(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-26
(45)【発行日】2023-11-06
(54)【発明の名称】ヒドロホルミル化反応に使用する合成ガスを生成するための方法
(51)【国際特許分類】
C25B 1/042 20210101AFI20231027BHJP
C25B 1/23 20210101ALI20231027BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20231027BHJP
【FI】
C25B1/042
C25B1/23
C25B9/23
(21)【出願番号】P 2020555780
(86)(22)【出願日】2019-04-11
(86)【国際出願番号】 EP2019059201
(87)【国際公開番号】W WO2019197514
(87)【国際公開日】2019-10-17
【審査請求日】2022-04-05
(32)【優先日】2018-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
(73)【特許権者】
【識別番号】590000282
【氏名又は名称】トプソー・アクチエゼルスカベット
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【氏名又は名称】虎山 一郎
(72)【発明者】
【氏名】シュト・ニルス・クレスチャン
(72)【発明者】
【氏名】キュンガス・ライナー
(72)【発明者】
【氏名】ヒネマン・ビーリト
(72)【発明者】
【氏名】ブレノウ・ベンクト・ペテル・グスタフ
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-261130(JP,A)
【文献】特表2010-531221(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0329979(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00-15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロホルミル化プラントに使用するための一酸化炭素、二酸化炭素および水素を含むガス混合物の生成方法であって、以下の工程:
-水を蒸発させ水蒸気とする工程、
-セルまたはセルスタックが作動するのに十分な温度において、固体酸化物電解セル(SOEC)またはSOECスタックへ水蒸気を供給する一方で、前記セルまたはセルスタックに電流を供給して、水蒸気の水素への部分的な変換を行う工程
(SOEC工程)、
-RWGS反応が起こる逆水ガスシフト(RWGS)反応器のための供給材料として、
外部源からのCO
2と共にH
2を含む排出SOECガスを利用し、CO
2およびH
2の一部をCOおよびH
2Oに変換する工程
(RWGS工程)、
-
RWGS工程からの原料ガス流を冷却することによって、水蒸気の少なくとも一部を液体水として凝縮させ、残った生成物ガスをこの液体から分離することによって、残った水蒸気の一部または全部を原料ガス流から除去する工程、
および
-
反応物として一酸化炭素および水素を利用する液相ヒドロホルミル化のためにCO、CO
2およびH
2を含む前記ガス混合物を使用する工程
を含む前記方法。
【請求項2】
ヒドロホルミル化プラントに使用するための一酸化炭素、二酸化炭素および水素を含むガス混合物の生成方法であって、以下の工程:
-水を蒸発させ水蒸気とする工程、
-セルまたはセルスタックが作動するのに十分な温度において、固体酸化物電解セル(SOEC)またはSOECスタックへ水蒸気を供給する一方で、前記セルまたはセルスタックに電流を供給して、水蒸気の水素への部分的な変換を行う工程(SOEC工程)、
-RWGS反応が起こる逆水ガスシフト(RWGS)反応器のための供給材料として、
外部源からのCO
2
と共にH
2
を含む排出SOECガスを利用し、CO
2
およびH
2
の一部をCOおよびH
2
Oに変換する工程(RWGS工程)、
