(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-26
(45)【発行日】2023-11-06
(54)【発明の名称】粗化処理銅箔、銅張積層板及びプリント配線板
(51)【国際特許分類】
C25D 7/06 20060101AFI20231027BHJP
B32B 15/04 20060101ALI20231027BHJP
C25D 1/04 20060101ALI20231027BHJP
C25D 5/16 20060101ALI20231027BHJP
C25D 5/48 20060101ALI20231027BHJP
【FI】
C25D7/06 A
B32B15/04 A
C25D1/04 311
C25D5/16
C25D5/48
(21)【出願番号】P 2022509983
(86)(22)【出願日】2021-03-16
(86)【国際出願番号】 JP2021010657
(87)【国際公開番号】W WO2021193246
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2022-05-31
(31)【優先権主張番号】P 2020051383
(32)【優先日】2020-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100209336
【氏名又は名称】長谷川 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100218800
【氏名又は名称】河内 亮
(72)【発明者】
【氏名】川口 彰太
(72)【発明者】
【氏名】立岡 歩
(72)【発明者】
【氏名】加藤 翼
(72)【発明者】
【氏名】楊 博鈞
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-172785(JP,A)
【文献】特開2018-074153(JP,A)
【文献】特開2015-148011(JP,A)
【文献】特開2007-238968(JP,A)
【文献】特開2004-099950(JP,A)
【文献】特開2005-008973(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 7/06
B32B 15/04~15/12
C25D 1/04
C25D 5/16
C25D 5/48~5/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方の側に粗化処理面を有する粗化処理銅箔であって、
前記粗化処理面は、ISO25178に準拠してSフィルターによるカットオフ波長0.3μm及びLフィルターによるカットオフ波長5μmの条件で測定されるスキューネスSskに対する、ISO25178に準拠してSフィルターによるカットオフ波長0.3μm及びLフィルターによるカットオフ波長5μmの条件で測定される突出山部高さSpk(μm)の比である微小粒子先端径指数Spk/Sskが0.20以上1.00以下であり、
前記スキューネスSskに対する、ISO25178に準拠してSフィルターによるカットオフ波長0.3μm及びLフィルターによるカットオフ波長5μmの条件で測定される十点平均高さS10z(μm)の比である微小粒子先端粗さ指数S10z/Sskが1.00以上6.00以下であり、かつ、ISO25178に準拠してSフィルターによるカットオフ波長0.3μm及びLフィルターによるカットオフ波長64μmの条件で測定される十点平均高さS10zが2.50μm以上
10.00μm以下である、粗化処理銅箔。
【請求項2】
前記粗化処理面は、ISO25178に準拠してSフィルターによるカットオフ波長0.3μm及びLフィルターによるカットオフ波長64μmの条件で測定される界面の展開面積比Sdrが22.00%以上である、請求項
1に記載の粗化処理銅箔。
【請求項3】
前記粗化処理面は、ISO25178に準拠してSフィルターによるカットオフ波長0.3μm及びLフィルターによるカットオフ波長5μmの条件で測定されるスキューネスSskが0.40以上1.20以下である、請求項1
又は2に記載の粗化処理銅箔。
【請求項4】
前記粗化処理面は、ISO25178に準拠してSフィルターによるカットオフ波長0.3μm及びLフィルターによるカットオフ波長5μmの条件で測定される突出山部高さSpkが0.25μm以上0.80μm以下である、請求項1~
3のいずれか一項に記載の粗化処理銅箔。
【請求項5】
前記粗化処理面は、ISO25178に準拠してSフィルターによるカットオフ波長0.3μm及びLフィルターによるカットオフ波長5μmの条件で測定される十点平均高さS10z(粗化粒子S10z)が1.50μm以上4.00μm以下である、請求項1~
4のいずれか一項に記載の粗化処理銅箔。
【請求項6】
前記粗化処理面は、ISO25178に準拠してSフィルターによるカットオフ波長0.3μm及びLフィルターによるカットオフ波長5μmの条件で測定される極点高さSxpが0.40μm以上1.60μm以下である、請求項1~
5のいずれか一項に記載の粗化処理銅箔。
【請求項7】
前記粗化処理面に防錆処理層及び/又はシランカップリング剤処理層をさらに備えた、請求項1~
6のいずれか一項に記載の粗化処理銅箔。
【請求項8】
前記粗化処理銅箔が電解銅箔であり、前記粗化処理面が電解銅箔の電極面とは反対側に存在する、請求項1~
7のいずれか一項に記載の粗化処理銅箔。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれか一項に記載の粗化処理銅箔を備えた、銅張積層板。
【請求項10】
請求項1~
