(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-27
(45)【発行日】2023-11-07
(54)【発明の名称】手摺り支柱用補強材及びその製作方法
(51)【国際特許分類】
E04F 11/18 20060101AFI20231030BHJP
【FI】
E04F11/18
(21)【出願番号】P 2023116689
(22)【出願日】2023-07-18
【審査請求日】2023-07-31
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523272557
【氏名又は名称】ワタル商会株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124316
【氏名又は名称】塩田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】川野 勇
(72)【発明者】
【氏名】氏家 紀明
(72)【発明者】
【氏名】加瀬 賢佐
(72)【発明者】
【氏名】清水 隆男
【審査官】伊藤 昭治
(56)【参考文献】
【文献】実開平5-52063(JP,U)
【文献】特開2023-40865(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F 11/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空断面形状の上部芯材と、この上部芯材の内部に挿入され、前記上部芯材内に挿入されたときに全周面と前記上部芯材の全内周面との間に空隙が形成される中実断面形状の下部芯材とを備え、前記上部芯材と前記下部芯材が一体となった状態で、中空断面形状の支柱の内部に挿入される手摺り支柱用の補強材であり、
前記上部芯材内の、前記下部芯材の使用時の上端面が位置する深さに、流動性を有する液体を吸収可能な吸水性を有する止液材が挿入され、
前記下部芯材は使用状態での上端面が前記止液材に接触する位置まで、前記上部芯材の内部に挿入され、前記上部芯材の内部の前記下部芯材との間に、低粘度の非アルカリ性で、硬化後に耐水性を発揮する充填材が充填され、
前記充填材は前記下部芯材の全周面と前記上部芯材の全内周面との間、及び前記下部芯材の使用状態での下端面下に行き渡らせられていることを特徴とする手摺り支柱用補強材。
【請求項2】
使用状態での前記上部芯材の、前記止液材の上面以上の位置に、前記上部芯材の内部と外部を連通させる水抜き孔が形成され、前記止液材の上面と前記水抜き孔の最上部以下との間に、前記上部芯材と前記下部芯材との間に注入される前記低粘度の充填材より粘度の高い充填材が充填され、前記止液材の上に上部充填材層が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の手摺り支柱用補強材。
【請求項3】
使用状態での前記止液材の下面の下に、前記上部芯材と前記下部芯材との間に注入される前記低粘度の充填材より粘度の高い充填材が充填されていることを特徴とする請求項1、もしくは請求項2に記載の手摺り支柱用補強材。
【請求項4】
中空断面形状の上部芯材と、この上部芯材の内部に挿入され、前記上部芯材内に挿入されたときに全周面と前記上部芯材の全内周面との間に空隙が形成される中実断面形状の下部芯材とを備え、前記上部芯材と前記下部芯材が一体となった状態で、中空断面形状の支柱の内部に挿入される手摺り支柱用補強材の製作方法であり、
前記上部芯材を使用時とは上下反転させた状態で、前記上部芯材内の、前記下部芯材の使用時の上端面が位置する深さに、流動性を有する液体を吸収可能な吸水性を有する止液材を挿入する工程と、
前記上部芯材の内部に、低粘度の非アルカリ性で、硬化後に耐水性を発揮する充填材を前記下部芯材の上端面が埋没するまで注入すると共に、前記下部芯材の下端面を前記止液材に接触する位置まで前記下部芯材を挿入する工程とを経、
前記下部芯材の周面と前記上部芯材の内周面との間、及び前記下部芯材の使用状態での下端面下に前記低粘度の充填材を行き渡らせて前記補強材を製作することを特徴とする手摺り支柱用補強材の製作方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は手摺りの支柱を補強する目的で使用される補強材に、主に水と酸素の存在による発錆の防止効果を持たせた手摺り支柱用補強材とその製作方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
手摺りの支柱は鉄筋コンクリート造の躯体中に埋設されることで、躯体に支持され、転倒に対する安定性を確保する(特許文献1~5参照)。
【0003】
この手摺りの支柱を曲げ等に対して補強する目的で、中空の支柱の内部に挿入される補強材が、中空の上部芯材とその内部に挿入される中実の下部芯材から構成される場合(特許文献6参照)、下部芯材は上部芯材内に充填される接着剤やモルタル等の充填材中に挿入されることで、上部芯材内で安定する(特許文献6の段落0054)。
【0004】
ここで、上部芯材、または支柱にアルミニウム形材を使用する場合に、下部芯材の固定のためにモルタル等のアルカリ性の充填材を使用すると、アルミニウムが水と塩分の存在下で著しく腐食することが知られているため(特許文献7、8参照)、使用場所が海岸沿いである等、地域によっては、モルタル等は充填材としての適性に欠けることがある。
【0005】
