(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-26
(45)【発行日】2023-11-06
(54)【発明の名称】ホウケイ酸ガラス物品
(51)【国際特許分類】
C03C 3/091 20060101AFI20231027BHJP
H01J 61/30 20060101ALI20231027BHJP
【FI】
C03C3/091
H01J61/30 A
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021135574
(22)【出願日】2021-08-23
【審査請求日】2021-08-23
(32)【優先日】2020-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2020-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】20 2020 107 534.9
(32)【優先日】2020-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】20 2020 107 535.7
(32)【優先日】2020-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】504299782
【氏名又は名称】ショット アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】SCHOTT AG
【住所又は居所原語表記】Hattenbergstr. 10, 55122 Mainz, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ズザンネ クリューガー
(72)【発明者】
【氏名】オリヴァー ホーホライン
(72)【発明者】
【氏名】マルテ グリム
(72)【発明者】
【氏名】ライナー エルヴィン アイヒホルツ
(72)【発明者】
【氏名】ブリギッテ ヴェルツライン
(72)【発明者】
【氏名】カトリン ナウマン
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-130035(JP,A)
【文献】特開平09-110467(JP,A)
【文献】特開平08-333132(JP,A)
【文献】特開2011-032162(JP,A)
【文献】特開2004-315279(JP,A)
【文献】特開平08-239236(JP,A)
【文献】特開2006-089342(JP,A)
【文献】特開平04-228453(JP,A)
【文献】特開平11-029340(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00 - 14/00
H01J 61/00 - 61/98
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス物品であって、その耐加水分解性に関して0.5~1.65の範囲の偏析係数を有するガラスから構成され、
前記ガラスは、BaOに対するB
2O
3のmol%での分率が少なくとも10でかつ最大で20であり、
1mmの試料厚さで測定した200nmでの透過率は、少なくとも40%であり、
前記ガラスは、100ppm未満のFe
2O
3を含有し、
前記ガラスは、酸化物ベースのmol%で以下の成分:
【表1】
を含
み、且つ、
前記ガラスは、少なくとも1.5の、mol%でのK
2
Oに対するNa
2
Oの含有量の比を有する、
ガラス物品。
【請求項2】
重水素ランプで48時間および/または96時間照射した後の200nmでの誘起吸光度α(λ)は、最大で0.300である、
請求項1記載のガラス物品。
【請求項3】
前記ガラスは、少なくとも11でかつ最大で18、特に最大で15の、BaOに対するB
2O
3のmol%での分率を有する、
請求項1または2記載のガラス物品。
【請求項4】
前記ガラスは、ISO 719:1989-12に準拠したHGB3、HGB2またはHGB1の加水分解等級を有する、
請求項1から3までのいずれか1項記載のガラス物品。
【請求項5】
前記ガラス物品は、
5.4ppm/Kの熱膨張係数を有する金属または金属合金との、-400~-130nm/cmの範囲の封着応力、および/または
5.0ppm/Kの熱膨張係数を有するガラスとの、0超~300nm/cmの範囲の封着応力
を有する、
請求項1から4までのいずれか1項記載のガラス物品。
【請求項6】
1mmの試料厚さで測定した254nmでの透過率は、少なくとも70%であり、かつ/または
前記ガラスは、少なくとも1.00でかつ最大で2.00、特に最大で1.65の、(それぞれ1mmの試料厚さで測定した)200nmでの透過率に対する254nmでの透過率の比を有する、
請求項1から5までのいずれか1項記載のガラス物品。
【請求項7】
前記ガラス物品は、少なくとも0.1mm、少なくとも0.3mm、または少なくとも5mmの厚さを有し、かつ/または
前記ガラス物品は、最大で20mm、最大で16mm、最大で14mm、または最大で12mmの厚さを有する、
請求項1から6までのいずれか1項記載のガラス物品。
【請求項8】
前記ガラスは、2.0未満の、いずれもmol%でのBaOに対する前記ガラス中のCaOの分率を有し、かつ/または
SiO
2およびAl
2O
3の含有量(mol%)の合計に対するB
2O
3、R
2OおよびROの含有量(mol%)の合計の比は、0.1~0.4である、
請求項1から
7までのいずれか1項記載のガラス物品。
【請求項9】
前記ガラスは、(酸化物ベースのmol%で)以下の成分:
【表2】
を含む、
請求項1から8までのいずれか1項記載のガラス物品。
【請求項10】
前記ガラスは、(酸化物ベースのmol%で)以下の成分:
【表3】
を含む、
請求項1から9までのいずれか1項記載のガラス物品。
【請求項11】
前記ガラスは、(酸化物ベースのmol%で)以下の成分:
【表4】
を含む、
請求項1から10までのいずれか1項記載のガラス物品。
【請求項12】
前記ガラスは、
3.5~5ppm/K未満の範囲の熱膨張係数を有し、かつ/または
最大で0.0055の積CTE[℃
-1]×T
4[℃]を有する、
請求項1から11までのいずれか1項記載のガラス物品。
【請求項13】
重水素ランプで48時間および/または96時間照射した後の254nmでの誘起吸光度は、最大で0.100である、
請求項1から12までのいずれか1項記載のガラス物品。
【請求項14】
前記ガラスは、
最大15のB
2
O
3
/BaOのmol%での比を有する、
請求項1から13までのいずれか1項記載のガラス物品。
【請求項15】
前記ガラスは、
mol%でのMgO、SrOおよびCaOの含有量の合計に対するmol%でのBaOの比は、少なくとも0.4であり
、または
mol%でのMgO、SrOおよびCaOの含有量の合計に対するmol%でのBaOの比は、少なくとも
1.5~4である、
請求項1から14までのいずれか1項記載のガラス物品。
【請求項16】
前記ガラスは、
F
-を、少なくとも1mol%の含有量で有し、かつ/または
少なくとも
2.0の、mol%でのK
2Oに対するNa
2Oの含有量の比を有する、
請求項1から15までのいずれか1項記載のガラス物品。
【請求項17】
前記ガラスは、
Al
2O
3を少なくとも3mol%の割合で含有する、
請求項1から16までのいずれか1項記載のガラス物品。
【請求項18】
前記物品の少なくとも1つの表面は、特に少なくとも50MPaの圧縮応力で、および/または少なくとも10μmの圧縮応力層の深さで熱強化または化学強化されている、
請求項1から17までのいずれか1項記載のガラス物品。
【請求項19】
DIN EN 12150-1に準拠して求めた場合に、40mm×40mmの面部分が25個以上の部分に破壊されることを特徴とする破壊パターンを有する、
請求項1から18までのいずれか1項記載のガラス物品。
【請求項20】
前記ガラス物品は、ロッド、バー、粉末、板、パネルまたは管である、
請求項1から19までのいずれか1項記載のガラス物品。
【請求項21】
紫外線LED、紫外線透過性ランプ、紫外線ランプ用保護管、紫外線酸化反応器用紫外線透過性材料、紫外線火炎検出器、紫外線光電管、ソーラー反応器、分光分析機器、光電子増倍管としてのまたはこれらへの、ならびに窓(特にEPROM窓)、(例えば宇宙空間における)太陽電池用カバープレートおよび/または(例えば紫外線励起によるフォトルミネッセンス測定用の)紫外線透過性キュベット、エナメルコーティング用ガラスペースト、紫外線透過層、紫外線透過性成形体、(例えばフォトルミネッセンスに基づく診断法向けの)マイクロ流体デバイス、UV-CCL(冷陰極管)および/またはキセノンフラッシュランプへの、請求項1から20までのいずれか1項記載のガラス物品の使用。
【請求項22】
作用箇所を殺菌するための紫外線ランプにおける、請求項1から20までのいずれか1項記載のガラス物品の使用であって、