8のいずれか一項に記載の粗化処理銅箔を備えた、プリント配線板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粗化処理銅箔、銅張積層板及びプリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線板の製造工程において、銅箔は絶縁樹脂基材と張り合わされた銅張積層板の形態で広く使用されている。この点、プリント配線板製造時に配線の剥がれが生じるのを防ぐために、銅箔と絶縁樹脂基材とは高い密着力を有することが望まれる。そこで、通常のプリント配線板製造用銅箔では、銅箔の張り合わせ面に粗化処理を施して微細な銅粒子からなる凹凸を形成し、この凹凸をプレス加工により絶縁樹脂基材の内部に食い込ませてアンカー効果を発揮させることで、密着性を向上している。
【0003】
このような粗化処理を行った銅箔として、例えば、特許文献1(特開2018-172785号公報)には、銅箔と、銅箔の少なくとも一方の表面に粗化処理層を有する表面処理銅箔であって、粗化処理層側表面のスキューネスSskが-0.6以上-0.35以下であり、粗化処理層側表面のTD(幅方向)の光沢度が70%以下であるものが開示されている。こうした表面処理銅箔によれば、銅箔表面に設けられた粗化粒子の脱落が良好に抑制され、かつ、絶縁基板との貼り合わせ時のシワ及びスジの発生が良好に抑制されるとされている。また、特許文献1には、上記効果を得ることを目的として、粗化処理層側表面の突出山部高さSpkが0.13μm以上0.27μm以下である表面処理銅箔も開示されている。
【0004】
ところで、近年の携帯用電子機器等の高機能化に伴い、大容量データの高速処理をすべくデジタルかアナログかを問わず信号の高周波化が進んでおり、高周波用途に適したプリント配線板が求められている。このような高周波用プリント配線板には、高周波信号を劣化させずに伝送可能とするために、伝送損失の低減が望まれる。プリント配線板は配線パターンに加工された銅箔と絶縁基材とを備えたものであるが、伝送損失における主な損失としては、銅箔に起因する導体損失と、絶縁基材に起因する誘電損失が挙げられる。
【0005】
この点、伝送損失の低減を図った粗化処理銅箔が提案されている。例えば、特許文献2(特開2015-148011号公報)には、信号の伝送損失が小さい表面処理銅箔及びそれを用いた積層板を提供すること等を目的として、表面処理によって銅箔表面のJIS B0601-2001に基づくスキューネスRskを-0.35以上0.53以下という所定範囲に制御すること等が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-172785号公報
【文献】特開2015-148011号公報
【発明の概要】
【0007】
前述のように近年、プリント配線板の伝送特性(高周波特性)を向上することが求められている。こうした要求に対応すべく、銅箔の絶縁樹脂基材との接合面においてより微細な粗化処理が試みられている。すなわち、伝送損失を増大させる要因となる銅箔表面の凹凸を低減すべく、うねりの小さい銅箔表面(例えば両面平滑箔の表面や電解銅箔の電極面)に対して微細粗化処理を行うことが考えられる。しかしながら、このような粗化処理銅箔を用いて銅張積層板の加工ないしプリント配線板の製造を行った場合、概して銅箔-基材間の剥離強度が低く、密着信頼性に劣るという問題が生じうる。
【0008】
本発明者らは、今般、粗化処理銅箔の表面において、銅箔のうねり成分をカットした条件におけるスキューネスSskに対する突出山部高さSpk又は十点平均高さS10zの比(Spk/Ssk又はS10z/Ssk)、及び銅箔のうねり成分を反映した条件における十点平均高さS10zをそれぞれ所定の範囲に制御することにより、これを用いて製造された銅張積層板ないしプリント配線板において、優れた伝送特性と高い剥離強度とを両立できるとの知見を得た。
【0009】
したがって、本発明の目的は、銅張積層板ないしプリント配線板に用いられた場合に、優れた伝送特性と高い剥離強度とを両立可能な、粗化処理銅箔を提供することにある。
【0010】
本発明の一態様によれば、少なくとも一方の側に粗化処理面を有する粗化処理銅箔であって、
前記粗化処理面は、ISO25178に準拠してSフィルターによるカットオフ波長0.3μm及びLフィルターによるカットオフ波長5μmの条件で測定されるスキューネスSskに対する、ISO25178に準拠してSフィルターによるカットオフ波長0.3μm及びLフィルターによるカットオフ波長5μmの条件で測定される突出山部高さSpk(μm)の比である微小粒子先端径指数Spk/Sskが0.20以上1.00以下であり、かつ、ISO25178に準拠してSフィルターによるカットオフ波長0.3μm及びLフィルターによるカットオフ波長64μmの条件で測定される十点平均高さS10zが2.50μm以上である、粗化処理銅箔が提供される。
【0011】
本発明の他の一態様によれば、少なくとも一方の側に粗化処理面を有する粗化処理銅箔であって、
前記粗化処理面は、ISO25178に準拠してSフィルターによるカットオフ波長0.3μm及びLフィルターによるカットオフ波長5μmの条件で測定されるスキューネスSskに対する、ISO25178に準拠してSフィルターによるカットオフ波長0.3μm及びLフィルターによるカットオフ波長5μmの条件で測定される十点平均高さS10z(μm)の比である微小粒子先端粗さ指数S10z/Sskが1.00以上6.00以下であり、かつ、ISO25178に準拠してSフィルターによるカットオフ波長0.3μm及びLフィルターによるカットオフ波長64μmの条件で測定される十点平均高さS10zが2.50μm以上である、粗化処理銅箔が提供される。
【0012】
本発明の更に別の一態様によれば、前記粗化処理銅箔を備えた、銅張積層板が提供される。
【0013】
