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特許7374177広域スペクトルUV光を使用したUV焼結性分子インク及びその処理
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-26
(45)【発行日】2023-11-06
(54)【発明の名称】広域スペクトルUV光を使用したUV焼結性分子インク及びその処理
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/52 20140101AFI20231027BHJP
   C09D 11/101 20140101ALI20231027BHJP
   H05K 3/12 20060101ALI20231027BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20231027BHJP
   B41M 1/30 20060101ALI20231027BHJP
【FI】
C09D11/52
C09D11/101
H05K3/12 610B
H05K1/03 610H
B41M1/30 D
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2021505856
(86)(22)【出願日】2019-08-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-12-02
(86)【国際出願番号】 IB2019056612
(87)【国際公開番号】W WO2020026207
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2022-07-19
(31)【優先権主張番号】62/714,363
(32)【優先日】2018-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500276482
【氏名又は名称】ナショナル リサーチ カウンシル オブ カナダ
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リュー、シャンヤン
(72)【発明者】
【氏名】ディン、チャンフー
(72)【発明者】
【氏名】マレンファン、パトリック ローランド ルシアン
(72)【発明者】
【氏名】パケ、シャンタル
(72)【発明者】
【氏名】デオーレ、バーバナ
(72)【発明者】
【氏名】ケル、アーノルド ジェイ.
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/018136(WO,A1)
【文献】特表2014-529875(JP,A)
【文献】特開2018-069187(JP,A)
【文献】特開2016-113635(JP,A)
【文献】特表2015-508434(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106700735(CN,A)
【文献】国際公開第2012/114925(WO,A1)
【文献】特開2007-194175(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/52
H05K 3/12
H05K 1/03
C09D 11/101
B41M 1/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀オキサラートヒドロキシアルキルアミン、及び
共役ポリマー、ポリエチレングリコール、C 2-16 脂肪酸、又はそれらの任意の混合物を含む熱保護剤であって、
前記共役ポリマーが、式(I)若しくは式(II)のポリマーを含み:
【化1】

