(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-27
(45)【発行日】2023-11-07
(54)【発明の名称】工作機械の制振装置
(51)【国際特許分類】
B23Q 11/00 20060101AFI20231030BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20231030BHJP
F16F 7/08 20060101ALI20231030BHJP
B23C 9/00 20060101ALN20231030BHJP
【FI】
B23Q11/00 A
F16F15/02 S
F16F7/08
B23C9/00 Z
(21)【出願番号】P 2019186829
(22)【出願日】2019-10-10
【審査請求日】2022-09-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000117618
【氏名又は名称】安田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118728
【氏名又は名称】中野 圭二
(74)【代理人】
【識別番号】100114638
【氏名又は名称】中野 寛也
(72)【発明者】
【氏名】近藤 凌司
【審査官】中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-094384(JP,A)
【文献】特開昭50-058684(JP,A)
【文献】特開2020-011371(JP,A)
【文献】特開2017-061010(JP,A)
【文献】特開2017-040287(JP,A)
【文献】特開2014-184548(JP,A)
【文献】特開2014-091211(JP,A)
【文献】特開2012-143819(JP,A)
【文献】特開2011-214677(JP,A)
【文献】特開2009-119573(JP,A)
【文献】特開平07-314283(JP,A)
【文献】特開昭50-002278(JP,A)
【文献】実開平04-136647(JP,U)
【文献】実開昭50-122086(JP,U)
【文献】国際公開第2018/110681(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 1/00-25/06
B23C 1/00-9/00
B23Q 1/00-1/76
B23Q 11/00-13/00
F16F 7/00-7/14
F16F 15/00-15/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主軸を回転自在に支持すると共に該主軸を鉛直方向に駆動する主軸ヘッドを有する立形の工作機械において、
前記主軸ヘッドに固定された金属製の載置板と、
該載置板の上面に、
滑り摩擦を生じ得るように、鉛直方向に積層された複数の
所定の厚さを有する金属製板材と、
を備えた工作機械の制振装置。
【請求項2】
前記載置板は、前記主軸ヘッドに前記複数の金属製板材の厚さより筒長の長いスペーサを介して固定された請求項1に記載の工作機械の制振装置。
【請求項3】
前記複数の金属製板材は、前記主軸又は前記主軸ヘッド及び前記スペーサと水平方向に間隙を有して積層された請求項2に記載の工作機械の制振装置。
【請求項4】
前記載置板の上面に、2.2~5.0mmの厚さの鋼板4~8枚を鉛直方向に積層した請求項1乃至3の何れか一項に記載の工作機械の制振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主軸ヘッドの振動を抑制して加工面品位を向上することができる工作機械の制振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、切削加工品の手仕上げ作業削減のために、加工面品位を向上させた様々な工作機械が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、工具を装着した工具ホルダを主軸に自動着脱する着脱機構を備えた工作機械において、主軸の回転軸に対する工具の振れを自動的に修正して工具の高精度な取り付けを可能にする工作機械及び工具の振れ修正方法が開示されている。特許文献1に記載の工作機械は、主軸の回転時に、主軸の回転軸に対する主軸、工具ホルダ及び工具で構成される回転系の振れを測定する振れセンサと、工具ホルダを主軸に対して異なる位相で装着する位相制御機構と、を有し、位相制御機構が、二以上の異なる位相において測定した回転系の振れを比較し、該振れが最小となる位相で工具ホルダを主軸に装着する振れ修正機構を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、工作機械の加工精度が向上すると、機体に生じる僅かな振動も加工面品位に影響を及ぼすという課題が残った。この加工面品位を低下させる振動問題として、発明者らは、主軸を取付けている主軸ヘッドの固有振動に着目した。
