(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-26
(45)【発行日】2023-11-06
(54)【発明の名称】難燃性樹脂組成物、難燃性熱収縮チューブ及び難燃性絶縁電線
(51)【国際特許分類】
C08L 23/06 20060101AFI20231027BHJP
C08L 23/08 20060101ALI20231027BHJP
C08L 23/26 20060101ALI20231027BHJP
C08L 83/04 20060101ALI20231027BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20231027BHJP
H01B 7/295 20060101ALI20231027BHJP
H01B 7/02 20060101ALI20231027BHJP
【FI】
C08L23/06
C08L23/08
C08L23/26
C08L83/04
C08K3/22
H01B7/295
H01B7/02 Z
(21)【出願番号】P 2020509255
(86)(22)【出願日】2019-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2019013369
(87)【国際公開番号】W WO2019189469
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-11-22
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2018/012835
(32)【優先日】2018-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】599109906
【氏名又は名称】住友電工ファインポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【氏名又は名称】上代 哲司
(74)【代理人】
【識別番号】100094477
【氏名又は名称】神野 直美
(72)【発明者】
【氏名】福本 遼太
(72)【発明者】
【氏名】藤田 太郎
(72)【発明者】
【氏名】西川 信也
(72)【発明者】
【氏名】北村 貞嗣
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-520937(JP,A)
【文献】特開2006-241182(JP,A)
【文献】特開2001-335665(JP,A)
【文献】特開昭62-010149(JP,A)
【文献】特開昭62-011745(JP,A)
【文献】国際公開第2014/046165(WO,A1)
【文献】特開2001-151952(JP,A)
【文献】国際公開第2016/175076(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/06
C08L 23/08
C08L 23/26
C08L 83/04
C08K 3/22
H01B 7/295
H01B 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレン、エチレンエチルアクリレート共重合体及び酸変性ポリエチレンからなる樹脂成分A、金属水酸化物、並びにビニル変性シリコーン又はアルキル変性シリコーンを含有する樹脂組成物であって、樹脂成分A中の、ポリエチレンの含有割合が25質量%以上70質量%以下、エチレンエチルアクリレート共重合体の含有割合が25質量%以上70質量%以下、及び酸変性ポリエチレンの含有割合が5質量%以上35質量%以下であり、前記樹脂成分A100質量部に対し、前記金属水酸化物の含有量が100質量部以上200質量部以下であり、前記ビニル変性シリコーン又はアルキル変性シリコーンの含有量が1質量部以上8質量部以下であ
り、かつ前記ポリエチレンの分子量分布(Mw/Mn)が38以上であり、密度が0.937g/mL以上である難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリエチレンが、メルトフローレートが0.08以上のポリエチレンである請求項1に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
