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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-27
(45)【発行日】2023-11-07
(54)【発明の名称】スフィンゴミエリンを含むリポソーム
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/127 20060101AFI20231030BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20231030BHJP
   A61K 47/28 20060101ALI20231030BHJP
   A61K 31/445 20060101ALI20231030BHJP
   A61K 31/473 20060101ALI20231030BHJP
   A61K 31/05 20060101ALI20231030BHJP
   A61K 31/428 20060101ALI20231030BHJP
   A61K 31/7084 20060101ALI20231030BHJP
   A61K 31/455 20060101ALI20231030BHJP
   A61K 31/7032 20060101ALI20231030BHJP
   A61K 31/48 20060101ALI20231030BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20231030BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20231030BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20231030BHJP
   A61P 25/14 20060101ALI20231030BHJP
   A61P 25/02 20060101ALI20231030BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20231030BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231030BHJP
   B82Y 5/00 20110101ALI20231030BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20231030BHJP
【FI】
A61K9/127
A61K47/24
A61K47/28
A61K31/445
A61K31/473
A61K31/05
A61K31/428
A61K31/7084
A61K31/455
A61K31/7032
A61K31/48
A61P25/28
A61P25/00
A61P25/16
A61P25/14
A61P25/02
A61P21/00
A61P43/00 121
B82Y5/00
B82Y40/00
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020554586
(86)(22)【出願日】2018-12-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-25
(86)【国際出願番号】 EP2018086352
(87)【国際公開番号】W WO2019122220
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-12-20
(31)【優先権主張番号】17209738.8
(32)【優先日】2017-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】520223745
【氏名又は名称】インノメディカ・ホールディング・アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】INNOMEDICA HOLDING AG
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ハルプヘル,シュテファン・ヨナタン
(72)【発明者】
【氏名】ペイッチュ,カミレ
【審査官】平井 裕彰
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-522880(JP,A)
【文献】特表2015-521636(JP,A)
【文献】J. Control. Release,2017年05月,Vol.260,pp.61-77
【文献】Int. J. Nanomed.,2013年,Vol.8,pp.1749-1758
【文献】J. Drug Deliv.,2011年,Vol.2011,2011:469679
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K47/00 ~47/69
9/127
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経変性疾患および脊髄損傷の処置を目的とした活性成分のための薬物担体として使用するためのリポソームであって、前記リポソームは、脂質二重層中にスフィンゴミエリンを含み、血液脳関門を通過するよう構成され、前記リポソームの脂質二重層はガングリオシドを本質的に含まず、少なくとも1種の活性成分が、前記リポソーム中に含まれるおよび/または内包され、前記リポソームは、表面修飾が全くされていないこと、および、前記リポソームは、平均直径が10nm以上50nm未満であること、を特徴とする、リポソーム。
【請求項2】
前記リポソームは、コレステロールをさらに含む、請求項1に記載のリポソーム。
【請求項3】
前記神経変性疾患は、タウオパチー、シヌクレイノパチー、トリヌクレオチドリピート障害、運動ニューロン疾患、プリオン病および中枢神経系の疾患からなる群より選択される、請求項1からのいずれか1項に記載のリポソーム。
【請求項4】
