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特許7374228構造最適化シリコン粒子を用いたメチルクロロシランの調製方法
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  • 特許-構造最適化シリコン粒子を用いたメチルクロロシランの調製方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-26
(45)【発行日】2023-11-06
(54)【発明の名称】構造最適化シリコン粒子を用いたメチルクロロシランの調製方法
(51)【国際特許分類】
   C07F 7/16 20060101AFI20231027BHJP
   C01B 33/107 20060101ALI20231027BHJP
【FI】
C07F7/16
C01B33/107 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021573959
(86)(22)【出願日】2019-06-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-15
(86)【国際出願番号】 EP2019065735
(87)【国際公開番号】W WO2020249237
(87)【国際公開日】2020-12-17
【審査請求日】2021-12-13
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】390008969
【氏名又は名称】ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
【住所又は居所原語表記】Hanns-Seidel-Platz 4, D-81737 Muenchen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 一真
(72)【発明者】
【氏名】カール-ハインツ、リンベック
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル、ミュラー
(72)【発明者】
【氏名】ナタリア、ソフィナ
【審査官】神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-059983(JP,A)
【文献】特開平06-234776(JP,A)
【文献】特開昭60-078992(JP,A)
【文献】特開平11-071383(JP,A)
【文献】特開平09-194490(JP,A)
【文献】特開平09-194489(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0305939(US,A1)
【文献】国際公開第2019/068335(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 7/16
C01B 33/107
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動床反応器内において、一般式1のメチルクロロシラン
(CHSiCl4-n-m (1)
[式(1)中、nは1~3の値を表し、mは0又は1の値を表す。]
を製造する方法であって、
クロロメタンを含む反応ガスを、シリコンを含む粒子状接触剤と、銅触媒の存在下で反応させ、
運転造粒物、すなわち前記流動床反応器に導入された造粒物又は造粒混合物は、構造パラメータSによって記述されたシリコン含有粒子Sを少なくとも1質量%含み、Sは、少なくとも0の値を有し、以下のように計算される、前記方法。
【数1】
式(1)中、
φは、対称加重真球度因子であり、前記対称加重真球度因子φ は、対称性因子と真球度との積であり、前記対称性因子は、粒子像の重心を通る端から端までのルートを描いた時の2つのルート部分の最小の比として定義され、前記真球度は、粒子像の面積と同じ面積を有する円の円周と粒子像の円周との比として定義され、前記粒子Sの前記対称加重真球度因子φ が0.70~1であり、
ρSDは、構造パラメータS≧0を有する運転造粒物の粒状画分のかさ密度[g/cm]であり、前記かさ密度ρ SD が、0.8~2.0g/cm であり、
