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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-27
(45)【発行日】2023-11-07
(54)【発明の名称】アンテナおよび電子機器
(51)【国際特許分類】
   H01Q 19/12 20060101AFI20231030BHJP
   H01Q 1/40 20060101ALI20231030BHJP
【FI】
H01Q19/12
H01Q1/40
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022083693
(22)【出願日】2022-05-23
【審査請求日】2022-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀬在 俊浩
【審査官】白井 亮
(56)【参考文献】
【文献】特許第7029202(JP,B1)
【文献】特開平01-236703(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 19/12
H01Q 1/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波を放射する一次放射器と、
前記一次放射器より放射された電波を反射し、開口径が前記電波の波長の1.7倍以下の反射鏡と、
前記反射鏡の開口面の内側に充填された内部誘電体層と、前記内部誘電体層上に設けられ前記反射鏡の開口面の外側に位置する外部誘電体層とを有し、前記一次放射器を被覆する誘電体層と
を具備し、
前記外部誘電体層の厚さは、前記電波の波長の1/9以下であって、前記内部誘電体層の厚さよりも小さい
アンテナ。
【請求項2】
請求項1に記載のアンテナであって、
前記外部誘電体層は、前記反射鏡の開口径以上の直径を有する
アンテナ。
【請求項3】
請求項1に記載のアンテナであって、
前記一次放射器は、前記反射鏡の開口面から内側の領域に配置される
アンテナ。
【請求項4】
請求項1に記載のアンテナであって、
前記反射鏡の鏡面形状は、パラボラ面である
アンテナ。
【請求項5】
請求項1に記載のアンテナであって、
前記反射鏡の鏡面形状は、開口径が前記電波の波長の1.7倍以下であるパラボラ反射鏡と開口径および高さが等しい非パラボラ面である
アンテナ。
【請求項6】
請求項1に記載のアンテナであって、
前記反射鏡は、前記電波が反射して放射される半球内のアンテナパターンにヌル点が発生しないパターン特性を有する
アンテナ。
【請求項7】
請求項1に記載のアンテナの設置側の表面、又は前記設置側の内部に設けられた空洞に、前記アンテナが埋め込まれた
電子機器。
【請求項8】
請求項に記載の電子機器であって、
前記外部誘電体層の表面は、前記設置側の表面と一致する形状に形成される
電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、ロケット、航空機等の飛翔体に設置されるアンテナの技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ロケット、航空機等の飛翔体に設置されるアンテナには、電波を広範囲に均一に放射すること、飛行中に発生する空力荷重、空力加熱に耐えることが要求される。この要求を満足させるアンテナとして、本発明者は特許文献1,2に示すアンテナを提唱した。
【0003】
特許文献1のアンテナは、一次放射器とパラボラ反射鏡とを具備し、反射鏡の開口径を波長の1.7倍以下とすることで、電波が放射される半球内のアンテナパターンにヌル点を発生させることなく、広範囲に均一に安定したパターン特性を得ることができるようにしている。
【0004】
特許文献2のアンテナは、反射鏡の形状を、開口径が前記電波の波長の1.7倍以下であるパラボラ反射鏡と開口径および高さが等しく鏡面形状が非パラボラ面とすることで、広範囲に均一に安定したパターン特性を維持した状態で、一次放射器のインピーダンス特性を任意に変更することができるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-120153号公報
