(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-27
(45)【発行日】2023-11-07
(54)【発明の名称】バルブ状態診断装置及び状態診断方法
(51)【国際特許分類】
G01M 13/003 20190101AFI20231030BHJP
F16K 37/00 20060101ALI20231030BHJP
【FI】
G01M13/003
F16K37/00 F
(21)【出願番号】P 2022166150
(22)【出願日】2022-10-17
【審査請求日】2023-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】594020363
【氏名又は名称】巴バルブ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100135703
【氏名又は名称】岡部 英隆
(74)【代理人】
【識別番号】100189544
【氏名又は名称】柏原 啓伸
(72)【発明者】
【氏名】菅 真人
(72)【発明者】
【氏名】藤原 勤
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼川 史香
【審査官】鴨志田 健太
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/235599(WO,A1)
【文献】特開2017-181203(JP,A)
【文献】特開2020-204503(JP,A)
【文献】特開2016-157206(JP,A)
【文献】特開2020-177571(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 13/003
F16K 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルブの作動角度を検知する角度センサと、プロセッサとを含むバルブ状態診断装置であって、
前記角度センサがバルブの作動を検知すると、
前記プロセッサは、
(1)バルブの作動についての角度プロファイルを前記角度センサから取得するステップと、
(2)前記取得した角度プロファイルをヒストグラム化し、前後複数回の作動について平均化して相対度数化するステップと、
(3)前記相対度数化された角度プロファイルのヒストグラムについて、稼働初期の角度プロファイルのヒストグラムとの類似度をヒストグラム交差法により算出するステップと、
(4)横軸に開動作における角度プロファイルの類似度を採り、縦軸に閉動作における角度プロファイルの類似度を採る二次元平面にて、前記算出された角度プロファイルの類似度をプロットするステップと、
(5)前記(4)プロットするステップが複数回繰り返されることにより生成される角度プロファイルの類似度のプロットデータにクラスタリング処理を実施するステップと
を実行する、バルブ状態診断装置。
【請求項2】
前記プロセッサは、
バルブについて所定の開閉回数毎に、前記(4)プロットするステップと前記(5)クラスタリング処理を実施するステップとを実行する、請求項1に記載のバルブ状態診断装置。
【請求項3】
前記プロセッサは、
前記(5)クラスタリング処理を実施するステップの後に、最新の角度プロファイルの類似度のプロットデータが、バルブの製品ライフサイクルのどの期間に相当するかを推測するステップを、
実行する、請求項2に記載のバルブ状態診断装置。
【請求項4】
前記プロセッサは、
前記(5)クラスタリング処理を実施するステップの後に、クラスタ数の増加を確認することでバルブの製品ライフサイクルの変化を確認するステップを、
実行する、請求項2に記載のバルブ状態診断装置。
【請求項5】
前記プロセッサは、
前記(5)クラスタリング処理を実施するステップ、及び、製品ライフサイクルのどの期間に相当するかを推測するステップの後に、
バルブの製品タイプ毎に予め実験により求められている、製品ライフサイクルの各期間の存在比率に基づいて、バルブについての現在の製品ライフサイクルにおける、最新のプロットデータの位置を把握するステップを、
実行する、請求項3に記載のバルブ状態診断装置。
【請求項6】
前記プロセッサは、
前記(5)クラスタリング処理を実施するステップにて、
バルブに対して想定されるクラスタ数の夫々についてギャップ統計量計算を行い、該ギャップ統計量計算における評価関数による評価値、及び、該評価値間の差の推移に基づいて、製品ライフサイクルの期間の推移を予測するステップを
実行する、請求項2に記載のバルブ状態診断装置。
【請求項7】
更に、通信部を含み、
バルブについて診断して生成される情報を、前記通信部を介して、外部のコンピュータに送信する、
請求項3~6のうちのいずれか一に記載のバルブ状態診断装置。
【請求項8】
前記角度センサは磁気角度センサを含む、請求項7に記載のバルブ状態診断装置。
【請求項9】
(1)プロセッサにより、バルブの作動についての角度プロファイルを取得するステップと、
(2)前記プロセッサにより、前記取得した角度プロファイルをヒストグラム化し、前後複数回の作動について平均化して相対度数化するステップと、
(3)前記プロセッサにより、前記相対度数化された角度プロファイルのヒストグラムについて、稼働初期の角度プロファイルのヒストグラムとの類似度をヒストグラム交差法により算出するステップと、
(4)前記プロセッサにより、横軸に開動作における角度プロファイルの類似度を採り、縦軸に閉動作における角度プロファイルの類似度を採る二次元平面にて、前記算出された角度プロファイルの類似度をプロットするステップと、
(5)前記プロセッサにより、前記(4)プロットするステップが複数回繰り返されることにより生成される角度プロファイルの類似度のプロットデータにクラスタリング処理を実施するステップと
を含む、バルブ状態診断方法。
【請求項10】
バルブについて所定の開閉回数毎に、
前記プロセッサにより、前記(4)プロットするステップと前記(5)クラスタリング処理を実施するステップとを実行する、請求項9に記載のバルブ状態診断方法。
【請求項11】
前記(5)クラスタリング処理を実施するステップの後に、
前記プロセッサにより、最新の角度プロファイルの類似度のプロットデータが、バルブの製品ライフサイクルのどの期間に相当するかを推測するステップが
