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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-26
(45)【発行日】2023-11-06
(54)【発明の名称】安定化されたヒアルロン酸
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/20 20060101AFI20231027BHJP
   A61L 27/52 20060101ALI20231027BHJP
   A61L 27/50 20060101ALI20231027BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20231027BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20231027BHJP
   A61K 8/02 20060101ALI20231027BHJP
   A61K 31/728 20060101ALI20231027BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20231027BHJP
   A61K 47/54 20170101ALI20231027BHJP
   A61K 47/62 20170101ALI20231027BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20231027BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20231027BHJP
【FI】
A61L27/20
A61L27/52
A61L27/50 200
A61K8/73
A61Q19/00
A61K8/02
A61K31/728
A61K9/06
A61K47/54
A61K47/62
A61P17/00
A61K45/00
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020569875
(86)(22)【出願日】2019-06-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-10-11
(86)【国際出願番号】 EP2019065756
(87)【国際公開番号】W WO2019238955
(87)【国際公開日】2019-12-19
【審査請求日】2022-05-20
(31)【優先権主張番号】18178099.0
(32)【優先日】2018-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】18178097.4
(32)【優先日】2018-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】18178098.2
(32)【優先日】2018-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】516331351
【氏名又は名称】クロマ-ファーマ ゲゼルシャフト エム.ベー.ハー.
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】ザクセンホーファー,ロベルト
【審査官】伊藤 幸司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0210760(US,A1)
【文献】特表2014-526342(JP,A)
【文献】国際公開第2013/086024(WO,A1)
【文献】特表2014-515307(JP,A)
【文献】特表2010-512859(JP,A)
【文献】特表2013-537050(JP,A)
【文献】国際公開第2009/005790(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/007773(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/055194(WO,A1)
【文献】Materials Science and Engineering C,2016年,68,pp.565-572
【文献】K KAFEDJIISKI; ET AL,SYNTHESIS AND IN VITRO EVALUATION OF THIOLATED HYALURONIC ACID FOR MUCOADHESIVE DRUG DELIVERY,INTERNATIONAL JOURNAL OF PHARMACEUTICS,NL,ELSEVIER,2007年08月30日,VOL:343, NR:1-2,,PAGE(S):48 - 58,http://dx.doi.org/10.1016/j.ijpharm.2007.04.019
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L
A61K
A61Q
A61P
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋されたヒアルロナンを含む滅菌ヒドロゲル組成物であって、
前記架橋されたヒアルロナンが、式I
HA-L-HA(I)
(式中、各HAは、式IIによるヒアルロナンまたはその塩を表し、
【化1】

(式中、nは1より大きい整数であり、式IIの繰り返し単位の繰り返し数を決定する)
Lはリンカーであり、式IIによる少なくとも一つの繰り返し単位中の1つのOH部分と置き換わることで各HAと共有結合し、
Lは分子LH に由来する)
による構造を有し、
前記架橋されたヒアルロナンが、チオール修飾されたヒアルロナンの酸化生成物であり、前記チオール修飾されたヒアルロナンが、酸化の際に分子内および分子間ジスルフィド結合を形成するチオール基を有する分子で修飾されている、
分子量が200kDa未満である抽出可能なヒアルロナンの量が、ヒアルロナンの総量に対して15wt%未満であることを特徴とする、滅菌ヒドロゲル組成物。
【請求項2】
前記抽出可能なヒアルロナンが、還元抽出または保存的抽出の使用により前記滅菌ヒドロゲル組成物から抽出可能であるヒアルロナンである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記分子LHが、グルタチオン、システアミン、システイン、ホモ-システイン、ベータ-システイン、システインを含むペプチド、ならびにシステアミンおよびアミノ酸のコンジュゲートからなる群から選択される分子のジスルフィド二量体である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
少なくとも1つの局所麻酔剤をさらに含む、請求項1からのいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記局所麻酔剤が、リドカイン、アルチカイン、プリロカイン、クロロプロカイン、アルチカインおよびそれらの組合せからなる群から選択されることを特徴とする、請求項に記載の組成物。
【請求項6】
非毒性の安定剤を含む、請求項1からのいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
少なくとも1つのヒアルロン酸分解阻害剤をさらに含む、請求項1からのいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記阻害剤が、1,2,3,4,6-ペンタ-O-ガロイルグルコース、アピゲニン、ベータ-エスシン、カルトリン、cis-ヒノキレジノール(CHR)、エキナシン、エイコサトリエン酸(C20:3)、フェノプロフェン、金チオリンゴ酸ナトリウム、ゴシポール、ヘパリン、リン酸ヘスペリジン、インドメタシン、L-アスコルビン酸、L-カルニチン、L-アミノカルニチン、ミオクリシン(金チオリンゴ酸ナトリウム)、N-トシル-L-フェニルアラニンクロロメチルケトン(TPCK)およびN-アルファ-p-トシル-L-リシンクロロメチルケトン(TLCK)、リン酸化ヘスペリジン、ポリ(4-スチレン-スルホン酸ナトリウム)(T-PSS)、リン酸ポリエストラジオール、リン酸ポリフロレチン、PS53(ヒドロキノン/スルホン酸/ホルムアルデヒドポリマー)、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム(N-PSS)、硫酸化2-ヒドロキシフェニルモノラクトビオシド、硫酸化ヒドロキノンジガラクトシド、硫酸化ベルバスコース、プランテオースおよびネオマイシンオリゴ糖、テトラデシル硫酸ナトリウム(TDSS)、1つの二重結合を有するC14:1からC24:1の不飽和脂肪酸、尿トリプシン阻害剤(UTI)、ウロリチンB、WSG、もしくはグリチルレチン酸、またはそれらの組合せからなる群から選択される、請求項に記載の組成物。
【請求項9】
