(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-26
(45)【発行日】2023-11-06
(54)【発明の名称】双方向テクスチャ関数の生成
(51)【国際特許分類】
G01N 21/57 20060101AFI20231027BHJP
G01N 21/27 20060101ALI20231027BHJP
【FI】
G01N21/57
G01N21/27 A
(21)【出願番号】P 2021558540
(86)(22)【出願日】2020-03-25
(86)【国際出願番号】 EP2020058444
(87)【国際公開番号】W WO2020200982
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-12-03
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008981
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ コーティングス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】BASF Coatings GmbH
【住所又は居所原語表記】Glasuritstrasse 1, D-48165 Muenster,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(72)【発明者】
【氏名】ランファー,ベンヤミン
(72)【発明者】
【氏名】ビショフ,グイド
(72)【発明者】
【氏名】カンティム,トマス
【審査官】三宅 克馬
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2008/0158239(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0227137(US,A1)
【文献】Tim Golla and Reinhard Klein,Interactive Interpolation of Metallic Effect Car Paints,Vision, Modeling, and Visualization,The Eurographics Association,2018年,<DOI: 10.2312/vmv.20181248>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/01
G01N 21/17 - G01N 21/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オブジェクトの双方向テクスチャ関数(BTF)を生成するための方法であって、該方法は、少なくとも以下の工程:
- カメラベースの測定装置を使用して、前記オブジェクトの初期BTF(103)を測定する工程、
- 分光光度計を使用して事前に与えられた複数の異なる測定ジオメトリについて、前記オブジェクトの分光反射率データ(105)をキャプチャする工程、
- 前記初期BTF(103)を、キャプチャされた前記分光反射率データ(105)に適合させ、これにより、最適化されたBTF(107)を取得する工程、
を有し、
前記初期BTF(103)は、下式(1)
【数1】
前記分光反射率データ(105)と前記初期BTF(103)の色差を最小化するように最適化されることにより、前記初期BTF(103)を、キャプチャされた前記分光反射率データ(105)に適合させ、
前記最適化されたBTF(107)を取得することは、前記初期BTF(103)をそれぞれパラメータのセットを含む2つの主要なタームに分割し、かつ、キャプチャされた前記分光反射率データ(105)を使用して前記各タームのパラメータを個別に最適化することを含み、
前記2つの主要なタームは、前記式(1)の第1のタームと前記式(1)の第2のタームであり、前記第1のタームは、前記測定ジオメトリのみに依存する前記オブジェクトの反射特性を表す同次双方向反射率分布関数(BRDF)であり、前記第2のタームは、前記オブジェクトの空間的に変化する外観を説明するテクスチャ関数であり、
前記第1のタームは、カラーテーブル
【数2】
に対応する第1のサブタームと、強度関数
【数3】
に対応する第2のサブタームに分割され、
