IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社シントクの特許一覧

特許7374542鋼製ロールの円筒研削に適した電解ドレッシング装置及び電解ドレッシング方法
<>
  • 特許-鋼製ロールの円筒研削に適した電解ドレッシング装置及び電解ドレッシング方法 図1
  • 特許-鋼製ロールの円筒研削に適した電解ドレッシング装置及び電解ドレッシング方法 図2A
  • 特許-鋼製ロールの円筒研削に適した電解ドレッシング装置及び電解ドレッシング方法 図2B
  • 特許-鋼製ロールの円筒研削に適した電解ドレッシング装置及び電解ドレッシング方法 図2C
  • 特許-鋼製ロールの円筒研削に適した電解ドレッシング装置及び電解ドレッシング方法 図3
  • 特許-鋼製ロールの円筒研削に適した電解ドレッシング装置及び電解ドレッシング方法 図4
  • 特許-鋼製ロールの円筒研削に適した電解ドレッシング装置及び電解ドレッシング方法 図5
  • 特許-鋼製ロールの円筒研削に適した電解ドレッシング装置及び電解ドレッシング方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-27
(45)【発行日】2023-11-07
(54)【発明の名称】鋼製ロールの円筒研削に適した電解ドレッシング装置及び電解ドレッシング方法
(51)【国際特許分類】
   B24B 53/00 20060101AFI20231030BHJP
   B24B 53/04 20120101ALI20231030BHJP
【FI】
B24B53/00 D
B24B53/04
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023539059
(86)(22)【出願日】2023-03-10
(86)【国際出願番号】 JP2023009295
【審査請求日】2023-06-23
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】505398206
【氏名又は名称】株式会社シントク
(74)【代理人】
【識別番号】100167047
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸典
(72)【発明者】
【氏名】田中 雄大
(72)【発明者】
【氏名】梁井 和博
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 孝
(72)【発明者】
【氏名】三木 保男
(72)【発明者】
【氏名】岩田 太地
(72)【発明者】
【氏名】藤原 晶彦
【審査官】須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-039644(JP,A)
【文献】特開2003-019623(JP,A)
【文献】特開2008-105124(JP,A)
【文献】特許第7157990(JP,B1)
【文献】特開2019-126887(JP,A)
【文献】特開平09-103940(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B53/00-57/04
B23H1/00-11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧延用の鋼製ロールの円筒研削加工に用いる研削砥石と、
前記研削砥石と間隙をもって対向する電極と、
前記鋼製ロール及び前記電極に給電する電源と、を備え、
前記研削砥石のボンド材が、非導電性のボンド材であり、
前記電源が前記円筒研削加工中に前記給電を行い、
前記研削砥石と前記電極との間の前記間隙に供給される研削液を媒介として前記研削砥石の表面が通電され、前記研削砥石の表面に付着した前記鋼製ロールの導電性を有する研削粉前記円筒研削加工と並行して電解除去する、
電解ドレッシング装置。
【請求項2】
請求項に記載の電解ドレッシング装置において、
前記研削砥石が、冷間圧延用のハイス鋼ロールの前記円筒研削加工に用いる研削砥石である、
電解ドレッシング装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電解ドレッシング装置において、
