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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-27
(45)【発行日】2023-11-07
(54)【発明の名称】子宮体癌患者の予後予測バイオマーカー
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/02 20060101AFI20231030BHJP
   G01N 33/574 20060101ALI20231030BHJP
   C07K 14/46 20060101ALI20231030BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20231030BHJP
【FI】
C12Q1/02 ZNA
G01N33/574 A
C07K14/46
C07K16/28
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020549938
(86)(22)【出願日】2019-03-25
(86)【国際出願番号】 JP2019012503
(87)【国際公開番号】W WO2020075325
(87)【国際公開日】2020-04-16
【審査請求日】2022-01-13
(31)【優先権主張番号】P 2018191286
(32)【優先日】2018-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】509013703
【氏名又は名称】公立大学法人福島県立医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】千葉 英樹
(72)【発明者】
【氏名】杉本 幸太郎
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-510808(JP,A)
【文献】KOJIMA, M.,THE HIGH EXPRESSION OF CLAUDIN-6 IS A POOR PROGNOSTIC FACTOR IN UTERINE ENDOMETRIAL CARCINOMA,International Journal of Gynecological Cancer,2018年09月,Vol. 28, Suppl. 2,p. 1113,ISSN: 1048-891X, 全文
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C12Q
C07K
G01N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
子宮体癌患者の予後を予測する方法であって、
子宮体癌患者から得た試料の単位量あたりに含まれるクローディン6タンパク質若しくはそのペプチド断片の量を抗クローディン6抗体を用いる免疫組織化学法によって測定し、その測定値を得る測定工程、及び
前記測定値に基づいて前記子宮体癌患者の予後の良否を判定する判定工程
を含み、
前記抗クローディン6抗体は、
重鎖のCDR1、CDR2及びCDR3が、それぞれ配列番号3、4及び5で示されるアミノ酸配列からなり、かつ、
軽鎖のCDR1、CDR2及びCDR3が、それぞれ配列番号7、8及び9で示されるアミノ酸配列からなり、
前記判定工程において、前記測定工程で得られた測定値が予め定められた値以上の場合、前記子宮体癌患者の予後は不良と判定する前記方法。
【請求項2】
前記クローディン6タンパク質が以下の(a)~(c)のいずれかのタンパク質である、請求項1に記載の方法。
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、
(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が付加、欠失、又は置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質
(c)配列番号1で示されるアミノ酸配列に対して90%以上のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質
【請求項3】
前記試料が子宮体癌組織又は子宮体癌細胞を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記抗クローディン6抗体は、
重鎖及び軽鎖の可変領域がそれぞれ配列番号6及び10で示されるアミノ酸配列を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
抗クローディン6抗体、及び/又はクローディン6タンパク質との結合活性を有する抗クローディン6抗体の断片を含む子宮体癌患者の予後を予測するための、免疫組織化学法に使用するためのキットであって、
前記抗クローディン6抗体は
重鎖のCDR1、CDR2及びCDR3が、それぞれ配列番号3、4及び5で示されるアミノ酸配列からなり、かつ、
軽鎖のCDR1、CDR2及びCDR3が、それぞれ配列番号7、8及び9で示されるアミノ酸配列からなる前記キット。
【請求項6】
前記抗クローディン6抗体は、重鎖及び軽鎖の可変領域がそれぞれ配列番号6及び10で示されるアミノ酸配列を含む、請求項5に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、子宮体癌患者の予後を予測するためのバイオマーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
子宮体癌は、先進国では最も多い婦人科癌である。従来、子宮体癌は閉経後に発生する癌と考えられてきたが、近年では閉経前に診断される症例も増えており(非特許文献1及び2)、その年間予測罹患数は年々増加している(非特許文献3)。
【0003】
子宮体癌の主たる危険因子は、長期間のエストロゲン曝露であるが、他に高齢、肥満、未経産との関連も知られている(非特許文献4)。子宮体癌は初期の段階から不正性器出血等の症状を呈し、早期癌として診断されることが多い。それ故に、術後の予後が比較的良好な悪性腫瘍ではあるが、浸潤、転移、再発性の高い予後不良な症例も少なからず存在する。例えば、国際婦人科連合(FIGO:International Federation of Gynecology and Obstetrics)により提唱された子宮体癌の進行分類III及びIV期の5年生存率は、各々57~66%、20~26%に留まる(非特許文献5)。また手術不能例や再発、転移例に対しては、一般に白金製剤を中心とした化学療法が行われ、それらは一時的には奏功するものの、多くが再発することが知られている。したがって、化学療法抵抗例や再発例に対するセカンドラインとして有用な治療法の開発が嘱望される状況にあり、今日まで様々な殺細胞剤や分子標的薬が試みられているが、その治療効果は限定的である。
【0004】
上記状況において、子宮体癌に罹患した際に、罹患した子宮体癌が予後の良好なタイプであるか、浸潤、転移、再発性の高い予後不良のタイプであるかを正確に予測することは、病勢抑制、注意喚起、再発防止、再発時早期対応のため極めて重要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Evans-Metcalf et al., 1998, Obstet Gynecol., 91:349-354.
【文献】Duska et al., 2001, Gynecol. Oncol., 83:388-393.
【文献】Ferlay et al., 2013. Eur. J. Cancer, 49:1374-1403.
【文献】Morice et al., 2016, Endometrial cancer. Lancet. 387:1094-1108.
【文献】Creasman et al., 2006, Int J Gynaecol., 95 Suppl 1:S105-43.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、子宮体癌患者の予後を予測するための新規バイオマーカーを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため、子宮体癌組織検体において高発現しているクローディン6タンパク質を詳細に解析し、その臨床病理学的意義を明らかにした。
【0008】
クローディン(Claudin:以下、本明細書では、しばしば「CLDN」と表記する)タンパク質は、タイト結合ストランドの形成に必須の膜貫通分子で(Furuse et al., 1998a, 1998b)、27種類以上からなるファミリーを形成して組織、細胞特異的な発現パターンを示すことが知られている(Furuse and Tsukita, 2006;Chiba et al., 2008; Gunzel and Yu, 2013)。CLDNタンパク質のC末細胞内ドメインは、様々なシグナル分子と共役し得ることが示唆されている(McCrea et al., 2009)。しかし、CLDNタンパク質が細胞内シグナルを活性化する直接的な証拠やその分子機構は、未だ示されていない(Cavallaro and Dejana, 2011)。
【0009】