前記初期BTF(103)の前記パラメータは、第1の最適化工程で強度関数のパラメータを一定に保ちながらカラーテーブルのパラメータを最適化し、第1の最適化工程における前記測定ジオメトリのカラーテーブルを最適化するために、前記分光反射率データ(105)から第1のCIEL*a*b*値を計算し、前記初期BTF(103)から第2のCIEL*a*b*値を計算し、前記第1のCIE
L*a*b*値から前記第2のCIE
L*a*b*値を差し引くことによってa*およびb*座標の補正ベクトルを計算し、前記補正ベクトルは、前記カラーテーブルに保存されている視野角度と照明角度の全範囲で、コンポーネントごとに補間および外挿され、前記補間された前記補正ベクトルは、前記カラーテーブルに保存されている測定ジオメトリの前記初期BTF(103)CIEL*a*b*値に適用され、
前記カラーテーブルに保存されている各測定ジオメトリの最適化を行うことにより補正された前記BTF CIEL*a*b*値が求められ、前記補正された前記BTF CIEL*a*b*値は、前記カラーテーブルに最終的に保存され正規化された線型sRGB座標に変換され、さらに
第2の最適化工程で前記カラーテーブルのパラメータを一定に保ちながら前記強度関数のパラメータを最適化し、これにより、分光反射率データ(
105)と初期BTF(103)の色差を最小化するように最適化し、
前記初期BTF(103)が異なる測定ジオメトリで評価され、結果として得られるCIEL*a*b*値が、重み付き色差式を使用して
、前記オブジェクトの分光反射率データ(105)をキャプチャする工程により得られたCIEL*a*b*値と比較され、
前記強度関数のパラメータを最適化するために、すべての測定ジオメトリにわたる前記色差の合計に基づいてコスト関数を定義して、
前記強度関数の前記パラメータは、前記コスト関数が最小化されるように、非線形最適化手法を使用して最適化される、双方向テクスチャ関数の生成方法。
【請求項2】
前記カメラベースの測定装置は、異なる視野角度、異なる照明角度、異なる照明色、および/または異なる露光時間で、前記オブジェクトの複数の画像を作成し、これにより、照明角度、視野角度、照明色および/または露光時間の複数の組み合わせを考慮する複数の測定データを提供し、前記複数の測定データから前記初期BTF(103)を得る、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
異なる照明色と異なる露光時間を有するが、等しい照明角度と等しい視野角度を有する前記画像は、高ダイナミックレンジの画像にそれぞれ組み合わされることにより、前記初期BTF(103)を得る、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記コスト関数が、特定の制約を考慮に入れるように設計されたペナルティ関数によって補足される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の最適化工程および前記第2の最適化工程は、前記最適化されたBTF(107)の精度をさらに改善するために繰り返し/反復的に実行される、
請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
マルチレベルBスプライン補間アルゴリズムが、前記補正ベクトルの成分ごとの補間および外挿のために使用される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
オブジェクトの双方向テクスチャ関数(BTF)を生成するためのシステムであって、該システムは、
- 前記オブジェクトの初期BTF(103)を測定するように構成されたカメラベースの測定装置、
- 事前に与えられた複数の異なる測定ジオメトリについて、前記オブジェクトの分光反射率データ(105)をキャプチャするように構成された分光光度計、
- 前記カメラベースの測定装置および前記分光光度計とそれぞれ通信接続され、それぞれの前記通信接続を介して前記オブジェクトの前記初期BTF(103)およびキャプチャされた前記分光反射率データ(105)を受信し、前記初期BTF(103)をキャプチャされた前記
分光反射率データ(105)に適合させ、このようにして最適化されたBTF(107)を得るように構成されたコンピューティングデバイス、
を有し、
請求項1から6のいずれか一項に記載の方法を実行するように構成された、BTF生成システム。
【請求項8】
コンピュータシステムであって、
- コンピュータユニット、
