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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-26
(45)【発行日】2023-11-06
(54)【発明の名称】作業車
(51)【国際特許分類】
   F16H 47/04 20060101AFI20231027BHJP
【FI】
F16H47/04 C
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020195802
(22)【出願日】2020-11-26
(62)【分割の表示】P 2018245770の分割
【原出願日】2018-12-27
(65)【公開番号】P2021028541
(43)【公開日】2021-02-25
【審査請求日】2021-12-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】平瀬 裕司
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 竜馬
(72)【発明者】
【氏名】後野 剛志
(72)【発明者】
【氏名】西久保 拓也
(72)【発明者】
【氏名】武岡 達
(72)【発明者】
【氏名】川添 翼
【審査官】鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-121639(JP,A)
【文献】特開2003-049926(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0043764(US,A1)
【文献】特開平07-174209(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 47/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの駆動力を無段階に変速する無段変速装置を備え、前記無段変速装置で変速された駆動力を変速する複数の遊星ギヤ変速装置を備え、複数の前記遊星ギヤ変速装置からの駆動力を個別に取り出すため複数の前記遊星ギヤ変速装置に対応する複数のクラッチ機構を備え、
複数の前記遊星ギヤ変速装置が並列する位置関係で配置され、
前記エンジンと、前記無段変速装置と、複数の前記遊星ギヤ変速装置とが、この順序で車体の前後方向に沿って配置され
前記無段変速装置が、前記エンジンで駆動される可変容量型の油圧ポンプと、前記油圧ポンプから供給される作動油により回転する油圧モータとを有し、前記油圧ポンプの入力軸と、前記油圧モータの出力軸とが、前記遊星ギヤ変速装置が配置された方向に向けて突出形成され、
前記エンジンの駆動力を伝える駆動軸が、前記無段変速装置を前後方向に沿って貫通して配置され、前記駆動軸のうち前記無段変速装置を貫通した貫通部位からの駆動力を前記入力軸に伝える駆動ギヤ機構と、前記出力軸からの駆動力を複数の前記遊星ギヤ変速装置に伝える分岐ギヤ機構とを備えている作業車。
【請求項2】
前記車体の前後方向における前記エンジンと前記無段変速装置との間に、前記エンジンの駆動力を前記駆動軸に伝達および遮断可能な主クラッチが設けられている請求項に記載の作業車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの駆動力を静油圧式の無段変速装置と遊星ギヤ変速装置とで変速する作業車に関する。
【背景技術】
【0002】
上記構成された作業車として特許文献1には、エンジンの駆動力を静油圧式の無段変速装置で変速し、次に、遊星ギヤ変速装置で変速し、更に、副変速装置で変速する技術が記載されている。
【0003】
