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特許7374544標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体を含む医薬組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-27
(45)【発行日】2023-11-07
(54)【発明の名称】標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体を含む医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 51/10 20060101AFI20231030BHJP
   A61K 51/04 20060101ALI20231030BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20231030BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20231030BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20231030BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20231030BHJP
   A61K 103/00 20060101ALN20231030BHJP
【FI】
A61K51/10 200
A61K51/04 200
A61K47/26
A61K47/12
A61K47/10
A61K39/395 T ZNA
A61K103:00
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020551190
(86)(22)【出願日】2019-10-09
(86)【国際出願番号】 JP2019039793
(87)【国際公開番号】W WO2020075746
(87)【国際公開日】2020-04-16
【審査請求日】2022-07-12
(31)【優先権主張番号】P 2018191605
(32)【優先日】2018-10-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006677
【氏名又は名称】アステラス製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100126985
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 充利
(74)【代理人】
【識別番号】100196243
【弁理士】
【氏名又は名称】運 敬太
(72)【発明者】
【氏名】末光 純平
(72)【発明者】
【氏名】池田 恵
(72)【発明者】
【氏名】河野 萌
【審査官】春田 由香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/092885(WO,A1)
【文献】国際公開第2005/086875(WO,A2)
【文献】今堀 和友, 山川 民夫 監修,生化学辞典,第3版,株式会社 東京化学同人,2002年07月01日,p.1267,ISBN 4-8079-0480-9
【文献】内山 進 ほか,抗体医薬品の溶液物性,薬剤学,2014年01月,第74巻, 第1号,p.12-18,ISSN 0372-7629
【文献】内山 進,バイオ医薬品の分析のコツ 品質評価のための基礎と応用 第6回 タンパク質溶液の性質,PHARM TECH JAPAN,2018年01月,第34巻, 第1号,p.109-120,ISSN 0910-4739
【文献】荒川 力,凍結操作において添加物はどのようにして蛋白質を安定化するのか,蛋白質 核酸 酵素,1992年07月01日,第37巻, 第9号,p.1517-1523,ISSN 0039-9450
【文献】VAN DE WATERING FC et al.,Zirconium-89 labeled antibodies: a new tool for molecular imaging in cancer patients,BioMed Research International,2014年,Vol.2014,Article ID 203601, 13 pages,doi: 10.1155/2014/203601, ISSN 2314-6141
【文献】PERK LR et al.,p-Isothiocyanatobenzyl-desferrioxamine: a new bifunctional chelate for facile radiolabeling of monoclonal antibodies with zirconium-89 for immuno-PET imaging,European Journal of Nuclear Medicine and Molecular Imaging,2010年,Vol.37, No.2,p.250-259,doi: 10.1007/s00259-009-1263-1, ISSN 1619-7070
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 51/00-51/12
A61K 49/00-49/22
A61K 39/00-39/44
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
医中誌WEB
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体、緩衝剤、安定化剤、及び非イオン性界面活性剤を含み、pHが6.5~7.5である医薬組成物であって、
抗ヒト抗体Fabフラグメントが、以下の(a)及び(b):
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる重鎖フラグメント及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む、抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメント;並びに
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる重鎖フラグメントであって、配列番号2のアミノ酸番号1のグルタミン酸がピログルタミン酸に修飾された重鎖フラグメント、及び、配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む、抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメント、
からなる群より選択される1以上のものであり、
標識部が、下式(I):
【化1】
[式中、波線は抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメントへの結合を表し、ここで抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメントは、抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメント中のアミノ基を介して、標識部末端のC(=S)の炭素原子と結合している]で示される基であり、
非イオン性界面活性剤が、ポリソルベート80を含むものであり、
非イオン性界面活性剤の濃度が、0.02~0.2w/v%であり、
緩衝剤が、クエン酸を含むものであり、
緩衝剤の濃度が、10~30mmol/Lであり、
安定化剤が、スクロース、又はグリセリンを含むものであり、
安定化剤の濃度が、5~30w/v%である、
前記医薬組成物。
【請求項2】
標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体、緩衝剤、安定化剤、及び非イオン性界面活性剤を含み、pHが6.5~7.0である医薬組成物であって、
抗ヒト抗体Fabフラグメントが、以下の(a)及び(b):
(a)配列番号6又は配列番号8に示されるアミノ酸配列からなる重鎖フラグメント及び配列番号10に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメント;並びに、
(b)配列番号6又は配列番号8に示されるアミノ酸配列からなる重鎖フラグメントであって、配列番号6又は配列番号8のアミノ酸番号1のグルタミンがピログルタミン酸に修飾された重鎖フラグメント、及び、配列番号10に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む、抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメント、
からなる群より選択される1以上のものであり、
標識部が、下式(I):
【化2】
[式中、波線は抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントへの結合を表し、ここで抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントは、抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメント中のアミノ基を介して、標識部末端のC(=S)の炭素原子と結合している]で示される基であり、
非イオン性界面活性剤が、ポリソルベート80を含むものであり、
非イオン性界面活性剤の濃度が、0.02~0.2w/v%であり、
緩衝剤が、クエン酸を含むものであり、
緩衝剤の濃度が、10~30mmol/Lであり、
安定化剤が、スクロースを含むものであり、
安定化剤の濃度が、5~30w/v%である、
前記医薬組成物。
【請求項3】
安定化剤がスクロースであり、
pHが6.5~7.0である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体の濃度が、5~20mg/mLであり、
非イオン性界面活性剤の濃度が、0.04~0.1w/v%であり、
緩衝剤の濃度が、15-25mmol/Lである、
請求項1~3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
pHが、6.7である、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体の濃度が、10mg/mLであり、
pHが6.7であり、
非イオン性界面活性剤の濃度が、0.05w/v%であり、
緩衝剤の濃度が、20mmol/Lであり、
安定化剤が、スクロースであり、
安定化剤の濃度が10w/v%である、
請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項7】
標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体の濃度が、10mg/mLであり、
pHが6.7であり、
非イオン性界面活性剤の濃度が、0.05w/v%であり、
緩衝剤の濃度が、20mmol/Lであり、
安定化剤が、グリセリンであり、
安定化剤の濃度が30w/v%である、
請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項8】
標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体が、さらに89Zrを含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
大腸癌又は大腸癌が転移した癌の診断に用いる、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
乳癌又は乳癌が転移した癌の診断に用いる、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
溶液製剤、凍結製剤、又は凍結乾燥製剤である、請求項1~10のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
請求項1に記載の標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体を含む医薬組成物の製造方法であって、
(a)標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体を製造し、配合する工程、
(b)10~30mmol/Lのクエン酸を緩衝剤として配合する工程、
(c)5~30w/v%のスクロース、又はグリセリンを安定化剤として配合する工程、
(d)0.02~0.2w/v%のポリソルベート80を非イオン性界面活性剤として配合する工程、及び
(e)pHを6.5~7.5に調整する工程、
を含む、前記製造方法。
【請求項13】
請求項2に記載の標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体を含む医薬組成物の製造方法であって、
(a)標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体を製造し、配合する工程、
(b)10~30mmol/Lのクエン酸を緩衝剤として配合する工程、
(c)5~30w/v%のスクロースを安定化剤として配合する工程、
(d)0.02~0.2w/v%のポリソルベート80を非イオン性界面活性剤として配合する工程、及び
(e)pHを6.5~7.0に調整する工程、
を含む、前記製造方法。
【請求項14】
請求項1に記載の標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体を安定に保存する方法であって、
(a)標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体を含む溶液に対して、10~30mmol/Lのクエン酸を緩衝剤として配合する工程、
(b)標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体を含む溶液に対して、5~30w/v%のスクロース、又はグリセリンを安定化剤として配合する工程、
(c)標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体を含む溶液に対して、0.02~0.2w/v%のポリソルベート80を非イオン性界面活性剤として配合する工程、及び
(d)標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体を含む溶液のpHを6.5~7.50に調整する工程、
を含む、前記方法。
【請求項15】
請求項2に記載の標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体を安定に保存する方法であって、
(a)標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体を含む溶液に対して、10~30mmol/Lのクエン酸を緩衝剤として配合する工程、
(b)標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体を含む溶液に対して、5~30w/v%のスクロースを安定化剤として配合する工程、
(c)標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体を含む溶液に対して、0.02~0.2w/v%のポリソルベート80を非イオン性界面活性剤として配合する工程、及び
(d)標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体を含む溶液のpHを6.5~7.00に調整する工程、
を含む、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体を含有する安定な医薬組成物に関する。特に、本発明は、標識部-抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメント複合体、又は標識部-抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメント複合体を含有する安定な医薬組成物に関するものである。また、本発明は、標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体を含む医薬組成物の製造方法、及び標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体を安定に保存する方法に関するものでもある。
【背景技術】
【0002】
遺伝子組換え技術の発達によって、免疫グロブリン、モノクローナル抗体、ヒト型化抗体等の抗体を医薬品として利用することが可能となっている。例えば、癌を診断、治療するために抗癌剤や金属放射性同位元素、蛍光色素等を結合させた抗体が用いられている。また、抗体を用いたターゲッティングは腫瘍細胞に対する特異性が高く、副作用が少ないことが知られている。このような背景の下、現在までに金属放射性同位元素で標識されたモノクローナル抗体等が開発されている(特許文献1)。
【0003】
一方で、一般に抗体は血中半減期が長く、体内に投与後、癌を可視化するのに十分なシグナル対バックグラウンド比を与える腫瘍対血液比に達するのに4日~5日の長い期間を必要とする(Clin.Pharmacol.Ther.;2010;87:586-592)。また、抗体のFc領域は、抗体依存性細胞障害(Antibody-Dependent Cellular Cytotoxicity:ADCC)や補体依存性細胞障害(Complement-Dependent Cytotoxicity:CDC)の薬理作用を引き起こす(Glycoconj.J.;2013;30:227-236、Curr.Opin.Biotechnol.;2002;13:609-614)。さらに、抗体は肝臓で代謝されるため標的に関わらず肝臓に高集積するが、大腸癌の早期の転移は肝臓に限局しているため、抗体によって大腸癌の肝転移の病巣を検出することは難しい(Clin.Pharmacol.Ther.;2010;87:586-592)。
【0004】
これに対して、Fabのように低分子化された組換え抗体フラグメントは、組織浸透性が高いため病巣に届きやすく、大腸菌や酵母での発現系を用いた低コストでの製造が期待でき、血中半減期が短く、腎排泄される特徴を有することから、診断薬としての利用が期待されている(Nat.Biotechnol.;2005;23:1126-1136)。
【0005】
このような背景の下、癌の診断を目的として、金属放射性同位元素を配位させたFabフラグメント複合体や蛍光色素を結合させたFabフラグメントの利用が検討されている。
【0006】
また、抗体を安定に保存する方法については、これまでに多くの検討がなされている。例えば、特許文献2には、ヒト型化C4C1 Fabフラグメントを含む製剤に、非イオン性界面活性剤、糖類を添加し、pHを特定の範囲に調整することで安定化する方法が記載されている。また、特許文献3には、IL-1βに対するヒト抗体を含む製剤に、緩衝剤を添加し、pHを特定の範囲に調整することで安定化する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2013-510093号公報
【文献】国際公開第00/66160号公報
【文献】特表2012-511540号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一価のFabフラグメントは、分子量約50kDaであり、分子量約150kDaの抗体より小さく、腎排泄され、血中半減期も短い。また、Fc領域がないためADCCやCDCを引き起こすこともない。このような特長から、抗体と比べ、金属放射性同位元素を配位させたFabフラグメントや蛍光色素を結合させたFabフラグメントは、診断薬としてより有効であると期待される。
【0009】
しかしながら、配位子や蛍光色素を結合させたFabフラグメントは、保存時の熱ストレスや光ストレスによって、多量体や不溶性微粒子を生成しやすいという課題や、使用前の融解・攪拌過程で不溶性微粒子が生成するという課題がある。また、安定化のために保存溶液中に様々な化合物を配合すると、配位効率や蛍光退色といった問題などが生じることも懸念されている。
【0010】
本発明の課題は、保存時における多量体や不溶性微粒子の発生を抑制できる、標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体含有医薬組成物等を提供することにある。また、標識部として配位子を用いた場合に、配位子への金属放射性同位元素の配位効率の低下を抑制できる標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体含有医薬組成物を提供することや、標識部として蛍光色素を用いた場合に、蛍光色素の退色を抑制できる標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体含有医薬組成物を提供することも本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体含有医薬組成物の処方について鋭意検討を重ねた結果、クエン酸、リン酸、2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エタンスルホン酸、又はトリスヒドロキシメチルアミノメタンを緩衝剤として配合し、スクロース又はグリセリンを安定化剤として配合し、さらに非イオン性界面活性剤を配合し、pHが6.5~7.5である医薬組成物とすることで、標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体の保存時における多量体や不溶性微粒子の発生を抑制でき、かつ配位子への金属放射性同位元素の配位効率の低下や蛍光色素の退色も抑制できることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は、標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体の保存安定性に優れ、かつ標識部への金属配位効率や標識蛍光色素の退色も抑制できる、標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体を含有する医薬組成物を提供するものであり、一態様において、本発明は以下の通りであってよい。
【0013】
[1]標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体、緩衝剤、安定化剤、及び非イオン性界面活性剤を含み、pHが6.5~7.5である医薬組成物であって、
緩衝剤が、クエン酸、リン酸、2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エタンスルホン酸、又はトリスヒドロキシメチルアミノメタンを含むものであり、
安定化剤が、スクロース、又はグリセリンを含むものである、前記医薬組成物。
[2]抗ヒト抗体Fabフラグメントが、以下の(a)及び(b):
(a)配列番号2のアミノ酸番号1から121までのアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖フラグメント及び配列番号4のアミノ酸番号1から112までのアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖を含む、抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメント;並びに
(b)配列番号2のアミノ酸番号1から121までのアミノ酸配列からなる重鎖可変領域であって、配列番号2のアミノ酸番号1のグルタミン酸がピログルタミン酸に修飾された重鎖可変領域を含む重鎖フラグメント、及び、配列番号4のアミノ酸番号1から112までのアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖を含む、抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメント、
からなる群より選択される1以上のものであり、
標識部が、下式(I):
【化1】