前記金属水酸化物が、水酸化マグネシウム又は水酸化アルミニウムである
請求項1又は請求項2に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1から
請求項3のいずれか1項に記載の難燃性樹脂組成物をチューブ状に成形した成形品であって、前記成形品を拡径することにより熱収縮性が付与されている難燃性熱収縮チューブ。
【請求項5】
導体と前記導体を被覆する絶縁層を有する絶縁電線であって、前記絶縁層が、請求項1から
請求項3のいずれか1項に記載の難燃性樹脂組成物からなる難燃性絶縁電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱収縮チューブの材料等として用いられる難燃性樹脂組成物、及びその難燃性樹脂組成物により形成された難燃性熱収縮チューブ、難燃性絶縁電線に関する。
【背景技術】
【0002】
熱収縮チューブは、加熱により径方向に収縮する樹脂チューブである。熱収縮チューブにより被覆対象物を被覆して加熱すると、被覆される部分の形状に沿って収縮し当該部分に密着した樹脂層が形成される。そこで熱収縮チューブは、絶縁電線の絶縁層の形成や、電線の結束部や配線の端末の保護、絶縁、防水等に用いられている。
【0003】
熱収縮チューブには、収縮により被覆される部分と充分に密着するため、優れた収縮率(加熱による径方向への収縮が大きいこと)が求められる。
熱収縮チューブは、熱可塑性樹脂に難燃剤等を配合した樹脂組成物を押出加工してチューブ状の成形体(中空押出成形体)を形成した後、樹脂の架橋及びチューブの拡径を施して熱収縮性を付与することにより得られる。そこで、熱収縮チューブの形成材料としての樹脂組成物には、押出加工の際に押出されるチューブの径の変動が小さいこと、すなわち優れた押出加工性(寸法安定性)が望まれる。
【0004】
さらに、鉄道車両、自動車等の内部配線に使用される絶縁電線の絶縁保護用の熱収縮チューブやビル、工場等に設置される電気接続箱で用いられるブスバーの絶縁保護に用いられる熱収縮チューブには、ハロゲンフリーであるとともに、高い難燃性、引張強度や引張伸び等の機械的強度が優れることが求められている。例えば、鉄道車両に用いられる熱収縮チューブには、難燃性の指標である酸素指数が所定値以上であることが求められ、又、難燃性としては、燃焼が伝播しにくい性質、具体的には火炎伝播指数が小さいこと、燃焼時に燃焼物のドリップ(落下)がないこと等が求められる場合も多い。さらに、優れた耐油性が求められる場合も多い。
【0005】
高い難燃性と優れた機械的強度を両立するハロゲンフリーの難燃性樹脂組成物としては、ポリオレフィン等の熱可塑性樹脂に難燃剤である金属水酸化物を配合した組成物が広く知られている。例えば、特許文献1には、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)等のポリオレフィン樹脂に水酸化マグネシウムを配合したハロゲンフリーの難燃性樹脂組成物からなる熱収縮チューブが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に開示されている難燃性樹脂組成物等の従来の難燃性樹脂組成物には、鉄道車両の内部配線の絶縁保護用の熱収縮チューブを形成する難燃性樹脂組成物に望まれている前記の要請、すなわち、優れた収縮率の熱収縮チューブを形成できること、押出加工性に優れること、酸素指数が所定値以上、火炎伝播指数が所定値以下、燃焼時に燃焼物のドリップ(落下)がない等の高い難燃性を有すること、引張強度や引張伸び等の機械的強度が優れること、耐油性に優れること、を全て充たすものはなく、前記の要請を全て充たす難燃性樹脂組成物の開発が望まれていた。
【0008】
本開示は、難燃剤としての金属水酸化物を含有するハロゲンフリーの樹脂組成物であって、押出加工性に優れるとともに、高い酸素指数、小さな火炎伝播指数、燃焼時に燃焼物のドリップ(落下)がないとの優れた難燃性を有し、機械的強度、耐油性に優れ、優れた収縮率の熱収縮チューブを形成できる難燃性樹脂組成物を提供することを課題とする。
【0009】
