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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-26
(45)【発行日】2023-11-06
(54)【発明の名称】電磁ブレーキ装置及びエレベータ巻上機
(51)【国際特許分類】
   F16D 65/18 20060101AFI20231027BHJP
   B66B 11/08 20060101ALI20231027BHJP
   F16D 121/22 20120101ALN20231027BHJP
   F16D 121/16 20120101ALN20231027BHJP
【FI】
F16D65/18
B66B11/08 G
F16D121:22
F16D121:16
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023047919
(22)【出願日】2023-03-24
【審査請求日】2023-03-24
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000236056
【氏名又は名称】三菱電機ビルソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003568
【氏名又は名称】弁理士法人加藤国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】淺野 和雄
【審査官】久米 伸一
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-085112(JP,A)
【文献】特開2016-223615(JP,A)
【文献】特開2004-150603(JP,A)
【文献】国際公開第2008/114754(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 65/18
B66B 11/08
F16D 121/22
F16D 121/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキ回転体、
前記ブレーキ回転体に接する作動位置と、前記ブレーキ回転体から離れる解除位置との間で変位するライニング、及び
前記ライニングを前記作動位置から前記解除位置に変位させる力を発生する解除装置
を備え、
前記解除装置は、
コイルと固定鉄心とを有している電磁石体と、
前記電磁石体が励磁されることにより、前記ライニングを前記作動位置から前記解除位置に変位させる可動鉄心と
を有しており、
前記可動鉄心は、
前記固定鉄心から離れている第1位置と、前記固定鉄心に当たっている第2位置との間で変位可能であり、前記電磁石体が非励磁状態であるときに前記第1位置に位置し、前記電磁石体が励磁されることにより前記第2位置に変位する鉄心本体と、
前記第1位置と前記第2位置との間で前記鉄心本体が変位する方向である主方向へ前記鉄心本体とともに変位可能であるとともに、前記主方向に交差する方向へ近接位置と離隔位置との間で変位可能である分割鉄心片と、
前記鉄心本体が前記第1位置に位置するときに前記分割鉄心片を前記近接位置に位置させ、前記鉄心本体が前記第2位置に位置するときに前記分割鉄心片を前記離隔位置に位置させる変位機構と
を有しており、
前記離隔位置は、前記電磁石体における対向面に対して間隔をおいて対向している位置であり、
前記近接位置は、前記離隔位置よりも前記対向面に近接している位置である電磁ブレーキ装置。
【請求項2】
前記鉄心本体には、前記主方向に沿って貫通孔が設けられており、
前記分割鉄心片には、前記固定鉄心から離れるに従って前記対向面に近づくように前記主方向に対して傾斜したガイド溝が設けられており、
前記変位機構は、
前記貫通孔に通されており、前記固定鉄心に当てられている棒部材と、
前記棒部材に設けられており、前記ガイド溝に挿入されているピンと
を有している請求項1記載の電磁ブレーキ装置。
【請求項3】
前記変位機構は、
前記鉄心本体に設けられており、前記棒部材を前記固定鉄心に押し当てる補助ばね
をさらに有している請求項2記載の電磁ブレーキ装置。
【請求項4】
前記可動鉄心は、
前記分割鉄心片と前記鉄心本体との間に設けられているローラ