[式中、波線は抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメントへの結合を表し、ここで抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメントは、抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメント中のアミノ基を介して、標識部末端のC(=S)の炭素原子と結合している]で示される基である、上記[1]に記載の医薬組成物。
[3]抗ヒト抗体Fabフラグメントが、以下の(a)及び(b):
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる重鎖フラグメント及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む、抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメント;並びに
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる重鎖フラグメントであって、配列番号2のアミノ酸番号1のグルタミン酸がピログルタミン酸に修飾された重鎖フラグメント、及び、配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む、抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメント、
からなる群より選択される1以上のものである、上記[2]に記載の医薬組成物。
[4]抗ヒト抗体Fabフラグメントが、以下の(a)及び(b):
(a)配列番号12又は配列番号14に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖フラグメント及び配列番号16に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖を含む抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメント;並びに、
(b)配列番号12又は配列番号14に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域であって、配列番号12又は配列番号14のアミノ酸番号1のグルタミンがピログルタミン酸に修飾された重鎖可変領域を含む重鎖フラグメント、及び、配列番号16に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖を含む、抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメント、
からなる群より選択される1以上のものであり、
標識部が、下式(I):
【化2】
[式中、波線は抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントへの結合を表し、ここで抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントは、抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメント中のアミノ基を介して、標識部末端のC(=S)の炭素原子と結合している]で示される基である、上記[1]に記載の医薬組成物。
[5]抗ヒト抗体Fabフラグメントが、以下の(a)及び(b):
(a)配列番号6又は配列番号8に示されるアミノ酸配列からなる重鎖フラグメント及び配列番号10に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメント;並びに、
(b)配列番号6又は配列番号8に示されるアミノ酸配列からなる重鎖フラグメントであって、配列番号6又は配列番号8のアミノ酸番号1のグルタミンがピログルタミン酸に修飾された重鎖フラグメント、及び、配列番号10に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む、抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメント、
からなる群より選択される1以上のものである、上記[4]に記載の医薬組成物。
[6]非イオン性界面活性剤が、ポリソルベート80を含むものである、上記[1]~[5]のいずれかに記載の医薬組成物。
[7]標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体が、さらに89Zrを含む、上記[2]~[6]のいずれかに記載の医薬組成物。
[8]大腸癌又は大腸癌が転移した癌の診断に用いる、上記[7]に記載の医薬組成物。
[9]乳癌又は乳癌が転移した癌の診断に用いる、上記[7]に記載の医薬組成物。
[10]抗ヒト抗体Fabフラグメントが、以下の(a)及び(b):
(a)配列番号12又は配列番号14に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖フラグメント及び配列番号16に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖を含む抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメント;並びに、
(b)配列番号12又は配列番号14に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域であって、配列番号12又は配列番号14のアミノ酸番号1のグルタミンがピログルタミン酸に修飾された重鎖可変領域を含む重鎖フラグメント、及び、配列番号16に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖を含む、抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメント、
からなる群より選択される1以上のものであり、
標識部が、下式(II):
【化3】
[式中、波線は抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントへの結合を表し、ここで抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントは、抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメント中のアミノ基を介して、標識部末端のC(=O)の炭素原子と結合している]で示される基である、上記[1]に記載の医薬組成物。
[11]抗ヒト抗体Fabフラグメントが、以下の(a)及び(b):
(a)配列番号6又は配列番号8に示されるアミノ酸配列からなる重鎖フラグメント及び配列番号10に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメント;並びに、
(b)配列番号6又は配列番号8に示されるアミノ酸配列からなる重鎖フラグメントであって、配列番号6又は配列番号8のアミノ酸番号1のグルタミンがピログルタミン酸に修飾された重鎖フラグメント、及び、配列番号10に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む、抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメント、
からなる群より選択される1以上のものである、上記[10]に記載の医薬組成物。
[12]非イオン性界面活性剤が、ポリソルベート80を含むものである、上記[10]又は[11]に記載の医薬組成物。
[13]乳癌又は乳癌が転移した癌の診断に用いる、上記[10]~[12]のいずれかに記載の医薬組成物。
[14]術中診断薬である、上記[13]に記載の医薬組成物。
[15]緩衝剤の濃度が、10~30mmol/Lである、上記[1]~[14]のいずれかに記載の医薬組成物。
[16]安定化剤の濃度が、5~30w/v%である、上記[1]~[15]のいずれかに記載の医薬組成物。
[17]非イオン性界面活性剤の濃度が、0.02~0.2w/v%である、上記[1]~[16]のいずれかに記載の医薬組成物。
[18]溶液製剤、凍結製剤、又は凍結乾燥製剤である、上記[1]~[17]のいずれかに記載の医薬組成物。
[19]標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体を含む医薬組成物の製造方法であって、
(a)標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体を製造し、配合する工程、
(b)クエン酸、リン酸、2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エタンスルホン酸、又はトリスヒドロキシメチルアミノメタンを緩衝剤として配合する工程、
(c)スクロース、又はグリセリンを安定化剤として配合する工程、
(d)非イオン性界面活性剤を配合する工程、及び
(e)pHを6.5~7.5に調整する工程、
を含む、前記製造方法。
[20]標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体を安定に保存する方法であって、
(a)標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体を含む溶液に対して、クエン酸、リン酸、2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エタンスルホン酸、又はトリスヒドロキシメチルアミノメタンを緩衝剤として配合する工程、
(b)標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体を含む溶液に対して、スクロース、又はグリセリンを安定化剤として配合する工程、
(c)標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体を含む溶液に対して、非イオン性界面活性剤を配合する工程、及び
(d)標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体を含む溶液のpHを6.5~7.5に調整する工程、
を含む、前記方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の医薬組成物は、標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体の保存時における多量体や不溶性微粒子の発生を抑制でき、かつ配位子への金属放射性同位元素の配位効率の低下や蛍光色素の退色も抑制できるため、貯蔵、輸送、及び使用の際の安定性の点で有用である。また、本発明の医薬組成物は、安定性の点から、製薬学的に許容される緩衝剤や医薬品添加物を使用したものであり、ヒト投与の際の安全性の点でも有用である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明について詳述するが、本発明はこれらに限定されるものではない。本明細書で特段に定義されない限り、本発明に関連して用いられる科学用語及び技術用語は、当業者によって一般に理解される意味を有するものとする。
【0016】
1.医薬組成物
ある態様では、本発明は、標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体、緩衝剤、安定化剤、及び非イオン性界面活性剤を含み、pHが6.5~7.5である医薬組成物であって、前記緩衝剤が、クエン酸、リン酸、2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エタンスルホン酸、又はトリスヒドロキシメチルアミノメタンを含むものであり、前記安定化剤が、スクロース、又はグリセリンを含むものである、前記医薬組成物に関する。前記医薬組成物とすることにより、標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体の保存時における多量体や不溶性微粒子の発生を抑制でき、かつ配位子への金属放射性同位元素の配位効率の低下や蛍光色素の退色も抑制することが可能になる。そのため、本発明の医薬組成物では、標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体の貯蔵、輸送、及び使用の際の凝集等を抑制できる。
【0017】
1-1.抗ヒト抗体Fabフラグメント
抗体分子の基本構造は、各クラス共通で、分子量5万~7万の重鎖と2~3万の軽鎖から構成される。重鎖は、通常約440個のアミノ酸を含むポリペプチド鎖からなり、クラスごとに特徴的な構造をもち、IgG、IgM、IgA、IgD、IgEに対応してγ、μ、α、δ、ε鎖とよばれる。さらにIgGには、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4が存在し、それぞれγ1、γ2、γ3、γ4とよばれている。軽鎖は、通常約220個のアミノ酸を含むポリペプチド鎖からなり、L型とK型の2種が知られており、それぞれλ、κ鎖とよばれる。抗体分子の基本構造のペプチド構成は、それぞれ相同な2本の重鎖及び2本の軽鎖が、ジスルフィド結合(S-S結合)及び非共有結合によって結合され、分子量15万~19万である。2種の軽鎖は、どの重鎖とも対をなすことができる。個々の抗体分子は、常に同一の軽鎖2本と同一の重鎖2本からできている。
【0018】
鎖内S-S結合は、重鎖に四つ(μ、ε鎖には五つ)、軽鎖には二つあって、アミノ酸100~110残基ごとに一つのループを成し、この立体構造は各ループ間で類似していて、構造単位あるいはドメインとよばれる。重鎖、軽鎖ともにN末端側に位置するドメインは、同種動物の同一クラス(サブクラス)からの標品であっても、そのアミノ酸配列が一定せず、可変領域とよばれており、各ドメインは、それぞれ、重鎖可変領域(V)及び軽鎖可変領域(V)とよばれている。これよりC末端側のアミノ酸配列は、各クラスあるいはサブクラスごとにほぼ一定で定常領域とよばれており、各ドメインは、それぞれ、CH1、CH2、CH3あるいはCと表される。
【0019】
抗体と抗原との結合の特異性は、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域によって構成される部分のアミノ酸配列によっている。一方、補体や各種細胞との結合といった生物学的活性は各クラスIgの定常領域の構造の差を反映している。重鎖と軽鎖の可変領域の可変性は、どちらの鎖にも存在する3つの小さな超可変領域にほぼ限られることがわかっており、これらの領域を相補性決定領域(CDR;それぞれN末端側からCDR1、CDR2、CDR3)と呼んでいる。可変領域の残りの部分はフレームワーク領域(FR)とよばれ、比較的一定である。
【0020】
抗体の重鎖定常領域のCH1ドメインとCH2ドメインとの間にある領域はヒンジ領域とよばれ、この領域は、プロリン残基を多く含み、2本の重鎖をつなぐ複数の鎖間S-S結合を含む。例えば、ヒトのIgG1、IgG2、IgG3、IgG4の各ヒンジ領域には、重鎖間のS-S結合を構成している、それぞれ、2個、4個、11個、2個のシステイン残基を含む。ヒンジ領域は、パパインやペプシン等のタンパク質分解酵素に対する感受性が高い領域である。抗体をパパインで消化した場合、ヒンジ領域の重鎖間S-S結合よりもN末端側の位置で重鎖が切断され、2個のFabフラグメントと1個のFcフラグメントに分解される。Fabフラグメントは、軽鎖と、重鎖可変領域、CH1ドメインとヒンジ領域の一部とを含む重鎖フラグメントから構成される。Fabフラグメントは可変領域を含み、抗原結合活性を有する。
【0021】
本発明の医薬組成物に含まれる抗ヒト抗体Fabフラグメントは、ある態様では抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメントである。また、ある態様では、本発明の医薬組成物に含まれる抗ヒト抗体Fabフラグメントは、ある態様では抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントである。
【0022】
1-1-1.抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメント
CEACAM5(Carcinoembryonic antigen-related cell adhesion molecule 5)は腫瘍マーカーの1つであり、正常組織でほとんど発現が認められないが、胎児の消化管や大腸癌で発現している(BBA;1990;1032:177-189、Mol.Pathol.;1999;52:174-178)。また、CEACAM5は乳癌などでも発現していることが知られている(Diagn.Cytopathol.;1993;9:377-382、Cancer Res.;1990;50:6987-6994、Histopathology;2000;37:530-535)。また、大腸癌患者では健常人に比べ血中CEACAM5の濃度が高く(J.Exp.Med.;1965;121:439-462)、CEACAM5は腫瘍マーカーとして使用されている。大腸癌患者の組織学的な検討では90%以上の組織でCEACAM5が高発現している(British J.Cancer;2013;108:662-667)。
【0023】
本発明の医薬組成物に含まれる抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメントには、以下の特徴を有するFabフラグメントが含まれる:
配列番号2のアミノ酸番号1から121までのアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖フラグメント及び配列番号4のアミノ酸番号1から112までのアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖を含む、抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメント。
【0024】
本発明の医薬組成物に含まれる抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメントの重鎖定常領域としては、Igγ1、Igγ2、Igγ3又はIgγ4等のいずれの定常領域も選択可能であり得る。1つの実施形態において、本発明の医薬組成物に含まれる抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメントの重鎖定常領域は、ヒトIgγ1定常領域である。
【0025】
本発明の医薬組成物に含まれる抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメントの軽鎖定常領域としては、Igλ又はIgκのいずれの定常領域も選択可能であり得る。1つの実施形態において、本発明の医薬組成物に含まれる抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメントの軽鎖定常領域は、ヒトIgκ定常領域である。
【0026】
1つの実施形態において、本発明の医薬組成物に含まれる抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメントは、以下のFabフラグメントである:
配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる重鎖フラグメント及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む、抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメント。
【0027】
Fabフラグメントを含め、抗体を細胞で発現させる場合、抗体が翻訳後に修飾を受けることが知られている。翻訳後修飾の例としては、重鎖C末端のリジンのカルボキシペプチダーゼによる切断、重鎖及び軽鎖N末端のグルタミン又はグルタミン酸のピログルタミル化によるピログルタミン酸への修飾、グリコシル化、酸化、脱アミド化、糖化等が挙げられ、種々の抗体において、このような翻訳後修飾が生じることが知られている(J. Pharm. Sci.;2008;97:2426-2447)。
【0028】
本発明の医薬組成物に含まれる抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメントには、翻訳後修飾により生じたFabフラグメントも含まれ得る。翻訳後修飾により生じ得る本発明の医薬組成物に含まれる抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメントの例としては、重鎖N末端がピログルタミル化された抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメントが挙げられる。このようなN末端のピログルタミル化による翻訳後修飾は、抗体の活性に顕著な影響を及ぼすものではないことは当該分野で知られている(Anal.Biochem.;2006;348:24-39)。
【0029】
1つの実施形態において、本発明の医薬組成物に含まれる抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメントは、下記の特徴を有する抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメントである:
配列番号2のアミノ酸番号1から121までのアミノ酸配列からなる重鎖可変領域であって、配列番号2のアミノ酸番号1のグルタミン酸がピログルタミン酸に修飾された重鎖可変領域を含む重鎖フラグメント、及び、配列番号4のアミノ酸番号1から112までのアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖を含む、抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメント。
【0030】
別の実施形態において、本発明の医薬組成物に含まれる抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメントは、下記の特徴を有する抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメントである:
配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる重鎖フラグメントであって、配列番号2のアミノ酸番号1のグルタミン酸がピログルタミン酸に修飾された重鎖フラグメント、及び、配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む、抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメント。
【0031】
本発明の医薬組成物には、以下の特徴を有する抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメントも含まれる:
配列番号2のアミノ酸番号31から35までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号2のアミノ酸番号50から66までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号2のアミノ酸番号99から110までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む重鎖可変領域を含む重鎖フラグメント、並びに、配列番号4のアミノ酸番号24から38までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号4のアミノ酸番号54から60までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号4のアミノ酸番号93から101までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む軽鎖可変領域を含む軽鎖を含む、抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメント。
【0032】
