(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-26
(45)【発行日】2023-11-06
(54)【発明の名称】多結晶SiC膜及びその製造方法、プラズマエッチング方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20231027BHJP
C04B 41/91 20060101ALI20231027BHJP
C23C 16/42 20060101ALI20231027BHJP
H01L 21/3065 20060101ALI20231027BHJP
B24B 37/24 20120101ALI20231027BHJP
【FI】
H01L21/304 622W
C04B41/91 Z
C23C16/42
H01L21/302 101L
B24B37/24 B
(21)【出願番号】P 2022575459
(86)(22)【出願日】2022-09-26
(86)【国際出願番号】 JP2022035725
(87)【国際公開番号】W WO2023074219
(87)【国際公開日】2023-05-04
【審査請求日】2023-03-08
(31)【優先権主張番号】P 2021176755
(32)【優先日】2021-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000219576
【氏名又は名称】東海カーボン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100202603
【氏名又は名称】宮崎 智史
(72)【発明者】
【氏名】原田 洋平
(72)【発明者】
【氏名】大石 淳矢
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-054666(JP,A)
【文献】特開2021-072140(JP,A)
【文献】特開2005-260218(JP,A)
【文献】特開2013-040373(JP,A)
【文献】特開2000-084817(JP,A)
【文献】特開2002-059355(JP,A)
【文献】特開2000-063806(JP,A)
【文献】特開平07-164307(JP,A)
【文献】Yang Xu,Novel SiC wafer manufacturing process employing three-step slurryless electrochemical mechanical pol,Journal of Manufacturing Processes,2021年09月08日,Vol.70,P.350-360
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 41/80-41/91
C23C 16/00-16/42
H01L 21/3065,21/304
B24B 37/24
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する2つの主面を有する多結晶SiC
膜であって、
前記2つの主面は、第1主面及び第2主面を含み、
前記
第1主面の断面曲線から抽出した、所定の波長範囲に対応する算術平均うねりWa
及び前記第2主面の断面曲線から抽出した、所定の波長範囲に対応する算術平均うねりWaの各々は、
前記波長範囲が、0~10mmのとき、前記Waが
0.04以上0.05μm以下であり、
前記波長範囲が、10~20mmのとき、前記Waが
0.06以上0.13μm以下であり、かつ
前記波長範囲が、20~30mmのとき、前記Waが
0.08以上0.20μm以下である、
多結晶SiC
膜。
【請求項2】
体積抵抗率が0.050Ωcm以下である、請求項1に記載の多結晶SiC
膜。
【請求項3】
プラズマエッチング装置における電極として使用される、請求項1に記載の多結晶SiC
膜。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の多結晶SiC
膜の製造方法であって、
主面を有する多結晶SiC膜を成膜する工程と、
前記多結晶SiC膜の主面を研削する工程と、
を備え、
前記研削する工程は、
前記主面を、第1の研削材により研削する工程と、