生体適合性の多糖の群から選択される未修飾のポリマーをさらに含む、請求項1からのいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記未修飾のポリマーが、未修飾のヒアルロナンである、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
粘性かつ親水性の生体適合性の多価アルコールをさらに含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
前記多価アルコールが、グリセロールである、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
化粧品として使用のための、請求項1から12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
医薬としての使用のための、請求項1から12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
軟部組織充填剤としての使用のための、請求項1から12のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋されたヒアルロナンを含む滅菌ヒドロゲル組成物、および軟部組織充填剤としての使用のための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒアルロナンは、HAと略され、ヒアルロン酸とも呼ばれ、D-グルクロン酸およびΝ-アセチル-D-グルコサミンから構成される繰り返し二糖単位を有する、天然に発生する多糖である。ヒアルロナンまたはヒアルロン酸という用語は、多くの場合、その塩、例えばヒアルロン酸ナトリウムと同義的に使用される。
【0003】
高分子量のヒアルロナンは、皮膚に天然に存在し、その粘弾性特性および水を吸収する傾向が非常に高いことも周知である。その特性は、皮膚の弾性に大いに寄与する。ヒアルロナンの、生体適合性、忍容性、および非毒性であるという特性および質を考慮して、すでに10年を超えて、医学および美容分野、特に審美的処置における多数の用途において、この化合物からこのようにして利益が得られてきた。例えば、ヒアルロナンは、検討される領域における真皮への直接注入によって皺を充填するために使用される(皮膚充填剤としての使用)。
【0004】
高度に精製された生物発酵性起源の非修飾ヒアルロナンは、完全に生体適合性であり、内因性ヒアルロン酸と同一のものである。しかし、ヒアルロナンは、ヒトの身体の組織に高度に適合し、水に対する親和性が高く、強力な保湿機能を発揮するという利点を有するにもかかわらず、十分な生体力学的特性を有しない。ヒアルロナンが皮膚組織に注入される場合、ヒトの身体の組織中に存在するヒアルロニダーゼ(酵素的分解)およびフリーラジカル(化学的分解)の両方による、速やかなインビボの分解が起こる。
【0005】
ヒアルロナンのインビボの分解を減速させ、その化学的、物理的、および生物学的特性を修飾し、さらに保管中の製剤の分解および熱、したがって、滅菌に対する耐性を増大させる、無数の解決手段が提案されている。
【0006】
これらの手法は、典型的には、ヒアルロナンの化学的修飾を伴い、例えば、化学的、酵素的、または光化学的手段によるヒアルロナンの架橋が挙げられる。これらの架橋されたヒアルロナンゲルは、多様な調製工程により得ることができる。一般的には、これらの工程には2つの主要なステップが必要であり、第1は、ヒアルロナンを水溶液へと変換するためにヒアルロナンを水和させることからなり、第2は、それらの架橋を導入することが可能である薬剤(「架橋剤」とも称される)の存在下で前記水溶液のヒアルロナン分子を架橋することを目的とする。架橋剤の例には、ホルムアルデヒド、ジビニルスルホン、ビスカルボジイミド、およびエポキシドが挙げられる。他の解決手段には、ヒアルロナンをポリペプチドのような巨大な基で修飾して、細胞接着またはヒドロゲルへの自己集合を導入することが挙げられる。
【0007】
皮膚充填剤の製造について、架橋剤は、エポキシド、例えばブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE)もしくは1,2,7,8-ジエポキシオクタン(DEO)、アルデヒド、またはポリビニルスルホン、例えばジビニルスルホン(DVS)から最も一般的に選択され、したがって、天然に合成されるものである。
【0008】
残念なことに、ヒアルロナンの化学的修飾は、免疫原性がもともと低く非毒性の非修飾ヒアルロナンでは観察されない副作用および異物反応をもたらす。市販のヒアルロナン軟部組織充填剤の大半では、架橋剤としてBDDEが使用されている。BDDEに存在するエポキシド基は反応性があるため、軟部組織充填剤に残留している未反応のBDDEは、遺伝毒性作用を有することがある。よって、製造中に高価なさらなる精製および試験手順が必要となるため、皮膚充填剤中のBDDEは、微量(2百万分率未満)で維持される必要がある。BDDE架橋された充填剤の安全性プロファイルは、長期の臨床経験により支持されているが(De Boulle,Glogauら、2013年、A review of the metabolism of 1,4-butanediol diglycidyl ether-crosslinked hyaluronic acid soft tissue fillers,Dermatol Surg(39巻):1758~1766頁)、BDDEにはなお、いくつかの安全性の懸念が提起されることがある(Choi,Yooら、2015年、Modulation of biomechanical properties of hyaluronic acid hydrogels by crosslinking agents,J Biomed Mater Res Part A(103A巻):3072~3080頁)。
【0009】
BDDEに関連した遺伝毒性のリスクにより、患者の生涯にわたり適用されることのある市販の皮膚充填剤製品、例えばJuvederm(登録商標)の年間用量は、1年あたり20mlに制限される。市販の皮膚充填剤製品であるRestylane(登録商標)の投与は、適用1回あたり容積6mlに制限される。類似の制限が、DVS架橋されたヒアルロン酸を含む軟部組織充填剤に適用される。
【0010】
化学修飾に伴う別の問題は、ヒアルロナンが所望される架橋度を達成するために架橋反応中に供されなければならない、厳しい反応条件、例えばアルカリ性pH値および高温(50℃を越える)の必要性である。ヒアルロナンの分子量は、酸性pH(pH4未満)またはアルカリ性pH(pH10を超える)への曝露中に加水分解されるため、低減することが周知である。さらに、ヒアルロナンは、40℃を超えるより高い温度で分解される(Troncosoら、2016年、A kinetic study of the degradation of Hyaluronic acid at high concentrations of sodium hydroxide,student thesis,http://uu.diva-portal.org/smash/get/diva2:954372/FULLTEXT01.pdfからオンラインでのアクセスが可能;Sternら、2007年、The many ways to cleave hyaluronan,Biotechnology Advances(25巻):537~557頁;TokitaおよびOkamoto、1996年、Degradation of hyaluronic acid-kinetic study and thermodynamics,Eur.Polym.J.(32巻):1011~1014頁)。分子量が約200kDa未満である低分子量のヒアルロナン断片は、炎症誘発性作用を有することがさらに周知である(Naor、2016年、Editorial:Interaction Between Hyaluronic Acid and Its Receptors(CD44,RHAMM)Regulates the Activity of Inflammation and Cancer,Frontiers in immunology 7巻:39頁;Monslowら、2015年、Hyaluronan-a functional and structural sweet spot in the tissue microenvironment,Frontiers in immunology 6巻:231頁)。
【0011】
WO2014/064632では、内因性リンカー分子を使用した、安定化されたヒアルロナンを用いた軟部組織充填剤が記載されているが、架橋工程では、ヒアルロナンを活性化させるための非内因性化学物質が必要とされる(本出願において疑似天然架橋と記載される)。ポリアミンはすべての生物において比較的高濃度で存在する内因性分子であるが、これらの作用物質は、過剰に存在する場合に驚くべき程度の毒性を示すことが見出されている(HoetおよびNemery、Am.J.Physiol.Lung Cell.Mol.Physiol.;278巻、L417~L433頁(2000年)を参照されたい)。
【0012】
