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特許7374596玉軸受を含むクラッチスラスト軸受装置及び当該装置を含むドライブラインシステム
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  • 特許-玉軸受を含むクラッチスラスト軸受装置及び当該装置を含むドライブラインシステム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-27
(45)【発行日】2023-11-07
(54)【発明の名称】玉軸受を含むクラッチスラスト軸受装置及び当該装置を含むドライブラインシステム
(51)【国際特許分類】
   F16D 25/12 20060101AFI20231030BHJP
   F16C 33/78 20060101ALI20231030BHJP
   F16C 19/10 20060101ALI20231030BHJP
   F16C 33/38 20060101ALI20231030BHJP
   F16D 23/14 20060101ALI20231030BHJP
   F16C 33/58 20060101ALI20231030BHJP
   B60K 23/08 20060101ALI20231030BHJP
   F16D 25/08 20060101ALI20231030BHJP
【FI】
F16D25/12 A
F16C33/78 B
F16C19/10
F16C33/38
F16D23/14 A
F16C33/58
B60K23/08 C
F16D25/08 Z
【請求項の数】 8
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019041421
(22)【出願日】2019-03-07
(65)【公開番号】P2019158145
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2022-02-07
(31)【優先権主張番号】15/915,465
(32)【優先日】2018-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508282993
【氏名又は名称】アクティエボラゲット・エスコーエッフ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ブノワ・アルノー
(72)【発明者】
【氏名】ロバート・ディー・ペカク
(72)【発明者】
【氏名】トマ・ペロタン
(72)【発明者】
【氏名】プラモド・スリニヴァス
(72)【発明者】
【氏名】サミュエル・ヴィオー
【審査官】糟谷 瑛
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-166554(JP,A)
【文献】特開2009-269605(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 11/00-23/14
F16D 25/00-39/00
F16D 48/00-48/12
B60K 23/00-23/08
F16C 19/00-19/56
F16C 33/30-33/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定された内側リングと、回転可能な外側リングと、前記固定された内側リングと前記回転可能な外側リングとの間に配置されたレースウェイチャンバ内に配置された少なくとも一列の玉と、を有する玉軸受と、
略径方向部分を有するピストンであって、前記固定された内側リングが、前記略径方向部分と軸方向で当接している、ピストンと、
を備えるクラッチスラスト軸受装置であって、
前記ピストンが、前記略径方向部分の孔から軸方向に延在する軸方向部分をさらに設け、前記軸方向部分が、前記玉軸受の前記固定された内側リングの孔内に配置され、前記軸方向部分には、前記固定された内側リングと、前記回転可能な外側リングと、の間に延在する少なくとも1つの径方向外向き突出部が設けられており、
前記クラッチスラスト軸受装置が、底面と内側側壁と外側側壁とを有する環状キャビティを有するハウジングをさらに備え、前記ピストンが、前記底面と前記玉軸受との間で前記環状キャビティ内に配置され、前記ピストンの前記軸方向部分が、径方向において、前記固定された内側リングと、前記ハウジングの前記内側側壁と、の間に配置されており、
前記ピストンの前記略径方向部分が、前記環状キャビティの前記内側側壁と前記外側側壁との間で延在し、前記内側側壁及び前記外側側壁によりシールされ、内側シーリング手段が、前記ピストンの孔に設けられ、前記環状キャビティの前記内側側壁と滑り接触する少なくとも1つのシーリングリップを有し、外側シーリング手段が、前記ピストンの前記略径方向部分の外側に設けられ、前記環状キャビティの前記外側側壁と滑り接触する少なくとも1つのシーリングリップを有する
ことを特徴とするクラッチスラスト軸受装置。
【請求項2】