殺菌すべき表面と前記ガラス物品との間の距離が、少なくとも5cm、特に少なくとも7.5cm、または少なくとも10cmであり、かつ/または
前記作用箇所での出力密度が、少なくとも2.5mW/cm
2、少なくとも3.0mW/cm
2、または少なくとも3.5mW/cm
2である、
使用。
【請求項23】
作用箇所を殺菌するための紫外線ランプにおける、請求項22記載のガラス物品の使用であって、
前記作用箇所での出力密度が、最大で20mW/cm
2、最大で15mW/cm
2、または最大で10mW/cm
2であり、かつ/または
前記作用箇所の照射間隔が、少なくとも1秒間、少なくとも5秒間、少なくとも10秒間、または少なくとも20秒間である、
使用。
【請求項24】
作用箇所を殺菌するための紫外線ランプにおける、請求項22または23記載のガラス物品の使用であって、
前記作用箇所の照射間隔が、最大で10分間、最大で5分間、最大で2分間、または最大で1分間である、
使用。
【請求項25】
前記ガラス物品から70mm離して光源と向かい合うように配置された作用箇所に、120W/cm、アーク長4cmの中圧水銀ランプを、前記作用箇所でのUVC出力密度17.27mW/cm
2で周囲温度20℃にて5秒間照射した際に、前記作用箇所に面した前記ガラス物品の面の温度が45℃を上回ることのないように、前記ガラス物品の厚さおよび前記ガラス物品の紫外線透過率が互いに適合されている、
請求項22から24までのいずれか1項記載のガラス物品の使用。
【請求項26】
前記ガラス物品から70mm離して光源と向かい合うように配置された作用箇所に、120W/cm、アーク長4cmの中圧水銀ランプを、前記作用箇所でのUVC出力密度17.27mW/cm
2
で周囲温度20℃にて5秒間照射した際に、前記作用箇所に面した前記ガラス物品の面の温度が45℃を上回ることのないように、前記ガラス物品の厚さおよび前記ガラス物品の紫外線透過率が互いに適合されている、請求項1から20までのいずれか1項記載のガラス物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い紫外線透過率、偏析に関して有利な特性、および封着時の良好な接合特性を有するホウケイ酸ガラスから構成される物品に関する。本発明は、上記ガラスの使用、特に紫外線ランプおよび光電子増倍管における上記ガラスの使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術では、石英ガラスの他にアルカリホウケイ酸ガラスも知られている。アルカリホウケイ酸ガラスは、同様に高い紫外線透過率を有するにもかかわらず、より容易に溶融し得る。石英ガラスと比べた場合の欠点は、この高ホウ素含有ガラスが偏析する傾向が強いことである。偏析とは、ケイ酸塩ガラス相に加えてアルカリホウ酸塩相またはアルカリ土類ホウ酸塩相がガラス中に形成されることを意味する。偏析は、製造時の蒸発に起因するノット欠陥に加え、紫外線領域での透過率の低下を招く恐れもある。さらに、偏析はガラスの耐加水分解性の悪化につながる。
【0003】
したがって、従来技術では、これらの問題に対処するために酸化ホウ素含有量を減少させることが検討されていた。ホウ素含有量を減少させても同様の溶融性を確保するには、アルカリおよびアルカリ土類の割合を高めなくてはならず、これが目標の紫外線透過率に関して問題となることが判明している。意図する用途向けのガラスは、金属材料のみならず他の紫外線透過性ガラスとも良好な接合特性を有する必要がある。
【0004】
独国特許第102009036063号明細書には、以前のガラスと比べて酸化ホウ素含有量が低いにもかかわらず、高い紫外線透過率を有するガラスが記載されている。これはSiO2、Li2O、K2OおよびBaOの含有量を高めることによって達成された。酸化リチウムおよび酸化カリウムは、酸化ナトリウムとは対照的に、より低波長へのUV端のシフトをもたらすことが文献上で知られている。しかし、酸化リチウムは、蒸発する傾向があることに加え、バッチ価格を上昇させる。一方、酸化カリウム含有量を増加させると、同位体40Kの放射により、光電子増倍管内で使用すると干渉を起こすガラスが生じる。
【0005】
独国特許第4338128号明細書には、酸化ホウ素含有量が低く、二酸化ケイ素含有量が非常に高いガラスが記載されている。これにより、加工温度が高くなり、熱膨張係数が非常に低くなる(3.5ppm/K未満)。
【0006】
特開2015-193521号公報には、同様に酸化ホウ素含有量が非常に低いガラス組成物が示されている。しかしながら、アルカリ、特に酸化ナトリウムの増加は、紫外線透過率、特に200nmでの紫外線透過率の低下(30%未満)を招く。さらに、酸化ナトリウム含有量の増加によって、ガラスと他の紫外線透過性ガラスとを封着させた場合に高い封着応力を生じると考えられる熱膨張係数(5ppm/K超)が生じる。特開2018-131384号公報および特開2018-131385号公報には、酸化ホウ素含有量が低いが、紫外線領域での透過率が低下し(厚さ0.7mmの試料について200nmで30%未満)、酸化ナトリウム含有量が高いために熱膨張係数が増加した(6.5ppm/K超)ガラスが記載されている。
【0007】
米国特許第7,358,206号明細書に記載されている酸化ホウ素含有量の低いガラスは、酸化カリウムを多く含有するため(7.5mol%超)、光電子増倍管での使用は著しく困難となる。これらのガラスにおけるフッ素の高い割合は、200nm以下で良好な紫外線透過率(厚さ1mmの試料について50%)をもたらすが、より強い偏析傾向および耐加水分解性の低下にもつながる。酸化アルミニウム含有量が低い場合に酸化ホウ素含有量を減少させると、紫外線透過率の低下(厚さ0.5mmの試料について254nmで80%未満)が生じる。これは米国特許出願公開第2018/0057393号明細書、特にその実施例17、26および41において明らかである。さらに、酸化ナトリウムを多く使用した場合に熱膨張係数がどのように上昇するかが明らかに示されている。
【0008】
特開昭60-200842号公報のガラスは、酸化ホウ素含有量の減少および高いアルカリの割合ゆえに、低い紫外線透過率を示す(350nmで80%以下、すなわち、より低波長での透過率はさらに低い)。
【0009】
特開昭60-021830号公報には、酸化ホウ素含有量および酸化アルミニウム含有量がより高いがアルカリ含有量も非常に高いガラスが記載されている。これにより熱膨張係数が高くなる(5ppm/K以上)ことが実施例から明らかである。アルカリ含有量が高いと、概して厚さ1mmの試料について253.7nmでの透過率は80%未満となる。
【0010】
米国特許第5,277,946号明細書には、酸化ホウ素含有量が非常に低いガラスが記載されているが、これはホウケイ酸ガラスというよりもアルモホウケイ酸ガラスである。これらのガラスは、非常に良好な紫外線透過率(厚さ1mmの試料について253.7nmで80%超)を有するが、酸化ナトリウム含有量が高いため、高い熱膨張係数(5ppm/K超)を示す。
【0011】
中国特許出願公開第104591539号明細書には、ガラスにおいて、酸化ホウ素含有量を高くし、酸化アルミニウム含有量を低くすることで(アルカリにより相殺される)、高い紫外線透過率(厚さ1mmの試料について190nmで40%超、254nmで80%超)が達成され得ることが示されている。しかしながら、アルカリのみを使用することで、熱膨張係数が高くなる。さらに、このようなガラス組成物は、良好な耐加水分解性を示さない。
【0012】
米国特許出願公開第2018/0339932号明細書には、酸化ホウ素含有量が非常に低いが、酸化アルミニウムおよびアルカリ土類の割合が高いアルモホウケイ酸ガラスが記載されている。これにより、得られる熱膨張係数が非常に低くなる(3.5ppm/K未満)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、本発明の課題は、従来技術の欠点を克服することである。特に、高い紫外線透過率を有し、容易に溶融可能なガラスを提供することが望ましい。このガラスは、それに加え、良好な偏析挙動および良好な耐加水分解性を有することが望ましい。加えて、このガラスは、金属材料のみならず他の紫外線透過性ガラスとも低い封着応力を有することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、幾つかの点で耐性があるガラスおよび該ガラスからなるガラス物品に関する。本ガラスは、高い耐加水分解性を有し、接合パートナーと封着した後でも殆ど変化しない。さらに本ガラスは、長時間にわたって紫外線を照射した後もその高い透過率を維持する。また本ガラスは、偏析傾向を僅かにしか有しない。
【0015】
第1の態様では、本発明は、ガラス物品であって、その耐加水分解性に関して0.1~1.65、または0.2~1.65、または0.35~1.65、特に0.7~1.10の範囲の偏析係数を有するガラスから構成される、ガラス物品に関する。特に、偏析係数は少なくとも0.1、または少なくとも0.2、または少なくとも0.35、または少なくとも0.40、または少なくとも0.70である。