本発明の更に別の一態様によれば、前記粗化処理銅箔を備えた、プリント配線板が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1A】ISO25178に準拠して決定されるスキューネスSskを説明するための図であり、Ssk<0の場合の表面及びその高さ分布を示す図である。
【
図1B】ISO25178に準拠して決定されるスキューネスSskを説明するための図であり、Ssk>0の場合の表面及びその高さ分布を示す図である。
【
図2】ISO25178に準拠して決定される負荷曲線及び負荷面積率を説明するための図である。
【
図3】ISO25178に準拠して決定される突出山部とコア部を分離する負荷面積率Smr1、及び突出谷部とコア部を分離する負荷面積率Smr2を説明するための図である。
【
図4】ISO25178に準拠して決定される極点高さSxpを説明するための図である。
【
図5】粗化処理銅箔の表面凹凸が、粗化粒子成分とうねり成分とからなることを説明するための図である。
【
図6】本発明の粗化処理銅箔の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
定義
本発明を特定するために用いられる用語ないしパラメータの定義を以下に示す。
【0016】
本明細書において「スキューネスSsk」とは、ISO25178に準拠して測定される、高さ分布の対称性を表すパラメータである。この値が0の場合は、高さ分布が上下に対称であることを示す。また、
図1Aに示されるように、この値が0より小さい場合は、細かい谷が多い表面であることを示す。一方、
図1Bに示されるように、この値が0より大きい場合は、細かい山が多い表面であることを示す。
【0017】
本明細書において「面の負荷曲線」(以下、単に「負荷曲線」という)とは、ISO25178に準拠して測定される、負荷面積率が0%から100%となる高さを表した曲線をいう。負荷面積率とは、
図2に示されるように、ある高さc以上の領域の面積を表すパラメータである。高さcでの負荷面積率は
図2におけるSmr(c)に相当する。
図3に示されるように、負荷面積率が0%から負荷曲線に沿って負荷面積率の差を40%にして引いた負荷曲線の割線を、負荷面積率0%から移動させていき、割線の傾斜が最も緩くなる位置を負荷曲線の中央部分という。この中央部分に対して、縦軸方向の偏差の二乗和が最小になる直線を等価直線という。等価直線の負荷面積率0%から100%の高さの範囲に含まれる部分をコア部という。コア部より高い部分を突出山部といい、コア部より低い部分は突出谷部という。
【0018】
本明細書において「突出山部高さSpk」とは、ISO25178に準拠して測定される、コア部の上にある突出山部の平均高さをいう。
【0019】
本明細書において「極点高さSxp」とは、
図4に示されるように、ISO25178に準拠して測定される、負荷面積率p%と負荷面積率q%の高さの差分を表すパラメータである。Sxpは、表面の中で特に高い山を取り除いた後の、表面の平均面と表面の高さの差分を表す。本明細書では、Sxpは、負荷面積率2.5%及び負荷面積率50%の高さの差分とする。
【0020】
本明細書において「十点平均高さS10z」とは、基準領域内にある山頂及び谷底のうち、高いものから5番目までの山頂の平均高さと、深いものから5番目までの谷底の平均深さ(正の値)の和をいう。
【0021】
本明細書において、「界面の展開面積比Sdr」とは、ISO25178に準拠して測定される、定義領域の展開面積(表面積)が、定義領域の面積に対してどれだけ増大しているかを百分率で表したパラメータである。この値が小さいほど、平坦に近い表面形状であることを示し、完全に平坦な表面のSdrは0%となる。一方、この値が大きいほど、凹凸が多い表面形状であることを示す。
【0022】
本明細書において、「微小粒子先端径指数Spk/Ssk」とは、スキューネスSskに対する突出山部高さSpk(μm)の比とする。また、本明細書において、「微小粒子先端粗さ指数S10z/Ssk」とは、スキューネスSskに対する十点平均高さS10z(μm)の比とする。
【0023】
スキューネスSsk、突出山部高さSpk、極点高さSxp、十点平均高さS10z及び界面の展開面積比Sdrは、粗化処理面における所定の測定面積(例えば129.419μm×128.704μmの二次元領域)の表面プロファイルを市販のレーザー顕微鏡で測定することによりそれぞれ算出することができる。
【0024】
本明細書において、スキューネスSsk、突出山部高さSpk及び極点高さSxpは、Sフィルターによるカットオフ波長0.3μm及びLフィルターによるカットオフ波長5μmの条件で測定されるものとする。また、本明細書において、界面の展開面積比Sdrは、Sフィルターによるカットオフ波長0.3μm及びLフィルターによるカットオフ波長64μmの条件で測定されるものとする。さらに、本明細書において、十点平均高さS10zは、微小粒子先端粗さS10z/Sskの算出に用いる場合には、Sフィルターによるカットオフ波長0.3μm及びLフィルターによるカットオフ波長5μmの条件で測定されるものとする(以下、この条件で測定される十点平均高さS10zを必要に応じて「十点平均高さS10z(粗化粒子S10z)」と称することがある)。一方、微小粒子先端粗さS10z/Sskの算出に用いる以外の場合には、十点平均高さS10zは、Sフィルターによるカットオフ波長0.3μm及びLフィルターによるカットオフ波長64μmの条件で測定されるものとする(以下、この条件で測定される十点平均高さS10zを必要に応じて「十点平均高さS10z(全体S10z)」と称することがある)。
【0025】
本明細書において、電解銅箔の「電極面」とは電解銅箔製造時に陰極と接していた側の面を指す。
【0026】
