(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-27
(45)【発行日】2023-11-07
(54)【発明の名称】心不全非ヒト霊長類モデル動物の製造方法
(51)【国際特許分類】
A01K 67/027 20060101AFI20231030BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20231030BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20231030BHJP
【FI】
A01K67/027
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
(21)【出願番号】P 2019125286
(22)【出願日】2019-07-04
【審査請求日】2022-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】504177284
【氏名又は名称】国立大学法人滋賀医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】扇田 久和
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 朗
【審査官】藤山 純
(56)【参考文献】
【文献】HERMAN, E. H. et al.,Animal models of anthracycline cardiotoxicity:Basic mechanisms and cardioprotective activity,Progress in Pediatric Cardiology,8(2),1998年,pp.49-58,ISSN.1058-9813
【文献】SIEBER, S. M. et al.,Cardiotoxic and possible leukemogenic effects of adriamycin in nonhuman primates,Pharmacology,20(1),1980年,pp.9-14
【文献】TAKAYAMA, S, et al.,Chemical carcinogenesis studies in nonhuman primates,Proceedings of the Japan Academy. Series B, Physical and biological sciences,84(6),2008年,pp.176-188
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 67/027
G01N 33/50
G01N 33/15
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非ヒト霊長類に対し、アントラサイクリン系抗腫瘍剤を
一日当たりの投与量が0.1~2.0 mg/kg体重であって、総投与量が400~1000 mg/m
2体表面積となるように段階的に増量しながら投与する工程を含む、心不全非ヒト霊長類モデル動物の製造方法。
【請求項2】
前記アントラサイクリン系抗腫瘍剤が、ドキソルビシン又はその薬理学的に許容される塩である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
アントラサイクリン系抗腫瘍剤の一日当たりの投与量の1段階目が0.6~1.0 mg/kg体重であり、2段階目が1.1~1.5 mg/kg体重である、請求項1
又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記非ヒト霊長類が、オナガザル科マカク属に属するものである、請求項1~
3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか一項に記載の製造方法により製造された心不全非ヒト霊長類モデル動物に被験物質を投与する工程を含む、心不全の治療又は予防活性を有する物質の評価方法。
【請求項6】
非ヒト霊長類に対し、アントラサイクリン系抗腫瘍剤を
一日当たりの投与量が0.1~2.0 mg/kg体重であって、総投与量が400~1000 mg/m