充填材が接着剤の場合には、素材がアルミニウムの場合の腐食の問題は回避されるが(特許文献9、10参照)、接着剤には基本的に粘性があるため、接着剤を下部芯材と上部芯材との間に密実に充填することと、下部芯材の全周面(全表面)と上部芯材の全内周面との間に均等に充填することの難しさがある。
【0006】
一方、特許文献6のように補強材の上部芯材を中空の支柱の内部に挿入する場合、上部芯材より上の支柱の区間は使用状態では中空のままであるため、手摺りとの接続部を通じて内部に雨水が浸入する可能性がある他(特許文献6の段落0056)、使用中に支柱の内周面に結露が生じる可能性があり、これらの結露水等が上部芯材の上に溜まり易い。この場合に、接着剤が下部芯材と上部芯材との間に密実に充填されていなければ、中実の下部芯材が鋼製の場合、水と酸素の存在で下部芯材に錆を発生させる可能性がある。
【0007】
特許文献9、10では上部芯材と下部芯材との間に接着剤を充填し、下部芯材の全長を接着剤で保護しているため、下部芯材が鋼製の場合に結露水等による発錆の可能性を低下させることができると考えられる。
【0008】
但し、特許文献6、10のように上部芯材と下部芯材からなる芯材(補強材)を製作する上で、特許文献6のように製作時に使用時とは上下を逆にして下部芯材を上部芯材内に挿入し、上部芯材の上端側から接着剤を注入する場合に(特許文献6の段落0056)、下部芯材の全長を接着剤中に埋設しようとすれば、製作時の下部芯材の上端面は上部芯材の上端面より下に位置するため、下部芯材の挿入深さの位置決めのための端部材を使用することが必要になる(段落0056)。
【0009】
端部材は接着剤の下方への漏れ防止の役目も果たすが(段落0056)、製作時に下部芯材の下端面が上部芯材内への挿入時に接触することで下部芯材を位置決めする役目を持つ以上、製作時の下部芯材の下端面は端部材の上面に密着した状態になる。
【0010】
また下部芯材が鋼材の場合、接着剤の注入後も接着剤の浮力で下部芯材の下端面が端部材上面から浮き上がることはないため、下部芯材の下端面は端部材の上面に密着した状態に保たれる。この状態は端部材と上部芯材との間の隙間から接着剤が漏れ出すか否かには無関係である。
【0011】
このことは、製作時の下部芯材の下端面と端部材の上面との間に接着剤が完全には入り込まない部分が生じ得ることを意味し、製作時の下部芯材の下端面の全面が接着剤で被覆されるとは限らないことを意味する。同じことは特許文献10の補強材の下端面と座面板との間に介在するシール材との間にも言える(段落0022)。
【0012】
シール材は長期的には吸水性(吸液性)を有する場合があるものの、短期的には実質的に吸水性はない。特に特許文献10では防水性(耐水性)が高く、接触相手との密着性も高いブチルテープを使用し(特許文献11、12参照)、補強材の下端面全面に密着させていることから(特許文献10の段落0020、0022)、補強材下端面とシール材(ブチルテープ)との間への接着剤の回り込みは阻止され易い。このため、両者間への接着剤の入り込みは期待されず、補強材下端面は接着剤には被覆されない可能性が残る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開平3-55349号公報(公報第3頁上左欄第7行~第4頁上右欄第6行、第1図~第6図)
【文献】特開平4-231543号公報(段落0007~0009、
図1、
図2)
【文献】実公平5-4503号公報(第3欄第9行~第6欄第16行、第1図~第6図)
【文献】特開平7-97845号公報(段落0009~0013、
図1、
図2)
【文献】実開平5-52063号公報(請求項1、段落0011~0016、
図1、
図2)
【文献】特許第5134305号公報(請求項1、段落0038~0067、
図1、
図2)
【文献】実公昭52-33719号公報(第2欄第1行~第16行)
【文献】特開2005-67903号公報(段落0002)
【文献】特開2019-60110号公報(段落0026~0030、
図1~
図5)
【文献】特許第7216443号公報(段落0015~0030、
図1~
図4)
【文献】特開2001-193361号公報(段落0043、
図2)
【文献】特開2017-14762号公報(段落0040、
図4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特許文献6の下部芯材の下端面全面が製作時に接着剤で被覆されていなければ、下部芯材の全長が接着剤で完全に被覆されたことにはならない。この結果、使用状態では下部芯材の上に位置する端部材の上に溜まった結露水等が下部芯材側へ何らかの理由で浸透した場合に、下部芯材の上端面に錆を発生させる可能性がある。
【0015】
端部材上に結露水等が溜まれば、経年による端部材の復元力(弾性)の低下(劣化)等に起因し、上部芯材の内周面と端部材の外周面との間に僅かな空隙が生じる可能性があり、この空隙を通じて結露水等が毛細管現象により下部芯材の上端面に到達することが想定されるからである。端部材には、上部芯材内への挿入と復元力での挿入状態維持の都合から、弾性を有する発泡材が使用されるが、端部材の復元力が低下すれば、上部芯材との間に空隙が発生し易くなる。
【0016】
特許文献6で言えば、劣化による空隙の形成と毛細管現象は使用状態での下部芯材の上端面と端部材の下面との間にも発生し得るから、下部芯材上端面と端部材下面との間に結露水等が浸入する可能性もある。特許文献10で言えば、使用状態での補強材下端面、または硬化した接着剤下端面と防水性(耐水性)のあるシール材上面との間にも毛細管現象は発生し得、補強材、または接着剤の下端面とシール材との間に結露水等が浸入する可能性がある。
