(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-26
(45)【発行日】2023-11-06
(54)【発明の名称】熱間プレス成型用金型、熱間プレス成型用金型の製造方法および自動車車体部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21D 37/16 20060101AFI20231027BHJP
B30B 15/34 20060101ALI20231027BHJP
B21D 53/88 20060101ALI20231027BHJP
B21D 22/20 20060101ALI20231027BHJP
【FI】
B21D37/16
B30B15/34 Z
B21D53/88 Z
B21D22/20 H
(21)【出願番号】P 2021074670
(22)【出願日】2021-04-27
(62)【分割の表示】P 2020164666の分割
【原出願日】2020-09-30
【審査請求日】2023-09-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591214527
【氏名又は名称】株式会社ジーテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 賢一
(72)【発明者】
【氏名】横田 明弘
(72)【発明者】
【氏名】糸井 宏樹
【審査官】石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-103266(JP,A)
【文献】特許第6681239(JP,B2)
【文献】特許第6628746(JP,B2)
【文献】特表2016-539009(JP,A)
【文献】特開2012-218018(JP,A)
【文献】特許第5685462(JP,B2)
【文献】特許第4982723(JP,B2)
【文献】特開平9-262629(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/75246(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/21653(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/298629(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/247171(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/219849(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/219841(US,A1)
【文献】独国特許発明第102009045597(DE,B3)
【文献】韓国登録特許第10-963042(KR,B1)
【文献】米国特許出願公開第2009/293571(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/184763(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/138698(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/263673(US,A1)
【文献】米国特許第6354361(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 37/16
B30B 15/34
B21D 53/88
B21D 22/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間プレス成型用の金型材料によって形成された少なくとも一つの金型本体と、
前記金型本体の表面に形成され、加熱された金属板材を成型する成型面と、
前記金型本体の内部に形成され、冷媒が流れる冷媒通路と、
前記金型材料より熱伝導率が高い材料によって
中実の形状に形成され、前記金型本体に埋設された伝熱体とを備え、
前記伝熱体は、前記成型面から前記冷媒通路に向かう熱伝達経路の一部を構成していることを特徴とする熱間プレス成型用金型。
【請求項2】
請求項1記載の熱間プレス成型用金型において、
前記金型本体は、前記成型面に接続する側面または前後方向の端面を有し、
前記伝熱体は、前記成型面の近傍であって前記冷媒通路と前記側面または前記前後方向の端面との間に設けられていることを特徴とする熱間プレス成型用金型。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の熱間プレス成型用金型において、