ρは、構造パラメータS≧0を有する前記粒子Sの平均粒子固形分密度[g/cm]であり、前記平均粒子固形分密度ρ が、2.20~2.70g/cm である。]
【請求項2】
前記運転造粒物が、70~1000μmの粒径パラメータd50を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記シリコンが、シリコン質量基準で98%~99.5%の純度を有する冶金用シリコン(Simg)である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記銅触媒が、CuCl、CuCl、CuO及びそれらの混合物から選択される、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
温度が220℃~380℃である、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記反応ガスが、前記反応器に入る前に少なくとも50体積%のMeClを含む、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
製造された一般式1の前記メチルクロロシランが、ジメチルジクロロシラン(DMDCS)である、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動床反応器内において、クロロメタンを含む反応ガスと、構造最適化シリコン粒子を含む粒子状シリコン接触剤とから、メチルクロロシランを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン製品の市場の情勢は、そこで活動する企業にとって、急速に変化している。需要の変化、品質要求の高まり、原料及びエネルギーの価格変動、並びに規制の強化などにより、可能な限りの経済効果を得るためには、高度な事業の敏捷性及び効率性が求められている。
【0003】
特に重要な製品群は、技術的説明としてシリコーン:ポリシロキサンのクラス、に属する。シリコーンの工業生産は、オルガノクロロシランの加水分解とそれに続く縮合によって行われる。工業用シリコン化学において、エチルシロキサンが主流であり、したがって、対応する出発物質であるクロロ(メチル)シランの合成は、経済的に最も重要である。後者は、いわゆるMueller-Rochow直接合成(MRDS)により工業的にほとんど製造されている。
【0004】
MRDSでは、炭素結合した塩素を含む有機化合物(通常はクロロメタン(MeCl))とシリコンとを、触媒及び必要に応じて適切な促進剤の存在下で通常は反応させることにより、反応式(1)に従って、オルガノクロロシラン、特にクロロ(メチル)シラン(MCS)を得ることができる。
【0005】
(1)Si+CH3Cl(触媒、必要に応じて促進剤)
→ (CH3nmSiCl4-n-m+副生成物(n=1~3、m=0、1)
【0006】
MRDSの代表的な主生成物及び副生成物、並びにそれらの典型的な割合を表1にまとめた。炭化水素及び金属塩化物などの不純物は、副生成物の構成要素である場合もある。高純度のオルガノクロロシランを製造するには、一般的に蒸留が続いて行われる。
【0007】
【表1】
【0008】
可能な限り高い生産性(単位時間及び反応体積あたりに生成するオルガノクロロシランの量)及び可能な限り高い選択性(特に最も重要な目的生成物であるジメチルジクロロシラン(DMDCS、(CH32SiCl2)に基づく)に加えて、プラント全体の安全かつ柔軟な運転に関連した可能な限りのシリコン利用も求められている。DMDCSは、例えば直鎖状シロキサン及び環状シロキサンを製造する際に必要とされ、これらのシロキサンはさらに重合されて広範囲のポリジメチルシロキサンを製造することができる。また、洗浄目的での停止同士間の可能な限り長い反応器の運転時間も求められる。
【0009】
MRDSは非連続的にも連続的にも行うことができる。どちらの場合も、オルガノクロロシランの大規模な工業生産は、原則として流動床反応によって行われ、クロロメタンを含む反応ガスが同時に流動化媒体として機能する。MRDSの流動床反応は、多くの異なる影響因子及び技術分野が交錯する複雑なプロセスである。
【0010】