をさらに有している請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の電磁ブレーキ装置。
【請求項5】
前記電磁石体は、円筒状の磁石フレームをさらに有しており、
前記コイルは、前記磁石フレームの内側に収容されており、
前記固定鉄心及び前記鉄心本体は、前記コイルの内側に配置されており、
前記コイルの軸方向における前記磁石フレームの端部には、開口が設けられており、
前記分割鉄心片は、前記開口の内側に配置されており、
前記対向面は、前記開口の内周面である請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の電磁ブレーキ装置。
【請求項6】
駆動シーブ、
前記駆動シーブを回転させる巻上機モータ、及び
前記駆動シーブの静止状態を保持する請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の電磁ブレーキ装置
を備えているエレベータ巻上機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電磁ブレーキ装置及びエレベータ巻上機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の電磁ブレーキでは、固定鉄心における鉄心上面部の内周面に固定側凹部が設けられている。可動鉄心の外周面には、可動側凹部が設けられている。可動鉄心が固定鉄心に吸引され接近すると、可動側凹部が固定側凹部に対向し、鉄心上面部と可動鉄心との間の空隙が拡大され、可動鉄心に対する吸引力が低減され、可動鉄心が固定鉄心に衝突する速度が低減される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2004/007987号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような従来の電磁ブレーキ装置では、既存の電磁ブレーキ装置に固定側凹部及び可動側凹部を設けるためには、固定鉄心及び可動鉄心の両方を交換するなど、大掛かりな改造が必要になる。
【0005】
本開示は、大掛かりな改造を必要とすることなく、可動鉄心が固定鉄心に衝突する際の衝撃を抑制することができる電磁ブレーキ装置及びエレベータ巻上機を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る電磁ブレーキ装置は、ブレーキ回転体、ブレーキ回転体に接する作動位置と、ブレーキ回転体から離れる解除位置との間で変位するライニング、及びライニングを作動位置から解除位置に変位させる力を発生する解除装置を備え、解除装置は、コイルと固定鉄心とを有している電磁石体と、電磁石体が励磁されることにより、ライニングを作動位置から解除位置に変位させる可動鉄心とを有しており、可動鉄心は、固定鉄心から離れている第1位置と、固定鉄心に当たっている第2位置との間で変位可能であり、電磁石体が非励磁状態であるときに第1位置に位置し、電磁石体が励磁されることにより第2位置に変位する鉄心本体と、第1位置と第2位置との間で鉄心本体が変位する方向である主方向へ鉄心本体とともに変位可能であるとともに、主方向に交差する方向へ近接位置と離隔位置との間で変位可能である分割鉄心片と、鉄心本体が第1位置に位置するときに分割鉄心片を近接位置に位置させ、鉄心本体が第2位置に位置するときに分割鉄心片を離隔位置に位置させる変位機構とを有しており、離隔位置は、電磁石体における対向面に対して間隔をおいて対向している位置であり、近接位置は、離隔位置よりも対向面に近接している位置である。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、大掛かりな改造を必要とすることなく、可動鉄心が固定鉄心に衝突する際の衝撃を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施の形態1による電磁ブレーキ装置を示す正面図である。
図2図1の解除装置の上部を拡大して示す断面図である。
図3図2の一対の分割鉄心片を示す平面図である。
図4図2の鉄心本体が第2位置に変位した状態を示す断面図である。
図5図4の一対の分割鉄心片を示す平面図である。
図6】比較例としての電磁ブレーキ装置における空隙と吸引力との関係を示すグラフである。
図7】実施の形態1の電磁ブレーキ装置における空隙と吸引力との関係を示すグラフである。
