(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-26
(45)【発行日】2023-11-06
(54)【発明の名称】電力変換装置および金属加工装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/06 20060101AFI20231027BHJP
B30B 15/14 20060101ALI20231027BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20231027BHJP
【FI】
H02M7/06 S
B30B15/14 H
H02M7/48 U
(21)【出願番号】P 2020131332
(22)【出願日】2020-08-03
【審査請求日】2023-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中原 瑞紀
(72)【発明者】
【氏名】床井 博洋
(72)【発明者】
【氏名】池田 賢二
【審査官】栗栖 正和
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-319676(JP,A)
【文献】特開2000-188867(JP,A)
【文献】特開2001-095262(JP,A)
【文献】特開2017-038841(JP,A)
【文献】特開2005-137168(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/06
H02M 7/48
B30B 15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータへ電力を供給する電力変換装置であって、
外部からの交流電圧を直流電圧に変換するコンバータと、
前記コンバータを制御するコンバータ制御器と、
を備え、
前記コンバータは、起動された際に前記直流電圧を昇圧する倍電圧回路を有し、前記倍電圧回路の起動・停止に応じて電圧値が異なる前記直流電圧を出力し、
前記コンバータ制御器は、前記モータの速度指令値が所定の値から上昇する第2の時刻よりも所定期間だけ前となる第1の時刻で、前記倍電圧回路を起動する、
電力変換装置。
【請求項2】
請求項1記載の電力変換装置において、
前記コンバータは、前記所定期間では前記直流電圧を第1の電圧値から前記第1の電圧値よりも高い第2の電圧値に昇圧し、前記第2の時刻以降では前記直流電圧を前記第2の電圧値から前記第2の電圧値よりも高い第3の電圧値に昇圧する、
電力変換装置。
【請求項3】
請求項2記載の電力変換装置において、
前記第2の電圧値は、前記倍電圧回路の電力容量と、前記モータの消費電力とに基づいて定まる定常値であり、
前記所定期間は、前記直流電圧が前記第1の電圧値から前記定常値に到達するまでの時間に基づいて定められる、
電力変換装置。
【請求項4】
請求項1記載の電力変換装置において、さらに、
複数のスイッチング素子を含み、前記コンバータからの前記直流電圧を交流電圧に変換して前記モータへ出力するインバータと、
前記モータの回転速度が速度指令値に近づくように前記インバータ内の前記複数のスイッチング素子をスイッチング制御するインバータ制御器と、
を有する、
電力変換装置。
【請求項5】
請求項4記載の電力変換装置において、
前記コンバータは、
第1の三相ダイオードブリッジと、
前記第1の三相ダイオードブリッジの正極出力ノードと負極出力ノードとの間に直列接続される第1のDCリンクコンデンサおよび第2のDCリンクコンデンサと、
前記倍電圧回路を構成する第2の三相ダイオードブリッジ、第1のスイッチング素子、第2のスイッチング素子およびインダクタと、
を有し、
前記インダクタは、前記第1のDCリンクコンデンサおよび前記第2のDCリンクコンデンサの共通接続ノードと、スイッチノードとの間に接続され、
前記第1のスイッチング素子は、前記第2の三相ダイオードブリッジの正極出力ノードと前記スイッチノードとの間に接続され、
前記第2のスイッチング素子は、前記第2の三相ダイオードブリッジの負極出力ノードと前記スイッチノードとの間に接続され、
前記コンバータ制御器は、前記倍電圧回路の起動に伴い、前記第1のスイッチング素子および前記第2のスイッチング素子をスイッチング制御する、
電力変換装置。
【請求項6】
請求項5記載の電力変換装置において、
前記第1のスイッチング素子および前記第2のスイッチング素子のそれぞれは、前記インバータ内の前記複数のスイッチング素子のそれぞれよりも小さい素子サイズで構成される、
電力変換装置。
【請求項7】
プレス機構によって加工対象物である金属を加工する金属加工装置であって、
前記金属を加工する際の加工位置と、所定の待機位置との間で前記プレス機構の位置を制御するモータと、
前記モータへ電力を供給する電力変換装置と、
を備え、
前記電力変換装置は、
外部からの交流電圧を直流電圧に変換するコンバータと、
前記コンバータを制御するコンバータ制御器と、
を有し、
前記コンバータは、起動された際に前記直流電圧を昇圧する倍電圧回路を有し、前記倍電圧回路の起動・停止に応じて電圧値が異なる前記直流電圧を出力し、
前記コンバータ制御器は、前記モータの速度指令値が所定の値から上昇する第2の時刻よりも所定期間だけ前となる第1の時刻で、前記倍電圧回路を起動する、
金属加工装置。
【請求項8】
請求項7記載の金属加工装置において、
