてもよい。
【0022】
上記のような表面保護フィルムは、例えば、以下のように製造することができる。
まず、所定の濃度(例えば、0.5~20質量%)で脂肪酸アマイドを含むマスターバッチを作成する。マスターバッチの主剤は、例えば、スチレン系ブロック共重合体、低密度ポリエチレンなどのポリオレフィン系樹脂を用いることができる。
次に、粘着剤層2中における脂肪酸アマイドの配合量が所定の濃度となるように、粘着剤層を構成する主剤であるスチレン系ブロック共重合体とマスターバッチとを混合し、粘着剤層形成材料を作成する。
次に、粘着剤層形成材料を粘着剤層用押出機に供給し、基材層1を形成するための材料を基材層用押出機に供給する。
その後、2台の押出機から各々の材料を一つのダイスから共押出しする二層共押出法により一体に成形する。こうすることで、基材層1上に粘着剤層2が形成された表面保護フィルムが得られる。
【0023】
以上、本発明の表面保護フィルムの好適な実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されない。
前述した実施形態では、表面保護フィルムが基材層と粘着剤層とを有する構成について説明したが、基材層と粘着剤層との間に中間層を有する構成であってもよい。
【実施例】
【0024】
以下、具体的な実施例に基づき本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0025】
1.脂肪酸アマイドの製造
<脂肪酸アマイドA>
撹拌器、分水器付き還流冷却管及び温度計を備えた反応容器に、ステアリン酸852質量部と、アジピン酸2190質量部とを仕込み、100℃まで昇温して溶融させた。そこに、ヘキサメチレンジアミン1914質量部を加え、窒素雰囲気下、230~260℃で4~6時間、脱水縮合反応を行ってアミド化させ、脂肪酸アマイドAを得た。
脂肪酸アマイドAの酸価は7.3、アミン価は6.5であった。また、DSC測定(示差走査熱量測定)の結果、融点は257℃であった。
【0026】
<脂肪酸アマイドD>
脂肪酸アマイドAの製造方法において、アジピン酸をセバシン酸909質量部に、ヘキサメチレンジアミンを696質量部にしたこと以外は脂肪酸アマイドAと同様にして、脂肪酸アマイドDを得た。
脂肪酸アマイドDの酸価は4.3、アミン価は3.6であった。また、DSC測定の結果、融点は212℃であった。
【0027】
2.マスターバッチの製造
<マスターバッチA>
低密度ポリエチレン(東ソー(株)製ニポロン(登録商標)-Z、ZF260、MFR(メルトフローレート)=2.0g/10min、密度=920kg/m3)を94.7質量部と、脂肪酸アマイドAを5質量部と、フェノール系酸化防止剤(BASFジャパン(株)製、イルガノックス1076)0.3質量部、リン酸系酸化防止剤(BASFジャパン(株)製、イルガホス168)0.2質量部とを配合し、混合機を使用して均一に混合した。押出機を使用して、得られた混合物を160~200℃で混練造粒し、ペレット状のマスターバッチAを製造した。
【0028】
<マスターバッチD>
脂肪酸アマイドとして、脂肪酸アマイドAに代えて脂肪酸アマイドDを使用したこと以外はマスターバッチAと同様にして、マスターバッチDを製造した。
【0029】
3.表面保護フィルムの製造
(実施例1)
基材層形成材料として、ポリプロピレン(日本ポリプロ社製、FW4B)を用意した。
スチレン系ブロック共重合体を主剤とした組成物A(ポリワンVersaflex PF MD6748N)に、上記マスターバッチAを粘着剤層全体の0.5質量%の添加量となるように配合し、粘着剤層形成材料とした。
基材層形成材料と粘着剤層形成材料とを共押出Tダイ法にてダイ温度230℃で製膜し、表面保護フィルムを得た。基材層の厚みは50μm、粘着剤層の厚みは、10μmであった。
【0030】
(実施例2)
マスターバッチAを粘着剤層全体の1質量%の添加量となるように配合した以外は、前記実施例1と同様にして表面保護フィルムを製造した。
【0031】
(実施例3)
マスターバッチAを粘着剤層全体の3質量%の添加量となるように配合した以外は、前記実施例1と同様にして表面保護フィルムを製造した。
【0032】
(実施例4)
マスターバッチAを粘着剤層全体の7質量%の添加量となるように配合した以外は、前記実施例1と同様にして表面保護フィルムを製造した。
【0033】
(実施例5)
マスターバッチAを粘着剤層全体の10質量%の添加量となるように配合した以外は、前記実施例1と同様にして表面保護フィルムを製造した。
【0034】
(実施例6)
組成物Aの代わりに、スチレン系ブロック共重合体(JSR製、ダイナロン1321P)80質量%と石油樹脂(荒川化学社製、アルコンP140)20質量%との混合物(組成物B)を用いた以外は、前記実施例3と同様にして表面保護フィルムを製造した。
【0035】
(比較例1)
マスターバッチAを配合しなかった以外は、前記実施例1と同様にして表面保護フィルムを製造した。
【0036】
(比較例2)
マスターバッチAの代わりに、マスターバッチDを配合した以外は、前記実施例3と同様にして表面保護フィルムを製造した。
【0037】
(比較例3)
マスターバッチAの代わりに、マスターバッチDを配合した以外は、前記実施例5と同様にして表面保護フィルムを製造した。
【0038】
(比較例4)
マスターバッチAを配合しなかった以外は、前記実施例6と同様にして表面保護フィルムを製造した。
【0039】
4.表面保護フィルムの評価試験
(粘着力の測定)
評価用のSUS板は、SUS304HLを#280研磨紙で研磨して表面を調整した。
次に、SUS板に、25mm巾にカットした各実施例及び各比較例の表面保護フィルムを2kgローラーで貼り合わせ、23℃及び80℃で1日保管し、サンプルとした。
保管後のサンプルから表面保護フィルムをテンシロンで180°剥離での粘着力(剥離力)を測定した。なお、剥離速度は0.3m/min、30m/minとした。
【0040】
(剥離後のSUS板表面の汚染の有無)
上記粘着力の測定において、80℃で1日保管したサンプルから表面保護フィルムを剥離速度:0.3m/minで180°剥離した後のSUS板表面を目視で観察し、汚染の有無を確認した。
これらの結果を、粘着剤の構成、脂肪酸アマイドの含有量とともに、表1に示した。
【0041】
【0042】
表1から明らかなように、本発明の表面保護フィルムによれば、被着体(SUS板)と貼り合わせ後高温下で保管した場合であっても、粘着力の上昇を抑制することができ、被着体が汚染されるのを防止することができることが分かる。これに対して、比較例では、十分な結果が得られなかった。
【符号の説明】
【0043】
1 基材層
2 粘着剤層