(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-26
(45)【発行日】2023-11-06
(54)【発明の名称】アルミニウム置換型CIT-15、その合成及び使用
(51)【国際特許分類】
C01B 39/46 20060101AFI20231027BHJP
B01J 37/10 20060101ALI20231027BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20231027BHJP
B01J 29/70 20060101ALI20231027BHJP
【FI】
C01B39/46
B01J37/10
B01J37/08
B01J29/70 M
(21)【出願番号】P 2021561743
(86)(22)【出願日】2020-04-02
(86)【国際出願番号】 IB2020053128
(87)【国際公開番号】W WO2020212795
(87)【国際公開日】2020-10-22
【審査請求日】2022-10-27
(32)【優先日】2019-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】503148834
【氏名又は名称】シェブロン ユー.エス.エー. インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リュー、クリストファー マイケル
(72)【発明者】
【氏名】ジェンセン、カート オーウェン
【審査官】山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-508351(JP,A)
【文献】Xue Liu et al,Topotactic Conversion of Alkali-Treated Intergrown Germanosilicate CIT-13 into Single-Crystalline ECNU-21 Zeolite as Shape-Selective Catalyst for Ethylene Oxide Hydration,Chem. Eur. J,ギリシャ,Wiley-VCH Verlag GH,2019年,25,pp.4520-4529,DOI:10.1002/chem.201900173
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B
B01J
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CIT-15の構造を有するアルミノゲルマノケイ酸塩モレキュラーシーブを合成する方法であって、前記方法が、
(a)分離したcfi層を含むフィロケイ酸塩が得られるように、アルミノゲルマノケイ酸塩CIT-13モレキュラーシーブの少なくとも一部を脱ゲルマニウムする上で十分な条件の下で前記アルミノゲルマノケイ酸塩CIT-13モレキュラーシーブを液体溶媒系で処理することであって、前記液体溶媒系が水であり、前記液体溶媒系が、無機酸、有機酸、またはその塩を含まないこと、及び
(b)アルミノゲルマノケイ酸塩CIT-15モレキュラーシーブへと前記フィロケイ酸塩を変換する上で十分な条件の下で前記フィロケイ酸塩を焼成すること、
を含み、
しかも、(a)に記載の処理することが
、20℃~100℃の温度で、30分~48時間実施される、前記方法。
【請求項2】
(a)に記載の処理することが、18~30時間実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(a)において、前記液体溶媒系と前記アルミノゲルマノケイ酸塩CIT-13モレキュラーシーブとの重量比が、2:1~500:1の範囲内である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
(b)に記載の焼成することが、350℃~925℃のピーク焼成温度で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
(b)に記載の焼成することが、2~8時間実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
炭化水素原料の脱ろうを行うためのプロセスであって、前記プロセスが、前記炭化水素原料を、請求項1に記載の方法によって調製されたアルミノゲルマノケイ酸塩CIT-15モレキュラーシーブを含む触媒と脱ろう条件下で接触させることを含む、前記プロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年4月16日出願の米国仮出願第62/834,694号に対する優先権及びその利益を主張する。
