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特許7374119減少した肝臓向性を有するAAV9とAAVrh74とのハイブリッド組換えアデノ随伴ウイルス血清型
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-26
(45)【発行日】2023-11-06
(54)【発明の名称】減少した肝臓向性を有するAAV9とAAVrh74とのハイブリッド組換えアデノ随伴ウイルス血清型
(51)【国際特許分類】
   C07K 19/00 20060101AFI20231027BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20231027BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20231027BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20231027BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231027BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20231027BHJP
   C07K 14/015 20060101ALI20231027BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20231027BHJP
   C12N 15/35 20060101ALI20231027BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20231027BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20231027BHJP
【FI】
C07K19/00
A61K35/76
A61K48/00
A61P21/00
A61P35/00
A61P37/02
C07K14/015 ZNA
C12N7/01
C12N15/35
C12N15/62 Z
C12N15/864 100Z
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020554181
(86)(22)【出願日】2019-04-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-19
(86)【国際出願番号】 EP2019058560
(87)【国際公開番号】W WO2019193119
(87)【国際公開日】2019-10-10
【審査請求日】2022-04-01
(31)【優先権主張番号】18305399.0
(32)【優先日】2018-04-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】503197304
【氏名又は名称】ジェネトン
(73)【特許権者】
【識別番号】507002516
【氏名又は名称】アンセルム(アンスティチュート・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・メディカル)
(73)【特許権者】
【識別番号】503119487
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・デヴリ・ヴァル・デソンヌ
(73)【特許権者】
【識別番号】518059934
【氏名又は名称】ソルボンヌ・ユニヴェルシテ
【氏名又は名称原語表記】SORBONNE UNIVERSITE
(73)【特許権者】
【識別番号】520296842
【氏名又は名称】アソシエーション・アンスティトゥート・ドゥ・マイオロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】イザベル・リシャール
(72)【発明者】
【氏名】エヴリーヌ・ジケル
(72)【発明者】
【氏名】フェデリコ・ミンゴッツィ
【審査官】中山 基志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/022608(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/013313(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12N 1/00-7/08
C07K
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アデノ随伴ウイルス(AAV)血清型9(AAV9)及びAAV血清型74(AAVrh74)キャプシドタンパク質の間のハイブリッドである、組換えハイブリッドAAVキャプシドタンパク質であって、
前記ハイブリッドは、配列番号1のAAV9キャプシドにおける449位から609位に位置する可変領域が配列番号2のAAVrh74キャプシドにおける450位から611位に位置する対応する可変領域で置換され、
前記組換えハイブリッドAAVキャプシドタンパク質が、配列番号3と少なくとも95%の同一性を有する配列を含み、親AAV9及びAAVrh74キャプシドタンパク質と比較して減少した肝臓向性を有する、組換えハイブリッドAAVキャプシドタンパク質。
【請求項2】
親AAV9及び/又はAAVrh74キャプシドタンパク質の筋肉向性と類似した筋肉向性を有する、請求項1に記載の組換えハイブリッドAAVキャプシドタンパク質。
【請求項3】
配列番号3と少なくとも97%の同一性を有する配列を含む、請求項1又は2に記載の組換えハイブリッドAAVキャプシドタンパク質。
【請求項4】
配列番号3と少なくとも98%又は99%の同一性を有する配列を含む、請求項3に記載の組換えハイブリッドAAVキャプシドタンパク質。
【請求項5】
配列番号3の配列を含む、請求項4に記載の組換えハイブリッドAAVキャプシドタンパク質。
【請求項6】
ハイブリッドVP1、VP2又はVP3タンパク質である、請求項1から5のいずれか一項に記載の組換えハイブリッドAAVキャプシドタンパク質。
【請求項7】
(i)AAV9及びAAVrh74以外の天然又は人工のAAV血清型由来の配列を有するVP1特異的N末端領域、(ii)AAV9、AAVrh74又はAAV9及びAAVrh74以外の天然若しくは人工のAAV血清型由来の配列を有するVP2特異的N末端領域、並びに(iii)請求項6に記載のハイブリッドVP3タンパク質の配列を有するVP3 C末端領域を含むキメラVP1タンパク質、並びに、
(i)AAV9及びAAVrh74以外の天然又は人工のAAV血清型由来の配列を有するVP2特異的N末端領域、並びに(ii)請求項6に記載のハイブリッドVP3タンパク質の配列を有するVP3 C末端領域を含むキメラVP2タンパク質
からなる群から選択される、組換えキメラAAVキャプシドタンパク質。
【請求項8】
請求項1から6のいずれか一項に記載の組換えハイブリッドAAVキャプシドタンパク質又は請求項7に記載の組換えキメラAAVキャプシドタンパク質を発現可能な形でコードし、最終的にAAVレプリカーゼタンパク質を発現可能な形で更にコードするポリヌクレオチド。
【請求項9】
請求項8に記載のポリヌクレオチドを含む組換えプラスミド。
【請求項10】
請求項1から6のいずれか一項に記載のハイブリッド組換えAAVキャプシドタンパク質、並びに/又は請求項7に記載の組換えキメラAAVキャプシドタンパク質、並びに最終的にさらにAAV9及びAAVrh74以外の天然若しくは人工のAAV血清型由来の少なくとも1つのAAVキャプシドタンパク質を含む、目的の遺伝子をパッケージングしているAAVベクター粒子。
【請求項11】
前記目的の遺伝子が、
(i)治療用遺伝子、
(ii)治療用タンパク質又はペプチドをコードする遺伝子、及び
(iii)治療用RNAをコードする遺伝子
からなる群から選択される、請求項10に記載のAAVベクター粒子。
【請求項12】
治療有効量の請求項10又は請求項11に記載のAAVベクター粒子を含む医薬組成物。
【請求項13】
遺伝子療法における医薬としての使用のためのものである、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
筋肉組織に影響を及ぼす遺伝性疾患、がん又は自己免疫疾患を治療するためのものである、請求項13に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項15】