前記電源が、直流電源、直流パルス電源、交流電源又はバイポーラ増幅器の何れかである、
電解ドレッシング装置。
【請求項4】
圧延用の鋼製ロールの円筒研削加工に用いる研削砥石の表面に付着した前記鋼製ロールの導電性を有する研削粉を電解除去する電解ドレッシング方法であって、
前記研削砥石のボンド材が、非導電性のボンド材であり、
前記研削砥石と間隙をもって対向するように電極を設置する電極設置工程と、
前記鋼製ロール及び前記電極に給電する給電工程と、
前記研削砥石と前記電極との間の前記間隙に供給される研削液を媒介として前記研削砥石の表面が通電され、前記研削砥石の表面に付着した前記鋼製ロールの前記導電性を有する研削粉を電解除去する電解除去工程と、
を備え、
前記給電工程と、前記電解除去工程とを、前記円筒研削加工中に行い、前記導電性を有する研削粉を前記円筒研削加工と並行して電解除去する、
電解ドレッシング方法。
【請求項5】
請求項に記載の電解ドレッシング方法において、
前記給電工程は、前記電極へ給電する電極給電工程と、前記研削砥石への給電を前記鋼製ロールへの給電に切り替える鋼製ロール給電工程とを含む、
電解ドレッシング方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の電解ドレッシング方法において、
前記給電工程は、直流電源、直流パルス電源、交流電源又はバイポーラ増幅器の何れかから電圧を印加する工程を含む、
電解ドレッシング方法。
【請求項7】
請求項に記載の電解ドレッシング方法において、
前記電極設置工程は、前記研削砥石との前記間隙を条件に応じて適切に調節する間隙調節工程を含む、
電解ドレッシング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧延用の鋼製ロールの円筒研削に適した電解ドレッシング装置及び電解ドレッシング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼製圧延ロールには鋳鋼、工具鋼(ダイス鋼、ハイス鋼)などの種類がある。熱い素材を圧延する熱間圧延は素材が加熱され高温のため軟らかい。熱間圧延は高温の間にできるだけ素材を潰して板厚を下げるのを目的とする。熱間圧延には大径の鋳鋼ロールが使用される。熱間圧延後は板やコイルの形状になり、厚板製品となる。熱間圧延後の厚板製品を、薄板や薄帯の製品にするための圧延が冷間圧延である。板やコイルは既に冷却されており室温になっている。素材は高温より室温の方が高強度で圧延に要する力も大きい。冷間圧延に使われるロールは素材の強度に負けない、より高強度の鋼で造られる。そのため、ダイス鋼やハイス鋼といった高合金の工具鋼も使用される。高合金とすることでロールはより高強度と強靭性が付与され、高強度材の圧延を可能とする。特に高強度のステンレス鋼などの磨き帯鋼はバネなどに使用されるもので、代表的な高硬度の材料と言える。これを冷間圧延するためには高合金のハイス鋼ロールが適しているが、繰り返し冷間圧延に使用するには定期的に再研削が必要となる。しかしながら、ハイス鋼は高合金の工具鋼で高強度かつ強靭性なので、再研削は難加工工程となっている。
【0003】
鋼製ロールで板や帯の素材を繰り返し圧延すると素材とロールが接触する面には跡が残る。また圧延終了後にロールを開放する際にロールに線状跡が残る。これらの跡をそのままにしておけば引き続き圧延される素材に形状不良や疵が発生し不具合となる。そのためロールは定期的に再研削される。しかしながらダイス鋼やハイス鋼は高強度、強靭性のため研削砥石表面にロール研削粉が付着して砥石の目詰まりを起こしやすく、研削性能が劣化する。これにより、1本のロールを研削するのに長時間を要する課題が存在していた。研削性が悪いと研削効率が下がり、結果として板や帯の生産効率も落ちる。特にダイス鋼よりも添加合金元素数と添加量の多いハイス鋼は、上述のように素材自体が高強度のステンレス鋼の薄板や薄帯を製造する際の圧延に用いられることが多い。ハイス鋼ロールにより圧延すれば、圧延後の板や帯の表面性状が良く、均一で美麗な外観を得ることができる。しかし上述のようにハイス鋼ロールは研削性が悪いため、ダイス鋼と比べて使用される頻度が低く、ハイス鋼ロールが普及する上での課題となっている。圧延ロールの再研削の工程を改善することで、金属の板、帯の製品の品質を向上させる板帯の高級化にもつながる。
