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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-26
(45)【発行日】2023-11-06
(54)【発明の名称】糖鎖改変
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/62 20060101AFI20231027BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20231027BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20231027BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20231027BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20231027BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20231027BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20231027BHJP
   C07K 16/00 20060101ALI20231027BHJP
   C12N 9/10 20060101ALI20231027BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20231027BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20231027BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20231027BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20231027BHJP
   A61P 17/06 20060101ALI20231027BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20231027BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20231027BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20231027BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20231027BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20231027BHJP
   A61K 38/45 20060101ALI20231027BHJP
【FI】
C12N15/62 Z ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C07K19/00
C07K16/00
C12N9/10
A61P29/00
A61P37/06
A61P19/02
A61P13/12
A61P29/00 101
A61P17/06
A61P25/00
A61P1/04
A61P3/10
A61P11/00
A61K38/16
A61K38/45
【請求項の数】 31
(21)【出願番号】P 2020552679
(86)(22)【出願日】2018-12-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-22
(86)【国際出願番号】 US2018066013
(87)【国際公開番号】W WO2019126041
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-12-17
(31)【優先権主張番号】62/607,111
(32)【優先日】2017-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】592017633
【氏名又は名称】ザ ジェネラル ホスピタル コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100186897
【弁理士】
【氏名又は名称】平川 さやか
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】アンソニー,ロバート エム.
(72)【発明者】
【氏名】北岡,麻耶
【審査官】吉門 沙央里
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2003/052088(WO,A2)
【文献】特表2006-516893(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0051328(US,A1)
【文献】D. M. Czajkowsky, et al.,2012年,Vol.4,p.1015-1028
【文献】C. Raymond, et al.,mAbs,Vol.7:3,p.571-583
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体重鎖CH2領域、抗体重鎖CH3領域、および糖タンパク質のシアリル化を触媒するシアル酸転移酵素の触媒ドメインを含む第1の融合ポリペプチドと、
抗体重鎖CH2領域、抗体重鎖CH3領域、および糖タンパク質のガラクトシル化を触媒するガラクトシル転移酵素の触媒ドメインを含む第2の融合ポリペプチドと
を含むヘテロ多量体。
【請求項2】
前記ヘテロ多量体がヘテロ二量体であり、前記第1の融合ポリペプチドが前記第2の融合ポリペプチドと会合し、これによりヘテロ二量体を形成する、請求項に記載のヘテロ多量体。
【請求項3】
前記シアル酸転移酵素がベータ-ガラクトシドアルファ-2,6シアル酸転移酵素1である、請求項に記載のヘテロ多量体。
【請求項4】
前記シアル酸転移酵素がヒトシアル酸転移酵素である、請求項に記載のヘテロ多量体。
【請求項5】
前記ガラクトシル転移酵素がベータ-1,4-ガラクトシル転移酵素1である、請求項に記載のヘテロ多量体。
【請求項6】
前記ガラクトシル転移酵素がヒトガラクトシル転移酵素である、請求項に記載のヘテロ多量体。
【請求項7】
請求項1からのいずれか一項に記載のヘテロ多量体をコードするポリヌクレオチド。
【請求項8】
請求項に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項9】
請求項に記載のベクターを含細胞。
【請求項10】
IgG介在性障害を有する対象を処置するための医薬組成物であって、
請求項からのいずれか一項に記載のヘテロ多量体を含む、医薬組成物。
【請求項11】
前記IgG介在性障害が炎症である、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記IgG介在性障害が自己免疫疾患である、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記自己免疫疾患が関節炎である、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記自己免疫疾患がグッドパスチャー病である、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記自己免疫疾患が腎毒性腎炎である、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記自己免疫疾患がセリアック病、1型糖尿病、グレーブス病、炎症性腸疾患、多発性硬化症、乾癬、関節リウマチ、または全身性ループスエリテマトーデスである、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項17】
臓器移植中の対象における抗体介在性損傷を処置するための医薬組成物であって、
請求項からのいずれか一項に記載のヘテロ多量体を含む、医薬組成物。
【請求項18】
IgG介在性障害を有する対象を処置するための医薬組成物であって、
シアル酸転移酵素の触媒ドメインを含む第1のポリペプチドおよびガラクトシル転移酵素の触媒ドメインを含む第2のポリペプチドを含み、
前記医薬組成物は、シアル酸転移酵素の触媒ドメインを含む第1のポリペプチドの有効量、およびガラクトシル転移酵素の触媒ドメインを含む第2のポリペプチドの有効量を前記対象に投与するステップ
を含む方法において使用され、
ここで、前記シアル酸転移酵素の触媒ドメインが糖タンパク質のシアリル化を触媒し、前記ガラクトシル転移酵素の触媒ドメインが糖タンパク質のガラクトシル化を触媒し、前記第1のポリペプチドは、抗体重鎖CH2領域と、抗体重鎖CH3領域とをさらに含み、前記第2のポリペプチドは、抗体重鎖CH2領域と、抗体重鎖CH3領域とをさらに含む、医薬組成物。
【請求項19】
前記IgG介在性障害が炎症である、請求項18に記載の医薬組成物。
【請求項20】
前記IgG介在性障害が自己免疫疾患である、請求項18に記載の医薬組成物。
【請求項21】
前記自己免疫疾患が関節炎である、請求項20に記載の医薬組成物。
【請求項22】
前記自己免疫疾患がグッドパスチャー病である、請求項20に記載の医薬組成物。
【請求項23】
前記自己免疫疾患が腎毒性腎炎である、請求項20に記載の医薬組成物。
【請求項24】
前記自己免疫疾患がセリアック病、1型糖尿病、グレーブス病、炎症性腸疾患、多発性硬化症、乾癬、関節リウマチ、または全身性ループスエリテマトーデスである、請求項20に記載の医薬組成物。
【請求項25】
臓器移植中の対象における抗体介在性損傷を処置するための医薬組成物であって、
シアル酸転移酵素の触媒ドメインを含む第1のポリペプチドおよびガラクトシル転移酵素の触媒ドメインを含む第2のポリペプチドを含み、
前記医薬組成物は、シアル酸転移酵素の触媒ドメインを含む第1のポリペプチドの有効量、およびガラクトシル転移酵素の触媒ドメインを含む第2のポリペプチドの有効量を前記対象に投与するステップ
を含む方法において使用され、
ここで、前記シアル酸転移酵素の触媒ドメインが糖タンパク質のシアリル化を触媒し、前記ガラクトシル転移酵素の触媒ドメインが糖タンパク質のガラクトシル化を触媒し、前記第1のポリペプチドは、抗体重鎖CH2領域と、抗体重鎖CH3領域とをさらに含み、前記第2のポリペプチドは、抗体重鎖CH2領域と、抗体重鎖CH3領域とをさらに含む、医薬組成物。
【請求項26】
抗体または抗体Fc領域を含むその抗体断片と、
シアル酸転移酵素の触媒ドメインと、
ガラクトシル転移酵素の触媒ドメインと
を含むヘテロ多量体であって、
前記シアル酸転移酵素の触媒ドメインおよび前記ガラクトシル転移酵素の触媒ドメインが、それぞれ前記抗体またはその抗体断片に結合されている、ヘテロ多量体。
【請求項27】
前記ヘテロ多量体が抗体を含み、前記抗体が2つの抗体重鎖と、2つの抗体軽鎖とを含む、請求項26に記載のヘテロ多量体。
【請求項28】
前記シアル酸転移酵素の触媒ドメインが前記抗体重鎖のC末端に結合されている、請求項26に記載のヘテロ多量体。
【請求項29】
前記シアル酸転移酵素の触媒ドメインが前記抗体軽鎖のC末端に結合されている、請求項26に記載のヘテロ多量体。
【請求項30】
前記ガラクトシル転移酵素の触媒ドメインが、前記抗体重鎖のC末端に結合されている、請求項26に記載のヘテロ多量体。
【請求項31】
前記ガラクトシル転移酵素の触媒ドメインが前記抗体軽鎖のC末端に結合されている、請求項26に記載のヘテロ多量体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権の主張
本出願は、2017年12月18日に出願された米国仮出願第62/607,111号明細書の利益を主張するものである。上記の内容全体は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
連邦政府資金による研究または開発
本発明は、国立衛生研究所(NIH)により授与された助成金番号AR068272の下で政府支援を受けてなされた。政府は、本発明において一定の権利を有する。
【0003】
本開示は、糖鎖改変、例えば、様々な治療効果、例えば、IgG介在性障害の処置、自己抗体介在性炎症の軽減、自己免疫疾患の処置、および/または臓器移植中の抗体介在性損傷の処置のために、抗体グリカンをインビボで改変することによってIgGエフェクター機能を調節することに関する。
【背景技術】
【0004】
人体を構成するタンパク質および細胞は、糖によって修飾される(Varki, A. Glycobiology 3, 97-130(1993))。糖は、生体分子の多くのタイプに結合して複合糖質を形成することができる。糖/糖類を自身および他の分子に結合させる酵素的プロセスはグリコシル化として知られる。糖タンパク質、プロテオグリカン、および糖脂質は、哺乳動物細胞で見出される最も大量に存在する複合糖質である。
【発明の概要】
【0005】
異常なグリコシル化は、多くの異なる疾患と関連していることが究明されている。故に、グリコシル化を改変するためのツールおよび方法を開発し、異常なグリコシル化と関連する様々な障害を処置するためにそのようなツールまたは方法をさらに使用する必要がある。
【0006】
本開示は、糖鎖改変に関する。
【0007】
1つの態様において、本開示は、抗体重鎖CH2領域、抗体重鎖CH3領域、および糖タンパク質のシアリル化を触媒するシアル酸転移酵素の触媒ドメインを有する融合ポリペプチドに関する。
【0008】
いくつかの実施形態において、シアル酸転移酵素はベータ-ガラクトシドアルファ-2,6シアル酸転移酵素1である。いくつかの実施形態において、シアル酸転移酵素はヒトシアル酸転移酵素である。
【0009】
いくつかの実施形態において、抗体重鎖CH2領域はヒトIgG重鎖CH2領域である。いくつかの実施形態において、抗体重鎖CH3領域はヒトIgG重鎖CH3領域である。
【0010】
別の態様において、本開示は、抗体重鎖CH2領域、抗体重鎖CH3領域、および糖タンパク質のガラクトシル化を触媒するガラクトシル転移酵素の触媒ドメインを有する融合ポリペプチドに関する。
【0011】
いくつかの実施形態において、ガラクトシル転移酵素はベータ-1,4-ガラクトシル転移酵素1である。いくつかの実施形態において、ガラクトシル転移酵素はヒトガラクトシル転移酵素である。
【0012】
いくつかの実施形態において、抗体重鎖CH2領域はヒトIgG重鎖CH2領域である。いくつかの実施形態において、抗体重鎖CH3領域はヒトIgG重鎖CH3領域である。
【0013】
1つの態様において、本開示は、本明細書に記載される融合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを提供する。
【0014】
別の態様において、本開示はまた、本明細書に記載される融合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列を有するベクターも提供する。
【0015】
1つの態様において、本開示は、本明細書に記載されるベクターを有する細胞に関し、ベクターは、本明細書に記載される融合ポリペプチドを場合により発現する。
【0016】
1つの態様において、本開示は、抗体重鎖CH2領域、抗体重鎖CH3領域、および糖タンパク質のシアリル化を触媒するシアル酸転移酵素の触媒ドメインを有する第1の融合ポリペプチド、ならびに抗体重鎖CH2領域、抗体重鎖CH3領域、および糖タンパク質のガラクトシル化を触媒するガラクトシル転移酵素の触媒ドメインを有する第2の融合ポリペプチドを有するヘテロ多量体に関する。
【0017】
いくつかの実施形態において、ヘテロ多量体はヘテロ二量体であり、第1の融合ポリペプチドが第2の融合ポリペプチドと会合し、これによりヘテロ二量体を形成する。
【0018】
いくつかの実施形態において、シアル酸転移酵素はベータ-ガラクトシドアルファ-2,6シアル酸転移酵素1である。いくつかの実施形態において、シアル酸転移酵素はヒトシアル酸転移酵素である。
【0019】
いくつかの実施形態において、ガラクトシル転移酵素はベータ-1,4-ガラクトシル転移酵素1である。いくつかの実施形態において、ガラクトシル転移酵素はヒトガラクトシル転移酵素である。
【0020】
1つの態様において、本開示は、IgG介在性障害を有する対象を処置する方法に関する。方法は、本明細書に記載されるヘテロ多量体を有する組成物の有効量を対象に投与するステップを含む。
【0021】
いくつかの実施形態において、IgG介在性障害は炎症である。いくつかの実施形態において、IgG介在性障害は自己免疫疾患である。
【0022】
いくつかの実施形態において、自己免疫疾患は関節炎である。いくつかの実施形態において、自己免疫疾患はグッドパスチャー病である。いくつかの実施形態において、自己免疫疾患は腎毒性腎炎である。いくつかの実施形態において、自己免疫疾患はセリアック病、1型糖尿病、グレーブス病、炎症性腸疾患、多発性硬化症、乾癬、関節リウマチ、または全身性ループスエリテマトーデスである。
【0023】
別の態様において、本開示はまた、IgG介在性障害を有する対象を処置する方法にも関する。方法は、シアル酸転移酵素の触媒ドメインを有する第1のポリペプチドの有効量、およびガラクトシル転移酵素の触媒ドメインを有する第2のポリペプチドの有効量を対象に投与するステップを含み、シアル酸転移酵素の触媒ドメインは糖タンパク質のシアリル化を触媒し、ガラクトシル転移酵素の触媒ドメインは糖タンパク質のガラクトシル化を触媒する。
【0024】
いくつかの実施形態において、第1のポリペプチドは、抗体重鎖CH2領域、および抗体重鎖CH3領域をさらに有する。
【0025】
いくつかの実施形態において、第2のポリペプチドは、抗体重鎖CH2領域、および抗体重鎖CH3領域をさらに有する。
【0026】
いくつかの実施形態において、IgG介在性障害は炎症である。いくつかの実施形態において、IgG介在性障害は自己免疫疾患である。
【0027】
いくつかの実施形態において、自己免疫疾患は関節炎である。いくつかの実施形態において、自己免疫疾患はグッドパスチャー病である。いくつかの実施形態において、自己免疫疾患は腎毒性腎炎である。いくつかの実施形態において、自己免疫疾患はセリアック病、1型糖尿病、グレーブス病、炎症性腸疾患、多発性硬化症、乾癬、関節リウマチ、または全身性ループスエリテマトーデスである。
【0028】
1つの態様において、本開示はまた、対象における臓器移植中の抗体介在性損傷を処置する方法にも関する。方法は、本明細書に記載されるヘテロ多量体を有する組成物の有効量を対象に投与するステップを含む。
【0029】
別の態様において、本開示はまた、対象における臓器移植中の抗体介在性損傷を処置する方法にも関する。方法は、シアル酸転移酵素の触媒ドメインを有する第1のポリペプチドの有効量、およびガラクトシル転移酵素の触媒ドメインを有する第2のポリペプチドの有効量を対象に投与するステップを含み、シアル酸転移酵素の触媒ドメインは糖タンパク質のシアリル化を触媒し、ガラクトシル転移酵素の触媒ドメインは糖タンパク質のガラクトシル化を触媒する。
【0030】
1つの態様において、本開示はまた、コラーゲン三量体化ドメインおよびシアル酸転移酵素の触媒ドメインを有する第1の融合ポリペプチド、コラーゲン三量体化ドメインおよびガラクトシル転移酵素の触媒ドメインを有する第2の融合ポリペプチド、ならびにコラーゲン三量体化ドメインを有する第3の融合ポリペプチドを有するヘテロ多量体であって、第1の融合ポリペプチド、第2の融合ポリペプチド、および第3の融合ポリペプチドが互いに結合し、ヘテロ多量体を形成する、ヘテロ多量体も提供する。
【0031】
いくつかの実施形態において、第3の融合ポリペプチドは、シアル酸転移酵素の触媒ドメインをさらに有する。いくつかの実施形態において、第3の融合ポリペプチドは、ガラクトシル転移酵素の触媒ドメインをさらに有する。
【0032】
別の態様において、本開示はまた、4つのストレプトアビジンポリペプチドを有する四量体と;各々がビオチンと結合する4つのポリペプチドであって、4つのポリペプチドの1つまたは複数が、シアル酸転移酵素の触媒ドメインまたはガラクトシル転移酵素の触媒ドメインを有する、4つのポリペプチドとを有するヘテロ多量体であって、
4つのポリペプチドの各々が、4つのストレプトアビジンポリペプチドを有する四量体に結合する、
ヘテロ多量体にも関する。
【0033】