2体表面積となるように段階的に増量しながら投与することにより製造された、心不全非ヒト霊長類モデル動物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心不全非ヒト霊長類モデル動物及びその製造方法、並びに心不全の治療又は予防活性を有する物質の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢化社会の進展に伴い、日本での心不全患者は急速に増加している(2013年から2016年で17%の増加)。しかも、心不全の5年生存率は約50%と予後不良の病態である。心不全の原因には、i)動脈硬化による心筋虚血や高血圧など生活習慣病が悪化したもの、ii)拡張型心筋症などの心筋そのものの異常によるもの、iii)がん治療薬(例えば、ドキソルビシン)などの薬剤による心筋障害、などがある。いずれの原因においても、心機能が低下した状態を改善させるのは現時点では極めて困難で、心不全の治療としては心機能増悪を阻止することが中心である。
【0003】
最近、iPS細胞から作製した心筋シートを用いた治療法や、新たな心不全治療薬候補が見出されているが、その効果及び安全性についても不明な点も多い。その理由として、これらの治療法を適切に評価するモデル動物が不足していることも挙げられる。
【0004】
マウスに対してドキソルビシンを投与して心筋症及び心不全を誘発させた報告は存在する(非特許文献1)。
【0005】
また、特許文献1では、麻酔された実験用小動物の静脈内に水溶性のカルシウム塩水溶液を注入し、この静脈内への水溶性のカルシウム塩水溶液の注入を継続しながら、カテコールアミン水溶液を静脈内に注入して、動物の心臓の左室拡張末期圧を正常左室拡張末期圧以上に上昇させることを特徴とする左室拡張障害を起こした心不全治療薬の検査用動物モデルの製造方法が報告されている。そして、実施例で使用されている小動物はラットのみである。
【0006】
特許文献2では、非ヒト動物にアンジオテンシンII又はその薬理学的に許容し得る塩を投与する工程を含み、前記工程における飲水が食塩水であることを特徴とする拡張期心不全非ヒトモデル動物の製造方法が報告されている。そして、実施例で使用されている動物はラットのみである。
【0007】
特許文献3では、小動物に対し、輸液と、アドレナリンα1受容体刺激薬と、アンジオテンシンIIとを投与することにより急性心不全モデルが得られることが報告されている。そして、実施例で使用されている小動物はウサギのみである。
【0008】
しかしながら、マウスなどのげっ歯類を含む小動物では心拍数などの血行動態はヒトと大きく異なっている。そのため、これらの動物モデルをそのまま心不全治療開発の動物モデルとして使用していくには無理がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第2005/104833号
【文献】特開2013-255488号公報
【文献】特開2014-180234号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】Nat. Med., vol.18, no.11, 1639-1642(2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、ヒトにより近い動物である霊長類を使用した心不全非ヒト霊長類モデル動物及びその製造方法を提供することを目的とする。さらに、本発明は、当該心不全非ヒト霊長類モデル動物を用いた心不全の治療又は予防活性を有する物質の評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、非ヒト霊長類での心不全モデル動物を作製するために鋭意研究を重ねた結果、アントラサイクリン系抗腫瘍剤であるドキソルビシンの一回の投与量を調節(最初2 mg静注→3 mg→4 mgと順次増量)して投与することで安定的に心不全を発症するカニクイザルの動物モデルを作製することができるという知見を得た。
【0013】
本発明は、これら知見に基づき、更に検討を重ねて完成されたものであり、次の心不全非ヒト霊長類モデル動物の製造方法、心不全の治療又は予防活性を有する物質の評価方法などを提供するものである。
【0014】
項1.非ヒト霊長類に対し、アントラサイクリン系抗腫瘍剤を総投与量が400~1000 mg/m2体表面積となるように段階的に増量しながら投与する工程を含む、心不全非ヒト霊長類モデル動物の製造方法。
項2.前記アントラサイクリン系抗腫瘍剤が、ドキソルビシン又はその薬理学的に許容される塩である、項1に記載の製造方法。
項3.アントラサイクリン系抗腫瘍剤の一日当たりの投与量が、0.1~2.0 mg/kg体重である、項1又は2に記載の製造方法。
項4.アントラサイクリン系抗腫瘍剤の一日当たりの投与量の1段階目が0.6~1.0 mg/kg体重であり、2段階目が1.1~1.5 mg/kg体重である、項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