クローディン6(CLDN6)タンパク質は、胎生期の内胚葉系細胞系譜で強く発現するが、成体の正常組織ではタンパク質レベルでの発現がほとんどみられないというクローディンファミリーの他のメンバーにはない際だった特徴を有する(Kubota et al., 2001;Turksen and Troy, 2001;Chiba et al., 2003;Anderson et al., 2008)。また、上皮分化誘導過程においてCLDN6タンパク質は、最も早期に強力に発現が誘導され、マウスF9幹細胞やマウス胚性幹 (ES)細胞では、上皮分化トリガーとして機能することが明らかになっている(Kubota et al., 2001:Chiba et al., 2003:Satohisa et al., 2005:Sugimoto et al., 2013)。CLDN6タンパク質は、胚細胞腫瘍のうちセミノーマや胎児性癌及び卵黄嚢腫瘍において高率に過剰発現することが知られている(Ushiku et al., 2012)。また、組織マイクロアレイを用いた検討の結果、CLDN6タンパク質は、胃腺癌、肺腺癌、卵巣癌、子宮体癌の一部の症例においても過剰発現することも報告されている(Ushiku et al., 2012)。しかし、これらの癌においてCLDN6タンパク質が高発現する生物学的意義は全く分かっていなかった。
【0010】
本発明者らは、上記技術的背景の下、鋭意研究を重ねた結果、高発現したCLDN6タンパク質が子宮体癌において遠隔転移をも上回る強力な予後不良因子であることを突き止めた。本発明は、その研究結果に基づくものであって、以下を提供する。
【0011】
(1)CLDN6タンパク質若しくはそのペプチド断片、又はCLDN6遺伝子の転写産物若しくはその核酸断片からなる子宮体癌患者の予後を予測するためのバイオマーカー。
(2)前記CLDN6タンパク質が以下の(a)~(c)のいずれかのタンパク質である、(1)に記載のバイオマーカー。
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、
(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が付加、欠失、又は置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質
(c)配列番号1で示されるアミノ酸配列に対して90%以上のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質
(3)前記CLDN6遺伝子が、(2)に記載のCLDN6タンパク質をコードする、(1)又は(2)に記載のバイオマーカー。
(4)前記CLDN6遺伝子が以下の(i)~(iv)のいずれかのポリヌクレオチドである、(1)に記載のバイオマーカー。
(i)配列番号2で示す塩基配列からなるポリヌクレオチド
(ii)配列番号2で示す塩基配列において、1又は複数個の塩基が付加、欠失、又は置換された塩基配列からなるポリヌクレオチド
(iii)配列番号2で示す塩基配列と90%以上の塩基同一性を有する塩基配列からなるポリヌクレオチド
(iv)配列番号2で示すいずれかの塩基配列に相補的な塩基配列と高ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列からなるポリヌクレオチド
(5)子宮体癌患者の予後を予測するための、(1)~(4)のいずれかに記載のバイオマーカーの使用。
【0012】
(6)子宮体癌患者の予後を予測する方法であって、子宮体癌患者から得た試料の単位量あたりに含まれる(1)~(4)のいずれかに記載のバイオマーカーの量を測定し、その測定値を得る測定工程、及び前記に基づいて前記子宮体癌患者の予後の良否を判定する判定工程を含み、前記判定工程において、測定工程で得られた測定値が予め定められた値以上の場合、前記子宮体癌患者の予後は不良と判定する前記方法。
(7)前記試料が子宮体癌組織又は子宮体癌細胞を含む、(6)に記載の方法。
(8)前記バイオマーカーの量を該バイオマーカーに特異的に結合する結合分子を用いて測定する、(6)又は(7)に記載の方法。
(9)前記結合分子が抗体又は核酸アプタマーである、(8)に記載の方法。
(10)前記抗体が抗クローディン6抗体である、(9)に記載の方法。
【0013】
(11)前記抗クローディン6抗体は、重鎖のCDR1、CDR2及びCDR3が、それぞれ配列番号3、4及び5で示されるアミノ酸配列からなり、かつ、軽鎖のCDR1、CDR2及びCDR3が、それぞれ配列番号7、8及び9で示されるアミノ酸配列からなる抗クローディン6抗体である、(10)に記載の方法。
(12)前記抗クローディン6抗体は、重鎖及び軽鎖の可変領域がそれぞれ配列番号6及び10で示されるアミノ酸配列を含む、(11)に記載の方法。
(13)(1)~(4)のいずれかに記載のバイオマーカーの量を測定するための試薬を含む、子宮体癌患者の予後を予測するためのキット。
(14)前記試薬が、抗CLDN6抗体、CLDN6タンパク質との結合活性を有する抗CLDN6抗体の断片、CLDN6結合アプタマー、及びCLDN6 mRNAのセンス鎖又はアンチセンス鎖に結合し、前記mRNAの全部領域又は一部領域を特異的に増幅可能なプライマーペアからなる群から選択される一以上を含む、(13)に記載のキット。
(15)前記抗クローディン6抗体は重鎖のCDR1、CDR2及びCDR3が、それぞれ配列番号3、4及び5で示されるアミノ酸配列からなり、かつ、軽鎖のCDR1、CDR2及びCDR3が、それぞれ配列番号7、8及び9で示されるアミノ酸配列からなる、(14)に記載のキット。
【0014】
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2018-191286号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の子宮体癌患者予後予測バイオマーカー及び子宮体癌患者予後予測方法によれば、子宮体癌患者より手術等で採取した癌細胞又は癌組織におけるそのバイオマーカーの量に基づき、その子宮体がん患者の予後が良好であるか、不良であるかを予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】子宮体癌手術により採取したCLDN6タンパク質の発現を抗CLDN6ポリクロ―ナル抗体を用いて免疫組織化学染色した図である。HEはヘマトキシリン・エオシン染色を、αCLDN6は抗CLDN6抗体示す。Bar=50μmである。
図2】CLDN6タンパク質高発現群(a)とCLDN6タンパク質低発現群(b)の生存率をKaplan-Meier曲線で示した図である。*P<0.001
図3】ECC-1細胞及びECC-1:CLDN6細胞のそれぞれを移植した担癌マウスにおいて、移植4週間後に摘出した腫瘍重量を統計的に解析し、グラフ化した図である。
図4】A:クローディン発現プラスミドベクターの構造を示す図である。B:Aの各種クローディン発現プラスミドベクターをトランスフェクトしたHEK293T細胞における蛍光図である。
図5】抗CLDN6抗体の抗原特異性及び交差反応性を示すウェスタンブロット図である。AはRabbit 抗CLDN6ポリクローナル抗体(IBL)を、またBは実施例3で作製したRatαCLDN6#C6C15-1モノクローナル抗体を、それぞれ用いて、CLDN1、CLDN4、CLDN5、CLDN6、及びCLDN9をそれぞれ発現するHEK293T細胞抽出液に対してウェスタンブロットを行った結果である。
図6】抗CLDN6抗体の抗原特異性及び交差反応性を示す免疫組織化学染色図である。左カラムはRabbit 抗CLDN6ポリクローナル抗体(IBL)を、また右カラムは、実施例3で作製したRatαCLDN6#C6C15-1モノクローナル抗体を、それぞれ用いて、CLDN1、CLDN4、CLDN5、CLDN6、及びCLDN9をそれぞれ発現するHEK293T細胞に対して免疫組織化学染色を行った結果である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.子宮体癌患者予後予測バイオマーカー
1-1.概要
本発明の第1の態様は、子宮体癌患者の予後を予測するバイオマーカーである。本発明のバイオマーカーは、クローディン6(CLDN6)タンパク質又はそれをコードする遺伝子転写産物からなる。本発明のバイオマーカーによれば、その発現量によって術後の予後が良好か不良かを予測することが可能となる。
【0018】
1-2.定義
本明細書において「子宮体癌」とは、子宮体部の内膜から発生する癌で「子宮内膜癌」とも呼ばれる。前述のように、子宮体癌の多くは予後が良好ではあるものの、一部で予後不良となることが知られている。
【0019】
本明細書において「予後」とは、治療後、特に手術後の患者の医学的経過や疾患の将来的な見込みをいう。例えば、予後が良好の場合は、疾患の治癒の見通しがよく、生命予後、すなわち予後の生存率も高いことを意味する。逆に予後が不良の場合は、治療効果が見られない、疾患が悪化する、再発する、又は生命予後が低いことを意味する。本発明においては、対象疾患が子宮体癌であることから、予後不良とは、再発、癌細胞の浸潤又は転移による癌の進行、生存率の低下等が該当する。
【0020】
「バイオマーカー」とは、細胞、組織、又は体液中に存在するペプチド(タンパク質を含む)又は核酸(遺伝子又はその転写産物を含む)等の生体内物質からなり、その存在量や濃度によって疾患の存在、変化、進行度、治療効果の程度を表す生物指標をいう。本明細書のバイオマーカーは、発現量によって子宮体癌の予後を予測することのできるバイオマーカーである。