本開示は、又、前記難燃性樹脂組成物から形成されるハロゲンフリーの難燃性熱収縮チューブであって優れた機械的強度、優れた耐油性、優れた収縮率を有するとともに、難燃性に優れ、高い酸素指数、小さな火炎伝播指数を有し、燃焼時に燃焼物のドリップ(落下)がない難燃性熱収縮チューブを提供することも課題とする。
【0010】
本開示は、さらに、導体及び前記難燃性樹脂組成物から形成される絶縁層を有し、前記絶縁層は、優れた機械的強度、優れた耐油性を有するとともに、高い酸素指数、小さな火炎伝播指数を有し、燃焼時に燃焼物のドリップ(落下)がない絶縁電線を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、以上の課題を解決するため鋭意研究を行った結果、ポリエチレン(PE)、エチレンエチルアクリレート共重合体(EEA)、酸変性ポリエチレン(酸変性PE)、金属水酸化物、及びシリコーンを含有する樹脂組成物であって、PE、EEA、酸変性PE、金属水酸化物、シリコーンの含有量が所定の範囲内にある樹脂組成物により、前記の課題が達成できることを見出し、本開示の発明を完成した。
【0012】
本開示の第1の態様は、
PE、EEA及び酸変性PEからなる樹脂成分A、金属水酸化物、並びにシリコーンを含有する樹脂組成物であって、樹脂成分A中の、PEの含有割合が25質量%以上70質量%以下、EEAの含有割合が25質量%以上70質量%以下、及び酸変性PEの含有割合が5質量%以上35質量%以下であり、前記樹脂成分A100質量部に対し、前記金属水酸化物の含有量が100質量部以上200質量部以下であり、かつ前記シリコーンの含有量が1質量部以上8質量部以下である難燃性樹脂組成物である。
【0013】
本開示の第2の態様は
第1の態様の難燃性樹脂組成物をチューブ状に成形した成形品であって、前記成形品を拡径することにより熱収縮性が付与されている難燃性熱収縮チューブである。
【0014】
本開示の第3の態様は、導体と前記導体を被覆する絶縁層を有する絶縁電線であって、前記絶縁層が、第1の態様の難燃性樹脂組成物からなる難燃性絶縁電線である。
【発明の効果】
【0015】
本開示の第1の態様により、ハロゲンフリーであって、酸素指数が高く、火炎伝播指数が小さく、燃焼時に燃焼物のドリップ(落下)がない優れた難燃性や優れた押出加工性を有するとともに、機械的強度、耐油性及び収縮率が優れた熱収縮チューブを形成できる難燃性樹脂組成物が提供される。
【0016】
本開示の第2の態様により、ハロゲンフリーであって、酸素指数が高く、火炎伝播指数が小さく、燃焼時に燃焼物のドリップ(落下)がないとの優れた難燃性を有するとともに、機械的強度、耐油性及び収縮率に優れる難燃性熱収縮チューブが提供される。
【0017】
本開示の第3の態様により、ハロゲンフリーであって、高い酸素指数、小さな火炎伝播指数、燃焼時に燃焼物のドリップ(落下)がないとの優れた難燃性を有するとともに、機械的強度及び耐油性に優れる絶縁層により導体が被覆された難燃性絶縁電線が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本開示の発明を実施するための形態について具体的に説明する。なお、本開示の発明は下記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内及び特許請求の範囲と均等の意味、範囲内での全ての変更が含まれる。
【0019】
本開示の第1の態様は、
PE、EEA及び酸変性PEからなる樹脂成分A、金属水酸化物、及びシリコーンを含有する樹脂組成物であって、樹脂成分A中の、PEの含有割合が25質量%以上70質量%以下、EEAの含有割合が25質量%以上70質量%以下、及び酸変性PEの含有割合が5質量%以上35質量%以下であり、かつ前記樹脂成分A100質量部に対し、前記金属水酸化物の含有量が100質量部以上200質量部以下であり、前記シリコーンの含有量が1質量部以上8質量部以下である難燃性樹脂組成物である。
【0020】
先ず、第1の態様の難燃性樹脂組成物を構成する各組成について説明する。
PEとしては、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン等の各種のPEのいずれも使用することができる。