ジストロフィン異常症、肢帯型筋ジストロフィー、顔面肩甲上腕型ジストロフィー及びチチノパシーを含む群から選択される神経筋遺伝性障害に関与する遺伝子を標的とする、請求項13又は14に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項16】
標的遺伝子が、DMD、BMD、CAPN3、DUX4、FRG1、SMCHD1及びTTN遺伝子を含む群から選択される、請求項15に記載の使用のための医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親アデノ随伴ウイルス(AAV)血清型9(AAV9)及びAAV血清型rh74(AAVrh74)キャプシドタンパク質と比較して減少した肝臓向性を有するAAV9とAAVrh74キャプシドタンパク質とのハイブリッドである、組換えAAVキャプシドに関する。本発明はまた、目的の遺伝子をパッケージングしている得られたハイブリッドAAV血清型ベクター粒子、及び遺伝子療法における、特に神経筋遺伝性疾患を治療するためのそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターはインビボにおける遺伝子導入に広く使用されている。rAAVベクターは、直径20nmのキャプシド及び4.7kbの一本鎖DNAで構成されるエンベロープを持たないベクターである。ゲノムは、末端逆位リピート配列(ITR)と称される2つの回文領域が隣接している2つの遺伝子、rep及びcapを有する。cap遺伝子は、AAVキャプシドを構成する3つの構造タンパク質VP1、VP2、及びVP3をコードする。VP1、VP2及びVP3は、全てVP3と同じC末端を共有している。AAV2を参照として使用すると、VP1は735アミノ酸配列(GenBank YP_680426)を有し、VP2(598アミノ酸)はスレオニン138(T138)で始まり、VP3(533アミノ酸)はメチオニン203(M203)で始まる。AAV血清型はキャプシドによって定義される。異なる血清型が存在し、それぞれが独自の組織標的特異性を示す。したがって、使用する血清型の選択は、形質導入する組織に応じる。骨格筋及び肝臓組織は、AAV8、AAV9及びAAV-rh74等のAAVベクターの様々な血清型によって効率的に感染及び形質導入される。
【0003】
キメラ又はハイブリッドAAV血清型は、目的の細胞又は組織の種類に対するAAV形質導入効率を高めるか、又はAAV向性を高めるために、様々な天然に生じるAAV血清型のキャプシドの間でキャプシド配列の断片を交換することによって生成されている。
【0004】
ハイブリッドAAVキャプシドは、AAV8と霊長類の脳から単離されたAAV血清型のキャプシドの構造ドメインとを組み合わせることによって生成された。得られたAAVハイブリッド血清型は、AAV2及びAAV5ベクターと比較して効率は高くないが、ヒト及びマウスにおいて網膜組織を形質導入することができる(Charbel Issa等、PLOS ONE、2013、8、e6036l)。しかし、このハイブリッドAAV血清型の1つは、AAV1、AAV8及びAAV9と比較して脂肪組織の形質導入効率が向上していることが示された(Liu等、Molecular Therapy、2014、1、8、doi:10.1038/mtm)。国際公開第2015/191508号パンフレットは、様々な種(ヒト、霊長類、鳥類、ヘビ、ウシ)のAAVキャプシドの可変領域を交換することによって生成された組換えハイブリッドAAVキャプシド、特に、CNS特異的キメラキャプシドを生成するために中枢神経系向性を備えたAAVキャプシドを開示している。
【0005】
国際公開第2017/096164号パンフレットは、ヒト骨格筋向性が増強したAAV1、AAV2、AAV3b、AAV6及びAAV8血清型の間の組換えハイブリッドAAVキャプシドを開示している。しかし、これまでに試験された天然に生じるAAV血清型及びバリアントはいずれも肝臓内に蓄積する傾向がある。これは、特にAAVベクターが全身経路によって投与される場合に問題を引き起こす。第1に、筋肉で発現することを目的とした導入遺伝子は、肝臓に毒性作用を有する可能性がある。第2に、肝臓へのAAVベクターの侵入により、骨格筋に使用可能なベクターの量が減少する。結果として、より高用量のAAVベクターが必要となる。これにより、肝臓毒性及びベクター産生のコストが増加する。
【0006】
組織特異的プロモーター及びマイクロRNAをベースにした遺伝子調節戦略は、様々な種類の組織間での遺伝子発現パターンを区別するために使用されている。しかし、このような調節戦略は、全身投与後の肝臓等の標的外器官におけるAAVベクターゲノムの隔離を妨げない。
【0007】
キャプシドタンパク質の塩基性残基R585又はR588を突然変異させてヘパリン結合を弱めると、ヘパリン硫酸結合が消失し、AAV2由来ベクターの肝臓向性が減少することが示された(Asokan等、Nat. BiotechnoL、2010、28、79~82)。しかし、この戦略は、ヘパリンに結合する塩基性残基によって肝臓向性が決定されるAAV2及びAAV6のような血清型に対してのみ役立つことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2015/191508号パンフレット
【文献】国際公開第2017/096164号パンフレット
【文献】国際公開第2005/033321号パンフレット
【文献】国際公開第2012/112832号パンフレット
【文献】米国特許出願公開第2014/0162319号
【文献】国際公開第2015/013313号パンフレット
【文献】国際公開第2006/110689号パンフレット
【文献】国際公開第2013/123503号パンフレット
【文献】国際公開第2013/158879号パンフレット
【非特許文献】
【0009】
【文献】Charbel Issa等、PLOS ONE、2013、8、e60361
【文献】Liu等、Molecular Therapy、2014、1、8、doi:10.1038/mtm
【文献】Asokan等、Nat. BiotechnoL、2010、28、79~82
【文献】Finet等、Virology、2018、513,43~51
【文献】Michelfelder等(PLoS ONE、2009、4、e5122)
【文献】Aponte-Ubillus等の概説、Applied Microbiology and Biotechnology、2018、102:1045~1054
【文献】McCarty等、Gene Therapy、2003、Dec.、10(26)、2112~2118
【文献】Rohr等、J. Virol. Methods、2002、106、81~88
【文献】Kienle EC(Dissertation for the degree of Doctor of natural Sciences, Combined Faculties for the Natural Sciences and for Mathematics of the Ruperto-Carola University of Heidelberg、Germany、2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、筋肉向性よりもはるかに低い肝臓向性を有する新しいAAVベクターが必要である。更に、筋肉には効率的に感染することができるが、肝臓にも脳にも感染することができない新しいベクターがあれば更に望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、筋肉及び肝臓組織に効率的に感染する2つの血清型、AAV9及びAAV-rh74の組み合わせを使用して、新しいハイブリッドAAV血清型を生成した。AAV9とAAVrh74血清型との間でのcap遺伝子の可変領域の取り替えを使用して、2つの新しいハイブリッドAAV血清型が生成された(図1A及び図1B)。驚くべきことに、親AAV9及びAAVrh74の肝臓向性は、ハイブリッドAAV血清型では失われていた(図4C及び図4D)。同時に、ハイブリッドAAV血清型は、骨格筋及び心筋組織において、高力価のAAVベクター産生及び高レベルの遺伝子導入効率を示した。
【0012】
新しいハイブリッドAAV血清型は、遺伝性疾患、自己免疫疾患、神経変性疾患及びがんを含む神経筋障害の遺伝子療法に有用である。
【0013】
したがって、本発明は、減少した肝臓向性を有するAAV9とAAVrh74キャプシドとのハイブリッド組換えAAVキャプシド、ハイブリッド組換えAAVキャプシドを含むAAVベクター粒子、ハイブリッドAAV血清型ベクター粒子を含む組成物、並びに、特に遺伝子療法における前記ハイブリッドAAV血清型ベクター粒子及び組成物の作製方法及び使用方法を包含する。
【0014】
発明の詳細な説明
組換えハイブリッドAAVキャプシドタンパク質