実行される、請求項10に記載のバルブ状態診断方法。
【請求項12】
前記(5)クラスタリング処理を実施するステップの後に、
前記プロセッサにより、クラスタ数の増加を確認することでバルブの製品ライフサイクルの変化を確認するステップが
実行される、請求項10に記載のバルブ状態診断方法。
【請求項13】
前記(5)クラスタリング処理を実施するステップ、及び、製品ライフサイクルのどの期間に相当するかを推測するステップの後に、
前記プロセッサにより、バルブの製品タイプ毎に予め実験により求められている、製品ライフサイクルの各期間の存在比率に基づいて、バルブについての現在の製品ライフサイクルにおける、最新のプロットデータの位置を把握するステップが
実行される、請求項11に記載のバルブ状態診断方法。
【請求項14】
前記(5)クラスタリング処理を実施するステップにて、
前記プロセッサにより、バルブに対して想定されるクラスタ数の夫々についてギャップ統計量計算を行い、該ギャップ統計量計算における評価関数による評価値、及び、該評価値間の差の推移に基づいて、バルブについて製品ライフサイクルの期間の推移を予測するステップが実行される、請求項10に記載のバルブ状態診断方法。
【請求項15】
更に、
前記プロセッサにより、バルブについて診断して生成される情報を外部のコンピュータに送信するステップ
を含む、請求項9~14のうちのいずれか一に記載のバルブ状態診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、バルブの状態診断装置及び状態診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
様々なプラントや工場の様々な箇所においてバルブが用いられる。用いられるバルブはプラントや工場設備に組み込まれた後、長期間連続して安定的に稼働することが要求される。しかしながら、組み込まれるバルブはオペレータや点検者が直接接触し難い位置や箇所や環境に配置されることが多い。加えて、外部からの目視等だけでは、オペレータや点検者は、バルブについての、現在の状態を把握すること、更には将来の状態の変化を的確に予測することは非常に困難である。
【0003】
様々な設備の一部として長期間連続して使用されるバルブを適宜診断することで、バルブの現在の状態を正確に把握し、及びバルブの状態の変化を的確に予測し、更に、これらの把握及び予測により、的確な設備メンテナンス計画の立案、及びトラブルの未然防止を実現することが求められている。
【0004】
特許文献1、2、及び3は、バルブの診断装置及び方法を開示する。まず、特許文献1が開示する「自動バルブの診断システム、及び自動バルブの診断方法」は、各種センサが検知したバルブに関するデータを、故障判定用のモデルデータと比較している。この手法では、バルブの状態を診断するために複数種類のセンサが必要となり、システムが肥大化する可能性がある。加えて、バルブの故障に関して、同じセンサ構成で取得したモデルデータが存在していないときには故障を判定するのが難しい。また、故障予測の際には「近日中に漏液する可能性がある」というような情報を提示するに留まるものであり、具体的な情報、例えば、具体的な故障までの時間的目安を、提示するには至らない。
【0005】
特許文献2、3が開示する「調節器、調節方法、および、調節システム」及び「アクチュエータの作動状況検出装置、及び作動状況検出方法」では、バルブの開閉時間を過去データと比較することで故障の予測を行う。この手法は、開閉時間の変化しか見ておらず、バルブの細かな作動状況の変化は見ていない。そのため、故障の発生や予測に際して故障個所を特定することが困難となっている。バルブが故障するときには、徐々に性能が劣化していくという経緯を辿ることが多いので、バルブの不調を早期に発見しようとしても、開閉時間の変化にまで既に異変が拡がってから漸く不調が把握されるのでは、やや遅きに失したものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-73154号公報
【文献】特開2019-191760号公報
【文献】特開2004-169887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
バルブの状態診断を簡素な構成で行いつつ、バルブの作動状況の変化を詳細に示すバルブ状態診断装置が求められている。加えて、抽象的な予測情報だけでなく、オペレータの具体的な行動を促すような情報、例えば、故障発生までの予測される具体的な残時間や残開閉回数を示すバルブ状態診断装置が求められている。更に、これらのことにより、的確な設備メンテナンス計画の立案や、将来におけるトラブルの未然防止を可能にするバルブ状態診断装置が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示のバルブ状態診断装置は、バルブの作動角度を検知する角度センサと、プロセッサとを含む。当該バルブ状態診断装置では、角度センサがバルブの作動を検知すると、プロセッサは、
(1)バルブの作動についての角度プロファイルを角度センサから取得するステップと、
(2)取得した角度プロファイルをヒストグラム化し、前後複数回の作動について平均化して相対度数化するステップと、
(3)相対度数化された角度プロファイルのヒストグラムについて、稼働初期の角度プロファイルのヒストグラムとの類似度をヒストグラム交差法により算出するステップと、
(4)横軸に開動作における角度プロファイルの類似度を採り、縦軸に閉動作における角度プロファイルの類似度を採る二次元平面にて、算出された角度プロファイルの類似度をプロットするステップと、
(5)前述の(4)プロットするステップが複数回繰り返されることにより生成される角度プロファイルの類似度のプロットデータにクラスタリング処理を実施するステップと
を実行する。
【発明の効果】
【0009】