前記活性成分は、コリンエステラーゼ阻害剤、ドーパミン作動薬、レスベラトロール、およびニコチン誘導体からなる群より選択される、請求項1~3のいずれか1項に記載のリポソーム。
【請求項5】
GM1ガングリオシドが、前記活性成分として前記リポソーム中に内包された、請求項1~4のいずれか1項に記載のリポソーム。
【請求項6】
リポソーム製剤中において、前記リポソーム製剤の多分散指数は、0.15以下である、請求項1~のいずれか1項に記載のリポソーム。
【請求項7】
リポソーム製剤中において、前記リポソーム製剤のリポソームの平均相対円形度は、0.95である、請求項1~のいずれか1項に記載のリポソーム。
【請求項8】
リポソーム製剤中において、前記製剤のリポソームの90%は単層である、請求項1~のいずれか1項に記載のリポソーム。
【請求項9】
請求項1~のいずれか1項に記載のリポソームの製造方法であって、
a)有機溶媒中の脂質およびコレステロールを提供する工程と、
b)水性液体を添加する工程と、
c)超音波処理によりリポソームの形成を可能とする工程と、
d)任意に、前記リポソームを分離する工程とを含み、
前記リポソームの平均直径が、10nm以上50nm未満となるように前記工程c)が実施されることを特徴とする、方法。
【請求項10】
前記工程a)において使用される有機溶媒は、エタノール、メタノール、クロロホルム、およびこれらの混合物からなる群より選択される、請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記工程b)において使用される水性液体は、水、水性緩衝液、水性グリシン溶液からなる群より選択される、請求項9~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記工程a)において使用される有機溶媒および/または前記工程b)において使用される水性液体は、コリンエステラーゼ阻害剤、ドーパミン作動薬、レスベラトロールおよびニコチン誘導体からなる群より選択される活性成分を含む、請求項9~11のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リポソーム、リポソームの製造方法、および薬剤として使用するためのリポソームに関する。
【背景技術】
【0002】
リポソームは、少なくとも1つの脂質二重層を有する球状のベシクルである。リポソームは、1つのベシクルが1つ以上の小さなベシクルを含有する多胞性リポソームであってもよい。リポソームは、中心に水溶液を有し、これが、脂質二重層の形態をとる疎水性の膜に囲まれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
多様な薬物、特に非経口投与される薬物について、薬物送達のためのリポソームの使用が提案されている。リポソームは、投与された薬物を長期間にわたって制御された「デポ」放出することができ、遊離した薬物の血中濃度の制限により薬物の副作用を低減できる。また、リポソームは、組織における薬物の分布および取り込みを、治療に有利となるように変化させることができ、さらに、薬物投与回数を減らせるために、療法の利便性を増大させることができる。たとえば、リポソームは、内包された活性成分を、腫瘍細胞および炎症部位を含む疾患部位に直接輸送することができる。こうした活性成分は、処置部位においてリポソームから直接放出され得る。その結果、活性成分の必要投薬量が少なくて済み、結果的に、副作用が制限される。
【0004】
しかしながら、標的細胞によっては、所望の処置部位において薬剤が確実に放出されるように、リポソームを修飾する必要がある。
【0005】
神経変性疾患および脊髄損傷を処置するための薬物送達システムの開発は、このシステムを脳および/または脊髄に到達させる必要があるため、特に困難である。しかしながら、中枢神経系と全身循環血流との間の保護障壁を構成する組織の特殊な層である血液脳関門が制限をかけているために、このようなシステムの開発はさらに困難である。
【0006】
これまでに、リポソームを用いて神経変性疾患を処置するための様々な研究が実施されている。WO2014/000857には、アルツハイマー病の処置における活性成分としてホスファチジン酸および/またはカルジオリピンとアポリポタンパク質E(ApoE)とを含むリポソームの使用が記載されている。このようなリポソームを用いた処置によって、アルツハイマー病に関連するアミロイドプラークの形成が辺縁系の細胞外および細胞内レベルにおいて低減され得るが、ヒト臨床試験によって蓄積されているエビデンスによれば、プラーク形成はどちらかといえば疾患の症状であって、原因ではないことが示唆される。複数の第3相臨床試験が実施されたが、ヒトにおけるプラーク除去による疾患増悪の遅延は示されていない。最近の科学文献によれば、WO2014/000857中に記載される粒子径100nmでは大き過ぎて血液脳関門を効果的に通過できないことが示唆される(Saraiva C.ら 2016 J Controlled Release;Betzer O.ら 2017 Nanomedicine(London))。
【0007】
アルツハイマー病の例において、処置の開発に向けたさらなる研究がなされている。最近の一例は、ベータ-アミロイドプラークを除くことを意図した、抗体に基づくアルツハイマー療法の開発である。しかしながら、臨床試験によって蓄積されているエビデンスによれば、アミロイド-ベータを除くことを目的としたモノクローナル抗体はアルツハイマー患者にとって有益ではないことが示唆される(N Engl J Med.2017 May 4;376(18):1706-1708.、およびNature.2016 Nov 23;540(7631):15-16.、およびAlzheimers Dement.2016 Feb;12(2):110-120)。したがって、依然として、アルツハイマー病処置のための別のアプローチを見い出す必要がある。
【0008】