【0004】
上述の研削性を向上する技術として、研削加工と同時に(インプロセスで)研削砥石の表面を電解ドレッシングする技術が存在する。従来の電解ドレッシング装置の典型的な構成を示したのが図6である。また、例えば、特許文献1に開示される技術も存在する。特許文献1に開示される電解ドレッシング装置は、圧延用の鋼製ロールを研削加工する研削砥石と、研削砥石の研削面と研削液を介在させる間隙を隔てて金属製の薄板で構成される電極面が対向する電解ドレッシング用電極と、研削液を介在して研削砥石と電解ドレッシング用電極とを通電する電源とを備え、研削砥石の表面を電解ドレッシングしつつ鋼製ロールを研削加工するものである。しかしながら、図6や特許文献1に開示されるような従来の技術は、研削砥石へ安定的に給電するための複雑な給電設備を組み付けるなど、円筒研削盤を改造する必要が生じていた。これにより、電解ドレッシング装置の大型化や複雑化、そしてこれらに伴って電解ドレッシング装置の導入コストの増加を招いていた。
【0005】
また、圧延により製造する薄板や薄帯の広幅化は鋼製ロールの必然的に研削砥石の大型化が求められるところ、導電性の研削砥石は非導電性の研削砥石と比較して、一体型で大型化することは難しく、セグメント型とせざるを得ない。更に、図6や特許文献1に開示されるような従来の技術は、研削砥石に給電する構造であるため、研削砥石が導電性のものでなければならないという制約が生じていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第7157990号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、広範囲の寸法を有する鋼製ロールの円筒研削に適した電解ドレッシング装置及び電解ドレッシング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明に係る電解ドレッシング装置は、圧延用の鋼製ロールの円筒研削加工に用いる研削砥石と、研削砥石と間隙をもって対向する電極と、鋼製ロール及び電極に給電する電源と、を備え、研削砥石と電極との間の間隙に供給される研削液を媒介として研削砥石の表面に通電させて、研削砥石の表面に付着した鋼製ロールの研削粉を電解除去する。
【0009】
電源が円筒研削加工中に給電を行い、研削砥石の表面に付着した鋼製ロールの研削粉を円筒研削加工と並行して電解除去しても良い。
【0010】
研削砥石のボンド材が、非導電性のボンド材であっても良い。
【0011】
研削砥石が、冷間圧延用のハイス鋼ロールの円筒研削加工に用いる研削砥石であっても良い。
【0012】
電源が、直流電源、直流パルス電源、交流電源又はバイポーラ増幅器の何れかであっても良い。
【0013】
また、上記の課題を解決するために、本発明に係る電解ドレッシング方法は、圧延用の鋼製ロールの円筒研削加工に用いる研削砥石の表面に付着した鋼製ロールの研削紛を電解除去する電解ドレッシング方法であって、研削砥石と間隙をもって対向するように電極を設置する電極設置工程と、鋼製ロール及び電極に給電する給電工程と、研削砥石と電極との間の間隙に供給される研削液を媒介として研削砥石の表面に通電させて、研削砥石の表面に付着した鋼製ロールの研削粉を電解除去する電解除去工程と、を備える。
【0014】
給電工程と、電解除去工程とを、円筒研削加工中に行っても良い。
【0015】
給電工程は、電極へ給電する電極給電工程と、研削砥石への給電を鋼製ロールへの給電に切り替える鋼製ロール給電工程とを含んでも良い。
【0016】
給電工程は、直流電源、直流パルス電源、交流電源又はバイポーラ増幅器の何れかから電圧を印加する工程を含んでも良い。
【0017】
電極設置工程は、研削砥石との間隙を条件に応じて適切に調節する間隙調節工程を含んでも良い。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、広範囲の寸法を有する鋼製ロールの円筒研削に適した電解ドレッシング装置及び電解ドレッシング方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第一実施形態に係る電解ドレッシング装置の構成を示した図である。