前記第1の研削材により研削する工程の後に、前記主面を第2の研削材により研削する工程と、
前記第2の研削材により研削する工程の後に、前記主面を第3の研削材により研削する工程とを備え、
前記第1の研削材の粒度は、前記第2の研削材よりも粗く、
前記第2の研削材の粒度は、前記第3の研削材よりも粗い、
多結晶SiC
膜の製造方法。
【請求項5】
前記第1の研削材により研削する工程は、第1の固定材を用いて前記多結晶SiC膜を支持基板上に固定する工程を有し、
前記第2の研削材により研削する工程は、第2の固定材を用いて前記多結晶SiC膜を前記支持基板上に固定する工程を有し、
前記第3の研削材により研削する工程は、第3の固定材を用いて前記多結晶SiC膜を前記支持基板上に固定する工程を有し、
前記第1の固定材のムーニー粘度は、前記第2の固定材のムーニー粘度より小さく、
前記第2の固定材のムーニー粘度は、前記第3の固定材のムーニー粘度より小さい、
請求項4に記載の多結晶SiC
膜の製造方法。
【請求項6】
請求項4に記載された方法を用いて、前記多結晶SiC
膜を製造する工程と、
前記多結晶SiC
膜を電極として用いて、プラズマエッチングを行う工程と、
を備える、プラズマエッチング方法。
【請求項7】
請求項5に記載された方法を用いて、前記多結晶SiC
膜を製造する工程と、
前記多結晶SiC
膜を電極として用いて、プラズマエッチングを行う工程と、
を備える、プラズマエッチング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多結晶SiC成形体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多結晶SiC成形体は、耐熱性、耐蝕性及び強度等の種々の特性に優れており、様々な用途に使用されている。例えば、特許文献1(特開2001-220237号公報)には、半導体装置の製造時に使用されるプラズマエッチング装置の電極等として、炭化ケイ素(SiC)を用いる点が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
半導体装置の製造に使用される半導体ウェハにおいては、ウェハの大面積化および形成される回路の高密度化が進んでいる。そのため、半導体装置製造時に実施されるプラズマエッチングについても、より均一に半導体ウェハのエッチングを行うことのできる技術が求められている。
【0005】
プラズマエッチング時に使用される電極に関しては、電気抵抗率の均一性(特許文献1)や熱伝導率の均一性の他、電極の表面の平滑度が、プラズマエッチングの均一さに影響を与えると考えられる。従って、本発明の課題は、電極として用いられた場合に、均一なプラズマエッチングを実現することのできる多結晶SiC成形体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、多結晶SiC成形体の主面の断面曲線から抽出したうねり曲線における特定の波長成分から求めた算術平均うねりを特定の範囲内とすることにより、上記課題が解決できることを見出した。すなわち、本発明は、以下のものを提供する。
【0007】
本発明の一実施形態は、対向する2つの主面を有する多結晶SiC成形体であって、前記主面の断面曲線から抽出した、所定の波長範囲に対応する算術平均うねりWaは、前記波長範囲が、0~10mmのとき、前記Waが0.05μm以下であり、前記波長範囲が、10~20mmのとき、前記Waが0.13μm以下であり、かつ前記波長範囲が、20~30mmのとき、前記Waが0.20μm以下である、多結晶SiC成形体である。
また、本発明の一実施形態は、上記の多結晶SiC成形体の製造方法であって、主面を有する多結晶SiC膜を成膜する工程と、前記多結晶SiC膜の主面を研削する工程と、を備え、前記研削する工程は、前記主面を、第1の研削材により研削する工程と、前記第1の研削材により研削する工程の後に、前記主面を第2の研削材により研削する工程と、前記第2の研削材により研削する工程の後に、前記主面を第3の研削材により研削する工程とを備え、前記第1の研削材の粒度は、前記第2の研削材よりも粗く、前記第2の研削材の粒度は、前記第3の研削材よりも粗い、多結晶SiC成形体の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電極として用いられた場合に、均一なプラズマエッチングを実現することのできる多結晶SiC成形体及びその製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の実施形態について説明する。