いくつかの実施形態において、4つのポリペプチドの各々は、シアル酸転移酵素の触媒ドメインまたはガラクトシル転移酵素の触媒ドメインを有する。
【0034】
いくつかの実施形態において、4つのポリペプチドの各々は、シアル酸転移酵素の触媒ドメインを有する。いくつかの実施形態において、4つのポリペプチドの各々は、ガラクトシル転移酵素の触媒ドメインを有する。
【0035】
いくつかの実施形態において、4つのポリペプチドの2つは、それぞれシアル酸転移酵素の触媒ドメインを有し、4つのポリペプチドの2つは、それぞれガラクトシル転移酵素の触媒ドメインを有する。
【0036】
1つの態様において、本開示はまた、抗体またはその抗体断片と、シアル酸転移酵素の触媒ドメインと、ガラクトシル転移酵素の触媒ドメインとを有するヘテロ多量体であって、シアル酸転移酵素の触媒ドメインおよびガラクトシル転移酵素の触媒ドメインが、それぞれ抗体またはその抗体断片に結合されている、ヘテロ多量体も提供する。
【0037】
いくつかの実施形態において、ヘテロ多量体は抗体を有し、抗体は2つの抗体重鎖、および2つの抗体軽鎖を有する。いくつかの実施形態において、シアル酸転移酵素の触媒ドメインは抗体重鎖のC末端に結合されている。いくつかの実施形態において、シアル酸転移酵素の触媒ドメインは抗体軽鎖のC末端に結合されている。いくつかの実施形態において、ガラクトシル転移酵素の触媒ドメインは抗体重鎖のC末端に結合されている。いくつかの実施形態において、ガラクトシル転移酵素の触媒ドメインは抗体軽鎖のC末端に結合されている。
【0038】
本明細書で使用される場合、用語「多量体」は、2つ以上のポリペプチドを有するタンパク質、または2つ以上のポリペプチドによって形成されるポリペプチド複合体を指す。ポリペプチドは互いに会合し、四次構造を形成することができる。
【0039】
本明細書で使用される場合、用語「ヘテロ多量体」は、1つを超えるタイプのポリペプチドを有する多量体を指す。
【0040】
本明細書で使用される場合、用語「ホモ二量体」は、2つの同一のポリペプチドを有する多量体を指す。
【0041】
本明細書で使用される場合、用語「ヘテロ二量体」は、2つのポリペプチドを有する多量体を指し、2つのポリペプチドは異なる。
【0042】
本明細書で使用される場合、用語「内腔ドメイン」または「酵素内腔ドメイン」は、ゴルジ装置の内腔内にその天然の状態で位置するグリコシル化酵素の部分を指す。グリコシルトランスフェラーゼの酵素内腔ドメインは通常、グリコシル化酵素の可溶性部分である。
【0043】
本明細書で使用される場合、用語「可溶性部分」または「可溶性ドメイン」は、可溶性であるグリコシル化酵素の部分を指す。トランスゴルジグリコシル化酵素では、可溶性部分はグリコシル化酵素の酵素内腔ドメインである場合が多い。非トランスゴルジグリコシル化酵素では、グリコシル化酵素全体が可溶性であり得る。故に、いくつかの実施形態において、可溶性部分は、グリコシル化酵素全体またはグリコシル化酵素の一部であり得る。
【0044】
本明細書で使用される場合、用語「触媒ドメイン」は、触媒活性を有するタンパク質の部分を指す。
【0045】
本明細書で使用される場合、用語「IgG介在性障害」は、免疫グロブリンG(IgG)のレベルの増加または活性の増加によって引き起こされるまたは特徴付けられる障害を指す。
【0046】
本明細書で使用される場合、用語「結合された(linked)」は、例えば、化学結合(例えば、ペプチド結合、または炭素-炭素結合)によって、疎水性相互作用によって、ファンデルワールス相互作用によって、および/または静電相互作用によって共有または非共有結合的に会合していることを指す。
【0047】
特に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。方法および材料は、本発明で使用するために本明細書に記載されている。当技術分野で公知の他の適切な方法および材料もまた使用することができる。材料、方法、および例は例示のみであり、限定することを意図するものではない。本明細書で言及される全ての刊行物、特許出願、特許、配列、データベース登録、および他の参考文献は、その全体が参照により組み込まれる。矛盾する場合、定義を含む本明細書が優先される。
【0048】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および図面から、ならびに特許請求の範囲から明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1-1】図1A~1Eは、可溶化および改変グリコシルトランスフェラーゼ酵素を示す図である。(A~C)IgG、その複合体、二分岐Fcグリカン、および酵素-Fc融合物の模式図が示されている。(A)N297に単一のN-結合型グリコシル化部位を含むIgG FabおよびFc。(B)グリカンコア構造(枠内)は、GlcNAc(四角)、マンノース(緑の丸)、およびフコースの可変的付加(赤い三角)、二分枝(bisecting)GlcNAc、ガラクトース(黄色い丸)、またはシアル酸(紫の菱形)からなる。(C)トランスゴルジ酵素B4GALT1およびST6GAL1は、細胞質(cyto)、膜貫通(TMD)、および酵素内腔ドメイン(Lumen)を有する。ST6GAL1の分泌をもたらすST6GAL1切断部位EFQ41~43は赤で示される。B4GALT1およびST6GAL1の酵素内腔ドメインをIgG Fcに融合した(それぞれ、B4FcおよびST6Fc)。(D、E)B4Fc、ST6Fcの、個別または組み合わせたグリコシルトランスフェラーゼ活性に関する結合特異的レクチンブロットアッセイ。改変酵素および糖ヌクレオチド供与体(B4Fcに対するUDP-Gal、ST6Fcに対するCMP-SA)とインキュベーション後の標的糖タンパク質フェチュインの末端β1,4ガラクトース(ECL)もしくはα2,6シアル酸(SNA)(D)、またはマウスおよびヒトIgG Fc(E)。
図1-2】図1-1と同様である。
図2-1】図2A~2Hは、インビボシアリル化の抗炎症活性を示す図である。(A)マウスをK/BxN血清およびPBS(黒丸)、ST6Fc(ピンク色の三角)、B4Fc(オレンジ色の菱形)、またはIVIG(青い四角)で処置し、肢の腫脹を数日にわたってモニターした。(B)(A)の個々のマウスの10日目の臨床スコアがプロットされている。(C)K/BxN処置マウスにPBS(黒丸)、IVIG(青い四角)、またはB4ST6Fc(赤い三角)を与え、肢の腫脹を数日にわたってモニターした。(D)(C)からの個々のマウスの9日目の臨床スコアが示されている。(E)PBS、IVIG、またはB4ST6Fcで処置したマウスにおける関節炎の誘導7日後の肢切片のH&E染色。NTNを誘導し、PBS(黒丸)、IVIG(青い四角)、またはB4ST6Fc(赤い三角)で処置したマウスの7日目の血中尿素窒素(BUN)レベル(F)および生存(G)。(H)PBS、IVIG、またはB4ST6Fc投与後7日のNTN処置マウスからの染色凍結腎臓切片のPAS。平均および標準偏差がプロットされている。結果は、少なくとも2つの独立した反復を代表している。p<0.05、**p<0.01、***p<0.005、****p<0.001、ns(有意でない)(二元配置ANOVAと、その後のTukeyの事後検定によって決定)。
図2-2】図2-1と同様である。
図2-3】図2-1と同様である。
図3-1】図3A~3Gは、インビボシアリル化のための受容体に関する要求性を示す図である。(A)FcγRIIB-/-マウスにK/BxN血清およびPBS(黒丸)、IVIG(青い四角)、またはB4ST6Fc(赤い三角)を与え、肢の腫脹を数日にわたってモニターした。(B)(A)からの個々のマウスの6日目の臨床スコアがプロットされている。(C)WTマウスにTKO SIGN-R1抗体およびK/BxN血清およびPBS(黒丸)、IVIG(青い四角)、またはB4ST6Fc(赤い三角)を投与し、肢の腫脹を数日にわたってモニターした。(D)(C)からの個々のマウスの6日目の臨床スコアが示されている。(E)SIGN-R1-/-および(F)hDC-SIGN/SIGN-R1-/-マウスにK/BxN血清およびPBS(丸)、IVIG(四角)、またはB4ST6Fc(三角)を与え、肢の腫脹を数日にわたってモニターした。(G)SIGN-R1-/-およびhDC-SIGN/SIGN-R1-/-マウスの6日目の臨床スコアが示されている。平均および標準偏差がプロットされている。結果は、少なくとも2つの独立した反復を代表している。**p<0.01、***p<0.005、****p<0.001、ns(有意でない)(二元配置ANOVAと、その後のTukeyの事後検定によって決定)。
図3-2】図3-1と同様である。
図3-3】図3-1と同様である。
図4-1】図4A~4Eは、インビボシアリル化のための酵素に関する要求性を示す図である。(A)B4GALT1および酵素的に死んでいるST6GAL1(C350A、C361A)および得られたB4ST6Fc CACAの模式図。(B)B4ST6Fc-EndoをもたらすEndoS処置後のB4FcおよびST6FcのFcグリカンの除去の模式図。(C)B4ST6Fc、B4ST6Fc CACA、またはB4ST6Fc-Endoとインキュベーション後のヒトIgG Fcの末端β1,4ガラクトース(ECL)またはα2,6シアル酸(SNA)に関する結合特異的レクチンブロットアッセイ。ガラクトシル化を、(G0)IgG FcでUDP-Galとのインキュベーションによってアッセイした。シアル酸転移酵素活性を、(G2)IgG FcでCMP-SAとのインキュベーションによって評価した。(D)WTマウスにK/BxN血清およびPBS(黒丸)、IVIG(青い四角)、またはB4ST6Fc(赤い三角)、B4ST6Fc CACA(黒いバツ印、赤い点線)、またはB4ST6Fc-Endo(黒縁の赤い三角、赤い点線)を投与し、肢の腫脹を数日にわたってモニターした。(E)(D)からのマウスの6日目の臨床スコアが示されている。平均および標準偏差がプロットされている。結果は、少なくとも2つの独立した反復を代表している。p<0.05、**p<0.005、****p<0.001、ns(有意でない)(二元配置ANOVAと、その後のTukeyの事後検定によって決定)。
図4-2】図4-1と同様である。
図4-3】図4-1と同様である。
図5-1】図5A~5Eは、自己免疫炎症中のインビボシアリル化の特徴付けを示す図である。(A、B)PBS、IVIG、またはB4ST6Fc投与後の7日目のNTN処置マウスの血清または腎臓IgGから回収した全グリカンのHPLCトレース。網掛けは、末端糖の保持時間に対応する(青、G0;黄色、G1;オレンジ色、2つのG2;ピンク色、1つのS1;紫、S2)。(C、D)(A、B)に記載されたIgGからのモノシアリル化およびアガラクトシル化グリカンの比(S1/G0)。(E)PBS、IVIG、またはB4ST6Fcを受けたNTN処置マウスの血清および腎臓から精製した全IgGを、マウスおよびヒトIgGに関する免疫ブロッティングによってプローブした。平均および標準偏差がプロットされている。結果は、少なくとも2つの独立した反復を代表している。**p<0.01、ns(有意でない)(二元配置ANOVAと、その後のTukeyの事後検定によって決定)。
図5-2】図5-1と同様である。
図5-3】図5-1と同様である。
図6-1】図6A~6Hは、血小板活性化およびインビボシアリル化を示す図である。(A)PBS、IVIGおよびB4ST6Fcで処置後の未処置および7日目のNTN処置マウスの腎臓を、糸球体(mNephrin、緑)、マウスIgG(青)、血小板(CD41、赤)、活性化血小板(CD62、黄色)について調べた。代表的な個々の画像およびオーバーレイ画像が示されている。(B、C)未処置およびクロピドグレル処置マウスにK/BxN血清およびPBS(黒丸)、IVIG(青い四角)、またはB4ST6Fc(赤い三角)を与え、肢の腫脹を数日にわたってモニターした。(D)未処置およびクロピドグレル処置マウスの6日目の臨床スコアが示されている。NTNを未処置(E、F)およびクロピドグレル処置(G、H)動物で誘導し、7日目のBUNレベル(mg/dL)および生存をモニターした。平均および標準偏差がプロットされている。結果は、少なくとも2つの独立した反復を代表している。p<0.05、***p<0.005、****p<0.001、ns(有意でない)(二元配置ANOVAと、その後のTukeyの事後検定によって決定)。
図6-2】図6-1と同様である。
図6-3】図6-1と同様である。
図6-4】図6-1と同様である。
図7-1】図7A~7Dは、治療的インビボシアリル化を示す図である。(A、B)ヒト血小板血漿を、未処置、活性化(トロンビン+)、またはクロピドグレル処置後に活性化(トロンビン+、クロピドグレル+)し、UPD-Gal(A)およびCMP-SA(B)についてアッセイした。(C-D)マウスを、0日目のK/BxN血清および3日目のPBS(黒丸)、IVIG(青い四角)、またはB4ST6Fc(赤い三角)で処置し、肢の腫脹を数日にわたってモニターした(C)。(D)(C)からの個々のマウスの7日目の臨床スコアが示されている。平均および標準偏差がプロットされている。結果は、少なくとも2つの独立した反復を代表している。**p<0.01、***p<0.005、****p<0.001、ns(有意でない)(二元配置ANOVAと、その後のTukeyの事後検定によって決定)。
図7-2】図7-1と同様である。
図8-1】図8A~8Dは、可溶性ガラクトシル転移酵素およびシアル酸転移酵素タンパク質の改変および特徴付けを示す図である。(A)ヒトST6GAL1のタンパク質配列。黄色およびライトブルーに網掛けされた配列は、それぞれ、細胞質ドメインおよび膜貫通ドメイン(TMD)を表す。番号が付いた赤い三角は、IgG Fcに融合されたシアル酸転移酵素の開始部位を示す。星が付いた三角は、本稿の全ての実験で使用された可溶性ST6GAL1の開始部位を示す。(B)各ST6GAL1の略図が示されている。(C)IgGに対する反応性に関するFc-酵素タンパク質免疫ブロット(N、未変性タンパク質;D、変性タンパク質)。ST6Fcは、EFQ41~43の上流で融合された場合、変性するとFcおよびST6GAL1に切断された。(D)B4GALT1、ST6GAL1、またはIgGに対する反応性に関するST6Fc、B4Fc、およびB4ST6Fcの免疫ブロット。
図8-2】図8-1と同様である。
図9図9A~9Bは、NTN誘導後の抗ヒツジ応答を示す図である。(A、B)NTN誘導マウスをPBS(黒丸)、高用量VIG(青い四角)、またはB4ST6Fc(2.5mg/kg)(赤い三角)で処置した。7日目の抗ヒツジIgG力価をELISAによって決定した。
図10図10A~10Bは、インビボシアリル化対照群での受容体に関する要求性を示す図である。(A、B)それぞれ図2Bおよび2DのK/BxN注射後の未処置C57BL/6マウスの6日目の臨床スコア。これらは、図3A~3Dに示されたFcγRIIB-/-(A)およびTKO-SIGN-R1(B)処置の対照群からのものである。結果は、少なくとも2つの独立した反復を代表している。p<0.05、**p<0.01、***p<0.005、****p<0.001、ns(有意でない)(二元配置ANOVAと、その後のTukeyの事後検定によって決定)。
図11-1】図11A~11Dは、恒常性維持中のインビボシアリル化を示す図である。投与後の定められた期間でのIVIG(A)およびB4ST6Fc(B)の血清濃度が、半減期の挿入と共にプロットされている。(C)PBS(黒丸)、B4ST6Fc(1週間前)(赤い三角)、またはB4ST6Fc(2ヶ月前)(白抜きの赤い三角)の投与後の血液検査値。WBC、白血球;LYM、リンパ球;MONO、単球;GRAN、顆粒球;HCT、ヘマトクリット;MCV、平均赤血球容積;RDW、赤血球分布幅;HGB、ヘモグロビン;MCHC、平均赤血球ヘモグロビン濃度;MCH、平均赤血球ヘモグロビン;RBC、赤血球(red blood cell)(赤血球(erythrocyte))数;PLT、血小板;MPV、平均血小板容積;BUN、血中尿素窒素;ALT(GPT)、アラニンアミノ基転移酵素;ALP、アルカリホスファターゼ;GGT、ガンマグルタミン酸転移酵素。(D)PBS、B4ST6Fc(1週間前)、またはB4ST6Fc(2ヶ月前)の投与後のモノシアリル化およびアガラクトシル化グリカンの比(S1/G0)がプロットされている。
図11-2】図11-1と同様である。
図11-3】図11-1と同様である。
図12】炎症中の部位特異的インビボシアリル化を示す図である。NTN誘導マウスの腎臓から回収したIgGにおけるジシアリル化およびアガラクトシル化グリカンの比(S2/G0)。
図13-1】図13A~13Bは、NTNのインビボシアリル化中の血小板を示す図である。(A)PBS、IVIGおよびB4ST6Fc処置動物におけるNTN誘導後未処置および7日の腎臓を、糸球体(mNephrin、緑)、DAPI(青)、血小板(CD41)、活性化血小板(CD62)に付いて調べた。代表的な個々の画像およびオーバーレイ画像が示されている。(B)PBS(黒丸)、高用量IVIG(青い四角)、またはB4ST6Fc(2.5mg/kg)(赤い三角)で処置したNTN誘導マウス(一部はクロピドグレルも受けた)の7日目の抗ヒツジIgG力価。
図13-2】図13-1と同様である。
図14図14A~14Bは、予防的および治療的インビボシアリル化を示す図である。(A)K/BxN処置マウスに、0日目にPBS(黒丸)、IVIG(青い四角)、またはB4ST6Fc(赤い三角)を与え、肢の腫脹を数日にわたってモニターした。(B)個々のマウスの7日目の臨床スコアが示されている。これらは、図7Cおよび7Dに示されたデータの対照群である。
図15図15Aは、グリコシル化酵素の可溶性部分を示す模式図である。図15Bは、IgG Fcに融合されたグリコシル化酵素の可溶性部分によって形成される二量体を示す模式図である。図15Cは、コラーゲン三量体化ドメインに融合されたグリコシル化酵素の可溶性部分によって形成される三量体を示す模式図である。図15Dは、ビオチンリガーゼによってビオチン化され、その後ストレプトアビジン(SA)とインキュベートされるグリコシル化酵素の可溶性部分によって形成される四量体を示す模式図である。
図16図16Aは、抗体の重鎖のC末端に融合されたグリコシル化酵素の可溶性部分を示す模式図である。図16Bは、抗体の軽鎖のC末端に融合されたグリコシル化酵素の可溶性部分を示す模式図である。
図17】改変グリコール-酵素が、炎症を処置するのに使用され得ることを示す模式図である。
図18】「ノブ・イントゥ・ホール」変異を含むおよび含まないB4ST6Fc、ST6Fcホモ二量体、ならびにB4Fcホモ二量体のウエスタンブロット結果(抗ヒトIgGを用いた)およびクマシーゲル染色を示す図である。
図19】関節炎モデルにおける本来のB4ST6Fc、ヘテロ二量体B4ST6FcKln、およびB4ST6FcG3の効果を示す図である。
図20】いくつかの例示的なグリコシル化酵素のアミノ酸配列を列挙する図である。
図21-1】図21は、いくつかのヒトおよびマウス免疫グロブリンG(IgG)の例示的な断片結晶性領域(Fc)のアミノ酸配列を列挙する図である。
図21-2】図21-1と同様である。
図21-3】図21-1と同様である。
図21-4】図21-1と同様である。
図22-1】図22は、いくつかの例示的なグリコシル化酵素-Fc融合タンパク質のアミノ酸配列を列挙する図である。
図22-2】図22-1と同様である。
図22-3】図22-1と同様である。
図22-4】図22-1と同様である。
図22-5】図22-1と同様である。
図22-6】図22-1と同様である。
図22-7】図22-1と同様である。
図22-8】図22-1と同様である。
図22-9】図22-1と同様である。
図22-10】図22-1と同様である。
図23-1】図23は、イヌIgG重鎖A、イヌIgG重鎖B、イヌIgG重鎖C、イヌIgG重鎖D、イヌST6GAL1、およびイヌB4GALT1のアミノ酸配列を列挙する図である。
図23-2】図23-1と同様である。
図23-3】図23-1と同様である。
図23-4】図23-1と同様である。
図24-1】図24は、ネコIgG1a重鎖、ネコIgG1b重鎖、ネコST6GAL1、およびネコB4GALT1のアミノ酸配列を列挙する図である。
図24-2】図24-1と同様である。
図25-1】図25は、ウシIgG1重鎖定常領域、ウシIgG2重鎖定常領域、ウシIgG3重鎖定常領域、ウシST6GAL1、およびウシB4GALT1のアミノ酸配列を列挙する図である。
