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特許7374400電気式脱イオン水製造装置及び純水製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-26
(45)【発行日】2023-11-06
(54)【発明の名称】電気式脱イオン水製造装置及び純水製造方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/469 20230101AFI20231027BHJP
   B01D 61/48 20060101ALI20231027BHJP
【FI】
C02F1/469
B01D61/48
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023554029
(86)(22)【出願日】2023-04-11
(86)【国際出願番号】 JP2023014651
【審査請求日】2023-09-05
(31)【優先権主張番号】P 2022084986
(32)【優先日】2022-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】星野 友里
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 慶介
【審査官】小久保 勝伊
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-36486(JP,A)
【文献】特開2005-193205(JP,A)
【文献】特開2016-150304(JP,A)
【文献】特開2017-176968(JP,A)
【文献】特開2015-199038(JP,A)
【文献】特開2003-126862(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0108521(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/469
B01D 61/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極との間に配置されて前記陽極の側に位置するアニオン交換膜と前記陰極の側に位置するカチオン交換膜とによって区画されてアニオン交換体及びカチオン交換体が充填された脱塩室と、前記カチオン交換膜の前記陰極の側に設けられてアニオン交換体及びカチオン交換体が充填された濃縮室と、を有する電気式脱イオン水製造装置であって、
前記脱塩室における被処理水の流れ方向に向かって複数の領域が並ぶように前記脱塩室が前記複数の領域に区分され、前記複数の領域のうち、前記被処理水の流れにおける最上流側に位置する領域を第1の領域とし最下流側に位置する領域を第2の領域として、前記第1の領域には、当該第1の領域におけるアニオン交換体及びカチオン交換体の全体の体積に対するカチオン交換体の体積比が50%を超えて90%以下であるようにアニオン交換体及びカチオン交換体の混合物が充填され、
前記第2の領域には、当該第2の領域におけるアニオン交換体及びカチオン交換体の全体の体積に対するアニオン交換体の体積比が50%を超えて90%以下であるようにアニオン交換体及びカチオン交換体の混合物が充填されている、電気式脱イオン水製造装置。
【請求項2】
前記脱塩室における前記被処理水の流れの方向に直交する方向に沿った、前記複数の領域の各々におけるイオン交換体の層の厚さが10mm以上25mm以下である、請求項1に記載の電気式脱イオン水製造装置。
【請求項3】
前記脱塩室に充填されるアニオン交換体が、平均粒径が0.1mm以上0.4mm以下のアニオン交換樹脂である、請求項1または2に記載の電気式脱イオン水製造装置。
【請求項4】
前記脱塩室及び前記濃縮室の少なくとも一方である室に通水したのちに前記室から取り出された再生状態のイオン交換体の自由状態での体積を前記室の容積で除算した値を充填率として、
前記脱塩室及び前記濃縮室の少なくとも一方における前記イオン交換体の充填率が100%以上110%以下である、請求項1または2に記載の電気式脱イオン水製造装置。
【請求項5】
前記カチオン交換膜を挟んで前記第2の領域に対向する位置において前記濃縮室に充填されているイオン交換体でのカチオン交換体の体積比が50%以上である、請求項1または2に記載の電気式脱イオン水製造装置。
【請求項6】
前記カチオン交換膜を挟んで前記第1の領域に対向する位置において前記濃縮室に、前記第1の領域におけるカチオン交換体の体積比よりもカチオン交換体の体積比が小さいアニオン交換体及びカチオン交換体の混合物が充填され、
前記カチオン交換膜を挟んで前記第2の領域に対向する位置において前記濃縮室に、前記第2の領域におけるアニオン交換体の体積比よりもアニオン交換体の体積比が小さいアニオン交換体及びカチオン交換体に混合物が充填されている、請求項1または2に記載の電気式脱イオン水製造装置。
【請求項7】
各々が開口を有する複数の枠体がイオン交換膜を介して積層されて少なくとも前記脱塩室と前記濃縮室とが形成されており、
前記複数の枠体のうちの少なくとも2つの枠体が、当該少なくとも2つの枠体の開口が共同で脱塩室を形成するように互いに隣接している、請求項1または2に記載の電気式脱イオン水製造装置。
【請求項8】