前記伝熱体の一端は前記金型本体の外面に露出し、かつ前記伝熱体の他端は冷媒に接触していることを特徴とする熱間プレス成型用金型。
【請求項4】
請求項1
~請求項3のいずれか一つに記載の熱間プレス成型用金型において、
前記金型本体は、複数の前記金型本体を互いに連結できるように構成されたものであり、
互いに隣り合う二つの前記金型本体の冷媒通路は、これらの金型本体の外面に一方の前記金型本体から他方の前記金型本体に延びるように設けられた通路形成部材の内部を通して一方の前記金型本体内から他方の前記金型本体内に延びるように構成され、
互いに隣り合う二つの前記金型本体の連結部分であって前記成型面の近傍に前記伝熱体が設けられていることを特徴とする熱間プレス成型用金型。
【請求項5】
請求項1
~請求項
4の何れか一つに記載の熱間プレス成型用金型において、
前記金型本体に
は、前記成型面から突出するように
金型部品が取付けられ、
前記冷媒通路は、前記金型部品の近傍を通って前記成型面に沿って延びるように形成され、
前記伝熱体は、前記冷媒通路が延びる方向の一方と他方とから前記金型部品を挟むように配置されていることを特徴とする熱間プレス成型用金型。
【請求項6】
請求項1~請求項
5の何れか一つに記載の熱間プレス成型用金型において、
前記伝熱体は、銅材料によって形成されていることを特徴とする熱間プレス成型用金型。
【請求項7】
請求項1~請求項6のいずれか一つに記載の熱間プレス成型用金型において、
前記金型本体は、外面に開口して前記成型面の近傍を前記冷媒通路に向けて延びる孔を有し、
前記伝熱体は、前記孔に圧入されていることを特徴とする熱間プレス成型用金型。
【請求項8】
請求項7記載の熱間プレス成型用金型において、
前記伝熱体は、一つの前記孔に個々に圧入された複数の柱状体によって構成されていることを特徴とする熱間プレス成型用金型。
【請求項9】
請求項7または請求項8記載の熱間プレス成型用金型において、
前記伝熱体は、前記孔の開口側となる端面から伝熱体の内部に延びるねじ孔を有していることを特徴とする熱間プレス成型用金型。
【請求項10】
請求項1~請求項6のいずれか一つに記載の熱間プレス成型用金型において、
前記金型本体は、外面に開口して前記成型面の近傍を前記成型面に沿って前記冷媒通路に向けて延びる孔を有し、
前記孔には雌ねじが形成され、
前記伝熱体は、前記雌ねじにねじ込まれていることを特徴とする熱間プレス成型用金型。
【請求項11】
熱間プレス成型用の金型材料によって金型本体を形成するステップと、
前記金型本体に成型面を形成するステップと、
前記金型本体の内部に冷媒を流す冷媒通路を形成するステップと、
前記金型材料より熱伝導率が高い材料によって形成された伝熱体を前記金型本体の内部に前記成型面から前記冷媒通路に向かう熱伝達通路の一部を構成するように埋設するステップとを有し、
前記伝熱体を前記金型本体に埋設するステップは、
前記金型本体の外面に開口して前記金型本体内を前記冷媒通路に向けて延びる孔を形成するステップと、
前記孔に圧入可能
となるように中実の形状に形成された前記伝熱体を前記外面の開口から前記孔に打ち込むステップとによって実施することを特徴とする熱間プレス成型用金型の製造方法。
【請求項12】
加熱された金属板材を成型する成型面と、冷媒が流れる冷媒通路とを有する熱間プレス成型用の金型を鋳造によって成型する熱間プレス成型用金型の製造方法であって、
前記鋳造に用いる金型材料より熱伝導率が高い金属材料によって内部が満たされた鋼管からなる伝熱体を、前記成型面から前記冷媒通路に向かう熱伝達経路の一部となる位置に鋳包みによって埋め込むことを特徴とする熱間プレス成型用金型の製造方法。
【請求項13】
請求項1~請求項
10記載の熱間プレス成
型用金型に所定温度に加熱された自動車車体部品用の金属板材を重ねるステップと、
前記熱間プレス成型用金型を用いてホットスタンプ工法によって前記金属板材を成型するステップとを有することを特徴とする自動車車体部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部に冷媒通路を有する熱間プレス成型用金型、熱間プレス成型用金型の製造方法および自動車車体部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両の車体部品を成型する技術として、熱間プレス成型(ホットスタンプ工法)が知られている。このホットスタンプ工法は、高温に熱した金属板材を熱間プレス成型装置に装填し、この金属板材に対してプレス成型を行うと同時に焼入れを行う工法である。この種のホットスタンプ工法を実施するために使用可能な従来の熱間プレス成型装置は、例えば特許文献1に記載されている。
【0003】