-RWGS工程からの原料ガス流を冷却することによって、水蒸気の少なくとも一部を液体水として凝縮させ、残った生成物ガスをこの液体から分離することによって、残った水蒸気の一部または全部を原料ガス流から除去する工程、
および
-RWGS工程後の原料ガス流のCO
2
をRWGS反応器中において再利用する一方で、反応物として一酸化炭素および水素を利用する液相ヒドロホルミル化のためにCO、CO
2
およびH
2
を含む前記ガス混合物を使用する工程
を含む前記方法。
【請求項3】
SOECまたはSOECスタック中のH
2Oの電解によりH
2が生成される温度が、700
℃である、請求項1
または2に記載の方法。
【請求項4】
SOEC工程の後に、
-
SOEC工程からの原料ガス流を冷却することによって、水蒸気の少なくとも一部を液体水として凝縮させ、残った生成物ガスをこの液体から分離することによって、残った水蒸気の一部または全部を原料ガス流から除去する工程
をさらに含む、
請求項1~3のいずれか一つに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一酸化炭素および水素を含むガスを生成するための方法、ならびにヒドロホルミル化反応におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
「オキソ合成」または「オキソ法」としても知られるヒドロホルミル化は、アルケンからアルデヒドを製造するための工業的方法である。具体的には、一酸化炭素と水素(H2)のアルケンへの付加がヒドロホルミル化反応である。この化学反応は、ホルミル基(CHO)と水素原子の炭素-炭素二重結合への正味の付加を伴う。この反応により、親アルケンよりも1単位長い炭素鎖をもつアルデヒドが生じる。もしアルデヒドが所望の生成物であるならば、合成ガスはCO:H2=1:1に近い成分をもつはずである。
【0003】
場合によっては、アルデヒドに対応するアルコールが望ましい生成物である。この場合、中間体のアルデヒドをアルコールに還元するためにより多くの水素が消費されるので、合成ガスはおよそCO:H2=1:2の構成とすべきである。
【0004】
中間体アルデヒドをアルコールに変換する前に、中間体アルデヒドを精製することが望まれる場合もある。したがって、その場合には、まずCO:H2=1:1の合成ガスを使用し、次に純粋H2を使用する必要がある。
【0005】
したがって、ヒドロホルミル化反応には低モジュール合成ガス(すなわち、低水素対一酸化炭素比の合成ガス)が必要となるところが特徴的である。このような合成ガス組成は、天然ガスまたはナフサの水蒸気改質から直接得ることができないため、供給するにはかなり高価である。少なくともCOを凝縮するためのコールドボックスを設置してCOを分離する必要がある。これは、高価な解決策であり、過剰な水素が存在することになり、そのための使用目的を見つける必要がある。
【0006】
あるいは、ガス化プラントは低モジュール(すなわち、COに富む)の合成ガスを供給することができるが、効率を上げるためにはガス化プラントは非常に大型である必要があり、CAPEXおよびOPEXの両方に関しても高価である。さらに、石炭ベースのガス化プラントは、実質的な環境的影響と大きなCO2足跡のため、ますます望まれなくなっている。
【0007】
したがって、ヒドロホルミル化のための低モジュール合成ガスは、一般的にコストがかかる。大きなヒドロホルミル化プラントはしばしば工業地帯に置かれるので、近くの合成ガス生産者から必要な合成ガスを「フェンス越しに」得ることができる。しかしながら、多くの場合、これは中型または小型のヒドロホルミル化プラントでは不可能である。その代わり、このような小さなプラントは、例えばガスボンベの中で合成ガスを持ち込む必要があり、このアプローチは非常に高価である。さらに、合成ガス(少なくとも低モジュール合成ガス)は非常に毒性が強く、極めて可燃性であり、合成ガスは空気と爆発性の混合物を形成する可能性があるため、このようなガス容器の輸送および取扱いは、リスクのある特定の要素と関連している。チューブトレーラーによるCOの輸入は、コストの観点からも安全性の観点からも、同様の課題に直面するであろう。
【0008】
持続可能なCO源はCO2である。逆水性ガスシフト(RWGS)反応、すなわち以下の反応によって、一酸化炭素は二酸化炭素から発生する。