図25-2】図25-1と同様である。
図25-3】図25-1と同様である。
図25-4】図25-1と同様である。
図25-5】図25-1と同様である。
図26-1】図26は、ウマIgG1重鎖定常領域、ウマIgG2重鎖定常領域、ウマIgG3重鎖定常領域、ウマIgG4重鎖定常領域、ウマIgG5重鎖定常領域、ウマIgG6重鎖定常領域、ウマST6GAL1、およびウマB4GALT1のアミノ酸配列を列挙する図である。
図26-2】図26-1と同様である。
図26-3】図26-1と同様である。
図26-4】図26-1と同様である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
免疫グロブリンガンマ(IgG)抗体は、免疫系の極めて顕著なエフェクタータンパク質である。該抗体は、病原体曝露後またはワクチン接種後に不可欠であり、微生物の排除のために適応免疫系および自然免疫系を橋渡ししているが、自己抗原に対して生成される場合は自己免疫疾患の病因に寄与することもある(Nimmerjahn and Ravetch, 2008b)。IgG抗体の二峰性の活性は、高い親和性を有する抗原結合断片(Fab、図1A)による抗原の同時認識、ならびに結晶性断片(Fc、図1A)と自然免疫細胞によって発現されるFcガンマ受容体(FcγR)の間の相互作用を通じた白血球、または補体カスケードのイニシエーター、C1qの動員および活性化を可能にする(Nimmerjahn et al., 2015)。これは、抗体依存性細胞傷害(ADCC)、認識された抗原の取り込み、および補体依存性細胞傷害(CDC)などのIgGの古典的炎症性エフェクター機能をトリガーする(Franklin, 1975, Huber et al., 1976)。
【0051】
単一N-結合型グリカンは全てのIgGの各重鎖に存在し、Fc中のアスパラギン297に位置する(N-297、図1A~1B)(Arnold et al., 2007)。グリカンのコア7糖は、フコース、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)、ガラクトース、またはシアル酸の付加によって異なり得る複合体二分岐構造を有する(図1B)。これらの可変的付加は、途方もない多様性の要因となっており、30種類以上の異なるグリカンが健康な個体の循環IgGで同定されている(Kaneko et al., 2006b)。重要なことには、この10年間にわたる研究により、Fcグリカンの組成がIgGエフェクター機能に重大な影響を及ぼすことが示された(Jefferis, 2005, Jefferis, 2009a, Jefferis, 2009b)。Fcグリカンがアフコシル化されたIgGは、フコシル化IgGと比べて活性化FcγR、FcγRIIIAに対する親和性が50倍増強し、インビボで著しく増強したADCCを示す(Ferrara et al., 2011、Natsume et al., 2005、Okazaki et al., 2004、Shields et al., 2002)。結果として、ADCCを誘発することが意図されたいくつかの次世代の治療用IgGは、フコースを欠くように改変されている(Beck et al., 2010)。実際に、最近の研究は、これらの知見を感染症まで広げ、Fcグリカンがアフコシル化されたデング熱特異的IgGとデング出血熱との関連を同定し(Wang et al., 2017)、潜伏性および非活動性TB感染の制御においてIgGをアフコシル化した(Lu et al., 2016)。これまでに最も成功したHIVワクチン試験は、IgG Fcグリカンの二分枝GlcNAcのレベルの増加をもたらした。これは、アフコシル化より程度は少ないものの、FcγRIIIAに対する親和性も増加させる修飾であった(Ackerman et al., 2013、Chung et al., 2014、Davies et al., 2001)。反対に、Fcグリカンの末端シアリル化はI型 FcγRに対するIgG親和性を低減し、シアリル化IgGはインビボでADCCを惹起する能力を低減した(Scallon et al., 2007、Anthony et al., 2008a、Li et al., 2017)。インフルエンザワクチン接種後のIgGにおけるシアリル化の増強は、II型FcγR-CD23経路を通じた親和性成熟の改善によるものであった(Wang et al., 2015)。IgGグリコシル化の制御は完全には理解されていないが、IL-23はST6GAL1の発現の制御に関与している(Pfeifle et al., 2017)。
【0052】
逆説的であるが、IgGは、炎症を抑制するために臨床で一般的に使用されている(Negi et al., 2007)。静脈内免疫グロブリン(IVIG)は、何万人もの健康なドナーに由来するポリクローナル単量体IgGの治療用製剤であり、炎症性および自己免疫疾患を処置するために高用量(1~2g/kg)でほぼ40年間臨床で成功裏に使用されている(Imbach et al., 1981、Nimmerjahn and Ravetch, 2008a)。機構研究は、IVIGのFc部分がインビボでの抗炎症活性に十分であること(Debre et al., 1993、Samuelsson et al., 2001)、およびこれは抑制性FcγRIIBを必要とすること(Samuelsson et al., 2001、Schwab et al., 2012、Schwab et al., 2014、Tackenberg et al., 2009、Tackenberg et al., 2010)を明らかにした。さらなる研究は、Fcグリカンのシアリル化がこの活性に不可欠であることを示した(Kaneko et al., 2006b、Anthony et al., 2008a)。活性化I型FcγRに結合する代わりに、シアリル化IgG Fcは、II型FcγR、ヒトDC-SIGNまたはマウスSIGN-R1に結合し、結果的に炎症性エフェクター細胞における抑制性FcγRIIBの表面発現が増加した(Anthony et al., 2011、Anthony et al., 2008b、Samuelsson et al., 2001)。故に、IgG Fcグリカン組成、特に末端シアル酸は、DC-SIGNおよびFcγRIIBと一緒に、インビボでのIgGの抗炎症活性に関与している(Kaneko et al., 2006b、Tackenberg et al., 2009、Anthony et al., 2011、Washburn et al., 2015)。
【0053】
本開示は、Fcに融合されたグリコシル化酵素の触媒ドメインを含む融合ペプチドを含む方法および組成物(例えば、グリコシル化酵素-Fc融合タンパク質)に関する。本明細書に記載された方法および組成物は、様々な治療効果のためにインビボで抗体グリカンを改変することによってIgGエフェクター機能を調節するのに使用することができる。例えば、本開示は、自己抗体介在性炎症を軽減するための新規の手段としての、抗体グリカンをインビボで改変することによるIgGエフェクター機能の調節に関する。シアリル化を含むグリコシル化は、IgG生物学に多大な影響を与えることが十分に確立されている。実際に、感染症へのIgGグリコシル化の寄与はますます理解されており、IgGグリコフォームはデング熱および結核の臨床像に寄与すると報告されている(Lu et al., 2016、Wang et al., 2017)。活性化FcγRIIIAに対する親和性が増強されたアフコシル化IgGは、デング出血熱に罹患する可能性の高い患者、およびまた潜伏性であるが活動性でないTB感染患者で見出された。シアリル化により、FcγRに対するIgGの親和性は著しく低減し、IgGは炎症をトリガーできなくなる(Scallon et al., 2007、Kaneko et al., 2006b、Anthony et al., 2008a、Li et al., 2017)。インフルエンザ特異的IgG Fcグリカンにおけるシアリル化の増強はワクチン接種後に見出され、CD23-II型 FcγR依存的にインフルエンザ特異的広域中和抗体と関連していた(Wang et al., 2015)。また、シアリル化IgG Fcは、十分な高用量で投与されると抗炎症活性をもたらす(Anthony et al., 2008a、Kaneko et al., 2006b、Washburn et al., 2015)。
【0054】
IgGの用量依存的抗炎症作用を支配する機構は広く議論されてきた(Clynes, 2007、Schwab and Nimmerjahn, 2013)。しかし、IVIGの機能テストは、IgGのシアリル化がこの抗炎症活性にインビボで関与していることを一貫して示している(Washburn et al., 2015、Zhang et al., 2016、Fiebiger et al., 2015、Schwab et al., 2012、Schwab et al., 2014、Ohmi et al., 2016)。FcグリカンをIgGから除去することにより、IVIGは自己免疫炎症を抑制できなくなる(Kaneko et al., 2006b)。さらに、Fcグリカンから末端シアル酸を除去するためにノイラミニダーゼで処置されたIVIGもまた抗炎症活性を示さなかった(Kaneko et al., 2006b)。故に、IgG Fcグリカン組成、特にシアル酸は、インビボでのIgGの抗炎症活性に関与している。
【0055】
シアリル化IgG Fcの生成は容易ではなく、文献上の混乱の一因となっている可能性がある。実際に、混入LPS、Fcの分解、不適切なレクチンエンリッチメント(Stadlmann et al., 2009)、適切でないのインビトロアッセイ(Bayry et al., 2009)、およびIVIGにおけるFab特異性の多様性が結果を混乱させている。さらに、ST6GAL1はシアル酸に結合することもそれを除去することもできることから、シアリル化物質の特徴付けが不一致の一部に対する説明を提供している(Washburn et al., 2015)。重要なことには、いくつかのグループが、シアリル化hIgG1はギランバレー症候群(Zhang et al., 2016)、およびコラーゲン誘導関節炎(Ohmi et al., 2016)の実験モデルにおいて、実際には抗炎症性であるという最初の報告と似た知見を報告している。注目すべきことに、IgGをインビボでシアリル化することにより、抗炎症性シアリル化IgGを生成する技術的問題の多くが回避されている。
【0056】
成功したインビボ糖鎖改変の試みは、細菌由来グリカン修飾酵素を使用している(Albert et al., 2008、Xiao et al., 2016)。連鎖球菌エンドグリコシダーゼ、EndoSは、IgG介在性炎症を軽減することが示されている(Albert et al., 2008)。また、ADCCを改善するために腫瘍グリコカリックスをコレラ菌(Vibrio cholerae)ノイラミニダーゼの標的にした(Xiao et al., 2016)。これらの試験は糖鎖改変の力を証明したが、これらの薬物の反復投与は、細菌由来酵素を標的にする免疫応答のため困難であると判明することがある。B4ST6Fcは免疫応答によって標的にされることが可能であるが、他のヒトIgG Fc融合物が良好な忍容性を示している。
【0057】
インビボシアリル化の可能性のある適用は、自己免疫および炎症状態を優に超える。実際に、これらの方法は、高用量IVIGによって現在処置されている状態に適用することができる。しかし、ワクチン接種後に生成される最初のIgGがシアリル化され、これらのシアリル化IgGがII型FcγR依存的機構を通じた親和性成熟の改善に寄与することが研究により報告されていることから(Wang et al., 2015)、IgGシアリル化の調節はワクチン有効性の改善にも利用され得る。さらに、インビボシアリル化は、処置後に定められた期間で治療用IgGの活性を止めるのに有効であり得る。また、これらのグリコシルトランスフェラーゼおよびこれらの融合タンパク質のFc部分は、延長した血清半減期までのFcRn親和性の増加、または受容体結合の増加/減少を含め、さらに改変され得る(Schlothauer et al., 2016)。
【0058】
したがって、本開示は、トランスゴルジで見出されるヒトグリコシル化酵素をIgG Fcに融合することによるIgG生物学におけるシアリル化の機能に関する。効率的なシアリル化は、ガラクトースおよびシアル酸に結合する両方の酵素を必要とする(Anthony et al., 2008a)。重要なことには、グリコシル化酵素のこの組み合わせは、炎症部位に沈着したIgGを選択的にシアリル化することによって2つの異なるモデルにおいてインビボで自己抗体介在性炎症を軽減することができる。この酵素の組み合わせの投与は、循環中のIgGのシアリル化、または循環中の他の糖タンパク質のシアリル化には影響を与えないようである。データは、これはおそらく、血小板が炎症部位でのみガラクトースおよびシアル酸基質を放出するためであることを示している。故に、本開示は、内因性抗体を糖鎖改変し、それらを抗炎症性メディエーターに変換することによる、有害な自己抗体介在性炎症を軽減するための有力なアプローチを提供する。
【0059】
本明細書に記載された方法および組成物(例えば、グリコシル化酵素-Fc融合タンパク質)はまた、様々な他の治療効果、例えば、IgG介在性障害の処置、自己免疫疾患の処置、または臓器移植中の抗体介在性損傷の処置に使用することもできる。さらに、本開示で記載されるグリコシル化酵素-Fc融合タンパク質は、全血球計算(CBC)および包括的代謝パネル(CMP)分析が投与1週間後および2ヶ月後ともに正常レベル内であることから良好な忍容性を示し、臨床用途に適している。故に、本開示は、IgG介在性障害(例えば、炎症、および自己免疫疾患)および臓器移植中の抗体介在性損傷を処置するための有用なアプローチを提供する。
【0060】
グリカン
グリカンは、多くのタンパク質の機能において重要な役割を有している。グリカンは、複合糖質(例えば、糖タンパク質、糖ペプチド、ペプチドグリカン、糖脂質、グリコシドおよびリポ多糖)の炭水化物部分を形成する糖類(すなわち、グリコシド結合した複数の単糖)である。グリカンは小胞体でタンパク質に付加され得、タンパク質がゴルジ装置を通って移動するときに修飾され得る。前駆体グリカン構造は、アスパラギン(N-結合型)、セリンまたはスレオニン(O-結合型)、リン脂質(GPI)、トリプトファン(C-結合型)に結合され得、またはホスホジエステル結合(ホスホグリコシル化)によって結合され得る。多くの生物学的機能がグリカンに起因しているが、グリコシル化の機能の2つの一般型は、(1)糖タンパク質の構造または機能の維持または修飾、および(2)炭水化物受容体またはレクチンのためのグリカンベースの認識プラットホームの提供である。
【0061】
N-結合型グリコシル化
小胞体の内腔では、14残基前駆体オリゴ糖(グルコースマンノースN-アセチルグルコサミン、(GlcManGlcNAc))が酵素オリゴサッカリルトランスフェラーゼによって、コンセンサス配列N-X-S/Tで見出されるアスパラギン残基に転移される(Schachter et al., in Essentials of Glycobiology, Edn. 2010/03/20, eds. V. A et al., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor(NY), 2009)。前駆体グリカンは、合成中のタンパク質が組み立てられ、ゴルジに輸送される間に、エキソグリコシダーゼによって高マンノース構造(Man8~9GlcNAc)にトリミングされる。グリカンは次いで、タンパク質が分泌経路を通過するときにさらにプロセシングされ得る。
【0062】
コア複合体二分岐グリカン構造(GlcNAcManGlcNAc)は、β1,2N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ-IIによるGlcNAcの転移によって生成される。この構造はIgG抗体の定常領域で見出され、さらに修飾され得る。コアGlcNAcは、α1,6-フコシルトランスフェラーゼによるフコシル化に利用可能である。二分枝N-アセチルグルコサミンは、N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ-IIIによってコアに結合される。タンパク質が分泌経路に沿って進むとき、グリカンは、それぞれβ1,4ガラクトシル転移酵素およびα2,6シアル酸転移酵素によるガラクトースおよびシアル酸のアームへの付加によって、トランスゴルジでさらに修飾され得る。
【0063】
O-結合型グリコシル化
O-結合型グリコシル化は、セリンまたはスレオニンへのGlcNAcの結合によって惹起される(Schachter et al., in Essentials of Glycobiology, Edn. 2010/03/20., eds. V. A et al., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor (NY), 2009)。これらの修飾に関与する経路は、N-結合型グリコシル化ほど理解されていない。少なくとも8つの哺乳動物N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ酵素が存在すると推定され、それらは細胞タイプに応じて差次的に発現される。故に、ERまたはゴルジがこのグリコシル化の最初の部位であるかどうかは定かでない。O-結合型グリカンの既知のコンセンサスアミノ酸配列は存在しないが、その代わりに二次構造選好性が示唆されている。実際には、ほとんどのO-グリコシル化がβターンで見出される。さらに、プロリン残基のエンリッチメントは-1および+3位で顕著であるが、荷電残基はこれらの位置では好ましくない。
【0064】
ほとんどのO-グリカンは、コア1β1-3ガラクトシル転移酵素(コア1GalT)によるβ1-3結合でのGlcNAcへのガラクトースの付加により形成されるコア1サブタイプ構造を含有する。コア2型O-グリカンは、β1-6結合でのGalNAcへのGlcNAcの付加により生成され得る。コア2O-グリカンは、基質としてコア1構造を必要とする。コア3O-グリカンの生成は、GlcNAc-セリン/スレオニン基質を使用するコア3GlcNAcT活性によって制御される。一部の細胞タイプにおけるまたは特定の糖タンパク質間でのコア1GalT酵素とコア3GalT酵素の競合が、コア1およびコア3生成を制御している可能性がある。
【0065】
GPI-結合型グリコシル化
スフィンゴ糖脂質の新規生合成は、ER-ゴルジ経路の膜の内葉で始まる(Schachter et al., in Essentials of Glycobiology, Edn. 2010/03/20, eds. V. A et al., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor (NY), 2009)。セラミドが最初に合成され、次いで特異的グリコシルトランスフェラーゼによってグルコシル化またはガラクトシル化される。β結合ガラクトース残基の付加が続いて起こる。その後、分子は段階的に伸長され、多種多様の異なるコア構造をもたらし得る。シアル酸、フコース、またはグルクロン酸残基の付加を含むスフィンゴ糖脂質の外側伸長は、N-およびO-グリカンと共通することが多い。
【0066】
グリコシル化酵素
グリコシル化酵素は、炭水化物、すなわちグリコシル供与体が、別の分子のヒドロキシル基または他の官能基(グリコシル受容体、例えば、タンパク質、脂質、およびグリカン)に結合される反応に関与している。これらのグリコシル化酵素の可溶性部分(または酵素内腔ドメイン)または触媒ドメインは、Fc、または他の適当なペプチドと融合して多量体を形成することができ、本明細書に記載された任意の方法において使用することができる。
【0067】
α-2,6シアル酸転移酵素(ST6GAL1)
IgG Fcグリカンにおけるガラクトースへのシアル酸の結合は、酵素α-2,6シアル酸転移酵素(ST6GAL1;NP_003023.1;配列番号1)によって触媒される。ST6GAL1によるIgGのシアリル化は、典型的には、ST6GAL1が膜貫通ドメイン(TMD、図1C)によってゴルジにアンカーされた状態で見出されるトランスゴルジで生じる。このトランスゴルジ酵素は、末端シアル酸を複合体二分岐グリカンに結合させることができる。図1Cに示すように、トランスゴルジ酵素ST6GAL1は、細胞質ドメイン(cyto)、膜貫通ドメイン(TMD)、および酵素内腔ドメイン(Lumen)(配列番号1のアミノ酸24~406、配列番号1のアミノ酸29~406、配列番号1のアミノ酸34~406、または配列番号1のアミノ酸41~406)を有する。触媒ドメイン(アミノ酸:配列番号1の160~390)は、酵素内腔ドメイン内に位置する。