【0002】
分野
本開示は、モレキュラーシーブフレームワーク構造にアルミニウム原子が組み込まれたモレキュラーシーブCIT-15、その合成、及び有機変換プロセスにおけるその使用に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
ゲルマノケイ酸塩CIT-13は、14員環及び10員環によって拘束された細孔を有する二次元細孔系を有する不規則なモレキュラーシーブである。CIT-13のフレームワーク構造は、シリカ高含有cfi層に関して説明することができ、これらのcfi層は、これらの層の間に存在する酸化ゲルマニウム高含有二重4員環(d4r)複合構造単位を介して連結されている。こうした二次元のシリカ高含有cfi層がこのように呼ばれる理由は、そうした二次元のシリカ高含有cfi層が、CIT-5(CFI)フレームワーク構造に見られるcas複合構造単位、mtt複合構造単位、及びton複合構造単位を含むことによるものである。CIT-13のフレームワーク構造には、国際ゼオライト学会構造委員会(Structure Commission of the International Zeolite Association)によってコード*CTHが割り当てられている。
【0004】
CIT-13の組成及び特徴的なX線回折パターンは、米国特許出願公開公報第2016/0346771号に開示されており、この文献では、置換ベンジル-イミダゾリウム有機構造規定剤を使用するモレキュラーシーブの合成についても記載されている。
【0005】
ゲルマノケイ酸塩フレームワーク中の特定部位(d4r単位など)は、ゲルマニウム原子によって占有されることが好ましい。d4r単位中のGe-O-T(T=SiまたはGe)結合は比較的弱いことから、親ゲルマノケイ酸塩の合成後処理を活用することで、そうした合成後処理を活用しなければ直接的な水熱合成では合成困難であり得る新たなフレームワーク構造を有するモレキュラーシーブを調製することができる。そのような変換を達成するためのそのような合成方針の1つは、構築・解体・組織化・再構築(Assembly-Disassembly-Organization-Reassembly)(ADOR)方法論(例えば、P.Eliasova et al.(Chem.Soc.Rev.2015,44,7177-7206)によって説明されているもの)である。
【0006】
米国特許出願公開公報第2017/0252729号では、ゲルマノケイ酸塩モレキュラーシーブCIT-15、及び水熱的に得られるCIT-13ゲルマノケイ酸塩からのその合成について開示されている。高温下でゲルマノケイ酸塩CIT-13を濃鉱酸で処理することで二次元のフィロケイ酸塩が得られる。この二次元フィロケイ酸塩は、焼成するとトポタクティックな脱水を起こしてモレキュラーシーブCIT-15を形成する。モレキュラーシーブCIT-15は、約5.6Å×3.8Åの寸法を有する10員環チャネルによって規定される細孔を有する三次元フレームワークを有する物質である。
【0007】
触媒用途については、触媒活性部位(アルミニウム原子)などを組み込むことが、モレキュラーシーブへの酸特性付与には重要である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
したがって、モレキュラーシーブフレームワーク構造にアルミニウムが組み込まれたモレキュラーシーブCIT-15をアルミノゲルマノケイ酸塩CIT-13から調製できることが明らかになった。
【0009】
要約
一態様では、CIT-15の構造を有するアルミノゲルマノケイ酸塩モレキュラーシーブを合成する方法が提供され、この方法は、(a)分離したcfi層を含むフィロケイ酸塩が得られるように、アルミノゲルマノケイ酸塩CIT-13モレキュラーシーブの少なくとも一部を脱ゲルマニウムする上で十分な条件の下でアルミノゲルマノケイ酸塩CIT-13モレキュラーシーブを液体溶媒系で処理することであって、液体溶媒が水である、当該処理すること、及び(b)アルミノゲルマノケイ酸塩CIT-15モレキュラーシーブへとフィロケイ酸塩を変換する上で十分な条件の下でフィロケイ酸塩を焼成すること、を含む。
【0010】
別の態様では、炭化水素原料の脱ろうを行うためのプロセスが提供され、このプロセスは、炭化水素原料を、本明細書に記載の方法によって調製されたモレキュラーシーブを含む触媒と脱ろう条件下で接触させることを含む。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施例1の合成時そのままのアルミノゲルマノケイ酸塩CIT-13モレキュラーシーブ生成物の粉末X線回折(XRD)パターンを、CIT-13の再現粉末XRDパターンと比較したものを示す。