【0006】
本工作機械は、主軸ヘッドの構造として、Z軸のストロークを長く取りながらガイド長を短くするために、Z軸ガイドの支持部より主軸ヘッド及び主軸が突き出した構造にしている。この主軸ヘッドの構造により、部品の小型化と移動体の軽量化に繋がり、工作機械の制御性を向上させることができる。
【0007】
しかし、本工作機械は、Z軸ガイドの支持部より主軸ヘッド及び主軸が突き出した構造が原因で、主軸ヘッドには特定の周波数で共振する振動モードが存在する。この主軸ヘッドの固有振動は、主軸の回転周波数と一致した場合に共振する他、固有振動と一致する外乱が入ったときも振動する。また、主軸ヘッドの固有振動は、主軸ベアリング保持器の回転周波数と一致した場合も共振する。この主軸ヘッドの固有振動は、加工面品位を低下させる要因の一つになっている。
【0008】
そこで、本発明は、Z軸ガイドの支持部より主軸ヘッド及び主軸が突き出した構造を維持しつつ、主軸ヘッドの固有振動を抑制して加工面品位を更に向上することができる工作機械の制振装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために、主軸を回転自在に支持すると共に該主軸を鉛直方向に駆動する主軸ヘッドを有する立形の工作機械において、前記主軸ヘッドに固定された金属製の載置板と、該載置板の上面に、鉛直方向に積層された複数の金属製板材と、を備えた工作機械の制振装置を提供するものである。
【0010】
また、本発明は、前記載置板が、前記主軸ヘッドに前記複数の金属製板材の厚さより筒長の長いスペーサを介して固定されたものである。
【0011】
また、本発明は、前記複数の金属製板材が、前記主軸又は前記主軸ヘッド及び前記スペーサと水平方向に間隙を有して積層されたものである。
【0012】
また、本発明は、前記載置板の上面に、2.2~5.0mmの厚さの鋼板4~8枚を鉛直方向に積層したものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の工作機械の制振装置は、主軸を回転自在に支持すると共に該主軸を鉛直方向に駆動する主軸ヘッドを有する立形の工作機械において、前記主軸ヘッドに固定された金属製の載置板と、該載置板の上面に、鉛直方向に積層された複数の金属製板材と、を備えた構成を有することにより、主軸ヘッドが特定の周波数で共振する振動を、金属製板材と載置板の間の滑り摩擦、隣り合う金属製板材の間の滑り摩擦で減衰させ、主軸ヘッドの固有振動を抑制することができる効果がある。
【0014】
また、本発明の工作機械の制振装置は、前記載置板が、前記主軸ヘッドに前記複数の金属製板材の厚さより筒長の長いスペーサを介して固定されたことにより、金属製板材が主軸ヘッド及び載置板に固定されないから、金属製板材と載置板の間と、隣り合う金属製板材の間に滑り摩擦を生じさせ、主軸ヘッドが特定の周波数で共振する振動を減衰させることができる効果がある。
【0015】
また、本発明の工作機械の制振装置は、前記複数の金属製板材が、前記主軸又は前記主軸ヘッド及び前記スペーサと水平方向に間隙を有して積層されたことにより、金属製板材が主軸ヘッド及び主軸カバーに対して固定されないから、金属製板材と載置板の間と、隣り合う金属製板材の間に滑り摩擦を生じさせ、主軸ヘッドが特定の周波数で共振する振動を減衰させることができる効果がある。
【0016】
また、本発明の工作機械の制振装置は、前記載置板の上面に、2.2~5.0mmの厚さの鋼板4~8枚を鉛直方向に積層したことにより、主軸ヘッドが特定の周波数で共振する振動を、金属製板材と載置板の間の滑り摩擦だけでなく、隣り合う金属製板材の間の滑り摩擦で確実に減衰させ、主軸ヘッドの固有振動を抑制することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係る工作機械の制振装置の一実施例を示す部分断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施の形態を図示する実施例に基づいて説明する。
本発明の制振装置3は、主軸を回転自在に支持すると共に該主軸を鉛直方向に駆動する主軸ヘッド10を有する立形の工作機械において、主軸ヘッド10に固定された金属製の載置板30と、該載置板30の上面に、鉛直方向に積層された複数の金属製板材31と、を備えている。
【0019】