PEの中でも、メルトフローレート(JIS K 7210-1999によるメルトマスフローレート(g/10min))が0.08以上であるPEが好ましく使用できる。メルトフローレートが0.08以上であるPEを使用すると、押出成形により熱収縮チューブを作製するとき、押出したチューブの外観が良好となり、又絶縁電線の絶縁層の形成に用いたときには絶縁層の印字性が向上するので好ましい。
又、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定した数平均分子量をMn、重量平均分子量をMwとしたときのMw/Mnが8以上のPEが好ましい。Mw/MnはPEの分子量分布の広さを表す指標であるが、Mw/Mnが8以上である分子量分布の広いPEを使用すると、押出成形により熱収縮チューブを作製するとき、押出したチューブの外観が良好となり、又絶縁電線の絶縁層の形成に用いたときには絶縁層の印字性が向上するので好ましい。
【0021】
EEAは、エチレンとアクリル酸エチルの共重合体である。エチレンとアクリル酸エチルの共重合比の範囲は特に限定されないが、通常、全構成モノマーの中のアクリル酸エチルの質量比が5~25%程度のものが用いられる。アクリル酸エチルの比が増大すると融点が低下するが、通常、融点83~107℃のものが用いられる。EEAの分子量の範囲や密度(比重)の範囲も特に限定されないが、通常、190℃、荷重21.6kgで測定したメルトフローレイト(MFR)が0.3~25(g/10min)であり、比重0.92~0.95のものが用いられる。
【0022】
酸変性PEとは、無水マレイン酸等の酸がポリマー鎖にグラフトしている、又はポリマー鎖の末端にカルボン酸基が存在するPEである。
【0023】
金属水酸化物としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム等を挙げることができる。中でも水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムが好ましく、より好ましくは水酸化マグネシウムである。金属水酸化物としては、粒径が0.1μm以上5.0μm以下の範囲にあるものが好ましく、特に樹脂中への分散性と分散した時の難燃性、機械強度の観点から粒径が0.5μm以上2.0μm以下の範囲にあるものが好ましく用いられる。粒径が前記範囲より大きい場合は樹脂の引張伸びを低下させる傾向があり、前記範囲より小さい場合は金属水酸化物が凝集しやすい。又、シランカップリング剤で表面処理した金属水酸化物やアニオン界面活性剤で表面処理した金属水酸化物も用いることができる。
【0024】
シリコーンとしては、その種類は特に限定されないが、樹脂成分への相溶性の観点から、変性シリコーンが好ましい。変性シリコーンとは、シリコーンのポリマー鎖の末端、側鎖の少なくともいずれかに1以上の官能基を有するシリコーンを意味する。変性シリコーンとしては、例えば、ビニル変性シリコーン、アルキル変性シリコーンを挙げることができる。
【0025】
ビニル変性シリコーンとは、シリコーンのポリマー鎖の末端、側鎖の少なくともいずれかに、1以上の炭素-炭素二重結合を有する官能基を結合させたシリコーンである。ポリマー鎖の末端又は側鎖に結合する炭素-炭素二重結合を有する官能基としては、-CH=CH2、-OCO-C(CH3)=CH2(メタクリレート基)、-OCO-CH=CH2(アクリレート基)等を挙げることができる。中でも、アクリレート基、メタクリレート基が好ましい。ビニル変性シリコーンとしては、例えば、特開2005-132855号公報に記載のものを挙げることができる。又、TEGOMER V-Si4042(EVONIK社製)等の市販品も用いることができる。
アルキル変性シリコーンとは、シリコーンのポリマー鎖の末端、側鎖の少なくともいずれかに、炭素数が3以上のアルキル基を1以上結合させたシリコーンである。
【0026】