WO2008/033253 A2には、神経変性疾患の処置を目的とした、医薬品を血液脳関門を越えて送達するためのリポソーム複合体の使用が記載されている。このリポソームはリン脂質から調製されており、医薬品に結合させてある。さらに、このリポソームは、ガングリオシドなどのシアル酸含有分子をリポソームに付着させることによって修飾されている。このシアル酸含有分子は、抗体に基づく薬剤もしくはペプチドアナログなどのターゲティング剤とリポソーム外表面との間のリンカーとして作用し得る、または、リポソーム外表面に付着して、細網内皮系によるリポソームの除去を防止し得る。どのような場合においても、WO2008/033253によれば、ターゲティング剤を確実に脳に輸送するためにシアル酸含有分子が必要である。
【0009】
WO2007/044748には、過活動膀胱障害に関連する神経障害性疼痛および異常な筋収縮を伴う障害を処置するための、スフィンゴミエリンを含有するリポソームの医薬組成物が開示されている。このリポソームは、薄膜水和法によって製造される。
【0010】
WO2009/150686には、ベータアミロイドペプチドに効果的に結合でき、アルツハイマー病の処置、予防、および診断に有用なリポソームが開示されている。このリポソームは押出しによって製造される。
【0011】
こうしたリポソームの欠点は、工業規模での製造が、どちらかというと困難かつ高価である点である。また、リポソーム表面に化学結合した標的部位が、身体にとって異物である分子構造体を生じ得るが、これが免疫原性を有し、有害な薬物反応を引き起こす恐れがある。一方、本特許出願中に記載される本発明に係るリポソーム膜は、身体にとって異物である分子を本質的に含まないため、生体適合性が高い。
【0012】
別の問題として、神経変性疾患の処置のための、神経保護物質であるGM1ガングリオシドなどの特定の活性成分の投与に関する問題がある。たとえば、パーキンソン病などの徴候に対するガングリオシドGM1の投与が処置において困難を生じることが記載されている(J.Neurol.Sci.2013;324(1-2):140-148)。さらに、遊離のGM1を使用する脊髄損傷の処置が患者において良好な転帰を示している(Spinal Cord(2013)51,2-9、およびActa Ortop Bras.2016 May-Jun;24(3):123-6)。GM1の薬物動態のために、この物質は、皮下または静脈内に高用量にて投与する必要がある。このような高用量と投与経路とにより、患者において、注射部位の局所疼痛および腫脹、紅斑、そう痒、ならびに血腫などの、ある種の有害反応が生じる傾向がある。このような副作用を回避し、かつ多量のGM1の使用を回避することが望ましい。
【0013】
したがって、医学において、神経変性疾患、脊髄損傷、および他の神経障害を処置するために活性成分を脳および脊髄に輸送できる有効な薬物送達システムが必要とされているが、未だに提供されていない。特に、血液脳関門による制限性の機序を克服できる送達システムを提供する必要がある。理想的には、この送達システムは、非経口経路によらずに投与でき、その結果、非経口投与に伴うリスクおよび不便を回避できるものである。
【0014】
したがって、本発明の目的は、こうした必要性に対処すること、ならびに、神経変性疾患および脊髄損傷の処置における活性成分および/または担体システムとして好適なリポソームを提供することである。本発明の別の目的は、このようなリポソームの製造方法を提供すること、および薬剤としてのこのようなリポソームの使用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述される目的は、以下に記載されるリポソーム、リポソームの製造方法、および薬剤として使用するためのリポソームによって解決された。
【0016】
本発明は、脂質二重層中にスフィンゴミエリン(SM)を含み、ガングリオシドを本質的に含まない、リポソームに関する。特に、このリポソームの脂質二重層は、ガングリオシドを本質的に含まない。このリポソームは、血液脳関門を通過するよう構成され、神経変性疾患および脊髄損傷の処置にとって好適である。リポソームが血液脳関門を構成するのを好適とするリポソームの様々な特性が、以下に、より詳細に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係るICGで標識されたスフィンゴミエリンを含むリポソームのin vivo体内分布。
図2】本発明に係るDiRで標識されたスフィンゴミエリンを含むリポソームのin vivo体内分布。
図3図2に対する比較例としての、DiRで標識されたスフィンゴミエリンおよびGM1を含むリポソームのin vivo体内分布。
図4図2および図3のin vivo体内分布画像から脳、脊髄、肝臓、および脾臓における体内分布を分析したグラフ表示。
図5】表面修飾なしのリポソームのcryoTEMによる特徴づけ:(A)可視化、低倍率、(B)可視化、高倍率、(C)定性評価、(D)数量的直径分布。
図6】表面修飾なしのリポソームのcryoTEMによる数量的特徴づけ:(A)円形度分布、(B)ラメラリティ図。
図7】動的光散乱DSCにより測定した、経時的なリポソームのサイズ安定性の特徴づけ。
図8】動的光散乱DSCにより測定した、経時的なリポソームの多分散安定性の特徴づけ。
図9】異なるリポソーム製剤の、脊髄および脳におけるIn-vivo蛍光。
図10】異なるリポソーム製剤の、脊髄および脳におけるIn-vivo蛍光。
図11】異なる脂質組成を有するリポソーム製剤の、脳におけるIn-vivo蛍光。
【発明を実施するための形態】
【0018】
スフィンゴミエリンは、リン脂質およびスフィンゴ脂質のグループに属する。脳の脂質の約10%を占める。スフィンゴミエリンは、細胞の細胞膜中、特に外葉中における濃度が最も高い傾向がある。
【0019】
本発明中に記載されるスフィンゴミエリンを含むリポソームは、高い安定性および高い生物学的特性を示す。こうしたリポソームは薬剤として作用し得る。こうしたリポソームは、さらに、高い薬物動態学的および治療的特性を有する薬物担体システムとしても作用し得る。驚くべきことに、ガングリオシドを本質的に含まないリポソームが、血液脳関門を非常に高効率で通過できること、ならびに、投与後に脳および脊髄中に見つかり得ることが見いだされた。さらに、著しい量のガングリオシドを含むリポソームと比較して通過効力が高いことも示された(図4)。したがって、ガングリオシドを用いたさらなる修飾は、血液脳関門通過のためには不要である。本発明に係るリポソームは、神経変性疾患および脊髄損傷の処置を目的とした活性成分のための薬剤および/または薬物担体として非常に好適である。