請求項1または2に記載の電気式脱イオン水製造装置を使用し、前記陽極と前記陰極との間に直流電圧を印加しつつナトリウムイオン濃度が0.1mg/L以上0.6mg/L以下である前記被処理水を前記脱塩室に供給して脱イオン水である純水を得る、純水製造方法。
【請求項9】
請求項1または2に記載の電気式脱イオン水製造装置を使用し、前記陽極と前記陰極との間に直流電圧を印加しつつ全炭酸濃度が0.5mg-CO/L以上5.0mg-CO/L以下である前記被処理水を前記脱塩室に供給して脱イオン水である純水を得る、純水製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気式脱イオン水製造装置と、電気式脱イオン水製造装置を利用した純水の製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
被処理水から脱イオン水を生成する装置の1つとして、電気式脱イオン水製造装置(EDI(Electrodeionization)装置がある。以下、電気式脱イオン水製造装置のことをEDI装置とも称する。EDI装置は、電気泳動と電気透析とを組み合わせた装置であって、陽極と陰極との間に、一対のイオン交換膜で区画された脱塩室を配置した構成を有する。EDI装置では、少なくともその脱塩室にはイオン交換樹脂が充填される。EDI装置において陽極と陰極との間に直流電圧を印加した状態で脱塩室に被処理水を通水することにより、脱塩室において被処理水に対する脱塩処理が行われ、イオン成分が除去された処理水が脱塩室から流出する。被処理水に含まれる炭酸成分やシリカ成分などを除去する効率を高めたり、電圧上昇を抑えつつ電流密度を高くするために、特許文献1に記載されたEDI装置では、脱塩室内に区画部材を配置することによって脱塩室内が多数の小室に区画されており、脱塩室内の全領域にわたって体積比でアニオン交換樹脂がカチオン交換樹脂と同量かそれよりも多くなるようにアニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂とが混合して脱塩室に充填されている。さらに特許文献1に記載されたEDI装置では、脱塩室における水の流れに沿った上流側及び下流側の一方では、アニオン交換樹脂の混合比が66~80体積%とされ、他方ではアニオン交換樹脂の混合比が50~65体積%とされている。
【0003】
EDI装置の構造に関し、特許文献2は、開口を有する枠体とイオン交換膜とを交互に積層するとともに枠体の開口内にイオン交換体を充填させることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-193205号公報
【文献】特開2015-199038号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されたEDI装置では、脱塩室内においてカチオン交換樹脂よりもアニオン交換樹脂を高い割合で充填するので、高いアニオン除去率が得られる。その一方で、特許文献1の[0018]に「アニオン交換樹脂の割合を高めると、OHイオン発生量は増加するが、Hイオンが減少するためNaイオンの除去性が低下し、処理水の比抵抗を悪くする。」と記載されるように、カチオン交換樹脂の割合が小さいのでナトリウムイオン(Na)などのカチオンの除去性能が低下し、EDI装置を長時間にわたって運転したときの処理水の比抵抗が低下する。すなわち特許文献1に記載されたEDI装置では、処理水の水質が低下する、という課題がある。特許文献1に記載されたEDI装置では、ナトリウムイオンのリークを防ぐために脱塩室内を多数の小室に区分しているが、これは製作性の観点からは改善の余地がある。
【0006】
本発明の目的は、アニオン除去効率を維持しつつ、カチオンのリークによる処理水の比抵抗の低下を防ぐことができるEDI装置と、そのようなEDI装置を用いた純水の製造方法とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のEDI装置(電気式脱イオン水製造装置)は、陽極と、陰極と、陽極と陰極との間に配置されて陽極の側に位置するアニオン交換膜と陰極の側に位置するカチオン交換膜とによって区画されてアニオン交換体及びカチオン交換体が充填された脱塩室と、カチオン交換膜の陰極の側に設けられてアニオン交換体及びカチオン交換体が充填された濃縮室と、を有する電気式脱イオン水製造装置であって、脱塩室における被処理水の流れ方向に向かって複数の領域が並ぶように脱塩室が複数の領域に区分され、複数の領域のうち、被処理水の流れにおける最上流側に位置する領域を第1の領域とし最下流側に位置する領域を第2の領域として、第1の領域には、その第1の領域におけるアニオン交換体及びカチオン交換体の全体の体積に対するカチオン交換体の体積比が50%を超えて90%以下であるようにアニオン交換体及びカチオン交換体の混合物が充填され、第2の領域には、その第2の領域におけるアニオン交換体及びカチオン交換体の全体の体積に対するアニオン交換体の体積比が50%を超えて90%以下であるようにアニオン交換体及びカチオン交換体の混合物が充填されていることを特徴とする。
【0008】
本発明の純水製造方法は、本発明の電気式脱イオン水製造装置を使用し、陽極と陰極との間に直流電圧を印加しつつナトリウムイオン濃度が0.1mg/L以上0.6mg/L以下である被処理水を脱塩室に供給して脱イオン水である純水を得ることを特徴とする。あるいは本発明の純水製造方法は、本発明の電気式脱イオン水製造装置を使用し、陽極と陰極との間に直流電圧を印加しつつ全炭酸濃度が0.5mg-CO/L以上5.0mg-CO/L以下である被処理水を脱塩室に供給して脱イオン水である純水を得ることを特徴とする。