MRDSの運転性能に影響を与える最も重要なパラメータは、原則として、DMDCSの選択性、生産性、高沸点副生成物の生成の少なさ、バイシラン(bysilane)の選択性及び/又は比率(バイシランとは、MRDSで生成する、DMDCS以外のすべてのシランのこと)、MeClの変換、並びにシリコン利用である。
【0011】
既知の方法は基本的に複雑で、エネルギー集約的である。したがって、例えば、反応器の冷却はかなりのコスト要因となる。流動床反応器におけるMRDSの運転性能は、調節可能な反応パラメータに加えて、特に原料に決定的に依存する。連続プロセスモードでは、特に、反応成分であるシリコン及びMeCl、並びに触媒及び必要に応じて促進剤を上記反応条件で反応器に導入することがさらに必要であり、これはかなりの技術的複雑さを伴う。非連続的なMRDSプロセスも通常は同様に複雑である。そのため、可能な限り高い生産性(単位時間及び反応体積あたりに生成するオルガノクロロシランの量)及び所望の目的生成物(典型的にはDMDCS)に基づく可能な限り高い選択性を実現することが重要である。
【0012】
オルガノクロロシランの合成のための、化学組成及び粒径分布の観点からのシリコンの要求(demands)は、比較的よく研究されている。一方、シリコン粒子の構造的な構成や、ハロゲン化物を含む反応ガスとの反応に与えるその影響については、金属間化合物(intermetallic phases)の観点からしか説明されていないのが現状である。特に高性能なクロロシラン製造方法を運転するために、すべての3つの影響因子がどのように相互作用しなければならないかは、これまで説明されていない。
【0013】
したがって、独国特許出願公開第4303766A1号明細書は、銅触媒及び必要に応じて促進剤物質の存在下で、シリコン及びクロロメタンからメチルクロロシランを製造する方法を開示しており、使用されたシリコンの表面積に基づく個々のメチルクロロシランの製造速度は、シリコンの構造を通じて制御され、上記方法は、所望の構造を有するシリコンが構造指数QFに従って選択されることを特徴とし、構造指数QFは、以下のように決定される。
【0014】
a)シリコンの試験片を切り開き、切断面を形成する。
b)切断面上で、細長い形状を有する金属間化合物の析出面積を合計して、
面積数Aを形成する。
c)切断面上で、円形の金属間化合物の析出面積を合計して、
面積数Bを形成する。
d)面積数Aと面積数Bとから構造指標QFとして記述される商が形成される。
【0015】
種々のシリコン構造型のQFとMRDSでのそれらの挙動との相関関係により、シリコンの最適な構造的特徴を特定することができ、その結果、所望のメチルクロロシランの選択性と収率を所望の方向に制御することができる。この公報では、「構造」という用語は、多結晶シリコンの結晶の大きさと、製造方法における冷却及び凝固の過程で、主な不純物、例えばAl、Ca、Fe及びTiからシリコンとともに析出する金属間化合物の組成と位置に関する。このように、この公報は、オルガノクロロシランの合成のための化学組成の観点から、シリコンについて既に言及した要求に関する発見を単にさらに詳しく説明するものに過ぎない。さらに、この種の操作には、特注のシリコン種の購入、及び/又は対応するシリコンの社内生産や膨大な分析作業の実施が必要になる。構造指標QFは、本発明の構造パラメータSを改良するために使用してもよいが、必須ではない。
【0016】
米国特許出願公開第2010/0160664A1号明細書は、アルキルハライドと、シリコンからなる接触剤と、銅触媒及び促進剤添加剤群を含む触媒系との反応によりアルキルハロシランを製造する方法を開示しており、銅触媒は粒子状ハロゲン化銅として使用されている。銅触媒粒子は、以下のように規定されている:
【0017】
・真球度因子が0.6~1であること
・d50の値が50~1500μmである粒径分布
・0.1~10μmの細孔径で0.2ml/g以下の多孔質微細構造
・流動性が少なくとも8であること
【0018】
この公報によると、上記方法は、少なくとも210g(シラン)/h/kgの活性と、上記反応から得られたシランに対して少なくとも85質量%のDMDCS選択性とをもたらす。したがって、この公報は、単に触媒粒子の構造を説明しているだけであり、アルキルハロシランの製造において可能な限り最大の生産性と経済性を生み出すために、シリコン粒子と運転造粒物(operating granulation)(流動床反応器に導入される造粒物)が有さなければならない構成については何も示していない。