前記第2の時刻は、前記プレス機構の前記加工位置から前記待機位置への移送を開始する時刻である、
金属加工装置。
【請求項9】
請求項8記載の金属加工装置において、
前記コンバータは、前記所定期間では前記直流電圧を第1の電圧値から前記第1の電圧値よりも高い第2の電圧値に昇圧し、前記第2の時刻以降では前記直流電圧を前記第2の電圧値から前記第2の電圧値よりも高い第3の電圧値に昇圧する、
金属加工装置。
【請求項10】
請求項9記載の金属加工装置において、
前記第2の電圧値は、前記倍電圧回路の電力容量と、前記金属の加工に伴う前記モータの消費電力とに基づいて定まる定常値であり、
前記所定期間は、前記直流電圧が前記第1の電圧値から前記定常値に到達するまでの時間に基づいて定められる、
金属加工装置。
【請求項11】
請求項8記載の金属加工装置において、
前記電力変換装置は、さらに、
複数のスイッチング素子を含み、前記コンバータからの前記直流電圧を交流電圧に変換して前記モータへ出力するインバータと、
前記モータの回転速度が速度指令値に近づくように、または前記モータの電流値が電流指令値に近づくように、前記インバータ内の前記複数のスイッチング素子をスイッチング制御するインバータ制御器と、
を有する、
金属加工装置。
【請求項12】
請求項11記載の金属加工装置において、
前記コンバータは、
第1の三相ダイオードブリッジと、
前記第1の三相ダイオードブリッジの正極出力ノードと負極出力ノードとの間に直列接続される第1のDCリンクコンデンサおよび第2のDCリンクコンデンサと、
前記倍電圧回路を構成する第2の三相ダイオードブリッジ、第1のスイッチング素子、第2のスイッチング素子およびインダクタと、
を有し、
前記インダクタは、前記第1のDCリンクコンデンサおよび前記第2のDCリンクコンデンサの共通接続ノードと、スイッチノードとの間に接続され、
前記第1のスイッチング素子は、前記第2の三相ダイオードブリッジの正極出力ノードと前記スイッチノードとの間に接続され、
前記第2のスイッチング素子は、前記第2の三相ダイオードブリッジの負極出力ノードと前記スイッチノードとの間に接続され、
前記コンバータ制御器は、前記倍電圧回路の起動に伴い、前記第1のスイッチング素子および前記第2のスイッチング素子をスイッチング制御する、
金属加工装置。
【請求項13】
請求項12記載の金属加工装置において、
前記第1のスイッチング素子および前記第2のスイッチング素子のそれぞれは、前記インバータ内の前記複数のスイッチング素子のそれぞれよりも小さい素子サイズで構成される、
金属加工装置。
【請求項14】
請求項11記載の金属加工装置において、
前記コンバータ制御器は、前記インバータ制御器で用いる前記電流指令値を入力として、前記電流指令値の変化に基づいて前記第1の時刻を定める、
金属加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置および金属加工装置に関し、例えば、倍電圧整流回路を含む電力変換装置、および当該電力変換装置を含む金属加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載のインバータ装置は、モータの負荷状態によって全波整流モードと倍電圧整流モードとを切り替え可能な倍電圧回路を有している。倍電圧回路からの直流電圧は、全波整流モードでは全波整流電圧(1倍)となり、倍電圧整流モードでは倍電圧(2倍)となる。これに伴い、倍電圧整流モードでは全波整流モードと比較して、倍電圧回路からの直流電圧で動作するインバータの出力電圧も2倍にできる。
【0003】
また、特許文献1では、全波整流モードから倍電圧整流モードに切り替える動作に着目している。冷凍機などの負荷機械からのモータ加速指令を制御回路が受け取ると、倍電圧回路は、倍電圧整流モードを用いて直流電圧を昇圧する。モータは、直流電圧の昇圧が完了すると加速を開始し、所望の回転数まで加速する。これにより、冷蔵庫内の急冷が必要な際にモータ回転数を高め、冷却性能を向上することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
直流電力を三相交流電力へ変換する電力変換装置は、モータの可変速制御を目的として広く使用されている。これらの電力変換装置では、商用電源(三相200V等)を整流回路によって直流電力に変換し、後段のインバータで任意の電圧や周波数をもつ交流電力を出力することが一般的である。電力変換装置に設けられる整流回路は、三相交流電圧を全波整流することが多く、整流回路からの直流電圧は、入力される各線間電圧の実効値のおよそ√2倍となる。
【0006】
一般的に、電力変換装置の出力電圧は、インバータに供給される直流電圧によってその上限が決まり、それ以上の電圧を出力することはできなかった。一方、一般的なモータは、回転速度が上昇すると誘起電圧が高くなる。このため、モータを高速回転させるためには、インバータは、より高い電圧を出力する必要がある。例えば、モータの負荷がプレス加工機などの加工機械の場合は、生産性向上に向けたタクトタイムの縮減が要求される。そのためには、モータを高速回転および高加速度で駆動する仕組みが求められる。
【0007】
このようなモータの高速回転の課題に対して、特許文献1に示されるように、倍電圧回路を用いて直流電圧を昇圧する方式が知られている。しかしながら、特許文献1に記載された方式では、モータ加速指令を受けてから直流電圧の昇圧を開始するため、昇圧および加速に伴う過渡時間が長くなる。その結果、例えば、メカを急速に下降させて加工対象物を加圧させたのち、メカを急速に上昇させるといった動作を行う加工機械用サーボモータに当該方式を適用した場合、高加速度な動作を実現することが困難となり得る。すなわち、モータの加速に時間がかかり、加工機械のタクトタイム縮減が困難となる恐れがあった。