【0009】
本発明においてアニオン交換体とカチオン交換体とを総称してイオン交換体と呼ぶ。アニオン交換体及びカチオン交換体の全体に対する体積比は、自由状態におけるそれらのイオン交換体間に存在する空隙も含めた見かけ体積すなわち嵩体積に基づいて定められる。自由状態とは、脱塩室や濃縮室といった空間にイオン交換体が拘束されていない状態を指す。
【0010】
本発明に基づくEDI装置では、脱塩室にアニオン交換体とカチオン交換体とを混合して充填するときに、被処理水の流れ方向に向かって複数の領域が並ぶように脱塩室を複数の領域に区分し、すなわち被処理水の流れに沿って脱塩室を複数の領域に区分する。そして最上流側の領域ではカチオン交換体の割合を大きくし、最下流側の領域ではアニオン交換体の割合を大きくする。その結果、脱塩室において最上流側の位置ではナトリウムイオンなどのカチオンの除去が優先的に行われ、最下流側の位置では弱酸成分を含むアニオンの除去が優先的に行われる。これにより、被処理水の水質に関して広い範囲でEDI装置を安定して運転することが可能になり、弱酸成分を含めた高いアニオン除去効率を得つつ、カチオンのリークによる処理水の比抵抗の低下を防ぐことが可能になる。ここでいう弱酸成分には、例えば、炭酸やシリカ、ケイ酸化合物、ホウ酸、その他のホウ素などが含まれる
【0011】
本発明においては被処理水の流れに沿って脱塩室を複数の領域に区分するが、区分することによって生ずる領域の数は2以上であればよい。区分された領域を物理的に隔てるスペーサーなどの部材を設ける必要はなく、脱塩室にイオン交換体を充填するときに領域ごとに混合比率が変わるようにイオン交換体を充填すればよい。2つの領域に区分するときは、最上流側の領域とは、2つの領域のうち上流側にあるものを指し、最下流側の領域とは、2つの領域のうち下流側にあるものを指す。脱塩室を3以上の領域に区分するときは、最上流側の領域と最下流側の領域を除いた領域には、アニオン交換樹脂あるいはカチオン交換樹脂を単床で充填しても、任意の混合割合でアニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂とを混合して充填してもよい。
【0012】
脱塩室での最上流側の領域である第1の領域でのアニオン交換体及びカチオン交換体の全体の体積に対するカチオン交換体の体積比を第1の体積比とすると、第1の体積比は、50%を超えて90%以下であり、60%以上85%以下であることが好ましく、70%以上80%以下であることがより好ましい。また最下流側の領域である第2の領域でのアニオン交換体及びカチオン交換体の全体の体積に対するアニオン交換体の体積比を第2の体積比とすると、第2の体積比は、50%を超えて90%以下であり、60%以上85%以下であることが好ましく、70%以上80%以下であることがより好ましい。
【0013】
脱塩室における被処理水の流れの方向に直交する方向に沿った、脱塩室を区分する複数の領域の各々におけるイオン交換体の層の厚さは、10mm以上25mm以下であることが好ましく、15mm以上20mm以下程度であることがより好ましい。脱塩室に充填されるアニオン交換体としてアニオン交換樹脂を使用するときは、平均粒径が0.4mmを超えて1mm程度以下である一般的なアニオン交換樹脂を使用することができるが、アニオン交換樹脂の平均粒径は、0.1mm以上0.4mm以下であることが好ましく、0.25mm以上0.35mm以下程度であることがより好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、アニオン除去効率を維持しつつカチオンのリークによる処理水の比抵抗の低下を防ぐことができるEDI装置と、そのようなEDI装置を用いた純水の製造方法とが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施の一形態のEDI装置を示す図である。
図2】EDI装置の機械的な構造を示す概略断面図である。
図3図2に示すEDI装置の組立斜視図である。
図4】別の実施形態のEDI装置を示す図である。
図5】別の実施形態のEDI装置を示す図である。
図6】濃縮室から脱塩室への炭酸の移動を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態の一形態のEDI装置10を示している。このEDI装置10では、陽極11を備えた陽極室21と、陰極12を備えた陰極室25との間に、陽極室21の側から順に、濃縮室22、脱塩室23及び濃縮室24が設けられている。陽極室21と濃縮室22はカチオン交換膜(CEM)31を隔てて隣接し、濃縮室22と脱塩室23はアニオン交換膜(AEM)32を隔てて隣接し、脱塩室23と濃縮室24はカチオン交換膜33を隔てて隣接し、濃縮室24と陰極室25はアニオン交換膜34を隔てて隣接している。したがって脱塩室23は、陽極11と陰極12との間に配置されて、陽極11側に配置したアニオン交換膜32と陰極12側に配置されたカチオン交換膜33とによって区画されている。陽極室21及び陰極室25を総称して電極室と呼ぶ。
【0017】
