(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-27
(45)【発行日】2023-11-07
(54)【発明の名称】アラビノース依存型遺伝子発現制御配列を含む核酸
(51)【国際特許分類】
C12N 15/77 20060101AFI20231030BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20231030BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20231030BHJP
C12N 15/31 20060101ALI20231030BHJP
C12R 1/185 20060101ALN20231030BHJP
C12R 1/15 20060101ALN20231030BHJP
【FI】
C12N15/77 Z ZNA
C12P21/02 C
C12N1/21
C12N15/31
C12R1:185
C12R1:15
(21)【出願番号】P 2019570794
(86)(22)【出願日】2019-02-07
(86)【国際出願番号】 JP2019004378
(87)【国際公開番号】W WO2019156152
(87)【国際公開日】2019-08-15
【審査請求日】2022-02-01
(31)【優先権主張番号】P 2018021453
(32)【優先日】2018-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】512008233
【氏名又は名称】GreenEarthInstitute株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100168251
【氏名又は名称】矢上 礼宣
(72)【発明者】
【氏名】中根 修平
【審査官】鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/001597(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/069634(WO,A1)
【文献】特表2010-535028(JP,A)
【文献】久下貴之,アラビノキシラン資化能を有するコリネ型細菌の創出,奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科博士論文,2017年03月,pp. 1-120,インターネット: <https://library.naist.jp/mylimedio/dllimedio/showpdf2.cgi/DLPDFR01 3620_P1-120>, 検索日 2019年4月23日
【文献】J. Bacteriol.,2014年04月,Vol. 196, No. 12,pp. 2242-2254
【文献】J. Bacteriol.,2015年09月,Vol. 197, No. 24,pp. 3788-3796
【文献】久下貴之,他,コリネ型細菌における転写因子AraRによるアラビノース応答制御機構,日本農芸化学会2015年度大会プログラム集,2015年02月25日,講演番号:2B41a07
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12P 21/00-21/08
C12N 1/21
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コリネ型細菌において目的遺伝子の発現制御に用いるための組換え型の核酸であって、
以下の(a)に記載のヌクレオチド配列(Y)を含む、核酸:
(a)配列番号6、7及び17の何れか1つに記載のヌクレオチド配列、
但し、核酸がRNAの場合は、ヌクレオチド配列中のチミン(t)をウラシル(u)に読み替えるものとする。
【請求項2】
プロモーターとして機能し得るヌクレオチド配列(X)と以下の(a)に記載のヌクレオチド配列(Y)とを少なくとも一部に有する遺伝子発現制御配列(R)を含み、
遺伝子発現制御配列(R)が以下の条件(I)を充足する、核酸:
(a)配列番号6、7及び17の何れか1つに記載のヌクレオチド配列、
但し、核酸がRNAの場合は、ヌクレオチド配列中のチミン(t)をウラシル(u)に読み替えるものとする、
条件(I):上記遺伝子発現制御配列(R)を含む核酸が導入されたコリネ型細菌において、アラビノース添加の場合に対し、アラビノース未添加の場合に上記ヌクレオチド配列(X)のプロモーター活性が上記ヌクレオチド配列(Y)の存在により抑制されること。
【請求項3】
ヌクレオチド配列(Y)がヌクレオチド配列(X)の3’末端に直接又は間接に連結されている、請求項2に記載の核酸。
【請求項4】
遺伝子発現制御配列(R)が以下の(l)のヌクレオチド配列を含む、請求項2又は3に記載の核酸:
(l)配列番号23、24、30、33、34、40、43、44、50、53、54及び60の何れか1つに記載のヌクレオチド配列
、
但し、核酸がRNAの場合は、塩基配列中のチミン(t)をウラシル(u)に読み替えるものとする。
【請求項5】
ヌクレオチド配列(X)が構成的プロモーターである、請求項2から
4の何れか1項に記載の核酸。
【請求項6】
ヌクレオチド配列(X)が、trcプロモーター、tacIプロモーター、tacIIプロモーター、T5プロモーター、T7プロモーター、lacプロモーター、trpプロモーター、tetプロモーター、EFTuプロモーター、groESプロモーター、SODプロモーター、P15プロモーター、ldhAプロモーター、gapAプロモーター、dapAプロモーター、metEプロモーター、及びtufプロモーターから選択される、請求項2から
5の何れか1項に記載の核酸。
【請求項7】
ヌクレオチド配列(X)が、コリネ型細菌のゲノムDNAに存在する遺伝子の5’上流に由来するプロモーター配列、コリネ型細菌に内在するプラスミドに由来するプロモーター配列、又はコリネ型細菌に感染し得るファージのゲノムに由来するプロモーター配列からなる、請求項2から
6の何れか1項に記載の核酸。
【請求項8】
遺伝子発現制御配列(R)は、コリネ型細菌において、アラビノースを添加した場合に、アラビノース未添加の場合と比較して少なくとも10倍高いプロモーター活性を示すものである、請求項2から
7の何れか1項に記載の核酸。
【請求項9】
遺伝子発現制御配列(R)は、コリネ型細菌において、アラビノースを添加した場合に、アラビノース未添加の場合と比較して少なくとも15倍高いプロモーター活性を示すものである、請求項2から
8の何れか1項に記載の核酸。
【請求項10】
遺伝子発現制御配列(R)は、コリネ型細菌において、アラビノースを添加した場合に、アラビノース未添加の場合と比較して少なくとも20倍高いプロモーター活性を示すものである、請求項2から
9の何れか1項に記載の核酸。
【請求項11】
遺伝子発現制御配列(R)は、コリネ型細菌において、アラビノースを添加した場合に、アラビノース未添加の場合と比較して少なくとも35倍高いプロモーター活性を示すものである、請求項2から1
0の何れか1項に記載の核酸。
【請求項12】
遺伝子発現制御配列(R)は、コリネ型細菌において、アラビノースを添加した場合に、アラビノース未添加の場合と比較して少なくとも50倍高いプロモーター活性を示すものである、請求項2から1
1の何れか1項に記載の核酸。
【請求項13】
遺伝子発現制御配列(R)は、コリネ型細菌において、アラビノースを添加した場合に、アラビノース未添加の場合と比較して少なくとも70倍高いプロモーター活性を示すものである、請求項2から1
2の何れか1項に記載の核酸。
【請求項14】
遺伝子発現制御配列(R)が更にSD配列を含む、請求項2から1
3の何れか1項に記載の核酸。
【請求項15】
SD配列がヌクレオチド配列(Y)の3’末端に直接又は間接に連結されている、請求項1から1
4の何れか1項に記載の核酸。
【請求項16】
araEタンパク質及びaraRタンパク質のうち少なくとも1つをコードするヌクレオチド配列を更に含む、請求項1から1
5の何れか1項に記載の核酸。
【請求項17】
コリネ型細菌に由来のaraEタンパク質及びaraRタンパク質のうち少なくとも1つをコードするヌクレオチド配列を含む、請求項1から1
6の何れか1項に記載の核酸。
【請求項18】
複製起点、選択マーカー遺伝子、クローニング部位、制限酵素認識部位、及びターミネーターからなる群から選択される1種以上のヌクレオチド配列を更に含む、請求項1から1
7の何れか1項に記載の核酸。
【請求項19】
細菌において自律複製可能なプラスミドとして提供される、請求項1から1
8の何れか1項に記載の核酸。
【請求項20】
発現ベクターとして提供される、請求項1から
19の何れか1項に記載の核酸。
【請求項21】
目的遺伝子をコードするヌクレオチド配列(Z)を更に含み、ヌクレオチド配列(Z)は、コリネ型細菌において上記目的遺伝子の発現が遺伝子発現制御配列(R)によって制御されるように遺伝子発現制御配列(R)と直接又は間接に連結されている、請求項2から2
0の何れか1項に記載の核酸。
【請求項22】
DNAである、請求項1から2
1の何れか1項に記載の核酸。
【請求項23】
請求項1から2
2の何れか1項に記載の核酸が導入された細菌。
【請求項24】
エシェリキア属菌である、請求項2
3に記載の細菌。
【請求項25】
コリネ型細菌である、請求項2
3に記載の細菌。
【請求項26】
コリネ型細菌に由来するaraEタンパク質及びaraRタンパク質をそれぞれコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列を有するDNAがゲノムDNAに組み込まれており、かつ該ゲノムDNAは上記araEタンパク質及びaraRタンパク質を発現可能に構成されている、請求項2
3から2
5の何れか1項に記載の細菌。
【請求項27】
請求項2
3から2
6の何れか1項に記載の細菌をアラビノー
スに暴露することにより目的遺伝子を発現させることを含む、目的遺伝子の発現方法。
【請求項28】
請求項2
3から2
6の何れか1項に記載の細菌をアラビノー
スに暴露することにより目的遺伝子を発現させることを含む、目的物質の生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コリネ型細菌においてアラビノース又はそのアナログに依存した遺伝子発現制御を可能にする核酸配列に関する。より詳細には、本発明は、コリネ型細菌においてプロモーターとして機能し得るヌクレオチド配列と所定のヌクレオチド配列からなるAraR結合配列とを有する遺伝子発現制御配列を含む核酸に関する。
【背景技術】
【0002】
我が国において1950年代にコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium
glutamicum)がグルタミン酸産生菌として単離されて以来、同種を代表とするコリネ型細菌は、各種アミノ酸、有機酸、エタノールを含むアルコール類等を含む化学品の生産に幅広く利用されている。加えて、コリネ型細菌は、ゲノム解析や遺伝子発現解析等の基礎研究も精力的に行われており、コリネ型細菌の遺伝子組換え技術もほぼ確立されている。このように基礎研究が進展し、遺伝子組み換え技術も確立していることから、コリネ型細菌により生産され得る化学品の種類も増加しており、しかもそれら化学品の大量生産も可能になりつつある。
その結果、化学品や有用物質の生産におけるコリネ型細菌の利用は産業界において益々注目を集めている。
【0003】
ところで、各種遺伝子を導入したコリネ型細菌を利用して物質を生産する場合、コリネ型細菌において導入される各種遺伝子の発現を人為的に制御できれば、効率的なバイオプロセス並びに物質生産が可能になることから、コリネ型細菌において機能し得るプロモーター等を利用した遺伝子発現制御技術の開発が重要になってくる。
【0004】
コリネ型細菌において機能するプロモーターの一例として、ブレビバクテリウム・フラバム(Brevibacterium flavum)MJ-233株から単離されたアスパルターゼコード遺伝子のプロモーター配列を利用した技術が挙げられる(特許文献1)。特許文献1には、上記所定のプロモーター配列とクロラムフェニコールアセチル転移酵素(CAT)遺伝子とを含むレポータープラスミドが導入された上記菌株では、上記プロモーター配列の存在しないネガティブ・コントロールのプラスミドのみ導入した菌株と比較すると25倍のCAT活性が確認されたことが記載されている。
【0005】
更に別の例としては、ブレビバクテリウム・フラバムMJ-233株のゲノムDNAから単離された幾つかのDNA断片であって、コリネ型細菌においてtacプロモーターよりも強いプロモーター機能を発揮するものが知られている(特許文献2)。特許文献2には、これらのDNA断片によるプロモーター活性は、ホストとなるコリネ型細菌を培養する培地の炭素源(各種糖類、エタノール、蛋白質分解物等)組成に依存することから、該培地中の炭素源組成を変更することにより目的遺伝子の発現を制御できると記載されている。
【0006】
更に別の例としては、コリネバクテリウム・グルタミカムに由来する、伸長因子遺伝子の1つであるEF-TUのプロモーター(PEF-TU)、スーパーオキシドジムターゼ遺伝子のプロモーター(Psod)、シャペロニンタンパク質GroES遺伝子のプロモーター(Pgro)、伸長因子遺伝子の1つであるEF-TSのプロモーター(PEF-TS)を利用した発現ユニット等が知られている(それぞれ特許文献3から6)。加えて、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032株に由来するCgl1565遺伝子(遺伝子座NCgl1504)及びCgl1360遺伝子(遺伝子座NCgl1305)それぞれのプロモーター配列を利用した遺伝子発現技術も知られている(特許文献7)。
特許文献3から7には、上記各プロモーター配列と所定のレポーター遺伝子や酵素遺伝子とを導入してなるプラスミド構築物を構築すると共に、該プラスミド構築物が導入されたコリネバクテリウム・グルタミカム形質転換体を取得し、該形質転換体を用いたレポーターアッセイ又は酵素活性の測定により、上記の各プロモーター配列についてプロモーター活性が認められたことが記載されている。
【0007】
更に、特許文献8には、ブレビバクテリウム・アンモニアゲネス(Brevibacterium ammoniagenes)CJHB100株に由来するプロモーター配列を利用した発現カセットないしベクターが記載されている。これらプロモーター配列は、同菌株を培養し、各培養フェースにおいて過剰発現されるタンパク質を同定し、それらタンパク質をコードする遺伝子の5’非翻訳領域をクローニングすることにより同定されたプロモーター配列である。特許文献7では、pcj1ないしpcj7と命名された合計7つのプロモーター配列を取得し、それらのプロモーター配列のプロモーター活性について、ブレビバクテリウム・アンモニアゲネスにおいてGFP遺伝子を利用したレポーターアッセイにより評価しており、その結果、pcj3及び4を除く5つのプロモーター配列は、典型的なプロモーターであるtacプロモーターに対して、より強力なプロモーター活性を示し、特にpcj1及びpcj4は10倍を超えるプロモーター活性を示すことが示唆されている。加えて、特許文献7では、これらプロモーター配列が大腸菌(エシェリキア・コリ;Escherichia coli)においても機能し得ることが確かめられており、とりわけpcj1はコリネ型細菌及び大腸菌の双方で高い活性を示すことも示唆されている。
【0008】
更に、特許文献1から8に開示されるプロモーター配列はコリネ型細菌の野生型プロモーター配列であるが、野生型プロモーター配列に対して変異導入を施すことによりプロモーター活性を向上させた変異型プロモーター配列も知られている。このような変異型プロモーター配列としては、例えば、コリネバクテリウム・グルタミカムに由来する、ジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼ(ddh)遺伝子、LysC-asdオペロン遺伝子、及びアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(aspB)遺伝子の各プロモーター配列に対して所定の変異を導入することにより取得された変異型プロモーターが挙げられる(特許文献9から11)。特許文献9から11に記載されるプロモーターに関する一連の技術は、リシン生合成経路に関与する酵素遺伝子の発現量を増加させることによりリシンの産生量を向上させることを狙いとするものである。
【0009】
更に、特許文献12には、特許文献3から6に記載されるコリネバクテリウム・グルタミカムに由来のPEF-TU、Psod、Pgro、及びPEF-TSのうち2つ以上のプロモーター配列をタンデムに連結してなる多重プロモーターが開示されており、これらプロモーターそれぞれを単独で利用した場合よりも多重プロモーターの方が目的遺伝子の発現が向上した結果も示されている。
【0010】
更に、誘導型プロモーターを利用した技術としては、例えば特許文献13に開示される遺伝子発現制御技術が挙げられる。特許文献13に開示の技術は、嫌気条件下において誘導促進又は誘導抑制されるコリネバクテリウム・グルタミカムの遺伝子プロモーターを網羅的に解析することにより取得したプロモーター配列を利用したものである。特許文献13には、このように嫌気条件により遺伝子発現を促進又は抑制できるプロモーター配列を利用すれば、コリネ型細菌を用いて嫌気条件下で目的物質を生産するに際し、目的物質産生に必要な各種遺伝子の発現を向上させることができ、かつ目的物質産生には不要な各種遺伝子の発現を抑制させることが可能となるから、より効率的な目的物質の生産が可能となることが示唆されている。
【0011】
更に、コリネバクテリウム・グルタミカムにおいて機能可能な異種性のプロモーターを利用した発現システムは古くから知られており、このような発現システムしては、例えばtac、trc、LacUV5、PR、PL等を利用したエシェリキア・コリ発現システムが挙げられる(例えば、非特許文献1~3を参照)。これらのプロモーターは、ラクトース又はそのアナログのイソプロピルチオガラクトシド(IPTG)等の誘導物質の添加によりプロモーター活性の発現が誘導される。
【0012】
加えて、λPLプロモーターとコリネバクテリウム・アンモニアゲネスから単離された潜在性プロモーターCJ1及びCJ4とを組み合せた熱誘導型発現ベクターが知られており、この熱誘導型発現ベクターはコリネバクテリウム・アンモニアゲネスのみならずコリネバクテリウム・グルタミカムにおいても機能することが確かめられている(非特許文献4)。
【0013】
加えて、エシェリキア・コリに由来するアラビノース調節因子のAraC遺伝子、araBADオペロンのPBADプロモーター及びL-アラビノーストランスポーターのAraE遺伝子を組み合せることによりコリネバクテリウム・グルタミカムにおいてアラビノースに依存した目的遺伝子の発現制御を可能とした発現システムも知られている(非特許文献5)。非特許文献5には、基底下の非特異的発現も示すことなく目的遺伝子の発現を厳密に制御できたと記載されており、更にこの発現システムを用いてコリネ型細菌においてα-ケトグルタル酸脱水素酵素の阻害因子をコードするodhI遺伝子の発現を調節したところ、高いレベルのグルタミン酸産生を実現できたと記載されている。
【0014】
更に加えて、非特許文献6には、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC31831株において、LacI型の転写調節因子であるAraRタンパク質が、L-アラビノース異化作用を担うaraBDA遺伝子、アラビノース吸収を担うaraE遺伝子、及び当該転写調節因子AraR遺伝子の発現を抑制することが示唆されている。より詳細には、AraRタンパク質がaraBDAの各遺伝子領域とGalM/araRの遺伝子領域との間にある特定配列(BSB)、並びにaraE遺伝子の上流に存在する2箇所の特定配列(BSE1及びBSE2)の合計3つの配列に結合し得ることが示されており、L-アラビノースによる上記遺伝子発現抑制の解除におけるAraRタンパク質及び上記AraR結合配列の役割について示唆がされている。なお、非特許文献6には、galM及びaraRのプロモーター領域についてLacZレポーターアッセイにより評価した結果も示されており、AraRのプロモーター領域についてはDグルコースを添加して培養した細胞とL-アラビノースを添加して培養した細胞との間でプロモーター活性の違いは見られなかったこと、並びにgalMプロモーターについてはL-アラビノースの添加に反応してLacZの発現レベルが増加したことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】特開平7-31478
【文献】特開平7-95891
【文献】特表2007-514425
【文献】特表2007-514426
【文献】特表2007-536908
【文献】特表2008-506400
【文献】特表2010-515453
【文献】特表2008-523802
【文献】特表2011-510651
【文献】特表2011-510625
【文献】特表2011-182779
【文献】特表2008-523834
【文献】WO2006/028063
【非特許文献】
【0016】
【文献】Gene.1991 Jun 15;102(1):93-8.