【0020】
本発明の文脈において、「本質的に含まない」は、ガングリオシドの量が5%mol未満、好ましくは3%mol未満、最も好ましくは1%mol未満であることを指す。リポソームはガングリオシドを含まなくてもよい。
【0021】
本発明の目的のために使用されるスフィンゴミエリンは、合成、または、天然系成分から、特に動物由来成分からの抽出のいずれかによって得られてよい。好ましくは、本発明の目的のために使用されるスフィンゴミエリンは、パルミトイル-D-エリスロ-スフィンゴシン-1-ホスホコリンである。パルミトイル-D-エリスロ-スフィンゴシン-1-ホスホコリンは、身体自体のスフィンゴミエリン型リン脂質(d18:1/16:0)に対応するものであり、その結果、リポソームの体内への取り込み、特に脳および脊髄中への取り込みが改善される。さらに、そのC16鎖は、リポソームの高い安定性を与える。
【0022】
さらに、このリポソームは、脾臓および肝臓などのクリアリング臓器(clearing organs)中で代謝され得るため、その結果、処置後に体外に除去され、長期間にわたる蓄積が回避されることが分かった。
【0023】
このリポソームは、コレステロール(Chol)をさらに含んでよい。好ましくは、リポソーム中におけるスフィンゴミエリンおよびコレステロールの比率は、それぞれ60~40%molおよび45~55%molの間で変動してよい。スフィンゴミエリンおよびコレステロールを含むリポソームは、高い循環寿命を示す。また、改善された薬物動態学的および治療的特徴を有する。また、生体適合性かつ生分解性である。スフィンゴミエリンとコレステロールとの相互作用により、細胞膜および他の小器官(たとえば、ゴルジ)の膜の面の中に、コレステロール/スフィンゴ脂質を高含有するナノおよびマイクロドメイン(膜「ラフト」と称される)が生じ得る。こうしたドメインは、シナプス機能およびシナプス形成、神経伝達物質放出、およびシナプス可塑性の調節において重要な役割を果たす(Mol Neurobiol.2017 Jan;54(1):623-638)。
【0024】
このリポソームは、表面修飾が本質的にされていなくてよい。修飾の文脈において、「本質的にされていない」とは、修飾がリポソームの5%mol未満、好ましくは3%mol未満、最も好ましくは1%mol未満を構成することを意味する。このリポソームは、表面修飾が全くされていなくてもよい。ここで言及される表面修飾とは、葉酸、ペプチド、抗体、糖、ポリエチレングリコール、モノクローナル抗体、モノクローナル抗体の一部、または表面タンパク質である。
【0025】
このような修飾によって引き起こされる副作用が、結果として回避され得る。この本発明に係る革新によって、リポソームの直径をより小さくすることができ、これにより、血液脳関門を通過しやすくできる。また、身体自体の脂質が使用される場合に、免疫反応のリスクが低減され得る。この場合、表面修飾がされていないリポソームにより、より高い生物学的適応性が提供され得て、とりわけ、高いクリアランス速度が回避され得る。現在の最高水準の技術でも、リポソームの表面修飾および能動的ターゲティングは技術的に非常に難しいため、体内分布効率の低下および費用便益比の低下につながり得る。本発明のさらなる妥当な態様は、コストの低減だけでなく製造工程数の低減であってよく、これにより大量生産が容易となり得る。
【0026】
GM1は、神経保護物質として知られる。さらに、GM1は、アルファ-シヌクレイン(パーキンソン病)、アミロイド-ベータ(アルツハイマー病)、およびハンチンチン(ハンチントン病)を含む、中枢神経系(CNS)の疾患において析出物を形成する複数のタンパク質と相互に作用し得る。GM1およびその誘導体は、血液脳関門およびニューロン細胞膜を透過することが知られている。GM1の誘導体であるLIGA20の投与がパーキンソン病の齧歯類モデルにおいてパーキンソン症状を緩和することも示されている。
【0027】
こうして、GM1および誘導体は、神経変性疾患および脊髄損傷の処置における活性成分として、リポソームの水性区画内に挿入され得る。リポソームの水相中に活性成分として組み込まれた場合、GM1は、5~15%mol、好ましくは9~11%mol、最も好ましくは10%molの量にて存在してよい。
【0028】
リポソームの表面荷電は、リポソーム製剤の調製において重視すべき事項であり、ガングリオシドGM1の挿入を示す第1の分析指標である。ガングリオシドGM1がリポソーム脂質二重層中に挿入されると、リポソームは、スフィンゴミエリンおよびコレステロールで構成されるベースのベシクル脂質二重層よりも負側のゼータ電位を示す。ゼータ電位は、DLS装置を用いて分析でき、-10~-60mVの範囲である。SM/Cholを有するリポソームのゼータ電位は-10mVであり、SM/Chol/GM1リポソームのゼータ電位は-49mVである。GM1はpH≧5において負に荷電しているため、GM1を有するリポソームは負に荷電する。
【0029】
ゼータ電位を測定することによって、リポソームがガングリオシドを本質的に含まないことを判断できる。
【0030】
好ましくは、リポソームは、平均直径が10~70nm、好ましくは10~50nm、最も好ましくは25~35nmである。平均直径は、低温透過電子顕微鏡法(cryoTEM)により、標準偏差約10nmにて求めることができる。
【0031】
平均直径が50nmを超えないリポソームは、血液脳関門を通過しやすい。それに加えて、これらは、大きなものよりもオプソニン化が遅くかつその程度も低く、細網内皮系によって除かれるのも遅い。
【0032】