本発明の一態様は、アデノ随伴ウイルス(AAV)血清型9(AAV9)とAAV血清型74(AAVrh74)キャプシドタンパク質とのハイブリッドである、組換えAAVキャプシドタンパク質であって、親AAV9及びAAVrh74キャプシドタンパク質と比較して、減少した肝臓向性を有する組換えハイブリッドAAVキャプシドタンパク質に関する。
【0015】
本明細書で使用される場合、「向性」という用語は、特定の種類の細胞又は組織に感染する、AAVウイルス粒子中に存在するAAVキャプシドタンパク質の特異性を意味する。
【0016】
特定の種類の細胞又は組織に対するAAVキャプシドの向性は、本出願の実施例に開示したもの等、当技術分野でよく知られている標準的アッセイを使用して、ハイブリッドAAVキャプシドタンパク質を含むAAVベクター粒子が特定の種類の細胞又は組織に感染又は形質導入する能力を測定することによって決定することができる。
【0017】
本明細書で使用される場合、「肝臓向性」又は「肝向性」という用語は、肝細胞を含む肝臓又は肝組織及び細胞に対する向性を意味する。
【0018】
本発明によれば、ハイブリッドAAVキャプシドタンパク質の肝臓向性は、親AAV9又はAAVrh74キャプシドタンパク質の肝臓向性と比較して、少なくとも20%、30%、40%、50%又はそれ以上、好ましくは少なくとも50%、60%、70%、80%、90%又は99%減少している。
【0019】
本発明によれば、ハイブリッドAAVキャプシドタンパク質は、筋肉細胞及び組織に対して向性を有する。
【0020】
筋肉組織には、特に心筋及び骨格筋組織が含まれる。
【0021】
本明細書で使用される場合、「筋肉細胞」という用語は、筋細胞、筋管、筋芽細胞及び/又は衛星細胞を意味する。
【0022】
一部の実施形態では、ハイブリッドAAVキャプシドタンパク質の筋肉向性は、親AAV9及び/又はAAVrh74キャプシドタンパク質の筋肉向性と類似している。好ましくは、ハイブリッドAAVキャプシドタンパク質の筋肉向性は、親AAV9及び/又はAAVrh74キャプシドタンパク質の筋肉向性の少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、99%又はそれ以上と同等である。
【0023】
一部の実施形態では、ハイブリッドAAVキャプシドタンパク質は、ハイブリッドVP1、VP2又はVP3タンパク質である。
【0024】
一部の実施形態では、ハイブリッドAAVキャプシドタンパク質は、少なくとも骨格筋組織に対して向性を有する。一部の好ましい実施形態では、ハイブリッドAAVキャプシドタンパク質は骨格筋及び心筋組織の両方に向性を有する。この型のハイブリッドの1例は、配列番号3のハイブリッドAAVキャプシド(実施例ではハイブリッドCap9-rh74と称する)である。この型のハイブリッドAAVキャプシドは、心筋及び骨格筋障害の治療に有用である。
【0025】
本発明によるハイブリッドAAVキャプシドタンパク質は、任意のAAV9及びAAVrh74キャプシドタンパク質配列から得ることができ、このような配列は当技術分野でよく知られており、公開配列データベースで入手可能である。例えば、AAV9キャプシドタンパク質はジェンバンク受入番号:AY530579.1;国際公開第2005/033321号パンフレットの配列番号123;国際公開第2012/112832号パンフレットの配列番号1;国際公開第2012/112832号パンフレットに開示されているように、271(D)、446(Y)及び470(N)位の1つ又は複数の天然残基が別のアミノ酸、好ましくはアラニンで置換されているAAV9キャプシドバリアント、米国特許出願公開第2014/0162319号に開示されているように、K143R、T251A、S499A、S669A及びS490A位の1つ又は複数でのAAV9キャプシドバリアントに対応している。AAVrh74キャプシドタンパク質は、国際公開第2015/013313号パンフレットの配列番号1、国際公開第2006/110689号パンフレットの配列番号6;国際公開第2013/123503号パンフレットの配列番号1;国際公開第2013/158879号パンフレットの配列番号4;及びK137R、K333R、K550R、K552R、K569R、K691R、K695R、K709Rバリアント及びそれらの組み合わせに対応している。
【0026】
一部の実施形態では、本発明によるハイブリッドAAVキャプシドタンパク質は、配列番号1のAAV9キャプシドタンパク質(ジェンバンクAY530579.1)及び配列番号2のAAVrh74タンパク質から得られる。
【0027】
一部の実施形態では、本発明によるハイブリッドAAVキャプシドタンパク質は、AAV9又はAAVrh74キャプシド配列における可変領域に対する、他のAAV血清型キャプシド配列の対応する可変領域による置換によって得られ、
AAV9キャプシドの可変領域は、配列番号1(参照配列)のAAV9キャプシドの331位から493位のいずれか1つから556位から736位のいずれか1つに位置する配列、又は配列番号1のAAV9キャプシドの493位から556位に位置する配列の少なくとも10、15、20、25、30、35、40、45、50、55若しくは60個の連続したアミノ酸の断片に対応し、
AAVrh74キャプシドの可変領域は、配列番号2(参照配列)のAAVrh74キャプシドの332位から495位のいずれか1つから558位から738位のいずれか1つに位置する配列、又は配列番号2のAAVrh74キャプシドの495位から558位に位置する配列の少なくとも10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、又は60個の連続したアミノ酸の断片に対応する。
【0028】
本発明は、上記で定義したように、任意のAAV9及びAAVrh74キャプシドタンパク質配列から、AAV9又はAAVrh74キャプシド配列の可変領域領域に対する、他のAAV血清型キャプシド配列の対応する可変領域による置換によって得られたハイブリッドAAVキャプシドタンパク質を包含する。本発明によれば、可変領域は、配列番号1のAAV9キャプシド及び配列番号2のAAVrh74キャプシドを参照として使用して定義される。例えば、BLAST、FASTA、CLUSTALW等の当技術分野でよく知られている標準タンパク質配列アラインメントプログラムを使用して、配列番号1を有する任意のその他のAAV9キャプシド配列又は配列番号2を有するその他のAAVrh74キャプシド配列のいずれかの配列アラインメント後、当業者は、その他のAAV9又はAAVrh74キャプシド配列における可変領域の対応する位置を容易に得ることができる。
【0029】
一部の好ましい実施形態では、本発明によるハイブリッドAAVキャプシドタンパク質は、配列番号1のAAV9キャプシド配列の449位から609位又は配列番号2のAAVrh74キャプシド配列の450位から611位に位置するものに対応する可変領域に対する、他の血清型の対応する可変領域による置換によって得られる。
【0030】
一部の実施形態では、前記ハイブリッドAAVキャプシドタンパク質は、配列番号3及び配列番号4の配列からなる群から選択される配列を含み、これらの配列は、前記配列と少なくとも85%、90%、95%、97%、98%又は99%の同一性を有し、それらの断片は、VP2又はVP3キャプシドタンパク質に対応する。VP2は、T138から配列番号3又は4の末端までのアミノ酸配列に対応する。VP3は、M203から配列番号3の末端まで、又はM204から配列番号4の末端までのアミノ酸配列に対応する。
【0031】
配列番号3は、配列番号1のAAV9キャプシドタンパク質から、AAV9可変領域(配列番号1の449位から609位)をAAVrh74キャプシドタンパク質の可変領域(配列番号2の450位から611位)で置換することによって得られ、対応するハイブリッドは実施例においてハイブリッドCap9-rh74と称される。VP2は、T138から配列番号3の末端までのアミノ酸配列に対応する。VP3は、M203から配列番号3の末端までのアミノ酸配列に対応する。
【0032】
配列番号4は、配列番号2のAAVrh74キャプシドタンパク質から、rh74可変領域(配列番号2の450位から611位)をAAV9キャプシドタンパク質の可変領域(配列番号1の449位から609位)で置換することによって得られ、対応するハイブリッドは実施例においてハイブリッドCaprh74-9と称される。VP2は、T138から配列番号4の末端までのアミノ酸配列に対応する。VP3は、M204から配列番号4の末端までのアミノ酸配列に対応する。
【0033】