【文献】Appl Environ Microbiol.1997 Nov;63(11):4392-400.
【文献】Nat.Biotechnol.6:428-430
【文献】J.Microbiol.Biotechnol.(2008),18(4),18(4),639-647.
【文献】Appl Environ Microbiol.2012 Aug;78(16):5831-5838.
【文献】J Bacteriol.2015 Dec;197(24):3788-3796.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上述の通り従来からコリネ型細菌において利用可能な各種遺伝子発現システムが知られている。しかしながら、従来技術のうち単にコリネ型細菌において機能し得る構成的プロモーター(constitutive promoters)を単独で利用したものについては、遺伝子発現スイッチとしてオン/オフの切換え制御は事実上不可能であり、例えば厳密な遺伝子制御が必要不可欠となるバイオプロセスにはそもそも不向きである。
【0018】
加えて、IPTG等の発現誘導物質や温度等の所定のストレス環境下に組換えコリネ型細菌を暴露することにより目的遺伝子の発現を制御する発現システム(例えば非特許文献1から4)については、誘導物質の毒性やコストの問題及び目的遺伝子の発現制御プロセスが煩雑になる問題がある上、発現を誘導していない基底下においても一定レベルの非特異的発現が見られることもあり厳密な遺伝子発現の制御がしばしば困難となる状況も生じる。加えて、目的遺伝子の性質によっては、このような基底下での非特異的発現によりコリネ型細菌の生育が阻害されると言う問題もある。
【0019】
更に加えて、非特許文献5に記載される、エシェリキア・コリに由来するAraC遺伝子、PBADプロモーター及びAraE遺伝子を組合せた遺伝子発現システムについては、本発明者によりコリネ型細菌を用いて効果確認試験を行ったところ、アラビノース未添加に対してアラビノース添加の場合に10倍程度のプロモーター活性は認められたものの、非特許文献5に記載されるような顕著なプロモーター活性は認められなかった。つまり、非特許文献5に記載の遺伝子発現システムは、再現性に乏しく実用に耐え得るものとは言えない。なお、そもそも非特許文献5に記載される遺伝子発現システムは、上記のとおりエシェリキア・コリ由来のプロモーター配列や遺伝子を利用するものである点で、本発明に係る遺伝子発現システムとはヌクレオチド配列及びアミノ酸配列のレベルで全く構成が異なるものである。
【0020】
なお付け加えると、非特許文献6には、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC31831においてAraRタンパク質が、araBAD遺伝子、araE遺伝子及び当該転写調節因子AraR遺伝子の発現を抑制すること、並びにAraRタンパク質がアラビノース遺伝子群の遺伝子間領域における所定の配列に結合し得ることは示唆されてはいるものの、これら遺伝子群及びAraRタンパク質結合配列を利用した遺伝子発現制御システムの具体的な構成を実現可能なレベルで記載するものではない。実際に、以下実施例の比較試験例1に示されるとおり、本発明者がAraRタンパク質結合配列を含むaraE遺伝子のプロモーター領域を確認したところ、該araE遺伝子のプロモーター領域をそのまま利用しても、遺伝子発現制御は不可能であり、そもそも遺伝子発現システムとしてプロモーター活性さえ示さなかった。つまり、非特許文献6は、コリネバクテリウム・グルタミカムのアラビノース遺伝子発現調節機構におけるAraRタンパク質の役割に関する分析結果を単に示した学術論文であり、人工遺伝子発現システムにおけるアラビノース遺伝子群及びAraRタンパク質結合配列の利用可能性を示唆するものでは無い。
【0021】
そこで、本発明の目的は、コリネ型細菌において目的遺伝子の発現を厳密に制御でき、かつ目的遺伝子の発現誘導時には良好な発現量を確保できる遺伝子発現システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記目的を達成するために、本発明の第1の態様によれば、以下の核酸が提供される。
[1]プロモーターとして機能し得るヌクレオチド配列(X)と以下の(a)又は(b)に記載のヌクレオチド配列(Y)とを少なくとも一部に有する遺伝子発現制御配列(R)を含み、
遺伝子発現制御配列(R)が以下の条件(I)を充足する、核酸:
(a)配列番号5から12並びに配列番号17及び18の何れか1つに記載のヌクレオチド配列;
(b)上記(a)に記載のヌクレオチド配列において1又は複数の塩基が欠失、置換若しくは付加されたヌクレオチド配列、
但し、核酸がRNAの場合は、ヌクレオチド配列中のチミン(t)をウラシル(u)に読み替えるものとする、
条件(I):コリネ型細菌において、アラビノース未添加の場合にヌクレオチド配列(X)のプロモーター活性が抑制されること。
【0023】
[2]ヌクレオチド配列(Y)がヌクレオチド配列(X)の3’末端に直接又は間接に連結されている、[1]に記載の核酸。
[3]ヌクレオチド配列(X)が構成的プロモーターである、[1]又は[2]に記載の核酸。
【0024】
[4]ヌクレオチド配列(X)が、trcプロモーター、tacIプロモーター、tacIIプロモーター、T5プロモーター、T7プロモーター、lacプロモーター、trpプロモーター、tetプロモーター、EFTuプロモーター、groESプロモーター、SODプロモーター、P15プロモーター、ldhAプロモーター、gapAプロモーター、dapAプロモーター、metEプロモーター、及びtufプロモーターから選択される、[1]から[3]の何れか1つに記載の核酸。
【0025】
[5]ヌクレオチド配列(X)が、コリネ型細菌のゲノムDNAに存在する遺伝子の5’上流に由来するプロモーター配列、コリネ型細菌に内在するプラスミドに由来するプロモーター配列、又はコリネ型細菌に感染し得るファージのゲノムに由来するプロモーター配列からなる、[1]から[4]の何れか1つに記載の核酸。
[6]遺伝子発現制御配列(R)は、コリネ型細菌において、アラビノースを添加した場合に、アラビノース未添加の場合と比較して少なくとも10倍高いプロモーター活性を示すものである、[1]から[5]の何れか1つに記載の核酸。
【0026】
[7]遺伝子発現制御配列(R)は、コリネ型細菌において、アラビノースを添加した場合に、アラビノース未添加の場合と比較して少なくとも15倍高いプロモーター活性を示すものである、[1]から[6]の何れか1つに記載の核酸。
[8]遺伝子発現制御配列(R)は、コリネ型細菌において、アラビノースを添加した場合に、アラビノース未添加の場合と比較して少なくとも20倍高いプロモーター活性を示すものである、[1]から[7]の何れか1つに記載の核酸。
【0027】
[9]遺伝子発現制御配列(R)は、コリネ型細菌において、アラビノースを添加した場合に、アラビノース未添加の場合と比較して少なくとも35倍高いプロモーター活性を示すものである、[1]ら[8]の何れか1つに記載の核酸。
[10]遺伝子発現制御配列(R)は、コリネ型細菌において、アラビノースを添加した場合に、アラビノース未添加の場合と比較して少なくとも50倍高いプロモーター活性を示すものである、[1]から[9]の何れか1つに記載の核酸。
[11]遺伝子発現制御配列(R)は、コリネ型細菌において、アラビノースを添加した場合に、アラビノース未添加の場合と比較して少なくとも70倍高いプロモーター活性を示すものである、[1]から[10]の何れか1つに記載の核酸。
【0028】
[12]ヌクレオチド配列(Y)が、以下の一般式(I)で表される、[1]から[11]の何れか1つに記載の核酸:
5’-N1TGTN2AGCGN3TN4AN5N6N7-3’・・・一般式(I)
式中、N1、N2、N3、N4、N5、N6及びN7は、それぞれ、独立にA(アデニン)、G(グアニン)、C(シトシン)若しくはT(チミン)を示し又は欠失し、核酸がRNAの場合は、T(チミン)はU(ウラシル)と読み替えるものとする。
【0029】
[13]遺伝子発現制御配列(R)が以下の(l)から(o)の何れかのヌクレオチド配列を含む、[1]から[12]の何れか1つに記載の核酸:
(l)配列番号22から61並びに配列番号96から102の何れか1つに記載のヌクレオチド配列;
(m)(l)に記載のヌクレオチド配列において1又は複数の塩基が欠失、置換若しくは付加されたヌクレオチド配列;
(n)(l)に記載のヌクレオチド配列に対して相補であるヌクレオチド配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズするヌクレオチド配列;及び
(o)(l)に記載のヌクレオチド配列と少なくとも80%以上の配列同一性を有するヌクレオチド配列、
但し、核酸がRNAの場合は、塩基配列中のチミン(t)をウラシル(u)に読み替えるものとする。
【0030】
[14]遺伝子発現制御配列(R)が更にSD配列を含む、[1]から[13]の何れか1つに記載の核酸。
[15]SD配列がヌクレオチド配列(Y)の3’末端に直接又は間接に連結されている、[1]から[14]の何れか1つに記載の核酸。
[16]araEタンパク質及びaraRタンパク質のうち少なくとも1つをコードするヌクレオチド配列を更に含む、[1]から[15]の何れか1つに記載の核酸。
【0031】
[17]コリネ型細菌に由来のaraEタンパク質及びaraRタンパク質のうち少なくとも1つをコードするヌクレオチド配列を含む、[1]から[16]の何れか1つに記載の核酸。
[18]複製起点、選択マーカー遺伝子、クローニング部位、制限酵素認識部位、及びターミネーターからなる群から選択される1種以上のヌクレオチド配列を更に含む、[1]から[17]の何れか1つに記載の核酸。
[19]細菌において自律複製可能なプラスミドとして提供される、[1]から[18]の何れか1つに記載の核酸。
【0032】
[20]発現ベクターとして提供される、[1]から[19]の何れか1つに記載の核酸。
[21]目的遺伝子をコードするヌクレオチド配列(Z)を更に含み、ヌクレオチド配列(Z)は、コリネ型細菌において上記目的遺伝子の発現が遺伝子発現制御配列(R)によって制御されるように遺伝子発現制御配列(R)と直接又は間接に連結されている、[1]から[18]の何れか1つに記載の核酸。
[22]DNAである、[1]から[21]の何れか1つに記載の核酸。
【0033】
更に、本発明の第2の態様によれば、以下の細菌が提供される。
[23][1]から[22]の何れか1つに記載の核酸が導入された細菌。
[24]エシェリキア属菌である、[23]に記載の細菌。
[25]コリネ型細菌である、[23]に記載の細菌。
【0034】
[26]コリネ型細菌に由来するaraEタンパク質及びaraRタンパク質をそれぞれコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列を有するDNAがゲノムDNAに組み込まれており、かつ該ゲノムDNAは上記araEタンパク質及びaraRタンパク質を発現可能に構成されている、[23]から[25]の何れか1つに記載の細菌。
【0035】
更に、本発明の第3の態様によれば、以下の目的遺伝子の発現方法が提供される。
[27][23]から[26]の何れか1つに記載の細菌をアラビノース又はそのアナログに暴露することにより目的遺伝子を発現させることを含む、目的遺伝子の発現方法。
[28]上記細菌がコリネ型細菌である、[27]に記載の方法。
【0036】
更に、本発明の第4の態様によれば、以下の目的物質の生産方法が提供される。
[29][23]から[26]の何れか1つに記載の細菌をアラビノース又はそのアナログに暴露することにより目的遺伝子を発現させることを含む、目的物質の生産方法。
[30]上記細菌がコリネ型細菌である、[29]に記載の方法。
【0037】
更に、本発明の第5の態様によれば、以下の核酸断片が提供される。
[31]コリネ型細菌において目的遺伝子の発現制御に用いるための核酸断片であって、
以下の(a)又は(b)に記載のヌクレオチド配列(Y)を含む、核酸断片:
(a)配列番号5から9、11及び12並びに配列番号17及び18の何れか1つに記載のヌクレオチド配列;
(b)上記(a)に記載のヌクレオチド配列において1又は複数の塩基が欠失、置換若しくは付加されたヌクレオチド配列、
但し、
核酸がRNAの場合は、ヌクレオチド配列中のチミン(t)をウラシル(u)に読み替えるものとし、
ヌクレオチド配列(Y)として配列番号10、20及び21それぞれに示されるヌクレオチド配列は除外され、かつヌクレオチド配列(Y)は以下の条件(II)を満たすものとする、
条件(II):配列番号80に示すプラスミドベクターpGE728-1のヌクレオチド配列における第2913番目から第2928番目までのヌクレオチド配列を上記ヌクレオチド配列(Y)と入れ替えたプラスミドベクターで形質転換されたコリネ型細菌において、アラビノースを添加した場合に対してアラビノース未添加の場合にPtacIのプロモーター活性が抑制される。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、効率的かつ厳密な遺伝子発現制御が可能となり、効率的なバイオプロセスを提供できる。加えて、本発明によれば、形質転換体をアラビノースに暴露すれば目的遺伝子の発現抑制状態が解除され、目的遺伝子の発現を促進することができることから、バイオプロセスにおける操作及び作業が容易となる。
以下、本発明の態様において更に採用し得る実施形態ないし変形例を以下に例示すると共に本発明の利点及び効果についても詳述する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】実施例において構築したプラスミドベクターの構造を模式的に示す図である。(a)は試験例1において構築したプラスミドベクターpGE728-1の構造を示し、(b)は試験例3において構築したプラスミドベクターpGE716の構造を示す。
【
図2】試験例3において構築したプラスミドベクターの構造を模式的に示す図である。(a)はプラスミドベクターpGE837の構造を示し、(b)はプラスミドベクターpAra1の構造を示す。
【
図3】試験例3において実施したレポーターアッセイの結果を示す図である。
図3において「未添加」はアラビノース未添加のサンプルを指し、「添加」はアラビノース添加のサンプルを指し、「誘導率」はアラビノース添加のサンプルが示したプロモーター活性値/アラビノース未添加のサンプルが示したプロモーター活性値の比率(フォールド)を示す。
【
図4】試験例3において実施したレポーターアッセイの結果を示す図である。
図4において「未添加」はアラビノース未添加のサンプルを指す。
【
図5】コリネバクテリウム・グルタミカムATCC31831株ゲノムDNAにおけるaraE遺伝子のプロモーター領域を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
〔核酸〕
本発明の第1の態様によれば、以下の核酸が提供される。
プロモーターとして機能し得るヌクレオチド配列(X)と以下の(a)又は(b)に記載のヌクレオチド配列(Y)とを少なくとも一部に有する遺伝子発現制御配列(R)を含み、
遺伝子発現制御配列(R)が以下の条件(I)を充足する、核酸:
(a)配列番号5から12並びに配列番号17及び18の何れか1つに記載のヌクレオチド配列;
(b)上記(a)に記載のヌクレオチド配列において1又は複数の塩基が欠失、置換若しくは付加されたヌクレオチド配列、
但し、核酸がRNAの場合は、ヌクレオチド配列中のチミン(t)をウラシル(u)に読み替えるものとする、
条件(I):コリネ型細菌において、アラビノース未添加の場合にヌクレオチド配列(X)のプロモーター活性が抑制されること。
【0041】
本発明に係る「核酸」は、より詳細にはコリネ型細菌を含む細菌類において目的遺伝子の発現制御に用いるための核酸である。本発明に係る核酸は、DNA(デオキシリボ核酸)及びRNA(リボ核酸)の何れの形態で提供されてもよい。更に、本発明に係る核酸は、一本鎖又は二本鎖の形態であってもよい。なお、核酸は、具体的には単離された核酸、cDNA又はcRNAである。
細菌類の細胞内において目的遺伝子の発現制御因子として機能し得る形態としては通常DNAであること、RNAよりもDNAの方が化学的に安定であること等を考慮すると、本発明の核酸はDNAの形態で提供されることが好ましい。しかしながら、RNAの形態で提供される場合であっても、イン・ビトロ又はイン・ビボにおいてRNAからDNAに変換されれば本発明所定の遺伝子発現制御機能は発揮されることから、DNAの形態に限定されずRNAの形態でも提供されてもよい。逆転写酵素等を用いてRNAからDNAに変換する技術等は当業者に知られている。加えて、本発明において核酸は、メチル化等の化学修飾を受けたものであってもよい。
【0042】
加えて、本発明に係る核酸は、遺伝子発現制御配列(R)が、後述のとおりレポーターアッセイ等によりプロモーター活性を測定した場合に、上記(I)を満たすものであればよく、本発明に係る核酸においては目的遺伝子をコードするヌクレオチド配列の有無は問わない。目的遺伝子をコードするヌクレオチド配列を含まない実施形態に係る核酸は、具体的には、コリネ型細菌を含む細菌類において目的遺伝子の発現に供試される発現プラスミド構築物(目的遺伝子をコードするヌクレオチド配列が導入されたもの)の構築に用いるための発現カセット又は発現ベクター(即ち、目的遺伝子を所定のクローニング部位に挿入する前のもの)である。