【0019】
副生成物が望ましくないほど多く生成することに加えて、未変換のシリコンによっても、上記方法のコストが基本的に増加する。
【0020】
流動床反応器内でのクロロシランの製造では、使用されるシリコン粒子の細粒画分を特に除去することが知られている。例えば、Lobusevich、N.P et al、“Effect of dispersion of silicon and copper in catalysts on direct synthesis”、Khimiya Kremniiorganich.Soed.1988、27~35には、70~500μmのシリコンのための運転造粒物が記載されており、70μmは最小粒径、500μmは最大粒径(粒径限界又は範囲限界)であり、値は等価直径(equivalent diameters)であるとされている。Lobusevichらは、メチルクロロシラン、エチルクロロシラン及びトリクロロシランの合成のための接触剤粒径を選択する際には、上記方法の最大の安定性及び効率を達成するために、固体と気体との間の相互作用を考慮する必要があると報告している。全ての場合において(触媒を使用する場合も、触媒を使用しない場合も)、シリコンの粒径を大きくすると、それぞれの目的生成物(本発明ではDMDCS)に対する選択性が向上する。著者らは、シリコン粒子の構造がメチルクロロシランの合成に影響を与えることをさらに報告している。このようにして、同種の(すなわち、純度、品質、及び二次元素/不純物の含有量の点で典型的なばらつきの範囲内で同一であるため、最大の比較可能性がある)シリコンから異なる製粉方法で製造された、同等の粒径分布を有するシリコン造粒物が、MRDSにおいて異なる活性を示すことが分かった。これは、ボールミル又はローラーミルを用いて製造された造粒物を例にして調査された。ボールミルによる造粒物の場合、活性/反応速度はローラーミルによる造粒物よりも10~30%高く、著者らは、これは粒子の構造に起因するとしている。ローラーミルによる造粒物の粒子と直接比較すると、ボールミルによる造粒物の粒子はより不規則な形状を有していた。
【0021】
しかしながら、粒径を大きくすると、反応を促進するためにより高い反応温度が必要になり、流動床を生成するためにより高いガス速度が必要になるため、エネルギーコストが原理的に大きくなる。Lobusevichらは、多分散粒子混合物においてより小さいシリコン粒子の割合を使用すると、表面積の増加によりシリコンの活性が向上すると報告しているが、小さいシリコン粒子の割合を使用すると、反応器からのシリコン粒子の排出量の増加及び粒子の凝集が起こる可能性があるため、困難が伴う。したがって、Lobusevichらによれば、エネルギーコストが高くなるにもかかわらず、使用されるシリコン粒子の粒径分布の幅を小さくし、平均粒径を大きくし、粒子の表面構造の対称性及び規則性を最小化することが有利であるという。
【発明の概要】
【0022】
本発明は、MRDSによるメチルクロロシラン製造のための特に経済的な方法を提供することを目的としている。
【0023】
したがって、本発明は、流動床反応器内において、一般式1のメチルクロロシラン
(CH3nmSiCl4-n-m (1)
[式(1)中、nは1~3の値を表し、mは0又は1の値を表す。]
を製造する方法を提供する。ここで、クロロメタンを含む反応ガスを、シリコンを含む粒子状接触剤と、銅触媒の存在下で反応させ、ここで運転造粒物、すなわち流動床反応器に導入された造粒物又は造粒混合物が、構造パラメータSによって記述されたシリコン含有粒子Sを少なくとも1質量%含み、ここでSは、少なくとも0の値を有し、以下のように計算される:
【0024】
【数1】
【0025】
式(1)中、
φSは、対称加重真球度因子(symmetry-weighted sphericity factor)であり、
ρSDは、かさ密度(poured density)[g/cm3]であり、
ρFは、平均粒子固形分密度[g/cm3]である。
【0026】