式中、nが5~2000の整数である、熱保護剤
を含む、インク。
【請求項2】
前記ヒドロキシアルキルアミンが、1,2-エタノールアミン、1-アミノ-2-プロパノール、1,3-プロパノールアミン、1,4-ブタノールアミン、2-(ブチルアミノ)エタノール、2-アミノ-1-ブタノール、又はそれらの任意の混合物を含む、請求項1に記載のインク。
【請求項3】
前記ヒドロキシアルキルアミンが、1-アミノ-2-イソプロパノール、2-アミノ-1-ブタノール、又はそれらの混合物を含む、請求項1に記載のインク。
【請求項4】
有機ポリマー結合剤をさらに含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のインク。
【請求項5】
有機ポリマー結合剤、表面張力調節剤、溶媒、消泡剤、チキソトロピー調節剤又はそれらの混合物をさらに含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のインク。
【請求項6】
前記有機ポリマー結合剤がヒドロキシエチルセルロースを含む、請求項4又は5に記載のインク。
【請求項7】
基板上に導電性の銀又は銅のトレースを生成するための方法であって、
基板上に、請求項1~6のいずれか一項に記載のインクを堆積させて、前記基板上に前記インクのトレースを形成すること、並びに
前記基板上の前記トレースを、紫外域の波長を含む広域スペクトル光で焼結させて、前記基板上に前記導電性銀又は銅トレースを形成すること、を含む、方法。
【請求項8】
前記インクが有機ポリマー結合剤をさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記インクが、有機ポリマー結合剤、表面張力調節剤及び溶媒をさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記有機ポリマー結合剤がヒドロキシエチルセルロースを含む、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
前記広域スペクトル光が、134.4J/cm以下のエネルギーを有する、請求項7~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記広域スペクトル光が、13.4J/cm 以下のエネルギーを有する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記焼結が、5~600秒の範囲の時間で行われる、請求項7~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記広域スペクトル光が300~800nmの範囲の発光を有する、請求項7~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記基板が、160℃以上の基板温度で10分以下の期間にわたって損傷を受ける低温基板であり、前記低温基板が、ポリエチレンテレフタレート、アモルファスポリエチレンテレフタレート(APET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、熱可塑性ポリウレタン(TPU)、テキスタイル、綿、ナイロン、ポリエステル又はエラストマーブレンドを含む、請求項7~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記インクが、焼結中の前記インクの温度上昇を前記銀オキサラートの分解に十分な高さのインク温度までに自己制限し、それにより前記温度上昇が、前記インクが占有する基板の領域に限局される、請求項7~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
電子デバイスであって、請求項1~6のいずれか一項に記載のインクから又は請求項7~16のいずれか一項に記載の方法によって生成された導電性金属トレースを上に有する基板を含む、電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、導電性インク、特に広域スペクトル紫外(UV)光によって処理及び焼結できる導電性分子インクに関する。本出願は、広域スペクトルUV光を使用して分子インクを処理及び焼結する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
プリンテッドエレクトロニクス(PE)製造業界で使用されている導電性インクの大部分は、熱処理を利用してフレーク型又はナノ粒子型トレースを導電性金属トレースに変換する。シート・ツー・シート・フラットベッド・スクリーン・プリンタ及びトンネルオーブンを使用する代表的な製造環境では、熱処理が遅くなるおそれがあるが(例えば5~30分)、プリンタブルエレクトロニクスがロール・ツー・ロール法に移行すると、より速い処理時間が求められる(例えば5分未満)。
【0003】
導電性トレースの焼結に必要な時間を短縮する最も一般的な手段は、インテンス・パルス・ライト(IPL)又はフォトニック焼結(PS)技術(以下、IPL焼結と呼ぶ)を利用することであり、処理時間は、マイクロ秒から秒の程度の短さに短縮することができる。これは、IPL処理がトレース内にかなりの局所的な熱を生成するUV光の強力なパルスを使用して、インクを迅速かつ選択的に焼結する能力によるものである。
【0004】
IPL法では、銀ナノ粒子インク及び銅ナノ粒子インク並びに銅系分子インク及び銀系分子インクの迅速な処理が可能であるが、これらのインクの大半の処理に必要な局部加熱には、下にある基板の特性も影響を受ける十分なエネルギーが必要であるため、Kapton(商標)などの高温基板に最も適している。特に、ポリエチレンテレフタレート(PET)基板などの低温基板を使用する場合、IPL焼結は印刷されたインクトレースの下の基板の反り/変形を生じる傾向があり、多くの場合、トレースは実際に溶融又は基板中に沈降する。さらに、IPL処理トレースは通例、非常に多孔質であるが、熱焼結によって処理されたトレースは、はるかにより緻密かつ均一である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そのため、広域スペクトルUV光を使用して処理(乾燥又は硬化など)及び焼結され、基板への損傷を低減又は排除しながら、低温基板上に導電性トレースを生成することができる、プリンタブルインクの必要性が残っている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の要約
印刷された非導電性金属トレースの処理(乾燥又は硬化)及び焼結に広域スペクトルUV光処理を使用すると、ロール・ツー・ロール・プリンタブル・エレクトロニクス製造の新たな効率化、及び処理時間を短縮しようとする他の製造アプローチを実現する機会が得られる。低温分子インクが広域スペクトルUV光を使用して有利に処理及び焼結されるのは、このようなインクを操作して、広範な用途向けの広範な厚み及び幅の機能的に有効な導電性トレースを提供できるためである。例えば、そのようなインクは、比較的高い導電率(即ち比較的低い抵抗率)を維持しながら、比較的薄い及び/又は細い導電性トレースを形成するために乾燥及び焼結され得る。
【0007】
一態様において、銀カルボキシラート又は銅カルボキシラート、有機アミン化合物及び熱保護剤を含むインクが提供される。
【0008】
一実施形態において、銀カルボキシラートはC1-10アルカノアートである。別の実施形態において、銅カルボキシラートはC1-12アルカノアートである。さらなる実施形態において、銀カルボキシラート又は銅カルボキシラートは、160℃以下の分解温度を有する。さらに別の実施形態において、有機アミン化合物はアミノアルコールである。さらに別の実施形態において、熱保護剤は、共役ポリマー、ポリエーテル、脂肪酸又は任意のその混合物を含む。
【0009】
別の態様において、銀カルボキシラート又は銅カルボキシラート及び有機アミン化合物を含むインクであって、インクは、焼結中のインクの温度上昇をインクの分解に十分な高さのインク温度までに自己制限し、それにより温度上昇はインクが占有する基板の領域に限局される。一実施形態において、焼結は広帯域スペクトルUV光を使用して行われる。別の実施形態において、インクは熱保護剤を任意選択で含む。さらなる実施形態において、有機アミン化合物はアミノアルコールである。
【0010】
本開示のインクに添加される場合の結合剤及び/又は表面張力調節剤などの他の薬剤の使用により、電子デバイス用の導電性金属トレースを備えた基板を製造する所望のアプローチに応じて、焼結前及び焼結後に生じた印刷トレースの機械的特性(例えば接着性)が向上する。一実施形態において、インクは分子インクである。関連する実施形態において、分子インクは、銀カルボキシラート又は銅カルボキシラート、有機アミン化合物、並びに結合剤、溶媒、表面張力調節剤、消泡剤、チキソトロピー調節剤及びフィラーからなる群から選択される1つ以上の成分を含む。別の関連する実施形態において、インクは、銅カルボキシラート、並びにアミノアルコール、銅ナノ粒子フィラー及び結合剤を含む。
【0011】
有利には、本発明のインクは、低温基板上に印刷され、広域スペクトルUV光を使用して焼結されて、基板への損傷を低減又は排除しながら、低温基板上に導電性トレースを生成することができる。インクを広域スペクトルUV光で焼結することによって生成された導電性トレースは、熱処理されたサンプルのトレース形態(モルフォルジー)と同様のトレース形態を有し、優れた電気的特性を有する。導電性トレースを生成する前に、広域スペクトルUV光を使用して、低温基板上に印刷されたインクを処理し、熱成形及び焼結後に生じた導電性トレースの品質(例えば亀裂の低減)を改善することもできる。本明細書に開示されるように、UV光を使用して印刷されたトレースを「処理」する場合、又は印刷されたインクがUV「処理」されている若しくはUV「処理」を受ける場合、処理は(処理が乾燥又は効果として特徴付けることもできるか否かにかかわらず)その所期の用途に適した導電性トレースの生成には不十分であると理解されることが理解される。これは、導電性トレースを生じさせる、本明細書に開示するような焼結点までのUV硬化法とは区別される。
【0012】
別の態様において、基板上に導電性の銀又は銅のトレースを生成するための方法であって、基板上に、銀カルボキシラート又は銅カルボキシラート及び有機アミン化合物を含むインクを堆積(デポジット)させて、基板上にインクのトレースを形成すること、並びに基板上のトレースを広域スペクトルUV光で焼結させて、基板上に導電性銀トレースを形成することを含む方法が提供される。有利には、この方法を使用して、広域スペクトルUV光を使用して基板上に導電性トレースを形成することができる。広域スペクトルUV光でインクを焼結することによって生成された導電性トレースは、熱処理されたサンプルと同様のトレース形態(モルフォルジー)を有し、優れた電気的特性を有し、この導電性トレースは、熱成形又は焼結の前に、広域スペクトルUV光を使用して基板上に堆積させた(例えば印刷した)インクを処理すれば、優れた電気的特性をさらに改善することができる。
【0013】
さらなる特徴は、以下の詳細な説明の中で説明されるか、又は明らかになるであろう。本明細書に記載される各特徴は、他の記載された特徴のいずれか1つ以上と任意の組合せで利用され得ること、及び当業者に明らかである場合を除いて、各特徴が必ずしも別の特徴の存在に依存しないことが理解されるべきである。
【0014】
より明確な理解のために、好ましい実施形態を例として、添付の図面を参照して、以下に詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1A】DYMAX(商標)5000-ECシリーズUV硬化フラッド・ランプ・システム(Flood Lamp system)を使用して、電球から10cmの距離で4.5分間UV焼結した後の、熱保護剤を有さないインク(C1)から生成されたPET上のトレースを示す。
図1B】DYMAX(商標)5000-ECシリーズUV硬化フラッド・ランプ・システムを使用して、電球から10cmの距離で4.5分間UV焼結した後の、共役ポリマーを熱保護剤として有するインク(I1)から生成されたPET基板上のトレースを示す。
図2A】DYMAX(商標)5000-ECシリーズUV硬化フラッド・ランプ・システムを電球から10cmの距離で5分間使用して、PET基板上に分子インクI1から生成された長さ4cmの線形トレースの、抵抗(Ω/cm)対UV照射時間(分)のグラフを示し、このグラフではUV光への暴露時間が長くなるにつれて、トレース全体にわたって測定した抵抗がどのように変化するかが示されている。
図2B】トレースが全体にわたって緻密で非多孔質の金属構造を有することを示している、図2AのUV焼結トレースの走査型電子顕微鏡写真(SEM)の断面分析を示す。
図2C】トレースが全体にわたって緻密で非多孔質の金属構造を有することを示している、図2AのUV焼結トレースの走査型電子顕微鏡写真(SEM)の断面分析を示す。
図3】DYMAX(商標)5000-ECシリーズUV硬化フラッド・ランプ・システムを電球から10cmの距離で5分間使用して、PET基板にUV焼結された、熱保護剤として脂肪酸を有するインク(I3)から生成されたトレースを示す。
図4】熱保護剤としてポリエチレングリコール(PEG2K)を含むインク(I5)から製造されたPET上のUV焼結トレース(A、B)及び熱焼結トレース(C、D)の走査型電子顕微鏡写真を示す。
図5A】広域スペクトルUV光を使用してPET上に低温インクを焼結する焼結工程の温度(℃)対時間(秒)のグラフである。
図5B】温度プロファイルを図5Aに示した焼結工程中にマスクの三角形の開口部から形成されたパターンのPET上の焼結トレースを示す。
図5C】温度プロファイルを図5Aに示したPET上の焼結工程中にマスクのスロットから形成されたパターンの焼結トレースを示す。
図6】広域スペクトルUV光を使用してPET基板上に低温インクを焼結する焼結工程の間の温度(℃)対時間(秒)のグラフである。
図7】広域スペクトルUV光を使用してPET基板上に低温インクを焼結する焼結工程の紫外可視(UV-vis)分光分析の吸収対波長(nm)のグラフを示す。
図8】広域スペクトルUV光で焼結したときのPET基板上の銀ピバラート分子インクの温度プロファイルを示す。
図9】広域スペクトルUV光で焼結したときのPET基板上の銀アセタートインク(I7)の温度プロファイル(パネルA)並びに露光のそれぞれ5分及び10分後に2cmの円で測定した抵抗を示す(パネルB)。
図10】広域スペクトルUV光で焼結したときのPET基板上の銀ナノ粒子インクの温度プロファイルを示す。
図11A】DYMAX(商標)5000-ECシリーズUV硬化フラッド・ランプ・システムを電球から10cmの距離で10分間使用した、PET基板上のCu分子インクのUV焼結熱プロファイル(強度46.14J/cm-総照射量;又は4.614J/cm/分。熱電対をトレース(1cm方形)の下のPETの底部にテープで固定して、温度を経時的に監視する。
図11B】UV焼結導電性Cuトレースの写真:テープマスク印刷Cu方形。
図11C】UV焼結導電性Cuトレースの写真:PET基板にスクリーン印刷したCuトレース。
図12】UV焼結Cuトレースの走査型電子顕微鏡写真(SEM)画像。DYMAX(商標)5000-ECシリーズUV硬化フラッド・ランプ・システムを電球から10cmの距離で10分間使用して焼結させた、テープマスク印刷Cu方形(強度46.14J/cm-総照射量;又は4.614J/cm/分)。トレース全体に緻密な粒状金属構造が認められる。
図13】PET基板上のXRDパターンUV焼結Cuトレース。小さいピーク*は基板PETに起因し、#アーチファクトはサンプルホルダーによるものである。PET上のCuトレースのXRD測定は、密閉されたCu管源を備えたBruker D8 Advance X線回折計を使用して行った。走査は、30~90°の2θ範囲で行った。これに見られるUV焼結トレースのXRD分析は、酸化銅が形成されることなく、Cu MODインクの金属Cuへの還元が発生することを示している。
図14】DYMAXフラッド・ランプ・システム(青い円及び青い傾向線。上の傾向線を参照)及びUVコンベヤシステム(緑の円及び緑の傾向線。下の傾向線を参照)によってUV処理した後に熱成形した3D線形トレースの抵抗-線幅の、熱成形なしで同じ処理を行ったトレースと比較した、プロット。DYMAXフラッド・ランプ・システムで処理したサンプルを赤い円で示し、UVコンベヤシステムのサンプルを黄色の円で示す。
図15】高さ1cmのドーム形状の上に熱成形された線形トレースの写真(a)及び「a」パネルの右上隅にある黄色の長方形で強調表示された3つの最も幅広いトレースの拡大写真。熱成形のみで生成されたトレースには亀裂がある(bi-iii)のに対して、DYMAXフラッド・ランプ・システム(ci-iii)及びUVコンベヤシステム(di-iii)からのUV光で処理したトレースは亀裂の影響をはるかに受けにくいことに留意されたい。
図16】スクリーン印刷されたインクがDYMAXフラッドライトシステム(a)又はUVコンベヤシステム(b)でUV光処理されて銀ナノ粒子の形成が開始された銀オキサラート系分子インクのSEM画像。UV処理後に、トレースが熱成形されて、相互連結された銀ナノ粒子を含む導電性銀フィルムが生成される。DYMAXフラッドライトシステムによる処理後に生成されたトレースは、UVコンベヤシステムで処理されたトレース(d)で生成されたトレースよりも、粒子がわずかに大きく、合体が少ない(c)。
図17】熱成形され、MPR121静電容量式タッチセンサブレークアウトを備えたArduino Microに取り付けられた熱成形静電容量式タッチHMI回路の線形トレースの写真(a)及び導電性銀エポキシを使用した回路の表面に取り付けられたLED3個の照明の例(b)。
図18】UV処理なしの直接熱焼結から生成された熱成形トレースのSEM画像。より大きい銀ナノ粒子が存在する場所には空隙及び亀裂が存在し、ナノ粒子がより小さい領域は均一であることに留意されたい。
【発明を実施するための形態】
【0016】
一態様において、インクに熱保護剤を使用すると、印刷可能であると共に、広域スペクトル紫外(UV)光によって低温基板上の導電性トレースへと焼結可能であるインクが提供される。添加剤が存在すると、インクトレースが急速UV焼結工程中に適切に処理(乾燥又は硬化)及び焼結される能力がさらに向上して、それにより基板に対する熱損傷を回避する方法で生成される均一な導電性トレースが得られる。インクは、電子部品を製造するための所与の工程によって必要とされる、堆積したインクを処理及び/又は焼結するための広域スペクトルUV光を使用して、本開示に従って適用(塗布)及び処理できることを理解されたい。
【0017】
インクは、好ましくは分子インクである。分子インクには、焼結時に0酸化状態にまで還元できるAg又はCuなどの金属カチオンが含まれている。これに対して、ナノ粒子インク(フレーク又は他の形状)は、すでに0酸化状態にある金属粒子を有し、これらの粒子は硬化時に簡単に融合する。一実施形態において、分子インクは、銀オキサラート系インクである。
【0018】
熱保護剤は、好ましくは共役ポリマー、ポリエーテル、脂肪酸又は任意のその混合物を含む。共役ポリマーは、好ましくはポリ(フルオレン)、ポリ(チオフェン)など又は任意のその混合物である。共役ポリマーの具体例としては、例えば式(I)及び式(II)のポリマーが挙げられ、
【化1】