特許文献1に開示されているような従来の熱間プレス成型装置は、熱間プレス成型用金型の温度を低温に保つために、金型に形成された冷媒通路に冷媒を流す構成が採られている。冷媒通路は、金型に機械加工によって穿設された孔を用いて構成されている。この孔は、例えば
図12に示すように形成されている。
【0004】
図12に示す熱間プレス成型用金型1は、金属板材(図示せず)を成型する成型面2と、機械加工によって形成された複数の孔3からなる冷媒通路4とを有している。冷媒通路4は、成型面2に沿って延びる主冷却通路4aと、主冷却通路4aの途中から成型面2とは反対方向に延びる連通路4bとを有している。連通路4bは、図示していない冷媒排出路や、隣接する他の熱間プレス成型用金型の冷媒通路などと主冷却通路4aとを連通するための通路である。
【0005】
冷媒は、
図12において主冷却通路4aの左側の端部から主冷却通路4a内に流入し、主冷却通路4aから連通路4bに流れ込む。このとき、主冷却通路4aの連通路4bより先に延びる延長部4cは、冷媒が滞留するようになる。延長部4cに冷媒が滞留すると、
図12中に太線で示す部分、すなわち成型面2における延長部4cと隣接する部分2aに「熱溜まり」が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図12に示す熱間プレス成型用金型1において「熱溜まり」が生じると、成型面2と冷媒との間の熱交換が不十分になる。
図12においては、熱交換のイメージを白抜きの矢印で示している。熱交換が不十分であると、「熱溜まり」となる成型面2の一部2aを十分に冷却できなくなり、この成型面2の一部2aに接触する金属板材(成型品)を成型時に十分に冷却することができなくなる。
【0008】
熱間プレス成型用金型1の内部に冷媒の滞留に起因して「熱溜まり」が生じる主な理由は、以下のように二つある。
第1の理由は、設計上の理由で冷媒通路4を設定できないからである。すなわち、金型部品や金型の形状、大きさによって冷媒通路4となる孔3を形成することができない場合がある。
第2の理由は、機械加工の都合で冷媒通路4を設定できないからである。すなわち、孔3を穿設するドリルの径や長さ、性能、孔3どうしの交差部分の条件などにより設計通り加工できない場合がある。
【0009】
本発明の目的は、成型面に「熱溜まり」が生じることを防ぐことが可能な熱間プレス成型用金型、熱間プレス成型用金型の製造方法および自動車車体部品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的を達成するために本発明に係る熱間プレス成型用金型は、熱間プレス成型用の金型材料によって形成された少なくとも一つの金型本体と、前記金型本体の表面に形成され、加熱された金属板材を成型する成型面と、前記金型本体の内部に形成され、冷媒が流れる冷媒通路と、前記金型材料より熱伝導率が高い材料によって中実の形状に形成され、前記金型本体に埋設された伝熱体とを備え、前記伝熱体は、前記成型面から前記冷媒通路に向かう熱伝達経路の一部を構成しているものである。
本発明は、熱間プレス成型用金型において、前記金型本体は、前記成型面に接続する側面または前後方向の端面を有し、前記伝熱体は、前記成型面の近傍であって前記冷媒通路と前記側面または前記前後方向の端面との間に設けられていてもよい。
本発明は、前記熱間プレス成型用金型において、前記伝熱体の一端は前記金型本体の外面に露出し、かつ前記伝熱体の他端は冷媒に接触していてもよい。
【0011】
本発明は、前記熱間プレス成型用金型において、前記金型本体は、複数の前記金型本体を互いに連結できるように構成されたものであり、互いに隣り合う二つの前記金型本体の冷媒通路は、これらの金型本体の外面に一方の前記金型本体から他方の前記金型本体に延びるように設けられた通路形成部材の内部を通して一方の前記金型本体内から他方の前記金型本体内に延びるように構成され、互いに隣り合う二つの前記金型本体の連結部分であって前記成型面の近傍に前記伝熱体が設けられているものである。
【0012】
本発明は、前記熱間プレス成型用金型において、前記金型本体には、前記成型面から突出するように金型部品が取付けられ、前記冷媒通路は、前記金型部品の近傍を通って前記成型面に沿って延びるように形成され、前記伝熱体は、前記冷媒通路が延びる方向の一方と他方とから前記金型部品を挟むように配置されていてもよい。
【0013】
本発明は、前記熱間プレス成型用金型において、前記伝熱体は、銅材料によって形成されていてもよい。
本発明は、前記熱間プレス成型用金型において、前記金型本体は、外面に開口して前記成型面の近傍を前記成型面に沿って前記冷媒通路に向けて延びる孔を有し、前記伝熱体は、前記孔に圧入されていてもよい。