【0043】
本発明において「コリネ型細菌」とは、バージーズ・マニュアル・デターミネイティブ・バクテリオロジー(Bargeys Manual of Determinative Bacteriology,第8巻,p.599、1974年)に定義されている一群の微生物を指す。
より詳細には、コリネ型細菌として、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属菌、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属菌、アースロバクター(Arthrobacter)属菌、マイコバクテリウム(Mycobacterium)属菌、マイクロコッカス(Micrococcus)属菌、マイクロバクテリウム(Microbacterium)属菌等が挙げられる。
【0044】
コリネバクテリウム属菌としては、例えば以下のような種及び菌株が挙げられる。
コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)(例えば、FERM P-18976株、ATCC13032株、ATCC31831株、ATCC13058株、ATCC13059株、ATCC13060株、ATCC13232株、ATCC13286株、ATCC13287株、ATCC13655株、ATCC13745株、ATCC13746株、ATCC13761株、ATCC14020株);
コリネバクテリウム・アセトグルタミカム(Corynebacterium acetoglutamicum)(例えばATCC15806株);
コリネバクテリウム・アセトアシドフィラム(Corynebacterium acetoacidophilum)(例えばATCC13870株);
コリネバクテリウム・メラセコラ(Corynebacterium melassecola)(例えばATCC17965株);
コリネバクテリウム・エフィシエンス(Corynebacterium efficiens);
コリネバクテリウム・アルカノリティカム(Corynebacterium alkanolyticum)(例えばATCC21511株);
コリネバクテリウム・カルナエ(Corynebacterium callunae)(例えばATCC15991株);
コリネバクテリウム・リリウム(Corynebacterium lilium)(例えばATCC15990株);
コリネバクテリウム・サーモアミノゲネス(コリネバクテリウム・エフィシエンス)(Corynebacterium thermoaminogenes (Corynebacterium efficiens))(例えばAJ12340株、FERM BP1539株);
コリネバクテリウム・ハーキュリス(Corynebacterium herculis)(例えばATCC13868株)。
コリネバクテリウム・アンモニアゲネス(コリネバクテリウム・スタティオニス)(Corynebacterium ammoniagenes(Brevibacterium ammoniagenes)(例えばATCC6871株、ATCC6872株)。
【0045】
ブレビバクテリウム属菌の具体例としては、例えば以下の種及び菌株が挙げられる。
ブレビバクテリウム・ディバリカタム(Brevibacterium divaricatum)(例えばATCC14020株);
ブレビバクテリウム・フラバム(Brevibacterium flavum)[例えば、MJ-233(FERM BP-1497)株、MJ-233AB-41(FERM BP-1498)株、ATCC13826株、ATCC14067株、ATCC13826株];
ブレビバクテリウム・イマリオフィラム(Brevibacterium immariophilum)(例えばATCC14068株);
ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(コリネバクテリウム・グルタミカム)(Brevibacterium lactofermentum (Corynebacterium glutamicum))(例えばATCC13869株);
ブレビバクテリウム・ロゼウム(Brevibacterium roseum)(例えばATCC13825株);
ブレビバクテリウム・サッカロリティカム(Brevibacterium saccharolyticum)(例えばATCC14066株);
ブレビバクテリウム・チオゲニタリス(Brevibacterium thiogenitalis)(例えばATCC19240株);
ブレビバクテリウム・アルバム(Brevibacterium album)(例えばATCC15111株);
ブレビバクテリウム・セリナム(Brevibacterium cerinum)(例えばATCC15112株)。
【0046】
アースロバクター属菌の具体例としては、例えば以下のような種及び菌株が挙げられる。
アースロバクター・グロビフォルミス(Arthrobacter globiformis)(例えば、ATCC8010株、ATCC4336株、ATCC21056株、ATCC31250株、ATCC31738株、ATCC35698株)等が挙げられる。
【0047】
マイクロコッカス属菌の具体例としては、マイクロコッカス・フロイデンライヒ(Micrococcus freudenreichii)[例えば、No.239(FERM P-13221)株];マイクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)[例えば、No.240(FERM P-13222)株];マイクロコッカス・ウレアエ(Micrococcus ureae)(例えば、IAM1010株);マイクロコッカス・ロゼウス(Micrococcus roseus)(例えば、IFO3764株)等が挙げられる。
マイクロバクテリウム属菌の具体例としては、マイクロバクテリウム・アンモニアフィラム(Microbacterium ammoniaphilum)(例えばATCC15354株)。
【0048】
なお、ATCCとは、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture Collection)(P.O.Box 1549 Manassas,VA 20108 USA)の略であり、上記ATCC株は同機関より分譲を受けることができる。
【0049】
更に、本発明においてコリネ型細菌は、自然界に元々存在する野生型菌株であってもよいし、又はゲノムDNAやプラスミドDNAが操作され若しくはこれらDNAに所定の遺伝子や人工配列等が導入された組換え体であってもよい。更に、コリネ型細菌は、所定の化学物質や環境条件に暴露されることにより作出された変異株であってもよい。
【0050】
本発明において「コリネ型細菌においてプロモーターとして機能し得るヌクレオチド配列(X)」とは、上述のようなコリネ型細菌に属する菌種/菌株のうち何れか1つ以上においてプロモーター活性を示すヌクレオチド配列を指す。ヌクレオチド配列(X)は、人工的に合成された配列であってよく、又は細菌を含む生物体に存在する天然配列であってもよい。
【0051】
本発明において「プロモーター」と言う用語は、当業者において一般に理解される意味で使用される。より詳細には、「コリネ型細菌においてプロモーターとして機能し得るヌクレオチド配列(X)」とは、コリネ型細菌においてRNAポリメラーゼが特異的に結合し、該RNAポリメラーゼの転写活性によりmRNAへの転写を開始させ得るヌクレオチド配列を意味する。
なお、当該技術分野においては、RNAポリメラーゼの転写活性により純粋にmRNAへの転写を開始させ得るヌクレオチド配列に加えて、オペレーター配列(例えばlacO)やリボソーム結合配列(シャイン・ダルガノ配列 ;SD配列)等の遺伝子制御配列をも含めてプロモーターと言う場合もあるが、本発明において「プロモーター」と言う場合、原則、RNAポリメラーゼの転写活性により純粋にmRNAへの転写を開始させ得るヌクレオチド配列のみを指す。但し、本発明に係る核酸においては、上述のような追加の遺伝子制御配列の存在が排除される趣旨ではない。
【0052】
このようにヌクレオチド配列(X)としては、コリネ型細菌に属する菌種/菌株のうち何れか1つ以上においてプロモーターとして機能し得るものであれば、特に限定されるものでもないが、利便性を考慮すると、コリネ型細菌に属する菌種全てに共通してプロモーター活性を示すヌクレオチド配列を採用する実施形態が好ましい。更に加えて、幾つのかの実施形態においては、ヌクレオチド配列(X)として、コリネ型細菌に加え、エシェリキア属(例えばエシェリキア・コリ;Escherichia coli)においてもプロモーターとして機能し得るヌクレオチド配列が採用され得る。
【0053】
更に、幾つかの実施形態においては、ヌクレオチド配列(X)は、上述のようなコリネ型細菌を含む細菌のゲノムDNAに内在する遺伝子の5’上流域に由来するプロモーター配列、これら細菌において自律複製し得るプラスミドに由来するプロモーター配列、又はこれら細菌に感染するファージのゲノムに由来するプロモーター配列等を含む。更に加えて、特定の実施形態においては、これら細菌やファージに由来するプロモーター配列は、野生型配列であってもよく、又は野生型配列に所定の変異を導入したものでもよい。
なお、一般的には、プロモーター配列は、転写開始点の5’上流にあり、-35ボックスと-10ボックスによって特徴付けられることが知られていることから 、プライマー伸長法や定量RT-PCR等の公知の方法によって転写開始点を決定し、決定される転写開始点の情報等を勘案して取得することもできる。
即ち、本発明においては、ヌクレオチド配列(X)として既知のプロモーター配列を利用してもよいが、特にこれに限定されず、上記のように新たに取得したプロモーター配列を利用してもよく又は人工的に新たに作出したプロモーターを利用してもよい。
【0054】
更に、本発明においてヌクレオチド配列(X)として利用され得るプロモーター配列のタイプとしては、特定の培養条件や化学物質の添加等により目的遺伝子の発現を誘導できる誘導型プロモーター(inducible promoter)、RNAポリメラーゼの利用可能性に依存するもので常時発現を可能にする構成型プロモーター(constitutive promoter)等が例示される。
【0055】
本発明においては、ヌクレオチド配列(X)として利用されるプロモーターのタイプは特に限定されるものでもないが、構成型プロモーターであることが好ましい。何故ならば、ヌクレオチド配列(X)が特に構成的プロモーターとして機能し得るものである場合、本発明所定のヌクレオチド配列(Y)の存在により、アラビノース未添加時の基底下においては該ヌクレオチド配列(X)のプロモーター活性を厳密に抑制できると共に、アラビノースの添加という簡易な操作により該プロモーター活性の抑制状態を解除し、目的遺伝子の有意な発現を速やかに誘導できるからである。
【0056】
より具体的には、ヌクレオチド配列(X)は、コリネ型細菌を含む細菌における各種アミノ酸生合成系に関与する酵素遺伝子のプロモーター又はその誘導体(変異導入配列)であってもよい。より具体的には、グルタミン酸生合成系酵素遺伝子(例えばグルタミン酸脱水素酵素遺伝子)、グルタミン合成系酵素遺伝子(例えばグルタミン合成酵素遺伝子)、リジン生合成系酵素遺伝子(例えばアスパルトキナーゼ遺伝子)、スレオニン生合成系遺伝子(例えばホモセリン脱水素酵素遺伝子)、イソロイシン及びバリン生合成系酵素遺伝子(例えばアセトヒドロキシ酸合成酵素遺伝子)、ロイシン生合成系酵素遺伝子(例えば2-イソプロピルリンゴ酸合成酵素遺伝子)、プロリン及びアルギニン生合成系酵素遺伝子(例えばグルタミン酸キナーゼ遺伝子)、ヒスチジン生合成系酵素遺伝子(例えばホスホリボシル-ATPピロホスホリラーゼ遺伝子)、トリプトファン、チロシンおよびフェニルアラニン等の芳香族アミノ酸生合成系酵素遺伝子(例えばデオキシアラビノヘプツロン酸リン酸(DAHP)合成酵素遺伝子)、イノシン酸およびグアニル酸のような核酸生合成系酵素遺伝子(例えばホスホリボシルピロフォスフェート(PRPP)アミドトランスフェラーゼ遺伝子、イノシン酸脱水素酵素遺伝子及びグアニル酸合成酵素遺伝子)等の各プロモーター又はこれらの誘導体(変異導入配列)が挙げられる。
【0057】
更に、ヌクレオチド配列(X)は、細胞分裂に関与する因子をコードする遺伝子のプロモーターであってもよく、例えばdivIVA遺伝子のプロモーターが挙げられる。
更に、ヌクレオチド配列(X)として対数増殖期に作動するプロモーターも好ましく使用され、例えば、divIVA、gap、ldhA、fda、glyA、cysK、aroF、gpmA、eno、fumC、pfk、sdhA、mdh、argF、proA、proC、aceE、serA、metE、nifS1、tpi、aceD、cysD、sdhB、pck等の各種遺伝子のプロモーターが挙げられる。
【0058】
更に、ヌクレオチド配列(X)としては、trcプロモーター、tacプロモーター、T5プロモーター、T7プロモーター、lacプロモーター、trpプロモーター、tetプロモーター等の大腸菌発現システムにおいて利用される強力なプロモーター(strong promoter)も好ましく使用される。
その他、ヌクレオチド配列(X)としては、EF-Tsプロモーター、EF-Tuプロモーター、groESプロモーター、SODプロモーター、P15プロモーター、gapAプロモーター、dapAプロモーター、tufプロモーター、metEプロモーター、更に特許文献1~13に開示される各種プロモーターも使用できる。
【0059】
次に、ヌクレオチド配列(Y)について説明する。本発明に係る核酸における遺伝子発現制御配列(R)は、ヌクレオチド配列(X)に加えて、上記(a)又は(b)に記載のヌクレオチド配列(Y)を含む。
【0060】
(a)に記載のヌクレオチド配列は、配列番号5から12の何れか1つに記載のヌクレオチド配列である。これらのヌクレオチド配列は、コリネバクテリウム・グルタミカムのゲノムDNA上に存在するAraRタンパク質結合配列に由来するものである。それらのヌクレオチド配列を以下に示す。
(1) 5’-ATGTTAGCGCTAACAT-3’(配列番号5)
(2) 5’-ATGTGAGCGATAACAC-3’(配列番号6)
(3) 5’-ATGTGAGCGCTAACAC-3’(配列番号7)
(4) 5’-ATGTGAGCGCTAACTC-3’(配列番号8)
(5) 5’-ATGTGAGCGTTAAAAT-3’(配列番号9)
(6) 5’-ATGTGAGCGCTAAACT-3’(配列番号10)(BSE1)
(7) 5’-ATGTTAGCGCTGACAT-3’(配列番号11)
(8) 5’-ATGTGAGCGCTGACAT-3’(配列番号12)
(9) 5’-GTGTGAGCGCTAACAC-3’(配列番号17)
(10)5’-GTGTGAGCGATCACAC-3’(配列番号18)
【0061】
以下の実施例で示すとおり、配列番号5から12並びに配列番号17及び18の何れか1つに記載のヌクレオチド配列をヌクレオチド配列(Y)として採用した核酸(発現ベクター)をコリネ型細菌に導入した場合、アラビノース未添加の基底下においてはプロモーター活性を厳密に抑制することが可能であると共に、アラビノース添加により抑制状態を解除することによりプロモーター活性を有意に誘導させることができる。アラビノース未添加の状況においてプロモーター活性を信頼性良く抑制し、かつアラビノース添加により高いレベルでプロモーター活性を誘導し得る遺伝子発現制御効果を確保するためには、(a)及び(b)のヌクレオチド配列において以下の(i)から(vi)に規定のヌクレオチド配列を基準とすることが好ましい。
(i)配列番号5から8並びに配列番号10、11及び17の何れか1つに記載のヌクレオチド配列;
(ii)より好ましくは配列番号5から8、10及び17の何れか1つに記載のヌクレオチド配列;
(iii)更により好ましくは配列番号6から8、10及び17の何れか1つに記載のヌクレオチド配列;
(iv)更により好ましくは配列番号6、7、10及び17の何れか1つに記載のヌクレオチド配列;
(v)更により好ましくは配列番号6、7及び17の何れか1つに記載のヌクレオチド配列;
(vi)最も好ましくは配列番号17に記載のヌクレオチド配列。
更に加えて、上記遺伝子発現制御効果をより顕著なレベルで実現するためには、ヌクレオチド配列(Y)として上記(a)に規定のヌクレオチド配列を採用することが更により好ましく、それらヌクレオチド配列のうち上記(i)から(vi)の何れかに示すヌクレオチド配列を採用することがなお更に好ましく、(i)から(vi)に行くほどより高い効果が期待できる。
【0062】
本発明においては、ヌクレオチド配列(Y)として、上記(a)に規定されるヌクレオチド配列の他、遺伝子発現制御配列(R)が条件(I)を満たすことを前提として、上記(b)に規定されるヌクレオチド配列も採用され得る。
即ち、(b)に規定されるヌクレオチド配列とは、配列番号5から12並びに配列番号17及び18の何れか1つに記載のヌクレオチド配列において1又は複数の塩基が欠失、置換若しくは付加されたヌクレオチド配列である。
【0063】
ここで、「1又は複数」の範囲は、遺伝子発現制御配列(R)が条件(I)を満たす限り、特に限定されるものでもない。その範囲としては、例えば1から10個、1から9個、1から8個、好ましくは1から7個、より好ましくは1から6個、更により好ましくは1から5個、特に好ましくは1から4個、1から3個、1から2個、又は1個とすることができる。