本態様の難燃性樹脂組成物には、発明の趣旨を損なわない限り、各種の特性を改良する目的で、エチレンメチルアクリレート共重合体(EMA)、エチレンメチルメタクリレート共重合体(EMMA)、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)、エチレンブチルアクリレート(EBA)、エチレンアクリルゴム、ポリオレフィンエラストマー、スチレン系エラストマー等の各種樹脂を配合してもよい。又、発明の趣旨を損なわない限り、酸化防止剤、滑剤、加工安定剤、着色剤(着色顔料)、発泡剤、補強剤、炭酸カルシウム、タルク等の充填剤、多官能性モノマー(架橋助剤)等の各種の添加剤を配合することが出来る。
【0027】
第1の態様の難燃性樹脂組成物は、前記の必須の構成成分を特定の組成範囲内で配合することを特徴とする。次に、この特定の組成範囲について説明する。
PEの含有割合は、PE、EEA及び酸変性PEの合計配合量(すなわち樹脂成分Aの配合量)を100質量部としたとき、25質量部以上70質量部以下、すなわち樹脂成分A中の25質量%以上70質量%以下である。
PEの配合により、難燃性樹脂組成物より形成される熱収縮チューブや絶縁電線の絶縁層の耐油性が向上する。PEの含有割合が25質量%未満の場合は、充分な耐油性が得られない。一方PEの含有割合が70質量%を超える場合は、火炎伝播性試験においてドリップを生じやすくなり、又引張伸びやチューブの収縮率も低下し不十分となりやすい。好ましくは30質量%以上50質量%以下であり、この範囲内でより優れた耐油性が得られ、又ドリップをより抑制し、引張伸びやチューブの収縮率も充分なものとなる。
【0028】
EEAの含有割合は、PE、EEA及び酸変性PEの合計配合量(すなわち樹脂成分Aの配合量)を100質量部としたとき、25質量部以上70質量部以下、すなわち樹脂成分A中の25質量%以上70質量%以下である。
EEAの配合により、火炎伝播性試験においてドリップが抑制される。EEAの代わりに従来技術で用いられているEVAを用いた場合は、ドリップが生じやすい。EVAの場合は、燃焼時にエステル結合が切断された際に水酸基が主鎖に残るために金属水酸化物による樹脂間の凝集力が弱いが、EEAの場合は、燃焼時にエステル結合が切断された際にカルボキシ基が主鎖に残るために金属水酸化物による樹脂間の凝集力が強く、その結果ドリップが抑制されるものと考えられる。
EEAの含有割合が25質量%未満の場合は、充分なドリップ抑制効果が得られない。一方EEAの含有割合が70質量%を超える場合は、耐油性が低下し、チューブの収縮率も不十分なものとなる。好ましくは30質量%以上50質量%以下であり、この範囲内でより優れたドリップ抑制効果が得られ、又耐油性やチューブの収縮率も充分となる。
【0029】
酸変性PEの含有割合は、PE、EEA及び酸変性PEの合計配合量(すなわち樹脂成分Aの配合量)を100質量部としたとき、5質量部以上35質量部以下、すなわち樹脂成分A中の5質量%以上35質量%以下である。
酸変性PEの配合により、金属水酸化物の分散性が向上し、その結果引張強度、引張伸びが向上する。又、チューブの収縮率も向上する。
酸変性PEの含有割合が5質量%未満の場合、引張強度、引張伸びが低下し、充分な機械的強度(引張特性)が得られない場合がある。又チューブの収縮率も不十分なものとなる。一方、酸変性PEの含有割合が35質量%を超える場合は、火炎伝播性試験においてドリップが生じやすくなり、又耐油性も低下し不充分となりやすい。好ましくは10質量%以上30質量%以下であり、この範囲内でより優れた引張強度、引張伸び、チューブの収縮率が得られ、火炎伝播性試験でのドリップも抑制され充分な耐油性も得られる。
【0030】
金属水酸化物は、前記樹脂成分Aの配合量(すなわちPE、EEA及び酸変性PEの配合量の合計)100質量部に対し、100質量部以上200質量部以下配合される。金属水酸化物は、酸素指数や火炎伝播指数等で表される難燃性を向上させ、鉄道車両、自動車等の内部配線に使用される車載用絶縁電線についての各種の規格を満たす難燃性を達成するために配合される。
金属水酸化物の配合量が、樹脂成分Aの100質量部に対し、100質量部未満の場合は、火炎伝播指数が高くなり、又酸素指数等が不充分となり、車載用絶縁電線についての各種の規格を満たす難燃性が得られにくくなる。
一方、金属水酸化物の配合量が200質量部を超える場合は、引張強度、引張伸びが低下して不十分なものとなり、又チューブの収縮率も低下して不十分となりやすい。
【0031】