【0016】
偏析係数とは、偏析の結果としてISO 719に準拠した耐加水分解性を変化させるガラスの特性の尺度である。偏析は、ガラスを封着すると或る程度まで温度の影響により生じる。偏析係数が可能な限り1に近いガラスは、偏析後の耐加水分解性が、偏析していないガラスの耐加水分解性と殆ど異ならないという利点を有する。偏析係数は、ガラスの組成だけでなく、その熱履歴(冷却状態)にも影響を受ける。任意に、耐加水分解性に関する偏析係数は、0.40~1.65または少なくとも0.65である。一実施形態では、偏析係数は、最大で1.4、最大で1.25または最大で1.10である。
【0017】
一実施形態では、偏析係数は、少なくとも0.70でかつ最大で1.6である。さらなる実施形態では、偏析係数は、少なくとも0.3でかつ最大で0.5である。
【0018】
第2の態様では、本発明は、BaOに対するB2O3のmol%での分率が少なくとも8でかつ最大で20、特に少なくとも10でかつ最大で15であるガラスから構成されるガラス物品に関する。上記の分率を有するガラスは、耐加水分解性および偏析係数に関して良好な特性を示し、低い誘起吸光度しか有さず、特に紫外線透過性材料として使用する際に多くの利点がある。
【0019】
第3の態様では、本発明は、R2O含有量が最大で7mol%であり、(1mmの試料厚さで測定した)254nmでの透過率が少なくとも83%であり、かつ(1mmの試料厚さで測定した)200nmでの透過率が少なくとも40%であるガラスから構成されるガラス物品であって、5.4ppm/Kの熱膨張係数を有する金属または金属合金との、-400nm/cm~-130nm/cmの範囲の封着応力、および/または5.0ppm/Kの熱膨張係数を有するガラスとの、0nm/cm超~300nm/cmの範囲の封着応力を有する、ガラス物品に関する。
【0020】
ガラス物品は、別の接合パートナーとの封着に使用することができる。その際、接合パートナーを封着温度に加熱し、相互に結合させる。その後の冷却時に、相互に結合した部分が異なる強さで収縮する。驚くべきことに、金属のCTEがガラス物品のCTEよりも著しく高いにもかかわらず、本発明のガラス物品では金属または金属合金と接合する際に比較的低い応力しか観察されない。さらに、ガラスとの封着時に比較的低い応力しか生じないことも非常に驚くべきことである。封着応力が好ましくは-400nm/cmを下回るべきではないことが見出された。封着応力の値が過度に大きくなると、封着した物品内に大きな応力が発生し、接合が破断される恐れがある。
【0021】
第4の態様では、本発明は、重水素ランプで48時間照射した後の200nmでの誘起吸光度α(λ)が最大で0.300であるガラスから構成されるガラス物品に関する。誘起吸光度は、ガラスの吸光度、ひいては透過率が照射によってどの程度変化するかを表す。通常、透過率は、紫外線照射によって低下する(誘起吸光度は正である)。「ソラリゼーション」という用語も用いられる。誘起吸光度が過度に高いと、ガラス物品の使用期間が短くなるか、または照射下で透過率が急速に低下する。
【0022】
第5の態様では、本発明は、SiO2およびAl2O3の含有量(mol%)の合計に対するB2O3、R2OおよびROの含有量(mol%)の合計の比が、少なくとも0.1でかつ最大で0.4であるガラスから構成されるガラス物品に関する。上記の分率を有するガラスは、耐加水分解性および偏析係数に関して良好な特性を示し、低い誘起吸光度しか有さず、特に紫外線透過性材料として使用する際に多くの利点がある。
【0023】
「R2O」とは、アルカリ金属酸化物Li2O、Na2OおよびK2Oを意味する。「RO」とは、アルカリ土類金属酸化物MgO、CaO、BaOおよびSrOを表す。
【0024】
「熱膨張係数」または「CTE」とは、20℃~300℃の温度範囲での平均線熱膨張係数である。これはDIN ISO 7991:1987に準拠して決定される。
【0025】
「耐加水分解性に関する偏析係数」は、以下のように算出される:
偏析係数=Equroh/Equent
ここで、Equrohは、そのままの、すなわち偏析していないガラスについての、またEquentは、偏析したガラスについての、ガラス1g当たりの抽出Na2O当量(μg)である。抽出Na2O当量は、ISO 719:1989-12に準拠して決定される。偏析係数はガラスの一特性である。この係数の記載は、ガラスが偏析していることを意味するのではなく、偏析の場合にISO 719に準拠した試験における耐加水分解性の変化が特定の範囲にあることを意味する。全てのガラスをその偏析係数に関して試験することができる。このために、偏析していないガラスについて抽出Na2O当量をISO 719に準拠して決定する(Equroh)。同じ測定を偏析したガラスについても行う(Equent)。「偏析したガラス」とは、ガラス転移温度Tgを100℃上回る温度で4時間保持されたガラスである。この熱処理中に或る程度の偏析が生じる。
【0026】
「封着応力」とは、室温にて2つの封着した構成要素間の接合面で生じる応力(引張応力または圧縮応力)である。負符号は圧縮応力を意味し、正符号は引張応力を意味する。封着応力は、DIN 52327:1977-11に準拠して決定することができ、この規格のパート1はガラスとガラスとの封着応力の標準となり、パート2はガラスと金属または金属合金との封着応力の標準となる。本明細書では、封着応力は、特に光路差Δsと試料厚さdとの商により得られる応力複屈折Δn(nm/cm)の形でも間接的に表される。この応力複屈折は、実際の封着応力に比例し、封着面の近く(例えば0.5mmの距離)では以下の方程式に従って算出することができる:
σ=Δs/(d・K)=Δn/K
ここで、σは実際の封着応力であり、Kは応力光学係数である。本明細書でガラス物品について物品とガラスから構成される接合パートナーとの封着応力がnm/cmで記載される場合、これは(例えば、接合面から0.5mmの距離での)接合パートナー内の応力複屈折に関する。
【0027】
「T4」とは、ガラスが104dPa・sの粘度を有する温度である。T4は、ガラスの粘度を決定する当業者に既知の方法によって、例えばDIN ISO 7884-1:1998-02に準拠して測定することができる。「T13」とは、ガラスが1013dPa・sの粘度を有する温度である。
【0028】
「基準屈折率」とは、特にゆっくりと冷却した場合にガラスが示す屈折率である。この場合、ガラスは特に緻密な構造を有する。ガラスを急速に冷却すると、ガラスは基準屈折率よりも低い屈折率を有する。基準屈折率は、製造後のホウケイ酸ガラスを0.85×T13(K)に相当する温度に再び加熱し、その温度に22時間保持した後、2K/時間の冷却速度で20℃の温度まで冷却することによって求められる。その後、屈折率(=基準屈折率)を測定し、再び冷却する前の屈折率との差を決定する。好ましい実施形態では、ホウケイ酸ガラスのT13は550℃未満である。
【0029】
「ソラリゼーション」とは、短波長紫外線の作用によって引き起こされる、様々な波長範囲の光の透過率の低下である。ガラスは、ソラリゼーションによって着色するか、または完全に不透過性になる恐れがある。
【0030】
「ソラリゼーション耐性」とは、紫外線照射後であっても特定の波長で高い透過率を維持するガラスの特性である。これは、誘起吸光度α(λ)の計算
α(λ)=-ln[T(λ)i/T(λ)0]
(ここで、T(λ)0は照射前の透過率であり、T(λ)iは重水素ランプによるi時間の照射後の透過率である)によって説明することができる。α(λ)が小さいほど、ソラリゼーションに対するガラスの耐性が高い。ソラリゼーション耐性は、本明細書では200nmおよび254nmの波長について記載される。これらの波長がガラス物品の使用に特に重要であるためである。ソラリゼーション耐性の記載については、本明細書では約0.70mm~0.75mmの試料厚さを想定している。これは、測定がこの試料厚さで行われることを意味する。ガラス物品自体は他の厚さを有していてもよい。照射は重水素ランプを用いて行われる。重水素ランプは、非常に短波長の紫外線領域までの光を発する。本明細書で使用されるランプは、115nmのカットオフ波長を有する。重水素ランプの出力は、約1W/m2であり得る。以下の重水素ランプを使用することができる:115nmまでの十分な発光のためのMgF2フィルターを備えたHeraeus Noblelight GmbHのV04型、製造番号:V0390 30 W。
【0031】
「加水分解等級」は、ISO 719:1989-12に準拠して決定される。これは、98℃の水中でのガラスからの塩基性化合物の抽出性の尺度である。測定の結果は、ガラス1g当たりの抽出Na2O当量(μg)である。31μg/gまでが等級HGB1、62μg/gまでが等級HGB2、264μg/gまでが等級HGB3に割り当てられる。