CO2+H2<->CO+H2O
反応に使用される水素は、固体酸化物電解セル(SOEC)またはSOECスタックを用いて水蒸気から生成することができる。本発明によれば、H2は、SOECまたはSOECスタック内の水蒸気から、典型的には700℃に近い高温で生成される。SOECまたはSOECスタックからの排出ガスは、SOECの作動温度に近い温度でH2およびH2Oを含む。この排出ガスはCO2と共に直接的にRWGS反応器に導かれることができる。RWGS反応器は、典型的には加熱反応器であるが、断熱反応器でもよい。RWGS反応器においては、上記のRWGS反応が進行する。RWGS反応は平衡限界であるため、RWGS反応器からの排出ガスにはH2、CO、H2OおよびCO2が含まれる。大部分の水蒸気が液体水として凝縮するまで、排出ガスを冷却することによって水を除去する。ガスのさらなる乾燥は、例えば乾燥カラムを使用することによって達成され得る。CO2は圧力スイング吸着装置などを用いて除去することができるが、そのような装置は非常に高価である。本発明によれば、CO2はヒドロホルミル化反応後まで除去されない。これは費用の節約となり、付加的な利点を提示する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】H. Jin and B. Subramaniam, Chemical Engineering Science 59 (2004) 4887-4893 and H. Jin et al., AIChE Journal 52 (2006) 2575-2581
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ヒドロホルミル化反応については、CO2-拡張(膨張)された液体(CXL)媒体で反応を行うことにより、速度を4倍まで増加させることができることが示されている(H. Jin and B. Subramaniam, Chemical Engineering Science 59 (2004) 4887-4893 and H. Jin et al., AIChE Journal 52 (2006) 2575-2581参照)。有機溶媒をCO2で加圧すると、純溶媒に比べて拡張し、他の(反応性)ガスの拡散性と溶解性を高める。CXL媒体の使用は、カルボニル化反応などの液相触媒反応を強化する一般的な方法である。しかしながら、CO2源とCO源とH2源が必要であり、それは必ずしも実現可能ではない。本発明は、これらの問題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
したがって、本発明は、ヒドロホルミル化プラントにおいて使用するための、一酸化炭素、二酸化炭素および水素を含むガス混合物の生成のための新規な方法に関する。本発明の方法を通して、上記のような問題が組み合わさったものが利点となる。水蒸気の高温電解(水素を形成)とRWGS反応(一酸化炭素を形成)を組み合わせることにより、低モジュール合成ガスを得ることができる。したがって、二酸化炭素が唯一の一酸化炭素源となるため、一酸化炭素の貯蔵、輸送および取扱いは省略される。さらに、反応媒体中の二酸化炭素の存在は、CXLの条件を提供し、それはヒドロホルミル化反応の反応速度を増加させるであろう。
【0012】
本発明は、ヒドロホルミル化反応プラント用にシンガスを生成することができる逆水性ガスシフト(RWGS)反応器と組み合わせて、固体酸化物電解セル(SOECs)に基づくシンガス発生装置を提供することを意図している。合成ガスを生成するための原材料はH2OとCO2になる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
先行技術に関して、US8,568,581は、工程で使用される合成ガスの製造のために、固体酸化物電解セル(SOEC)またはSOECスタックではなく、従来の電気化学セルを用いたヒドロホルミル化工程を開示する。水はセルの第1(アノード)区画に導入され、CO2はセルの第2(カソード)区画に導入され、続いてアルケンと触媒がセルに付加され、アノードとカソードの間に電位が加わるとカソードは液相ヒドロホルミル化を誘導する。