好ましくは、このようなリポソームに基づく製剤は、多分散指数が0.15以下、より好ましくは多分散指数が0.10~0.15であり、したがって本質的に単分散である。多分散指数は、動的光散乱(DLS)によって求められる。0.15以下という多分散指数は、当技術分野において周知されるリポソーム製剤の多分散指数よりも優れている。当技術分野において周知される、押出し、ホモジナイズ、および超音波処理という工程によって得られるリポソーム製剤は、典型的には、多分散指数が0.2~0.4である(Gim Ming Ongら,Evaluation of Extrusion Technique for Nanosizing Liposomes,Pharmaceutics 2016(8)36,p.5)。本質的に単分散であるリポソーム製剤は、再現性目的および工業規模製造にとって有益であり、販売承認基準に準拠している。
【0033】
製剤中のリポソームの円形度およびラメラリティは、低温透過電子顕微鏡法(cryoTEM)によって求められる。好ましくは、リポソームの相対円形度は、0.95、最も好ましくは0.98~1.00である。円形度が1.00であるとは、標準的な物理法則による完全な円形であることを表す。好ましくは、リポソームは単層であり、内部区画を1つ有する。本発明に係るリポソーム製剤のリポソームは、好ましくは、90%が単層であり、最も好ましくは97%~99%が単層である。
【0034】
リポソーム分散物が一様に円形でありかつ単層であることにより、製造プロセスが制御可能かつ工業的にスケーラブルとなる。
【0035】
本発明の好ましい一実施形態において、製造して6か月後、好ましくは12か月後の、本発明に係るリポソームに基づく製剤の平均直径は、10~70nm、好ましくは10~50nm、最も好ましくは25~35nmである。特に好ましくは、製造して6か月後、好ましくは12か月後の、製剤中のリポソームの平均直径は、製造直後の製剤中のリポソームの平均直径と本質的に同じである(図7)。
【0036】
本発明の好ましい一実施形態において、製造して6か月後、好ましくは12か月後の、本発明に係るリポソームに基づく製剤の多分散指数は、0.15以下、好ましくは0.1~0.15である。特に好ましくは、製造して6か月後、好ましくは12か月後のリポソームの多分散指数は、製造直後のリポソームの多分散指数と本質的に同じである(図8)。
【0037】
したがって、本発明に係るリポソームは特に安定である。リポソームのサイズが制御可能でありかつ長く持続することは、製造、保存、保管寿命、および患者安全性の提案にとって有益である。
【0038】
このリポソームにより処置できる神経変性疾患は、タウオパチー、特にアルツハイマー病;シヌクレイノパチー、特にパーキンソン病;トリヌクレオチドリピート障害、特にハンチントン舞踏病;運動ニューロン疾患、特に筋萎縮性側索硬化症;プリオン病、特にクロイツフェルト・ヤコブ病;中枢神経系の疾患、特に多発性硬化症からなる群より選択され得る。
【0039】
本発明の文脈において使用される脊髄損傷は、完全または不完全にかかわらず、あらゆる種類の脊髄損傷を指す。
【0040】
脊髄損傷は、本発明に係るリポソームによって、好ましくは、このリポソームの内部水性区画中にガングリオシド、たとえばGM1を添加することによって、対処され得る。GM1は、神経保護物質として、一次的な損傷(機械的な損傷)により引き起こされる二次的な損傷(細胞死によりトリガーされる副次的(co lateral)生化学的損傷)を抑制することが示されている。さらに、該当領域の感覚部分を部分的に回復させることも観察されている(Acta Ortop Bras.2016 May-Jun;24(3):123-6)。
【0041】
好ましくは、少なくとも1種の活性成分がリポソーム中に含まれるおよび/または内包される。1種を超える活性成分が含まれてもよいおよび/または内包されてもよい。たとえば、放出時に相乗効果を示す複数の活性成分が含まれてもよいおよび/または内包されてもよい。少なくとも1種の活性成分がリポソーム二重層中に含まれ、別の少なくとも1種の活性成分が同じリポソーム中に内包されてもよい。さらに、リポソームが多胞性リポソームの形態であって、異なる複数の活性成分がこの多胞性リポソームの同一または異なる小ベシクルの一部を形成していてもよい。
【0042】
「リポソーム中に含まれる」とは、活性成分が脂質二重層の一部を形成していること、または脂質二重層中に組み込まれていることのうちいずれかを意味する。「リポソーム中に内包される」とは、活性成分がベシクルの内部水性区画中に内包されていることを意味する。
【0043】
用語「活性成分」は、薬理学的活性薬物およびプロドラッグを含んでよい。プロドラッグは、投与後に代謝されて薬理学的活性薬物となる薬または化合物である。
【0044】
活性成分は、小さなまたは大きな有機または無機分子、核酸、核酸アナログおよび誘導体、ペプチド、ペプチド模倣物、タンパク質、抗体およびその抗原結合断片、単糖、二糖、三糖、オリゴ糖、脂質、グリコサミノグリカン、生体材料から得られる抽出物、ならびにこれらの任意の組み合わせからなる群より選択され得る。
【0045】
リポソームは、充填されているかいないかにかかわらず、それ自体が活性成分であってもよい。
【0046】
上述されるような種類のリポソームは、用途範囲が広い。活性成分を含むまたは内包するリポソームの利点は、治療効果の向上にあり得る。こうしたリポソームは、活性成分を作用部位へと移動させることができる。リポソームの膜は構造が生体膜に類似しているため、リポソームは細胞膜と同化し得る。同化時に、リポソームの内容物が細胞内に流出し、そこで活性成分が作用し得る。薬物担体システムとしてのリポソームの使用により、各活性成分の投与に伴う、かつ活性成分の高い全身性吸収(systematic absorption)に関係する副作用を低減し得る。活性成分は、所望の標的部位において蓄積され得る。リポソーム二重層の成分は、肝臓および/または脾臓において代謝され得る。
【0047】
好ましくは、活性成分は、コリンエステラーゼ阻害剤、特にドネペジルまたはタクリン;ドーパミン作動薬、特にブロモクリプチン(bromocriptin)またはプラミペキソール(pramipexol);レスベラトロール;ニコチン誘導体、特にニコチンアミド、ニコチン酸、ナイアシンまたはNAD+からなる群より選択される。
【0048】
スフィンゴミエリンおよび/またはコレステロールも、活性成分として選択され得る。