【0012】
【
図2】
図2は、実施例1の合成時そのままのアルミノゲルマノケイ酸塩CIT-13モレキュラーシーブ生成物の走査型電子顕微鏡写真(SEM)画像を示す。
【0013】
【
図3】
図3は、実施例2の焼成したアルミノゲルマノケイ酸塩CIT-13モレキュラーシーブ生成物の粉末XRDパターンを、CIT-13の再現粉末XRDパターンと比較したものを示す。
【0014】
【
図4】
図4は、実施例3のアルミノゲルマノケイ酸塩CIT-15モレキュラーシーブ生成物の粉末XRDパターンを、CIT-15の再現粉末XRDパターンと比較したものを示す。
【0015】
【
図5】
図5は、実施例3のアルミノゲルマノケイ酸塩CIT-15モレキュラーシーブ生成物のSEM画像を示す。
【0016】
【
図6】
図6は、実施例4のCIT-15モレキュラーシーブ生成物の粉末XRDパターンを、CIT-15の再現粉末XRDパターンと比較したものを示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
定義
本明細書では、下記の言葉及び表現は、それが使用される場合、以下に記載の意味を有するものとする。
【0018】
「モレキュラーシーブ」という用語は、四面体酸化物の三次元フレームワークを含む結晶性の微小孔性物質を指す。
【0019】
「微小孔性」という用語は、物質が有する孔の直径が2ナノメートル未満であることを指す。
【0020】
「フィロケイ酸塩」という用語は、二次元の層状構造を有するケイ酸塩を指す。
【0021】
「ケイ酸塩」という用語は、そのフレームワーク構造中に酸化ケイ素を含む任意の物質を指す。
【0022】
「アルミノゲルマノケイ酸塩」という用語は、そのフレームワーク構造中にアルミニウム、ゲルマニウム、及び酸化ケイ素を含む任意の物質を指す。
【0023】
「n員環」という用語は、細孔のサイズを規定する四面体原子の数を表す。
【0024】
「脱ゲルマニウムする」という用語は、モレキュラーシーブフレームワーク中に含まれるゲルマニウム原子の少なくとも一部を除去するプロセスを指す。
【0025】
「ゲルマニウム高含有」という用語は、以下に記載の層分離に有利に働く上で十分なゲルマニウムを組成物が有することを指す。一般に、そのような層分離は、SiO2/GeO2モル比が6未満、5.6未満、5.4未満、5未満、4.4未満、または4.35未満である物質で生じる。d4r複合構造単位(例えば、「ゲルマニウム高含有d4r単位」)の文脈で使用される場合、ゲルマニウム含量ははるかに高いものであり、SiO2/GeO2モル比は、0に近づくか、または実際的には0であり得る(すなわち、こうした単位は、実際的にはその全体が酸化ゲルマニウムである)。対照的に、組成物全体の文脈で使用される場合、「ケイ素高含有」という用語は、組成物が層分離を起こしにくいことを指し、層分離が生じにくい理由は、連結単位中のケイ素含量が、あまりにも層分離抵抗性のものであるためと推定される。
【0026】
アルミノゲルマノケイ酸塩CIT-15の合成
アルミノゲルマノケイ酸塩CIT-13モレキュラーシーブ(本明細書では「Al-CIT-13」と略される)をどのように得るかということについて特別な制限は存在しない。当該モレキュラーシーブは、商業的な供給源から購入するか、または当該技術分野で知られる適切な合成プロセスに従って調製することができる。当該技術分野ではAl-CIT-13を調製するための方法が知られており、そうした方法は、例えば、米国特許第10,155,666号に記載されている。当該モレキュラーシーブは、粉末の形態またはスプレー粉末もしくはスプレー顆粒の形態で提供され得る。
【0027】
米国特許出願公開公報第2016/0346771号によって教示されているように、モレキュラーシーブCIT-13は、2θ(o)=6.45(±0.2)、7.18(±0.2)、12.85(±0.2)、18.26(±0.2)、18.36(±0.2)、18.63(±0.2)、20.78(±0.2)、21.55(±0.2)、23.36(±0.2)、24.55(±0.2)、26.01(±0.2)、及び26.68(±0.2)に位置する特徴的なピークのうちの少なくとも5つを示す粉末XRDパターンを有すると説明され得る。別の実施形態では、当該モレキュラーシーブは、これらの特徴的なピークのうちの6つ、7つ、8つ、9つ、または10個を示し得る。
【0028】
Al-CIT-13モレキュラーシーブは、3.8~6.0(例えば、3.8~5.4、3.8~5.0、4.0~6.0、または4.0~5.0)の範囲のSiO2/GeO2モル比を有し得る。付加的または代替的に、Al-CIT-13は、少なくとも50(例えば、50~1000、50~800、100~1000、100~800、200~1000、または225~800)のSiO2/Al2O3モル比を有し得る。