【0032】
下記の特徴および有利な特性は、上記の発明の態様に等しく当てはまる。本明細書に記載のガラスまたはホウケイ酸ガラスは、ガラス物品を構成するガラスである。ガラス物品はロッド、バー、粉末、板、パネルまたは管とすることができる。
【0033】
物品の厚さ、特に管の場合の肉厚は、少なくとも0.1mmまたは少なくとも0.3mmであり得る。厚さは、最大で3mmまたは最大で2mmに制限され得る。ガラス物品の外径、例えば管またはロッドの外径は、最大で50mm、最大で40mmまたは最大で30mmであり得る。外径は、特に少なくとも1mm、少なくとも2mmまたは少なくとも3mmであり得る。一実施形態では、物品は、少なくとも3mmおよび/または最大で20mmの厚さを有する。任意に、厚さは、少なくとも5mm、少なくとも6mm、または少なくとも8mmである。厚さは、最大で20mm、最大で16mm、最大で14mm、または最大で12mmに制限され得る。一実施形態では、物品は、長さおよび幅を有し、特に、長さは幅よりも大きい。長さは、少なくとも20mm、少なくとも40mm、または少なくとも60mmであり得る。任意に、長さは、最大で1000mm、最大で600mm、最大で250mm、または最大で120mmである。好ましくは、長さは、20mm~1000mm、40mm~600mm、または60mm~250mmである。幅は、少なくとも10mm、少なくとも25mm、または少なくとも35mmであり得る。任意に、幅は、最大で575mm、最大で225mm、または最大で110mmである。好ましくは、幅は、10mm~575mm、25mm~225mm、または35mm~110mmである。
【0034】
基準屈折率より少なくとも0.0001低い屈折率、ひいては基準密度よりも低い密度を有するガラスが、より高密度の同一ガラスよりも低い封着応力を有し得ることが見出された。このようなガラスは、金属またはガラスから構成される接合パートナーと封着させた後に、仮想温度がより高いことから、より低い仮想温度を有するガラスよりも強く収縮すると推定される。一般的な接合パートナーは、4.5ppm/Kを超える熱膨張係数を有するため、封着後に本発明のガラス物品よりも強く収縮する。これにより接合面に強い応力が生じる。
【0035】
一実施形態では、ホウケイ酸ガラスは、2K/時間を著しく超える冷却速度に相当する冷却状態を有する。ホウケイ酸ガラスは、急速に冷却することができるため、比較的高い仮想温度を有する。高い仮想温度は、同じガラス組成の基準密度よりも低い密度を伴う。ホウケイ酸ガラスは、2.5g/cm3未満の密度を有し得る。密度は屈折率と相関するため、屈折率の変化を測定することによって物品の密度の変化を測ることができる。ガラスは基準密度で基準屈折率を有する。一実施形態では、ホウケイ酸ガラスは1.45~1.55の屈折率ndを有する。本発明によると、基準屈折率と比べて少なくとも0.0001低下した屈折率を有するホウケイ酸ガラスが好ましい。ガラスの屈折率は、そのガラスの基準屈折率より少なくとも0.0004、特に好ましくは少なくとも0.0006低いのがさらに好ましい。しかしながら、封着後の仮想温度の上昇に起因する熱収縮は、過度に大きくてはならない。そうでなければ接合面で過度に大きな応力が生じる可能性があるためである。したがって、基準屈折率と比べた屈折率の低下は、最大で0.1、特に最大で0.01または最大で0.001に限定され得る。
【0036】
本発明のガラスの熱収縮は、50μm/100mm未満であり得る。好ましい実施形態では、熱収縮は30μm/100mm未満または20μm/100mm未満である。熱収縮は、少なくとも1μm/100mmまたは少なくとも5μm/100mmであり得る。極度に小さな熱収縮を達成することもできるが、これに必要とされる非常に遅い冷却は経済的ではない。ガラスの熱収縮は、予め正確に測定したガラス物品を0.85×T13(K)の温度で22時間保持し、続いて2K/時間の冷却速度で20℃まで冷却した後、再び測定を行うことによって測定することができる。熱処理の前後でガラス物品の膨張を比較すると熱収縮が明らかになる。膨張をガラス物品の最長寸法に沿って、例えば長手方向軸線に沿って測定するのが好ましい。例えば、正方形の断面の辺長が5.8mm、長さが100mmの試験片を使用することができる。
【0037】
ガラスおよび/またはガラス物品は、254nmの波長で少なくとも50%、より良好には少なくとも70%、少なくとも80%または少なくとも83%の透過率を有するのが好ましい。この透過率は、紫外線ランプでのガラス物品の使用に有利である。紫外線での透過率が大きいほど、ランプの効率は高くなる。一実施形態では、254nmでの透過率は最大で99.9%、最大で95%または最大で90%である。透過率は特に1mmの試料厚さで測定される。これは、必ずしもガラス物品が1mmの厚さを有することを意味するわけではなく、透過率がこの厚さで測定されることを意味する。記載される透過率の値が、重水素ランプで48時間および/または96時間にわたって照射した後にも当てはまるのが好ましい。以下の重水素ランプを使用することができる:115nmまでの十分な発光のためのMgF2フィルターを備えたHeraeus Noblelight GmbHのV04型、製造番号:V0390 30 W。
【0038】
ガラスおよび/またはガラス物品は、200nmの波長で少なくとも40%、より良好には少なくとも50%、少なくとも55%または少なくとも60%の透過率を有するのが好ましい。この透過率は、例えば紫外線ランプでのガラス物品の使用に有利である。紫外線での透過率が大きいほど、ランプの効率は高くなる。一実施形態では、200nmでの透過率は最大で95%、最大で85%または最大で70%である。透過率は特に1mmの試料厚さで測定される。これは、必ずしもガラス物品が1mmの厚さを有することを意味するわけではなく、透過率がこの厚さで測定されることを意味する。記載される透過率の値が、重水素ランプで48時間および/または96時間にわたって照射した後にも当てはまるのが好ましい。例えば上述の重水素ランプを使用することができる。
【0039】
多くの用途について紫外線領域での可能な限り一定の透過率が望まれる。本発明のガラスは、少なくとも1.00でかつ最大で2.00、特に最大で1.65または最大で1.50の、(それぞれ1mmの試料厚さで測定した)200nmでの透過率に対する254nmでの透過率の比を有する。
【0040】
ガラスは、重水素ランプで48時間照射した後の200nmでの誘起吸光度α(λ)が最大で0.300であるのが好ましい。誘起吸光度とは、ガラスのソラリゼーション傾向の尺度である。ガラスの誘起吸光度が大きいほど、紫外線照射の結果として透過率がより大幅に低下する。本発明のガラスには高い紫外線透過性が重要である。重水素ランプで48時間照射した後の200nmでの低い誘起吸光度は、最大で0.300、最大で0.200または最大で0.100、好ましくは最大で0.05であるのが好ましい。重水素ランプで96時間照射した後もこの最大誘起吸光度を超えないことが特に好ましい。
【0041】
より長波長の紫外線領域であっても誘起吸光度が低いことが望ましい。好ましい実施形態では、重水素ランプで48時間照射した後の254nmでの誘起吸光度は、最大で0.100、好ましくは最大で0.01である。重水素ランプで96時間照射した後もこの値を超えないのが好ましい。しかしながら、重水素ランプで48時間または96時間照射した後に、254nmまたは200nmで、例えば0.0001以上または0.001以上の或る特定の誘起吸光度が本発明のガラスで生じる可能性もある。
【0042】
ガラス物品は、特に金属、金属合金およびガラスとの封着に適している。特に、ガラス物品は、ガラス物品よりも高い熱膨張係数、例えば4.6ppm/K超または4.9ppm/K超のCTEを有する材料との封着に使用することができる。ガラス物品は、5.4ppm/Kの熱膨張係数を有する金属または金属合金に対して-500nm/cm超、特に-400nm/cm超または-300nm/cm超の封着応力を有し得る。有利な実施形態では、封着応力は、最大で0nm/cmまたは最大で-130nm/cmである。ここで、「超」は負の値がより負でないことを意味する。したがって、「-500nm/cm超」は、例えば-490nm/cmを含む。
【0043】
ガラス物品は、5.0ppm/Kの熱膨張係数を有するガラスに対して300nm/cm未満、特に250nm/cm未満または180nm/cm未満の封着応力を有し得る。有利な実施形態では、この封着応力は、少なくとも0nm/cmまたは少なくとも90nm/cmである。より良好な接合部が得られることから、封着応力を範囲内に保持するのが有利である。原則として、ガラスが損傷しないよう、引張応力(正符号)よりも圧縮応力(負符号)が好まれる。ガラス物品が特定の封着応力を有することが本明細書に記載される場合、物品が封着の際にこの特性を有することを意味する。これは、接合パートナーがガラス物品の一部であることを意味するものではない。
【0044】
