(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-26
(45)【発行日】2023-11-06
(54)【発明の名称】多元正極材料、その製造方法及び使用
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20231027BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20231027BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20231027BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
C01G53/00 A
(21)【出願番号】P 2022581594
(86)(22)【出願日】2022-05-13
(86)【国際出願番号】 CN2022092619
(87)【国際公開番号】W WO2022207010
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-03-27
(31)【優先権主張番号】202111599369.5
(32)【優先日】2021-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】202111486692.1
(32)【優先日】2021-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517232741
【氏名又は名称】ベイジン イースプリング マテリアル テクノロジー カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【氏名又は名称】冨田 雅己
(74)【代理人】
【識別番号】100189429
【氏名又は名称】保田 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213849
【氏名又は名称】澄川 広司
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ユー
(72)【発明者】
【氏名】ユェ,ポン
(72)【発明者】
【氏名】リュウ,ヤーフェイ
(72)【発明者】
【氏名】チェン,イェンビン
【審査官】梅野 太朗
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0034054(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第110993936(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/00-6/62
C01G53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
XRDにより得られる(006)結晶面のピーク強度I
(006)と(012)結晶面のピーク強度I
(012)との比がI
(006)/I
(012)≧0.8であり、
XRDにより得られる(006)結晶面のピーク面積A
(006)と(012)結晶面のピーク面積A
(012)との比がA
(006)/A
(012)≧0.5であ
り、
下記一般式I:
Li
n
Ni
x
Co
y
Mn
1-x-y-a-b
M
a
Q
b
O
2
式I;
(式I中、0.9≦n≦1.3、0≦x<1、0≦y<1、0≦a≦0.04、0<b≦0.05、0<b/a≦100であり、
MはW、Mo、V、Ca、Al、Si、Ni、Mn、Hf、Ta、Y、Sr、Ba、Er、Ga、Mg、Ti、Zr、La、Ce、Co及びNbのうちの少なくとも1種であり、
QはB、P及びSiのうちの少なくとも1種である)
で表される組成を有することを特徴とする多元正極材料。
【請求項2】
I
(006)/I
(012)≧1、及び/または、A
(006)/A
(012)≧0.8である請求項1に記載の多元正極材料。
【請求項3】
式Iで、1≦n≦1.2、0≦x<1、0≦y<1、0<a≦0.03、0<b≦0.04、0<b/a≦20であり、
MはW、Al、Si、Ta、Y、Sr、Ga、Mg、Ti、Zr、Co及びNbのうちの少なくとも1種であり、
QはBで
ある請求項1に記載の多元正極材料。
【請求項4】
0<b/a≦5である請求項3に記載の多元正極材料。
【請求項5】
メジアン粒径が3~20μm、または4~17μmであり、及び/または
安息角が≦35°、または≦30°であり、及び/または
全重量を基準にして、LiOHの含有量が1000~3000ppm、または1200~2500ppmである請求項1に記載の多元正極材料。
【請求項6】
ニッケル塩、コバルト塩、マンガン塩をn(Ni):n(Co):n(Mn)=x:y:(1-x-y-a-b)のモル比で混合塩溶液に調製し、沈殿剤、錯化剤、分散剤及び任意の第1添加剤をそれぞれ沈殿剤溶液、錯化剤溶液、分散剤溶液及び任意の第1添加剤混合物に調製するステップ(1)と、
前記混合塩溶液、沈殿剤溶液、錯化剤溶液、分散剤溶液及び任意の第1添加剤混合物を同時に、又は別々反応釜に投入して、反応させて
熟成し、固液混合物を得るステップ(2)と、
前記固液混合物を加圧ろ過して、ろ過ケーキを得、ろ過ケーキを洗浄してベークし、多元正極材料前駆体を得るステップ(3)と、
前記多元正極材料前駆体、リチウム源及び任意の第2添加剤を混合し、混合物Iを得るステップ(4)と、
前記混合物Iについて焙焼、冷却、破砕、篩分けを行い、多元正極材料中間品を得るステップ(5)と、
前記多元正極材料中間品と任意の第3添加剤を混合し、混合物IIを得るステップ(6)と、
混合物IIについて焼成、冷却、篩分け、脱磁を行い、前記多元正極材料を得るステップ(7)と、を含み、
少なくとも前記第1添加剤、前記第2添加剤及び前記第3添加剤のうちの1種を含み、前記第1添加剤、前記第2添加剤及び前記第3添加剤のうちの少なくとも1種はQを供給可能な化合物であり、
ろ過ケーキを洗浄して、ベークした生成物を低温熱処理し、前記多元正極材料前駆体を得るステップをさらに含み、前記低温熱処理条件は、空気及び/又は酸素ガスの存在下、300~700℃の温度で3~12h処理することを含むことを特徴とする請求項1~
5のいずれか1項に記載の多元正極材料の製造方法。
【請求項7】
前記多元正極材料は、XRDにより得られる(006)結晶面のピーク強度I
(006)と(012)結晶面のピーク強度I
(012)との比がI
(006)/I
(012)≧0.8、または、I
(006)/I
(012)≧1であり、
前記多元正極材料は、XRDにより得られる(006)結晶面のピーク面積A
(006)と(012)結晶面のピーク面積A
(012)との比がA
(006)/A
(012)≧0.5、または、A
(006)/A
(012)≧0.8であり、及び/または
前記多元正極材料は一般式Iで表される組成を有する請求項
6に記載の製造方法。
Li
nNi
xCo
yMn
1-x-y-a-bM
aQ
bO
2 式I
(式I中、0.9≦n≦1.3、0≦x<1、0≦y<1、0≦a≦0.04、0<b≦0.05、0<b/a≦100であり、
MはW、Mo、V、Ca、Al、Si、Ni、Mn、Hf、Ta、Y、Sr、Ba、Er、Ga、Mg、Ti、Zr、La、Ce、Co及びNbのうちの少なくとも1種であり、
QはB、P及びSiのうちの少なくとも1種であり、
または、1≦n≦1.2、0≦x<1、0≦y<1、0<a≦0.03、0<b≦0.04、0<b/a≦20であり、
MはW、Al、Si、Ta、Y、Sr、Ga、Mg、Ti、Zr、Co及びNbのうちの少なくとも1種であり、
QはBであり、
または、0<b/a≦5である。)
【請求項8】
前記第1添加剤、前記第2添加剤及び前記第3添加剤は、それぞれ独立に、M及び/又はQを供給可能な化合物から選択される1種又は複数種であり、及び/または
前記第1添加剤はM及び/又はQを供給可能な可溶性化合物から選択される1種又は複数種であり、及び/または
前記第2添加剤及び前記第3添加剤は、それぞれ独立に、M及びQを供給可能な化合物から選択される1種又は複数種であり、及び/または
前記反応条件は、反応温度40~80℃、反応pH値10~13を含み、及び/または
前記
熟成時間が2~8hであり、及び/または
前記多元正極材料前駆体、前記リチウム源及び前記第2添加剤の使用量が0.9≦n(Li)/[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)+n(M)+n(Q)]≦1.3、0≦n(M)/[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)+n(M)+n(Q)]≦0.04、0≦n(Q)/[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)+n(M)+n(Q)]≦0.05を満たし、及び/または
前記焙焼条件は、焙焼温度600~1100℃、または700~1000℃、焙焼時間4~18h、または6~15hを含み、及び/または
前記焙焼過程において、600℃以下の昇温過程には酸素ガス含有量<20vol%の低酸素又は無酸素雰囲気が使用され、600℃以上には酸素ガス含有量≧20vol%の空気及び/又は酸素ガス雰囲気が使用され、及び/または
前記多元正極材料中間品及び前記第3添加剤の使用量が0≦n(M)/[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)+n(M)+n(Q)]≦0.04、0≦n(Q)/[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)+n(M)+n(Q)]≦0.05を満たし、及び/または
前記焼成条件は、焼成温度300~1000℃、または400-900℃、焼成時間4~12h、または6~10hを含む請求項
6に記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1~
5のいずれか1項に記載の多元正極材料のリチウムイオン電池における使用。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本願は2021年12月07日に提出された中国特許出願202111486692.1の利益を主張しており、該出願の内容は引用により本明細書に組み込まれており、2021年12月24日に提出された中国特許出願202111599369.5の利益を主張しており、該出願の内容は引用により本明細書に組み込まれている。