【0021】
1-3.構成
本発明の子宮体癌患者予後予測バイオマーカーは、CLDN6タンパク質若しくはそのペプチド断片、又はCLDN6遺伝子の転写産物若しくはその核酸断片からなる。
【0022】
(1)クローディン6タンパク質若しくはそのペプチド断片
「クローディン6タンパク質:CLDN6」は、N末端が細胞外に、またC末端が細胞内に存在する膜貫通タンパク質で、タイト結合ストランド形成に寄与する。他のCLDNファミリーとは異なり、前述のように、胎生期の内胚葉系細胞系譜でのみ強く発現し、成体の正常組織ではタンパク質レベルでの発現がほとんどみられない(Kubota et al., 2001;Turksen and Troy, 2001;Chiba et al., 2003;Anderson et al., 2008)。本明細書において、CLDN6の由来生物種は限定しないが、例えば、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるヒトCLDN6タンパク質が挙げられる。配列番号1で示されるヒトCLDN6タンパク質と機能的に同等の活性を有するヒトCLDN6バリアントや他生物種のヒトCLDN6オルソログも該当する。例えば、配列番号1で示されるアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が付加、欠失、又は置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質や、配列番号1で示されるアミノ酸配列に対して90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上で、100%未満のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質が挙げられる。本明細書において「複数個」とは、例えば、2~20個、2~15個、2~10個、2~7個、2~5個、2~4個又は2~3個をいう。また、アミノ酸の置換は、保存的アミノ酸置換が望ましい。「保存的アミノ酸置換」とは、電荷、側鎖、極性、芳香族性等の性質の類似するアミノ酸間の置換をいう。性質の類似するアミノ酸は、例えば、塩基性アミノ酸(アルギニン、リジン、ヒスチジン)、酸性アミノ酸(アスパラギン酸、グルタミン酸)、無電荷極性アミノ酸(グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、システイン、チロシン)、無極性アミノ酸(ロイシン、イソロイシン、アラニン、バリン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン、メチオニン)、分枝鎖アミノ酸(ロイシン、バリン、イソロイシン)、芳香族アミノ酸(フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、ヒスチジン)等に分類することができる。
【0023】
本明細書において「アミノ酸同一性」とは、二つのアミノ酸配列を両者のアミノ酸一致度が最も高くなるように、必要に応じてギャップを導入しながら整列(アラインメント)したときに、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるヒトCLDN6タンパク質の全アミノ酸残基に対する二つのアミノ酸配列間で同一アミノ酸残基の割合(%)をいう。アミノ酸同一性は、BLASTやFASTAによるタンパク質の検索システムを用いて算出することができる。
【0024】
本明細書において「そのペプチド断片」とは、前記CLDN6タンパク質の部分断片をいう。例えば、配列番号1で示されるヒトCLDN6タンパク質のペプチド断片が挙げられる。ペプチド断片のアミノ酸長は特に限定はしない。例えば、50アミノ酸以上~219アミノ酸以下、又は100アミノ酸以上~219アミノ酸以下であればよい。
本明細書では、CLDN6タンパク質及びそのペプチド断片を、しばしば「CLDN6タンパク質等」と表記する。
【0025】
(2)クローディン6遺伝子の転写産物若しくはその核酸断片
「クローディン6遺伝子(CLDN6遺伝子)」は、前記CLDN6タンパク質をコードする遺伝子である。CLDN6遺伝子の具体例として、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるヒトCLDN6タンパク質をコードするヒトCLDN6遺伝子が挙げられる。より具体的には、配列番号2で示される塩基配列からなるポリヌクレオチドである。
【0026】
また、配列番号2で示されるヒトCLDN6遺伝子がコードするヒトCLDN6タンパク質と機能的に同等の活性を有するCLDN6バリアントや他生物種のCLDN6オルソログをコードするポリヌクレオチドも包含する。具体的には、配列番号2で示される塩基配列において1若しくは複数個の塩基が付加、欠失、又は置換された塩基配列、あるいは配列番号2で示される塩基配列に対して90%、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上又は99%以上で、100%未満の塩基同一性を有するポリヌクレオチドが包含される。さらに、配列番号2で示される塩基配列に対して相補的な塩基配列の一部からなる核酸断片と高ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列からなり、かつCLDN6と機能的に同等の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドが包含される。
【0027】
本明細書において「塩基同一性」とは、二つの塩基配列を両者の塩基一致度が最も高くなるように、必要に応じてギャップを導入しながら整列(アラインメント)したときに、配列番号2で示される塩基配列からなるCLDN6遺伝子の全塩基に対する二つの塩基配列間で同一塩基の割合(%)をいう。
【0028】
本明細書において「高ストリンジェントな条件下でハイブリダイズ(する)」とは、低塩濃度及び/又は高温の条件下でハイブリダイゼーションと洗浄を行うことをいう。例えば、6×SSC、5×Denhardt試薬、0.5% SDS、100μg/mL変性断片化サケ精子DNA中で65℃~68℃にてプローブと共にインキュベートし、その後、2×SSC、0.1%SDSの洗浄液中で室温から開始して、洗浄液中の塩濃度を0.1×SSCまで下げ、かつ温度を68℃まで上げて、バックグラウンドシグナルが検出されなくなるまで洗浄することが例示される。高ストリンジェントなハイブリダイゼーションの条件については、Green, M.R. and Sambrook, J., 2012, Molecular Cloning: A Laboratory Manual Fourth Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New Yorkに記載されているので参考にすることができる。
【0029】
CLDN6遺伝子の塩基配列情報は、公共のデータベース(GenBank、EMBL、DDBJ)より検索することができる。例えば、配列番号2で示されるCLDN6遺伝子の既知塩基配列情報に基づいて、塩基同一性の高い遺伝子をデータベースから検索し、入手することも可能である。
【0030】
「CLDN6遺伝子の転写産物」とは、CLDN6 mRNAを意味する。mRNAは、mRNA前駆体(pre-mRNA)及び成熟mRNA(mature mRNA)を問わない。通常、mRNA前駆体は、核内において直ちにスプライシングされて、成熟mRNA成熟体となることから、実質的に本発明の第1態様に記載のバイオマーカーとなるCLDN6遺伝子の転写産物は、CLDN6 成熟mRNAである。
【0031】
本明細書において「その核酸断片」とは、CLDN6 mRNAの部分断片をいう。核酸断片の塩基の長さは、特に限定はしないが、下限はCLDN6 mRNAの断片であることが特定できる程度で、かつ試料中のCLDN6 mRNA断片を検出可能な長さであればよい。例えば、100塩基以上、好ましくは200塩基以上、より好ましくは400塩基以上、又は600塩基以上が挙げられる。一方、上限はCLDN6 mRNAの全長ポリヌクレオチドのよりも1塩基少ない長さである。本明細書ではCLDN6 mRNAとその核酸断片をまとめて、しばしば「CLDN6 mRNA等」と表記する。
【0032】
2.子宮体癌患者予後予測方法
2-1.概要
本発明の第2の態様は、子宮体癌患者の予後を予測する方法である。本態様の方法では、子宮体癌患者より得た試料中の単位量あたりに含まれる第1態様に記載のバイオマーカーの量に基づいて、子宮体癌患者の予後を予測する。本方法によれば、子宮体癌患者の予後の予後が、例えば、不良と予測された場合には、その患者に対して術後も予後観察及び頻用検査を実施することで、転移や浸潤の有無、及び再発の早期発見が可能となる。
【0033】
2-2.方法
本発明の子宮体癌患者の予後予測方法は、(1)測定工程、(2)判定工程を必須の工程として含む。以下、各工程について具体的に説明をする。
(1)測定工程
「測定工程」とは、被験者から得られた試料中の単位量あたりに含まれる第1態様に記載のバイオマーカーの量を測定してその測定値を得る工程である。
【0034】