【0017】
特許文献6の場合、使用状態での下部芯材の上端面に錆が発生すれば、錆の領域は下方へ向かって進行する。この発錆の可能性は使用時と上下を逆にして上部芯材内への接着剤の注入と下部芯材の挿入をする場合で、下部芯材の位置決め用に端部材を使用する場合に直面する特有の問題とも言える。
【0018】
本発明は上記背景より、製作時の下部芯材の下端面の全面を接着剤で被覆可能で、下部芯材の全長を接着剤で完全に被覆可能な構造の手摺り支柱用補強材とその製作方法を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
請求項1に記載の発明の手摺り支柱用補強材は、中空断面形状の上部芯材と、この上部芯材の内部に挿入され、前記上部芯材内に挿入されたときに全周面と前記上部芯材の全内周面との間に空隙が形成される中実断面形状の下部芯材とを備え、前記上部芯材と前記下部芯材が一体となった状態で、中空断面形状の支柱の内部に挿入される手摺り支柱用の補強材であり、
前記上部芯材内の、前記下部芯材の使用時の上端面が位置する深さに、流動性を有する液体を吸収可能な吸水性を有する止液材が挿入され、
前記下部芯材は使用状態での上端面が前記止液材に接触する位置まで、前記上部芯材の内部に挿入され、前記上部芯材の内部の前記下部芯材との間に、低粘度の非アルカリ性で、硬化後に耐水性を発揮する充填材が充填され、
前記充填材は前記下部芯材の全周面と前記上部芯材の全内周面との間、及び前記下部芯材の使用状態での下端面下に行き渡らせられていることを構成要件とする。
【0020】
「上部芯材内に挿入されたときに全周面と上部芯材の全内周面との間に空隙が形成される下部芯材」とは、
図6-(b)に示すように下部芯材3が上部芯材2内に挿入されたときに、下部芯材3の周方向の全面(全表面)と上部芯材2の全内周面との間に僅かながらでも空隙が形成され、下部芯材3の各面と、それぞれに対向する上部芯材2の各面とが互いに非接触状態となることを言う。上部芯材2と下部芯材3の断面形状は問われない。
【0021】
「上部芯材内の、下部芯材の使用時の上端面が位置する深さに止液材が挿入され」とは、補強材1を使用状態に置いたときに、下部芯材3の上端面が位置する深さに止液材4が挿入されることを言う。後述のように製作時には上部芯材2と下部芯材3は使用時とは上下反転させた状態で組み合わせられるため(請求項4)、製作時の下部芯材3の下端面が位置すべき位置に止液材4の上端面が配置するように止液材4が挿入され、その位置に留められる。製作時の下部芯材3の下端面は使用時の上端面になる。
【0022】
「下部芯材は上端面が止液材に接触する位置まで上部芯材の内部に挿入され」とは、使用時とは上下逆の製作時に、下部芯材3の下端面が止液材4の上面(上端面)に接触する位置まで下部芯材3が上部芯材2の内部に挿入されることを言う。下部芯材3の上部芯材2内への挿入時には下部芯材3の下端面が止液材4の上面で位置決めされる。このとき、製作時での下部芯材3の上端面は上部芯材2内に注入される接着剤等の充填材5内に下部芯材3の全長が埋設される(埋没する)よう、上部芯材2の上端面より下方に位置する。
【0023】
「流動性を有する液体を吸収可能な吸水性を有する止液材が挿入され」とは、主には接着剤である充填材5が注入時に流動性を有していれば、止液材4自体が僅かでも、充填材5を吸水(吸液)できる性質を有することを言う。ここでの「吸水性」は「吸液性」を意味する。「吸水性を有すること」は止液材4自体(止液材4として使用される材料自体)が僅かでも吸水率を有することである。只、止液材4は吸水性を有するものの、吸水率が高ければ、使用状態で止液材4上に溜まる結露水等を吸収し易いため、吸水率は大きくない方がよい。
【0024】
止液材4が吸水性を有することで、製作時には使用時の止液材4の下面(下端面)が上面になっているため、下部芯材3の下端面の全面が止液材4の上面に完全に密着していたとしても、下部芯材3の外周面と上部芯材2の内周面との間の空隙を通じて充填材5が僅かながらも止液材4の上層に浸透することができる。少なくとも止液材4上面の、製作時の下部芯材3下端面の外周部分(縁部分)とその外周側の上部芯材2内周部分までの領域には充填材5が浸透し得る。
【0025】
この結果、製作時の下部芯材3の下端面下の、止液材4の上面側に止液材4中に浸透した充填材5による充填材層51が形成される。
図3-(b)、(c)に示すように上部芯材2内への下部芯材3の挿入に先行して充填材5を注入すれば、製作時の止液材4の上面側の全面に充填材5を浸透させ易くなる。
【0026】
従って製作時に下部芯材3の下端面が止液材4の上面に密着していながらも、下部芯材3の下端面は充填材層51中に位置するため、下部芯材3の下端面の全面は充填材5に完全に被覆された状態になる。この「充填材層51」は止液材4中に形成されることから、後述の「上部充填材層71」、及び「下部充填材層72」との区別のために、以下、「内部充填材層51」と言う。
【0027】
製作時の下部芯材3の上端面は上記のように上部芯材2の上端面より下方に位置することで、充填材5の注入終了後には充填材5内に埋没するため、製作時の下部芯材3の下端面が内部充填材層51中に位置することと併せ、下部芯材3の下端面から上端面までの全長が完全に充填材5中に位置し、充填材5に被覆されることになる。結果的に、使用状態でも下部芯材3の全長が完全に充填材5に被覆された状態を維持する。