本発明の医薬組成物に含まれる抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメントは、ヒトCEACAM5に結合する。得られた抗ヒトCEACAM5抗体FabフラグメントのヒトCEACAM5に対する結合活性を測定する方法としては、表面プラズモン共鳴(Surface Plasmon Resonance;SPR)法による解析やELISA等の方法がある。例えば、SPR法による解析を用いる場合、Biacore T200(GEヘルスケア・ジャパン社)を用いて、センサーチップにBiotin CAPture Kit(GEヘルスケア・ジャパン社)とビオチン化したヒトCEACAM5を固相化し、段階希釈したFabフラグメントを添加することで結合速度定数(ka)、解離速度定数(kd)、及び解離定数(K)を測定できる。
【0033】
本発明の医薬組成物に含まれる抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメントは、本明細書に開示される、本発明の医薬組成物に含まれる抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメントの重鎖フラグメント及び軽鎖の配列情報に基づいて、当該分野で公知の方法を使用して、当業者によって容易に作製され得る。本発明の医薬組成物に含まれる抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメントは、特に限定されるものではないが、例えば、後述の「4-4.抗ヒト抗体Fabフラグメントの製造方法」に記載の方法に従い製造することができる。
【0034】
1-1-2.抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメント
ムチン1(Mucin1:MUC1)は、乳腺、気管及び消化管等の上皮組織を構成する上皮細胞の内腔側に発現する膜結合型糖タンパク質である(Nat. Rev. Cancer;2004 Jan;4(1):45-60)。MUC1は乳癌や大腸癌等の癌細胞で過剰に発現しており(Mod. Pathol.;2005 Oct;18(10):1295-1304、Int. J. Oncol.;2000 Jan;16(1):55-64)、MUC1は癌病巣を検出するための標的分子として有用である(Nat. Rev. Cancer;2004 Jan;4(1):45-60、Pathol. Res. Pract.;2010 Aug15;206(8):585-589.)。
【0035】
本発明の医薬組成物に含まれる抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントは、以下の特徴を有するFabフラグメントである:
配列番号12又は配列番号14に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖フラグメント及び配列番号16に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖を含む抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメント。
【0036】
1つの実施形態において、本発明の医薬組成物に含まれる抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントは、配列番号14に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖フラグメント及び配列番号16に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖を含む抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントである。
【0037】
本発明の医薬組成物に含まれる抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントの重鎖定常領域としては、Igγ1、Igγ2、Igγ3又はIgγ4等のいずれの定常領域も選択可能であり得る。1つの実施形態において、本発明の医薬組成物に含まれる抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントの重鎖定常領域は、ヒトIgγ1定常領域である。
【0038】
本発明の医薬組成物に含まれる抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントの軽鎖定常領域としては、Igλ又はIgκのいずれの定常領域も選択可能であり得る。1つの実施形態において、本発明の医薬組成物に含まれる抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントの軽鎖定常領域は、ヒトIgκ定常領域である。
【0039】
1つの実施形態において、本発明の医薬組成物に含まれる抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントは、以下のFabフラグメントである:
配列番号6又は配列番号8に示されるアミノ酸配列からなる重鎖フラグメント及び配列番号10に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメント。
【0040】
1つの実施形態において、本発明の医薬組成物に含まれる抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントは、配列番号8に示されるアミノ酸配列からなる重鎖フラグメント及び配列番号10に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントである。
【0041】
前述の通り、Fabフラグメントを含め、抗体を細胞で発現させる場合、抗体が翻訳後に修飾を受けることが知られている。そのため、本発明の医薬組成物に含まれる抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントには、翻訳後修飾により生じたFabフラグメントも含まれ得る。翻訳後修飾により生じ得る本発明の医薬組成物に含まれる抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントの例としては、重鎖N末端のピログルタミル化した抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントが挙げられる。このようなN末端のピログルタミル化による翻訳後修飾は、抗体の活性に影響を及ぼすものではないことが当該分野で知られていることは前述の通りである。
【0042】
1つの実施形態において、本発明の医薬組成物に含まれる抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントは、下記の特徴を有する抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントである:
配列番号12又は配列番号14に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域であって、配列番号12又は配列番号14のアミノ酸番号1のグルタミンがピログルタミン酸に修飾された重鎖可変領域を含む重鎖フラグメント、及び、配列番号16に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖を含む、抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメント。
【0043】
ある実施形態において、本発明の医薬組成物に含まれる抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントは、下記の特徴を有する抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントである:
配列番号14に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域であって、配列番号14のアミノ酸番号1のグルタミンがピログルタミン酸に修飾された重鎖可変領域を含む重鎖フラグメント、及び、配列番号16に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖を含む、抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメント。
【0044】
別の実施形態において、本発明の医薬組成物に含まれる抗MUC1抗体Fabフラグメントは、下記の特徴を有する抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントである:
配列番号6又は配列番号8に示されるアミノ酸配列からなる重鎖フラグメントであって、配列番号6又は配列番号8のアミノ酸番号1のグルタミンがピログルタミン酸に修飾された重鎖フラグメント、及び、配列番号10に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む、抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメント。
【0045】
ある実施形態において、本発明の医薬組成物に含まれる抗MUC1抗体Fabフラグメントは、下記の特徴を有する抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントである:
配列番号8に示されるアミノ酸配列からなる重鎖フラグメントであって、配列番号8のアミノ酸番号1のグルタミンがピログルタミン酸に修飾された重鎖フラグメント、及び、配列番号10に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む、抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメント。
【0046】
本発明の医薬組成物に含まれる抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントは、ヒト癌特異的MUC1に結合する。得られた抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントのヒト癌特異的MUC1に対する結合活性を測定する方法としては、ELISAやFACS等の方法がある。例えば、ELISAを用いる場合、ヒト癌特異的MUC1陽性細胞(例えば、T-47D細胞)をELISAプレートに固定化し、これに対してFabフラグメントを添加して反応させた後、ホースラディッシュペルオキシダーゼ等で標識した抗Igκ抗体等を反応させた後、その活性を検出する試薬(例えば、ホースラディッシュペルオキシダーゼ標識の場合、化学発光ホースラディッシュペルオキシダーゼ基質)等を用いた活性測定により、二次抗体の結合を同定する。
【0047】
本発明の医薬組成物に含まれる抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントは、本明細書に開示される、本発明の医薬組成物に含まれる抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントの重鎖フラグメント及び軽鎖の配列情報に基づいて、当該分野で公知の方法を使用して、当業者によって容易に作製され得る。本発明の医薬組成物に含まれる抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントは、特に限定されるものではないが、例えば、後述の「4-4.抗ヒト抗体Fabフラグメントの製造方法」に記載の方法に従い製造することができる。
【0048】
1-2.標識部
1-2-1.配位子を含む標識部
ある実施形態として、本発明の医薬組成物に含まれる標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体は、標識部が配位子及びリンカーである複合体である。なお、本明細書において、「配位子」とは、複合体において、金属とキレート錯体を形成しうる部分であり、キレート剤から構成される基を意味する。また、「構成される基」とは、キレート剤からプロトンが除かれて、結合手を有する基であり、「キレート剤」とは、金属と配位結合できる化合物である。
【0049】
ある実施形態として、本発明の医薬組成物に含まれる標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体は、標識部が配位子及びリンカーである場合、配位子を構成するキレート剤としては、シデロホアと非シデロホアが挙げられる。さらにある態様としては、MAG3(メルカプトアセチル-グリシル-グリシル-グリシン、CAS番号:66516-09-4)、及びその公知の反応性誘導体が挙げられる。シデロホアとしては、ヒドロキサム酸型、カテコール型、又は、混合配位子型が挙げられる。ヒドロキサム酸型シデロホアとしては、例えば、フェリクローム、下式:
【化4】
で示されるデフェロキサミン(DFO)、フサリニンC、オルニバクチン、ロドトルル酸、及びこれらの公知の反応性誘導体が挙げられる。カテコール型シデロホアとしては、例えば、エンテロバクチン、バチリバクチン、ビブリオバクチン、及びこれらの公知の反応性誘導体が挙げられる。混合配位子型シデロホアとしては、例えば、アゾトバクチン、ピオベルジン、エルシニアバクチン、及びこれらの公知の反応性誘導体が挙げられる。なお、上記シデロホアの場合、DFOはその反応性官能基である-NHを介してリンカー又はFabフラグメントと反応させることができ、DFO以外のシデロホアの場合には、カルボキシ基、水酸基、アミノ基等の反応性官能基を介して、当業者が通常用いる方法でリンカー又はFabフラグメントと反応させることもできる。
【0050】
非シデロホアとしては、DTPA(ジエチレントリアミン五酢酸、CAS番号:67-43-6)、DTPA-BMA(1,7-ビス(メチルカルバモイルメチル)-1,4,7-トリアザヘプタン-1,4,7-三酢酸、CAS番号:119895-95-3)、EOB-DTPA(エトキシベンジルDTPA、2-[[(2S)-2-[ビス(カルボキシメチル)アミノ]-3-(4-エトキシフェニル)プロピル]-[2-[ビス(カルボキシメチル)アミノ]エチル]アミノ]酢酸)、TTHA(トリエチレンテトラミン六酢酸、CAS番号:869-52-3)、DO3A(1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7-三酢酸、CAS番号:217973-03-0)、HP-DO3A(10-(2-ヒドロキシプロピル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7-三酢酸、CAS番号:120041-08-9)、DOTA(1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-テトラ酢酸、CAS番号:60239-18-1)、及びこれらの公知の反応性誘導体が挙げられる。
【0051】
本発明の医薬組成物に含まれる標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体は、標識部が配位子及びリンカーである場合の配位子を構成する「キレート剤」は、好ましくはDFOである。
【0052】
「リンカー」とは、抗ヒト抗体Fabフラグメントと配位子の間に距離をつくる基である。ある実施形態として、本発明の医薬組成物に含まれる標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体は、標識部が配位子及びリンカーである場合、抗ヒト抗体Fabフラグメントと配位子の間に距離をつくるリンカーとしては、下式:
【化5】
(以下-C(=S)-NH-(1,4-フェニレン)-NH-C(=S)-と表記する)、-CH-(1,4-フェニレン)-NH-C(=S)-、-C(=O)-(C1-20 アルキレン)-C(=O)-、が挙げられる。ここで「C1-20 アルキレン」とは、直鎖又は分岐の炭素数1~20のアルキレンである。C1-20 アルキレンのある態様としては、C1-10 アルキレン、C1-2アルキレンが挙げられる。C1-20 アルキレンのある態様としては、エチレンが挙げられる。リンカーを形成するために用いることができる試薬としては、HO-C(=O)-(C1-20 アルキレン)-C(=O)-OH、コハク酸、p-フェニレンジイソチオシアナート等が挙げられる。
【0053】
本発明の医薬組成物に含まれる標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体は、標識部が配位子及びリンカーである場合の「リンカー」は、好ましくは-C(=S)-NH-(1,4-フェニレン)-NH-C(=S)-である。
【0054】
本発明の医薬組成物に含まれる標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体は、標識部が配位子及びリンカーである場合、抗ヒト抗体Fabフラグメントとリンカーを反応させて得られた物質に配位子を形成するキレート剤を反応させて製造することができる。配位子を形成するキレート剤にリンカーを反応させて得られた物質に抗ヒト抗体Fabフラグメントを反応させて製造することもできる。反応例としては、キレート剤のアミノ基とリンカーとを反応させて得られた物質を、抗ヒト抗体Fabフラグメントの1以上のアミノ基(例えば、N末端アミノ基やリジン側鎖のアミノ基)と反応させることが挙げられる。標識部が配位子である場合、抗ヒト抗体Fabフラグメントと配位子を形成するキレート剤を反応させて製造することもできる。反応例としては、キレート剤を、抗ヒト抗体Fabフラグメントの1以上のアミノ基(例えば、N末端アミノ基やリジン側鎖のアミノ基)と反応させることが挙げられる。本発明の医薬組成物に含まれる標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体の製造には、アミンにイソチオシアネートを加えてチオウレアを合成する反応や、アミンにカルボン酸を加えてアミドを合成する反応等を用いることができる。当該反応は、当業者に公知の方法を適用することにより行うことができる。なお、原料として予め配位子とリンカーが結合した化合物を用いることもできる。配位子とリンカーが結合した化合物の例としては、以下の式で示されるp-SCN-Bn-DFO(p-イソチオシアノフェニルアミノチオカルボニル基置換DFO、CAS番号:1222468-90-7):
【化6】
、p-イソチオシアノベンジル基置換DTPA(p-SCN-Bn-DTPA、CAS番号:102650-30-6)、p-イソチオシアノベンジル基置換DOTA(p-SCN-Bn-DOTA、CAS番号:127985-74-4)、及び、p-SCN-Bn-CHX-A”-DTPA([(R)-2-アミノ-3-(4-イソチオシアナートフェニル)プロピル]-トランス-(S,S)-シクロヘキサン-1,2-ジアミン-五酢酸、CAS番号:157380-45-5)が挙げられる。
【0055】
ある実施形態として、本発明の医薬組成物に含まれる標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体は、標識部が下式(I)で表される配位子及びリンカーである複合体である:
【化7】
式中、波線は抗ヒト抗体Fabフラグメントへの結合を表し、ここで抗ヒト抗体Fabフラグメントは、抗ヒト抗体Fabフラグメント中のアミノ基を介して、標識部末端のC(=S)の炭素原子と結合している。
【0056】
前述の通り、本発明の医薬組成物に含まれる標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体は、標識部が配位子及びリンカーである場合、配位子を構成するキレート剤が金属放射性同位元素とキレート錯体を形成しうる。本明細書において、金属放射性同位元素は例えば、PETトレーサー等に用いられるものをいい、89Zr、51Mn、52Fe、60Cu、67Ga、68Ga、72As、99mTc、又は111In等が挙げられるが、好ましくは89Zrである。すなわち、本発明の医薬組成物に含まれる標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体は、金属放射性同位元素を含まないものであっても、金属放射性同位元素として89Zrを含むものであってもよい。
【0057】
また、本発明の医薬組成物が提供される際の態様としては、金属放射性同位元素を含まない態様で提供し、使用の直前に金属放射性同位元素で標識して使用しても、金属放射性同位元素を含む診断に用いる医薬組成物として提供されてもよい。例えば、短半減期の金属放射性同位元素(例えば、89Zr(半減期3.3日))を用いる場合には、金属放射性同位元素を含まない態様で提供し、使用の直前に金属放射性同位元素で標識することが好ましい。
【0058】
1-2-2.蛍光色素を含む標識部
ある実施形態として、本発明の医薬組成物に含まれる標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体は、標識部が蛍光色素である場合、蛍光色素としては、光イメージングに通常用いられる近赤外波長(650~1000nm)に吸収極大及び発光極大がある色素を用いることができる。蛍光色素のある態様としては、シアニン又はインドシアニン化合物が挙げられる。ある態様としては、IRDye800CW(LI-COR社)、Cy(Molecular Probe社)、Alexa Fluor、BODIPY、及びDyLight(Thermo Fisher Scientific社)、CF790(Biotium社)、DY(DYOMICS GMBH社)、HiLyte Fluor680、及びHiLyte Fluor750(Anaspec社)、PULSAR650、及びQUASAR670(Biosearch Technologies社)等が挙げられる。
【0059】
本発明の医薬組成物に含まれる標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体は、標識部が蛍光色素である場合の蛍光色素は、好ましくは下式で表されるIRDye800CW(LI-COR Biosciences社):
【化8】
である。なお、上記の蛍光色素は、そのカルボキシ基、水酸基、アミノ基等を介して、あるいは当業者が通常用いる方法で活性化基を導入し、抗ヒト抗体Fabフラグメントあるいは抗ヒト抗体Fabフラグメントに結合したリンカーと反応させることができる。活性化基が導入された蛍光色素のある態様としては、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)基でエステル化された蛍光色素が挙げられる。例えば、IRDye800CWのNHSエステルは市販されており、それらを利用可能である。
【0060】
ある実施形態として、本発明の医薬組成物に含まれる標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体は、標識部が下式(II)で表される蛍光色素である複合体である:
【化9】
式中、波線は抗ヒト抗体Fabフラグメントへの結合を表し、ここで抗ヒト抗体Fabフラグメントは、抗ヒト抗体Fabフラグメント中のアミノ基を介して、標識部末端のC(=O)の炭素原子と結合している。
【0061】
医薬組成物に含まれる標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体において、抗ヒト抗体Fabフラグメントと、標識部との結合は、公知の手法により、当業者が適宜行うことができる。例えば、標識部を抗ヒト抗体Fabフラグメントの1以上のアミノ基(例えば、N末端アミノ基やアミノ酸側鎖のアミノ基)、1以上のチオール基(例えば、アミノ酸側鎖のチオール基)、又は1以上のカルボキシル基(例えば、C末端やアミノ酸の側鎖のカルボキシル基)に結合させることができる。ある態様として、本発明の医薬組成物に含まれる標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体は、標識部が抗ヒト抗体Fabフラグメントの1以上のアミノ基に結合した、複合体である。
【0062】
1-3.標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体
本発明の医薬組成物は、標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体を含むものである。ある態様では、本発明の医薬組成物に含まれる標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体は、抗ヒト抗体Fabフラグメントが、以下の(a)及び(b):