本開示のバルブ状態診断装置は、バルブの状態診断を簡素な構成で行いつつ、バルブの作動状況の変化及び変化予測をオペレータに詳細に示すことができる。更に、本開示のバルブ状態診断装置は、これらのことにより、的確な設備メンテナンス計画の立案、及びトラブルの未然防止を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施の形態に係るバルブ状態診断装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、実施の形態に係るバルブ状態診断装置及びシリンダの、斜視図及び一部拡大図である。
【
図3】
図3は、実施の形態に係るバルブ状態診断装置及び外部ネットワークについての全体構成図である。
【
図4】
図4は、実施の形態に係るバルブ状態診断装置における、バルブ状態診断のための処理のフローチャートである。
【
図5】
図5は、バルブの作動についての角度プロファイルの例である。
【
図6】
図6は、角度プロファイルの度数分布表への展開及びヒストグラム化を示す図である。
【
図7】
図7は、角度プロファイルのヒストグラムの相対度数化を示す図である。
【
図8】
図8は、角度プロファイル同士の類似度算出を行うためのヒストグラム交差法を示す図である。
【
図9】
図9は、角度プロファイルの類似度のプロットの例を示す図である。
【
図10】
図10は、バルブの現状を把握するために利用される、クラスタリング処理が為された、角度プロファイルの類似度のプロットデータを示す図である。
【
図11】
図11は、バルブの製品ライフサイクルの変化を確認するために角度プロファイルの類似度のプロットのグラフをクラスタリング処理することを示す図である。
【
図12】
図12は、事前データによりバルブの状態を予測するための、クラスタリング処理された角度プロファイルの類似度のプロットのグラフ、及び、予め実験により求められている製品ライフサイクルの各期間の存在比率の表である。
【
図13】
図13は、クラスタ数評価によりバルブの状態を予測するために角度プロファイルの類似度のプロットを利用することを示す図である。
【
図15】
図15は、バルブの製品ライフサイクルの移行タイミングの予測例を示す図である。
【
図16】
図16は、バルブの状態予測及び診断の結果を通知するスマートフォンの画面例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、適宜図面を参照しながら、実施の形態を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。
【0012】
なお、発明者らは、当業者が本開示を十分に理解するために添付図面および以下の説明を提供するのであって、これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。
【0013】
1.[本開示に至る経緯]
種々のプラントや工場における様々な箇所にて、バルブが用いられる。用いられるバルブはプラントや工場の設備に組み込まれた後、長期間連続して安定的に稼働することが求められる。
【0014】
しかしながら、組み込まれるバルブは、オペレータや点検者が直接接触し難い位置や箇所や環境に配置されることが多い。加えて、オペレータや点検者による設備の外部からの目視等だけでは、バルブについての、現在の状態を把握することや、更には将来の状態の変化を的確に予測することは困難である。
【0015】
また、プラントの老朽化や、ベテラン保守担当者や管理者の高齢化又は引退により、管理ノウハウの継承不足等が発生し、重大事故のリスクが増大する恐れが今後あることが懸念されている。
【0016】
一方で、バルブは複雑な環境にて多数配置され得ることから、バルブに関する現在の状態の把握や将来の状態の変化の予測についてはできるだけ簡素な構成で行うことが求められている。
【0017】
加えて、抽象的な予測情報だけでなく、オペレータの具体的な行動を促すような情報、例えば、故障発生までの予測される具体的な残時間や残開閉回数を示し得る、バルブの点検及び診断のための装置の構築が求められている。
【0018】
更に、無人化している設備の状態を常時監視しなければならないという必要を満たす装置の構築、遠隔地からバルブ状態を確認し得る装置の構築、及び、多数のバルブを一括して監視し得る装置の構築が、夫々求められている。
【0019】
本開示は、バルブの状態診断を簡素な構成で行いつつ、バルブの作動状況の変化及び変化予測をオペレータに詳細に示すことができる、バルブ状態診断装置及び状態診断方法を提示する。
【0020】
2.[実施の形態]
以下、添付の図面を参照して、本開示の好ましい実施の形態を説明する。
【0021】
2.1.[バルブ状態診断装置の構成]
図1は、実施の形態に係るバルブ状態診断装置2及び周辺の装置についての、構成を示すブロック図である。
図2を用いて後でも説明するように、バルブ状態診断装置2は、バルブ部22における特に弁体(バルブ)を動作するためのシリンダ12の上部に設けられる。
【0022】
バルブ状態診断装置2は、角度センサ4、プロセッサ6、メモリ8、及び、通信部10を含む。
【0023】
角度センサ4は、シリンダ12の上部に設けられる磁石14の回転動作を非接触で検知するセンサであり、主としてTMR/GMR素子により構成される。なお、磁石14は、シリンダ12の動作に、更には、バルブ部22におけるバルブの回転動作に、合わせて回転するように構成されている。従って、角度センサ4は、バルブの作動角度を検知するものである。磁石14は、リング形状や、棒形状や、扇型形状などが想定されるが、他の形状であってもよい。また、ここでの角度センサ4は、磁石14と対となる磁気角度センサであるが、角度センサ4は磁気角度センサに限定されるものではなく、例えば、ポテンショメータによる角度センサや、ロータリエンコーダによる角度センサや、角速度センサであるジャイロセンサなどであってもよい。
【0024】
プロセッサ6は、CPU(Central Processing Unit;中央処理ユニット)によって構成される。本実施の形態に係るバルブ状態診断装置2の諸機能は、各種プログラムをプロセッサ6が実行することによって実現される。なお、当該諸機能は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などによって実現されてもよいし、ASICと各種プログラムをロードするCPUとの組合せ等によって実現されてもよい。
【0025】