- プログラムコードを備えたコンピュータ可読プログラムであって、前記プログラムがコンピュータユニット上で実行されると、以下の工程:
- オブジェクトの初期BTF(103)と前記オブジェクトの分光反射率データ(105)を取得および受信する工程、ここで、前記初期BTF(103)はカメラベースの測定装置によって測定され、前記分光反射率データ(105)は、事前に与えられた複数の異なる測定ジオメトリのために分光光度計によってキャプチャされる、
- それに応じて前記初期BTF(103)のパラメータを適合させることにより、前記分光反射率データ(105)を前記初期BTF(103)に適合させ、このようにして最適化されたBTF(107)を取得する工程、を実行するコンピュータ可読プログラム、
を有し、
初期BTF(103)は、下式(1)
【数4】
前記分光反射率データ(105)と前記初期BTF(103)の色差を最小化するように最適化されることにより、前記初期BTF(103)を、キャプチャされた前記分光反射率データ(105)に適合させ、
前記最適化されたBTF(107)を取得することは、前記初期BTF(103)をそれぞれパラメータのセットを含む2つの主要なタームに分割し、かつ、キャプチャされた前記分光反射率データ(105)を使用して前記各タームのパラメータを個別に最適化することを含み、
前記2つの主要なタームは、前記式(1)の第1のタームと前記式(1)の第2のタームであり、前記第1のタームは、前記測定ジオメトリのみに依存する前記オブジェクトの反射特性を表す同次双方向反射率分布関数(BRDF)であり、前記第2のタームは、前記オブジェクトの空間的に変化する外観を説明するテクスチャ関数であり、
前記第1のタームは、カラーテーブル
【数5】
に対応する第1のサブタームと、強度関数
【数6】
に対応する第2のサブタームに分割され、
第1の最適化工程における前記測定ジオメトリのカラーテーブルを最適化するために、前記分光反射率データ(105)から第1のCIEL*a*b*値を計算し、前記初期BTF(103)から第2のCIEL*a*b*値を計算し、前記第1のCIE
L*a*b*値から前記第2のCIE
L*a*b*値を差し引くことによってa*およびb*座標の補正ベクトルを計算し、前記補正ベクトルは、前記カラーテーブルに保存されている視野角度と照明角度の全範囲で、コンポーネントごとに補間および外挿され、前記補間された前記補正ベクトルは、前記カラーテーブルに保存されている前記測定ジオメトリの前記初期BTF(103) CIEL*a*b*値に適用され、
前記カラーテーブルに保存されている各測定ジオメトリの最適化を行うことにより補正された前記BTF CIEL*a*b*値が求められ、前記補正された前記BTF CIEL*a*b*値は、前記カラーテーブルに最終的に保存され正規化された線型sRGB座標に変換され、さらに
第2の最適化工程で前記カラーテーブルのパラメータを一定に保ちながら前記強度関数のパラメータを最適化し、これにより、分光反射率データ(105)と初期BTF(103)の色差を最小化するように最適化し、
前記初期BTF(103)が異なる測定ジオメトリで評価され、結果として得られるCIEL*a*b*値が、重み付き色差式を使用して
、前記オブジェクトの分光反射率データ(105)をキャプチャする工程により得られたCIEL*a*b*値と比較され、
前記強度関数のパラメータを最適化するために、すべての測定ジオメトリにわたる前記色差の合計に基づいてコスト関数を定義して、
前記強度関数の前記パラメータは、前記コスト関数が最小化されるように、非線形最適化手法を使用して最適化される、コンピュータシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オブジェクト、特に物理的な自動車の塗料サンプルの双方向テクスチャ関数(BTF)を生成するための方法に関する。本発明はまた、それぞれのシステムおよびそれぞれのコンピュータシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