【文献】特許第7029202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1,2のアンテナの一次放射器のインピーダンス特性は、一次放射器に使用されるアンテナ素子、アンテナが有する反射鏡の形状、及び反射鏡に充填される誘電体材質により一意に決まり、一次放射器のインピーダンス特性を変更することはできない。インピーダンスの周波数帯域を狭くする場合は、一次放射器の給電系などにフィルタを追加することで対応は可能であるが、インピーダンスの周波数帯域を広くする場合は、アンテナを設計し直さなければならない。
【0007】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、広範囲に均一に安定したパターン特性を維持した状態で、一次放射器のインピーダンスの周波数帯域を広くすることができるアンテナおよび電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一形態に係るアンテナは、一次放射器と、反射鏡と、誘電体層とを具備する。
前記一次放射器は、電波を放射する。
前記反射鏡は、前記一次放射器より放射された電波を反射し、開口径が前記電波の波長の1.7倍以下である。
前記誘電体層は、前記一次放射器を被覆する。前記誘電体層は、内部誘電体層と、外部誘電体層とを有する。前記内部誘電体層は、前記反射鏡の開口面の内側に充填される。前記外部誘電体層は、前記内部誘電体層上に設けられ、前記反射鏡の開口面の外側に位置する。
【0009】
本発明の一形態に係るアンテナにおいては、開口径が電波の波長の1.7倍以下であるため、電波が放射される半球内のアンテナパターンにヌル点を発生させることなく、広範囲に均一に安定したパターン特性を得ることができる。
また、反射鏡の開口面の外側に設けられた外部誘電体層は、一次放射器に近接しているため、一次放射器のインピーダンス特性が変化する。これにより、一次放射器のインピーダンスの周波数帯域を広くすることが可能となる。
【0010】
前記外部誘電体層は、前記反射鏡の開口径以上の直径を有していてもよい。
【0011】
前記外部誘電体層の厚さは、前記内部誘電体層の厚さよりも小さくてもよい。
【0012】
前記一次放射器は、前記反射鏡の開口面から内側の領域に配置されてもよい。
【0013】
前記反射鏡の鏡面形状は、パラボラ面であってもよい。
【0014】
前記反射鏡の鏡面形状は、開口径が前記電波の波長の1.7倍以下であるパラボラ反射鏡と開口径および高さが等しい非パラボラ面であってもよい。
【0015】
本発明の一形態に係る電子機器は、前記アンテナの設置側の表面、又は前記設置側の内部に設けられた空洞に、前記アンテナが埋め込まれた構成を有する。
【0016】
前記外部誘電体層の表面は、前記設置側の表面と一致する形状に形成されてもよい。
【0017】
アンテナの設置側の表面、又は設置側の内部に反射鏡、および外部誘電体層と等しい形状、寸法の穴を開けること、および外部誘電体層の表面形状をアンテナ設置前のアンテナ設置側の表面形状と一致するように加工することで、アンテナをアンテナ設置側表面から突き出ることもへこむこともなく、アンテナ設置側の表面形状と一体化させて設置することができる。これにより、例えばロケットや航空機等の飛翔体の場合には、空力荷重・加熱が大幅に軽減されると同時に、飛翔体の空力特性へ影響を与えないようにすることが可能である。本発明の一形態に係るアンテナは開口径が小さいため、穴などを開けることによる飛翔体への影響は無視することが可能なレベルまで小さくなる。また、PC等の無線通信機能を有する電子機器や建物の内外に本発明の一形態に係るアンテナを設置する場合には、例えば電子部品等を実装する基板、建物の外壁、室内の壁や天井などのアンテナ設置側の表面、又はアンテナ設置側の内部に反射鏡、および外部誘電体層と等しい形状、寸法の穴を開けること、および外部誘電体層の表面形状をアンテナ設置前のアンテナ設置側の表面形状と一致するように加工することで、アンテナをアンテナ設置側表面から突き出ることもへこむこともなく、アンテナ設置側の表面形状と一体化させて設置することができ、また、開口径が小さいためにフットプリントも小さくできる。