式中、nは5~2000、好ましくは10~100の整数である。ポリエーテルは、好ましくはポリエチレングリコール又はポリオキセタンである。ポリエチレングリコールは、好ましくは500~100,000Daの範囲の分子量を有する。脂肪酸は飽和又は不飽和であり得て、短鎖脂肪酸(C1-5)、中鎖脂肪酸(C6-12)、長鎖脂肪酸(C13-21)、超長鎖脂肪酸(C22以上)又は任意のその混合物を含み得る。C2-16脂肪酸が好ましい。中鎖脂肪酸(C6-12)が特に好ましい。中鎖脂肪酸の例としては、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ネオデカン酸(デカン酸異性体の混合物)、ウンデシレン酸又は任意のその混合物が挙げられる。熱保護剤は、インクの総重量に対して約0.01重量%~約5重量%の量でインク中に存在し得る。好ましくは、熱保護剤の量は約0.1重量%以上である。好ましくは、熱保護剤の量は約3重量%以下である。一実施形態において、銀オキサラート系インクは、熱保護剤としてヘキサン酸と併用される。
【0019】
一実施形態において、熱保護剤は、インクの総重量に対して約0.01重量%~約1重量%の量でインク中に存在するポリマーである。別の実施形態において、熱保護剤は、インクの総重量に対して約0.5重量%~約5重量%の量でインク中に存在する脂肪酸である。
【0020】
インク中の銀カルボキシラート又は銅カルボキシラートは、好ましくはそれぞれ銀イオン又は銅イオン及びカルボン酸部分を含有する有機基を含む有機銀塩又は有機銅塩である。カルボキシラートは、好ましくは1~20個の炭素原子、より好ましくは1~12個の炭素原子、さらにより好ましくは1~10個の炭素原子、さらにより好ましくは1~6個の炭素原子を含む。カルボキシラートは、好ましくはC1-20アルカノアート、より好ましくはC1-12アルカノアート、なおより好ましくはC1-10アルカノアート、さらになおより好ましくはC1-6アルカノアートである。銀カルボキシラート又は銅カルボキシラートは、好ましくはC1-20アルカン酸、より好ましくはC1-12アルカン酸、なおより好ましくはC1-10アルカン酸、さらになおより好ましくはC1-6アルカン酸の銀塩又は銅塩である。
【0021】
銀カルボキシラート又は銅カルボキシラートは、好ましくは160℃以下、より好ましくは150℃以下、さらにより好ましくは130℃以下の熱分解温度を有する。
【0022】
適切な銀カルボキシラート系インクは、WO2018/146616に開示されている。銀カルボキシラートは、好ましくは銀イオン及びカルボン酸部分を含有する有機基を含む有機銀塩である。カルボキシラートは、好ましくは1~20個の炭素原子を含む。カルボキシラートは、好ましくはC1-20アルカノアートである。銀カルボキシラートは、好ましくはC1-20アルカン酸の銀塩である。銀カルボキシラートのいくつかの非限定的な例は、銀ホルマート、銀アセタート、銀オキサラート、銀ピバラート、銀プロピオナート、銀ブタノアート、銀エチルヘキサノアート、銀ペンタフルオロプロピオナート、銀シトラート、銀グリコラート、銀ラクタート、銀ベンゾアート、銀ベンゾアート誘導体、銀トリフルオロアセタート、銀フェニルアセタート、銀フェニルアセタート誘導体、銀ヘキサフルオロアセチルアセトナート、銀イソブチリルアセタート、銀ベンゾイルアセタート、銀プロピオニルアセタート、銀アセトアセタート、銀α-メチルアセトアセタート、銀α-エチルアセトアセタート、銀ネオデカノアート及び任意のその混合物である。銀オキサラート、銀アセタート及び銀ピバラートが特に好ましい。インクには1つ以上の銀カルボキシラートが含まれ得る。銀カルボキシラートは、好ましくはインク中に分散されている。好ましくは、インクは、銀含有材料のフレークを含有していない。
【0023】
好適な銅カルボキシラート系インクが例7で提供されている。
【0024】
銀カルボキシラート又は銅カルボキシラートは、インクの総重量に対して、任意の好適な量で、好ましくは約5重量%~約75重量%の範囲でインク中に存在し得る。より好ましくは、その量は、約5重量%~約60重量%、又は約5重量%~約50重量%、又は約10重量%~約75重量%、又は約10重量%~約60重量%、又は約10重量%~約45重量%、又は約25重量%~約40重量%の範囲である。とりわけ好ましい一実施形態において、その量は、約30重量%~約35重量%の範囲である。銀又は銅の含有量に関して、銀自体は、好ましくは、インクの総重量に対して約3重量%~約30重量%の範囲で存在する。より好ましくは、その量は、約6重量%~約30重量%、又は約15重量%~約25重量%の範囲である。とりわけ好ましい一実施形態において、その量は、約18重量%~約24重量%の範囲である。
【0025】
有機アミン化合物は、脂肪族及び/又は芳香族アミン、例えばC1-20アルキルアミン及び/又はC6-20アリールアミンであり得る。有機アミン化合物は、1個以上の他の官能基、好ましくは極性官能基で置換され得る。他の官能基のいくつかの非限定的な例としては、-OH、-SH、=O、-CHO、-COOH及びハロゲン(例えばF、Cl、Br)が挙げられる。好ましくは、他の官能基はOHである。有機アミン化合物の特に好ましいクラスは、アミノアルコール、とりわけヒドロキシアルキルアミンである。ヒドロキシアルキルアミンは、好ましくは2~8個の炭素原子を含む。ヒドロキシアルキルアミンのいくつかの非限定的な例は、1,2-エタノールアミン、1-アミノ-2-プロパノール、1,3-プロパノールアミン、1,4-ブタノールアミン、2-(ブチルアミノ)エタノール、2-アミノ-1-ブタノールなどである。1-アミノ-2-イソプロパノール、2-アミノ-1-ブタノール又はその混合物が特に好ましい。インクには1つ以上の有機アミン化合物が含まれ得る。
【0026】
有機アミンは、インクの総重量に対して、任意の好適な量で、好ましくは約10重量%~約75重量%の範囲でインク中に存在し得る。より好ましくは、その量は、約20重量%~約60重量%、又は約25重量%~約55重量%の範囲である。銀カルボキシラートと共に使用するためのとりわけ好ましい一実施形態において、その量は、約40重量%~約50重量%の範囲である。
【0027】
銀カルボキシラート又は銅カルボキシラート及び有機アミン化合物は、インク中で錯体を形成し得る。錯体は、1:1~1:4、例えば1:1、又は1:2、又は1:3、又は1:4の銀カルボキシラート対有機アミン化合物のモル比を含み得る。銀カルボキシラート又は銅カルボキシラートと有機アミンの錯体は、インクとして他の成分と配合され得る銀又は銅の金属前駆体を提供し得る。
【0028】
インクは有機結合剤も含み得る。有機ポリマー結合剤は、任意の好適なポリマー、好ましくは熱可塑性ポリマー又はエラストマーポリマーであり得る。有機ポリマー結合剤は、好ましくは、有機アミン化合物と相溶性であり、それにより有機ポリマー結合剤中の有機アミン化合物の混合物は、著しい相分離をもたらさない。いくつかの非限定的な例は、セルロース系ポリマー、ポリアクリラート、ポリスチレン、ポリオレフィン、ポリビニルアセタール、ポリエステル、ポリイミド、ポリオール、ポリウレタン及びその混合物である。有機ポリマー結合剤は、ホモポリマー又はコポリマーであり得る。セルロース系ポリマー、例えばメチルセルロース、エチルセルロース、エチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース又はその混合物が特に好ましい。ヒドロキシエチルセルロースが特に好ましい。
【0029】
有機ポリマー結合剤は、インクの総重量に対して、任意の好適な量で、好ましくは約0.05重量%~約10重量%の範囲でインク中に存在し得る。より好ましくは、その量は、約0.1重量%~約5重量%、又は約0.2重量%~約2重量%、又は約0.2重量%~約1重量%の範囲である。とりわけ好ましい一実施形態において、その量は、約0.3重量%~約0.95重量%の範囲である。
【0030】
インクは表面張力調節剤も含み得る。表面張力調節剤は、インクの流動性及びレベリング特性を改善する任意の好適な添加剤であり得る。いくつかの非限定的な例は、界面活性剤(例えばカチオン性界面活性剤又はアニオン性界面活性剤)、アルコール(例えばプロパノール)、グリコール酸、乳酸及びその混合物である。乳酸が特に好ましい。表面張力調節剤が含まれないと、特に高湿環境では、インクから生成されたトレースの形状保持が不十分になり、不均一な形状が生じるおそれがある。
【0031】
表面張力調節剤は、インクの総重量に対して、任意の好適な量で、好ましくは約0.1重量%~約5重量%の範囲でインク中に存在し得る。より好ましくは、その量は、約0.5重量%~約4重量%、又は、約0.8重量%~約3重量%の範囲である。とりわけ好ましい一実施形態において、その量は、約1重量%~約2.7重量%の範囲である。別のとりわけ好ましい実施形態において、その量は、0.8重量%~約1.5重量%の範囲である。
【0032】
インクは溶媒も含み得る。溶媒は、水性溶媒又は有機溶媒であり得る。有機溶媒又は有機溶媒の混合物が好ましい。いくつかの例において、1つ以上の有機溶媒と水性溶媒との混合物が利用され得る。溶媒は、好ましくは、有機アミン化合物又は有機ポリマー結合剤の一方又は両方と相溶性である。溶媒は、好ましくは、有機アミン化合物及び有機ポリマー結合剤の両方と相溶性である。有機アミン化合物及び/又は有機ポリマー結合剤は、好ましくは、溶媒に分散性、例えば可溶性である。有機溶媒は、芳香族溶媒、非芳香族溶媒、又は芳香族溶媒と非芳香族溶媒の混合物であり得る。芳香族溶媒としては、例えばベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、クロロベンゼン、ベンジルエーテル、アニソール、ベンゾニトリル、ピリジン、ジエチルベンゼン、プロピルベンゼン、クメン、イソブチルベンゼン、p-シメン、テトラリン、トリメチルベンゼン(例えば、メシチレン)、ジュレン、p-クメン又は任意のその混合物が挙げられる。非芳香族溶媒としては、例えばテルペン、グリコールエーテル(例えばジプロピレングリコールメチルエーテル、メチルカルビトール、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、トリエチレングリコール及びその誘導体)、アルコール(例えばメチルシクロヘキサノール、オクタノール、ヘプタノール)又は任意のその混合物が挙げられる。ジプロピレングリコールメチルエーテルが好ましい。
【0033】
存在する場合、溶媒は好ましくは、インクの総重量に対して、任意の好適な量で、好ましくは約1重量%~約50重量%の範囲でインク中に存在する。より好ましくは、その量は、約2重量%~約35重量%、又は約5重量%~約25重量%の範囲である。とりわけ好ましい一実施形態において、その量は、約10重量%~約20重量%の範囲である。別のとりわけ好ましい実施形態において、その量は、約5重量%~約10重量%の範囲である。溶剤は、一般にインクの残量を構成する。
【0034】
インクは消泡剤も含み得る。消泡剤は、任意の好適な消泡添加剤であり得る。いくつかの非限定的な例は、フルオロシリコーン、鉱油、植物油、ポリシロキサン、エステルワックス、脂肪アルコール、グリセロール、ステアラート、シリコーン、ポリプロピレン系ポリエーテル及びその混合物である。グリセロール及びポリプロピレン系ポリエーテルが特に好ましい。消泡剤が含まれない場合、一部の印刷されたトレースは、印刷後に気泡を保持する傾向があり、トレースが不均一になり得る。
【0035】
消泡剤は、インクの総重量に対して、任意の好適な量で、好ましくは約0.0001重量%~約1重量%の範囲でインク中に存在し得る。より好ましくは、その量は、約0.001重量%~約0.1重量%、又は約0.002重量%~約0.05重量%の範囲である。とりわけ好ましい一実施形態において、その量は、約0.005重量%~約0.01重量%の範囲である。
【0036】
インクはチキソトロピー調節剤も含み得る。チキソトロピー調節剤は、任意の好適なチキソトロピー調節添加剤であり得る。いくつかの非限定的な例は、ポリヒドロキシカルボン酸アミド、ポリウレタン、アクリルポリマー、ラテックス、ポリビニルアルコール、スチレン/ブタジエン、粘土、粘土誘導体、スルホナート、グアー、キサンタン、セルロース、ローカストガム、アカシアガム、糖類、糖類誘導体、カゼイン、コラーゲン、変性ヒマシ油、有機シリコーン及びその混合物である。
【0037】
チキソトロピー調節剤は、インクの総重量に対して、任意の好適な量で、好ましくは約0.05重量%~約1重量%の範囲でインク中に存在し得る。より好ましくは、その量は約0.1重量%~約0.8重量%の範囲である。とりわけ好ましい一実施形態において、その量は、約0.2重量%~約0.5重量%の範囲である。
【0038】
インクは、任意の好適な方法によって基板上に堆積されて、基板上にインクの非導電性トレースを形成し得る。インクは、印刷、例えばロール・ツー・ロール印刷、スクリーン印刷、インクジェット印刷、フレキソグラフィー印刷、グラビア印刷、オフセット印刷、エアブラッシング、エアロゾルジェット印刷、タイプセット、スタンプ又は他の任意の方法に特に適している。ロール・ツー・ロール印刷などの高スループット高速印刷がとりわけ好ましい。
【0039】
基板上への堆積後、非導電性トレース内の銀カルボキシラート又は銅カルボキシラートを乾燥及び分解して、導電性トレースを形成する。乾燥及び分解は、任意の好適な技術によって行われ得るが、このインクは、UV処理(乾燥又は硬化)及び広域スペクトルUV光による焼結に特に適している。広域スペクトルUV光は、約300~800nmの範囲に発光を有する。広域スペクトルUV光は、300~800nmの広域発光が存在する、標準メタルハライド電球、水銀電球又は可視電球から生成される光に似ている。標準広域スペクトルUV硬化装置を使用して、好適に低い分解温度で、銀カルボキシラート又は銅カルボキシラートから基板上に緻密な導電性銀トレース又は銅トレースが迅速に形成され得るため、導電性トレースの生成に熱焼結又はインテンス・パルス・ライト焼結技術は不要である。広域スペクトルUV光を提供する好適なUV処理(硬化)及び焼結システムには、例えば、選択したシステムで提供されるように、鉄ドープ金属ランプ及び/又はガリウムドープ金属ランプが装着された、UV硬化装置(例えばVITRAN(商標)II UVスクリーン印刷コンベヤドライヤー又はAmerican UV C12/300/2 12”コンベヤ)、ならびにフラッドランプ系システム(例えばDYMAX(商標)5000-ECシリーズUV硬化フラッドランプ)が挙げられる。UV焼結システムは、光の広域スペクトルを送達する低強度ランプを特徴とし得る。本発明のインクの詳細な利点は、導電性焼結トレースを生成しながら、ランプがIPL焼結よりも少ないエネルギーをトレースに送達し得ることである。例えばDymax(商標)ランプの出力は約225mW/cmであり、それぞれ5~600秒にわたって1.1~134.4J/cmをトレースに送達して、トレースを焼結することができる。より好ましくは、ランプは、それぞれ5~300秒にわたって1.1~67.2J/cmを送達することができる。又はさらにより好ましくは、ランプは、それぞれ5~60秒にわたって1.1~13.4J/cmを送達することができる。UV焼結は、周囲条件下(例えば空気中)で実施され得る。
【0040】
別の態様において、広域スペクトルUV光を使用して、インク中の熱保護剤の存在の有無にかかわらず、分子インクが処理(乾燥又は硬化)及び焼結され得る。熱保護剤を含む又は含まない分子インクは、他の点では上記と同じ組成を有するが、焼結中のインクの温度上昇を自己制限するので、インクを分解するのに十分に高いインク温度に到達するが、温度上昇は、インクが占める基板の領域に主に限局される。したがって、分子インク配合物は、UV焼結中に認められる加熱を自己制限し、それにより熱はインクが占める基板上の領域に限局される。インクに限局された熱は、基板を過度に加熱することなく、金属塩の導電性金属(例えば銀)ナノ粒子への変換を促進し、それにより基板に対する損傷を低減又は排除する。焼結時間も調整されない限り、基板を損傷させずにインクをそのような温度の熱に暴露することはできない。一実施形態において、銀カルボキシラート分子インクは、約130~約160℃の温度範囲に1~6分間加熱される。
【0041】
場合により、熱保護剤を使用せずに、UV焼結後に導電性トレースをなお得ることができる。一実施形態において、銅カルボキシラート及びアミノジオールインク(熱保護剤なし)は、5~10分又は8~10分のUV焼結時間を使用して導電性銅トレースを提供することができる。熱保護剤を使用しない他の場合でも、導電性トレースを得るために、UV焼結工程の調整が必要とされ得る。ただし、熱保護剤を使用すると、トレースの品質が向上し、より強い照射条件下でも高品質の導電性トレースを有する選択肢が与えられ、多様な寸法(細い200~500μm並びに1~2cmのトレース)の亀裂のない導電性トレースの製造が実現される。このことは、堆積工程に応じて、同等の電気的性能特性に到達するために、より短い又はより長い期間が必要となり得るという点で、焼結工程に有益な影響を及ぼす。したがって、送達される広域スペクトルUVの線量に応じて、より短い又はより長い焼結時間を使用することができる。堆積工程によって、短くより高強度のエネルギー焼結時間を経済的とする必要がある場合(例えばロール・ツー・ロール印刷)、熱保護剤を含むことは有用である。
【0042】
基板は、任意の好適な表面、特にプリンタブル表面であり得る。プリンタブル表面としては、例えば、特にPET(例えばMelinex(商標))、アモルファスポリエチレンテレフタレート(APET)、グリコール修飾ポリエチレンテレフタレート(PET-G)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリオレフィン(例えばシリカ充填ポリオレフィン(Teslin(商標)))、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリイミド(例えばKapton(商標))、熱可塑性ポリウレタン(TPU)、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン、ポリスチレン、シリコーン膜、ウール、シルク、綿、亜麻、ジュート、モダール、竹、ナイロン、ポリエステル、アクリル、アラミド、スパンデックス、ポリ乳酸、布地(テキスタイル)(例えばセルロース系の布地)、紙、ガラス、金属、誘電体コーティングが挙げられる。
【0043】
インクは、電子デバイスの製造に有用な任意の好適な基板上に堆積及び焼結され得るが、インクは低温基板と併せて特に有用である。低温基板とは、基板温度150℃又は160℃以上で10分以下の期間で損傷(例えば反り、曲げ、熱劣化など)を受ける基板である。低温基板の例としては、PET(例えばMelinex(商標))、アモルファスポリエチレンテレフタレート(APET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、熱可塑性ポリウレタン(TPU)、布地、綿、ナイロン、ポリエステル、エラストマーブレンドが挙げられる。
【0044】
好ましい低温基板は成形可能な基板である。成形可能な基板は、特定の形成条件下で可撓性(例えば曲げ可能、伸張可能、ねじり可能など)であり得る。いくつかの例において、成形可能な基板は、形成後に成形された形状を保持し得るが、他の例においては、成形された基板を成形された形状に保持するために外力が必要とされ得る。成形可能な基板は、任意の好適な方法、例えば、熱成形、冷間成形、押出成形、ブロー成形などで成形基板に形成され得る。
【0045】
いくつかの実施形態において、インクをフォトパターニング法で使用して、基板上に導電性トレースが作製され得る。フォトパターニング法では、インクを基板上に堆積させ、堆積したインクの上にマスクが適用され得る。マスクは、広域スペクトルUV光がその下のインクに適用され得る開口のパターンを、マスク上に有する。マスクで覆われている堆積インクの部分は、焼結中にUV光に露光されないため、焼結されて導電性トレースにならない。未露光のインクを焼結後に基板から洗い流して、マスクの開口のパターンに対応する導電性トレースのパターンを残すことができる。
【0046】
基板上の導電性トレースは、電子デバイス、例えば電気回路、導電性バスバー(例えば光起電性セル用)、センサ(例えばタッチセンサ、ウェアラブルセンサ)、アンテナ(例えばRFIDアンテナ)、薄膜トランジスタ、ダイオード、スマートパッケージング(例えばスマート・ドラッグ・パッケージング)、機器及び/又は車両へのコンフォータブルインサート、並びに、ローパスフィルタ、周波数選択表面、トランジスタ及びアンテナなどの多層回路及びMIMデバイスに組み込まれ得る。インクはそのような電子デバイスの小型化を可能にする。
【実施例
【0047】
例1:分子インク配合物(銀カルボキシラート及び銅カルボキシラート系)
分子インクは、表1~8に示す組成に従って配合した。インクは、配合直後に使用することが好ましいが、約-4℃~約4℃の範囲の温度で、著しく分解せずにより長期間保存され得る。さらに、インクは上記の温度範囲で保管されている限り、さらなる印刷のために回収及び再利用することができる。
【表1】