本明細書において、電解銅箔の「析出面」とは電解銅箔製造時に電解銅が析出されていく側の面、すなわち陰極と接していない側の面を指す。
【0027】
粗化処理銅箔
本発明の銅箔は粗化処理銅箔である。この粗化処理銅箔は少なくとも一方の側に粗化処理面を有する。粗化処理面は、スキューネスSskに対する突出山部高さSpk(μm)の比である微小粒子先端径指数Spk/Sskが0.20以上1.00以下であり、かつ、十点平均高さS10z(全体S10z)が2.50μm以上である、及び/又はスキューネスSskに対する十点平均高さS10z(粗化粒子S10z)(μm)の比である微小粒子先端粗さ指数S10z/Sskが1.00以上6.00以下であり、かつ、十点平均高さS10z(全体S10z)が2.50μm以上である。このように、粗化処理銅箔において、銅箔のうねり成分をカットした条件におけるSpk/Ssk又はS10z/Ssk、及び銅箔のうねり成分を反映した条件におけるS10zをそれぞれ所定の範囲に制御することにより、これを用いて製造された銅張積層板ないしプリント配線板において、優れた伝送特性(高周波特性)と高い剥離強度(例えば常態剥離強度及び熱負荷後剥離強度)とを両立することができる。
【0028】
優れた伝送特性と高い剥離強度とは本来的には両立し難いものである。これは、優れた伝送特性を得るためには、銅箔表面の凹凸を小さくすることが求められる一方、高い剥離強度を得るためには、銅箔表面の凹凸を大きくすることが求められ、両者はトレードオフの関係にあるためである。ここで、
図5に示されるように、粗化処理銅箔表面の凹凸は、「粗化粒子成分」と、粗化粒子成分より長周期の「うねり成分」とからなる。一般的に、優れた伝送特性を得るためには、うねりの小さい銅箔表面(例えば両面平滑箔の表面や電解銅箔の電極面)に対して微細粗化処理を行って小さな粗化粒子を形成することが考えられるが、このような粗化処理銅箔を用いて銅張積層板ないしプリント配線板を製造した場合、概して銅箔-基材間の剥離強度が低くなる。
【0029】
この問題に対して、本発明者らは、銅箔表面における凹凸の粗化粒子及びうねりが伝送特性及び剥離強度に与える影響について検討を行った。その結果、銅箔のうねり成分は予想に反して伝送特性に影響を及ぼしにくく、主に粗化粒子の大きさが伝送特性に影響を与えることが判明した。そして、本発明者らは、銅箔のうねり成分をカットした条件におけるスキューネスSsk及び突出山部高さSpk、或いはスキューネスSsk及び十点平均高さS10z(粗化粒子S10z)を組み合わせて評価を行うことで、伝送特性に影響を及ぼす微小粒子(粗化粒子)の先端径ないし先端粗さの正確な評価が可能となることを突き止めた。具体的には、粗化処理銅箔の粗化処理面における微小粒子先端径指数Spk/Ssk、又は微小粒子先端粗さ指数S10z/Sskを上記範囲内とすることにより、優れた伝送特性を実現できることを見出した。さらに、銅箔のうねり成分を反映した条件における十点平均高さS10z(全体S10z)を上記範囲内とすることで、本来的には剥離強度が確保しにくい小さな粗化粒子であっても、銅箔のうねりを利用して銅箔-基板間の高い剥離強度を実現できることも見出した。このように、本発明の粗化処理銅箔によれば、銅張積層板ないしプリント配線板に用いられた場合に、優れた伝送特性と高い剥離強度とを両立することができる。
【0030】
銅箔表面の粗化粒子成分及びうねり成分はレーザー顕微鏡のSフィルター及びLフィルターを用いることで区別することができる。具体的には、粗化処理銅箔の粗化処理面をSフィルターによるカットオフ波長0.3μm及びLフィルターによるカットオフ波長5μmの条件で測定することで、うねり成分の影響がカットされた粗化粒子成分のパラメータを得ることができる。したがって、本発明におけるスキューネスSsk、突出山部高さSpk、極点高さSxp、十点平均高さS10z(粗化粒子S10z)、微小粒子先端径指数Spk/Ssk、及び微小粒子先端粗さ指数S10z/Sskは銅箔表面における粗化粒子のパラメータを的確に反映したものであるといえる。これに対して、銅箔表面をSフィルターによるカットオフ波長0.3μm及びLフィルターによるカットオフ波長64μmの条件で測定することで、粗化粒子成分及びうねり成分の両方の影響が反映された全体のパラメータを得ることができる。したがって、本発明における界面の展開面積比Sdr及び十点平均高さS10z(全体S10z)は、銅箔表面の粗化粒子成分のみならず、うねり成分をも反映したパラメータであるといえる。
【0031】
本発明の一態様によれば、粗化処理銅箔は、粗化処理面における微小粒子先端径指数Spk/Sskが0.20μm以上1.00μm以下であり、好ましくは0.30μm以上0.90μm以下、さらに好ましくは0.40μm以上0.80μm以下、特に好ましくは0.50μm以上0.75μm以下である。また、粗化処理銅箔の粗化処理面は、スキューネスSskが0.40以上1.20以下であるのが好ましく、より好ましくは0.45以上1.17以下、さらに好ましくは0.50以上1.14以下、特に好ましくは0.55μm以上1.10μm以下である。さらに、粗化処理銅箔の粗化処理面は、突出山部高さSpkが0.25μm以上0.80μm以下であるのが好ましく、より好ましくは0.40μm以上0.80μm以下、さらに好ましくは0.40μm以上0.78μm以下、特に好ましくは0.42μm以上0.76μm以下である。前述したとおり、本発明におけるスキューネスSsk、突出山部高さSpk、及び微小粒子先端径指数Spk/Sskは、銅箔表面における凹凸のうねり成分の影響がカットされており、それ故、伝送特性に影響を及ぼす粗化粒子の微小先端径の正確な値が測定可能となる。この点、スキューネスSsk、突出山部高さSpk、及び/又は微小粒子先端径指数Spk/Sskが上記範囲内であると、高い剥離強度でありながら、より優れた伝送特性を実現することができる。