メモリ8は、バルブ状態診断装置2内部のデータ書き換えが可能な記憶部であり、例えば、多数の半導体記憶素子を含むRAM(Random Access Memory)により構成される。メモリ8は、プロセッサ6が様々な処理を実行する際の、具体的なコンピュータプログラムや、変数値や、パラメータ値等を一時的に格納する。メモリ8は、例えば、バルブ状態診断の途中データや結果データである、(バルブ)開閉トレンドデータ、角度プロファイルデータ、ヒストグラムデータ、及び、稼働データ、並びに、各種設定データを格納する。
【0026】
ここで、(バルブ)開閉トレンドデータとは、バルブの作動日時/作動に要した時間/作動方向/最初の角度/最終的な角度、などバルブの作動状況を表す情報の集まりである。角度プロファイルデータとは、1回のバルブの作動について、縦軸を(全開から全閉までの、又は、全閉から全開までの)バルブの角度とし、横軸を(経過)時間としてプロットを行うことにより示される二次元のデータであり、バルブが開閉作動中にどのような動きをしたかを示すデータである。
【0027】
なおメモリ8は、いわゆるROM(Read Only Memory)を含んでもよい。ROMには、以下で説明するバルブ状態診断装置2の処理を実現するコンピュータプログラムが予め格納されている。プロセッサ6がROMからコンピュータプログラムを読み出し、RAMに展開することにより、プロセッサ6が当該コンピュータプログラムを実行可能になる。
【0028】
通信部10は、外部との、有線通信と無線通信とを行う回路であり、各種ネットワーク端子、USB端子等を含む、外部へデータを出力可能な、及び、外部からデータを取得可能な、インタフェース回路である。バルブ状態診断についての途中データや結果データは、通信部10の有線通信の機能を介して、例えば、PC(パーソナルコンピュータ)16に送信される。一方、同じくバルブ状態診断についての途中データや結果データは、通信部10の無線通信の機能を介して、例えば、スマートフォン18に送信される。なお、スマートフォン18は、タブレット端末などであってもよい。
【0029】
なお、PC(パーソナルコンピュータ)16やスマートフォン18に送信されるバルブ状態診断についての途中データや結果データは、外部ネットワーク、例えば、インターネット21を介して、クラウドサーバ20に送信され得る。
【0030】
本実施の形態では、バルブ状態診断に係る各処理は、バルブ状態診断装置2のプロセッサ6にて行うことを想定している。PC16やスマートフォン18は、バルブ状態診断に係る各処理の結果である、バルブに関する現在の状態や状態の予測を表示することのみを行う。
【0031】
なお、角度センサ4が採取するデータが略そのままPC16やスマートフォン18に送信されてそれらPC16やスマートフォン18にて、バルブ状態診断に係る各処理が行われる形態であってもよい。この場合、バルブ状態診断装置2は、バルブの作動角度に係る角度プロファイルデータを採取して一時的に格納し、PC16やスマートフォン18に送信することが、主たる動作となる。
【0032】
また、角度センサ4が採取するデータが略そのままPC16やスマートフォン18に送信され、更にそれらデータがPC16やスマートフォン18からインターネット21を介してクラウドサーバ20に送信され、該クラウドサーバ20にて、バルブ状態診断に係る各処理が行われる形態であってもよい。この場合も、バルブ状態診断装置2は、バルブの作動角度に係る角度プロファイルデータを採取して一時的に格納し、PC16やスマートフォン18に送信することが、主たる動作となる。
【0033】
図2は、実施の形態に係るバルブ状態診断装置2及びシリンダ12についての、(1)斜視図、及び(2)一部拡大図である。(2)一部拡大図は、特に、バルブ状態診断装置2と、シリンダ12の上部に設けられるリング状の磁石14との関係を示すものである。更に、
図2(1)の斜視図に示すように、バルブ状態診断装置2は、USB接続コネクタ24、及び、電源及びRS485接続コネクタ26を備えており、夫々、USB通信ケーブル28、及び、RS485通信ケーブル30と接続するように構成されている。
【0034】
図3は、実施の形態に係るバルブ状態診断装置2及び外部ネットワークについての全体構成図である。
図3に示すように、バルブ部22及びシリンダ12の上部に設けられるバルブ状態診断装置2は、USB通信ケーブル28を介してPC16と接続する。また、バルブ状態診断装置2は、RS485通信ケーブル30、USB-RS485変換器32、及び、USB通信ケーブル28を介してPC16と接続する。更に、バルブ状態診断装置2は、ブルートゥース(登録商標)34によりスマートフォン18と接続する。PC16及びスマートフォン18は、インターネット21を介してクラウドサーバ20と接続する。
【0035】
2.2.[バルブ状態診断装置の動作]
図4は、実施の形態に係るバルブ状態診断装置2における、バルブ状態診断のための処理のフローチャートである。バルブ状態診断装置2は、電源投入(ステップS04)後、機器の初期設定としてイニシャライズ処理を実施する(ステップS06)。その後、バルブ状態診断装置2は、バルブの開動作又は閉動作が発生する限り、現状の把握処理(ルーチンS100)と、状態の予測処理(ルーチンS200)とにより構成されるメインルーチンを繰り返して実行する。
【0036】
なお、バルブの開動作とは、バルブ(弁体)の閉じた状態(即ち、全閉)から開いた状態(即ち、全開)への動作であり、バルブの閉動作とは、バルブ(弁体)の開いた状態(即ち、全開)から閉じた状態(即ち、全閉)への動作である。
【0037】
2.2.1.[現状の把握処理]
現状の把握処理(ルーチンS100)では、バルブの開動作又は閉動作が発生することで、まず、バルブ状態診断装置2は、開閉トレンドデータを取得する(ステップS08)。
【0038】
続いて、バルブ状態診断装置2は、バルブの作動についての角度プロファイルを取得する(ステップS10)。
図5は、バルブの作動についての角度プロファイルの例である。なお、バルブ状態診断装置2は、ステップS08とステップS10を並列して実行して、開閉トレンドデータと角度プロファイルデータとを同時に取得するようにしてもよい。
【0039】