シリコーンは、前記樹脂成分Aの配合量(すなわちPE、EEA及び酸変性PEの配合量の合計)100質量部に対し、1質量部以上8質量部以下配合される。
シリコーンは、酸素指数等で表される難燃性を向上させるために配合されるが、シリコーンの配合量が、樹脂成分Aの100質量部に対し、1質量部未満の場合は、酸素指数が低下し難燃性が不充分なものとなる。一方8質量部を超える場合は、押出加工性が低下し、チューブ状に押出成形する際にチューブ径が不安定となり充分な寸法安定性が得られない。
【0032】
本態様の難燃性樹脂組成物は、前記の必須の成分及び任意に配合される成分を、公知の方法で、公知の混合機、混錬機を用いて混合することにより得ることができる。
【0033】
本態様の難燃性樹脂組成物は、ハロゲンフリーであって、高い酸素指数、小さな火炎伝播指数、燃焼時に燃焼物のドリップ(落下)がないとの優れた難燃性を有し、押出加工性に優れるとともに、機械的強度、耐油性及び収縮率が優れた熱収縮チューブを形成できる難燃性樹脂組成物である。
【0034】
本開示の第2の態様は
第1の態様の難燃性樹脂組成物をチューブ状に成形した成形品であって、前記成形品を拡径することにより熱収縮性が付与されている難燃性熱収縮チューブである。
【0035】
本態様の難燃性熱収縮チューブは、第1の態様の難燃性樹脂組成物をチューブ状に成形する工程(成形工程)、成形工程で得られた樹脂チューブ(成形品)を径方向に膨張させる工程(拡径工程)を有する方法により製造することができる。成形工程は押出成形により行うことができるが、この押出成形は、従来の熱収縮チューブを作製する際に通常使用される公知の方法と同様にして行うことができる。
【0036】
好ましくは、前記拡径工程の前に、樹脂を架橋する架橋工程が行われる。樹脂を架橋することにより、熱収縮チューブとしての収縮特性がより発現される。樹脂を架橋する方法としては、樹脂に放射線を照射する方法(樹脂の照射架橋)が好ましい。放射線の照射により樹脂材料を架橋した後は成形が困難になるので、放射線の照射(架橋工程)は押出成形(成形工程)後に行われる。押出成形後に放射線の照射を行うことにより、成形が容易であり、かつ放射線の照射による効果を充分に得ることができる。
【0037】
樹脂の照射架橋に使用される放射線としては、X線、γ線等の高エネルギー電磁波、電子線等の粒子線を挙げることができる。電子線発生装置はランニングコストが低く、又大出力の電子線が得られ、制御も容易であるので、放射線の中では電子線が好ましく用いられる。
【0038】
放射線照射量は、特に限定されないが、放射線照射量が多すぎるときは分解反応が架橋反応に対して優勢となり逆に架橋度が低下し又強度が低下する場合がある。一方、放射線照射量が少なすぎるときは、熱収縮チューブとしての収縮特性を充分に発現させるために必要な架橋度が得られない場合がある。そこで、収縮特性が充分に発現する範囲で、なるべく小さい放射線照射量を選択することが好ましく、通常は10kGy~300kGyの範囲が好ましい。
【0039】
架橋されたチューブ状成形体の拡径の方法としては、従来の熱収縮チューブの作製に通常使用されている公知の拡径方法を用いることができる。例えば、樹脂チューブを融点以上の温度に加熱した後、内圧(チューブ内の圧力)を加えてチューブを膨張し、その後冷却する方法を挙げることができる。
【0040】
本開示の第2の態様の難燃性熱収縮チューブは、ハロゲンフリーであり、高い酸素指数、小さな火炎伝播指数、燃焼時に燃焼物のドリップ(落下)がないとの優れた難燃性を有するとともに、機械的強度、耐油性及び収縮率に優れる熱収縮チューブである。
【0041】
本開示の第3の態様は、導体と前記導体を被覆する絶縁層を有する絶縁電線であって、前記絶縁層が、第1の態様の難燃性樹脂組成物からなる難燃性絶縁電線である。
【0042】
導体とは、銅等の導電体からなる線である。本態様の難燃性絶縁電線の絶縁層を形成する方法としては、導体上に第1の態様の難燃性樹脂組成物を押出被覆する方法等を挙げることができる。鉄道車両、自動車の内部配線では、使用中に高温にさらされることもあるため、難燃性樹脂組成物を押出被覆した後に電子線照射等を行って架橋させ、高温時の変形等を抑えることが好ましい。又、絶縁層は、第2の態様の難燃性熱収縮チューブにより導体を被覆して熱収縮させる方法によっても形成できる。