【表2】

【表3】

【表4】

【表5】

【表6】

【表7】

【表8】
【0048】
例2:熱保護剤として共役ポリマーを含有する分子インクから生成された焼結銀トレース
Melinex(商標)(PET)基板上の長さ4cmの焼結銀トレースは、DYMAX(商標)5000-ECシリーズUV硬化フラッド・ランプ・システムを電球から10cmの距離で1~5分間使用したUV焼結により、分子インクI1(熱保護剤は式(I)のポリマー)から生成した。図2Aに見られるように、導電性銀トレースは、わずか1分の広域スペクトルUV照射後にPET上で生成可能であるが、4.5分ではより導電性の高いトレースが生成される。図1A及び図1Bに見られるように、I1からPET上に生成されたUV焼結銀トレースは亀裂がなく(図1B)、同じ条件下でPET上に生成されたC1の銀トレースは亀裂があり(図1A)、結果として非導電性である。したがって、PET上の銀トレースは、熱保護剤を含まないと、類似の広域スペクトルUV焼結条件下のように確実には導電性とならない(表9bも参照)。さらに、図2B及び図2Cに見られるように、SEM分析により、I1から形成されたトレースの表面の形態(モルフォルジー)が粗いことが示唆されているが、広域スペクトルUV焼結後に生成されたナノ粒子の緻密で均一な層が存在する。I1のUV焼結トレースの形態は、熱焼結によって得られる形態と類似している。
【0049】
I1から生成されたUV焼結銀トレースの寸法及び電気的特性を表9aに示す。総露光量は68J/cm(300秒の露光量)である。表9aより、この銀トレースが良好な導電性を有することが明らかである。同じ条件下でのPET上での分子インクI2のUV焼結によって、亀裂のない、I1から生成されたトレースと同様の導電率を有する銀トレースが生成される。
【表9a】
【0050】
例3:熱保護剤として脂肪酸を含有する分子インクから生成された焼結銀トレース
例2に類似して、熱保護剤としての脂肪酸、例えばヘキサン酸(I3)又はネオデカン酸(I4)の添加によっても、広域スペクトルUV光を使用して、分子インクを低温基板(例えばPET)上で導電性銀トレースに直接変換することができる。得られた銀トレースは、UV系焼結後に亀裂がなく(図3を参照)、熱処理によって得られたものときわめて類似した電気的特性を有する。
【0051】
PET上にスクリーン印刷して、DYMAX 5000-ECシリーズUV硬化フラッド・ランプ・システムを電球から10cmの距離で5分間使用してUV焼結させたI3から生成した5つの試験トレースで測定した抵抗を、表10に示す。寸法及び電気的特性を表11に示す。標準曲げ及び折り目試験(ASTM F1683-02)の結果を表12に示す。総露光量は68J/cmである。表10、表11及び表12より、広域スペクトルUV光を用いてI3のトレースを焼結することによって生成したPET基板上の焼結銀トレースが、良好な導電性を有し、標準曲げ及び折り目試験下での開回路の遮断なしに良好な導電性を保持できることが明らかである。
【表10】