図5にて作動における角度プロファイルが示されるバルブは、中心型ゴムシートバルブであり、以下、採り上げるバルブの例も同様に、断りない限り中心型ゴムシートバルブに係るものである。本実施の形態に係るバルブ状態診断装置2の適用は、勿論、中心型ゴムシートバルブに限定されるものではなく、本実施の形態のバルブ状態診断装置2は、例えば、偏芯型バルブにも適用可能である。
【0040】
なお、本実施の形態のバルブ状態診断装置2は、90度近傍の角度プロファイルが取得されるバルブに適用可能であり、バタフライバルブやボールバルブに適用される。また、同様に角度プロファイルが取得され得る多回転開閉バルブ、例えば、ゲートバルブやグローブバルブにも適用され得る。
【0041】
続いて、バルブ状態診断装置2は、角度プロファイルの分析を行う(ステップS12)。この、角度プロファイルを分析するステップでは、
(a)角度プロファイルを度数分布表に展開してヒストグラム化し、
(b)ヒストグラムを平均化し、
(c)相対度数化する。
【0042】
図6は、角度プロファイルの度数分布表への展開及びヒストグラム化を示す図である。(a)度数分布表への展開及びヒストグラム化では、まず、角度プロファイルデータを所定角度(階級)毎に分割し(
図6(1))、階級により集計して度数分布表を作成し(
図6(2))、作成した度数分布表を可視化して(
図6(3))角度を基準にしたヒストグラムを作成する。ここでの度数分布表は、弁体についての全閉~全開をカバーする角度範囲を所定角度(即ち、階級)毎に分割して、夫々の範囲内に存在するデータ数を集計することで、作成される表である。ヒストグラムは、度数分布表を可視化したグラフであり、バルブの1回の作動において各角度範囲に弁体が存在した時間を表す。
【0043】
(b)ヒストグラムの平均化では、対象の作動の前後複数回の角度プロファイルを総計して度数分布を作成し、周期的な又は突発的な稼働状態の変化を均したヒストグラムとする。
【0044】
(c)相対度数化では、全ての階級(角度範囲)において、個々の階級の度数の全体に対する割合を算出してヒストグラムを作成する。
図7は、角度プロファイルのヒストグラムの相対度数化を示す図である。
図7(1a)は、バルブの1回の作動(開動作)についてのデータ数の度数分布表であり、
図7(1b)は、
図7(1a)に示す度数分布をヒストグラム化したものである。
図7(2a)は、
図7(1a)に示す度数分布を相対度数化した度数分布表であり、
図7(2b)は、
図7(2a)に示す度数分布をヒストグラム化したものである。
図7(2a)(2b)に例を示す度数分布及びヒストグラムは、バルブの1回の作動における、各角度範囲(階級)に弁体が存在した時間の割合を表す。(c)相対度数化は、バルブにおける或る作動に関する度数分布及びヒストグラムを、同一バルブにおける他の作動に関する度数分布及びヒストグラムと、比較させるために行われる。バルブの作動はその都度所要時間が変化することが考慮されている。
【0045】
続いて、バルブ状態診断装置2は、角度プロファイルの診断を行う(ステップS14)。この角度プロファイルを診断するステップでは、角度プロファイルのヒストグラムについて、稼働初期の角度プロファイルのヒストグラムとの類似度を算出する。類似度の算出では、様々な手法が採られ得るが、例えば、ヒストグラム交差法が採られる。
図8は、角度プロファイル同士の類似度算出を行うためのヒストグラム交差法を示す図である。ヒストグラム交差法の類似度は、相対度数化された2つのヒストグラムについて、階級毎に比較して小さい方の度数を合計することで、算出される。
図8では、ヒストグラムAとヒストグラムBの重複部分の大きさが0.45であることから、「類似度:0.45」と算出されている。従って、比較するヒストグラムの形状が大きく異なる場合には類似度が低くなる。つまり、類似度が小さければ角度プロファイルの形状が大きく変化していることを意味する。
【0046】
続いて、バルブ状態診断装置2は、角度プロファイルのヒストグラムの類似度分析を行う(ステップS16)。この角度プロファイルのヒストグラムの類似度を分析するステップでは、横軸(x軸)に開動作における角度プロファイルの類似度を採り、縦軸(y軸)に閉動作における角度プロファイルの類似度を採る二次元平面において、所定の開閉回数毎の角度プロファイルの類似度をプロットする。所定の開閉回数は、例えば、開動作1000回及び閉動作1000回である。
図9(1)(2)(3)は、角度プロファイルの類似度のプロットの3つの例を示す図である。
図9(1)(2)(3)は、異なる3つのバルブに関するプロットである。いずれも、開閉1000回毎にプロットが行われている。
【0047】
角度プロファイルの類似度のプロットのグラフにおいて「開閉1000回毎にプロットが行われている」ことは、
図10~
図14にも共通している。
【0048】
なお、角度プロファイルのヒストグラムの類似度を分析するステップ(ステップS16)では、所定の開閉回数毎に角度プロファイルの類似度のプロットが行われるので、所定の開閉回数毎以外の、バルブの開閉動作については、このステップS16が行われなくてよい。
【0049】
続いて、バルブ状態診断装置2は、バルブの製品ライフサイクルにおける現状を確認する(ステップS18)。この製品ライフサイクルにおける現状を確認するステップでは、ステップS16が多数回、繰り返されることにより生成される角度プロファイルの類似度のプロットデータにクラスタリング処理を実施し、最新のプロットデータがバルブの製品ライフサイクルのどの期間に相当するかを推測する。
図10は、バルブの現状を把握するために利用される、クラスタリング処理が為された、角度プロファイルの類似度のプロットデータの例を示す図である。
図10に示す、クラスタリング処理が為された、角度プロファイルの類似度のプロットデータは、中心型ゴムシートバルブの製品ライフサイクルとして、「新品期間」、「ならし期間」、「活躍期間」、「劣化期間」、及び「故障期間」の5つが想定されており、現状(即ち、「最新データ」)は劣化期間に在ることを示している。
【0050】
即ち、本実施の形態に係るバルブ状態診断装置2におけるバルブ状態診断のための処理の全体においては、バルブに対して多数反復して行われる開閉動作に関する実験データに基づいて、バルブの製品タイプ毎に、製品ライフサイクルが想定される。上述のように、中心型ゴムシートバルブの製品ライフサイクルは、(以下の)5つの期間が想定されている。これら製品ライフサイクルの、特に期間の数は、クラスタリング処理にて想定される最大のクラスタ数として用いられる。