【0008】
本発明は、このようなことに鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、モータの加速に要する時間を短縮可能な電力変換装置、および当該電力変換装置を含む金属加工装置を提供することにある。
【0009】
本発明の前記並びにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述及び添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願において開示される発明のうち、代表的な実施の形態の概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0011】
本発明の代表的な実施の形態による電力変換装置は、外部からの交流電圧を直流電圧に変換するコンバータと、コンバータを制御するコンバータ制御器とを有し、モータへ電力を供給する。コンバータは、起動された際に直流電圧を昇圧する倍電圧回路を有し、倍電圧回路の起動・停止に応じて電圧値が異なる直流電圧を出力する。コンバータ制御器は、モータの速度指令値が所定の値から上昇する第2の時刻よりも所定期間だけ前となる第1の時刻で、倍電圧回路を起動する。
【発明の効果】
【0012】
本願において開示される発明のうち、代表的な実施の形態によって得られる効果を簡単に説明すると、モータの加速に要する時間を短縮することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施の形態1による電力変換装置周りの構成例を示す回路図である。
【
図2】
図1における倍電圧制御器の主要部の構成例を示す概略図である。
【
図3A】本発明の実施の形態1による金属加工装置の構成例を示す概略図である。
【
図3B】
図3Aの金属加工装置の動作例を示すタイムチャートである。
【
図4】本発明の実施の形態2による電力変換装置周りの構成例を示す回路図である。
【
図5】
図4における倍電圧制御器の主要部の構成例を示す概略図である。
【
図6】本発明の実施の形態3による電力変換装置周りの主要部の構成例を示す回路図である。
【
図7】
図6の電力変換装置を
図3Aの金属加工装置に適用した場合の動作検証結果の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0015】
(実施の形態1)
《電力変換装置の構成》
図1は、本発明の実施の形態1による電力変換装置周りの構成例を示す回路図である。
図1に示す電力変換装置10は、モータ130へ電力を供給する装置である。モータ130は、例えば、三相サーボモータであり、図示しないモータ負荷(例えばプレス機構等)の位置、速度等を制御する。当該電力変換装置10は、コンバータ100と、インバータ103と、交流電圧センサ105と、直流電圧センサ106と、倍電圧制御器(コンバータ制御器)107と、インバータ制御器108と、を備える。
【0016】
また、例えば、電力変換装置10の外部には、負荷制御器109が設けられる。負荷制御器109は、モータ負荷(例えばプレス機構等)のシーケンスを制御するものである。負荷制御器109は、各シーケンスに応じたモータ130の各種駆動条件を定める。これに伴い、負荷制御器109は、モータ130の回転速度、トルク(電流)等の時系列な変化のさせ方を認識している。
【0017】
コンバータ100は、外部の三相交流電源120からの三相交流電力を受電し、三相交流電圧(Vu,Vv,Vw)を直流電圧Voに変換する。具体的には、コンバータ100は、三相ダイオードブリッジ101と、DCリンク部102と、倍電圧回路104とを備える。三相ダイオードブリッジ101は、三相交流電源120からの三相交流電力を全波整流し、DCリンク部102で直流電圧Voに変換する。DCリンク部102は、三相ダイオードブリッジ101の正極出力ノードNp1と負極出力ノードNn1との間に直列接続される2個のDCリンクコンデンサC1,C2を備える。
【0018】
倍電圧回路104は、この例では、三相交流電源120からの三相交流電力を受電し、起動された際に、DCリンクコンデンサC1,C2の共通接続ノードを介して直流電圧Voを所定の電圧に昇圧する。詳細には、倍電圧回路104は、DCリンクコンデンサC1,C2を交互に充電することで、直流電圧Voを約2倍の倍電圧に昇圧する。これに伴い、コンバータ100は、倍電圧回路104の起動・停止(言い換えれば倍電圧整流モードか全波整流モードか)に応じて電圧値が異なる直流電圧Voを出力する。直流電圧Voは、全波整流モードでは全波整流電圧となり、倍電圧整流モードでは倍電圧となる。
【0019】
交流電圧センサ105は、三相交流電源120の各相の電圧値(Vu’,Vv’,Vw’)を検出する。直流電圧センサ106は、直流電圧の電圧値(Vo’)を検出する。交流電圧センサ105の検出結果および直流電圧センサ106の検出結果は、それぞれ、信号線110,112を介して倍電圧制御器(コンバータ制御器)107へ入力される。倍電圧制御器107は、これらの検出結果に基づいて、倍電圧回路104内のスイッチング素子(図示せず)を、信号線111を介してスイッチング信号Gswでスイッチング制御する。