WO2013/086024では、ジアミン架橋剤(例えばヘキサメチレンジアミン)およびマルチアミン架橋剤(例えば3-[3-(3-アミノ-プロポキシ)-2,2-ビス(3-アミノ-プロポキシメチル)-プロポキシ]-プロピルアミン)により架橋されたヒアルロナンを含む軟部組織充填剤が記載されている。内因性リンカー分子の使用は、この記載においては言及されていない。架橋は、好ましくは、pH4からpH7、および20℃から37℃の範囲の温度の、緩やかな条件下で実施されると記載されている。しかし、例においては、調製には数日かかり、開始材料は低分子量のヒアルロナン(例えば、分子量が例えば約100kDaであるか、平均分子量が例えば310kDaであるポリマー)である。よって、低分子量HA断片の形成は予防されない。WO2013/086024では、充填剤製品のレオロジー挙動の最適化に着目され、生体適合性の増大については着目されなかった。
【0013】
WO2014/181147A1およびWO2016/005785A1では、架橋のためにトリメタリン酸塩を使用した、安定化されたHAを用いた皮膚充填剤が記載されており、結果として内因性二リン酸基により架橋されたHA分子が記載されている。しかし、架橋工程中、ヒアルロン酸は、50℃の高温で3時間、およびさらには最大70℃で72時間、著しいアルカリ性pH(pH11)に曝露される。これらの厳しい条件下で、低分子量HA断片の形成は避けられない(Troncosoら、2016年、A kinetic study of the degradation of hyaluronic acid at high concentrations of sodium hydroxide,student thesis;http://uu.diva-portal.org/smash/get/diva2:954372/FULLTEXT01.pdfからオンラインでのアクセスが可能;Sternら、2007年、The many ways to cleave hyaluronan,Biotechnology Advances(25巻):537~557頁;TokitaおよびOkamoto、1996年、Degradation of hyaluronic acid-kinetic study and thermodynamics,Eur.Polym.J.(32巻):1011~1014頁)。これらの低分子量HA断片が、ヒトの皮膚における生分解中にゲルデポーから放出される場合、これらは炎症反応を引き起こすことがある。
【0014】
結果として、例えば軟部組織との生体適合性が高いが、天然のヒアルロナンよりも分解への耐性がより高い軟部組織充填剤として使用可能な、安定化されたヒアルロナンを含む組成物を提供する必要性がなお存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
よって、本発明の目的は、生体適合性が高く、分解への耐性が高い組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、架橋されたヒアルロナンを含む滅菌ヒドロゲル組成物であって、分子量が200kDa未満である抽出可能なヒアルロナンの量が、ヒアルロナンの総量に対して15wt%未満である、滅菌ヒドロゲル組成物を提供する。
【0017】
本滅菌組成物は、軟部組織充填剤として移植または注入することができるヒドロゲルである。低分子量のヒアルロナンの含有量が低いと、生体適合性は確実に良好となり、架橋によりヒアルロナンの急速なインビボの分解が妨げられる。
【0018】
好ましい一実施形態では、架橋されたヒアルロナンは、式I:
HA-L-HA(I)
(式中、各HAは、式IIによるヒアルロナンまたはそのナトリウム塩を表し、
【0019】
【化1】

(式中、nは1より大きい整数であり、式IIの繰り返し単位の繰り返し数を決定する)
Lはリンカーであり、式IIによる繰り返し単位中の1つのOH部分と置き換わることで各HAと共有結合し、
Lは分子LHに由来し、分子LHはヒトにおいて天然に発生する分子であるか、ヒトにおいて天然に発生する分子のコンジュゲートである)
による構造を有する。
【0020】
架橋されたヒアルロナンは、式IIIの部分構造を含む
【0021】
【化2】

(式中、Lは分子LHに由来し、分子LHはヒトにおいて天然に発生する分子であるか、ヒトにおいて天然に発生する分子のコンジュゲートである)。したがって、リンカーLは、HA繰り返し単位中のグルクロン酸のカルボン酸基と共有結合する。
【0022】
架橋されたヒアルロナンは、複合ポリマーであることが理解され、式IからIIIは、模式的なものとして理解されよう。架橋されたヒアルロナン中の任意のヒアルロナン(HA)は、リンカーLの結合によるいくつかの修飾を有してもよく、すなわち、式Iは、いかなるHA鎖も1つのリンカーのみを有し得るように限定するものではない。架橋されたヒアルロナンは、2つを超えるHA鎖を含んでもよい。複数の繰り返し単位を含む各HA鎖は、第2のHAまたはいくつかの修飾単位と結合するための1つの修飾単位を、同一の第2の鎖または他のHA鎖と結合するHA鎖の任意の位置に含有してもよい。
【0023】
好ましい一実施形態では、架橋されたヒアルロナン中の繰り返し単位の0.5から10モル%は、架橋に寄与し、例えばリンカーLと共有結合を形成する。換言すると、架橋された単位の程度は、0.5から10モル%であってもよい。
【0024】
好ましい一実施形態では、架橋されたヒアルロナンは、修飾されたヒアルロナンの反応生成物であり、修飾されたヒアルロナンは、架橋のための反応基、例えばチオール基を供給する内因性分子で修飾される。この実施形態では、修飾されたヒアルロナンの修飾度は、好ましくは約3モル%から約10モル%の範囲である。修飾度の上限は10モル%であり、これによりヒアルロナンの実用的な特徴(例えば生体適合性、膨潤挙動)を維持することが可能となる。修飾度の下限は約3モル%であり、これは安定化された粘性の高いゲルの形成のために不可欠であると考えられる。結果として、架橋されたヒアルロナン中の架橋された単位の程度は、好ましくは3から10モル%である。
【0025】
リンカーLは、ヒトにおいて天然に発生する分子LH、またはヒトにおいて天然に発生する分子のコンジュゲートである分子LHに由来する。よって、リンカーLは、天然の分子から2つの水素原子を減じることにより、形式的に得られる。化学的に言えば、分子LHは、HAと、例えば求核置換により反応する。ヒトにおいて天然に発生する分子は、内因性分子と称されることもある。好ましい一実施形態では、Lは、内因性分子の、非遺伝毒性かつ非細胞毒性の断片である。
【0026】
一実施形態では、分子LHはアミノ酸、ペプチド、ホルモン、二次情報伝達物質、シグナリング分子、またはそれらのコンジュゲートである。内因性分子LHは2つのアミノ基を含んでもよく、HA-L-HA構造は式IIIにより確立され、アミノ基は、HA繰り返し単位のカルボン酸基とアミド結合を形成する。
【0027】
一実施形態では、リンカーLは、グルタチオン、システアミン、システイン、ホモ-システイン、ベータ-システイン、システインを含むペプチド、システアミンおよびアミノ酸のコンジュゲート、またはそれらのジスルフィド二量体(それらの混合されたジスルフィド二量体を含む)である分子LHの分子の断片を含むか、またはそれに由来する。ヒトにおいて天然に発生するこれらの分子に由来する架橋されたヒアルロナンは、好ましくは式IIIの分類に入り、HA繰り返し単位のカルボン酸基とアミド結合を形成する。代わりに、グルタチオンおよびシステイン誘導体は、エステル結合によって任意のアルコール基と結合を形成することもある。リンカーを含有するこれらのチオール基は、本実施形態のために特に有用であり、架橋されたヒアルロナンは、架橋のための反応基を有する分子、好ましくは内因性分子で修飾されたヒアルロナン誘導体の反応生成物である。チオール基は、酸化の際に分子内および分子間ジスルフィド結合を形成し得る反応基である。よって、この実施形態では、架橋されたヒアルロナンは、チオール修飾されたヒアルロナンの酸化生成物である。
【0028】
別の実施形態では、内因性分子LHは、尿素である。
【0029】
本組成物は、ヒアルロナンの分子量(MW)分布が、分子量が200kDa未満である抽出可能なヒアルロナンの量がヒアルロナンの総量に対して15wt%未満であることを示す点をさらに特徴とする。
【0030】
ヒアルロナンの分子量は、架橋されていない状態で決定されることが理解される。実際、架橋されたヒアルロナンを含むヒドロゲル組成物は、典型的には、遊離の、すなわち架橋されていないヒアルロナンをある程度の量含む。多数のヒドロゲルでは、遊離ヒアルロナンは、組成物の一部として積極的に添加される。一方、遊離ヒアルロナンは、ヒドロゲルの調製中に未架橋のままであり得、または、滅菌ヒドロゲルを入手するための処理中にヒアルロナン鎖の分解の際に遊離され得る。
【0031】
架橋されたヒアルロナンを含む組成物中の抽出可能なヒアルロナンの分子量分布を確かめるために、異なる手法を適用することができる。好ましい一実施形態では、抽出可能なヒアルロナンは、還元抽出により、または保存的抽出により決定することができる。
【0032】