(a)配列番号2のアミノ酸番号1から121までのアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖フラグメント及び配列番号4のアミノ酸番号1から112までのアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖を含む、抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメント;並びに
(b)配列番号2のアミノ酸番号1から121までのアミノ酸配列からなる重鎖可変領域であって、配列番号2のアミノ酸番号1のグルタミン酸がピログルタミン酸に修飾された重鎖可変領域を含む重鎖フラグメント、及び、配列番号4のアミノ酸番号1から112までのアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖を含む、抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメント、
からなる群より選択される1以上のものであり、
前記標識部が、下式(I):
【化10】
[式中、波線は抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメントへの結合を表し、ここで抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメントは、抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメント中のアミノ基を介して、標識部末端のC(=S)の炭素原子と結合している]で示される基である、標識部-抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメント複合体である。
【0063】
ある態様では、標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体に含まれる抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメントは、以下の(a)及び(b):
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる重鎖フラグメント及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む、抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメント;並びに
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる重鎖フラグメントであって、配列番号2のアミノ酸番号1のグルタミン酸がピログルタミン酸に修飾された重鎖フラグメント、及び、配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む、抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメント、
からなる群より選択される1以上のものである。
【0064】
また、ある態様では、本発明の医薬組成物に含まれる標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体は、前記抗ヒト抗体Fabフラグメントが、以下の(a)及び(b):
(a)配列番号12又は配列番号14に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖フラグメント及び配列番号16に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖を含む抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメント;並びに、
(b)配列番号12又は配列番号14に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域であって、配列番号12又は配列番号14のアミノ酸番号1のグルタミンがピログルタミン酸に修飾された重鎖可変領域を含む重鎖フラグメント、及び、配列番号16に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖を含む、抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメント、
からなる群より選択される1以上のものであり、
前記標識部が、下式(I):
【化11】
[式中、波線は抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントへの結合を表し、ここで抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントは、抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメント中のアミノ基を介して、標識部末端のC(=S)の炭素原子と結合している]で示される基である、標識部-抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメント複合体である。
【0065】
ある態様では、標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体に含まれる抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントは、以下の(a)及び(b):
(a)配列番号6又は配列番号8に示されるアミノ酸配列からなる重鎖フラグメント及び配列番号10に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメント;並びに、
(b)配列番号6又は配列番号8に示されるアミノ酸配列からなる重鎖フラグメントであって、配列番号6又は配列番号8のアミノ酸番号1のグルタミンがピログルタミン酸に修飾された重鎖フラグメント、及び、配列番号10に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む、抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメント、
からなる群より選択される1以上のものである。
【0066】
また、ある態様では、本発明の医薬組成物に含まれる標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体は、前記抗ヒト抗体Fabフラグメントが、以下の(a)及び(b):
(a)配列番号12又は配列番号14に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖フラグメント及び配列番号16に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖を含む抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメント;並びに、
(b)配列番号12又は配列番号14に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域であって、配列番号12又は配列番号14のアミノ酸番号1のグルタミンがピログルタミン酸に修飾された重鎖可変領域を含む重鎖フラグメント、及び、配列番号16に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖を含む、抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメント、
からなる群より選択される1以上のものであり、
前記標識部が、下式(II):
【化12】
[式中、波線は抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントへの結合を表し、ここで抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントは、抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメント中のアミノ基を介して、標識部末端のC(=O)の炭素原子と結合している]で示される基である、標識部-抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメント複合体である。
【0067】
ある態様では、標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体に含まれる抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントは、以下の(a)及び(b):
(a)配列番号6又は配列番号8に示されるアミノ酸配列からなる重鎖フラグメント及び配列番号10に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメント;並びに、
(b)配列番号6又は配列番号8に示されるアミノ酸配列からなる重鎖フラグメントであって、配列番号6又は配列番号8のアミノ酸番号1のグルタミンがピログルタミン酸に修飾された重鎖フラグメント、及び、配列番号10に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む、抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメント、
からなる群より選択される1以上のものである。
【0068】
本発明の医薬組成物に含まれる標識部-抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメント複合体は、抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメントに1以上の標識部が結合した複合体である。本発明の医薬組成物に含まれる標識部-抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメント複合体は、ある態様としては1~25の標識部と結合した、ある態様としては1~23の標識部と結合した、ある態様としては1~16の標識部と結合した、ある態様としては1~11の標識部と結合した、ある態様としては1~10の標識部と結合した、ある態様としては1~9の標識部と結合した、ある態様としては4~23の標識部と結合した、ある態様としては4~16の標識部と結合した、ある態様としては4~10の標識部と結合した、ある態様としては4~9の標識部と結合した、ある態様としては3~23の標識部と結合した、ある態様としては3~16の標識部と結合した、ある態様としては3~10の標識部と結合した、ある態様としては3~9の標識部と結合した、抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメントである。ある態様としては、更に金属を含む、1つ以上の標識部と結合した抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメントである。
【0069】
本発明の医薬組成物に含まれる複合体は、1以上の標識部と、抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントを含む複合体である。ある態様としては、1~27の標識部と結合した、ある態様としては、1~23の標識部と結合した、ある態様としては1~15の標識部と結合した、ある態様としては1~11の標識部と結合した、ある態様としては1~9の標識部と結合した、ある態様としては1~7の標識部と結合した、ある態様としては1~5の標識部と結合した、更に、ある態様としては1~4の標識部と結合した、抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントである。ある態様としては、更に金属を含む、1つ以上の標識部と結合した抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントである。
【0070】
なお、本発明の医薬組成物に含まれる標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体は、特に記載がない限りフリー体及びその塩も包含する。ここで「その塩」とは、その複合体の置換基の種類によって、酸付加塩又は塩基との塩を形成する場合があり、その化合物及び複合体が形成しうる塩である。具体的には、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、乳酸、リンゴ酸、マンデル酸、酒石酸、ジベンゾイル酒石酸、ジトルオイル酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸等の有機酸との酸付加塩、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム等の無機塩基、メチルアミン、エチルアミン、エタノールアミン、リシン、オルニチン等の有機塩基との塩、アセチルロイシン等の各種アミノ酸及びアミノ酸誘導体との塩及びアンモニウム塩等が挙げられる。例えば、DFOは、デフェロキサミンメタンスルホン酸塩としても存在し、他の塩としても存在する。
【0071】
本発明の医薬組成物における標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体の濃度は、診断上又は治療上有効な作用を発揮する量であれば特に制限されないが、好ましくは1~100mg/mLであり、より好ましくは5~20mg/mLである。
【0072】
1-4.緩衝剤
本発明の医薬組成物における緩衝剤は、後述の範囲にpHを維持し、配位子への金属放射性同位元素の配位効率への影響を抑えるという観点から、クエン酸、リン酸、2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エタンスルホン酸、又はトリスヒドロキシメチルアミノメタンを用いることができる。また、本発明の医薬組成物における緩衝剤の濃度は、緩衝剤の種類と目的のpHに応じて変動するが、10~30mmol/Lであることが好ましい。
【0073】
ある態様では、本発明の医薬組成物における緩衝剤はクエン酸であり、その濃度は10~30mmol/L、好ましくは15~25mmol/Lである。また、ある態様では、本発明の医薬組成物における緩衝剤はリン酸であり、その濃度は10~30mmol/L、好ましくは15~25mmol/Lである。
【0074】
1-5.安定化剤
本発明の医薬組成物における安定化剤は、保存時における熱ストレス、光ストレス又は振盪ストレス等による多量体、酸性側電荷類縁体、又は不溶性微粒子の発生を抑制しつつ、かつ配位子への金属放射性同位元素の配位効率の低下や蛍光色素の退色も抑制するという観点から、スクロース又はグリセリンを用いることができる。また、本発明の医薬組成物における安定化剤の濃度は、用いる安定化剤の種類に応じて変動するが、5~30w/v%であることが好ましい。
【0075】
ある態様では、本発明の医薬組成物における安定化剤はスクロースであり、その濃度は5~30w/v%、好ましくは15~25w/v%である。また、ある態様では、本発明の医薬組成物における緩衝剤はグリセリンであり、その濃度は5~30w/v%、好ましくは15~25w/v%である。
【0076】
1-6.非イオン性界面活性剤
本発明の医薬組成物では、非イオン性界面活性剤を用いることができる。本発明の医薬組成物において非イオン性界面活性剤は、不溶性微粒子の発生を抑制しつつ、かつ配位子への金属放射性同位元素の配位効率の低下や蛍光色素の退色も抑制するという観点から、ポリソルベート80、ポリソルベート20、ポリソルベート60、ポロキサマー188を用いることができる。なお、ポリソルベート80は、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンオレイン酸エステルとも呼ばれ、無水ソルビトールの水酸基の一部をオレイン酸でエステル化したもののポリオキシエチレンエーテルであり、モノオレイン酸ソルビタン1モルに対して約20モルの酸化エチレン基がエーテル結合した構造を有するものである。また、本発明の医薬組成物における非イオン性界面活性剤の濃度は、その種類に応じて変動するが、0.02~0.2w/v%であることが好ましい。
【0077】
ある態様では、本発明の医薬組成物における非イオン性界面活性剤はポリソルベート80であり、その濃度は0.02~0.2w/v%、好ましくは0.04~0.1w/v%である。
【0078】
1-7.pH
本発明の医薬組成物では、保存時における熱ストレス、光ストレス又は振盪ストレス等による多量体、酸性側電荷類縁体、又は不溶性微粒子の発生を抑制しつつ、かつ配位子への金属放射性同位元素の配位効率の低下や蛍光色素の退色も抑制するという観点から、pHは6.5~7.5であり、より好ましくは6.5~7.0である。
【0079】
ある態様では、本発明の医薬組成物は、標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体として前述の抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメント複合体又は抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントを5~20mg/mLの濃度で含み、緩衝剤として15~25mmol/Lのクエン酸を含み、安定化剤として15~25w/v%のスクロースを含み、非イオン性界面活性剤として0.04~0.1w/v%のポリソルベート80を含み、pHが6.5~7.0であることが好ましい。
【0080】
1-8.診断に用いる医薬組成物
本発明は、ある態様では、標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体を含む、診断に用いる医薬組成物に関する。本発明の医薬組成物に含まれる標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体が、標識部として配位子を含む場合、金属放射性同位元素(例えば、89Zr)を配位させることで、検出可能な複合体となる。また、本発明の医薬組成物に含まれる標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体が、標識部として蛍光色素を含む場合、当該複合体が検出可能な複合体である。これらの検出可能な複合体は、早期診断薬、病期診断薬又は術中診断薬(特に癌の診断薬)として利用することできる。術中診断薬とは、外科手術や内視鏡手術等の手術中に、病変部を特定し、その性質を検査することが可能な診断薬を意味する。本発明の診断に用いる医薬組成物を術中診断薬として使用する場合、当該診断に用いる医薬組成物は、例えば手術の2~32時間前、ある態様としては6~24時間前、また別の態様としては2時間前、に患者に投与される。
【0081】
早期診断薬とは、病状が観察されない、又は病期の早い段階で診断を行うことを目的とする診断薬を意味する。例えば、癌においては、病状が観察されないか、ステージ0又はステージ1の段階で用いる診断薬を意味する。
【0082】
病期診断薬とは、病状がどの程度進行しているかを検査することが可能な診断薬を意味する。例えば、癌については、そのステージを検査することが可能な診断薬を意味する。
【0083】
本発明の医薬組成物が標識部-抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメント複合体を含む場合、ヒトCEACAM5を発現する癌の診断に使用できる。ある態様では、本発明の医薬組成物が標識部-抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメント複合体を含む場合、大腸癌、乳癌、肺癌、甲状腺癌、又はこれらが転移した癌の診断に使用することが好ましく、特に大腸癌又は大腸癌が転移した癌の診断に使用することが好ましい。大腸癌が転移した癌は特に限定されないが、例えば、転移性肝癌が挙げられる。
【0084】
本発明の医薬組成物が標識部-抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメント複合体を含む場合、ヒトMUC1を発現する癌の診断に使用できる。ある態様では、本発明の医薬組成物が標識部-抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメント複合体を含む場合、乳癌、肺癌、大腸癌、膀胱癌、皮膚癌、甲状腺癌、胃癌、膵臓癌、腎臓癌、卵巣癌、又は子宮頚癌の診断に使用でき、特に乳癌又は膀胱癌の診断に使用することが好ましい。
【0085】
1-9.医薬組成物の剤形・添加物
本発明の医薬組成物の剤形は特に限定されないが、ある態様では、液体製剤、凍結製剤、又は凍結乾燥製剤である。また、本発明の医薬組成物は、例えば、注射剤や点滴用剤等の非経口剤として用いることができ、静脈内注射、標的局所への筋肉内注射、又は皮下注射等により投与することが好ましい。本発明の医薬組成物における検出可能な標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体の用量は、患者の年齢や体重、使用する製剤の剤型、あるいはFabフラグメントの結合力価等により異なるが、例えば、患者の単位体重あたりFabフラグメントの質量ベースで0.001mg/kgないし100mg/kg程度を用いればよい。
【0086】
本発明の医薬組成物には、所望により、懸濁剤、溶解補助剤、等張化剤、保存剤、吸着防止剤、賦形剤、無痛化剤、含硫還元剤、酸化防止剤等の医薬品添加物を適宜添加することができる。
懸濁剤としては、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、アラビアゴム、トラガント末、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート等を挙げることができる。
溶解補助剤としては、例えば、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ニコチン酸アミド、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、マグロゴール、ヒマシ油脂肪酸エチルエステル等を挙げることができる。
等張化剤としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム等を挙げることができる。
保存剤としては、例えば、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、ソルビン酸、フェノール、クレゾール、クロロクレゾール、ベンジルアルコール等を挙げることができる。
吸着防止剤としては、例えば、ヒト血清アルブミン、レシチン、デキストラン、エチレンオキサイド・プロピレンオキサイド共重合体、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリエチレングリコール等を挙げることができる。
賦形剤としては、例えば、キシリトール等を挙げることができる。
無痛化剤としては、例えば、イノシトール、リドカイン等を挙げることができる。
含硫還元剤としては、例えば、N-アセチルシステイン、N-アセチルホモシステイン、チオクト酸、チオジグリコール、チオエタノールアミン、チオグリセロール、チオソルビトール、チオグリコール酸及びその塩、チオ硫酸ナトリウム、グルタチオン、炭素原子数1~7のチオアルカン酸等のスルフヒドリル基を有するもの等を挙げることができる。
酸化防止剤としては、例えば、エリソルビン酸、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、α-トコフェロール、酢酸トコフェロール、L-アスコルビン酸及びその塩、L-アスコルビン酸パルミテート、L-アスコルビン酸ステアレート、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、没食子酸トリアミル、没食子酸プロピル、あるいはエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA)、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム等のキレート剤を挙げることができる。
【0087】
2.診断に用いる医薬組成物の使用・診断方法