【0043】
本開示の第3の難燃性絶縁電線は、ハロゲンフリーであり、高い酸素指数、小さな火炎伝播指数、燃焼時に燃焼物のドリップ(落下)がないとの優れた難燃性を有するとともに、機械的強度及び耐油性に優れる絶縁層により導体が被覆された絶縁電線である。従って、鉄道車両、自動車等の内部配線等に好適に使用できる。
【実施例】
【0044】
実施例1~15及び比較例1~11
(使用材料)
・高密度ポリエチレン:ノバテックHD320、三菱ケミカル社製、メルトフローレート=0.3、Mw/Mn=44、密度0.947g/mL、表中では「HDPE」と表す。
・中密度ポリエチレン:ノバテックSD911、三菱ケミカル社製、メルトフローレート=0.1、Mw/Mn=38、密度0.937g/mL、表中では「MDPE」と表す。
・直鎖状低密度ポリエチレン:DFDJ7540、NUC社製、メルトフローレート=0.8、Mw/Mn=10、密度0.920g/mL、表中では「LLDPE」と表す。
・EEA:レクスパールA4250、三菱ケミカル社製、EA量25wt%、メルトフローレート=5、密度0.934g/mL、表中では「EEA」と表す。
・EVA:エバフレックスEV360、三井デュポンポリケミカル社製、VA量25wt%、メルトフローレート=2、密度0.94g/mL、表中では「EVA」と表す。
・酸変性PE:タフマーMH5020、密度0.860g/mLの酸変性VLDPE、表中では「酸変性PE」と表す。
・水酸化マグネシウム:キスマ5L(協和化学社製)
・水酸化アルミニウム:ハイジライトH42STM(昭和電工社製)
・酸化防止剤:イルガノックス1010(BASFジャパン社製)
・滑剤:ステアリン酸亜鉛
・ビニル変性シリコーン:TEGOMER V-Si4042(EVONIK社製)
・アルキル変性シリコーン:TSF4421(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製)
【0045】
前記の使用材料を、表1~5に示す配合(質量比)で、オープンロールにて180℃で混練した後、ペレタイザによってペレット状にした。その後、50mmφ押出機にて、内径3mmφ、外径4mmφ(肉厚0.5mm)のチューブ形状に押出した。得られたチューブに60kGyの電子線を照射した後、150℃でチューブ内に空気を吹き込み加圧して外径6mmφになるまで径方向に膨張させてチューブ状成形体を得た。
【0046】
得られたチューブについて、押出加工性、酸素指数(難燃性)、火炎伝播性(火炎伝播指数及びドリップの有無)、引張強度、引張伸び、耐油性、拡径させたチューブの収縮率の評価を行った。評価方法は下記の通りである。
【0047】
(押出加工性)
レーザー式外径測定器にて外径変動幅を測定し、外径変動幅が設計値±10%以内の場合を合格とした。
【0048】
(酸素指数)
酸素指数とは、材料の燃焼持続に必要な最低酸素濃度(容積%、材料の燃焼を維持しうる酸素と窒素の混合物における酸素の最低濃度)を示し、JIS K 7201:2007に規格化されており、材料の燃えやすさの指標となる。実施例、比較例では、酸素指数を、JIS K 7201:2007(酸素指数法による高分子材料の燃焼試験方法)に準じて測定した。高難燃材料としては一般的には酸素指数30以上が望まれており、特に鉄道車両用客室用材料規格BS6853では、酸素指数34以上の規格が設けられているので、酸素指数34以上が合格と判定される。
【0049】
(火炎伝播性試験)
ASTM E162:2016(輻射熱エネルギー源による材料の表面燃焼性)に準じて行った。具体的には、サイズ152mm×457mmのサンプルを6枚使用して次の試験を行った。
垂直に設置されたラジアントパネル(輻射板)に対してサンプルを30°傾斜させてセットし、輻射板をあらかじめ670℃まで加熱し、サンプル上部にあるパイロットフレームを使用してサンプルに着火させる。着火後炎は、サンプルの表面を下方へ拡がるが、ラジアントパネルからの輻射熱が除々に減少し、炎の伝播を継続出来なくなる点まで進行する。サンプルの表面を炎が伝わっていく速度(炎拡散係数:Fs)と、装置の上部にある排気管の熱放出係数(Q)を求め、下式より火炎伝播指数Isを求めた。
Is=Fs×Q