還元抽出では、調査される組成物を、結合を逆転させた後に遊離ヒアルロナンを抽出することにより、すなわち、例えばジスルフィド架橋されたヒアルロナンの還元により、分析する(例3)。この方法は、リンカーの切断を含み、その結果、ヒアルロナンネットワークは粘性のヒアルロナン溶液に変換される。この方法は、架橋が酸化の際に生じるヒドロゲルに容易に適用可能であるが、この方法は、一部の架橋剤、すなわちBDDE架橋されたヒアルロナンには適用され得ない。変換についての反応条件(すなわち還元条件)により、HAが低分子量でさらに蓄積されることがある。したがって、分子量が200kDa未満である遊離ヒアルロナンの量は、典型的には、この方法ではより高い。
【0033】
保存的抽出では、遊離ヒアルロナンを、架橋されたヒアルロナンネットワークを処理することなく調査することができる(例6)。この手法は、架橋剤とは無関係に適用可能である。ヒドロゲルは、溶媒系を用いてインキュベートされ、振盪される。よって、遊離ヒアルロナンは液相へと漏出し、一方、架橋されたHAはゲル相にとどまる。液状の上清相を分離し、分子量分布について分析する。
【0034】
一部の場合では、調査される組成物に類似して架橋されずに調製された比較組成物中で、ヒアルロナンの分子量分布を調査することが、代わりに可能であり得る(例3を参照されたい)。しかし、この手法には、ヒドロゲルの製造工程についての詳細な知識が必要とされる。
【0035】
ヒアルロナンについて示された分子量(MW)は、典型的には、集団中のすべての分子の平均を表す。文献では、MWは、通常は、量平均分子量として表される。それにもかかわらず、ヒアルロナン試料、例えば上記のように抽出された遊離ヒアルロナンのMW分布を調査し、例えばMW<200kDaのヒアルロナンの実際量または分率を決定することが可能である。
【0036】
MW分布は、以下に例示されるようなサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)分析により調査することができる。当業者は、分子量分布について、他の手法で同程度の値に達し得ることを理解するであろう。例えば、アガロースゲル電気泳動は、水平ゲルチャンバーおよびマーカーとしてHA分子量ラダーを使用したアガロースゲル中で、ヒアルロナンの異なるMW画分を分離するのに使用することができ、次いで、染色されたゲルを例えばImage Jソフトウェアパッケージ(http://imagej.net/Welcome)に続けてCowmanら(Analytical Biochemistry 417巻、2011年、50~56頁)による分子質量算出を使用して、濃度測定について分析する。続けて、MW<200kDaのヒアルロナンの量を決定することができる。本発明によるヒドロゲル組成物では、その量は、組成物中のヒアルロナンの総量に対して最大15wt%である。基準量、すなわちヒアルロナンの総量は、任意の分子量の架橋されたおよび遊離のヒアルロナンを含む、組成物中のすべてのヒアルロナンを含む。典型的には、この量は、組成物中のヒアルロナンの濃度により示されるか、慣例の方法により決定することができる。
【0037】
実施例では、MW<200kDaのヒアルロナンの分率が、本発明による多様なヒドロゲル組成物中、最大15wt%であったことが示されている(例3)。対照的に、TMP架橋されたゲルについて記載されている架橋の条件(WO2016/005785A1による)の結果、ヒアルロナンの分率は、総ヒアルロナンに対して30wt%であった(比較例4)。また、現行技術水準のBDDE架橋されたヒアルロナン組成物と比較すると、低分子量の量に関して改善が示される(例6)。よって、炎症性のヒアルロナンオリゴマーの分率が低いため、生体適合性が改善された製剤が提供される。
【0038】
本発明による組成物のMW決定は、例3では特定の貯蔵寿命(室温で保存)の後に実施され、一方で比較例4では、滅菌される前にも調査された。一般的には、低分子量のヒアルロナンの分率は、加工(滅菌)および保管中に増大する傾向がある。類似した傾向が、ヒドロゲル特性(濃度、pH、モル浸透圧濃度)の類似した任意の架橋されたヒアルロナン組成物について予測される。よって、現行技術水準によるヒドロゲルでは、架橋後のMW<200kDaのヒアルロナンの実質的な分率は、なおさらに増大し得る。一般的に、滅菌ヒドロゲル組成物へと加工された直後には、低分子量のヒアルロナンの分率は組成物に対して最大15wt%と小さいことが望ましい。
【0039】
好ましい実施形態では、本発明による組成物は生体適合性に優れ、毒性の可能性がある架橋剤が存在しないため、本組成物は1年あたり20mLを超える用量で適用されてもよい。よって、本組成物は、大用量の充填剤が必要とされる用途、例えば豊胸術、または複数の領域への適用を必要とする患者のために好適である。結果として、本組成物の使用の1つは、美容上の使用である。しかし、適用性は皮膚充填に限定されない。よって、別の態様では、本組成物は、医薬品の使用のため、軟部組織充填剤としての使用のために提供される。
【0040】
そのような使用(治療用または美容上)は、軟部組織充填剤としての、または組織増強のための、本発明による組成物の使用を指し得る。そのような使用には、好ましくは、例えば注入または移植によるヒトへの用途が挙げられるが、適用性はヒトに限定されない。
【0041】
別の態様では、本発明は、本発明による組成物を、例えばシリンジからの注入により特定の軟部組織部位に導入するステップを含む、方法に関する。本方法は、治療用および美容上目的のための、軟部組織充填剤としての、または組織増強のための組成物の使用に関する。
【0042】
一実施形態では、これらの態様による使用または方法は、本ヒドロゲル組成物を、シリンジから経皮、骨膜上または皮下注入によりヒトの組織部位へと導入するステップを含む。
【0043】
本ヒドロゲル組成物は、局所麻酔剤および/または多様な他の成分、例えば成長因子、ビタミン、多価アルコール、ハロゲン化アルカリ金属、無機物、抗酸化剤、アミノ酸、補酵素、セラミックス粒子(例えばカルシウムヒドロキシルアパタイト粒子)、ポリマー粒子、ポリマー(例えばポリエチレングリコール、グリコサミノグリカン、ラブリシン、多糖、およびそれらの誘導体)、タンパク質(例えばエラスチン、コラーゲン、ケラチン、絹フィブロイン)、抗セルライト剤、抗瘢痕化剤、抗炎症剤、抗刺激剤、血管収縮剤、抗出血剤(例えば止血剤および抗線溶剤)、テンション剤、抗アクネ剤、色素沈着剤、抗色素沈着剤、消炎剤、抗リウマチ剤、抗ウイルス剤、抗感染症剤、防腐剤、化学療法剤、細胞増殖抑制剤、抗アレルギー剤、抗静脈怒張剤;鎮痛剤、抗生物質、抗真菌剤、鎮痙剤、抗ヒスタミン剤、痔疾を処置するための薬剤、皮膚を処置するための治療剤、および保湿剤から選択される1つもしくは複数の成分を含んでもよい。
【0044】
局所麻酔剤を本ヒドロゲル組成物に添加することは、注入の際の疼痛を緩和する能力がある点から、特に望ましい。局所麻酔剤には、リドカイン、アルチカイン、プリロカイン、クロロプロカイン、アルチカインまたはそれらの組合せ、ならびにそれらの塩が挙げられる。好ましくは、麻酔剤は、酸付加塩の形態である、例えばリドカインHClのような、リドカインである。
【0045】
好ましい一実施形態では、本組成物は、生体適合性の多糖の群から選択される、未修飾のポリマーをさらに含む。好ましくは、未修飾の多糖は、未修飾のヒアルロナン(HA)である。未修飾の、または遊離とも称されるヒアルロナンは、本ヒドロゲル組成物を補完することができる。未修飾のHAは、一般的には、針またはカニューラから製品を注入するのに必要とされる押出力を低減することにより注入を確実に容易なものとするために、軟部組織充填剤に潤滑剤として添加される。好ましくは、組成物の製造のために使用される遊離ヒアルロナンの原材料は、分子量が約1,000kDaから約3,500kDaの範囲である。しかし、安定化されていないヒアルロナンは急速に分解されるため、当業者は、本組成物の軟部組織充填剤としてのインビボの性能は、架橋されたポリマーおよび基礎となるチオール修飾されたヒアルロナンの特性により主に発揮されることを理解するであろう。未修飾の多糖は、架橋されたポリマーよりも低い濃度で含まれることが好ましい。例示的には、未修飾のヒアルロナンは、3mg/mLから7mg/mL、例えば5mg/mLの濃度で組成物中に含まれ、ここで濃度は、好ましくは塩、例えばヒアルロン酸ナトリウムの濃度を指す。
【0046】
一実施形態では、架橋されたヒアルロナンは、式IVによる少なくとも1つのサブユニットを含む
【0047】
【化3】

(式中、RおよびRD1と表現される水素原子の総数の少なくとも1%は、H(重水素)である)。このことは、分子のさらなる安定化をもたらす。
【0048】
別の実施形態では、本発明の組成物は、少なくとも0.1モルの、少なくとも1つの重水素に富むヒアルロン酸を含有する。
【0049】
組成物は、非毒性の安定剤をさらに含んでもよい。
【0050】
軟部組織充填剤としての有効性を伸ばすために、本組成物は、少なくとも1つのヒアルロン酸分解阻害剤をさらに含んでもよい。
【0051】