本発明はまた、癌の早期診断に用いる医薬組成物、病期診断に用いる医薬組成物又は術中診断に用いる医薬組成物の製造のための、標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体の使用に関する。本発明は、ある態様では、癌の早期診断、病期診断又は術中診断において使用するための、標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体を含む医薬組成物である。
【0088】
本発明は、標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体を含む医薬組成物を、手術前又は手術中に対象に投与することを含む癌の診断方法にも関する。ここにおいて、「対象」とは、その診断を受けることを必要とするヒト又はその他の哺乳動物であり、ある態様としては、その診断を受けることを必要とするヒトである。前記診断方法における標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体を含む本発明の医薬組成物の有効量は、患者の年齢や体重、使用する製剤の剤型、あるいはFabフラグメントの結合力価等により異なるが、例えば、患者の単位体重あたりFabフラグメントの質量ベースで0.001mg/kgないし100mg/kg程度を用いればよい。前記診断方法において、標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体を含む本発明の医薬組成物は、標的組織局所への筋肉内注射、又は皮下注射等により投与することが好ましい。前記診断方法において、本発明の医薬組成物を手術前に投与する場合、当該複合体は、例えば手術の2~48時間前、ある態様としては6~24時間前、また別の態様としては2時間前、に患者に投与される。
【0089】
別の実施形態において、本発明は、本発明の医薬組成物の製造のための、標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体の使用にも関する。
【0090】
3.標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体を含む医薬組成物の製造方法、標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体を安定に保存する方法
ある態様では、本発明は、標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体を含む医薬組成物の製造方法に関するものである。具体的には、本発明は、ある態様では、(a)標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体を製造し、配合する工程、(b)クエン酸、リン酸、2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エタンスルホン酸、又はトリスヒドロキシメチルアミノメタンを緩衝剤として配合する工程、(c)スクロース又はグリセリンを安定化剤として配合する工程、(d)ポリソルベート80を非イオン性界面活性剤として配合する工程、及び(e)pHを6.5~7.5に調整する工程、を含む、標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体を含む医薬組成物の製造方法である。なお、配合の順番は特に限定されない。
【0091】
また、ある態様では、本発明は、標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体を安定に保存する方法に関するものである。本明細書において「安定に保存する」とは、標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体の保存時における多量体や不溶性微粒子の発生を抑制することをいう。また、ある態様では、本明細書において「安定に保存する」は、配位子への金属放射性同位元素の配位効率の低下や蛍光色素の退色を抑制することも含む概念である。具体的には、本発明は、ある態様では、(a)標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体を含む溶液に対して、クエン酸、リン酸、2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エタンスルホン酸、又はトリスヒドロキシメチルアミノメタンを緩衝剤として配合する工程、(b)標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体を含む溶液に対して、スクロース又はグリセリンを安定化剤として配合する工程、(c)標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体を含む溶液に対して、ポリソルベート80を非イオン性界面活性剤として配合する工程、及び(d)標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体を含む溶液のpHを6.5~7.5に調整する工程、を含む、標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体を安定に保存する方法である。なお、配合の順番は特に限定されない。
【0092】
前述の製造方法及び安定に保存する方法において、抗ヒト抗体Fabフラグメントや標識部の構造や、標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体の構造等については、前述の「1.医薬組成物」の項に記載した通りである。また、緩衝剤、安定化剤及び非イオン性界面活性剤の濃度範囲やpHの範囲等についても、前述の「1.医薬組成物」の項に記載した通りである。また、前記工程はいずれの順序で行ってもよい。
【0093】
また、前述の製造方法及び方法において、標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体が標識部として配位子を含む場合、ある態様では、金属放射性同位元素を配位させる工程を含めることができる。なお、金属放射性同位元素の種類等についても、前述の「1.医薬組成物」の項に記載した通りである。
【0094】
さらに、前述の製造方法及び方法において、ある態様では、凍結させる工程や凍結乾燥する工程を含めることができる。なお、凍結方法や凍結乾燥方法については、公知の方法を用いることができる。
【0095】
4.標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体の製造方法
4-1.抗ヒト抗体Fabフラグメントをコードするポリヌクレオチド
抗ヒト抗体Fabフラグメントをコードするポリヌクレオチドには、本発明の医薬組成物に含まれる複合体が抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメントを含む場合、ある態様では、当該抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメントの重鎖フラグメントをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び当該抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメントの軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドが含まれる。
【0096】
ある実施形態において、前記当該抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメントをコードするポリヌクレオチドは、配列番号2のアミノ酸番号1から121に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖フラグメントをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、又は配列番号4のアミノ酸番号1から112に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドである。
【0097】
配列番号2のアミノ酸番号1から121に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖フラグメントをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドとしては、例えば、配列番号1の塩基番号1から363までの塩基配列を含むポリヌクレオチドが挙げられる。また、配列番号4のアミノ酸番号1から112までのアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドとしては、例えば、配列番号3の塩基番号1から336までの塩基配列を含むポリヌクレオチドが挙げられる。
【0098】
好ましい実施形態において、前記当該抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメントをコードするポリヌクレオチドは、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる重鎖フラグメントをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、又は配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドである。
【0099】
配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる重鎖フラグメントをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドとしては、例えば、配列番号1に示される塩基配列を含むポリヌクレオチドが挙げられる。配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドとしては、例えば、配列番号3に示される塩基配列を含むポリヌクレオチドが挙げられる。
【0100】
抗ヒト抗体Fabフラグメントをコードするポリヌクレオチドには、本発明の医薬組成物に含まれる複合体が抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントを含む場合、ある態様では、当該抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントの重鎖フラグメントをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び当該抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントの軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドが含まれる。
【0101】
ある態様において、前記当該抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントをコードするポリヌクレオチドは、配列番号12に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖フラグメントをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、又は配列番号14に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖フラグメントコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドである。
【0102】
配列番号12に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖フラグメントをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドとしては、例えば、配列番号11に示される塩基配列を含むポリヌクレオチドが挙げられる。配列番号14に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖フラグメントをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドとしては、例えば、配列番号13に示される塩基配列を含むポリヌクレオチドが挙げられる。
【0103】
好ましい実施形態において、前記当該抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントをコードするポリヌクレオチドは、配列番号6に示されるアミノ酸配列からなる重鎖フラグメントをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、又は配列番号8に示されるアミノ酸配列からなる重鎖フラグメントをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドである。
【0104】
配列番号6に示されるアミノ酸配列からなる重鎖フラグメントをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドとしては、例えば、配列番号5に示される塩基配列を含むポリヌクレオチドが挙げられる。配列番号8に示されるアミノ酸配列からなる重鎖フラグメントをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドとしては、例えば、配列番号7に示される塩基配列を含むポリヌクレオチドが挙げられる。
【0105】
ある実施形態において、前記当該抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントをコードするポリヌクレオチドは、配列番号16に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドである。
【0106】
配列番号16に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドとしては、例えば、配列番号15に示される塩基配列を含むポリヌクレオチドが挙げられる。
【0107】
好ましい実施形態において、前記当該抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントをコードするポリヌクレオチドは、配列番号10に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドである。
【0108】
配列番号10に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドとしては、例えば、配列番号9に示される塩基配列を含むポリヌクレオチドが挙げられる。
【0109】
本発明の医薬組成物に含まれる抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメントをコードするポリヌクレオチドは、前記抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメント又は前記抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントの重鎖フラグメント及び軽鎖のアミノ酸配列に基づいてデザインされた塩基配列に基づき、当該技術分野で公知の遺伝子合成方法を利用して合成することが可能である。このような遺伝子合成方法としては、国際公開第90/07861号に記載の抗体遺伝子の合成方法等の当業者に公知の種々の方法が使用され得る。
【0110】
4-2.抗ヒト抗体Fabフラグメントをコードするポリヌクレオチドの発現ベクター
本発明の医薬組成物に含まれる複合体中の抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメントをコードするポリヌクレオチドの発現ベクターには、前記抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメントの重鎖フラグメントをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクター、前記抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメントの軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクター、並びに前記抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメントの重鎖フラグメントをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド及び前記抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメントの軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターが含まれる。
【0111】
好ましい発現ベクターとしては、配列番号2のアミノ酸番号1から121に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖フラグメントをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクター、配列番号4のアミノ酸番号1から112に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクター、並びに配列番号2のアミノ酸番号1から121に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖フラグメントをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド及び配列番号4のアミノ酸番号1から112に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターが含まれる。
【0112】
より好ましい本発明の医薬組成物に含まれる抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメントをコードする発現ベクターには、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる重鎖フラグメントをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクター、配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクター、並びに配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる重鎖フラグメントをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターが含まれる。
【0113】
本発明の医薬組成物に含まれる複合体中の抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントをコードするポリヌクレオチドの発現ベクターには、前記抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントの重鎖フラグメントをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクター、前記抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントの軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクター、並びに前記抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントの重鎖フラグメントをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド及び前記抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントの軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターが含まれる。
【0114】
好ましい発現ベクターとしては、配列番号12又は配列番号14に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクター、配列番号16に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクター、並びに配列番号12又は配列番号14に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド及び配列番号16に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターが含まれる。
【0115】
より好ましい発現ベクターとしては、配列番号6又は配列番号8に示されるアミノ酸配列からなる重鎖フラグメントをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクター、配列番号10に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクター、並びに配列番号6又は配列番号8に示されるアミノ酸配列からなる重鎖フラグメントをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド及び配列番号10に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターが含まれる。
【0116】
これらの発現ベクターは、原核細胞及び/又は真核細胞の各種の宿主細胞中において前記ポリヌクレオチドでコードされるポリペプチドを産生できるものであれば特に制限されない。このような発現ベクターとしては、例えば、プラスミドベクター、ウイルスベクター(例えば、アデノウイルス、レトロウイルス)等を挙げられ、好ましくは、pEE6.4やpEE12.4(Lonza社)を使用することができる。
【0117】
これらの発現ベクターは、本発明の医薬組成物に含まれる抗ヒト抗Fabフラグメントをコードするポリヌクレオチドの重鎖フラグメント及び/又は軽鎖をコードする遺伝子に機能可能に連結されたプロモーターを含み得る。宿主細胞中で本発明の医薬組成物に含まれるFabフラグメントを発現させるためのプロモーターとしては、宿主細胞がエシェリキア属菌の場合、例えば、Trpプロモーター、lacプロモーター、recAプロモーター、λPLプロモーター、lppプロモーター、tacプロモーター等が挙げられる。酵母中での発現用プロモーターとしては、例えば、PH05プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーター等が挙げられ、バチルス属菌での発現用プロモーターとしては、SL01プロモーター、SP02プロモーター、penPプロモーター等が挙げられる。また、宿主が哺乳動物細胞等の真核細胞である場合、CMV、RSV、SV40などのウイルス由来のプロモーター、レトロウイルスのプロモーター、アクチンプロモーター、EF(elongation factor)1αプロモーター、ヒートショックプロモーター等が挙げられる。
【0118】
これらの発現ベクターは、宿主細胞として細菌、特に大腸菌を用いる場合、開始コドン、終止コドン、ターミネーター領域、及び複製可能単位をさらに含み得る。一方、宿主として酵母、動物細胞又は昆虫細胞を用いる場合、本発明の医薬組成物に含まれる抗ヒト抗Fabフラグメントをコードする発現ベクターは、開始コドン、及び終止コドンを含み得る。また、この場合、エンハンサー配列、本発明の医薬組成物に含まれる重鎖フラグメント及び/又は軽鎖をコードする遺伝子の5’側及び3’側の非翻訳領域、分泌シグナル配列、スプライシング接合部、ポリアデニレーション部位、又は複製可能単位などを含んでいてもよい。また、目的に応じて通常用いられる選択マーカー(例えば、テトラサイクリン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子)を含んでいてもよい。
【0119】
4-3.発現ベクターで形質転換される宿主細胞
抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメントをコードするポリヌクレオチドの前記発現ベクターで形質転換された宿主細胞には、以下の(a)~(d)からなる群より選択される発現ベクターで形質転換された宿主細胞が含まれる。
(a)本発明の医薬組成物に含まれる抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメントの重鎖フラグメントをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;
(b)本発明の医薬組成物に含まれる抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメントの軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;
(c)本発明の医薬組成物に含まれる抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメントの重鎖フラグメントをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド及び本発明の医薬組成物に含まれる抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメントの軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;並びに
(d)本発明の医薬組成物に含まれる抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメントの重鎖フラグメントをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクター及び本発明の医薬組成物に含まれる抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメントの軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞。
【0120】
1つの実施形態において、抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメントをコードするポリヌクレオチドの前記発現ベクターで形質転換された宿主細胞は、以下の(a)~(d)からなる群より選択される宿主細胞である:
(a)配列番号2のアミノ酸番号1から121に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖フラグメントをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;
(b)配列番号4のアミノ酸番号1から112に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;
(c)配列番号2のアミノ酸番号1から121に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖フラグメントをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド及び配列番号4のアミノ酸番号1から112に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;並びに
(d)配列番号2のアミノ酸番号1から121に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖フラグメントをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクター及び配列番号4のアミノ酸番号1から112に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞。
【0121】
1つの実施形態において、抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメントをコードするポリヌクレオチドの前記発現ベクターで形質転換された宿主細胞は、以下の(a)~(d)からなる群より選択される宿主細胞である:
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる重鎖フラグメントをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;
(b)配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;
(c)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる重鎖フラグメントをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;並びに
(d)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる重鎖フラグメントをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクター及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞。
【0122】
また、抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントをコードするポリヌクレオチドの前記発現ベクターで形質転換された宿主細胞には、以下の(a)~(d)からなる群より選択される発現ベクターで形質転換された宿主細胞が含まれる。
(a)本発明の医薬組成物に含まれる抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントの重鎖フラグメントをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;
(b)本発明の医薬組成物に含まれる抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントの軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;
(c)本発明の医薬組成物に含まれる抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントの重鎖フラグメントをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド及び本発明の医薬組成物に含まれる抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントの軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;並びに
(d)本発明の医薬組成物に含まれる抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントの重鎖フラグメントをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクター及び本発明の医薬組成物に含まれる抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントの軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞。
【0123】
1つの実施形態において、抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントをコードするポリヌクレオチドの前記発現ベクターで形質転換された宿主細胞は、以下の(a)~(d)からなる群より選択される宿主細胞である:
(a)配列番号12又は配列番号14に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖フラグメントをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;
(b)配列番号16に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;
(c)配列番号12又は配列番号14に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖フラグメントをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド及び配列番号16に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;並びに
(d)配列番号12又は配列番号14に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖フラグメントをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクター及び配列番号16に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞。
【0124】
1つの実施形態において、抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントをコードするポリヌクレオチドの前記発現ベクターで形質転換された宿主細胞は、以下の(a)~(d)からなる群より選択される宿主細胞である:
(a)配列番号6又は配列番号8に示されるアミノ酸配列からなる重鎖フラグメントをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;
(b)配列番号10に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;
(c)配列番号6又は配列番号8に示されるアミノ酸配列からなる重鎖フラグメントをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド及び配列番号10に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;並びに
(d)配列番号6又は配列番号8に示されるアミノ酸配列からなる重鎖フラグメントをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクター及び配列番号10に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞。
【0125】
形質転換する宿主細胞としては、使用する発現ベクターに適合し、該発現ベクターで形質転換されて、Fabフラグメントを発現しうるものであれば特に限定されず、本発明の技術分野において通常使用される天然細胞又は人工的に樹立された細胞など種々の細胞(例えば、細菌(エシェリキア属菌、バチルス属菌)、酵母(サッカロマイセス属、ピキア属等)、動物細胞又は昆虫細胞(例えば、Sf9)等)、哺乳動物細胞株(例えば、CHOK1SV細胞、CHO-DG44細胞、293細胞等の培養細胞)が例示される。形質転換自体は、例えば、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法等、公知の方法により行われ得る。
【0126】
4-4.抗ヒト抗体Fabフラグメントの製造方法
前記抗ヒト抗体Fabフラグメントの製造方法、好ましくは抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメント又は抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントの製造方法は、形質転換された前記宿主細胞を培養し、抗ヒト抗体Fabフラグメントを発現させる工程を包含する。
【0127】
抗ヒト抗体Fabフラグメントの製造方法において、形質転換された宿主細胞は、栄養培地中で培養され得る。栄養培地は、形質転換された宿主細胞の生育に必要な炭素源、無機窒素源もしくは有機窒素源のような栄養源を含んでいることが好ましい。炭素源としては、例えば、グルコース、デキストラン、可溶性デンプン、ショ糖等が、無機窒素源もしくは有機窒素源としては、例えば、アンモニウム塩類、硝酸塩類、アミノ酸、コーンスチープ・リカー、ペプトン、カゼイン、肉エキス、大豆粕、バレイショ抽出液等が例示される。また所望により他の栄養素(例えば、無機塩(例えば、塩化カルシウム、リン酸二水素ナトリウム、塩化マグネシウム)、ビタミン類、抗生物質(例えば、テトラサイクリン、ネオマイシン、アンピシリン、カナマイシン等)等)を含んでいてもよい。
【0128】
形質転換された宿主細胞の培養自体は、公知の方法により行われる。培養条件、例えば、温度、培地のpH、及び培養時間は、適宜選択される。例えば、宿主が動物細胞の場合、培地としては、約5~20%の胎児牛血清を含むMEM培地(Science;1952;122:501)、DMEM培地(Virology;1959;8:396-397)、RPMI1640培地(J.Am.Med.Assoc.;1967;199:519-524)、199培地(Proc.Soc.Exp.Biol.Med.;1950;73:1-8)等を用いることができる。培地のpHは約6~8であるのが好ましく、培養は通常約30~40℃で約15~336時間行われ、必要により通気や撹拌を行うこともできる。宿主が昆虫細胞の場合、例えば、胎児牛血清を含むGrace’s培地(PNAS;1985;82:8404-8408)等が挙げられ、そのpHは約5~8であるのが好ましい。培養は通常約20~40℃で15~100時間行なわれ、必要により通気や撹拌を行うこともできる。宿主が細菌、放線菌、酵母、糸状菌である場合、例えば、上記栄養源を含有する液体培地が適当である。好ましくは、pHが5~8である培地である。宿主がE.coliの場合、好ましい培地としてLB培地、M9培地(Millerら、Exp.Mol.Genet,Cold Spring Harbor Laboratory;1972:431)等が例示される。かかる場合、培養は、必要により通気、撹拌しながら、通常14~43℃、約3~24時間行うことができる。宿主がBacillus属菌の場合、必要により通気、撹拌をしながら、通常30~40℃、約16~96時間行うことができる。宿主が酵母である場合、培地として、例えば、Burkholder最小培地(PNAS;1980;77:4505-4508)が挙げられ、pHは5~8であることが望ましい。培養は通常約20~35℃で約14~144時間行なわれ、必要により通気や撹拌を行うこともできる。
【0129】
前記抗ヒト抗体Fabフラグメントの製造方法は、形質転換された前記宿主細胞を培養し、抗ヒト抗体Fabフラグメントを発現させる工程に加えて、発現させた抗ヒト抗体Fabフラグメントを回収、好ましくは単離、精製する工程を含むことができる。単離、精製方法としては、例えば、塩析、溶媒沈澱法等の溶解度を利用する方法、透析、限外濾過、ゲル濾過、ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動等分子量の差を利用する方法、イオン交換クロマトグラフィーやハイドロキシルアパタイトクロマトグラフィー等の荷電を利用する方法、アフィニティークロマトグラフィー等の特異的親和性を利用する方法、逆相高速液体クロマトグラフィー等の疎水性の差を利用する方法、等電点電気泳動等の等電点の差を利用する方法等が挙げられる。
【0130】
4-5.標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体の製造方法
本発明の医薬組成物に含まれる標識部-抗ヒト抗体Fabフラグメント複合体の製造方法は、前記抗ヒト抗体Fabフラグメントを標識部と共有結合させる工程を含む。当該複合体を製造する方法はまた、形質転換された前記宿主細胞を培養し、抗ヒト抗体Fabフラグメントを発現させる工程、及び、当該Fabフラグメントと標識部とを共有結合させる工程を含んでいてもよい。当該複合体を製造する方法はまた、形質転換された前記宿主細胞を培養し、抗ヒト抗体Fabフラグメントを発現させる工程、発現させた当該Fabフラグメントを回収する工程、及び、当該Fabフラグメントと標識部とを共有結合させる工程を含んでいてもよい。使用されるリンカー、配位子、又は蛍光色素等は、「1.医薬組成物」の項に記載のものを使用することができる。
【0131】
ある態様としては、当該複合体を製造する方法は、形質転換された前記宿主細胞を培養し、抗ヒト抗体Fabフラグメントを発現させる工程、及び、当該Fabフラグメントを配位子とリンカーを介して結合させる工程を含む方法である。ある態様としては、当該複合体を製造する方法は、形質転換された前記宿主細胞を培養し、抗ヒト抗体Fabフラグメントを発現させる工程、発現させた当該Fabフラグメントを回収する工程、及び、当該Fabフラグメントを配位子とリンカーを介して結合させる工程を含む方法である。
【0132】
ある態様としては、当該複合体を製造する方法は、形質転換された前記宿主細胞を培養し、抗ヒト抗体Fabフラグメントを発現させる工程、及び、当該Fabフラグメントをi)配位子とリンカーを介して結合させる又はii)配位子と直接共有結合させる工程を含む方法である。ある態様としては、当該複合体を製造する方法は、形質転換された前記宿主細胞を培養し、抗ヒト抗体Fabフラグメントを発現させる工程、発現させた当該Fabフラグメントを回収する工程、及び、当該Fabフラグメントをi)配位子とリンカーを介して結合させる又はii)配位子と直接共有結合させる工程を含む方法である。
【0133】
ある態様としては、当該複合体を製造する方法は、形質転換された前記宿主細胞を培養し、抗ヒト抗体Fabフラグメントを発現させる工程、及び、当該Fabフラグメントをi)蛍光色素とリンカーを介して結合させる又はii)蛍光色素と直接共有結合させる工程を含む方法である。ある態様としては、当該複合体を製造する方法は、形質転換された前記宿主細胞を培養し、抗ヒト抗体Fabフラグメントを発現させる工程、発現させた当該Fabフラグメントを回収する工程、及び、当該Fabフラグメントをi)蛍光色素とリンカーを介して結合させる又はii)蛍光色素と直接共有結合させる工程を含む方法である。
【0134】
本発明について全般的に記載したが、さらに理解を得るために参照する特定の実施例をここに提供する。しかし、これらは例示目的とするものであって、本発明を限定するものではない。
【実施例
【0135】
実験1-1:抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメントの作製
マウス由来の抗ヒトCEACAM5抗体であるT84.66を文献(Protein Eng.Des.Sel.;2004;17:481-489)に記載の方法を参考にしてヒト化後、文献(Proteins: Structure, Function, and Bioinformatics;2014;82:1624-1635)に準じて構築したヒト化抗体の分子モデルを用いて、標識部を結合させても親和性が減弱しないことが期待される可変領域を有する抗体を設計した。
【0136】
前記抗体の重鎖フラグメント遺伝子(配列番号1)の5’側にシグナル配列(MEWSWVFLFFLSVTTGVHS(配列番号17))をコードする遺伝子を繋げ、この重鎖フラグメント遺伝子をGSベクターpEE6.4(Lonza社)に挿入した。また、抗体の軽鎖遺伝子(配列番号3)の5’側にシグナル配列(MSVPTQVLGLLLLWLTDARC(配列番号18))をコードする遺伝子を繋げ、この軽鎖遺伝子をGSベクターpEE12.4(Lonza社)に挿入した。抗体の重鎖フラグメントと軽鎖の遺伝子がそれぞれ挿入された前述のpEEベクターをNotIとPvuIで制限酵素切断し、ライゲーション用キットTAKARA Ligation Kit Ver2.1(Takara社)を用いてライゲーションを行い、重鎖フラグメントと軽鎖の両遺伝子が挿入されたGSベクターを構築した。
【0137】
前述の重鎖フラグメントと軽鎖の両遺伝子が挿入されたGSベクターを用いて、一過性発現及び恒常的発現の2種類の方法で抗体発現を行った。一過性発現については、Expi293 Expression Medium(Thermo Fisher Scintific社)で約300万個/mLに培養されたExpi293F細胞(Thermo Fisher Scientific社)に対し、前述の重鎖フラグメントと軽鎖の両遺伝子が挿入されたGSベクターをExpiFectamine 293 Transfection Kit(Thermo Fisher Scientific社)を用いてトランスフェクトし、5~7日間培養した。培養上清をKappaSelect(GEヘルスケア・ジャパン社)を用いて精製し、Fabフラグメントを得た。恒常的発現については、CHOK1SV細胞(Lonza社)にPvuIで直鎖にした前述の重鎖フラグメントと軽鎖の両遺伝子が挿入されたGSベクターをGene Pulser(Bio-Rad社)を用いたエレクトロポレーション法にてトランスフェクトした。トランスフェクト翌日にメチオニンスルホキシミンを添加し、5~7日間培養した。メチルセルロース含有半固形培地に細胞を播種し、コロニー形成後にClonePix FL(Molecular Devices社)を用いてFabフラグメントの発現量が多い細胞を取得した。当該細胞の培養上清をCapto L(GEヘルスケア・ジャパン社)、Q Sepharose Fast Flow(GEヘルスケア・ジャパン社)、及び、BioPro S75(ワイエムシィ社)を用いて精製し、Fabフラグメントを得た。
【0138】
作製した抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメント(PB009-1と称する。)の重鎖フラグメントをコードする塩基配列を配列番号1に、それによりコードされるアミノ酸配列を配列番号2に、PB009-1の軽鎖をコードする塩基配列を配列番号3に、それによりコードされるアミノ酸配列を配列番号4にそれぞれ示す。PB009-1の重鎖可変領域は、配列番号2のアミノ酸番号1から121までのアミノ酸配列からなり、重鎖のCDR1、CDR2、CDR3は、それぞれ配列番号2のアミノ酸番号31から35、50から66、99から110までのアミノ酸配列からなる。PB009-1の軽鎖可変領域は、配列番号4のアミノ酸番号1から112までのアミノ酸配列からなり、軽鎖のCDR1、CDR2、CDR3は、それぞれ配列番号4のアミノ酸番号24から38、54から60、93から101までのアミノ酸配列からなる。
【0139】
なお、可変領域及びCDR配列はKabat番号付けに従って決定した(Kabatら;1991;Sequences of Proteins of Immunological Interest、 5th Ed.、 United States PublicHealth Service、 National Institute of Health、 Bethesda)。
【0140】
実験1-2:抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメントのキレート剤標識化
キレート剤であるDFOの抗ヒトCEACAM5抗体FabフラグメントPB009-1への結合には、p-SCN-Bn-DFO(p-イソチオシアノフェニルアミノチオカルボニル基置換DFO)(Macrocyclics社)を使用した。リン酸緩衝生理食塩水(pH7.4)にて1mg/mLに調製したFabフラグメント溶液に、1/5量の0.1M炭酸ナトリウム溶液(pH9.0)を添加した。これに終濃度1mg/mLとなるようにp-SCN-Bn-DFOを添加し、37℃で1時間半反応させた。反応後、アミコンウルトラ3K-0.5mL遠心式フィルター(メルクミリポア社)を用いて、DFOがリンカー(-C(=S)-NH-(1,4-フェニレン)-NH-C(=S)-)を介して結合したDFO-抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメント複合体(PB009-2と称する。)を精製した。
【0141】
PB009-2について、質量分析でDFOから構成される配位子の結合数を確認した。PB009-2を、MassPREP Micro Desalting Column(Waters社)を用いて脱塩し、SYNAPT G2質量分析計(Waters社)を用いて測定を実施した。その結果、1個のPB009-1にDFOから構成される配位子が少なくとも3個から10個結合した分子が確認された。
【0142】