脱塩室23には被処理水が供給され、被処理水を脱塩処理した結果得られる脱イオン水(処理水)が脱塩室23から流出する。濃縮室22,24は、濃縮室供給水が供給され、濃縮水を排出する。陽極室21及び陰極室25は、いずれも電極室供給水が供給され、電極水を排出する。なお、電極室がその電極室に隣接する濃縮室22,24を兼ねる構成とすることもできる。また、図1に示した陽極室21、濃縮室22、脱塩室23、濃縮室24及び陰極室25の各室における水の流れは一例であってこれらの各室における水の流れ方向は任意である。例えば、各室における水の流れは、室ごとに独立して図1に示すものと逆方向になっていてもよい。
【0018】
脱塩室23の内部にはアニオン交換体とカチオン交換体とが混合してイオン交換樹脂層として配置されている。本実施形態では、アニオン交換体及びカチオン交換体としてそれぞれアニオン交換樹脂(AER)とカチオン交換樹脂(CER)とが使用されており、アニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂とが混合されて、すなわち混床(MB)形態で、脱塩室23に充填されている。図において「CER+AER」は、混床状態でカチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂とが充填されていることを示している。脱塩室23における被処理水の流れに沿って脱塩室23の内部は領域Aと領域Bの2つの領域に区分されている。領域Aは、被処理水の流れに沿った最上流側の領域すなわち被処理水の入口側の領域であり、領域Bは、被処理水の流れに沿った最下流側の領域すなわち脱イオン水の出口側の領域である。
【0019】
領域A,Bのいずれにもアニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂とが混床で充填されているが、アニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂の混合比率が領域間で異なっている。被処理水の入口側である領域Aでは、そこに混床形態で充填されているアニオン交換樹脂及びカチオン交換樹脂の全体の体積に対するカチオン交換樹脂の体積比が50%を超えて90%以下となっている。したがって、領域Aでは、体積比で考えると、アニオン交換樹脂よりもカチオン交換樹脂の方が多く含まれている。これに対し、脱イオン水の出口側である領域Bでは、そこに混床形態で充填されているアニオン交換樹脂及びカチオン交換樹脂の全体の体積に対するアニオン交換体の体積比が50%を超えて90%以下となっている。領域Bでは、体積比で考えるとカチオン交換樹脂よりもアニオン交換樹脂の方が多く含まれている。領域Aと領域Bとの間には隔壁や仕切りなどは設けられておらず、領域A内のイオン交換樹脂の粒子間を流れてきた被処理水が、そのまま領域B内のイオン交換樹脂の粒子間に流れ込む。領域Aと領域Bの間に仕切りを設けるときも、両方の領域間でイオン交換樹脂が混じり合わないようなメッシュあるいはネット状の簡単な仕切りを用いることができる。図において[CER]は、そこに混床形態で充填されているアニオン交換樹脂及びカチオン交換樹脂の全体の体積に対するカチオン交換樹脂の体積比を示している。同様に[AER]は、そこに混床形態で充填されているアニオン交換樹脂及びカチオン交換樹脂の全体の体積に対するアニオン交換樹脂の体積比を示している。
【0020】
本実施形態でいうイオン交換樹脂の体積とは、イオン交換樹脂の自由状態での体積、すなわち、脱塩室23や濃縮室24といった空間で拘束されていない状態での、イオン交換樹脂の粒子間の空隙も含めた見かけの体積のことである。したがって、混床で充填されているアニオン交換樹脂及びカチオン交換樹脂の全体の体積とは、アニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂との混合物の自由状態での見かけの体積のことである。アニオン交換樹脂あるいはカチオン交換樹脂の単独での体積は、アニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂とを混合する前の各イオン交換樹脂の単独での自由状態の見かけの体積であるが、これは、アニオン交換樹脂及びカチオン交換樹脂の混合物から各イオン交換樹脂を分離して分離後の各イオン交換樹脂の見かけの体積を測定することによって求めることができる。
【0021】
脱塩室23や濃縮室24について、陽極11と陰極12の間の電界方向に沿った長さを厚さと呼ぶ。脱塩室23や濃縮室24に充填されるイオン交換樹脂層についても、同様に厚さを定義する。この厚さ方向は、脱塩室23や濃縮室24における水の流れる方向と直交する方向である。脱塩室23内のイオン交換樹脂層の厚さが9mm未満であると脱塩室23から排出される脱イオン水の水質の低下が確認された。そのため脱塩室23内のイオン交換樹脂層の厚さは、10mm以上25mm以下であることが好ましく、15mm以上20mm以下程度であることがより好ましい。
【0022】
通常のイオン交換樹脂はビーズ状あるいは粒状であって、その標準的な粒径は0.4mmを超えて1mm程度以下であるが、EDI装置における処理水の水質を向上させるために、より小さな粒径のイオン交換樹脂を脱塩室に充填することが提案されている。本実施形態のEDI装置10においても、粒径が0.4mmを超えるような一般的なイオン交換樹脂を脱塩室23に充填することができる。しかしながら本実施形態のEDI装置10では、脱塩室23に充填されるイオン交換樹脂、特にアニオン交換樹脂の平均粒径は、調和平均径で表して、0.1mm以上0.4mm以下であることが好ましく、0.25mm以上0.35mm以下程度であることがより好ましい。なお、ふるい(篩)を用いてイオン交換樹脂の粒径分布を求めて平均粒径を算出することもできるが、イオン交換樹脂メーカーによるカタログ値を本実施形態における平均粒径として使用してもよい。