【0010】
(多結晶SiC成形体)
本実施形態に係る多結晶SiC成形体は、対向する2つの主面を有している。2つの主面は、第1主面及び第2主面を含む。本願明細書において、主面とは略平面を指す。この主面の断面曲線から抽出した所定の波長範囲に対応する算術平均うねりWaは、波長範囲が0~10mmのとき0.05μm以下であり、波長範囲が10~20mmのとき0.13μm以下であり、かつ、波長範囲が20~30mmのとき0.20μm以下である。
ここで、「断面曲線」及び「算術平均うねり」の定義は、JIS B 0601に準拠するものである。例えば、断面曲線から波長範囲0~10mmを抽出するときは、断面曲線を周波数展開し、1×103/m以上の周波数成分の振幅伝達率が50%となる周波数をカットオフ値に設定して、算術平均うねりを導出する。このとき、周波数展開は、フーリエ変換による展開であることが好ましい。
【0011】
波長範囲が0~10mmのときの算術平均うねりWa(以下「Wa(0~10mm)」という。)は、断面曲線における空間周波数が1(×103/m)以上の成分から求められた算術平均うねりである。
【0012】
波長範囲が10~20mmのときの算術平均うねりWa(以下「Wa(10~20mm)」という。)は、断面曲線における空間周波数が1/2~1(×103/m)の成分から求められた算術平均うねりである。
【0013】
波長範囲が20~30mmのときの算術平均うねりWa(以下「Wa(20~30mm)」という。)は、断面曲線における空間周波数が1/3~1/2(×103/m)の成分から求められた算術平均うねりである。
【0014】
本実施形態によれば、上記のように、特定のWa(0~10mm)、特定のWa(10~20mm)、及び特定のWa(20~30mm)を有する多結晶SiC成形体を電極として用いることによって、むらの少ない均一なプラズマエッチングを実現することができる。
【0015】
また、本実施形態に係る多結晶SiC成形体は、高度に平坦な主面を有している。従って、本実施形態に係る多結晶SiC成形体は、プラズマエッチング装置の電極としてだけでなく、平坦性が要求される他の用途にも好適に用いられる。例えば、本実施形態に係る多結晶SiC成形体は、単結晶SiC基板と貼り合わせられ、単結晶SiC基板の支持基材として用いられる場合がある。このような用途においては、多結晶SiC成形体が平坦な面を有していることが求められる。本実施形態に係る多結晶SiC成形体は、平坦な主面を有している。従って、単結晶SiC基板と貼り合わされて使用される用途にも好適に用いることができる。
【0016】
好ましくは、多結晶SiC成形体は、円盤状である。すなわち、多結晶SiC成形体の主面は、円形である。より好ましくは、多結晶SiC成形体は、円盤状の多結晶SiC成形体であり、かつ、多結晶SiC成形体の主面の直径は、1.5~20インチ、さらに好ましくは6~18インチである。
【0017】
好ましくは、多結晶SiC成形体の厚さは、0.1~4.0mmである。
【0018】
(多結晶SiC成形体の製造方法)
続いて、本実施形態に係る多結晶SiC成形体の製造方法について説明する。
本実施形態に係る製造方法は、主面を有する多結晶SiC膜を成膜する工程(ステップS1)と、前記多結晶SiC膜の主面を研削する工程(ステップS2)とを備える。以下に、各工程について詳述する。
【0019】
ステップS1:多結晶SiC膜の成膜
多結晶SiC膜は、例えば、CVD法を用いて成膜することができる。成膜条件は、特に限定されるものではなく、公知の条件(例えば、特開2021-54666号公報)を採用することができる。
例えば、まず、CVD炉内に、基材として黒鉛基板等を配置する。
そして、キャリアガス、SiCの供給源となる原料ガス、及び必要に応じて窒素含有ガスを混合し、その混合ガスをCVD炉に供給する。基材の表面の温度を原料ガスから多結晶SiCが生成するように設定する。これにより、基材上に多結晶SiC層が成膜される。また、窒素含有ガスを用いた場合には、多結晶SiC層に窒素をドープすることができる。