ガラスは、好ましくはホウケイ酸ガラスである。一実施形態では、ホウケイ酸ガラスは、(酸化物ベースのmol%で)以下の成分を含む:
【表1】
【0045】
本発明のガラスは、少なくとも60mol%の割合でSiO2を有し得る。SiO2は、ガラスの耐加水分解性および透明性に寄与する。SiO2の含有量が過度に高いと、ガラスの融点が過度に高くなる。この場合、温度T4およびTgも大幅に上昇する。したがって、SiO2の含有量を最大で78mol%に制限する必要がある。SiO2の含有量は、少なくとも61mol%、少なくとも63mol%または少なくとも65mol%であるのが好ましい。この含有量は、実施形態では、最大で75mol%または最大で72mol%に限定され得る。
【0046】
本発明のガラスは、Al2O3を最大で10mol%の割合で含有する。Al2O3は、ガラスの偏析安定性に寄与するが、割合が高くなると耐酸性を低下させる。加えて、Al2O3は溶融温度およびT4を上昇させる。したがって、この成分の含有量は、最大で9mol%または最大で8mol%に制限され得る。有利な実施形態では、少なくとも2mol%、少なくとも2.5mol%、または少なくとも3mol%、または少なくとも3.5mol%と少ない割合のAl2O3が用いられる。
【0047】
本発明のガラスは、B2O3を少なくとも12mol%の割合で含有し得る。B2O3は、ガラスの溶融特性に対して有利な影響を及ぼす。特に溶融温度が低下し、ガラスをより低温で他の材料と封着させることができる。しかし、B2O3の割合は過度に高くすべきではない。そうでなければ、ガラスが偏析する傾向が強くなる。さらに、過度に多くのB2O3は、耐加水分解性に悪影響を及ぼし、ガラスは製造時に蒸発損失が大きくなり、ひいてはノットガラスとなる傾向がある。この割合は最大で24mol%、最大で22mol%または最大で20mol%に限定され得る。或る特定の実施形態では、B2O3の含有量は最大で17mol%である。B2O3の含有量は、少なくとも12mol%または少なくとも14mol%であり得る。
【0048】
好ましい実施形態では、SiO2およびAl2O3の含有量(mol%)の合計に対するB2O3、R2OおよびROの含有量(mol%)の合計の比は、最大で0.4、特に最大で0.35、より好ましくは最大で0.33となる。一実施形態では、この値は少なくとも0.1、好ましくは少なくとも0.2または少なくとも0.26である。上記の分率を有するガラスは、耐加水分解性および偏析係数に関して良好な特性を示し、低い誘起吸光度しか有さず、特に紫外線透過性材料として使用する際に多くの利点がある。
【0049】
本発明のガラスは、Li2Oを最大で3.0mol%、最大で2.8mol%または最大で2.5mol%の割合で含有し得る。Li2Oはガラスの溶融性を高め、結果としてUV端がより低波長へと有利にシフトする。しかし、酸化リチウムは蒸発する傾向があり、偏析傾向が強まるのに加え、バッチ価格が高くなる。好ましい実施形態では、ガラスは少量、例えば最大で3.0mol%、最大で2.0mol%または最大で1.9mol%のLi2Oしか含有しないか、またはガラスにLi2Oは含まれない。
【0050】
本発明のガラスは、Na2Oを最大で6mol%の割合で含有する。Na2Oはガラスの溶融性を高める。しかしながら、酸化ナトリウムは、紫外線透過率の低下および熱膨張係数の増加ももたらす。ガラスは、Na2Oを少なくとも1mol%または少なくとも2mol%の割合で有し得る。一実施形態では、Na2Oの含有量は最大で5mol%または最大で4mol%である。
【0051】
本発明のガラスは、K2Oを最大で4mol%の割合で含有する。K2Oはガラスの溶融性を高め、結果としてUV端がより低波長へと有利にシフトする。その割合は、少なくとも0.3mol%または少なくとも0.75mol%であり得る。しかしながら、過度に高い酸化カリウム含有量は、その同位体40Kの放射特性のために、光電子増倍管内で使用すると干渉を起こすガラスをもたらす。したがって、この成分の含有量は、最大で3mol%または最大で2mol%に制限する必要がある。
【0052】
本発明の一実施形態では、mol%でのK2Oに対するNa2Oの含有量の比は、少なくとも1.5、特に少なくとも2である。一実施形態では、上記の比は最大で4、特に最大で3である。どちらの酸化物もガラスの溶融性を改善するのに役立つ。しかし、過度に多くのNa2Oが使用されると、紫外線透過率が低下する。K2Oが過度に多いと、熱膨張係数が増加する。上述の比により最良の結果が達成され、すなわち、紫外線透過率および熱膨張係数が有利な範囲に設定されることが見出された。
【0053】
本発明のガラス中のR2Oの割合は、好ましくは最大で10mol%、最大で8mol%または最大で7mol%である。ガラスは、R2Oを少なくとも3.5mol%、少なくとも4mol%または少なくとも4.5mol%の割合で含有し得る。アルカリ金属酸化物はガラスの溶融性を高めるが、上記のように、割合が高くなると多様な欠点を招く。
【0054】
本発明のガラスは、MgOを最大で4mol%または最大で2mol%の割合で含有し得る。MgOは溶融性にとって有利であるが、割合が高いと目標の紫外線透過率および偏析傾向に関して問題となることが判明している。好ましい実施形態ではMgOは含まれない。
【0055】
本発明のガラスは、CaOを最大で4mol%または最大で2mol%の割合で含有し得る。CaOは溶融性にとって有利であるが、割合が高いと目標の紫外線透過率に関して問題となることが判明している。好ましい実施形態は、CaOを含まないか、または少量、例えば少なくとも0.1mol%、少なくとも0.3mol%または少なくとも0.5mol%のCaOしか含有しない。
【0056】
本発明のガラスは、SrOを最大で4mol%、最大で1mol%または最大で0.5mol%の割合で含有し得る。SrOは溶融性にとって有利であるが、割合が高いと目標の紫外線透過率に関して問題となることが判明している。好ましい実施形態ではSrOは含まれない。
【0057】
本発明のガラスは、BaOを最大で4mol%または最大で2mol%の割合で含有し得る。BaOは耐加水分解性の改善をもたらす。しかしながら、過度に高い酸化バリウム含有量はガラスの偏析、ひいては不安定性につながる。好ましい実施形態は、少なくとも0.1mol%、少なくとも0.3mol%または少なくとも0.8mol%の割合でBaOを含有する。
【0058】
アルカリ土類酸化物ROが偏析傾向に対して大きな影響を及ぼすことが示されている。したがって、一実施形態では、これらの成分の含有量および互いに対する比に特に注意が払われる。そのため、mol%でのMgO、SrOおよびCaOの含有量の合計に対するmol%でのBaOの比は、少なくとも0.4とする必要がある。この値は少なくとも0.55、少なくとも0.7または少なくとも1.0であるのが好ましい。特に好ましい実施形態では、この値は少なくとも1.5またはさらには少なくとも2である。BaOは、偏析および耐加水分解性に関し、他のアルカリ土類金属酸化物と比較して最も大きな利点をもたらす。それにもかかわらず、上記の比は4.0または3.0という値を超えるべきではない。有利な実施形態では、ガラスは少なくとも少量のCaOおよびBaOを含み、MgOおよびSrOは含まれない。
【0059】
有利な特性は、特にBaOに対するガラス中のCaOの分率(いずれもmol%)が2.0未満である場合に得られる。特に、この比は1.5未満または1.0未満とする必要がある。最適な比はさらに低く、特に0.8未満または0.6未満等である。好ましい実施形態では、この比は少なくとも0.3である。
【0060】
一実施形態では、ガラスは、BaOに対するB2O3のmol%での分率が少なくとも8でかつ最大で20である。この比は、少なくとも10または少なくとも11であるのが好ましい。好ましい実施形態では、上記の比は最大で18、最大で16、最大で15または最大で13に限定される。特に、この比は少なくとも10でかつ最大で15、または少なくとも11でかつ最大で13である。上記の分率を有するガラスは、耐加水分解性および偏析係数に関して良好な特性を示すと同時に、低い誘起吸光度しか示さない。
【0061】
本発明のガラス中のROの割合は、少なくとも0.3mol%であり得る。アルカリ土類金属酸化物は溶融性にとって有利であるが、割合が高いと目標の紫外線透過率に関して問題となることが判明している。一実施形態では、ガラスは最大で3mol%のROを含有する。
【0062】
mol%でのアルカリ土類金属酸化物およびアルカリ金属酸化物の含有量の合計RO+R2Oは、最大で10mol%に制限され得る。有利な実施形態は、これらの成分を最大で9mol%の量で含有し得る。これらの酸化物の含有量は、少なくとも4mol%、少なくとも5mol%または少なくとも6mol%であるのが好ましい。これらの成分は偏析傾向を高め、割合が過度に高いとガラスの耐加水分解性を低下させる。
【0063】