【0023】
さらにEDI装置10では、カチオン交換樹脂が陽極室21内に充填され、アニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂とが混床で濃縮室22内に充填され、アニオン交換樹脂が陰極室25内に充填されている。濃縮室22にはアニオン交換樹脂を単床で充填してもよい。脱塩室23の陰極12側においてカチオン交換膜33を介してその脱塩室23に隣接する濃縮室24には、アニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂とが充填されている。なお、陽極室21、濃縮室22及び陰極室25には必ずしもイオン交換樹脂を充填する必要はないが、EDI装置10の運転時に陽極11と陰極12との間に印加すべき直流電圧を低くするために、陽極室21、濃縮室22及び陰極室25にもイオン交換樹脂を充填することが好ましい。脱塩室23と濃縮室24との少なくとも一方におけるイオン交換樹脂などのイオン交換体の充填率は、100%以上110%以下であり、より好ましくは105%以上110%以下である。ここで充填率とは、陽極11と陰極12との間に直流電圧を印加しつつイオン交換体が充填されている空間に対して通水してイオン交換体を再生状態とし、その後、その空間から取り出されたイオン交換体の自由状態での見かけの体積をその空間の容積で除算して得られる値のことである。ここでのイオン交換体が充填されている空間は、脱塩室23または濃縮室24である。
【0024】
次に、本実施形態のEDI装置10において、脱塩室23やその陰極側に位置する濃縮室24において、さらには陽極室21、濃縮室22及び陰極室25において充填して使用できるイオン交換樹脂について説明する。一般にイオン交換樹脂の高分子母体としては、「スチレン系」と呼ばれるイオン交換樹脂で使用されるスチレン-ジビニルベンゼンの共重合体や、「アクリル系」と呼ばれるイオン交換樹脂で使用されるアクリル酸-ジビニルベンゼンの共重合体などがある。イオン交換樹脂は、これらの高分子母体をイオン交換基によって修飾したものであり、酸性を示すイオン交換基が用いられるカチオン交換樹脂と、塩基性を示すイオン交換基が用いられるアニオン交換樹脂とに大別される。さらにイオン交換樹脂は、導入されるイオン交換基の種類によって、強酸性カチオン交換樹脂、弱酸性カチオン交換樹脂、強塩基性アニオン交換樹脂、弱塩基性アニオン交換樹脂などに区別される。強塩基性アニオン交換樹脂としては、例えば、第4級アンモニウム基をイオン交換基として有するものがあり、弱塩基性アニオン交換樹脂としては、例えば、第1級アミン、第2級アミンあるいは第3級アミンをイオン交換基として有するものがある。強酸性カチオン交換樹脂としては、例えば、スルホン酸基をイオン交換基として有するものがあり、弱酸性カチオン交換樹脂としては、例えば、カルボキシル基をイオン交換基として有するものがある。本発明の装置に充填されるイオン交換樹脂としては、これらいずれの種類のものも用いることができる。
【0025】
次に、本実施形態のEDI装置10の運転方法について説明する。本実施形態のEDI装置10では、通常のEDI装置と同様に、陽極11と陰極12との間に直流電圧を印加しつつ、脱塩室23に被処理水を供給し、陽極室21、濃縮室22,24及び陰極室25に供給水を供給する。脱塩室23では、被処理水中のイオン成分がイオン交換樹脂によって脱塩されるとともに、印加されている直流電圧により水が解離して生ずるHイオンとOHイオンとによってイオン交換樹脂の再生が行われる。被処理水のナトリウムイオン(Na)濃度は例えば0.1mg/L以上0.6mg/L以下であり、そのような被処理水を脱塩室23に供給することにより、脱塩室23からは比抵抗が10MΩ・cmを超えるような純水を脱イオン水として長期間にわたって得ることができる。被処理水における全炭酸濃度は、例えば0.5mg-CO/L以上5.0mg-CO/L以下である。
【0026】
図1に示したEDI装置10では、脱塩室23において、被処理水の流れの最上流側にある領域Aではカチオン交換樹脂が相対的に多く充填されている。したがってこの領域Aでは、被処理水中のカチオンが優先的に除去されることになる。また被処理水の流れの最下流側にある領域Bではアニオン交換樹脂が相対的に多く充填されており、この領域Bでは、被処理水中のアニオンが優先的に除去されることになる。被処理水に含まれるカチオンが除去されてからアニオンが除去されるので、EDI装置10では、炭酸やシリカ、ケイ酸化合物、ホウ酸、その他のホウ素化合物に代表される弱酸成分を含めたアニオンの除去効率を高めつつカチオンのリークを防ぐことができる。このEDI装置10は、被処理水における水質の広い範囲にわたって、安定して運転することができる。
【0027】