【0068】
いくつかの異なるプロモーターが、この転移酵素の細胞および組織特異的発現を制御している(Kalcheva et al. Mammalian genome: official journal of the International Mammalian Genome Society 8, 619-620 (1997);Wang et al. The Journal of biological chemistry 268, 4355-4361 (1993))。例えば、プロモーター1は、肝細胞によってST6GAL1を発現させるためにもっぱら使用されるが、B細胞はプロモーター2を使用する(Appenheimer, M.M. et al. Glycobiology 13, 591-600 (2003))。肝細胞は、切断され、循環に分泌される可溶性ST6GAL1(sST6GAL1)の産生にもっぱら関与している。重要なことには、肝臓特異的プロモーター1の遺伝子破壊により、野生型対照と比べて循環シアリル化IgGのレベルは著しく低減した。しかし、両方のマウス株由来のB細胞は該酵素を発現することができ、IgGシアリル化におけるこの酵素の肝臓可溶型の関与を示した。
【0069】
β-1,4-ガラクトシル転移酵素1(B4GALT1)
ベータ-1,4-ガラクトシル転移酵素1は、ヒトにおいてB4GALT1遺伝子によってコードされる酵素である。B4GALT1(NP_001488.2;配列番号2)は、供与体基質UDP-ガラクトースに対する排他的特異性を有すると思われるII型膜結合糖タンパク質である。B4GALT1は、単糖または糖タンパク質炭水化物鎖の非還元末端のどちらかである類似の受容体糖(例えば、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc))に、ベータ1,4結合でガラクトースを転移させる。触媒ドメイン(アミノ酸:配列番号2の185~390)は、B4GALT1の内腔ドメイン(配列番号2のアミノ酸79~398、または配列番号2のアミノ酸106~398)内に位置する。
【0070】
可溶性グリコシル化酵素
多くのグリコシル化酵素が分泌されている。可溶型は、カルボキシル末端の方向で、膜貫通(TM)領域近くでのタンパク質切断によって、例えば、その膜結合型から得ることができる。
【0071】
図1Cに示すように、トランスゴルジ酵素B4GALT1およびST6GAL1は、細胞質ドメイン(cyto)、膜貫通ドメイン(TMD)、および酵素内腔ドメイン(Lumen)を含む。単一の疎水性セグメントは、シグナルアンカー配列として機能する。この膜貫通セグメント(TMD)は、ゴルジ装置の膜を含む分泌経路の脂質二重層にまたがっている。グリコシルトランスフェラーゼの酵素内腔ドメインは、ゴルジ装置の内腔内に位置する。膜テザー転移酵素は、その「ステム」領域でタンパク質切断を受けやすい。タンパク質分解は、触媒活性可溶型の酵素を解放し、該酵素は細胞から放出され得る。結果として、多くのグリコシル化酵素が、循環中および様々な体液中に可溶型で見出される。興味深いことに、肝細胞および内皮におけるこれらの可溶性酵素の産生は、特定の炎症状態下でも劇的に増加され得る。
【0072】
ST6GAL1は、EFQ41~43のその内腔ドメインにβ-セクレターゼ(BACE1)切断部位を有し、その分泌をもたらすことができる(図1C図8A~8D)。可溶性ST6GAL1は循環中で酵素的に活性であり、IgG Fcグリカンのシアリル化に寄与することができる。
【0073】
B4GALT1の切断部位は、L79およびS106である。この酵素の亜集団がそのステムドメインでのタンパク質切断後に分泌され、この酵素の可溶型は酵素的に活性である。
【0074】
故に、1つの態様において、本開示は、シアル酸転移酵素の酵素内腔ドメインまたはシアル酸転移酵素の触媒ドメインを含むまたはからなる融合タンパク質またはペプチドを提供する。いくつかの実施形態において、シアル酸転移酵素の酵素内腔ドメインはBACE1切断部位を有さない。いくつかの実施形態において、シアル酸転移酵素の酵素内腔ドメインは、配列番号1のアミノ酸24~406、配列番号1のアミノ酸29~406、配列番号1のアミノ酸34~406、または配列番号1のアミノ酸41~406を含むまたはからなる。シアル酸転移酵素の触媒ドメインは、糖タンパク質のシアリル化を触媒する。いくつかの実施形態において、シアル酸転移酵素の触媒ドメインは、配列番号1のアミノ酸160~390を含むまたはからなる。
【0075】
本開示はまた、ガラクトシル転移酵素の酵素内腔ドメインまたはガラクトシル転移酵素の触媒ドメインを含むまたはからなる融合タンパク質またはペプチドも提供する。いくつかの実施形態において、ガラクトシル転移酵素の酵素内腔ドメインは、配列番号2のアミノ酸79~398、または配列番号2のアミノ酸106~398を含むまたはからなる。ガラクトシル転移酵素の触媒ドメインは、糖タンパク質のガラクトシル化を触媒する。いくつかの実施形態において、ガラクトシル転移酵素の触媒ドメインは、配列番号2のアミノ酸185~390を含むまたはからなる。
【0076】
核酸配列およびアミノ酸配列
本開示は、様々な核酸配列およびアミノ酸配列を提供する。
【0077】
いくつかの実施形態において、核酸配列は、本明細書に開示された核酸配列のいずれかと少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%同一である。いくつかの実施形態において、核酸配列は、本開示に記載された配列のいずれかと同一である。
【0078】
いくつかの実施形態において、アミノ酸配列は、本明細書に開示されたアミノ酸配列のいずれかと少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%同一である。いくつかの実施形態において、アミノ酸配列は、本開示に記載された配列のいずれかと同一である。
【0079】
2つのアミノ酸配列、または2つの核酸配列の同一性パーセントを決定するために、配列が最適な比較目的で整列される(例えば、最適なアライメントのために、第1および第2のアミノ酸または核酸配列の一方または両方にギャップが導入されてもよく、比較目的のために非相同配列は無視されてもよい)。比較目的で整列される参照配列の長さは、参照配列の長さの少なくとも80%であり、いくつかの実施形態においては少なくとも90%、95%、または100%である。対応するアミノ酸位置またはヌクレオチド位置のアミノ酸残基またはヌクレオチドが、次いで比較される。第1の配列中の位置が、第2の配列中の対応する位置と同じアミノ酸残基またはヌクレオチドによって占められる場合、分子はその位置において同一である(本明細書で使用される場合、アミノ酸または核酸「同一性」は、アミノ酸または核酸「相同性」と同等である)。2つの配列間の同一性パーセントは、2つの配列の最適なアライメントのために導入される必要があるギャップの数、および各ギャップの長さを考慮した、配列によって共有される同一の位置の数の関数である。本開示の目的のために、配列の比較および2つの配列間の同一性パーセントの決定は、ギャップペナルティ12、ギャップ伸長ペナルティ4、およびフレームシフトギャップペナルティ5を用いたBlossum 62スコアリングマトリックスを使用して達成することができる。
【0080】
FcB4、FcST6、およびFcChm
ST6GAL1およびB4GALT1を含むゴルジ酵素は、ゴルジII型膜タンパク質である。酵素の転移酵素活性は、該タンパク質のC末端に位置する(図1C)。
【0081】
グリコシル化酵素、その酵素内腔ドメイン、可溶性ドメイン、または触媒ドメインは、IgG(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)またはその一部に融合することができる。いくつかの実施形態において、グリコシル化酵素、その酵素内腔ドメイン、可溶性ドメイン、または触媒ドメインは、IgG(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)のFc部分に対して使用され得る。Fc融合物はいくつかの利点を有する。すなわち、可溶性タンパク質は血清半減期が延長され(例えば、5日、10日、14日、または20日超)、また二量体も形成するでろう。いくつかの実施形態において、これらの融合ポリペプチドは、グリコシル化標的に応じてホモ二量体またはヘテロ二量体を形成することができる。
【0082】
IgG Fcは、当技術分野で公知の任意のIgGのFc領域であってもよい。例えば、IgG Fcは、ヒトIgG1-Fc(例えば、配列番号3のアミノ酸26~256を含む)、ヒトIgG2-Fc(例えば、配列番号4のアミノ酸52~266を含む)、ヒトIgG3-Fc(例えば、配列番号5のアミノ酸41~318を含む)、ヒトIgG4-Fc(例えば、配列番号6のアミノ酸53~268を含む)、マウスIgG1-Fc(例えば、配列番号7のアミノ酸26~252を含む)、マウスIgG2a-Fc(例えば、配列番号8のアミノ酸21~253を含む)、マウスIgG2b-Fc(例えば、配列番号9のアミノ酸21~259を含む)、マウスIgG3-Fc(例えば、配列番号10のアミノ酸21~253を含む)、イヌIgG-A Fc(例えば、配列番号15のアミノ酸21~244を含む)、またはネコIgG1 Fc(例えば、配列番号17のアミノ酸21~243を含む)であってもよい。好ましくは、免疫グロブリンの種は、融合タンパク質が投与される対象の種と対応するように選択される。
【0083】
いくつかの実施形態において、ペプチドは、IgG抗体重鎖CH2領域と、IgG抗体重鎖CH3領域と、シアル酸転移酵素の酵素内腔ドメインまたは触媒ドメインとを含む。いくつかの実施形態において、ペプチドは、配列番号11に記載されたアミノ酸配列を有する。本開示はまた、IgG抗体重鎖CH2領域と、IgG抗体重鎖CH3領域と、ガラクトシル転移酵素の酵素内腔ドメインまたは触媒ドメインとを含むポリペプチドも提供する。いくつかの実施形態において、ペプチドは、配列番号12に記載されたアミノ酸配列を有する。いくつかの実施形態において、これらのポリペプチドは、ホモ二量体を形成してもよい。ホモ二量体は、シアル酸転移酵素の2つの酵素内腔ドメイン(または触媒ドメイン)を有してもよい(例えば、FcST6またはST6Fc)。いくつかの他の場合において、ホモ二量体は、ガラクトシル転移酵素の2つの酵素内腔ドメイン(または触媒ドメイン)を有してもよい(例えば、FcB4またはB4Fc)。いくつかの実施形態において、これらのポリペプチドは、シアル酸転移酵素の1つの酵素内腔ドメイン(または触媒ドメイン)、およびガラクトシル転移酵素の1つの酵素内腔ドメイン(または触媒ドメイン)を有するヘテロ二量体(FcChmまたはFcB4/FcST6)を形成してもよい。
【0084】
図22は、ヒトIgG Fc-B4GALT1融合タンパク質(配列番号11)、ヒトIgG1 Fc-ST6GAL1融合タンパク質(配列番号12)、マウスIgG1 Fc-B4GALT1融合タンパク質(配列番号13)、マウスIgG1 Fc-ST6GAL1融合タンパク質(配列番号14)、イヌIgG-A(IgG1)Fc-ST6GAL1融合タンパク質(配列番号15)、イヌIgG-A(IgG1)Fc-B4GALT1融合タンパク質(配列番号16)、ネコIgG1 Fc-ST6GAL1融合タンパク質(配列番号17)、ネコIgG1 Fc-B4GALT1融合タンパク質(配列番号18)を含む、グリコシル化酵素-Fc融合タンパク質のいくつかの例を示している。
【0085】
いくつかの実施形態において、これらのペプチドは、さらに、シグナル配列、例えば、IL2-シグナル配列(配列番号3のアミノ酸1~20)、またはκ-シグナル配列(配列番号4のアミノ酸1~39)を有してもよい。これらのシグナル配列は、通常、ペプチドのN末端に存在している。
【0086】
いくつかの実施形態において、Fc領域は「ノブ・イントゥ・ホール」(KIH)変異を有してもよい。KIH変異は、ヘテロ二量体の形成を容易にするために使用され得る。いくつかの実施形態において、一方のFcは、Y349C、T366S、L368A、およびY407V(全てEUナンバリング)からなる群から選択される1つまたは複数の変異を有する。他方のFcは、S354CおよびT366W(全てEUナンバリング)からなる群から選択される一方または両方の変異を有してもよい。いくつかの実施形態において、Fc-B4GALT1融合タンパク質は、配列番号42に記載された配列を有する。いくつかの実施形態において、Fc-ST6GAL1融合タンパク質は、配列番号43に記載された配列を有する。
【0087】
いくつかの実施形態において、グリコシル化酵素の酵素内腔ドメイン、可溶性ドメイン、または触媒ドメインは、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4の一部または全部に融合されてもよい。いくつかの実施形態において、グリコシル化酵素の酵素内腔ドメイン、可溶性ドメイン、または触媒ドメインは、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4のFc部分に融合されてもよい。いくつかの実施形態において、Fc部分はIgG3のFcである。
【0088】
所望の特異性を有するインタクトな抗体がグリコシル化酵素に融合され、酵素の特異的標的化を可能にしてもよい。さらに、類似のタンパク質融合物が、イヌ/ネコ/ウマ/ウシの同等/相同抗体またはグリコシル化酵素を使用して生成され、ヒト以外の動物(例えば、ペットおよび家畜)の処置を可能にしてもよい。
【0089】
単量体、二量体、三量体、および四量体
例示的な単量体を図15Aに示す。図15Aに示すように、単量体は、グリコシル化酵素(例えば、シアル酸転移酵素またはガラクトシル転移酵素)の酵素内腔ドメイン、可溶性ドメイン、または触媒ドメインであってもよい。
【0090】
多量体が、当技術分野で公知の任意の方法によって生成されてもよい。いくつかの実施形態において、多量体は、グリコシル化酵素の1つ、2つ、3つ、4つの、または4つを超える酵素内腔ドメイン、可溶性ドメイン、または触媒ドメインを有してもよい。いくつかの実施形態において、多量体は、シアル酸転移酵素の1つ、2つ、3つ、4つの、または4つを超える酵素内腔ドメイン(または触媒ドメイン)を有してもよい。いくつかの実施形態において、多量体は、ガラクトシル転移酵素の1つ、2つ、3つ、4つの、または4つを超える酵素内腔ドメイン(または触媒ドメイン)を有してもよい。
【0091】
いくつかの実施形態において、多量体は二量体であってもよい(例えば、FcB4、FcST6、およびFcChm)。
【0092】
多量体はまた、三量体、または四量体でもあってもよい。三量体、および四量体は、それぞれ、内腔酵素部分または可溶性部分を、例えば、コラーゲン様ペプチド足場(Gly-Pro-Pro)×10、またはビオチン化部位に融合させて生成することができる。図15C~15Dに示すように、グリコシル化酵素の可溶性部分は、コラーゲン三量体化ドメインに融合させて三量体として(図15C)、またはビオチンリガーゼ認識部位を含め、ビオチンリガーゼを用いて融合物をビオチン化し、その後ストレプトアビジンとインキュベートして四量体として(図15D)改変されてもよい。図15C~15Dでは、多量体はヘテロ多量体として描かれているが、必要に応じてホモ多量体として作製することもできる。多価タンパク質結合剤を作製する詳細な方法は、例えば、その全体が参照により組み込まれるFan, Chia-Yu, et al. " Production of multivalent protein binders using a self-trimerizing collagen-like peptide scaffold." The FASEB Journal 22.11 (2008): 3795-3804に記載されている。
【0093】
部位特異的糖鎖改変
可溶性ゴルジ酵素は全身で見出されるが、明確な解剖学的位置へとこれらの酵素を選択的に標的化する能力がより望ましい適用および状況がある。いくつかの適当な場合において、酵素内腔ドメインまたは触媒ドメインは、完全長抗体-酵素コンジュゲートを生じるように免疫グロブリン(例えば、抗体、または一本鎖可変断片)に結合されてもよい。
【0094】
単一の天然IgG抗体は、軽鎖の2つの同一のコピーおよび重鎖の2つの同一のコピーを含む。各々が1個の可変ドメイン(または可変領域、VH)および3個の定常ドメイン(または定常領域、CH1、CH2、CH3)を含有する重鎖は、その定常ドメイン内のジスルフィド結合を介して互いに結合して抗体の「幹」を形成する。各々が1個の可変ドメイン(または可変領域、VL)および1個の定常ドメイン(または定常領域、CL)を含有する軽鎖は、各々がジスルフィド結合を介して1つの重鎖に結合する。各軽鎖の可変領域は、これが結合している重鎖の可変領域と整列される。断片抗原結合(Fab)断片は、抗原に結合する抗体の領域である。該断片は、重鎖および軽鎖の各々の1個の定常領域および1個の可変領域からなる。断片結晶性領域(Fc領域)は、Fc受容体と呼ばれる細胞表面受容体および補体系のいくつかのタンパク質と相互作用する抗体の尾部領域である。この特性により、抗体は免疫系を活性化できるようになる。
【0095】
IgGにおいて、Fc領域は、抗体の2つの重鎖の第2および第3の定常領域に由来する、2つの同一のタンパク質断片からなる。
【0096】
FcまたはFabの定常C末端への融合は、特異的適用に依存するであろう(図16A~16B)。同様に、完全長免疫グロブリンで使用される可変領域配列は、免疫グロブリン結合グリコシル化酵素を局在化させる能力によって選択されるであろう。可変領域配列の基準は、融合された酵素が標的グリカンを修飾するためにすぐ近くにくるように、目的とするグリコシル化部位に隣接して位置するモチーフを認識することを含むであろう。また、グリカンに直接結合する、またはグリカンの接近性をブロックする可変領域配列は避けられるであろう。最後に、Fc部分は、所望の抗体依存性エフェクター機能を誘発するように改変されてもよい(図16A)。例えば、感染病原体を標的化するグリコシル化酵素の場合、抗体依存性細胞傷害(ADCC)の増強を示すFcが有効であり得る。対照的に、異種移植片移植を含む他の適用のためのグリコシル化酵素-融合物は、ADCCの能力がないFcを含有するであろう。
【0097】
図16A~16Bに示すように、酵素融合物は、目的とする免疫グロブリン可変鎖および定常鎖を使用して生成することができる。酵素は、適用に応じてFcまたは定常FabのC末端に融合され得る。Fabは、意図されたグリカンに十分に近いグリコシル化酵素に結合するその特異性、能力について選択される。Fcは、所望の免疫グロブリンエフェクター機能を誘発する、または誘発しないように改変されてもよい。
【0098】
いくつかの実施形態において、本開示は、ヘテロ多量体を提供する。ヘテロ多量体は、抗体またはその抗体断片、シアル酸転移酵素の酵素内腔ドメイン(または触媒ドメイン)、および/またはガラクトシル転移酵素の酵素内腔ドメイン(または触媒ドメイン)を含む。いくつかの実施形態において、抗体またはその抗体断片は、2つの重鎖、および2つの軽鎖を有する。シアル酸転移酵素の酵素内腔ドメイン(または触媒ドメイン)は、重鎖または軽鎖のC末端に融合することができる。同様に、ガラクトシル転移酵素の酵素内腔ドメイン(または触媒ドメイン)も、重鎖または軽鎖のC末端に融合することができる。
【0099】
処置方法