本発明の好ましい一実施形態において、少なくともガングリオシド、特にGM1ガングリオシドが、活性成分としてリポソーム中に内包される。
【0049】
本発明のさらなる一態様は、リポソーム、好ましくは先に記載されるリポソームの製造方法である。この方法は、
a)有機溶媒中の脂質およびコレステロールを提供する工程と、
b)水性液体を添加する工程と、
c)超音波処理によりリポソームの形成を可能とする工程と、
d)任意に、リポソームを分離する工程とを含み、
低温透過電子顕微鏡法(cryoTEM)により測定されるリポソームの平均直径が、10~70nm、好ましくは10~50nm、最も好ましくは25~35nmとなるように工程c)が実施される。
【0050】
好ましくは、工程a)において提供される有機溶媒中の脂質およびコレステロールは、薄膜水和に供されていない。「薄膜水和」は、丸底フラスコ内において有機溶媒の除去により脂質薄膜を形成する工程を含む従来のリポソーム調製方法を意味する。この方法を使用すると、分散媒の添加および撹拌時に、不均一なリポソームが形成される。最後に、ポリカーボネート膜を通して押出すことにより、均一で小さなリポソームが得られる。
【0051】
本発明の好ましい一実施形態においては、リポソームが表面修飾工程に供されていないため、当該リポソームは表面修飾が本質的にされていない。「表面修飾工程」は、葉酸、ペプチド、抗体、糖、ポリエチレングリコール、モノクローナル抗体、モノクローナル抗体の一部、もしくは表面タンパク質をリポソームの脂質二重層中に組み込むこと、またはこれらの化合物の化学結合をリポソーム表面上に組み込むことを意味する。
【0052】
より好ましくは、脂質およびコレステロールは押出しに供されていない、すなわち、このプロセスは押出し工程を含まない。「押出し」は、規定の孔径を有する膜にリポソーム製剤を通過させる、従来のリポソーム調製技術を意味する。押出しプロセスは、当技術分野において、リポソーム製造に最適な方法であるとされている(Gim Ming Ongら,Evaluation of Extrusion Technique for Nanosizing Liposomes,Pharmaceutics 2016(8)36;Perrieら,Manufacturing Methods for Liposome Adjuvants,in;Vaccine Adjuvants:Methods and Protocols,Methods in Molecular Biology,vol.1494,2017)。
【0053】
超音波処理により製造される本発明に係るリポソームは、従来技術によって得ることができるリポソームよりも、小さく、低多分散であり、より安定で、分解しにくいことが分かった。
【0054】
好ましくは、工程b)における水溶液は、水性緩衝液である。水性液体の添加時に、溶解していた脂質およびコレステロールが析出する。工程a)における有機溶媒と工程b)における水性液体との最終的な比率は1:9であってよく、このことは、有機溶媒が混合液全体の10%であることを意味する。最終産物中の溶媒濃度が高すぎると、リポソームが不安定になりおよび/または分解し得る。
【0055】
超音波処理は、好ましくは、少なくとも60μmの振幅で少なくとも1時間行なわれる。超音波処理は最長24時間にわたって行なわれる。
【0056】
分離工程は、遠心分離;ろ過;フィールドフローフラクショネーション(FFF);透析;クロマトグラフィー法、好ましくはゲル浸透クロマトグラフィーによって行なってよい。
【0057】
リポソームは、有機溶媒、塩、および/または界面活性剤などの、混合液の残留物質から分離される。好ましくは、工程d)は、バッファー交換によって行なわれる。好ましくは、工程c)およびd)において押出しまたは任意の他の分離法を必要とせずに、均一なリポソーム分布が得られる。好ましくは、リポソームは元の混合物中に維持される。
【0058】
リポソーム分布は、好ましくは、少なくとも90%が単層であり、最も好ましくは97%~99%が単層である。好ましくは、リポソームは、0.95、最も好ましくは0.98~1.00の円形度を保つ。円形度およびラメラリティは、cryoTEM JEOL JEM-2100Fで記録した画像に基づいて求めた。本発明に係るリポソーム製剤中において、低温透過電子顕微鏡法により測定される、球状リポソームと壊れた粒子および/または凝集体との比率は、重量%にて、9:1より高い。
【0059】
当該方法は、小さく均一なリポソームを1回の超音波処理工程で得ることができ、薄膜水和および押出しおよび他の手の込んだ高価な工程を行なわなくてよいという利点を有する。平均直径が50nm未満のリポソームは、安定でありかつ血液脳関門を通過する傾向が高い。言い換えると、リポソームの直径が小さいために、血液脳関門を通過しやすい。
【0060】
工程a)において使用される脂質の少なくとも一部は、リン脂質、天然のホスファチジルコリン、特にスフィンゴミエリン;糖脂質、特にガングリオシド;およびこれらの組み合わせからなる群より選択され得る。リポソームの安定性に大いに寄与するコレステロールなどのさらなる要素も使用できる。
【0061】
これらの脂質は、安定かつ抵抗性があるという利点を有する。さらに、生体適合性である。
【0062】
好ましくは、工程a)において使用される有機溶媒は、エタノール、メタノール、クロロホルム、およびこれらの混合物からなる群より選択される。最も好ましくは、たとえば無水のエタノールまたはメタノールなどの、99.99%超の高純度の有機溶媒が使用される。さらにより好ましくは、薄膜水和は不要である。
【0063】
使用される脂質は、これらの有機溶媒中への溶解度が良好である。高純度の有機溶媒を使用することによって、リポソーム中への不純物の混入が回避される。
【0064】
工程b)において使用される水性液体は、水、水性緩衝液、水性グリシン溶液からなる群より選択され得る。好ましくは、たとえばPBS(10mM リン酸塩、pH7.2~7.4、0.9%NaCl)などの、生理食塩濃度の水性緩衝液が使用され得る。150mM硫酸アンモニウム、150nm酢酸カルシウム、150mM酢酸マグネシウム、150mM酢酸マンガン、150mM塩化鉄、または150mM硫酸銅といった水性緩衝液も使用され得る。