この特許文献1に記載される遊星ギヤ変速装置は、3つの遊星ギヤ変速部(文献では遊星伝動機構)を同一の軸芯に沿って直列に配置し、この3つの遊星ギヤ変速部のうちの2つのものから個別に駆動力を取り出す2つのクラッチ機構を備えている。特に、この遊星ギヤ変速装置は、2つのクラッチ機構も、3つの遊星ギヤ変速部と同軸芯で直列に配置されている。
【0004】
また、特許文献1に記載される副変速装置は、遊星ギヤ変速装置から伝えられる駆動力を高低2段に切り換えるように2つのクラッチ機構と2組のギヤとを組み合わせて構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-159883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載される変速構成は、無段変速装置での無段階の変速が可能であり、遊星ギヤ変速装置で2段階の変速が可能であり、副変速装置で更に2段階の変速が可能となる。その結果、この変速構成は、多段の変速を実現するものである。
【0007】
また、特許文献1に記載される変速構成は、遊星ギヤ変速装置が大きい減速比での減速が可能であるため、小容量の無段変速装置の使用を可能にするものである。
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載される遊星ギヤ変速装置は、3つの遊星ギヤ変速部を直列に配置し、2つのクラッチ機構を直列に配置するため、構成が複雑化するだけでなく、前後方向での大型化に繋がるものであった。特に、特許文献1に記載される変速構成は変速された駆動力を取り出すための伝動構成も複雑化を招くものであり改善の余地があった。
【0009】
このような理由から、静油圧式の無段変速装置と遊星ギヤ変速装置とを用いる有効性を損なうことなく、変速構成の大型化を抑制し、変速構成の単純化も可能な作業車が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る作業車の特徴構成は、エンジンの駆動力を無段階に変速する無段変速装置を備え、前記無段変速装置で変速された駆動力を変速する複数の遊星ギヤ変速装置を備え、複数の前記遊星ギヤ変速装置からの駆動力を個別に取り出すため複数の前記遊星ギヤ変速装置に対応する複数のクラッチ機構を備え、複数の前記遊星ギヤ変速装置が並列する位置関係で配置され、前記エンジンと、前記無段変速装置と、複数の前記遊星ギヤ変速装置とが、この順序で車体の前後方向に沿って配置され、前記無段変速装置が、前記エンジンで駆動される可変容量型の油圧ポンプと、前記油圧ポンプから供給される作動油により回転する油圧モータとを有し、前記油圧ポンプの入力軸と、前記油圧モータの出力軸とが、前記遊星ギヤ変速装置が配置された方向に向けて突出形成され、前記エンジンの駆動力を伝える駆動軸が、前記無段変速装置を前後方向に沿って貫通して配置され、前記駆動軸のうち前記無段変速装置を貫通した貫通部位からの駆動力を前記入力軸に伝える駆動ギヤ機構と、前記出力軸からの駆動力を複数の前記遊星ギヤ変速装置に伝える分岐ギヤ機構とを備えている。
また、上記構成において、前記無段変速装置が、前記エンジンで駆動される可変容量型の油圧ポンプと、前記油圧ポンプから供給される作動油により回転する油圧モータとを有し、前記油圧ポンプの入力軸と、前記油圧モータの出力軸とが、前記遊星ギヤ変速装置が配置された方向に向けて突出形成され、前記エンジンの駆動力を伝える駆動軸が、前記無段変速装置を前後方向に沿って貫通して配置され、前記駆動軸のうち前記無段変速装置を貫通した貫通部位からの駆動力を前記入力軸に伝える駆動ギヤ機構と、前記出力軸からの駆動力を複数の前記遊星ギヤ変速装置に伝える分岐ギヤ機構とを備えていると好適である。
また、上記構成において、前記車体の前後方向における前記エンジンと前記無段変速装置との間に、前記エンジンの駆動力を前記駆動軸に伝達および遮断可能な主クラッチが設けられていると好適である。