【技術分野】
【0002】
本発明はリチウムイオン電池の分野に関し、具体的には、多元正極材料、その製造方法及び使用に関する。
【背景技術】
【0003】
近年、動力市場においてリチウムイオン電池のエネルギー密度とサイクル寿命が高く要求され、また、正極材料がリチウムイオン電池のエネルギー密度とサイクル寿命に対して重要な役割を果たしていることから、多元正極材料は研究の焦点として研究者と市場から注目され続けている。
【0004】
リチウムイオン電池正極のエネルギー密度を高めることは主に活物質の比容量を高めることによって実現され、活物質の比容量を高めることは一般的に充放電電圧ウィンドウを広げることによって実現することができる。しかし、充放電電圧を高めると正極材料の構造安定性と表面/界面反応活性をより厳しく制御しなければならず、正極材料が需要を満たすことができない場合、敢えて電圧ウィンドウを広げると、電池のサイクル特性が深刻に低下し、安全性が低下するなどの問題を引き起こす可能性がある。主な原因は以下のとおりである。(1)材料の構造安定性が不足すると、充電電圧が高い場合、リチウムイオンが正極材料の層状構造から多く離脱し、層状構造の一部が崩壊し、放電中にリチウムイオンが戻らず、容量が大幅に低減する。(2)材料の表面/界面反応活性が高いと、高電圧下で電解液と一連の副反応を起こしやすく、ガスの発生が深刻になり、活物質と電解液の接触が不十分で、容量が急に低下し、また、ガスの発生は深刻な安全上のリスクももたらしている。
【0005】
正極材料に対して特定の元素と化合物のドーピング、コーティングを行うことによって、材料の構造安定性を大幅に改善し、材料の表面/界面と電解液の反応性を低下させることができ、リチウムイオンのインターカレーション/デインターカレーションの程度が高い条件下においても、材料の層状構造及び表面/界面の安定性を維持することができる。しかし、現在、業界内のドーピング、コーティング添加剤は添加元素の酸化物、水酸化物又は酸素酸塩などの酸素含有化合物の形式で導入され、最終的に酸化物又は酸化リチウムと複合酸化物を形成する形式で存在している。添加化合物自体が酸素元素を含んでいるため、添加元素は再び正極材料の構造、表面中の酸素と結合しにくく、最終的に正極材料の構造、表面との間に安定的で、有効な結合を形成しにくく、正極材料のサイクル特性、高電圧特性などに対する改善作用が限られ、添加元素の作用が十分に発揮できない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、酸素含有化合物をドーピング及び/又はコーティングした正極材料の構造安定性が悪く、高脱リチウム化状態で電解液との副反応が深刻であり、高電圧条件下での使用に対応できないという従来の技術問題を解決するために、特定の構造を有することで、正極材料の構造安定性を顕著に向上させ、高脱リチウム化状態での酸素発生の問題を改善し、高電圧条件下で正極材料と電解液との間の副反応の発生の程度を低減させ、リチウムイオン電池の電気化学的特性及び安全性を向上させる多元正極材料、その製造方法及び使用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を実現するために、本発明の第1態様は、XRDにより得られる(006)結晶面のピーク強度I(006)と(012)結晶面のピーク強度I(012)との比がI(006)/I(012)≧0.8であり、
XRDにより得られる(006)結晶面のピーク面積A(006)と(012)結晶面のピーク面積A(012)との比がA(006)/A(012)≧0.5であることを特徴とする多元正極材料を提供する。
【0008】
本発明の第2態様は、
ニッケル塩、コバルト塩、マンガン塩をn(Ni):n(Co):n(Mn)=x:y:(1-x-y-a-b)のモル比で混合塩溶液に調製し、沈殿剤、錯化剤、分散剤及び任意の第1添加剤をそれぞれ沈殿剤溶液、錯化剤溶液、分散剤溶液及び任意の第1添加剤混合物に調製するステップ(1)と、
前記混合塩溶液、沈殿剤溶液、錯化剤溶液、分散剤溶液及び任意の第1添加剤混合物を同時に、又は別々に反応釜に投入して、反応させて老化し、固液混合物を得るステップ(2)と、
前記固液混合物を加圧ろ過して、ろ過ケーキを得て、ろ過ケーキを洗浄してベークし、多元正極材料前駆体を得るステップ(3)と、
前記多元正極材料前駆体、リチウム源及び任意の第2添加剤を混合し、混合物Iを得るステップ(4)と、
前記混合物Iについて焙焼、冷却、破砕、篩分けを行い、多元正極材料中間品を得るステップ(5)と、
前記多元正極材料中間品と任意の第3添加剤を混合し、混合物IIを得るステップ(6)と、
混合物IIについて焼成、冷却、篩分け、脱磁を行い、前記多元正極材料を得るステップ(7)と、を含み、
少なくとも前記第1添加剤、前記第2添加剤及び前記第3添加剤のうちの1種を含むことを特徴とする多元正極材料の製造方法を提供する。
【0009】
本発明の第3態様は上記製造方法によって製造される多元正極材料を提供する。
【0010】
本発明の第4態様は上記多元正極材料のリチウムイオン電池における使用を提供する。
【発明の効果】
【0011】
上記技術案によれば、本発明による多元正極材料、その製造方法及び使用は以下の有益な効果がある。
【0012】
本発明による多元正極材料は、特定の構造を有し、XRDにより得られるピーク強度の比がI(006)/I(012)≧0.8であり、ピーク面積の比がI(006)/I(012)≧0.5である。結晶相間(003)結晶面の回折ピークが(006)結晶面ピークに対応し、このような特定の構造を有する本発明の多元正極材料は、ピーク強度比がI(006)/I(012)<0.8、ピーク面積比がA(006)/A(012)<0.5の多元正極材料よりも(003)結晶面配向が優れており、M’-O結合長が増加し、結合エネルギーが弱まり、共有結合性が低下し(M’は多元正極材料中の骨格遷移金属元素Ni、Co、Mnなどである)、O元素はM’原子価のより大きな変化範囲内で安定を保つことができ、2pエネルギーバンドで電子・正孔が発生し、酸素ガスを析出させることを避ける。このため、本発明の多元正極材料は、構造安定性が向上し、高脱リチウム化状態での酸素発生の問題を改善し、高電圧条件下で正極材料と電解液との間の副反応の発生の程度を低減させ、リチウムイオン電池の電気化学的特性及び安全性を向上させることができる。
【0013】
さらに、本発明は上記の特定の構造を有する多元正極材料の好ましい例を提供し、該多元正極材料は、Q元素とM元素とを含み、焙焼又は焼成において、両者は正極材料の内部及び/又は表面の酸素元素と有効な結合を形成することができ、これにより、多元正極材料に特定の構造が形成され、この特定の構造は正極材料の安定性を明らかに高め、高脱リチウム化状態での酸素発生の問題を改善すると同時に、材料の表面/界面に存在する結合に関与しないダングリングボンド及び酸素活性部位の数を大幅に減らすことができ、高電圧下で多元正極材料と電解液との間の副反応の発生の程度を明らかに低減させることができる。
【0014】
さらに、本発明による多元正極材料の製造方法によれば、正極材料の内部及び/又はコーティング層にM元素及び/又はQ元素を導入することができ、これにより、製造された正極材料の構造及び表面/界面安定性が著しく向上し、特に、前記製造方法は、NCM111、NCM523、NCM622、NCM811、NCA、NCMAなどの様々な多元材料にM元素及び/又はQ元素を導入することが可能となる。また、製造プロセスが簡単であり、大規模生産に適している。
【0015】
さらに、本発明による多元正極材料は、広い使用電圧ウィンドウを有し、リチウムイオン電池に使用した場合、リチウムイオン電池の比容量、サイクル寿命、直流抵抗(DCR)増幅及び安全性を大幅に改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施例1及び比較例1の多元正極材料のXRD図である。
【
図2】実施例1、実施例4、実施例5及び比較例1の多元正極材料で製造された電池のサイクル容量維持率を示す図である。
【
図3】実施例1、実施例4、実施例5及び比較例1の多元正極材料で製造された電池のサイクル過程におけるDCR図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書で開示された範囲の端点及び任意の値はこの正確な範囲又は値に限定されるものではなく、これらの範囲又は値はこれらの範囲又は値に近い値として理解すべきである。数値の範囲の場合、各範囲の端点値の間、各範囲の端点値と個別の点値との間、及び個別の点値の間を互いに組み合わせて1つ又は複数の新しい数値の範囲としてもよく、これらの数値の範囲は本明細書で具体的に開示されるものとしてみなすべきである。
【0018】
本発明の第1態様は、XRDにより得られる(006)結晶面のピーク強度I(006)と(012)結晶面のピーク強度I(012)との比がI(006)/I(012)≧0.8であり、
XRDにより得られる(006)結晶面のピーク面積A(006)と(012)結晶面のピーク面積A(012)との比がA(006)/A(012)≧0.5であることを特徴とする多元正極材料を提供する。
【0019】
本発明者らが研究した結果、一般的な多元正極材料では、骨格遷移金属元素M’(Ni、Co、Mnなど)が酸素元素と強い共有結合性を有し、これにより、酸素の2pエネルギーバンドで電子・正孔が発生し、多元正極材料の高脱リチウム化状態で酸素ガスが析出され、多元正極材料が高電圧で適用されにくくなることを見出した。
【0020】
本発明者らが研究した結果、多元正極材料の(003)結晶面の成長速度及び/又は(012)結晶面の成長速度を制御し、(003)結晶面の成長速度が(012)結晶面の成長速度よりも明らかに速いようにし、(003)結晶面が優先的に成長される特定の構造を形成し、結晶相間の(003)結晶面の回折ピークが(006)結晶面ピークに対応するようにし、多元正極材料では、具体的には、XRDにより得られる(006)結晶面のピーク強度I(006)と(012)結晶面のピーク強度I(012)との比がI(006)/I(012)≧0.8、(006)結晶面のピーク面積A(006)と(012)結晶面のピーク面積A(012)との比がA(006)/A(012)≧0.5になる。これによって、正極材料の構造安定性を向上させ、高脱リチウム化状態での酸素発生の問題を著しく改善し、高電圧条件下で正極材料と電解液との間の副反応の発生の程度を低減させ、リチウムイオン電池の電気化学的特性を向上できることを見出した。