【0032】
本発明の他の一態様によれば、粗化処理銅箔は、粗化処理面における微小粒子先端粗さ指数S10z/Sskが1.00μm以上6.00μm以下であり、好ましくは1.50μm以上6.00μm以下、さらに好ましくは2.00μm以上6.00μm以下、特に好ましくは2.00μm以上5.50μm以下である。また、粗化処理銅箔の粗化処理面は、スキューネスSskが0.40以上1.20以下であるのが好ましく、より好ましくは0.45以上1.17以下、さらに好ましくは0.50以上1.14以下、特に好ましくは0.55μm以上1.10μm以下である。さらに、粗化処理銅箔の粗化処理面は、十点平均高さS10z(粗化粒子S10z)が1.50μm以上4.00μm以下であるのが好ましく、より好ましくは2.00μm以上4.00μm以下、さらに好ましくは2.20μm以上3.80μm以下、特に好ましくは2.30μm以上3.60μm以下、最も好ましくは2.40μm以上3.40μm以下である。前述したとおり、本発明におけるスキューネスSsk、十点平均高さS10z(粗化粒子S10z)、及び微小粒子先端粗さ指数S10z/Sskは、銅箔表面における凹凸のうねり成分の影響がカットされており、それ故、伝送特性に影響を及ぼす粗化粒子の微小先端粗さの正確な値が測定可能となる。この点、スキューネスSsk、十点平均高さS10z(粗化粒子S10z)、及び/又は微小粒子先端粗さ指数S10z/Sskが上記範囲内であると、高い剥離強度でありながら、より優れた伝送特性を実現することができる。
【0033】
粗化処理銅箔の粗化処理面は、十点平均高さS10z(全体S10z)が2.50μm以上であり、好ましくは2.50μm以上10. 00μm以下、より好ましくは2.90μm以上9.00μm以下、さらに好ましくは3.30μm以上8.00μm以下、特に好ましくは3.70μm以上7.00μm以下である。十点平均高さS10z(全体S10z)は銅箔表面における凹凸のうねり成分が反映されたものであるところ、前述したとおり、上記範囲内の十点平均高さS10z(全体S10z)であると、優れた伝送特性でありながら、銅箔のうねりを利用して銅箔-基板間の高い剥離強度を実現することができる。
【0034】
粗化処理銅箔の粗化処理面は、界面の展開面積比Sdrが22.00%以上であるのが好ましく、より好ましくは25.00%以上、さらに好ましくは30.00%、さらにより好ましくは34.00%以上130.00%以下、特に好ましくは37.00%以上100.00%以下、最も好ましくは40.00%以上60.00%以下である。上記範囲内の界面の展開面積比Sdrであると、優れた誘電特性でありながら、粗化処理面がより高い剥離強度を実現するのに好都合な凹凸に富んだ形状となる。
【0035】
粗化処理銅箔の粗化処理面は、極点高さSxpが0.40μm以上1.60μm以下であるのが好ましく、より好ましくは0.50μm以上1.60μm以下、さらに好ましくは0.60μm以上1.60μm以下、さらにより好ましくは0.60μm以上1.30μm以下、特に好ましくは0.60μm以上1.20μm以下、最も好ましくは0.60μm以上1.10μm以下である。極点高さSxpは、表面の平均面と表面の山部の高さの差分であるところ、上記範囲内の極点高さSxpであると、アンカー効果が効果的に発揮されてより高い剥離強度を実現することができる。
【0036】
粗化処理銅箔の厚さは特に限定されないが、0.1μm以上35μm以下が好ましく、より好ましくは0.5μm以上18μm以下である。なお、本発明の粗化処理銅箔は、通常の銅箔の表面に粗化処理を行ったものに限らず、キャリア付銅箔の銅箔表面の粗化処理ないし微細粗化処理を行ったものであってもよい。
【0037】
本発明の粗化処理銅箔の一例が
図6に示される。
図6に示されるように、本発明の粗化処理銅箔は、所定のうねりを有する銅箔表面(例えば電解銅箔の析出面)に対して、所望の低粗化条件で粗化処理を行って微細な粗化粒子を形成することにより、好ましく製造することができる。したがって、本発明の好ましい態様によれば、粗化処理銅箔が電解銅箔であり、粗化処理面が電解銅箔の電極面とは反対側(すなわち析出面側)に存在する。なお、粗化処理銅箔は両側に粗化処理面を有するものであってもよいし、一方の側にのみ粗化処理面を有するものであってもよい。粗化処理面は、典型的には複数の粗化粒子を備えてなり、これら複数の粗化粒子はそれぞれ銅粒子からなるのが好ましい。銅粒子は金属銅からなるものであってもよいし、銅合金からなるものであってもよい。
【0038】
粗化処理面を形成するための粗化処理は、銅箔の上に銅又は銅合金で粗化粒子を形成することにより好ましく行うことができる。粗化処理を行う前の銅箔は、無粗化の銅箔であってもよいし、予備的粗化を施したものであってもよい。粗化処理が行われることになる銅箔の表面は、JIS B0601-1994に準拠して測定される十点平均粗さRzが1.50μm以上10.00μm以下であるのが好ましく、より好ましくは2.00μm以上8.00μm以下である。上記範囲内であると、本発明の粗化処理銅箔に要求される表面プロファイルを粗化処理面に付与しやすくなる。
【0039】
粗化処理は、例えば銅濃度5g/L以上20g/L以下、硫酸濃度50g/L以上200g/L以下を含む硫酸銅溶液中、20℃以上40℃以下の温度で、20A/dm2以上50A/dm2以下にて電解析出を行うのが好ましい。この電解析出は0.5秒間以上30秒間以下行われるのが好ましく、1秒間以上30秒間以下行われるのがより好ましく、1秒間以上3秒間以下行われるのがさらに好ましい。また、別の一例として、9-フェニルアクリジン(9PA)を添加する場合は、銅及び硫酸を上記濃度で含み、かつ、塩素濃度20mg/L以上100mg/L以下、及び9PA100mg/L以上200mg/L以下を含む硫酸銅溶液中、20℃以上40℃以下の温度で、20A/dm2以上200A/dm2以下にて電解析出を行うのが好ましい。この電解析出は0.3秒間以上30秒間以下行われるのが好ましく、0.5秒間以上1.0秒間以下行われるのがより好ましい。電解析出の際、下記式:
FCu=FCuSo4×CCu/S
(式中、FCuは極間銅供給量[(g・m)/(min・L)]、FCuSo4は硫酸銅溶液の流量(m3/min)、CCuは硫酸銅溶液の銅濃度(g/L)、Sは陽極-陰極間の断面積(m2)である)
により定義される極間銅供給量を0.1[(g・m)/(min・L)]以上1.0[(g・m)/(min・L)]以下とするのが好ましい。こうすることで、粗化処理銅箔の表面に本発明の粗化処理銅箔に要求される表面プロファイルを付与しやすくなる。もっとも、本発明による粗化処理銅箔は、上記方法に限らず、あらゆる方法によって製造されたものであってよい。
【0040】
所望により、粗化処理銅箔は防錆処理が施され、防錆処理層が形成されたものであってもよい。防錆処理は、亜鉛を用いためっき処理を含むのが好ましい。亜鉛を用いためっき処理は、亜鉛めっき処理及び亜鉛合金めっき処理のいずれであってもよく、亜鉛合金めっき処理は亜鉛-ニッケル合金処理が特に好ましい。亜鉛-ニッケル合金処理は少なくともNi及びZnを含むめっき処理であればよく、Sn、Cr、Co、Mo等の他の元素をさらに含んでいてもよい。例えば、防錆処理層がNi及びZnに加えてMoをさらに含むことで、粗化処理銅箔の処理表面が、樹脂との密着性、耐薬品性及び耐熱性により優れ、かつ、エッチング残渣が残りにくいものとなる。亜鉛-ニッケル合金めっきにおけるNi/Zn付着比率は、質量比で、1.2以上10以下が好ましく、より好ましくは2以上7以下、さらに好ましくは2.7以上4以下である。また、防錆処理はクロメート処理をさらに含むのが好ましく、このクロメート処理は亜鉛を用いためっき処理の後に、亜鉛を含むめっきの表面に行われるのがより好ましい。こうすることで防錆性をさらに向上させることができる。特に好ましい防錆処理は、亜鉛-ニッケル合金めっき処理とその後のクロメート処理との組合せである。
【0041】
所望により、粗化処理銅箔は表面にシランカップリング剤処理が施され、シランカップリング剤層が形成されたものであってもよい。これにより耐湿性、耐薬品性及び接着剤等との密着性等を向上することができる。シランカップリング剤層は、シランカップリング剤を適宜希釈して塗布し、乾燥させることにより形成することができる。シランカップリング剤の例としては、4-グリシジルブチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のエポキシ官能性シランカップリング剤、又は3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-3-(4-(3-アミノプロポキシ)ブトキシ)プロピル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ官能性シランカップリング剤、又は3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプト官能性シランカップリング剤又はビニルトリメトキシシラン、ビニルフェニルトリメトキシシラン等のオレフィン官能性シランカップリング剤、又は3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のアクリル官能性シランカップリング剤、又はイミダゾールシラン等のイミダゾール官能性シランカップリング剤、又はトリアジンシラン等のトリアジン官能性シランカップリング剤等が挙げられる。
【0042】
上述した理由から、粗化処理銅箔は、粗化処理面に防錆処理層及び/又はシランカップリング剤層をさらに備えることが好ましく、より好ましくは防錆処理層及びシランカップリング剤層の両方を備える。防錆処理層及びシランカップリング剤層は、粗化処理銅箔の粗化処理面側のみならず、粗化処理面が形成されていない側に形成されてもよい。
【0043】
銅張積層板
本発明の粗化処理銅箔はプリント配線板用銅張積層板の製造に用いられるのが好ましい。すなわち、本発明の好ましい態様によれば、上記粗化処理銅箔を備えた銅張積層板が提供される。本発明の粗化処理銅箔を用いることで、銅張積層板において、優れた誘電特性と高い剥離強度とを両立することができる。この銅張積層板は、本発明の粗化処理銅箔と、この粗化処理銅箔の粗化処理面に密着して設けられる樹脂層とを備えてなる。粗化処理銅箔は樹脂層の片面に設けられてもよいし、両面に設けられてもよい。樹脂層は、樹脂、好ましくは絶縁性樹脂を含んでなる。樹脂層はプリプレグ及び/又は樹脂シートであるのが好ましい。プリプレグとは、合成樹脂板、ガラス板、ガラス織布、ガラス不織布、紙等の基材に合成樹脂を含浸させた複合材料の総称である。絶縁性樹脂の好ましい例としては、エポキシ樹脂、シアネート樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂(BT樹脂)、ポリフェニレンエーテル樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。また、樹脂シートを構成する絶縁性樹脂の例としては、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂等の絶縁樹脂が挙げられる。また、樹脂層には絶縁性を向上する等の観点からシリカ、アルミナ等の各種無機粒子からなるフィラー粒子等が含有されていてもよい。樹脂層の厚さは特に限定されないが、1μm以上1000μm以下が好ましく、より好ましくは2μm以上400μm以下であり、さらに好ましくは3μm以上200μm以下である。樹脂層は複数の層で構成されていてよい。プリプレグ及び/又は樹脂シート等の樹脂層は予め銅箔表面に塗布されるプライマー樹脂層を介して粗化処理銅箔に設けられていてもよい。