今回、驚くべきことに、ある構造特性を有するシリコン含有粒子を運転造粒物において用いた場合、流動床反応器内でのメチルクロロシランの製造を特に経済的に行うことができることが判明した。この効果は、運転造粒物における構造最適化シリコン粒子Sの割合が1質量%で、すでに顕著であることが判明した。正確にそのようなシリコン粒子Sを使用することにより、摩耗による粉塵の形成が減少し、Lobusevich、N.P et al、“Effect of dispersion of silicon and copper in catalysts on direct synthesis”、Khimiya Kremniiorganich.Soed.1988、27~35に記載されている70μm未満のダストフラクションが上記製造方法において持続的に減少する。これにより、従来技術と比較していくつかの利点が得られる:
【0027】
・DMDCSの高い選択性
・高いボイラーの形成が減少
・シリコン利用の向上(粉塵の排出による損失の低下)
・粒径分布に関してより均質な接触剤が得られ、
その結果、流動床の流体力学的特性が改善される
・微粉粒子又はダストフラクション(粒径70μm未満の粒子)の凝集による
プラント部品の詰まり及び/又は閉塞の減少
・粒子混合物の搬送性の向上
・構造最適化粒子による摩耗の低減
・反応器の運転時間の延長
【0028】
粒子の不規則性/不定形性に応じてシリコン造粒物の活性が増加するというLobusevichらの不利益も克服される。これは、定義上、構造パラメータSが0以上の粒子Sは、比較的高い対称性を持っているからであり、運転造粒物中の0以上の粒子Sの質量分率が増加すると活性も増加することがわかる。驚くべきことに、反応器からの比較的小さなシリコン粒子の排出量の増加や凝集効果の発生など、現在の技術的理解では平均粒子径を小さくする際に予想される悪影響は観察されなかった。それどころか、本発明の方法では、先に述べた利点に加えて、接触剤の流動化特性が改善された。
【0029】
「造粒物」という用語は、例えば、シリコン含有溶融物のいわゆる微粒子化又は造粒、及び/又は、破砕・製粉プラントによる塊状シリコンの粉砕によって製造できるシリコン含有粒子の混合物を意味すると理解される。塊状シリコンは、好ましくは10mm超、特に好ましくは20mm超、とりわけ好ましくは50mm超の平均粒径を有してもよい。造粒物は、基本的には、篩い分け(sieving)及び/又は篩い分け(sifting)によって画分に分類されてもよい。
【0030】
異なる造粒物の混合物を造粒混合物と表現してもよく、造粒混合物を構成する造粒物を造粒画分と表現してもよい。造粒画分は、例えば、粗粒画分及び細粒画分のように、画分の1つ以上の特性に応じて互いに等級付けされてもよい。造粒混合物は、原則として、定義された相対的な画分で複数の造粒画分に等級付けすることができる。
【0031】
運転造粒物は、流動床反応器に導入された造粒物又は造粒混合物を表す。
【0032】
対称加重真球度因子φsは、対称性因子と真球度との積である。両方の形状パラメータは、ISO 13322に準拠した動画像解析によって決定可能であり、得られた値は、運転造粒物の関連粒子混合物の特定のサンプルに対する体積加重平均を表す。
【0033】
粒子Sの対称加重真球度因子は、好ましくは少なくとも0.70、特に好ましくは少なくとも0.72、非常に特に好ましくは少なくとも0.75、とりわけ好ましくは少なくとも0.77であり、最大で1である。
【0034】
粒子の真球度は、粒子像の表面積とその外周との比を表す。したがって、球状粒子は1に近い真球度を有し、ギザギザで不規則な粒子像は0に近い真円度を有する。
【0035】
粒子の対称性因子を決定する際には、まず粒子像の重心を決定する。次に、固有の重心を通る端から端までの複数のルートを各測定方向に描き、2つの得られたルート部分の比を測定する。これらの半径の最小の比から対称性因子の値を算出する。円及び正方形のように対称性の高い図形の場合、固有の対称性因子の値は1になる。
【0036】
動画像解析によって決定可能なさらなる形状パラメータには、幅/長さの比(粒子の伸展/伸長の指標)と粒子の凸性とがある。しかしながら、上記パラメータは、対称性因子の形で構造パラメータSに間接的に既に含まれているため、本発明の方法で決定する必要はない。
【0037】