【0065】
水性液体により、リポソーム形成が向上する。生理食塩濃度とすることによって、リポソーム内部が体内の生理的条件に似たものになる。
【0066】
好ましくは、工程a)において使用される有機溶媒および/または工程b)において使用される水性液体は、活性成分を含む。活性成分は、好ましくは、先に記載される群より選択される。活性成分は、その化学的特性に依存して、水相中または溶媒中に組み込まれる。
【0067】
有機溶媒が第1の活性成分を含み、水性液体が第2の活性成分を含んでもよい。これらの成分は、相乗効果を示すように選択され得る。
【0068】
リポソーム調製方法において有機溶媒と水性溶媒とが存在することのさらなる利点は、活性成分への接近がより広範になることにあり得る。水性液体中への溶解度よりも有機溶媒中への溶解度の高い成分が同等に使用されてよく、逆の場合も同じである。
【0069】
好ましくは、活性成分は以下の基準を満たしているべきである。
・水中への両親媒性の溶解度を示す、つまり、logD値が-2~+2であること。
・少なくとも1つの弱酸性または弱塩基性の基を含むこと。
特定の条件下において、logD値が+2より大きな活性成分も使用できる。logDが-2~+2である物質は、遠隔充填(remote loading)によって内包され得る。logDが上記範囲外にある分子は、膜内包(membrane encapsulation)によって充填され得る。
【0070】
さらなる活性成分を使用することにより、治療効果が向上する。リポソームは、細胞膜と似ているために、細胞膜と同化でき、特に、標的部位において活性成分として作用し得る。さらに、リポソームは、リポソームと細胞膜との同化後に、内包しているまたは含んでいる活性成分を細胞中に放出し得る。
【0071】
先に記載されるリポソームは、特に神経変性疾患および脊髄損傷の処置において使用するための、薬剤として使用し得る。
【0072】
神経変性疾患は、先に記載される群より選択され得る。脊髄損傷は、あらゆる種類の脊髄損傷を指す。
【0073】
好ましくは、先に記載されるリポソームは、先に記載される神経変性疾患および脊髄損傷の処置において、経口または静脈内投与される。
【0074】
経口投与された場合、リポソーム組成物は、固体または飲用可能な溶液の形態であってよい。糖剤、錠剤、顆粒、カプセル、粉末、エマルション、懸濁液、またはシロップの形態であってもよい。先に記載されるリポソームは、消化管通過に関連する条件に耐える安定性を有するという利点を有する。経口投与により、皮下または静脈内送達に伴う副作用が回避され得る。
【0075】
さらに、経口投与される場合、リポソーム組成物はさらなる成分を含み得る。着香料を添加すると、より好ましい味が得られ、腸溶性コーティングをたとえば錠剤に適用すると、酸からのさらなる保護が得られると考えられる。炭酸水素塩などの塩基性成分は、胃に優しい投与を与え得る。ビタミンまたはミネラルも含めることができる。
【0076】
経口投与は、静脈内投与よりも適用が容易であるという利点を有する。患者は、処方箋にしたがえば、訓練を受けた人物がいなくても、薬剤を服用できると考えられる。
【0077】
静脈内投与は、たとえば患者の健康状態の理由から、消化管(gastrointestinal track)を通るリポソームの取り込みが好ましくない場合に、有利であり得る。
【0078】
静脈内注射のためには、リポソームは、溶解または懸濁された形態であってよい。液量は、0.1~20mlの範囲であってよく、用量依存的である。注射液は、安定化剤などのさらなる成分を含んでよい。塩、特に塩化ナトリウム、またはアルコール、好ましくはエタノールなどの、生理的に適合する成分を含んでもよい。
【0079】
本発明のさらなる一態様は、先に記載される方法により得ることのできる先に記載されるリポソームである。
【0080】
本発明を、以下で、さらに説明する。
図1は、インドシアニングリーン(ICG)で標識されたスフィンゴミエリンリポソームのin vivo体内分布を示す。マウスを、近赤外色素を有するリポソームでの静脈内処置に供し、注射して24時間後に体内分布を分析した。分析は、GE HealthCare eXplore Optixを用いて行なった。ICGのシグナルが脳(A)および脊髄(B)内に見られた。リポソーム脂質の注射は総量45mg/kgで行ない、重量比で1:200のICGを有するものであった。さらなるシグナルをクリアランス臓器(clearance organs)である肝臓(C)および脾臓(D)内に見ることができ、このことは、処置後にリポソームが体外に除去され得ることを示す。
【0081】
図2は、DiRで標識されたスフィンゴミエリンリポソームのin vivo体内分布を示す。異なるマウスA、B、Cを、近赤外色素を有するリポソームでの静脈内処置に供し、注射して24時間後および48時間後に、腹側と背側との体内分布を分析した。分析は、Perkin Elmerの光学画像システムであるIVIS Spectrumを用いて行なった。DiRのシグナルが脳(円)および脊髄(長方形)内に見られた。リポソーム脂質の注射は総量15mg/kgで行ない、50μg/mlのDiRを有するものであった。さらなるシグナルをクリアランス臓器である肝臓(普通の矢印)および脾臓(点線の矢印)内に見ることができ、このことは、処置後にリポソームが体外に除去され得ることを示す。蛍光の目盛りの単位は、総放射効率[p/s]/[μW/cm]である。
【0082】
図3は、DiRで標識されたスフィンゴミエリンおよびGM1を有するリポソームのin vivo体内分布の比較例を示す。マウスを、近赤外色素を有するリポソームでの静脈内処置に供し、注射して24時間後および48時間後に体内分布を分析した。分析は、Perkin Elmerの光学画像システムであるIVIS Spectrumを用いて行なった。DiRのシグナルが脳(円)および脊髄(長方形)内に見られた。リポソーム脂質の注射は総量25mg/kgで行ない、50μg/mlのDiRを有するものであった。さらなるシグナルをクリアランス臓器である肝臓(普通の矢印)および脾臓(点線の矢印)内に見ることができ、このことは、処置後にリポソームが体外に除去され得ることを示す。蛍光の目盛りの単位は、総放射効率[p/s]/[μW/cm]である。図2中に示されるリポソームと同じ臓器にリポソームが見られるが、体内分布は、図2の本質的にGM1を含まないリポソームよりも不明瞭である。