多結晶SiC層の成膜後、得られた多結晶SiC層を基材から分離する。これにより、2つの主面(すなわち、第1主面及び第2主面)を有する多結晶SiC膜が得られる。
【0020】
上記で得られた多結晶SiC膜は、好ましくは0.050Ωcm以下の体積抵抗率を有している。このような体積抵抗率を有していることにより、多結晶SiC膜の体積抵抗率は、プラズマエッチング用電極として用いた場合、効果的に静電気を逃がすことやプラズマガスを均一に発生させることができる。更に、多結晶SiC膜の体積抵抗率は、プラズマエッチング用電極として用いた場合、高いエッチングレートを確保する観点から、好ましくは0.030Ωcm以下、更に好ましくは0.020Ωcm以下である。
体積抵抗率は、例えば、多結晶SiC膜中に所定の量で窒素を含有させることにより、調整することができる。窒素含有量を増やすことにより、体積抵抗率を下げることができる。
多結晶SiC膜の窒素含有量は、例えば200ppm(質量百万分率)以上であり、好ましくは200~1000ppm(質量百万分率)である。窒素含有量がこのような範囲にある場合、窒素含有量の変化に対する抵抗率の変化の度合いが小さくなる。従って、多結晶SiC膜の窒素含有量を制御することによって、所望する体積抵抗率を得やすくなる。また、窒素含有量が1000ppm(質量百万分率)以下であれば、窒素の導入により生じる結晶欠陥が多結晶SiC膜の平坦性に影響を及ぼすこともほとんどない。
尚、窒素の導入方法は特に限定されるものでは無い。例えば、上記のように、CVD法によって多結晶SiC膜を成膜する際に、窒素含有ガスを用いることにより、成膜される多結晶SiC膜に窒素を導入することができる。
【0021】
ステップS2:研削
続いて、得られた多結晶SiC膜の2つの主面を研削する。ここで、主面は、以下に説明する3段階(ステップS2-1~S2-3)によって研削される。
【0022】
[ステップS2-1]
まず、多結晶SiC膜の主面を、第1の研削材により研削する。具体的には、多結晶SiC膜を支持基板(例えば、金属平板)の上に載置し、第1の固定材で支持基板に固定する。この際、多結晶SiC膜は、一方の主面側が解放されるように支持基板に固定される。そして、解放されている多結晶SiC膜の主面を、第1の研削材により研削する。一方の主面の研削後、多結晶SiC基板を支持基板から取り外す。そして、他方の主面についても同様に研削する。第1主面の研削後に、第2主面が研削されてもよい。第2主面の研削後に、第1主面が研削されてもよい。
【0023】
ここで、多結晶SiC膜は、例えば、次の手順で支持基板上に、固定される。まず、支持基板及び多結晶SiC膜をホットプレート上で約100℃に加熱する。次に、支持基板と多結晶SiC膜との間に固定材(例えば、熱可塑性樹脂)を配置し、ホットプレートから伝導した熱により固定材を軟化させ、支持基板上に多結晶SiC膜を接着させる。次に、ホットプレートの加熱を停止し、支持基板及びその上に固定化された多結晶SiC膜を冷却し、固定材を硬化させ、支持基板上に多結晶SiC膜を固定させる。
【0024】
第1の研削材としては、例えば、カップ砥石又は研磨微粉を用いることができる。
また、第1の研削材としては、例えば、研磨微粉の場合、比較的粗い粒度(例えば、♯50~♯500)を有する研削材が用いられる。ここで、「粒度」の定義は、JIS R 6001-1及びJIS R 6001-2に準拠するものである。
【0025】
第1の固定材としては、例えば、熱可塑性樹脂が用いられる。
また、第1の固定材としては、ムーニー粘度が30~60Mであるものを用いることが好ましい。
ここで、ムーニー粘度は、ムーニー単位(M)で表す。ムーニー単位は、JIS K 6300-1に準拠して、粘度試験及びムーニースコーチ試験で用いるトルク指示装置によって指示又は記録する単位のことを指す。具体的には、ロータのシャフトに作用するトルクが8.30N・mのときを100ムーニー単位(100M)という。
【0026】
[ステップS2-2]