【0021】
さらに、I(006)/I(012)≧1、A(006)/A(012)≧0.8である。
【0022】
本発明では、前記多元正極材料において、XRDにより得られる(006)の特徴的な回折ピークの2θが37.2~39.5°であり、(012)の特徴的な回折ピークの2θが37.2~39.5°である。
【0023】
本発明によれば、前記多元正極材料は一般式Iで表される組成を有する。
LinNixCoyMn1-x-y-a-bMaQbO2 式I
(式I中、0.9≦n≦1.3、0≦x<1、0≦y<1、0≦a≦0.04、0<b≦0.05、0<b/a≦100であり、
MはW、Mo、V、Ca、Al、Si、Ni、Mn、Hf、Ta、Y、Sr、Ba、Er、Ga、Mg、Ti、Zr、La、Ce、Co及びNbのうちの少なくとも1種であり、
QはB、P及びSiのうちの少なくとも1種である。)
【0024】
本発明では、本発明者らが研究した結果、多元正極材料にホウ素元素、リン元素又はケイ素元素を導入することは、上記のピーク強度比I(006)/I(012)≧0.8、ピーク面積比A(006)/A(012)≧0.5を有する多元正極材料を得るために実施可能な手段の1つである。もちろん、当業者であれば、他の手段によって、ピーク強度比及びピーク面積比が上記条件を満たす多元正極材料を得ることもでき、本発明はこれに限定しないが、ピーク強度比I(006)/I(012)≧0.8、ピーク面積比A(006)/A(012)≧0.5の多元正極材料であれば本発明の特許範囲に含まれるものとする。
【0025】
本発明では、ホウ素元素、リン元素又はケイ素元素を導入し、多元正極材料をコーティング及び/又はドーピングすることによって、正極材料の内部及び表面の酸素元素と有効な結合を形成し、特に内部の酸素元素と結合すると、元のM’-O結合長が増大し、M’とO元素の共有結合性が弱まり、結晶構造中のM’-M’層の距離が明らかに増大し、(003)結晶面には成長速度上の優位性が認められ、結晶相間の(003)結晶面の回折ピークが(006)結晶面ピークに対応し、これによって、XRD測定において結晶構造の(006)ピーク強度I(006)と(012)結晶面のピーク強度I(012)との比及び(006)結晶面のピーク面積A(006)と(012)結晶面のピーク面積A(012)との比A(006)/A(012)は両方とも明らかに増大し、リチウムのインターカレーション/デインターカレーションにおいてM’の原子価が大きく変化し、O~2pエネルギーバンドの電子構造への影響が低下し、正極材料の安定性が顕著に向上し、高脱リチウム化状態での酸素発生の問題が改善され、表面の酸素元素と結合されると、正極材料の表面/界面に存在する結合に関与しないダングリングボンド及び酸素活性部位の数を大幅に減らすことができ、高電圧下で多元正極材料と電解液との間の副反応の発生の程度を明らかに低減させることができる。
【0026】
さらに、Q元素ドーピング及び/又はコーティングを含む、ピーク強度との比I(006)/I(012)≧0.8、ピーク面積との比がA(006)/A(012)≧0.5である本発明の多元正極材料は、正極材料の構造及び表面/界面の安定性を効果的に高めるだけではなく、使用範囲も非常に広く、例えばNCM111、NCM523、NCM622、NCM811、NCA、NCMAなど、様々な組成の多元材料及びLFP、リチウムリッチなど複数種のリチウムイオン電池正極材料がある。
【0027】
本発明の一つの特定実施形態では、式Iにおいて、0.9≦n≦1.3、0≦x<1、0≦y<1、0<a≦0.04、0<b≦0.05、0<b/a≦100であり、MはW、Mo、V、Ca、Al、Si、Ni、Mn、Hf、Ta、Y、Sr、Ba、Ga及びErのうちの1種又は複数種である。
【0028】
さらに、式Iにおいて、1≦n≦1.2、0≦x<1、0≦y<1、0<a≦0.03、0<b≦0.04、0<b/a≦20であり、
MはW、Al、Si、Ta、Y、Sr、Ga、Mg、Ti、Zr、Co及びNbのうちの少なくとも1種であり、
QはBであり、
さらに好ましくは、0<b/a≦5である。
【0029】
本発明では、前記Mは1種のMのホウ素化合物、リン化合物又はケイ素化合物の形式又は複数種のMの複合ホウ素化物、複合リン化物又は複合ケイ素化物の形式で導入される。
【0030】
本発明によれば、前記多元正極材料のメジアン粒径が3~20μm、好ましくは4~17μmである。
【0031】
本発明によれば、前記多元正極材料の安息角が≦35°、好ましくは≦30°である。
【0032】
本発明では、ホウ素元素、リン元素又はケイ素元素を含まず、ピーク強度比I
(006)/I
(012)<0.8、ピーク面積比A
(006)/A
(012)<0.5の多元正極材料に対しては、本発明の多元正極材料はサイクル維持率が5%以上向上し、具体的には、
図2を参照する。
【0033】
本発明では、ホウ素元素、リン元素又はケイ素元素を含まず、ピーク強度比I
(006)/I
(012)<0.8、ピーク面積比A
(006)/A
(012)<0.5の多元正極材料に対しては、本発明の多元正極材料は80サイクル後のDCRが10%以上低下し、DCR増幅が5%以上低下し、具体的には、
図3を参照する。
【0034】
本発明によれば、前記多元正極材料の全重量を基準にして、LiOHの含有量が1000~3000ppm、好ましくは1200~2500ppmである。
【0035】
上記製品の製造方法は焙焼過程と焼成過程を含み、前記焙焼過程において、600℃以下の昇温過程には酸素ガス含有量<20vol%の低酸素又は無酸素雰囲気が使用され、600℃以上には酸素ガス含有量≧20vol%の空気及び/又は酸素ガス雰囲気が使用される。
【0036】
本発明の第2態様は、
ニッケル塩、コバルト塩、マンガン塩をn(Ni):n(Co):n(Mn)=x:y:(1-x-y-a-b)のモル比で混合塩溶液に調製し、沈殿剤、錯化剤、分散剤及び任意の第1添加剤をそれぞれ沈殿剤溶液、錯化剤溶液、分散剤溶液及び任意の第1添加剤混合物に調製するステップ(1)と、
前記混合塩溶液、沈殿剤溶液、錯化剤溶液、分散剤溶液及び任意の第1添加剤混合物を同時に、又は別々反応釜に投入して、反応させて老化し、固液混合物を得るステップ(2)と、
前記固液混合物を加圧ろ過して、ろ過ケーキを得て、ろ過ケーキを洗浄してベークし、多元正極材料前駆体を得るステップ(3)と、
前記多元正極材料前駆体、リチウム源及び任意の第2添加剤を混合し、混合物Iを得るステップ(4)と、
前記混合物Iについて焙焼、冷却、破砕、篩分けを行い、多元正極材料中間品を得るステップ(5)と、
前記多元正極材料中間品と任意の第3添加剤を混合し、混合物IIを得るステップ(6)と、
混合物IIについて焼成、冷却、篩分け、脱磁を行い、前記多元正極材料を得るステップ(7)と、を含み、
少なくとも前記第1添加剤、前記第2添加剤及び前記第3添加剤のうちの1種を含み、前記第1添加剤、前記第2添加剤及び前記第3添加剤のうちの少なくとも1種はQ含有化合物であることを特徴とする多元正極材料の製造方法を提供する。
【0037】
本発明では、前記第1添加剤混合物は第1添加剤溶液、第1添加剤ゾル又は第1添加剤懸濁液であってもよい。
【0038】
本発明では、上記製造方法を使用する。具体的には、正極材料の製造過程の異なる段階においてQ含有化合物を第1添加剤、第2添加剤又は第3添加剤として添加し、これによって、製造された正極材料は本発明の特定の構造を有し、正極材料の安定性を顕著に向上させ、高脱リチウム化状態での酸素発生の問題を顕著に改善し、高電圧条件下で正極材料と電解液との間の副反応の発生の程度を低減させ、リチウムイオン電池の電気化学的特性を向上させることができる。
【0039】
さらに、上記方法で製造された正極材料はより優れた流動性を有し、篩分けや脱磁の能力が高く、加工特性が優れている。具体的には、ホウ素元素、リン元素又はケイ素元素を含まず、ピーク強度比I(006)/I(012)<0.8、ピーク面積比A(006)/A(012)<0.5の多元正極材料に対しては、本発明の多元正極材料は、流動性により優れ、安息角が3°以上低下する。
【0040】
ホウ素元素、リン元素又はケイ素元素を含まず、ピーク強度比I(006)/I(012)<0.8、ピーク面積比A(006)/A(012)<0.5の多元正極材料に対しては、本発明の多元正極材料は、篩分けや脱磁の能力がより高く、生産力が20%以上向上する。
【0041】
本発明によれば、前記多元正極材料は、XRDにより得られる(006)結晶面のピーク強度I(006)と(012)結晶面のピーク強度I(012)との比がI(006)/I(012)≧0.8、好ましくは、I(006)/I(012)≧1であり、
前記多元正極材料は、XRDにより得られる(006)結晶面のピーク面積A(006)と(012)結晶面のピーク面積A(012)との比がA(006)/A(012)≧0.5、好ましくは、A(006)/A(012)≧0.8である。
【0042】
本発明によれば、前記多元正極材料は一般式Iで表される組成を有する。
LinNixCoyMn1-x-y-a-bMaQbO2 式I
(式I中、0.9≦n≦1.3、0≦x<1、0≦y<1、0≦a≦0.04、0<b≦0.05、0<b/a≦100であり、
MはW、Mo、V、Ca、Al、Si、Ni、Mn、Hf、Ta、Y、Sr、Ba、Er、Ga、Mg、Ti、Zr、La、Ce、Co及びNbのうちの少なくとも1種であり、
QはB、P及びSiのうちの少なくとも1種である。)
【0043】
さらに、式Iにおいて、1≦n≦1.2、0≦x<1、0≦y<1、0<a≦0.03、0<b≦0.04、0<b/a≦20であり、
MはW、Al、Si、Ta、Y、Sr、Ga、Mg、Ti、Zr、Co及びNbのうちの少なくとも1種であり、
QはBであり、
さらに好ましくは、0<b/a≦5である。
【0044】
本発明によれば、前記第1添加剤、前記第2添加剤及び前記第3添加剤は、それぞれ独立に、M及び/又はQを供給可能な化合物から選択される1種又は複数種である。
【0045】
好ましくは、前記M及び/又はQを供給可能な化合物はM元素を含むホウ素化物、リン化物又はケイ素化物である。
【0046】
本発明では、本発明者らが研究した結果、XRDにより得られるピーク強度比I(006)/I(012)≧0.8、ピーク面積比A(006)/A(012)≧0.5の多元正極材料は、I(006)/I(012)<0.8、ピーク面積比A(006)/A(012)<0.5の多元正極材料よりも優れた(003)結晶面配向を有し、M’-O結合長が増大し、結合エネルギーが弱まり、共有結合性が低下し、O元素がより大きなM’原子価のより大きな変化範囲内で安定を保つことができ、2pエネルギーバンドで電子・正孔が発生し、酸素ガスを析出させることを避ける。