項5.前記非ヒト霊長類が、オナガザル科マカク属に属するものである、項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
項6.項1~5のいずれか一項に記載の製造方法により製造された心不全非ヒト霊長類モデル動物に被験物質を投与する工程を含む、心不全の治療又は予防活性を有する物質の評価方法。
項7.非ヒト霊長類に対し、アントラサイクリン系抗腫瘍剤を総投与量が400~1000 mg/m2体表面積となるように段階的に増量しながら投与することにより製造された、心不全非ヒト霊長類モデル動物。
【発明の効果】
【0015】
本発明の製造方法によれば、安定的に心不全を発症する非ヒト霊長類のモデル動物を作製することができる。そのため、本発明の製造方法で製造した非ヒト霊長類のモデル動物を用いることで、新規の心不全治療法の有効性、安全性について適切に評価することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施例1~3のカニクイザルの投与後日数における左室駆出率(%)を示すグラフ(上)、及び投与回数における1回投与量を示すグラフ(下)である。
【
図3】実施例1の組織学的解析の結果(ヘマトキシリン-エオジン(H-E)染色)を示す写真である。矢印:心筋繊維化、矢頭:心筋細胞の空胞変性
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0018】
なお、本明細書において「含む(comprise)」とは、「本質的にからなる(essentially consist of)」という意味と、「のみからなる(consist of)」という意味をも包含する。
【0019】
本発明の心不全非ヒト霊長類モデル動物の製造方法は、非ヒト霊長類に対し、アントラサイクリン系抗腫瘍剤を総投与量が400~1000 mg/m2体表面積となるように段階的に増量しながら投与する工程を含むことを特徴とする。
【0020】
非ヒト霊長類としては、特に限定されず、例えば、カニクイザル、アカゲザル、ニホンザル、コモンマーモセット、リスザルなどが挙げられる。中でも好ましくはオナガザル科マカク属(Cercopithecidae Macaca)に属する動物であり、特にカニクイザルが好ましい。このような非ヒト霊長類は、市販品を購入して使用することができる。また、非ヒト霊長類は、例えば、非病態モデル動物及び病態モデル動物のいずれであっても使用でき、好ましくは非病態モデル動物である。非ヒト霊長類の飼育環境は、心不全を発症した非ヒト霊長類モデル動物を得ることができる限り特に制限されず、適宜設定することができる。
【0021】
アントラサイクリン系抗腫瘍剤としては、特に限定されず、例えば、ドキソルビシン、ダウノルビシン、ミトキサントロン、エピルビシンなどが挙げられ、中でも、ドキソルビシン及びダウノルビシンが好ましく、ドキソルビシンがより好ましい。
【0022】
アントラサイクリン系抗腫瘍剤には、アントラサイクリン系抗腫瘍剤の塩、水和物、溶媒和、結晶多形なども包含される。
【0023】
アントラサイクリン系抗腫瘍剤の塩としては、特に限定されず、例えば、ナトリウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、アルミニウム塩等の無機塩基との塩;メチルアミン、エチルアミン、エタノールアミン等の有機塩基との塩;リジン、オルニチン、アルギニン等の塩基性アミノ酸との塩及びアンモニウム塩が挙げられる。当該塩は、酸付加塩であってもよく、かかる塩としては、具体的には、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等の鉱酸;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、リンゴ酸、酒石酸、フマル酸、コハク酸、乳酸、マレイン酸、クエン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸等の有機酸;アスパラギン酸、グルタミン酸等の酸性アミノ酸との酸付加塩が挙げられる。
【0024】
アントラサイクリン系抗腫瘍剤は、入手可能な市販品を使用することができる。
【0025】
アントラサイクリン系抗腫瘍剤の投与経路は、特に限定されず、適宜選択でき、例えば、動脈内投与、静脈内投与、皮下投与、腹腔内投与、筋肉内投与、経直腸投与、経口投与などが挙げられる。中でも好ましくは静脈内投与である。
【0026】