mol%でのR2OおよびROの含有量の合計に対するmol%でのB2O3の含有量の比は、少なくとも1.3、少なくとも1.5または少なくとも1.8であり得る。この比は最大で6、最大で4.5または最大で3に制限され得る。ガラスの偏析時に、B2O3と比べてアルカリ酸化物またはアルカリ土類酸化物が過度に多いと、アルカリホウ酸塩またはアルカリ土類ホウ酸塩が形成される可能性がある。上記の比を設定することが有利であることが判明した。
【0064】
TgおよびT4を含む溶融特性が所望の範囲内となるように、mol%でのSiO2およびAl2O3の含有量の合計に対するB2O3の含有量の比を狭い範囲に設定することが有利な場合がある。有利な実施形態では、この比は少なくとも0.15かつ/または最大で0.4である。
【0065】
アルカリ土類金属酸化物ROの合計に対するアルカリ金属酸化物R2Oの合計のmol%での分率は、好ましくは1超、特に1.1超または2超である。実施形態では、この比は最大で10、最大で7または最大で5である。
【0066】
本発明のガラスは、F-を0mol%~6mol%の含有量で含有し得る。F-の含有量は、最大で4mol%であるのが好ましい。一実施形態では、この成分は少なくとも1mol%または少なくとも2mol%使用される。成分F-はガラスの溶融性を改善し、より短波長の方向のUV端に影響を及ぼす。
【0067】
本発明のガラスは、Cl-を1mol%未満、特に0.5mol%未満または0.3mol%未満の含有量で含み得る。適切な下限は、0.01mol%または0.05mol%である。
【0068】
本明細書において、ガラスに或る成分が含まれない、またはガラスが或る特定の成分を含有しないと記載される場合、この成分が多くとも不純物としてしか存在し得ないことを意味する。これは、成分が実質的な量では添加されないことを意味する。実質的でない量は、本発明によると、問題の成分について他に記載のない限り、500ppm未満、好ましくは250ppm未満、最も好ましくは50ppm未満の量である。さらなる実施形態では、実質的でない量は、本発明によると0.5ppm未満、好ましくは0.125ppm未満、最も好ましくは0.05ppm未満の量である。
【0069】
「ppm」という記載は、本明細書で質量分率を指す。
【0070】
鉄含有量は、本明細書においてppmでのFe2O3の重量分率として表される。この値は、ガラス中の全ての鉄種の量を決定し、質量分率の計算について全ての鉄がFe2O3として存在すると仮定することにより、当業者によく知られた方法で決定することができる。したがって、ガラス中に1mmolの鉄が確認された場合、計算に仮定される質量は、159.70mgのFe2O3に相当する。この手順では、ガラス中の個々の鉄種の量が確実には、または多大な労力なしには決定され得ないことを考慮に入れる。実施形態では、ガラスは、100ppm未満、特に50ppm未満または10ppm未満のFe2O3を含有する。鉄含有量が特に低い一実施形態では、Fe2O3の割合は6ppm未満、5ppm未満または4.5ppm未満である。任意に、Fe2O3の含有量は、0ppm~4.4ppm、0ppm~4.0ppm、0ppm~3.5ppm、0ppm~2.0ppm、0ppm~1.75ppmである。実施形態では、含有量は、0ppm~1.5ppm、または好ましくは0ppm~1.25ppmであり得る。さらなる実施形態では、ガラスはFe2O3による汚染を全く有しない。
【0071】
一実施形態では、ガラスは100ppm未満、特に50ppm未満または10ppm未満のTiO2を含有する。TiO2含有量が特に低い一実施形態では、ガラスは7ppm未満、6ppm未満、5ppm未満または4ppm未満のTiO2を含有する。任意に、TiO2の含有量は0ppm~6.9ppm、0ppm~5.8ppm、0ppm~4.7ppm、0ppm~3.8ppmまたは0ppm~2.5ppmである。一実施形態では、この成分の割合は、0ppm~1.5ppm、0ppm~1.0ppm、0ppm~0.75ppm、0ppm~0.5ppm、好ましくは0ppm~0.25ppmであり得る。さらなる実施形態では、ガラスはTiO2による汚染を全く有しない。
【0072】
一実施形態では、ガラスは100ppm未満、特に50ppm未満または10ppm未満のヒ素を有する。100ppm未満のアンチモン、50ppm未満のアンチモンまたは10ppm未満のアンチモンを有するガラスが好ましい。ヒ素およびアンチモンは有毒であり、環境に危険であるのに加え、どちらもガラスのソラリゼーションを増加させる。
【0073】
本明細書において、化学元素(例えばAs、Sb)に関連して、その成分が含有されていないと記載される場合、この表現は、それぞれの場合で他に記載のない限り、あらゆる化学形態を指す。例えば、ガラスが100ppm未満のAs含有量を有するという記載は、存在するAs種(例えばAs2O3、As2O5等)の質量分率の合計が合わせて100ppmの値を上回らないことを意味する。
【0074】
特に好ましい実施形態では、ホウケイ酸ガラスは(酸化物ベースのmol%で)以下の成分を含む:
【表2】
【0075】
特に好ましいさらなる実施形態では、ガラスはmol%で以下の成分を含む:
【表3】
【0076】
一実施形態では、ホウケイ酸ガラスは1.45~1.55の屈折率ndを有する。屈折率は1.50未満であり得る。
【0077】
ガラスは優れた耐加水分解性を特徴とする。特に、ガラスはISO 719:1989-12に準拠したHGB3以上、特にHGB2またはHGB1の加水分解等級を有する。
【0078】
一実施形態では、ガラスは、その耐加水分解性に関して0.35~1.65、特に0.5~1.10の範囲の偏析係数を有する。特に、この係数は少なくとも0.65である。好ましくは、この係数は1.00に近く、これは偏析後の耐加水分解性が変化しない場合に相当する。一実施形態では、偏析係数は最大で1.40、最大で1.25または最大で1.10である。偏析係数は、偏析の結果としてISO 719に従う耐加水分解性を変化させるガラスの特性の尺度である。偏析は、ガラスを封着すると温度の影響により生じる。封着により、その耐加水分解性に関して未処理ガラスと大きく異なる特性を有するガラスが得られないように、偏析係数が可能な限り1に近いガラスを選択することが有利であることが判明した。偏析係数は、ガラスの組成だけでなく、その熱履歴(冷却状態)にも影響を受ける。偏析係数は、製造プロセスにおけるガラスの冷却速度により調節することができる。
【0079】
ガラスの熱膨張係数は、好ましくは4.5ppm/K未満である。これは3.5ppm/K~5ppm/K未満、さらに好ましくは3.75ppm/K~4.75ppm/K、さらに好ましくは4.1ppm/K~4.6ppm/Kまたは4.1ppm/K~4.5ppm/K未満の範囲であり得る。
【0080】
ガラス転移温度Tgが500℃未満であるのが好ましい。これは400℃~550℃、さらに好ましくは430℃~500℃の範囲、さらに好ましくは450℃~480℃の範囲であり得る。
【0081】
本発明のガラスの加工温度T4は、好ましくは1200℃未満、好ましくは1125℃未満である。これは1000℃~1200℃の範囲、さらに好ましくは1025℃~1175℃の範囲であり得る。
【0082】
本発明のガラスは、好ましくは最大で0.0055、特に最大で0.0053または最大で0.0051の積CTE[℃-1]×T4[℃]を有する。積CTE[℃-1]×T4[℃]は、少なくとも0.0044または少なくとも0.0045であり得る。このガラスが封着応力および溶融挙動に関して有利な特性を示すことが示されている。
【0083】
本発明の主題は、紫外線透過性材料としての本発明によるガラス物品の使用でもある。本発明によるガラス物品は、好ましくは板、パネル、バー、粉末、管またはロッドの形態で使用される。管およびロッドの場合、ガラス物品を例えば容器、窓等へのさらなる加工に使用することができる。しかしながら、本発明によるガラスから様々な他の形態、例えば板ガラスまたはガラスブロック等を製造することができる。板ガラスは、例えばフロート法で製造することができる。管およびロッドは、例えば円形、楕円形、扁平とすることができ、または延伸プロセス中のその後の成形によっても多様な形態に製造することができる。例えば、外径が約4mm~17mm、好ましくは約4mm~12mm、特に好ましくは約5mm~10mmの円形ロッドを準備することができる。管状ガラスは、ベロー法またはA-Zug法(A-Zug-Verfahren)でも製造することができる。ガラス管は、例えば少なくとも3mm、特に少なくとも5mmの外径、および最大で35mm、特に最大で31mmの上限で製造することができる。特に好ましい管径は、約10mm~29mmである。
【0084】
このような管が少なくとも0.4mm、特に少なくとも0.5mmの肉厚を有することができ、少なくとも0.6mmが特に好ましいことが示されている。最大肉厚は、任意に、最大で1.1mmであり、最大で0.9mmまたは0.8mmの肉厚が好ましい。
【0085】