また、本発明に係る作業車の特徴構成は、エンジンの駆動力を無段階に変速する静油圧式の無段変速装置を備え、前記無段変速装置で変速された駆動力を変速する複数の遊星ギヤ変速装置を備え、複数の前記遊星ギヤ変速装置からの駆動力を個別に取り出すため複数の前記遊星ギヤ変速装置に対応する複数のクラッチ機構を備え、複数の前記クラッチ機構から伝えられる駆動力を変速して走行機構に伝える走行変速部を備え、複数の前記遊星ギヤ変速装置が並列する位置関係で配置され、複数の前記遊星ギヤ変速装置と、複数の前記クラッチ機構と、前記走行変速部とがミッションケースに収容されている点にある。
【0011】
この特徴構成によると、エンジンの駆動力が無段変速装置で無段階に変速され、このように変速された駆動力が複数の遊星ギヤ変速装置の各々で大きく減速できるため、無段変速装置に小容量のものを用いることが可能となる。また、複数の遊星ギヤ変速装置で変速された駆動力は、各々に対応するクラッチ機構で個別に取り出し、走行変速部に伝えることが可能となる。特に、複数の遊星ギヤ変速装置が並列する位置関係で配置されるため、複数の遊星ギヤ変速装置を直列に配置する構成と比較して遊星ギヤ変速装置を収容する空間の前後方向での寸法の縮小が可能となる。
従って、静油圧式の無段変速装置と遊星ギヤ変速装置とを用いる有効性を損なうことなく、変速構成の大型化を抑制し、変速構成の単純化も可能な作業車が構成された。
【0012】
他の構成として、前記エンジンと、前記無段変速装置と、複数の前記遊星ギヤ変速装置とが、この順序で車体の前後方向に沿って配置され、前記無段変速装置が、前記エンジンで駆動される可変容量型の油圧ポンプと、前記油圧ポンプから供給される作動油により回転する油圧モータとを有すると共に、前記油圧ポンプの入力軸と、前記油圧モータの出力軸とが、前記遊星ギヤ変速装置が配置された方向に向けて突出形成され、前記エンジンの駆動力を伝える駆動軸が、前記無段変速装置を前後方向に沿って貫通して配置され、前記駆動軸のうち前記無段変速装置を貫通した貫通部位からの駆動力を前記入力軸に伝える駆動ギヤ機構と、前記出力軸からの駆動力を複数の前記遊星ギヤ変速装置に伝える分岐ギヤ機構とを備えても良い。
【0013】
これによると、エンジンの駆動力を伝える駆動軸が、無段変速装置を前後方向に貫通しており、貫通した貫通部位からの駆動力が、駆動ギヤ機構を介して複数の遊星ギヤ変速装置の入力軸に伝えられることにより無段変速装置での変速が可能となる。また、無段変速装置の出力軸からの駆動力が分岐ギヤ機構を介して複数の遊星ギヤ変速装置に伝えられることにより複数の遊星ギヤ変速装置での変速が可能となる。
【0014】
他の構成として、複数の前記遊星ギヤ変速装置として、変速率が小さい高速側の第1遊星ギヤ変速装置と、変速率が大きい低速側の第2遊星ギヤ変速装置とを備え、複数の前記クラッチ機構として、前記第1遊星ギヤ変速装置からの駆動力を断続する第1クラッチ機構と、前記第2遊星ギヤ変速装置からの駆動力を断続する第2クラッチ機構とを備え、前記走行変速部が、前記第1クラッチ機構と前記第2クラッチ機構とからの駆動力を変速する副変速装置を備えても良い。
【0015】
これによると、第1クラッチ機構と第2クラッチ機構とを選択的に操作することにより、第1遊星ギヤ変速装置で変速された駆動力と、第2遊星ギヤ変速装置で変速された駆動力とを取り出し、副変速装置で更に変速して走行機構に伝えることが可能となる。
【0016】
他の構成として、前記無段変速装置が、前記エンジンで駆動される可変容量型の油圧ポンプと、前記油圧ポンプから供給される作動油により回転する油圧モータと、前記油圧ポンプと前記油圧モータとの間に形成される油圧回路が形成されるポートブロックとを備え、前記ポートブロックの後面側に前記油圧ポンプと前記油圧モータとが配置されても良い。
【0017】