現在の自動車の塗装のカラーデザインプロセスは、ほとんどの場合、小さなフラットパネルに塗布された自動車の塗装の物理サンプルに基づいている。物理サンプルのみを使用する場合、いくつかの欠点がある。サンプルの塗装には費用と時間がかかる。さらに、コストがかかるため、小さなフラットパネルのみが塗装され、小さなサンプルから、車体などの別の形状や別の照明設定でコーティングがどのように見えるかを推測するのは難しい場合がある。自動車の塗装は、特に干渉および/またはメタリックフレーク顔料などのメタリック顔料または真珠光沢のあるフレーク顔料などの特殊効果フレーク顔料によって引き起こされる、ゴニオアピアレント効果(gonioapparent effects)を伴う効果色として選択されることがよくある。
【0003】
自動車の塗装の外観のデジタルモデルを使用して、任意の光条件で任意の形状に適用された自動車の塗装の画像をコンピュータで生成することが可能である。双方向テクスチャ関数(BTF)は、輝きなど、空間的に変化する自動車の塗装の外観もキャプチャできるデジタルモデルを表す。コンピュータで生成されたオブジェクトに適用された自動車の塗装の画像に基づいて、自動車の塗装の色の特性を仮想的に評価することが可能である。
【0004】
BTFは、観察と照明の方向、つまり視野と照明の角度の関数としてのテクスチャの外観の表現である。考慮されるオブジェクトの表面の形状が不明であり、測定されていないため、これは画像ベースの表現である。BTFは通常、可能な観察と照明方向の半球のサンプリングで表面を画像化することによってキャプチャされる。BTF測定値は、画像の収集である。BTFは6次元関数である。(Dana、Kristin J., Bram van Ginneken, Shree K. Nayar, and Jan J. Koenderink, ‘Reflectance and Texture of Real-World Surface’. ACM Transaction on Graphics 18, no. 1 (1 January 1999): 1-34. https://doi.org/10.1145/300776.300778.)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これまで、カメラベースの測定装置を使用して、色(塗料)のBTFを測定していた。使用されているカメラベースの測定装置は、多くの測定ジオメトリの反射率データをすばやく取得するように構成されている。使用されるデバイスは、自動車の塗装の空間的に変化する側面、たとえば、効果顔料の輝きや構造化されたクリアコートのテクスチャをキャプチャすることが可能である。ただし、色情報は、カラーデザインレビューのユースケースに対して十分に正確で信頼できるものではないことがわかっている。
【0006】
したがって、本発明の目的は、色情報をより正確に提供すること、特に、測定されたBTFをさらに最適化する可能性を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
独立請求項の特徴を備えた、オブジェクトの双方向テクスチャ関数を生成するための方法、システム、およびコンピュータシステムがそれぞれ提供される。請求項に記載の方法およびシステムのさらなる特徴および実施形態は、従属請求項および明細書に記載されている。
【0008】
請求項1によれば、オブジェクトの双方向テクスチャ関数(BTF)を生成するための方法が提供され、この方法は、少なくとも以下の工程を含む。
- カメラベースの測定装置を使用して、オブジェクトの初期BTFを測定する工程、
- 分光光度計を使用して事前に与えられた複数の異なる測定ジオメトリについて、オブジェクトの分光反射率データをキャプチャする工程、
- 初期BTFを、キャプチャされた分光反射率データに適合させ、最適化されたBTFを取得する工程。
【0009】
上記の不十分な色精度を考慮して問題を解決するために、請求項に記載の方法によれば、最初の工程で、オブジェクト、特に物理的な自動車の塗装のサンプルの初期BTFが、カメラベースの測定装置を使用して取得されることが提案される。次に、2番目の工程で、分光光度計、特に携帯型分光光度計を使用して、同じサンプルに対して2番目のスペクトル測定を行う。したがって、少数(例えば<25)の測定ジオメトリについて、追加のより正確な分光反射率データが得られる。次に、初期BTFは、より正確でまばらな分光反射率データで拡張される。その結果、自動車の塗装サンプルのきらめきなど、色や空間的に変化する外観をキャプチャし、それでも十分に正確なBTFが得られる。
【0010】