続いて、支持基板から多結晶SiC膜を取り外し、支持基板上の第1の固定材を除去する。その後、ステップS2-1と同様の方法で、第2の固定材により多結晶SiC膜を支持基板上に固定する。次いで、第2の研削材により多結晶SiC膜の主面を研削する。
【0027】
第2の研削材としては、第1の研削材と同様に、カップ砥石又は研磨微粉を用いることができる。
ここで、第2の研削材の粒度は、第1の研削材の粒度よりも細かい。第2の研削材の粒度は、例えば、研磨微粉の場合、♯500超、♯5000以下である。
【0028】
第2の固定材としては、第1の固定材と同様に、熱可塑性樹脂等を用いることができる。
ここで、第2の固定材としては、第1の固定材よりもムーニー粘度が大きいものが好ましく用いられる。第2の固定材のムーニー粘度は、例えば、60~80Mである。
【0029】
[ステップS2-3]
最後に、ステップS2-2と同様に、支持基板から多結晶SiC膜を取り外し、支持基板上の第2の固定材を除去する。その後、ステップS2-1と同様の方法で、第3の固定材により多結晶SiC膜を支持基板上に固定する。次いで、第3の研削材により多結晶SiC膜の主面を研削する。
【0030】
第3の研削材としては、第1及び第2の研削材と同様に、カップ砥石又は研磨微粉を用いることができる。
ここで、第3の研削材の粒度は、第2の研削材より細かい。第3の研削材の粒度は、例えば、研磨微粉の場合、♯5000超、♯50000以下である。
【0031】
また、第3の固定材としては、第1及び第2の固定材と同様に、熱可塑性樹脂等を用いることができる。
ここで、第3の固定材のムーニー粘度は、第2の固定材のそれよりも大きいことが好ましい。第3の固定材のムーニー粘度は、例えば、80~120Mである。
【0032】
上述のように、本実施形態によれば、研削材及び固定材を変更して、ステップS2-1~ステップ2-3の研削工程が実施される。これにより、多結晶SiC膜の主面上においてある程度離れた位置間における凹凸(空間周波数:低)と、近接した析出グレイン間モルフォロジーの凹凸(空間周波数:高)とがいずれも平坦化される。その結果、特定のWa(0~10mm)、特定のWa(10~20mm)及び特定のWa(20~30mm)を有する多結晶SiC成形体を得ることができる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明についてより詳しく説明するため、本発明者らによって行われた実施例について説明する。但し、本発明は、以下の実施例に限定して解釈されるべきものでは無い。
【0034】
(多結晶SiC膜の作製)
CVD炉内に、直径220mm、厚さ5mmの円盤状の黒鉛基板を設置した。CVD炉に、原料ガスであるトリメチルクロロシラン、キャリアガスである水素、及び窒素ガスを導入し、基板温度を1500℃に設定して10時間反応させ、黒鉛基板上に多結晶SiC膜を成膜した。
尚、成膜初期(成膜開始から2.5時間まで)と、成膜中期(成膜開始後2.5時間から5時間まで)と、成膜後期(成膜開始後5時間から10時間まで)との間において、原料ガスの濃度を変化させた。具体的には、成膜初期の原料ガス濃度(第1濃度)を9.0vol%とし、成膜後期の原料ガス濃度(第2濃度)を7.5vol%とした。
すなわち、成膜後期の原料ガス濃度に対する成膜初期の原料ガス濃度の比(原料ガス濃度比という)を、1.2倍とした。また、成膜中期においては、成膜初期の濃度から成膜後期の濃度まで、原料ガス濃度を一定の速度で低下させた。尚、原料ガス流量とキャリアガス流量との合計値が一定(140L/min.)になるように、原料ガス流量及びキャリアガス流量を制御した。
また、窒素ガス流量は、成膜期間全体を通じて、一定とした。具体的には、窒素ガス流量については、17.5(L/min.)とした。
【0035】
ガス滞留時間は、44.1(秒)であった。尚、ガス滞留時間は、下記式により算出した。
(式1):ガス滞留時間(秒)=(炉内容積/ガス流量)×((20+273)/(反応温度+273))×60
【0036】
多結晶SiC膜の成膜後、黒鉛基板をCVD炉から取り出し、外周加工及び分割加工を行った。更に、黒鉛基材を除去し、直径205mm、厚さ0.6mmの円盤状の多結晶SiC膜を得た。
【0037】
得られた多結晶SiC膜の2つの主面を、以下の実施例1~3及び比較例1~5に示す条件(表1)に従って研削し、プラズマエッチング用電極を作成した。