これによると、ポートブロックの後面側に油圧ポンプと油圧モータとを配置することにより、例えば、油圧ポンプの入力軸を後方に突出させ、油圧モータの出力軸を後方に突出させる構成も容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】トラクタの側面図である。
図2】クラッチハウジングと無段変速ハウジングとの配置を示す平面図である。
図3】無段変速ハウジングの断面図である。
図4】伝動構造を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔全体構成〕
図1に示すように、走行車体Aに左右一対の前車輪1と左右一対の後車輪2とを備え、走行車体のAの前部のエンジンボンネット3の内部にエンジン4を備え、走行車体Aの後部位置にキャビン5を有する運転部Bを配置して作業車としてのトラクタが構成されている。このトラクタでは左右の前車輪1と左右の後車輪2とが走行機構として機能する。
【0020】
図1図2に示すように図中のFは「前方向」を示し、Bは「後方向」を示し、Uは「上方向」を示し、Dは「下方向」を示す。Rは「右方向」を示し、Lは「左方向」を示している。
【0021】
キャビン5の内部には左右の後輪フェンダー6の中間位置に運転座席7を配置し、その前方のステアリングホイール8を配置しており、運転座席7の近傍に操作レバーや、スイッチ類を配置している。
【0022】
図1図4に示すように、このトラクタは、エンジン4の後部側に主クラッチハウジング10と、無段変速ハウジング11と、ミッションケース12とを、この順序で連結している。ミッションケース12には左右の前車輪1と後車輪2とに駆動力を伝える走行変速装置50(走行変速部の一例)が収容されている。
【0023】
ミッションケース12の後部には、油圧シリンダ13の駆動力により揺動昇降する左右一対のリフトアーム14と、左右一対のロアーリンク15とが備えられ、リフトアーム14の揺動端とロアーリンク15とがリフトロッド16によって吊り下げ状態で連結している。ミッションケース12の後面には駆動力の外部への取り出しを可能にする動力取出軸17が備えられている。
【0024】
このトラクタでは、左右のロアーリンク15の後端にロータリ耕耘装置やプラウなどの作業装置を連結し、左右のリフトアーム14の昇降作動により作業装置の昇降を行うことが可能に構成されている。また、作業装置としてロータリ耕耘装置が用いられる場合には、動力取出軸17とロータリ耕耘装置との間に駆動力を伝える駆動軸が備えられる。
【0025】
〔変速構成〕
このトラクタでは、図1図4に示すように、主クラッチハウジング10の内部に主クラッチ機構18を収容しており、無段変速ハウジング11に静油圧式の無段変速装置20を収容している。また、ミッションケース12は変速率が小さい高速側の第1遊星ギヤ変速装置Q1と、変速率が大きい低速側の第2遊星ギヤ変速装置Q2と、第1クラッチ機構C1と第2クラッチ機構C2と、走行変速装置50と、作業変速装置70とを収容している。
【0026】
図4に示すように、この変速構成では、無段変速装置20と、第1遊星ギヤ変速装置Q1と、第2遊星ギヤ変速装置Q2と、第1クラッチ機構C1と、第2クラッチ機構C2と、これらに連係する伝動ギヤによって主変速装置50Aが構成されている。また、第1変速部54と、第2変速部55と、これらに連係する伝動ギヤによって副変速装置50Bが構成されている。
【0027】
更に、走行変速装置50からの駆動力を後輪駆動軸53から後輪デファレンシャルギヤ61を介して後車輪2に伝える走行伝動構造を備えると共に、後輪駆動軸53からの駆動力を前輪デファレンシャルギヤ62から前車輪1に伝える走行伝動構造を備えている。
【0028】
また、前車輪1に駆動力を伝える走行伝動構造は、後輪駆動軸53からの駆動力を前輪伝動ギヤ63により前輪伝動軸64に伝え、この前輪伝動軸64から前輪変速装置65を介して前輪駆動軸66に伝え、更に前輪デファレンシャルギヤ62に伝えるように構成されている。