請求項に記載された方法の一実施形態によれば、カメラベースの測定装置は、異なる視野角度、異なる照明角度、異なる照明色、および/または異なる露光時間で、オブジェクト/サンプルの複数の画像(写真)を作成する。したがって、照明角度、視野角度、照明色、および/または露光時間の複数の組み合わせを考慮した複数の測定データが提供される。カメラベースの測定装置は、例えば、X-Rite TAC7(登録商標)などの市販の測定装置であり得る。自動車の塗料サンプルとクリアコートでコーティングされた小さなフラットパネルが測定装置に挿入され、測定プロセスが開始される。測定とその後の後処理から、最初のBTFが取得される。
【0011】
後処理の過程で、異なる照明色と異なる露光時間を有するが、等しい照明角度と視野角度を持つ画像/写真は、それぞれ高ダイナミックレンジの画像に結合される。さらに、サンプル上の写真の遠近感が修正される。写真と後処理によって得られたデータに基づいて、初期BTFのパラメータが決定される。
【0012】
請求項に記載された方法のさらなる実施形態によれば、初期BTFを、キャプチャされた分光反射率データに適合させ、したがって、最適化されたBTFを取得することは、初期BTFを異なるタームに分割し、各タームは、パラメータのセットを含み、キャプチャされた分光反射率データを使用して各タームのパラメータを個別に最適化することを含む。
【0013】
これにより、初期BTFが2つの主要なタームにセグメント化(分割)される。第1のタームは、オブジェクト、例えば自動車の塗装サンプルであり、測定ジオメトリのみに依存する反射特性を表す同次双方向反射率分布関数(BRDF)である。第2のタームは、オブジェクトの空間的に変化する外観を説明するテクスチャ関数であり、すなわち、視野と照明に依存するテクスチャ画像が追加される。モデルに保存されているテクスチャ画像には、すべてのピクセルで平均して、各RGBチャネルの強度の合計がゼロであるという特性がある。遠くから見ると、自動車の塗装の全体的な色の印象は、一点の色ではなく、より広い領域の平均色によって決定される。上記の特性により、テクスチャ画像のより広い領域にわたる平均色はゼロまたはゼロに近いと想定される。これにより、全体の色を変更せずにテクスチャ画像を上塗り(overlay)することができる。これは、BTFを最適化するときに、テクスチャ画像を無視できることも意味する。
【0014】
BTFの表現については、Rump et al. によって最初に導入されたカラーモデルが使用される(Rump、Martin、Ralf Sarlette、und Reinhard Klein. “Efficient Resampling, Compression and Rendering of Metallic and Pearlescent Paint”. In Vision, Modeling, and Visualization, 11-18, 2009.)。
【0015】
【0016】
一般に、双方向反射率分布関数(BRDF)は、不透明な表面で光がどのように反射されるかを定義する4つの実変数の関数である。この関数は、
【数2】
BRDFは、照明角度と反射散乱角の関数として材料(オブジェクト)のフォトメトリック反射光散乱特性を記述する任意のマテリアル(ここではオブジェクト、つまり塗装サンプルを意味する)のフォトメトリックデータの収集を意味する。BRDFは、オブジェクト、特にオブジェクトに含まれるゴニオアピアレント材料のスペクトルおよび空間反射散乱特性を記述し、材料の外観および光沢、ヘイズ、色などの他の多くの外観属性の記述を提供する。これらはBRDFから簡単に導き出すことができる。
【0017】
一般に、BRDFは、散乱ジオメトリの関数としての3つの色座標で構成される。BRDFを処理するときは、特定の光源とカラーシステム(CIELABなど)を指定し、データに含める必要がある。
【0018】
本発明の提案された方法によって生成されたBTFに含まれるデータは、多種多様な目的に使用することができる。絶対色または反射率データを、顔料混合モデルと組み合わせて使用することができ、効果フレーク顔料を含む塗料の配合を支援し、さまざまな照明条件や観察条件、たとえば自動車の車体とバンパー間の色の一致を評価および保証することができる。
【0019】
効果フレーク顔料には、アルミニウムフレーク、コーティングされたアルミニウムフレーク、銅フレークなどの金属フレーク顔料が含まれる。効果フレーク顔料には、雲母フレーク、ガラスフレークなどの真珠光沢顔料など、色相シフトを引き起こす特殊効果フレーク顔料も含まれる。
【0020】
式(1)から認識できるように、第1のターム、すなわちBRDFは、カラーテーブル