【0047】
上記の特定ピーク強度比、ピーク面積比を有する多元正極材料を得る好ましい例として、ホウ素化合物、リン化合物又はケイ素化合物の形式でM元素をドーピング及び/又はコーティング添加剤として多元正極材料に導入し、M元素を含むホウ素化合物、リン化合物又はケイ素化合物は正極材料の内部及び/又は表面/界面中の酸素と結合されて反応し、添加剤元素Mの安定的な酸化物(又は酸化リチウムとともに形成される複合酸化物)、酸化ホウ素(又はホウ酸リチウム等)、酸化リン(又はリン酸リチウム)又は酸化ケイ素(又はケイ酸リチウム)を形成し、材料の内部構造及び表面/界面中の酸素元素を効果的に安定化させ、材料の構造及び表面/界面の安定性を高める目的を達成する。
【0048】
本発明では、前記M元素を含むホウ素化合物は以下の化合物から選択される少なくとも1種である。
MgB2、MgB4、MgB6、MgB12;
AlB2、AlB10、AlB12;
Si11B31、SiB4、SiB6、SiB14、SiB18;
CaB6;
TiB、Ti3B4、TiB2、Ti2B5、TiB12、TiB25、TiB55、TiB100;
V3B2、VB、V5B6、V3B4、V2B3、VB2;
Mn2B、MnB、MnB2、MnB4、MnB12;
Co4B、Co23B6、Co3B、Co2B、Co13B7、Co3B2、CoB;
Ni3B、Ni2B、Ni4B3、NiB、NiB12;
SrB6;
YB2、YB4、YB6、YB12、YB25、YB50、YB66;
ZrB2、ZrB12;
Nb3B2、NbB、Nb5B6、NbB2;
Mo2B、MoB、MoB2、Mo2B5、Mo4B15、MoB4;
BaB2、BaB6;
LaB4、LaB6;
HfB、HfB2、HfB12;
Ta2B、Ta3B2、TaB、Ta5B6、Ta3B4、TaB2;
W2B、WB、WB2、W2B5、WB4;
CeB4、CeB6;
ErB2、ErB4、ErB12、ErB25、ErB50、ErB66。
【0049】
本発明では、前記M元素を含むリン化合物は以下の化合物から選択される少なくとも1種である。
Mg3P2、MgP4;
Ca3P2、CaP、Ca5P8;
Sr3P2、SrP、Sr4P5、Sr3P4、SrP3、Sr3P14;
Ba3P2、Ba4P5、Ba3P4、BaP10;
YP;
LaP、LaP2、LaP5、LaP7;
Ti5P3、Ti4P3、Ti17P10、TiP2;
Zr2P、Zr5P3、ZrP;
Hf3P2、HfP;
V3P、V2P、V4P3、VP、V4P7、VP2、VP4;
Nb5P3、Nb8P5、NbP;
Ta3P、Ta2P;
CeP、CeP2;
Mo8P5、Mo4P3、MoP、MoP2、MoP4;
WP、WP2、WP4;
Mn2P、MnP、MnP2、MnP4;
Co2P、CoP、CoP2、CoP3、CoP4;
Ni3P、Ni5P2、Ni7P3、Ni2P、Ni5P4、NiP、NiP2、Ni12P5;
AlP;
GaP;
SiP、SiP2、Si12P5;
B13P、B12P2、BP。
【0050】
本発明では、前記M元素を含むケイ素化合物は以下の化合物から選択される少なくとも1種である。
Mg2Si;
Ca2Si、CaSi、CaSi2;
Sr2Si、SrSi、Sr2Si3、SrSi2;
Ba2Si、Ba5Si3、BaSi、BaSi2;
Y5Si3、YSi、YSi2;
La5Si3、La3Si2、La5Si4、LaSi、LaSi2;
Ti5Si3、Ti5Si4、TiSi、TiSi2;
Zr5Si3、Zr3Si2、Zr5Si4、ZrSi、ZrSi2;
Hf2Si、Hf5Si3、Hf3Si2、Hf5Si4、HfSi、HfSi2;
V3Si、V5Si3、V6Si5、VSi2;
Nb3Si、Nb5Si3、Nb3Si2、NbSi2;
Ta3Si、Ta5Si2、Ta2Si、Ta5Si3;
Ce5Si3、CeSi、CeSi2;
Mo3Si、Mo5Si3、MoSi2;
W5Si3、WSi2;
Mn6Si、Mn5Si2、MnSi、Mn3Si5、Mn15Si26、Mn27Si47;
Co2Si、CoSi、Co2Si3、CoSi2;
Ni3Si、Ni74Si26、Ni31Si12、Ni2Si、Ni3Si2、NiSi、NiSi2;
Al4Si
Er5Si3、ErSi、ErSi2;
B18Si、B14Si、B6Si、B4Si、B31Si11。
【0051】
本発明によれば、前記多元正極材料の重量を基準にして、LiOHの含有量が1000~3000ppm、好ましくは1200~2500ppmである。
【0052】
本発明によれば、前記第1添加剤はM及び/又はQを供給可能な可溶性化合物から選択される1種又は複数種である。
【0053】
本発明によれば、前記第2添加剤及び前記第3添加剤は、それぞれ独立に、M及びQを供給可能な化合物から選択される1種又は複数種である。
【0054】
さらに、前記第2添加剤及び前記第3添加剤は、それぞれ独立に、W、Al、Si、Ta、Y、Sr、Mo、V、Mn、Ca、Ni、Hf、Ba、Er、GaとB、P又はSiとで形成される化合物である。
【0055】
本発明では、前記ニッケル塩、コバルト塩、マンガン塩はニッケル、コバルト、マンガンの硫酸塩、塩化塩、硝酸塩及び酢酸塩から選択される1種又は複数種である。
【0056】
本発明では、前記沈殿剤は水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び水酸化リチウムから選択される1種又は複数種である。
【0057】
本発明では、前記錯化剤はアンモニア水、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム及び硫酸アンモニウムから選択される1種又は複数種である。
【0058】
本発明では、前記分散剤はポリエチレングリコールPEG、ポリビニルアルコールPVA及びポリグリセリンから選択される1種又は複数種である。
【0059】
本発明では、前記混合塩溶液、前記沈殿剤溶液、前記錯化剤溶液及び前記第1添加剤の使用量がn(Ni):n(Co):n(Mn):n(沈殿剤):n(錯化剤)= x:y:(1-x-y-a-b):1.2:0.3、0≦n(M)/[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)+n(M)+n(Q)]≦0.04、0≦n(Q)/[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)+n(M)+n(Q)]≦0.05を満たす。
【0060】
さらに、前記混合塩溶液、前記沈殿剤溶液、前記錯化剤溶液及び前記第1添加の使用量が、n(Ni):n(Co):n(Mn):n(沈殿剤):n(錯化剤)= x:y:(1-x-y-a-b):1.1:0.2、0.0001≦n(M)/[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)+n(M)+n(Q)]≦0.03、0.0001≦n(Q)/[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)+n(M)+n(Q)]≦0.04を満たす。
【0061】
本発明によれば、前記反応は、反応温度40~80℃、反応のpH値の制御範囲10~13を含む。
【0062】
本発明によれば、前記老化時間が2~8hである。
【0063】
本発明では、前記ステップ(3)において、前記ベーク条件は、ベーク温度100~130℃、時間2~5hを含む。
【0064】
本発明によれば、前記製造方法は、ろ過ケーキを洗浄して、ベークした生成物を低温熱処理し、前記多元正極材料前駆体を得るステップをさらに含む。
【0065】
本発明では、上記低温熱処理によって、多元正極材料の焙焼収率及び焙焼工程の生産力をさらに改善することができ、具体的には、焙焼収率を10%以上上昇させることができる。
【0066】
本発明によれば、前記低温熱処理条件は、空気及び/又は酸素ガスの存在下、300~700℃の温度で3~12h処理することを含む。
【0067】
さらに、前記低温熱処理条件は、空気及び/又は酸素ガスの存在下、400~600℃の温度で4~8h処理することを含む。
【0068】
本発明によれば、前記多元正極材料前駆体、前記リチウム源及び前記第2添加剤の使用量が、0.9≦n(Li)/[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)+n(M)+n(Q)]≦1.3、0≦n(M)/[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)+n(M)+n(Q)]≦0.04、0≦n(Q)/[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)+n(M)+n(Q)]≦0.05を満たす。
【0069】
好ましくは、前記多元正極材料前駆体、前記リチウム源及び前記第2添加剤の使用量が、1≦n(Li)/[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)+n(M)+n(Q)]≦1.2、0<n(M)/[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)+n(M)+n(Q)]≦0.03、0<n(Q)/[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)+n(M)+n(Q)]≦0.04を満たす。
【0070】
本発明では、前記リチウム源は炭酸リチウム、塩化リチウム、水酸化リチウム、フッ化リチウム及び硝酸リチウムから選択される1種又は複数種である。
【0071】
本発明によれば、前記焙焼条件は、焙焼温度600~1100℃、焙焼時間4~18hを含む。
【0072】
さらに、前記焙焼過程において、600℃以下の昇温段階には酸素ガス含有量<20vol%の低酸素又は無酸素雰囲気が使用され、600℃以上の焙焼過程(昇温、保温、降温段階)には酸素含有量≧20vol%の空気及び/又は酸素ガス雰囲気が使用される。
【0073】
さらに、前記焙焼条件は、焙焼温度700~1000℃、焙焼時間6~15hを含む。
【0074】
本発明によれば、前記多元正極材料中間品及び前記第3添加剤の使用量が、0≦n(M)/[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)+n(M)+n(Q)]≦0.04、0≦n(Q)/[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)+n(M)+n(Q)]≦0.05を満たす。