本明細書において「被験者」とは、本発明の各態様における適用対象者であって、子宮体癌既往歴のある子宮体癌手術後の女性である。前記被験者の条件を満たす女性であれば年齢は問わない。また、本工程を実施する前記手術後の期間も問わない。手術直後に実施してもよいし、試料が残存している限り、手術後数年経過した後に実施してもよい。
【0035】
本明細書において「試料」とは、前記被験者から採取され、本態様の子宮体癌予後予測方法に供される生体試料をいう。例えば、組織、細胞が該当する。ここでいう「組織」及び「細胞」は、被験者の癌組織又は癌細胞を含む子宮、特に子宮内膜由来の組織及び細胞である。具体的には、手術で切除された検体、より具体的には被験者の子宮体部の組織又は細胞、又は生検により採取された子宮体部の組織又は細胞である。試料の採取は、前述のとおり、手術又は生検による外科的摘出により入手すればよい。試料は、第1態様のバイオマーカーを測定可能なように、必要に応じて調製、処理することができる。例えば、試料が組織又は細胞であれば、ホモジナイズ処理や細胞溶解処理、遠心や濾過による夾雑物除去、プロテアーゼインヒビターの添加等が挙げられる。これらの処理の詳細についてはGreen, M.R. and Sambrook, J., 2012, Molecular Cloning: A Laboratory Manual Fourth Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New Yorkに詳しく記載されており、参考にすればよい。
【0036】
本明細書において「単位量」とは、容量又は重量により予め定められた一単位あたりの量をいう。また、切片標本のような場合であれば、単位量を面積とすることもできる。単位量は、子宮体癌患者から得た試料中に含まれる第1態様に記載のバイオマーカーが測定可能な量以上であれば限定はしない。所定量の例として、子宮内膜組織であれば1μg~1mg、又は10μg~1mgでよい。
【0037】
本明細書において「測定値」とは、本工程で測定されるバイオマーカーの量を示す値である。測定値は、容量又は重量のような絶対値であってもよく、また濃度、イオン強度、吸光度又は蛍光強度のような相対値であってもよい。さらに、例えば、容量や重量等の値に基づいたスコアリングによって算出した値であってもよい。
【0038】
測定する第1態様のバイオマーカーが、CLDN6タンパク質又はそのペプチド断片の場合、測定方法は、バイオマーカーであるCLDN6タンパク質の量を測定公知のペプチド定量方法であればよく、特に限定はしない。例えば、バイオマーカーに特異的に結合可能な結合分子を用いた免疫学的検出法、アプタマー解析法、又は質量分析法が挙げられる。
【0039】
前記結合分子としては、例えば、抗CLDN6抗体、CLDN6タンパク質との結合活性を有する抗CLDN6抗体断片、CLDN6結合アプタマー、及びCLDN6 mRNAのセンス鎖又はアンチセンス鎖に結合し、前記mRNAの全部領域又は一部領域を特異的に増幅可能なプライマーペア等が挙げられる。また、測定する第1態様のバイオマーカーがCLDN6 mRNA若しくはその核酸断片の場合、測定方法は、公知の核酸定量方法であればよく、特に限定はしない。例えば、核酸増幅法、ハイブリダイゼーション法、又はRNaseプロテクション法が挙げられる。以下、各測定方法について説明をする。
【0040】
(a)免疫学的検出法
「免疫学的検出法」は、抗原である標的分子と特異的に結合する抗体又は抗体断片を用いて、標的分子を定量する方法である。本発明では、第1態様のバイオマーカーであるCLDN6タンパク質若しくはそのペプチド断片が測定すべき標的分子に該当する。
【0041】
抗体は、哺乳動物及び鳥を含めたいずれかの動物由来とすることができる。例えば、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ヤギ、ロバ、ヒツジ、ラクダ、ウマ、ニワトリ又はヒト等が挙げられる。
免疫学的検出法で使用する抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、組換え抗体、及び合成抗体のいずれを使用してもよい。
【0042】
本明細書において「モノクローナル抗体」とは、単一免疫グロブリンのクローン群をいう。モノクローナル抗体を構成する各免疫グロブリンは、共通するフレームワーク領域(Frame work region:以下、「FR」と表記する)及び共通する相補性決定領域(Complementarity determining region:以下、「CDR」と表記する)を含み、同一抗原の同一エピトープを認識し、それに結合することができる。モノクローナル抗体は、単一細胞由来のハイブリドーマから得ることができる。
【0043】
典型的な免疫グロブリン分子は、重鎖及び軽鎖と呼ばれる2本のポリペプチド鎖一組がジスルフィド結合によって2組相互接続された四量体として構成される。重鎖は、N末端側の重鎖可変領域(H鎖V領域:以下、「VH」とする)とC末端側の重鎖定常領域(H鎖C領域:以下、「CH」とする)からなり、軽鎖は、N末端側の軽鎖可変領域(L鎖V領域:以下、「VL」とする)とC末端側の軽鎖定常領域(L鎖C領域:以下、「CL」とする)からなる。このうち、VH及びVLは、抗体の結合特異性に関与する点で特に重要である。このVH及びVLは、限定はしないが、いずれも約110個のアミノ酸残基からなり、その内部に抗原との結合特異性に直接関与する3つのCDR(CDR1、CDR2、CDR3)と、可変領域の骨格構造として機能する4つのFR(FR1、FR2、FR3、FR4)を有している。CDRは、抗原分子と相補的な立体構造を形成し、抗体の特異性を決定することで知られている(E.A.Kabat et al、1991、Sequences of proteins of immunological interest、Vol.1、eds.5、NIH publication)。定常領域のアミノ酸配列が種内抗体間ではほとんど一定なのに対して、CDRのアミノ酸配列は各抗体間において変異性が高く、それ故、超可変領域(Hyper variable region)とも呼ばれている。可変領域において、前記CDRとFRは、N末端からC末端方向にFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順序で配列されている。免疫グロブリン分子内においてVL及びVHは、相対して二量体を形成することによって抗原結合部位を形成している。
【0044】
本明細書において、CLDN6に対するモノクローナル抗体の具体的な例として、限定はしないが、本明細書の実施例で作製し、その抗原特異性や非交差反応性について検証したラット抗ヒトCLDN6モノクローナル抗体クローンである「αCLDN6#C6C15-1抗体」が挙げられる。αCLDN6#C6C15-1抗体は、重鎖における、CDR1が配列番号3、CDR2が配列番号4、及びCDR3が配列番号5で示されるアミノ酸配列からなり、かつ軽鎖における、CDR1が配列番号7、CDR2が配列番号8、及びCDR9が配列番号9で示されるアミノ酸配列からなる。また、重鎖可変領域(HV)が配列番号6、及び軽鎖可変領域(LV)が配列番号10で示されるアミノ酸配列からなる。
【0045】
本明細書において「ポリクローナル抗体」とは、同一抗原の異なるエピトープを認識し結合する複数種の免疫グロブリン群をいう。ポリクローナル抗体は、標的分子を抗原として動物に免疫後、その動物の血清から得ることができる。
【0046】
本明細書において「合成抗体」とは、化学的方法又は組換えDNA法を用いることによって合成した抗体をいう。例えば、適当な長さと配列を有するリンカーペプチド等を介して、特定の抗体の一以上のVL及び一以上のVHを人工的に連結させた一量体ポリペプチド分子、又はその多量体ポリペプチドが該当する。このようなポリペプチドの具体例としては、一本鎖Fv(scFv :single chain Fragment of variable region)(Pierce Catalog and Handbook, 1994-1995, Pierce Chemical Co., Rockford, IL参照)、ダイアボディ(diabody)、トリアボディ(triabody)又はテトラボディ(tetrabody)等が挙げられる。これらの抗体及びそのフラグメントは、当業者に公知の方法により調製することが可能である。また、被験者がヒトである場合には、拒絶反応を回避又は抑制するためにヒト抗体又はヒト化抗体であることが望ましい。
【0047】
「ヒト化抗体」とは、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称され、ヒト以外の哺乳動物、例えば抗ヒトMGAT5Bマウス抗体のV領域中のCDRのみを適当なヒト抗体のCDRと置換したモザイク抗体である。例えば、αCLDN6#C6C15-1抗体の重鎖及び軽鎖の各CDR領域(CDR1~CDR 3)をコードするDNA配列を、ヒト抗体由来の対応する各CDRをコードするDNA配列と置換した組換え抗体遺伝子を調製し、それを発現させることにより、その特定の抗体の性質を模倣した組換え抗体を得ることができる。
【0048】