従って、従来の棒状アンテナ等と比較すると、薄型化が可能であり、反射鏡アンテナを基本構成とする故、アンテナ利得も高い。外部誘電体層の表面をアンテナ設置側のアンテナ周囲の表面と同一の色や模様とすることで、アンテナを目立たなくすることが可能である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、広範囲に均一に安定したパターン特性を維持した状態で、一次放射器のインピーダンスの周波数帯域を大きくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係るアンテナの構成を示す斜視図である。
図2図1のA-A断面図である。
図3】上記アンテナの一実施形態を説明する図であって、反射鏡の形状がパラボラ形状の場合のアンテナのパターン(右旋偏波)の解析値をxz面内表示したものである。
図4】上記アンテナの一実施形態を説明する図であって、反射鏡の形状が円錐台である場合のアンテナのパターン(右旋偏波)の解析値をxz面内表示したものである。
図5】上記アンテナの一実施形態を説明する図であって、反射鏡面の形状がパラボラ形状の場合の一次放射器のインピーダンス特性を示す50Ωに対するVSWR(Voltage Standing Wave Ratio:電圧定在波比)の解析値を周波数特性として表示したものである。
図6】上記アンテナの一実施形態を説明する図であって、反射鏡面の形状がパラボラ形状の場合の外部誘電体層の厚さと、一次放射器のインピーダンス特性を示す50Ωに対するVSWRが1.5以下となる周波数範囲との関係を示したものである。
図7】上記アンテナの一実施形態を説明する図であって、反射鏡の形状が円錐台形状の場合の一次放射器のインピーダンス特性を示す50Ωに対するVSWRの解析値を周波数特性として表示したものである。
図8】上記アンテナの一実施形態を説明する図であって、反射鏡面の形状が円錐台形状の場合の外部誘電体層の厚さと、一次放射器のインピーダンス特性を示す50Ωに対するVSWRが1.5以下となる周波数範囲との関係を示したものである。
図9】比較例として、反射鏡の開口径が電波の波長の2倍であるパラボラ反射鏡に外部誘電体層を付加した場合の一次放射器のインピーダンス特性を示す50Ωに対するVSWRの解析値を周波数特性として表示したものである。
図10】上記比較例における外部誘電体層の厚さと、一次放射器のインピーダンス特性を示す50Ωに対するVSWRが1.5以下となる周波数範囲との関係を示したものである。
図11】本発明の一実施形態に係るアンテナを設置した電子機器の要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0021】
<第1の実施形態>
図1は、本発明の一実施形態に係るアンテナ10の構成を示す斜視図であり、図2は、図1のA-A断面図である。各図において、x軸、y軸およびz軸は相互に直交する3軸方向を示しており、z軸はアンテナ10の反射鏡12の中心軸に相当する。
【0022】
[アンテナの全体構成]
図1及び図2に示すように、アンテナ10は、一次放射器11と、反射鏡12と、一次放射器11を被覆する誘電体層13とを有する。誘電体層13は、反射鏡12の開口面12aから内側の領域に充填された内部誘電体層131と、内部誘電体層131上に設けられ反射鏡12の開口面12aの外側に位置する外部誘電体層132とを有する。アンテナ10はさらに、一次放射器11に接続される給電ケーブル14を有する。本実施形態のアンテナ10は、例えば、ロケット、航空機等の飛翔体に設置される。
【0023】
一次放射器11は、電波を放射するアンテナ素子である。一次放射器11は、所定のインピーダンスが得られるアンテナ素子であればいかなるアンテナ素子でも使用可能である。本実施形態では、クロスダイポールアンテナを使用した例を示しているが、ダイポールアンテナやホーンアンテナ等を用いることも可能である。
【0024】
反射鏡12は、開口面12aの直径(開口径)がD、鏡面底部12cから開口面12aまでの高さがHの回転放物面(パラボラ面)形状、あるいは回転放物面形状とは異なる形状(非パラボラ面)の導電性材質で作られた反射鏡である。一次放射器11は反射鏡12の開口面12aから深さがFの位置に配置されている。