本明細書に記載された方法は、IgG介在性障害(例えば、炎症、自己免疫疾患)および臓器移植における抗体介在性損傷を処置するための方法を含む。いくつかの実施形態において、障害は、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、多発性硬化症、全身性ループスエリテマトーデス、関節リウマチ、慢性炎症性脱髄性ニューロパチー、シェーグレン症候群、および多発血管炎性肉芽腫症(ウェゲナー肉芽腫症)等などの自己免疫疾患である。これらの自己免疫疾患は、例えば、Dal, Mehmet Sinan, et al. "Assessment of the underlying causes of the immune thrombocytopenia: Ten years experience." JPMA. The Journal of the Pakistan Medical Association 67.7 (2017): 1004;Prineas, John W., and John DE Parratt. "Multiple sclerosis: Serum antiCNS autoantibodies." Multiple Sclerosis Journal (2017): 1352458517706037;Bai, Yunqiang, et al. "Self - dsDNA in the pathogenesis of systemic lupus erythematosus." Clinical & Experimental Immunology (2017);Hughes, Graham RV. "Frequency of anti-DNA antibodies in SLE, RA and other diseases: experience with the ammonium sulphate precipitation technique." Scandinavian Journal of Rheumatology 4.supll (1975): 42-51;Fu, S. M., et al. "Autoantibodies and glomerulonephritis in systemic lupus erythematosus." Lupus 12.3 (2003): 175-180;Tan, EngM. "Autoantibodies and autoimmunity: A three - decade perspective. A tribute to Henry G Kunkel." Annals of the New York Academy of Sciences 815.1 (1997): 1-14;Querol et al., "Autoantibodies in chronic inflammatory neuropathies: diagnostic and therapeutic implications." Nat Rev Neurol. 2017 Sep ; 13 (9): 533-547に記載され、それらの各々は、その全体が本明細書に参照により組み込まれる。
【0100】
一般的に、方法は、グリコシル化酵素の酵素内腔ドメインもしくは触媒ドメインを含むもしくはからなる薬剤(例えば、融合タンパク質またはペプチド)、多量体(例えば、FcB4、FcST6、FcChm)、または本明細書に記載される組成物の治療的に有効な量を、そのような処置を必要とする、またはそのような処置を必要とすると判断された対象に投与するステップを含む。
【0101】
この文脈で使用される場合、「処置する(treat)」は、障害または疾患の少なくとも1つの症状を改善することを意味する。多くの場合、処置は症状の改善をもたらす。いくつかの実施形態において、処置は炎症の低減をもたらすことができる。いくつかの実施形態において、臨床症状の1つもしくは複数が改善もしくは低減され、持続期間が短縮され、症状の発生頻度が低減され、または臨床症状の出現が予防される(すなわち、症状のリスクが低減される)。
【0102】
本明細書で使用される場合、用語「対象」および「患者」は、本明細書全体を通じて互換的に使用され、本発明の方法による処置が提供される動物、ヒトまたはヒト以外、例えば、哺乳動物を表す。獣医学的および非獣医学的用途が本発明によって企図される。ヒト患者は、成人または若年者(例えば、18歳未満のヒト)であってもよい。ヒトに加えて、患者には、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、フェレット、ネコ、イヌ、および霊長類が含まれるが、これらに限定されない。例えば、ヒト以外の霊長類(例えば、サル、チンパンジー、ゴリラ等)、げっ歯類(例えば、ラット、マウス、スナネズミ、ハムスター、フェレット、ウサギ)、ウサギ類、ブタ(swine)(例えば、ブタ(pig)、ミニブタ)、ウマ、イヌ、ネコ、ウシ、ならびに他の飼育動物、家畜、および動物園動物が含まれる。故に、本明細書に記載されるグリコシル化酵素、抗体、またはその一部(例えば、抗体のFc領域またはグリコシル化酵素の触媒ドメイン)は、これらのヒト以外の動物にも由来してもよい。本開示は、さらに、これらのヒト以外の動物のいくつかに由来するグリコシル化酵素、および抗体またはその一部のアミノ酸配列を提供する。例えば、図23は、イヌIgG重鎖A、イヌIgG重鎖B、イヌIgG重鎖C、イヌIgG重鎖D、イヌST6GAL1、およびイヌB4GALT1のアミノ酸配列を列挙する。図24は、ネコIgG1a重鎖、ネコIgG1b重鎖、ネコST6GAL1、およびネコB4GALT1のアミノ酸配列を列挙する。図25は、ウシIgG1重鎖定常領域、ウシIgG2重鎖定常領域、ウシIgG3重鎖定常領域、ウシST6GAL1、およびウシB4GALT1のアミノ酸配列を列挙する。図26は、ウマIgG1重鎖定常領域、ウマIgG2重鎖定常領域、ウマIgG3重鎖定常領域、ウマIgG4重鎖定常領域、ウマIgG5重鎖定常領域、ウマIgG6重鎖定常領域、ウマST6GAL1、およびウマB4GALT1のアミノ酸配列を列挙する。
【0103】
いくつかの実施形態において、対象は、年齢が25歳以上、30歳以上、40歳以上、50歳以上、60歳以上、70歳以上、または80歳以上のヒト(例えば、男性または女性)である。
【0104】
本明細書で使用される場合、互換的に使用され、用量または量に適用される用語「治療的に有効な(therapeutically effective)」および「有効量(effective amount)」は、それを必要とする対象に投与したときに所望の活性をもたらすのに十分な、組成物、化合物または医薬製剤の量を指す。本開示の文脈内において、用語「治療的に有効な」は、十分な量の組成物、化合物または医薬製剤が、本明細書に記載される障害の少なくとも1つの症状または1つの状態を低減または排除できることを指す。
【0105】
IgG介在性障害
本明細書で使用される場合、用語「IgG介在性障害」は、IgGのレベルの増加または活性の増加によって引き起こされるまたは特徴付けられる任意の障害を指す。したがって、IgGの活性を阻害することがIgG介在性障害に対する処置となる場合が多い。IgG介在性障害には、炎症、および様々な自己免疫疾患が含まれるが、これらに限定されない。
【0106】
実際に、IgGは、炎症を抑制するために臨床で広く使用されている。静脈内免疫グロブリン(IVIG)は、何万人もの健康なドナーに由来するポリクローナル単量体IgGの治療用製剤である。IgGは、抗体補充療法として400~600mg/kgで免疫低下患者に与えられる。1981年、自己抗体が血小板を標的化する自己免疫疾患(免疫介在性血小板減少症、ITP)を患う小児患者に、IVIGが高用量(1~2g/kg)で投与された。処置は血小板数を正常まで回復させ、患者に一時的な緩和をもたらした(Imbach, P. et al. Lancet 1, 1228-1231 (1981))。それ以来、IVIGは、自己免疫疾患ITP、多発性硬化症、全身性ループスエリテマトーデスを含む多くの疾患を処置するための、および固形臓器移植のための抗炎症療法として日常的に使用されている(例えば、Fillit, H. Lancet Neurol 3, 704 (2004);Fillit, H., Hess, G., Hill, J., Bonnet, P. & Toso, C. Neurology 73, 180-185 (2009);Hack, C.E. & Scheltens, P. J Neurol Neurosurg Psychiatry 75, 1374-1375 (2004);Ishii, N., Hashimoto, T., Zillikens, D. & Ludwig, R.J. Clin Rev Allergy Immunol 38, 186-195 (2010);Nimmerjahn, F. & Ravetch, J.V. Annu Rev Immunol 26, 513-533 (2008)を参照)。
【0107】
IgGの用量依存的な炎症促進性作用および抗炎症作用を支配する機構は、広く研究されてきた(Clynes, R. Curr Opin Immunol 19, 646-651 (2007);Schwab, I. & Nimmerjahn, F. Nat Rev Immunol 13, 176-189 (2013))。IgGからのFcグリカンの除去は、IgGの抗炎症活性を駆動する機構の解明に役立った(Kaneko, Y., Nimmerjahn, F. & Ravetch, J.V. Science 313, 670-673 (2006))。脱グリコシル化IVIGは、関節リウマチモデルにおいて炎症を抑制することができなかった。さらに、Fcグリカンから末端シアル酸を除去するためにノイラミニダーゼで処置されたIVIGもまた抗炎症活性を示さなかった。故に、IgG Fcグリカン組成、特に末端シアル酸は、IgGの抗炎症活性に関与している。さらに、シアリル化IgG Fcは、IVIGより30倍低い用量で抗炎症活性を示した。
【0108】
したがって、本開示に記載された方法は、様々なIgG介在性障害(例えば、炎症、自己免疫疾患)を処置するのに使用することができる。
【0109】
別の態様において、本開示に記載された方法は、IVIGによって処置され得る任意の疾患または障害を処置するのに使用されてもよい。これらの疾患または障害には、炎症、自己免疫疾患、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、多発性硬化症、全身性ループスエリテマトーデス、およびアルツハイマー病が含まれるが、これらに限定されない。
【0110】
いくつかの実施形態において、方法は、IgG介在性障害を有する対象を特定するステップ、および対象に、任意のポリペプチド、多量体、または本開示で記載される組成物を対象に投与するステップを含む。
【0111】
炎症
炎症は、有害な刺激に対する身体組織の複雑な生物学的応答の一部である。炎症の機能は、細胞傷害のそもそもの原因を排除し、最初の損傷および炎症プロセスで傷つけられた壊死細胞および組織を取り除き、組織修復を開始することである。しかし、いくつかの場合において、炎症は身体に害を及ぼし得る。上記に論じたように、炎症は抗体によって媒介される場合が多い。したがって、本明細書に記載された方法は、炎症を処置、阻害、低減、または制御するのに使用されてもよい。
【0112】
自己免疫疾患
自己免疫疾患は、正常な身体部分に対する異常な免疫応答から生じる状態である。自己免疫疾患は、IgGの異常な機能によって媒介される場合が多いことから、故に本開示に記載された方法は、様々な自己免疫疾患を処置するのに使用することができる。自己免疫疾患は、主要組織(例えば、心臓、腎臓、肝臓、肺、皮膚、および生殖器)、腺(例えば、副腎、膵臓、甲状腺、および唾液腺)、消化器系、血液、結合組織、筋肉、神経系、眼、耳、脈管系等に影響を与え得る。いくつかの一般的な自己免疫疾患には、セリアック病、1型糖尿病、グレーブス病、炎症性腸疾患、多発性硬化症、乾癬、関節リウマチ、および全身性ループスエリテマトーデスが含まれる。
【0113】
本開示に記載された方法によって処置することができる自己免疫疾患のリストには、アジソン病、ガンマグロブリン血症、円形脱毛症、アミロイドーシス、強直性脊椎炎、抗gbm/抗tbm腎炎、抗リン脂質症候群、自己免疫肝炎、自己免疫性内耳疾患、軸索型&神経型ニューロパチー、ベーチェット病、水疱性類天疱瘡、キャッスルマン病、セリアック病、シャーガス病、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー、慢性再発性多巣性骨髄炎、チャーグストラウス、瘢痕性類天疱瘡/良性粘膜類天疱瘡、コーガン症候群、寒冷凝集素症、先天性心ブロック、コクサッキー心筋炎、CREST症候群、クローン病、疱疹状皮膚炎、皮膚筋炎、デビック病(視神経脊髄炎)、円板状ループス、全身性ループスエリテマトーデス、ドレスラー症候群、子宮内膜症、好酸球性食道炎(EoE)、好酸球性筋膜炎、結節性紅斑、本態性混合型クリオグロブリン血症、エバンス症候群、線維筋痛症、線維性肺胞炎、巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)、巨細胞性心筋炎、糸球体腎炎、グッドパスチャー症候群、多発血管炎性肉芽腫症、グレーブス病、ギランバレー症候群、橋本甲状腺炎、溶血性貧血、ヘノッホシェーンライン紫斑病、妊娠ヘルペスまたは妊娠性類天疱瘡、低ガンマグロブリン血症、IgA腎症、IgG4関連硬化性疾患、封入体筋炎、間質性膀胱炎、若年性関節炎、若年性糖尿病(1型糖尿病)、若年性筋炎、川崎病、ランバート-イートン症候群、白血球破砕性血管炎、扁平苔癬、硬化性苔癬、木質性結膜炎、線状IgA病、ループス、慢性ライム病、メニエール病、顕微鏡的多発血管炎、混合性結合組織疾患、モーレン潰瘍、ムッハ-ハーベルマン病、多発性硬化症、重症筋無力症、筋炎、ナルコレプシー、視神経脊髄炎、好中球減少症、眼部瘢痕性類天疱瘡、視神経炎、回帰性リウマチ、PANDAS(Pediatric Autoimmune Neuropsychiatric Disorders Associated with Streptococcus(レンサ球菌感染性小児自己免疫神経精神障害))、傍腫瘍性小脳変性症、発作性夜間血色素尿症、パリー-ロンベルグ症候群、周辺部ブドウ膜炎(周辺性ブドウ膜炎)、パーソネージ-ターナー症候群、天疱瘡、末梢性ニューロパチー、静脈周囲脳脊髄炎(perivenous encephalomyelitis)、悪性貧血、POEMS症候群(polyneuropathy、organomegaly、endocrinopathy、monoclonal gammopathy、skin changes(多発ニューロパチー、臓器腫大、内分泌障害、単クローン性免疫グロブリン血症、皮膚症状))、結節性多発動脈炎、リウマチ性多発筋痛、多発性筋炎、心筋梗塞後症候群、心膜切開後症候群、原発性胆汁性肝硬変、原発性硬化性胆管炎、プロゲステロン皮膚炎、乾癬、乾癬性関節炎、赤芽球癆、壊疽性膿皮症、レイノー現象、反応性関節炎、反射性交感神経性ジストロフィー、関節リウマチ、ライター症候群、再発性多発性軟骨炎、下肢静止不能症候群、後腹膜線維症、リウマチ熱、関節リウマチ、サルコイドーシス、シュミット症候群、強膜炎、強皮症、シェーグレン症候群、精液精巣自己免疫(sperm & testicular autoimmunity)、全身硬直症候群、亜急性細菌性心内膜炎、スザック症候群、交感性眼炎、高安動脈炎、側頭動脈炎/巨細胞動脈炎、血小板減少性紫斑病(例えば、特発性血小板減少性紫斑病)、トロサ-ハント症候群、横断性脊髄炎、1型糖尿病、潰瘍性大腸炎、未分化結合組織病、ブドウ膜炎、血管炎、白斑、ウェゲナー肉芽腫症(現在は多発血管炎性肉芽腫症と呼ばれる)が含まれるが、これらに限定されない。
【0114】
いくつかの場合において、自己免疫疾患は、後天性自己免疫障害である。例えば、HIV感染は、いくつかの臓器系および組織に対する損傷につながる免疫系の破壊を引き起こし得る。故に、1つの態様において、本開示に記載された方法は、後天性自己免疫障害を処置するのに使用することができる。
【0115】
固形臓器移植
移植拒絶反応は、移植された組織がレシピエントの免疫系によって拒絶されるときに起こり、移植された組織を破壊する。移植拒絶反応は、抗体介在性傷害を伴う場合が多い。移植における抗体の役割は、例えば、その全体が参照により組み込まれるHourmant et al. "Frequency and clinical implications of development of donor-specific and non-donor-specific HLA antibodies after kidney transplantation." Journal of the American Society of Nephrology 16.9 (2005): 2804-2812に記載されている。故に、1つの態様において、本開示に記載された方法は、移植拒絶反応を処置もしくは制御する(例えば、抗体介在性傷害を低減または最小限にする)、または移植片対宿主病を処置するのに使用することができる。いくつかの実施形態において、移植臓器は、心臓、腎臓、肝臓、肺、膵臓、腸、皮膚、または胸腺である。
【0116】
ワクチン接種改善
ワクチンは、免疫系を刺激して病原体抗原に特異的な抗体を生成することができる。研究は、フィードフォワード機構を通じて、ワクチン抗原に特異的なシアリル化抗体が、高度に特異的な高親和性抗体の生成をもたらすことを示した。この機構は、例えば、Wang, Taia T., et al. "Anti-HA glycoforms drive B cell affinity selection and determine influenza vaccine efficacy." Cell 162.1 (2015): 160-169に記載されている。故に、本明細書に記載された方法は、ワクチン抗原に特異的なシアリル化抗体を生成し、最終的に病原体抗原に対する高度に特異的な高親和性抗体を産生するために、標準的なワクチン接種と併せて使用することもできる。
【0117】
いくつかの実施形態において、方法は、ポリペプチド、多量体(例えば、FcB4、FcST6、および/またはFcChm)、または本明細書に記載される組成物の治療的に有効な量を、対象がワクチンを投与される前、投与中、または投与された後で、対象に投与するステップを含む。いくつかの実施形態において、ワクチンおよびポリペプチド、多量体(例えば、FcB4、FcST6、および/またはFcChm)を含む組成物、または本明細書に記載される組成物が対象に投与される。
【0118】
発現系
本明細書に記載される融合タンパク質またはペプチドを使用するために、それらをコードする核酸からそれらを発現させることが望ましい場合がある。これは、様々な方法で行うことができる。例えば、融合タンパク質またはペプチドをコードする核酸が、複製および/または発現のために原核細胞または真核細胞に形質転換するための中間ベクターにクローニングされてもよい。中間ベクターは、典型的には、産生のための融合タンパク質またはペプチドをコードする核酸を貯蔵または操作するための、原核生物ベクター、例えば、プラスミド、またはシャトルベクター、または昆虫ベクターである。融合タンパク質またはペプチドをコードする核酸はまた、植物細胞、動物細胞(好ましくは哺乳動物細胞またはヒト細胞)、真菌細胞、細菌細胞、または原生動物細胞への投与のために、発現ベクターにクローニングすることもできる。
【0119】
発現を得るために、融合タンパク質またはペプチドをコードする配列は、転写を指示するためのプロモーターを含有する発現ベクターに典型的にはサブクローニングされる。適切な細菌および真核生物プロモーターは当技術分野で周知であり、例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning, A Laboratory Manual (3d ed. 2001);Kriegler, Gene Transfer and Expression: A Laboratory Manual (1990);およびCurrent Protcols in Molecular Biology (Ausubel et al., eds., 2010)に記載されている。改変タンパク質を発現させるための細菌発現系は、例えば、大腸菌(E. coli)、桿菌属種(Bacillus sp.)、およびサルモネラ属(Salmonell)において利用可能である(Palva et al., 1983、Gene 22:229-235)。そのような発現系用のキットが市販されている。哺乳動物細胞、酵母、および昆虫細胞用の真核生物発現系は当技術分野で周知であり、同様に市販されている。いくつかの実施形態において、融合タンパク質およびペプチドは、本開示で記載される融合タンパク質およびペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むベクターを用いた、HEK-293T細胞、Expi293細胞、またはCHO細胞のトランスフェクションによって発現される。
【0120】