炎の伝播中の燃焼物の落下(ドリップ)の有無を目視により観察した。
火炎伝播指数Isが35以下でかつ燃焼物の落下(ドリップ)がない場合を合格と判定した。
【0050】
(引張強度、引張伸び)
長さ120mmのチューブを切り取り、引張速度500mm/分で引張強度(破断時の強度)と引張伸び(破断時の伸び)を測定した。引張強度が7.0MPa以上、引張伸びが200%以上が合格と判定される。
【0051】
(耐油性)
軽油に70℃で168時間浸漬後、引張強さ、引張伸びを測定して、浸漬後の引張強さが4.9MPa以上でかつ引張伸びが120%以上の場合を合格と判定した。
【0052】
(チューブの収縮率)
拡径前のチューブ内径、収縮前のチューブ内径、収縮後のチューブ内径を測定した。チューブの収縮率とは、次式により計算される値(%)である。
{[(収縮前のチューブ内径)-(収縮後のチューブ内径)]/[(収縮前のチューブ内径)-(拡径前のチューブ内径)]}×100
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
前記表1~5に示された評価結果より、
樹脂成分中のPEの含有割合が25質量%以上70質量%以下、EEAの含有割合が25質量%以上70質量%以下及び酸変性PEの含有割合が5質量%以上35質量%以下であり、前記樹脂成分100質量部に対し、前記金属水酸化物の配合量が100質量部以上200質量部以下であり、かつ前記シリコーンの配合量が1質量部以上8質量部以下である(第1の態様の範囲内の組成である)実施例1~15の難燃性樹脂組成物は、押出成形時の寸法の安定性(押出加工性)が合格であること、この樹脂組成物より得られる難燃性熱収縮チューブは、酸素指数、火炎伝播指数も合格基準以上であり、燃焼時に燃焼物のドリップ(落下)もなく優れた難燃性を有していること、機械的強度、耐油性及び収縮率も優れていることが示されている。
【0059】
一方、PEの含有割合が25質量%未満である比較例1では、耐油性が不合格である。又PEの含有割合が70質量%を超える比較例7では、火炎伝播性試験においてドリップを生じ、火炎伝播性試験は不合格と判定される。そして、引張伸びも合格基準の200%以上よりはるかに低い80%であり、チューブの収縮率も合格基準の90%以上に対し78%であり、ともに不充分な結果となっている。
【0060】
EEAの含有割合が25質量%未満である比較例2では、火炎伝播性試験においてドリップを生じ、火炎伝播性試験は不合格と判定される。一方EEAの含有割合が70質量%を超える比較例8では、耐油性の判定が不合格であり、又、チューブの収縮率も合格基準の90%以上に対し83%であり不充分な結果となっている。
なお、EEAの代わりにEVAを50質量%配合した以外は実施例1と同様である比較例3では、火炎伝播性試験においてドリップを生じ、火炎伝播性試験は不合格と判定される。
【0061】
酸変性PEの含有割合が5質量%未満である比較例6では、引張強度、引張伸びが合格基準の値より低く、充分な機械的強度(引張特性)が得られていない。又、チューブの収縮率も合格基準の90%以上に対し73%であり不充分な結果となっている。一方、酸変性PEの含有割合が35質量%を超える比較例2では、火炎伝播性試験においてドリップを生じており、比較例9では、耐油性が不合格と判定されている。
【0062】
金属水酸化物の含有量が、前記樹脂成分100質量部に対し100質量部未満である比較例10では、火炎伝播指数が合格基準を超えており火炎伝播性試験は不合格と判定され、又酸素指数は合格基準未満であり、車載用絶縁電線についての各種の規格を満たす難燃性は得られていない。一方、金属水酸化物の含有量が200質量部を超える比較例11は、引張強度、引張伸びが合格基準の値より低く、又チューブの収縮率も合格基準の90%より低く不十分である。
【0063】
シリコーンの含有量が、前記樹脂成分100質量部に対し1質量部未満である比較例4は、酸素指数は合格基準未満であり、車載用絶縁電線についての各種の規格を満たす難燃性は得られていない。一方シリコーン(ビニル変性シリコーン)の含有量が8質量部を超える比較例5は、押出加工性が低く、チューブ状に押出成形する際に、チューブ系が不安定となり、充分な寸法安定性が得られていない。