前記阻害剤は、1,2,3,4,6-ペンタ-O-ガロイルグルコース、アピゲニン、ベータ-エスシン、カルトリン、cis-ヒノキレジノール(CHR)、エキナシン、エイコサトリエン酸(C20:3)、フェノプロフェン、金チオリンゴ酸ナトリウム、ゴシポール、ヘパリン、リン酸ヘスペリジン、インドメタシン、L-アスコルビン酸、L-カルニチン、L-アミノカルニチン、ミオクリシン(金チオリンゴ酸ナトリウム)、N-トシル-L-フェニルアラニンクロロメチルケトン(TPCK)およびN-アルファ-p-トシル-L-リシンクロロメチルケトン(TLCK)、リン酸化ヘスペリジン、ポリ(4-スチレン-スルホン酸ナトリウム)(T-PSS)、リン酸ポリエストラジオール、リン酸ポリフロレチン、PS53(ヒドロキノン/スルホン酸/ホルムアルデヒドポリマー)、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム(N-PSS)、硫酸化2-ヒドロキシフェニルモノラクトビオシド、硫酸化ヒドロキノンジガラクトシド、硫酸化ベルバスコース、プランテオースおよびネオマイシンオリゴ糖、テトラデシル硫酸ナトリウム(TDSS)、1つの二重結合を有するC14:1からC24:1の不飽和脂肪酸、尿トリプシン阻害剤(UTI)、ウロリチンB、WSG、もしくはグリチルレチン酸、またはそれらの組合せからなる群から選択されてもよい。
【0052】
本組成物はまた、粘性かつ親水性の生体適合性のアルコール、好ましくはグリセロールを、好ましくは0.5~5重量/体積%で含んでもよい。
【0053】
本発明の一実施形態では、本組成物は、架橋されたヒアルロナンを、本組成物の重量に対して0.1から5wt%の量で含む。
【0054】
さらに、本ヒドロゲル組成物の主成分は水であることが理解されよう。好ましくは、注入のための水または精製水が、本組成物を製造するために使用される。そのうえ、本組成物は、6.7から7.8の範囲である生理学的に許容できるpHを示すために緩衝されてもよいことが認められよう。好適な緩衝剤は当業者に周知であり、例えばリン酸緩衝液が挙げられる。本組成物は、処置される対象(例えば、ヒト)の細胞外液の正常な重量オスモル濃度と類似した、生理学的に許容できる重量オスモル濃度も示す。よって、本組成物は、重量オスモル濃度が250~350mOsmol/kgの範囲であってもよく、重量オスモル濃度を調節するためのさらなる溶質、例えば塩化ナトリウム、塩化カルシウム、および/または塩化カリウムを含んでもよい。
【0055】
本発明によるヒドロゲル組成物は滅菌されており、これは現行技術水準の手法により達成することができる。オートクレーブを用いた加熱湿熱滅菌は標準的な方法の1つであり、これはゲルを121℃でおよそ15~20分間、高圧の飽和蒸気に供するステップを含む。より短時間(例えば約1分と5分との間)およびより高温(例えば約130℃と135℃との間)での高圧蒸気滅菌により、ゲル中のヒアルロナン分子の分子量をより良好に保存できるであろう(Fedegari whitepaper、US2016/0220729を参照されたい)。他の高圧蒸気滅菌パラメーターの最適化(例えば、生成物の速やかな冷却を確実にすること)は、ポリマーの分子量を保存するためにさらに有利であろう(http://www.steriflow.com/en/news/Sterilization-hyaluronic-acid)。
【0056】
ヒドロゲル組成物という用語は、本明細書で使用される場合、固体および流体(液体)の特徴を両方とも有する組成物を説明するものとして理解される。一方、ヒドロゲルは注入可能であってもよく、すなわち、流体様の挙動を示す。他方では、ヒドロゲルはある特定の形態を維持するために十分に硬いもの(または剛性)であり得、例えば、ヒドロゲルは、前もって形成された移植片、糸、またはフィラメントの形態で提供されてもよい。よって、ヒドロゲルという用語は、定量的な手法における組成物のレオロジー特性を限定するものではない。
【0057】
医薬品、化粧品または医療用具である、本ヒドロゲル組成物が使用されてもよい。ヒドロゲルは、好ましくは針またはカニューラからの注入により、適用部位、好ましくは軟部組織に移植される。代わりに、ヒドロゲルは、外科手技によって移植されてもよい。ヒドロゲルは、一度適用されると、(ヒドロゲル)移植片またはデポーと称される。本発明によるヒドロゲルは、生体適合性であり、吸収可能な(すなわち生分解性の)移植片を形成する。よって、本発明によるヒドロゲルは、軟部組織充填剤として使用可能である。
【0058】
生体材料、例えば安定化されたヒアルロナンを含む軟部組織充填剤は、注入可能なヒドロゲル組成物を用いて、増強が望まれる組織部位に送達される。軟部組織の充填に関する使用または方法の目的には、軟部(皮膚)組織を増強すること、先天異常、後天性欠損または美容的欠損を修正することが挙げられる。
【0059】
本ヒドロゲル組成物は元の容積に基づく充填作用および移植片の膨潤性を有するため、その主な作用は純粋に物理的なものである。よって、いかなる生理学的または薬学的相互作用もなければ、本使用は美容上のものと分類され得、本組成物は、化粧品または医療用具として考えられ得る。本発明によるヒドロゲル組成物の使用が美容上のものであると考えられ得る用途には、例えば老化の徴候を低減させること、例えば、
- 非手術的に女性の生殖器を若返らせる目的のための、外陰部または膣の組織への用途
- 真皮、皮下、または骨膜上への用途
が挙げられる。
【0060】
例示的には、本ヒドロゲル組成物は、美容目的のため、例えば皺を充填するため、皮膚欠損を処置するため、顔または身体(例えば、乳房、耳たぶ)の容積減少を復元するため、蜂巣炎におけるくぼみを低減させるため、涙溝の変形を処置するため、顔または身体の外形の成形(例えば、臀部増大、腰部増強、腓腹部増強)のため、陰茎増大(陰茎周囲増大、陰茎亀頭増強)のための(方法において)使用されてもよい。
【0061】
他の場合では、軟部組織の充填および増強の結果、疾患を処置または予防することができる、すなわち、疾患の症状は低減され、緩和され、および/または発症(再発)が予防される。軟部組織欠損により引き起こされた疾患は、ヒドロゲルを適用することによる、周囲の組織の一時的および/または局所的な構造の充填、制動、支持または増強による利益を受けることができる。本ヒドロゲル組成物が処置または予防のために使用され得る疾患には、例えば、
- 中足骨痛、拇指球の脂肪体の疼痛疾患であり、本発明によるヒドロゲルの使用が、拇指球軟部組織の脂肪体に適用され得る、
- 尿と糞便の失禁、この徴候に対して、本発明によるヒドロゲルが括約筋を画定する組織に適用され得る、
- 外陰部萎縮(また、閉経後性器尿路症候群)、この徴候に対して、本発明によるヒドロゲルは、腟の粘膜および前庭への注入によって外陰腟の領域に適用され得、ならびに/もしくは大陰唇増強に対して適用され得、大陰唇の再建により、両方の大陰唇が確実に密接に接触し、外陰部の内部構造が保護されることとなる、
- 声帯の障害、
- 静脈弁の機能不全、または
- 顔面脂肪萎縮症、瘢痕の減衰もしくは形態学的な非対称性もしくは変形(先天性、もしくは、例えば胸部もしくは顔の外傷もしくは手術の結果として生じたもの)、これらの徴候のために、本ヒドロゲルは再建目的で適用される、
が挙げられる。
【発明を実施するための形態】
【0062】
上の好ましい一実施形態で論じられているように、架橋されたヒアルロナンは、修飾されたヒアルロナンの反応生成物であり、修飾されたヒアルロナンは、架橋のための反応基、例えばチオール基を供給する内因性分子で修飾される。以下では、チオール修飾されたヒアルロナン、酸化生成物である架橋されたヒアルロナン、ならびに同一のものを含む組成物の調製に関するさらなる詳細を示す。
【0063】
ヒアルロナンのグルクロン酸部分のカルボキシル基と修飾剤との間のエステル結合またはアミド結合の形成による、修飾剤の導入が好ましい(上の式IIIを参照されたい)。修飾剤は、チオール基を、ジスルフィド結合の形態で、または合成工程で保護されたチオール基として含んでもよい。
【0064】
好ましい一実施形態では、修飾剤は、ヒアルロナン中のグルクロン酸部分のカルボキシル基に、アミド結合によって結合する。したがって、修飾剤は、ヒアルロナン中のグルクロン酸部分のカルボキシル基と、チオール基を含む修飾剤とでアミド結合を形成することが可能である、少なくとも1つのアミノ基を含む。例えば、チオール修飾されたヒアルロナンは、ヒアルロナン-システアミンコンジュゲートであり、システアミンは、ヒアルロナンにアミド結合によって結合する。
【0065】
同様に、修飾剤を担持する他のチオール基は、修飾剤のアミノ基(一級または二級アミノ基、好ましくは一級アミノ基)と、ヒアルロナン中のグルクロン酸部分のカルボキシル基との間のアミド結合形成によってチオール修飾されたヒアルロナンを合成するために使用されてもよい。修飾剤の可能性があるものには、例えばシステアミン、システイン、またはホモシステインの誘導体が挙げられ、システアミン、システイン、またはホモシステインのアミノ基は、アミノ酸のカルボキシル基と連結する。これらの誘導体は、好ましくは、N-保護されたアミノ酸を使用することにより合成される。