【0020】
さらに、倍電圧制御器107には、負荷制御器109から信号線113を介して負荷情報(モータ情報)LDIが入力される。詳細は後述するが、負荷情報LDIには、例えば、負荷電力情報と負荷制御情報とが含まれる。倍電圧制御器107は、この負荷情報LDIに基づいて倍電圧回路104の起動時刻を定める。そして、倍電圧制御器107は、この起動時刻から倍電圧回路104のスイッチング制御を開始する。
【0021】
インバータ103は、この例では、6個のスイッチング素子SWを含む三相インバータで構成される。インバータ103は、コンバータ100からの直流電圧Voを交流電圧(三相交流電圧)に変換してモータ130へ出力する。スイッチング素子SWは、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、またはMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)、あるいはサイリスタ等によって構成される。また、インバータ103は、図示しない電流センサを含み、電流センサを用いて各相の電流値(Iu’,Iv’,Iw’)を検出する。この電流センサの検出結果は、信号線115を介してインバータ制御器108へ入力される。
【0022】
さらに、インバータ制御器108には、負荷制御器109からの速度指令値ω*やトルク指令値(電流指令値)I*等が信号線114を介して入力される。インバータ制御器108は、モータ130の回転速度が速度指令値ω*に近づくようにPI制御(比例・積分制御)等を行う。または、インバータ制御器108は、モータ130の電流値(検出された電流値(Iu’,Iv’,Iw’))が電流指令値I*に近づくようにPI制御等を行う。
【0023】
そして、インバータ制御器108は、このようなPI制御等によってPWM信号のデューティ比を定め、所定の通電方式(例えば180°通電方式等)を反映して各相のPWM信号PWMu,PWMv,PWMwを生成する。インバータ制御器108は、このPWM信号PWMu,PWMv,PWMwによってインバータ103内の各スイッチング素子SWをスイッチング制御する。
【0024】
図1において、倍電圧制御器107およびインバータ制御器108は、代表的には、単数または複数のマイクロコントローラ(マイコン)等で構成される。各信号線110~116は、有線に限らず無線であってもよい。そして、これらは、コンバータ100やインバータ103等を構成する各部品と共に、単数または複数の配線基板上に実装され、電力変換装置10を構成する筐体内に搭載される。また、負荷制御器109は、代表的には、電力変換装置10外部の上位装置に搭載される。
【0025】
なお、実装方式に関しては、勿論、このような方式に限らず、適宜変更することが可能である。例えば、倍電圧制御器107およびインバータ制御器108は、一部または全てがFPGA(Field Programmable Gate Array)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)等で構成されてもよい。すなわち、各制御器は、ソフトウェア、またはハードウェア、あるいは、その組み合わせで適宜構成されればよい。
【0026】
また、ここでは、コンバータ100およびインバータ103共に三相(u相、v相、w相)構成を用いたが、二相以上の構成であればよい。さらに、ここでは、インバータ103を用いた三相交流電力でモータ130を駆動したが、場合によっては、モータ130を直流電圧Voで駆動するような構成であってもよい。
【0027】
図2は、
図1における倍電圧制御器の主要部の構成例を示す概略図である。
図2の倍電圧制御器107は、起動時刻演算器203と、スイッチング信号演算器205とを備える。起動時刻演算器203には、負荷情報(モータ情報)LDIである負荷電力情報201および負荷制御情報202が入力される。負荷制御情報202は、モータ130の速度指令値ω
*を所定の値からどの時刻で上昇させるかの時刻情報を含む。言い換えれば、倍電圧回路104の起動が必要となる時刻情報を含む。負荷電力情報201は、モータ130の消費電力を表す。
【0028】
起動時刻演算器203は、このような負荷情報LDIに基づいて、モータ130の速度指令値が所定の値から上昇する時刻よりも所定期間だけ前の時刻を、起動時刻として定める。起動時刻演算器203は、この起動時刻で、倍電圧起動信号ENをアサートする。スイッチング信号演算器205は、倍電圧起動信号ENのアサートに応じて、スイッチング信号Gswの生成を開始し、このスイッチング信号Gswで倍電圧回路104内のスイッチング素子(図示せず)をスイッチング制御する。
【0029】
なお、起動時刻演算器203は、例えば、マイコン内のCPU(Central Processing Unit)を用いたプログラム処理等で実装される。スイッチング信号演算器205は、例えば、マイコン内のカウンタ等を用いて実装される。
【0030】
《金属加工装置への適用例》
図3Aは、本発明の実施の形態1による金属加工装置の構成例を示す概略図である。
図3Aの金属加工装置310は、プレス装置であり、スライド(プレス機構)311によって加工対象物315である金属を加工するものである。当該金属加工装置310は、スライド311と、ボルスタ312と、モータ(サーボモータ)130と、電力変換装置10とを備える。ボルスタ312には、下型314が取り付けられ、下型314を介して加工対象物315が設置される。スライド311は、加工対象物315を挟んでボルスタ312と対向するように配置される。スライド311には、上型313が取り付けられる。