【0064】
更に、特定の実施形態においては、ヌクレオチド配列(Y)は、以下に示す一般式(I)で表されるヌクレオチド配列である。
5’-N1TGTN2AGCGN3TN4AN5N6N7-3’・・・一般式(I)
【0065】
式中、N1、N2、N3、N4、N5、N6及びN7は、それぞれ、独立にA(アデニン)、G(グアニン)、C(シトシン)又はT(チミン)を示す。更に、N1は、A(アデニン)又はG(グアニン)であることが好ましく、N2は、G(グアニン)又はT(チミン)であることが好ましく、N3は、A(アデニン)、C(シトシン)又はT(チミン)であることが好ましく、N4は、A(アデニン)、C(シトシン)又はG(グアニン)であることが好ましく、N5は、A(アデニン)又はC(シトシン)であることが好ましく、N6は、A(アデニン)、C(シトシン)又はT(チミン)であることが好ましく、N7は、C(シトシン)又はT(チミン)であることが好ましい。但し、核酸がRNAの場合は、T(チミン)は、U(ウラシル)と読み替えるものとする。
【0066】
加えて、特定の実施形態においては、一般式(I)で表されるヌクレオチド配列においてN1からN7のヌクレオチドのうち任意の箇所(例えば1から3箇所又は1から2箇所)が欠失したヌクレオチド配列がヌクレオチド配列(Y)として採用され得る。更に、より具体的な実施形態においては、一般式(I)で表されるヌクレオチド配列においてN2及びN3のうち何れか1つ又はこれらの両方が欠失したヌクレオチド配列がヌクレオチド配列(Y)として採用してもよい。
【0067】
本発明の核酸において、ヌクレオチド配列(X)とヌクレオチド配列(Y)との位置関係は、遺伝子発現制御配列(R)が条件(I)を満たすものである限り特に限定されるものでもない。
例えば、ヌクレオチド配列(Y)がヌクレオチド配列(X)の5’末端に直接若しくは間接に連結されてもよく、又はヌクレオチド配列(Y)がヌクレオチド配列(X)の3’末端に直接若しくは間接に連結されてもよい。この場合、ヌクレオチド配列(Y)は、非翻訳領域や遺伝子間領域に存在してもよく、又は所定の遺伝子をコードする領域(オープンリーディングフレーム)内に存在してもよい。
更に加えて、ヌクレオチド配列(X)の少なくとも一部とヌクレオチド配列(Y)の少なくとも一部とが重複する実施形態も本発明に包含され得る。ヌクレオチド配列(X)の少なくとも一部とヌクレオチド配列(Y)の少なくとも一部とが重複する実施形態としては、具体的には以下が挙げられる。
i)ヌクレオチド配列(Y)全域がヌクレオチド配列(X)領域内に包含される形態;
ii)ヌクレオチド配列(Y)の3’側一部がヌクレオチド配列(X)の5’側一部と重複する形態;並びに
iii)ヌクレオチド配列(Y)の5’側一部がヌクレオチド配列(X)の3’側一部と重複する形態。
【0068】
上述の通りヌクレオチド配列(X)及び(Y)の位置関係は、特に限定されるものでもないが、上記所定の効果を信頼性良く生じせしめるためには、ヌクレオチド配列(Y)がヌクレオチド配列(X)の3’末端に直接又は間接に連結されていることが好ましい。
ここで、「ヌクレオチド配列(Y)がヌクレオチド配列(X)に間接に連結されている」、「ヌクレオチド配列(Y)の3’末端又は5’末端がヌクレオチド(Y)の5’末端又は3’末端に間接に連結されている」等の語句は、ヌクレオチド配列(X)とヌクレオチド配列(Y)とが1個のヌクレオチド又は複数のヌクレオチドからなる配列を介して連結されていることを意味する。「複数のヌクレオチドからなる配列」におけるヌクレオチドの個数は、遺伝子発現制御配列(R)が条件(I)を満たす限り特に限定されるものでもないが、例えば2から50個、好ましくは2から40個、より好ましくは2から35個、2から30個、2から25個、2から20個、2から15個、2から10個、更により好ましくは2から9個、2から8個、2から7個、2から6個、2から5個、2から4個、2から3個である。加えて、上記ヌクレオチド配列(X)とヌクレオチド配列(Y)とを連結する「複数のヌクレオチドからなる配列」は、特定の機能を有しない単なるリンカー配列であってもよいし、又は更なるプロモーター配列、リボソーム結合配列(シャイン・ダルガノ配列 ;SD配列)、他の転写調節配列や翻訳調節配列等の遺伝子発現調節機能を有する配列であってもよい。
【0069】
一方、「ヌクレオチド配列(Y)がヌクレオチド配列(X)に直接に連結されている」、「ヌクレオチド配列(Y)の3’末端又は5’末端がヌクレオチド(Y)の5’末端又は3’末端に直接に連結されている」等の語句は、字義どおりに理解されればよく、ヌクレオチド配列(X)とヌクレオチド配列(Y)とが、上記のような1又は複数の別のヌクレオチドを介さずに直接連結されていることを意味する。
【0070】
更に、ヌクレオチド配列(X)及びヌクレオチド配列(Y)はそれぞれ、本発明の核酸において1つずつ存在してもよく又はそれぞれ複数存在してもよい。更に加えて、ヌクレオチド配列(X)若しくはヌクレオチド配列(Y)が複数存在する場合にあっては、複数のヌクレオチド配列(X)若しくはヌクレオチド配列(Y)は互いに全く同一の配列を有するものであってもよいし、又は異なる配列を有するものであってもよい。
【0071】
次に、条件(I)について説明する。
本発明において遺伝子発現制御配列(R)が条件(I)を充足することの意義は、以下のとおりである。
【0072】
上述のとおり、本発明に係る核酸において、遺伝子発現制御配列(R)は、目的遺伝子の発現を制御するプロモーターとして機能するヌクレオチド配列(X)と、コリネ型細菌のゲノムDNAに存在するAraR結合配列に由来するヌクレオチド配列をヌクレオチド配列(Y)として含むものである。
【0073】
このようなヌクレオチド配列(X)及び(Y)の構成により、アラビノース濃度が基底レベル以下の環境下では、本発明所定の核酸が導入されたコリネ型細菌においてAraRタンパク質がヌクレオチド配列(Y)に結合した形態となり、その結果、ヌクレオチド配列(X)のプロモーター活性が抑制された状態になるものと推測される。ところが、一方、アラビノース濃度が基底レベルを超えた環境に該コリネ型細菌が暴露された場合、上記AraRタンパク質がアラビノースによるアロステリックな調節を受け、ヌクレオチド配列(Y)から解離することで、ヌクレオチド配列(X)のプロモーター活性が誘導され、目的遺伝子の発現が促進されるものと推測される。即ち、本発明に係る核酸を利用して目的遺伝子の発現を制御した場合に実際に観測される現象としては、アラビノース濃度が基底レベル以下の環境下では、ヌクレオチド配列(X)によるプロモーター活性が抑制された状態にあり、ヌクレオチド配列(X)のプロモーター活性の制御下にある所定の遺伝子の発現は、mRNAへの転写ないしタンパク質発現のレベルで抑制される。一方、アラビノース濃度が基底レベルを超えた環境においては該所定の遺伝子の発現は、mRNA転写ないしタンパク質発現のレベルで促進される。
従って、遺伝子発現制御配列(R)は、コリネ型細菌において、アラビノースを添加した場合に対してアラビノース未添加の場合にヌクレオチド配列(X)のプロモーター活性が抑制されること、と云う条件(I)を充足することが必要となる。
ここで、条件(I)の充足性は、以下に示すレポーターアッセイにより確認することができる。
【0074】
即ち、上述の如く構成した遺伝子発現制御配列(R)の3’末端にレポーター遺伝子をコードするヌクレオチド配列を連結してなるDNA断片が、コリネ型細菌において機能可能な発現ベクターの所定部位に導入されたDNA構築物を用意する。ここで、レポーター遺伝子としては、例えば、βガラクトシダーゼ遺伝子(LacZ)、β-グルクロニダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、各種蛍光タンパク質(例えば緑色蛍光タンパク質)等が挙げられる。より具体的には、配列番号80又は81に示すヌクレオチド配列を有する発現ベクタープラスミド等のように、遺伝子発現制御配列(R)の3’末端に直接又は間接にレポーター遺伝子をコードするヌクレオチド配列を連結してなるDNA断片が挿入されてなるDNA構築物、即ちレポータープラスミドを用意すればよい。このようなレポータープラスミドは、独自に構築してもよいし、又はレポーターアッセイ用に市販されている各種レポータープラスミドシステムを利用してもよい。
そして、このようなDNA構築物をコリネ型細菌に導入した形質転換体を得る。
上記形質転換体を、所定の濃度以上でアラビノースを含有する培地と、アラビノースが所定の濃度未満である培地とをそれぞれ用いて一定の時間培養し、培養液をそれぞれサンプリングする。サンプリングした培養液に由来する菌体それぞれについて、レポーター遺伝子のmRNAを定量PCR等の手法で定量し、又はレポーター遺伝子から発現したレポータータンパク質の活性を適宜測定する。前者の培養液サンプルについて測定したmRNAの発現量又はレポータータンパク質の活性値が後者の培養液サンプルについて測定されたものの何倍であるかを求めることにより、条件(I)の充足性を求めることができる。
【0075】
より具体的には、本発明において、条件(I)の充足性は、例えば以下の実施例に示すレポーターアッセイ法により確認することができる。
即ち、以下実施例の試験例1において使用したプラスミドベクターpGE728-1(配列番号80)において、レポーター遺伝子であるβガラクトシダーゼ遺伝子(LacZ)の上流に存在する、プロモーター配列(PtacI)とAraR結合配列とを連結させてなる領域(配列番号32)を、条件(I)の充足性について評価する対象の遺伝子制御配列(R)と交換し、得られたプラスミドベクターを用いてレポーターアッセイを行うことにより、当該遺伝子制御配列(R)の条件(I)の充足性について確認するのが好都合である。βガラクトシダーゼ遺伝子(LacZ)を利用したプロモーター活性の評価方法は、当業者において既に周知慣用のアッセイ系として確立されていることから、実験操作も容易でデータの信頼性及び再現性良いからである。
レポーターアッセイにおいて、アラビノース添加による誘導条件、培地組成、培養温度や培養時間等の培養条件等を含むアッセイ条件は、信頼性のあるプロモーター活性の比が得られるものであれば特に限定されるものでもなく、選択する遺伝子発現制御配列(R)の性質、用いるレポーター遺伝子の種類や性質、用いるコリネ型細菌の性質等を考慮し、アッセイ条件を適宜調整すればよい。
【0076】
より詳細には、βガラクトシダーゼ遺伝子(LacZ)アッセイは、例えばJ.Biol.Chem.,1995,270:11181-11189又はGenetics,2010,185:823-830に記載の手順に従い実施することができる。以下により具体的な手順を一例として示す。
【0077】
(1)コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032株に上記DNA構築物を導入することにより得た形質転換体を、所定量の液体培地(4%グルコース,25μg/mLカナマイシン)に植菌し、所定の温度でOD610=0.5~1.5(場合によりOD610=0.5~1)になるまで培養する。OD610=0.5~1.5(場合によりOD610=0.5~1)になったところで所定量の培養液を別の培養容器に移し、アラビノースを所定の終濃度となるように添加したものと、アラビノースを未添加のものを準備する。
(2)上記培養液をそれぞれ所定時間培養し、アラビノース誘導あり、なしの培養液をそれぞれサンプリングし、OD(610nm)を測定し、20μLを80μLの透過バッファー(100mM Na2HPO4,20mM KCl,2mM MgSO4,0.8mg/mL CTAB,0.4mg/mL デオキシコール酸ナトリウム,5.4μL/mLβメルカプトエタノール)と混ぜる。
(3)基質溶液(60mM Na2HPO4,40mM NaH2PO4,1mg/mL ONPG,2.7μL/mLβメルカプトエタノール)600μLと混合し、25℃でインキュベートする。
(4)1M Na2CO3700μLを加えて反応を停止させ、15,000g、5分間の遠心分離を行う。
(5)上清の吸光度(A420)を測定する。
(6)以下の式2に基づき、プロモーター活性としてミラー・ユニット(Miller Unit)を計算する。
1ミラー・ユニット=1000×(A420/t×V×OD610)・・・式(II)
式中、tは時間(分)を示し、Vは培養液(mL)を示す。
【0078】
なお、上記液体培地としては、例えば以下に示す組成を有する培地を使用できる。
酵母エキス2g、カザミノ酸1g、尿素2g、硫安7g、リン酸水素二カリウム0.5g、リン酸二水素カリウム0.5g、硫酸マグネシウム・7水和物0.5g、硫酸鉄・7水和物6mg、硫酸マンガン・1水和物4.2mg、ビオチン0.2mg、チアミン0.2mg(1Lあたり)。
【0079】
上述の通りアラビノースを添加した培養液について測定されたプロモーター活性値と、アラビノース未添加の培養液について測定されたプロモーター活性値とを比較することにより、アラビノース添加時に観測されるプロモーター活性に対してアラビノース未添加時に観測されるプロモーター活性が有意に抑制されたものと言える遺伝子発現制御配列(R)が、条件(I)を充足するものであり、本発明に係る核酸の構成要素たるヌクレオチド配列(Y)として採用され得る。
【0080】
ここで、遺伝子発現制御配列(R)は、アラビノースの添加等によりヌクレオチド配列(X)のプロモーター活性を誘導させた試料について測定されるプロモーター活性値が、対照となるアラビノース未添加の試料について測定されるプロモーター活性に対して少なくとも5倍高いものであることが好ましく、より好ましくは少なくとも10倍高く、更により好ましくは少なくとも15倍、20倍、25倍、30倍、35倍、40倍又は45倍高く、特に好ましくは少なくとも50倍、55倍、60倍、65倍、70倍、80倍、90倍、100倍又は150倍高いものである。
なお、ここで「アラビノース等を添加することによりプロモーター活性を誘導させる」と言う意味は、ヌクレオチド配列(Y)のみによってヌクレオチド配列(X)のプロモーター活性を制御している実施形態においては、アラビノースのみの添加により抑制の制御ができるが、ヌクレオチド配列(Y)に加えて別の遺伝子発現制御因子(例えばlacO)を利用している場合にはアラビノース添加に加えて該別の遺伝子発現制御因子による制御に必要な操作が必要となると言う意味である。
加えて、遺伝子発現制御配列(R)は、逆説的には、アラビノース未添加の対照試料について測定されるプロモーター活性値が、ヌクレオチド配列(X)のプロモーター活性を誘導させた試料について測定されるプロモーター活性値の1/5以下であることが好ましく、この場合、より好ましくは1/10以下、更により好ましくは1/15以下、1/20以下、1/25以下、1/30以下、1/35以下、1/40以下又は1/45以下、特に好ましくは1/50以下、1/55以下、1/60以下、1/65以下、1/70以下、1/80以下、1/90以下、1/100以下、又は1/150以下である。
【0081】
更に加えて、選択したレポーターアッセイの種類や測定条件等にもよるが、上記(1)から(6)の手順又は実施例に示されるレポーターアッセイの条件を採用した場合、アラビノース未添加の試料について測定されるプロモーター活性が10ミラー・ユニット以下であることが好ましい。更に、アラビノース未添加の試料について測定されるプロモーター活性の上限値としては、好ましくは9、より好ましくは8、7、6、5、4、特に好ましくは3.5、3.4、3.3、3.2、3.1、3.0、2.9、2.8、2.7、2.6、2.5、2.4、2.3、2.2、2.1、2.0、1.9、1.8、1.7、1.6、1.2、1.1、1.0である(単位はミラー・ユニット)。
【0082】
好ましい一の実施形態として、以下の(p)から(s)の何れかのヌクレオチド配列を含む遺伝子発現制御配列(R)を採用することができる。
(p)配列番号22から41の何れか1つに記載のヌクレオチド配列;
(q)(p)に記載のヌクレオチド配列において1又は複数の塩基が欠失、置換若しくは付加されたヌクレオチド配列;
(r)(p)に記載のヌクレオチド配列に対して相補であるヌクレオチド配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズするヌクレオチド配列;及び
(s)(p)に記載のヌクレオチド配列と少なくとも80%以上の配列同一性を有するヌクレオチド配列、
但し、核酸がRNAの場合は、ヌクレオチド配列中のチミン(t)をウラシル(u)と読み替えるものとする。
【0083】
配列番号22から41に示される各ヌクレオチド配列を以下に示す。
(1-1):5’-TTGACAATTAATCATCGGCTCGTATAATGTGTGGAATGTTAGCGCTAACAT-3’ (配列番号22)
(1-2):5’-TTGACAATTAATCATCGGCTCGTATAATGTGTGGAATGTGAGCGATAACAC-3’(配列番号23)
(1-3):5’-TTGACAATTAATCATCGGCTCGTATAATGTGTGGAATGTGAGCGCTAACAC-3’(配列番号24)
(1-4):5’-TTGACAATTAATCATCGGCTCGTATAATGTGTGGAATGTGAGCGCTAACTC-3’(配列番号25)
(1-5):5’-TTGACAATTAATCATCGGCTCGTATAATGTGTGGAATGTGAGCGTTAAAAT-3’(配列番号26)