【0029】
アルミノゲルマノケイ酸塩CIT-13モレキュラーシーブは、当該モレキュラーシーブの少なくとも一部が脱ゲルマニウムしてフィロケイ酸塩が得られるように液体溶媒系で処理される。本明細書で用いられる液体溶媒系は水である。
【0030】
好ましくは、液体溶媒系は、無機酸、有機酸、またはその塩を含まない。無機酸の例としては、塩酸、硝酸、硫酸、及びリン酸が挙げられる。有機酸の例としては、シュウ酸、ギ酸、酢酸、及びプロピオン酸が挙げられる。別の態様では、液体溶媒系は、無機塩基、有機塩基、またはその塩を含み得ない。無機塩基の例としては、アンモニア及びアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物及び炭酸塩が挙げられる。有機塩基の例としては、有機アミンが挙げられる。
【0031】
得られるフィロケイ酸塩は、CIT-13が層分離して得られるケイ素高含有cfi層を含む二次元物質として説明することができ、この二次元物質では、ゲルマニウム高含有d4r単位が加水分解によって除去されており、これに対応してシラノール(Si-OH)基が表面に導入されている。得られるフィロケイ酸塩は、シロキシル化ケイ素高含有cfi層(CIT-13フレームワークのもの)から本質的になるアルミノゲルマノケイ酸塩組成物としても説明され得る。いずれの理論による拘束も意図しないが、本明細書に記載の変換では、一般に、こうしたケイ素高含有cfi層の構造は保持され、出発物質と最終生成物とでは、こうしたケイ素高含有cfi層が互いに連結されているかどうかという点が異なると考えられる。
【0032】
こうしたフィロケイ酸塩は、約6.9~約9o(2θ)(7.0(±0.2)~8.1(±0.2)o(2θ)など)の範囲に主要ピークが存在する粉末XRDパターンによって特徴付けることができる。この主要ピークは、その由来元であるゲルマニウム高含有アルミノゲルマノケイ酸塩CIT-13モレキュラーシーブの対応主要ピークよりも高角度に位置する。フィロケイ酸塩で2θ角がこうして高角度へとシフトすることは、d4r構造単位が除去され、ケイ素高含有cfi層のスタッキングがより密なものになることと一致する。この主要ピークの絶対位置にはいくらかの変動が見られる可能性がある。このことは、このピークが、スタッキングした個々の層に起因し得るものであり(すなわち、回折パターンを与えるには各層では不十分である)、回折パターンが見られ得るスタッキングした複数のフィロケイ酸塩層のみによって得られるものであることを理解すれば説明がつき得る。この場合、スタッキングは、フィロケイ酸塩層の間に存在し得る痕跡量の挿入不純物(例えば、水)に対して極度に鋭敏であり、こうした挿入不純物は、パッキング、ひいては回折ピークの位置に影響を与えるものと思われる。付加的または代替的に、シラノールペンダントのレベルが異なっていても、スタッキング距離に影響が及び得る。いずれの場合においても、スタッキング層のd値は、10.5Å~11.5Åの範囲内である。
【0033】
フィロケイ酸塩は、少なくとも25(例えば、25~200、25~100、25~80、25~60、50~200、50~100、50~80、または50~60)のSiO2/GeO2モル比を有し得る。付加的または代替的に、フィロケイ酸塩は、少なくとも50(例えば、50~1000、50~800、100~1000、100~800、200~1000、または225~800)のSiO2/Al2O3モル比を有し得る。
【0034】
Al-CIT-13モレキュラーシーブは、約20℃~100℃(例えば、50℃~100℃、60℃~100℃、70℃~100℃、80℃~100℃、または90℃~100℃)の範囲の温度で、(a)に記載の液体溶媒系で処理され得る。
【0035】
Al-CIT-13モレキュラーシーブは、30分~48時間(例えば、6~36時間または18~30時間)の範囲の時間、(a)に記載の液体溶媒系で処理され得る。
【0036】
(a)に従う処理の間の液体溶媒系とアルミノゲルマノケイ酸塩CIT-13モレキュラーシーブとの重量比は、2:1~500:1以上(例えば、5:1~500:1、10:1~500:1、50:1~500:1、100:1~500、2:1~300:1、5:1~300:1、10:1~300:1、50:1~300:1、または100:1~300:1)の範囲内であり得る。
【0037】
(a)に従ってAl-CIT-13が水で処理された後、得られるフィロケイ酸塩は、懸濁液から分離され得る。適切な分離方法に関して特別な制限は存在せず、あらゆる固液分離手法が考えられ得る。適切な分離方法には、ろ過(吸引ろ過または加圧ろ過など)、遠心分離、及び急速乾燥(噴霧乾燥または噴霧造粒など)が含まれる。