前記固定された内側リングが、前記玉のための内側レースウェイを形成する外側トロイダル面のトロイダル部分と、前記トロイダル部分から径方向外向きに延在する径方向部分と、を有し、前記径方向部分が、前記ピストンの前記径方向部分と軸方向で当接し、前記径方向外向き突出部が、前記固定された内側リングの自由縁部によって形成された軸方向面と協働することを特徴とする請求項1に記載のクラッチスラスト軸受装置。
【請求項3】
前記径方向外向き突出部が、前記固定された内側リングの自由縁部の前記軸方向面に軸方向で面する軸方向面を提供することを特徴とする請求項2に記載のクラッチスラスト軸受装置。
【請求項4】
前記玉軸受が、各玉を受ける複数のポケットと、軸方向において、前記固定された内側リングの前記トロイダル部分の自由縁部と前記回転可能な外側リングの径方向部分との間に配置されたヒールと、を有する環状ケージをさらに備え、前記環状ヒールが、環状凹部を備え、前記ピストンの前記径方向外向き突出部が、少なくとも部分的に前記環状凹部内に配置されていることを特徴とする請求項2に記載のクラッチスラスト軸受装置。
【請求項5】
前記径方向外向き突出部が、円錐台状リップであることを特徴とする請求項1に記載のクラッチスラスト軸受装置。
【請求項6】
前記径方向外向き突出部が、前記ピストンの前記軸方向部分上にオーバーモールドされたゴム材料から作られることを特徴とする請求項1に記載のクラッチスラスト軸受装置。
【請求項7】
自動車のドライブラインシステムであって、少なくとも1つの車輪を前記ドライブラインシステムと選択的に接続又は接続解除するために請求項1に記載のクラッチスラスト軸受装置を備えることを特徴とするドライブラインシステム。
【請求項8】
前記ドライブラインシステムが、前輪駆動軸及び前輪を含む前輪駆動システムと、後輪駆動軸、後輪駆動モジュール及び後輪を含む後輪駆動システムと、を備え、前記後輪駆動モジュールが、前記クラッチスラスト軸受装置と直列に設けられ、前記クラッチスラスト軸受装置が、それぞれ、前記後輪の1つと選択的に接続又は接続解除することが可能であることを特徴とする請求項7に記載のドライブラインシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上記軸受を含むクラッチスラスト軸受装置に関する。本発明は、特に、上記装置を含むドライブラインシステムであって、自動車の全輪駆動ドライブラインシステムに設けられた、ドライブラインシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のための全輪駆動ドライブラインシステムは、一般的に、二次又は後輪駆動軸に連結された一次前輪駆動軸を備えている。
【0003】
四輪車両の2つの車輪のみが、駆動輪として動作する場合、後輪駆動軸及び後輪を含む後輪駆動システムは、前輪駆動軸及び前輪を含む前輪駆動システムから接続解除されてもよい。さらに、自動車の動作モードに応じて、後輪の一方のみ又は双方を接続解除することが望ましい。
【0004】
このために、後輪駆動システムに後輪駆動モジュールを提供することが公知であり、後輪駆動モジュールが、クラッチスラスト装置を含み、前車軸と後車軸との間及び2つの車輪の間でトルクを分配する。クラッチスラスト装置は後輪駆動システムを接続解除することも可能であり、車輪がドライブラインと結合解除される。後輪駆動モジュールが、2つのクラッチを含み、クラッチのそれぞれが、ドライブラインから1つの後輪を接続解除することが可能であることも公知である。
【0005】
上記後輪駆動モジュールは、自動車が、オフロード機能及び高いオンロード性能、特に、効率的な安定性、効率的な動的動作及び低燃費を有することを可能にする。
【0006】
有利には、クラッチスラスト装置は、周知のマルチプレートタイプからなり、クラッチ軸受とハウジングとの間でキャビティ内に配置された、軸方向に移動可能なピストンを含み、ピストンキャビティは、ピストンを軸方向に移動させるためにキャビティ内に加圧流体を可変的に提供する液圧流体源に接続されている。クラッチスラスト装置は、クラッチ軸受に軸方向予荷重をかける弾性付勢部材をさらに含む。クラッチ軸受は、また、ピストンの移動によって軸方向に移動することが可能であり、そして、プレートに係合する連結部材を作動させる。複数のニードルを有するクラッチ軸受を使用することが公知である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特にモジュール内での摩擦トルクを制限することによって、上記後輪駆動モジュールの性能をさらに改善することが望ましく、特にクラッチ軸受において、車両燃費をさらに下げることが望ましい。
【0008】
本発明の目的は、特に自動車のドライブラインシステムの後輪駆動モジュールで使用するための、玉軸受を含むクラッチスラスト軸受装置であって、軸方向に移動可能なピストンから弾性付勢部材へ軸方向力を伝達することが可能であり、摩擦トルクが減少し、製造プロセスが容易かつ低コストである、クラッチスラスト軸受装置を提案することによって、これらの欠点を克服することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このために、本発明は、固定された内側リングと、回転可能な外側リングと、固定された内側リングと回転可能な外側リングとの間に規定されたレースウェイチャンバ内に配置された少なくとも一列の玉と、を有する玉軸受を備えるクラッチスラスト軸受装置に関する。