かさ密度は、粒子状固体(いわゆるバルク固体)と、粒子間の空隙を満たす連続流体(例えば空気)との混合物の密度として定義される。構造パラメータS≧0を有する運転造粒物の粒状画分のかさ密度は、好ましくは0.8~2.0g/cm3、特に好ましくは1.0~1.8g/cm3、非常に特に好ましくは1.1~1.6g/cm3、とりわけ好ましくは1.2~1.5g/cm3である。かさ密度は、DIN ISO 697に準拠して、バルク物質の占有体積に対するバルク物質の質量の比によって決定できる。
【0038】
構造パラメータS≧0を有する粒状画分の粒子Sの平均質量加重粒子固形分密度ρFは、好ましくは2.20~2.70g/cm3、特に好ましくは2.25~2.60g/cm3、非常に特に好ましくは2.30~2.40g/cm3、とりわけ好ましくは2.31~2.38g/cm3である。固体物質の密度の決定は、DIN 66137-2:2019-03に記載されている。
【0039】
構造パラメータS≧0を有する粒状画分は、好ましくは少なくとも1質量%、特に好ましくは少なくとも5質量%、非常に特に好ましくは少なくとも10質量%、とりわけ好ましくは少なくとも20質量%の質量画分で運転造粒物中に存在する。
【0040】
運転造粒物は、好ましくは70~1500μm、特に好ましくは80~1000μm、非常に特に好ましくは100~800μm、とりわけ好ましくは120~600μmの粒径パラメータd50を有する。
【0041】
粒径パラメータd90と粒径パラメータd10との差は、造粒物又は造粒画分の幅の指標となる。造粒物又は造粒画分の幅とそれぞれの粒径パラメータd50との商は、相対的な幅に相当する。これは、例えば、非常に異なる平均粒径を有する粒径分布を比較するために使用することができる。
【0042】
運転造粒物の造粒物の相対的な幅は、望ましくは0.1~500、好ましくは0.25~100、特に好ましくは0.5~50、とりわけ好ましくは0.75~10である。
【0043】
粒径及び粒径分布の測定は、ISO 13320(レーザー回折)及び/又はISO 13322(画像解析)に準拠して実施できる。粒径分布からの粒径パラメータの計算は、DIN ISO 9276-2に準拠して実施できる。
【0044】
さらに好ましい実施形態では、運転造粒物は、80~1800cm2/g、好ましくは100~600cm2/g、特に好ましくは120~500cm2/g、とりわけ好ましくは150~350cm2/gの質量加重表面積を有する。
【0045】
運転造粒物の造粒混合物は、好ましくはp-モーダル体積加重分布密度関数を有し、ここでp=1~10、好ましくはp=1~6、特に好ましくはp=1~3、とりわけ好ましくはp=1又は2である。例えば、2モーダル分布密度関数は、2つの最大値を有する。
【0046】
ポリモーダル(例えばp=5~10)の分布密度関数を有する造粒混合物を接触剤として使用することにより、篩い分け効果(流動床、例えば二分割(bipartite)流動床、における個々の粒状画分の分離)を回避することが可能となる。これらの効果は、特に、造粒混合物の分布密度関数の最大値が遠く離れている場合に生じる。
【0047】
接触剤とは、特に、反応ガスと接触している造粒混合物のことであり、それは触媒及び促進剤と混合されていてもよい。上記剤は、最大でも5質量%、特に好ましくは最大でも2質量%、とりわけ好ましくは最大でも1質量%の他の元素を不純物として含むシリコン含有造粒混合物であることが好ましい。上記剤は、通常は純度98質量%~99.5質量%の冶金用シリコン(metallurgical silicon)(Simg)であることが好ましい。典型的な接触剤は、例えば、シリコン金属を98質量%含有する組成物であり、残りの2質量%は、通常は非常に大部分がFe、Ca、Al、Ti、Cu、Mn、Cr、V、Ni、Mg、B、C、P及びOから選択される元素で構成されている。接触剤は、Co、W、Mo、As、Sb、Bi、S、Se、Te、Zr、Ge、Sn、Pb、Zn、Cd、Sr、Ba、Y及びClから選択される元素をさらに含んでもよい。ただし、純度が75質量%~98質量%と低いシリコンを使用することも可能である。しかしながら、シリコン金属の割合は、望ましくは75質量%超、好ましくは85質量%超、特に好ましくは95質量%超である。
【0048】