ヒト化抗体を調製する一般的な遺伝子組換え手法は、当該分野では公知である(EP125023号)。例えば、マウス抗体のCDRとヒト抗体のフレームワーク領域(FR)とを連結するように設計したDNA配列を、CDR及びFR両方の末端領域にオーバーラップする部分を有するように作製した数個のオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いてPCR法により合成する方法が挙げられる。得られたDNAを、ヒト抗体定常領域をコードするDNAと連結し、発現ベクターに組み込んだ後、宿主に導入して発現させることで、目的のヒト化抗体を得ることができる(EP239400、WO96/02576)。CDRを介して連結されるヒト抗体のFRは、相補性決定領域が良好な抗原結合部位を形成するものが選択される。必要に応じ、再構成ヒト抗体の相補性決定領域が適切な抗原結合部位を形成するように抗体の可変領域におけるフレームワーク領域のアミノ酸を置換してもよい(Sato K. et al.,Cancer Research,1993,53:851-856)。また、様々なヒト抗体由来のフレームワーク領域に置換してもよい(WO99/51743)。
【0049】
CLDN6タンパク質若しくはそのペプチド断片を認識し、結合するポリクローナル抗体、又はモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを作製する方法は、CLDN6タンパク質若しくはそのペプチド断片を抗原として当該分野で公知の抗体作製方法に準じて行えばよい。例えば、Kishiro Y, et al., 1995, Cell Struct Funct, 20(2):151-156に記載の方法が挙げられる。この方法で作製した抗CLDN6モノクローナル抗体の具体例は、実施例3に記載している。
【0050】
本明細書において「抗体断片」とは、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体の部分断片であって、該抗体が有する抗原特異的結合活性と実質的に同等の活性を有するポリペプチド鎖又はその複合体をいう。例えば、抗原結合部位を少なくとも1つ包含する抗体部分、すなわち、少なくとも1組のVLとVHを有するポリペプチド鎖、又はその複合体が該当する。具体例としては、免疫グロブリンを様々なペプチダーゼで切断することによって生じる多数の十分に特徴付けられた抗体断片等が挙げられる。
【0051】
免疫学的検出法には、例えば、酵素免疫測定法(ELISA法、EIA法を含む)、蛍光免疫測定法、発光免疫測定法、放射免疫測定法(RIA)、表面プラズモン共鳴法(SPR法)、水晶振動子マイクロバランス(QCM)法、免疫比濁法、ラテックス凝集免疫測定法、ラテックス比濁法、赤血球凝集反応、粒子凝集反応法、金コロイド法、キャピラリー電気泳動法、ウェスタンブロット法又は免疫組織化学法(免疫染色法)が挙げられる。
【0052】
「酵素免疫測定法」は、標的分子と結合した一次抗体を、酵素標識された介在物質である二次抗体等を介して、当該酵素の作用により発色物質、若しくは蛍光物質を生じさせて、その発色濃度や蛍光強度によって標的分子を定量する方法である。
【0053】
「表面プラズモン共鳴(SPR:Surface Plasmon Resonance)法」は、金属薄膜へ照射したレーザー光の入射角度を変化させると特定の入射角度(共鳴角)において反射光強度が著しく減衰するという表面プラズモン共鳴現象を利用して、金属薄膜表面上の吸着物を高感度に検出、定量する方法である。本発明においては、例えば、金属薄膜表面に標的分子に対する抗体、又は標的核酸の塩基配列に相補的な配列を有する核酸プローブを固定化し、その他の金属薄膜表面部分をブロッキング処理した後、試料を金属薄膜表面に流通させることによってサンプル流通前後の測定値の差異から標的分子又は標的核酸を検出、定量することができる。表面プラズモン共鳴法による検出、定量は、例えば、Biacore社で市販されるSPRセンサを利用して行なうことができる。
【0054】
「水晶振動子マイクロバランス(QCM: Quarts Crystal Microbalance)法」とは、水晶振動子に取り付けた電極表面に物質が吸着するとその質量に応じて水晶振動子の共振周波数が減少する現象を利用して、共振周波数の変化量によって極微量な吸着物を定量的に捕らえる質量測定法である。本方法による検出、定量も、SPR法と同様に市販のQCMセンサを利用して、例えば、電極表面に固定した標的分子に対する抗体と試料中の標的分子との抗原抗体反応や標的核酸の塩基配列に相補的な配列を有する核酸プローブと試料中の標的核酸との塩基対合によって、標的分子や標的核酸を検出、定量することができる。
【0055】
(b)アプタマー解析法
「アプタマー解析法」は、アプタマーを用いて、標的分子を定量する方法である。アプタマーは、立体構造によって標的物質と強固、かつ特異的に結合し、標的物質の機能を特異的に抑制する能力を持つリガンド分子であり、その分子の種類により、核酸アプタマーとペプチドアプタマーに大別することができるが、いずれのアプタマーであってもよい。好ましくは核酸アプタマーである。本発明では、第1態様のバイオマーカーであるCLDN6若しくはそのペプチド断片がアプタマーの標的分子となる。
【0056】
「核酸アプタマー」は、核酸で構成されるアプタマーをいう。核酸アプタマーを構成する核酸は、DNA、RNA又はそれらの組合せのいずれであってもよい。必要に応じて、PNA、LNA/BNA、メチルホスホネート型DNA、ホスホロチオエート型DNA、2'-O-メチル型RNA等の化学修飾核酸を含むこともできる。
【0057】
核酸アプタマーは、第1態様に記載のバイオマーカーを標的分子として、当該分野で公知の方法により作製することができる。例えば、RNAアプタマーであれば、SELEX(systematic evolution of ligands by exponential enrichment)法を用いて試験管内選別により作製することができる。SELEX法は、公知の方法であり、具体的な方法は、例えば、Panら(Proc. Natl. Acad. Sci. 1995, U.S.A.92: 11509-11513)に準じて行えばよい。
【0058】
「ペプチドアプタマー」とは、アミノ酸で構成されるアプタマーで、抗体と同様に、特定の標的分子の表面構造を認識して、特異的に結合する1~6kDのペプチド分子である。ファージディスプレイ法や細胞表層ディスプレイ法を用いて製造することができる。ペプチドアプタマーの製造法は、当該分野で公知の方法に基づいて作製すればよい。例えば、Whaley, S.R., et al., 2000, Nature, 405, 665-668を参照することができる。
【0059】
上記抗体又はアプタマーは、必要に応じて標識されていてもよい。標識は、当該分野で公知の標識物質を利用すればよい。抗体及びペプチドアプタマーの場合、例えば、蛍光色素(フルオレセイン、FITC、ローダミン、テキサスレッド、Cy3、Cy5)、蛍光タンパク質(例えば、PE、APC、GFP)、酵素(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、グルコースオキシダーゼ)、放射性同位元素(例えば、3H、14C、35S)又はビオチン若しくは(ストレプト)アビジンにより標識することができる。また、核酸アプタマーの場合、例えば、放射性同位元素(例えば、32P、3H、14C)、DIG、ビオチン、蛍光色素(例えば、FITC、Texas、cy3、cy5、cy7、FAM、HEX、VIC、JOE、Rox、TET、Bodipy493、NBD、TAMRA)、又は発光物質(例えば、アクリジニウムエスター)が挙げられる。標識物質で標識された抗体やアプタマーは、標的タンパク質と結合したアプタマーを検出する際に有用なツールとなり得る。
【0060】
(c)質量分析方法
「質量分析法(Mass Spectrometry)」は、試料を高真空下でイオン化し、そのイオンを電磁的に分離して試料中の物質を分析する方法である。試料中の検出すべき標的分子が明らかな場合、その標的分子を標品とした質量スペクトルと試料の質量スペクトルを比較することにより、視聴中の標的分子の検出及び定量を行うことができる。本発明では、第1態様に記載のバイオマーカーであるCLDN6タンパク質、又はそのペプチド断片が標的分子に該当する。
【0061】
「質量分析法」には、高速液体クロマトグラフ質量分析法(LC-MS)、高速液体クロマトグラフタンデム質量分析法(LC-MS/MS)、ガスクロマトグラフ質量分析法(GC-MS)、ガスクロマトグラフタンデム質量分析法(GC-MS/MS)、キャピラリー電気泳動質量分析法(CE-MS)及びICP質量分析法(ICP-MS)が挙げられる。
【0062】
(d)核酸増幅方法
「核酸増幅法」は、フォワード/リバースプライマーペア用いて、標的核酸の特定の領域を核酸ポリメラーゼによって増幅させる方法をいう。例えば、PCR法(RT-PCR法を含む)、NASBA法、ICAN法、LAMP(登録商標)法(RT-LAMP法を含む)が挙げられる。好ましくはPCR法である。本方法で用いる第1態様に記載のバイオマーカーは、CLDN6 mRNA若しくはその核酸断片であることから、通常は、逆転写反応(RT反応)を介した核酸増幅法、例えば、RT-PCR法又はRT-LAMP法が採用される。特に本発明では、筋細胞等の試料中に存在する第1態様に記載のバイオマーカー量を測定する必要があるため、リアルタイムRT-PCR法のような定量的核酸増幅法を用いることが好ましい。RT-PCR法を用いた核酸定量法は、前記メーカーがキットを市販しており、それらを利用することもできる。例えば、前記Applied Biosystems TaqMan MicroRNA Assays Kit(Thermo Fisher Scientific社)が挙げられる。