【0075】
好ましくは、前記多元正極材料中間品及び前記第3添加剤の使用量が、0<n(M)/[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)+n(M)+n(Q)]≦0.03、0<n(Q)/[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)+n(M)+n(Q)]≦0.04を満たす。
【0076】
本発明によれば、前記焼成条件は、焼成温度300~1000℃、焼成時間4~12hを含む。
【0077】
さらに、前記焼成条件は、焼成温度400~900℃、焼成時間6~10hを含む。
【0078】
本発明の第3態様は、上記製造方法によって製造される多元正極材料を提供する。
【0079】
本発明の第4態様は、多元正極材料のリチウムイオン電池における使用を提供する。
【0080】
以下、実施例によって本発明についてさらに詳細に説明する。以下の実施例では、
XRDパラメータはX線回折装置を用いた方法によって測定され、使用するテスターはX線回折装置(理学社、Smart Lab 9KW)であり、テスト条件は、X線源がCuのKα線、走査範囲10°~80°、走査速度2°/min、走査ステップ0.02°とする。
粒径はレーザ散乱方法によって測定され、使用する器具はレーザ粒度計(マルバーン社、Mastersizer 2000)、テスト条件は回転速度2850rpm、遮光度10%~20%である。
材料の安息角は注入法の底面限定法によりテストされ、使用する安息角テスターはXF-4324であり、テスト条件は25±3℃、供給速度30g/minである。
正極材料中の各元素の含有量はICP方法によってテストされ、使用するテスターはPE Optima 7000DVであり、テスト条件として、サンプル0.1gをHNO3+9mL HClの混合酸溶液3mLに完全に溶解させ、250mLとなるまで希釈してテストする。
正極材料のLiOH含有量のパラメータは電位差滴定方法によって測定され、使用するテスターはメトローム社のMetrohm 848電位差滴定装置であり、テスト条件は25℃である。
篩分けや脱磁の能力は篩分けや脱磁の工程における単位時間あたりの材料の重量を統計して算出したものである。
焙焼収率は焙焼前後のサンプルの質量を秤量する方法によって算出される。
正極材料の初回放電容量、サイクル特性はボタン型電池の方法によって測定され、使用するテスターは新威電池社のテストキャビネット(CT3008)であり、初回充放電容量のテスト条件は0.2C@3~4.35V、0.2C@3~4.40V又は0.2C@3.0~4.45V、25℃であり、放電容量が大きいほど、材料の比容量が高く、電池システムのエネルギー密度が高いことを示し、サイクル特性のテスト条件は1.0C@3~4.45V又は1.0C@3~4.50V、45℃であり、サイクル中に容量の低下が小さいほど、材料の安定性が高く、電池システムのサイクル特性が優れることを示す。
【0081】
ボタン型電池は以下のステップによって作製される。
正極材料9.2g、アセチレンブラック0.4g及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)0.4gを混合し、アルミ箔上にコーティングしてベークし、100MPaの圧力でプレス成形し、直径12mm、厚さ120μmの正極板を得た後、該正極板を真空オーブンに入れて120℃で12hベークした。
負極として直径17mm、厚さ1mmのLi金属シートを、セパレータとして厚さ25μmのポリエチレン多孔質フィルム、電解液として1mol/LのLiPF6を電解質とした炭酸エチレン(EC)と炭酸ジエチル(DEC)の等量混合液を使用した。
正極板、セパレータ、負極板及び電解液を水含有量と酸素含有量の両方が5ppm未満のArガスグローブボックスにて組み立てて2025型ボタン型電池とする。
【0082】
正極材料のサイクル特性のテストステップは以下のとおりである。
ボタン型電池について3~4.4Vの範囲内で定電流定電圧の充放電サイクルを行って活性化した。充放電のプロセスは以下のとおりである。0.2Cのレートで4.4Vまで定電流定電圧充電を行い、定電圧充電のカットオフ電流を0.02Cとし、0.2Cのレートで3Vまで定電流放電を行う。このプロセスに従って2週間充放電した電池を活性化済み電池とした。
活性化済み電池を、1Cの電流密度をもって、3~4.45V又は3~4.5Vの電圧範囲で充放電サイクルテストを行い、温度を45℃とし、80サイクル後、正極材料のサイクル維持率及びDCR増幅を調べる。
実施例及び比較例に使用される原料は全て市販品である。
【0083】
実施例1
S1、2mol/Lのニッケル・コバルト・マンガン硫酸塩混合溶液(モル比Ni:Co:Mn=50:19:28.6)、2.5mol/LのNaOH溶液、3mol/Lのアンモニア水、20g/LのPEG1000分散剤水溶液、1 mol/LのAl
2(SO
4)
3溶液を調製し、上記複数種の溶液を合流して反応釜に投入し、ここで、Al
2(SO
4)
3の投入量は[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]:n(Al)=0.976:0.003であり、反応温度は60℃、反応のpH値は12.0に保持された。反応終了後、6h老化し、次に加圧ろ過して、洗浄し、110℃でベークし、篩分けし、さらに空気雰囲気、500℃の条件下で8h熱処理し、多元正極材料前駆体を得た。
S2、前記多元正極材料前駆体、炭酸リチウム、二ホウ化イットリウム(YB
2)を[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]:n(Li):n(Y)=0.976:1.05:0.002の割合で、高速混合機で十分に混合し、1000℃の温度で12h焙焼し、ここで、焙焼過程において、600℃以下の昇温過程には酸素ガス含有量が15vol%の窒素ガスと空気の混合雰囲気が使用され、600℃以上には酸素ガス含有量が21vol%の乾燥空気雰囲気に切り替わった。自然冷却により降温して、破砕して篩分けし、多元正極材料中間品Iを得た。
S3、該多元正極材料中間品I、ホウ化二コバルト(Co
2B)を[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]:n(Co)=0.976:0.010の割合で、高速混合機で十分に混合し、乾燥空気雰囲気、800℃で8h焼成し、自然冷却により降温して、400メッシュにかけて、組成Li
1.05Ni
0.5Co
0.2Mn
0.286Al
0.003Y
0.002B
0.009O
2の多元正極材料A1を得た。
該正極材料A1の焙焼収率及び篩分けや脱磁の能力を表1に示す。
該正極材料A1の組成、粒径D
50、LiOH含有量、安息角、I
(006)/I
(012)及びA
(006)/A
(012)を表2に示す。該正極材料A1のXRD結果を
図1に詳細に示す。該正極材料A1を用いて製造したボタン型電池の4.45V電圧での比容量、及び3~4.5V電圧範囲内のサイクル維持率及びDCR増幅を表3に示す。該正極材料A1を用いて製造したボタン型電池のサイクル維持率、DCR結果をそれぞれ
図2、
図3に示す。
【0084】
実施例2
S1、1.5mol/Lのニッケル・コバルト・マンガン硫酸塩混合溶液(モル比Ni:Co:Mn=50:18:24)、3mol/LのNaOH溶液、2mol/Lのアンモニア水、15g/LのPEG1000分散剤水溶液、0.5 mol/LのAl2(SO4)3溶液を調製し、上記複数種の溶液を合流して反応釜に投入し、ここで、Al2(SO4)3の投入量は[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]:n(Al)=0.92:0.01であり、反応温度は50℃、反応のpH値は11に保持された。反応終了後、12h老化し、次に加圧ろ過して、洗浄し、110℃でベークし、篩分けし、さらに空気雰囲気、400℃の条件下で10h熱処理し、多元正極材料前駆体を得た。
S2、前記多元正極材料前駆体、炭酸リチウム、二ホウ化イットリウム(YB2)を[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]:n(Li):n(Y)=0.92:1.20:0.01の割合で、高速混合機で十分に混合し、900℃の温度で18h焙焼し、ここで、焙焼過程において、600℃以下の昇温過程には酸素ガス含有量が10vol%の窒素ガスと空気の混合雰囲気が使用され、600℃以上には酸素ガス含有量が21vol%の乾燥空気雰囲気に切り替わった。自然冷却により降温して、破砕して篩分けし、多元正極材料中間品Iを得た。
S3、該多元正極材料中間品I、ホウ化コバルト(CoB)を[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]:n(Co)=0.92:0.02の割合で、高速混合機で十分に混合し、乾燥空気雰囲気、400℃で10h焼成し、自然冷却により降温して、400メッシュにかけて、組成Li1.20Ni0.5Co0.2Mn0.24Al0.01Y0.01B0.04O2の多元正極材料A2を得た。
該正極材料A2の焙焼収率及び篩分けや脱磁の能力を表1に示す。
該正極材料A2の組成、粒径D50、LiOH含有量、安息角、I(006)/I(012)及びA(006)/A(012)を表2に示す。該正極材料A2を用いて製造したボタン型電池の4.45V電圧での比容量、及び3~4.5V電圧範囲でのサイクル維持率及びDCR増幅を表3に示す。
【0085】
実施例3
S1、2.5mol/Lのニッケル・コバルト・マンガン硫酸塩混合溶液(モル比Ni:Co:Mn=50:19.9:29.5)、10mol/LのNaOH溶液、8mol/Lのアンモニア水、100g/LのPEG1000分散剤水溶液、0.2 mol/LのAl2(SO4)3溶液を調製し、上記複数種の溶液を合流して反応釜に投入し、ここで、Al2(SO4)3の投入量は[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]:n(Al)=0.994:0.001であり、反応温度は70℃、反応のpH値は13に保持された。反応終了後、2h老化し、次に加圧ろ過して、洗浄し、120℃ベーク、篩分けし、さらに空気雰囲気、600℃の条件下で3h熱処理し、多元正極材料前駆体を得た。