本発明は、前記熱間プレス成型用金型において、前記伝熱体は、一つの前記孔に個々に圧入された複数の柱状体によって構成されていてもよい。
本発明は、前記熱間プレス成型用金型において、前記伝熱体は、前記孔の開口側となる端面から伝熱体の内部に延びるねじ孔を有していてもよい。
本発明は、前記熱間プレス成型用金型において、前記金型本体は、外面に開口して前記成型面の近傍を前記成型面に沿って前記冷媒通路に向けて延びる孔を有し、前記孔には雌ねじが形成され、前記伝熱体は、前記雌ねじにねじ込まれていてもよい。
【0014】
本発明に係る熱間プレス成型用金型の製造方法は、熱間プレス成型用の金型材料によって金型本体を形成するステップと、前記金型本体に成型面を形成するステップと、前記金型本体の内部に冷媒を流す冷媒通路を形成するステップと、前記金型材料より熱伝導率が高い材料によって形成された伝熱体を前記金型本体の内部に前記成型面から前記冷媒通路に向かう熱伝達通路の一部を構成するように埋設するステップとを有し、前記伝熱体を前記金型本体に埋設するステップは、前記金型本体の外面に開口して前記金型本体内を前記冷媒通路に向けて延びる孔を形成するステップと、前記孔に圧入可能となるように中実の形状に形成された前記伝熱体を前記外面の開口から前記孔に打ち込むステップとによって実施する方法である。
【0015】
本発明に係る熱間プレス成型用金型の製造方法は、加熱された金属板材を成型する成型面と、冷媒が流れる冷媒通路とを有する熱間プレス成型用の金型を鋳造によって成型する熱間プレス成型用金型の製造方法であって、前記鋳造に用いる金型材料より熱伝導率が高い金属材料によって内部が満たされた鋼管からなる伝熱体を、前記成型面から前記冷媒通路に向かう熱伝達経路の一部となる位置に鋳包みによって埋め込む方法である。
【0016】
本発明に係る自動車車体部品の製造方法は、前記熱間プレス成形用金型に所定温度に加熱された自動車車体部品用の金属板材を重ねるステップと、前記熱間プレス成型用金型を用いてホットスタンプ工法によって前記金属板材を成型するステップとによって実施する方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る熱間プレス成型用金型によれば、伝熱体が実質的に冷媒として機能するから、冷媒を流すことができない部分に伝熱体を埋設することにより、冷媒を流すことができない部分であっても冷媒との間で熱交換を行うことができるようになる。したがって、金型内に冷媒が滞留する部分が生じ、成形面に「熱溜まり」が生じることを防ぐことが可能な熱間プレス成型用金型を提供することができる。
【0018】
伝熱体を金型本体に打ち込む熱間プレス成型用金型の製造方法によれば、伝熱体が金型本体に確実に密着する。したがって、熱交換の効率が高くなるように伝熱体を金型本体に埋設することができ、伝熱体が介在する熱交換が効率よく行われるようになって「熱溜まり」を解消することができる。
【0019】
伝熱体を鋳包みによって金型本体に埋め込む熱間プレス成型用金型の製造方法によれば、鋳造時に伝熱体の埋設が完了するため、伝熱体を金型本体に打ち込む製造方法と較べて熱間プレス成型用金型を製造するための工程数が少なくなり、熱間プレス成形用金型の製造コストを低減することができる。
【0020】
本発明に係る自動車車体部品の製造方法によれば、成型時に自動車車体部品用の金属板材が十分に冷却されるから、強度が高い自動車車体部品を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、本発明に係る熱間プレス成型用金型の断面図である。
【
図2】
図2は、本発明に係る熱間プレス成型用金型の製造方法を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、伝熱体の変形例を示す斜視図である。
【
図4】
図4は、熱間プレス成型用金型の他の実施の形態を示す断面図である。
【
図5】
図5は、熱間プレス成型用金型の他の実施の形態を示すである。
【
図6】
図6は、熱間プレス成型用金型の製造方法の第2の実施の形態を説明するための断面図である。
【
図7】
図7は、第2の実施の形態による熱間プレス成型用金型の製造方法を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、伝熱体の変形例を示す斜視図である。
【
図9】
図9は、伝熱体の変形例を示す斜視図である。
【
図11】
図11は、本発明に係る自動車車体部品の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【
図12】
図12は、従来の熱間プレス成型用金型の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(第1の実施の形態)