実験1-3:DFO-抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメント複合体の安定化に及ぼすpHの影響の検討(多量体生成及び酸性側電荷類縁体生成への影響)
PB009-2を含む液剤について、pHがPB009-2の安定化に及ぼす影響を評価した。本試験では、PB009-2を含む液剤に対して、PB009-2の最終濃度が10mg/mLとなるように緩衝剤及び非イオン性界面活性剤を配合し、表1に示す試料A-1~A-6を調製した。なお、pHは塩酸又は水酸化ナトリウムを適量添加して調整した。各試料は、ポアサイズ0.22μmのフィルターで無菌ろ過し、ガラスバイアル(3mL容量)に1.2mLずつ充填して、ゴム栓で打栓後、アルミニウムキャップを被せ巻き締めして調製した。
【0143】
【表1】
【0144】
液剤の安定性を評価するために、各試料の正置状態における熱安定性試験を行った。熱安定性試験では、25℃1週間保管後におけるPB009-2の安定性を、サイズ排除クロマトグラフ法(SE-HPLC法)によって測定される多量体量、及び画像化キャピラリー等電点電気泳動法(icIEF法)によって測定される酸性側電荷類縁体量に基づいて評価した。分析条件は以下の通りである。
【0145】
[サイズ排除クロマトグラフ法(SE-HPLC法)]
SE-HPLC測定は、HPLCシステムに、G3000SWXL(TOSOH社)を接続し、20mmol/Lリン酸/400mmol/L塩化ナトリウムpH7.0の組成をもつ移動相を0.5mL/分の流量で流した。試料はPB009-2換算で50μgとなる注入量(例:5mg/mLの場合は10μL)とした。カラム温度は30℃、試料温度は5℃に設定し、検出はUV280nmで実施した。
【0146】
[画像化キャピラリー等電点電気泳動法(icIEF法)]
icIEF測定は、iCE3システムに、cIEF Cartridge(Protein Simple社)を接続し、測定を行った。尿素、メチルセルロース、Pharmalyte3-10、pIマーカー5.12、pIマーカー9.77から成るサンプルマトリックス188μLと、超純水でPB009-2濃度5mg/mLに希釈したサンプル12μLを混和し、測定試料とした。Prefocusingは1500Vで1分、Focusingは3000Vで6分実施した。
【0147】
SE-HPLC測定後、検出された多量体の面積を自動分析法により測定し、多量体の量(%)を求めた。多量体量(%)については、SE-HPLC法で検出された多量体ピークの総面積を自動分析法により測定し、メインピークを含む全ピーク面積の総和で除することにより、百分率(%)として規定した。ここでメインピークとは、活性本体(多量体化されていないPB009-2)のピークを指す。
【0148】
icIEF法で検出された酸性側電荷類縁体の面積を自動分析法により測定し、酸性側電荷類縁体の量(%)を求めた。酸性側電荷類縁体量(%)については、icIEF法で検出された酸性側電荷類縁体ピークの総面積を自動分析法により測定し、メインピークを含む全ピーク面積の総和で除することにより、百分率(%)として規定される。ここでメインピークとは、活性本体(類縁化されていないPB009-2)のピークを指す。
【0149】
本実験で得られたSE-HPLC法及びicIEF法による評価結果を、表2に示す。その結果、25℃1週間保管後におけるSE-HPLC多量体量(%)は、pHが低いほど増加傾向にあり、pH7.0付近で最小となった。また、25℃1週間保管後における酸性側電荷類縁体量(%)は、pHが低いほど減少傾向となった。以上の結果を総合的に判断し、安定性の観点から、PB009-2を含む液剤のpHは7.0付近が最適であると確認された。
【0150】
【表2】
【0151】
実験1-4:DFO-抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメント複合体の安定化に及ぼす安定化剤、非イオン性界面活性剤の影響の検討(多量体生成及び酸性側電荷類縁体生成への影響)
PB009-2を含む液剤について、各種安定化剤又は非イオン性界面活性剤がPB009-2の安定性に及ぼす影響を評価した。本試験では、PB009-2を含む液剤に対して、PB009-2の最終濃度が10mg/mLとなるように緩衝剤及び添加剤を配合し、表3に示す試料B-1~B-10を調製した。なお、pHは塩酸又は水酸化ナトリウムを適量添加し調整した。各試料は、ポアサイズ0.22μmのフィルターで無菌ろ過し、ガラスバイアル(3mL容量)に1.2mLずつ充填して、ゴム栓で打栓後、アルミニウムキャップを被せ巻き締めして調製した。
【0152】
【表3】
【0153】
液剤の安定性を評価するために、各試料の正置状態における熱安定性試験を行った。熱安定性試験では、25℃1週間保管後におけるPB009-2の安定性を、SE-HPLC法によって測定される多量体量、及びicIEF法によって測定される酸性側電荷類縁体量に基づいて評価した。SE-HPLC法の実験法は以下の通りである。
【0154】
[サイズ排除クロマトグラフ法(SE-HPLC法)]
SE-HPLC測定は、HPLCシステムに、AdvanceBio SEC 300Aカラム(Agilent社)を接続し、20mmol/Lリン酸/400mmol/L塩化ナトリウムpH7.0の組成をもつ移動相を0.5mL/分の流量で流した。試料はPB009-2換算で50μgとなる注入量(例:5mg/mLの場合は10μL)とした。カラム温度は30℃、試料温度は5℃に設定し、検出はUV280nmで実施した。
【0155】
SE-HPLC測定後、検出された多量体の面積を自動分析法により測定し、多量体の量(%)を求めた。多量体量(%)については、SE-HPLC法で検出された多量体ピークの総面積を自動分析法により測定し、メインピークを含む全ピーク面積の総和で除することにより、百分率(%)として規定した。ここでメインピークとは、活性本体(多量体化されていないPB009-2)のピークを指す。
【0156】
icIEF法の分析条件は実験1-3と同じである。
【0157】
本実験で得られたSE-HPLC法、及びicIEF法による評価結果を表4に示す。まず、25℃1週間保管後におけるSE-HPLC多量体量(%)は、ヒスチジン、スクロース、及びグリセリン添加試料において増加抑制傾向にあった。また、25℃1週間保管後における酸性側電荷類縁体量(%)は、ヒスチジン、アスパラギン酸添加試料において増加が認められた。以上の結果を総合的に判断し、安定性の観点から、スクロース又はグリセリンがPB009-2を含む液剤の安定化剤として望ましいことが確認された。
【0158】
【表4】
【0159】
実験1-5:DFO-抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメント複合体の安定化に及ぼす界面活性剤の影響の検討(不溶性微粒子生成への影響)
PB009-2を10mg/mL含み、20mmol/Lクエン酸、pH7.0とした処方の液剤について、界面活性剤であるポリソルベート80を0~0.6w/v%の範囲で含有する試料を調製した(試料No.C-1~C-7:表5参照)。なお、pHは塩酸又は水酸化ナトリウムを適量添加し調整した。各試料は、ポアサイズ0.22μmのフィルターで無菌ろ過し、ガラスバイアル(3mL容量)に1.2mLずつ充填して、ゴム栓で打栓後、アルミニウムキャップを被せ巻き締めして調製した。
【0160】
【表5】
【0161】
各試料について、振盪後及び凍結融解後における不溶性微粒子数を、光遮蔽粒子計数法を用いて測定した。振盪試験は、試料を150rpmで24時間振盪させることによって行った。また、凍結融解試験は、試料を-80℃で4時間以上かけて凍結させ、その後5℃で4時間以上かけて融解させるというプロセスを計3回実施することによって行った。光遮蔽粒子計数法の分析条件は以下の通りである。
【0162】
[光遮蔽粒子計数法]
サンプル0.2mLをHIACシステム(Pacific Scientific社)に注入し、試料1mL中に含まれる粒径1.2μm以上の不溶性微粒子の粒子数の測定を実施した。
【0163】
本実験で得られた光遮蔽粒子計数法による評価結果を表6に示す。振盪及び凍結融解によって不溶性微粒子数は増加するが、ポリソルベート80を0.02w/v%以上の濃度で添加することでその増加が抑制されることが示された。そして、PB009-2を含む液剤に0.05w/v%のポリソルベート80を加えることが不溶性微粒子の生成を抑制する観点で望ましいことが確認された。
【0164】
【表6】
【0165】
実験1-6:DFO-抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメント複合体の安定化のための至適pH選定
PB009-2を10mg/mL含み、20mmol/Lクエン酸、又は20mmol/L HEPES(2-[4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazine]ethanesulfonic acid)を緩衝剤として、10w/v%スクロースを安定化剤として、及び0.05w/v%ポリソルベート80を非イオン性界面活性剤として含む処方(試料No.D-1~D-8)について、pH6.1~7.9の範囲で試料を調製した。なお、pHは塩酸又は水酸化ナトリウムを適量添加し調整した。各試料は、ポアサイズ0.22μmのフィルターで無菌ろ過し、ガラスバイアル(3mL容量)に1.2mLずつ充填して、ゴム栓で打栓後、アルミニウムキャップを被せ巻き締めして調製した。その後、各試料について正置状態での25℃1週間保管後のPB009-2の安定性を、SE-HPLC法によって測定される多量体量に基づいて評価した。SE-HPLC法は実験1-4と同様にして行った。
【0166】
本実験で得られたSE-HPLC法による評価結果を表7に示す。25℃1週間保管後におけるSE-HPLC多量体量(%)は、低pH及び高pH試料のどちらにおいても増加傾向にあり、pH6.7付近で最も小さくなった。従って、pH6.7が至適pHであり、至適pHを適切に維持する緩衝剤として20mmol/Lクエン酸が特に好ましいことが判明した。
【0167】
【表7】
【0168】
実験1-7:DFO-抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメント複合体の安定化のための安定化剤濃度の最適化検討
PB009-2を10mg/mL含み、20mmol/Lクエン酸、0.05w/v%ポリソルベート80、pH6.7とした処方の液剤(試料No.E-1~E-5)について、スクロース又はグリセリンを0~20w/v%の範囲で含有する試料を調製した。試料は、各処方組成に調製後、0.22μmのフィルターで無菌ろ過し、ガラスバイアル(3mL容量)に1.2mLずつ充填して、ゴム栓で打栓後、アルミニウムキャップを被せ巻き締めして調製した。なお、所定のpHとなるよう、必要に応じてpH調整剤として、緩衝液調製時に塩酸及び/又は水酸化ナトリウムを添加した。その後、各試料について正置状態での25℃1週間保管後のPB009-2の安定性を、SE-HPLC法によって測定される多量体量に基づいて評価した。SE-HPLC法は実験1-4と同様にして行った。
【0169】
本実験で得られたSE-HPLC法による評価結果を表8に示す。その結果、25℃1週間保管後では、スクロース又はグリセリンの添加濃度の増加に伴ってSE-HPLC多量体量(%)の生成が抑制されることが確認された。また、スクロースとグリセリンでは安定性に及ぼす影響に差は認められなかった。以上の結果を踏まえると、浸透圧比の観点より10w/v%スクロースがPB009-2を含む液剤のための医薬品添加剤として特に好ましいことが判明した。
【0170】
【表8】
【0171】
実験1-8:DFO-抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメント複合体を含む安定化溶液製剤における 89 Zr標識化の検討
PB009-2を10mg/mL含む、下記表9に記載の処方の液剤において、-80℃保管後における89Zrによる標識効率を評価した。
89Zrは1Mシュウ酸水溶液に溶解した89Zr-Oxalateとして国立大学法人岡山大学自然生命科学研究支援センター 光・放射線情報解析部門鹿田施設にて製造したものを使用し、40μLの89Zr-Oxalateを20μLの2M炭酸ナトリウム水溶液で中和し、190μLの超純水で希釈した。続いて、0.05w/v%ポリソルベート80、10w/v%スクロース又は30w/v%グリセリン、及び20mmol/Lクエン酸を含むPB009-2(10mg/mL)液剤を150μL添加し、室温で30分間反応させた。得られた反応混合物は、アミコンウルトラ-0.5mL遠心式フィルター(Merck Millipore社)を用いて精製することで目的のPB009-2の89Zr標識体を得た。この89Zr-DFO-抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメント複合体をPB009-3と称する。精製前後のPB009-3溶液をTLC(thin-layer chromatography)及びSE-HPLC法によって測定することで、89Zrの反応率を確認した。分析条件は以下の通りである。
【0172】
TLCはTLCアルミニウムシート(Merck社、1-05560-0001)にサンプルを少量塗布し、展開液として0.1M EDTA溶液(pH7.0)を用いて実施した。89Zrの反応率は以下のように算出した。
(原点付近の放射線量a)/(全体の放射線量b)×100
【0173】
[サイズ排除クロマトグラフ法(SE-HPLC法)]
SE-HPLC測定は、HPLCシステムに、G3000SWXL(TOSOH社)を接続し、20mmol/Lリン酸/150mmol/L塩化ナトリウム/5%アセトニトリルpH7.0の組成をもつ移動相を0.5mL/分の流量で流した。カラム温度は30℃、検出はUV280nm及びRIで実施した。
【0174】
試験の結果、検討したどちらの処方も反応率(精製前)は90%前後と高い値を示し(表9)、UV検出器及びRI検出器で認められるPB009-3のピークとUV検出器で認められるPB009-2のピークを比較し、それぞれの保持時間が同等であったことからDFO-抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメント複合体が89Zrによって標識されていることを確認した。また、スクロース処方もグリセリン処方も、89Zr標識反応を阻害する懸念は小さいことが示された。
【0175】
【表9】
【0176】
実験1-9:DFO-抗ヒトCEACAM5抗体Fabフラグメント複合体を含む製剤における保管時の安定性の検討
PB009-2を含む液剤に対して、PB009-2の最終濃度が10mg/mLとなるようにクエン酸、スクロース及びポリソルベート80を配合し、表10に示す試料F-1を調製した。なお、pHは塩酸又は水酸化ナトリウムを適量添加し調整した。また、当該試料は、ポアサイズ0.22μmのフィルターで無菌ろ過し、ガラスバイアル(3mL容量)に1.2mLずつ充填して、ゴム栓で打栓後、アルミニウムキャップを被せ巻き締めして調製した。
【0177】
【表10】
【0178】
液剤の安定性を評価するために、各試料の正置状態における保管安定性試験を行った。保管安定性試験は、-20℃又は5℃で1~6ヵ月間保管後におけるPB009-2の安定性を、SE-HPLC法によって測定される多量体量に基づいて評価した。SE-HPLC法は実験1-4と同様に行った。
【0179】
本実験で得られたSE-HPLC法による評価結果を表11に示す。その結果、-20℃での保管において、少なくとも6ヵ月間の保管安定性に問題がないことが確認された。5℃での保管においては、1ヵ月間までの保管安定性が同時期の-20℃での保管安定性と同等であることが確認された。
【0180】
【表11】
【0181】
実験2-1:抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントの作製
P10-1 Fab及びP10-2 Fabと称する2種類の抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントを作製した。P10-1 Fab及びP10-2 Fabの重鎖可変領域及び軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、具体的には、マウス由来の抗ヒト癌特異的MUC1抗体である1B2抗体を文献(Front Biosci.; 2008 Jan 1;13:1619-33)に記載の方法を参考にしてヒト化後、文献(Proteins;2014 Aug;82(8):1624-35)に準じて構築したヒト化抗体の分子モデルを用いて、親和性の向上及び標識部を結合させても親和性が減弱しないことが期待される配列を設計した。
【0182】
P10-1 Fab及びP10-2 Fabの各重鎖フラグメント遺伝子(それぞれ配列番号5及び配列番号7)の5’側にシグナル配列(MEWSWVFLFFLSVTTGVHS(配列番号17))をコードする遺伝子を繋げてできる重鎖フラグメント遺伝子が挿入されたGSベクターpEE6.4(Lonza社)を作製した。また、P10-1 Fab及びP10-2 Fab共通の軽鎖遺伝子(配列番号9)の5’側にシグナル配列(MSVPTQVLGLLLLWLTDARC(配列番号18))をコードする遺伝子を繋げてできる軽鎖遺伝子が挿入されたGSベクターpEE12.4(Lonza社)を作製した。
【0183】
一過性発現の方法でFabフラグメントの発現を行った。Expi293 Expression Medium(Thermo Fisher Scientific社)で約250万個/mLに培養されたExpi293F細胞(Thermo Fisher Scientific社)に対し、前述の重鎖フラグメント及び軽鎖のGSベクターをExpiFectamine 293 Transfection Kit(Thermo Fisher Scientific社)を用いてトランスフェクトし、8日間培養した。発現させた後、培養上清をKappaSelect(GE Healthcare社)を用いて精製し、各Fabフラグメントを得た。
【0184】
P10-1 Fabの重鎖フラグメントの塩基配列を配列番号5に、それによりコードされるアミノ酸配列を配列番号6にそれぞれ示す。P10-1 Fabの重鎖可変領域の塩基配列を配列番号11に、それによりコードされるアミノ酸配列を配列番号12にそれぞれ示す。
【0185】
P10-2 Fabの重鎖フラグメントの塩基配列を配列番号7に、それによりコードされるアミノ酸配列を配列番号8にそれぞれ示す。P10-2 Fabの重鎖可変領域の塩基配列を配列番号13に、それによりコードされるアミノ酸配列を配列番号14にそれぞれ示す。
【0186】
P10-1 Fab及びP10-2 Fabの軽鎖は共通で、その塩基配列は配列番号9に、それによりコードされるアミノ酸配列は配列番号10にそれぞれ示す。P10-1 Fab及びP10-2 Fabの軽鎖可変領域の塩基配列を配列番号15に、それによりコードされるアミノ酸配列を配列番号16にそれぞれ示す。
【0187】
精製したP10-2 Fabのアミノ酸修飾を分析した結果、精製抗体の大部分において、重鎖N末端のグルタミンがピログルタミン酸に修飾されていることが示唆された。
【0188】
実験2-2:抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントのキレート剤標識化
キレート剤であるDFOの抗ヒトMUC1抗体FabフラグメントP10-2への結合には、p-SCN-Bn-DFO(p-イソチオシアノフェニルアミノチオカルボニル基置換DFO)(Macrocyclics社)を使用した。リン酸緩衝生理食塩水(pH7.4)にて12.5mg/mLに調整したFabフラグメント溶液に、10mmol/Lとなるように100mmol/L炭酸ナトリウム溶液を添加してpH9.0に整えた。これに終濃度1mmol/Lとなるようにp-SCN-Bn-DFOを添加し、37℃で2時間反応させた。p-SCN-Bn-DFOはイソチオシアネート基を有しているので、FabフラグメントのLysと速やかに反応する。これをアミコンウルトラ10K-0.5mL 遠心式フィルターで回収し、DFOがリンカー(-C(=S)-NH-(1,4-フェニレン)-NH-C(=S)-)を介して結合したDFO-抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメント複合体(PB010-3と称する。)を精製した。
【0189】
実験2-3:DFO-抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメント複合体の安定化に及ぼすpHの影響の検討(多量体生成及び不溶性微粒子生成への影響)
PB010-3を含む液剤について、pHがPB010-3の安定化に及ぼす影響を評価した。本試験では、PB010-3を含む液剤に対して、PB010-3の最終濃度が10mg/mLとなるように緩衝剤、安定化剤及び非イオン性界面活性剤を配合し、表12に示す試料G-1~G-6を調製した。pHは塩酸又は水酸化ナトリウムを適量添加し調整した。各試料は、ポアサイズ0.22μmのフィルターで無菌ろ過し、ガラスバイアル(3mL容量)に1.2mLずつ充填して、ゴム栓で打栓後、アルミニウムキャップを被せ巻き締めして調製した。
【0190】
【表12】
【0191】
液剤の安定性を評価するために、各試料の正置状態における熱安定性試験を行った。熱安定性試験は、40℃1週間保管後におけるPB010-3の安定性を、サイズ排除クロマトグラフ法(SE-HPLC法)によって測定される多量体量、及び光遮蔽粒子計数法によって測定される不溶性微粒子数に基づいて評価した。分析条件は以下の通りである。
【0192】
[SE-HPLC法]
SE-HPLC測定は、HPLCシステムに、BioSep SEC s3000(Phenomenex社)を接続し、PBS(pH7.4)を移動相として用い、0.5mL/分の流量で流した。試料はPB010-3換算で20μgとなる注入量(例:2mg/mLの場合は10μL)とした。カラム温度は30℃、試料温度は10℃に設定し、検出はUV280nmで実施した。
【0193】
[光遮蔽粒子計数法]
サンプル0.2 mLをHIACシステム(Pacific Scientific社)に注入し、1.2μm以上の不溶性微粒子数の測定を実施した。
【0194】
SE-HPLC法で検出された多量体の面積を自動分析法により測定し、多量体の量(%)を求めた。多量体量については、SE-HPLC法で検出された多量体ピークの面積を自動分析法により測定し、メインピークを含む全ピーク面積の総和で除することにより、百分率(%)として規定される。ここでメインピークとは、活性本体(多量体化されていないPB010-3)のピークを指す。
【0195】
本実験で得られたSE-HPLC法、光遮蔽粒子計数法による評価結果を表13に示す。その結果、40℃1週間保管後におけるSE-HPLC多量体量(%)は、pHが高いほど増加傾向となった。また、40℃1週間保管後における1.2μm以上の不溶性微粒子数はpHが低いほど増加傾向となった。以上の結果を総合的に判断し、安定性の観点から、PB010-3を含む液剤のpHは6.5~7.0付近が最適であると確認された。
【0196】
【表13】
【0197】
実験2-4:DFO-抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメント複合体の安定化に及ぼす安定化剤、非イオン性界面活性剤の影響の検討(多量体生成及び不溶性微粒子生成への影響)
PB010-3を含む液剤について、各種安定化剤がPB010-3の安定性に及ぼす影響を評価した。本検討では、PB010-3を含む液剤に対して、PB010-3の最終濃度が10mg/mLとなるように緩衝剤、安定化剤及び非イオン性界面活性剤を配合し、表14に示す試料H-1~H-4を調製した。なお、pHは塩酸又は水酸化ナトリウムを適量添加し調整した。各試料は、ポアサイズ0.22μmのフィルターで無菌ろ過し、ガラスバイアル(3mL容量)に1.2mLずつ充填して、ゴム栓で打栓後、アルミニウムキャップを被せ巻き締めして調製した。
【0198】
【表14】
【0199】
液剤の安定性を評価するために、各試料の保管試験及び振盪試験を行った。保管試験は、各試料を5℃及び-20℃条件下で静置保管することで行った。また、振盪試験は、試料を150rpmで24時間振盪させることで行った。各試験前後におけるPB010-3の安定性を、サイズ排除クロマトグラフ法(SE-HPLC法)によって測定される多量体量、及び光遮蔽粒子計数法によって測定される不溶性微粒子数に基づいて評価した。