本発明の制振装置3は、複数の金属製板材31が載置板30の上面に固定されることなく積層されているから、主軸ヘッド10が特定の周波数で共振すると、金属製板材31と載置板30の間、隣り合う金属製板材31の間にそれぞれ相対運動が生じる。本発明の制振装置3は、主軸ヘッド10が特定の周波数で共振する振動を、金属製板材31と載置板30の間、隣り合う金属製板材31の間の滑り摩擦で吸収し、主軸ヘッド10の固有振動を抑制する。
【0020】
本発明の制振装置3は、主軸ヘッド10に固定された載置板30の上面に、金属製板材31を複数枚、好ましくは4~8枚積層することによって、金属製板材31と載置板30の間の滑り摩擦だけでなく、隣り合う金属製板材31の間の滑り摩擦で振動エネルギーを確実に吸収し、主軸ヘッド10の固有振動を抑制することができる。
【実施例1】
【0021】
図1は、本発明に係る工作機械の制振装置の一実施例を示す部分断面図である。
図2は、その一実施例の要部を示す拡大断面図である。
図3は、本発明による対策前後の主軸の動特性の比較を示す図である。
【0022】
本発明の工作機械は、例えば、主軸ユニット1を支えるコラムを有する3軸又は5軸駆動の立形マシニングセンタである。主軸ユニット1は、駆動装置によってX軸方向に駆動されると共に、主軸をZ軸方向(鉛直方向)に駆動し、主軸は工具2を装着して回転させる。主軸は、ボールベアリングなどの軸受(図示しない)で主軸ヘッド10に回転自在に支持されている。また、主軸ユニット1は、図示しないZ軸ガイドの支持部より主軸ヘッド10及び主軸が突き出した構造となっている。
【0023】
図1及び
図2に示すように、載置板30は、主軸ヘッド10の下面に円筒状のスペーサ32を介してボルト33で取り付けられている。スペーサ32の筒長は、6枚の金属製板材31の厚さより大きく形成され、金属製板材31と主軸ヘッド10の間に隙間を設けている。
図2に示すように、載置板30の取付部は、平座金34と、該平座金34に挿通されるボルト33と、該ボルト33の頭部と平座金34の間に挿入されるスプリングワッシャ35と、載置板30と主軸ヘッド10の間に挿入されると共にボルト33を挿通する円筒状のスペーサ32と、を有し、載置板30が主軸ヘッド10に固定されている。
【0024】
図示の実施例において、制振装置3は、主軸ヘッド10の下面にスペーサ32を介して固定された載置板30の上面に、6枚の金属製板材31を鉛直方向に積層している。金属製板材31は、SS400などの一般構造用圧延鋼材で形成され、厚さ3.2mmの鋼板をレーザー加工で所望の形状に加工している。6枚の金属製板材31は、主軸又は主軸ヘッド10及びスペーサ31と水平方向に間隙を有する形状に切断加工されている。また、載置板30は、金属製板材31と同様にSS400などの一般構造用圧延鋼材で形成されている。
【0025】
制振装置3は、金属製板材31と載置板30の間の滑り摩擦だけでなく、隣り合う金属製板材31の間の滑り摩擦によって振動エネルギーを確実に吸収することができるように、金属製板材31は1枚ではなく、複数枚を積層している。制振装置3は、金属製板材31の枚数を増やすことにより、隣り合う金属製板材31の間の滑り摩擦によって振動エネルギーを多く吸収することができる。一方、制振装置3は、金属製板材31が一定数以上では効果に変化がなくなることから、金属製板材31として2.2~5.0mmの厚さの鋼板4~8枚を鉛直方向に積層していることが好ましい。
【0026】
本実施例において、制振装置3は、金属製板材31を直に載置板30の上面に載置し、その金属製板材31の上面に他の金属製板材31を直に載置していき、6枚の金属製板材31を積層している。金属製板材31は、表面に付着している汚れなどをウエスで拭き取るのみで、表面処理などの加工は施していない。
【0027】
本実施例の制振装置3は、載置板30の上面に、6枚の金属製板材31を鉛直方向に積層した構成を有することによって、制振対策前との比較で主軸の機械的コンプライアンスが大幅に低減した。
図3は、対策前後の主軸の動特性の比較を示す図であり、主軸の工具端で加振試験を実施した結果を表している。
図3の横軸は周波数を、縦軸は機械的コンプライアンスを表している。実線で表されている制振対策後の機械的コンプライアンスは、制振対策前の機械的コンプライアンス(破線)に対して1/3程度に低減している。
【0028】
また、本工作機械は、サーボモータに対するNCの位置指令と、リニアスケールで実測される実際に動いた位置と、を比較し、サーボの位置偏差を求める機能を備えていてもよい。本工作機械は、本発明の制振装置と共に、サーボ系の制振フィルタを適用することにより、更に加工面品位を向上させることができる。
【符号の説明】
【0029】
1 主軸ユニット
2 工具
3 制振装置
10 主軸ヘッド
30 載置板
31 金属製板材
32 スペーサ
33 ボルト
34 平座金
35 スプリングワッシャ