以下、本発明に係る熱間プレス成型用金型および熱間プレス成型用金型の製造方法の一実施の形態を
図1~
図3を参照して詳細に説明する。
図1に示す熱間プレス成型用金型11は、金型本体12に後述する各種の機能部を設けて構成されている。金型本体12は、熱間プレス成型用の金型材料によって形成されている。この金型材料としては、例えば機械構造用炭素鋼やホットプレス金型用鋼などを用いることができる。
【0023】
金型本体12の表面(
図1において上側の面)には成型面13が形成されている。成型面13は、加熱された金属板材Wを他の金型と協働して挟んで成型品となるように成型する。金属板材Wは、例えば自動車車体部品用の金属板材を用いることができる。
金型本体12の内部であって成型面13の近傍には冷媒通路14が形成されている。冷媒通路14は、液状の冷媒(図示せず)が流される通路である。なお、冷媒には、液体の他に気体がある。液状の冷媒としては、水や、薬剤を含む冷却液などを用いることができる。気体の冷媒としては、空気や窒素などを用いることができる。
【0024】
図1に示す冷媒通路14は、
図1の左側に位置する金型本体12の一方の側面12aから成型面13の近傍で成型面13に沿って他方の側面12bに向けて延びる主冷却通路14aと、主冷却通路14aから成型面13とは反対側の底面12cに向かうように延びる連通路14bとによって構成されている。連通路14bは、図示していない冷媒排出路や、隣接する他の熱間プレス成型用金型の冷媒通路などと主冷却通路14aとを連通するための通路である。主冷却通路14aと連通路14bは、例えばドリルなどを使用して機械加工によって形成されている。
また、冷媒通路14は、成型面13に沿う方向であって、主冷却通路14が延びる方向とは直交する方向(
図1の紙面とは直交する方向)に所定の間隔をおいて並ぶように設けられている。
【0025】
連通路14bは、金型本体12の他方の側面12bから所定の長さだけ離れた位置に形成されている。このように連通路14bを他方の側面12bから離して形成する理由は、連通路14bが他方の側面12bの近接して形成されていると金型本体12の剛性が低下するからである。この金型本体12においては、成型面13の近傍であって連通路14bと他方の側面12bとの間に伝熱体15が埋設されている。伝熱体15は、金型材料より熱伝導率が高い材料からなる円柱状のピン16{
図3(A)参照}によって形成され、金型本体12に形成されたピン孔17に金型本体12の外から打ち込まれて圧入されている。
【0026】
ピン孔17は、金型本体12の外面(他方の側面12b)に開口して成型面13の近傍の金型本体12内を成型面13に沿って冷媒通路14に向けて延びている。この実施の形態によるピン孔17の先端は、主冷却通路14aと連通路14bとが交わる部分に開口している。このため、伝熱体15は、金型本体12の他方の側面12bから冷媒通路14に向けて成型面13に沿って延びている。伝熱体15の先端は冷媒に接触している。なお、図示してはいないが、ピン16とピン孔17は、主冷却通路14aが延びる方向とは直交する方向に並ぶように金型本体12内に設けられている他の全ての冷媒通路14と対応する位置にそれぞれ設けられている。
このように金型本体12内に埋設された伝熱体15は、成型面13から冷媒通路14に向かう熱伝達経路18の一部を構成するようになる。
【0027】
この実施の形態による伝熱体15を形成する材料は、銅材料である。ここでいう銅材料は、純銅と銅合金とを含む。伝熱体15を銅合金によって形成する場合は、テルル銅やタフピッチ銅を用いることが好ましい。なお、伝熱体15は、銅材料の他に、金、銀、アルミニウム、タングステン、ジュラルミン、ベリリウム、マグネシウム、モリブデン、亜鉛などによって形成することができる。
【0028】
この実施の形態による熱間プレス成型用金型11を製造するためには、
図2のフローチャートに示すように、先ず、熱間プレス成型用の金型材料によって金型本体12を形成する(ステップS1)。次に金型本体12に成型面13を形成し(ステップS2)、金型本体12の内部に冷媒通路14を形成する(ステップS3)。その後、金型本体12に熱処理を施し(ステップS4)、伝熱体15を金型本体12の内部に埋設する(ステップS5)。
【0029】
伝熱体15を金型本体12に埋設するステップS5は、ピン孔17を形成するステップS5Aと、伝熱体15をピン孔17に打ち込むステップS5Bとによって実施する。ピン孔17は、金型本体12の他方の側面12bから例えばドリルによって形成することができる。伝熱体15は、ピン孔17に圧入可能な外径のものを使用し、ピン孔17の開口からピン孔17内に打ち込む。
【0030】