【0063】
リアルタイムPCRの反応条件は、一般に、公知のPCR法を基礎として、増幅する核酸断片の塩基長及び鋳型用核酸の量、並びに使用するプライマーの塩基長及びTm値、使用する核酸ポリメラーゼの至適反応温度及び至適pH等により変動するため、これらの条件に応じて適宜定められる。前記メーカー市販のキットを使用する場合には、原則としてキットに添付のプロトコルに従って行えばよい。
【0064】
(e)ハイブリダイゼーション法
「ハイブリダイゼーション法」は、検出すべき標的核酸の塩基配列の全部又は一部に相補的な塩基配列を有する核酸断片をプローブとして用い、その核酸と該プローブ間の塩基対合を利用して、標的核酸若しくはその断片を検出、定量する方法である。ハイブリダイゼーション法には、検出手段の異なるいくつかの方法が知られているが、本発明では、標的核酸がmRNAであることから、例えば、ノザンハイブリダイゼーション法(ノザンブロットハイブリダイゼーション法)、RNAマイクロアレイ法、表面プラズモン共鳴法又は水晶振動子マイクロバランス法が好ましい。表面プラズモン共鳴法又は水晶振動子マイクロバランス法については、前述の通りである。
【0065】
「ノザンハイブリダイゼーション法」は、遺伝子の発現を解析する最も一般的な方法で、試料より調製したRNAを変性条件下でアガロースゲル若しくはポリアクリルアミドゲル等による電気泳動によって分離し、フィルターに転写(ブロッティング)した後に、標的核酸に特異的な塩基配列を有するプローブを用いて、そのRNAを検出する方法である。プローブを蛍光色素や放射性同位元素のような適当なマーカーで標識することで、例えば、ケミルミ(化学発光)撮影解析装置(例えば、ライトキャプチャー;アトー社)、シンチレーションカウンター、イメージングアナライザー(例えば、FUJIFILM社:BASシリーズ)等の測定装置を用いて標的核酸を定量することも可能である。ノザンハイブリダイゼーション法は、当該分野において周知著名な技術であり、例えば、Green, M.R. and Sambrook, J., 2012(前述)を参照すればよい。
【0066】
「RNAマイクロアレイ法」は、DNAマイクロアレイ法をRNAに応用した方法である。基板上に標的とする核酸の塩基配列の全部若しくは一部に相補的な核酸断片をプローブとして小スポット状に高密度で配置、固相化し、これに標的核酸を含む試料を反応させて、基盤スポットにハイブリダイズした核酸を蛍光等によって検出、定量する方法である。検出、定量には、標的核酸等のハイブリダイゼーションに基づく蛍光等をマイクロプレートリーダーやスキャナーにより検出、測定することによって達成できる。RNAマイクロアレイ法も当該分野において周知の技術である。例えば、「DNAマイクロアレイ法(DNAマイクロアレイと最新PCR法(2000年)村松正明、那波宏之監修、秀潤社)等を参照されたい。
【0067】
上述の各測定法は、いずれも当該分野に公知の技術である。したがって、具体的な測定方法については、公知の方法に準じて行えばよい。例えば、Green, M.R. and Sambrook, J., 2012(前述);Christopher J., et al., 2005, Chemical Review,105:1103-1169;Iijima Y. et al., 2008,.The Plant Journal, 54,949-962;Hirai M. et al.,2004, Proc Natl Acad Sci USA, 101(27) 10205-10210;Sato S, et al., 2004,,The Plant Journal, 40(1)151-163; Shimizu M. et al., 2005, Proteomics, 5,3919-3931に記載の方法を参考にすることができる。
【0068】
(2)判定工程
「判定工程」は、前記測定工程で得られた測定値に基づいて前記子宮体癌患者の予後の良否を判定する工程である。
本発明者らの研究結果から、予後不良の子宮体癌患者では、採取した試料中のCLDN6タンパク質又はCLDN6 mRNAが高発現していることが明らかになっている。したがって、単位量あたりの試料中に含まれるCLDN6タンパク質等の量、又はCLDN6 mRNA等の量が予め定められた値よりも大きい場合には、被験者である子宮体癌患者の予後は不良となる可能性が高いと判定することができる。
【0069】
したがって、本工程では、測定工程で得られた第1態様に記載のバイオマーカーの量の測定値が予め定められた値以上のときに、被験者である子宮体癌患者の予後は不良と判定し、逆に前記定められた値よりも小さいときには、被験者である子宮体癌患者の予後は良好となると判定すればよい。
【0070】
本明細書において「予め定められた値」とは、カットオフ値をいう。本明細書で「カットオフ値」とは、測定値に基づいて、子宮体癌患者における予後の良否を分類するための境界値をいう。カットオフ値の設定は特に限定しない。例えば、測定値と子宮体癌患者の手術後個体群における5年後の生存率とを照らし合わせて、測定値を生存率パーセンタイルで分類し、その分類に用いたパーセンタイル値をカットオフ値とすることができる。具体的には、個体群の90パーセンタイルの測定値で予後の良否を分類した場合、90パーセンタイルがカットオフ値となる。
【0071】
3.子宮体癌患者予後予測キット
3-1.概要
本発明の第3の態様は、子宮体癌予後予測キットである。本発明のキットは、子宮体癌患者から得られた試料を解析して、その患者の手術後の予後の良否を、医師の診断を介することなく、簡便かつ高精度に予測することができる。
【0072】
3-2.構成
本発明の子宮体癌予後予測キットは、必須の構成物として第1態様に記載の子宮体癌予後予測バイオマーカーの少なくとも一つの量を測定するための試薬を含む。そのような試薬の具体例として、限定はしないが、抗CLDN6抗体、CLDN6タンパク質との結合活性を有する抗CLDN6抗体断片、CLDN6結合アプタマー、及びCLDN6 mRNAのセンス鎖又はアンチセンス鎖に結合し、前記mRNAの全部領域又は一部領域を特異的に増幅可能なプライマーペアからなる群から選択される一以上を含む。これらの抗体やアプタマーは、固相担体に結合されていてもよい。
【0073】
本発明の子宮体癌予後予測キットに包含される抗CLDN6抗体の具体的な例として、重鎖のCDR1、CDR2、及びCDR3がそれぞれ配列番号3、4、及び5で示されるアミノ酸配列からなり、軽鎖のCDR1、CDR2、及びCDR3がそれぞれ配列番号7、8、及び9で示されるアミノ酸配列からなる抗CLDN6モノクローナル抗体が挙げられる。例えば、重鎖可変領域が配列番号6、及び軽鎖可変領域が配列番号10で示されるアミノ酸配列を含む抗CLDN6モノクローナル抗体が挙げられる。より具体的には、αCLDN6#C6C15-1抗体である。
【0074】
キットはその他にも、例えば、標識二次抗体、さらには標識の検出に必要な基質、担体、洗浄バッファ、試料希釈液、酵素基質、反応停止液、使用説明書等を含んでいてもよい。
【実施例
【0075】
≪材料と方法≫
1.抗体
免疫組織化学染色に用いた抗体とその希釈倍率を表1に示した。全て市販の抗体であり、内部コントロール用の抗Actin抗体を除いて、他はポリクロ―ナル抗体である。
【0076】
【表1】
【0077】
なお、ここに記載した市販抗体以外にも、後述の「9.抗CLDN6モノクローナル抗体の作製」では、抗CLDN6モノクローナル抗体を自ら作製し、子宮体癌患者の予後予測バイオマーカー検出抗体としての有用性について検証している。
【0078】
2.組織標本の収集
福島県立医科大学附属病院婦人科にて、2003年から2010年までの間に子宮体癌の診断で手術を受けた患者141例、及びいわき市立総合磐城共立病院で2009年から2012年までの間に同手術を受けた患者32人を対象として、組織標本の収集と臨床病理学的因子の解析を行った。対象症例は診断から5年間の生存情報が判明している患者に限り、原疾患に依らない死亡症例については対象から除外した。今回検討した症例の患者背景項目は、年齢、手術進行期分類(International Federation of Obstetrics and Gynecology [FIGO2008])、組織型(類内膜型、非類内膜型)、Lymph-vascular space invasion (LVSI)、リンパ節転移、遠隔転移であり、表2に示した。2003年から2007年までの症例については、すでに診断された進行期を病理組織検査の結果からFIGO 2008の診断基準に合わせて修正した。組織材料の収集にあたっては、福島県立医科大学倫理委員会の承認(承認番号2536)を受け、臨床研究に関わる倫理指針を遵守し、実施した。
【0079】
【表2】
【0080】
3.免疫組織化学染色