(1)新品期間
各部品が新品の状態であり、部品相互になじみが生じる前の状態である期間である。組み立て時に使用したグリスなど一時的に付着したものが存在する期間である。
(2)ならし期間
各部品がなじみあう状態である期間である。この期間にて、組み立て時に使用したグリスなど一時的に付着したものが流出する。
(3)活躍期間
各部品が正常に作動し得る状態である期間である。部品の接触摺動により、摩耗を生じるが穏やかに摩耗が生じる状態である期間である。この期間中には、許容最高圧力でシールが可能である状態が保持される。
(4)劣化期間
各部品の劣化速度が加速する段階である期間である。例えば、部品表面に生じた傷や毛羽立ちなどを起点に、相手部品を激しく摩耗させる状態に変化しつつある段階である期間である。この段階中には、許容最高圧力でのシールが可能では無く、シール可能な圧力が低下し続ける。
(5)故障期間
バルブを構成する部品のいずれかが機能を果たさなくなる期間であり、例えば、下記のような症状のいずれか一つ以上を生じている状態である期間である。
・弁棒が折れる。
・弁棒と弁体のクリアランスが大きくなり、弁体が全閉位置にまで回転しない。
・シートリングが摩耗し、0.1MPa(メガパスカル)程度であってもシールできない。
【0051】
なお、「クラスタリング処理」の詳細については、後の[状態の予測処理]にて説明する。
【0052】
更に、バルブの製品ライフサイクルにおける現状を確認するステップ(ステップS18)では、開閉トレンドデータや角度プロファイルデータに基づいて、該当する製品ライフサイクルにて想定される故障のうち可能性の高いものを外部に通知することを行ってもよい。ここでの、想定される故障や、可能性の高低は、例えば、様々な種類の中心型ゴムシートバルブに対して、多数反復される開閉動作に関する実験データに基づいて決定され得る。
【0053】
なお、ステップS16は所定の開閉回数毎に実施されるので、ステップS18もそれに合わせて所定の開閉回数毎に行われる、というものであってよい。
【0054】
2.2.2.[状態の予測処理]
状態の予測把握処理(ルーチンS200)では、バルブ状態診断装置2は、角度プロファイルと類似度の分析から得られた情報を基に以下の各処理を行うが、以下の各処理は、ステップS16及びステップS18と同様に、角度プロファイルの類似度のプロットに合わせて、所定の開閉回数毎に行われる、というものであってよい。
・製品ライフサイクル変化確認(ステップS20)。
・事前データによる状態予測(ステップS22)。
・クラスタ数評価による状態予測(ステップS24)。
・状態予測・診断結果通知(ステップS26)。
【0055】
状態の予測処理(ルーチンS200)では、まず、バルブ状態診断装置2は、製品ライフサイクルの変化の確認を行う(ステップS20)。この製品ライフサイクルの変化の確認処理のステップでは、角度プロファイルの類似度のプロットのグラフ(例えば、
図9参照)のクラスタリング処理が行なわれる。実施の形態に係るバルブ状態診断装置2におけるクラスタリング処理は、特に限定されないが、例えば、PAM(Partition Around Medoids)が利用される。つまり、バルブ状態診断装置2は、製品ライフサイクルの期間の数を最大のクラスタ数として想定しつつ、PAMを利用するギャップ統計量計算により、角度プロファイルの類似度のプロットのグラフにおける現在のクラスタ数を決定する。その上で、バルブ状態診断装置2は、クラスタ数が変化したかどうか、例えば、増加したかどうか確認する。
【0056】
上述のPAMを利用するギャップ統計量計算では、評価関数による評価値が求められる。ここでの評価関数は、A:処理対象データ、B:一様分布データ、とするとき、指定されたクラスタ数による、「Aでのクラスタ内の平均距離」と、「Bでのクラスタ内の平均距離」との、ギャップ(差の絶対値)として定義される。このギャップの値が、評価関数による評価値である。例えば、クラスタ数を1~5と想定して、処理対象データでの(1~5の)クラスタ内の平均距離と、一様分布データでの(1~5の)クラスタ内の平均距離との、差の絶対値を求め、当該差の絶対値(即ち、評価関数による評価値)が最も高い、クラスタ数を、現在のクラスタ数として決定する(
図14参照)。
【0057】
図11は、バルブの製品ライフサイクルの変化を確認するために角度プロファイルの類似度のプロットのグラフをクラスタリング処理することを示す図である。
図11に示すクラスタリング処理では、クラスタ数が2から3に変化したことが確認されている。これは、バルブの製品ライフサイクルが「活躍期間」に入っていること、若しくは入ったことが確認されていることを示すものである。
【0058】
製品ライフサイクルが「活躍期間」に入っていることが確認されることにより、製品ライフサイクルの後続の期間(ここでは、「劣化期間」や「故障期間」)へ移行する時期を予測することが求められる。そこで、バルブ状態診断装置2は続いて、「事前データによる状態予測(ステップS22)」や「クラスタ数評価による状態予測(ステップS24)」を行う。
【0059】
続いて、バルブ状態診断装置2は、事前データによる状態予測を行う(ステップS22)。この事前データによる状態予測処理のステップでは、バルブの製品タイプ毎に予め実験により求められている、製品ライフサイクルの各期間の存在比率に基づいて、最新のプロットデータの、バルブについての現在の製品ライフサイクルにおける、最新のプロットデータの位置が把握される。
【0060】
図12の右の表は、中心型ゴムシートバルブに関して予め実験により求められている製品ライフサイクルの各期間の存在比率の例である。ステップS20におけるクラスタリング処理により計算された現在のクラスタ数に対応する、製品ライフサイクルの期間(即ち、段階)の内で、最新(現状)のプロットデータが、どのあたりに存在するかが把握される。例えば、
図12の左のグラフは、現在のクラスタ数が3であること、即ち、対象の中心型ゴムシートバルブが「活躍期間」に在ることを示している。