一実施形態では、ガラス物品はガラス粉末である。ガラス粉末は、顔料を含むまたは含まないエナメルコーティング用ガラスペーストとして使用することができる。本発明によるガラス物品は、加圧および焼成またはスリップキャスティングおよび焼成によって製造される焼結成形体でもある。ガラス物品は、紫外線透過性の層または成形体の形態で提供することができる。
【0086】
特に好ましくは、本発明によるガラス物品は、紫外線LED、紫外線透過性ランプ、紫外線ランプ用保護管、紫外線酸化反応器用紫外線透過性材料、紫外線火炎検出器、紫外線光電管、ソーラー反応器、分光分析機器、光電子増倍管にまたはこれらとして、ならびに窓(特にEPROM窓)、(例えば宇宙空間における)太陽電池用カバープレート、(例えば紫外線励起によるフォトルミネッセンス測定用の)紫外線透過性キュベット、UV-CCL(冷陰極管)および/またはキセノンフラッシュランプに使用される。
【0087】
一実施形態では、ガラス物品は、特にマイクロ流体デバイス、例えばフォトルミネッセンスに基づく診断法向けのマイクロ流体デバイスとして診断に使用される。その際、少なくともベースプレートまたはカバープレートのいずれかが、紫外線透過率が増大したガラスで構成され得る。より高い紫外線透過率により診断法の信号対雑音比が改善する。
【0088】
特に高い割合の紫外線を放射するランプ、特に保護管を備える紫外線ランプおよび保護管を備えない紫外線ランプにガラス物品を使用することが特に好ましい。
【0089】
ガラス物品は、それ自体が既知のガラス管およびロッドの延伸方法に従って製造することができる。所望の形態に応じて、当業者は適切な製造方法、例えばバーにはインゴット鋳造、板にはフローティングまたはダウンドローを選択する。好ましくは、方法におけるガラスの冷却は、所望の仮想温度が達成されるように調節される。
【0090】
一実施形態では、ガラス物品はベロー法を用いて製造される。ベロー法では、溶融ガラスは出口リングとニードルとで構成される成形工具を介して垂直に下向きに(重力方向に)流動する。成形工具は、ガラス管またはガラスロッドの作製される断面のネガ型(鋳型)を形成する。ガラス管の製造では、成形工具の中央に成形部材としてニードルを配置する。
【0091】
ベロー法とA-Zug法との違いは、第一に、ベロー法では溶融ガラスが成形工具を出た後に水平に偏向され、第二に、ベロー法ではニードルが噴射空気の流れる通路を有することである。噴射空気は、ダナー法と同様、得られるガラス管が崩壊しないことを確実にする。A-Zug法では、固化した溶融ガラスは事前に偏向されることなく分離される。偏向を行わないことから、管の製造でも噴射空気の使用を省くことができる。
【0092】
一実施形態では、ガラス物品は、少なくとも1つの研磨面を有する。任意に、ガラス物品は、少なくとも1つの面取りされたエッジを有する。研磨面は、10nm未満または5nm未満の表面粗さRaを有することができる。面取りされたエッジは、面取りされていないエッジよりも耐衝撃性、特に耐チッピング性に優れている。
【0093】
熱および/または化学強化
任意に、製造方法は、ガラス物品を化学的および/または熱的に硬化させるステップを含む。この硬化は、「強化」とも呼ばれる。
【0094】
好ましくは、ガラス物品は、少なくとも1つの表面で強化されており、特に熱および/または化学強化されている。例えば、イオン交換によってガラス物品を化学的に強化させることが可能である。この場合、通常、物品中の小さなアルカリイオンが大きなアルカリイオンと交換される。この場合、一般的に、小さなナトリウムがカリウムに置き換えられる。しかし、非常に小さなリチウムをナトリウムおよび/またはカリウムに置き換えることも可能である。任意に、アルカリイオンを銀イオンで置き換えることが可能である。また、アルカリイオンと同じ原理で、アルカリ土類イオン同士を交換することも可能である。好ましくは、イオン交換は、物品の表面と塩浴との間にある溶融塩の浴中で行われる。このような槽は「強化槽」とも呼ばれる。交換には、純粋な塩溶融物、例えば溶融KNO3を用いることができる。しかし、塩の混合物や、塩と他の成分との混合物を使用することもできる。狙いどおりに調整された圧縮強化プロファイルが物品内に構築されれば、物品の機械的耐久性をさらに高めることができる。これは、1段または多段の化学交換プロセスによって達成することができる。
【0095】
小さなイオンと大きなイオンとの交換や熱強化によって、ガラス物品の表面から中心に向かって低下する圧縮応力が、対応するゾーンに発生する。最大の圧縮応力はガラス表面のすぐ下にあり、CS(Compressive Stress)とも呼ばれる。CSは応力であり、MPa単位で示される。圧縮応力層の深さを「DoL」と略記し、μm単位で示される。好ましくは、CSおよびDoLは、Orihara社製測定器FSM-60LEで測定される。
【0096】
一実施形態では、CSは、好ましくは100MPaより大きい。さらに好ましくは、CSは、少なくとも200MPa、少なくとも250MPa、または少なくとも300MPaである。好ましくは、CSは、最大で1,000MPa、最大で800MPa、最大で600MPa、または最大で500MPaである。好ましくは、CSは、100MPa超~1,000MPa、200MPa~800MPa、250MPa~600MPa、または300MPa~500MPaの範囲である。
【0097】
一実施形態では、ガラス物品は、熱強化されている。熱強化は、一般的に、高温のガラス表面を急冷することで達成される。熱強化は、化学強化に比べて圧縮応力層を深く(DoLを大きく)形成できるという利点がある。これにより、圧縮応力層が薄い場合ほど容易には圧縮応力層に傷が貫通することができなくなるため、ガラスに傷がつきにくくなる。
【0098】
ガラスあるいはガラス物品を、例えば、溶融、成形、緩和/冷却プロセス、および冷間仕上げプロセスの後に、熱強化プロセスに供することができる。このプロセスでは、ガラス体(例えば、上述のガラス物品や予備生成物)、例えば板ガラスが、好ましくは水平にまたは吊り下げられた状態で装置にて導かれ、変態温度Tgより最大で150℃高い温度まで急速に加熱される。その後、例えばノズルシステムを通じて冷風を吹き付けるなどして、ガラス体の表面を急速に冷却する。ガラス表面が急速に冷却された結果、このガラス表面は、拡張された網目構造状に固まり、一方でガラス体の内部はゆっくりと冷やされ、より強度に収縮する時間を有する。これにより、表面層には圧縮応力が生じ、内部には引張応力が生じる。ここで、圧縮予備応力の大きさは、CTEガラス(Tg未満のガラスの平均線熱膨張係数)、CTE液体(Tg超のガラスの線熱膨張係数)、上限冷却点、軟化点、弾性率など、ガラスの様々なパラメータに依存し、また、冷却媒体とガラス表面との間の熱伝達量やガラス体の厚さにも依存する。
【0099】
好ましくは、少なくとも50MPaの圧縮予備応力が生成される。これにより、ガラス体の曲げ強度を、非強化ガラスに比べて2~3倍にすることができる。一実施形態では、ガラスを750~800℃の温度に加熱し、冷風を吹き付けて急冷する。吹付け圧力は、1~16kPaとすることができる。本明細書に記載のガラスあるいはガラス物品では、市販の空気による強化装置を用いて、例えば50~250MPa、特に75~200MPaの圧縮予備応力の値が達成される。
【0100】
一実施形態では、ガラス物品は、少なくとも50MPa、特に少なくとも75MPa、少なくとも85MPa、または少なくとも100MPaの圧縮応力を有する圧縮応力層を有する。ガラス物品は、その表面の1つ、2つまたはすべてに圧縮応力層を有することができる。圧縮応力層の圧縮応力は、最大で250MPa、最大で200MPa、最大で160MPa、または最大で140MPaに制限されていてもよい。このような圧縮応力値は、特に熱強化ガラス物品に見られる。
【0101】
一実施形態では、ガラス物品の圧縮応力層の深さは、少なくとも10μm、少なくとも20μm、少なくとも30μm、または少なくとも50μmである。特定の実施形態では、この層はさらに、少なくとも80μm、少なくとも100μm、または少なくとも150μmであってもよい。任意に、DoLは、最大で2,000μm、最大で1,500μm、最大で1,250μm、または最大で1,000μmに制限されている。特に、DoLは、10μm~2,000μm、20μm~1,500μm、または30μm~1,250μmであることができる。一実施形態では、ガラス物品は、少なくとも300μm、少なくとも400μm、または少なくとも500μmのDoLを伴って熱強化されている。任意に、DoLは、最大で2,000μm、最大で1,500μm、または最大で1,250μmとすることができる。一実施形態では、DoLは、300μm~2,000μm、400μm~1,500μm、または500μm~1,250μmである。
【0102】
実施形態
冒頭で説明したように、本発明は、幾つかの点で耐性があるガラスに関する。特に耐性のあるガラスは、ガラスに特別な要求が課されている場合に特に有効である。これは、例えば極端な環境において該当する。極端な環境とは特に、例えば防爆が必要な領域など、特殊な耐性や耐久性、安全性が重要視される使用分野である。