【0031】
モータ130は、スライド(プレス機構)311の位置を、加工位置P0と待機位置P1との間で制御する。加工位置P0は、加工対象物(金属)315を加工する際の位置である。電力変換装置10は、
図1に示したようなコンバータ100およびインバータ103を含み、モータ130に所定の電力を供給することでモータ130の回転(ひいてはスライド311の位置)を制御する。加工対象物(金属)315は、スライド311の位置がモータ130を介して加工位置P0に制御された際に、上型313および下型314の形状に基づいて所定の形状に加工される。この加工の際には、適宜、モータ130のトルク制御(電流制御)が行われる。
【0032】
図3Bは、
図3Aの金属加工装置の動作例を示すタイムチャートである。
図3Bには、メカ位置(スライド311の位置)、モータ回転速度(ひいては速度指令値ω
*)、モータトルク(ひいては電流指令値I
*)、倍電圧起動信号EN、および直流電圧Voの各制御状態が示される。モータトルク(I
*)については、加工対象物315を加圧する方向を正にとって表現している。まず、直流電圧Voを除く箇所に関して説明する。
【0033】
時刻t2までの期間T1において、金属加工装置310は、加工対象物(金属)315をスライド311で加圧する加工モードで動作する。期間T1において、メカ位置は、加工位置P0である。モータ回転速度(ω*)は、加工対象物315を加圧している状態であるため、ゼロに近い低速となる。一方、モータトルク(I*)は、加工対象物315を加圧している状態であるため、大トルクとなる。
【0034】
時刻t2から時刻t5までの期間T2において、金属加工装置310は、スライド311を加工位置P0から待機位置P1へ移送する移送モードで動作する。加工対象物315の加工が終了すると、スライド311を早期に待機位置P1へ戻すことが望まれる。そこで、モータ回転速度(速度指令値ω*)は、加工対象物315の加工が終了した時刻t2から上昇するように制御される。これに応じて、モータ130は、速度指令値ω*によって定められる上限目標速度に向けて時刻t2から加速を開始し、時刻t3で上限目標速度に到達する。モータ130は、時刻t3から時刻t4までの期間では、当該上限目標速度での回転状態を保つ。
【0035】
時刻t4では、スライド311を十分に減速させた状態(速度が略ゼロの状態)で待機位置P1に到達させるため、モータ回転速度(ω*)は、下降するように制御される。そして、スライド311は、時刻t5において、十分に減速した状態で待機位置P1に到達する。モータトルク(I*)は、時刻t2から時刻t4までの期間では、スライド311の移送に要するトルクで足りるため、小さい負値となる。また、モータトルク(I*)は、時刻t4から時刻t5までの期間では、モータ回転速度(ω*)の減速に伴い、正値となる。
【0036】
時刻t5以降の期間T3において、金属加工装置310は、次の加工処理を待つ待機モードで動作する。期間T3において、メカ位置は、待機位置P1を保ち、モータ回転速度(ω*)およびモータトルク(I*)は共にゼロである。なお、図示は省略されているが、待機モードT3の後には、期間T2とは逆方向の移送を行う移送モードが設けられる。
【0037】
次に、直流電圧Voに関して説明する。
図3Bの直流電圧Voに関しては、
図1の電力変換装置10を用いた場合の制御状態301と、比較例となる電力変換装置を用いた場合の制御状態302とが示される。加工モードの期間T1において、倍電圧起動信号ENは、時刻t1まではネゲートレベルである。これに応じて、倍電圧回路104は、停止状態である。
【0038】
一方、倍電圧制御器107は、時刻t1で倍電圧起動信号ENをアサートする。これに応じて、倍電圧回路104は、起動される。すなわち、倍電圧制御器107は、倍電圧回路104へのスイッチング信号Gswの出力を開始する。その後、時刻t2で加工モードから移送モードに切り替わる。倍電圧制御器107は、移送モード(期間T2)およびその後の待機モード(期間T3)において、倍電圧起動信号ENのアサートレベルをそのまま維持する。これに応じて、倍電圧回路104は、時刻t2以降も、昇圧動作をそのまま継続する。
【0039】
直流電圧Voは、期間T1における時刻t1までの期間では、倍電圧回路104が停止状態であるため、全波整流の電圧値V1となる。その後、時刻t1から時刻t2までの期間T12において、倍電圧回路104は、倍電圧起動信号ENのアサートに応じて、直流電圧Voを、全波整流の電圧値V1から、それよりも高い予備の電圧値V2に昇圧する。さらに、倍電圧回路104は、時刻t2以降では、直流電圧Voを、予備の電圧値V2から、それよりも高く、電圧値V1の約2倍となる電圧値V3に昇圧する。
【0040】
ここで、倍電圧回路104は、電力変換装置10の小型化の要求のもとで、
図3Bに示されるように、モータトルク(I
*)が小さくなる移送モードで電力供給を行うことを前提に設計される。このため、倍電圧回路104は、例えば、インバータ103と比較してサイズが小さい素子で構成され、インバータ103と比較して電力容量が小さくなる。その結果、加工モードの期間T1に含まれる期間T12において、倍電圧回路104を起動させると、直流電圧Voは、倍電圧の電圧値V3には到達できず、電圧値V1と電圧値V3の間の電圧値V2で定常値に達する。