【0066】
低分子量の修飾剤は、ヒアルロナンに独自の物理化学的特性を可能な限り保護することが好ましい。本発明による組成物のために有用である架橋可能なチオール修飾されたヒアルロナンを得るための好適な低分子量の修飾剤は、好ましくはグルタチオン、システインおよびホモシステインを含む群からさらに選択される。
【0067】
好適なリンカーLまたは天然に発生する分子LHの非限定的な例は:
- シスタミン、システアミンのジスルフィド二量体、すなわち式VのL
-NH-CH-CH-S-S-CH-CH-NH-(V)
- 酸化グルタチオン、グルタチオンのジスルフィド二量体、すなわち式VIのLH
【0068】
【化4】

- シスチン、システインのジスルフィド二量体、すなわち式VIIのLH
【0069】
【化5】

- ホモシスチン、ホモシステインのジスルフィド二量体、すなわち式VIIIのLH
【0070】
【化6】

- 天然に発生する分子であるシスタミンと天然に発生するアミノ酸のコンジュゲートである、シスタミンのアミノ酸誘導体、すなわち、式(IX)のLH
【0071】
【化7】

(式中、両方のXは同一であっても互いに異なってもよく(対称のまたは非対称の誘導体)、Xの性質は、アミノ酸次第である。一実施形態では、両方のXは水素原子であり、すなわち、対称なグリシン誘導体である);
- 尿素、すなわち、式XのLH
【0072】
【化8】
【0073】
本発明によるヒドロゲル組成物において使用される架橋されたヒアルロナンは、以下のように製造されてもよい:第1に、ヒアルロナンを、架橋のための反応基、例えばチオール基を有する内因性分子で修飾する。システアミン、システインおよびグルタチオンは、ヒトにおいて天然に発生するそのような非遺伝毒性の内因性分子の例である。例えば、システアミン(HA-システアミン)およびグリシニル-システアミン(HA-グリシニル-システアミン)で修飾されたジスルフィドの形成により架橋可能な、チオール修飾されたヒアルロナンの適切な部分構造は、それぞれ、式XI
【0074】
【化9】

および式XII
【0075】
【化10】

に示されている。
【0076】
反応は、ヒアルロン酸の分子質量に悪影響を与えない、例えば温度が40℃未満であり、曝露時間があれば、pH11以上およびpH4未満の範囲のpH値に非常に制限される条件下で実施される。
【0077】
Aeschlimann(EP1 115 433 B1)では、ヒアルロナンの分子量を損なわず、インビボで忍容性良好であり生分解性であるヒアルロナン分子をさらに提供する、ヒアルロナンの官能基化の方法が記載されている。この方法は、架橋のための異なる末端官能基、例えばチオール基を有するヒアルロナンを生成するために使用される。これらの側鎖は、活性なエステル中間体を使用して、グルクロン酸部分のカルボキシル基への、アミンを含有する一級(保護)チオール基のカルボジイミド媒介性の連結、またはジアミノまたはジヒドラジド配位子を含有するジスルフィド結合により、ヒアルロナンへと導入される。次いで、ジスルフィド結合の中間生成物は還元され、保護チオール基を有する中間生成物は、保護基を除去することにより脱保護される。
【0078】
EP0 587 715では、水不溶性のアニオン性多糖を合成するための方法であって、少なくとも1つのポリアニオン性多糖(例えばヒアルロナン)を水性混合物中に溶解させるステップ;ポリアニオン性多糖を、活性化剤、例えばEDCもしくはETCのようなジイミドまたはBOPで活性化するステップ;活性化されたポリアニオン性多糖を、修飾化合物、例えば1-ヒドロキシベンゾトリアゾール水和物(HOBt)または1-ヒドロキシベンゾトリアゾール一水和物で修飾するステップ;および活性化されたポリアニオン性多糖を好適な求核剤(例えばアミノチオール)と反応させて、所望の不溶性組成物を形成するステップによる、方法が開示されている。その発明者らはポリアニオン性多糖のBOP活性化の1つの主な利点は、ポリアニオン性多糖の分子量が求核剤との連結の際に低減されないことであると述べている。
【0079】
システアミンによるヒアルロン酸の有効かつ制御された官能基化のための、DMT-MMによるトリアジン媒介性のアミド化が、Borkeらにおいて記載されている。他のカップリング試薬(例えばEDC媒介性の置換)と比較して、反応条件が緩やかであり多糖鎖の分解が最小限であることは、この群のカップリング試薬を使用する利点として挙げられている(Borkeら、Carbohydrate Polymers 116巻(2015年)42~50頁)。Liangらは、CDMTおよびNMMの存在下でのシスタミンによるカルボキシレート側鎖のアミド化反応とそれに続く、DTTによる還元反応による、チオール基のヒアルロナンへの導入を記載している(Liangら、Carbohydrate Polymers 132巻(2015年)472~480頁)。
【0080】
現行技術水準では、滅菌ヒドロゲル組成物の調製の過程における架橋中のヒアルロナンの分子量の保存については言及されていない。
【0081】
次いで、修飾されたヒアルロナンはなお未架橋のまま精製され、沈殿、クロマトグラフィーおよび透析のような異なる方法により非常に有効に精製することが可能となる。
【0082】
次いで、修飾および精製されたヒアルロナンは、架橋され、粘性の高いゲルを形成する。そのときには、粘性の高い水性ゲルに慣例的に適用される唯一の精製方法である透析によってゲルをさらに精製する必要はない。架橋についての条件は、リンカーの性質次第である。ヒアルロナンが反応性チオール基を有する内因性分子で修飾される場合、架橋には、チオール基を酸化して分子内および分子間ジスルフィド結合を形成するステップを伴う。
【0083】
ゲルは、一旦シリンジに充填されると、滅菌される必要がある。
【実施例
【0084】
実施例1:尿素を用いた架橋
8gのヒアルロン酸ナトリウムを、72gの生理食塩水に溶解させる。0.2Mの16gのHClに4gの尿素を溶解させ、別途、溶液を調製する。調製した2つの溶液を、最終溶液が均質となるまで混合し;pHを測定するが、pHは3.5から4の範囲内でなければならない。
【0085】
生成物を35(+/-2)℃で20~24時間、恒温装置にかけ、過剰な尿素を次いで除去し;精製したら、得られた生成物のpHを測定し、このpHは5.5から7.5であった。
【0086】
本生成物をシリンジに充填し、オートクレーブで滅菌する。
【0087】
実施例2:シスタミンを用いた架橋
ヒドロゲルを調製するために、MWが少なくとも約700kDaであるHA-システアミン粉末を、水性媒体中に溶解させる。MWが少なくとも1000kDaである未修飾のHA、および任意選択で局所麻酔剤、例えばリドカインHClを、この溶液に添加する。次いで、ジスルフィド結合の形成によるHA-システアミンの架橋を、緩やかな酸化条件(pH7.4、Oの存在下)、および室温で行って、軟部組織充填剤のために好適なヒドロゲルを得る。ゲルのさらなる精製(例えば、透析による)は、必要とされない。ヒドロゲルをシリンジに充填し、オートクレーブで滅菌する。
【0088】
TH-260417-1、TH-270217-2、TH-220317-2およびTH-070217-2の調製
滅菌ヒドロゲル組成物TH-260417-1の調製について、3580mgのHA-システアミン(MW 730kDa)、600mgのリドカインHClおよび1160mgのNaClを、注入のために、185gの水に、機械的撹拌下、室温で約3時間溶解させた。次いで、1000mgのヒアルロン酸ナトリウム(MW 2400kDa)を室温でさらに約3時間、撹拌を続けながら、溶液に添加した。次いで、pH11のリン酸緩衝液を、最終量が200gの製剤となるまで添加した。溶液を約15分間均質化させた。終夜の室温でのインキュベーション後、すでに架橋されたヒドロゲルを1mlのガラスシリンジに充填し、高圧蒸気滅菌によって滅菌した。滅菌ヒドロゲルは、pHが約7.7であり、重量オスモル濃度が270~330mOsmol/kgの範囲であった。
【0089】
TH-270217-2およびTH-070217-2を、より小さいバッチサイズ(50g)であること以外は同一の方法により、製造した。滅菌ヒドロゲル組成物TH-220317-2を、MWが約900kDaであるHA-システアミン原材料を用いたこと以外は滅菌ヒドロゲル組成物TH-270217-2およびTH-070217-2と同一の方法により、製造した。
【0090】
TH-260417-2の調製
滅菌ヒドロゲル組成物TH-260417-2の調製について、3580mgのHA-システアミン(MW 730kDa)、600mgのリドカインHClおよび1160mgのNaClを、注入のために、185gの水に、機械的撹拌下、室温で約3時間溶解させた。次いで、1000mgのヒアルロン酸ナトリウム(MW 1300kDa)を、室温でさらに約3時間、撹拌を続けながら、溶液に添加した。pH11のリン酸緩衝液を、次いで、最終量が200gの製剤となるまで添加した。溶液を約15分間均質化させた。終夜の室温でのインキュベーション後、すでに架橋されたヒドロゲルを1mlのガラスシリンジに充填し、高圧蒸気滅菌によって滅菌した。滅菌ヒドロゲルは、pHが約7.7であり、重量オスモル濃度が270~330mOsmol/kgの範囲であった。