ところで一般的にEDI装置は、その陽極と陰極との間に、[濃縮室|イオン交換膜|脱塩室|イオン交換膜|濃縮室]からなる基本構成をイオン交換膜を介して複数個並置することができる。このとき、イオン交換膜を挟んで隣接する2つの濃縮室は、その挟まれているイオン交換膜を除去して単一の濃縮室とすることができる。図1に示したEDI装置10では、アニオン交換膜32、脱塩室23、カチオン交換膜33及び濃縮室24が1つの基本構成を形成するものとして、陽極室21に最も近い濃縮室22と陰極室25に接するアニオン交換膜34との間にこの基本構成をN個配置することができる。Nは1以上の整数である。基本構成を複数個並置できることは、図において「×N」の記載によって示されている。基本構成を複数個並置した場合、隣接する2つの脱塩室23によって挟まれる濃縮室は全て、アニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂とが充填される濃縮室24である。
【0028】
基本構成を複数個並置したEDI装置10では、脱塩室23や濃縮室24が繰り返して配置されるので、特許文献2に示されるように、各々が開口を有する複数の枠体を、イオン交換膜(すなわちアニオン交換膜及びカチオン交換膜)を挟むようにして一方向に積層し、枠体と枠体の1対の開口にそれぞれ配置されたイオン交換膜によって脱塩室23や濃縮室24などの各室を構成することができる。枠体は例えばプラスチックの射出成型によって製造される。脱塩室23の厚さを大きくするためには、枠体の積層体において2以上の連続する枠体の相互間にはイオン交換膜が配置しないようにしてその2以上の連続する枠体が一体として脱塩室23を構成するようにすればよい。図1に示したEDI装置10でも脱塩室23の厚さは例えば20mm程度であり、これに対して濃縮室22,24の厚さは10mm程度とされるので、1つの脱塩室を2枚の枠体で構成し各濃縮室22,24を1枚の枠体で構成することができる。
【0029】
図2は、図1に示すEDI装置10において基本構成を複数個並置したときの機械的な構造の一例を示している。図3図2に示すEDI装置10の分解斜視図である。図2では、陽極室21、濃縮室22,24、脱塩室23及び陰極室25にそれぞれ充填されているイオン交換樹脂は示されていない。図2に示されるEDI装置10は、各々が開口を有する複数の枠体41~45を積層した構成を有する。陽極11及び陰極12は、枠体41~45の積層方向の両端に位置して枠体41~45の開口を介して相互に向かい合っている。陽極室21、濃縮室22、脱塩室23、濃縮室24及び陰極室25は、それぞれ、枠体41,42,43,44,45によって構成されている。陽極11は押さえ板46を介して枠体41に固定され、陰極12は押さえ板47を介して枠体45に固定されている。脱塩室23については、2つの枠体43を重ねて1つの脱塩室としている。すなわちこの2つの枠体43が、それらの開口が共同で脱塩室23を形成するように互いに隣接している。脱塩室23の厚さをさらに大きくする必要があるときは、3以上の枠体43によって脱塩室23が形成されるようにしてもよい。
【0030】
陽極室21を構成する枠体41と濃縮室22を構成する枠体42とが隣接しているが、これらの枠体41,42の開口がカチオン交換膜31によって分離されて、陽極室21と濃縮室22とが相互に区画されている。同様に、隣接する枠体42と枠体43の間にはアニオン交換膜32が配置し、隣接する枠体43と枠体44の間にはカチオン交換膜33が配置し、隣接する枠体44と枠体45の間にはアニオン交換膜34が配置している。
【0031】
このようにイオン交換膜を介在させつつ枠体を順次積層して濃縮室22,24や脱塩室23を形成することにより、上述した基本構成を多数並置したEDI装置10を容易に製造することができる。枠体を積層するときは、開口を上向きにして枠体を積層する。各室(すなわち陽極室21、濃縮室22、脱塩室23、濃縮室24及び陰極室25)にイオン交換樹脂を充填するときは、その室を構成する枠体を積層した上で、その枠体の開口にイオン交換樹脂を充填し、その後、イオン交換膜を介在させて次の枠体をその上に載せればよい。
【0032】
図4は、別の実施形態のEDI装置10を示している。本発明に基づくEDI装置では、被処理水の流れ方向に沿って脱塩室23を領域に区分するときに、3以上の領域に区分することもできる。図4に示した例は、図1に示すEDI装置10の脱塩室23において、領域Aと領域Bとの間に領域Cが設けられている。領域Cにもアニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂とが混床で充填されているが、この領域では、アニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂との混合比率は任意であり、アニオン交換樹脂あるいはカチオン交換樹脂を単床で充填してもよい。なお図4に示すEDI装置10では、陽極室21に隣接する濃縮室22にはアニオン交換樹脂が単床で充填されている。
【0033】