核酸の発現を指示するのに使用されるプロモーターは、特定の適用に依存する。例えば、強い構成的プロモーターは、典型的には融合タンパク質の発現および精製に使用される。対照的に、融合タンパク質またはペプチドをコードするベクターがインビボで投与される場合、構成的プロモーターまたは誘導性プロモーターのいずれかが特定のニーズに応じて使用され得る。いくつかの実施形態において、融合タンパク質またはペプチドをコードするベクターを投与するためのプロモーターは、HSV TKまたは類似の活性を有するプロモーターなどの弱いプロモーターであってもよい。プロモーターはまた、トランス活性化に応答性であるエレメント、例えば、低酸素応答エレメント、Gal4応答エレメント、lacリプレッサー応答エレメント、ならびにテトラサイクリン調節系およびRU-486系などの小分子制御系を含むこともできる(例えば、Gossen & Bujard, 1992, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89:5547;Oligino et al., 1998, Gene Ther., 5:491-496;Wang et al., 1997, Gene Ther., 4:432-441;Neering et al., 1996, Blood, 88:1147-55;およびRendahl et al., 1998, Nat. Biotechnol., 16:757-761を参照)。
【0121】
プロモーターに加えて、発現ベクターは、典型的には、原核細胞または真核細胞のいずれかの宿主細胞における核酸の発現に必要とされる全ての追加のエレメントを含有する転写単位または発現カセットを含有する。典型的な発現カセットは、故に、例えば、融合タンパク質またはペプチドをコードする核酸配列に作動可能に連結されたプロモーター、および例えば、転写物の効率的なポリアデニル化、転写終結、リボソーム結合部位、または翻訳終結に必要とされる任意のシグナルを含有する。カセットの追加のエレメントは、例えば、エンハンサー、および異種スプライシングイントロンシグナルを含んでもよい。
【0122】
遺伝子情報を細胞に輸送するのに使用される特定の発現ベクターは、意図された用途、例えば、植物、動物、細菌、真菌、原生動物等での発現に関して選択される。標準的な細菌発現ベクターには、pBR322ベースのプラスミド、pSKF、pET23Dなどのプラスミド、ならびにGSTおよびLacZなどの市販のタグ融合発現系が含まれる。
【0123】
真核生物ウイルス由来の調節エレメントを含有する発現ベクターは、真核生物発現ベクター、例えば、SV40ベクター、パイローマウイルスベクター、およびエプスタイン-バーウイルスに由来するベクターで使用される場合が多い。他の例示的な真核生物ベクターには、pMSG、pAV009/A+、pMTO10/A+、pMAMneo-5、バキュロウイルスpDSVE、およびSV40初期プロモーター、SV40後期プロモーター、メタロチオネインプロモーター、マウス乳腺腫瘍ウイルスプロモーター、ラウス肉腫ウイルスプロモーター、ポリヘドリンプロモーター、または真核細胞での発現に有効であることが示された他のプロモーターの指示下でタンパク質の発現を可能にする任意の他のベクターが含まれる。
【0124】
融合タンパク質またはペプチドを発現するベクターは、ガイドRNAの発現を駆動するRNA Pol IIIプロモーター、例えば、H1、U6または7SKプロモーターを含んでもよい。これらのヒトプロモーターは、プラスミドトランスフェクション後に哺乳動物細胞での融合タンパク質またはペプチドの発現を可能にする。
【0125】
いくつかの発現系は、安定にトランスフェクトされた細胞株を選択するための、チミジンキナーゼ、ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ、およびジヒドロ葉酸レダクターゼなどのマーカーを有する。ポリヘドリンプロモーターまたは他の強いバキュロウイルスプロモーターの指示下でコード配列を有する、昆虫細胞でのバキュロウイルスベクターの使用などの、高収率発現系もまた適している。
【0126】
典型的には発現ベクターに含まれるエレメントには、大腸菌(E. coli)で機能するレプリコン、組換えプラスミドを内部に持つ細菌の選択を可能にする抗生物質耐性をコードする遺伝子、および組換え配列の挿入を可能にするプラスミドの非必須領域中の固有の制限部位も含まれる。
【0127】
標準的なトランスフェクション方法を使用して大量のタンパク質を発現する細菌、哺乳動物、酵母または昆虫細胞株を作製し、次いで標準的な手法を使用して該細胞株が精製される(例えば、Colley et al., 1989, J. Biol. Chem., 264: 17619-22; Guide to Protein Purification, in Methods in Enzymology, vol. 182 (Deutscher, ed., 1990)を参照)。真核細胞および原核細胞の形質転換は、標準的な手法に従って行われる(例えば、Morrison, 1977, J. Bacteriol. 132:349-351;Clark-Curtiss & Curtiss, Methods in Enzymology 101:347-362 (Wu et al., eds, 1983)を参照)。
【0128】
外来ヌクレオチド配列を宿主細胞に導入するためのあらゆる公知の手順が使用され得る。これらには、リン酸カルシウムトランスフェクション、ポリブレン、プロトプラスト融合、エレクトロポレーション、ヌクレオフェクション、リポソーム、マイクロインジェクション、裸のDNA、プラスミドベクター、ウイルスベクター(エピソームおよび組み込みの両方)、およびクローン化ゲノムDNA、cDNA、合成DNAまたは他の外来遺伝子物質を宿主細胞に導入するためのあらゆる他の周知の方法の使用が含まれる(例えば、Sambrook et al.、上記を参照)。必要なのは、使用される特定の遺伝子工学的手順により、融合タンパク質またはペプチドを発現することができる宿主細胞に少なくとも1つの遺伝子を成功裏に導入できることのみである。
【0129】
本開示はまた、例えば、本明細書に記載された様々な方法において使用するための、ベクターおよびベクターを含む細胞、ならびに本明細書に記載されたタンパク質および核酸を含むキットも含む。
【0130】
投与量
「有効量」は、有益なまたは所望の結果を達成するのに十分な量である。例えば、治療量は、所望の治療効果を達成するものである。この量は、疾患または疾患症状の発症を防ぐために必要な量である、予防的に有効な量と同じまたは異なっていてもよい。有効量は、1つまたは複数の投与、適用または投与量で投与することができる。ポリペプチド、多量体(例えば、FcB4、FcST6、FcChm)、または組成物(すなわち、有効投与量)の治療的に有効な量は、選択されるポリペプチド、多量体、または組成物に依存する。組成物は、1日1回~1回以上から、週に1回または複数回(1日おきを含む)投与されてもよい。当業者は、疾患または障害の重症度、以前の処置、対象の全般的健康および/または年齢、ならびに存在する他の疾患を含むがこれらに限定されない特定の要因が、対象を効果的に処置するために必要とされる投与量およびタイミングに影響を与え得ることを理解するであろう。さらに、ポリペプチド、多量体、または本明細書に記載された組成物の治療的に有効な量を用いた対象の処置は、単回処置または一連の処置を含み得る。
【0131】
ポリペプチド、多量体、または組成物の投与量、毒性および治療有効性は、例えば、LD50(集団の50%に致死的な用量)およびED50(集団の50%において治療的に有効な用量)を決定するために、細胞培養物または実験動物における標準的な薬学的手順によって決定することができる。毒性効果と治療効果の間の用量比は治療的指標であり、比LD50/ED50として表すことができる。高い治療指標を示すポリペプチド、多量体、または組成物が好ましい。毒性の副作用を示すポリペプチド、多量体、または組成物が使用されてもよいが、非感染細胞への潜在的な損傷を最小限にし、それによって副作用を低減するために、患部組織部位にポリペプチド、多量体、または組成物を標的化する送達系を設計するように注意が払われるべきである。
【0132】
細胞培養アッセイおよび動物試験から得られたデータは、ヒトで使用するための投与量の範囲を策定する上で使用することができる。ポリペプチド、多量体、または組成物の投与量は、好ましくは、毒性がほとんどないまたはないED50を含む血中濃度の範囲内にある。投与量は、使用される投与形態および利用される投与経路に応じて、この範囲内で変わり得る。本開示で記載される方法において使用される任意のポリペプチド、多量体、または組成物に関して、治療的に有効な用量は、細胞培養アッセイから最初に推定することができる。細胞培養で決定されるIC50(すなわち、症状の最大阻害の半分を達するテストポリペプチド、多量体、または組成物の濃度)を含む循環血漿濃度範囲を達成するために、用量が動物モデルで策定されてもよい。そのような情報は、ヒトでの有用な用量をより正確に決定するのに使用することができる。血漿中レベルは、例えば、高速液体クロマトグラフィーによって測定されてもよい。
【0133】
医薬組成物および投与方法
本明細書に記載された方法は、本開示で記載される任意のポリペプチドまたは多量体(例えば、FcB4、FcST6、および/またはFcChm)を活性成分として含む医薬組成物の使用、および組成物それ自体を含む。いくつかの実施形態において、組成物は、FcB4、FcST6、およびFcChmを含む。
【0134】
医薬組成物は、典型的には、薬学的に許容される担体を含む。本明細書で使用される場合、語「薬学的に許容される担体」には、薬学的投与と適合する生理食塩水、溶媒、分散媒、コーティング剤、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤等が含まれる。
【0135】
医薬組成物は、典型的には、その意図された投与経路と適合するように製剤化される。投与経路の例には、非経口、例えば、静脈内、皮内、皮下、経口(例えば、吸入)、経皮(局所)、経粘膜、および直腸投与が含まれる。
【0136】
適切な医薬組成物を製剤化する方法は、当技術分野で公知であり、例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 21st ed., 2005;およびシリーズDrugs and the Pharmaceutical Sciences: a Series of Textbooks and Monographs (Dekker, NY)中の本を参照。例えば、非経口、皮内、または皮下適用に使用される溶液または懸濁液は、以下の成分を含み得る:注射用の水、生理食塩水、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールまたは他の合成溶媒などの滅菌希釈剤;ベンジルアルコールまたはメチルパラベンなどの抗菌剤;アスコルビン酸または亜硫酸水素ナトリウムなどの抗酸化剤;エチレンジアミン四酢酸などのキレート剤;酢酸塩、クエン酸塩またはリン酸塩などの緩衝液、および塩化ナトリウムまたはデキストロースなどの浸透圧調整剤。pHは、塩酸または水酸化ナトリウムなどの酸または塩基を用いて調整することができる。非経口調製物は、ガラスまたはプラスチック製のアンプル、使い捨てシリンジまたは複数用量バイアルに封入されてもよい。
【0137】
注射用途に適した医薬組成物には、滅菌水溶液(水溶性の場合)または分散液、および滅菌注射溶液または分散液の即時調製用の滅菌粉末が含まれ得る。静脈内投与に関して、適切な担体には、生理食塩水、静菌水、Cremophor EL(商標)(BASF、Parsippany、NJ)またはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)が含まれる。全ての場合において、組成物は滅菌されていなければならず、容易に注射できる程度に流動的であるべきである。組成物は、製造および貯蔵の条件下で安定であるべきであり、細菌および真菌などの微生物の汚染作用から保護されなければならない。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコール等)、およびそれらの適切な混合物を含有する溶媒または分散媒であってもよい。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティング剤の使用、分散液の場合には必要とされる粒径の維持、および界面活性剤の使用によって維持することができる。微生物の作用の予防は、様々な抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサール等によって達成することができる。多くの場合において、等張剤、例えば、糖、多価アルコール(マンニトール、ソルビトールなど)、塩化ナトリウムを組成物中に含むことが好ましいであろう。注射用組成物の持続的吸収は、吸収を遅らせる薬剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを組成物に含めることによってもたらされ得る。
【0138】
滅菌注射溶液は、必要に応じて、上記に列挙された成分の1つまたは組み合わせと共に、本開示で記載されるポリペプチド、多量体、または組成物を必要量で適当な溶媒に組み込み、その後濾過滅菌することによって調製することができる。一般的に、分散液は、塩基性分散媒および上記に列挙された成分からの必要とされる他の成分を含有する滅菌ビヒクルに、ポリペプチド、多量体、または組成物を組み込むことによって調製される。滅菌注射溶液を調製するための滅菌粉末の場合、好ましい調製方法は、前もって滅菌濾過されたその溶液から活性成分プラス任意の追加の所望の成分の粉末を産生する、真空乾燥および凍結乾燥である。
【0139】
経口組成物は、一般的に不活性希釈剤または食用担体を含む。経口治療投与の目的のために、活性剤は賦形剤と共に組み込まれてもよく、錠剤、トローチ、またはカプセル、例えば、ゼラチンカプセルの形態で使用されてもよい。経口組成物はまた、口腔洗浄薬として使用するための液体担体を使用して調製することもできる。薬学的に適合する結合剤、および/またはアジュバント材料が組成物の一部として含まれてもよい。錠剤、ピル、カプセル、トローチ等は、以下の成分のいずれか、または類似した性質の薬剤を含有することができる:微結晶性セルロース、トラガントガムまたはゼラチンなどの結合剤;デンプンまたはラクトースなどの賦形剤、アルギン酸、プリモゲル、またはコーンスターチなどの崩壊剤;ステアリン酸マグネシウムまたはステロート(Sterote)などの滑沢剤;コロイド状二酸化ケイ素などの流動促進剤;スクロースまたはサッカリンなどの甘味料;またはペパーミント、サリチル酸メチル、もしくはオレンジ香料などの香味剤。
【0140】
吸入による投与のために、組成物は、適切な噴射剤、例えば、二酸化炭素などのガスを含有する加圧容器もしくはディスペンサー、またはネブライザーからエアロゾルスプレーの形態で送達され得る。そのような方法には、米国特許第6,468,798号明細書に記載されたものが含まれる。
【0141】
いくつかの実施形態において、ポリペプチドまたは多量体は、留置剤およびマイクロカプセル化送達系を含む放出制御製剤などの、身体からの迅速な排除からポリペプチドまたは多量体を保護する担体と共に調製される。エチレン酢酸ビニル、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、およびポリ乳酸などの生分解性、生体適合性ポリマーが使用され得る。そのような製剤は、標準的な手法を使用して調製することができ、または例えば、Alza CorporationおよびNova Pharmaceuticals,Inc.から商業的に入手することができる。リポソーム懸濁液(細胞性抗原に対するモノクローナル抗体を用いて、選択された細胞に標的化されたリポソームを含む)もまた、薬学的に許容される担体として使用され得る。これらは、当業者に公知の方法、例えば、米国特許第4,522,811号明細書に記載された方法に従って調製することができる。
【0142】
医薬組成物は、投与のための説明書と一緒に容器、パック、またはディスペンサーに含まれ得る。
【実施例
【0143】
本発明は、以下の例にさらに記載される。以下の例は、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲を限定するものではない。
【0144】
[実施例1]
IgG抗体のインビボシアリル化は自己免疫疾患を軽減する
内因性IgGのインビボでの糖鎖改変によりIgG介在性炎症を調節する治療効果を決定するために、実験を行った。
【0145】
材料および方法:
グリコシル化酵素-Fc融合物の構築および作製
IL2分泌シグナル配列に先行されたヒトIgG Fc、およびST6GAL1(ベータ-ガラクトシドアルファ-2,6シアル酸転移酵素1)またはB4GALT1(ベータ-1,4-ガラクトシル転移酵素1)の可溶性ドメインを、ヒトIgG Fcが酵素の5’末端に融合されるようにオーバーラップPCRによって結合した。この試験で使用したプライマーのリストを表2に示す。HindIII(AAGCTT)、XhoI(CTCGAG)の制限部位を表に示した。Fc-酵素融合遺伝子を、次いで、製造者のプロトコル(Life Technologies)に従って哺乳動物発現ベクター、pcDNA3.4にTOPOクローン化した。組換えFc-酵素を、Expi293 Expression System Kit(Life Technologies)を使用して、製造者のプロトコルに従ってExpi293細胞へのプラスミドの一過性トランスフェクションによって生成した。B4ST6Fc酵素を、pcDNA3.4/ST6FcおよびpcDNA3.4/B4Fcを1:1比で同時トランスフェクトして作製した。プロテインGアガロースビーズ(Thermo Scientific)を使用して酵素を培養上清から精製し、インビボ注射のためにPBS中で透析した。
【0146】
インビボ動物試験 7~8週齢C57BL/6およびNODマウスをJackson Laboratoryから購入し、Massachusetts General Hospital(MGH)の動物施設で国立衛生研究所(NIH)ガイドラインに従って特定病原体未感染条件下で維持した。C57BL/6バックグラウンド(K/B)のKRN TCRトランスジェニックマウスは、D.MathisおよびC.Benoist(Harvard Medical School、Boston、MA)から寄贈され、NODマウスに交配してK/BxNマウス(Korganow et al., 1999)を生成した。K/BxN血清を以前に記載されているように調製した(Kaneko et al., 2006)。炎症性関節炎をK/BxN血清の静脈内注射によって誘導した(マウス1匹あたり200μLのプールK/BxN血清)。治療的介入実験のために、IVIG(1g/kg)、B4Fc(1.25mg/kgまたは2.5mg/kg)、ST6Fc(1.25mg/kgまたは2.5mg/kg)、B4ST6Fc(2.5mg/kg)、または生理食塩水をK/BxN血清後0日目または3日目に注射した。記載されているように(Kaneko et al., 2006)、関節炎を臨床検査によってスコア化し、全ての四肢の指標を加えた(0=影響なし、1=1つの関節の腫脹、2=1つを超える関節の腫脹、3=肢全体の重度の腫脹)。K/BxN血清注射の前にPBS、IVIG(1g/kg)またはB4ST6Fc(50μg)を1時間注射した。腎毒性腎炎実験のために、マウスを腹腔内経路によりCFA中200μgのヒツジIgG(BioRad)で予備免疫し、その後、4日後にヒツジNTS(Probetex,Inc.)(マウス1グラムあたり2μlの血清)を静脈内注射した。IVIG(1g/kg)、B4ST6Fc(50μg)またはそのビヒクル単独を、ヒツジNTS注射の1時間前に注射した。血清中尿素窒素(BUN)を、修飾ウレアーゼキット(Stanbio Laboratory)を使用して酵素結合平衡方法によって測定した。全ての動物実験は、MGHの所内動物実験委員会に従って実施した。
【0147】
クロピドグレル処置 以前に記載されているように(Pucci et al., 2016)、血小板阻害を10mg/kgクロピドグレル(Selleckchem)の毎日注射によって行った。炎症性関節炎モデルではK/BxN血清の2日前に処置を開始した。腎毒性腎炎モデルでは、ヒツジIgGによる予備免疫の2日後に処置を開始した。処置は3週間継続した。