(1-6):5’-TTGACAATTAATCATCGGCTCGTATAATGTGTGGAATGTGAGCGCTAAACT-3’ (配列番号27)
(1-7):5’-TTGACAATTAATCATCGGCTCGTATAATGTGTGGAATGTTAGCGCTGACAT-3’(配列番号28)
(1-8):5’-TTGACAATTAATCATCGGCTCGTATAATGTGTGGAATGTGAGCGCTGACAT-3’(配列番号29)
(1-9):5’-TTGACAATTAATCATCGGCTCGTATAATGTGTGGAGTGTGAGCGCTAACAC-3’(配列番号30)
(1-10):5’-TTGACAATTAATCATCGGCTCGTATAATGTGTGGAGTGTGAGCGATCACAC-3’(配列番号31)
【0084】
(1-11):5’-GAGCTGTTGACAATTAATCATCGGCTCGTATAATGTGTGGAATGTTAGCGCTAACAT-3’ (配列番号32)
(1-12):5’-GAGCTGTTGACAATTAATCATCGGCTCGTATAATGTGTGGAATGTGAGCGATAACAC-3’(配列番号33)
(1-13):5’-GAGCTGTTGACAATTAATCATCGGCTCGTATAATGTGTGGAATGTGAGCGCTAACAC-3’(配列番号34)
(1-14):5’-GAGCTGTTGACAATTAATCATCGGCTCGTATAATGTGTGGAATGTGAGCGCTAACTC-3’(配列番号35)
(1-15):5’-GAGCTGTTGACAATTAATCATCGGCTCGTATAATGTGTGGAATGTGAGCGTTAAAAT-3’(配列番号36)
(1-16):5’-GAGCTGTTGACAATTAATCATCGGCTCGTATAATGTGTGGAATGTGAGCGCTAAACT-3’ (配列番号37)
(1-17):5’-GAGCTGTTGACAATTAATCATCGGCTCGTATAATGTGTGGAATGTTAGCGCTGACAT-3’(配列番号38)
(1-18):5’-GAGCTGTTGACAATTAATCATCGGCTCGTATAATGTGTGGAATGTGAGCGCTGACAT-3’(配列番号39)
(1-19):5’-GAGCTGTTGACAATTAATCATCGGCTCGTATAATGTGTGGAGTGTGAGCGCTAACAC-3’(配列番号40)
(1-20):5’-GAGCTGTTGACAATTAATCATCGGCTCGTATAATGTGTGGAGTGTGAGCGATCACAC-3’(配列番号41)
【0085】
更に、別の好ましい実施形態として、以下の(t)から(s)の何れかのヌクレオチド配列を含む遺伝子発現制御配列(R)を採用することもできる。
(t)配列番号42から61の何れか1つに記載のヌクレオチド配列;
(u)(t)に記載のヌクレオチド配列において1又は複数の塩基が欠失、置換若しくは付加されたヌクレオチド配列;
(v)(t)に記載のヌクレオチド配列に対して相補であるヌクレオチド配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズするヌクレオチド配列;及び
(w)(t)に記載のヌクレオチド配列と少なくとも80%以上の配列同一性を有するヌクレオチド配列、
但し、核酸がRNAの場合は、ヌクレオチド配列中のチミン(t)をウラシル(u)と読み替えるものとする。
【0086】
配列番号42から61に示されるヌクレオチド配列を以下に示す。
(2-1):5’-TTGACAATTAATCATCGAACTAGTTTAATGTGTGGAATGTTAGCGCTAACAT-3’ (配列番号42)
(2-2):5’-TTGACAATTAATCATCGAACTAGTTTAATGTGTGGAATGTGAGCGATAACAC-3’(配列番号43)
(2-3):5’-TTGACAATTAATCATCGAACTAGTTTAATGTGTGGAATGTGAGCGCTAACAC-3’(配列番号44)
(2-4):5’-TTGACAATTAATCATCGAACTAGTTTAATGTGTGGAATGTGAGCGCTAACTC-3’(配列番号45)
(2-5):5’-TTGACAATTAATCATCGAACTAGTTTAATGTGTGGAATGTGAGCGTTAAAAT-3’(配列番号46)
(2-6):5’-TTGACAATTAATCATCGAACTAGTTTAATGTGTGGAATGTGAGCGCTAAACT-3’ (配列番号47)
(2-7):5’-TTGACAATTAATCATCGAACTAGTTTAATGTGTGGAATGTTAGCGCTGACAT-3’(配列番号48)
(2-8):5’-TTGACAATTAATCATCGAACTAGTTTAATGTGTGGAATGTGAGCGCTGACAT-3’(配列番号49)
(2-9):5’-TTGACAATTAATCATCGAACTAGTTTAATGTGTGGAGTGTGAGCGCTAACAC-3’(配列番号50)
(2-10):5’-TTGACAATTAATCATCGAACTAGTTTAATGTGTGGAGTGTGAGCGATCACAC-3’(配列番号51)
【0087】
(2-11):5’-GAGCTGTTGACAATTAATCATCGAACTAGTTTAATGTGTGGAATGTTAGCGCTAACAT-3’ (配列番号52)
(2-12):5’-GAGCTGTTGACAATTAATCATCGAACTAGTTTAATGTGTGGAATGTGAGCGATAACAC-3’(配列番号53)
(2-13):5’-GAGCTGTTGACAATTAATCATCGAACTAGTTTAATGTGTGGAATGTGAGCGCTAACAC-3’(配列番号54)
(2-14):5’-GAGCTGTTGACAATTAATCATCGAACTAGTTTAATGTGTGGAATGTGAGCGCTAACTC-3’(配列番号55)
(2-15):5’-GAGCTGTTGACAATTAATCATCGAACTAGTTTAATGTGTGGAATGTGAGCGTTAAAAT-3’(配列番号56)
(2-16):5’-GAGCTGTTGACAATTAATCATCGAACTAGTTTAATGTGTGGAATGTGAGCGCTAAACT-3’ (配列番号57)
(2-17):5’-GAGCTGTTGACAATTAATCATCGAACTAGTTTAATGTGTGGAATGTTAGCGCTGACAT-3’(配列番号58)
(2-18):5’-GAGCTGTTGACAATTAATCATCGAACTAGTTTAATGTGTGGAATGTGAGCGCTGACAT-3’(配列番号59)
(2-19):5’-GAGCTGTTGACAATTAATCATCGAACTAGTTTAATGTGTGGAGTGTGAGCGCTAACAC-3’(配列番号60)
(2-20):5’-GAGCTGTTGACAATTAATCATCGAACTAGTTTAATGTGTGGAGTGTGAGCGATCACAC-3’(配列番号61)
【0088】
上記配列(1-1)から(1-20)及び(2-1)から(2-20)において下線部の配列がヌクレオチド配列(Y)に相当し、それ以外の5’上流領域はヌクレオチド配列(X)に相当する。
(1-1)から(1-20)に示す遺伝子発現制御配列(R)におけるヌクレオチド配列(Y)はそれぞれ順に、配列番号5から12並びに配列番号17及び18に示すヌクレオチド配列に相当する。(2-1)から(2-20)に示す遺伝子発現制御配列(R)におけるヌクレオチド配列(Y)もそれぞれ順に、配列番号5から12並びに配列番号17及び18に示すヌクレオチド配列に相当する。
【0089】
一方、(1-1)から(1-10)に示す配列におけるヌクレオチド配列(X)は、エシェリキア・コリ(大腸菌)における発現システムで頻繁に使用されるPtacIの-35ボックス、-10ボックス及び転写開始部位(+1)を包含するコア配列であり、プロモーター活性の発現に必要十分と考えられる配列である(Li et al.Microbial Cell Factories 2012,11:19)。これに対して、(1-11)から(1-20)に示す遺伝子制御配列(R)におけるヌクレオチド配列(X)は、当業者において一般的に認識されているPtacI配列において転写開始部位(+1)から上流の全域を含む配列に相当し、上記コア配列の5’末端に6個のヌクレオチドが更に付加されたものである(Proc.Natl. Acad.Sci.USA,Vol.80,pp.21-25,January 1983)。
【0090】
ヌクレオチド配列(X)としてPtacI(配列番号1又は2)を用いた場合、実施例に示されるとおり特に効率的な目的遺伝子の発現制御が可能となることから、上記(p)から(s)に示すヌクレオチド配列を遺伝子発現制御配列(R)として利用することは好ましい。
【0091】
しかしながら、PtacIのみならず、PtacII(配列番号3又は4)をヌクレオチド配列(X)として使用することも好ましく、この場合、より具体的には上記(t)から(w)に示すヌクレオチド配列を含む遺伝子発現制御配列(R)を採用することが好ましい。上記(t)に規定される上記(2-1)から(2-10)に示す配列におけるヌクレオチド配列(X)は、エシェリキア・コリ(大腸菌)における発現システムでしばしば使用されるPtacIIの-35ボックス、-10ボックス及び転写開始部位(+1)を包含するコア配列であり、プロモーター活性の発現に必要十分と考えられる配列だからである(上記文献参照。)。更に、(2-11)から(2-20)に示す配列におけるヌクレオチド配列(X)は、当業者において一般的に認識されているPtacII配列において転写開始部位(+1)から上流の全域を含む配列(上記コア配列の5’末端に6個のヌクレオチドが更に付加されたもの)であり、PtacIと同様に高いプロモーター活性を発現し得えるからである(上記文献参照。)。
【0092】
更に、別の好ましい実施形態として、以下の(h)から(k)の何れかのヌクレオチド配列を含む遺伝子発現制御配列(R)を採用することもできる。
(h)配列番号96から102の何れか1つに記載のヌクレオチド配列;
(i)(h)に記載のヌクレオチド配列において1又は複数の塩基が欠失、置換若しくは付加されたヌクレオチド配列;
(j)(h)に記載のヌクレオチド配列に対して相補であるヌクレオチド配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズするヌクレオチド配列;及び
(k)(h)に記載のヌクレオチド配列と少なくとも80%以上の配列同一性を有するヌクレオチド配列、
但し、核酸がRNAの場合は、ヌクレオチド配列中のチミン(t)をウラシル(u)と読み替えるものとする。
【0093】
配列番号96から102に示す各ヌクレオチド配列は、ヌクレオチド配列(X)として、それぞれ順に、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13031株ゲノム上に存在するtufプロモーター、dapAプロモーター、metEプロモーター、ldhAプロモーター、gapAプロモーター、sodプロモーター、及びtufプロモーターのヌクレオチド配列を含み、かつヌクレオチド配列(Y)として配列番号5に示すヌクレオチド配列を含む。なお、配列番号102に係るヌクレオチド配列は、同じくtufプロモーターを採用した配列番号96に係るヌクレオチド配列に対して、tufプロモーターへのAraR結合配列の連結部位を変えたものであり、より詳細には、推定転写領域5’末端側部位をAraR結合配列の5’末端側領域にオーバーラップさせたものである。
【0094】
更に、更なる別の実施形態として、上記(h)から(k)によって特定される実施形態について、(h)に係る配列番号96から102の何れか1つに記載のヌクレオチド配列におけるヌクレオチド配列(X)の領域(即ち、配列番号5に係るヌクレオチド配列部分)が、配列番号6から12並びに配列番号17及び18の何れか1つに記載のヌクレオチド配列で置換された各種変形例を包含する実施形態(V)が挙げられる。
【0095】
上述の各実施形態における(q)、(u)及び(i)にそれぞれ示すヌクレオチド配列並びにそれらに相応のその他ヌクレオチド配列において、「1又は複数」の範囲は、遺伝子発現制御配列(R)が条件(I)を満たす限り、特に限定されるものでもない。その範囲としては、例えば1から40個、1から35個、1から30個、1から30個、1から25個、1から20個、1から18個、1から15個、1から12個、1から10個、好ましくは1から9個、1から8個、1から7個、より好ましくは1から6個、更により好ましくは1から5個、特に好ましくは1から4個、1から3個、1から2個、又は1個とすることができる。
【0096】
更に、上述の各実施形態における(r)、(v)及び(j)にそれぞれ示すヌクレオチド配列並びに本発明におけるその他ヌクレオチド配列について、「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列」とは、具体的には、コロニー・ハイブリダイゼーション法、プラーク・ハイブリダイゼーション法、あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法等の核酸ハイブリダイゼーション法において(p)、(t)又は(h)に記載のヌクレオチド配列等の基準とするヌクレオチド配列に対して相補であるヌクレオチド配列と相補的な複合体を形成するヌクレオチド配列を意味する。ここで、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件としては、6M 尿素、0.4%SDS、0.5×SSCの条件、または0.1%SDS(60℃、0.3mol NaCl、0.03M クエン酸ソーダ)のハイブリダイゼーション条件、あるいはこれらと同等のストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件を指す。よりストリンジェンシーの高い条件、例えば、6M 尿素、0.4%SDS、0.1×SSCの条件下では、より相同性の高いヌクレオチド配列を特定することができる。
【0097】
更に、(s)、(w)及び(k)に示すヌクレオチド配列はそれぞれ、(p)、(t)及び(h)に記載のヌクレオチド配列と少なくとも約80%以上の配列同一性を有するヌクレオチド配列である。更に、(s)、(w)及び(k)に示すヌクレオチド配列としては、(p)、(t)及び(h)にそれぞれ記載のヌクレオチド配列に対して少なくとも約85%以上の配列同一性を有するヌクレオチド配列であることが好ましく、より好ましくは約90%以上の配列同一性を有するヌクレオチド配列であり、更に好ましくは約91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上の配列同一性を有するヌクレオチド配列である。
なお、これらの事項は、上述の変形例に係る実施形態(V)にも同様に適用され得るものであり、これらの事項が実施形態(V)に適用された特定の変形例も、本明細書に明確に開示されるものである。
【0098】
加えて、本発明に係る核酸における遺伝子発現制御配列(R)は、ヌクレオチド配列(X)及び(Y)に加えて、他の遺伝子発現調節配列を更に含むものであってもよい。このような他の遺伝子発現調節配列としては例えば、lacオペレーター等の更なる転写調節配列、リボソーム結合配列(シャイン・ダルガノ配列 ;SD配列)等の翻訳調節配列等が挙げられる。
本発明に係る核酸が特に発現カセット、発現ベクター等の形態で提供される実施形態においては、例えば以下(3-1)から(3-6)に示すSD配列を含んでもよい。
(3-1)5’-AGGA-3’
(3-2)5’-GGT-3’
(3-3)5’-GAAGGATT-3’
(3-4)5’-GAAAGGAGG-3’
(3-5)5’-GAAGGCGA-3’
(3-6)5’-GAAGGAGA-3’
【0099】
SD配列の位置は、本発明所望の効果が得られる限り特に限定されるものでもない。ヌクレオチド配列(X)及び(Y)による目的遺伝子の発現制御効果をより確実に生じせしめる観点からすれば、SD配列は、ヌクレオチド配列(Y)の3’末端と開始コドンとの間に存在することが好ましく、この場合、SD配列は、ヌクレオチド配列(Y)の3’末端に直接又は間接に連結される。
【0100】
加えて、本発明に係る遺伝子制御配列(R)において、特に(3-1)に示すSD配列を採用することが好ましい。(3-1)に示すSD配列は、PtacI及びPtacIIに組合されるSD配列であり、以下の実施例にも示される通り、アラビノースを利用した目的遺伝子の厳密な遺伝子発現制御を確実なものとし、かつタンパク質発現レベルで高い遺伝子発現量も約束できるからである。
より具体的には、上記(p)から(s)に係る実施形態、上記(t)から(w)に係る実施形態、上記(h)から(k)に係る実施形態、並びに上記変形例に係る実施形態(V)において、(p)、(t)及び(h)それぞれに規定されるヌクレオチド配列を、当該ヌクレオチド配列の3’末端に以下の(4-1)に示す配列が直接連結されてなるヌクレオチド配列とそれぞれ読み替えることによる実施形態が挙げられる。
(4-1)5’-TCACACAGGA-3’(配列番号62)
【0101】