【0038】
ステップ(a)の後、分離されたフィロケイ酸塩は、洗浄ステップ及び/または乾燥に供され得る。
【0039】
考え得るいずれの洗浄剤も使用することができる。使用され得る洗浄剤には、水、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール)、またはそれらの混合物が含まれる。水または水と少なくとも1つのアルコールとの混合物(好ましくは、水とエタノールとの混合物)が好ましく、洗浄剤としては特に水が好ましい。洗浄が適用される場合、洗浄水の伝導度が高くとも1,000μS/cm(例えば、高くとも850μS/cmまたは高くとも700μS/cm)となるまで洗浄プロセスを継続することが好ましい。
【0040】
適切な乾燥方法には、オーブン中での従来の乾燥(バッチ式もしくは連続式での乾燥プロセスとしてのもの)、急速乾燥(噴霧乾燥もしくは噴霧造粒など)、気流乾燥、またはマイクロ波乾燥が含まれる。乾燥は、適切な雰囲気(工業窒素、空気、または酸素含量を下げた空気など)の下、約20℃~200℃(例えば、80℃~190℃または100℃~180℃)の範囲の温度で実施され得る。
【0041】
フィロケイ酸塩は、トポタクティック再編成[(再)組織化及び(再)構築]を起こしてCIT-15を形成することが可能なものである。
【0042】
(a)に従ってアルミノゲルマノケイ酸塩CIT-13が水で処理された後、得られるフィロケイ酸塩は、焼成に供される。焼成を行うと、フィロケイ酸塩は、トポタクティック再編成を起こしてアルミノゲルマノケイ酸塩CIT-15モレキュラーシーブ(本明細書では「Al-CIT-15」と略される)を形成し得る。
【0043】
ポタクティック再編成は、末端シラノール基を含む層状物質(本明細書に記載のように得られるフィロケイ酸塩など)で生じ得る。焼成を行うと、こうした末端シラノール基は縮合して水を放出し、Si-O-Si結合を形成する。このプロセスでは、二次元物質は三次元フレームワーク物質に変換される。いずれの理論による拘束も意図しないが、CIT-15へのフィロケイ酸塩の変換は、この機構によってもたらされるものと考えられる。
【0044】
焼成ステップは、さまざまな温度で、さまざまな時間、実施され得る。典型的なピーク焼成温度は、350℃~925℃以上(例えば、350℃~800℃、350℃~700℃、350℃~650℃、350℃~600℃、400℃~925℃、400℃~800℃、400℃~650℃、400℃~600℃、500℃~925℃、500℃~800℃、500℃~700℃、500℃~650℃、または500℃~600℃)の範囲内に入ることが多い。
【0045】
焼成ステップは、30分~48時間(例えば、1~24時間、1~12時間、2~10時間、3~8時間、または4~6時間)の範囲内であり得る時間、実施され得る。
【0046】
焼成ステップは、不活性ガス(例えば、窒素)、酸素、空気、またはそれらの任意の混合物もしくは組み合わせを含む焼成ガス流中で実施され得る。いくつかの態様では、焼成ガス流は空気を含み得、他の態様では、焼成ガス流は、空気と窒素との混合物を含み得る。さらに、ある特定の態様では、焼成ガス流は、不活性ガス(窒素及び/またはアルゴンなど)であり得る。
【0047】
焼成ステップは、回転式焼成炉、流動床式焼成炉、バッチ式オーブン、及び同様のものを含めて、任意の数のよく知られる装置中で実施され得る。
【0048】
米国特許出願公開公報第2017/0252729号によって教示されているように、モレキュラーシーブCIT-15は、2θ(o)=8.15(±0.2)、10.13(±0.2)、12.80(±0.2)、16.25(±0.2)、19.03(±0.2)、19.97(±0.2)、20.33(±0.2)、23.79(±0.2)、23.91(±0.2)、24.10(±0.2)、24.63(±0.2)、25.77(±0.2)、26.41(±0.2)、27.75(±0.2)、34.7(±0.2)、及び37.78(±0.2)に位置する特徴的なピークのうちの少なくとも5つを示す粉末XRDパターンを有すると説明され得る。別の実施形態、当該モレキュラーシーブは、これらの特徴的なピークのうちの6つ、7つ、8つ、9つ、または10個を示し得る。
【0049】
本開示のAl-CIT-15モレキュラーシーブは、SiO2/GeO2モル比が少なくとも25(例えば、25~200、25~100、25~80、25~60、50~200、50~100、50~80、または50~60)である組成を有し得る。付加的または代替的に、当該Al-CIT-15モレキュラーシーブは、少なくとも50(例えば、50~1000、50~800、100~1000、100~800、200~1000、または225~800)のSiO2/Al2O3モル比を有し得る。