【0028】
「低粘度の充填材」とは、充填材5自体の粘度が、製作時の上部芯材2と下部芯材3との間に形成される空隙に入り込むことができる程度に低いことを言う。粘度の目安としては1Pa・s以下程度であるが、粘度自体の数値は空隙の大きさに依るため、必ずしもこの数値には限られない。充填材5は上部芯材2の内部の下部芯材3との間の空隙への注入時には流動性があり、時間の経過に伴って硬化し、耐水性を発揮する。硬化して耐水性を有することで、下部芯材3の全長を被覆し、前記した結露水等から保護する。「耐水性」は後述する。
【0029】
充填材5が低粘度であることで、上部芯材2と下部芯材3との間の空隙が小さくても充填材5は空隙内に入り込み、下部芯材3の全周面に回り込むことで、流動性を有する間、パスカルの原理から下部芯材3に外周側から均等に液圧を加えるため、下部芯材3は上部芯材2の材軸に直交する断面上、中立位置に配置される。
【0030】
例えば下部芯材3の断面形状が長方形状である場合、短辺方向両側からと長辺方向両側から等しい液圧が作用するため、上部芯材2が下部芯材3を包囲する形状であれば、下部芯材3は断面上の中心が上部芯材2の断面上の中心に合致するように配置される。この結果、充填材5は下部芯材3の周面と上部芯材2の内周面との間、及び使用状態での下部芯材3の下端面下に行き渡らせられる。
【0031】
「使用状態での下部芯材の下端面下に充填材が行き渡る」ことは、製作時に、前記のように下部芯材3の上端面を上部芯材2の上端面より下に位置させながら、充填材5を上部芯材2の上端面付近まで注入することで可能になり、下部芯材3の全長が充填材5中に埋設される。
【0032】
「非アルカリ性で」とは、充填材5がモルタル等のセメント系材料のようなアルカリ性を有しない材料であることを言い、基本的には中性の充填材であり、主にはエポキシ樹脂系の接着剤が適する。前記のように充填材5がアルカリ性であれば、補強材1の構成材、例えば上部芯材2にアルミニウム合金が使用された場合に、水と塩分の存在の下でアルミニウム合金が腐食することがあるため、この現象を発生させるアルカリ性の材料を除外する趣旨である。
【0033】
「硬化後に耐水性を発揮する」とは、充填材5が硬化した後には、水の浸透(含浸)に対する抵抗力を有し、上部芯材2の内部に発生した結露水等が下部芯材3に到達することを阻止する能力を発揮することを言う。「耐水性」は「防水性」とも言い換えられる。硬化した充填材5が耐水性を有することで、上記のように内部充填材層51が使用状態での下部芯材3の上端面を被覆した状態で、下部芯材3への水の浸透を完全に阻止する。エポキシ樹脂系の接着剤は硬化後、耐水性を発揮する。
【0034】
止液材4が復元力を発揮し、外周面が上部芯材2の内周面に密着し続ける限り、上部芯材2内に生じた結露水等は通常、止液材4の上面に溜まる。但し、止液材4の復元力の低下(劣化)に伴い、止液材4の外周面と上部芯材2の内周面との間に僅かな空隙が生じた場合には、空隙を通じ、毛細管現象により使用状態での下部芯材3の上端面に到達することが想定される。その場合でも、硬化後の充填材5(内部充填材層51)が耐水性を有することで、下部芯材3の上端面全面は内部充填材層51に密着(内部充填材層51中に位置)し、水に対して保護されているため、下部芯材3の上端面に錆を発生させることは防止される。
【0035】
詳しく言えば、あるいは極端に言えば、
図1-(b)に示すように製作時に止液材4上に降下する下部芯材3が、弾性を有する止液材4の上面から僅かながら、自重で沈み込んだ状態になる。そのまま、下部芯材3に先行して注入されている、あるいは後から注入される低粘度の充填材5が止液材4の上面側から浸透し得るから、使用状態では内部充填材層51が下部芯材3の上端面上に位置しながら、その縁部分を外周側からも包囲するように形成されるため、下部芯材3の上端面に加え、縁部分が外周側から内部充填材層51に保護された状態になっている。
【0036】
図1-(a)に示すように使用状態での上部芯材2の、止液材4の上面以上の位置に、上部芯材2の内部と外部を連通させる水抜き孔2aが形成されることもある(請求項2)。この場合に、止液材4の上面と水抜き孔2aの最上部以下との間に、製作時の上部芯材2と下部芯材3との間に注入される低粘度の充填材5より粘度の高い(高粘度の)充填材7が充填され、
図4-(a)に示すように止液材4の上に上部充填材層71が形成されていれば(請求項2)、結露水等が止液材4上に溜まった場合の、下部芯材3側への浸入に対する安全性が向上する。「上部芯材2と下部芯材3との間に注入される充填材5」は下部芯材3の全長に亘って注入される充填材5を指す。
【0037】
「止液材の上面以上の位置に水抜き孔が形成」とは、水抜き孔2aの最下部が止液材4の上面以上の位置に形成されることを言い、水抜き孔2aの最下部が止液材4の上面に一致することと、止液材4の上面から上に距離を置いた位置であることを含む。いずれの場合も、上部充填材層71の上面が水抜き孔2aの最下部以上にあれば、上部充填材層71が水抜き孔2aを塞ぐことはなく、上部充填材層71上に結露水等を溜めることもない。
【0038】
上部充填材層71の上面が水抜き孔2aの最下部より下に位置すれば、上部充填材層71上に結露水等を溜めることもあるが、それでも、毛細管現象による場合を含め、上部充填材層71が止液材4への浸透を防止することで、下部芯材3の上端面への結露水等の到達は回避されるため、下部芯材3側への浸入に対する安全性が向上する。
【0039】