【0029】
特に、この構成において第1遊星ギヤ変速装置Q1と、第2遊星ギヤ変速装置Q2とは複数の遊星ギヤ減速装置の具体例であり、第1クラッチ機構C1と第2クラッチ機構C2とは遊星ギヤ減速機構からの駆動力を断続するクラッチ機構の具体例である。
【0030】
主クラッチ機構18は、作業者の操作に基づきエンジン4の駆動力を伝える状態と遮断する状態とに設定自在に構成されている。無段変速装置20は、作業者の変速操作に基づき、走行速度を無段階に変速すると共に、駆動力を出力しない状態を作り出し走行車体Aの停止も可能にする。
【0031】
〔主変速装置:無段変速装置〕
図3図4に示すように、無段変速装置20は、エンジン4の駆動力が入力軸21を介して伝えられる可変容量型の油圧ポンプPと、変速駆動力を、出力軸22を介して第1遊星ギヤ変速装置Q1と第2遊星ギヤ変速装置Q2とに伝える油圧モータMと、油圧ポンプPと油圧モータMとの間で作動油の給排を行う一対の油路が形成されるポートブロック23とを無段変速ハウジング11に収容した構成を有している。入力軸21と、出力軸22とは、突出端を後方に向け、平行する姿勢で設けられている。
【0032】
油圧ポンプPは、入力軸21と一体回転するポンプ本体24aに複数のプランジャが伸縮自在に備えられ、この油圧ポンプPには、ポンプ本体24aの駆動回転時にプランジャの伸縮量を設定する可動斜板24bが備えられている。この可動斜板24bの姿勢を制御するサーボピストン(図示せず)が無段変速ハウジング11に支持されている。
【0033】
油圧モータMは、出力軸22と一体回転するモータ本体26aに複数のプランジャが伸縮自在に備えられ、プランジャの伸縮作動を回転運動に変換する固定斜板26bが備えられている。
【0034】
この構成から、可動斜板24bが所定の角度(ポンプ軸芯に対する角度)に設定された状態で、ポンプ本体24aが駆動回転した場合には、回転に伴い油圧ポンプPの複数のプランジャの端部が可動斜板24bに当接して順次収縮する際にポートブロック23の一対の油路の一方に作動油を送り出し、この作動油の圧力で油圧モータMの複数のプランジャを順次伸長させ、この伸長時に固定斜板26bからの反力によりモータ本体26aを回転させる。尚、油圧モータMの回転に伴い油圧モータMのプランジャが収縮し、この収縮に伴い作動油が他方の流路を介して油圧ポンプPに戻される。
【0035】
この無段変速装置20では、サーボピストンの作動により可動斜板24bの角度を調節することにより、作動油の吐出量が制御され油圧モータMの回転速度を任意に設定することが可能となる。また、可動斜板24bの角度を入力軸芯に対して直交するように設定することにより油圧ポンプPと油圧モータMとの間での作動油の給排が停止し、油圧モータMを停止させることも可能となる。
【0036】
図3図4に示すように、主クラッチ機構18を介してエンジン4からの駆動力が伝えられる主駆動軸31が、無段変速装置20を前後方向に貫通して配置され、この主駆動軸31からの駆動力を無段変速装置20の入力軸21に伝える駆動ギヤ機構32を備えている。
【0037】
また、無段変速装置20の出力軸22からの駆動力を第1遊星ギヤ変速装置Q1と、第2遊星ギヤ変速装置Q2とに伝える分岐ギヤ機構33を備えている。
【0038】
〔主変速装置:遊星ギヤ変速装置〕
図4に示すように、第1遊星ギヤ変速装置Q1と、第2遊星ギヤ変速装置Q2とは左右方向に並列する位置関係でミッションケース12に収容されている。第1遊星ギヤ変速装置Q1の第1出力軸46aからの駆動力を断続するように、第1出力軸46aと同軸芯上に第1クラッチ機構C1が配置されている。これと同様に第2遊星ギヤ変速装置Q2の第2出力軸46bからの駆動力を断続するように、第2出力軸46bと同軸芯上に第2クラッチ機構C2が配置されている。