【表11】

【表12】
【0052】
熱保護剤としてネオデカン酸(インクI4)を使用した類似の実験では、表13に示すように、PET上にやはり良好な導電性のUV焼結銀トレースが得られる。I4を熱焼結して得た導電率の結果を表14に示す。表13と表14の比較により、PET基板上でのI4のUV焼結により、熱焼結で生成されたものと同じくらい良好な導電率を有するが、大幅に短い時間を使用する焼結銀トレースが得られることがわかる。
【表13】

【表14】
【0053】
表15に示すように、標準の曲げ及び折り目試験(ASTM F1683-02)は、I4で一般に良好であり、開回路の遮断は発生しなかったが、引張折り目試験の導電率の変化は、一般に所望されるよりも高くなる傾向にあった。
【表15】
【0054】
例4:熱保護剤としてポリエーテルを含有する分子インクから生成された焼結銀トレース
例2に類似して、ポリエーテル、例えば分子量2000を有するポリエチレングリコール(PEG2K)の添加によっても、広域スペクトルUV光を使用する、低温基板(例えばPET)上での分子インクの導電性銀トレースへの直接変換が可能となる。得られた銀トレースは、UVベースの焼結後に亀裂がなく(図4を参照)、熱処理によって得られたものときわめて類似した電気的特性を有する。
【0055】
PET上にスクリーン印刷して、DYMAX 5000-ECシリーズUV硬化フラッド・ランプ・システムを電球から10cmの距離で7分間使用してUV焼結させたI5から生成した試験トレースで測定した電気的及び寸法特性を、表16に示す。標準曲げ及び折り目試験(ASTM F1683-02)の結果を表17に示す。表16及び表17より、広域スペクトルUV光を用いてI5のトレースを焼結することによって生成したPET基板上の焼結銀トレースが、良好な導電性を有し、標準曲げ及び折り目試験下で開回路の遮断なしに良好な導電性を保持できることが明らかである。
【0056】
I5を130℃で20分間熱焼結して得た導電率の結果を表18及び表19に示す。表16及び表17の表18及び表19との比較により、PET基板上でのI5のUV焼結により、熱焼結で生成されたものと同じくらい又はより良好な導電率を有する焼結銀トレースが得られることがわかる。
【表16】

【表17】

【表18】

【表19】
【0057】
図4に見られるように、UV焼結トレース(A、B)の形態(モルフォルジー)は、熱焼結トレース(C、D)の形態と類似していて、どちらもPET基板上に均一な銀のトレースを示している。パネルA及びCは倍率500倍であるが、パネルB及びDは倍率1000倍である。
【0058】
比較分析
要約及び比較分析として、表20(表9~19から収集したデータを含む)では、本明細書に開示した方法及び工程に従って、Melinex ST605(PET基板)上でのUV焼結後の例示的な銀インク性能が示され、熱保護剤の添加なしでは、この基板上に導電性トレースを生成できないことが強調されている。UV焼結は、DYMAX 5000-ECシリーズUV硬化フラッド・ランプ・システムを使用して行った。
【表20】
【0059】
例5:フォトパターニング
分子インクI3は、PET基板上に2cmの円形トレースとして堆積された。第1のカードから三角形の開口を切り抜き、切り抜いた三角形を2cmの円形トレースの中央に配置した。スロットを第2のカードから切り抜き、スロットを第2の2cmの円形トレースの中央に配置した。次いで、覆われたトレースを、DYMAX 5000-ECシリーズUV硬化フラッド・ランプ・システムに、電球から10cmの距離で約200秒間露光させた。露光期間中、トレースの露光部(E)及び被覆部(C)の温度を測定し、結果を図5Aに示す。図5Aに見られるように、露光部(E)の温度は120秒後に約150℃に達したが、被覆部(C)の温度は120秒後に約70℃に達し、焼結工程中に約90℃を超えることはなかった。露光後、トレースをメタノールで洗浄すると、トレースの未反応被覆部が容易に除去され、露光部はPET基板に結合したままであった。図5Bは、三角形の開口から形成されたパターンを示し、図5Cは、スロットから形成したパターンを示す。
【0060】
例6:機械的分析
広域スペクトルUV光が銀前駆体を含む分子インクを焼結する機構を調べるために、実験をいくつか行った。
【0061】
熱分析
広域スペクトルUV光(350~600nm)を使用する焼結工程の熱分析では、熱電対をPET基板の底側に取り付け、熱電対の一方をインクI3から生成された1cm方形のトレースの直下に配置し、熱電対の他方をインクトレースの位置に配置した。DYMAX 5000-ECシリーズUV硬化フラッド・ランプ・システムを使用して電球から10cmの距離で、サンプルを200秒間焼結した。ランプの起動には20~30秒かかり、少なくとも45秒間は最大輝度に達しない。図6に見られるように、約30秒にてトレースの温度が劇的に上昇し始めた。約60秒にてトレースの温度は130℃から140℃の間であった。この温度において、トレースが焼結を開始し、銀ナノ粒子の形成が認められた。80秒にてトレースの温度はピークに達し、10℃低下した。90秒までに、銀前駆体から導電性銀ナノ粒子への変換は本質的に完了し、この時間以降、トレースの電気的特性はほとんど変化しない。120秒にて、銀ナノ粒子は基板上で合体して均一で緻密なトレースとなった。焼結工程中、トレースの温度は、トレースの下でない場所の基板の温度よりも一貫して約10~30℃高く、このことは銀分子インクがトレース内の熱を限局するため、基板の温度を過度に上昇させることなく、トレースにおける焼結温度が達成できることを示している。さらに、トレースの温度は横ばい状態となり、トレースが銀に変わるにつれて実際に低下する。この自己制限加熱により、トレースの迅速なUV硬化が可能になり、UV硬化において、インク中の銀塩の分解が促進され、ロール・ツー・ロール処理に十分に適合する、より大型のフィーチャー(例えば1cm)向けにわずか30~40秒で高導電性トレースを生成できる温度にトレースを暴露することができる。より小さいフィーチャー(200~500μm)は、最大300秒かかる可能性がある。
【0062】
紫外可視分光分析
上記の熱分析で説明したように、広域スペクトルUV光を用いてインクI3を焼結する際の銀ナノ粒子の生成と凝集は、スクリーン印刷された1x1cm方形フィルムのUV-可視スペクトルの変化を測定することによって監視した。また具体的には、UV-可視分光法を使用して、インクトレースの不透明になる点を観察した。図7は、22℃、40℃、60℃、80℃、100℃及び120℃におけるトレースの350~800nmの波長(λ)範囲にわたる吸光度を示す。図7の右側に見られるように、トレースの温度が22℃から120℃まで上昇すると、トレースは暗色となる。図7に示すように、22℃では、インクは350nm~800nmの波長範囲の光をあまり吸収しない。22℃におけるトレースは、その温度では表示できるほど暗色でないため、描線により輪郭を示す。温度が40~80℃まで上昇すると、ナノ粒子の形成は420nmにおける吸収の上昇によって示され、ナノ粒子の凝集は420~600nmにおける吸収の上昇によって示される。温度が100℃に達すると、インクは暗色となって不透明点に達し、350~800nmまで完全な吸収を有していた。120℃では、見られるさらなる吸収は実質的にほとんど存在しない。
【0063】
まとめると、熱分析及び分光分析によって、分子インクI3が、銀前駆体を銀金属に変換することでトレース内で発生した熱を自己制限するUV吸収剤として作用することが示されている。
【0064】
分子銀インクと銀ナノ粒子インクとの比較
図5及び図6に見られるように、銀オキサラート系分子銀インクは、広域スペクトルUV光で焼結させると急速に(60秒未満)ピーク最高温度まで加熱され、その後、温度は多少低下して、焼結工程中に横ばい状態になる。この温度プロファイルは、分子銀インクの焼結に特徴的であり、トレースで覆われていない基板の部分を過度に加熱することなく、熱がトレースに限局されて銀前駆体の銀への変換を促進する自己制限メカニズムを示している。図8に見られるように、銀オキサラートではなく銀ピバラートを含む分子インク(I6)は、広域スペクトルUV光によって焼結させた場合にこの種の温度プロファイルに従う。興味深いことには、銀ピバラート(図8)と銀アセタート(図9)の両方で到達した温度極大は、銀オキサラートインクの温度極大よりも高く(約180℃対約160℃)、UV焼結中に到達した温度極大は、インク中の銀塩によって決まることが示されている。
【0065】
対照的に、銀ナノ粒子インクを広域スペクトルUV光で焼結させる場合、図10に見られるように、温度プロファイルは、下落の後に横ばい状態を有する早期ピークを示していない。代わりに、トレースの温度は最初は急速に上昇し、次いで、あまり急速でない速度であるが、焼結工程全体を通じて上昇を続け、ナノ粒子系インクが熱を自己制限せず、基板の過熱につながるおそれがあることが示されている。さらに、広域スペクトルUV光で焼結された銀ナノ粒子インクのトレースは、10分間のUV露光後でも高抵抗性である。
【0066】
例7:熱保護剤を使用せずに分子インクから生成されたUV焼結Cuトレース
低価格、高導電率、耐酸化性は、プリンテッドエレクトロニクスのインクの重要な目標である。金及び銀は高価であるが、安定性であり、即ち耐酸化性である。銅は、金及び銀と比較してより安価であり、同様の導電率を有するが、印刷では同様の導電率が達成されないことが多く、銅は酸化されやすいため、経時的に導電率が低下する。使用される銅インクの主な種類は、金属ナノ粒子系インク、有機金属分解(MOD)インク、銅フレークインク及び銀被覆銅フレークインクである。これらのCu導電性インクの大部分は、熱焼結中に窒素又は還元性雰囲気を必要とし、ならびに、焼結のためにより長い時間を必要とする。
【0067】
有利なことに、広域スペクトルUV光を使用して焼結されて、基板への損傷を低減又は排除しながら、低温基板上に耐酸化性の導電性Cuトレースを生成することができる、プリンタブルインクが本明細書で提供される。低コストのプラスチック、即ちPETにスクリーン印刷可能であり、UV焼結が可能な低コストの銅インクは、工業的又は商業的用途に対して、直接の利点を有する。例示的な銅分子インク及びそのようなインクをUV処理(処理及び焼結)に適したものとする方法は、W2018/018136及び下記の表20に開示されている。
【0068】
Cu分子インクは、銅ナノ粒子、銅前駆体分子、ならびに、ポリマー結合剤であって、このポリマー結合剤をジオールと相溶性及び/又はジオールに可溶性にする表面官能基を有するポリエステル、ポリイミド、ポリエーテルイミド又は任意のその混合物を含む、ポリマー結合剤の混合物を含む。
【0069】
銅ナノ粒子(CuNP)は、約1~1000nm、好ましくは約1~500nm、より好ましくは約1~100nmの範囲の最長寸法に沿った平均径を有する銅粒子である。銅ナノ粒子は、フレーク、ナノワイヤー、針、実質的に球形又は任意の他の形状であり得る。銅ナノ粒子は、自然の工程又は化学合成によって形成することができ、一般に市販されている。銅ナノ粒子は、好ましくは、インクの総重量に対して約0.04~7重量%の量でインク中に存在する。より好ましくは、銅ナノ粒子の量は、約0.1~6重量%、又は約0.25~5重量%、又は約0.4~4重量%の範囲である。とりわけ好ましい一実施形態において、その量は、約0.4重量%~約1重量%の範囲である。
【0070】
銅前駆体分子は、焼結条件下で分解して導電性銅トレース内に銅ナノ粒子をさらに生成する、銅含有化合物である。銅前駆体分子は、無機化合物(例えばCuSO、CuCl、Cu(NO)、Cu(OH))、銅金属有機化合物(銅-MOD)又はその混合物であり得る。銅-MODとしては、例えば銅カルボキシラート(例えば銅ホルマート、銅アセタート、銅プロパノアート、銅ブタノアート、銅デカノアート、銅ネオデカノアートなどのC1-C12アルカン酸の銅塩)、銅アミン(例えばビス(2-エチル-1-ヘキシルアミン)銅(II)ホルマート、ビス(オクチルアミン)銅(II)ホルマート、トリス(オクチルアミン)銅(II)ホルマートなど)、銅ケトン錯体(例えば銅(アセチルアセトン)、銅(トリフルオロアセチルアセトン)、銅(ヘキサフルオロアセチルアセトン)、銅(ジピバロイルメタン)など)、水酸化銅-アルカノールアミン錯体銅(II)ホルマート-アルカノールアミン錯体及び銅:アミンジオール錯体が挙げられる。アミノジオールの例は、3-ジエチルアミノ-1,2-プロパンジオール(DEAPD)、3-(ジメチルアミノ)-1,2プロパンジオール(DMAPD)、3-メチルアミノ-1-2-プロパンジオール(MPD)、3-アミノ-1,2-プロパンジオール(APD)及び3-モルホリノ-1,2-プロパンジオールである。
【0071】
有機アミンは、インクの総重量に対して、任意の好適な量で、好ましくは約10重量%~約75重量%の15範囲でインク中に存在し得る。より好ましくは、その量は、約20重量%~約60重量%、又は約25重量%~約55重量%の範囲である。とりわけ好ましい一実施形態において、その量は、約40重量%~約45重量%の範囲である。
【0072】
銅:アミンジオール錯体は、特に好ましい銅前駆体分子である。多くの銅:アミンジオール錯体は周囲温度において液体であり、銅前駆体分子と溶媒の両方として作用することができる。さらに、銅:アミンジオール錯体はポリマー結合剤と良好に相互作用し、導電性、機械的強度及びはんだ付け性に関して優れた導電性銅トレースをもたらす。特に好ましい銅:アミンジオール錯体は、銅ホルマート:アミンジオール錯体である。一実施形態において、銅:アミンジオール錯体は、式(I)の化合物を含み:
【化2】