図12の左のグラフにおけるプロットの数、及び、
図12の右の表における各期間の存在比率から、例えば、最新(現状)のプロットデータは、「活躍期間」の「45%」の内、「43%」辺りに在ることが把握され得る。そうすると、バルブ状態診断装置2は、「クラスタ数が3→4に変化する時期が近い」と判定し得る。
【0061】
ステップS22では、バルブの製品タイプ毎に予め実験により求められている製品ライフサイクルの各期間の存在比率の表に基づいて、製品ライフサイクルの期間の内、どのあたりに存在するかが把握されて事前データによる状態予測処理が行われるが、この際、バルブ弁体の累計作動角度に関するデータが補助的に用いられてもよい。ここで「バルブ弁体の累計作動角度」は、開閉トレンドデータを累計することにより算出される。
【0062】
続いて、バルブ状態診断装置2は、クラスタ数評価による状態予測処理を行う(ステップS24)。このクラスタ数評価による状態予測処理では、ギャップ統計量計算が行われる。つまり、対象のバルブの製品タイプに対して想定されるクラスタ数について、ギャップ統計量計算が行われる。例えば、中心型ゴムシートバルブであれば、クラスタ数1~5について、ギャップ統計量計算が行われる。ステップS20で示したように、クラスタ数の夫々について行われるギャップ統計量計算における評価関数による評価値が、最も高いときのクラスタ数が、最終的な現在のクラスタ数とされる。
【0063】
更に、クラスタ数の夫々について行われるギャップ統計量計算における評価関数による評価値、及び、評価値間の差の推移に基づいて、対象のバルブについての製品ライフサイクルの期間の推移を予測する。具体的には、「現在のクラスタ数の評価値」と「次の段階(期間)のクラスタ数の評価値」とが逆転するタイミング、即ち、次の製品ライフサイクルの期間に移行するタイミングを、計算により、例えば、累積開閉動作回数の形式で、推移時期予想曲線により、算出する。
【0064】
図13は、クラスタ数評価によりバルブの状態を予測するために角度プロファイルの類似度のプロットのグラフを利用することを示す図である。
【0065】
更に、
図14は、クラスタ数算出の実例を示す図である。クラスタリング処理にPAM(Partition around medoids)を用いた、ギャップ統計量計算によるクラスタ数算出が示されている。
図14上部左は、或る中心型ゴムシートバルブにおける、開閉動作200000回の時点での、開閉動作1000回おきの、角度プロファイルの類似度のプロットのグラフである。
図14上部右は、クラスタ数1、2、3、4、5(x軸)について、行われたギャップ統計量計算における評価関数による評価値(y軸)のグラフである。評価値は「4」のときが最も高く、最終的な現在のクラスタ数は「4」と決定される。
【0066】
図14下部左は、(
図14上部のものと)同じ中心型ゴムシートバルブにおける、開閉動作250000回の時点での、開閉動作1000回おきの、角度プロファイルの類似度のプロットのグラフである。
図14下部右は、クラスタ数1、2、3、4、5(x軸)について、行われたギャップ統計量計算における評価関数による評価値(y軸)のグラフである。評価値は「5」のときが最も高く、最終的な現在のクラスタ数は「5」と決定される。
【0067】
更に、
図15は、製品ライフサイクル、即ち、クラスタ数の移行タイミングの予測例を示す図である。
図15左の表は、中心型ゴムシートバルブにおける、開閉回数12500、126000、・・・133000、・・・の時点での、クラスタ数2、3についての、ギャップ統計量計算における評価関数による評価値、及び、評価値の差を、示している。同表にて、開閉回数134000以降には予測値が示されている。
図15右は、133000回までの、推移する評価値の差を基にして生成された、推移時期予想曲線である。ここでの推移時期予想曲線は、以下の式で表されている。
[式1]
y=7E-22x
5-5E-16x4+1E-10x
3-2E-05x
2+1.174x-31256
【0068】
図15左の表では、評価値の差は、開閉回数が増えていくに連れ減少することが示されている。
図15右のグラフにて、y軸の値(評価値の差)が0になった時点の、x軸の値(開閉回数)が製品ライフサイクル移行のタイミングである、と予測される。つまり、開閉動作133000回の時点において、開閉動作約140000回にて、クラスタ数2(「ならし期間」)からクラスタ数3(「活躍期間」)へ推移することが予測されている。
【0069】
続いて、バルブ状態診断装置2は、通信部10を介して、状態予測及び診断の結果通知処理を行う(ステップS26)。即ち、バルブ状態診断装置2は、バルブについて診断して生成される情報を、通信部10を介して外部のコンピュータに送信する。この状態予測及び診断の結果を通知するステップでは、バルブ状態診断装置2は、PC16やスマートフォン18に対して、例えば、以下の内容を送信する。PC16やスマートフォン18は以下の内容を提示する。
(1)バルブについての、現在の製品ライフサイクルの段階(期間)
(2)次の段階(期間)までの開閉動作の回数
(3)次の段階へ到達する予測時期
【0070】
更に、バルブ状態診断装置2は、次の段階へ到達した際の、作業者(操作者)が採るべき対応方針を、PC16やスマートフォン18に送信してもよい。この応答方針は、例えば、段階及び累積開閉動作回数に拠って予め設定されており、その内容がメモリ8に予め格納されていてもよい。
【0071】
図16は、バルブの状態予測及び診断の結果を通知するスマートフォン18の画面例である。
図16の画面例は、バルブの現在の段階が「活躍」期間であり、次の「劣化」の段階まで、残り開閉回数が25830回であり且つ到達予測日時が2022/11/23であり、劣化期間にて採るべき対応方針が「重要部品の故障の可能性が高まり、こまめな点検が必要になる時期です。バルブの重要度に応じて点検や交換をお勧めします。」であることを、示している。
【0072】
2.3.[実施の形態のまとめ]