【0039】
つまり、第1遊星ギヤ変速装置Q1は、第1入力軸41aに第1サンギヤ42aを備え、第1入力軸41aと同軸芯で回転自在に配置した第1リングギヤ43aと第1サンギヤ42aとの間に複数の第1プラネタリギヤ44aを備え、複数の第1プラネタリギヤ44aを支持する第1キャリア45aに形成したギヤ部に、主駆動軸31に備えた連動ギヤ部34を咬合させている。
【0040】
また、この第1遊星ギヤ変速装置Q1は、第1リングギヤ43aと一体回転するように第1出力軸46aを備えている。
【0041】
第2遊星ギヤ変速装置Q2は、第2入力軸41bに第2サンギヤ42bを備え、第2入力軸41bと同軸芯で回転自在に配置した第2リングギヤ43bと第2サンギヤ42bとの間に複数の第2プラネタリギヤ44bを備え、複数の第2プラネタリギヤ44bを支持する第2キャリア45bに形成したギヤ部に、主駆動軸31に備えた連動ギヤ部34を咬合させている。
【0042】
この第2遊星ギヤ変速装置Q2は、第2キャリア45bと一体回転するように第2出力軸46bを備えている。
【0043】
〔主変速装置:クラッチ機構〕
図4に示すように、第1クラッチ機構C1は、作動油の給排により駆動力を伝える状態と遮断する状態とに切換自在な摩擦多板式に構成されている。第2クラッチ機構C2は、作動油の給排により駆動力を伝える状態と遮断する状態とに切換自在な摩擦多板式のクラッチ部を2つ備えて構成されている。
【0044】
主駆動軸31と同軸芯で相対回転自在に筒状の中間軸35を備えており、第1クラッチ機構C1が伝動状態に設定された際に、第1遊星ギヤ変速装置Q1の第1出力軸46aからの高速駆動力を、第1伝動ギヤ36を介して中間軸35に伝えるように構成されている。
【0045】
第2クラッチ機構C2の2つのクラッチ部のうちの一方(図4で右側)は、前進伝動用として構成され、このクラッチ部を伝動状態に設定することにより第2遊星ギヤ変速装置Q2の第2出力軸46bからの低速駆動力を、第2伝動ギヤ37を介して中間軸35に伝えるように構成されている。
【0046】
また、第2クラッチ機構C2の2つのクラッチ部の他方(図4で左側)は、後進伝動用として構成され、このクラッチ部を伝動状態に設定することにより第2遊星ギヤ変速装置Q2の第2出力軸46bからの低速駆動力を、第3伝動ギヤ38を介して第1カウンタ軸51に伝えるように構成されている。
【0047】
第1カウンタ軸51は、中間軸35と平行姿勢に備えられるものであり、これらに平行する姿勢の第2カウンタ軸52が備えられ、第1カウンタ軸51と同軸芯上に後輪駆動軸53が備えられている。
【0048】
〔副変速装置〕
副変速装置50Bは、第1カウンタ軸51と後輪駆動軸53との間に備えた第1変速部54と、第2カウンタ軸52と同軸芯上に備えた第2変速部55と、これらに連係する伝動ギヤを備えて構成されている。この副変速装置50Bは高速、中速、低速の3段の変速を実現すると共に、後進伝動状態を実現する。
【0049】
第1変速部54と第2変速部55は、マニュアル操作される咬合式クラッチとして構成されている。
【0050】
この副変速装置50Bは、中間軸35と、第1変速部54との間に、高速伝動ギヤ56と、中速伝動ギヤ57とを備えており、第1カウンタ軸51と第2カウンタ軸52との間に第1低速伝動ギヤ58を備え、第2変速部55と後輪駆動軸53との間に第2低速伝動ギヤ59を備えている。
【0051】
〔伝動形態〕
走行変速装置50が、このように構成されるため、エンジン4の駆動力は無段変速装置20において無段階に変速される。第1クラッチ機構C1を伝動状態に設定することにより第1遊星ギヤ変速装置Q1で変速された高速駆動力が第1伝動ギヤ36を介して中間軸35に伝えられる。また、第2クラッチ機構C2の一方のクラッチ部を伝動状態に設定することにより、低速駆動力が第2伝動ギヤ37を介して中間軸35に伝えられる。更に、第2クラッチ機構C2の他方のクラッチ部を伝動状態に設定することにより、後進のための駆動力が第1カウンタ軸51に伝えられる。