更に、本発明に係る核酸が、特に発現カセット又はベクターの形態で提供される実施形態においては、当該核酸は、細菌(特にエシェリキア・コリ及び/又はコリネ型細菌)において機能し得るターミネーター(転写終結シグナル)(例えばTrrnB、TGroEL、Ttrp、TT7)を更に含んでもよい。ターミネーターの位置は、本発明所望の効果が得られる限り特に限定されるものでもないが、一般的にはヌクレオチド配列(Y)又はSD配列の3’末端にターミネーターが直接又は間接に連結され得る。更に具体的には、ヌクレオチド配列(Y)又はSD配列の3’末端にクローニング部位が設けられている場合には、該クローニング部位の3’末端にターミネーターが直接又は間接に連結され得る。更に加えて、ヌクレオチド配列(Y)又はSD配列の3’末端に目的遺伝子コード領域が連結されている実施形態においては、目的遺伝子コード領域の3’末端にターミネーターが直接又は間接に連結され得る。
【0102】
更に、本発明に係る核酸は、任意に、araEタンパク質及びaraRタンパク質のうち少なくとも1つをコードするヌクレオチド配列を更に含んでいても良い。菌体内においてaraEタンパク質及びaraRタンパク質が強制的に発現されると、アラビノース添加による遺伝子発現制御の確実性及び厳密性を担保できるからである。
上述のとおりヌクレオチド配列(Y)がコリネバクテリウム・グルタミカムのゲノムDNAに存在するAraR結合配列に由来するものであることを考慮すると、コリネ型細菌、好ましくはコリネバクテリウム属菌、より好ましくはコリネバクテリウム・グルタミカムのゲノムDNAに存在するaraE遺伝子コード配列及びaraR遺伝子コード配列の少なくとも1つが挿入された核酸(DNA)であることが好ましい。
【0103】
更に、本発明に係る核酸は、少なくとも1つの複製起点、選択マーカー遺伝子、クローニング部位及び制限酵素認識部位からなる群から選択される1種以上のヌクレオチド配列を更に含むものであってもよい。複製起点及び選択マーカー遺伝子は、細菌全般又は複数種の細菌において機能可能なものであってもよく、又は特定の菌種において機能可能なものであってもよい。例えば、以下の何れか1つ以上を含むものが挙げられる。
(1)コリネ型細菌においてのみ機能可能な複製起点及び/又は選択マーカー遺伝子コード配列;
(2)エシェリキア属菌(例えばエシェリキア・コリ)においてのみ機能可能な複製起点及び/又は選択マーカー遺伝子コード配列;並びに
(3)コリネ型細菌及びエシェリキア属菌の両方において機能可能な複製起点及び/又は選択マーカー遺伝子コード配列。
【0104】
更に、本発明に係る核酸は、コリネ型細菌やエシェリキア属菌を含む細菌において自律複製可能なプラスミドとして提供され得る。更に加えて、本発明に係る核酸は、発現ベクターとして提供され得る。
本発明に係る核酸は、例えば、コリネ型細菌とエシェリキア属菌との両方で自律複製可能であり、更にコリネ型細菌において目的遺伝子を発現させることができるシャトル発現ベクターの形態で提供されるものであってもよい。
【0105】
更に、本発明に係る核酸は、ヌクレオチド配列(Y)の3’末端に直接又は間接に連結され、かつ目的遺伝子をコードするヌクレオチド配列(Z)を更に含むものであっても良い。ただし、上述のとおり本発明に係る核酸においてヌクレオチド配列(Z)は必須の構成要素ではない。
【0106】
更に、本発明の第5の態様によれば、以下の核酸も提供される。
コリネ型細菌において目的遺伝子の発現制御に用いるための核酸断片であって、
以下の(a)又は(b)に記載のヌクレオチド配列(Y)を含む、核酸断片:
(a)配列番号5から9、11及び12並びに配列番号17及び18の何れか1つに記載のヌクレオチド配列;
(b)上記(a)に記載のヌクレオチド配列において1又は複数の塩基が欠失、置換若しくは付加されたヌクレオチド配列、
但し、
核酸がRNAの場合は、ヌクレオチド配列中のチミン(t)をウラシル(u)に読み替えるものとし、
ヌクレオチド配列(Y)として配列番号10、20及び21それぞれに示されるヌクレオチド配列は除外され、かつヌクレオチド配列(Y)は以下の条件(II)を満たすものとする、
条件(II):配列番号80に示すプラスミドベクターpGE728-1のヌクレオチド配列における第2913番目から第2928番目までのヌクレオチド配列を上記ヌクレオチド配列(Y)と入れ替えたプラスミドベクターで形質転換されたコリネ型細菌において、アラビノースを添加した場合に対してアラビノース未添加の場合にPtacIのプロモーター活性が抑制される。
ここで、PtacIのプロモーター活性が1/8以下に抑制されることが好ましく、より好ましくは1/9以下、1/10以下、1/15以下、1/20以下、1/25以下、更により好ましくは1/30以下、1/35以下、1/40以下、1/45以下、特に好ましくは1/50以下、1/55以下、1/60以下、1/65以下、1/70以下、1/80以下、1/90以下、1/100以下、又は1/150以下である。
ところで、配列番号10、20及び21に示されるヌクレオチド配列は、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC31831株のゲノムDNA上に存在するアラビノース遺伝子群の遺伝子間領域に存在する天然のAraR結合配列(それぞれBSE1、BSE2、BSB)に相当する(非特許文献6)。
【0107】
上記第5の態様に係る核酸を規定する各用語については、第1の態様に係る核酸について説明した通りであり、第1の態様に係る核酸について示した上記実施形態ないし特徴は、特に齟齬を生じない限り第5の態様に係る核酸においても採用され得るものであり、それら実施形態ないし特徴の各種組合せは第5の態様に係る核酸において採用し得る実施形態として本明細書に開示されるものである。
更に、第5の態様に係る核酸も、以下に示す更なる態様においても利用され得る。
【0108】
〔核酸が導入された細菌〕
更に本発明の第2の態様によれば、本発明に係る核酸が導入された細菌が提供される。
本発明に係る核酸が導入された細菌の種類は、特に限定されるものでもないが、エシェリキア属菌や上述のコリネ型細菌(好ましくはコリネバクテリウム属菌)が挙げられる。
本発明に係る核酸が導入された細菌はコリネ型細菌に由来するaraEタンパク質及びaraRタンパク質をそれぞれコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列を含む核酸がこれらタンパク質を発現可能にゲノムDNAに組み込まれたものであってもよい。この場合、当該細菌に導入される本発明に係る核酸は、具体的には遺伝子発現制御配列(R)(ヌクレオチド配列(Y))の3’下流に目的遺伝子をコードするヌクレオチド配列(Z)が連結されたものであり得る。菌体内においてaraEタンパク質及びaraRタンパク質が強制的に発現されると、上述のアラビノース添加による目的遺伝子の発現制御がより確実かつ効率よく実現されるからである。なお、上述のとおりホストのゲノムDNAにaraEタンパク質及びaraRタンパク質をそれぞれコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列が組み込まれた実施形態においては、本発明に係る核酸は、同様にaraEタンパク質及びaraRタンパク質をそれぞれコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列を含まずともよいし、又は該少なくとも1つのヌクレオチド配列を含むものであってもよい。
【0109】
〔目的遺伝子の発現方法及び目的物質の生産方法〕
本発明の第3の態様によれば、上記本発明の核酸が導入された細菌をアラビノース又はそのアナログに暴露することにより目的遺伝子を発現させることを含む、目的遺伝子の発現方法が提供される。
更に、本発明の第4の態様によれば、上記本発明の核酸が導入された細菌をアラビノース又はそのアナログに暴露することにより目的遺伝子を発現させることを含む、目的物質の生産方法が提供される。
なお、以下、本発明の第3及び第4の態様に係る方法を、まとめて本発明の方法と呼ぶことがある。
【0110】
本発明の方法における「細菌をアラビノース又はそのアナログに暴露する」の具体的な態様としては、プロモーター活性が誘導される限り特に限定されるものでもないが、例えば、本発明の細菌を培養する工程において培地にアラビノースを添加することにより該細菌をアラビノースに暴露するものであってもよい。
この場合、培地におけるアラビノース又はそのアナログの濃度は、プロモーター活性が誘導される限り特に限定されるものでもないが、例えば、0.001%以上、好ましくは0.005%以上、より好ましくは0.007%、更により好ましくは0.008%以上、0.009%以上、特に好ましくは0.01%以上、0.015%以上、0.018%以上である。加えて、アラビノース又はそのアナログの濃度の上限値も、プロモーター活性が誘導される限り特に限定されるものでもないが、コストを考慮すると5%以下、好ましくは3%以下、より好ましくは2.5%以下である。これらの上限値と下限値を任意に組み合せた数値範囲は、プロモーター活性の誘導時のアラビノース又はそのアナログの濃度の範囲として本明細書に開示されるものであり、本発明の特定の実施形態において採用され得る。
なお、本発明においてアラビノースは、より具体的にはL-アラビノースである。
更に加えて、本発明において、アラビノースのアナログ(「そのアナログ」)とは、本発明に係る核酸における遺伝子制御配列(R)(ヌクレオチド配列(Y))の存在下においてアラビノースと同様の遺伝子発現制御の挙動を示し、かつアラビノースの基本骨格を有しつつもアラビノースの化学構造における一部の原子又は原子団がアラビノースのそれとは異なる原子又は原子団と置換されてなる化合物を言う。
【0111】
更に、アラビノース添加によるプロモーター活性の誘導時間(例えば、アラビノース存在下における培養時間)は、所望のプロモーター活性の発現が得られるよう適宜調整すれば足り、特に限定されるものでもないが、例えば0.5~48時間、好ましくは1~24時間、より好ましくは1~12時間、1~6時間とすることができる。特定の実施形態においては、以下の実施例にも示されるとおり極めて短い時間で十分なプロモーター活性の上昇と目的遺伝子の発現量とを確保できることから、効率性/生産性並びに経済性に優れたバイオプロセスを実現できる。
【0112】
ところで、コリネ型細菌やエシェリキア属菌等の細菌の形質転換体を利用した各種遺伝子の発現方法や各種物質の生産方法は知られており、例えば上述の特許文献1から13及び非特許文献1から7にも様々なプロセスが記載されている。
本発明をそれら公知のプロセスに適用すれば、より効率的な物質の生産が可能であり、それら公知のプロセスにおいて本発明を適用することにより得られる核酸、形質転換体、及びそのプロセスも本発明に包含される。ただし、本発明は公知のプロセスに本発明を適用した場合に限定されるものでもなく、本発明を適用したプロセス全般が本発明に係る方法に包含されることは言うまでもない。
なお、本明細書実施例に示すプロセスの例からも、本発明に係る核酸が各種遺伝子の発現方法や目的物質の生産方法に適用可能であることは明らかである。
特に第4の態様に係る目的物質の生産方法においては、目的遺伝子の翻訳産物であるタンパク質そのものを目的物質として生産するものであってもよいし、又は目的遺伝子の翻訳産物であるタンパク質が菌体内で産生される結果、副次的に生成される物質(例えば代謝産物)を目的物質として生産するものであってもよい。後者の場合、目的遺伝子の翻訳産物であるタンパク質としては、例えば酵素が挙げられ、菌体内において発現した組換え酵素により代謝が進み目的物質が産生され得る。
【0113】
上述の如き構成を有する本発明の核酸は、例えばコリネ型細菌やエシェリキア属菌を含む各種細菌が有するゲノムDNA又はプラスミドDNA並びにこれら細菌に感染し得る各種バクテリオファージが有するゲノム核酸、人工的に設計したヌクレオチド配列を有する核酸断片等の資源を材料として用い、各種クローニング技術や変異導入技術を含む遺伝子工学技術/分子生物学的手法に基づいて製造することができる。各種クローニング技術や変異導入技術を含む遺伝子工学技術/分子生物学的手法については、例えばMolecular Cloning: A Laboratory Manual, Fourth Edition (3-Volume Set) Cold Spring Harbor Laboratory Pr等を参照することができ、当業者においては本明細書の開示を参照した上でこのような公知技術を用いて本発明に係る核酸を製造することができる。加えて、本発明に係る核酸は、その一部又は全てが化学合成により製造されてもよい。本発明に係る細菌についても、本明細書の開示内容並びに各種遺伝子工学技術/分子生物学的手法を参照することにより作製することができる。なお、本発明に係る核酸/細菌及びこれらの製造方法、並びに本発明に係る方法の一例が、以下の実施例に示される。
【0114】
以上、本発明の具体的な実施形態について詳述したが、言うまでもなく本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨から逸脱しない範囲において各構成、要素及び特徴について種々の改変、修正、組合せが採用され得る。
なお、本発明において「含む」及び「有する」の語はそれぞれ、特に断わりのない限り、これらの語が目的語として言及する要素以外の要素の存在を排除するものではなく、これらの用語は混用される。
【実施例】
【0115】
[試験例1]
試験例1は、araE遺伝子及びaraR遺伝子、並びに本発明に係る遺伝子制御配列(R)と目的遺伝子(レポーター遺伝子)が導入された発現ベクターをコリネ型細菌に導入し、該目的遺伝子(レポーター遺伝子)の発現を制御した例を示す。
以下、試験手順の詳細を示す。
【0116】
1.各種発現ベクターの作製
以下の手順で、各種コリネ型細菌/大腸菌(E.coli)シャトルベクターを作製した。
【0117】
(1)pGEK003(KanR/pUCori/pCG1ori)の構築
pHSG298(タカラバイオ)をテンプレートとし、カナマイシン耐性遺伝子(KanR)並びに大腸菌用複製起点pUCori(高コピー数)をそれぞれ含むDNA断片をPCR法により増幅した。
更に、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13058(NBRC12169)株が保持するプラスミドpCG1をテンプレートとしてコリネバクテリウム用複製起点pCG1oriを含むDNA断片をPCR法により増幅した。
KanR、pUCori並びにpCG1oriについてPCR法により増幅させた領域のヌクレオチド配列をそれぞれ配列番号63、64及び65に示す。
加えて、pCG1は、上記菌株から常法に従い抽出したものである。
【0118】
次いで、In-Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ)を用い、上記DNA断片をKanR/pUC ori/pCG1 oriの順序で環状に連結することにより、プラスミドベクターpGEK003を作製した。
【0119】
(2)pGEK008(PldhA-rrnBter/KanR/pUCori/pCG1ori)の構築
pGEK003をBamHI及びEcoRVで切断し、直鎖状DNA断片を得た。なお、この直鎖状DNA断片は、pCG1oriとKanRとの間の領域にある上記制限酵素の認識部位で切断されたものである。
次いで、In-Fusion HD Cloning Kitを用い、別途PCR法により増幅させたPldhA断片及びrrnBter断片と、上記pGEK003切断断片とを環状となるように連結させ、プラスミドベクターpGEK008を取得した。
なお、pGEK008においては、PldhA-rrnBter/KanR/pUCori/pCG1oriがこの順に並んでいる。
加えて、上記PldhA断片の増幅ではコリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032株ゲノムDNAをテンプレートとして用い、上記rrnBter断片の増幅ではプラスミドベクターpFLAG-CTC(シグマ)をテンプレートとして用いた。これら増幅断片のヌクレオチド配列をそれぞれ配列番号66及び67に示す。
【0120】
(3)pGEK020(PldhA-lacZ-rrnBter/KanR/pUCori/pCG1ori)の構築
pGEK008をNdeI及びBamHIで切断し、直鎖状DNA断片を得た。なお、この直鎖状DNA断片は、PldhAとrrnBterとの間の領域にある上記制限酵素の認識部位で切断されたものである。
更に、後述のテンプレートを用い、別途PCR法によりLacZ遺伝子断片(LacZ断片)を増幅させた。この際、プライマーペアーにはそれぞれアダブター配列としてNdeIサイト及びBamHIサイトを挿入し、増幅させたLacZ断片を同様にNdeI及びBamHIで切断した。次いで、In-Fusion HD Cloning Kitを用い、上記pGEK008切断断片と上記LacZ断片を環状となるように連結させ、プラスミドベクターpGEK020を取得した。
このpGEK020においては、PldhA-lacZ-rrnBter/KanR/pUCori/pCG1oriがこの順に並んでいる。
加えて、上記LacZ遺伝子断片の増幅では出願人所有するプラスミドベクターをテンプレートとして用いた。この出願人所有のプラスミドベクターにおいて増幅させたLacZ遺伝子領域は、pSV-β-Galactosidase Control Vector(プロメガ)に由来するものであり、同ベクターのLacZ遺伝子コード領域と同一のヌクレオチド配列を含むものである。
レポーター遺伝子又は目的遺伝子としてLacZ遺伝子として利用する場合、大腸菌ゲノムDNA又はlacZ遺伝子コード領域を含む市販のプラスミド(例えば上記プラスミドベクター)を入手し、LacZ遺伝子コード領域をクローニングしてもよい。