図8】実施の形態1の電磁ブレーキ装置を適用するエレベータの一例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施の形態について、図面を参照して説明する。
実施の形態1.
図1は、実施の形態1による電磁ブレーキ装置を示す正面図であり、電磁ブレーキ装置の上部は縦断面を示している。
【0010】
図1において、電磁ブレーキ装置100は、ブレーキフレーム21、ブレーキ回転体としてのブレーキドラム22、一対のブレーキアーム23、一対のブレーキシュー24、複数のライニング25、一対のブレーキレバー26、一対の調整ボルト27、一対のブレーキばね28、及び解除装置29を有している。
【0011】
ブレーキドラム22は、回転軸20に固定されており、回転軸20の軸心を中心として回転軸20とともに回転する。この例では、回転軸20は、軸心が水平となるように配置されている。
【0012】
各ブレーキアーム23は、アーム軸23aを中心として回転可能にブレーキフレーム21に支持されている。アーム軸23aは、ブレーキアーム23の下端に設けられている。
【0013】
各ブレーキシュー24は、対応するブレーキアーム23の中間部に取り付けられている。各ライニング25は、対応するブレーキシュー24に固定されている。
【0014】
また、各ライニング25は、ブレーキアーム23の回転により、作動位置と解除位置との間で変位する。作動位置は、図1に示す位置であり、ライニング25がブレーキドラム22の外周面に接する位置である。解除位置は、ライニング25がブレーキドラム22の外周面から離れる位置である。
【0015】
一対のブレーキレバー26は、ブレーキドラム22の上方に配置されている。各ブレーキレバー26は、レバー軸26aを中心として回転可能にブレーキフレーム21に支持されている。各調整ボルト27は、対応するブレーキアーム23に取り付けられている。各調整ボルト27の先端は、対応するブレーキレバー26に当たっている。
【0016】
一対のブレーキばね28は、ブレーキドラム22側へ回転させる力を一対のブレーキアーム23に付加している。即ち、一対のブレーキばね28は、複数のライニング25をブレーキドラム22の外周面に押し付ける力を、一対のブレーキアーム23に付加している。
【0017】
解除装置29は、一対のブレーキレバー26の上方においてブレーキフレーム21に支持されている。解除装置29は、一対のブレーキばね28に抗して、一対のブレーキアーム23をブレーキドラム22から離れる方向へ回転せる。即ち、解除装置29は、複数のライニング25を作動位置から解除位置に変位させる力を発生する。
【0018】
また、解除装置29は、電磁石体31、可動鉄心32、及びプランジャロッド33を有している。
【0019】
電磁石体31は、円筒状の磁石フレーム41、円筒状のコイル42、及び円筒状の固定鉄心43を有している。コイル42は、磁石フレーム41の内側に収容されている。固定鉄心43は、コイル42の内側に配置されている。また、固定鉄心43は、コイル42に対して固定されている。
【0020】
コイル42の軸方向における磁石フレーム41の端部には、開口41aが設けられている。コイル42の軸方向は、コイル42の軸心に沿う方向であり、この例では上下方向である。開口41aは、磁石フレーム41の上端部、即ちブレーキドラム22とは反対側の端部に設けられている。コイル42の軸方向に沿って見た開口41aの形状は、円形である。
【0021】
可動鉄心32は、電磁石体31内に設けられている。また、可動鉄心32は、電磁石体31が励磁されることにより、複数のライニング25を作動位置から解除位置に変位させる。また、可動鉄心32は、円柱状の鉄心本体44と、一対の分割鉄心片45とを有している。
【0022】
鉄心本体44は、コイル42の内側に配置されている。また、鉄心本体44は、第1位置と第2位置との間でコイル42の軸方向へ変位可能である。第1位置は、図1に示す位置であり、鉄心本体44が固定鉄心43から離れている位置である。第2位置は、鉄心本体44が固定鉄心43に直接、又は図示しない衝撃吸収材を介して当たっている位置である。
【0023】
鉄心本体44は、電磁石体31が非励磁状態であるとき、第1位置に位置している。また、鉄心本体44は、電磁石体31が励磁されることにより、固定鉄心43に吸引されて第2位置に変位する。
【0024】