アントラサイクリン系抗腫瘍剤の投与方法は、特に制限されず、当業者に公知の方法により行うことができる。
【0027】
アントラサイクリン系抗腫瘍剤の剤型の種類としては、経口剤として錠剤、丸剤、散剤、粉末剤、顆粒剤、細粒剤、軟又は硬カプセル剤、フィルムコーティング剤、舌下剤、ペレット剤、ペースト剤などが、非経口剤として注射剤、坐剤などが挙げられ、投与経路等に応じて最適な剤型を選択することができる。
【0028】
アントラサイクリン系抗腫瘍剤を総投与量は400~1000 mg/m2体表面積(100~250 mg)であり、好ましくは450~1000 mg/m2体表面積(113~250 mg)であり、より好ましくは500~1000 mg/m2体表面積(125~250 mg)である。アントラサイクリン系抗腫瘍剤の総投与量がこの範囲となることで、心不全を発症した非ヒト霊長類モデル動物を得ることができるようになる。
【0029】
アントラサイクリン系抗腫瘍剤の一日当たりの投与量は、特に限定されず、好ましくは0.1~2.0 mg/kg体重(0.33~6.67 mg)、より好ましくは0.4~1.5 mg/kg体重(1.33~5 mg)、更に好ましくは0.6~1.2 mg/kg体重(2~4 mg)である。安定的に心不全を発症した非ヒト霊長類モデル動物を得ることができるようになるため、アントラサイクリン系抗腫瘍剤は、この範囲の投与量の中で段階的に増量しながら投与されることが望ましい。
【0030】
アントラサイクリン系抗腫瘍剤を段階的に増量しながら投与する際、投与量の段階としては、例えば、2段階、3段階、4段階、5段階、6段階などが挙げられる。中でも2段階及び3段階が好ましい。このようなアントラサイクリン系抗腫瘍剤の増量は、例えば、全身状態、心機能などを確認して決定することができる。
【0031】
2段階でアントラサイクリン系抗腫瘍剤を増量する場合、アントラサイクリン系抗腫瘍剤の一日当たりの投与量の1段階目が0.6~1.0 mg/kg体重(2~3.33 mg)であり、2段階目が1.1~1.5 mg/kg体重(3.67~5 mg)であることが好ましく、1段階目が0.8~1.0 mg/kg体重(2.67~3.33 mg)であり、2段階目が1.1~1.3 mg/kg体重(3.67~4.33 mg)であることがより好ましい。
【0032】
3段階でアントラサイクリン系抗腫瘍剤を増量する場合、アントラサイクリン系抗腫瘍剤の一日当たりの投与量の1段階目が0.4~0.7 mg/kg体重(1.33~2.33 mg)であり、2段階目が0.8~1.0 mg/kg体重(2.67~3.33 mg)であり、3段階目が1.1~1.5 mg/kg体重(3.67~5 mg)であることが好ましく、1段階目が0.5~0.7 mg/kg体重(1.67~2.33 mg)であり、2段階目が0.8~1.0 mg/kg体重(2.67~3.33 mg)であり、3段階目が1.1~1.3 mg/kg体重(3.67~4.33 mg)であることがより好ましい。
【0033】
このようにアントラサイクリン系抗腫瘍剤の投与について、最初、低い投与量から始め、段階的に投与量を増加させていくことで、安定的に心不全を発症した非ヒト霊長類モデル動物を得ることができるようになる。
【0034】
アントラサイクリン系抗腫瘍剤の投与間隔は、特に限定されず、例えば、持続的に投与する方法、間隔を開けて投与する方法が挙げられる。中でも、間隔を開けて投与する方法が好ましい。例えば、アントラサイクリン系抗腫瘍剤を1日一回2~5日間投与し、7~15日間休薬を反復施行することが挙げられる。
【0035】
アントラサイクリン系抗腫瘍剤の投与期間は、心不全を発症した非ヒト霊長類モデル動物を得ることができる期間であれば特に制限されず、適宜設定することができ、例えば、4~10ヶ月間である。
【0036】
アントラサイクリン系抗腫瘍剤の投与により、非ヒト霊長類が心不全を発症したことを確認する方法としては、特に限定されず、公知の方法を採用することができ、例えば、心臓超音波法、X線撮影法、磁気共鳴断層撮影法(MRI)などが挙げられる。
【0037】
さらに、本発明の心不全の治療又は予防活性を有する物質の評価方法は、上記の製造方法により製造された心不全非ヒト霊長類モデル動物に被験物質を投与する工程を含むことを特徴とする。
【0038】
被験物質としては、特に制限なく使用することができるが、例えば、低分子化合物、高分子化合物、ペプチド、タンパク質(抗体、抗体断片、アンタゴニスト、アゴニストなどのタンパク質系薬剤など)、核酸、多糖類、脂質、細胞(例えば、心筋シートなど)等が挙げられ、このような化合物を含む種々の化合物ライブラリーを使用することができる。