【0025】
また、反射鏡12は、一次放射器11より放射された電波を反射し、電波が反射して放射される半球内のアンテナパターンにヌル点が発生しない開口径以下に、開口径Dを小さくしている。本実施形態において、反射鏡12は、電波の波長の1.7倍以下の開口径Dを有する。開口径D、および一次放射器11の寸法は、アンテナとして機能する範囲まで小さくことが可能である。
【0026】
アンテナとして機能する範囲とは、一次放射器11が所定のインピーダンスを得られる範囲であり、別言すると、一次放射器11のVSWRがアンテナを使用するシステムから要求される値以下となる範囲をいう。本実施形態に係るアンテナ10のパターンにはヌル点は発生しないので、当然サイドローブも生じない。つまり、本実施形態に係るアンテナ10は、電波が放射される半球内に広範囲に均一の電波を放射することができる。
【0027】
内部誘電体層131は、反射鏡12の開口面12aから反射鏡12の内側表面である鏡面12bの範囲に充填される。内部誘電体層131を構成する誘電体は特に限定されず、例えば、高密度ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレンなどの合成樹脂材料が用いられる。誘電体の誘電率も特に限定されず、アンテナ10が設置される設置物の種類や仕様等に応じて任意に設定可能である。
【0028】
一次放射器11は、反射鏡12の開口面12aから内側の領域に配置され、本実施形態では内部誘電体層131内に配置されている。図1および図2では、一次放射器11は内部誘電体層131内に配置されている例を示したが、開口面12aの位置に配置してもよい。また、給電ケーブル14は、一次放射器11に給電する同軸ケーブルである。図1および図2では、給電ケーブル14が鏡面底部12cより一次放射器11まで配線されている例を示したが、反射鏡12内であれば、給電ケーブル14をどのように配線してもよい。
【0029】
内部誘電体層131は、一次放射器11と給電ケーブル14を所定の位置に保持する機能を有する。加えて、内部誘電体層131は、ロケット等の飛行中に発生する空力荷重、空力加熱からこれらを保護する機能を有すると共に、誘電体の波長短縮効果により、アンテナ10の更なる小型化を可能にする。なお、内部誘電体層131は、空洞部(図示せず)を有していてもよい。これにより、アンテナ10の軽量化が可能である。
【0030】
外部誘電体層132は、反射鏡12の開口面12aから反射鏡12の外側に付加される。外部誘電体層132は、反射鏡12の開口径Dと同一径の円柱形状(円盤形状)に形成される。外部誘電体層132の直径は、反射鏡12の開口径Dよりも大きくしてもよい。外部誘電体層132は一次放射器11の近傍に存在するため、これにより一次放射器11のインピーダンス特性が変化し、一次放射器11のインピーダンスの周波数帯域を広くすることができる。
【0031】
外部誘電体層132のz軸方向に沿った厚さTは特に限定されず、解析、あるいは実測により、インピーダンスの周波数帯域の増加量を考慮して決めることができる。本実施形態において外部誘電体層132の厚さTは、内部誘電体層131の厚さよりも小さい。これにより、アンテナ10のz軸方向に沿った高さ(厚さ)の大型化を抑えることができる。
【0032】
外部誘電体層132を構成する誘電体は特に限定されず、例えば、高密度ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレンなどの合成樹脂材料が用いられる。誘電体の誘電率も特に限定されず、内部誘電体層131の誘電率と同じであってもよいし、内部誘電体層131の誘電率よりも小さくてもよいし、大きくてもよい。外部誘電体層132は、ロケット等の飛翔体の飛行中に発生する空力荷重、空力加熱から一次放射器11と、給電ケーブル14と、内部誘電体層131を保護する機能を有する。なお、外部誘電体層132は、空洞部(図示せず)を有していてもよい。これにより、アンテナ10の軽量化が可能である。
【0033】