なお、水抜き孔2aが形成された場合でも、止液材4上、または上部充填材層71上に溜まった結露水等が水抜き孔2aから完全に排出されるとは限らず、水滴状態では表面張力で止液材4上、または上部充填材層71上に留まることもある。この留まる結露水等が毛細管現象により止液材4の下面側に回り込むことは想定されるため、水抜き孔2aの有無に拘わらず、使用状態で下部芯材3の上端面が内部充填材層51に密着していることには意味がある。
【0040】
また使用状態での止液材4の下面の下に、製作時の上部芯材2と下部芯材3との間に注入される低粘度の充填材5より粘度の高い充填材7が充填されていれば(請求項3)、下部芯材3の長さ(質量)が大きい場合でも、降下する下部芯材3が止液材4に加える衝撃力を低下させることができるため、下部芯材3の位置決めの正確さが増す。
【0041】
下部芯材3は
図3-(b)に示すように下部芯材3の止液材4への接触時の衝撃力を緩和させる目的で、適量の充填材5が注入された後に挿入されるが、充填材5の粘度は低いことから、下部芯材3からの衝撃力が止液材4に直接、伝わり易く、止液材4を降下させる可能性がある。止液材4が降下すれば、下部芯材3が正確に位置決めされなくなる。
【0042】
そこで、
図5-(e)に示すように製作時の上部芯材2と下部芯材3との間に注入される低粘度の充填材5より粘度の高い充填材7を充填材5に先行して充填しておくことで、下部芯材3の降下時に下部芯材3の表面に生じる粘性抵抗力を大きくすることができるため、止液材4に与える衝撃力を低下させることができ、止液材4を降下させる可能性も低下させることが可能になる。止液材4を挿入時の位置に留めることができることで、降下した下部芯材3が正確に位置決めされることになる。充填材7の先行注入後、下部芯材3の降下前に充填材5を注入しておくか、下部芯材3の降下後に注入するかは任意である。
【0043】
図4-(b)は製作時に、低粘度の充填材5の注入前に高粘度の充填材7を注入しておいた場合の例の使用状態を示す。ここでは止液材4側に先行して注入された充填材7からなる下部充填材層72と、その後に注入された充填材5の層が明確に区分されているように描かれているが、両充填材7、5が流動性を有している状態で下部芯材3が降下させられることから、実際には両充填材7、5は混合されるため、下部充填材層72と充填材5の層が明確に区分されるとは限らない。
【0044】
請求項1に記載の手摺り支柱用補強材は、上部芯材2を使用時とは上下反転させた状態で、上部芯材2内の、下部芯材3の使用時の上端面が位置する深さに、吸水性を有する止液材4を挿入する工程と、
上部芯材2の内部に、低粘度の非アルカリ性で、硬化後に耐水性を発揮する充填材5を下部芯材3の上端面が埋没するまで注入すると共に、下部芯材3の下端面を止液材4に接触する位置まで下部芯材3を挿入する工程とを経て製作される(請求項4)。
【0045】
充填材5の注入作業と下部芯材3の挿入作業のいずれを先行させるかは問われず、並行することもある。充填材5の注入の結果、下部芯材2の周面と上部芯材2の内周面との間、及び下部芯材3の使用状態での下端面下に充填材5が行き渡らせられ、下部芯材3の全長が充填材5中に埋没する。
【0046】
請求項2に記載の手摺り支柱用補強材は、上部芯材2内に止液材4を挿入する工程の後、この工程での状態から上下反転させて一旦、使用時の状態にし、上部芯材2の上端面から、下部芯材3の全長に亘って注入される低粘度の充填材5より粘度の高い(高粘度の)充填材7を止液材4の上に注入(充填)することで、使用状態での止液材4の上に上部充填材層71が形成されて製作される。
【0047】
請求項3に記載の手摺り支柱用補強材は、上部芯材2内に止液材4を挿入する工程の後、
図5-(e)に示すように下部芯材3の全長に亘って注入される低粘度の充填材5の注入前に、この低粘度の充填材5より粘度の高い(高粘度の)充填材7を製作時の止液材4の上に注入(充填)することで、
図4-(b)に示すように使用状態での止液材4の下に下部充填材層72が形成されて製作される。
【発明の効果】
【0048】
中空の上部芯材内に挿入される中実の下部芯材の使用時の上端面が位置する深さに、流動性を有する液体を吸収可能な吸水性を有する止液材を挿入するため、製作時に下部芯材の下端面の全面が止液材の上面に完全に密着していたとしても、下部芯材の外周面と上部芯材の内周面との間の空隙を通じ、充填材を僅かながらも、製作時の止液材の上層に浸透させ、内部充填材層を形成することができる。
【0049】
この結果、製作時に下部芯材の下端面は止液材の上面に密着していながらも、下端面を内部充填材層中に位置させることができるため、使用状態での下部芯材の下端面下に充填材を行き渡らせることと併せ、下部芯材の下端面から上端面までの全長を完全に充填材中に埋設し、充填材で被覆することができる。
【0050】
充填材は硬化後に耐水性を発揮することから、上部芯材内に生じた結露水が止液材の上面に溜まり、止液材の劣化と毛細管現象により上部芯材の内周面との間の僅かな空隙を通じて使用状態での下部芯材の上端面に到達することがあっても、内部充填材層に被覆された下部芯材の上端面全面を水から保護することができるため、下部芯材の上端面への錆の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【
図1】(a)は上部芯材と下部芯材を有する手摺り支柱用補強材の完成状態を示した縦断面図、(b)は(a)の下部芯材の上端面部分の拡大図である。
【