図2A】本発明の第一実施形態に係る電極の構成を示した図である。
図2B】本発明の第一実施形態に係る電極の構成を示した図である。
図2C】本発明の第一実施形態に係る電極の構成を示した図である。
図3】本発明の第一実施形態に係る電解ドレッシング装置の動作を示した図である。
図4】本発明の第二実施形態に係る電解ドレッシング装置の構成を示した図である。
図5】本発明の第二実施形態に係る電解ドレッシング装置の動作を示した図である。
図6】従来の電解ドレッシング装置の構成の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る電解ドレッシング装置及び電解ドレッシング方法を説明する。なお、各図を通して、同一の参照符号が付されているものは、同一または同等のものである。
【0021】
まず、本発明の第一実施形態に係る電解ドレッシング装置100について説明する。
【0022】
図1は、本発明の第一実施形態に係る電解ドレッシング装置100の構成を示した図である。電解ドレッシング装置100は、研削砥石102と、電極103と、電源104とを備えている。なお、参照符号101は圧延用の鋼製ロールである。また、参照符号105は研削液供給源(タンク)、参照符号106は研削液107を吐出するノズルであり、チューブ(ホース)によって研削液供給源(タンク)に接続されている。
【0023】
鋼製ロール101は、例えば、素材自体が高強度のステンレス鋼の薄板や薄帯を製造する際に用いられる、冷間圧延用のハイス鋼ロールである。
【0024】
研削砥石102は、鋼製ロール101の円筒研削加工に用いる円柱状の砥石であり、図示しない円筒研削盤などの装置に支持された回転軸によって回転駆動される。研削砥石102のボンド材については、メタルボンドは硬いために鋼製ロール101と反発し合い、鋼製ロール101の表面にタタキのような欠陥が生じる場合がある。そのような場合には、ボンド材として、レジンボンド材に金属ファイバーを含有させたメタルレジンボンド材が好適である。ただし、研削砥石102のボンド材については特に限定されず、鋼製ロール101の材質などに応じて、非導電性のボンド材を含めて既存の種々のボンド材から選択することができる。研削砥石102の番手については、本願出願人が鋭意実験した結果、♯200から♯4,000の範囲、より限定するならば#400から#2,000の範囲が好適であるとの知見を得た。ただし、研削砥石102の番手については特に限定されず、鋼製ロール101の材質などに応じて既存の種々の番手であって良い。なお、本明細書に記載する番手(粒度)は、JIS R 6001-1:2017(研削といし用研削材の粒度-第1部:粗粒)及びJIS R 6001-2:2017(研削といし用研削材の粒度-第2部:微粉)、並びに、研削砥石を製造及び販売する業界で通常使用されている表記に従う又は準ずる。研削砥石102の砥粒については、本願出願人が鋭意実験した結果、CBNが好適であるとの知見を得た。ただし、研削砥石102の砥粒については特にCBNに限定されず、GC砥石等の既存の種々の砥粒から選択することができる。
【0025】
電極103は、研削砥石102の表面に付着した鋼製ロール101の研削粉を電解除去するための電極である。電極103は、図示されるようにブロック状であって、断面円弧状の電極面を備えている。この電極面は、研削砥石102の外周面と対向する長い矩形で、且つ、研削砥石102の外周面との間に研削液107の介在を許容する間隙、例えば0.5mmから7.0mm程度の間隙が形成されるように円筒内周面状に形成されている。なお、図1では電極103が研削砥石102の横に並ぶようにして設けられた状態を示しているが、電極103を設ける位置はこれに限定されない。また、図1に示される電極103の形状は例示であり、これに限定するものではない。
【0026】