式中、R、R、R及びRは、同じ又は異なり、NR(R’(OH))又は-O-(CO)-R”であり、R、R、R又はRの少なくとも1つは、NR(R’(OH))であり、ここでR及びRは独立して、H、C1-8直鎖、分枝鎖若しくは環状アルキル、C2-8直鎖、分枝鎖若しくは環状アルケニル、又はC2-8直鎖、分枝鎖若しくは環状アルキニルであり、R’は、C2-8直鎖、分枝鎖若しくは環状アルキルであり、R”は、H又はC1-8直鎖、分枝鎖若しくは環状アルキルである。
【0073】
式(I)の化合物において、NR(R’(OH)))は、NR(R’(OH))の窒素原子を介して銅原子に配位されている。これに対して、-O-(CO)-R”は、酸素原子を介して銅原子に共有結合されている。好ましくは、R、R、R又はRのうちの1つ又は2つは、NR(R’(OH))であり、より好ましくは、R、R、R又はRのうちの2つはNR(R’(OH))である。
【0074】
好ましくは、R及びRは独立して、H又はC1-8直鎖、分枝鎖又は環状アルキル、より好ましくはH又はC1-8直鎖若しくは分枝鎖アルキル、さらにより好ましくはH又はC1-4直鎖若しくは分枝鎖アルキルである。C1-4直鎖又は分枝鎖アルキルの例としては、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、s-ブチル及びt-ブチルが挙げられる。特に好ましい実施形態において、R及びRは、H、メチル又はエチルである。
【0075】
好ましくは、R’は、C2-8直鎖又は分枝鎖アルキル、より好ましくはC2-5直鎖又は分枝鎖アルキルである。R’は、好ましくは直鎖アルキルである。特に好ましい実施形態において、R’はプロピルである。所与のR’置換基上で、OH基は好ましくは同じ炭素原子に結合していない。
【0076】
好ましくは、R”は、H又はC1-4直鎖アルキル、より好ましくはHである。
【0077】
銅前駆体化合物は、インク中の銅ナノ粒子、ポリマー結合剤、及び他の任意の含有物を構成した後、インクの重量の残量を提供する。銅前駆体化合物は、好ましくは、インクの総重量に対して、約35重量%以上の量でインク中に存在する。銅前駆体化合物の量は、約45重量%以上又は約50重量%であり得る。
【0078】
ポリマー結合剤は、このポリマー結合剤をジオールと相溶性及び/又はジオールに可溶性にする表面官能基を有する、ポリエステル、ポリイミド、ポリエーテルイミド又は任意のその混合物を含む。好ましくは、表面官能基は、水素結合に関与することができる極性基を含む。表面官能基は、好ましくは、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基及びスルホニル基のうちの1つ以上を含む。ポリマー結合剤は、任意の好適な量でインク中に存在し得る。好ましくは、ポリマー結合剤は、インクの総重量に対して約0.04~0.8重量%の量でインク中に存在する。より好ましくは、ポリマー結合剤の量は、約0.08~0.6重量%、さらにより好ましくは約0.25~1重量%、またさらにより好ましくは約0.25~0.4重量%の範囲、例えば約0.3重量%である。
【0079】
ポリマー結合剤は、好ましくはポリエステルを含む。好適なポリエステルは市販されているか、又はポリアルコールとポリカルボン酸との(または、それぞれその無水物の)縮合によって製造され得る。好ましいポリエステルは、ヒドロキシル官能化及び/又はカルボキシル官能化されている。ポリエステルは直鎖状又は分枝状であり得る。固体又は液体ポリエステル並びに多様な溶液形態が利用され得る。特に好ましい実施形態において、ポリマー結合剤は、ヒドロキシル及び/又はカルボキシル末端ポリエステル、例えば、Rokrapol(商標)7075を含む。
【0080】
インクは、銅ナノ粒子、銅前駆体分子及びポリマー結合剤を共に混合することによって配合され得る。混合は、追加の溶媒を用いて又は用いずに行われ得る。好ましくは、銅前駆体分子は液体であり、銅金属形成の前駆体であることに加えて、溶媒として作用することができる。しかし、いくつかの実施形態において、追加の溶媒が所望であり得る。追加の溶媒は、少なくとも1つの水性溶媒、少なくとも1つの芳香族有機溶媒、少なくとも1つの非芳香族有機溶媒又は任意のその混合物、例えば水、トルエン、キシレン、アニソール、ジエチルベンゼン、アルコール(例えばメタノール、エタノール)、ジオール(例えばエチレングリコール)、トリオール(例えばグリセロール)又は任意のその混合物を含み得る。追加の溶媒は、インクの総重量に対して、インクの約0.5~50重量%、より好ましくは約1~20重量%を構成し得る。
【0081】
インクは任意の種類の堆積のために配合され得るが、インクはスクリーン印刷に特に適している。この点で、インクは、好ましくは約1,500cP以上、より好ましくは、約1,500~10,000cP又は4,000~8,000cP、例えば約6,000cPの粘度を有する。
【0082】
表21及び図11~13を参照すると、例示的なCuインクは、Cuホルマート、有機アミン化合物、フィラーとしてのわずかな量のCuNP(インク中のCuの総量の2.4%)及び結合剤を含む。有利には、本発明のインクは、低温基板上に印刷され、広域スペクトルUV光を使用して焼結されて、基板への損傷を低減又は排除しながら、低温基板上に導電性トレースを生成することができる。焼結時間は、好ましくは20分以下、より好ましくは約15分以下である。一実施形態において、トレースを約1~15分間焼結して、導電性銅トレースを得る。別の実施形態において、トレースを約3~10分間焼結して、導電性銅トレースを得る。さらに別の実施形態において、トレースを約8~10分間焼結する。
【0083】
本開示の方法に従って広域スペクトルUV光でインクを焼結することによって生成された導電性トレースは、熱処理されたサンプルのトレース形態(モルフォルジー)と同様のトレース形態を有し、異なる倍率で図12に示すように匹敵する電気的特性を有する。XRDデータは、Cu MODインクの金属Cuへの還元が、酸化物形成なしに発生することを示している(図13を参照)。より具体的には、PET上のCuトレースのXRD測定は、密閉されたCu管源を備えたBruker D8 Advance X線回折計を使用して行った。走査は、30~90°の2θ範囲で行った。図13に見られるUV焼結トレースのXRD分析は、酸化物形成なしに、Cu MODインクの金属Cuへの還元が発生することを示している。銅の(111)面、(200)面及び(220)面に対応する43.64度、50.80度及び74.42度の2θ値における3つのピークが観察されている。基板PETに起因する小さいピーク*と、サンプルホルダーによる#アーチファクトがある。
【0084】
この場合、PET上及びKapton上での銅ホルマートの光還元を補助できる試薬は、アミノジオール、すなわち(3-(ジエチルアミノ)-1,2-プロパンジオール)である。アルキルアミン(オクチルアミン又はエチルヘキシルアミン)を用いて配合されたCuインクのUV焼結は、光還元を開始させず、より長時間の露光(約30分)でトレースが黒くなり、Cuトレースの酸化が示唆される。これらの結果は、アミノジオールが特にUV焼結に適していることを示唆している。アミノジオールの第1の利点は、Cuホルマート/アミノジオール錯体の分解温度を低下させることである。第2に、アミノジオールからのヒドロキシル基が、焼結中の酸素の浸透を防止し、酸化を防止する。アミノジオールは、他のアミン配位子と比較して、焼結中、微量の酸素の存在に対してより大きい耐性を有する。
【表21】
【0085】
例8:熱保護剤なしで分子インクから生成されたUV処理Agトレース
熱成形エレクトロニクスは、機能性インクを平面(2D)基板上に印刷して、3D形状に熱成形して、続いて射出成形して、最終的な機能性の軽量で低コストの「部品」を製造できる、在来の及び改良された印刷工程を使用する。この工程の成功は、熱成形に耐える導電性インクによって決まり、熱成形では、導体は、トレースの測定抵抗の大幅な損失や変化を伴わずに、25%を超える伸びと、最大1cmの絞り深さ(「z方向」の変化)に耐える必要がある。この例では、インクC1(銀オキサラート、1-アミノ-2-プロパノール/2-アミノブタノール又は1-アミノブタノールを含有しない変形物(いずれの場合も銀オキサラート塩を可溶化して、その分解温度を低下させるため)、セルロースポリマー(レオロジー調節剤及び結合剤として作用する)、ならびにジプロピレングリコールモノメチルエーテル(溶媒担体として作用する)を含む、スクリーンプリンタブルインクの配合物)を、広域UV光を使用して乾燥又は硬化する利点について試験する。
【0086】
工業関連のポリカーボネート基板にインクをスクリーン印刷した後、得られたトレースをUV光を使用して処理し、トレースを熱成形しながらインサイチューで(例えば熱により)焼結させて、抵抗の上昇が11%と小さく、抵抗率が14μΩ・cm(5.4mΩ/□/mil)と低い、25%もの局所伸びを有する導電性トレースを生成することができる。熱成形後に機能性トレースを生成する機能により、3個の個別アドレサブルLEDを点灯できる外部プロセッサによって駆動される、概念実証3D静電容量式タッチHMIインターフェースの開発が可能になった。
【0087】
インクは、参照によりその全体が本明細書に組み入れられているWO2018/146616に開示された方法に従って調製した。最初に、セルロースポリマー結合剤をジプロピレングリコールモノメチルエーテルに溶解させて、インク担体を生成した。セルロースポリマーの溶解後、表面張力調節剤、消泡剤及び1-アミノ-2-プロパノール(又は1-アミノ-2-プロパノール/2-アミノブタノールの混合物)を担体に添加し、遠心ミキサで2分間混合した。最後に、銀オキサラートを担体に添加し、遠心ミキサで再び混合して、インクを生成する。インクの熱重量分析(TGA)分析は、インクの銀金属含有量が約23%であることを示している。インクの粘度は、SC4-14小型サンプルアダプタを装着したBrookfield DV3Tレオメーターで測定し、応力下でシアシニングが認められ、粘度は約6000cPであった。
【0088】
分子インクは、SS400ステンレス鋼メッシュ(MeshTec、イリノイ州)上に支持されたMIMエマルジョン(22~24μm)上に写真画像化されたパターンを介して、S-912M小型スクリーンプリンタを使用して、Lexan 8010(PC-8010と呼ばれる)の8.5×11インチシートにスクリーン印刷した。DYMAX 5000-ECシリーズUV硬化フラッド・ランプ・システムによって処理したサンプルでは、印刷したトレースを、ランプから20cmに配置されたプラットフォームの上に配置し、ランプの電源を入れたら直ちにUV光に露光させた。AccuXX露出計によってランプから測定された光エネルギーは、エネルギーが毎分3.232J/cmであることを示す。UVコンベヤシステムによって処理したサンプルは、American UVの6フィート・デュアル・ランプ・コンベヤ・システムを使用した(C12/300/2 12”)。コンベヤにはガリウム及び鉄をドープしたハロゲン電球が装着され、35フィート/分でランプの下を1回通過する際の強度により、表22に示す光照射量が生成される。
【表22】
【0089】
トレースのトポグラフィー表面キャラクタリゼーションは、真空チャックと白色光センサを装着したCyber TECHNOLOGIES CT100光学プロフィロメータ(cyberTECHNOLOGIES GmbH、ドイツ)を使用して行った。3D画像は、精度を確保するために1μm刻みで取り込んだ。厚み及び線幅はすべて、プロフィロメータに付属のSCANSUITEソフトウェアを使用して求めた。熱成形は、オーバーヘッド炉の下に配置した真空テーブルで構成されるFormech 450DTテーブルトップ真空成形機を使用して行った。Lexan 8010に印刷した分子インクは、真空テーブル上に配置された楕円形の物体にトレースが熱成形される前に、トレースを180~190℃に約90秒間暴露する熱プロファイルを使用して熱成形した。
【0090】
銀オキサラート系分子インクの配合及びLexan 8010へのスクリーン印刷の後、基板をFormech熱成形機(https://formechinc.com/product/300xq/)に装着し、180~190℃の温度まで60~70秒間加熱して、基板を軟化させた。銀オキサラート系トレースのこれらの温度への暴露により、この短い期間であっても、インサイチューで導電性トレースが生成されることに留意されたい。軟化後、PC基板を、真空テーブルに支持されたテンプレート物体(この場合はドーム状楕円形)上に覆いかぶせることによって熱成形して、基板が冷えるにつれ、3D形状が基板中に固定され、3D導電性銀トレースが生成される。
【0091】
基板の伸びの位置及び大きさは、熱成形の前に基板上にグリッドを描き、熱成形後のグリッドの寸法の変化を測定することによって測定した。銀オキサラート系インクを印刷して、直ちに熱成形する場合、導電性トレースは生成できない。これに対して、印刷したトレースをフラッドランプ型システム(DYMAX 5000-ECシリーズUV硬化フラッド・ランプ・システム)又はデュアルランプUVコンベヤシステム(ガリウムドープ及び鉄ドープ金属ハライドランプを装着したAmerican UV C12/300/2 12”コンベヤ)からのUV光で処理すると、導電性熱成形トレースが生成される。
【0092】
熱成形ステップを用いずに、同じ条件に暴露させた比較トレースにおける熱成形トレースの相対抵抗の比較は、試験トレースの一部を熱成形し、試験トレースの対照部分を同じUV処理及び熱条件に暴露させて行ったが、トレースは熱成形されなかった。図14で強調表示されているように、熱成形トレース(青色/暗及び緑色/明色円)の抵抗対線幅にフィットする傾向線は、熱成形されていない対照トレース(それぞれ赤色/暗及び黄色/明色円)の抵抗対線幅の上にきわめて良好に重なっている。熱成形後の抵抗の変化は、UV処理したトレースでは約5%であると推定される(図14を参照)。
【0093】
熱成形工程中に伸張したトレースの顕微鏡分析により、UV処理なしでトレース全体に著しい亀裂があり(図15bi、bii、biii)、ほぼ非導電性の熱成形トレースが生じたことが示された。フラッドランプ型システム(図15ci、cii及びciii)又はデュアルランプUVコンベヤシステム(図16di、dii及びdiii)からのUV光で銀オキサラートインクを処理すると、トレースの亀裂が最小限に抑えられ、導電性3D銀トレースが生じる。
【0094】
UV処理が銀オキサラートインクを熱成形する能力に与える影響を解明するために、UV処理トレースをXRDによって分析した。この分析により、フラッドランプ及びUVコンベヤシステムの両方からのUV光で銀オキサラートインクを処理すると、銀塩の金属銀への変換が開始されることが示されている。走査型電子顕微鏡(SEM)によりUV処理トレースをさらに分析すると、UV処理が分子インクを銀ナノ粒子に変換することが示される(図16)。興味深いことに、ナノ粒子は、DYMAX 5000-ECシリーズUV硬化フラッド・ランプ・システムではなく、UV硬化装置を使用して生成した場合、直径がより小さいように思われる。これは、UVコンベヤシステム(UVV:1.8J/cm/秒、UVA:0.9J/cm/秒)が、フラッド・ランプ・システム(3.2J/cm/分、0.053J/cm/秒)と比較して、より短時間で、はるかに高いエネルギー量にトレースを暴露させるためであると考えられる。UV光へのこの強い露光は、おそらく多数の小さい銀ナノ粒子を核形成する、多数の銀(0)原子を生成することができる。熱成形トレースのSEM分析によっても、UVコンベヤから生成された強い光によるトレースの処理から生成されたより小さい銀ナノ粒子が合体して、DYMAXフラッド・ランプ・システムによるUV処理後に生成された、より大きいナノ粒子よりも、さらに相互連結されたネットワークとなることが示唆されている。UV処理なしで直接熱成形されたトレースのSEM分析は、銀ナノ粒子の不均一な分布で構成され、この不均一な分布には、銀トレースが、十分に相互連結された小さい銀ナノ粒子で主に構成されているが、合体しない粒径がより大きい粒子が多数存在する。より大きい粒子はトレースの欠陥として作用し、熱成形時にトレースに亀裂が生じる部位である可能性が高い(図18を参照)。インクを180~190℃まで急速に加熱すると、銀ナノ粒子の形成及び溶媒/アミンの蒸発が同時に発生するおそれがある。アミンが蒸発し、銀オキサラート塩にキレート化されなくなると、担体溶媒への溶解度が低くなり、分解温度が高くなる。これにより、不均一に成長して、亀裂が生じ、非導電性であるナノ粒子を含有する銀トレースが生じる。
【0095】
全体として、このデータによって、UV処理によってこれらの小さいナノ粒子の形成を開始することが、均一で亀裂のない導電性の熱成形トレースが形成される因子であることが示唆される。DYMAXフラッド・ランプ・システム及びUVコンベヤシステムの両方が、トレースをUVA光(320~395nm)に露光させ、トレースの深部領域を硬化させて、接着性を向上させられることに留意されたい。さらに、ガリウムドープ電球UVコンベヤシステムによって、トレースをUVV光に露光させ、UVV光がインク/基板界面付近のトレースの最深領域に浸透するはずである。
【0096】
熱成形工程の有用性と、UV処理を使用して均一で亀裂のない導電性銀回路を生成する能力を実証するために、MPR121静電容量タッチ・センサ・ブレークアウト基板を備えたArduino Microによって駆動される3ボタン静電容量タッチ型ヒューマン・マシン・インターフェース(HMI)スイッチを2Dで印刷し、その後高さ1cmの3D構造に熱成形できるように設計した(図17)。上記の線形トレースの検討とは対照的に、静電容量タッチ回路はより複雑で、トレースは垂直方向及び水平方向の両方に印刷される。ここでも、印刷したままの分子インクのUV処理により機能回路を生成することができるが、未処理のトレースは亀裂が生じやすく、非導電性になりやすい。結果の要約を表23に示すが、UV硬化装置及びDYMAXシステムによる処理によって、フラッド・ランプ・システムで処理したサンプル(2.0及び2.6Ω/cm)と比較して、測定抵抗が低いトレースが生成されることが示されている。同じ処理条件に従わせたが、熱成形されていない対照トレースと比較した、熱成形トレースの相対抵抗の上昇は、UVコンベヤ及びDYMAXシステムでそれぞれ10%及び20%である。上に示した線形トレースの例に類似して、トレースのUV処理により、亀裂を生じさせずにトレースを伸ばせることが示されている。銀オキサラート系インクから生成した導電性熱成形トレースを使用し、導電性銀エポキシを用いてLEDをトレースに固定し、数時間乾燥させた(図17a)。結果は、触れると明るくなる3個の個別アドレサブルタッチ回路を備えた、静電容量タッチ回路であり、この回路により、分子インク、LED及びArduino Micro/静電容量式タッチブレークアウト基板のこのような組合せから3D回路を作成する方法が示されている。したがって、HMIスイッチ(タッチ回路)は、工業関連の付加製造工程(スクリーン印刷、熱成形、ピック・アンド・プレース技術)によって生成可能であり、工業関連のUV処理工程を使用して改善できることが示されている。HMI業界ですでに使用されている技術及び機器を利用した製品の開発は、タッチインターフェース及びコントロールの作成方法を革新する可能性がある。
【0097】
また、分子インクの性能を、熱成形用途向けに設計されたエラストマーポリマーで修飾した、市販の銀フレークインクと比較した。表23で強調表示されているように、分子インクから生成されたUV処理及び熱成形トレースの測定された抵抗及び抵抗率は、処理条件を同じとした非熱成形の市販インクよりも良好である。市販のフレークインクから生成したトレースよりも約3倍希薄であるにもかかわらず、分子インクによってこの性能が達成されていることも注目に値する。これは、熱成形を可能にする目的で、伸びを促進するために配合物に添加されたエラストマーポリマーの大部分を、市販のインクが有することによるものと考えられる。このポリマーの存在により、トレースの伸縮性が改善されるが、同時に生じたトレースの抵抗率が低下する。ここで示す分子インクの場合、UV処理を利用して伸縮性を付与することができ、余分なポリマーを添加する必要がないため、熱成形トレースの抵抗率は低いままである。
【0098】
【表23】
【0099】
要約すると、PC相溶性スクリーンプリンタブル銀オキサラート分子インクの使用を、熱成形エレクトロニクスの開発に組み込むことが可能であり、この場合、単純なUV処理工程により、最大1.3倍に伸ばした後にトレースに導電性を維持させることが可能であり、業界関連の複数の製造工程にわたって2D印刷シートから3D回路を開発することが可能となる。具体的には、特に熱成形に使用されるPC及び同様の基板を部品の成形を容易にするためにより高温まで加熱する場合に、熱成形工程中にインクを焼結できるために、UV処理の適用は、射出成形工程にも利用され得て、分子インクを射出成形構造物に導入して、熱成形回路及び他の熱成形エレクトロニクスを製造することが可能となる。これらの処理方法により、構造がより複雑なデバイスの開発が可能になり、自動車、航空宇宙及び電化製品産業でのヒューマン・マシン・インターフェースの製造における設計の自由度が高まる。
【0100】
さらなる要約として、表24は、熱成形前のポリカーボネート基板でのUV処理後のインクC1の性能の比較分析を示し、UV処理なしでは熱成形工程中にトレースに亀裂が生じることが強調されている。UV焼結は、DYMAX 5000-ECシリーズUV硬化フラッド・ランプ・システムを使用して行い、硬化は、ガリウムドープ及び鉄ドープハロゲンランプを備えたAmerican UV C12/300/2 12”コンベヤを使用して行った。
【0101】
【表24】
【0102】
新規な特徴は、本明細書を検討すれば当業者には明らかとなる。しかし、特許請求の範囲は実施形態によって限定されるべきではなく、特許請求の範囲及び明細書全体の文言と一致する最も広い解釈が与えられるべきであることを理解されたい。