【0014】
WO2017/014635では、二酸化炭素を電気化学的に還元する方法が開示されている。本法は、CO2を合成ガス、アルケン、アルコール(ジオールを含む)、アルデヒド、ケトンおよびカルボン酸のような1以上のプラットホーム分子に変換し、更にCO2を例えば、CO、水素および合成ガスに変換することを含む。しかしながら、この方法はヒドロホルミル化のための低モジュール合成ガスの製造を含まない。
【0015】
US2014/0291162は、あらかじめ製造されたCO2および/またはCOおよび水蒸気の電気分解による、アルデヒドなどの種々の化合物の多段階製造法を開示している。この方法は、アノードとカソードの間に配置されたプロトン伝導膜を含むプロトン伝導性電気分解器への加熱手段からの熱伝達を含む。
【0016】
WO2007/109549は、超臨界CO2のような圧縮ガスで容積的に拡張された液中で、ヒドロホルミル化触媒上でオレフィンをCO及びH2と反応させることを含むヒドロホルミル化プロセスを開示している。
【0017】
WO2008/124538では、再生可能な水素を調製し、大気又は気流からCO2を捕捉するCO2陰性法が記載されている。直流の再生可能な電気は、カソードで水素および水酸化物イオンを発生させるのに十分な電圧を有する水電解装置に供給され、アノードではプロトンおよび酸素を発生させる。これらの産物は分離されて隔離され、塩基は重炭酸塩または炭酸塩として大気または気流からCO2を捕捉するために用いられる。これらの炭酸塩、水素、捕捉されたCO2は、さまざまな化学的、電気化学的方法で組み合わせて、大気中のCO2からできた貴重な炭素ベースの素材をつくることができる。すべての過程の正味の影響は、水からの再生可能な水素の生成と、大気中または大気中に入るであろうガス中のCO2の減少である。
【0018】
WO2008/124538は、本発明とは対照的に、CO2源並びに電気分解に使用される電気源について非常に特異的である。さらに、WO2008/124538では、電気分解は水素の生成にのみ使用されているが、本発明では、CO2は高温電気分解によってCOに変換される。
【0019】
最後に、US2011/0253550は、高温電解を用いて水をH2とO2に変換する合成材料の製造法を開示している。触媒過程の進め方によっては、水蒸気、CO2およびH2の混合物は、さらに触媒的にアルデヒドのような官能化炭化水素に変換されうる。本文献は特に特異的ではなく、高温電気分解の概念を定義するものではなく、温度範囲の観点からも、目的に使用可能な装置の種類の観点からもない。
【0020】
今回、合成ガスに関連した上記のリスクの要素は、固体酸化物電気分解セル(SOEC)またはSOECスタックに基づく装置において、ヒドロホルミル化プラントに必要な合成ガスを生成することによって効果的に打ち消すことができることがわかった。固体酸化物電解セルは、固体酸化物燃料電池(SOFC)であり、固体酸化物電解質を用いて、水の電気分解により、例えば酸素や水素ガスを生成する。SOEC技術は、効率が高いため、低温電解技術に代わる有利な技術である。装置のオン/オフが非常に迅速であり、さらなる利点である。
【0021】
実際には、通常、完全変換未満でSOECスタックを動作させることが望ましく、そのため、SOECまたはSOECスタックからの生成物ガスにはH2とH2Oが含まれる。
【0022】
本発明の1つの実施形態では、SOECまたはSOECスタックからの原料生成物ガスを冷却し、それによって水蒸気の大部分を凝縮し、その結果、分離器において液体水としてガス流から分離することができる。生成物ガスは、必要であれば、例えば乾燥カラム上で、さらに乾燥させてもよい。今やH2を主成分とする生成物ガスは、CO2と共供給されるRWGS反応器に移送される。この実施形態は、RWGS反応における平衡をCOおよびH2Oの生成の方向に傾けるという長所を有する。
【0023】
本発明の別の実施形態では、SOECまたはSOECスタックからの原料生成物ガスは冷却されず、むしろCO2と共供給されるRWGS反応器に直接的に移送される。この実施形態は、SOECまたはSOECスタックとRWGSリアクタの好ましい動作温度が、例えば700℃に、近接しているという利点を有する。