【0050】
本明細書に示される粉末X線回折パターンは、標準的な手法によって収集した。照射はCuKα線で行った。ピークの高さ及び位置(2θの関数としてのもの(θはブラッグ角である))は、ピークの相対強度(バックグラウンドの調整を行ったもの)から読み取ったものであり、d(記録線に対応する格子面間隔)は、計算によって導出可能である。
【0051】
格子定数の変化に起因して特定試料のフレームワーク種のモル比変動から回折パターンに軽度の変動が生じ得る。さらに、結晶が十分に小さいと、ピークの形状及び強度が影響を受け、ピークが顕著にブロード化することになる。焼成もXRDパターンに軽度なシフトを生じさせ得る。こうした軽度のゆらぎはあるものの、基本的な結晶格子構造は不変のまま保持される。
【0052】
吸着及び触媒作用
本開示の方法に従って調製されるAl-CIT-15は、吸着剤として使用するか、または現在の商業的/産業的重要性の多くを含めて、多種多様な有機化合物変換反応プロセスを触媒するための触媒として使用することができる。本開示のモレキュラーシーブの単独使用または1つ以上の他の触媒的に活性な物質(他の結晶触媒を含む)との併用によって効率的に触媒され得る化学的変換プロセスの例としては、触媒に酸活性が必要となるものが挙げられる。
【0053】
本開示の方法によって得られるAl-CIT-15が触媒として使用されることになる場合、Al-CIT-15を、有機変換プロセスにおいて用いられる温度及び他の条件に耐性を有する別の物質と組み合わせることが望ましくあり得る。そのような物質には、触媒的に活性な物質及び触媒的に不活性な物質ならびに合成ゼオライトまたは天然起源のゼオライト、ならびに無機物質(粘土、シリカ、及び/または金属酸化物など)が含まれる。後者は、天然起源のものであるか、またはゼラチン状沈殿物もしくはゲルの形態のもの(シリカと金属酸化物との混合物を含む)であり得る。触媒的に活性な物質を、本開示の方法によって得られるAl-CIT-15と併用することで、ある特定の有機変換プロセスにおける触媒による変換及び/または選択性が改善され得る。不活性な物質は、所与のプロセスにおける変換量を制御するための希釈剤として適切に働き、その結果、生成物を経済的に得ることができ、他の反応速度制御手段を用いることも不要となる。こうした物質を、天然起源の粘土(例えば、ベントナイト及びカオリン)に組み込むことで、商業的な操業条件の下での触媒の粉砕強度が改善され得る。そのような物質(すなわち、粘土、酸化物など)は、触媒のための結合剤として機能する。石油精製では、触媒の取り扱いが粗雑になることが多いことから、触媒が破壊されて粉末様物質になりやすく、これによってプロセスに問題が生じるため、良好な粉砕強度を有する触媒を提供することが望ましい。こうした粘土結合剤は、触媒の粉砕強度を改善する目的で用いられている。
【0054】
本開示の方法によって得られるAl-CIT-15と共に複合物化され得る天然起源の粘土には、モンモリロナイトファミリー及びカオリンファミリーが含まれる。こうしたファミリーには、サブベントナイト(sub-bentonite)、ならびにDixie clay、McNamee clay、Georgia clay、及びFlorida clayとして一般に知られるカオリン、または主な構成鉱物がハロイサイト、カオリナイト、ディッカイト、ナクライト、もしくはアナウキサイトである他のものが含まれる。そのような粘土は、最初に採鉱されたままの状態で使用されるか、または焼成、酸処理、もしくは化学修飾に最初に供され得る。Al-CIT-15との複合物化に有用な結合剤には、無機酸化物、とりわけアルミナも含まれる。
【0055】
前述の物質に加えて、本開示の方法によって得られるAl-CIT-15は、多孔性マトリックス物質(シリカ-アルミナ、シリカ-マグネシア、シリカ-ジルコニア、シリカ-トリア、シリカ-ベリリア、シリカ-チタニアならびに三元組成物(シリカ-アルミナ-トリア、シリカ-アルミナ-ジルコニア、シリカ-アルミナ-マグネシア、及びシリカ-マグネシア-ジルコニアなど)など)と複合物化され得る。微粉化されたAl-CIT-15と無機酸化物ゲルマトリックスとの相対比率は非常にさまざまであり、複合物におけるAl-CIT-15含量の範囲は1~90重量%(例えば、2~70重量%)である。
【0056】