採取された子宮体癌組織は全て10%ホルマリン固定後にパラフィン包埋し、ヘマトリシリン・エオシン(Hematoxylin eosin:HE)染色と免疫組織化学染色を行った。切片は脱パラフィン、脱キシレン後、0.3%過酸化水素加メタノールで室温20分間処理し、内因性ペルオキシダーゼを除去した。抗原の賦活化は、pH6.0クエン酸ナトリウムバッファー中でMicrowave処理によって行った。5%スキムミルク(#0646869、森永乳業)でブロッキングを行い、Signal Booster Solution F (#BCL-ISF,Beacle)で200倍に希釈した抗claudin-6ウサギ抗体を4℃で一晩反応させた。二次抗体反応は、一次抗体がウサギIgGの場合はヒストファインSAB-POキット(#424031(R)、ニチレイ)を、ラットIgGの場合はVECTASTAIN Elite ABC Rat IgG Kit(VEC-0761-04、フナコシ)を用いて製造元の推奨する条件に従って行った。その後、3,3’-Diaminobenzidine (DAB)溶液(0.05 Mトリスバッファー100mL、 DAB 0.02 g、30% 過酸化水素水17μL)にて発色反応を室温下で5分間行った後、ヘマトキシリンで核染色を行い封入した。観察は光学位相差顕微鏡(OLYMPUS BX61,OLYMPUS)を用いて行い、DP controller (OLYMPUS)にて画像を撮影した。
【0081】
4.組織学的評価
転帰等の患者背景をマスキングした上で、2名の病理専門医及び1名の産婦人科専門医が、Immunoreactive score (IRS;Remmele et al., 1986)を一部改変した方法を用いてCLDN6タンパク質の発現を半定量化した。具体的には、表3に示すように、細胞膜におけるCLDN6タンパク質陽性領域の染色強度Signal intensity(SI)を0(negative)、1(weak)、2(moderate)、及び3(strong)の4段階に分類し、さらに染色範囲Percentage of Positive cells(PP)を、0(<1%)、1(1~10%)、2(11~30%)、3(31~50%)、及び4(50%<)の5段階のいずれかに決定した。これらのパラメータを用いて「SI×PP=IRS」としてスコアを算出し、0点をスコア 0、1~2点をスコア1、3~6点をスコア2、8~12点をスコア3とした。さらに、IRSスコア 0/1+をCLDN6タンパク質低発現群、IRSスコア 2+/3+をCLDN6タンパク質高発現群とした。つまり、本実施例では、前記IRS スコア2+がカットオフ値に相当する。
【0082】
【表3】
【0083】
5.統計解析
Chi-square testを用いて、表2に記載の臨床病理学的因子(患者年齢、手術進行期分類、組織型、LVSIの有無、リンパ節転移の有無、遠隔リンパ節転移の有無)とCLDN6タンパク質の高発現との関連を解析した。全生存期間(Overall survival; OS)はログランク検定を用いてCLDN6高発現群と低発現群を比較した。多変量解析はコックス比例ハザード回帰分析により行った。これらの統計解析は、SPSS(登録商標) Statistics Version 22 (IBM)を用いた。
【0084】
6.細胞培養
本実施例では子宮体癌細胞株としてECC-1 (和歌山県立医科大学の山田源教授より恵与)を使用した。培養液はRoswell Park Memorial Institute (RPMI) 1640をに10% Fetal bovine serum (FBS; #172012, Sigma-Aldrich)及び1% Penicillin-streptomycin mixture (#15140-122, Gibco)を添加した。
【0085】
7.CLDN6タンパク質過剰発現株の樹立
RIKEN BioResource Research Centerより供与されたレンチウイルスベクタープラスミドCSII-EF-Venusの多重クローニング部位(MCS)に、配列番号2で示す塩基配列からなるヒトCLDN6遺伝子のコーディング領域をクローニングした。これを同所より供与されたレンチウイルスパッケージングプラスミドpCAG-HIVgp及びpCMV-VSV-G-RSV-Revと共にHEK293T細胞にリポフェクション法を用いて遺伝子導入し、その3日後に産生されたレンチウイルスを含むその培養上清をECC-1細胞に添加した。5日後にセルソーター(FACS Aria II, BD)を用いてVenus陽性細胞のみを選別した。さらに、限界希釈法によりCLDN6過剰発現細胞株として複数のECC-1:CLDN6細胞クローンを樹立した。
【0086】
8.マウス担癌実験
8週齢のメス免疫不全マウス(SCIDマウス;日本クレア)を7匹使用し、背部皮下に、1×107個のECC-1細胞を500μLのPBSに溶解し、皮下移植した。移植から28日後、麻酔下にマウスを安楽死させ、解剖した。マウスを使用した実験については、福島県立医科大学動物実験委員会の承認を受け、福島県立医科大学動物実験規程を遵守し行った。
【0087】
9.抗CLDN6モノクローナル抗体の作製
CLDN6タンパク質に対するモノクローナル抗体(抗CLDN6モノクローナル抗体)を作製した。モノクローナル抗体の作製は、Kishiro Y, et al., 1995, Cell Struct Funct, 20(2):151-6.に記載の方法に基づき、以下の手順で行った。
【0088】
(1)抗原の調製
まず、Imject Maleimide Activated mcKLH 2mg(Thermo Fisher Scientific)を200μLの超純水に溶解して10mg/mLのKLH溶液を調製した。また、配列番号1で示すヒトCLDN6タンパク質の208位から220位(開始メチオニンを1位とする)のアミノ酸配列からなる抗原ペプチドをPBSで溶解して、5mg/mLの抗原ペプチド溶液とした。KLH溶液と抗原ペプチド溶液をそれぞれ200μL混合し、室温で2時間静置した。混合液からKLH溶液由来のEDTAを除去するため、煮沸した透析膜に移して、PBSを外液として透析を行った。得られた溶液を抗原溶液とした。2mLルアーロック式ガラス注射器を用いて、400μLの抗原溶液と1mLのフロイント完全アジュバント(Sigma-Aldrich)を混和して乳化し、抗原エマルジョンを調製した。
【0089】
(2)免疫
麻酔した8週齢の雌ラット(Wistar系)の両後肢に100μLの抗原エマルジョンを注射し、免疫した。
【0090】
(3)ポリエチレングリコール(PEG)溶液の調製
5gのPEG4000 (81240,Sigma-Aldrich)をオートクレーブにより滅菌した。8mLのダルベッコ改変イーグル培地(高グルコース; DMEM; D5796, Sigma-Aldrich) に0.4mLのジメチルスルホキシド(D2650,Sigma-Aldrich)を加え、50℃に加温した。これに滅菌後のPEG4000を加え、素早く混和してPEG溶液を調製した。
【0091】
(4)細胞融合と細胞培養
免疫14日後のラットより腸骨リンパ節を摘出し、1mLのDMEMと共に滅菌シャーレに置いた。リンパ節を鋏で細断した後、70μmのセルストレーナー(BD, Falcon(登録商標))で濾過した。前記シャーレに約107個のマウス多発性骨髄腫細胞株SP2を加えて、ピペットでよく混和した後、1200rpm/minで5分間遠心分離し、上清を吸引除去した。37℃のPEG溶液を約1分間かけて緩徐に滴下した後、2分間放置して、その後、5分間かけて9mLのDMEM培地を緩徐に滴下した。900rpm/minで5分間遠心分離し、上清を吸引除去した。ハイブリドーマ培地(78% GIT培地[和光], 2% HAT Supplement [Thermo Fisher Scientific], 10% BM Condimmed H1 Hybridoma Cloning Supplement [Roche], 10%ウシ胎児血清)を40mL加えて、100μLずつ96穴培養皿4枚に播種した後、37℃のCO2インキュベーターで培養した。
【0092】
(5)スクリーニング
培養4日後に100μLのハイブリドーマ培地で培地交換を行った。交換2日後の培養上清50μLを用いてELISA法により陽性のクローンをスクリーニングした。スクリーニングは、以下の手順で行った。
【0093】
まず、前述の抗原ペプチド溶液を3μg/mLに希釈し、96穴ELISAプレートのウェルに100μLずつ加えて、37℃で一晩静置した。その後、各ウェルから抗原ペプチド溶液を除去して、200μLのPBSで洗浄した後、ブロッキング液(1%ウシ血清アルブミン/PBS)を加えて37℃で1時間静置した。その後、各ウェルからブロッキング液を除去して、200μLのPBSで洗浄した後、50μLの培養上清を加えて、37℃で1時間反応させた。各ウェルから培養上清を除去した後、200μLのPBSで3回洗浄した。続いて、各ウェルにブロッキング液で2,000倍希釈したECL(TM) Rat IgG, HRP-linked whole antibody (Sigma-Aldrich)を二次抗体として100μL加え、37℃で1時間反応をさせた。その後、各ウェルから二次抗体液を除去して、PBSで3回洗浄した後、TMB Substrate Set(BioLegend)によりメーカーが推奨する方法で発色させて、その吸光度を測定した。
【0094】
スクリーニングの結果から、24クローンを陽性として選択した。それらのクローンは12穴培養皿で継代培養した後、細胞の占有面積が概ね50%に達した時点で10cm培養皿に移して、さらに増殖させた。