ここで、図2A乃至図2Cを参照しながら、電極103について更に説明する。図2Aは電極103の正面図であり、図2Bは電極103の側面図であり、図2Cは電極103のA-A線断面図である。図示されるように、電極103は、研削砥石102に対向する面、即ち断面円弧状の電極面が、金属製の薄板201によって構成されている。また、電極103は、研削砥石102に対向する面以外の部分が、絶縁材料200で構成されている。薄板201の具体的な素材としては、チタン、銅など種々の金属が適用可能である。薄板201の巾(図2Bにおける横方向の幅)は、研削砥石102の巾と同じかそれ以上であることが好ましい。絶縁材料200の具体的な材料としては、例えば塩化ビニル、ポリカーボネートなど種々のプラスチックが適用可能である。電極103を以上に述べた構成とすることで、全体が金属ブロックの加工品で構成されていた従来の電極と比較して大幅に軽量化される他、製作性、可搬性や設置性の向上やコストの削減の効果が得られる。なお、電極面の大きさについては特に限定されないが、本願出願人が鋭意実験した結果、電極面の周方向の長さ、即ち薄板201の円弧長が研削砥石102の円周長(外周長)の15パーセントを超える(即ち、周方向において薄板201が研削砥石102をカバーする比率が15パーセントを超える)場合に良好な効果が得られるとの知見を得た。
【0027】
電源104は、鋼製ロール101の材質、研削砥石102の種類、研削粉を電解除去する時間などの条件に応じた適正な電圧、電流を鋼製ロール101及び電極103に供給(給電)する電源である。電源104としては、直流電源、直流パルス電源、交流電源、バイポーラ増幅器など種々の方式の電源が適用可能である。本実施形態では、電極103(薄板201)に対しては給電線(配線)108を介して給電が行われ、鋼製ロール101に対しては給電線(配線)109を介して給電が行われる(給電工程)。なお、鋼製ロール101への給電の構造や工程については特に限定されず、例えば、給電線109の先端に設けたブラシを介して給電を行っても良く、給電線109の先端の導体を露出させた上で鋼製ロール101の端部などに直接接触させて給電を行っても良い。また、例えば、給電線109の給電先を研削砥石102から鋼製ロール101に切り替えるための配線切替器を設けるなどして、研削砥石102に代えて鋼製ロール101に給電を行っても良い(鋼製ロール給電工程)。
【0028】
以上のとおり説明した電解ドレッシング装置100の動作について、図3を参照しながら説明する。まず、鋼製ロール101の研削加工に用いる研削砥石102に対して、研削液107の介在を許容する間隙をもって対向するようにして電極103を固定する(電極設置工程)。ここで、鋼製ロール101の材質、研削砥石102の種類、研削粉を電解除去する時間などの条件に応じて、研削液107の介在を許容する間隙を適切に調節することができる(間隙調節工程)。続いて、研削砥石102と電極103との間隙にノズル106から研削液107を供給し、回転駆動する研削砥石102の表面に行き渡らせる(研削液供給工程)。続いて、電源104より鋼製ロール101と電極103とに給電し、研削砥石102の表面に行き渡った研削液を媒介として研削砥石102の表面に通電させる(給電工程)。これにより、研削加工中の研削砥石102の表面に付着した鋼製ロール101の研削粉が連続的に電解除去(電解ドレッシング)され(電解除去工程)、研削砥石102の砥粒が鋼製ロール101と接する状態を保つことができ、研削性が向上する。なお、研削砥石102の表面に付着した鋼製ロール101の研削粉は、研削加工中に給電を行うことでインライン(インプロセス)で連続的に電解除去することが好ましい。しかしながら、研削加工と電解除去とは必ずしも同時に行う必要はなく、鋼製ロール101の材質、研削砥石102の種類、研削粉を電解除去する時間などの条件に応じて、交互に行ったり、タイミングを適宜ずらしたりすることができる。
【0029】
次に、本発明の第二実施形態に係る電解ドレッシング装置400について説明する。
【0030】
図4は、本発明の第二実施形態に係る電解ドレッシング装置400の構成を示した図である。電解ドレッシング装置400は、研削砥石102と、電極401と、電源104とを備えている。鋼製ロール101,研削砥石102、電源104、研削液供給源(タンク)105,研削液107,給電線(配線)108及び給電線(配線)109は、第一実施形態と同様である。
【0031】