外部誘電体層132の表面形状は、アンテナ10を設置するアンテナ設置側の表面形状と一致するように加工してもよい。これにより、アンテナ10を設置する飛翔体の空力特性に影響を与えないようにすることが可能となる。本実施形態のアンテナ10の開口径Dは、一次放射器11から放射される電波の波長の1.7倍以下と小さいことより、外部誘電体層132の表面形状を飛翔体の表面形状と一致するように加工する寸法は僅かであり、加工に伴う一次放射器11のインピーダンス特性へ及ぼす影響は僅かである。
【0034】
ここでは、本実施形態のアンテナ10は、電波の周波数が2280MHzで、一次放射器11、および反射鏡12を銅で構成し、内部誘電体層131、及び外部誘電体層132を高密度ポリエチレンで構成し、開口径Dを96mm、反射鏡12の高さHを28mm、開口面12aから一次放射器11までの深さFを7mm、外部誘電体層132の厚さTを5mmとした。なお、波長は約132mmであるので、開口径Dは約0.73波長である。
【0035】
[反射鏡の詳細]
反射鏡12は、開口径と高さから定まるパラボラ反射鏡、あるいはパラボラ反射鏡と開口径および高さが等しく、鏡面12bの形状が非パラボラ面反射鏡である。上記パラボラ反射鏡の開口径および高さは、それぞれ開口径Dおよび高さHに相当する。開口径Dは、上述のように一次放射器11から放射される電波の波長の1.7倍以下である。
【0036】
ここで、非パラボラ面とは、例えば、(1)鏡面12bの鏡面底部12cからの高さが反射鏡12の中心軸(z軸)からの距離の2を除くべき乗に比例する形状、(2)円錐台面、(3)部分球面、(4)円錐面、(5)円筒面などをいう。非パラボラ面は、パラボラ面と非パラボラ面を組み合わせた形状、あるいは2以上の異なる形状の非パラボラ面を任意に組み合わせた形状であってもよい。また、上記(1)におけるべき乗の指数は、例えば、1~3(但し2を除く)の任意の値が適用可能である。非パラボラ面は、典型的には、連続面であり、例えば、反射鏡12の中心軸(z軸)を中心とする回転曲面形状である(特許文献2参照)。
【0037】
外部誘電体層132を付加することで、一次放射器11のインピーダンス特性を変えることができる。より具体的には、一次放射器11の給電系と整合がとれるインピーダンスの周波数帯域を、外部誘電体層132を付加しない場合よりも広くすることができる。本実施形態のアンテナ10は、外部誘電体層132が付加される点で特許文献1,2に記載のアンテナと相違する。
【0038】
(構成例1)
図3は、D=96mm、H=28mm、F=7mm、鏡面12bがパラボラ形状で、高密度ポリエチレン製の内部誘電体層131を鏡面12bの範囲に充填し、厚さT=5mmの高密度ポリエチレン製の外部誘電体層132を付加した場合の本実施形態のアンテナ10のアンテナパターン(右旋偏波)の解析値のxz面内を極座標表示したものである。なお、同図中の点線は上記外部誘電体層を付加していない場合(T=0)、すなわち特許文献1のアンテナのアンテナパターン(右旋偏波)の解析値である。
【0039】
図3に示すように、本実施形態に係るアンテナ10のアンテナパターンは、特許文献1のアンテナのアンテナパターンとほぼ一致していることから、広範囲に均一に安定したパターン特性を維持していることがわかる。
【0040】
(構成例2)
図4は、D=96mm、H=28mm、F=7mm、鏡面12bは底面直径が24mmの円錐台形状で、高密度ポリエチレン製の内部誘電体層131を鏡面12bの範囲に充填し、厚さT=5mmの高密度ポリエチレン製の外部誘電体層132を付加した場合の実施形態のアンテナ10のアンテナパターン(右旋偏波)の解析値のxz面内を極座標表示したものである。なお、同図中の点線は、上記外部誘電体層を設置していない場合(T=0)、すなわち特許文献2のアンテナパターン(右旋偏波)の解析値である。
【0041】
図4に示すように、本実施形態に係るアンテナ10のアンテナパターンは、外部誘電体層132を付加していないパターンとほぼ一致していることから、外部誘電体層132を付加しても広範囲に均一に安定したパターン特性を維持していることがわかる。
【0042】