上記増幅させたLacZ遺伝子断片のヌクレオチド配列を配列番号68に示す。
【0121】
(4)pGEK030(MCS-lacZ-rrnBter/KanR/pUCori/pCG1ori)の構築
pGEK020をNdeI及びNotIで切断し、pCG1oriからPldhAまでの領域を除去した直鎖状DNA断片を取得した。
部分的に相補の合成オリゴヌクレオチド(配列番号69及び70)をアニーリングさせることにより構成したマルチクローニングサイト(MCS;AgeI-SpeI-KpnI-NheI-XhoI-NdeI)と、pGEK020をテンプレートとしてPCR法により増幅させたpCG1ori断片と、上記直鎖状DNA断片とをGibson Assembly Cloning Kit (New England Biolabs Japan)を用いて環状となるように連結させ、プラスミドベクターpGEK030を取得した。
このpGEK030においては、MCS-lacZ-rrnBter/KanR/pUCori/pCG1oriがこの順に並んでいる。
なお、上記増幅させたpCG1ori断片のヌクレオチド配列を配列番号71に示す。
【0122】
(5)pGEK094(Ptac-lacZ-rrnBter/KanR/pUCori/pCG1ori)の構築
pGEK094の構築には、pGEK020のMCSに別要素を導入してなる別のプラスミド(以下、派生プラスミド)を材料として用いたが、派生プラスミドとGEK020との違いは単にMCSに別要素が挿入されているか否かにあり、該別要素はpGEK094を作製するに際し派生プラスミドを以下のとおりKpnI及びNdeIで処理することにより削除されるものである。結果的に、本手順(5)において構築したpGEK094は、pGEK020のMCSにおけるKpnIサイトとNdeIサイトとの間に以下に説明のPtac断片が挿入されたものに同等である。従って、pGEK094の構築に実際に使用した派生プラスミドの作製工程の詳細は省略する。
更に、Ptac断片は、出願人所有のプラスミドベクターをテンプレートとしてPCR法により増幅させることにより取得したものであるが、同プラスミドベクターにおけるPtac領域は、市販のプラスミドベクターpFLAG-CTC(シグマ)に由来するものである。従って、pFLAG-CTC(シグマ)をテンプレートとしてPtac断片を増幅させることができる。実際に増幅させたPtac断片のヌクレオチド配列を配列番号72に示す。
そして、上記派生プラスミドをKpnIとNdeIとで切断することにより取得した直鎖状DNA断片と増幅させたPtac断片とをGibson Assembly Cloning Kitを用いて環状となるように連結させ、pGEK094を取得した。
【0123】
(6)pGEK122(rrnBT1ter-T7ter-T7Uter-lacI/Ptac-lacZ-PldhA/KanR/pUCori/pCG1ori)の構築
大腸菌(DH5α)ゲノムDNAをテンプレートとしPCR法によりlacI遺伝子断片を増幅させた。加えて、T7ターミネーター配列を保持するプラスミドベクター(出願人所有のもの)をテンプレートとし、PCR法によりT7ターミネーター断片(T7Uter-T7ter-rrnBT1ter)(ACS Synth Biol. 2015 Mar 20;4(3):pp265-273を参照)を増幅させた。増幅させたT7ターミネーター断片のヌクレオチド配列を配列番号73に示す。本試験例で用いたT7ターミネーターのヌクレオチド配列は、T7Uter-T7ter-rrnBT1terの要素がこの順序に連結されており、上記文献に開示のものと該要素の順序が異なる。加えて、各要素の間に存在するリンカー配列も上記文献に開示されるものと異なる。
lacI遺伝子については、発明者において種々のベクターを作製する経緯において挿入されたものであるが、以下に記載されるとおり本発明に係るベクターにおいては最終的に除去されている。故に、増幅させたlacI遺伝子コード領域のヌクレオチド配列の情報は省略する。
【0124】
次いで、上記pGEK094をKpnI及びAgeIで切断し、得られた消化産物と、上記増幅させたlacI遺伝子断片及びT7ターミネーター断片とをGibson Assembly Cloning Kitにより連結し、プラスミドベクターpGEK122を取得した。
【0125】
(7)pGE651(PdapA-araE-rrnBT1ter-T7ter-T7Uter-lacI/Ptac-lacZ-rrnBter/ KanR/pUCori/pCG1ori)の構築
コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032株ゲノムDNAをテンプレートとし、PCR法によりPdapA断片を増幅させた。加えて、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC31831株ゲノムDNAをテンプレートとし、PCR法によりaraE断片を増幅させた。上記増幅させたPdapA領域及びaraE遺伝子コート領域のヌクレオチド配列それぞれを配列番号74及び75に示す。
【0126】
更に、pGEK122を制限酵素XbaIで切断し、得られた消化産物、並びに上記PdapA断片及びaraE断片をIn-Fusion HD Cloning Kitにより環状となるように連結した。このようにして作製したベクターをpGE651と命名した。
(8)pGE677(PdapA-araE-rrnBT1ter-T7ter-T7Uter-lacI/Ptac-lacZ-rrnBter/ KanR/pSC101/pCG1ori)の構築
また、制限酵素NcoI及びBamHIの処理により、pGE651のpUC oriを出願人所有のプラスミドベクターに含まれる大腸菌複製起点pSC101 ori(低コピー数)と交換したベクターを作製し、これをpGE677と命名した。
上記出願人所有のプラスミドベクターにおけるpSC101ori領域は、プラスミドベクターpMW119(タカラバイオから購入、現在はニッポンジーンから入手可能)に由来するものであり、同ベクターのpSC101ori領域と同一のヌクレオチド配列を含むものである。
制限酵素NcoI及びBamHIを両端に含むpSC101ori領域部分のヌクレオチド配列を配列番号76に示す。
【0127】
(9)pGE689(PdapA-araE-rrnBT1ter-T7ter/PdapAm-araR/Ptac-AraRBS-lacZ-rrnBter/ KanR/pSC101/pCG1ori)の構築
コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032株ゲノムDNAをテンプレートとし、PCR法によりPdapAm領域を含むDNA断片を増幅させた。増幅させたPdapAm断片のヌクレオチド配列を配列番号77に示す。なお、このPdapAmにはプロモーター活性が2倍程度高くなる変異が導入されている。
更に、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC31831株ゲノムDNAをテンプレートとし、PCR法によりaraR遺伝子断片を増幅させた。増幅させたaraR遺伝子コード領域のヌクレオチド配列を配列番号78に示す。
更に、pGEK094をテンプレートとしてPCR法によりPtacにAraR結合配列が連結した断片を増幅させた。この断片のヌクレオチド配列を配列番号79に示す。
上記(8)で取得したpGE677を制限酵素AgeI及びNdeIで切断することにより、T7Uter及びLacI領域を除去した直鎖状DNA断片を取得し、このDNA断片、並びに上記PdapA断片、araR遺伝子断片及びPtacにaraR結合配列が連結した断片をGibson Assembly Cloning Kitにより環状となるように連結し、pGE728-1を作製した。
pGE728-1の構造を
図1(a)に示し、そのヌクレオチド配列を配列番号80に示す。
【0128】
(10)pGE728-1におけるAraR結合配列への変異導入(mutagenesis)
AraR結合配列部位をカバーする縮重プライマー又は変異導入プライマーのプライマーペアーを幾つか設計し、pGE728-1をテンプレートとしてPCRと同様の手法でプラスミド全体を増幅した後、制限酵素DpnIによりテンプレートDNAを切断し、大腸菌へ形質転換することでAraR結合配列にセミランダムに変異を導入したプラスミドベクターを得た。具体的には、大腸菌形質転換体コロニーをランダムに選び、これら形質転換体が保持するプラスミドベクターについてAraR結合領域のヌクレオチド配列をシーケンシングすることにより変異の導入を確認した。
このようにして、pGE728-1に対してAraR結合配列(AraRBS)に所定の変異を有するプラスミドベクターpGE728-2~pGE728-12を取得した。pGE728-1~pGE728-12におけるAraR結合配列はそれぞれ、以下の表1のNo.1~12に示すとおりである。
【0129】
(11)LacZアッセイ(β-ガラクトシダーゼの発現)
上述のとおり作製したpGE728-1~pGE728-12について、上記実施の形態に記載したβガラクトシダーゼ遺伝子(LacZ)レポーターアッセイの手順に従って遺伝子発現の制御可能性について評価した。なお、該LacZレポーターアッセイの手順(1)の発現誘導の際には培地中アラビノース最終濃度を2%とし、OD
610=0.5~1の範囲でアラビノースを培養液に添加した。加えて、手順(2)においては5時間培養した後にサンプリングし、取得した試料についてLacZの活性を測定した。
[結果]
以下の表1に試験例1の結果を示す。
【表1】
【0130】
表1に示すとおり、試料No.9~12に対して、Ptacに所定のヌクレオチド配列を有するAraR結合配列(配列番号5から12)がそれぞれ組合された試料No.1~8については、アラビノース未添加の場合に対して、アラビノースを添加した場合にはプロモーター活性が10倍以上高く誘導されることが示された。中でも、試料No.2、3、4、6が、プロモーター活性の誘導効率が比較的高く、とりわけPtacに配列番号2、3を組み合せた試料No.2及び3は、アラビノース未添加に対してアラビノース添加の場合プロモーター活性が80倍超上昇することが示された。
加えて、試料No.1~6については、アラビノース未添加の場合、プロモーター活性を示す絶対値が10以下となっており、プロモーター活性(LacZ発現)が厳密に抑制されることが確かめられた。更に、このうち、Ptacに配列番号2、3を組み合せた試料No.2及び3については、アラビノース未添加の場合、プロモーター活性を示す絶対値は1未満であり、プロモーター活性(LacZ発現)が特に顕著に抑制されることが確かめられた。つまり、Ptacに配列番号2又は3を組み合せた試料No.2及び3については、アラビノース未添加の場合、プロモーター活性(LacZ発現)を特に顕著に抑制できると同時に、アラビノース添加によりプロモーター活性が特に顕著に高く上昇し、活性な形態の目的遺伝子産物を多量に発現させることができることが示された。従って、Ptacに配列番号2又は3のヌクレオチド配列を組合せる形態は、特に厳密な遺伝子発現の制御(スイッチのオン、オフ)を可能とすると共に遺伝子発現のスイッチが入った場合には特に高い遺伝子発現量を確保することができる点、本発明において特に好ましい実施形態と言える。
このように、本発明に係る核酸が有し得る所定の配列構成によれば、アラビノース未添加/添加による効率的かつ精密な遺伝子発現制御が可能になることが示された。
【0131】
[試験例2]
試験例1で構築したpGE728-1に対して、試験例1と同様の点変異導入法によりAraR結合配列に所定の変異を導入することにより、さらに2つのプラスミドベクターpGE728-13及びpGE728-14を取得した。pGE728-13及びpGE728-14におけるAraR結合配列はそれぞれ、以下の表2に示すとおりである。
試験例1において作製した幾つかのプラスミドベクター(表1及び表2を参照。)並びに本試験例において新たに作製したpGE728-13及びpGE728-14について、下記の変更点(i)及び(ii)を除き、試験例1と同様にしてβガラクトシダーゼ遺伝子(LacZ)レポーターアッセイにより遺伝子発現の制御可能性について評価した。
【0132】
(i)培養液のOD(濁度)値が0.5~1.5の範囲にある時に、遺伝子発現誘導のために培養液にアラビノースを添加した。
(ii)プロモーター活性は、試験例1と同様に、アラビノースによる誘導なしの試料に対するアラビノースによる誘導ありの試料のβガラクトシダーゼの活性比により評価したが、各プラスミドベクターについて表2に示すサンプル数(n数)により試験を行い、n数が2以上のプラスミドベクターについては、各サンプルのβガラクトシダーゼの活性比について平均値を算出し、その平均値の値をプロモーター活性比とした。
【0133】
【0134】
表2に示すとおり、試験例1において優れた遺伝子発現制御能を示すことが確認されたpGE728-2及びpGEE728-3(それぞれAraRBSとして配列番号2及び3を採用)は、本試験例においても、プロモーター活性比がそれぞれ94.1及び98.9を示し、優れた遺伝子発現制御能を保持していることが再確認できた。
本試験例の結果において特に注目すべき点として、新たに構築したpGE728-13及びpGE728-14のうち、pGE728-13はプロモーター活性比が162の値を示し、上記pGE728-2及びpGEE728-3のプロモーター活性比の値を遥かに超え、極めて優れた遺伝子発現制御能を保持していることが確認された。加えて、本試験例で新たに構築したpGE728-14については、プロモーター活性比が14.8と言う比較的低い値ではあるものの、十分な遺伝子制御発現能を保持していることが確認された。
【0135】
なお、pGE728-1、pGE728-6、pGE728-7、pGE728-8については、試験例1で得られたプロモーター活性比に対して、比較的大きな変動が見られた。その原因は定かではないが、遺伝子発現誘導のタイミング等の各種条件により変動することは生物学ないしバイオテクノロジー分野において予測される事項であり、試験例1及び本試験例の結果により、pGE728-1、pGE728-6、pGE728-7、pGE728-8についても、優れた遺伝子制御能力を有することが再現されたことに変わりがないことは十分に把握できる。
【0136】
以上のとおり、本試験例により、格別優れた遺伝子発現制御能を発揮できる遺伝子発現制御配列が取得されたと共に、本発明所定の遺伝子発現制御配列によれば、再現良くかつ厳密に遺伝子発現を制御できることが示された。
【0137】
[試験例3]
試験例3は、araE遺伝子及びaraR遺伝子をプラスミドベクターではなくゲノムに組み込んだコリネ型細菌を用い、本発明に係る遺伝子制御配列を含む発現ベクターを用いて目的遺伝子(レポーター遺伝子)の発現を制御した例を示す。
以下、試験手順の詳細を示す。
(1)発現プラスミドベクターの作製
pGE728を制限酵素KpnI及びXbaIで切断することにより、araEコード領域及びaraRコード領域が除去されたDNA断片を得た。このDNA断片をT4DNAポリメラーゼ(タカラバイオ)を用いて平滑化し、T4ポリヌクレオチドキナーゼ(タカラバイオ)で末端リン酸化を行った後、T4DNAリガーゼ(NEB)でライゲーションすることで環状化した。得られたプラスミドをpGE716と命名した。
pGE716の構造を
図1(b)に示し、そのヌクレオチド配列を配列番号81に示す。
【0138】
(2)染色体にaraE遺伝子及びaraR遺伝子を組み込んだコリネ型細菌の作製
コリネバクテリウム・グルタミカムの染色体遺伝子組み換えは、概略、枯草菌由来のsacB遺伝子を用いたマーカーレス遺伝子組換え法で行った(J. Mol. Microbiol. Biotechnol. 2004, 8:243-254)。
以下にその手順の詳細を示す。
【0139】
(2-1)pGE015(KanR/sacB/pUCori)の構築
pHSG299(タカラバイオ)をBamHI及びPstIで切断し、PCR法により増幅したsacB断片を同じ制限酵素で切断してライゲーションにより環状に連結することにより、プラスミドベクターpGE015を構築した。
なお、PCR法によるsacB断片の増幅には、pNIC28-Bsa4(英国のSource BioScience社;日本代理店であるダナフォーム社から入手)をテンプレートとして用いた。増幅させたsacB断片のヌクレオチド配列を配列番号82に示す
【0140】
(2-2)pGE209(KanR/sacBm/pUCori)の構築
以下のプライマー1及び2を用い、PCR法によりpGE015のSacB領域内に存在するKpnIサイトに変異を導入することによりKpnIサイトを消失させた。その結果、該KpnIサイトが消失したSacB遺伝子(sacBm)コード配列を有するプラスミドベクターpGE209を取得した。
プライマー1:5’-TGAACAGATACCATTTGCCGTTCATT-3’(配列番号83)
プライマー2:5’-AATGGTATCTGTTCACTGACTCCCGC-3’(配列番号84)
【0141】
(2-3)pGE285(KanR/sacBm/pSC101ori)の構築
試験例1示す手順と同様にしてPCR法により大腸菌複製起点pSC101ori断片を増幅させた。