銅触媒は、銅を含み、上記反応において存在し、例えば金属、合金及び/又は塩の形態で運転造粒物及び/又は接触剤に添加することができる。特に、触媒活性元素の塩化物及び/又は酸化物あるいは合金が関係していてもよい。好ましい化合物は、CuCl、CuCl2、CuO又はそれらの混合物である。運転造粒物及び/又は接触剤は、例えばSn、Zn及び/又は塩化亜鉛などの促進剤をさらに含んでいてもよい。触媒及び/又は促進剤の構成は、本発明の方法において重要ではなく、これらは任意の(構造的)形態で添加することができる。
【0049】
使用されるシリコン及び接触剤の元素組成は、例えば、蛍光X線分析(XFA)、ICP系分析法(ICP-MS、ICP-OES)及び/又は原子吸光分析(AAS)によって決定することができる。
【0050】
触媒は、シリコンに対して、好ましくは0.1質量%~20質量%、特に好ましくは0.5質量%~15質量%、とりわけ好ましくは0.8質量%~10質量%、特別に好ましくは1質量%~5質量%の割合で流動床反応器内に存在する。
【0051】
構造パラメータS<0及びS≧0を有する粒状画分は、好ましくは、予め調製された造粒混合物として流動床反応器に供給される。接触剤の任意のさらなる構成要素が同様に存在してもよい。運転造粒物における構造パラメータS≧0を有する画分の、少なくとも1質量%という本発明での割合により、後者は特に優れた流量特性とそれによる搬送特性を有するものとなる。
【0052】
構造パラメータS<0及びS≧0を有する粒状画分は、特に別々の供給導管及び容器を介して、流動床反応器に別々に供給してもよい。混合は、原則として、流動床の形成時(in situ)に行われる。接触剤の任意のさらなる構成要素も同様に、別々に供給してもよく、あるいは、2つの粒状画分のいずれかの構成要素として供給してもよい。
【0053】
上記方法は、好ましくは220℃~380℃、特に好ましくは280℃~350℃の温度で実施される。流動床反応器内の絶対圧力は、好ましくは0.05~1Mpa、特に好ましくは0.08~0.8Mpa、とりわけ好ましくは0.1~0.6Mpaである。
【0054】
反応ガスは、反応器に入る前に、少なくとも50体積%、好ましくは少なくとも70体積%、特に好ましくは少なくとも90体積%のMeClを含有することが望ましい。反応ガスは、MeClに加えて、クロロシラン、メチルクロロシラン、炭化水素、HCl、H2、CO、CO2、O2及びN2からなる群から選択される1つ又は複数の成分をさらに含んでいてもよい。これらの成分は、例えばリサイクルガス中の不純物として存在していてもよく、及び/又は、所望の選択性を制御するために意図的に使用してもよい。
【0055】
反応ガスは、反応に関与しないキャリアーガス、例えば、窒素、又はアルゴンなどの希ガスをさらに含んでいてもよい。
【0056】
反応ガスの組成は、反応器に供給される前に、ラマン分光法や赤外分光法、ガスクロマトグラフィーによって決定されるのが一般的である。これは、スポットチェックの方法で採取したサンプル及びその後の「オフライン分析」、あるいはシステムに接続された「オンライン」分析器のいずれかによって行うことができる。
【0057】
流動床反応器における反応器直径に対する流動床の高さの商は、10:1~1:1、好ましくは8:1~2:1、特に好ましくは6:1~3:1であることが望ましい。流動床の高さとは、流動床の厚さ又は範囲のことである。
【0058】
一般式1の好ましいオルガノクロロシランは、ジメチルジクロロシランである。したがって、上記方法は、ジメチルジクロロシランの選択性及び生産性について最適化されていることが好ましい。また、一般式1のオルガノクロロシランに加えて、ケイ素、塩素、炭素、並びに必要に応じて水素及び/又は酸素からなり、DMDCS(1013hPaで70℃)よりも高い沸点を有する化合物である「高沸点化合物」又は「ハイボイラー」も生成する。これらは、通常は、ジシランやそれを超えるオリゴシラン又はポリシラン、さらにシロキサンである。
【0059】
上記方法は、ポリシロキサンを製造するための統合システムの一部であることが好ましい。上記方法は、さらに、シリコーンエラストマー、シリコーンオイル、官能性シロキサン、シリコーン樹脂、シリコーン樹脂配合物、直鎖状ポリジメチルシロキサン、環状ポリジメチルシロキサン、ケイ酸塩、有機官能化シラン、クロロシラン及びポリシリコンを製造するための統合システムの一部であってもよい。