【0010】
装置は、略径方向部分を有するピストンをさらに備え、固定された内側リングが、略径方向部分と軸方向で当接している。
【0011】
本発明によれば、ピストンは、略径方向部分の孔から軸方向に延在する軸方向部分をさらに備え、軸方向部分は、玉軸受の固定された内側リングの孔内に配置されている。軸方向部分には、固定された内側リングと回転可能な外側リングとの間に延在する少なくとも1つの径方向外向き突出部が設けられている。
【0012】
有利であるが必須ではない、本発明のさらなる側面によれば、上記玉軸受は、以下の特徴の1つ以上を含んでもよい。
【0013】
クラッチスラスト軸受装置は、底面と内側側壁と外側側壁とを有する環状キャビティを有するハウジングを備え、ピストンが、底面と玉軸受との間でキャビティ内に配置され、ピストンの軸方向部分が、径方向において、固定された内側リングとハウジングの内側側壁との間に配置されている。
【0014】
ピストンの略径方向部分が、キャビティの内側側壁と外側側壁との間で延在し、内側側壁及び外側側壁によりシールされている。
【0015】
ピストンの孔が、キャビティの内側側壁と滑り接触する少なくとも1つのシーリングリップを有する内側シーリング手段を備えている。
【0016】
ピストンの本質的径方向部分が、略径方向部分の外側に設けられた外側シーリング手段を備え、外側シーリング手段が、キャビティの外側側壁と滑り接触する少なくとも1つのシーリングリップを有する。
【0017】
キャビティが、ピストンを軸方向に移動させるためにキャビティ内に加圧流体を可変的に提供する液圧流体源に接続されている。
【0018】
固定された内側リングが、玉のための内側レースウェイを形成する外側トロイダル面のトロイダル部分と、トロイダル部分から径方向外向きに延在する径方向部分と、を有し、径方向部分が、ピストンの本質的径方向部分と軸方向で当接している。
【0019】
径方向外向き突出部が、固定された内側リングの自由縁部によって形成された軸方向面と協働する。
【0020】
径方向外向き突出部が、固定された内側リングと協働し、リングが、軸方向においてピストン内でクランプされる。
【0021】
径方向外向き突出部が、固定された内側リングの縁部の軸方向面に軸方向で面する軸方向面を備えている。
【0022】
径方向外向き突出部が、円錐台状リップである。
【0023】
ピストンが、円錐台状リップを補強するために少なくとも1つの軸方向リブをさらに備えている。
【0024】
回転可能な外側リングが、玉のための外側レースウェイを形成する内側トロイダル面のトロイダル部分を有する。
【0025】
回転可能な外側リングが、トロイダル部分の内側から径方向内向きに延在する径方向部分をさらに備えている。
【0026】
玉軸受が、環状ヒールと、各玉を受ける複数のポケットと、を備える環状ケージをさらに備えている。
【0027】
ケージの環状ヒールが、軸方向において、固定された内側リングのトロイダル部分の自由縁部と、回転可能な外側リングの径方向部分と、の間に配置されている。
【0028】
環状ヒールが、環状凹部を備え、ピストンの径方向外向き突出部が、少なくとも部分的に凹部内に配置されている。
【0029】
内側リング及び外側リングが、鍛鋼から作られる。
【0030】
ピストンの軸方向部分が、管状である。
【0031】
径方向外向き突出部が、環状である。
【0032】
ピストンが、複数の径方向外向き突出部を備えている。
【0033】
径方向外向き突出部が、弾性変形可能な材料から作られる。
【0034】
径方向外向き突出部が、ゴム材料、例えばポリアミドから作られる。
【0035】
径方向外向き突出部が、ピストンの軸方向部分上にオーバーモールドされる。
【0036】
ピストンの径方向外向き突出部及び内側シーリング手段が、共通のオーバーモールドプロセスの間に同じ材料から形成される。
【0037】
本発明は、自動車のドライブラインシステムであって、少なくとも1つの車輪をドライブラインシステムと選択的に接続又は接続解除するために本発明による上記クラッチスラスト軸受装置を備えるドライブラインシステムにも関する。
【0038】
有利には、ドライブラインシステムが、前輪駆動軸及び前輪を含む前輪駆動システムと、後輪駆動軸、後輪駆動モジュール及び後輪を含む後輪駆動システムと、を備え、後輪駆動モジュールには、本発明によるクラッチスラスト軸受装置が直列に設けられ、クラッチスラスト軸受装置が、それぞれ、後輪の1つと選択的に接続又は接続解除することが可能である。
【0039】
本発明が、本発明の要旨を限定することなく、説明のための例として、添付の図面と対応してこれから説明される。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】本発明の第1実施形態によるクラッチスラスト軸受装置の軸方向断面図である。
図2図1の装置のためのピストンの斜視図である。
図3】本発明の第2実施形態によるクラッチスラスト軸受装置の軸方向断面図である。
図4図3の装置のためのピストンの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