一部の好ましい実施形態では、本発明によるハイブリッドAAVキャプシドタンパク質は、AAV9キャプシドタンパク質から、AAV9キャプシド配列の可変領域を上記で定義したAAVrh74キャプシド配列の対応する可変領域で置換することによって得られ、好ましくはハイブリッドAAVキャプシドタンパク質は、配列番号1のAAV9キャプシドの449位から609位に位置するものに対応する可変領域に対する、配列番号2のAAVrh74キャプシドの450位から611位に位置するものに対応する可変領域による置換を含む。好ましくは、前記ハイブリッドAAVキャプシドタンパク質は、配列番号3の配列及び前記配列に対して少なくとも85%、90%、95%、97%、98%又は99%の同一性を有する配列からなる群から選択される配列を含み、より好ましくは、配列番号3の配列を含む。
【0034】
「同一性」という用語は、2つのポリペプチド分子間又は2つの核酸分子間の配列類似性を意味する。比較された両配列の位置が同じ塩基又は同じアミノ酸残基によって占められている場合、それぞれの分子はその位置において同一である。2つの配列間の同一性のパーセンテージは、2つの配列によって共有される一致する位置の数を比較される位置の数で除して100を乗じたものに対応する。一般的に、比較は、同一性が最大になるように2つの配列が整列されている場合に行われる。同一性は、アラインメントによって、例えば、GCG(Genetics Computer Group, Program Manual for the GCG Package, Version 7, Madison, Wisconsin)パイルアッププログラム、又はBLAST、FASTA若しくはCLUSTALW等の配列比較アルゴリズムのいずれかを使用して計算することができる。
【0035】
一部の実施形態では、本発明のハイブリッドAAVキャプシドタンパク質は、高収量の組換えAAVベクター粒子を生成する。好ましくは、ハイブリッドキャプシド組換えAAVベクターの力価は、1mL当たり1011ウイルスゲノム(vg/mL)以上である。高収量の組換えAAVベクター粒子は、遺伝子療法への応用に有用である。
【0036】
一部の実施形態では、本発明のハイブリッドAAVキャプシドタンパク質は、追加の改変、例えば、AAVベクターによる骨格筋又は心筋組織のターゲティングを増加させる改変を更に含む。非限定的な例は、AAV VP2キャプシドタンパク質のN末端へのアントプロウリン-Bの融合である(Finet等、Virology、2018、513,43~51)。別の改変は、キャプシド表面に露出した部位、特に配列番号1の番号付けによると588位の周りへのペプチドの挿入である。このようなペプチドの非限定的な例は、Michelfelder等(PLoS ONE、2009、4、e5122)に開示されている。挿入部位は、配列番号1の番号付けによると587位から592位が有利である。ペプチドの挿入は、挿入部位からの残基の一部又は全ての欠失を引き起こすこともあれば、引き起こさないこともある。ペプチドは、例えばGQSG(配列番号35)及びAQAA(配列番号36)等の、そのN末端及び/又はC末端に5個以下のアミノ酸の固定配列を含むことができる20個以下のアミノ酸の配列を、ペプチドのN及びC末端それぞれに有すると有利である。
【0037】
一部の実施形態では、ペプチドは、配列番号12から34からなる群から選択される配列を含むか、又はこれらの配列からなる。好ましくは、前記ペプチドは、N末端及びC末端それぞれに、GQSG(配列番号35)及びAQAA(配列番号36)が隣接している。ペプチドは、配列番号1の番号付けによるとAAVキャプシドタンパク質の587位から592位の残基全てを置換すると有利である。ペプチドは、心筋組織、最終的には骨格筋組織へのターゲティングも増加させると有利である。一部の好ましい実施形態では、ペプチド改変ハイブリッドAAVキャプシドタンパク質は、配列番号9及び前記配列に対して少なくとも85%、90%、95%、97%、98%又は99%の同一性を有する配列からなる群から選択される配列を含むか又はこれらの配列からなり、より好ましくは、配列番号9の配列を含む。配列番号9は、配列番号12のペプチドの挿入によって、配列番号3のハイブリッドCap9-rh74から得られる。本発明はまた、本発明によるAAV9/rh74ハイブリッドVP3キャプシドタンパク質から得られるAAV VP1及びVP2キメラキャプシドタンパク質を包含し、VP1特異的N末端領域及び/又はVP2特異的N末端領域は、AAV9及びAAVrh74以外の天然又は人工のAAV血清型に由来する。
【0038】
一部の実施形態では、AAV VP1キメラキャプシドタンパク質は、
(i)AAV9及びAAVrh74以外の天然又は人工のAAV血清型の配列を有するVP1特異的N末端領域、
(ii)AAV9、AAVrh74又はAAV9及びAAVrh74以外の天然又は人工のAAV血清型の配列を有するVP2特異的N末端領域、並びに
(iii)本発明によるハイブリッドVP3タンパク質の配列を有するVP3 C末端領域を含む。
【0039】
一部の実施形態では、AAV VP2キメラキャプシドタンパク質は、
(i)AAV9及びAAVrh74以外の天然又は人工のAAV血清型の配列を有するVP2特異的N末端領域、及び
(ii)本発明によるハイブリッドVP3タンパク質の配列を有するVP3 C末端領域を含む。
【0040】
ポリペプチド、ベクター及びAAVベクター産生のための使用
本発明の別の態様は、発現可能な形で組換えハイブリッドAAVキャプシドタンパク質をコードするポリヌクレオチドである。ポリヌクレオチドは、DNA、RNA又は合成若しくは半合成の核酸であってもよい。
【0041】
一部の実施形態では、ポリヌクレオチドは、本発明によるハイブリッドVP1、VP2及びVP3キャプシドタンパク質をコードするAAV9/rh74ハイブリッドcap遺伝子である。一部の好ましい実施形態では、ポリヌクレオチドは、配列番号5の配列(配列番号3のハイブリッドAAVキャプシドタンパク質をコードする)又は配列番号7の配列(配列番号4のハイブリッドAAVキャプシドタンパク質をコードする)を含む。
【0042】
一部のその他の実施形態では、ポリヌクレオチドは、本発明によるAAV9/rh74ハイブリッドVP3キャプシドタンパク質及びキメラVP1キャプシドタンパク質及びおそらくキメラVP2キャプシドタンパク質もコードするキメラcap遺伝子であり、VP1特異的N末端領域及びおそらくVP2特異的N末端領域も、AAV9及びAAVrh74以外の天然又は人工のAAV血清型に由来する。このようなキメラcap遺伝子は、本発明によるAAV9/rh74ハイブリッドVP3キャプシドタンパク質のコード配列を、異なる選択されたAAV血清型、同じAAV血清型の非連続部分、非ウイルス性AAV源又は非ウイルス源から得ることができる異種配列と組み合わせて使用して、任意の適切な技術によって生成することができる。
【0043】
一部の実施形態では、ポリヌクレオチドは、発現可能な形でAAVレプリカーゼ(Rep)タンパク質、好ましくはAAV2のRepを更にコードする。
【0044】
ポリヌクレオチドは、特にウイルスベクター、プラスミド又はRNAベクター等の、染色体、非染色体、合成又は半合成の核酸からなる直鎖状又は環状のDNA又はRNA分子を非限定的に含む組換えベクターに挿入すると有利である。
【0045】
目的の核酸分子を真核宿主細胞に導入して維持するために、目的の核酸分子を挿入することができるベクターは、それ自体多数知られており、適切なベクターの選択は、このベクターに想定される使用(例えば、目的の配列の複製、この配列の発現、染色体外形態でのこの配列の維持、又は宿主の染色体材料への他の組み込み)に応じて及び宿主細胞の性質に応じても左右される。
【0046】
一部の実施形態では、ベクターはプラスミドである。
【0047】
本発明で使用するための組換えベクターは、ハイブリッドAAVキャプシドタンパク質及びおそらくAAV Repタンパク質も発現するための適切な手段を含む発現ベクターである。通常、各コード配列(ハイブリッドAAV Cap及びAAV Rep)は、同じベクター中の別個の発現カセットに、又は別々に挿入される。各発現カセットは、特にプロモーター、プロモーター/エンハンサー、開始コドン(ATG)、終止コドン、転写終結シグナル等のAAV産生細胞における対応するタンパク質の発現を可能にする調節配列に、機能的に結合したコード配列(オープンリーディングフレーム又はORF)を含む。或いは、ハイブリッドAAV Cap及びAAV Repタンパク質は、2つのコード配列又はウイルス2Aペプチドの間に挿入された配列内リボソーム侵入部位(IRES)を使用して、特有の発現カセットから発現され得る。更に、ハイブリッドAAV Cap、及び存在するならばAAV Repをコードするコドン配列は、AAV産生細胞、特にヒト産生細胞における発現のために最適化されると有利である。