図5は、上記構成例1(D=96mm、H=28mm、F=7mm、鏡面12bがパラボラ形状で、高密度ポリエチレン製の内部誘電体層131を鏡面12bの範囲に充填し、厚さT=5mmの外部誘電体層132を付加した場合)の本実施形態のアンテナ10における一次放射器11のインピーダンス特性を示す50Ωに対するVSWRの解析値を周波数特性として表示したものである。なお、同図中の点線は、上記外部誘電体層を設置していない場合(T=0)、すなわち特許文献1のアンテナのVSWRの解析値の周波数特性である。
【0043】
図5で2280MHzを含む領域において、VSWRが1.5以下となる範囲を比較すると、本実施形態に係るアンテナ10では、特許文献1のアンテナの範囲よりも広いことがわかる。すなわち、外部誘電体層132を付加することで、アンテナの一次放射器のインピーダンスの周波数帯域が広くなることがわかる。
【0044】
図6に、上記構成例1(D=96mm、H=28mm、F=7mm、鏡面12bがパラボラ形状で、高密度ポリエチレン製の内部誘電体層131を鏡面12bの範囲に充填し、厚さT=5mmの外部誘電体層132を付加した場合)において、外部誘電体層132の厚さTを0から15mmの範囲で変化させ、外部誘電体層132の厚さと、一次放射器11のインピーダンス特性を示す50Ωに対するVSWRが1.5以下となる周波数範囲との関係を示す。同図に示すように、上記構成例1においては外部誘電体層132の厚さが約2mmの場合に周波数帯域の増加量のピーク(最大値)が確認された。外部誘電体層132の厚さが2mm超の範囲では周波数帯域の増加量は徐々に低下し、外部誘電体層132の厚さが15mmの場合においても外部誘電体層132が無い場合よりも周波数帯域が増加することが確認された。
【0045】
一方、図7は、上記構成例2(D=96mm、H=28mm、F=7mm、鏡面12bは底面直径が24mmの円錐台形状で、高密度ポリエチレン製の内部誘電体層131を鏡面12bの範囲に充填し、厚さT=5mmの高密度ポリエチレン製の外部誘電体層132を付加した場合)の本実施形態のアンテナ10における一次放射器11のインピーダンス特性を示す50Ωに対するVSWRの解析値を周波数特性として表示したものである。なお、同図中の点線は、上記外部誘電体層を設置していない場合(T=0)、すなわち特許文献2のアンテナのVSWRの解析値の周波数特性である。
【0046】
図7で2280MHzを含む領域において、VSWRが1.5以下となる範囲を比較すると、本実施形態に係るアンテナ10では、外部誘電体層132を付加しないアンテナ、すなわち特許文献2のアンテナの範囲よりも広いことがわかる。すなわち、外部誘電体層132を付加することで、アンテナの一次放射器のインピーダンスの周波数帯域が広くなることがわかる。
【0047】
図8に、上記構成例2(D=96mm、H=28mm、F=7mm、鏡面12bは底面直径が24mmの円錐台形状で、高密度ポリエチレン製の内部誘電体層131を鏡面12bの範囲に充填し、厚さT=5mmの高密度ポリエチレン製の外部誘電体層132を付加した場合)において、外部誘電体層132の厚さTを0から15mmの範囲で変化させ、外部誘電体層132の厚さと、一次放射器11のインピーダンス特性を示す50Ωに対するVSWRが1.5以下となる周波数範囲との関係を示す。同図に示すように、上記構成例2においては外部誘電体層132の厚さが約4mmの場合に周波数帯域の増加量のピーク(最大値)が確認された。外部誘電体層132の厚さが4mm超の範囲では周波数帯域の増加量は徐々に低下し、外部誘電体層132の厚さが15mmの場合においても外部誘電体層132が無い場合よりも周波数帯域が増加することが確認された。
【0048】
比較例として、図9に、D=264mm、H=28mm、F=7mm、鏡面12bがパラボラ形状で、高密度ポリエチレン製の内部誘電体層131を鏡面12bの範囲に充填し、厚さT=5mmの外部誘電体層132を付加した場合の本実施形態のアンテナ10における一次放射器11のインピーダンス特性を示す50Ωに対するVSWRの解析値を周波数特性として表示したものである。なお、同図中の点線は、上記外部誘電体層を設置していない場合のVSWRの解析値の周波数特性である。この比較例では、反射鏡の開口径Dが電波の波長の2倍と大きい点で、上記構成例1と相違する。
【0049】