【0060】
図1に、一例として、本発明の方法を実施するための流動床反応器1を示す。反応ガス2は、好ましくは下方から、及び必要に応じて側方から(例えば、下方からのガス流に対して接線方向又は直交方向に)接触剤に吹き込まれ、これにより接触剤の粒子を流動化させ、流動床3を形成する。反応を開始するために、流動床3は、通常は、反応器の外部に配置された加熱装置(図示せず)を用いて加熱される。連続運転中は、通常、加熱は必要ない。粒子の一部は、ガス流によって流動床3から流動床3上の自由空間4に運ばれる。自由空間4は、反応器出口5の方向に減少する、非常に低い固形分密度によって特徴付けられる。
【実施例
【0061】
すべての例は、純度、品質、並びに二次元素及び不純物の含有量の点で同種のシリコンを使用した。運転造粒物において使用される粒状画分は、塊状Simg(98.9質量%のSi)を粉砕し、続いて製粉するか、又は当業者に知られている微粒子化技術によって製造し、粒子状のSimg(98.9質量%のSi)を製造した。上記画分は、必要に応じて篩い分け/篩い分け(sieving/sifting)によって分類した。このようにして、構造パラメータSのある値を有する粒状画分を狙い通りに製造した。続いて、構造パラメータSが0以上であるシリコン含有粒子の定義された質量分率を有する接触剤を、これらの粒状画分を組み合わせて混合することによってブレンドした。粒状画分の残りは、構造パラメータSが0未満のシリコン含有粒子を含有していた。粒状画分の合計は100質量%となった。個々の実験の比較可能性を最大限に確保するために、追加の触媒又は促進剤は加えなかった。
【0062】
すべての例で以下の方法を採用した。実験に使用した造粒物の粒径パラメータd50は320~340μmであった。実験中、流動床反応器の運転温度は約340℃であった。この温度は、冷却手段を用いて、全実験期間中ほぼ一定に保たれた。CH3Clからなる反応ガスと、運転造粒物とを、流動床の高さが全実験期間中実質的に一定で、かつ造粒物が反応時間全体にわたって流動化するように加えた。全実験期間中、反応器は0.05Mpaの正圧で動作させた。液体サンプル及び気体サンプルの両方を、それぞれの場合において、3時間運転後に採取した(一定の生産性及び選択性が達成された)。生成ガス流(クロロシランガス流)の凝縮可能な画分を、冷却トラップを用いて-40℃で凝縮させ、ガスクロマトグラフィー(GC)で分析した後、一般式1のジメチルジクロロシランに対する選択性(DMDCS選択性)と[質量%]とをそこから求めた。検出には熱伝導率検出器を用いた。さらに、DMDCS選択性及び生産性[kg/(kg・h)]、すなわち、反応器内で使用された接触剤(運転造粒物)の量[kg]に対する、一般式1のメチルクロロシランの1時間当たりの生成量[kg/h]を、DMDCS選択性で加重したものを基準として用いた。各運転の後、反応器を完全に空にし、接触剤で再充填した。
【0063】
使用した運転造粒物と実験の結果を表2にまとめた。msは、構造パラメータS>0を有する粒子Sの質量分率である。
【0064】
【表2】
【0065】
生産性[kg/(kg・h)]、すなわち、反応器内で使用された接触剤(運転造粒物)の量[kg]に対する、一般式1のメチルクロロシランの1時間当たりの生成量[kg/h]、及びDMDCS選択性を、S及びmS≧0[%w]の選択された組合せの評価並びに最適範囲の定義の基礎として使用した。一般式1のメチルクロロシランの量を基準にして、生産性が0.15kg/(kg・h)超、及びDMDCS選択性が86%以上であれば、それぞれ最適、許容可能であると考えられる。最適範囲を決定するために行われた複数の実験の代表として、VB1~VB5及びAB1~AB10が挙げられる。実験VB1~VB5では、生産性及び/又はDMDCS選択性が不充分である。指標となるパラメータの最適範囲は、このような複数の否定的な例から決定された。そのため、上記例で最初に記載した範囲は、請求範囲よりも大きくなっている。
【0066】
実験により、指標S及びmS≧0[%w]の最適範囲で上記方法を実施した場合、メチルクロロシラン、特にDMDCSが、MRDSによって特に生産的かつ選択的に製造できることが確かめられた。
図1