このように形成された熱間プレス成型用金型11の冷媒通路14に冷媒が流れることにより、冷媒通路14の主冷却通路14aの近傍に位置する成型面13の熱が冷媒に伝導によって伝達される。また、伝熱体15の近傍に位置する成型面13の熱は、
図1中に白抜きの矢印で示すように、金型本体12の成型面13と伝熱体15との間の部分を介して伝熱体15に伝導によって伝達され、さらに、伝熱体15を介して冷媒に伝達される。この結果、成型面13の全域が略均等に冷却されるようになる。
【0031】
この実施の形態による熱間プレス成型用金型11によれば、伝熱体15が実質的に冷媒として機能するから、冷媒を流すことができない部分に伝熱体15を埋設することにより、冷媒を流すことができない部分であっても冷媒との間で熱交換を行うことができるようになる。したがって、成型面13に「熱溜まり」が生じることを防ぐことが可能な熱間プレス成型用金型を提供することができる。
【0032】
また、この実施の形態による熱間プレス成型用金型の製造方法によれば、伝熱体15が金型本体12に打ち込まれるから、伝熱体15が金型本体12に確実に密着する。したがって、熱交換の効率が高くなるように伝熱体15を金型本体12に埋設することができる。
【0033】
さらに、
図1に示すように伝熱体15の一端が金型本体12の他の側面12bに露出する構成を採ることにより、伝熱体15の一端から熱が大気中に放散するから、冷却効率が高くなる。
【0034】
(伝熱体の変形例)
伝熱体15は、
図3(A)~(G)に示すように形成することができる。
図3(A)に示す伝熱体15は、上述した実施の形態を採るときに使用したピン16で、円柱状に形成されている。
図3(B)に示す伝熱体15は、円錐状のピン22によって形成されている。円錐状のピン22は、頂点がピン孔17の内部に位置するようにピン孔17に打ち込まれる。
図3(C)に示す伝熱体15は、円錐台状のピン23によって形成されている。円錐台状のピン23は、細い部分がピン孔17の内部に位置するようにピン孔17に打ち込まれる。
図3(D)に示す伝熱体15は、一端側が円錐台状に形成されたピン24によって形成されている。このピン24は、円錐台状の一端部がピン孔17の内部に位置するようにピン孔17に打ち込まれる。
図3(E)に示す伝熱体15は、四角柱状のピン26によって形成されている。
図3(F)に示す伝熱体15は、四角錐状のピン27に形成されている。
図3(G)に示す伝熱体15は、四角錐台状のピン28によって形成されている。
図3(E)~(G)に示すように断面四角形となる伝熱体15を使用する場合は、金型本体12を例えば鋳造によって形成し、ピン孔17を伝熱体15と対応する形状となるように中子(図示せず)を用いて成型する。
【0035】
(第2の実施の形態)
本発明に係る熱間プレス成型用金型は、
図4に示すように構成することができる。
図4において、
図1~
図3によって説明したものと同一もしくは同等の部材については、同一符号を付し詳細な説明を適宜省略する。
図4に示す熱間プレス成型用金型31は、複数の金型本体12を組合わせて構成されている。この実施の形態による金型本体12は、複数の金型本体12を互いに連結できるように構成されている。
図4には、二つの金型本体12,12を連結した熱間プレス成型用金型31が図示されている。以下においては、
図4において左側に位置する金型本体12を便宜上、「一方の金型本体12A」といい、右側に位置する金型本体12を便宜上、「他方の金型本体12B」という。
【0036】
これらの金型本体12A,12Bの構造は、
図1に示した金型本体12と同一である。すなわち、金型本体12A,12Bには、成型面13および冷媒通路14が形成されているとともに、伝熱体15が設けられている。他方の金型本体12Bは、一方の金型本体12Aを一側部が反対側に位置するように反転させたものである。これらの一方の金型本体12Aと他方の金型本体12Bは、図示していない連結機構によって側面どうしが互いに密着する状態で互いに連結されている。
伝熱体15は、これらの互いに隣り合う金型本体12A,12Bの連結部分であって成型面13の近傍に設けられている。
【0037】
また、これらの金型本体12A,12Bの底面には、一方の金型本体12Aから他方の金型本体12Bに延びるように形成された通路形成部材32が設けられている。通路形成部材32の内部には、一方の金型本体12Aの冷媒通路14と他方の金型本体12Bの冷媒通路14とを接続するための冷媒通路33が形成されている。この冷媒通路33の一端部には、一方の金型本体12Aの連通路14bが接続されている。また、この冷媒通路33の他端部には、他方の金型本体12Bの連通路14bが接続されている。このため、一方の冷媒通路14を流れた冷媒は、通路形成部材32の冷媒通路33を経由して他方の金型本体12Bの冷媒通路14に流入する。