図9に示すように、この比較例においては、外部誘電体層132を付加すると、2280MHzを含む領域において、VSWRが1.5以下となる範囲は狭くなる。つまり、開口径Dが波長の2倍のアンテナの場合、外部誘電体層132の付加は、一次放射器のインピーダンスの周波数帯域の増加に何ら寄与せず、逆に減少することが確認された。
【0050】
図10は、上記比較例(D=264mm、H=28mm、F=7mm、鏡面12bがパラボラ形状で、高密度ポリエチレン製の内部誘電体層131を鏡面12bの範囲に充填し、厚さT=5mmの外部誘電体層132を付加した場合)において、外部誘電体層132の厚さTを0から15mmの範囲で変化させ、外部誘電体層132の厚さと、一次放射器11のインピーダンス特性を示す50Ωに対するVSWRが1.5以下となる周波数範囲との関係を示す。同図に示すように、上記比較例においては外部誘電体層132が厚くなるほど周波数帯域が減少する傾向を示し、厚さが約12mm~13mm付近で厚さ0mm付近での値まで帯域幅は回復するものの、約13mm付近から再び減少することが確認された。
【0051】
[本実施形態の作用]
以上のように本実施形態に係るアンテナ10によれば、反射鏡12は電波の波長の1.7倍以下の開口径Dを有するため、電波が放射される半球内のアンテナパターンにヌル点を発生させることなく、広範囲に均一に安定したパターン特性を得ることができる(特許文献1の図4参照)。より具体的には、以下の作用を得ることができる。
・アンテナビームが広がり、広範囲に電波が放射される。アンテナ開口面より下方への放射もある。
・アンテナ開口面より上方の半球内にヌル点や落ち込みが存在しない。
・反射鏡アンテナであるため、アンテナパターンはアンテナを設置するアンテナ設置側の形状の影響をほとんど受けない。
【0052】
したがって、本実施形態のアンテナ10によれば、
・広範囲に均一に安定したパターン特性を有し、現在飛翔体に設置されているアンテナと比較すると利得も高くなる。
・アンテナ10が飛翔体に設置される場合に、飛翔体であるアンテナ設置側はパターン特性からの運用制約を受けることがなくなる。
・アンテナ10を飛翔体に設置する場合に、アンテナ10に発生する空力荷重・加熱が大幅に軽減される。
・アンテナ10を飛翔体に設置する場合に、飛翔体の空力特性に影響を与えない。
・従来のアンテナと比べて薄型にでき、より目立たなくなる。
【0053】
また本実施形態によれば、アンテナ10の設置側の表面、又は設置側の内部に反射鏡12、および外部誘電体層132と等しい形状、寸法の穴を開けること、および外部誘電体層132の表面形状をアンテナ設置前のアンテナ設置側の表面形状と一致するように加工することで、アンテナが表面から突き出ることもへこむこともなく、アンテナ設置側の表面形状と一体化させて設置することができる。これにより、例えばロケットや航空機等の飛翔体の場合には、空力荷重・加熱が大幅に軽減されると当時に、飛翔体の空力特性へ影響を与えないようにすることが可能である。
【0054】
本実施形態に係るアンテナ10は反射鏡12の開口径が小さいため、穴などを開けることによる飛翔体への影響は無視することが可能なレベルまで小さくなる。また、PC等の無線通信機能を有する電子機器や建物の内外にアンテナ10を設置する場合には、例えば電子部品等を実装する基板、建物の外壁、室内の壁や天井の表面、又はアンテナ設置側の内部に反射鏡、および外部誘電体層132と等しい形状、寸法の穴を開けること、および外部誘電体層132の表面形状をアンテナ設置前のアンテナ設置側の表面形状と一致するように加工することで、アンテナ10が表面から突き出ることもへこむこともなく、アンテナ設置側の表面形状と一体化させて設置することができ、また、開口径が小さいためにフットプリントも小さくできる。従って、従来の棒状アンテナ等と比較すると、薄型化が可能であり、反射鏡アンテナを基本構成とする故、アンテナ利得も高い。外部誘電体層132の表面をアンテナ設置側のアンテナ周囲の表面と同一の色や模様とすることで、アンテナを目立たなくすることが可能である。
【0055】
さらに本実施形態のアンテナ10は、外部誘電体層132を備えているため、特許文献1,2に記載のアンテナのパターン特性を維持しながら、一次放射器11にインピーダンスの周波数帯域を広くすることが可能である。これにより、アンテナ10の設計を変えずに、一次放射器11のインピーダンスの周波数帯域を広くすることができる。