図2】(a)は下部芯材を示した立面図、(b)は(a)の端面図、(c)は上部芯材を示した縦断面図、(d)は(c)の端面図、(e)は上部芯材内に下部芯材を挿入した様子を示した縦断面図、(f)は(e)の端面図である。
【
図3】(a)~(d)は上部芯材を使用時とは上下反転させた状態で、上部芯材内に止液材を挿入する作業から下部芯材を挿入し、充填材を充填するまでの作業手順例を示した縦断面図である。
【
図4】(a)は止液材の上面と水抜き孔の最上部以下との間に高粘度充填材による上部充填材層を形成した場合の例を示した縦断面図、(b)は止液材の下面の下に高粘度充填材による下部充填材層を形成した場合の例を示した縦断面図である。
【
図5】(a)~(h)は
図3より詳細な作業手順例を示した縦断面図である。
【
図6】(a)は手摺りの支柱の内部に補強材が挿入され、補強材の下端部が構造物の構造体(躯体)に定着された様子を示した縦断面図、(b)は(a)のx-x線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0052】
図1-(a)は中空断面形状の上部芯材2と、上部芯材2の内部に軸方向に挿入され、上部芯材2内に挿入されたときに全周面と上部芯材2の全内周面との間に空隙が形成される中実断面形状の下部芯材3とを備え、上部芯材2と下部芯材3が一体となった状態で、
図6に示す中空断面形状の支柱6の内部に挿入される手摺り支柱用の補強材1の構成例を示す。
【0053】
図1-(a)は補強材1の使用時の状態(向き)を示している。
図1-(a)中、充填材5中の破線が下部芯材3の外形を示している。上部芯材2と支柱6には主にアルミニウム合金の押出形材が使用され、下部芯材3には主にフラットバー等の鋼材が使用されるが、これには限定されない。
【0054】
上部芯材2内の、下部芯材3の使用時の上端面が位置する深さに、流動性を有する液体を吸収可能な吸水性を有する止液材4が挿入され、下部芯材3は使用状態での上端面が止液材4の下面(下端面)に接触する位置まで上部芯材2の内部に挿入される。製作時、止液材4の上面(上端面)は下部芯材3の下端面が位置すべき深さに配置されるよう、位置決めされた状態で上部芯材2内に挿入される。
【0055】
止液材4が上部芯材2内に挿入された状態で、上部芯材2の内周面と下部芯材3の表面との間に、硬化後に耐水性を発揮する充填材5が流動性を有する状態で充填される。充填材5は
図6-(b)、
図1に示すように下部芯材3の全周面と上部芯材2の全内周面との間、及び下部芯材3の使用状態での下端面下に行き渡らせられる。下部芯材3の全長は充填材5中に埋没する
【0056】
補強材1の製作時には、上部芯材2と下部芯材3は
図2に示すように使用時とは上下反転させた状態で組み合わせられる。この状態で上部芯材2内に下部芯材3が挿入されるが、下部芯材3の挿入に先行して上部芯材2内には止液材4が挿入される。止液材4は下部芯材3の挿入時に下部芯材3の下端面を位置決めする役目を持つため、下部芯材3の挿入時に下部芯材3の質量(重み)で降下しないように、上部芯材2内に挿入された状態を維持する必要がある。
【0057】
この関係で、止液材4は上部芯材2内に上部芯材2の肉厚方向に圧縮された状態で、上部芯材2内に挿入され、基本的に圧縮状態での復元力で挿入状態を維持するため、止液材4は弾性を有する材料で製作される。また止液材4は上記のように吸水性を有する必要があるから、具体的には例えば発泡ポリエチレン、発泡ポリスチレン等の合成樹脂(発泡樹脂)が使用される。只、吸水率が高ければ、止液材4上に注入される後述の高粘度の充填材7が止液材4中に浸透し易くなり、必要な厚さの上部充填材層71が形成されなくなる可能性がある他、使用状態では止液材4上に溜まる結露水等が吸収され易くなるため、吸水率はある程度、低い方がよい。
【0058】
発泡ポリエチレンの吸水率は0.004g/cm3程度で、発泡ポリスチレンの吸水率は0.04g/cm3程度である。止液材4の寸法が幅14mm×長さ35mm×厚さ20mmである場合、止液材4の体積は1.4×3.5×2=9.8cm3であるから、理論上、発泡ポリエチレンには9.8×0.004=0.039gの流動性を有する充填材5が浸透可能である。
【0059】
この場合、止液材4の平面積は1.4×3.5=4.9cm2であるから、注入時の充填材5は止液材4の上面から0.039÷4.9=0.008cm=0.08mmの深さまで浸透可能である。発泡ポリスチレンの吸水率は約10倍であるから、充填材5は0.8mmの深さまで浸透可能である。
【0060】
充填材5の注入時に止液材4の上面から、僅かながら充填材5が浸透した層は内部充填材層51を形成する。補強材1の使用状態では、内部充填材層51は
図1に示すように止液材4の下面側に配置され、下部芯材3の上端面と縁に密着した状態になる。内部充填材層51は下部芯材3の縁部分を含めた上端面側の部分を、上部芯材2内に浸入した雨水や内周面に発生した結露水等が上部芯材2の内周面と、劣化等を生じた止液材4との間から毛細管現象で下部芯材3側へ浸入した場合に、この結露水等から保護する。
【0061】
充填材5は注入時に流動性があり、時間の経過に伴って硬化する低粘度の非アルカリ性(中性)の材料である。充填材5には主にはエポキシ樹脂系接着剤が使用されるが、上部芯材2内に挿入された下部芯材3の全周と上部芯材2の内周面との間に満遍なく注入される程度の低粘度であれば、他の接着剤も使用可能であり、中性で、時間の経過に伴って硬化する性質を持てば、固化材等、接着剤以外の材料も使用可能である。