S2、前記多元正極材料前駆体、炭酸リチウム、二ホウ化イットリウム(YB2)を[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]:n(Li):n(Y)=0.994:1.0:0.001の割合で、高速混合機で十分に混合し、950℃の温度で4h焙焼し、ここで、焙焼過程において、600℃以下の昇温過程には酸素ガス含有量が5vol%の窒素ガスと空気の混合雰囲気が使用され、600℃以上には酸素ガス含有量が21vol%の乾燥空気雰囲気に切り替わった。自然冷却により降温して、破砕して篩分けし、多元正極材料中間品Iを得た。
S3、該多元正極材料中間品I、ホウ化コバルト(CoB)を[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]:n(Co)=0.994:0.001の割合で、高速混合機で十分に混合し、乾燥空気雰囲気、900℃で6h焼成し、自然冷却により降温して、400メッシュにかけて、組成LiNi0.5Co0.2Mn0.295Al0.001Y0.001B0.003O2の多元正極材料A3を得た。
該正極材料A3の焙焼収率及び篩分けや脱磁の能力を表1に示す。
該正極材料A3の組成、粒径D50、LiOH含有量、安息角、I(006)/I(012)及びA(006)/A(012)を表2に示す。該正極材料A3を用いて製造したボタン型電池の4.45V電圧での比容量、及び3~4.5V電圧範囲でのサイクル維持率及びDCR増幅を表3に示す。
【0086】
実施例4
以下のこと以外、実施例1の方法によって多元正極材料A4を製造した。
ステップS1においては、反応終了後、6h老化し、次に加圧ろ過して、洗浄し、110℃でベークし、篩分けした後、空気雰囲気、500℃の条件下で熱処理を行わなかった。
ステップS2においては、二ホウ化イットリウム(YB
2)をY
2O
3及びB
2O
3に変更し、n(Y
2O
3):n(B
2O
3)=1:2とし、ただし、Y元素の添加量は実施例1と同様であった。
ステップS3においては、ホウ化二コバルト(Co
2B)をCo(OH)
2及びH
3BO
3に変更し、n(Co(OH)
2):n(H
3BO
3)=2:1とし、ただし、Co元素の添加量は実施例1と同様であった。
製造された正極材料A4は、組成がLi
1.05Ni
0.5Co
0.2Mn
0.286Al
0.003Y
0.002B
0.009O
2であり、正極材料A1の組成と同様であった。該正極材料A4のサイクル維持率、DCR結果をそれぞれ
図2、
図3に示す。
該正極材料A4の焙焼収率及び篩分けや脱磁の能力を表1に示す。
該正極材料A4の組成、粒径D
50、LiOH含有量、安息角、I
(006)/I
(012)及びA
(006)/A
(012)を表2に示す。該正極材料A4を用いて製造したボタン型電池の4.45V電圧での比容量、及び3~4.5V電圧範囲でのサイクル維持率及びDCR増幅を表3に示す。
【0087】
実施例5
以下のこと以外、実施例1の方法によって多元正極材料A5を製造した。
ステップS1においては、反応終了後、6h老化し、次に加圧ろ過して、洗浄し、110℃でベークし、篩分けした後、空気雰囲気、500℃の条件下で熱処理を行わなかった。
ステップS2においては、二ホウ化イットリウム(YB
2)を添加しなかった。
ステップS3においては、ホウ化二コバルト(Co
2B)をY
2O
3、Co(OH)
2及びH
3BO
3に変更し、n(Y
2O
3):n(Co(OH)
2):n(H
3BO
3)=1:10:9とし、Co元素の添加量は実施例1と同様であった。
製造された正極材料A5は、組成がLi
1.05Ni
0.5Co
0.2Mn
0.286Al
0.003Y
0.002B
0.009O
2であり、正極材料A1の組成と同様であった。該正極材料A5のサイクル維持率、DCR結果をそれぞれ
図2、
図3に示す。
該正極材料A5の焙焼収率及び篩分けや脱磁の能力を表1に示す。
該正極材料A5の組成、粒径D
50、LiOH含有量、安息角、I
(006)/I
(012)及びA
(006)/A
(012)を表2に示す。該正極材料A5を用いて製造したボタン型電池の4.45V電圧での比容量、及び3~4.5V電圧範囲でのサイクル維持率及びDCR増幅を表3に示す。
【0088】
実施例6
S1、2mol/Lのニッケル・コバルト・マンガン硫酸塩混合溶液(モル比Ni:Co:Mn=65:15:19)、2.5mol/LのNaOH溶液、3mol/Lのアンモニア水、20g/LのPEG1000分散剤水溶液を調製し、上記複数種の溶液を合流して反応釜に投入し、反応温度は65℃、反応のpH値は11.5に保持された。反応終了後、6h老化し、次に加圧ろ過して、洗浄し、110℃でベークし、篩分けし、さらに空気雰囲気、500℃の条件下で5h熱処理し、多元正極材料前駆体を得た。
S2、前記多元正極材料前駆体、水酸化リチウム、六ホウ化ストロンチウム(SrB6)を[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]:n(Li):n(Sr)=0.99:1.03:0.001の割合で、高速混合機で十分に混合し、920℃の温度で12h焙焼し、ここで、焙焼過程において、600℃以下の昇温過程には酸素ガス含有量が0vol%の窒素ガス雰囲気が使用され、600℃以上には酸素ガス含有量が21vol%の乾燥空気雰囲気に切り替わった。自然冷却により降温して、破砕して篩分けし、多元正極材料中間品Iを得た。
S4、該多元正極材料中間品I、ホウ化二タングステン(W2B)を[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]:n(W)=0.99:0.002の割合で、高速混合機で十分に混合し、乾燥空気雰囲気、700℃で10h焼成し、自然冷却により降温して、400メッシュにかけて、組成Li1.03Ni0.65Co0.15Mn0.19Sr0.001W0.002B0.007O2の多元正極材料A6を得た。
該正極材料A6の焙焼収率及び篩分けや脱磁の能力を表1に示す。
該正極材料A6の組成、粒径D50、LiOH含有量、安息角、I(006)/I(012)及びA(006)/A(012)を表2に示す。該正極材料A6を用いて製造したボタン型電池の4.40V電圧での比容量、及び3~4.45V電圧範囲でのサイクル維持率及びDCR増幅を表3に示す。
【0089】
実施例7
S1、2mol/Lのニッケル・コバルト・マンガン硫酸塩混合溶液(モル比Ni:Co:Mn=80:10:9.1)、2.5mol/LのNaOH溶液、3mol/Lのアンモニア水、20g/LのPEG1000分散剤水溶液を調製し、上記複数種の溶液を合流して反応釜に投入し、反応温度は55℃、反応のpH値は12.0に保持された。反応終了後、6h老化し、次に加圧ろ過して、洗浄し、110℃でベークし、篩分けし、さらに空気雰囲気、500℃の条件下で6h熱処理し、多元正極材料前駆体を得た。
S2、前記多元正極材料前駆体、水酸化リチウム、二ホウ化バリウム(BaB2)を[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]:n(Li):n(Ba)=0.991:1.08:0.001の割合で、高速混合機で十分に混合し、810℃の温度で10h焙焼し、ここで、焙焼過程において、600℃以下の昇温過程には酸素ガス含有量が15vol%の窒素ガスと空気の混合雰囲気が使用され、600℃以上には酸素ガス含有量が100vol%の乾燥酸素ガス雰囲気に切り替わった。自然冷却により降温して、破砕して篩分けし、多元正極材料中間品Iを得た。
S3、該多元正極材料中間品I、二ホウ化ジルコニウム(ZrB2)を[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]:n(Zr)=0.991:0.002の割合で、高速混合機で十分に混合し、乾燥空気雰囲気、600℃で8h焼成し、自然冷却により降温して、400メッシュにかけて、組成Li1.08Ni0.8Co0.1Mn0.091Ba0.001Zr0.002B0.006O2の多元正極材料A7を得た。
該正極材料A7の焙焼収率及び篩分けや脱磁の能力を表1に示す。
該正極材料A7の組成、粒径D50、LiOH含有量、安息角、I(006)/I(012)及びA(006)/A(012)を表2に示す。該正極材料A7を用いて製造したボタン型電池の4.40V電圧での比容量、及び3~4.45V電圧範囲でのサイクル維持率及びDCR増幅を表3に示す。
【0090】
実施例8
以下のこと以外、実施例7の方法によって多元正極材料A8を製造した。
ステップS1においては、第1反応物では、ニッケル・コバルト・マンガン硫酸塩混合溶液、NaOH溶液、アンモニア水、PEG1000分散剤溶液以外、同時に0.1mol/Lの酸性メタホウ酸バリウム(Ba(BO2)2)溶液を合流して反応釜に導入し、ここで、[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]:n(Ba)=0.991:0.001とした。
ステップS1においては、第1反応が完了した後、加圧ろ過して洗浄し、110℃でベークし、篩分した後、空気雰囲気、500℃の条件下で低温熱処理を行わなかった。
ステップS2においては、二ホウ化バリウム(BaB2)を添加しなかった。
ステップS3においては、二ホウ化ジルコニウム(ZrB2)をZrO2及びB2O3に変更し、n(Zr):n(B)=1:2とし、ただし、Zr元素の添加量は実施例7と同様であった。
製造された正極材料A8は、組成がLi1.08Ni0.8Co0.1Mn0.091Ba0.001Zr0.002B0.006O2であり、正極材料A7の組成と同様であった。
該正極材料A8の焙焼収率及び篩分けや脱磁の能力を表1に示す。
該正極材料A8の組成、粒径D50、LiOH含有量、安息角、I(006)/I(012)及びA(006)/A(012)を表2に示す。該正極材料A8を用いて製造したボタン型電池の4.40V電圧での比容量、及び3~4.45V電圧範囲でのサイクル維持率及びDCR増幅を表3に示す。
【0091】
実施例9
以下のこと以外、実施例7の方法によって多元正極材料A9を製造した。
ステップS1においては、混合硫酸塩溶液中、ニッケルとコバルトとマンガンとのモル比がNi:Co:Mn=80:10:9.5であった。
ステップS1においては、第1反応が完了した後、加圧ろ過して洗浄し、110℃でベークし、篩分けした後、空気雰囲気、500℃の条件下で低温熱処理を行わなかった。
ステップS3においては、第3添加剤として二ホウ化ジルコニウム(ZrB2)を二酸化ジルコニウム(ZrO2)に変更し、ただし、Zr元素の添加量は実施例7と同様であった。