更に、pGE209をテンプレートとして用い、KanR及びsacBm領域を含むDNA断片を増幅させた。増幅させたDNA断片のヌクレオチド配列を配列番号85に示す。
上記pSC101ori断片、並びにKanR及びsacBm領域を含むDNA断片をIn-Fusion HD Cloning Kitを用いて環状に連結させることにより、プラスミドベクターpGE285を取得した。
【0142】
(2-4)pGE825(KanR/tnp1上流域-tnp1下流域/sacBm/pSC101ori)の構築
コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032株ゲノム内のtransposaseであるtnp1aの上流領域及び下流領域を含むDNA断片を、出願人所有のプラスミドベクターをテンプレートとしてPCR法により増幅させた。増幅させたDNA断片のヌクレオチド配列を配列番号86に示す。
更に、pGE285をEcoRIで切断することにより、KanRとsacBmとの間で切断された直鎖状DNA断片を得た。
上記tnp1aの上流領域及び下流領域を含む増幅断片と上記pGE285の直鎖状DNA断片とをIn-Fusion HD Cloning Kitを用いて環状に連結させることにより、プラスミドベクターpGE825を取得した。
【0143】
(2-5)pGE837(KanR/tnp1上流域-Ptac-araE-rrnBter-tnp1下流域/sacBm/pSC101ori)の構築
pGE825をXhoIで切断することにより、tnp1上流域とtnp1下流域との間で切断された直鎖状DNAを得た。
更に、Ptac、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC31831株ゲノム内に存在するaraE遺伝子コード領域、及びrrnBterターミネーターがこの順に連結されたDNA断片(Ptac-araE-rrnBter増幅断片)を、出願人所有のプラスミドベクターをテンプレートとしてPCR法により増幅した。なお、Ptac-araE-rrnBter増幅断片のヌクレオチド配列を配列番号87に示す。
次いで、In-Fusion HD Cloning Kitを用いて、上記pGE825の直鎖状DNA断片、及びPtac-araE-rrnBter増幅断片を環状に連結させることにより、プラスミドベクターpGE837を取得した。
pGE837の構造を
図2(a)に示し、そのヌクレオチド配列を配列番号88に示す。
【0144】
(2-6)コリネバクテリウム・グルタミカムゲノムへのPtac-araEへの導入
pGE837をコリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032株にエレクトロポレーションにより導入し、上記マーカーレス遺伝子組み換え法によりΔtnp1a::Ptac-araE株を作製した。得られた菌株をGES759と命名した。
【0145】
(2-7)pGE234(KanR/tnp3b上流域-PldhA-lacZ-rrnBter-tnp3b下流域/sacBm/pUCori)の構築
pGE209をKpnI及びBamHIで切断することにより、KanRとSacBmとの間で切断された直鎖状DNA断片を得た。
更に、PCR法により、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032ゲノム内のtransposaseであるtnp3bの上流域(tnp3b上流域断片)及び下流域(tnp3b下流域断片)をそれぞれ増幅させた。これらの増幅させた領域のヌクレオチド配列をそれぞれ配列番号89及び90に示す。
更に、試験例1で構築したpGEK020をテンプレートとしてPldhA-lacZ-rrnBterの領域を含む断片(PldhA-lacZ-rrnBter断片)をPCR法により増幅させた。この断片は、発明者において種々のベクターを作製する経緯において挿入されたものであるが、以下に記載されるとおり最終的にコリネ型細菌ゲノムへのaraR遺伝子の導入に使用したpAra1においてはPldhA及びlacZ領域は結果的に除去されている。故に、増幅させたPldhA-lacZ-rrnBter断片のヌクレオチド配列の情報は省略する。
【0146】
上記のpGE209の直鎖状DNAと、tnp3b上流域断片及びtnp3b下流域断片と、PldhA-lacZ-rrnBter断片とを、In-Fusion HD Cloning Kitを用いて環状となるように連結させ、プラスミドベクターpGE234を取得した。
【0147】
(2-8)pAra1(KanR/tnp3b上流域-Ptac-araR-rrnBter-tnp3b下流域/sacBm/pUCori)の構築
pGE209をKpnI及びBamHIで切断することにより、PldhA-lacZ領域が除去された直鎖状DNA断片を得た。
更に、pGEK094をテンプレートとしてPCR法によりPtac断片(配列番号91)を増幅させた。
更に、pGE689をテンプレートとして用いPCR法によりaraR遺伝子断片(配列番号92)を増幅させた。
次いで、上記pGE209の直鎖状DNAとPtac断片とaraR遺伝子断片とIn-Fusion HD Cloning Kitを用いることにより環状となるよう連結させ、プラスミドベクターpAra1を得た。
pAra1の構造を
図2(b)に示し、そのヌクレオチド配列を配列番号93に示す。
【0148】
(2-9)GES759ゲノムへのPtac-araRへの導入
pAra1をGES759へエレクトロポレーションにより導入し、上記マーカーレス遺伝子組み換え法によりΔtnp3b::Ptac-araR株を作製した。得られた菌株をAIS1と命名した。
【0149】
(3)pGE716によるAIS1の形質転換及びLacZアッセイ(β-ガラクトシダーゼの発現)
次いで、AIS1にpGE716をエレクトロポレーションし、カナマイシンでセレクションした。
得られた形質転換体を液体培地(4%Glc,25μg/mL Kan)10mLにOD610=0.2になるように植菌し、33℃,200rpmで培養した。4時間の培養後に培養液半量(4.5mL)を別の試験管にとり、20%アラビノース0.5 mLと混ぜてアラビノース終濃度2%とした。また、比較対照としてアラビノース未添加のものも用意した。これら試料を2時間更に培養した後に、アラビノース誘導あり、なしの培養液をそれぞれサンプリングし、LacZアッセイによりプロモーター活性を測定した。
なお、その他LacZアッセイの手順並びに上記液体培地の組成は実施の形態に記載した通りである。
【0150】
【0151】
まず、試験例3の概要を説明すると、試験例3は以下の点において試験例1と異なっている。
即ち、試験例1においてはATCC13032株に導入するプラスミドベクターとして本発明所定の遺伝子発現制御配列(R)及びレポーター遺伝子(LacZ遺伝子)に加えてaraE遺伝子及びaraR遺伝子をコードしているものを使用した。これに対して、試験例3においては、予めゲノムDNAにaraE遺伝子及びaraR遺伝子が強制発現するように導入されたAIS1株(ATCC13032株由来)を用い、該菌株に導入するプラスミドベクターとしてはaraE遺伝子及びaraR遺伝子が除去されたpGE716を使用した。
【0152】
図3において、AIS1/pGE716-3及びAIS1/pGE716-3はそれぞれ、異なる形質転換体コロニーに由来するサンプルである。
プロモーター活性のフォールド(誘導効率)に注目すると、AIS/p716-3については67倍、AIS/p716-4については160倍を示し、本発明所定の遺伝子発現制御配列によればアラビノースによる効果的な目的遺伝子の発現制御が可能となることが示された。
【0153】
[試験例4](アラビノース濃度/誘導時間の影響)
試験例3と同様に菌株AIS1にpGE716をエレクトロポレーションし、カナマイシンでセレクションし形質転換体を得た。
形質転換した細胞を液体培地10mLにOD610=1.0になるように植菌し、33℃,200rpmで培養した。4時間後に半量(5mL)を別の試験管にとり、培地中のアラビノース最終濃度がそれぞれ0.002%、0.02%、0.2%、2%となるように20%アラビノースを添加した。なお、比較対照としてアラビノース未添加のサンプルも用意した。
上記サンプルを培養し、4時間後、20時間後、24時間後にアラビノース誘導あり、無しの培養液をそれぞれサンプリングし、LacZアッセイによりプロモーター活性を測定した。
LacZアッセイの手順並びに上記液体培地の組成は試験例3に記載した通りである。
【0154】
[結果]
LacZアッセイの結果を
図4に示す。
図4に示されるとおり、アラビノースによる発現誘導後4時間の時点で既に発現量はほぼ飽和状態に達しており、それ以降はレポーター遺伝子の発現量に目立った上昇は認められなかった。つまり、少なくとも本試験例に係る核酸の配列構成によれば、発現誘導後4時間以内で十分な目的遺伝子の発現量が得られることが明らかとなった。
更に、アラビノース濃度については、0.02%が最も高い発現量(プロモーター活性)を示したが、最も低い濃度である0.002%でも十分なレベルのプロモーター活性を誘導できることが明らかとなった。
【0155】
[試験例5](各種プロモーターとの組合せ)
(1)pGEK035(MCS-SD-lacZ-rrnBter/KanR/pUCori/pCG1ori)の構築
試験例1(4)の項で構築したpGEK030を、制限酵素XhoI及びNdeIで切断し、pGEK030切断断片を得た。この切断断片に、以下の配列を有するオリゴDNAをアニーリングし、ライゲーションすることによりSD配列を挿入したベクターpGEK035を作製した。なお、このSD配列は、プロモーター活性の確認を行った最終構築物であるpAra24ないしpAra30では除去されている。
SD配列:5’-tAATATTGAAAGGAGGtt-3’(配列番号95)
【0156】
(2)pGEK107(MCS-SD-lacZ-rrnBter/KanR/pSC101ori/pCG1ori)の構築
pGEK035を制限酵素NotI及びXmaIで処理することにより、pGEK035に含まれる複製起点pUCoriを除去し、当該複製起点を、出願人所有のプラスミドベクターに含まれる大腸菌複製起点pSC101ori(低コピー数)と入れ替えた。これにより得られたベクターをpGEK107と命名した。
【0157】
(3)各種プロモーターとAraR結合配列を組み合わせたシャトルベクターの作製
コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13031株ゲノムDNAをテンプレートとし、PCR法により構成的プロモーターであるtuf、dapA、及びsodプロモーター、並びに誘導的プロモーターであるldhA、gapA、及びmetEプロモーター断片をそれぞれ増幅させた。加えて、試験例3で構築したプラスミドベクターpGE716をテンプレートとし、PCR法によりAraR結合配列及びSD配列を増幅させた。
次いで、上記のとおりPCR法により取得した各プロモーター断片と、AraR結合配列及びSD配列の増幅断片とを、オーバーラップPCR法により連結させた。このオーバーラップPCR法により、配列番号96から102に示すヌクレオチド配列をそれぞれ有するDNA断片を取得した。これらDNA断片は、上記実施の形態の項において、本発明係る核酸に係る好ましい実施形態として示した配列番号96から102に係るヌクレオチド配列をそれぞれ含むものである。
【0158】
上記(2)の項で取得したpGEK107を制限酵素KpnI及びNdeIで切断し、得られたベクター断片に、上記各プロモーター/AraR結合配列断片をそれぞれ、In-Fusion HD Cloning Kitにより環状となるように連結した。これにより得られたプラスミドをそれぞれ、pAra24、pAra25、pAra26、pAra27、pAra28、pAra29、及びpAra30と命名した。
【0159】
試験例3と同様に、菌株AIS1に各プラスミドをエレクトロポレーションし、カナマイシンでセレクションして形質転換体を取得し、得られた各形質転換体を、液体培地10mLにOD610=0.2になるように植菌し、33℃、200rpmで培養した。4時間後に、培養液の半量(5mL)を別の試験管にとり、培地中のアラビノース最終濃度が0.2%となるように20%アラビノースを添加した。加えて、比較対照としてアラビノース未添加のものも用意した。これら試料を4時間更に培養した後に、アラビノース誘導あり、なしの培養液をそれぞれサンプリングし、LacZアッセイによりプロモーター活性を測定した。
LacZアッセイの手順並びに上記液体培地の組成は試験例3に記載した通りである。
【0160】
[結果]
LacZアッセイの結果を以下の表3に示す。
【表3】
【0161】
表3に示される通り、本試験例により、プロモーター部位として、tacプロモーターに限らず、その他各種プロモーターを採用しても、厳密に遺伝子発現を制御できることが確認された。なお付け加えると、所定の態様で推定転写開始部位をAraR結合配列にオーバーラップさせたpAra30については、推定転写開始部位がAraR結合配列にオーバーラップしていないpAra24よりも、優れた遺伝子発現制御能を示した。
【0162】
以上のとおり、本試験例によれば、所定のヌクレオチド配列を有するAraR結合配列を遺伝子制御配列の一要素として採用した本発明所定の構成によれば、プロモーター部位として、tacプロモーターに限らず、構成的プロモーター及び誘導的プロモーター含むその他多様なプロモーターを採用して場合にあっても、優れた遺伝子制御能力が発揮され得ることが証明された。
【0163】
[比較試験例1]
比較試験例1は、本発明に係る制御配列の代わりにコリネバクテリウム・グルタミカムATCC31831株ゲノムに天然に存在するaraE遺伝子のプロモーター領域を用いて目的遺伝子の制御を試みた比較例である。
以下に試験手順の詳細を示す。
【0164】
(1)pGE728ParaE(PdapA-araE-rrnBT1ter-T7ter/PdapA-araR/ParaE-lacZ-rrnBter/KanR/pSC101ori/pCG1ori)の構築
pGE728をKpnI及びNdeIで切断することにより、pGE728においてPtac-araRBSの領域が除去された配列からなる直鎖状DNAを得た。
更に、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC31831株ゲノムDNAをテンプレートとして用い、PCR法に従い、
図5に示すaraE遺伝子のプロモーター領域を含むDNA断片(ParaE断片)を増幅させた。増幅させたParaE断片のヌクレオチド配列を配列番号94に示す。
Gibson Assembly Cloning Kitを用いて、上記直鎖状DNAとParaE断片とを環状となるように連結することにより、プラスミドベクターpGE728ParaEを作製した。
【0165】
試験例1に示した形質転換体の取得及びLacZアッセイの手順において、上記のようにして得られた発現ベクターpGE728ParaEを用いた以外は、同様にしてコリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032株の形質転換体を取得し、LacZアッセイによりプロモーター活性を評価した。
【0166】
[結果]
LacZアッセイの結果を以下の表4に示す。
【表4】
【0167】
表4に示されるとおり、アラビノースの誘導あり(つまり、アラビノース添加)の活性値が、アラビノース誘導なし(つまり、アラビノース未添加)の活性値よりも低くなってしまい、アラビノースによる遺伝子発現制御は不可能であることが示された。
本比較試験例1で遺伝子制御配列として用いたヌクレオチド配列は、
図5に示されるとおりコリネバクテリウム・グルタミカムATCC31831株のゲノムDNA上に固有に存在するにものであり、天然のAraR結合配列を含むものである。つまり、非特許文献6に示されるような、上記コリネ型細菌に固有のプロモーター領域を使用しても、表2の結果が示す通り、本発明所定のヌクレオチド配列により達成される遺伝子発現制御は不可能であり、そもそも遺伝子発現システムとしてプロモーター活性さえ示さなかった。
【0168】
(補足事項)
上記試験例及び比較試験例においては、各種プラスミドベクター等の構築の過程においてPCR法により増幅させた各種遺伝子コード領域、プロモーター領域、ターミネーター領域、複製起点等のヌクレオチド配列の情報が配列表に開示されていることから、PCR増幅に使用したプライマーの配列情報は省略した。当業者においては、配列表に開示される各ヌクレオチド配列の情報又はジーンバンク等に存在するヌクレオチド配列の情報等を参照することにより、上記試験例で使用したプラスミドベクター等の構築物ないし本発明に係る核酸等を適宜作製することができる。
なお、上記試験例及び比較試験例においては、各種遺伝子コード領域、プロモーター領域、ターミネーター領域、複製起点等のクローニングには上述のとおりIn-Fusion HD Cloning Kit又はGibson Assembly Cloning Kitを利用した工程もあるが、PCR増幅の際に使用したプライマーペアーについては、フォワード/リバースプライマーの5’末端にはそれぞれ、上記クローニングキットの指示に従い適切なアダプター配列が付加されたものであることを補足する。
【産業上の利用可能性】
【0169】
本発明は、バイオテクノロジー分野、化学物質や生物材料等の物質生産の分野等において高い産業上の利用可能性を有する。
【配列表】