一対の分割鉄心片45は、鉄心本体44に対して、固定鉄心43とは反対側に配置されている。また、一対の分割鉄心片45は、開口41aの内側に配置されている。また、一対の分割鉄心片45は、鉄心本体44とともに主方向へ変位可能である。主方向は、第1位置と第2位置との間で鉄心本体44が変位する方向であり、この例では上下方向である。
【0025】
プランジャロッド33は、鉄心本体44の下端に固定されている。これにより、プランジャロッド33は、鉄心本体44とともに主方向へ変位する。また、プランジャロッド33は、固定鉄心43の中心に通されている。プランジャロッド33における鉄心本体44とは反対側の端部、即ち下端部は、一対のブレーキレバー26に当たっている。
【0026】
電磁石体31が非励磁状態であるときは、鉄心本体44が第1位置に位置しており、一対のブレーキばね28のばね力によって、各ライニング25がブレーキドラム22の外周面に押し付けられている。これにより、ブレーキドラム22及び回転軸20の回転が阻止されている。
【0027】
電磁石体31が励磁されると、鉄心本体44が第2位置に変位し、一対のブレーキレバー26の先端が押し下げられる。即ち、図1の右側のブレーキレバー26が反時計回りに回転し、図1の左側のブレーキレバー26が時計回りに回転する。
【0028】
一対のブレーキレバー26の回転は、一対の調整ボルト27を介して、一対のブレーキアーム23に伝達される。これにより、一対のブレーキアーム23がブレーキドラム22から離れる方向へ回転するとともに、一対のブレーキばね28が圧縮されて、各ライニング25が解除位置に変位する。この状態では、ブレーキドラム22及び回転軸20の回転が許容される。
【0029】
図2は、図1の解除装置29の上部を拡大して示す断面図である。図3は、図2の一対の分割鉄心片45を示す平面図である。図4は、図2の鉄心本体44が第2位置に変位した状態を示す断面図である。図5は、図4の一対の分割鉄心片45を示す平面図である。
【0030】
コイル42の軸方向に沿って見た一対の分割鉄心片45の形状は、円形から、互いに平行かつ同じ長さの一対の弦の間の部分を取り除いた形状である。
【0031】
各分割鉄心片45は、主方向に交差する方向へ近接位置と離隔位置との間で変位可能である。この例では、各分割鉄心片45は、主方向に直交する方向、即ち水平方向へ変位可能である。
【0032】
離隔位置は、図4及び図5に示す位置であり、分割鉄心片45が、電磁石体31における対向面41bに対して間隔をおいて対向している位置である。対向面41bは、開口41aの内周面である。近接位置は、図2及び図3に示す位置であり、分割鉄心片45が、離隔位置よりも対向面41bに近接している位置である。
【0033】
鉄心本体44には、主方向に沿って一対の貫通孔44aが設けられている。各分割鉄心片45には、ガイド溝45aが設けられている。各分割鉄心片45において、ガイド溝45aは、固定鉄心43から離れるに従って対向面41bに近づくように、主方向に対して傾斜している。
【0034】
図1では省略したが、可動鉄心32は、変位機構46と、複数のローラ50とをさらに有している。
【0035】
変位機構46は、鉄心本体44が第1位置に位置するときに各分割鉄心片45を近接位置に位置させる。また、変位機構46は、鉄心本体44が第2位置に位置するときに各分割鉄心片45を離隔位置に位置させる。即ち、変位機構46は、鉄心本体44が第1位置から第2位置に変位する際に、各分割鉄心片45を近接位置から離隔位置に変位させる。また、変位機構46は、鉄心本体44が第2位置から第1位置に戻る際に、各分割鉄心片45を離隔位置から近接位置に戻す。
【0036】
また、変位機構46は、一対の棒部材47と、一対のピン48と、一対の補助ばね49とを有している。
【0037】
各棒部材47は、貫通孔44aに通されている。各棒部材47の下端は、固定鉄心43の上面に当てられている。各棒部材47の上端は、分割鉄心片45内に挿入されている。各分割鉄心片45が離隔位置と近接位置との間で変位する際、分割鉄心片45に対する棒部材47の相対的な変位は許容される。
【0038】
各ピン48は、棒部材47の上端部に設けられている。また、各ピン48は、ガイド溝45aに挿入されている。
【0039】
各補助ばね49の上端部は、鉄心本体44に設けられている。各補助ばね49は、棒部材47を固定鉄心43に押し当てている。
【0040】