【数3】
に対応する第1のサブタームと、強度関数
【数4】
に対応する第2のサブタームに分割される。初期BTFのパラメータは、第1の最適化工程で強度関数のパラメータを一定に保ちながらカラーテーブルのパラメータを最適化し、第2の最適化工程でカラーテーブルのパラメータを一定に保ちながら強度関数のパラメータを最適化することで、分光反射データと初期BTFの色差を最小化するように最適化される。
【0021】
分光反射率データ、すなわち分光反射率曲線は、限られた数の測定ジオメトリに対してのみ取得される。このような各測定ジオメトリは、特定の照明角度/方向と特定の視野角度/方向によって定義される。分光反射率測定は、例えば、6つの測定ジオメトリ(固定照明角および-15°、15°、25°、45°、75°、110°の視野/測定角)を備えたByk-Mac I(登録商標)、12の測定ジオメトリ(2つの照明角度と6つの測定角度)を備えたX-Rite MA-T12(登録商標)、またはX-Rite MA 98(登録商標)(2つの照明角度と最大11の測定角度)などの携帯型分光光度計によって実行される。これらの測定装置から得られた分光反射率データは、カメラベースの測定装置から得られた色情報よりも正確である。
【0022】
請求項に記載の方法の実施形態によれば、各分光測定ジオメトリの第1の最適化工程におけるカラーテーブルの最適化のために、第1のCIEL*a*b*値が分光反射率データ(曲線)から計算される。そして第2のCIEL*a*b*値が初期BTFから計算される。a*およびb*座標の補正ベクトルは、第1のCIEa*b*値から第2のCIEa*b*値を差し引くことによって計算され、補正ベクトルは、カラーテーブルに保存されている視野角度と照明角度の全範囲で、コンポーネントごとに補間および外挿される。補間された補正ベクトルは、カラーテーブルに保存されている各分光測定ジオメトリの初期BTF CIEL*a*b*値に適用され、補正されたBTF CIEL*a*b*値は、線型sRGB座標に変換され、正規化(たとえば、合計が3に等しくなるように)され、最終的にカラーテーブルに保存される。
【0023】
マルチレベルB-スプライン補間アルゴリズム(Lee、Seungyong、George Wolberg、und Sung Yong Shin. “Scattered data interpolation with multilevel B-splines”. IEEE transaction on visualization and computer graphics 3, Nr. 3(1997): 228-224を参照。)は、補正ベクトルの成分ごとの補間と外挿に使用できる。
【0024】
請求項に記載の方法のさらに別の実施形態によれば、第2の最適化工程における強度関数のパラメータの最適化のために、すべての分光反射率測定ジオメトリにわたる色差の合計に基づいてコスト関数が定義される。コスト関数
【数5】
は、次の式に従って、すべての反射率測定ジオメトリにわたって定義される。
【0025】
【0026】
式(2)に示されるように、コスト関数は、特定の制約を考慮に入れるように設計されたペナルティ関数によって補足することができ、そのような制約は、好ましくは、パラメータ値を有効な範囲に保つことを含む。
【0027】
色差を計算するために、初期BTFは、異なる分光反射率測定ジオメトリで評価され、結果として得られるCIEL*a*b*値は、たとえば、DIN6157/2で定義された重み付き色差式を使用して、分光反射率測定からのCIEL*a*b*値と比較される。そして、強度関数のパラメータは、たとえば、コスト関数は最小化されるように、Nelder-Mead-Downhill-Simplex Methodなどの非線形最適化法を使用して最適化される。
【0028】
さらに別の実施形態によれば、第1および第2の最適化工程は、最適化されたBTFの精度をさらに改善するために、繰り返し/反復的に実行される。反復回数は指定して事前に定義できる。3回の反復で、信頼できる良好な結果がすでに得られることがわかっている。
【0029】
最適化されたBTFは、カメラベースの装置から直接取得される初期BTFよりも正確であることがわかっている。これは、追加の分光反射率データが提供される少数の(限られた数の)分光反射率ジオメトリだけでなく、照明および観察方向の全範囲に当てはまる。
【0030】