【0103】
一実施形態では、本発明は、極端な環境での使用に特に適し、以下の特性を有するガラス物品に関する:
重水素ランプで48時間照射した後の200nmでの誘起吸光度α(λ)が最大で0.300であること、
重水素ランプで48時間照射した後の254nmでの誘起吸光度α(λ)が最大で0.100であること、
厚さが少なくとも0.3mm、特に少なくとも3mmおよび/または最大で20mmであること、および/または
熱収縮率が50μm/100mm未満であること。
【0104】
厚いガラスは薄いガラスよりも機械的に安定しているため、極端な環境では、ガラス物品に所定の最小厚さを与えることが有効な場合がある。しかし、厚いガラスは、ガラスに入射する紫外線を吸収する割合が大きく、結果的に熱が生じる。可燃性の高い物質がある環境では、強度の発熱が問題となることがある。200nmおよび/または254nmでの誘起吸光度が低いガラス物品は、長時間使用した後でも対象となる波長の透過率が高いままであり、極端な発熱が回避されるという利点がある。
【0105】
また、極端な環境において表面を殺菌するための紫外線ランプにおけるガラス物品の使用も、本発明によるものである。一実施形態では、ガラス物品は、作用箇所を殺菌するために使用される紫外線ランプにおいて(特にカバーとして)使用される。作用箇所は、例えば取手、特にドアの取手など、多くの人が触るものであり得る。この場合、紫外線ランプは、例えば、作用箇所に紫外線が照射されるように配置されていてよい。この場合、作用箇所にある程度近いことは避けられない。そのためここでは、衝撃によってガラス物品が破損する危険性がある。そのため、機械的な耐性が必要となる。機械的耐性は、ガラス物品の厚さを大きくすることで向上させることができるが、それにより物品の透過率が低下し、紫外線ランプの動作中にガラスの加熱が強度に増大する。強すぎる加熱は避けることが望ましく、ここでも非常に良好な透過率および低い誘起吸光度がプラスに作用する。温度が高すぎると、使用者の火傷や爆発の危険性があり、安全性が損なわれる。原理的には、距離を長くすることで火傷の危険性を低下させることができるが、これを照射強度の増大によって補償しなければならず、またもや発熱量が多くなるという欠点がある。
【0106】
また、本発明は、紫外線ランプ、および特に極端な環境における殺菌のための、特に例えば多くの人が触れる作用箇所を殺菌するための紫外線ランプにおけるガラス物品の使用に関する。ここで、殺菌すべき表面とガラス物品との間の最小距離を5cm、特に7.5cm、または10cmに保つことが有利であることが判明した。本明細書に記載のガラス物品を使用する場合、特に、作用箇所で、少なくとも1.0mW/cm2、少なくとも1.5mW/cm2、少なくとも2.5mW/cm2、少なくとも3.0mW/cm2、または少なくとも3.5mW/cm2の出力密度を設定することができる。作用箇所とは、殺菌すべき表面である。任意に、出力密度は、最大で20mW/cm2、最大で15mW/cm2、または最大で10mW/cm2である。出力密度とは、特に、紫外線ランプを介して、作用箇所におけるUV放射、特にUV-C放射として測定可能な出力である。好ましくは、作用箇所は、定期的に殺菌される。これは、作用箇所が、連続的にではなく断続的にのみ照射されることを意味する。例えば、使用者が触れる、存在する、または操作することで、照射間隔を設定することができる。照射間隔は、例えば、少なくとも1秒間、少なくとも5秒間、少なくとも10秒間、または少なくとも20秒間とすることができる。任意に、照射間隔は、最大で10分間、最大で5分間、最大で2分間、または最大で1分間である。
【0107】
一実施形態では、紫外線ランプおよび/またはガラス物品は、熱的に最適化された構造を有する。この場合、特に、ガラス物品から70mm離して光源と向かい合うように配置された作用箇所に、120W/cm、アーク長4cmの中圧水銀ランプ(例えばPhilips HOK 4/120)を、作用箇所でのUVC出力密度17.27mW/cm2で周囲温度20℃にて5秒間照射した際に、作用箇所に面したガラス物品の面の温度が45℃を上回ることのないように、ガラス物品はその厚さおよびその紫外線透過率に関して選択されていてよい。この場合、一実施形態では、放射線はガラス物品を垂直に通過し、すなわち、ガラス物品への光の入射は、光源に面した表面に対して実質的に直角に行われ、かつ/またはガラス物品からの光の出射は、作用箇所に面したガラス物品の面に対して実質的に直角に行われる。特に、温度が42.5℃、40℃、または37.5℃の値を上回ることはない。一実施形態では、10秒、20秒、30秒、45秒、60秒、90秒、120秒、150秒、または180秒の照射後も、上述の温度限界値を上回ることはない。記載されている特性は、頻繁に使用されるUV光源を垂直方向に照射したときに、ガラス物品がどの程度強く発熱するかを示す。ガラス物品で構成されるランプカバーを備えた紫外線ランプが危険なほど高温にならないことが実現される。UVC出力密度とは、UVC領域(280~200nm)の放射線によって与えられる出力密度を意味する。中圧水銀ランプは他の波長の光も発するが、ここではUVC出力密度を考慮していない。測定は、周囲雰囲気下で行われる。明確にするために述べると、記載されている特性は、紫外線ランプやガラス物品の可能な用途を中圧水銀ランプに限定するものではない。
【0108】
一実施形態では、ガラス物品は、DIN EN 12150-1:2020-07に準拠した破壊パターンの要件を満たす。ここで、物品全体または物品の一部を検査することができ、考慮すべき領域を超える場合には、指定された規格から逸脱して、物品を、そこで指定されたものよりも小さくすることができる。破壊パターンを考慮する領域は、特に、40mm×40mm、または25mm×25mmとすることができる。一実施形態では、上記の条件下で、ガラス物品は25個以上、特に30個以上、または40個以上の部分に砕ける。破片が小さいと破壊時に怪我をする危険性が低いため、ガラス物品が多くの部分に砕けることは有利である。破壊パターンは、例えば、ガラス組成、冷却条件(熱収縮)の選択、ガラス内の応力の調整、および/または物品の強化によって影響を受け得る。
【0109】
一実施形態では、本発明は、以下:
その耐加水分解性に関する偏析係数が0.10~1.65の範囲であり、
重水素ランプで48時間照射した後の200nmでの誘起吸光度α(λ)が最大で0.300であり、
重水素ランプで48時間照射した後の254nmでの誘起吸光度α(λ)が最大で0.100であり、
厚さが少なくとも0.3mm、特に少なくとも3mmおよび/または最大で20mmであり、かつ
熱収縮率が50μm/100mm未満である
ガラスから構成されるガラス物品に関する。
【0110】
一実施形態では、本発明は、以下:
その耐加水分解性に関する偏析係数が0.10~1.65の範囲であり、
厚さが少なくとも0.3mm、特に少なくとも3mmおよび/または最大で20mmであり、かつ
少なくとも1つの表面での圧縮応力が少なくとも50MPaである
ガラスから構成されるガラス物品に関する。
【0111】
一実施形態では、本発明は、
その耐加水分解性に関する偏析係数が0.10~1.65の範囲であり、
厚さが少なくとも0.3mm、特に少なくとも3mmおよび/または最大で20mmであり、かつ
少なくとも1つの表面での圧縮応力が少なくとも50MPaであり、かつ40mm×40mmの面部分が25個以上の部分に破壊されることを特徴とする破壊パターンを有する
ガラスから構成されるガラス物品に関する。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【
図1】偏析係数を縦軸に有し、SiO
2およびAl
2O
3の含有量(mol%)の合計に対するB
2O
3、R
2OおよびROの含有量(mol%)の合計の比を横軸に有する、例示的なガラスの値の組のグラフ。
【実施例】
【0113】
表1に、例示的なガラス組成(mol%)および他のガラス特性を示す。
【0114】
【0115】
【0116】
【0117】
【0118】
以下の表5に、本明細書に挙げたガラスの幾つかについての偏析係数を示す。
【0119】
【0120】
以下の表6に、重水素ランプで48時間または96時間照射した後の200nmまたは254nmでのガラスのソラリゼーション耐性(誘起吸光度)を示す。透過率は、それぞれ0.70mm~0.75mmの範囲のガラス厚で測定した。
【0121】
【0122】
以下の表7に、重水素ランプで48時間または96時間照射した後の幾つかのガラスのおよその透過率値を示す。
【0123】
【0124】
以下の表に、ガラス物品とガラスまたは金属合金(コバール)とを封着させた後に得られた封着応力を示す。ガラスのCTEは5.0ppm/Kであった。金属合金のCTEは5.4ppm/Kであった。
【0125】
【0126】