【0148】
インビトログリコシル化 融合酵素の酵素の活性を、以前に記載されているように(Anthony et al., 2008)インビトロで調べた。簡単には、グリカン受容体タンパク質(フェチュイン、ヒトまたはマウスIgG Fc)を、37℃で終夜、シアリダーゼA(ProZyme)およびβ1,4-ガラクトシダーゼ-S(New England Biolabs,Inc.)で処理して、シアル酸およびガラクトースを除去した。B4FcまたはB4ST6Fcのガラクトシル転移酵素活性を評価するために、アシアリル化、アガラクトシル化グリカン-受容体タンパク質を、2×ガラクトシル化緩衝液(50mM MOPS、20mM MnCl、pH7.2)中37℃で終夜、5mM UDP-ガラクトース(Calbiochem)とインキュベートした。ST6FcまたはB4ST6Fcのシアル酸転移酵素活性を評価するために、アシアリル化糖タンパク質を、シアリル化緩衝液(150mM NaCl、20mM HEPES、pH7.4)中37℃で終夜、5mM CMP-シアル酸(Nacalai tesque)とインキュベートした。
【0149】
ウエスタンおよびレクチンブロット ウエスタンおよびレクチンブロットを以前に記載されているように(Anthony et al., 2008)行った。簡単には、タンパク質の等量を4~12% Bis-Tris SDS-PAGEゲル(Life Technologies)で分離し、次いでポリビニリデンジフルオリド膜に転写した。膜をウエスタンブロット用にPBST(0.05%Tween 20)中5%粉乳でブロックした後、抗ヒトIgG-HRP(20ng/ml、Promega);抗ヒトB4GALT1(100ng/ml、Sigma-Aldrich)と、その後の抗ウサギIgG-HRP(50ng/ml、Promega);または抗ヒトST6GAL1血清(1:100、Dr.J.Paulsonからの寛大な贈り物)と、その後の抗ウサギIgG-HRPのどちらかを使用してタンパク質を検出した。レクチンブロットのために、Protein Free Blocking Buffer(Thermo Fisher Scientific)中で膜をブロックし、ビオチン化Sambucus Nigra Lectin(SNA;5μg/ml、Vector Laboratories)またはビオチン化Erythrina Cristagalli Lectin(ECL;5μg/ml、Vector Laboratories)のどちらかでプローブして、それぞれ末端シアル酸またはガラクトースを検出した。
【0150】
HPLCグリカン分析 完全またはFc特異的N-結合型グリカンを、製造者の説明書に従ってそれぞれPNGaseFまたはEndo S(New England Biolabs,Inc.)を使用して糖タンパク質から放出させた。脱グリコシル化反応を37℃で終夜実行して、グリカンの有効な放出を確実にした。GlykoClean(商標)Gカートリッジ(Prozyme)を使用してグリカンを反応から精製し、乾燥し、2-AB(2-アミノベンズアミド)(Sigma-Aldrich)で蛍光標識した。標識グリカンをGlykoClean(商標)S-プラスカートリッジ(Prozyme)を用いて洗浄し、乾燥し、HPLC分析に供した。グリカン試料を100mMギ酸アンモニウム(pH4.5)に溶解し、AdvanceBioグリカンマッピングカラム2.1×150mm、2.7μmおよび蛍光検出器を備えたAgilent 1260 Infinity Quaternary LCシステムを使用して分離した。生じたピークをOpenLABソフトウェア(Agilent)で分析し、市販のヒトIgG N-結合型グリカンライブラリーのピークを比較してグリコフォームを割り当てた。
【0151】
ヒツジIgG特異的循環IgGレベルの測定 5μg/mLのヒツジIgGでコーティングした96ウェルELISAプレートを、5%ウシ血清アルブミンでブロックした後、1:500希釈血清とインキュベートした。0.05%Tween 20を含有するPBSで洗浄後、プレートをHRPコンジュゲート抗マウスIgG-Fc(Bethyl Laboratories)とインキュベートした。結合IgGの量を3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB;Biolegend)によって評価し、吸光度を2M硫酸の添加後に450nmで測定した。
【0152】
IgG精製のための腎臓および関節ホモジネートの調製 抗GBM抗血清注射後4日目および7日目にマウスを採血した。血清を血清ゲルチューブ(BD)によって血液から分離し、IgG精製のためにプロテインG大容量アガロースビーズ(Thermo Fisher Scientific)とインキュベートした。関節より上でカットした肢および腎臓を解体し、プロテアーゼ阻害剤および2mM EDTAを補充したおよび1mL PBSに懸濁し、小片にカットした後、ステンレススチールビーズおよびTissueLyser II(Qiagen)で2分間、3Hz/sで機械的にホモジナイズした。ホモジネートを、次いで容量の5倍に希釈し(タンパク質阻害剤(Thermo)および2mM EDTAを含むPBS)、70μmメッシュを通して濾過し、1000×gで5分間遠心分離した。上清を使用して、IgGをプロテインG大容量アガロースビーズを用いて精製した。
【0153】
組織学的検査 足首関節を解体し、固定および脱灰液Cal-Ex II中で48時間~72時間インキュベートし(Fisher Chemical)、パラフィンに包埋した。4μm切片を組織学的分析のためにヘマトキシリン/エオジンで染色した。腎臓を解体し、10%緩衝ホルマリンで固定し、パラフィンに包埋した。光学顕微鏡による分析のために、4μmパラフィン切片を過ヨウ素酸シッフ(PAS)、およびヘマトキシリン/エオジンで染色した。4μm OCT(Tissue-Tek)凍結腎臓切片をアセトンで固定し、記載がある場合は、製造者の説明書に従って、ラット抗マウスCD41-APC(Biolegend)、ラット抗マウスCD62P-PE(Biolegend)、およびヤギ抗マウスネフリン(R&D系)とその後のロバ抗ヤギIgG-AF488(Jackson ImmunoResearch)と組み合わせた、DAPI(Biolegend)またはウサギ抗マウスIgG Fc特異的DyLight405(Jackson ImmunoResearch)で染色した。蛍光顕微鏡(Carl Zeiss)を使用してスライドを調べた。
【0154】
血小板調製 血小板単離、活性化および阻害は、過去の研究(Boilard et al., 2010、Lee et al., 2014)から適合させた。健常者はインフォームドコンセントに同意し、クエン酸ナトリウム緩衝採血チューブ(BD)に全血を採取し、200×gで10分間遠心分離した。上清の多血小板血漿(PRP)を採取し、900×gで5分間さらに遠心分離した。上清の乏血小板血漿を除去した後、ペレット化した血小板を140mM NaCl、3mM KCl、0.5mM MgCl、5mM NaHCO、10mM D-グルコース、10mM HEPES、pH7.4に再懸濁した。0.2Uのトロンビン(Roche)を37℃で5分間使用して血小板活性化を達成した。0.25mgのクロピドグレルを室温で15分間使用して血小板活性化を阻害した。血小板を1000×gで5分間、遠心分離によってペレット化し、血小板上清をUDP-ガラクトースおよびCMP-SAについて定量化した。
【0155】
ヒト血清中のガラクトースおよびシアル酸供与体の定量化 グリカン供与体の定量を、ヒト血小板上清で1つを例外として、シアル酸転移酵素およびグリコシルトランスフェラーゼ活性キットを使用して製造者(R&D systems)によって示されるように行った。濃度をより正確に報告するために、UDP-GalおよびCMP-SAの範囲を使用して標準曲線を生成した。
【0156】
血清半減期実験 50μgのIVIGまたはB4ST6FcをC57BL/6メスマウスに静脈内投与した。マウスを注射後4日までは毎日、10日目までは1日おきに採血した。マウス血清中のIVIGまたはB4ST6FcをELISAによって検出した。簡単には、96ウェルプレートを5μg/mlの抗ヒトIgG Fc(Bethyl Laboratories)でコーティングし、PBS中2% BSAでブロックし、抗ヒトIgG-HRP(20ng/ml、Promega)でプローブした。検出には3,3,5,5-テトラメチルベンジジン(TMB;Thermo Fisher Scientific)を使用し、2M硫酸を使用して反応を停止した。
【0157】
血液検査 50μgのB4ST6Fcをマウスに静脈内注射した。酵素の投与の1週間または2ヶ月後、マウスを採血し、全血球計算および包括的代謝パネル検査のために全血および血清をMGH Histopathology Research Coreへ送った。
【0158】
定量化および統計分析 データをGraphPad Prismで分析した:p<0.05、**p<0.01、***p<0.005、****p<0.001(二元配置ANOVAと、その後のTukeyの事後検定によって決定)。
【0159】
【表1-1】
【0160】
【表1-2】
【0161】
【表2】
【0162】
[実施例2]
可溶性グリコシルトランスフェラーゼの改変
ST6GAL1は、N-結合型グリカンのガラクトースへのα2,6シアル酸の結合を触媒する(Meng et al., 2013)。ST6GAL1によるシアリル化は、グリコシルトランスフェラーゼが膜貫通ドメイン(TMD、図1C)によってアンカーされるトランスゴルジで典型的には生じる。β-セクレターゼ(BACE1)切断部位は、EFQ41~43のST6GAL1の内腔ドメインに存在しており、ST6GAL1分泌をもたらす(図1Cおよび8)(Woodard-Grice et al., 2008)。注目すべきことに、最近の研究により、可溶性ST6GAL1はIgG Fcグリカンのシアリル化に寄与することが示唆されている(Jones et al., 2012、Sugimoto et al., 2007、Jones et al., 2016)。IgG生物学に対するシアリル化の驚くべき効果は、本発明者らがIgGをインビボで糖鎖改変する治療的可能性を探求するきっかけとなった。
【0163】
この目的のために、グリコシル化酵素をヒトIgG1 Fcに融合した。これは、膜タンパク質の可溶型を生成する一般的なアプローチである。アミノ酸配列にEFQ41~43の上流領域を含むFcおよびST6GAL1の融合物を含む発現構築物は、BACE1活性と一致する複数のタンパク質産物をもたらした(図8)。しかし、ST6GAL1の最初の40個のアミノ酸を除き、FcをE41に直接結合した場合、単一の産物が生成された(ST6Fc図1Cおよび8B)。シアリル化効率はガラクトース含量の増加とともに改善するため(Anthony et al., 2008a)、同様のアプローチをIgG Fcグリカンへのガラクトースの結合に関与するB4GALT1酵素に使用した。ヒトIgG1 FcとのB4GALT1内腔ドメインの改変融合物は、単一のタンパク質産物をもたらした(B4Fc図1Cおよび8B)。改変グリコシルトランスフェラーゼは正しい分子量であると判定され、免疫ブロッティングによるB4GALT1、ST6GAL1、およびヒトIgGに特異的な抗体によって認識された(図8D)。
【0164】
糖鎖改変の標的として、高度にグリコシル化されたタンパク質であるフェチュインを使用して、インビトロでの改変酵素の活性を調べた。フェチュインを、シアル酸残基およびガラクトース残基を除去するグリコシダーゼで最初に処理し、アシアリル化、ガラクトシル化(G2)およびアガラクトシル化(G0)フェチュイン(図1D)を生成した。G0およびG2フェチュインを、B4Fc、ST6Fc、または両方の酵素(B4ST6Fc)および糖-ヌクレオチド供与体(ガラクトースおよびシアル酸について、それぞれ、UDP-ガラクトース(UDP-Gal)およびCMP-シアル酸(CMP-SA))とインキュベートした。結合特異的グリコシル化をレクチンブロッティングして調べ、B4Fcが末端ガラクトースにβ1,4結合で効率的に結合し、ST6Fcがα2,6末端シアル酸に結合することを明らかにした(図1D)。B4ST6Fcは、ガラクトース供与体(UDP-Gal、図1D)とインキュベートした場合、β1,4ガラクトースに結合した。上述の通り、おそらく潜在的シアリル化部位の数を増加させることによって、ガラクトシル化はシアリル化の効率を向上させることが研究により示されており(Anthony et al., 2008a)、ガラクトースおよびシアル酸供与体の両方とインキュベートすると、B4ST6Fcはフェチュインを効率的にシアリル化した(図1D)。さらに、B4ST6Fcは、ガラクトースおよびシアル酸をマウスおよびヒトIgGの両方に転移した(図1E)。
【0165】
[実施例3]
インビボシアリル化の抗炎症活性
これらの改変グリコシル化酵素のインビボで炎症を軽減する能力をテストした。マウスに、処置後数日内に浮腫および炎症細胞浸潤を呈する、主にIgG1自己抗体によって媒介される関節炎を惹起する関節炎誘発性K/BxN血清を与えた(Korganow et al., 1999)。動物は、PBS、高用量IVIG(1g/kg)、B4Fc(2.5mg/kg)、ST6Fc(2.5mg/kg)、またはB4FcおよびST6Fcの両方(B4ST6Fc、2.5mg/kg、図2A~2D)も受けた。関節炎誘発性血清は、PBS処置動物において臨床スコアによって測定した強い炎症を誘導したが、炎症はIVIGによって軽減した(図2A~2B)。B4FcもST6Fcも個別には誘導炎症を低減することができなかった。しかし、改変酵素を同時投与した場合(B4ST6Fc、2.5mg/kg)、炎症はIVIGによって達成された類似のレベルまで有意に軽減した(図2C~2D)。処置7日後の関節への炎症性浸潤、および組織破壊は、PBS処置対照と比べてIVIGおよびB4ST6Fc処置動物で著しく低減した(図2E)。まとめると、これらの結果は、ガラクトースおよびシアル酸の両方に結合する酵素の投与が、インビボで受動的自己免疫性関節炎症の軽減に有効であることを示している。
【0166】
これらの知見を自己免疫疾患の活性モデルに広げるために、腎臓損傷をもたらす腎臓に沈着したIgG2bベースの免疫複合体によって主に駆動される、腎毒性腎炎(NTN)をもたらすグッドパスチャー病のモデル(Lerner et al., 1967、Schrijver et al., 1990、Kaneko et al., 2006a)を使用した。B4ST6Fcの投与は、7日時点の血中尿素窒素(BUN)レベルによって測定した場合、IVIGと同じくらい有効に腎臓病態を抑制し(図2F)、生存を延長した(図2G)。実際に、7日時点の腎臓への炎症細胞浸潤は、PBS対照と比べてB4ST6FcおよびIVIGによって低減した(図2H)。血清または腎臓IgG力価によって測定した場合、IVIGもB4ST6Fcも誘導された病原性抗体応答に影響を与えなかった(図9A~9B)。まとめると、これらの結果は、B4ST6Fcによるインビボシアリル化が、免疫調節性高用量IVIGより400倍低い用量で自己抗体介在性腎臓破壊を有効に改善することを示している。
【0167】
[実施例4]
インビボシアリル化のための要求性
IVIGおよびシアリル化IgG Fcの抗炎症活性のために抑制性FcγRIIBが要求されることは、マウスモデルを使用した機能研究によって支持されており(Samuelsson et al., 2001、Bruhns et al., 2003、Anthony et al., 2011、Schwab et al., 2014)、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー患者への高用量IVIGの投与後に観察されたように、白血球でのFcγRIIBの表面発現を増加させた(Tackenberg et al., 2009)。さらに、シアリル化IgG Fcは、炎症を抑制するためにマウスSIGN-R1またはヒトDC-SIGNを必要とすることが示された(Anthony et al., 2011、Anthony et al., 2008b、Schwab et al., 2012)。故に、IgGのシアリル化は受容体選択性をII型FcγRに変換し、シアリル化IgGによるこれらの受容体のライゲーションにより、炎症細胞での抑制性FcγRIIBの上方制御に至る(Pincetic et al., 2014)。インビボシアリル化が、IVIGと似た経路を通じて炎症を抑制するかどうかを決定するために、実験も行った。PBS、IVIG、またはB4ST6Fcと一緒にK/BxN血清を野生型またはFcγRIIB-/-マウスに投与し、その後数日にわたって肢の炎症を追跡した。FcγRIIB-/-マウスでは、PBSと比べてIVIGもB4ST6Fcも炎症を抑制せず(図3A、3Bおよび10A)、これらの抗炎症活性のために受容体が要求されることが示された。次に、インビボでのIVIGおよびシアリル化IgG抗炎症活性を軽減することが示されている(Anthony et al., 2008b)、SIGN-R1の一時的ノックダウンをもたらす抗体(TKO SIGN-R1(Kang et al., 2004))をマウスに投与した。これにより、K/BxNおよびPBS、IVIG、またはB4ST6Fcで処置したマウスにおける差は観察されず、SIGN-R1撹乱が、IVIGおよびインビボシアリル化の両方の抗炎症活性を阻害することを示した(図3C、3D、および10B)。
【0168】
次に、K/BxN血清を、SIGN-R1-/-バックグラウンドと交配したSIGN-R1-/-およびヒトDC-SIGN トランスジェニックマウスに投与した(hDC-SIGN/SIGN-R1-/-図3E、3F、3G)。マウスはPBS、IVIG、またはB4ST6Fcも受け、その後数日にわたって炎症をモニターした。PBS処置と一緒のK/BxN血清の導入は、両方の遺伝子型に強い炎症をもたらした(図3E、3F)。SIGN-R1-/-動物は、誘導された関節炎からIVIGまたはB4ST6Fcによって守られなかった(図3E)。しかし、IVIGおよびB4ST6Fcはいずれも、hDC-SIGN/SIGN-R1-/-マウスにおける誘導炎症を軽減した(図3F)。まとめると、これらの結果は、IVIGならびに改変ガラクトシルおよびシアル酸転移酵素によるインビボシアリル化が、類似の経路を通じて炎症を抑制することを示唆している。
【0169】
IVIGとインビボシアリル化の間の共通の受容体および経路は、改変酵素上のFcグリカンがインビボでの抗炎症活性に関与し、酵素活性は関与していない可能性を提起した。したがって、2つの酵素ドメインのシステイン残基をアラニンに変異させることによる酵素的に不活性なST6Fcを生成した(C350A、C361A、ST6Fc CACA図4A(Meng et al., 2013))。並行して、B4FcおよびST6Fcを、IgG Fc特異的エンドグリコシダーゼ、EndoSで処置してFcグリカンを除去した(B4ST6Fc-Endo、図4B)(Collin and Olsen, 2001)。Fcグリカンの酵素的除去により、IgGおよびFcγRの相互作用が切断されることが示されている(Allhorn et al., 2010、Benkhoucha et al., 2012、Yang et al., 2010)。重要なことには、B4ST6Fc CACAはインビトロでシアル酸をヒトIgG Fcに転移することができなかったが、ガラクトシル転移酵素活性は、インタクトなままであった(図4C)。しかし、B4ST6Fc-Endoは、ガラクトシルおよびシアル酸転移酵素活性を保持した(図4C)。これらの酵素を、インビボでの抗炎症活性についてテストした。K/BxN血清をマウスに投与した。マウスは、PBS、IVIG、B4ST6Fc、B4ST6Fc CACA、またはB4ST6Fc-Endoも受けた。K/BxNの導入は強い炎症を誘導し、該炎症は、IVIG、B4ST6Fc、およびB4ST6Fc-Endoによって軽減された(図4D、4E)。しかし、B4ST6Fc CACAは、誘導炎症を抑制することができなかった(図4D、4E)。これらの結果は、転移酵素活性がインビボでの炎症の抑制に必要であり、改変酵素上のFcグリカンは必要でないことを示している。
【0170】
[実施例5]
インビボでの部位特異的シアリル化