請求項に記載の方法およびシステムは、自動車の塗装のカラーデザインプロセスだけでなく、例えば化粧品および電子機器における同等のプロセスにも適用可能である。
【0031】
本発明は、また、オブジェクトの双方向テクスチャ関数(BTF)を生成するためのシステムに言及し、このシステムは、以下を備える。
【0032】
- オブジェクトの初期BTFを測定するように構成されたカメラベースの測定装置、
- 事前に与えられた複数の異なる測定ジオメトリについて、オブジェクトの分光反射率データをキャプチャするように構成された分光光度計、
- カメラベースの測定装置および分光光度計にそれぞれ通信接続され、それぞれの通信接続を介してオブジェクトの初期BTFおよびキャプチャされた分光反射率データを受信し、初期BTFをキャプチャされた反射率データに適合するように構成され、これにより最適化されたBTFを得るコンピューティングデバイス。
【0033】
カメラベースの測定装置は、例えば、X-Rite TAC7(登録商標)(総外観キャプチャ)などの市販の装置であり得る。カメラベースの測定装置は、異なる照明角度、異なる視野角度、異なる照明色、および異なる露光時間で、オブジェクト/サンプルの画像/写真をキャプチャするように構成されている。異なる照明色と露光時間の画像を、高ダイナミックレンジの画像(HDR画像)に組み合わせることができる。オブジェクト/サンプルに対する画像の遠近感を修正することができる。
【0034】
分光光度計は、携帯型分光光度計として選択できる。分光光度計はマルチアングル分光光度計である。
【0035】
オブジェクトは、パネルまたは他の任意の塗料、特に効果フレーク顔料などのゴニオアピアレント材料を含む塗料にコーティングされた自動車用塗料サンプルであり得る。
【0036】
システムは、初期BTF、事前に与えられた複数の異なる測定ジオメトリに対するオブジェクトの分光反射率データ、および最適化されたBTFを格納するように構成されたデータベースをさらに含み得る。コンピューティングデバイスは、事前に与えられた複数の異なる測定ジオメトリのオブジェクトの初期BTFおよび分光反射率データを取得し、最適化されたBTFを格納するために、データベースと通信接続する場合がある。つまり、カメラベースの測定装置から取得した初期BTFと分光光度計によってキャプチャされた分光反射率データは、コンピューティングデバイスが初期BTFと分光反射率データを取得する前に、初期BTFをキャプチャされた反射率データに適合させるために、最初にデータベースに保存されることを意味する。このようにして最適化されたBTFが得られる。このようなシナリオでは、カメラベースの測定装置と分光光度計もデータベースと通信接続されている。したがって、コンピューティングデバイスとカメラベースの測定装置との間の通信接続、およびコンピューティングデバイスと分光光度計との間の通信接続の両方は、それぞれ、データベースを介した直接接続または間接接続であり得る。各通信接続は、有線接続または無線接続の場合がある。それぞれの適切な通信技術を使用することができる。コンピューティングデバイス、カメラベースの測定装置、および分光光度計は、それぞれ、互いに通信するための1つまたは複数の通信インターフェースを含み得る。このような通信は、ファイバ分散データインターフェイス(FDDI)、デジタル加入者線(DSL)、イーサネット、非同期転送モード(ATM)、またはその他の有線伝送プロトコルなどの有線データ伝送プロトコルを使用して実行できる。あるいは、通信は、General Packet Radio Service(GPRS)、Universal Mobile Telecommunications System(UMTS)、Code Division Multiple Access(CDMA)、Long Term Evolution(LTE)、ワイヤレスユニバーサルシリアルバス(USB)、および/またはその他のワイヤレスプロトコルなどのさまざまなプロトコルのいずれかを使用してワイヤレス通信ネットワークを介してワイヤレスで行うことができる。それぞれの通信は、無線通信と有線通信の組み合わせであり得る。
【0037】
コンピューティングデバイスは、タッチスクリーン、オーディオ入力、移動入力、マウス、キーパッド入力などの1つまたは複数の入力ユニットを含み得るか、またはそれらと通信し得る。さらに、コンピューティングデバイスは、オーディオ出力、ビデオ出力、スクリーン/ディスプレイ出力などのような1つまたは複数の出力ユニットを含み得るか、またはそれらと通信し得る。