【0052】
この主変速装置50Aでは、第1クラッチ機構C1と第2クラッチ機構C2とが同時に伝動状態に設定されないように制御形態が設定されている。これと同様に、第1変速部54と第2変速部55とが同時に伝動状態に設定されないように操作形態が設定されている。
【0053】
副変速装置50Bでは、第1クラッチ機構C1と第2クラッチ機構C2との何れかの駆動力が中間軸35に伝えられる状態において、第1変速部54が、高速伝動ギヤ56からの駆動力を後輪駆動軸53に伝えることにより高速回転の駆動力が後車輪2と前車輪1とに伝えられる。
【0054】
これと同様に、第1クラッチ機構C1と第2クラッチ機構C2との何れかの駆動力が中間軸35に伝えられる状態において、第1変速部54が中速伝動ギヤ57からの駆動力を後輪駆動軸53に伝えることにより中速回転の駆動力が後車輪2と前車輪1とに伝えられる。
【0055】
また、第1クラッチ機構C1と第2クラッチ機構C2との何れかの駆動力が中間軸35に伝えられる状態において、第1変速部54で伝動が行われない場合には、高速伝動ギヤ56で伝えられる駆動力により第1カウンタ軸51が回転する状態にある。従って、この状態で第2変速部55を伝動状態に設定することにより、第1低速伝動ギヤ58と、第2低速伝動ギヤ59とで減速された低速駆動力が後輪駆動軸53に伝えられ、低速回転の駆動力が後車輪2と前車輪1とに伝えられる。
【0056】
更に、第2クラッチ機構C2の2つのクラッチ部のうちの他方を伝動状態に設定することで第3伝動ギヤ38からの駆動力を第1カウンタ軸51に伝える状態で、第1変速部54の操作により、第1カウンタ軸51の駆動力を後輪駆動軸53に伝えることで、逆転駆動力が後車輪2と前車輪1とに伝えられる。尚、第2クラッチ機構C2において第1カウンタ軸51からの駆動力を後輪駆動軸53に伝える作動位置は、高速伝動ギヤ56からの駆動力を後輪駆動軸53に伝える位置と同じである。
【0057】
前輪変速装置65は、前輪伝動軸64の駆動力を前輪駆動軸66との間に配置され、等速伝動ギヤ65aと、増速伝動ギヤ65bと切換クラッチ機構65cとを備えている。この切換クラッチ機構65cは、作動油の給排により選択的に駆動力を伝える状態と、駆動力を遮断する状態とに作動する油圧多板式に構成されている。
【0058】
この構成から、走行車体Aが直進する際には、切換クラッチ機構65cの制御で等速伝動ギヤ65aを伝動状態に設定することにより前車輪1の周速度と後車輪2の周速度とを等しくする。また、ステアリングホイール8が設定量を超えて操作された際には、切換クラッチ機構65cの制御で増速伝動ギヤ65bを伝動状態に設定することにより前車輪1の周速度を後車輪2の周速度より高速化し、旋回半径を小さくするように機能する。更に、前車輪1に駆動力を伝えない状態(2駆状態)で走行する場合には、切換クラッチ機構65cにおいて駆動力の伝達を遮断する状態に設定することになる。
【0059】
〔作業変速装置〕
中間軸35の後方位置に、主駆動軸31からの駆動力を、ポンプ駆動ギヤ71を介して作業ポンプ72に伝える伝動構造を備えている。
【0060】
作業変速装置70は、主駆動軸31からの駆動力を断続する油圧多板式の作業クラッチ73と、作業変速部74と、この作業変速部74からの駆動力が伝えられる作業変速軸75と、この作業変速軸75からの駆動力を動力取出軸17に伝える出力ギヤ76を備えている。
【0061】