なお、本発明に包含され得る諸態様または諸実施形態は、以下のとおり要約される。
[1].
銀カルボキシラート又は銅カルボキシラート、有機アミン化合物及び熱保護剤を含む、インク。
[2].
前記銀カルボキシラート又は銅カルボキシラートが、160℃以下の熱分解温度を有する、上記項目1に記載のインク。
[3].
前記銀カルボキシラートがC 1-10 アルカノアートであるか、又は前記銅カルボキシラートがC 1-12 アルカノアートである、上記の項目1又は項目2に記載のインク。
[4].
前記銀カルボキシラートが、銀オキサラート、銀アセタート又は銀ピバラートである、上記項目1に記載のインク。
[5].
前記熱保護剤が、共役ポリマー、ポリエーテル、脂肪酸又は任意のその混合物を含む、上記項目1~4のいずれか一項に記載のインク。
[6].
前記熱保護剤が、ポリ(フルオレン)、ポリ(チオフェン)、ポリエチレングリコール、C 2-16 脂肪酸又は任意のその混合物を含む、上記項目1~4のいずれか一項に記載のインク。
[7].
前記熱保護剤が、ポリエチレングリコール、ヘキサン酸、ヘプタン酸、ネオデカン酸又は式(I)若しくは式(II)のポリマーを含む共役ポリマーを含み:
[化1]