【0062】
原則として
図1-(a)に示すように上部芯材2の使用状態での止液材4の上面以上の位置に、上記結露水等を排出するための水抜き孔2aが、上部芯材2の内周面と外周面間を貫通して形成される。水抜き孔2aの最下部は基本的には止液材4の上面に揃えられるが、
図4-(a)に示すように使用状態での止液材4の上面上に高粘度の充填材7が硬化した上部充填材層71が形成される場合には、上部充填材層71の上面等に、水抜き孔2aの最下部が揃えられる。水抜き孔2aの形状は任意である。
【0063】
ここで、
図3-(a)~(d)に基づき、
図1、
図2に示す補強材1の製作手順例を説明する。補強材1は
図3-(a)に示すように使用状態とは上下を反転させた状態で製作される。上部芯材2は
図2-(d)、
図6-(b)に示すように中空の箱形等の断面形状をし、下部芯材3は
図2-(b)に示すように上部芯材2の内部に挿通可能な中実の断面形状をする。使用状態での上部芯材2の、止液材4の上面に対応した位置には水抜き孔2aが形成されている。
【0064】
最初に
図3-(a)に示すように製作時の下部芯材3の下端面の位置に、止液材4の上面が位置するように、上部芯材2の内部に止液材4を挿入しておく。このとき、製作時の水抜き孔2aの最上部が止液材4の下面に合致するか、止液材4の下面が水抜き孔2aの最上部の以下になるように下部芯材3が挿入される。
図4-(a)に示すように使用状態での止液材4の上面上に上部充填材層71が形成される場合には、製作時の水抜き孔2aの最上部より上部充填材層71分、上に止液材4の下面が配置される。
【0065】
止液材4を決められた位置に正確に挿入する方法として、例えば水抜き孔2aの形成(穿設)時に上部芯材2の内周面に、止液材4の下面が係止可能なバリを突出させておくか、製作時の上部芯材2の上端面からの、止液材4の挿入深さが分かる挿入棒を使用する方法がある。上部芯材2の複数の板要素(フランジとウェブ)に水抜き孔2aを形成し、バリを突出させておけば、挿入時の止液材4の安定性は高まる。止液材4は前記のように上部芯材2内へは外周側から圧縮され、収縮した状態で挿入されるため、挿入位置が調整された状態では復元力で上部芯材2の内周面に密着した状態を維持し、下部芯材3の挿入時の荷重と衝撃力にも耐える。
【0066】
止液材4の挿入後、
図3-(b)、(c)に示すように上部芯材2内の止液材4上に下部芯材3を挿入すると共に、低粘度の充填材5を注入する。ここで、止液材4上に直接、下部芯材3を挿入し、落とし込むより、止液材4に与える衝撃力が緩和されるよう、(b)に示すように下部芯材3の挿入前に適量の充填材5を注入しておいた後、下部芯材3を挿入することが適切である。適量は注入済みの充填材5中に下部芯材3の半分程度以上、または全長程度が埋没する程度の量である。なお、計算、もしくは試験により予め決められた充填材5の全量を下部芯材3の挿入に先立って注入することもあり、充填材5の注入前に下部芯材3を挿入することもある。
【0067】
図1-(a)に示すように補強材1の使用状態で下部芯材3の全長が充填材5中に埋没した状態になるよう、
図3-(c)に示すように製作時の下部芯材3の上端面は上部芯材2の上端面より下方に位置する。
図3-(b)に示す最初の充填材5の注入時に下部芯材3の全長が埋没しない場合には、下部芯材3の挿入後、(d)に示すように下部芯材3の上端面より上に充填材5を追加で注入し、製作時の下部芯材3の全長を充填材5中に埋没させる。
【0068】
図3-(c)、(d)に示す製作時の状態では、下部芯材3の下端面は止液材4の上端面に接触(密着)し、使用時の下部芯材3の上端面は見かけ上、止液材4の下面に密着したような状態になる。但し、
図1に示すように止液材4の下面側には極薄ながらも、内部充填材層51が形成されているため、使用時の下部芯材3の上端面は内部充填材層51に密着した状態になる。
【0069】
図4-(a)は使用状態での止液材4の上面と水抜き孔2aの最上部以下との間に、上部芯材2と下部芯材3との間に注入される低粘度の充填材5より粘度の高い(高粘度の)充填材7を充填し、止液材4の上に、止液材4の上面を上側から被覆する上部充填材層71を形成した場合の例を示す。この場合の製作手順を
図5に示す。
【0070】
図5-(a)~(h)に基づき、
図4-(a)に示す補強材1の製作手順例を簡単に説明する。
図5-(a)は
図6-(b)に示す上部芯材2本体の製作状態を、
図5-(b)は上部芯材2のいずれかの面(板要素)に水抜き孔2aを形成した様子を示す。水抜き孔2aの形成後、
図5-(c)に示すように上面が使用状態での水抜き孔2aより下に位置するよう、止液材4を上部芯材2のいずれかの端面から挿入し、決められた位置に配置する。
【0071】
ここで
図5-(d)に示すように使用状態での止液材4の上面から水抜き孔2aまでの区間に高粘度の充填材7を注入し、硬化させ、上部充填材層71を形成する。その後、(e)に示すように上部芯材2の上下を反転させ、その状態での止液材4の上面上に低粘度の充填材5、または充填材5より高粘度の充填材7を適量、注入する。その後は
図3の手順と同様に、(f)に示すように上部芯材2内の止液材4上に下部芯材3を挿入する。このときの高粘度の充填材7は硬化して、または低粘度の充填材5と混合されながら硬化して
図4-(b)に示す下部充填材層72を形成する。
【0072】
その後、(g)に示すように低粘度の充填材5を追加注入し、下部芯材3を充填材5中に埋没させ、そのまま、充填材5を硬化させることで、(h)に示すように