【0039】
被験物質の投与量、投与経路、投与期間は、特に制限はなく、被験物質やモデル動物の種類などにより適宜選択することができる。
【0040】
本発明の心不全の治療又は予防活性を有する物質の評価方法は、上記被験物質の投与により心不全が改善されたか否かを評価する工程を更に含み得る。
【0041】
当該評価工程において、被験物質の投与により心不全が改善されたか否かを評価する方法としては、特に制限はなく、例えば、被験物質の投与前又は被験物質を投与していない対照と比べて心不全の症状の程度が低減又は緩和していた場合、投与した被験物質は心不全の治療又は予防活性を有すると評価することができる。心不全の症状の程度の低減又は緩和の確認は、上記の心不全を発症したことを確認する方法と同様に行うことができる。
【0042】
本発明の心不全の治療又は予防活性を有する物質の評価方法を利用することで、化合物ライブラリーから、心不全の治療又は予防に有効な化合物のスクリーニングを行うことが可能となる。
【0043】
本発明の製造方法によれば、安定的に心不全を発症する霊長類のモデル動物を作製することができる。そのため、本発明の製造方法で製造した霊長類のモデル動物を用いることで、新規の心不全治療法の有効性、安全性について適切に評価することが可能となる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を更に詳しく説明するため実施例を挙げる。しかし、本発明はこれら実施例等になんら限定されるものではない。
【0045】
試験例
3匹のカニクイザルに対して、0.6~1.2 mg/kg体重でドキソルビシン(LC Laboratories社:D-4000)を1日1回3日間静脈投与し、11日間休薬を反復施行した(実施例1~3)。具体的には、2 mg (0.6 mg/kg体重)静注を3日間連続して行い、11日間休薬(1クール14日間)で開始し、その後、全身状態や心臓超音波装置(HITACHI社:ARIETTA60、L441プローブを使用)で心機能を観察しながら、ドキソルビシン1回投与量を2 mg (0.6 mg/kg体重)→3 mg (0.9 mg/kg体重)→4 mg (1.2 mg/kg体重)へと増量した。実施例1~3の投薬は
図1下に示されるように行われた。心臓超音波法での左室駆出率(%)は、下記の式で求められた。
【0046】
(左室拡張末期容積-左室収縮末期容積)/左室拡張末期容積×100(%)
ここで左室拡張末期容積(Vd)又は左室収縮末期容積(Vs)は、心臓超音波装置で測定される左室拡張末期径(Dd)又は左室収縮末期径(Ds)をそれぞれ用いて、Teichholz法により下記の計算式で求められた。
Vd = {7.0/(2.4+Dd)}×Dd3
Vs = {7.0/(2.4+Ds)}×Ds3
これらの計算は心臓超音波装置に搭載されているコンピュータにより自動的に行われた。
【0047】
また、血液検査は1回の検査に100μLの血清を用いて、動物用臨床化学分析装置ベトスキャン(ABAXIS社:VS2)にマルチローターII又はIII (ABAXIS社)を装着して測定された。
【0048】
剖検では、死亡したサルの胸骨を正中切開して開胸した。開胸後、胸腔内臓器を一塊として摘出しそこから大動脈、肺動脈、大静脈、肺静脈を切離することで心臓を分離した。心臓の一部を切除したものを10%中性緩衝ホルマリン水溶液中に24時間浸して組織固定した。この固定試料を密閉式自動包埋装置(サクラ精機社:Tissue-Tec VIP-6)を用いてパラフィン包埋した。ミクロトーム(ライカ社:SM2010R)によりパラフィン包埋試料から厚さ4μmの切片を作製した。この切片にH-E染色を行い、光学顕微鏡で観察した。
【0049】
結果を
図1~3及び表1~2に示す。総投与量110~160 mg (440~640 mg/m
2体表面積)で、心エコー上著明な心機能低下を認め、心不全状態となり死亡(安楽死を含む)した(
図1上)。剖検時の観察では、左室拡大を認めた(
図2)。組織学的解析では、心筋の繊維化、心筋細胞の空胞変性を認め、これらが心機能低下に寄与したと推定される(
図3)。
【0050】
また、血液データ上は死亡直前まで肝機能、腎機能ともにほぼ正常であり(表1及び2)、心臓以外の臓器不全により2次的に心機能低下を来したのではなく、ドキソルビシンによる心機能低下及び心不全が生じたと考えられた。
【0051】
【0052】
【0053】
上記の結果から、投与量を調節(最初2 mg静注→3 mg→4 mgと順次増量)することで安定的に心不全を発症するカニクイザルの動物モデルを開発することができることが分かった。