【0044】
プリント配線板
本発明の粗化処理銅箔はプリント配線板の製造に用いられるのが好ましい。すなわち、本発明の好ましい態様によれば、上記粗化処理銅箔を備えたプリント配線板が提供される。本発明の粗化処理銅箔を用いることで、プリント配線板において、優れた伝送特性と高い剥離強度とを両立することができる。本態様によるプリント配線板は、樹脂層と、銅層とが積層された層構成を含んでなる。銅層は本発明の粗化処理銅箔に由来する層である。また、樹脂層については銅張積層板に関して上述したとおりである。いずれにしても、プリント配線板は公知の層構成が採用可能である。プリント配線板に関する具体例としては、プリプレグの片面又は両面に本発明の粗化処理銅箔を接着させ硬化した積層体とした上で回路形成した片面又は両面プリント配線板や、これらを多層化した多層プリント配線板等が挙げられる。また、他の具体例としては、樹脂フィルム上に本発明の粗化処理銅箔を形成して回路を形成するフレキシブルプリント配線板、COF、TABテープ等も挙げられる。さらに他の具体例としては、本発明の粗化処理銅箔に上述の樹脂層を塗布した樹脂付銅箔(RCC)を形成し、樹脂層を絶縁接着材層として上述のプリント基板に積層した後、粗化処理銅箔を配線層の全部又は一部としてモディファイド・セミ・アディティブ(MSAP)法、サブトラクティブ法等の手法で回路を形成したビルドアップ配線板や、粗化処理銅箔を除去してセミアディティブ(SAP)法で回路を形成したビルドアップ配線板、半導体集積回路上へ樹脂付銅箔の積層と回路形成を交互に繰りかえすダイレクト・ビルドアップ・オン・ウェハー等が挙げられる。
【実施例】
【0045】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。
【0046】
例1~18
本発明の粗化処理銅箔の製造を以下のようにして行った。
【0047】
(1)電解銅箔の製造
例1~9及び11~18について、銅電解液として以下に示される組成の硫酸酸性硫酸銅溶液を用い、陰極にチタン製の電極を用い、陽極にはDSA(寸法安定性陽極)を用いて、溶液温度45℃、電流密度55A/dm2で電解し、表1に示した厚さの電解銅箔Aを得た。このとき、陰極として、表面を#1000のバフで研磨して表面粗さを調整した電極を用いた。
<硫酸酸性硫酸銅溶液の組成>
‐ 銅濃度:80g/L
‐ 硫酸濃度:300g/L
‐ ニカワ濃度:5mg/L
‐ 塩素濃度:30mg/L
【0048】
一方、例10については、銅電解液として以下に示される組成の硫酸酸性硫酸銅溶液を用い、表1に示した厚さの電解銅箔Bを得た。このとき、硫酸酸性硫酸銅溶液の組成以外の条件は電解銅箔Aと同様とした。
<硫酸酸性硫酸銅溶液の組成>
‐ 銅濃度:80g/L
‐ 硫酸濃度:260g/L
‐ ビス(3-スルホプロピル)ジスルフィド濃度:30mg/L
‐ ジアリルジメチルアンモニウムクロライド重合体濃度:50mg/L
‐ 塩素濃度:40mg/L
【0049】
(2)粗化処理
上述の電解銅箔が備える電極面及び析出面の内、例1~11及び15~18については析出面側に対して、例12~14については電極面側に対して、粗化処理を行った。なお、例1~11及び15~18に用いた電解銅箔の析出面、及び例12~14に用いた電解銅箔の電極面の、JIS B0601-1994に準拠して測定される十点平均粗さRzは表1に示されるとおりであった。
【0050】
例1~9及び14~17については、以下に示される粗化処理(第一粗化処理)を行った。この粗化処理は、粗化処理用銅電解溶液(銅濃度:5g/L以上20g/L以下、硫酸濃度:50g/L以上200g/L以下、液温:30℃)中、各々の例ごとに表1に示した電流密度、時間及び極間銅供給量の条件にて電解し、水洗することにより行った。
【0051】
例10~13については、以下に示される第一粗化処理、第二粗化処理及び第三粗化処理をこの順に行った。
‐ 第一粗化処理は、粗化処理用銅電解溶液(銅濃度:5g/L以上20g/L以下、硫酸濃度:50g/L以上200g/L以下、液温:30℃)中、表1に示した電流密度、時間及び極間銅供給量の条件にて電解し、水洗することにより行った。
‐ 第二粗化処理は、第一粗化処理と同じ組成の粗化処理用銅電解溶液中、表1に示した電流密度、時間及び極間銅供給量の条件にて電解し、水洗することにより行った。
‐ 第三粗化処理は、粗化処理用銅電解溶液(銅濃度:65g/L以上80g/L以下、硫酸濃度:50g/L以上200g/L以下、液温:45℃)中、表1に示した電流密度、時間及び極間銅供給量の条件にて電解し、水洗することにより行った。
【0052】
例18については、以下に示される粗化処理(第一粗化処理)を行った。この粗化処理は、粗化処理用銅電解溶液(銅濃度:5g/L以上20g/L以下、硫酸濃度:50g/L以上200g/L以下、塩素濃度20mg/L以上100mg/L以下、9PA100mg/L以上200mg/L以下、液温:30℃)中、表1に示した電流密度、時間及び極間銅供給量の条件にて電解し、水洗することにより行った。
【0053】
(3)防錆処理
粗化処理後の電解銅箔に表1に示した防錆処理を行った。この防錆処理として、例1~7及び9~18については、電解銅箔の両面に対し、ピロリン酸浴を用い、ピロリン酸カリウム濃度80g/L、亜鉛濃度0.2g/L、ニッケル濃度2g/L、液温40℃、電流密度0.5A/dm2として亜鉛-ニッケル系防錆処理を行った。一方、例8については、電解銅箔の粗化処理を行った側の面に対し、ピロリン酸カリウム濃度100g/L、亜鉛濃度1g/L、ニッケル濃度2g/L、モリブデン濃度1g/L、液温40℃、電流密度0.5A/dm2で亜鉛-ニッケル系防錆処理を行った。なお、例8の電解銅箔の粗化処理を行った面と反対側の面に対しては、例1~7及び9~18と同様の条件で亜鉛-ニッケル系防錆処理を行った。