【0091】
TH-260917_200の調製
滅菌ヒドロゲル組成物TH-260917_200の調製について、3580mgのHA-システアミンナトリウム塩(MW 730kDa、修飾度151μmol/gのポリマー)、600mgのリドカインHClおよび1160mgのNaClを、注入のために、185gの水に、機械的撹拌下、室温で約3時間溶解させた。次いで、1000mgのヒアルロン酸ナトリウム(MW 2400kDa)を、室温でさらに約3時間、撹拌を続けながら、溶液に添加した。次いで、pH11のリン酸緩衝液を、最終量が200gの製剤となるまで添加した。溶液を約15分間均質化させた。終夜の室温でのインキュベーション後、すでに粘性の高いゲルに、200μmのメッシュサイズのフィルタープレートで圧力をかけた。ヒドロゲルを1mlのガラスシリンジに充填し、高圧蒸気滅菌によって滅菌した(121℃/15分間)。滅菌ヒドロゲルは、pHが約7.5であり、重量オスモル濃度が270~330mOsmol/kgの範囲であった。
【0092】
TH-250417-1の調製
滅菌ヒドロゲル組成物TH-250417-1の調製について、2685mgのHA-システアミン(MW 730kDa)、450mgのリドカインHClおよび870mgのNaClを、pH3、85.5gのリン酸緩衝液に、機械的撹拌下、室温で終夜溶解させた。次いで、HA-システアミンを含む溶液のpHを、アルカリ性リン酸緩衝液の添加によってpH7.6に調節し、2.7%(m/m)のHA-システアミンを含む溶液を得た。10分間の均質化の後、溶液を終夜撹拌することなく室温でインキュベートした。次に、架橋されたゲルに、200μmのメッシュサイズのフィルタープレートで圧力をかけた。MWが2400kDaである1.5%(m/m)のヒアルロン酸ナトリウムを含有する、pH6.7の10mMのリン酸緩衝液中溶液を調製した。次いで、MWが2400kDaである1.5%(m/m)のヒアルロン酸ナトリウムを含有する、pH6.7の10mMのリン酸緩衝液中溶液1部を、篩分され架橋されたヒドロゲル2部に添加した。10分間の機械的混合の後に続いて、最終生成物を1mlのガラスシリンジに充填し、高圧蒸気滅菌によって滅菌した。滅菌ヒドロゲルは、pHが約7.4であり、重量オスモル濃度が270~330mOsmol/kgの範囲であった。
【0093】
TH-250417-2の調製
滅菌ヒドロゲル組成物TH-250417-2の調製について、2685mgのHA-システアミン(MW 730kDa)、450mgのリドカインHClおよび870mgのNaClを、103.5g、pH3のリン酸緩衝液に、機械的撹拌下、室温で終夜溶解させた。次いで、HA-システアミンを含む溶液のpHを、アルカリ性リン酸緩衝液の添加によってpH7.6に調節し、2.2%(m/m)のHA-システアミンを含む溶液を得た。10分間の均質化の後、溶液を終夜撹拌することなく室温でインキュベートした。次に、架橋されたゲルに、200μmのメッシュサイズのフィルタープレートで圧力をかけた。MWが1300kDaである2.5%(m/m)のヒアルロン酸ナトリウムを含有する、pH6.7の10mMのリン酸緩衝液中溶液を調製した。MWが1300kDaである2.5%(m/m)のヒアルロン酸ナトリウムを含有する、pH6.7の10mMのリン酸緩衝液中溶液1部を、次いで、篩分され架橋されたヒドロゲル3部に添加した。10分間の機械的混合の後に続いて、最終生成物を1mlのガラスシリンジに充填し、高圧蒸気滅菌によって滅菌した。滅菌ヒドロゲルは、pHが約7.6であり、重量オスモル濃度が270~330mOsmol/kgの範囲であった。
【0094】
THM-040717-1-53の調製
滅菌ヒドロゲル組成物THM-040717-1-53の調製について、750mgのHA-システアミンナトリウム塩(MW 730kDa、修飾度151μmol/gのポリマー)、450mgのヒアルロン酸ナトリウム(MW 2400kDa)、450mgのリドカインHClおよび795mgのNaClを、132g、注入のための0.01MのHClに、機械的撹拌下、室温で約21時間溶解させた。次いで、pH12.5のリン酸緩衝液を、最終量が150gの製剤となるまで添加した。溶液を約15分間均質化させた。終夜の室温でのインキュベーション後、すでに粘性の高いヒドロゲルを1mlのガラスシリンジに充填し、高圧蒸気滅菌によって滅菌した。滅菌ヒドロゲルは、pHが7.3であり、重量オスモル濃度が267mOsmol/kgであった。
【0095】
実施例3 ジスルフィド架橋されたHAを含む滅菌ヒドロゲル組成物における抽出可能なHAのMWの測定
試料の調製(還元抽出)
ジスルフィド架橋されたHAおよび遊離HAを含むヒドロゲルの滅菌後、還元剤をヒドロゲルに添加し、ジスルフィド結合を定量的に破壊した。次いで、還元(未架橋)型の修飾されたHAおよび遊離HAのMW分布を同時に決定した。約900mgのヒドロゲルを、注入のために、1500mgの水で希釈し、続けて還元剤(2500mgのTCEP.HCl(トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(注入のための2.5mg/mlの水))を添加してジスルフィド架橋を切断した。3時間の還元の後、400mgの反応溶液を、50μl、5NのHClで酸性化させた。遊離HAおよび修飾されたヒアルロナンを、エタノールで沈殿させた。沈殿物を遠心分離により回収し、続けて、遊離チオール部分に対するキャッピング剤(2-(2-アミノエチルジスルファニル)ピリジン-3-カルボン酸)を2mg/mlの濃度で含有する4mlの水溶液に可溶化させた。室温での3時間のインキュベーション後、試料をPBSでさらに希釈した。
【0096】
分子量の決定
サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)分析のために、試料溶液をSEC溶離液で希釈して、0.1mg/mlの最終HA濃度を得た。一連の高感度の検出器、すなわちフォトダイオードアレイUV、光散乱(RALSおよびLALSの両方)、屈折率および粘度検出器を備えたViscotek TDAmax温調付きマルチ検出器SECシステムを、測定のために使用した。屈折率検出器で試料の濃度を記録して、それぞれの分布曲線を得た。光散乱検出器と組み合わせて、分子量MWを決定した。
【0097】
結果
例2により調製された、滅菌ヒドロゲル組成物中の低MW分率(MW<200kDa)のHAは、試料を室温で示された日数保存した後、8%から15%の範囲であることが見出された(表1)。
【0098】
【表1】
【0099】
実施例4(比較) WO2016/005785A1に記載されているような、TMP(トリメタリン酸塩)と架橋されるのに不可欠な反応条件下での、ヒアルロン酸の分子量の低減
水和ステップ
最初の分子量が2.4MDaであるヒアルロン酸ナトリウム(HA)を、0.01MのNaOHに、90mg/mlの最終濃度で、2.5時間、機械で均質化させながら水和させた(pH11)。
【0100】
模擬架橋ステップ
水和ステップ中に得られた混合物の1試料を、48時間、70℃でインキュベートした。ヒアルロナン主鎖の分解を、pH7.0のリン酸緩衝液を使用して中和することにより停止させた。
【0101】
分子量の決定
開始材料として使用されるヒアルロン酸ナトリウム、水和ステップ後のヒアルロン酸ナトリウム、および架橋ステップを模倣するステップ中に得られたすべての3つの試料の分子量を決定した。
【0102】
サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)分析のために、試料溶液をSEC溶離液で希釈して、0.1mg/mlの最終HA濃度を得た。一連の高感度の検出器、すなわちフォトダイオードアレイUV、光散乱(RALSおよびLALSの両方)、屈折率および粘度検出器を備えたViscotek TDAmax温調付きマルチ検出器SECシステムを、測定のために使用した。屈折率検出器で試料の濃度を記録して、それぞれの分布曲線を得た。光散乱検出器と組み合わせて、HAの分子量Mwを決定した。
【0103】
結果
高温および高pH値への曝露により、HAの低MW分率が増大することが見出された。pH11および70℃で48時間後、低MW分率は30%であった。低MW分率は、最終軟部組織充填剤製剤を製造するために不可欠である滅菌ステップ中にさらに増大すると予測される。
【0104】
【表2】
【0105】
実施例5 ジスルフィド架橋されたHAを含む滅菌ヒドロゲル組成物のインビボの滞留時間
滅菌ヒドロゲル組成物TH-250417-1およびTH-260417-1(例2および3を参照されたい)の分解動態を、1製剤あたり合計12匹の雌Sprague Dawleyラットの背部皮膚へと皮内注入した後、2ヶ月にわたり決定した。適用された充填剤デポーの容積を、MRTスキャンで監視した。開始時点のデポーの容積に対する平均のデポーの容積を算出した。移植後108日目では、平均の相対的なデポー容積は、TH-260417-1で115%、およびTH-250417-1で106%であり、ジスルフィド架橋されたHAを含む両方の滅菌ヒドロゲル組成物は分解に対する耐性が高いことを示していた。