一態様では、本明細書で提供されるAl-CIT-15は、炭化水素脱ろう触媒として有用であり得る。そのような用途では、水素化-脱水素化機能を有する触媒となる能力を有する金属成分と組み合わせてAl-CIT-15を用いることが望ましくあり得る。適切な金属成分には、タングステン、バナジウム、モリブデン、レニウム、ニッケル、コバルト、クロム、マンガン、または貴金属(白金もしくはパラジウムなど)が含まれる。そのような成分は、交換によって組成物中に組み込むか、組成物中に含浸させるか、または組成物と物理的に密に混合することができる。そのような成分は、組成物中または組成物上に含侵させることができ、この含侵は、例えば、白金の場合、白金金属含有イオンを含む溶液で処理することなどによって行われる。したがって、適切な白金化合物には、塩化白金酸、塩化白金、及び白金アンミン錯体を含むさまざまな化合物が含まれる。
【0057】
水素化金属(複数可)の量は、触媒の重量に基づいて0.1~30重量%であり得る。例えば、水素化金属の量は、少なくとも0.1重量%、少なくとも0.3重量%、少なくとも0.5重量%、少なくとも0.75重量%、少なくとも1.0重量%、少なくとも1.5重量%、少なくとも2重量%、または少なくとも5重量%であり得る。付加的または代替的に、水素化金属の量は、30重量%以下、(25重量%以下、20重量%以下、15重量%以下、10重量%以下、5重量%以下、または2重量%以下など)であり得る。1つ以上の貴金属が水素化金属として選択される態様では、水素化金属の量は、2重量%以下(1.5重量%以下または1.0重量%以下など)であり得る。水素化金属を含む触媒は、使用前に硫化処理もされ得る。
【0058】
本開示の方法によって得られるAl-CIT-15を含む触媒は、潤滑油の構成原料の脱ろう触媒において特に有用である。そのような原料は、潤滑油沸点範囲で沸騰するろう含有原料であり、ASTM D86またはASTM D2887によって測定すると典型的には650°F(343℃)を10%上回る蒸留点を有する。そのような原料は、多くの供給源から得られるものであり得、溶媒精製プロセスに由来する油(ラフィネート、部分的に溶媒脱ろうされた油、脱アスファルト油、蒸留物、減圧軽油、コーカ軽油、軟ろう、ろう下油、及び同様のものなど)、ならびにフィッシャートロプシュワックスなどである。好ましい原料は、軟ろう及びフィッシャートロプシュワックスである。軟ろうは、典型的には、溶媒またはプロパンの脱ろうによって炭化水素原料から得られる。軟ろうは、いくらかの残留油を含み、典型的には脱油される。ろう下油は、脱油軟ろうから得られる。フィッシャートロプシュワックスは、フィッシャートロプシュ合成プロセスによって調製される。
【0059】
適切な脱ろう条件には、200℃~450℃の温度、0psig~1000psig(6.9MPag)の圧力、0.1時-1~10時-1の液空間速度、及び0.5~10の水素/炭化水素モル比が含まれ得る。
本発明に関連して、以下の内容を更に開示する。
[1]
CIT-15の構造を有するアルミノゲルマノケイ酸塩モレキュラーシーブを合成する方法であって、前記方法が、
(a)分離したcfi層を含むフィロケイ酸塩が得られるように、アルミノゲルマノケイ酸塩CIT-13モレキュラーシーブの少なくとも一部を脱ゲルマニウムする上で十分な条件の下で前記アルミノゲルマノケイ酸塩CIT-13モレキュラーシーブを液体溶媒系で処理することであって、前記液体溶媒が水である、前記処理すること、及び
(b)アルミノゲルマノケイ酸塩CIT-15モレキュラーシーブへと前記フィロケイ酸塩を変換する上で十分な条件の下で前記フィロケイ酸塩を焼成すること、
を含む、前記方法。
[2]
(a)に記載の処理することが、約20℃~100℃の温度で実施される、[1]に記載の方法。
[3]
(a)に記載の処理することが、30分~48時間実施される、[1]に記載の方法。
[4]
(a)に記載の処理することが、18~30時間実施される、[1]に記載の方法。
[5]
(a)において、前記液体溶媒系と前記アルミノゲルマノケイ酸塩CIT-13モレキュラーシーブとの重量比が、2:1~500:1の範囲内である、[1]に記載の方法。
[6]
(a)において、前記液体溶媒系が、無機酸、有機酸、またはその塩を含まない、[1]に記載の方法。
[7]
(b)に記載の焼成することが、350℃~925℃のピーク焼成温度で実施される、[1]に記載の方法。
[8]
(b)に記載の焼成することが、2~8時間実施される、[1]に記載の方法。
[9]
炭化水素原料の脱ろうを行うためのプロセスであって、前記プロセスが、前記炭化水素原料を、[1]に記載の方法によって調製されたアルミノゲルマノケイ酸塩CIT-15モレキュラーシーブを含む触媒と脱ろう条件下で接触させることを含む、前記プロセス。
【実施例】
【0060】
下記の実例は、限定を意図するものではない。
【0061】