分析条件は実験2-3と同じである。
【0200】
本実験で得られたSE-HPLC法、光遮蔽粒子計数法による評価結果を表15、表16に示す。その結果、ポリソルベート80を加えていない処方、及びポリソルベート80に加えてスクロース又はグリセリンを添加した処方では、5℃又は-20℃で3ヵ月保管した場合でも、多量体量の増加抑制効果が認められた。一方、ポリソルベート80を加えていない処方では、振盪試験後において、不溶性微粒子数の顕著な増加が認められた。以上の結果を踏まえ、ポリソルベート80に加えてスクロース又はグリセリンを添加した処方が望ましく、さらには浸透圧比の観点より10w/v%スクロースがPB010-3を含む液剤のための医薬品添加剤として特に好ましいことが判明した。
【0201】
【表15】
【0202】
【表16】
【0203】
実験2-5:DFO-抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメント複合体の安定化に及ぼす界面活性剤の影響の検討(不溶性微粒子生成への影響)
PB010-3を含む液剤について、界面活性剤がPB010-3の安定性に及ぼす影響を評価した。本試験では、PB010-3を含む液剤に対して、PB010-3の最終濃度が10mg/mLとなるように緩衝剤、安定化剤及び非イオン性界面活性剤を配合し、pHを調整して表17に示す試料I-1~I-4を調製した。なお、pHは塩酸又は水酸化ナトリウムを適量添加し調整した。各試料は、ポアサイズ0.22μmのフィルターで無菌ろ過し、ガラスバイアル(3mL容量)に1.2mLずつ充填して、ゴム栓で打栓後、アルミニウムキャップを被せ巻き締めして調製した。
【0204】
【表17】
【0205】
液剤の安定性を評価するために、各試料の振盪試験及び凍結融解試験を行った。振盪試験は、試料を150rpmで24時間振盪させて行った。凍結融解試験は、試料を-80℃で4時間以上かけて凍結し、その後、5℃で4時間以上かけて融解するというプロセスを計3回実施して行った。そして、各試験前後におけるPB010-3の安定性を、光遮蔽粒子計数法によって測定される不溶性微粒子数に基づいて評価した。分析条件は実験2-3と同じである。
【0206】
本実験で得られた光遮蔽粒子計数法による評価結果を、表18に示す。その結果、ポリソルベート80は0.02w/v%以上の濃度にすることで、振盪時及び凍結融解時の不溶性微粒子数増加抑制効果があることが確認された。
【0207】
【表18】
【0208】
実験2-6:DFO-抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメント複合体を含む安定化溶液製剤における 89 Zr標識化の検討
PB010-3を10mg/mL含む、下記表19に記載の処方の液剤において、-80℃保管後における89Zrによる標識効率を評価した。
89Zrは1Mシュウ酸水溶液に溶解した89Zr-Oxalateとして国立大学法人岡山大学自然生命科学研究支援センター 光・放射線情報解析部門鹿田施設にて製造したものを使用し、40μLの89Zr-Oxalateを20μLの2M炭酸ナトリウム水溶液で中和し、190μLの超純水で希釈した。続いて、0.05w/v%ポリソルベート80、10w/v%スクロース又は30w/v%グリセリン、及び20mmol/Lクエン酸を含むPB010-3(10mg/mL)液剤を150μL添加し、室温で60分間反応させた。得られた反応混合物を、アミコンウルトラ-0.5mL遠心式フィルター(Merck Millipore社)を用いて精製することで目的のPB010-3の89Zr標識体を得た。この89Zr標識したP10-2 Fab DFO(PB010-3)をPB010-4と称する。精製前後のPB010-4溶液をTLC(thin-layer chromatography)及びSE-HPLC法によって測定することで、89Zrの反応率を確認した。TLC及びSE-HPLC法の分析条件は実験1-8と同じである。
【0209】
試験の結果、検討したどちらの処方も反応率(精製前)は90%前後と高い値を示し(表19)、UV検出器及びRI検出器で認められるPB010-4のピークとUV検出器で認められるPB010-3のピークを比較し、それぞれの保持時間が同等であったことからPB010-3が89Zrによって標識されていることを確認した。検討を実施した処方は、どちらも89Zr標識反応を阻害する懸念は小さいことが示された。
【0210】
【表19】
【0211】
実験2-7:DFO-抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメント複合体を含む製剤における保管時の安定性の検討
PB010-3を含む液剤について、冷蔵及び冷凍保管時の安定性を評価した。本試験では、PB010-3を含む液剤に対して、PB010-3の最終濃度が10mg/mLとなるように緩衝剤、安定化剤及び非イオン性界面活性剤を配合し、表20に基づいて試料J-1を調製した。pHは塩酸又は水酸化ナトリウムを適量添加し調整した。各試料は、ポアサイズ0.22μmのフィルターで無菌ろ過し、ガラスバイアル(3mL容量)に1.2mLずつ充填して、ゴム栓で打栓後、アルミニウムキャップを被せ巻き締めして調製した。
【0212】
【表20】
【0213】
液剤の安定性を評価するために、各試料を5℃及び-20℃条件下で静置保管した。保管後のPB010-3の安定性を、SE-HPLC法によって測定される多量体量、逆相クロマトグラフ法(RP-HPLC法)によって測定されるフリーFab体量(%)、及び光遮蔽粒子計数法によって測定される不溶性微粒子数に基づいて評価した。分析条件は以下の通りである。
【0214】
[SE-HPLC法]
実験2-3と同じ条件で実施した。
【0215】
[RP-HPLC法]
RP-HPLC測定は、HPLCシステムに、Intrada WP-RP(Imtakt社)を接続し、測定を行った。移動相Aラインに0.1%TFA、移動相Bラインに0.1%TFA/アセトニトリルを接続し、下表に示す割合で1.0mL/分の流量で流した。試料はPB010-3換算で20μgとなる注入量(例:1mg/mLの場合は20μL)とし、表21のRP-HPLCグラジエントプログラムを適用した。カラム温度は60℃、試料温度は10℃に設定し、検出はUV214nmで実施した。
【表21】
【0216】
RP-HPLC法で検出された多量体の面積を自動分析法により測定し、フリーFab体量(%)を求めた。フリーFab体量については、RP-HPLC法で検出されたフリーFabフラグメントのピークの面積を自動分析法により測定し、メインピークを含む全ピーク面積の総和で除することにより、百分率(%)として規定される。ここでメインピークとは、活性本体のピークを指す。
【0217】
[光遮蔽粒子計数法]
実験2-3と同じ条件で実施した。
【0218】
本実験で得られたSE-HPLC法、RP-HPLC法、光遮蔽粒子計数法による評価結果を表22に示す。その結果、3ヵ月までの保管安定性に問題がないことが確認された。
【0219】
【表22】
【0220】
実験3-1:抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントの蛍光標識化
実験2-1で調製したP10-2 Fabに対して蛍光色素の導入を行った。具体的には、リン酸緩衝生理食塩水(pH7.4)にて約1mg/mLに調整したFabフラグメント溶液に、1/10量の1Mリン酸水素二カリウム溶液(pH9)を添加してpH8.5に整えた。これに終濃度310.8μg/mLとなるようにIRDye800CW NHS Ester(LI-COR Biosciences社)を添加し、室温及び遮光で2時間撹拌した。IRDye800CW NHS EsterはN-ヒドロキシスクシンイミド基を有しているので、FabフラグメントのLysと速やかに反応する。これをアミコンウルトラ3K-0.5mL 遠心式フィルター(Merck Millipore社)で回収し、IRDye800CW-抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメント複合体(PB010-2と称する。)を精製した。
【0221】
実験3-2:IRDye800CW-抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメント複合体の安定化に及ぼすpHの影響
PB010-2を含む液剤について、pHがPB010-2の安定化に及ぼす影響を評価した。本試験では、PB010-2の濃度を10mg/mLとし、表23に基づいて試料K-1~K-5を調製した。pHは塩酸又は水酸化ナトリウムを適量添加し調整した。各試料は、ポアサイズ0.22μmのフィルターで無菌ろ過し、ガラスバイアル(3mL容量)に1.2mLずつ充填して、ゴム栓で打栓後、アルミニウムキャップを被せ巻き締めして調製した。
【0222】
【表23】
【0223】
液剤の安定性を評価するために、各試料の正置状態における熱安定性試験を行った。熱安定性試験は、40℃1週間保管後におけるPB010-2の安定性を、サイズ排除クロマトグラフ法(SE-HPLC法)によって測定される多量体量、及びマイクロフローイメージング法によって測定される不溶性微粒子数より評価した。分析条件は以下の通りである。
【0224】
[サイズ排除クロマトグラフ法(SE-HPLC法)]
SE-HPLC測定は、HPLCシステムに、G2000SWXL(TOSOH社)を接続し、20mmol/Lリン酸/1000mmol/L塩化ナトリウムpH7.0の組成をもつ移動相を0.5mL/分の流量で流した。試料はPB010-2換算で50μgとなる注入量(例:5mg/mLの場合は10μL)とした。カラム温度は30℃、試料温度は5℃に設定し、検出はUV280nmで実施した。
【0225】
SE-HPLC法で検出された多量体の面積を自動分析法により測定し、多量体量(%)を求めた。多量体量については、SE-HPLC法で検出された多量体ピークの面積を自動分析法により測定し、メインピークを含む全ピーク面積の総和で除することにより、百分率(%)として規定される。ここでメインピークとは、活性本体のピークを指す。
【0226】
[マイクロフローイメージング法]
マイクロフローイメージングシステム(Protein Simple社)にサンプル650μLを注入し、試料1mL中に含まれる粒径1.2μm以上の不溶性微粒子の粒子数の測定を実施した。
【0227】
本試験で得られたSE-HPLC法、マイクロフローイメージング法による評価結果を表24に示す。その結果、40℃1週間保管後のSE-HPLC多量体は、pHが高いほど増加傾向となった。また、40℃1週間保管後における1.2μm以上の不溶性微粒子数は、pHが低いほど増加傾向となった。以上の結果を総合的に判断し、pH6.5~7.5付近が至適pHであると確認できた。
【0228】
【表24】
【0229】
実験3-3:IRDye800CW-抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメント複合体の安定化に及ぼす安定化剤、又は非イオン性界面活性剤の影響
PB010-2を含む液剤について、各種安定化剤がPB010-2の安定性に及ぼす影響を評価した。本試験では、PB010-2を含む液剤に対して、PB010-2の最終濃度が10mg/mLとなるように緩衝剤及び添加剤を配合し、表25に基づいて試料L-1~L-6を調製した。pHは塩酸又は水酸化ナトリウムを適量添加し調整した。各試料は、ポアサイズ0.22μmのフィルターで無菌ろ過し、ガラスバイアル(3mL容量)に1.2mLずつ充填して、ゴム栓で打栓後、アルミニウムキャップを被せ巻き締めして調製した。
【0230】
【表25】
【0231】
液剤の安定性を評価するために、各試料の振盪試験、凍結融解試験、熱安定性試験、及び光暴露試験を行った。振盪試験は、試料を150rpmで24時間振盪させて行った。凍結融解試験は、試料を-80℃で4時間以上かけて凍結し、その後、5℃で4時間以上かけて融解するというプロセスを計3回実施して行った。熱安定性試験は、試料を40℃で2週間保管して行った。光暴露試験は、試料を横置状態で保管し、白色蛍光ランプを用いて1000lxの光を96時間照射することにより行った。そして、各試験前後におけるPB010-2の安定性を、サイズ排除クロマトグラフ法(SE-HPLC法)によって測定される多量体量、逆相クロマトグラフ法(RP-HPLC法)によって測定されるDye Antibody Ratio、及びマイクロフローイメージング法によって測定される不溶性微粒子数に基づいて評価した。分析条件は以下の通りである。
【0232】
[サイズ排除クロマトグラフ法(SE-HPLC法)]
SE-HPLC測定は、HPLCシステムに、AdvanceBio SEC 300A(Agilent社)を接続し、20mmol/Lリン酸/1000mmol/L塩化ナトリウムpH7.0の組成をもつ移動相を0.5mL/分の流量で流した。試料はPB010-2換算で50μgとなる注入量(例:5mg/mLの場合は10μL)とした。カラム温度は30℃、試料温度は5℃に設定し、検出はUV280nmで実施した。
【0233】
SE-HPLC法で検出された多量体の面積を自動分析法により測定し、多量体量(%)を求めた。多量体量については、SE-HPLC法で検出された多量体ピークの面積を自動分析法により測定し、メインピークを含む全ピーク面積の総和で除することにより、百分率(%)として規定される。ここでメインピークとは、活性本体のピークを指す。
【0234】
[逆相クロマトグラフ法(RP-HPLC法)]
RP-HPLC測定は、HPLCシステムにIntrada WP-RP(Imtakt社)を接続し、測定を行った。移動相Aラインに0.1%トリフルオロ酢酸/水、移動相Bラインに0.1%トリフルオロ酢酸/アセトニトリルを接続し、1.0mL/minの流速で流した。試料はPB010-2換算で10μgとなる注入量(例:1mg/mLの場合は10μL)とし、表26のRP-HPLCグラジエントプログラムを適用した。分析時間は45分間、検出はUV波長280;780nmで実施した。カラム温度は75℃、試料温度は5℃に設定した。
【0235】
【表26】
【0236】
RP-HPLC法で検出されたUV波長780nmにおけるピークの総面積、UV波長280nmにおけるピークの総面積、PB010-1の吸光係数(1.42 mL/mg・cm-1)、PB010-1の分子量(47527.43)及びIRDye800CWのPBS中でのモル吸光係数(240000 mL/mmol・cm-1)を用いて、以下の計算式に適用することで、Dye Antibody Ratioを求めた。
【数1】
【0237】
[マイクロフローイメージング法]
マイクロフローイメージングシステム(Protein Simple社)にサンプル650μLを注入し、試料1mL中に含まれる粒径1.0μm以上の不溶性微粒子の粒子数の測定を実施した。
【0238】
本実験で得られたSE-HPLC法、RP-HPLC法、及びマイクロフローイメージング法による評価結果を表27~29に示す。アルギニン添加処方及びスクロース添加処方においては、40℃2週間保管後の多量体量の増加が抑制される傾向が認められた。また、アルギニン添加処方では、40℃2週間保管後、Dye Antibody Ratioの低下が認められた。さらに、塩化ナトリウム添加処方及び添加剤無添加処方においては、凍結融解後の不溶性微粒子数が他処方と比較して増加する傾向が認められた。以上の結果を総合的に判断し、安定性の観点から、スクロースがPB010-2を含む液剤の安定化剤及び等張化剤として望ましいことが確認された。
【0239】
【表27】
【0240】
【表28】
【0241】
【表29】
【0242】
実験3-4:IRDye800CW-抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメント複合体の安定化のための至適pH選定
PB010-2を含む液剤について、20mmol/Lクエン酸又は20mmol/Lリン酸を緩衝剤とした処方(試料No.M-1~M-10)について、pH6.6~7.4の範囲で試料を調製した。試料は、PB010-2最終濃度が10mg/mLであり、所定のpHとなるよう、必要に応じてpH調整剤として、緩衝液調製時に塩酸及び/又は水酸化ナトリウムを添加した。各試料は0.22μmのフィルターで無菌ろ過し、ガラスバイアル(3mL容量)に1.2mLずつ充填して、ゴム栓で打栓後、アルミニウムキャップを被せ巻き締めして調製した。各試料の振盪試験、凍結融解試験、熱安定性試験、及び光暴露試験後の安定性を、SE-HPLC法によって測定される多量体量及びRP-HPLCによって測定されるDye Antibody Ratioに基づいて評価した。なお、SE-HPLC法及びRP-HPLC法は実験3-3と同様にして測定した。
【0243】
結果を表30~31に示す。
多量体量及びDye Antibody Ratioの観点では、pHが低いほど安定(高pHでは熱・光ストレスにより不安定)となった。一方で、pH6.0に近づく程、溶解度低下による微粒子生成のリスクがある事から、pH6.8とすることが特に好ましいことが判明した。
【0244】
【表30】
【0245】
【表31】
【0246】
実験3-5:IRDye800CW-抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメント複合体の安定化に及ぼす緩衝剤及び界面活性剤の影響
PB010-2を含み、20mmol/Lクエン酸(pH6.8)又は20mmol/Lリン酸(pH6.8)、280mmol/Lスクロースを添加した処方に、界面活性剤であるポリソルベート80を0.05w/v%で添加した試料と添加していない試料(試料No.N-1~N-4)を調製した。PB010-2の最終濃度は10mg/mLとした。試料は、各処方組成に調製後、0.22μmのフィルターで無菌ろ過し、ガラスバイアル(3mL容量)に1.2mLずつ充填して、ゴム栓で打栓後、アルミニウムキャップを被せ巻き締めして調製した。なお、所定のpHとなるよう、必要に応じてpH調整剤として、緩衝液調製時に塩酸及び/又は水酸化ナトリウムを添加した。
【0247】
試料を-20℃あるいは5℃で1ヵ月保管し、また、熱安定性試験は、40℃で2週間又は25℃で1ヵ月間、正置状態で保管して行った。光暴露試験は、試料を横置状態で保管し、白色蛍光ランプを用いて1000lxの光を96時間照射することにより行った。そして、各試験前後におけるPB010-2の安定性を、SE-HPLC法によって測定される多量体量、マイクロフローイメージング法によって測定される不溶性微粒子数、及びSE-HPLC法によって測定される蛍光強度、Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay(ELISA)法によって測定される抗原結合活性に基づいて評価した。なお、SE-HPLC法及びマイクロフローイメージング法は実験3-3の方法に準じて測定した。蛍光強度については、検出されたメインピークの蛍光強度を下記の式に当てはめる事により、評価した。
【数2】
【0248】
[ELISA法]
hMUC-1(PEPTIDE INSTITUTE社)抗原を0.8nM含むリン酸緩衝液をアッセイプレートに添加し2-8℃で18時間処理した後、20% Blocking One(ナカライテスク社)及び0.05w/v%のTween-20を含むトリス緩衝生理食塩水(TBS)を用いて、抗原を固定した。PB010-2溶液を0-100000ng/mLの濃度範囲において5% Blocking One及び0.05w/v%のTween-20を含むTBSで段階希釈し、抗原が固定されたプレート上に添加した。プレートを25℃60分インキュベートしたのち、4000倍に希釈されたgoat anti-human Kappa-HRP(Southern Biotech社)をプレートに添加した。プレートを25℃60分インキュベートした後、ウォッシュを3回実施した。プレートに100 μL TMB+Substrate-Chromogen(Dako社)を添加後、25℃20分インキュベートし、1mol/L硫酸を添加することで反応を停止させた。その後、Spectra Max 190 (Molecular Devices社)を用いて450nmのUV吸収を評価することで、結合活性を評価した。なお、PB010-2標準品の活性を100%とし、相対結合活性として算出した。
【0249】
結果を表32~35に示す。
ポリソルベート80を添加した処方において、熱安定性試験及び光暴露試験後の不溶性微粒子の増加が抑制されたことから、非イオン性界面活性剤として0.05w/v%ポリソルベート80を用いることが特に好ましいことが判明した。また、クエン酸を添加した処方では、リン酸を添加した処方と比較して40℃保管後の多量体増加傾向が小さいことから、緩衝剤としてクエン酸を用いることが特に好ましいことが判明した。また、いずれの処方及び保管条件においても、抗原結合活性及び蛍光強度の低下は認められなかった。
【0250】
【表32】
【0251】
【表33】
【0252】
【表34】
【0253】
【表35】
【0254】
実験3-6:IRDye800CW-抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメント複合体を含む製剤における保管時の安定性の検討
20mmol/Lクエン酸を用いてpH6.8に調製した処方溶液に、PB010-2濃度が10mg/mL、スクロース濃度が280mmol/L、ポリソルベート80濃度が0.05w/v%となるように添加した表36に示す処方を調製し、0.22μmのフィルターで無菌ろ過し、ガラスバイアル(3mL容量)に1.2mLずつ充填した。試料は凍結乾燥を行い、ゴム栓で打栓後、アルミニウムキャップを被せ巻き締めた。その後,熱安定性試験後又は光暴露試験後におけるPB010-2の安定性を評価した。
【0255】
【表36】
【0256】
熱安定性試験は、試料を40℃で2週間、正置状態で保管することで行った。光暴露試験は、試料を横置状態で保管し、白色蛍光ランプを用いて1000lxの光を96時間照射することにより行った。そして、各試験前後におけるPB010-2の安定性を、SE-HPLC法によって測定される多量体量及び蛍光強度と,RP-HPLC法によって測定されるDye Antibody Ratioに基づいて評価した。なお、SE-HPLC法及びRP-HPLC法は実験3-3に準じて測定した。また、蛍光強度の評価は実験3-5と同様にして測定した。
【0257】
結果を表37~39に示すが、上記処方とすることで、40℃2週間保管後においても、光暴露後においても、PB010-2が安定に維持されることが示された。
【0258】
【表37】
【0259】
【表38】
【0260】
【表39】
【配列表フリーテキスト】
【0261】
配列番号1:PB009-1 Fab重鎖フラグメントをコードするDNAの塩基配列
配列番号2:PB009-1 Fab重鎖フラグメントのアミノ酸配列
配列番号3:PB009-1 Fab軽鎖をコードするDNAの塩基配列
配列番号4:PB009-1 Fab軽鎖のアミノ酸配列
配列番号5:P10-1 Fab重鎖フラグメントをコードするDNAの塩基配列
配列番号6:P10-1 Fab重鎖フラグメントのアミノ酸配列
配列番号7:P10-2 Fab重鎖フラグメントをコードするDNAの塩基配列
配列番号8:P10-2 Fab重鎖フラグメントのアミノ酸配列
配列番号9:P10-1 Fab及びP10-2 Fab軽鎖をコードするDNAの塩基配列
配列番号10:P10-1 Fab及びP10-2 Fab軽鎖のアミノ酸配列
配列番号11:P10-1 Fab重鎖可変領域をコードするDNAの塩基配列
配列番号12:P10-1 Fab重鎖可変領域のアミノ酸配列
配列番号13:P10-2 Fab重鎖可変領域をコードするDNAの塩基配列
配列番号14:P10-2 Fab重鎖可変領域のアミノ酸配列
配列番号15:P10-1 Fab及びP10-2 Fab軽鎖可変領域をコードするDNAの塩基配列
配列番号16:P10-1 Fab及びP10-2 Fab軽鎖可変領域のアミノ酸配列
配列番号17:PB009-1 Fab、P10-1 Fab及びP10-2 Fabのための重鎖シグナル配列
配列番号18:PB009-1 Fab、P10-1 Fab及びP10-2 Fabのための軽鎖シグナル配列
配列番号19:MUC1の細胞外ドメインのタンデムリピート配列
【配列表】
0007374544000001.app