【0024】
RWGS反応器の後、合成ガスにはH2、CO、H2O、およびCO2が含まれる。ガスを冷やすことによって、H2Oの大部分が凝縮し、ガスから容易に分離される。合成ガスのさらなる乾燥は、例えば乾燥カラムを使用することによって行うことができる。
【0025】
反応性成分COとH2からのCO2の分離は、生成ガスからの水の分離よりも複雑で費用がかかる。PSA(圧力スイング吸着)ユニットを用いることで行うことができるが、このようなユニットは高価である。しかし、ヒドロホルミル化反応におけるCO2の存在は、実際には有利である:ヒドロホルミル化反応は液状媒体で行われる。この液をCO2で加圧すると、いわゆるCO2拡張液(CXL)が得られる。CXL媒体は、ヒドロホルミル化反応における物質移動制限を軽減し、純液体媒体と比較してCXL媒体中の反応ガスの溶解度を増加させることが、文献(H. Jin and B. Subramaniam, Chemical Engineering Science 59 (2004) 4887-4893 and H. Jin et al., AIChE Journal 52 (2006) 2575-2581およびこれに示される文献)に記載されている。この結果、ヒドロホルミル化反応の速度は、CXL-媒体では、純粋な有機溶媒と比較して最大で4倍まで増加する可能性がある。さらに、n/iso比(直鎖および分枝アルデヒド間の比)は、US7365234で示されているように、CXL溶媒を使用することにより、直鎖溶媒を使用することと比較して改善される可能性がある。
【0026】
したがって、本発明は、適切なH2/CO比率を合成ガスに提供すると同時に、ヒドロホルミル化工程のためのCO2で拡張された液状反応媒体を得るために必要なCO2を提供する方法を提供する。
【0027】
ヒドロホルミル化反応に使用されるオレフィンの例は1-オクテンであるが、原則として、本発明に従って任意のオレフィンを使用することができる。ヒドロホルミル化反応のための液体溶媒の例はアセトンであるが、長い他の有機溶媒を使用してもよい。
【0028】
したがって、本発明の目的は、ヒドロホルミル化プラントのための合成ガスを生成することができる、固体酸化物電解セルとRWGS反応器との組み合わせに基づく合成ガス生成装置を提供することである。合成ガスを生成するための原材料は、CO2とH2Oになる。
【0029】
固体酸化物電解セルシステムは、SOECコアを含み、ここで、SOECスタックは、プロセスガスのための入口および出口と共に収容される。供給ガスまたは「燃料ガス」は、スタックのカソード部分に導かれ、そこから電解からの生成ガスが取り出される。この側に酸素が産生されるので、スタックのアノード部分は酸素側とも呼ばれる。スタックにおいては、H2OからH2が生成され、電流が適用されこれがスタックの燃料側に導かれ、余分な酸素がスタックの酸素側に運ばれ、場合によっては空気、窒素、水蒸気または二酸化炭素を用いて酸素側をフラッシュする。
【0030】
具体的には、固体酸化物電解セルシステムを使用してH2を生成する原理は、電流を印加しSOECの燃料側にH2Oに導き、H2OがH2に変換され、余剰の酸素をSOECの酸素側に輸送することで構成される。SOECの酸素側をフラッシングすることには2つの利点がある。具体的には、(1)酸素濃度および関連する腐食作用を低下させること、(2)SOECにエネルギーを供給する手段を提供し、それを吸熱的に作動させることである。SOECからの生成物流は、H2およびH2Oの混合物を含み、-任意選択で水の除去後、例えば濃縮によって-RWGS反応におけるCO2と組み合わせることができる。
【0031】
H2OがSOECスタックに供給される場合、H2OとH2の混合物が出力される。水蒸気は、次の反応に従って、電気化学的にガス状水素に変換される:
H2O(カソード)→H2(カソード)+1/2O2(アノード)(1)
【0032】
逆水性ガスシフト(RWGS)反応は、SOECスタックおよびCO2からのH2(および任意にH2O)を供給されるRWGS反応器で起こる:
H2+CO2<->H2O+CO (2)
【0033】
純粋なH
2OがSOECスタックに供給される時、H