図4-(a)に示す補強材1の製作が完了する。
【0073】
図6は手摺り(笠木)10を支持する支柱6の内部に補強材1を挿入した使用状態を示す。ここに示す例では補強材1の下端部の区間が鉄筋コンクリート造のスラブ等の構造体(躯体)8中に埋設され、定着された状態を示している。
【0074】
支柱6の上端には手摺り10の下端が載置され、必要により接続される。支柱6の下端は構造体8の表面か、構造体8から露出した補強材1の表面と構造体8の表面を被覆する保護キャップ12等に突き当たっている。
【0075】
支柱6は
図6-(a)に示すように支柱6と補強材1の上部芯材2を貫通するねじ11等により補強材1に接続されることで一体性を確保する。手摺り10が受ける鉛直荷重の一部は手摺り10が載置される支柱6を通じて補強材1に伝達され、補強材1の下端部を通じて構造体8に伝達される。鉛直荷重の他の一部は支柱6を通じ、支柱6の下端が接触する構造体8に伝達される。
【0076】
図6に示す例では、特に手摺り10の屋外側の下に支柱6と共に手摺り10を支持する補助支柱9を設置し、支柱6の屋外側に配列させ、(b)に示すように補助支柱9を支柱6に接続することで、手摺り10が構造体8の構面外方向に、または下方へ傾斜しないようにしている。この例では手摺り10を構造体8の構面外方向に並列する支柱6と補助支柱9とに分担させて支持させていることから、補助支柱9の下端部を支柱6に接続(接合)しているが、補助支柱9を使用せずに、手摺り10を支柱6にのみ、支持させることもある。
【0077】
図6の例では(b)に示すように補助支柱9を、支柱6の屋外側が直接、接続される支柱構成材91と、互いに接続された支柱6と支柱構成材91の接続部分を覆うカバー材92の2部材から構成している。ここでは支柱構成材91とカバー材92のそれぞれに形成された凹部91bと凸部92aを互いに嵌合させて補助支柱9を構成しているが、組み合わせ方は任意である。
【0078】
図6ではまた、支柱6の屋外側に突設した嵌合部6aを支柱構成材91の屋内側に形成された被嵌合部91aに嵌合させることで、支柱6と支柱構成材91を接続しているが、この接続方法も任意である。
【0079】
図4-(b)は使用状態での止液材4の下面の下に、上部芯材2と下部芯材3との間に注入される低粘度の充填材5より粘度の高い充填材7を充填した場合の例を示す。この例でも、
図1に示す製作例と同様、製作時の下部芯材3の下端面は止液材4の上面に接触(密着)し、使用時の下部芯材3の上端面は止液材4の下面に密着した状態になる。また止液材4の下面側には
図1、
図4-(a)の例と同じく、内部充填材層51が形成されているため、使用時の下部芯材3の上端面は内部充填材層51に密着した状態になる。
【0080】
図1、
図4-(a)の例では製作時に、基本的に
図3に示すように止液材4の上面上に低粘度の充填材5を注入した後に、下部芯材3を降下させることから、下部芯材3の長さ(寸法)、または質量次第では降下時の下部芯材3の衝撃力で止液材4を本来の位置から降下させる可能性があり、下部芯材3の正確な位置決めがされず、本来の位置より下方に挿入される可能性がある。
【0081】
それに対し、
図4-(b)の例では製作時、低粘度の充填材5に先行し、止液材4の上面上に高粘度の充填材7を充填することで、下部芯材3を降下させるときに、下部芯材3の表面に作用する粘性抵抗力を大きくすることができる。この結果、下部芯材3が降下し、止液材4の上面に接触したときの衝撃力を緩和させ、止液材4を降下させる可能性を低下させることができる。高粘度の充填材7は製作時に止液材4の上方で硬化し、下部充填材層72を形成する。
【0082】
このことから、製作時の止液材4の上に形成される下部充填材層72の厚さ(長さ)は大きい程、止液材4を降下させる可能性は低下するため、下部芯材3の位置決めの正確さが増すことになる。下部芯材3の降下速度次第では、高粘度の充填材7は低粘度の充填材5とは分離したまま硬化することもあるが、下部芯材3の降下時には充填材7と少なくとも充填材5の下層寄りの一部は混合する可能性もある。
図4-(b)では便宜的に充填材7と充填材5とが分離したまま硬化した場合を想定し、下部充填材層72と充填材5との間に明確な境界線があるように示されているが、この境界線は実際には表れないこともある。
【符号の説明】
【0083】
1……補強材、
2……上部芯材、2a……水抜き孔、
3……下部芯材、
4……止液材、
5……(低粘度の)充填材、51……内部充填材層、
6……支柱、6a……嵌合部、
7……(高粘度の)充填材、71……上部充填材層、72……下部充填材層、
8……構造体、
9……補助支柱、91……支柱構成材、91a……被嵌合部、91b……凹部、92……カバー材、92a……凸部、
10……手摺り、
11……ねじ、
12……保護キャップ。
【要約】
【課題】手摺りの支柱を補強する目的で使用される補強材に、主に水と酸素による発錆の防止効果を持たせる。
【解決手段】中空断面形状の上部芯材2と、上部芯材2の内部に挿入され、上部芯材2の全内周面との間に空隙が形成される中実断面形状の下部芯材3とを備え、中空断面形状の支柱6の内部に挿入される支柱用補強材において、上部芯材2内の、下部芯材3の使用時の上端面が位置する深さに水性を有する止液材4を挿入し、使用状態での上端面が止液材4に接触する位置まで下部芯材3を上部芯材2内に挿入し、上部芯材2内の下部芯材3との間に、低粘度の非アルカリ性で、硬化後に耐水性を発揮する充填材5を充填する。
【選択図】
図1