図5は、さらに別の実施形態のEDI装置10を示している。図5に示すEDI装置10は、図1に示すEDI装置10において、脱塩室23の陰極12側に配置される濃縮室での水の流れ方向に沿ってその濃縮室24が2つの領域すなわち領域Pと領域Qに区分されるようにしたものである。領域Pは、カチオン交換膜33を介して脱塩室23の領域Aと対向し、同様に領域Qは、カチオン交換膜33を介して脱塩室23の領域Bと対向している。ここで「対向する」とは、イオン交換膜(ここではカチオン交換膜33)の膜面に垂直な方向から見て、イオン交換膜の一方の面の側に存在する領域とイオン交換膜の他方の面の側に存在する領域とが少なくとも部分的に重なり合っていることをいう。濃縮室24の領域Pにはアニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂とが混床で充填されている。領域Qでは、カチオン交換樹脂が単床で充填されていてもよいし、アニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂とが混床で充填されていてもよいが、混床で充填されているときは、領域Qに充填されているイオン交換樹脂の全体の体積に対するカチオン交換樹脂の体積の比率が50%以上である必要がある。このように領域Qにおいてカチオン交換樹脂の比率を高めることによって、脱塩室23から排出される脱イオン水への、炭酸やシリカ、ケイ酸化合物、ホウ酸、その他のホウ素化合物に代表される弱酸成分のリークを抑制することができる。なお図5に示すEDI装置10でも、陽極室21に隣接する濃縮室22にはアニオン交換樹脂が単床で充填されている。
【0034】
図6は、脱塩室から炭酸成分のリークを説明する図である。図6に示すように、陽極11と陰極12との間に脱塩室23と濃縮室24が交互に配置し、脱塩室23にはアニオン交換樹脂(AER)とカチオン交換樹脂(CER)が混床で充填され、濃縮室24にはアニオン交換樹脂が単床で充填されているものとする。被処理水中の炭酸成分(すなわち遊離炭酸(CO)、炭酸水素イオン(HCO )及び炭酸イオン(CO 2-)は、図示右側の脱塩室23において炭酸水素イオンあるいは炭酸イオンとしてアニオン交換樹脂に捕捉され、アニオン交換膜(AEM)32を介して陽極11側の濃縮室24に移動する。その結果、濃縮室24内のアニオン交換樹脂のイオン形はHCO 形となる。そして印加されている直流電圧による電場によって、濃縮室24では炭酸水素イオン(及び炭酸イオン)がカチオン交換膜33の近傍にまで移動するが、それらはアニオンであるのでカチオン交換膜33を透過することはできない。したがって、濃縮室24において、その陽極11側に位置しているカチオン交換膜33の近傍に、炭酸水素イオン(及び炭酸イオン)が濃縮される。
【0035】
印加されている直流電圧により、濃縮室24にはその陽極11側の脱塩室23からカチオン交換膜33を介して水素イオン(H)が透過してくる。その結果、濃縮室24においてカチオン交換膜33の近傍の領域のpHが低下する。上述したようにこの領域は炭酸水素イオン(及び炭酸イオン)が濃縮されている領域であるが、水素イオンのために炭酸水素イオン(及び炭酸イオン)から水と二酸化炭素(CO)が生じ、濃縮室24においてカチオン交換膜33の近傍に二酸化炭素を高濃度で含む水の層が形成される。そして中性分子である二酸化炭素は、カチオン交換膜33を透過できるので、濃縮室24からカチオン交換膜33を介して脱塩室23へと移動する。結局、脱塩室23において被処理水から除去された炭酸成分が、その脱塩室23より陽極11側にある脱塩室23において被処理水中に再度溶け込むこととなり、脱塩室23から排出される処理水に炭酸成分が含まれることになる。
【0036】
脱塩室からの炭酸成分のリークに関し、本発明者らは以下の知見を得た。すなわち、
(1)脱塩室に供給される被処理水の全炭酸濃度が0.5mg-CO/Lを超えると、上述した機構によるリークの影響が出始める傾向にある:
(2)一般的にEDI装置に供給される水における全炭酸濃度は、EDI装置の前段において行われる前処理によって低減されるため、5mg-CO/L以下であることが多い。
【0037】
ここでいう全炭酸とは、遊離炭酸(CO)、炭酸水素イオン(HCO )及び炭酸イオン(CO 2-)を総称するものであり、全炭酸濃度は、全炭酸の濃度をCO換算濃度(mg-CO/L、すなわちmg/L as CO)により示したものである。
【0038】
このような炭酸成分のリークを防ぐためには、濃縮室24において、カチオン交換膜33の近傍にpHが低下した領域が形成されないようにすることが考えられる。そのためには、カチオン交換膜33を介して濃縮室24に移動してきた水素イオンを濃縮室24内で速やかに陰極12の側に移動させることが有効である。図5に示したEDI装置10では、脱塩室23において被処理水から炭酸成分が除去されると考えられる領域Bに対応させて、濃縮室24の領域Qにおいてカチオン交換樹脂の体積比率を50%以上としている。このように構成することによって、二酸化炭素を高濃度に含む水の層が濃縮室24におけるカチオン交換膜33の近傍の領域に形成されることを防ぐことができ、これによってカチオン交換膜33を介し濃縮室24から脱塩室23に二酸化炭素が移動することを抑制することができる。
【0039】
濃縮室24から脱塩室23への二酸化炭素の移動を抑制する方法としては、領域Qにおいてカチオン交換樹脂の体積比率を50%以上とする方法のほか、脱塩室23における最上流側の領域である領域Aにおけるカチオン交換樹脂の体積比率よりも、濃縮室24においてこの領域Aに対向する領域Pでのカチオン交換樹脂の体積比率を小さくし、同時に、脱塩室23における最下流側の領域である領域Bにおけるアニオン交換樹脂の体積比率よりも、濃縮室24においてこの領域Bに対向する領域Qでのアニオン交換樹脂の体積比率を小さくする方法がある。領域Aではカチオン樹脂量が多いので、アニオンが脱塩室から移動しにくいが、この方法では、そこで領域Aに対向する領域Pのアニオン交換樹脂を増やすことで、脱塩室から濃縮室への炭酸成分の移動を促進することができる。