作業変速部74は、作業変速軸75と同軸芯上に配置される2つの作業変速クラッチ74aと、後輪駆動軸53に相対回転自在に外嵌する作業カウンタ軸74bと、作業クラッチ73からの駆動力を作業カウンタ軸74bに伝える第1作業ギヤ74cと、作業カウンタ軸74bからの駆動力を2つの作業変速クラッチ74aのうち対応するものに伝える3つの第2作業ギヤ74dとを備えている。尚、2つの作業変速クラッチ74aの各々が、マニュアル操作される咬合式のクラッチとして構成されている。
【0062】
この作業変速部74では、作業クラッチ73を伝動状態に設定した状況において、2つの作業変速クラッチ74aの選択的な操作により、主駆動軸31から伝えられる駆動力を減速伝動状態と、中速伝動状態と、高速伝動状態と、逆転伝動状態との何れかに設定して作業変速軸75に伝えることが可能となる。また、作業ポンプ72は、ミッションケース12に貯留される潤滑油を作動油として供給するように構成されている。
【0063】
尚、作業ポンプ72の作動油は、制御バルブ(図示せず)を介して前述した第1クラッチ機構C1と、第2クラッチ機構C2と、切換クラッチ機構65cと、作業クラッチ73とに対して供給される。
【0064】
〔実施形態の作用効果〕
エンジン4の駆動力が無段変速装置20で無段階に変速され、このように変速された駆動力が第1遊星ギヤ変速装置Q1と第2遊星ギヤ変速装置Q2との2つの遊星ギヤ変速装置で大きく減速できるため、無段変速装置20に小容量のものを用いることが可能となる。また、第1遊星ギヤ変速装置Q1と第2遊星ギヤ変速装置Q2とで変速された駆動力は、各々に対応する第1クラッチ機構C1と第2クラッチ機構C2とを介して個別に取り出し、走行変速装置50に伝えることが可能となる。
【0065】
特に、第1遊星ギヤ変速装置Q1と第2遊星ギヤ変速装置Q2とが並列する位置関係で配置されるため、複数の遊星ギヤ変速装置を直列に配置する構成と比較して遊星ギヤ変速装置を収容する空間の前後方向での寸法の縮小が可能となる。これにより静油圧式の無段変速装置20と遊星ギヤ変速装置とを用いる有効性を損なうことなく、変速構成の大型化を抑制し、変速構成の単純化も可能なトラクタが構成された。
【0066】
〔別実施形態〕
本発明は、上記した実施形態以外に以下のように構成しても良い(実施形態と同じ機能を有するものには、実施形態と共通の番号、符号を付している)。
【0067】
(a)無段変速装置20の無段変速ハウジング11と主クラッチハウジング10とを一体的に形成する構成や、無段変速装置20とミッションケース12とを一体形成するように構成しても良い。このように構成することにより、これらを個別に製造し、ボルト等を用いて連結する構成と比較して、強度の向上が可能となり、伝動系全体での軽量化も可能にする。
【0068】
(b)遊星ギヤ変速機構を3つ以上用いて走行変速装置50を構成する。このように3つ以上の遊星ギヤ変速装置を用いることにより、多段の変速を容易に行える。
【0069】
(c)無段変速装置20の入力軸21と出力軸22とを前方に突出するように構成しても良い。このように構成することによりエンジン4からの駆動力を入力軸21に対して直接的に伝えることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、エンジンの駆動力を静油圧式の無段変速装置と遊星ギヤ変速装置とで変速する作業車に利用することができる。
【符号の説明】
【0071】
1 前車輪(走行機構)
2 後車輪(走行機構)
4 エンジン
12 ミッションケース
20 無段変速装置
21 入力軸
22 出力軸
23 ポートブロック
31 主駆動軸(駆動軸)
32 駆動ギヤ機構
33 分岐ギヤ機構
50 走行変速装置(走行変速部)
50B 副変速装置
A 走行車体(車体)
C1 第1クラッチ機構(クラッチ機構)
C2 第2クラッチ機構(クラッチ機構)
Q1 第1遊星ギヤ変速機構(遊星ギヤ変速装置)
Q2 第2遊星ギヤ変速装置(遊星ギヤ変速機構)
P 油圧ポンプ
M 油圧モータ
図1
図2
図3
図4