SiO2/Al2O3(SAR)モル比及びSiO2/GeO2(SGR)モル比は、誘導結合プラズマ(ICP)元素分析によって決定した。
【0062】
窒素物理吸着測定は、77Kで実施した。乾燥窒素流の存在下で試料を最初に400℃で6時間前処理して、水または有機物のような吸着揮発性物質をすべて除去した。外表面積(Sext)及び微小孔容積(Vmicro)は、t-プロット法によって決定した。P/P0=0.990において全細孔容積(Vtot)を計算した。
【0063】
酸点密度は、n-プロピルアミンの昇温脱離(TPD)を行って物質のブレンステッド酸点分布を定量化すること(T.L.M.Maesen et al.(J.Catal.1999,182,270-273)によって記載されているものなど)によって決定した。
【0064】
実施例1
アルミノゲルマノケイ酸塩CIT-13(Al-CIT-13)の合成
10.73gの1,2-ジメチル-3-(3-メチルベンジル)イミダゾリウムヒドロキシド水溶液(19.42重量%)及び0.40gのGeO2をTeflon(登録商標)製の23mL容器に入れた。次に、0.35gの385HUA Y型ゼオライト(Tosoh、SiO2/Al2O3モル比=100)及び0.58gの390HUA Y型ゼオライト(Tosoh、SiO2/Al2O3モル比=500)を添加した。N2気流を穏やかに容器に吹き付けることによって水を蒸発させた。H2O/(SiO2+GeO2)モル比が10となった時点で、0.40gのHFを添加し、混合物をスパーテルでホモジナイズした。最終的にゲルマノケイ酸塩CIT-13の種結晶(いずれのアルミニウムも含まないもの)を0.03g添加し、混合物をスパーテルでホモジナイズした。得られた最終モル比は下記の通りである:
1 SiO2:0.005 Al2O3:0.25 GeO2:0.625 OSDA-OH:0.625 HF:12.5 H2O
オートクレーブ中で容器を密封し、回転条件(43rpm)の下、160℃で加熱した。純相生成物が得られるまで生成物を定期的に少量採取して粉末XRD分析を行った。固体生成物を遠心分離によって回収し、脱イオン水及びメタノールで洗浄した後、オーブン中、95℃で乾燥させた。
【0065】
追加の実例試料を上記のように調製した。この調製では、変更点として、ゲルのモル比が下記の範囲に入るように385HUA Y型ゼオライトと390HUA Y型ゼオライトとの比の変更を行った:
1 SiO2:0.002-0.004 Al2O3:0.25 GeO2:0.625 OSDA-OH:0.625 HF:12.5 H2O
【0066】
図1には各生成物の粉末XRDパターンが示され、これらの粉末XRDパターンは、一貫して各生成物がCIT-13であることを示すものである。
図2は、合成時そのままのAl-CIT-13モレキュラーシーブ生成物のSEM画像を示す。
【0067】
表1には各生成物の化学特性のまとめが示される。
【0068】
実施例2
Al-CIT-13の焼成
実施例1で得られた各Al-CIT-13生成物を、空気流の下で昇温速度を1℃/分として550℃で5時間焼成した。
【0069】
図3には各焼成Al-CIT-13生成物の粉末XRDパターンが示され、これらの粉末XRDパターンは、焼成してOSDAを除去した後に各物質が安定であることを示す。
【0070】
実施例3
アルミノゲルマノケイ酸塩CIT-15(Al-CIT-15)の合成
実施例2で調製した各焼成Al-CIT-13(0.1g)を別々に25mLの脱イオン水と混合した。次に、各混合物を、撹拌しながら95℃の油浴中で24時間加熱した。その後、各混合物を遠心分離し、回収した固体を真空オーブン中、室温で乾燥させた。次に、乾燥固体を、空気流の下で昇温速度を1℃/分として550℃で5時間焼成した。
【0071】
図4には各焼成生成物の粉末XRDパターンが示され、これらの粉末XRDパターンは、一貫して各生成物がCIT-15であることを示すものである。
図5は、Al-CIT-15モレキュラーシーブ生成物のSEM画像を示す。
【0072】
実施例4
実施例3を繰り返した。ここでは変更点として、脱イオン水の代わりに0.1MのHClで焼成Al-CIT-13を処理した。
【0073】
【0074】
表1には実施例1~4で調製した生成物の化学特性及び窒素物理吸着特性のまとめが示される。
【0075】
表1に示されるように、実施例4で行ったようにAl-CIT-13を希釈鉱酸で処理すると、CIT-13からアルミニウムが除去されて、触媒的に不活性なCIT-15物質が得られる。
【表1】
【0076】
実施例5
実施例3及び実施例4において調製した各生成物の酸点密度を、n-プロピルアミンの昇温脱離によって決定した。結果は表2に示される。
【表2】