各分割鉄心片45と鉄心本体44との間には、4つのローラ50が設けられている。各ローラ50は、各分割鉄心片45が鉄心本体44に対して変位する際に鉄心本体44上を転がる。
【0041】
次に、動作について説明する。図2の状態から、コイル42が励磁されると、固定鉄心43によって鉄心本体44及び一対の分割鉄心片45が吸引される。そして、図4に示すように、鉄心本体44が第2位置まで変位し、プランジャロッド33も鉄心本体44とともに変位する。これにより、一対のブレーキレバー26が操作され、全てのライニング25が解除位置に変位し、電磁ブレーキ装置100の制動力が解除される。
【0042】
このとき、各補助ばね49は、圧縮される。また、各ピン48は、ガイド溝45aに沿って、分割鉄心片45に対して斜め上方へ相対的に移動する。これにより、各分割鉄心片45は、近接位置から離隔位置に変位する。このため、磁路を形成している磁石フレーム41と一対の分割鉄心片45との間隔が大きくなり、固定鉄心43による吸引力が低減する。
【0043】
図4の状態から、コイル42が非励磁状態にされると、一対のブレーキばね28のばね力によって、プランジャロッド33が押し上げられる。そして、図2に示すように、鉄心本体44が第1位置まで変位し、一対の分割鉄心片45も鉄心本体44とともに変位する。また、全てのライニング25が作動位置に変位し、ブレーキドラム22に対して制動力が印加される。
【0044】
このとき、各補助ばね49によって棒部材47が固定鉄心43に押し付けられたままとなるため、各ピン48は、ガイド溝45aに沿って、分割鉄心片45に対して斜め下方へ相対的に移動する。これにより、各分割鉄心片45は、離隔位置から近接位置に変位する。
【0045】
図6は、比較例としての電磁ブレーキ装置における空隙と吸引力との関係を示すグラフである。図7は、実施の形態1の電磁ブレーキ装置100における空隙と吸引力との関係を示すグラフである。
【0046】
比較例としての電磁ブレーキ装置では、実施の形態1の可動鉄心32の代わりに、単なる円柱状の可動鉄心が用いられている。即ち、比較例における可動鉄心は、鉄心本体と分割鉄心片とに分割されていない。
【0047】
図6において、横軸は、空隙の長さ、即ち固定鉄心と可動鉄心との間の距離を示しており、縦軸は吸引力を示している。図7において、横軸は、空隙の長さ、即ち固定鉄心43と鉄心本体44との間の距離を示しており、縦軸は吸引力を示している。
【0048】
一般的に、電磁ブレーキ装置の吸引力Fは、次式により求められる。
【0049】
F=AT^2×μ×S/(2×δ^2)
【0050】
なお、「^」は、累乗である。また、Fは吸引力、ATは起磁力、μは透磁率、Sは空隙の断面積、δは空隙の長さである。
【0051】
比較例及び実施の形態1のそれぞれについて、パラメーターの値は、以下の通りとする。
必要な吸引力F:2000N
起磁力AT:8163AT
可動鉄心直径:55mm
プランジャロッド直径:21mm
非励磁状態における空隙の長さ:3mm
【0052】
また、実施の形態1について、非励磁状態における磁石フレーム41と各分割鉄心片45との間の空隙の長さ、即ち磁石フレーム41と各分割鉄心片45との間の距離は、0.5mmとする。
【0053】
比較例では、コイルが励磁されて、可動鉄心と固定鉄心との間の空隙が小さくなると、図6に示すように、吸引力も急激に大きくなり、可動鉄心と固定鉄心との衝突の衝撃が大きくなる。
【0054】
これに対して、実施の形態1では、コイル42が励磁されて、固定鉄心43と鉄心本体44との間の空隙が小さくなると、吸引力が大きくなる。しかし、このとき、各分割鉄心片45と磁石フレーム41との間の空隙が大きくなるため、吸引力が低減する。このため、鉄心本体44と固定鉄心43との衝突の衝撃は小さく抑えられ、衝突音も抑えられる。
【0055】
このような電磁ブレーキ装置100では、可動鉄心32は、鉄心本体44と、一対の分割鉄心片45と、変位機構46とを有している。各分割鉄心片45は、近接位置と離隔位置との間で変位可能である。変位機構46は、鉄心本体44が第1位置に位置するときに各分割鉄心片45を近接位置に位置させ、鉄心本体44が第2位置に位置するときに各分割鉄心片45を離隔位置に位置させる。
【0056】
このため、大掛かりな改造を必要とすることなく、可動鉄心32が固定鉄心43に衝突する際の衝撃を抑制することができ、鉄心本体44と固定鉄心43との衝突音を低減することができる。