製造された正極材料A9は、組成がLi1.08Ni0.8Co0.1Mn0.095Ba0.001Zr0.002B0.002O2である。
該正極材料A9の焙焼収率及び篩分けや脱磁の能力を表1に示す。
該正極材料A9の組成、粒径D50、LiOH含有量、安息角、I(006)/I(012)及びA(006)/A(012)を表2に示す。該正極材料A9を用いて製造したボタン型電池の4.40V電圧での比容量、及び3~4.45V電圧範囲でのサイクル維持率及びDCR増幅を表3に示す。
【0092】
実施例10
以下のこと以外、実施例7の方法によって多元正極材料A10を製造した。
ステップS1においては、混合硫酸塩溶液中、ニッケルとコバルトとマンガンとのモル比がNi:Co:Mn=80:9:9.2であった。
ステップS1においては、第1反応が完了した後、加圧ろ過して洗浄し、110℃でベークし、篩分けした後、空気雰囲気、500℃の条件下で低温熱処理を行わなかった。
ステップS2においては、第2添加剤として二ホウ化バリウム(BaB2)を二ホウ化チタン(TiB2)に変更し、[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]:n(Li):n(Ti)=0.982:1.03:0.001とした。
ステップS3においては、第3添加剤として二ホウ化ジルコニウム(ZrB2)をホウ化二コバルト(Co2B)に変更し、[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]:n(B)=0.982:0.005とした。
製造された正極材料A10は、組成がLi1.03Ni0.8Co0.1Mn0.092Ti0.001B0.007O2である。
該正極材料A10の焙焼収率及び篩分けや脱磁の能力を表1に示す。
該正極材料A10の組成、粒径D50、LiOH含有量、安息角、I(006)/I(012)及びA(006)/A(012)を表2に示す。該正極材料A10を用いて製造したボタン型電池の4.40V電圧での比容量、及び3~4.45V電圧範囲でのサイクル維持率及びDCR増幅を表3に示す。
【0093】
実施例11
S1、2mol/Lのニッケル・コバルト・マンガン硫酸塩混合溶液(モル比Ni:Co:Mn=15:14:70)、2.5mol/LのNaOH溶液、3mol/Lのアンモニア水、20g/LのPEG1000分散剤水溶液を調製し、上記複数種の溶液を合流して反応釜に投入し、反応温度は65℃、反応のpH値は11.5に保持された。反応終了後、6h老化し、次に加圧ろ過して、洗浄し、110℃でベークし、篩分けし、さらに空気雰囲気、500℃の条件下で5h熱処理し、多元正極材料前駆体を得た。
S2、前記多元正極材料前駆体、水酸化リチウム、六ホウ化ストロンチウム(SrB6)を[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]:n(Li):n(Sr)=0.99:1.23:0.001の割合で、高速混合機で十分に混合し、900℃の温度で12h焙焼し、ここで、焙焼過程において、600℃以下の昇温過程には酸素ガス含有量が15vol%の窒素ガスと空気の混合雰囲気が使用され、600℃以上には酸素ガス含有量が21vol%の乾燥空気雰囲気に切り替わった。自然冷却により降温して、破砕して篩分けし、多元正極材料中間品Iを得た。
S4、該多元正極材料中間品I、ホウ化二タングステン(W2B)を[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]:n(W)=0.99:0.002の割合で、高速混合機で十分に混合し、乾燥空気雰囲気、600℃で10h焼成し、自然冷却により降温して、400メッシュにかけて、組成Li1.23Ni0.15Co0.14Mn0.70Sr0.001W0.002B0.007O2の多元正極材料A11を得た。
該正極材料A11の焙焼収率及び篩分けや脱磁の能力を表1に示す。
該正極材料A11の組成、粒径D50、LiOH含有量、安息角、I(006)/I(012)及びA(006)/A(012)を表2に示す。該正極材料A11を用いて製造したボタン型電池の4.60V電圧での比容量、及び3~4.5V電圧範囲でのサイクル維持率及びDCR増幅を表3に示す。
【0094】
実施例12
以下のこと以外、実施例7の方法によって多元正極材料A12を製造した。
ステップS1においては、混合硫酸塩溶液中、ニッケルとコバルトとマンガンとのモル比がNi:Co:Mn=80:9:9.6であった。
ステップS1においては、第1反応が完了した後、加圧ろ過して洗浄し、110℃でベークし、篩分けした後、空気雰囲気、500℃の条件下で低温熱処理を行わなかった。
ステップS2においては、二ホウ化バリウム(BaB2)を添加しなかった。
ステップS3においては、第3添加剤として二ホウ化ジルコニウム(ZrB2)を水酸化コバルト(Co(OH)2)及びリン化ガリウム(GaP)に変更し、[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]:n(Co(OH)2):n(GaP)=0.986:0.01:0.002とした。
製造された正極材料A12は、組成がLi1.08Ni0.8Co0.1Mn0.096Ga0.002P0.002O2である。
該正極材料A12の焙焼収率及び篩分けや脱磁の能力を表1に示す。
該正極材料A12の組成、粒径D50、LiOH含有量、安息角、I(006)/I(012)及びA(006)/A(012)を表2に示す。該正極材料A12を用いて製造したボタン型電池の4.40V電圧での比容量、及び3~4.45V電圧範囲でのサイクル維持率及びDCR増幅を表3に示す。
【0095】
実施例13
以下のこと以外、実施例7の方法によって多元正極材料A13を製造した。
ステップS1においては、第1反応が完了した後、加圧ろ過して洗浄し、110℃でベークし、篩分けした後、空気雰囲気、500℃の条件下で低温熱処理を行わなかった。
ステップS3においては、第3添加剤として二ホウ化ジルコニウム(ZrB2)を二ケイ化ジルコニウム(ZrSi2)に変更し、[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]:n(Zr)=0.991:0.002とした。
製造された正極材料A13は、組成がLi1.08Ni0.8Co0.1Mn0.096Ba0.001Zr0.002B0.002Si0.004O2である。
該正極材料A13の焙焼収率及び篩分けや脱磁の能力を表1に示す。
該正極材料A13の組成、粒径D50、LiOH含有量、安息角、I(006)/I(012)及びA(006)/A(012)を表2に示す。該正極材料A12を用いて製造したボタン型電池の4.40V電圧での比容量、及び3~4.45V電圧範囲でのサイクル維持率及びDCR増幅を表3に示す。
【0096】
実施例14
以下のこと以外、実施例7の方法によって多元正極材料A14を製造した。
ステップS1においては、混合硫酸塩溶液中、ニッケルとコバルトとマンガンとのモル比がNi:Co:Mn=80:10:9であった。
ステップS2においては、第2添加剤として二ホウ化バリウム(BaB2)を四ホウ化マグネシウム(MgB4)に変更し、Mg添加量を[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]:n(Mg)=0.99:0.001となるように制御した。
ステップS3においては、第3添加剤として二ホウ化ジルコニウム(ZrB2)を四ホウ化イットリウム(YB4)に変更し、添加量を[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]:n(Y)=0.99:0.001となるように制御した。
製造された正極材料A14は、組成がLi1.08Ni0.8Co0.1Mn0.09Mg0.001Y0.001B0.008O2である。
該正極材料A14の焙焼収率及び篩分けや脱磁の能力を表1に示す。
該正極材料A14の組成、粒径D50、LiOH含有量、安息角、I(006)/I(012)及びA(006)/A(012)を表2に示す。該正極材料A14を用いて製造したボタン型電池の4.40V電圧での比容量、及び3~4.45V電圧範囲でのサイクル維持率及びDCR増幅を表3に示す。
【0097】
実施例15
以下のこと以外、実施例7の方法によって多元正極材料A15を製造した。
ステップS1においては、混合硫酸塩溶液中、ニッケルとコバルトとマンガンとのモル比がNi:Co:Mn=80:10:8.6であった。
ステップS2においては、第2添加剤として二ホウ化バリウム(BaB2)を六ホウ化バリウム(BaB6)に変更し、Ba添加量を[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]:n(Ba)=0.986:0.001となるように制御した。
ステップS3においては、第3添加剤として二ホウ化ジルコニウム(ZrB2)を六ホウ化ランタン(LaB6)に変更し、添加量を[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]:n(La)=0.986:0.001となるように制御した。
製造された正極材料A15は、組成がLi1.08Ni0.8Co0.1Mn0.086Ba0.001La0.001B0.012O2である。
該正極材料A15の焙焼収率及び篩分けや脱磁の能力を表1に示す。
該正極材料A15の組成、粒径D50、LiOH含有量、安息角、I(006)/I(012)及びA(006)/A(012)を表2に示す。該正極材料A15を用いて製造したボタン型電池の4.40V電圧での比容量、及び3~4.45V電圧範囲でのサイクル維持率及びDCR増幅を表3に示す。
【0098】
比較例1
S1、2mol/Lのニッケル・コバルト・マンガン硫酸塩混合溶液(モル比Ni:Co:Mn=50:20:29.5)、2.5mol/LのNaOH溶液、3mol/Lのアンモニア水、20g/LのPEG1000分散剤水溶液を調製し、上記複数種の溶液を合流して反応釜に投入し、反応温度は60℃、反応のpH値は12.0に保持された。反応終了後、6h老化し、次に加圧ろ過して、洗浄し、110℃でベークし、篩分けし、多元正極材料前駆体を得た。
S2、前記多元正極材料前駆体、炭酸リチウム、アルミナ(Al
2O
3)を[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]:n(Li):n(Al)=0.995:1.05:0.003の割合で、高速混合機で十分に混合し、乾燥空気雰囲気、1000℃で12h焙焼し、自然冷却により降温して、破砕して篩分けし、多元正極材料中間品Iを得た。