【0106】
実施例6 ジスルフィド架橋されたHAを含む組成物と、現行技術水準のBDDE架橋されたHAを含む組成物との間の、HAのMW分布の比較
ジスルフィド架橋されたHA(シスタミン架橋されたHA)を含む、調査された組成物
修飾度がポリマー1gあたりチオール基147μmolであるチオール修飾されたヒアルロナン(MW 730kDa)を、17.9mg/mLの架橋されたHA-システアミンナトリウム塩、3mg/mLのリドカインHCl、および5mg/mLの未修飾のヒアルロン酸ナトリウム(MW 1.94MDa)を含む組成物を製造するために使用した。pHおよび重量オスモル濃度を生理学的に許容できる値に調節するために、ヒドロゲルに、10mMのリン酸緩衝液および95mMのNaClをさらに含めた。簡潔には、HA-システアミンナトリウム塩、ヒアルロン酸ナトリウム、リドカインHCl、および塩化ナトリウムを、室温で8時間撹拌することにより、0.01MのHClに溶解させた。pH12.1、100mMのリン酸緩衝液1部を、pHを7.4へと調節するための溶液9部に添加し、続けて、チオール修飾されたヒアルロナンの遊離チオール基と過酸化水素とのモル比が2:1となるように希釈した過酸化水素溶液を添加することにより、架橋を開始した。室温で架橋させた48時間後、ヒドロゲルを篩分し、1mlのガラスシリンジに充填し、高圧蒸気滅菌によって滅菌した。組成物中、架橋されたポリマーの、滅菌後に減少した分子量の平均(MRPMW)は610kDaであった。滅菌ヒドロゲルは、pHが7.5であり、重量オスモル濃度が296mOsmol/kgであった。
【0107】
BDDE架橋されたHAを含む、調査された組成物
BDDE架橋されたHA(MW 2.7MDa)を23mg/mlの濃度で含む滅菌ヒドロゲルを得た。ヒドロゲルは、pH7であり、重量オスモル濃度が298mOsmol/kgであった。
【0108】
保存的抽出による、MW決定のための試料の調製
両方のヒドロゲル組成物を、以下のように調査した。約200mgのヒドロゲルを、1800mgのPBSで希釈した。4時間の遊離HAの物理的な(「保存的な」)抽出後、分散体を遠心分離にかけ、続けて上清を回収した。
【0109】
サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)分析のために、上清をSEC溶離液で希釈して、約0.1mg/mlの最終HA濃度を得た。一連の高感度の検出器、すなわちフォトダイオードアレイUV、光散乱(RALSおよびLALSの両方)、屈折率および粘度検出器を備えたViscotek TDAmax温調付きマルチ検出器SECシステムを、測定のために使用した。屈折率検出器で試料の濃度を記録して、それぞれの分布曲線を得た。光散乱検出器と組み合わせて、分子量MWを決定した。
【0110】
結果
【0111】
【表3】

ジスルフィド架橋されたHAを含む滅菌ヒドロゲルの抽出されたHA(5.2mg/mL)の濃度は、ヒドロゲルの調製中に組成物に添加された未修飾のHA(5mg/mL)の濃度と非常によく一致した。このことは、修飾されたHAで、ヒドロゲルの調製中に依然として未架橋であるものもヒアルロナン鎖の分解の際に放出されたものも有意な量で存在しなかったため、架橋工程が両方とも非常に有効かつ緩やかなものであったことを示す。最初の測定(表3)を、ヒドロゲル製造の1ヶ月後以内に実施した。8ヶ月後の再度の測定では、抽出されたHAの濃度にも、200kDa未満のMW分率にも、増大が示されなかった。分子量が200kDa未満である抽出可能なヒアルロナンの量は、ヒアルロナンの総量(修飾されたおよび未修飾のHAを含む)に対して1wt%未満であった。
【0112】
対照的に、BDDE架橋されたHAを含むヒドロゲル中、抽出されたHAの全濃度は7.5mg/mlであり、このことは、ヒドロゲル製造のために使用されたHAの約3分の1が依然として未架橋であるか、架橋中、滅菌中および保存中のヒアルロナン鎖の分解の際に放出されたことを意味する。生成物の製造中に積極的に添加された遊離HAの濃度は、製造元により明示されていなかった。分子量が200kDa未満である抽出可能なヒアルロナンの量は、ヒアルロナンの総量に対して23wt%であった。
【0113】
実施例7 ビス(グリシル)-シスタミン二塩酸塩の調製
シスタミン二塩酸塩(1g、4.44mmol)およびN-(tert-ブトキシカルボニル)-グリシン(1.59g、9.10mmol)の、乾燥ジクロロメタン:THF=1:1(20mL)中混合物に、最初にトリエチルアミン(1270μL、9.16mmol)を添加し、続けてEDC*HCl(1.75g、9.10mmol)のジクロロメタン中溶液を添加した。反応溶液を、5時間、周囲温度で撹拌し、次いで揮発分を減圧下で蒸発させた。残留物を酢酸エチル(250mL)中にとり、1nのHCl(2×50mL)、半飽和NaHCO(50mL)および水(50mL)で洗浄した。有機層をNaSOで乾燥させ、揮発分を減圧下で蒸発させ、N-Boc保護されたビス(グリシル)-シスタミンを、無色の油状物として得た。収量:1.575g(88%)。1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 6.97 (s, 1H, NH), 5.53 (s, 1H, NH), 3.81 (d, J=5.8 Hz, 2H, α-CH 2 ), 3.58 (aq, J=6.3 Hz, 2H, -CH 2 -NH-), 2.82 (t, 2H, -CH 2 -S- ), 1.45 (s, 9H, -CH 3 t-Bu); m/z = 467.1 [M+H]+, 489.1 [M+Na]+.
【0114】
N-Boc保護されたビス(グリシル)-シスタミン(300mg、0.64mmol)のMeOH(5mL)中溶液に、塩化アセチル(300μL、4.20mmol)を添加した。発熱反応が終了した後、混合物を密封フラスコ中で5時間、周囲温度で撹拌し、次いで、トルエン(2mL)を添加し、揮発分を生成物が沈殿するまで蒸発させた。白色の固体を、吸引濾過によって単離し、n-ペンタン(2×5mL)で洗浄した。収量:146mg(67%)。m.p.=184℃(分解);1H NMR (400 MHz, D2O) δ 3.81 (s, 2H, α-CH 2 ), 3.59 (at, J=6.3 Hz, 2H, -CH 2 -NH), 2.88 (at, 2H, -CH 2 -S- ); m/z = 266.9 [M+H]+, 288.9 [M+Na]+.
【0115】
ビス(グリシル)-シスタミン二塩酸塩は、ヒアルロナン-グリシル-システアミンナトリウム塩(HA-GLYC)の調製を可能にする修飾剤である。この修飾されたヒアルロナンは、架橋されたヒアルロナンHA-L-HAを形成し、リンカーLHは、形式的に、アミノ酸のグリシンおよびシスタミンのコンジュゲート(すなわち、式(IX)のLH、式中、RはHである)に由来する。
【0116】
実施例8 架橋されたヒアルロナン-グリシル-システアミンを含むヒドロゲル組成物の製剤化および特徴付け
17.9mg/mLの架橋されたヒアルロナン-グリシル-システアミンナトリウム塩(HA-GLYC)および5mg/mLの未修飾のヒアルロン酸ナトリウムを含む滅菌ヒドロゲル組成物を製造した。簡潔には、537mgのHA-GLYC(乾燥重量、MMW 610kDa、修飾度162μmol/ポリマーのg)および150mgのヒアルロン酸ナトリウム(乾燥重量、MMW 2.4MDa)を、26g、0.01MのHCl(NaClを含む)に、機械的撹拌下、室温で約5時間溶解させた。19.02gのこの溶液に、pH11.85、2.115mLの100mMリン酸緩衝液を添加して、pHを約pH7.4に調節した。次いで、273μLの0.3%H溶液を添加し、混合物を15分間、周囲温度で均質化し、次いで架橋のために終夜放置した。架橋されたヒドロゲルを、1mLのガラスシリンジに充填し、高圧蒸気滅菌によって滅菌した。滅菌ヒドロゲルは、pH約7.2であった。
【0117】
実施例9 架橋されたヒアルロナン-ホモシステインを含むヒドロゲル組成物の製剤化および特徴付け
17.9mg/mLの架橋されたヒアルロナン-ホモシステインナトリウム塩(HA-HCYS)および5mg/mLの未修飾のヒアルロン酸ナトリウムを含む滅菌ヒドロゲル組成物を製造した。簡潔には、537mgのHA-HCYS(乾燥重量、MMW 610kDa、修飾度136μmol/ポリマーのg)および150mgのヒアルロン酸ナトリウム(乾燥重量、MMW 2.4MDa)を、26g、0.01MのHCl(NaClを含む)に、機械的撹拌下、室温で約5時間溶解させ、続いて気泡を除去するために1時間の静止時間をとった。23.68gの溶液に、pH12.04、2.63ml、100mMのリン酸緩衝液を添加して、溶液のpHを約pH7.2に調節した。混合物を、架橋のために48時間、室温で放置し、次いで架橋されたヒドロゲルを1mLのガラスシリンジに充填し、高圧蒸気滅菌によって滅菌した。滅菌ヒドロゲルは、pH約7.0であった。