【0057】
また、固定鉄心43と鉄心本体44との間に衝撃吸収材又は吸音材が配置されている場合、衝撃吸収材又は吸音材の劣化を抑制し、衝撃吸収材又は吸音材の長寿命化を図ることができる。これにより、保守の手間を軽減することができる。
【0058】
また、実施の形態1によれば、既設の電磁ブレーキ装置の可動鉄心を、実施の形態1の可動鉄心32に交換するだけで、可動鉄心32が固定鉄心43に衝突する際の衝撃を抑制することができる。
【0059】
また、変位機構46は、一対の棒部材47と一対のピン48とを有している。このため、簡単な構成により、各分割鉄心片45を近接位置と離隔位置と間で変位させることができる。
【0060】
また、変位機構46は、一対の補助ばね49を有している。このため、励磁状態から非励磁状態に移る際に、一対の棒部材47が引き上げられることが抑制され、各分割鉄心片45をより確実に近接位置に戻すことができる。
【0061】
また、一対の分割鉄心片45と鉄心本体44との間には、複数のローラ50が設けられている。このため、各分割鉄心片45を近接位置と離隔位置との間でスムーズに変位させることができる。
【0062】
また、一対の分割鉄心片45は、開口41aの内側に配置されている。そして、対向面は、開口41aの内周面である。このため、簡単な構成により、可動鉄心32が固定鉄心43に衝突する際の衝撃を抑制することができる。
【0063】
なお、電磁ブレーキ装置全体の構成は、図1の構成に限定されない。例えば、ブレーキ回転体は、ディスクであってもよい。
【0064】
また、回転軸20の向きは、水平以外、例えば鉛直であってもよい。
【0065】
また、分割鉄心片45の数は、1つ又は3つ以上であってもよい。
【0066】
ここで、図8は、実施の形態1の電磁ブレーキ装置100を適用するエレベータの一例を示す側面図である。
【0067】
図8において、昇降路1の上には、機械室2が設けられている。機械室2には、エレベータ巻上機3及びそらせ車6が設置されている。
【0068】
エレベータ巻上機3は、巻上機本体4と、駆動シーブ5とを有している。図8では図示しないが、巻上機本体4は、巻上機モータと、図1に示した電磁ブレーキ装置100とを有している。巻上機モータは、駆動シーブ5を回転させる。
【0069】
駆動シーブ5は、図1に示す回転軸20に固定されており、回転軸20の軸心を中心として回転軸20とともに回転する。電磁ブレーキ装置100は、駆動シーブ5の静止状態を保持する。また、電磁ブレーキ装置100は、駆動シーブ5の回転を制動する。
【0070】
駆動シーブ5及びそらせ車6には、懸架体7が巻き掛けられている。懸架体7としては、複数本のロープ又は複数本のベルトが用いられている。懸架体7の第1端部には、かご8が接続されている。懸架体7の第2端部には、釣合おもり9が接続されている。
【0071】
かご8及び釣合おもり9は、懸架体7によって昇降路1内に吊り下げられている。また、かご8及び釣合おもり9は、駆動シーブ5を回転させることによって、昇降路1内を昇降する。
【0072】
昇降路1内には、一対のかごガイドレール10と、一対の釣合おもりガイドレール11とが設置されている。図1では、片側のかごガイドレール10、及び片側の釣合おもりガイドレール11のみが示されている。
【0073】
一対のかごガイドレール10は、かご8の昇降を案内する。一対の釣合おもりガイドレール11は、釣合おもり9の昇降を案内する。
【0074】
かご8は、かご枠12及びかご室13を有している。かご枠12には、懸架体7が接続されている。かご室13は、かご枠12に支持されている。
【0075】
このよなエレベータにおけるエレベータ巻上機3に電磁ブレーキ装置100を適用することにより、可動鉄心32が固定鉄心43に衝突する際の衝突音を低減することができ、衝突音が建物の居室に伝わることも抑制することができる。
【0076】
なお、エレベータのタイプは、図8のタイプに限定されるものではなく、例えば2:1ローピング方式であってもよい。
【0077】
また、エレベータは、機械室レスエレベータ、ダブルデッキエレベータ、ワンシャフトマルチカー方式のエレベータ等であってもよい。ワンシャフトマルチカー方式は、上かごと、上かごの真下に配置された下かごとが、それぞれ独立して共通の昇降路を昇降する方式である。
【0078】