【0041】
この定常値(電圧値V2)は、既知となる倍電圧回路104の電力容量と、加工モード時のモータ130の消費電力とに基づいて定まる。具体的には、電圧値V2は、倍電圧回路104からのDCリンク部102への充電電流と、モータ130の消費電力に伴うDCリンク部102からの放電電流とがバランスする際の電圧値となる。したがって、
図2の起動時刻演算器203は、加工モード時のモータ130の消費電力を表す負荷電力情報201が入力されることで電圧値V2を算出できる。
【0042】
また、起動時刻演算器203は、DCリンク部102を構成する各コンデンサ(C1,C2)の既知の容量値等(すなわち昇圧時定数)と、DCリンク部102の実効的な充電電流とに基づいて、直流電圧Voを電圧値V1から電圧値V2に昇圧するのに要する時間を算出できる。起動時刻演算器203は、この算出した時間を
図3Bの期間T12として定める。また、起動時刻演算器203は、負荷制御情報202によって
図3Bの時刻t2を得ることができる。時刻t2は、スライド(プレス機構)311の加工位置P0から待機位置P1への移送を開始する時刻である。
【0043】
これらの情報に基づいて、起動時刻演算器203は、モータ130の速度指令値ω*が所定の値から上昇する時刻t2よりも期間T12だけ前となる時刻t1で、倍電圧起動信号ENをアサートする。ここで、時刻t1が早すぎると、その分だけ倍電圧回路104の動作期間が長くなり、無駄な電力損失が生じ得る。一方、時刻t1が遅すぎると、直流電圧Voが電圧値V2に到達する前に移送モードへの移行が行われる。この場合、時刻t2から時刻t3までの期間T23におけるモータ130の加速期間が長くなり、ひいては、移送モードの期間T2が長くなる。
【0044】
そこで、
図3Bのように、直流電圧Voが電圧値V2に到達する時刻と、加工モードから移送モードに切り替わる時刻t2とがほぼ一致するように時刻t1を定めることが有益となる。その後、時刻t2で加工モードから移送モードに切り替わると、モータトルク(I
*)が小さくなるため、直流電圧Voは、再び上昇し始める。そして、期間T23において、直流電圧Voは、電圧値V2から、全波整流の電圧値V1の約2倍の電圧値V3まで昇圧される。この際には、この直流電圧Voを昇圧した分だけ、モータ130の回転速度を上昇させることが可能になる。時刻t3以降、直流電圧Voは、定常状態となる。
【0045】
なお、
図3Bの期間T12では、直流電圧Voの昇圧によって、加工モードの期間でインバータ103の電源電圧が変化することになる。この場合、インバータ制御器108における制御ループの安定性(例えば、電流値の電流指令値I
*からの変動等)が懸念される。ただし、特に、金属加工装置等のようなサーボ機構では、サーボアンプとなるインバータ制御器108は、通常、制御ループの応答速度が十分に速くなるように設計される。このため、制御ループの安定性を十分に保つ(電流値を電流指令値I
*に保つ)ことが可能である。
【0046】
また、比較例となる電力変換装置では、倍電圧回路104は、少なくとも加工モードが完了した後に起動され、
図3Bの制御状態302に示されるように、早くとも加工モードから移送モードに切り替わる時刻t2で起動されることになる。この場合、時刻t2を起点として、直流電圧Voを電圧値V1から電圧値V3に昇圧するのに時間を要し、この昇圧時間に応じてモータ130の加速期間(ひいては移送モードT2の期間)も長くなる。
【0047】
《実施の形態1の主要な効果》
以上、実施の形態1の方式を用いることで、代表的には、モータ130の加速に要する時間(すなわち
図3Bの期間T23)を短縮することが可能になる。その結果、金属加工装置310のタクトタイムを縮減できる。さらに、倍電圧回路104の電力容量を上げることなく、このような効果が得られる。倍電圧回路104の電力容量を上げないことで、電力変換装置10の小型化が可能になる。
【0048】
なお、
図2の例では、起動時刻演算器203を用いて倍電圧回路104の起動時刻(時刻t1)を定めた。ただし、通常、加工対象物315の種類が同じであれば、時刻t1も不変である。このため、時刻t1を、加工対象物315の種類毎に予めシミュレーション等を用いて固定的に定めてもよい。この場合、例えば、
図1の負荷制御器109が、シミュレーションに基づいて定められる時刻t1で、倍電圧制御器107に向けた倍電圧起動信号ENをアサートしてもよい。
【0049】
また、
図3Bの例では、予備の電圧値V2は、前述したような各種条件によって受動的に定まる値とした。ただし、予備の電圧値V2を制御ループによって能動的に定める方式を用いてもよい。例えば、受動的に定まる予備の電圧値V2が、倍電圧の電圧値V2に近いような場合、期間T12におけるインバータ103の損失が大きくなり、また、インバータ制御器108の制御ループの安定性が無視できないレベルとなる可能性がある。このような場合、予備の電圧値V2の上限値を制限するような制御を行ってもよい。
【0050】
(実施の形態2)
《電力変換装置の構成および動作》
図4は、本発明の実施の形態2による電力変換装置周りの構成例を示す回路図である。
図4に示す電力変換装置20は、
図1の構成例と比較して、倍電圧制御器(コンバータ制御器)107の構成および動作が異なっている。倍電圧制御器107には、
図1の場合と異なり、インバータ制御器108で用いる電流指令値I