【0038】
ここで、第1の固定材としてムーニー粘度が45Mの熱可塑性樹脂を用い、第1の研削材として平均粒度が♯200の研磨微粉を用いた。また、第2の固定材としてムーニー粘度が70Mの熱可塑性樹脂を用い、第2の研削材として平均粒度が♯3000の研磨微粉を用いた。さらにまた、第3の固定材としてムーニー粘度が100Mの熱可塑性樹脂を用い、第3の研削材として平均粒度が♯40000の研磨微粉を用いた。
【0039】
研削時に多結晶SiC膜を固定する支持基板として、熱伝導率の高い鉄系金属平板を用いた。
【0040】
一方、固定材として第1の固定材、第2の固定材又は第3の固定材を使用しない場合は、ポーラスチャックを用いて吸着テーブル上に吸着固定した。
【0041】
(Waの測定方法)
多結晶SiC膜の主面の断面曲線、その断面曲線から3つの波長範囲(0~10mm、10~20mm、20~30mm)の抽出、及び抽出された各波長に対応する算術平均うねり(Wa(0~10mm)、Wa(10~20mm)、Wa(20~30mm))は、コーニングトロペル社製FlatMasterを用いて測定し算出した。
【0042】
(エッチングむらの評価方法)
プラズマエッチング電極用に加工した多結晶SiC膜を電極としてエッチング装置に設置し、電圧を印加し、CF4プラズマを発生させた。φ8インチ、0.5mm厚のシリコンウエーハを被エッチング材料として試料ステージに配置し、先述のCF4プラズマで1時間エッチングした後に、シリコンウエーハの厚み分布を測定しエッチングむらを評価した。
平面度が乏しい(すなわち、算術平均うねりが大きい場合)プラズマエッチング電極の場合、均一な強度のプラズマが発生しないため、同じ時間エッチングした場合にも被エッチング材料のエッチングレートに差が生じる。従って、シリコンウエーハの厚み差が小さいほど均一な強度のプラズマが発生していることを示している。
表2は、各例についての算術平均うねりWa(0~10mm)、Wa(10~20mm)、Wa(20~30mm)及びエッチングむらの評価結果として記載した。
プラズマエッチングの前後で、被エッチング面内の任意17箇所のシリコンウエーハの厚みを測定し、被エッチング面内のエッチング量の差を評価した。ここで、評価指標は、「エッチング量の最小値/エッチング量の最大値」の値とした。この値が、0.98以上の場合に従来技術より良(A)と判断し、0.95以上0.98未満の場合に従来技術と同等と判断し(B)、また0.95未満の場合に従来技術より劣る(C)と判断した。
【0043】
(体積抵抗率の評価方法)
多結晶SiC膜の体積抵抗率は、四探針法により測定された。測定箇所は、多結晶SiC膜の一方の主面の、中心点及びその他任意の9点とした。ここで、多結晶SiC膜の体積抵抗率は、上記10点の測定値の算術平均値とし、体積抵抗率のばらつきの程度は、標準偏差で評価した。
【0044】
(評価結果及び考察)
比較例1では、ポーラスチャックのみを用いて多結晶SiC膜を固定し研削を行っている。このとき、3つの波長範囲全ての算術平均うねりの値が、実施例1~3と比べて大な値であった。ポーラスチャックのみにより固定した研削方法では、主面表面のうねりは除去できないことが分かる。さらに、比較例1の多結晶SiC膜によるプラズマエッチング電極を用いてエッチングを行ったとき、実施例1~3よりも大きなエッチングむらが生じた。
実施例1~3では、3つの波長範囲全ての算術平均うねりの値が、比較例1~5に比べて小さく、エッチングむらが小さく良好であった。実施例1~3と比較例5とを比較した場合、工程の進行に従ってムーニー粘度を大きくすることにより、高周波数のうねりの除去効果が高いことが分かった。ムーニー粘度の異なる固定材が、研削加工時に発生する研削装置の振動や装置アライメントの微小なずれに追従して、弾性変形しながら多結晶SiC膜を固定することにより、従来よりも高度にうねりを除去する効果を奏すると考えられる。
ここで、実施例1~3及び比較例1~5において、それらの体積抵抗率は、いずれも0.010Ωcm未満であった。また、それらの標準偏差は0.010未満であった。
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