電極401は、研削砥石102の表面に付着した鋼製ロール101の研削粉を電解除去するための電極である。電極401は、図示されるようにブロック状であって、断面円弧状の電極面を備えている。この電極面は、研削砥石102の外周面と対向する長い矩形で、且つ、研削砥石102の外周面との間に研削液107の介在を許容する間隙、例えば0.5mmから7.0mm程度の間隙が形成されるように円筒内周面状に形成されている。なお、図4では電極401が研削砥石102の横に並ぶようにして設けられた状態を示しているが、電極401を設ける位置はこれに限定されない。また、図4に示される電極401の形状は例示であり、これに限定するものではない。
【0032】
次に、電極401について更に説明する。電極401は、研削砥石102に対向する面、即ち断面円弧状の電極面が、第一実施形態の電極103と同様に、金属製の薄板201によって構成されている。また、電極401は、研削砥石102に対向する面以外の部分が、第一実施形態の電極103と同様に、絶縁材料200で構成されている。薄板201の具体的な素材としては、チタン、ステンレス鋼など種々の金属が適用可能である。薄板201の巾は、研削砥石102の巾と同じかそれ以上であることが好ましい。絶縁材料200の具体的な材料としては、例えば塩化ビニル、ポリカーボネートなど種々のプラスチックが適用可能である。電極401を以上に述べた構成とすることで、全体が金属で構成されていた従来の電極と比較して大幅に軽量化される他、製作性、可搬性や設置性の向上やコストの削減の効果が得られる。なお、電極面の大きさについては特に限定されないが、本願出願人が鋭意実験した結果、電極面の周方向の長さ、即ち薄板201の円弧長が研削砥石102の円周長(外周長)の15パーセントを超える(即ち、周方向において薄板201が研削砥石102をカバーする比率が15パーセントを超える)場合に良好な効果が得られるとの知見を得た。
【0033】
ここで、電極401は、その内部が中空に構成されている点、研削液導入口402が絶縁材料200に少なくとも一つ設けられている点及び薄板201に複数の微小な研削液供給孔(図示せず)が設けられている点が、第一実施形態に係る電極103と異なっている。研削液導入口402は、電極401の内部に研削液107を導入するための開口であり、チューブ(ホース)によって研削液供給源(タンク)105に接続されている。なお、電極401においては研削液導入口402が正面(図4において手前側の面)に設けられているが、背面など他の面に設けられても良い。電極401を以上に述べた構成とすることで、電極401の内部及び研削液供給孔を通過して、研削砥石102と電極401との間隙に研削液107が均一に供給され、回転駆動する研削砥石102の表面に行き渡る(研削液供給工程)。これにより、電極面における研削液107の流れの局所的な不均一が解消され、研削砥石102の表面性状を一定に保つことができる。なお、電極401を図4に示すような位置に設けるときは、下方の研削液供給孔ほど孔径を小さく(上方の研削液供給孔ほど孔径を大きく)することができる。下方の研削液供給孔ほど孔径を小さくすることで、下方から上方にかけての研削液の供給の不均一を解消することができる。
【0034】
また、電極401は、電極401の内部に、内部を分割する隔壁を少なくとも一つ設けることができる。電極401の内部に隔壁を設けることで、電極401の剛性を高めることができる他、研削液導入口402より導入された研削液107を、電極401の内部においてバランスよく分布させることができる。また、隔壁によって電極401の内部が異なる大きさ(容積)に分割されるときは、隔壁によって大きく分割された内部空間に対応する研削液供給孔と、隔壁によって小さく分割された内部空間に対応する研削液供給孔とで、研削液供給孔の孔径を異なる大きさとすることができる。例えば、隔壁によって大きく分割された内部空間に対応する研削液供給孔を小さな孔径とし、隔壁によって小さく分割された内部に対応する研削液供給孔を大きな孔径とすることができる。この反対も可能である。電極401を設ける位置、向きや角度、研削液の粘度などに応じて、隔壁によって大きく分割された内部空間に対応する研削液供給孔と隔壁によって小さく分割された内部空間に対応する研削液供給孔とで研削液供給孔の孔径を異なる大きさとすることで、研削砥石102と電極401との間隙への研削液107の供給の不均一を解消することができる。
【0035】