*が信号線401を介して入力される。倍電圧制御器107は、当該電流指令値I
*の変化に基づいて、倍電圧回路104の起動時刻(すなわち
図3Bの時刻t1)を定める。
【0051】
ここで、
図4における倍電圧制御器107およびインバータ制御器108の実装形態として、代表的には、同一のマイコン等に実装される場合や、異なるマイコン等に実装された上で同一の配線基板上に搭載される場合等が考えられる。一方、負荷制御器109は、前述したように、電力変換装置20を構成する筐体の外部に位置する上位装置に設けられる場合が多い。このため、
図4の信号線401を、
図1の信号線113よりも短くすることができる。その結果、通信ノイズの低減や、実装の容易化等が実現可能になる。
【0052】
図5は、
図4における倍電圧制御器の主要部の構成例を示す概略図である。
図5の倍電圧制御器107は、
図2の場合と同様に、起動時刻演算器203およびスイッチング信号演算器205を備える。ただし、起動時刻演算器203には、
図2の場合と異なり、電流指令値I
*が入力される。
【0053】
ここで、
図3Aに示したような金属加工装置310において、加工モードの際には、トルク(すなわち電流指令値I
*)を逐次変化させながら所望の加工を行う方式が一般的である。このため、起動時刻演算器203は、インバータ制御器108から取得した電流指令値I
*の変化パターンと、予め保持している変化パターンとを比較することで、現時刻が加工モードの期間T1内のどの時刻であるかを推定できる。これに伴い、起動時刻演算器203は、
図3Bの時刻t2を推定できる。また、起動時刻演算器203は、取得した電流指令値I
*に基づいて、
図3Bの期間T12も算出できる。これにより、起動時刻演算器203は、
図3Bの時刻t1を算出することが可能である。
【0054】
《実施の形態2の主要な効果》
以上、実施の形態2の方式を用いることでも、実施の形態1の場合と同様の効果が得られる。さらに、電力変換装置20は、負荷制御器109(例えば上位装置)からの特殊な情報(例えば
図2の負荷制御情報202)を得ることなく、倍電圧回路104を起動する時刻を定めることができる。
【0055】
(実施の形態3)
《電力変換装置の構成および動作》
図6は、本発明の実施の形態3による電力変換装置周りの主要部の構成例を示す回路図である。
図6では、
図1または
図3と異なり、電力変換装置60内の倍電圧回路104の詳細な回路構成例が示される。倍電圧回路104は、三相ダイオードブリッジ601と、ハーフブリッジ602と、インダクタL1とを備える。ハーフブリッジ602は、2個のスイッチング素子SW1,SW2を備える。三相ダイオードブリッジ601は、倍電圧回路104が起動された際に、三相交流電源120からの三相交流電圧(Vu,Vv,Vw)を全波整流する。
【0056】
インダクタL1は、2個のDCリンクコンデンサC1,C2の共通接続ノードNcと、スイッチノードNswとの間に接続される。スイッチング素子SW1は、三相ダイオードブリッジ601の正極出力ノードNp2とスイッチノードNswとの間に接続される。スイッチング素子SW2は、三相ダイオードブリッジ601の負極出力ノードNn2とスイッチノードNswとの間に接続される。スイッチング素子SW1,SW2は、例えば、IGBT、またはMOSFET、あるいはサイリスタ等によって構成される。
【0057】
図1に示した倍電圧制御器(コンバータ制御器)107は、倍電圧回路104の起動に伴い、スイッチング素子SW1,SW2を複数のスイッチング信号Gswでスイッチング制御する。一方、倍電圧制御器107は、倍電圧回路104を停止状態にする場合、スイッチング素子SW1,SW2を共にオフに固定する。
【0058】
倍電圧回路104の動作について説明する。まず、スイッチング素子SW1がオン、スイッチング素子SW2がオフに制御された場合を想定する。この場合、三相交流電源120、三相ダイオードブリッジ601の正極出力ノードNp2、スイッチング素子SW1、インダクタL1、DCリンクコンデンサC2、三相ダイオードブリッジ101の負極出力ノードNn1、三相交流電源120の経路で充電電流が流れる。その結果、DCリンクコンデンサC2のみが充電される。
【0059】
次に、スイッチング素子SW2がオン、スイッチング素子SW1がオフに制御された場合を想定する。この場合、三相交流電源120、三相ダイオードブリッジ101の正極出力ノードNp1、DCリンクコンデンサC1、インダクタL1、スイッチング素子SW2、三相ダイオードブリッジ601の負極出力ノードNn2、三相交流電源120の経路で充電電流が流れる。その結果、DCリンクコンデンサC1のみが充電される。
【0060】
そこで、スイッチング素子SW1,SW2のオン・オフ状態を交互に切り替えることで、DCリンクコンデンサC1,C2を交互に充電することができる。この際に、DCリンクコンデンサC1,C2のそれぞれは、全波整流電圧まで充電される。その結果、直流電圧Voは、全波整流電圧の約2倍の倍電圧となる。なお、インダクタL1は、倍電圧回路104が起動されたのち、直流電圧Voの昇圧が完了するまでの期間で生じ得る各コンデンサ(C1,C2)への突入電流を抑制するために設けられる。
【0061】
また、2個の三相ダイオードブリッジ101,601は、三相交流電源120から見て、並列に接続される。このため、例えば、