【0095】
(6)免疫組織化学
前記陽性24クローンを用いて「2.組織標本の収集」及び「3.免疫組織化学染色」に記載の方法で、患者由来の子宮体癌組織パラフィン切片に対して免疫組織化学を行った。その結果、切片標本を染色することのできた1クローン(αCLDN6#C6C15-1)が得られた。
【0096】
10.クローディン(CLDN)発現細胞サンプルの調製
図4に示すように、EF1αプロモーター制御下でCLDN遺伝子(CLDN1、CLDN4、CLDN5、CLDN6、及びCLDN9をコードする各遺伝子のいずれか)と蛍光分子Venus遺伝子を発現するプラスミドベクターを調製し、Lipofectamine(TM)2000 Transfection Reagent (Thermo Fisher Scientific)を用いて、HEK293T細胞株に標準プロトコルで導入した。陰性対照にはCLDN遺伝子を含まず、Venusのみを発現するベクターを導入した。24時間後にVenusの蛍光を観察することにより、発現ベクターの取込みと遺伝子発現を確認した。
【0097】
11.ウエスタンブロット
各遺伝子導入から48時間後に、CelLytic(TM) MT Cell Lysis Reagent (Sigma-Aldrich)にタンパク質分解酵素阻害剤 Complete mini EDTA-free (Roche Diagnostics)を1細胞/10mLの濃度で添加した可溶化液を用いてタンパク質を抽出した。標準プロトコルに従ってSDS-PAGE、転写、及び抗体反応を順に行い、ECL(TM) Prime Western Blotting Detection reagent (GE Healthcare)によって化学発光させて、CCDイメージャーImage Quant LAS4000 (GE Healthcare)を用いて撮像した。一次抗体は、αCLDN6#C6C15-1の培養上清原液を用いて4℃で一晩、二次抗体は、PBSで2,000倍に希釈したECL(TM) Rat IgG, HRP-linked whole antibody (Sigma-Aldrich)、及びPBSで5,000倍に希釈した表1に記載のECL(TM) Rabbit IgG, HRP-linked whole antibody (Sigma-Aldrich)をそれぞれ用いて30分反応させた。
【0098】
12.抗CLDN6モノクローナル抗体(αCLDN6#C6C15-1)のCDR配列決定
前記「抗CLDN6モノクローナル抗体の作製」で得た抗CLDN6モノクローナル抗体クローンαCLDN6#C6C15-1の軽鎖及び重鎖の各可変領域及び各CDR配列を決定した。αCLDN6#C6C15-1クローンをBio-Peak社に送り、委託で配列決定を行った。CDRの同定はKabatの抗体ナンバリングシステムに従った。
【0099】
≪実施例1:子宮体癌組織におけるCLDN6タンパク質発現の免疫組織化学≫
外科的に切除された173例の子宮体癌組織におけるCLDN6タンパク質発現を検証した。
上記≪材料と方法≫の「3.免疫組織化学染色」に記載の方法に従い、免疫組織化学染色を行い、細胞膜におけるCLDN6タンパク質陽性領域の染色強度に基づいて、上記≪材料と方法≫の「4.組織学的評価」に記載の方法に従い、IRSスコアリングを行った。
【0100】
HE及び抗CLDN6ポリクロ―ナル抗体による免疫組織化学染色の結果を図1に示す。スコアリングの結果、173例中24例(約14%)がCLDN6タンパク質高発現群(Score 2+/3+)であった。一方、CLDN6タンパク質低発現群(Score 0/1+)は149例(約86%)であった。CLDN6タンパク質は子宮体癌組織の細胞膜に局在しており、高発現群(High CLDN6)においてもCLDN6陽性、陰性の癌細胞集団が腫瘍内でモザイク状に混在していた(図示せず)。図中、Bar=50μmである。
【0101】
図2は、上記IRSスコアリングによって分類されたCLDN6タンパク質高発現症例(a)と低発現症例(b)の各子宮体癌患者における手術後5年の生存率をKaplan-Meier曲線で示した図である(*P<0.001)。このカットオフ値で高発現群に分類された患者の5年生存率は66.7%であり、89.3%の低発現群と比較して有意に低かった。また表4で示すように、臨床病理学的因子のうち、手術進行期分類III-IV、非類内膜癌、組織グレード3、脈管侵襲、リンパ節転移、遠隔転移の割合がCLDN6高発現において有意に増加していた。さらに、多変量解析の結果、CLDN6高発現群のハザード比は4.13であり、遠隔転移の4.03よりも高い値であった。
【0102】
【表4】
以上の結果から、CLDN6タンパク質の高発現は、既知の子宮体癌予後不良因子を超える強力な予後不良因子であることが明らかになった。
【0103】
また、本発明の子宮体癌の予後予測方法で、予後不良と判定された場合には、その患者は手術後も再発、転移や浸潤のリスクが高く、半数弱が手術後5年以内に死亡し得ると予測される。そこで、予後不良と判定された場合には、手術後も予後観察及び頻用検査を日常的に実施することを心掛けることで、再発の早期発見が可能となる。
【0104】
≪実施例2:CLDN6タンパク質の高発現による子宮体癌細胞の増殖能及び浸潤能≫
CLDN6タンパク質の高発現が癌悪性形質に与える影響を、免疫不全マウスを用いた担癌実験によるin vivoで検証した。
SCIDマウスの背部皮下に1×107個の野生型ECC-1細胞とCLDN6タンパク質過剰発現株ECC-1:CLDN6細胞をそれぞれ移植した。ECC-1及びECC-1:CLDN6の両方で腫瘍が形成された。4週間後に癌組織を摘出したところ、移植されたECC-1:CLDN6腫瘍は、野生型ECC-1と比較して腫瘍重量で約1.6倍大きかった(図3)。しかし、リンパ節や遠隔臓器に肉眼上明らかな転移は認められなかった。一方、移植腫瘍は、いずれも充実性成分の多いGrade 3相当の類内膜癌の像を呈し、ECC-1:CLDN6ではCLDN6タンパク質を高発現しているヒト内膜癌症例と同様にCLDN6タンパク質の発現の腫瘍内不均一性が認められた。腫瘍周囲の線維性被膜への浸潤は、ECC-1:CLDN6で目立ち、CLDN6タンパク質陽性、陰性の両癌細胞集団の浸潤が認められた。対して、野生型ECC-1では被膜内浸潤はほとんど認められなかった。以上の結果から、CLDN6タンパク質の高発現は子宮体癌細胞の浸潤増殖能を促進することが明らかとなった。
【0105】
≪実施例3:抗CLDN6モノクロー抗体の抗原特異性(1)≫
実施例で作製した抗CLDN6モノクローナル抗体(αCLDN6#C6C15-1)の抗原特異性及び交差反応性を確認するために、CLDN1、CLDN4、CLDN5、CLDN6、及びCLDN9に対してウェスタンブロットを行い検証した。
【0106】
図5に結果を示す。A及びBは、それぞれ一次抗体にRabbit抗CLDN6ポリクローナル抗体及びRatαCLDN6#C6C15-1抗体を用いたものである。図5からも明らかなように、αCLDN6#C6C15-1抗体は、CLDN6に対してのみ抗原抗体反応を示し、他のクローディンには結合しなかった。この結果からαCLDN6#C6C15-1抗体は、抗原であるCLDN6に対する結合特異性が高く、他のクローディンタンパク質とはほとんど交差反応性を示さないことが立証された。
【0107】
≪実施例4:抗CLDN6モノクロー抗体の抗原特異性(2)≫
実施例で作製した抗CLDN6モノクローナル抗体(αCLDN6#C6C15-1)の抗原特異性及び交差反応性を確認するために、CLDN1、CLDN4、CLDN5、CLDN6、及びCLDN9に対して免疫組織化学染色を行い検証した。
【0108】
遺伝子導入から48時間後に、HEK293T細胞をピペッティングにより剥離し、10%中性ホルマリンで固定した。5,000rpm/minで遠心分離を5分行い、細胞塊(セルブロック)を形成し、標準プロトコルに従ってパラフィンに包埋し薄切した。基本的な染色法は、前述の「3.免疫組織化学染色」に準じた。脱パラフィン処理しPBSで水和した後、培養上清の原液を一次抗体として4℃で一晩室温で1時間反応させた。その後、VECTASTAIN Elite ABC Rat IgG Kit (フナコシ)を用い、標準プロトコルに従ってジアミノベンジジン法により染色(DAB染色)した。
【0109】
図6に結果を示す。左カラム及び右カラムは、それぞれ一次抗体にRabbit 抗CLDN6ポリクローナル抗体(IBL)及び実施例3で作製したRatαCLDN6#C6C15-モノクローナル1抗体を用いたものである。
【0110】
図6からも明らかなように、Rabbit 抗CLDN6ポリクローナル抗体では、CLDN6以外にもCLDN4及びCLDN5でも染色が確認され、CLDNタンパク質間での交差反応性が認められた。一方、RatαCLDN6#C6C15-1モノクローナル抗体では、CLDN6のみが染色されており、他のCLDNの染色は認められなかった。この結果から、RatαCLDN6#C6C15-1モノクローナル抗体は、CDLN6に対する高い抗原特異性と他のCLDNタンパク質との非交差反応性が立証された。
【0111】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
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