【0038】
この実施の形態による熱間プレス成型用金型31においては、互いに隣り合う二つの金型本体12A,12Bの接触面付近の熱を伝熱体15によって冷媒に伝達することができる。このため、従来では冷媒通路14を形成することができなかった金型本体12どうしの連結部を冷却することが可能になる。
【0039】
(第3の実施の形態)
本発明に係る熱間プレス成型用金型は、
図5(A),(B)に示すように構成することができる。
図5(A),(B)において、
図1~
図3によって説明したものと同一もしくは同等の部材については、同一符号を付し詳細な説明を適宜省略する。
図5(A)は熱間プレス成型用金型の側面図、
図5(B)は(A)図におけるV-V線断面図である。
【0040】
図5(A),(B)に示す熱間プレス成型用金型41は、金型本体12に成型面13から突出するように取付けられた金型部品42を備えている。金型部品42としては、例えばパイロットピンが挙げられる。成型面13は、
図5(A),(B)において左右方向に長い長方形状に形成されている。金型部品42は、成型面13の左右方向の中央部であって、左右方向とは直交する前後方向の一方{
図5(B)においては下方}に偏る位置に配置されている。以下においては、金型部品42が位置する前後方向の一方を前方という。
【0041】
このように金型部品42が金型本体12の前方に偏って配置されていることにより、金型本体12の金型部品42より前方はスペースが狭いために冷媒通路14を形成することができない。このため、冷媒通路14は、金型部品42より金型本体12の後方に形成されている。この実施の形態による冷媒通路14は、金型部品42の後方近傍を通って成型面13に沿って金型本体12の一方の側面12a(
図5においては左側面)から他方の側面12bまで直線的に延びるように形成されている。
【0042】
この実施の形態による伝熱体15は、冷媒通路14が延びる方向(左右方向)の一方と他方とから金型部品42を挟むように配置されている。詳述すると、伝熱体15は、金型本体12の前面12dから冷媒通路14まで延びるように形成された円柱状のピン16によって構成され、左右方向に所定の間隔をおいて並ぶ複数の位置にそれぞれ設けられている。このように伝熱体15が配置されることにより、成型面13の略全域から熱を冷媒に伝達できるようになる。なお、伝熱体15は、円柱状のピン16の他に、
図3に示したような形状のものを使用することができる。
【0043】
(第4の実施の形態)
本発明に係る熱間プレス成型用金型の製造方法は
図6および
図7に示すように実施することができる。
図6において、
図1~
図3によって説明したものと同一もしくは同等の部材については、同一符号を付し詳細な説明を適宜省略する。
図6に示す熱間プレス成型用金型51の金型本体12は、鋳造によって所定の形状に形成されている。この実施の形態による冷媒通路14は、中子(図示せず)を用いて鋳造によって形成されている。
【0044】
この熱間プレス成型用金型51に設けられている伝熱体15は、鋳造に用いる金型材料より熱伝導率が高い金属材料52よって内部が満たされた鋼管53によって形成されている。金属材料52としては、金、銀、純銅、銅合金、アルミニウム、タングステン、ジュラルミン、ベリリウム、マグネシウム、モリブデン、亜鉛などが挙げられる。この伝熱体15をは、熱間プレス成型用金型51を鋳造するときに鋳包みによって金型内に埋め込まれている。
【0045】
この熱間プレス成型用金型51の製造は、
図7に示すフローチャートに示すように行うことができる。熱間プレス成型用金型51を製造するためには、先ず、鋳造を行う鋳型(図示せず)を準備する(ステップP1)。この工程で冷媒通路14を形成するための中子を鋳型に組み付ける。次に、鋳型のキャビティ内に伝熱体15を装填する。このとき伝熱体15は、成型面から冷媒通路14に向かう熱伝達経路18の一部となる位置に配置される。この実施の形態においても伝熱体15は成型面13に沿って延びるように配置される。
このように伝熱体15が鋳型に組み付けられた後、キャビティに金型材料からなる溶湯(図示せず)を流し込み、鋳造を行う(ステップP3)。鋳造によりキャビティ内で溶湯が固化することにより伝熱体15が所定の位置に鋳包みによって埋め込まれる。
【0046】
したがって、この実施の形態で示すように鋳造によって熱間プレス成型用金型51を製造する場合であっても、伝熱体15が熱の伝達を媒介するから、成型面13に「熱溜まり」が生じることを防ぐことが可能である。