式中、nが5~2000の整数である、上記項目1から4のいずれか一項に記載のインク。
[8].
有機ポリマー結合剤をさらに含む、上記項目1~7のいずれか一項に記載のインク。
[9].
表面張力調節剤をさらに含む、上記項目1~8のいずれか一項に記載のインク。
[10].
溶媒をさらに含む、上記項目1~9のいずれか一項に記載のインク。
[11].
消泡剤をさらに含む、上記項目1~10のいずれか一項に記載のインク。
[12].
チキソトロピー調節剤をさらに含む、上記項目1~11のいずれか一項に記載のインク。
[13].
銀オキサラート、銀ピバラート又は銀アセタートを含む銀カルボキシラート、アミノアルコール、乳酸表面張力調節剤及び熱保護剤を含む、インク。
[14].
前記インクが、焼結中の前記インクの温度上昇を前記銀カルボキシラートの分解に十分な高さのインク温度までに自己制限し、それにより前記温度上昇が、前記インクが占有する基板の領域に限局される、上記項目1~13のいずれか一項に記載のインク。
[15].
銀カルボキシラート又は銅カルボキシラート及び有機アミン化合物を含むインクであって、前記インクが、焼結中の前記インクの温度上昇を前記インクの分解に十分な高さのインク温度までに自己制限し、それにより前記温度上昇が、前記インクが占有する基板の領域に限局される、インク。
[16].
前記銅カルボキシラートが銅ホルマートであり、前記有機アミン化合物がアミノジオールである、上記項目15に記載のインク。
[17].
充填剤として銅ナノ粒子をさらに含む、上記項目16に記載のインク。
[18].
基板上に導電性の銀又は銅のトレースを生成するための方法であって、
基板上に、銀カルボキシラート又は銅カルボキシラート、および有機アミン化合物を含むインクを堆積させて、前記基板上に前記インクのトレースを形成すること、並びに
前記基板上の前記トレースを広域スペクトル紫外光で焼結させて、前記基板上に前記導電性銀又は銅トレースを形成すること、を含む、方法。
[19].
前記インクが熱保護剤をさらに含む、上記項目18に記載の方法。
[20].
前記熱保護剤が、ポリ(フルオレン)、ポリ(チオフェン)、ポリエチレングリコール、C 2-16 脂肪酸又は任意のその混合物を含む、上記項目19に記載の方法。
[21].
前記インクが、有機ポリマー結合剤、表面張力調節剤及び溶媒をさらに含む、上記項目18~20のいずれか一項に記載の方法。
[22].
前記紫外光が、134.4J/cm 以下のエネルギーを有する、上記項目18~21のいずれか一項に記載の方法。
[23].
前記紫外光が、13.4J/cm 以下のエネルギーを有する、上記項目18~21のいずれか一項に記載の方法。
[24].
前記焼結が、5~600秒の範囲の時間で行われる、上記項目18~23のいずれか一項に記載の方法。
[25].
前記広域スペクトル紫外光が300~800nmの範囲の発光を有する、上記項目18~24のいずれか一項に記載の方法。
[26].
前記基板が低温基板である、上記項目18~25のいずれか一項に記載の方法。
[27].
前記低温基板が、160℃以上の基板温度で10分以下の期間にわたって損傷を受ける基板である、上記項目26に記載の方法。
[28].
前記低温基板が、ポリエチレンテレフタレート、アモルファスポリエチレンテレフタレート(APET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、熱可塑性ポリウレタン(TPU)、テキスタイル、綿、ナイロン、ポリエステル又はエラストマーブレンドを含む、上記項目26に記載の方法。
[29].
前記インクが、焼結中の前記インクの温度上昇を前記銀カルボキシラートの分解に十分な高さのインク温度までに自己制限し、それにより前記温度上昇が、前記インクが占有する基板の領域に限局される、上記項目18~28のいずれか一項に記載の方法。
[30].
前記インクが有機ポリマー結合剤をさらに含む、上記項目18~29のいずれか一項に記載の方法。
[31].
電子デバイスであって、上記項目1~17のいずれか一項に記載のインクから又は上記項目18~30のいずれか一項に記載の方法によって生成された導電性金属トレースを上に有する基板を含む、電子デバイス。
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図5A
図5B
図5C
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16a
図16b
図16c
図16d
図17a)】
図17b)】
図18a
図18b
図18c