【0048】
ベクター、好ましくは組換えプラスミドは、当技術分野でよく知られている標準的なAAV産生方法を使用して、本発明のハイブリッドAAVキャプシドタンパク質を含むハイブリッドAAVベクターを産生するのに有用である(Aponte-Ubillus等の概説、Applied Microbiology and Biotechnology、2018、102:1045~1054)。
【0049】
同時トランスフェクションに続いて、AAVベクター粒子の産生を可能にするのに十分な時間細胞をインキュベートし、次に細胞を収集し、溶解して、AAVベクター粒子を、例えば、塩化セシウム密度勾配超遠心分離等の標準的精製方法によって精製する。
【0050】
AAV粒子、医薬組成物及び治療上の使用
本発明の別の態様は、本発明のハイブリッド組換えAAVキャプシドタンパク質を含むAAV粒子である。AAV粒子は、本発明によるハイブリッドcap遺伝子によってコードされるハイブリッドVP1、VP2及びVP3キャプシドタンパク質を含むことができる。或いは、又は更に、AAV粒子は、本発明によるキメラcap遺伝子によってコードされるキメラVP1及びVP2キャプシドタンパク質及びハイブリッドVP3タンパク質を含むことができる。
【0051】
一部の実施形態では、AAV粒子は、AAV9及びAAVrh74血清型以外の天然又は人工のAAV血清型の別のAAVキャプシドタンパク質を更に含むモザイクAAV粒子であり、モザイクAAV粒子は、AAV9及びAAVrh74血清型と比較して減少した肝臓向性を有する。人工AAV血清型は、キメラAAVキャプシド、組換えAAVキャプシド、又はヒト化AAVキャプシドであってもよいが、それらに限定されない。このような人工キャプシドは、選択されたAAV配列(例えば、VP1キャプシドタンパク質の断片)を、異なる選択されたAAV血清型、同じAAV血清型の非連続部分、非ウイルス性AAV源又は非ウイルス源から得ることができる異種配列と組み合わせて使用して、任意の適切な技術によって生成することができる。
【0052】
好ましくは、AAV粒子はAAVベクター粒子である。AAVベクターのゲノムは、一本鎖又は自己相補的二本鎖ゲノムのいずれであってもよい(McCarty等、Gene Therapy、2003、Dec.、10(26)、2112~2118)。自己相補的ベクターは、AAV末端リピートの1つから末端分離部位(terminal resolution site)(trs)を削除することによって生成される。複製ゲノムが野生型AAVゲノムの半分の長さであるこれらの改変ベクターは、DNA二量体をパッケージ化する傾向を有する。AAVゲノムにはITRが隣接している。特定の実施形態では、AAVベクターは、シュードタイプ型ベクターであり、すなわち、そのゲノム及びキャプシドは、異なる血清型のAAVから得られる。一部の好ましい実施形態では、シュードタイプ型ベクターのゲノムはAAV2から得られる。
【0053】
一部の好ましい実施形態では、AAVベクター粒子は目的の遺伝子をパッケージ化している。
【0054】
AAV粒子は、本発明の組換えAAVベクター粒子を産生する方法を使用して得ることができる。
【0055】
「目的の遺伝子」とは、限定はしないが、診断、レポーティング、改変、療法及びゲノム編集等の特定の適用に有用な遺伝子を意味する。
【0056】
例えば、目的の遺伝子は、治療用遺伝子、レポーター遺伝子又はゲノム編集酵素であってもよい。
【0057】
「治療を目的とする遺伝子」、「治療目的の遺伝子」又は「目的の異種遺伝子」とは、治療用遺伝子又は治療用タンパク質、ペプチド若しくはRNAをコードする遺伝子を意味する。
【0058】
目的の遺伝子は、特に筋肉細胞において、標的遺伝子又は標的細胞経路を改変することができる任意の核酸配列である。例えば、この遺伝子は、標的遺伝子の発現、配列、又は調節、若しくは細胞経路を改変することができる。一部の実施形態では、目的の遺伝子は、遺伝子又はその断片の機能型である。前記遺伝子の機能型には、野生型遺伝子、同じファミリー等に属するバリアント等のバリアント遺伝子、又はコードされたタンパク質の機能を少なくとも部分的に保持する切断型が含まれる。遺伝子の機能型は、患者において欠損しているか、又は機能していない遺伝子を置換するための置換又は追加遺伝子療法に有用である。その他の実施形態では、目的の遺伝子は、常染色体優性遺伝性疾患を引き起こす優性対立遺伝子を不活性化する遺伝子である。遺伝子の断片は、ゲノム編集酵素と組み合わせて使用するための組換え鋳型として有用である。
【0059】
或いは、目的の遺伝子は、特定の適用のための目的のタンパク質(例えば、抗体又は抗体断片、ゲノム編集酵素)又はRNAをコードすることができる。一部の実施形態では、タンパク質は、治療用抗体若しくは抗体断片を含む治療用タンパク質又はゲノム編集酵素である。一部の実施形態では、RNAは治療用RNAである。目的の遺伝子は、疾患の標的細胞、特に筋肉細胞においてコードされるタンパク質、ペプチド又はRNAを産生することができる機能遺伝子である。AAVウイルスベクターは、心筋及び骨格筋細胞を含む、筋肉細胞で発現可能な形で目的の遺伝子を含む。特に、目的の遺伝子は、筋肉細胞で機能する遍在性の組織特異的又は誘導性プロモーターに操作可能に結合している。目的の遺伝子は、ポリA配列を更に含む発現カセットに挿入することができる。
【0060】
RNAは、標的DNA又はRNA配列に相補的であるか、又は標的タンパク質に結合すると有利である。例えば、RNAは、shRNA、マイクロRNA等の干渉RNA、Cas酵素又はゲノム編集用の類似の酵素と組み合わせて使用するためのガイドRNA(gRNA)、改変された低分子核内RNA(snRNA)又は長いノンコーディングRNA等のエクソンスキッピングを可能にするアンチセンスRNAである。干渉RNA又はマイクロRNAは、筋肉疾患に関与する標的遺伝子の発現を調節するために使用することができる。Cas酵素又はゲノム編集用の類似の酵素と複合体を形成したガイドRNAを使用して、標的遺伝子の配列を改変し、特に、突然変異/欠損遺伝子の配列を修正したり、疾患、特に神経筋疾患に関与する標的遺伝子の発現を改変したりすることができる。エクソンスキッピングが可能なアンチセンスRNAは、特にリーディングフレームを修正し、リーディングフレームが破壊された欠損遺伝子の発現を回復させるために使用される。一部の実施形態では、RNAは治療用RNAである。
【0061】
本発明によるゲノム編集酵素は、特に筋肉細胞において、標的遺伝子又は標的細胞経路を改変することができる任意の酵素又は酵素複合体である。例えば、ゲノム編集酵素は、標的遺伝子の発現、配列、又は調節、若しくは細胞経路を改変することができる。ゲノム編集酵素は、限定はしないが、メガヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターベースヌクレアーゼ(TALEN)、クラスター化して規則的な配置の回文配列リピート(CRISPR)-CasシステムのCas酵素及び類似の酵素等の遺伝子操作されたヌクレアーゼが有利である。ゲノム編集酵素、特にCas酵素及び類似の酵素等の遺伝子操作されたヌクレアーゼは、標的ゲノム遺伝子座で二本鎖切断(DSB)を生成し、限定はしないが、遺伝子修正、遺伝子置換、遺伝子ノックイン、遺伝子ノックアウト、突然変異誘発、染色体転座、染色体欠失等を含む部位特異的ゲノム編集適用に使用される機能的ヌクレアーゼであってもよい。部位特異的ゲノム編集適用では、ゲノム編集酵素、特にCas酵素及び類似の酵素等の遺伝子操作されたヌクレアーゼを、相同組換え(HR)マトリックス又は鋳型(DNAドナー鋳型とも称する)と組み合わせて使用することができ、二本鎖切断(DSB)によって誘導される相同組換えによって、標的ゲノム遺伝子座を改変する。特に、HR鋳型は、目的の導入遺伝子を標的ゲノム遺伝子座に導入するか、又は標的ゲノム遺伝子座、好ましくは神経筋疾患を引き起こす異常な、又は欠損した遺伝子における突然変異を修復することができる。或いは、Cas酵素及び類似の酵素等のゲノム編集酵素を遺伝子操作して、ヌクレアーゼ欠損にすることができ、限定はしないが、転写活性化、転写抑制、エピゲノム修飾、ゲノムイメージング、DNA又はRNAプルダウン等の様々なゲノム工学適用のためのDNA結合タンパク質として使用することができる。
【0062】
本発明の別の態様は、本発明のハイブリッド組換えAAVキャプシドタンパク質を含む治療有効量のAAV粒子、好ましくは目的の治療用遺伝子をパッケージングしたAAVベクター粒子を含む医薬組成物である。
【0063】
本発明の一部の実施形態では、本発明の医薬組成物は、特に遺伝子療法において、医薬として使用するためのものである。本発明は、特に遺伝子療法による疾患の治療のための医薬としての本発明の医薬組成物の使用を包含する。