また、この実施の形態による製造方法、すなわち伝熱体15を鋳包みによって金型本体12に埋め込む熱間プレス成型用金型51の製造方法によれば、鋳造時に伝熱体15の埋設が完了するため、伝熱体15を金型本体12に打ち込む製造方法と較べて熱間プレス成型用金型51を製造するための工程数が少なくなり、熱間プレス成形用金型51の製造コストを低減することができる。さらに、この実施の形態による製造方法によれば、鋼管53によって熱抵抗が増えるために、鋼管53内の金属材料52の融点と鋳造に用いる金型材料の融点との差が小さい場合であっても金属材料52が溶融し難くなる。
【0047】
(伝熱体の変形例)
上述した実施の形態を採るときに用いた伝熱体は、
図8~
図10に示すように形成することができる。
図8~
図10において、
図1~
図6によって説明したものと同一もしくは同等の部材については、同一符号を付し詳細な説明を適宜省略する。
図8に示す伝熱体15は、1本の円柱状のピン16を長手方向に分割し、3つの柱状体15a~15cとしたものである。これらの柱状体15a~15cは、一つのピン孔17に個々に打ち込まれる。
この構成を採ることにより、打ち込み時の荷重を小さくすることができ、打ち込み作業が容易になる。
【0048】
図9(A)に示す伝熱体15は、円柱状のピン16の軸心部にねじ孔16aを形成して構成されている。この伝熱体15をピン孔17に打ち込むときには、ねじ孔16aにボルト16bをねじ込み、このボルト16bを工具(図示せず)で叩いて行う。このようにねじ孔16aが形成されていると、伝熱体15がピン孔17に打ち込まれた後、ねじ孔16aにボルト16bをねじ込み、このボルト16bを引っ張ることによって、伝熱体15を金型本体12から抜き取ることができる。このため、メンテナンス時等に伝熱体15を金型本体12から抜き取る作業が容易になる。
【0049】
図9(B)に示す伝熱体15は、1本の円柱状のピン16を長手方向に分割し、2つの柱状体15a,15bとしたものである。これらの柱状体15a,15bの軸心部には、ねじ孔16aが形成されている。柱状体15a,15bは、一つのピン孔17に個々に打ち込まれる。こえらの柱状体15a,15bをピン孔17に打ち込むときには、
図9(C)に示すようにねじ孔16bにボルト16をねじ込み、ボルト16を工具で叩いて行う。また、柱状体15a,15bをメンテナンス時等で金型本体12から抜き取る場合には、ねじ孔16aにボルト16bをねじ込み、このボルト16bを引っ張って行う。
この構成を採ることにより、打ち込み時の荷重を小さくすることができるとともに、柱状体15a,15bを金型本体12から抜き取る作業を容易にかつ小さな荷重で行うことができる。
なお、
図8および
図9においては円柱状のピン16からなる伝熱体15にねじ孔16aを形成したり、ピン16を分割する例を示したが、
図8および
図9に示す構成を採る場合は、円柱状のピン16に限定されることはない。すなわち、
図3(B)~(G)に示すような形状の伝熱体15でもよい。
もよい。
【0050】
図10に示す伝熱体15は、六角穴付き止めねじ61によって形成されており、一端部に工具(図示せず)を係合させるための六角穴62を有している。この伝熱体15を使用する場合は、ピン孔17に雌ねじ(図示せず)を形成する。なお、ねじ式の伝熱体15は、
図3(A)~(D)に示すような形状のピン16,21~24に雄ねじを形成しても構成することができる。
【0051】
このように伝熱体15をねじによって金型本体12に取付ける構成を採ることにより、例えばメンテナンス時に伝熱体15を金型本体12から取り外すことが可能になり、メンテナンスを容易に行うことができる。
【0052】
(第5の実施の形態)
上述した実施の形態に示した熱間プレス成型用金型を使用して自動車車体部品を製造するためには、
図11のフローチャートに示すように実施することができる。なお、以下において、
図1によって説明したものと同一もしくは同等の部材については、同一符号を付し詳細な説明を適宜省略する。
【0053】
上述した実施の形態による熱間プレス成型用金型11を使用して自動車車体部品を製造するためには、先ず、自動車車体部品用の金属材料Wを成型面13に重ねる(ステップP10)。そして、成型面13を有する金型本体12と他の金型とによって金属材料Wを挟み、ホットスタンプ工法によって金属材料Wを成型する(ステップP11)。
【0054】
上述した実施の形態による熱間プレス成型用金型11は、成型面13に「熱溜まり」が生じることがないものである。このため、この自動車車体部品の製造方法によれば、成型時に自動車車体部品用の金属材料Wが十分に冷却されるから、強度が高い自動車車体部品を製造することができる。
【符号の説明】
【0055】
1,51…熱間プレス成型用金型、12…金型本体、12c…底面、13…成型面、14…冷媒通路、15…伝熱体、18…熱伝達経路、17…ピン孔、42…金型部品、52…金属材料、53…鋼管、W…金属板材。