図3Bの期間T12において、インバータ103で必要される大電力は、大部分が三相ダイオードブリッジ101によって供給され、倍電圧回路104によって供給される必要性は殆どない。すなわち、倍電圧回路104は、インバータ103よりも小さい電力を出力した状態で、直流電圧Voを昇圧することができる。その結果、インバータ103よりも電力容量が小さく、低コストで小型な倍電圧回路104を用いることが可能になる。具体的には、例えば、倍電圧回路104内の各スイッチング素子SW1,SW2は、インバータ103内のスイッチング素子SWよりも小さい素子サイズで構成される。
【0062】
図7は、
図6の電力変換装置を
図3Aの金属加工装置に適用した場合の動作検証結果の一例を示す図である。
図7には、
図3Bにおける時刻t1前後から時刻t3前後までの期間を対象に、インダクタL1に流れるインダクタ電流ILと、直流電圧Voとをシミュレーションした結果が示される。
図7の時刻t1までの期間では、倍電圧回路104が停止状態であるため、インダクタ電流ILはゼロであり、直流電圧Voは全波整流電圧(電圧値V1)である。時刻t1で倍電圧回路104が起動されたのち、インダクタ電流ILは、起動直後のソフトスタート制御によって高周波状に変化する。
【0063】
具体的には、まず、前述したようなスイッチング素子SW1,SW2の制御に応じて、インダクタ電流ILは、予め定めた期間毎に、正電流と負電流とが交互に切り替わる。この予め定めた期間は、例えば、三相交流電圧(Vu,Vv,Vw)における最大電圧相または最小電圧相の切り替わりに基づいて定められ、当該交流位相の電気角60°分の期間である。最大電圧相または最小電圧相が切り替わるタイミングは、
図1の交流電圧センサ105を用いて検出される。
【0064】
そして、
図1の倍電圧制御器107は、インダクタ電流ILが予め定めた制限範囲(ILmin~ILmax)を超えないように、電気角60°分の期間内で、オン側のスイッチング素子(SW1またはSW2)を間欠的にオンに制御する。言い換えれば、オン側のスイッチング素子は、高いスイッチング周波数でスイッチング制御される。このような制御は、ソフトスタート制御と呼ばれる。すなわち、昇圧を行っている期間では、DCリンクコンデンサC1,C2に大きな突入電流(すなわち過電流)が流れ得るため、倍電圧制御器107は、ソフトスタート制御を用いてこの過電流を防止する。
【0065】
直流電圧Voは、時刻t1から上昇し始め、予備の電圧値V2で定常状態に達する。時刻t2では、加工モードから移送モードへの切り替わりが生じ、必要とされるモータ電流が小さくなるため、直流電圧Voは、再び上昇し始める。また、インダクタ電流ILは、時刻t2前後で殆ど変化しない。時刻t3では、直流電圧Voは、倍電圧(電圧値V3)に到達する。
【0066】
ここで、時刻t3近傍では、三相交流電源120の電圧と、DCリンクコンデンサC1,C2の電圧とが拮抗するため、インダクタ電流ILは、制限範囲(ILmin~ILmax)未満の大きさまで小さくなる。その結果、スイッチング素子SW1,SW2の間欠的な制御は生じなくなる。そして、スイッチング素子SW1,SW2が電気角60°の期間毎にスイッチング制御された状態で安定化する。言い換えれば、三相交流電源120の周波数の3倍のスイッチング周波数で安定状態となる。
【0067】
《実施の形態3の主要な効果》
以上、実施の形態3の方式を用いることで、実施の形態1,2の場合と同様に、倍電圧回路104の電力容量を上げることなく、モータ130の加速に要する時間を短縮することが可能になる。さらに、
図6に示されるような並列接続方式の倍電圧回路104を用いることで、電力損失を低減することが可能になる。すなわち、倍電圧回路の回路方式として、例えば、三相ダイオードブリッジ101とDCリンク部102との間の経路上に直列に素子を挿入するような方式も知られている。この場合、この直列に挿入された素子によって全波整流モード時に無駄な電力損失が生じ得る。
図6の回路方式を用いると、このような電力損失は生じない。
【0068】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、前述した実施の形態は、本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施の形態の構成の一部を他の実施の形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施の形態の構成に他の実施の形態の構成を加えることも可能である。また、各実施の形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0069】
例えば、ここでは、電力変換装置の金属加工装置への適用例を示したが、勿論、これに限らず、モータの回転速度の切り替えに応じて全波整流モードと倍電圧整流モードとを適宜切り替えて動作するような各種装置(システム)に対して同様に適用可能である。
【符号の説明】
【0070】
10,20,60…電力変換装置、100…コンバータ、101,601…三相ダイオードブリッジ、102…DCリンク部、103…インバータ、104…倍電圧回路、107…倍電圧制御器(コンバータ制御器)、108…インバータ制御器、109…負荷制御器、130…モータ、310…金属加工装置、311…スライド(プレス機構)、315…加工対象物(金属)、C1,C2…DCリンクコンデンサ、EN…倍電圧起動信号、L1…インダクタ、SW,SW1,SW2…スイッチング素子、Vo…直流電圧