【0056】
<第2の実施形態>
図11は本発明の他の実施形態に係る電子機器100の要部断面図である。電子機器100は、基板91と、基板91の表面に埋め込まれたアンテナ90とを備える。
【0057】
図11に示すように、基板91上には、アンテナ90の形状に一致する穴92が設けられ、穴92の表面に導電性薄膜96が形成されている。導電性薄膜96は、アンテナ90の反射鏡として機能する。穴92の開口面より内側の領域には、高密度ポリエチレンなどの誘電体で構成された内部誘電体層93が充填されている。また、穴92の開口面より外側の領域には、高密度ポリエチレンなどの誘電体で構成された外部誘電体層97が付加されている。アンテナ90の一次放射器94は、穴92の開口面上に配置され、内部誘電体層93により保持されている。内部誘電体層93および外部誘電体層97は、一次放射器94を被覆する誘電体層98として形成される。なお図11には、一次放射器94は、穴92の開口面上に設置された例を示したが、内部誘電体層93内に設置してもよい。
【0058】
穴92は、アンテナ90の設置側の表面、又は設置側の内部に設けられた空洞に相当し、アンテナ90はこの空洞に埋め込まれる。穴92は、パラボラ面、あるいは、非パラボラ面で形成される。したがって、穴92の表面に形成された導電性薄膜96は、パラボラ面、あるいは、非パラボラ面の鏡面を形成する。
【0059】
穴92(導電性薄膜96)の開口径は、一次放射器94より放射された電波が上記反射鏡(導電性薄膜96)で反射して放射される半球内のアンテナパターンにヌル点が発生しない大きさ(波長の1.7倍以下)に形成されている。給電ケーブル95は、内部誘電体層93により保持されて一次放射器94に接続されている。
【0060】
本実施形態では、導電性薄膜96が形成された穴92と内部誘電体層93と一次放射器94と外部誘電体層97とによってアンテナ90が構成される。外部誘電体層97の表面形状をアンテナ90を設置する前の基板91の表面形状と一致するように加工することができる。このようなアンテナ90を設置する電子機器100は、アンテナ90を基板91の表面から突き出ることもへこむこともなく、設置することができる。また、アンテナ90の開口径が小さいためにフットプリントも小さくできる。従って、従来の棒状アンテナ等と比較すると、薄型化が可能であり、反射鏡アンテナを基本構成とする故、アンテナ利得も高い。
【0061】
また、アンテナ90は、開口面の外側に位置する外部誘電体層97を有するため、特許文献1,2に記載のアンテナよりも、一次放射器94のインピーダンスの周波数帯域を広くすることができる。
【0062】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。
【0063】
例えば以上の実施形態では、ロケット、航空機等の飛翔体に設置されるアンテナに本発明を適用したが、これ以外にも、列車や自動車、潜水艦などの移動体にも適用できる。
【符号の説明】
【0064】
10,90…アンテナ
11,94…一次放射器
12,96…反射鏡
12a…開口面
12b…鏡面
12c…鏡面底部
13,98…誘電体層
92…穴(空洞)
93,131…内部誘電体層
97,132…外部誘電体層
100…電子機器
【要約】
【課題】広範囲に均一に安定したパターン特性を維持した状態で、一次放射器のインピーダンスの周波数帯域を広くすることができるアンテナおよび電子機器を提供する。
【解決手段】本発明の一形態に係るアンテナは、一次放射器と、反射鏡と、誘電体層とを具備する。前記一次放射器は、電波を放射する。前記反射鏡は、前記一次放射器より放射された電波を反射し、開口径が前記電波の波長の1.7倍以下である。前記誘電体層は、前記一次放射器を被覆する。前記誘電体層は、内部誘電体層と、外部誘電体層とを有する。前記内部誘電体層は、前記反射鏡の開口面の内側に充填される。前記外部誘電体層は、前記内部誘電体層上に設けられ、前記反射鏡の開口面の外側に位置する。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11