【0083】
図4は、図2および図3のin vivo体内分布画像から脳、脊髄、肝臓、および脾臓における体内分布を分析したグラフ表示を示す。図4Aは、脳、脊髄、肝臓、および脾臓という4つの異なる組織における、ガングリオシドを含まないリポソームの体内分布の蛍光を標準化したものを示す。体内分布は、24時間および48時間という2つの異なる時点について示される。バーは、平均に対する標準偏差を表す。図4Bは、ガングリオシドを含むリポソームの体内分布の蛍光を標準化したものを示す。
【0084】
驚くべきことに、ガングリオシドを本質的に含まないリポソームのin vivo体内分布(図4A)は、ガングリオシドを含むリポソームのin vivo体内分布(図4B)よりも高いということが分かった。
【0085】
図5は、表面修飾なしのリポソームの特徴づけを示す。リポソームを、低温透過電子顕微鏡であるJEOL JEM-2100FおよびTVIPS TemCamカメラ(JEOL社、日本)を使用して可視化した。図5Aは、低倍率(20000×)でのリポソームの画像を示す。図5Bは、高倍率(80000×)でのリポソームを示す。図5Cは、眼または目視でのリポソーム分布の観察による定性評価を示す。図5Dは、本発明に係るリポソームのサイズ分布を示す。リポソームの平均直径を数量化するために、N=5128個のリポソームについて分析した(Vironova Analyzer Software、Vironova、スウェーデン)。リポソームの平均直径は30.46nmであり、標準偏差は10.10nmである。
【0086】
図6は、表面修飾なしのリポソームのcryoTEMによる数量的特徴づけを調べた2つのさらなる試験を含む(Vironova Analyzer Software、Vironova、スウェーデン)。図6Aは、5128個のリポソームの円形度分布を示す。図6Bは、リポソーム分布のラメラリティの程度を示す。5128個のリポソームの98%が単層として特徴づけられた。
【0087】
図7および図8は、動的光散乱により測定した、本発明に係るリポソームの経時的なサイズおよび多分散安定性を示す。リポソーム製剤は、上述される方法に従い、スフィンゴミエリンおよびコレステロールをモル比1:1で使用することによって得た。リポソームは、ガングリオシド、表面修飾が全くされておらず、活性成分を含まないまたは内包しないものであった。リポソーム製剤を、PBS中、pH値6.8、温度4℃において保存した。サイズおよび多分散をDLS標準法によって求めた。注目されるべきは、動的光散乱により測定された値が、DLS測定におけるリポソームの流体力学半径の衝突のために、cryoTEMにより得られる値よりもわずかに高いということである。図7中に示される直径60nmは、低温透過電子顕微鏡法により測定した平均直径範囲10~50nmに対応する。
【0088】
点線の曲線は、上述されるリポソーム製剤の小規模製造バッチの結果を示し、破線の曲線は、製造規模を大きくした際の、すなわちバッチサイズが2リットルの場合の結果を示す。図7および図8から分かるように、Q3 2017からQ3 2018までの、すなわち1年間保存中のリポソーム製剤のサイズおよび多分散はいずれも、本質的に変化しなかった。
【0089】
図9および図10は、マウスの脊髄および脳における、異なるリポソーム製剤の相対的In-vivo蛍光を示す。いずれのチャートにおいても、グループ1~4のリポソームは、上述される方法に従い、スフィンゴミエリンおよびコレステロールのみをモル比1:1で使用することによって得た。グループ5は、遊離DiRをPBS中に含むコントロール群である。グループ1においては、合成のスフィンゴミエリンを使用し、GM1をリポソーム中に含ませた。グループ2においては、合成のスフィンゴミエリンを使用し、リポソームは、表面修飾が全くされていない、特にGM1を含まないものであった。グループ3においては、動物由来のスフィンゴミエリンを使用し、GM1をリポソーム中に含ませた。グループ4においては、動物由来のスフィンゴミエリンを使用し、リポソームは、表面修飾が全くされていない、特にGM1を含まないものであった。4つの試験グループすべてにおいて、DiRを標識剤として添加した。測定はNIR画像化技術によって行なった。
【0090】
図9および図10は、4種の異なるリポソームの、注射して0.1時間後、4時間後、24時間後、および48時間後の脊髄および脳のそれぞれにおける蓄積を示す。GM1の存在はリポソームの中枢神経系ターゲティング能力に有意な影響を及ぼさないことが分かる。同じことが、動物由来のスフィンゴミエリンの使用と比較した合成のスフィンゴミエリンの使用についてもあてはまる。
【0091】
図11は、異なる脂質組成を有するリポソーム製剤の、マウスの脳における相対的なIn-vivo蛍光を示す。グループ1~3のリポソームは、上述される方法に従い、脂質およびコレステロールをモル比1:1で使用することによって得た。グループ1においては、ホスファチジルコリンとスフィンゴミエリンとの組み合わせを脂質として使用した。グループ2においては、ホスファチジルコリンのみを脂質として使用した。グループ3においては、スフィンゴミエリンのみを脂質として使用した。3つの試験グループすべてにおいて、DiRを標識剤として製剤に添加した。測定はNIR画像化技術によって行なった。
【0092】
図11は、注射して24時間後および48時間後のマウスの脳における3種の異なるリポソームの蓄積を示す。スフィンゴミエリンおよびコレステロールのみからなる組成は、他のバリアント(グループ1および2)と比較して、結果としてリポソームの循環およびCNSにおけるバイオアベイラビリティが長く持続することが分かる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11