【実施例
【0040】
以下、実施例及び比較例により、本発明をさらに詳しく説明する。
【0041】
[実施例1]
枠体を積層することにより図1に示す構成のEDI装置10を組み立てた。濃縮室22,24には、体積比率が1:1であるようにアニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂とを混合して充填した。脱塩室23の厚さを8.7mmとし、脱塩室23のために枠体に形成される開口の寸法を300mm×150mmとした。脱塩室23において、被処理水の流れの上流側である領域Aには、アニオン交換樹脂(A)とカチオン交換樹脂(K)の体積比率(A:K)が3:7であるようにアニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂とを混合して充填し、被処理水の流れの下流側である領域Bには、体積比率(A:K)が8:2であるようにアニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂とを混合して充填した。脱塩室23及び濃縮室22,24において使用したアニオン交換樹脂の平均粒径は0.50~0.65mmであり、カチオン交換樹脂の平均粒径は0.55~0.65mmであった。陽極11と陰極12の間に直流電圧を印加しつつ脱塩室23あたり2.5L/分の流量で被処理水を通水してEDI装置を運転し、運転開始から300時間後に脱イオン水として脱塩室23から得られる処理水の比抵抗を求め、これを処理水の水質値とした。被処理水として、ナトリウムイオン濃度が0.1mg/Lであり、全炭酸濃度が0.5~1.0mg-CO/Lである水を使用した。結果を表1に示す。
【0042】
[実施例2]
脱塩室23の厚さを17.7mmとした以外は実施例1と同じEDI装置10を組み立て、脱塩室23あたりの被処理水の流量を4L/分の流量とした以外は実施例1と同様にEDI装置10を運転して、運転開始から300時間後の水質値を求めた。結果を表1に示す。
【0043】
[実施例3]
脱塩室23に使用するアニオン交換樹脂として平均粒径が0.28~0.34mmのものを使用して上流側の領域Aでの体積比率(A:K)を2:8とし、下流側の領域Bでの体積比率(A:K)を7:3とした以外は実施例2と同じEDI装置10を組み立て、実施例2と同様にEDI装置10を運転して、運転開始から300時間後の水質値を求めた。結果を表1に示す。
【0044】
[比較例1]
脱塩室23において上流側の領域Aでの体積比率(A:K)を7.5:2.5とし、下流側の領域Bでの体積比率(A:K)を6:4とした以外は実施例1と同じEDI装置10を組み立て、実施例1と同様にEDI装置10を運転して、運転開始から300時間後の水質値を求めた。結果を表1に示す。
【0045】
[比較例2]
脱塩室23を領域に区分することなく脱塩室23の全体にわたって体積比率(A:K)を1:1であるようにアニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂とを混合して充填したこと以外は実施例1と同じEDI装置10を組み立て、実施例1と同様にEDI装置10を運転して、運転開始から300時間後の水質値を求めた。結果を表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
実施例1~3では、比抵抗で表された水質が12MΩ・cm以上であって、高品質な脱イオン水を得ることができた。特に、アニオン交換樹脂として平均粒径が0.28~0.34mmであるものを使用した実施例3では、17MΩ・cmという高い値を得ることができた。これに対し、比較例1~2では、水質が12MΩ・cm未満であった。比較例1について水質の時間変化を調べたところ、運転時間が約200時間までは水質は15MΩ・cm以上であったが、その後、急激に水質が劣化した。これは、比較例1~2では脱塩室23からのナトリウムイオンのリークが大きく、運転時間が長くなったときにそのリークが特に大きくなることを示している。以上の結果から、脱塩室23において最上流側ではカチオン交換樹脂の割合を大きくし最下流側ではアニオン交換樹脂の割合を大きくすることによって、弱酸成分を含むアニオン成分の除去効率を高く維持したまま、カチオンのリークを低く抑えることができることが分かった。
【符号の説明】
【0048】
10 電気式脱イオン水製造装置(EDI装置)
11 陽極
12 陰極
21 陽極室
22,24 濃縮室
23 脱塩室
25 陰極室
31,33 カチオン交換膜(CEM)
32,34 アニオン交換膜(AEM)
41~45 枠体
46,47 押さえ板
【要約】
弱酸成分を含めたアニオン除去効率を維持しつつカチオンのリークによる処理水の比抵抗の低下を防ぐことができる電気式脱イオン水製造装置(EDI装置)において、その脱塩室(23)は、被処理水の流れ方向に沿って複数の領域に区分されている。最上流側に位置する領域(領域A)にはカチオン交換体の体積比が50%を超えて90%以下であるようにアニオン交換体及びカチオン交換体の混合物が充填され、最下流側に位置する領域(領域B)にはアニオン交換体の体積比が50%を超えて90%以下であるようにアニオン交換体及びカチオン交換体の混合物が充填される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6