2OからH
2への転換X
H2Oはファラデーの電気分解法により与えられる:
【数1】
ここで、p
H2はカソード出口におけるH
2の分圧であり、p
H2Oはカソード出口における水蒸気の分圧であり、iは電気分解電流であり、V
mは標準温度および圧力におけるガスのモル体積であり、n
cellsはSOECスタックにおけるセルの数であり、zは電気化学反応において輸送される電子の数であり、f
H2Oはスタックへのガス蒸気の流れ(標準温度および圧力における)であり、そしてFはファラデー定数である。
【0034】
RWGS反応の平衡定数、K
RWGSは次の式で与えられる:
【数2】
ここで、ΔGはSOEC作動温度における反応のGibbs自由エネルギーであり、Rは一般ガス定数であり、Tは絶対温度である。
【0035】
平衡定数、すなわち電気化学的に製造されたH2がCO2をCOに変換するためにどの程度使用されるかは、温度に依存する。たとえば、500°Cでは、KRWGS=0.195である。600°Cでは、KRWGS=0.374である。700°Cでは、KRWGS=0.619である。
【0036】
したがって、本発明は、ヒドロホルミル化プラントにおいて使用するための、一酸化炭素、二酸化炭素および水素を含むガス混合物の生成のための方法であって、以下の工程を含む、方法に関する-水を蒸発させ水蒸気とする工程、
-セルまたはセルスタックが作動するのに十分な温度において、固体酸化物電解セル(SOEC)またはSOECスタックへ水蒸気を供給する一方で、前記セルまたはセルスタックに電流を供給して、水蒸気の水素への部分的な変換を行う工程、
-任意選択で、原料ガス流を冷却することによって、水蒸気の少なくとも一部を液体水として凝縮させ、残った生成物ガスをこの液体から分離することによって、残った水蒸気の一部または全部を原料ガス流から除去する工程、
-RWGS反応が起こるRWGS反応器のための供給材料として、
外部源からのCO2と共にH2を含む排出SOECガスを利用し、CO2およびH2の一部をCOおよびH2Oに変換する工程、
-原料ガス流を冷却することによって、水蒸気の少なくとも一部を液体水として凝縮させ、残った生成物ガスをこの液体から分離することによって、残った水蒸気の一部または全部を原料ガス流から除去する工程、
および
-RWGS反応器へとCO2を再利用しながら、反応物として一酸化炭素および水素を利用する液相ヒドロホルミル化のためにCO、CO2およびH2を含む前記ガス混合物を使用する工程。
【0037】
好ましくは、SOECまたはSOECスタック中のH2Oの電解によりH2が生成される温度が、700℃付近である。
【0038】
本発明の方法の大きな利点の1つは、これが単に供給ガスのCO2/H2O比率を調整する問題であるため、実質的に所望のCO/H2比のいずれを使用しても合成ガスを発生させることができることである。
【0039】
本発明のもう一つの大きな利点は、すでに述べたように、合成ガスを「現場で」(on-site)、すなわち、それが使用されることを意図した正確な場所で、製造場所から使用場所へ毒性で可燃性の高い合成ガスを輸送しなければならない代わりに、生成することができることである。
【0040】
本発明のさらに別の利点は、低モジュール合成ガスと純H2の間の切り替えが望まれる場合には、純水素が必要なときに単にRWGS反応器を迂回することにより、同じ装置を用いてこれを行うことができることである。
【0041】
本発明のさらなる利点は、CO2で希釈されたCO/H2流を提供することであり、それは、その後のヒドロホルミル化反応をCO2で拡張された液体(CXL)反応媒体中で実施することを可能にする。これらの利点は、純粋な液体培地におけるヒドロホルミル化と比較して、より高い反応速度、マイルドな条件(より低い温度およびより低い圧力)での改善された選択性(n/iso比)を含む。
【0042】
本発明のさらなる別の利点は、この望ましい高純度は、生産コストの増加を伴うことが一応予想されるであろうにも関わらず、高純度の合成ガスは、通常の合成ガスよりも高価でなくても、いかなる方法においても製造することができることである。これは、合成ガスの純度はCO2/H2Oの供給の純度によって大部分が左右されるからであり、食品グレードまたは飲料グレードのCO2とイオン交換水からなる供給が選択されるならば、非常に純粋な合成ガスを生成することができるからである。