改変グリコシルトランスフェラーゼの投与は自己免疫炎症を強力に抑制したものの、潜在的な望ましくない副作用がオフターゲットグリカン修飾であり得る。一般に、健康な個体の全IgGの5~10%はシアリル化Fcグリカンを有することから、低レベルのシアル酸がIgG Fcグリカンで見出される。細胞および可溶性糖タンパク質のほとんどの複合体二分岐グリカンは高度にシアリル化されており、インビボシアリル化の潜在的なオフターゲット作用を限定する(Kaneko et al., 2006b、Youings et al., 1996)。それでもなお、B4ST6Fc投与後のインビボでの毒性および全身性グリコシル化を調べるために、実験を行った。循環中のB4ST6Fcの半減期は、IVIGと類似していた(それぞれ、8および7日、図11A、11B)。これは、これらの分子のFc部分が、インビボでの血清半減期を同様に制御していることを示唆している。投与1週間後および2ヶ月後のB4ST6Fcの恒常性の影響も調べるために、実験を行った(図11C)。赤血球(RBC)、白血球(WBC)および血小板の全血球計算(CBC)分析では、有害作用は顕著ではなかった。血清グルコースおよびカルシウムレベルは正常範囲内のままであり、一方、腎臓および肝臓機能は、包括的代謝パネル(CMP)分析では変わらなかった。分析は、PBS処置群とどちらのB4ST6Fc処置群の間にほとんど差がないことを明らかにし、B4ST6Fcの投与が毒性ではないことを示唆した(図11C)。B4ST6Fcの投与後1週間および2ヶ月のIgGおよび全血清タンパク質のグリコシル化を調べるために、さらなる実験を行った(図11D)。グリコシル化のわずかな変化が、PBS処置対照と比べてB4ST6Fc処置動物で観察され、わずかなオフターゲット作用がインビボシアリル化から生じることを示唆した。
【0171】
両方の改変酵素の投与はインビボで抗炎症性であるが、恒常性状態中の血清IgGまたはタンパク質グリコシル化を特に変化させなかったため、炎症応答中のグリコシル化を調べるために、実験を行った。PBS、IVIG、またはB4ST6Fcを受けたマウスのパネルでNTNを誘導し、全N-結合型グリコシル化を調べた。疾患誘導7日後、PBS、IVIG、またはB4ST6Fc処置マウスの循環中のIgGに差は観察されず、B4ST6Fcが循環糖タンパク質のグリコシル化に影響を与えないという知見と一致した(図5A)。興味深いことに、PBSまたはIVIG処置マウスの腎臓から回収したIgGと比べて、B4ST6Fc処置動物の腎臓から回収したIgGのシアリル化が増加したことが観察された(図5B)。血清の炎症性アガラクトシル化IgG Fcグリカンに対する抗炎症性モノシアリル化IgG Fcグリカンの比(S1/G0%)は、血清IgGのシアル酸含量に差がないことを明らかにし、一方、腎臓から回収したIgGはシアリル化が有意に増加していたが、ジシアリル化対アガラクトシル化腎臓IgG Fcグリカンに変化はなかった(図5C、5D、12)。PBS、IVIG、またはB4ST6Fc処置動物の血清(S)および腎臓(K)から精製したIgGの免疫ブロット分析は、全ての試料で測定可能なレベルのマウスIgGを明らかにしたが、ヒトIgG Fcは、IVIGで処置したマウスでのみ検出可能であった(図5E)。これは、PBSおよびB4ST6Fc処置群でのIgGグリカンの分析が内因性マウスIgG Fcに限定され、改変グリコシルトランスフェラーゼのFcに限定されなかったことを示している。まとめるとこれらの結果は、炎症部位の内因性IgGがB4ST6Fcによって選択的にシアリル化されることを示すものである。
【0172】
[実施例6]
インビボシアリル化は血小板活性化を必要とする
可溶性ST6GAL1の活性を調べた研究は、シアリル化反応に必要なCMP-シアル酸の供与体(CMP-SA)として血小板を関係づけた(Jones et al., 2016、Jones et al., 2012、Lee et al., 2014)。したがって、血小板がB4ST6Fcに糖-ヌクレオチド供与体を提供するかを決定するために、実験を行った。実際に、CD41血小板が、NTNが誘導されているマウス腎臓の糸球体で検出されたが、未処置腎臓の糸球体では検出されず、炎症部位への血小板動員を示した以前の研究と一致した(図6Aおよび13A)(Devi et al., 2010、Boilard et al., 2010)。さらに、NTN炎症腎臓中のCD41血小板も血小板活性化マーカー、CD62Pを発現した(図6A、13A)。NTN炎症中のPBS、IVIG、またはB4ST6Fcによる処置は、血小板の蓄積および活性化に影響を与えなかった(図6A、13A)。
【0173】
インビボシアリル化の抗炎症活性に血小板活性化が必要であるかどうかも決定するために、実験を行った。K/BxN血清の投与の2日目前に、マウスにクロピドグレル(10mg/kg)を毎日与えて血小板活性化を防いだ(Pucci et al., 2016)。マウスは、PBS、IVIG、またはB4ST6Fcも受け、その後数日にわたって炎症をモニターした。クロピドグレル処置は、PBS処置動物の誘導炎症に影響を与えなかった(図6B~6D)。IVIGは、クロピドグレルの存在下で炎症を抑制した(図6B~6D)。しかし、B4ST6Fcはクロピドグレルと協調的に与えられた場合、炎症を軽減することができなかった(図6C、6D)。
【0174】
これらの結果を広げようと、クロピドグレルを投与され、次いでPBS、IVIG、またはB4ST6Fcを受けたマウスでNTNを誘導した(図6E~6H)。重要なことには、これらの処置は、処置マウスの抗ヒツジIgG力価に影響を与えなかった(図13B)。NTNの誘導は、クロピドグレルおよびPBS処置動物において、血中尿素窒素レベルおよび生存によって測定した腎臓損傷を引き起こした(図6G、6H)。IVIGは、クロピドグレル処置に関係なく処置マウスを腎臓疾患から保護した(図6E~H)。しかし、B4ST6Fcは、クロピドグレルと一緒に与えられた場合、疾患の軽減に無効であった(図6G、6H)。まとめると、これらの結果は、B4ST6Fcの抗炎症活性はインビボでの血小板活性化に依存しているが、IVIGは依存しないことを示している。
【0175】
ヒト血小板が、シアリル化に必要な糖ヌクレオチド供与体を放出するかを決定するためにさらなる実験を行い、健康なドナーから多血小板血漿(PRP)を生成した(Lee et al., 2014、Jones et al., 2016、Tan et al., 2016)。血小板を、未処置のまま、活性化(トロンビン+)、またはクロピドグレル処置後に活性化(クロピドグレル+/トロンビン+)し、シアル酸およびガラクトースヌクレオチド供与体(CMP-SA、UDP-Gal)の放出についてアッセイした。実際に、ヒト血小板は、活性化するとシアル酸およびガラクトースヌクレオチド供与体の両方を放出し、放出はクロピドグレルによって有意に阻害された(図7A、7B)。興味深いことに、活性化は、ガラクトースヌクレオチド供与体放出を増加させたが、シアル酸供与体放出は増加させなかった。
【0176】
進行中の炎症を抑制するには、奏功する抗炎症治療薬が必要とされる。インビボシアリル化が治療的に有効かどうかを決定するために、マウスを関節炎誘導血清で処置し、次いで、関節炎の誘導後0日目または3日目にPBS、IVIG、またはB4ST6Fcを与えた。IVIGおよびB4ST6Fcは0日目に投与した場合、誘導された関節炎の低減に有効であったが、PBSは有効でなかった(図14A、14B)。しかし、IVIGは、疾患誘導後3日目に投与した場合、誘導された関節炎を抑制することができなかった(図7C、7D)。重要なことには、3日目に関節炎誘発性血清およびB4ST6Fcで処置したマウスは、IVIGおよびPBS処置群と比べて7および8日目に炎症の有意な低減を示した(図7C、7D)。これらの結果は、B4ST6Fcが自己抗体誘導炎症を治療様式で有効に軽減できることを明らかにしている。これは、このモデルにおいてIVIGでは達成できなかったことであり、以前の結果と一致する(Bruhns et al., 2003)。
【0177】
[実施例7]
B4FcおよびST6Fcのヘテロ二量体化
B4FcおよびST6Fcのヘテロ二量体化を達成するために、「ノブ・イントゥ・ホール」(KIH)変異を各重鎖、CH3ドメインに導入した。具体的には、Y349C/T366S/L368A/Y407VおよびS354C/T366W点変異を、それぞれB4Fc(配列番号42)およびST6Fc(配列番号43)に導入した。
【0178】
図18は、本来のB4ST6Fcおよび新たな「ノブ・イントゥ・ホール」B4ST6Fcのウエスタンブロット結果(抗ヒトIgGによる)およびクマシーゲル染色を示す。図中、ST6FcはST6Fcホモ二量体を表す。B4FcはB4Fcホモ二量体を表す。本来のB4ST6Fcはノブ・イントゥ・ホール変異を有さず、故にこれは、ST6Fcホモ二量体、B4Fcホモ二量体、およびB4FCST6Fcヘテロ二量体の混合物である可能性がある。「KIH」B4ST6FcはB4FCST6Fcヘテロ二量体であり、クマシーゲルで示されるゲルではわずかに高く流れた。
【0179】
[実施例8]
関節炎モデルにおけるB4FCST6Fcヘテロ二量体のテスト
インビボでの活性をテストするために、マウスにK/BxN血清を投与し、次いで、高用量のIVIG、本来のB4ST6Fc、ヘテロ二量体B4ST6FcKln(「ノブ・イントゥ・ホール」B4ST6Fc)、およびB4ST6FcG3(KIH変異を含まないIgG3 Fcドメインを有する)をマウスに投与した。肢の腫脹をその後数日にわたってモニターした。図19に示すように、PBS処置対照(円)では、K/BxN血清は肢に強い炎症を誘導した。対照的に、高用量のIVIG(四角)、B4ST6Fc(実線の三角)、ヘテロ二量体B4ST6FcKln(点線および菱形)、およびB4ST6FcG3(逆三角)は全て、炎症を軽減した。結果は、本来のB4ST6Fc、ヘテロ二量体B4ST6FcKln、およびB4ST6FcG3は関節炎モデルにおいて炎症を軽減でき、故に自己免疫障害を処置するのに使用できることを示している。
【0180】
他の実施形態
本発明は、その詳細な説明と併せて記載されてきたが、前述の記載は、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲を例示するためのものであり、限定することを意図するものではないことが理解されるべきである。他の態様、利点、および修正は、以下の特許請求の範囲の範囲内である。
(参考文献)
【0181】
【表3-1】
【0182】
【表3-2】
【0183】
【表3-3】
【0184】
【表3-4】
【0185】
【表3-5】
【0186】
【表3-6】
【0187】
【表3-7】
【0188】
【表3-8】
【0189】
【表3-9】

本発明は、以下の態様を包含し得る。
[1]
抗体重鎖CH2領域と、
抗体重鎖CH3領域と、
糖タンパク質のシアリル化を触媒するシアル酸転移酵素の触媒ドメインと
を含む融合ポリペプチド。
[2]
前記シアル酸転移酵素がベータ-ガラクトシドアルファ-2,6シアル酸転移酵素1である、上記[1]に記載の融合ポリペプチド。
[3]
前記シアル酸転移酵素がヒトシアル酸転移酵素である、上記[1]に記載の融合ポリペプチド。
[4]
前記抗体重鎖CH2領域がヒトIgG重鎖CH2領域を含む、上記[1]に記載の融合ポリペプチド。
[5]
前記抗体重鎖CH3領域がヒトIgG重鎖CH3領域である、上記[1]に記載の融合ポリペプチド。
[6]
抗体重鎖CH2領域と、
抗体重鎖CH3領域と、
糖タンパク質のガラクトシル化を触媒するガラクトシル転移酵素の触媒ドメインと
を含む融合ポリペプチド。
[7]
前記ガラクトシル転移酵素がベータ-1,4-ガラクトシル転移酵素1である、上記[6]に記載の融合ポリペプチド。
[8]
前記ガラクトシル転移酵素がヒトガラクトシル転移酵素である、上記[6]に記載の融合ポリペプチド。
[9]
前記抗体重鎖CH2領域がヒトIgG重鎖CH2領域である、上記[6]に記載の融合ポリペプチド。
[10]
前記抗体重鎖CH3領域がヒトIgG重鎖CH3領域である、上記[6]に記載の融合ポリペプチド。
[11]
上記[1]から[10]のいずれか一項に記載の融合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
[12]
上記[1]から[10]のいずれか一項に記載の融合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むベクター。
[13]
上記[12]に記載のベクターを含み、場合により上記[1]から[10]のいずれか一項に記載の融合ポリペプチドを発現する細胞。
[14]
抗体重鎖CH2領域、抗体重鎖CH3領域、および糖タンパク質のシアリル化を触媒するシアル酸転移酵素の触媒ドメインを含む第1の融合ポリペプチドと、
抗体重鎖CH2領域、抗体重鎖CH3領域、および糖タンパク質のガラクトシル化を触媒するガラクトシル転移酵素の触媒ドメインを含む第2の融合ポリペプチドと
を含むヘテロ多量体。
[15]
前記ヘテロ多量体がヘテロ二量体であり、前記第1の融合ポリペプチドが前記第2の融合ポリペプチドと会合し、これによりヘテロ二量体を形成する、上記[14]に記載のヘテロ多量体。
[16]
前記シアル酸転移酵素がベータ-ガラクトシドアルファ-2,6シアル酸転移酵素1である、上記[14]に記載のヘテロ多量体。
[17]
前記シアル酸転移酵素がヒトシアル酸転移酵素である、上記[14]に記載のヘテロ多量体。
[18]
前記ガラクトシル転移酵素がベータ-1,4-ガラクトシル転移酵素1である、上記[14]に記載のヘテロ多量体。
[19]
前記ガラクトシル転移酵素がヒトガラクトシル転移酵素である、上記[14]に記載のヘテロ多量体。
[20]
IgG介在性障害を有する対象を処置する方法であって、
上記[14]から[19]のいずれか一項に記載のヘテロ多量体を含む組成物の有効量を前記対象に投与するステップ
を含む方法。
[21]
前記IgG介在性障害が炎症である、上記[20]に記載の方法。
[22]
前記IgG介在性障害が自己免疫疾患である、上記[20]に記載の方法。
[23]
前記自己免疫疾患が関節炎である、上記[22]に記載の方法。
[24]
前記自己免疫疾患がグッドパスチャー病である、上記[22]に記載の方法。
[25]
前記自己免疫疾患が腎毒性腎炎である、上記[22]に記載の方法。
[26]
前記自己免疫疾患がセリアック病、1型糖尿病、グレーブス病、炎症性腸疾患、多発性硬化症、乾癬、関節リウマチ、または全身性ループスエリテマトーデスである、上記[22]に記載の方法。
[27]
IgG介在性障害を有する対象を処置する方法であって、
シアル酸転移酵素の触媒ドメインを含む第1のポリペプチドの有効量、およびガラクトシル転移酵素の触媒ドメインを含む第2のポリペプチドの有効量を前記対象に投与するステップ
を含み、
前記シアル酸転移酵素の触媒ドメインが糖タンパク質のシアリル化を触媒し、前記ガラクトシル転移酵素の触媒ドメインが糖タンパク質のガラクトシル化を触媒する、方法。
[28]
前記第1のポリペプチドが、抗体重鎖CH2領域と、抗体重鎖CH3領域とをさらに含む、上記[27]に記載の方法。
[29]
前記第2のポリペプチドが、抗体重鎖CH2領域と、抗体重鎖CH3領域とをさらに含む、上記[27]に記載の方法。
[30]
前記IgG介在性障害が炎症である、上記[27]に記載の方法。
[31]
前記IgG介在性障害が自己免疫疾患である、上記[27]に記載の方法。
[32]
前記自己免疫疾患が関節炎である、上記[31]に記載の方法。
[33]
前記自己免疫疾患がグッドパスチャー病である、上記[31]に記載の方法。
[34]
前記自己免疫疾患が腎毒性腎炎である、上記[31]に記載の方法。
[35]
前記自己免疫疾患がセリアック病、1型糖尿病、グレーブス病、炎症性腸疾患、多発性硬化症、乾癬、関節リウマチ、または全身性ループスエリテマトーデスである、上記[31]に記載の方法。
[36]
臓器移植中の対象における抗体介在性損傷を処置する方法であって、
上記[14]から[19]のいずれか一項に記載のヘテロ多量体を含む組成物の有効量を前記対象に投与するステップ
を含む方法。
[37]
臓器移植中の対象における抗体介在性損傷を処置する方法であって、
シアル酸転移酵素の触媒ドメインを含む第1のポリペプチドの有効量、およびガラクトシル転移酵素の触媒ドメインを含む第2のポリペプチドの有効量を前記対象に投与するステップ
を含み、
前記シアル酸転移酵素の触媒ドメインが糖タンパク質のシアリル化を触媒し、前記ガラクトシル転移酵素の触媒ドメインが糖タンパク質のガラクトシル化を触媒する、方法。
[38]
コラーゲン三量体化ドメインおよびシアル酸転移酵素の触媒ドメインを含む第1の融合ポリペプチドと、
コラーゲン三量体化ドメインおよびガラクトシル転移酵素の触媒ドメインを含む第2の融合ポリペプチドと、
コラーゲン三量体化ドメインを含む第3の融合ポリペプチドと
を含むヘテロ多量体であって、
前記第1の融合ポリペプチド、前記第2の融合ポリペプチド、および前記第3の融合ポリペプチドが互いに結合し、前記ヘテロ多量体を形成する、ヘテロ多量体。
[39]
前記第3の融合ポリペプチドが、シアル酸転移酵素の触媒ドメインをさらに含む、上記[38]のヘテロ多量体。
[40]
前記第3の融合ポリペプチドが、ガラクトシル転移酵素の触媒ドメインをさらに含む、上記[38]のヘテロ多量体。
[41]
4つのストレプトアビジンポリペプチドを含む四量体と4つのポリペプチドとを含むヘテロ多量体であって、
前記4つのポリペプチドの各々が、ビオチンと結合し、前記4つのポリペプチドの1つまたは複数が、シアル酸転移酵素の触媒ドメインまたはガラクトシル転移酵素の触媒ドメインを含み、
前記4つのポリペプチドの各々が、前記4つのストレプトアビジンポリペプチドを含む前記四量体に結合する、ヘテロ多量体。
[42]
前記4つのポリペプチドの各々が、シアル酸転移酵素の触媒ドメインまたはガラクトシル転移酵素の触媒ドメインを含む、上記[41]に記載のヘテロ多量体。
[43]
前記4つのポリペプチドの各々が、シアル酸転移酵素の触媒ドメインを含む、上記[41]に記載のヘテロ多量体。
[44]
前記4つのポリペプチドの各々が、ガラクトシル転移酵素の触媒ドメインを含む、上記[41]に記載のヘテロ多量体。
[45]
前記4つのポリペプチドの2つが、それぞれシアル酸転移酵素の触媒ドメインを含み、前記4つのポリペプチドの2つが、それぞれガラクトシル転移酵素の触媒ドメインを含む、上記[41]に記載のヘテロ多量体。
[46]
抗体またはその抗体断片と、
シアル酸転移酵素の触媒ドメインと、
ガラクトシル転移酵素の触媒ドメインと
を含むヘテロ多量体であって、
前記シアル酸転移酵素の触媒ドメインおよび前記ガラクトシル転移酵素の触媒ドメインが、それぞれ前記抗体またはその抗体断片に結合されている、ヘテロ多量体。
[47]
前記ヘテロ多量体が抗体を含み、前記抗体が2つの抗体重鎖と、2つの抗体軽鎖とを含む、上記[46]に記載のヘテロ多量体。
[48]
前記シアル酸転移酵素の触媒ドメインが前記抗体重鎖のC末端に結合されている、上記[46]に記載のヘテロ多量体。
[49]
前記シアル酸転移酵素の触媒ドメインが前記抗体軽鎖のC末端に結合されている、上記[46]に記載のヘテロ多量体。
[50]
前記ガラクトシル転移酵素の触媒ドメインが、前記抗体重鎖のC末端に結合されている、上記[46]に記載のヘテロ多量体。
[51]
前記ガラクトシル転移酵素の触媒ドメインが前記抗体軽鎖のC末端に結合されている、上記[46]に記載のヘテロ多量体。
図1-1】
図1-2】
図2-1】
図2-2】
図2-3】
図3-1】
図3-2】
図3-3】
図4-1】
図4-2】
図4-3】
図5-1】
図5-2】
図5-3】
図6-1】
図6-2】
図6-3】
図6-4】
図7-1】
図7-2】
図8-1】
図8-2】
図9
図10
図11-1】
図11-2】
図11-3】
図12
図13-1】
図13-2】
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21-1】
図21-2】
図21-3】
図21-4】
図22-1】
図22-2】
図22-3】
図22-4】
図22-5】
図22-6】
図22-7】
図22-8】
図22-9】
図22-10】
図23-1】
図23-2】
図23-3】
図23-4】
図24-1】
図24-2】
図25-1】
図25-2】
図25-3】
図25-4】
図25-5】
図26-1】
図26-2】
図26-3】
図26-4】
【配列表】
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