【0064】
遺伝子療法は、核、ミトコンドリアに含まれる核酸配列、若しくは限定はしないが、細胞に含有されるウイルス配列等の共生核酸を含む、細胞内の任意のコーディング配列又は調節配列の遺伝子導入、遺伝子編集、エクソンスキッピング、RNA干渉、トランススプライシング又は任意のその他の遺伝子修飾によって実施することができる。
【0065】
遺伝子療法の2つの主な種類は以下の通りである:
- 欠損/異常遺伝子に機能的置換遺伝子を提供することを目的とする療法:これは置換又は付加遺伝子療法である。
- 遺伝子又はゲノム編集を目的とした療法:このような場合、目的は、機能遺伝子を発現させたり、異常な遺伝子を抑制(不活性化)したりするように、細胞に必要なツールを提供して、配列を修正したり、欠損/異常遺伝子の発現又は調節を改変したりすることである:これは遺伝子編集療法である。
【0066】
付加遺伝子療法において、目的の遺伝子は、例えば、遺伝性疾患の場合のように、患者において欠損又は突然変異している遺伝子の機能型であってもよい。この場合、目的の遺伝子は機能遺伝子の発現を回復させる。
【0067】
遺伝子又はゲノム編集は、
(i)shRNA若しくはマイクロRNAのような干渉RNA、Cas酵素若しくは類似の酵素と組み合わせて使用するためのガイドRNA(gRNA)、又は改変された低分子核内RNA(snRNA)等のエクソンスキッピングを可能にするアンチセンスRNA等の上記で定義した治療用RNAをコードする遺伝子、及び
(ii)メガヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターベースヌクレアーゼ(TALEN)のような遺伝子操作されたヌクレアーゼ、Cas酵素又は類似の酵素等の上記で定義したゲノム編集酵素をコードする遺伝子又はこのような遺伝子の組み合わせ、及びおそらく、上記で定義したように、組換え鋳型として使用するための遺伝子の機能型の断片等の、1つ又は複数の目的の遺伝子を使用する。
【0068】
遺伝子療法は、限定はしないが、遺伝性疾患、特に、神経筋遺伝性障害、がん、神経変性疾患及び自己免疫疾患を含む様々な疾患の治療に使用される。
【0069】
一部の実施形態では、遺伝子療法は、限定はしないが、神経筋遺伝性障害、心筋症、横紋筋肉腫、多発性筋炎、皮膚筋炎、若年性多発性筋炎等の筋肉組織、特に、骨格筋組織及び/又は心臓組織に罹患する疾患を治療するために使用される。
【0070】
本発明の医薬組成物を使用する遺伝子療法の標的となり得る神経筋遺伝性障害における突然変異遺伝子の例を以下の表に挙げる。
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】
【0073】
【表3】
【0074】
【表4】
【0075】
【表5】
【0076】
【表6】
【0077】
【表7】
【0078】
【表8】
【0079】
【表9】
【0080】
【表10A】
【表10B】
【表10C】
【0081】
【表11】
【0082】
【表12A】
【表12B】
【0083】
【表13A】
【表13B】
【0084】
【表14A】
【表14B】
【0085】
【表15】
【0086】
上記に挙げた遺伝子のいずれか1つは、置換遺伝子療法において標的となることができ、目的の遺伝子は、欠損又は変異遺伝子の機能型である。
【0087】
或いは、上記に挙げた遺伝子は、遺伝子編集の標的として使用することができる。遺伝子編集は、機能遺伝子が筋肉細胞で発現されるように、突然変異した遺伝子の配列を修正したり、欠損/異常遺伝子の発現又は調節を改変したりするために使用される。このような場合、目的の遺伝子は、干渉RNA、ゲノム編集用のガイドRNA及びエクソンスキッピングを可能にするアンチセンスRNA等の治療用RNAをコードする遺伝子から選択され、治療用RNAは前述の遺伝子のリストを標的とする。その目的のために、CRISPR/Cas9等のツールを使用することができる。
【0088】
一部の実施形態では、遺伝子療法(付加遺伝子療法又は遺伝子編集)のための標的遺伝子は、上記に挙げた筋ジストロフィーの1つ、特にDMD(DMD、BMD遺伝子)、LGMD(CAPN3遺伝子等)、顔面肩甲上腕型ジストロフィー、1型(FSHD1A;DUX4又はFRG1遺伝子)及び2型(FSHD1B;SMCHD1遺伝子)及びチチノパシー(TTN遺伝子)に関与する遺伝子である。
【0089】
一部の実施形態では、本発明の医薬組成物は、筋肉疾患(すなわち、ミオパチー)又は筋肉損傷、特に、例えば、筋ジストロフィー、先天性筋ジストロフィー、先天性ミオパチー、遠位型ミオパチー、その他のミオパチー、筋硬直症候群、イオンチャネル筋疾患、悪性高熱症、代謝性ミオパチー、遺伝性心筋症、先天性筋無力症候群、運動ニューロン疾患、遺伝性対麻痺、遺伝性運動及び感覚性ニューロパチー並びにその他の神経筋障害等の肝臓障害を伴わない神経筋遺伝性障害を治療するために使用するためのものである。
【0090】
筋ジストロフィーには特に、
- ジストロフィン異常症、タンパク質ジストロフィンをコードするDMD遺伝子の病原性バリアントによって引き起こされる一連のX連鎖性筋疾患。ジストロフィン異常症は、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)、ベッカー型ジストロフィー(BMD)及びDMD関連拡張型心筋症を含む;
- DMDと臨床的に類似しているが、常染色体劣性及び常染色体優性遺伝の結果として両性別に生じる一群の障害である肢帯型筋ジストロフィー(LGMD)。肢帯型筋ジストロフィーは、サルコグリカン及びジストロフィンと相互作用する筋細胞膜に関連したその他のタンパク質をコードする遺伝子の突然変異によって引き起こされる。用語LGMD1は、優性遺伝(常染色体優性)を示す遺伝子型を意味し、一方、LGMD2は常染色体劣性遺伝の型を意味する。50個を上回る遺伝子座での病原性バリアントが報告されている(LGMD1AからLGMD1H;LGMD2AからLGMD2Y)。カルパイノパチー(LGMD2A)は、遺伝子CAPN3の突然変異によって引き起こされ、450個を上回る病原性バリアントがある;
- EMD遺伝子(エメリンをコードする)を含む遺伝子の1つ、FHL1遺伝子及びLMNA遺伝子(ラミンA及びCをコードする)における欠損によって引き起こされるエメリ-ドレフュス型筋ジストロフィー(EDMD);
- それぞれSYNE1及びSYNE2遺伝子における欠損によって引き起こされるネスプリン-1及びネスプリン-2関連筋ジストロフィー;TMEM43遺伝子における欠損によって引き起こされるLUMA関連筋ジストロフィー;TOR1AIP1遺伝子における欠損によって引き起こされるLAP1B関連筋ジストロフィー、並びに
- DUX4遺伝子(染色体4q35のサブテロメア領域におけるD4Z4マクロサテライトリピートの収縮)又はFRG1遺伝子の欠損に関連するような顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー、1型(FSHD1A);SMCHD1遺伝子の欠陥によって引き起こされる顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー、2型(FSHD1B)が含まれる。
【0091】
遺伝子編集の具体例は、カルパイン-3遺伝子(CAPN3)の突然変異によって引き起こされる肢帯型筋ジストロフィー2A(LGMD2A)の治療であろう。その他の例は、DMD又はTNT遺伝子の突然変異の治療であろう。
【0092】
したがって、遺伝子編集又は遺伝子置換によって、この遺伝子の正常型が罹患した患者の筋肉細胞にもたらされ、この病気に対する効果的な療法に寄与することができる。上記に挙げた筋肉のその他の遺伝性疾患は、同じ原理を使用する遺伝子置換又は遺伝子編集によって治療することができよう。
【0093】
置換又は付加遺伝子療法は、がん、特に横紋筋肉腫の治療に使用することができる。がんにおける目的の遺伝子は、細胞周期又は腫瘍細胞の代謝及び移動を調節したり、腫瘍細胞死を誘導したりすることができる。例えば、誘導性カスパーゼ-9は、細胞死を誘発するために筋肉細胞において、好ましくは、持続性の抗腫瘍免疫応答を惹起するための併用療法において発現させることができる。
【0094】
遺伝子編集は、自己免疫又はがんの場合、筋肉細胞における遺伝子発現を改変するために、又はこのような細胞におけるウイルスのサイクルを混乱させるために使用することができる。このような場合、好ましくは、目的の遺伝子は、ガイドRNA(gRNA)、部位特異的エンドヌクレアーゼ(TALEN、メガヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、Casヌクレアーゼ)、DNA鋳型並びにshRNA及びマイクロRNA等のRNAi成分をコードする遺伝子から選択される。その目的のためにCRISPR/Cas9等のツールを使用することができる。