以上のとおり説明した電解ドレッシング装置400の動作について、図5を参照しながら説明する。まず、鋼製ロール101の研削加工に用いる研削砥石102に対して、研削液107の介在を許容する間隙をもって対向するようにして電極401を固定する(電極設置工程)。ここで、鋼製ロール101の材質、研削砥石102の種類、研削粉を電解除去する時間などの条件に応じて、研削液107の介在を許容する間隙を適切に調節することができる(間隙調節工程)。続いて、研削砥石102と電極401との間隙に研削液供給孔から研削液107を供給し、回転駆動する研削砥石102の表面に行き渡らせる(研削液供給工程)。続いて、電源104より鋼製ロール101と電極401とに給電し、研削砥石102の表面に行き渡った研削液を媒介として研削砥石102の表面に通電させる(給電工程)。これにより、研削加工中の研削砥石102の表面に付着した鋼製ロール101の研削粉が連続的に電解除去(電解ドレッシング)され(電解除去工程)、研削砥石102の砥粒が鋼製ロール101と接する状態を保つことができ、研削性が向上する。なお、研削砥石102の表面に付着した鋼製ロール101の研削粉は、研削加工中に給電を行うことでインライン(オンライン)で連続的に電解除去することが好ましい。しかしながら、研削加工と電解除去とは必ずしも同時に行う必要はなく、鋼製ロール101の材質、研削砥石102の種類、研削粉を電解除去する時間などの条件に応じて、交互に行ったり、タイミングを適宜ずらしたりすることができる。
【0036】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の改変が可能である。
【0037】
例えば、研削液が流れることができる細かい溝を電極面に形成し、研削液供給孔から供給された研削液が溝を伝って電極面の全体に行き届くようにすることができる。これにより、研削砥石と電極との間隙への研削液の供給の均一性がより高まる。
【0038】
本発明に係る電解ドレッシング装置及び電解ドレッシング方法によれば、まず、従来技術と異なり研削砥石へ給電する必要がなくなるため、導電性の研削砥石はもちろん、レジンボンド砥石やGC砥石など、従来技術では想定されていなかった非導電性の研削砥石を適用することができるようになる。また、本発明に係る電解ドレッシング装置及び電解ドレッシング方法によれば、従来技術と異なり研削砥石へ給電する必要がなくなるため、研削砥石へ安定的に給電するための複雑な給電設備を組み付けるといった円筒研削盤を改造する必要がない。従って、本発明に係る電解ドレッシング装置及び電解ドレッシング方法によれば、ハイス鋼の圧延ロールへの使用頻度が拡大し、高機能表面を有する板および帯の製造の難易度が下がる。また、本発明に係る電解ドレッシング装置及び電解ドレッシング方法は、工具鋼以外の高機能ロール(例えば超硬ロールやセラミックロール)への応用も可能となりえる。また、本発明に係る電解ドレッシング装置及び電解ドレッシング方法によれば、ステンレス鋼などの高硬度、強靭性の材料を冷間圧延する場面において表面品質の向上が可能となる他、ステンレス鋼以外の高硬度、強靭性の材料を冷間圧延する可能性が拡大し、ステンレス鋼以外の高硬度、強靭性の材料の用途が拡大する。また、本発明に係る電解ドレッシング装置及び電解ドレッシング方法によれば、鋼よりも高強度、高靭性の材料(例えば超合金)を熱間圧延ロールの材料として利用する可能性が生じる。
【符号の説明】
【0039】
100 電解ドレッシング装置
101 鋼製ロール
102 研削砥石
103 電極
104 電源
105 研削液供給源(タンク)
106 ノズル
107 研削液
108 給電線(配線)
109 給電線(配線)
200 絶縁材料
201 薄板
400 電解ドレッシング装置
401 電極
402 研削液導入口
600 電解ドレッシング装置
601 電極
602 電源
603 給電線(配線)
604 給電線(配線)
【要約】
鋼製ロールの円筒研削に適した電解ドレッシング装置及び電解ドレッシング方法を提供する。
圧延用の鋼製ロールの円筒研削加工に用いる研削砥石と、研削砥石と間隙をもって対向する電極と、鋼製ロール及び電極に給電する電源と、を備え、研削砥石と電極との間の間隙に供給される研削液を媒介として研削砥石の表面に通電させて、研削砥石の表面に付着した鋼製ロールの研削粉を電解除去する。
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5
図6