【0054】
(4)クロメート処理
上記防錆処理を行った電解銅箔の両面に対して、クロメート処理を行い、防錆処理層の上にクロメート層を形成した。このクロメート処理は、クロム酸濃度1g/L、pH11、液温25℃及び電流密度1A/dm2の条件で行った。
【0055】
(5)シランカップリング剤処理
上記クロメート処理が施された銅箔を水洗し、その後直ちにシランカップリング剤処理を行い、粗化処理面のクロメート層上にシランカップリング剤を吸着させた。このシランカップリング剤処理は、純水を溶媒とするシランカップリング剤の溶液をシャワーリングにて粗化処理面に吹き付けて吸着処理することにより行った。シランカップリング剤として、例1~5、9及び14~18では3-アミノプロピルトリメトキシシラン、例6及び10~13では3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、例7では3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、例8ではビニルトリメトキシシランを用いた。シランカップリング剤の濃度はいずれも3g/Lとした。シランカップリング剤の吸着後、最終的に電熱器により水分を蒸発させ、所定厚さの粗化処理銅箔を得た。
【0056】
【0057】
評価
製造された粗化処理銅箔について、以下に示される各種評価を行った。
【0058】
(a)粗化処理面の表面性状パラメータ
レーザー顕微鏡(オリンパス株式会社製、OLS-5000)を用いた表面粗さ解析により、粗化処理銅箔の粗化処理面の測定をISO25178に準拠して行った。具体的には、粗化処理銅箔の粗化処理面における129.419μm×128.704μmの領域の表面プロファイルを、上記レーザー顕微鏡にて対物レンズ倍率100倍で測定した。得られた粗化処理面の表面プロファイルに対して、表2に示される条件に従って解析を行い、スキューネスSsk、突出山部高さSpk、十点平均高さS10z、界面の展開面積比Sdr及び極点高さSxpを算出した。なお、十点平均高さS10zについては、Lフィルターによるカットオフ波長を2条件(5μm及び64μm)としてそれぞれ算出した。また、得られたスキューネスSsk、突出山部高さSpk及び十点平均高さS10z(Lフィルター:5μm)の値に基づいて微小粒子先端径指数Spk/Ssk、及び微小粒子先端粗さ指数S10z/Sskの値をそれぞれ算出した。結果は、表3に示されるとおりであった。
【0059】
【0060】
(b)銅箔-基材間の剥離強度
常態及び熱負荷後の粗化処理銅箔について、絶縁基材との密着性を評価するために、常態剥離強度、及びはんだフロート後剥離強度の測定を以下のとおり行った。
【0061】
(b-1)常態剥離強度
絶縁基材として、ポリフェニレンエーテルとトリアリルイソシアヌレートとビスマレイミド樹脂とを主成分とするプリプレグ(厚さ100μm)2枚を用意して、積み重ねた。この積み重ねたプリプレグに、製造した表面処理銅箔をその粗化処理面がプリプレグと当接するように積層し、32kgf/cm2、205℃で120分間のプレスを行って銅張積層板を製造した。次に、この銅張積層板にエッチング法により回路形成を行い、3mm幅の直線回路を備えた試験基板を製造した。なお、例9及び例16については、回路形成前に、銅箔の厚さが18μmとなるまで銅張積層板の銅箔側表面に対してエッチングを行った。こうして得られた直線回路を、JIS C 5016-1994のA法(90°剥離)に準拠して絶縁基材から引き剥がして常態剥離強度(kgf/cm)を測定した。得られた常態剥離強度を以下の基準で格付け評価した。結果は表3に示されるとおりであった。
<常態剥離強度評価基準>
‐評価A:常態剥離強度が0.42kgf/cm以上
‐評価B:常態剥離強度が0.40kgf/cm以上0.42kgf/cm未満
‐評価C:常態剥離強度が0.40kgf/cm未満
【0062】
(b-2)はんだフロート後剥離強度
剥離強度の測定に先立ち、直線回路を備えた試験基板を260℃のはんだ浴に20秒間フローティングしたこと以外は、上述した常態剥離強度と同様の手順により、はんだフロート後剥離強度(kgf/cm)を測定した。得られたはんだフロート後剥離強度を以下の基準で格付け評価した。結果は表3に示されるとおりであった。
<はんだフロート後剥離強度評価基準>
‐評価A:はんだフロート後剥離強度が0.41kgf/cm以上
‐評価B:はんだフロート後剥離強度が0.39kgf/cm以上0.41kgf/cm未満
‐評価C:はんだフロート後剥離強度が0.39kgf/cm未満
【0063】
(c)伝送特性
絶縁樹脂基材として高周波用基材(パナソニック製、MEGTRON6N)を用意した。この絶縁樹脂基材の両面に粗化処理銅箔をその粗化処理面が絶縁樹脂基材と当接するように積層し、真空プレス機を使用して、温度190℃、プレス時間120分の条件で積層し、絶縁厚さ136μmの銅張積層板を得た。その後、当該銅張積層板にエッチング加工を施し、特性インピーダンスが50Ωになるようマイクロストリップラインを形成した伝送損失測定用基板を得た。得られた伝送損失測定用基板に対して、ネットワークアナライザー(キーサイトテクノロジー製、N5225B)を用いて、50GHzの伝送損失(dB/cm)を測定した。得られた伝送損失を以下の基準で格付け評価した。結果は表3に示されるとおりであった。
<伝送損失評価基準>
‐評価A:伝送損失が-0.57dB/cm以上
‐評価B:伝送損失が-0.70dB/cm以上-0.57dB/cm未満
‐評価C:伝送損失が-0.70dB/cm未満
【0064】