【0095】
一部の実施形態では、遺伝子療法は、筋肉組織における治療用遺伝子の発現によって、他の組織に罹患する疾患を治療するために使用される。これは、特に肝炎等の肝障害を併発している患者において、肝臓での治療用遺伝子の発現を回避するのに有用である。治療用遺伝子は、好ましくは、筋肉細胞から血流に分泌され、そこで、例えば肝臓等のその他の標的組織に送達され得る治療用タンパク質、ペプチド又は抗体をコードする。治療用遺伝子の例には、第VIII因子、第IX因子及びGAA遺伝子が挙げられるこれらに限定されない。
【0096】
減少した肝臓向性を有するAAVベクター粒子を含む本発明の医薬組成物は、例えば、ウイルス性又は毒性肝炎を含む肝炎等の肝疾患を併発した患者に投与することができる。
【0097】
本発明の文脈において、治療有効量とは、このような用語が適用される障害若しくは状態の進行を逆転、緩和若しくは阻害するため、又はこのような用語が適用される障害若しくは状態の1つ又は複数の症状の進行を逆転、緩和若しくは阻害するために十分な用量を意味する。
【0098】
有効量は、使用する組成物、投与経路、性別、年齢及び体重等の検討中の個体の身体的特徴、併用薬並びに医療に熟練した人が認識しているその他の要因等の要因に応じて決定及び調整される。
【0099】
本発明の様々な実施形態では、医薬組成物は、薬学的に許容される担体及び/又は媒体を含む。
【0100】
「薬学的に許容される担体」とは、哺乳類、適切ならば、特にヒトに投与したとき、副作用、アレルギー反応又はその他の有害な反応を起こさない媒体を意味する。薬学的に許容される担体又は賦形剤とは、毒性のない固体、半固体又は液体の充填剤、希釈剤、カプセル化材料又はあらゆる種類の製剤補助剤を意味する。
【0101】
好ましくは、医薬組成物は、注射可能な製剤のための薬学的に許容される媒体を含有する。これらは、特に等張性の滅菌された生理食塩水(リン酸1ナトリウム若しくは2ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム又は塩化マグネシウム等、又はこのような塩の混合物)、或いは、場合に応じて、滅菌水又は生理食塩水の添加時に、注射液の構成を可能にする、乾燥した、特に凍結乾燥した組成物であってもよい。
【0102】
注射使用に適した剤形には、滅菌水溶液又は懸濁液が含まれる。溶液又は懸濁液は、ウイルスベクターに適合しており、ウイルスベクター粒子の標的細胞への侵入を妨げない添加剤を含んでいてもよい。いずれの場合においても、その剤形は無菌でなければならず、動きやすい注射器の能力が発揮される程度に流動性でなければならない。製造及び保存の条件下で安定していなければならず、細菌及び真菌等の微生物の汚染作用から保護されていなければならない。適切な溶液の1例は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)又は乳酸リンゲル液等の緩衝液である。
【0103】
本発明はまた、筋肉組織、特に骨格筋組織及び/又は心臓組織に罹患する疾患を治療するための方法を提供し、前述の治療有効量の医薬組成物を患者に投与することを含む。
【0104】
本発明はまた、筋肉組織における治療用遺伝子の発現によって疾患を治療するための方法を提供し、前述の治療有効量の医薬組成物を患者に投与することを含む。
【0105】
本明細書で使用される場合、用語「患者」又は「個体」は哺乳類を意味する。好ましくは、本発明による患者又は個体はヒトである。
【0106】
本発明の文脈において、本明細書で使用したような「治療する」又は「治療」という用語は、このような用語が適用される障害又は状態の進行を逆転、緩和又は阻害すること、或いはこのような用語が適用される障害又は状態の1つ又は複数の進行を逆転、緩和又は阻害することを意味する。
【0107】
本発明の医薬組成物は一般に、公知の手法に従って、患者において治療効果を誘導するのに有効な投与量及び期間で投与される。
【0108】
投与は、非経口、経口、局所又は局所領域であってもよい。非経口投与は、皮下(SC)、筋肉内(IM)、静脈内(IV)等の血管内、腹腔内(IP)、皮内(ID)等への注射又は灌流によると有利である。好ましくは、投与は、全身に、すなわち横隔膜及び心臓を含む患者の全筋肉に全身効果をもたらす。好ましくは、投与は全身的であり、より好ましくは非経口的である。
【0109】
本発明の実施は、特に示されていない限り従来の技術を使用し、これらは当業者の技術の範囲内である。このような技術は、文献に完全に説明されている。
【0110】
本発明は、以下の添付の図面を参照して、以下の実施例によって例示されるが、これらに限定はされない。
【図面の簡単な説明】
【0111】
図1】AAV9とAAVrh74との間の新しいハイブリッドAAV血清型の設計を示した図である。 A.可変領域の配列を強調したAAV9及びAAVrh74のCap遺伝子(VP1)。可変領域のN末端及びC末端配列は、AAV9については配列番号37及び配列番号38であり、AAVrh74については配列番号39及び配列番号40である。B.ハイブリッドAAV9-rh74及びハイブリッドAAVrh74-9 Cap遺伝子(VP1)。
図2】AAV9とAAVrh74との間の新しいハイブリッドAAV血清型の産生を示した図である。 AAV9-rh74及びAAVrh74-9ハイブリッド血清型及び対照(AAV9、AAVrh74)は、HEK293T細胞で産生された。ウイルスゲノムは、TaqmanリアルタイムPCRによって定量された。エラーバーはSEMを表す。
図3】体内分布研究の設計を示した図である。 Vg:ウイルスゲノム。
図4A】AAVハイブリッド血清型の全身投与後の筋肉及び器官における導入遺伝子発現の定量を示した図である。 ルシフェラーゼ発現は、AAV9-rh74及びAAVrh74-9ハイブリッド血清型及び対照(AAV9、AAVrh74)を注射されたマウス(低用量=2E10vg/マウス(A及びC)又は高用量=1E11vg/マウス(B及びD))の骨格筋(A及びB)及び器官(C及びD)で定量された。エラーバーはSEMを表す。TA: 前脛骨筋。Pso:腰筋。Qua:4頭筋。Dia:横隔膜。RLU:発光量。
図4B】AAVハイブリッド血清型の全身投与後の筋肉及び器官における導入遺伝子発現の定量を示した図である。 ルシフェラーゼ発現は、AAV9-rh74及びAAVrh74-9ハイブリッド血清型及び対照(AAV9、AAVrh74)を注射されたマウス(低用量=2E10vg/マウス(A及びC)又は高用量=1E11vg/マウス(B及びD))の骨格筋(A及びB)及び器官(C及びD)で定量された。エラーバーはSEMを表す。TA: 前脛骨筋。Pso:腰筋。Qua:4頭筋。Dia:横隔膜。RLU:発光量。
図4C】AAVハイブリッド血清型の全身投与後の筋肉及び器官における導入遺伝子発現の定量を示した図である。 ルシフェラーゼ発現は、AAV9-rh74及びAAVrh74-9ハイブリッド血清型及び対照(AAV9、AAVrh74)を注射されたマウス(低用量=2E10vg/マウス(A及びC)又は高用量=1E11vg/マウス(B及びD))の骨格筋(A及びB)及び器官(C及びD)で定量された。エラーバーはSEMを表す。TA: 前脛骨筋。Pso:腰筋。Qua:4頭筋。Dia:横隔膜。RLU:発光量。
図4D】AAVハイブリッド血清型の全身投与後の筋肉及び器官における導入遺伝子発現の定量を示した図である。 ルシフェラーゼ発現は、AAV9-rh74及びAAVrh74-9ハイブリッド血清型及び対照(AAV9、AAVrh74)を注射されたマウス(低用量=2E10vg/マウス(A及びC)又は高用量=1E11vg/マウス(B及びD))の骨格筋(A及びB)及び器官(C及びD)で定量された。エラーバーはSEMを表す。TA: 前脛骨筋。Pso:腰筋。Qua:4頭筋。Dia:横隔膜。RLU:発光量。
【発明を実施するための形態】
【0112】
実施例1:AAV9-rh74及びrh74-AAV9キャプシドを含むハイブリッドrAAV血清型ベクターの設計及び産生
1.材料及び方法
新しい血清型のためのプラスミド構築
AAV2Rep配列及びハイブリッドCap9-rh74を含有するプラスミドを構築するために、AAV9Cap配列断片及び5'に制限部位BsiWI及び3'にEco47IIIが隣接しているAAV-rh74Capの超可変部分を含有する1029ntの断片を合成した(GENEWIZ)。次に、この断片を、AAV2Rep及びAAV9Capを含有するプラスミドpAAV2-9に上記の制限部位を使用して挿入し、AAV9Cap対応する配列を置換した。