S3、該多元正極材料中間品I、三酸化二イットリウム(Y
2O
3)を[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]:n(Y)=0.995:0.002の割合で、高速混合機で十分に混合し、乾燥空気雰囲気、800℃で8h焼成し、自然冷却により降温して、400メッシュにかけて、組成Li
1.05Ni
0.5Co
0.2Mn
0.295Al
0.003Y
0.002O
2の多元正極材料D1を得た。該正極材料D1のXRD、サイクル維持率、DCR結果をそれぞれ
図1、
図2、
図3に示す。
該正極材料D1の焙焼収率及び篩分けや脱磁の能力を表1に示す。
該正極材料D1の組成、粒径D
50、LiOH含有量、安息角、I
(006)/I
(012)及びA
(006)/A
(012)を表2に示す。該正極材料D1を用いて製造したボタン型電池の4.40V及び4.45V電圧での比容量、及び3~4.5V電圧範囲でのサイクル維持率及びDCR増幅を表3に示す。
【0099】
比較例2
S1、1mol/Lのニッケル・コバルト・マンガン硫酸塩混合溶液(モル比Ni:Co:Mn=80:10:9.1)、8mol/LのNaOH溶液、5mol/Lのアンモニア水、10g/LのPEG1000分散剤水溶液を調製し、上記複数種の溶液を合流して反応釜に投入し、反応温度は60℃、反応のpH値は12に保持された。反応終了後、12h老化し、次に加圧ろ過して、洗浄し、110℃でベークし、篩分けし、多元正極材料前駆体を得た。
S2、前記多元正極材料前駆体、水酸化リチウム、水酸化バリウム(Ba(OH)2)を[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]:n(Li):n(Ba)=0.991:1.08:0.001の割合で、高速混合機で十分に混合し、乾燥酸素ガス雰囲気、810℃で10h焙焼し、自然冷却により降温して、破砕して篩分けし、多元正極材料中間品Iを得た。
S3、該多元正極材料中間品I、二酸化ジルコニウム(ZrO2)、三酸化二ホウ素(B2O3)を[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]:n(Zr):n(B)=0.991:0.002:0.006の割合で、高速混合機で十分に混合し、400メッシュにかけて、組成Li1.08Ni0.8Co0.1Mn0.091Ba0.001Zr0.002B0.006O2の多元正極材料D2を得た。
該正極材料D2では、I(006)/I(012)=0.42、A(006)/A(012)=0.39であり、サイクル維持率は68%であり、DCR増幅は233%である。
該正極材料D2の焙焼収率及び篩分けや脱磁の能力を表1に示す。
該正極材料D2の組成、粒径D50、LiOH含有量、安息角、I(006)/I(012)及びA(006)/A(012)を表2に示す。該正極材料D2を用いて製造したボタン型電池の4.35V及び4.40V電圧での比容量、及び3~4.45V電圧範囲でのサイクル維持率及びDCR増幅を表3に示す。
【0100】
比較例3
以下のこと以外、実施例7の方法によって多元正極材料D3を製造した。
ステップS1においては、混合硫酸塩溶液中、ニッケルとコバルトとマンガンとのモル比がNi:Co:Mn=80:10:3であった。
ステップS2においては、第2添加剤として二ホウ化バリウム(BaB2)を六ホウ化バリウム(BaB6)に変更し、Ba添加量を[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]:n(Ba)=0.93:0.005となるように制御した。
ステップS3においては、第3添加剤として二ホウ化ジルコニウム(ZrB2)を六ホウ化ランタン(LaB6)に変更し、添加量を[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]:n(La)=0.93:0.005となるように制御した。
製造された正極材料D3は、組成がLi1.08Ni0.8Co0.1Mn0.03Ba0.005Zr0.005B0.06O2である。
該正極材料D3の焙焼収率及び篩分けや脱磁の能力を表1に示す。
該正極材料D3の組成、粒径D50、LiOH含有量、安息角、I(006)/I(012)及びA(006)/A(012)を表2に示す。該正極材料D3を用いて製造したボタン型電池の4.40V電圧での比容量、及び3~4.45V電圧範囲でのサイクル維持率及びDCR増幅を表3に示す。
【0101】
比較例4
以下のこと以外、実施例7の方法によって多元正極材料D4を製造した。
ステップS2においては、焙焼温度は550℃であり、焙焼時間は30hであった。
製造された正極材料D4は、組成がLi1.08Ni0.8Co0.1Mn0.091Ba0.001Zr0.002B0.006O2である。
該正極材料D4の焙焼収率及び篩分けや脱磁の能力を表1に示す。
該正極材料D4の組成、粒径D50、LiOH含有量、安息角、I(006)/I(012)及びA(006)/A(012)を表2に示す。該正極材料D4を用いて製造したボタン型電池の4.40V電圧での比容量、及び3~4.45V電圧範囲でのサイクル維持率及びDCR増幅を表3に示す。
【0102】
【0103】
【0104】
【0105】
表1~表3及び
図2、
図3の結果から、B、P、Si元素を導入した本発明の実施例1~実施例10で製造された多元正極材料は、ピーク強度比I
(006)/I
(012)≧0.8、ピーク面積比A
(006)/A
(012)≧0.5という特定の構造を有し、B、P、Siを導入していない又はB元素を導入した後に焼成を行わなかった比較例1、比較例2におけるピーク強度比I
(006)/I
(012)<0.8、ピーク面積比A
(006)/A
(012)<0.5の多元正極材料と比べ、より広い電圧ウィンドウで使用することができ、その中でも、実施例1、実施例4、実施例5は、3.0~4.5V電圧ウィンドウでのサイクル維持率及びDCR増幅が比較例1の3.0~4.5Vでのサイクル維持率よりも高いだけではなく、比較例1の3.0~4.45V電圧ウィンドウでのサイクル維持率及びDCR増幅よりも優れていた。
【0106】
具体的には、比較例1と比べ、B元素を導入した、ピーク強度比I(006)/I(012)≧0.8、ピーク面積比A(006)/A(012)≧0.5の本発明の実施例1、実施例2、実施例3、実施例4、実施例5は、篩分けや脱磁の能力が明らかに高く、しかも、製造された多元正極材料は安息角がより小さく、LiOH含有量がより高く、該多元正極材料を電池の製造に用いた場合、電池はより高い比容量、より優れたサイクル維持率、より低いDCR増幅などを持つ。
【0107】
具体的には、比較例2と比べ、本発明では、正極材料のステップS3に含まれる焼成過程においてB元素及び/又はP元素及び/又はSi元素を導入した、ピーク強度比I(006)/I(012)≧0.8、ピーク面積比A(006)/A(012)≧0.5の実施例7、実施例8、実施例9、実施例10、実施例12、実施例13は、著しく高い篩分けや脱磁の能力を持ち、しかも、製造された多元正極材料は、より小さい安息角を有し、該多元正極材料を電池の製造に用いた場合、電池はより高い比容量、より優れたサイクル維持率、より低いDCR増幅などを持つ。
【0108】
具体的には、比較例3と比べ、本発明において限定された値の範囲のパラメータ0<a≦0.03、パラメータ0<b≦0.04、パラメータ0<b/a≦5、ピーク強度比I(006)/I(012)≧0.8、ピーク面積比A(006)/A(012)≧0.5の実施例7、実施例8、実施例9、実施例10、実施例12、実施例13は、著しく高い篩分けや脱磁の能力を持ち、しかも、製造された多元正極材料はより小さな安息角を有し、該多元正極材料を電池の製造に用いた場合、電池は、より高い比容量、より優れたサイクル維持率、より低いDCR増幅などを持つ。
【0109】
具体的には、比較例4と比べ、本発明において限定された範囲の焙焼温度を採用した、ピーク強度比I(006)/I(012)≧0.8、ピーク面積比A(006)/A(012)≧0.5の実施例7、実施例8、実施例9、実施例10、実施例12、実施例13は、著しく高い篩分けや脱磁の能力を持ち、しかも、製造された多元正極材料はより小さな安息角を有し、該多元正極材料を電池の製造に用いた場合、電池は著しく高い比容量、著しく優れたサイクル維持率、著しく低いDCR増幅などを持つ。
【0110】
さらに、本発明のように低温熱処理工程を含む実施例1、実施例2、実施例3は、低温熱処理工程を含まない実施例4、実施例5、比較例1よりも、焙焼収率が明らかに向上する効果が得られた。
【0111】
さらに、本発明のように低温熱処理工程を含む実施例7は、低温熱処理工程を含まない実施例8、実施例9、実施例10、実施例12、実施例13、比較例2、比較例3、比較例4よりも、焙焼収率が明らかに向上する効果が得られた。
【0112】
さらに、実施例9~10と比べ、本発明のように好ましい第1添加剤を含む実施例8の多元正極材料を用いて製造した電池はより高いサイクル維持率を有する。
【0113】
さらに、実施例8と比べ、本発明のように好ましい第2添加剤を含む実施例7の多元正極材料を用いて製造した電池はより高いサイクル維持率を有する。
【0114】
さらに、好ましくない第2添加剤を用いた実施例4及び第2添加剤を含まない実施例5と比べ、本発明の好ましい第2、第3添加剤を含む実施例1、実施例2、実施例3の多元正極材料を用いて製造した電池は、より高い比容量及びサイクル維持率を有する。
【0115】
さらに、好ましくない第3添加剤を用いた実施例9と比べ、本発明の好ましい第3添加剤を含む実施例7の多元正極材料を用いて製造した電池は、より高いサイクル維持率を有する。
【0116】
さらに、b/aの値が大きい実施例10、実施例15と比べ、本発明のようにb/a値が小さい実施例7、実施例8、実施例9の多元正極材料を用いて製造した電池は、より高いサイクル維持率及びより低いDCR増幅を有する。
【0117】
また、以上は本発明の好ましい実施形態について詳細に説明したが、本発明はこれらに限定されない。本発明の技術的構想の範囲を逸脱することなく、各技術的特徴を任意の他の適切な方式で組み合わせたりするなど、本発明の技術案について様々な簡単な変形を行うことができ、これらの簡単な変形や組み合わせも本発明で開示された内容とみなすべきであり、これらのいずれも本発明の特許範囲に属する。