以上、好ましい実施の形態等について詳説したが、上述した実施の形態等に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施の形態等に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0079】
以下、本開示の諸態様を付記としてまとめて記載する。
【0080】
(付記1)
ブレーキ回転体、
前記ブレーキ回転体に接する作動位置と、前記ブレーキ回転体から離れる解除位置との間で変位するライニング、及び
前記ライニングを前記作動位置から前記解除位置に変位させる力を発生する解除装置
を備え、
前記解除装置は、
コイルと固定鉄心とを有している電磁石体と、
前記電磁石体が励磁されることにより、前記ライニングを前記作動位置から前記解除位置に変位させる可動鉄心と
を有しており、
前記可動鉄心は、
前記固定鉄心から離れている第1位置と、前記固定鉄心に当たっている第2位置との間で変位可能であり、前記電磁石体が非励磁状態であるときに前記第1位置に位置し、前記電磁石体が励磁されることにより前記第2位置に変位する鉄心本体と、
前記第1位置と前記第2位置との間で前記鉄心本体が変位する方向である主方向へ前記鉄心本体とともに変位可能であるとともに、前記主方向に交差する方向へ近接位置と離隔位置との間で変位可能である分割鉄心片と、
前記鉄心本体が前記第1位置に位置するときに前記分割鉄心片を前記近接位置に位置させ、前記鉄心本体が前記第2位置に位置するときに前記分割鉄心片を前記離隔位置に位置させる変位機構と
を有しており、
前記離隔位置は、前記電磁石体における対向面に対して間隔をおいて対向している位置であり、
前記近接位置は、前記離隔位置よりも前記対向面に近接している位置である電磁ブレーキ装置。
(付記2)
前記鉄心本体には、前記主方向に沿って貫通孔が設けられており、
前記分割鉄心片には、前記固定鉄心から離れるに従って前記対向面に近づくように前記主方向に対して傾斜したガイド溝が設けられており、
前記変位機構は、
前記貫通孔に通されており、前記固定鉄心に当てられている棒部材と、
前記棒部材に設けられており、前記ガイド溝に挿入されているピンと
を有している付記1記載の電磁ブレーキ装置。
(付記3)
前記変位機構は、
前記鉄心本体に設けられており、前記棒部材を前記固定鉄心に押し当てる補助ばね
をさらに有している付記2記載の電磁ブレーキ装置。
(付記4)
前記可動鉄心は、
前記分割鉄心片と前記鉄心本体との間に設けられているローラ
をさらに有している付記1から付記3までのいずれか1項に記載の電磁ブレーキ装置。
(付記5)
前記電磁石体は、円筒状の磁石フレームをさらに有しており、
前記コイルは、前記磁石フレームの内側に収容されており、
前記固定鉄心及び前記鉄心本体は、前記コイルの内側に配置されており、
前記コイルの軸方向における前記磁石フレームの端部には、開口が設けられており、
前記分割鉄心片は、前記開口の内側に配置されており、
前記対向面は、前記開口の内周面である付記1から付記4までのいずれか1項に記載の電磁ブレーキ装置。
(付記6)
駆動シーブ、
前記駆動シーブを回転させる巻上機モータ、及び
前記駆動シーブの静止状態を保持する付記1から付記5までのいずれか1項に記載の電磁ブレーキ装置
を備えているエレベータ巻上機。
【符号の説明】
【0081】
3 エレベータ巻上機、5 駆動シーブ、22 ブレーキドラム(ブレーキ回転体)、25 ライニング、29 解除装置、31 電磁石体、32 可動鉄心、41 磁石フレーム、41a 開口、41b 対向面、42 コイル、43 固定鉄心、44 鉄心本体、44a 貫通孔、45 分割鉄心片、45a ガイド溝、46 変位機構、47 棒部材、48 ピン、49 補助ばね、50 ローラ、100 電磁ブレーキ装置。
【要約】
【課題】大掛かりな改造を必要とすることなく、可動鉄心が固定鉄心に衝突する際の衝撃を抑制することができる電磁ブレーキ装置及びエレベータ巻上機を得ることを目的とする。
【解決手段】可動鉄心32は、鉄心本体44と、一対の分割鉄心片45と、変位機構46とを有している。各分割鉄心片45は、近接位置と離隔位置との間で変位可能である。変位機構46は、鉄心本体44が第1位置に位置するときに各分割鉄心片45を近接位置に位置させ、鉄心本体44が第2位置に位置するときに各分割鉄心片45を離隔位置に位置させる。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8