【0113】
AAV2Rep配列及びハイブリッドCaprh74-9を含有するプラスミドを構築するために、AAVrh74Cap配列の残部、AAV2Rep配列の一部、5'に制限部位HindIII及び3'にPmeIが隣接しているAAV-9Capの超可変部分を含有する2611ntの断片を合成した(GENEWIZ)。次に、この断片を、AAV2Rep及びAAV9Capを含有するプラスミドpAAV2-9に上記の制限部位を使用して挿入し、AAV9Cap配列全体を置換した。
【0114】
AAV産生
この研究では、2つの生産規模に対応する2つの手法を使用した。小規模条件では、マルチウェル6プレートにおいて、10%ウシ胎児血清(FBS)を添加したDMEMで、接着性HEK293を増殖させる。大規模の条件では、HEK293Tを無血清培地250mLに懸濁して増殖させる。細胞は、3つのプラスミド:i)ホタルルシフェラーゼをコードする発現カセットに隣接するAAV2 ITRを含有する導入遺伝子プラスミド、ii)AAV産生に必要なアデノウイルス配列を含有するヘルパープラスミドpXX6、並びにiii)AAVの血清型を定義する、AAVRep及びCap遺伝子を含有するプラスミドでトランスフェクトする。トランスフェクションして2日後、細胞を溶解してAAV粒子を遊離させる。
【0115】
ウイルス溶解物は、2回の塩化セシウム密度勾配超遠心分離とそれに続く透析又はアフィニティークロマトグラフィーによって精製する。ウイルスゲノムは、AAVベクターゲノムのITRに対応するプライマー及びプローブを使用したTaqManリアルタイムPCRアッセイによって定量する(Rohr等、J. Virol. Methods、2002、106、81~88)。
【0116】
2.結果
新しい血清型の設計
AAV9(配列番号1)及びAAV-rh74(配列番号2)VP1タンパク質(Cap遺伝子によってコードされる)のアミノ酸配列をBlastpを使用して整列させ、AAV9Capのアミノ酸449位から609位、及びAAV-rh74Capの450位から611位に及ぶ超可変領域を検出した(図1A)。次に、2つの新しいCap遺伝子(配列番号5及び配列番号7)を、各血清型の超可変領域をその他の領域で置換することによって構築した(図1B)。これら2つのハイブリッドCap遺伝子を、AAV2Rep配列を含有するプラスミドに挿入し、組換えAAV粒子の産生を可能にした。新しい血清型は、その主要部分にAAV9Cap配列及びAAV-rh74超可変部分を含有する血清型について「ハイブリッドAAV9-rh74」(配列番号3)、その主要部分にAAVrh74Cap配列及びAAV9超可変部分を含有する血清型について「ハイブリッドAAVrh74-9」(配列番号4)と称された。
【0117】
新しいハイブリッドAAV血清型の産生
AAV産生は、新しいハイブリッド血清型及び対照を使用して2つの異なる規模(6ウェルプレートにおける2mL、又は懸濁液における250mL培養)で実施した。図2に示したように、新しいハイブリッド血清型は、遺伝子導入適用に適した収量で産生することができる。
【0118】
実施例2:AAV9-rh74及びAAVrh74-9キャプシドを含むハイブリッドAAV血清型ベクターの体内分布研究
1.材料及び方法
インビボ実験
AAVベクターは、1カ月齢のB6Albino雄マウスに尾静脈への静脈内注射によって投与した。低用量の2E10(2.1010)ウイルスゲノム(vg)/マウス及び高用量の1E11(1011)vg/マウスの2つの用量を評価した。注射して15日後、予め麻酔し(ケタミン+キシラジン)、ルシフェリンを腹腔内注射したマウスにおいて、ルシフェラーゼイメージングをIVIS Luminaデバイス(PERKIN ELMER)を使用して実施した。注射して30日後、マウスを殺処分し、骨格筋及び器官を採取し、液体窒素で凍結した。
【0119】
分子分析
試料は、プロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche)を補給した溶解緩衝液(トリスベース25mM、MgCl2 8mM、DTT 1mM、EDTA 1mM、グリセロール15%、Triton X-100 0.2%)中でホモジナイズした。試料溶解物のルシフェラーゼ発現の定量は、ルシフェリン83μMを即座に補給したアッセイ緩衝液(トリスベース25mM、MgCl2 8mM、DTT 1mM、EDTA 1mM、グリセロール15%、ATP2mM)中において、Enspireマルチモードプレートリーダー(Roche)を使用して実施した。試料中のタンパク質の総量は、Pierce BCAタンパク質アッセイキット(ThermoFisher)を使用して測定した。ルシフェラーゼルミネセンスの結果は、総タンパク質量によって正規化した。
【0120】
試料中のウイルスゲノム(ベクターコピー数についてはVCN)を定量するために、NucleoSpin Tissue(Macherey-Nagel)を使用して試料からDNAを抽出した。リアルタイムPCRは、DNA 100ngに対して、AAVベクター滴定について前述したのと同じ手順を使用して実施した。ゲノム対照として使用するために、タイチン遺伝子のエクソンMex5を同じ実験で増幅した。
【0121】
2.結果
新しい血清型の生体分布を評価するために、遍在性CMVプロモーターの制御下にルシフェラーゼレポーター遺伝子をコードする発現カセットを含有するハイブリッドAAV及び対照ベクターを産生した。ベクターは、全身注射によって、2つの用量(低用量=2E10vg/マウス;高用量=1E11vg/マウス)でマウスに投与された。
【0122】
投与15日後に全身イメージングを実施し、発現1カ月後に様々な骨格筋及び器官を採取した(図3)。
【0123】
採取後、筋肉及びその他の器官におけるルシフェラーゼ発現を定量し、その後様々な骨格筋及び器官中における試料中の総タンパク質量によって正規化した。
【0124】
筋肉では、ハイブリッドAAV 9-74は、AAVrh74と同様に、骨格筋及び心筋を含む試験した筋肉全てにおいて良好なレベルの導入遺伝子発現を可能にした(図4Aから図4D)。驚くべきことに、AAV9又はAAV-rh74対照の高レベルの導入遺伝子発現と比較して、両ハイブリッドは肝臓における導入遺伝子発現が劇的に減少している(図4C及び図4D)。
【0125】
筋肉組織だけでなく肝臓にも効率的に感染する2つの血清型、AAV9及びAAV-rh74の組み合わせを使用して、2つの新しい血清型を生成した。得られたハイブリッドは、肝臓を効率的に形質導入することなく、骨格筋における遺伝子導入を示す。したがって、これらのハイブリッド血清型は、肝臓ではなく骨格筋の形質導入が必要な場合に関心が持たれる。
【0126】
実施例3:ペプチド改変ハイブリッドAAV9-rh74血清型ベクター
ハイブリッドCap9-rh74の配列は、筋肉組織に対するハイブリッドAAV9-rh74血清型ベクターの向性を増加させるためにペプチドで改変された。AAVキャプシド改変は、Kienle EC(Dissertation for the degree of Doctor of natural Sciences, Combined Faculties for the Natural Sciences and for Mathematics of the Ruperto-Carola University of Heidelberg、Germany、2014)に従って、Michelfelder等(PLoS ONE、2009、4、e5122)で開示されたペプチドを使用して実施した。簡単に説明すると、ハイブリッドCap9-rh74のVP1(配列番号3の587位から592位)に存在するヘキサペプチドQQNAAP(配列番号41)をオクタペプチドGQSGAQAA(配列番号42)に突然変異させ、ペプチドP1(RGDLGLS;配列番号12)を、4位のグリシンと5位のアラニンとの間に挿入する。ペプチドP1で改変されたハイブリッドCap9-rh74は、アミノ酸配列配列番号9を有し、対応するコード配列は配列番号10である。ベクターは、懸濁液中で増殖したHEK293細胞におけるトリプルトランスフェクションによって産生し、実施例1で説明したようにアフィニティークロマトグラフィーによって精製する。実施例2で説明したように、ベクターをマウスに注射し、注射して1カ月後にマウスを殺処分し、組織を収集して、体内分布を評価する。この改変の期待される効果は、筋肉組織中におけるベクターの量の増加である。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
【配列表】
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