実施の形態に係るバルブ状態診断装置2は、バルブの作動角度を検知する角度センサ4と、プロセッサ6とを含む。角度センサ4がバルブの作動を検知すると、プロセッサ6は、(1)バルブの作動についての角度プロファイルを角度センサ4から取得するステップと、(2)取得した角度プロファイルをヒストグラム化し、前後複数回の作動について平均化して相対度数化するステップと、(3)相対度数化された角度プロファイルのヒストグラムについて、稼働初期の角度プロファイルのヒストグラムとの類似度をヒストグラム交差法により算出するステップと、(4)横軸に開動作における角度プロファイルの類似度を採り、縦軸に閉動作における角度プロファイルの類似度を採る二次元平面にて、算出された角度プロファイルの類似度をプロットするステップと、(5)(4)プロットするステップが複数回繰り返されることにより生成される角度プロファイルの類似度のプロットデータにクラスタリング処理を実施するステップとを実行する。
【0073】
このようなバルブ状態診断装置2は、バルブの状態診断を簡素な構成で行いつつ、バルブの作動状況の変化及び変化予測を、オペレータに詳細に示すことができる。
【0074】
3.[他の実施の形態]
以上のように、本出願において開示する技術の例示として、実施の形態を説明した。しかしながら、本開示における技術は、これに限定されず、適宜、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施の形態にも適用可能である。
【0075】
本開示におけるバルブ状態診断装置2は、バタフライバルブやボールバルブのみならず、ゲートバルブやグローブバルブ等の多回転開閉バルブにも適用され得る。
【0076】
また、上述のように、角度センサ4は、磁気角度センサに限定されるものではなく、例えば、ポテンショメータによる角度センサや、ロータリエンコーダによる角度センサや、ジャイロセンサなどであってもよい。ここで、ポテンショメータによる角度センサでは、バルブを開閉するエアアクチュエータの出力軸と、ポテンショメータを備える診断ユニットのシャフトとが連結され、エアアクチュエータの動きに合わせて該シャフトが回転するように構成されている。そのシャフトの動きがギヤを介してポテンショメータに伝達され、ポテンショメータから角度の値に応じた電圧が出力され、この電圧が測定されることにより、バルブの開閉の角度が検出される。また、ロータリエンコーダによる角度センサでも、バルブを開閉するエアアクチュエータの出力軸と、ロータリエンコーダを備える診断ユニットのシャフトとが連結され、エアアクチュエータの動きに合わせて該シャフトが回転するように構成されている。そのシャフトの動きがギヤを介してロータリエンコーダに伝達され、ロータリエンコーダから角度の値に応じた数のパルスが出力され、このパルスがカウントされることにより、バルブの開閉の角度が検出される。更に、ジャイロセンサは角速度を計測するセンサであり「単位時間あたりの回転角」を検知するものであるので、検知された角速度を時間軸により積分することでバルブの回転角度が取得される。このように、バルブ状態診断装置2を構成する角度センサ4は、バルブの開閉の角度をリアルタイムで検知若しくは取得できるものであればよい。
【0077】
上述のように、実施の形態ではバルブ状態診断のための処理における以下のステップは、バルブの開閉動作の、所定の回数毎に行われる。
・ヒストグラム類似度分析(ステップS16)。
・製品ライフサイクル現状確認(ステップS18)。
・製品ライフサイクル変化確認(ステップS20)。
・事前データによる状態予測(ステップS22)。
・クラスタ数評価による状態予測(ステップS24)。
・状態予測・診断結果通知(ステップS26)。
例えば、これらのステップは所定の時間間隔(例えば、1月)毎に行われる、というものであってもよいし、バルブの開閉動作の所定の回数毎及び所定の時間間隔毎に行われる、というものであってもよい。また、「状態予測・診断結果通知(ステップS26)」については、最新のバルブ状態に関する情報がPC16やスマートフォン18からの要求に応じて常時送信されるという形式で、行われてもよい。
【0078】
また、実施の形態を説明するために、添付図面および詳細な説明を提供した。したがって、添付図面および詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須な構成要素だけでなく、上記技術を例示するために、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。そのため、それらの必須ではない構成要素が添付図面や詳細な説明に記載されていることをもって、直ちに、それらの必須ではない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。
【0079】
また、上述の実施の形態は、本開示における技術を例示するためのものであるから、特許請求の範囲またはその均等の範囲において種々の変更、置き換え、付加、省略などを行うことができる。
【符号の説明】
【0080】
2・・・バルブ状態診断装置、4・・・角度センサ、6・・・プロセッサ、8・・・メモリ、10・・・通信部、12・・・シリンダ、14・・・磁石、16・・・PC(パーソナルコンピュータ)、18・・・スマートフォン、20・・・クラウドサーバ、21・・・インターネット、22・・・バルブ部、24・・・USB接続コネクタ、26・・・電源及びRS485接続コネクタ、28・・・USB通信ケーブル、30・・・RS485通信ケーブル、32・・・USB-RS485変換器、34・・・ブルートゥース。
【要約】
【課題】バルブ状態診断装置がバルブの作動状況の変化及び変化予測を詳細に示す。
【解決手段】バルブ状態診断装置では、角度センサがバルブの作動を検知すると、プロセッサは、バルブの作動の角度プロファイルを角度センサから取得するステップと、取得した角度プロファイルをヒストグラム化し前後複数回の作動につき平均化して相対度数化するステップと、相対度数化された角度プロファイルのヒストグラムにつき稼働初期の角度プロファイルのヒストグラムとの類似度をヒストグラム交差法により算出するステップと、横軸に開動作の角度プロファイルの類似度を採り縦軸に閉動作の角度プロファイルの類似度を採る二次元平面にて、算出された角度プロファイルの類似度をプロットするステップと、プロットするステップが複数回繰り返されて生成される角度プロファイルの類似度のプロットデータにクラスタリング処理を実施するステップとを実行する。
【選択図】
図1