【0038】
本発明の実施形態は、スタンドアロンユニットであり得るか、または例えばクラウド内に、たとえば、インターネットやイントラネットのようなネットワークを介して配置された中央コンピュータと通信する1つ以上の遠隔端末またはデバイスを含み得るコンピュータシステムと共に使用または組み込まれ得る。したがって、本明細書で説明されるコンピューティングデバイスおよび関連するコンポーネントは、ローカルコンピュータシステムまたはリモートコンピュータまたはオンラインシステムまたはそれらの組み合わせの一部であり得る。本明細書に記載のデータベースおよびソフトウェアは、コンピュータの内部メモリまたは非一時的なコンピュータ可読媒体に格納することができる。
【0039】
カラーテーブルを最適化する場合、分光光度計の各分光反射率測定ジオメトリに対して、補正ベクトルが決定される。補正ベクトルは、それぞれ、初期BTFのBRDF部分からのRGBチャネルでの反射放射輝度と、同じジオメトリの分光反射率データの差として生じる。補正ベクトルの計算は、CIEL*a*b*色空間で実行される。結果として得られる補正ベクトルは、カラーテーブルのパラメータ範囲全体にわたってコンポーネントごとに補間される。
【0040】
請求項に記載されたシステムは、請求項に記載された方法を実行するように特に構成されている。
【0041】
自動車の塗装のテクスチャを正しく反映するために、BTFは、照明と観測角度/方向に依存した空間テクスチャ画像のテーブルで構成されている。
【0042】
本発明はまた、以下を含むコンピュータシステムに関する。システムは、
- コンピュータユニット、
- 非一時的なコンピュータ可読記憶媒体に格納されたプログラムコードを備えたコンピュータ可読プログラムであって、このプログラムコードは、プログラムがコンピュータユニット上で実行されると、コンピュータユニットに以下を実行させる、
- オブジェクトの初期BTFとオブジェクトの分光反射率データを取得および受信する。ここで、初期BTFはカメラベースの測定装置によって測定され、分光反射率データは、事前に与えられた複数の異なる測定ジオメトリのために分光光度計によってキャプチャされる、
- それに応じて初期BTFのパラメータを適合させることにより、分光反射率データを初期BTFに適合させ、このようにして最適化されたBTFを取得する。
【0043】
オブジェクトの初期BTFおよびオブジェクトの分光反射率データは、それぞれ、(a)オブジェクトの測定値、または(b)オブジェクトの測定値を含むデータベースからのオブジェクトの以前に測定されたデータによって取得できる。
【0044】
本発明のさらなる態様は、従属する特許請求の範囲に特に示されている要素および組み合わせによって実現および達成される。前述の一般的な説明および以下の詳細な説明の両方は、例示的かつ説明的なものにすぎず、説明されているように本発明を限定するものではないことを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【
図1】請求項に記載された方法の例示的な実施形態に従って完了され得るプロセスのフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0046】
本発明は、オブジェクトおよび関連するシステムのBTFを決定するための方法を提供する。
図1は、請求項に記載の方法およびシステムの様々な実施形態に従って実行され得るプロセスを示すフローチャートを提供する。工程102から開始して、オブジェクトは、オブジェクトの初期BTF103を測定するためにカメラベースの測定装置に配置される。初期BTF103は、測定の結果として取得される。工程104で、オブジェクトは、事前に与えられた
複数の異なる測定ジオメトリについてオブジェクトのそれぞれの分光反射率データをキャプチャするように構成された分光光度計に配置される。その結果、分光光度計の限られた
複数の異なる測定ジオメトリについて、オブジェクトの分光反射率データ105(異なる分光測定ジオメトリの反射スペクトル)が得られる。反射スペクトル(反射率データ)が各所望の(事前に与えられた)測定ジオメトリでキャプチャされたとき、工程106で、初期BTF103は、それに応じて初期BTFのパラメータを適合させることによって、キャプチャされた分光反射率データ105に適合される。その結果、最適化されたBTF107が得られる。