【0043】
本発明は、以下の実施例においてさらに示される。
実施例1
H2O電気分解
75個のセルからなるSOECスタックを、50Aの電解電流を加えながら、流速100Nl/分の水蒸気(約80g/分の液体水流速に相当する)でカソードに供給しながら、平均700℃で作動する。上記の式(4)に基づいて、このような条件下でのHOの変換は26%である。すなわち、スタックのカソード面から出るガスは、26%のH2Oと74%のH2から成る。
【0044】
実施例2
RWGSを組み合わせたH2O電解
75セルから成るSOECスタックを、50Aの電解電流を加えながら蒸気を全流量100Nl/minでカソードに供給しながら、平均温度700°Cで作動させた。スタックにおいては、水蒸気は52%の変換で反応(1)に従って電気化学的にH2に変換される。この排出ガスは100Nl/分のCO2とともに、SOECから直接的にRWGS反応器に供給される。したがって、H2のO/CO2供給率は50:50になる。RWGS反応器に供給されるガスは、0%CO、50%CO2、26%H2および24%H2Oの構成となる。RWGS反応により、水素の一部がCOの生成に使用される。RWGS反応器は700℃で等温で作動する。したがって、RWGS反応器から出るガスの構成は、10.7%CO、39.3%CO2、15.3%H2、および34.7%Oである。生成物ガスのCO:H2の比率は1:1.43である。
【0045】
実施例3
RWGSを組み合わせたH2O電解
この例は、総H2O/CO2供給率が41:59であることを除いて、例2と同様に実施される。RWGS反応器から出るガスの構成は、13.2%CO、45.8%CO2、13.0%H2および28.0%Oである。生成物ガスのCO:H2の比率は約1:1である。
【0046】
実施例4
RWGSを組み合わせたH2O電解
この例は、SOECスタックからの排出カソードガスを冷却することにより、水蒸気が濃縮され液状の水とされ、分離器で取り出されることを除いて、実施例2と同様に実施される。したがって、RWGS反応器に供給されるガスは、0%CO、50%CO2、50%H2および0%H2Oの概算構成となる。RWGS反応のため、水素の一部を用いてCOを発生させた。RWGS反応器を700℃で等温で作動させる。したがって、RWGS反応器から出るガスの概算組成は、22%CO、28%CO2、28%H2、22%H2Oである。したがって、生成物ガスのCO:H2の比率は1:1.27になる。
本発明は以下の項目を含む。
[項目1]
ヒドロホルミル化プラントに使用するための一酸化炭素、二酸化炭素および水素を含むガス混合物の生成方法であって、以下の工程:
-水を蒸発させ水蒸気とする工程、
-セルまたはセルスタックが作動するのに十分な温度において、固体酸化物電解セル(SOEC)またはSOECスタックへ水蒸気を供給する一方で、前記セルまたはセルスタックに電流を供給して、水蒸気の水素への部分的な変換を行う工程、
-任意選択で、原料ガス流を冷却することによって、水蒸気の少なくとも一部を液体水として凝縮させ、残った生成物ガスをこの液体から分離することによって、残った水蒸気の一部または全部を原料ガス流から除去する工程、
-RWGS反応が起こる逆水ガスシフト(RWGS)反応器のための供給材料として、
外部源からのCO
2
と共にH
2
を含む排出SOECガスを利用し、CO
2
およびH
2
の一部をCOおよびH
2
Oに変換する工程、
-原料ガス流を冷却することによって、水蒸気の少なくとも一部を液体水として凝縮させ、残った生成物ガスをこの液体から分離することによって、残った水蒸気の一部または全部を原料ガス流から除去する工程、
および
-RWGS反応器へとCO
2
を再利用しながら、反応物として一酸化炭素および水素を利用する液相ヒドロホルミル化のためにCO、CO
2
およびH
2
を含む前記ガス混合物を使用する工程
を含む前記方法。
[項目2]
SOECまたはSOECスタック中のH
2
Oの電解によりH
2
が生成される温度が、700℃付近である、項目1に記載の方法。