クラッチスラスト軸受装置1は、有利には、図示されない自動車のドライブラインシステムに統合される。クラッチスラスト軸受装置1は、本質的に環状であり、中心軸に中心合わせされている。
【0042】
クラッチスラスト軸受装置1は、固定されたハウジング3及び玉軸受4を備え、固定されたハウジング3及び玉軸受4は、キャビティ5を規定し、キャビティ5内には、軸方向に移動可能なピストン6が配置されている。
【0043】
弾性付勢部材(図示せず)、例えば波形ばねが、玉軸受4に予荷重を付与してもよい。
【0044】
ハウジング3は、固定されており、有利には、ドライブラインシステムに設けられた後輪駆動モジュールの一部である。ハウジングは、中心軸に中心合わせされた環状キャビティ5を備えている。キャビティ5は、内側側壁7と外側側壁8と底面9との間に規定され、キャビティ5は、玉軸受4へ軸方向で開いている。
【0045】
玉軸受4は、環状であり、中心軸に中心合わせされている。玉軸受4は、少なくとも部分的にハウジング3のキャビティ5内に配置され、ピストン6は、軸方向において、キャビティ5の底面9と玉軸受4との間に介在している。キャビティ5の側壁7,8は、玉軸受4の側方ガイドを可能にする。
【0046】
玉軸受4は、固定された内側リング10と、回転可能な外側リング11と、リング10,11の間に規定されたレースウェイチャンバ13内に配置された一列の玉12と、を備えている。玉12は、周方向において等しく離間しており、ケージ13によって保持され、玉12のそれぞれは、環状ヒール15に周方向に設けられた対応するポケット14内に配置されている。図示された実施形態では、ヒール15が、軸方向において、固定された内側リング10のトロイダル部分20の自由縁部と、回転可能な外側リング11の径方向部分17と、の間に配置されている。リング10,11の間に転動要素として玉12が設けられた玉軸受4は、ローラ又はニードルが設けられた他のタイプの転がり軸受と比較して摩擦トルクが減少する。
【0047】
回転可能な外側リング11は、玉12のための外側レースウェイを形成する内側トロイダル面のトロイダル部分16を備える。
【0048】
有利には、回転可能な外側リング11は、トロイダル部分16の内側から径方向内向きに延在する径方向部分17をさらに備える。径方向部分17は、軸方向接触面18を有し、軸方向接触面18は、車両のドライブラインシステムに1つの車輪を接続するために、プレート(図示せず)と係合する連結部材(図示せず)を作動させることに適している。
【0049】
有利には、回転可能な外側リング11のトロイダル部分16には、フランジ19が設けられている。フランジ19は、トロイダル部分16を覆う管状外側部分と、転動チャンバ13内に玉12を維持する下向きの径方向突出部と、を有する。
【0050】
固定された内側リング10は、玉12のための内側レースウェイを形成する外側トロイダル面のトロイダル部分20と、トロイダル部分20から径方向外向きに延在する径方向部分21と、を備えている。径方向部分21は、軸方向に移動可能なピストン6と軸方向で当接する軸方向接触面22を有する。玉軸受4は、固定された内側リング10の軸方向接触面22へのピストン6の移動の伝達によって軸方向に移動するようセットされている。
【0051】
ピストン6は、環状であり、中心軸に中心合わせされており、ハウジング3のキャビティ5内に配置されている。ピストン6は、キャビティ5の2つの側壁7,8の間で径方向に延在する略径方向部分23を備える。有利には、ピストン6は、径方向部分23の内側孔に設けられた内側シーリング手段24をさらに備え、シーリング手段には、キャビティ5の内側側壁7と滑り接触するシーリングリップが設けられている。ピストン6は、径方向部分23の外側に設けられた外側シーリング手段25も備え、シーリング手段には、キャビティ5の外側側壁8と滑り接触するシーリングリップが設けられている。
【0052】
ピストン6、側壁7,8及び底面9は、シールキャビティ26を規定する。少なくとも1つのチャネル27が、シールキャビティ26を液圧流体源(図示せず)と接続するためにハウジング3を貫通して設けられ、液圧流体源は、ピストン6を軸方向に移動させるために、シールキャビティ26内に加圧流体を可変的に提供する。
【0053】
本実施形態では、ピストン6の略径方向部分23が、玉軸受4の固定された内側リング10に適合した形状を有する。略径方向部分23は、環状溝28を備え、固定された内側リング10の径方向部分21は、環状溝28内に配置され、接触面22は、溝28の底面と軸方向で当接する。あるいは、略径方向部分23は、いかなる他の適切な形状を有してもよい。
【0054】
本発明によれば、ピストン6は、略径方向部分23の孔から軸方向に延在する軸方向部分29をさらに備える。図1及び図2の本発明の図示した実施形態では、軸方向部分29は、管状である。あるいは、軸方向部分が分かれており、ピストンが複数の軸方向舌部を備えてもよい。
【0055】
軸方向部分29は、玉軸受4の固定された内側リング10の孔内で延在している。より正確には、軸方向部分29は、径方向において、固定された内側リング10のトロイダル部分20によって規定された孔と、ハウジング3に設けられたキャビティ5の内側側壁7と、の間に配置されている。固定された内側リング10は、径方向においてピストン6の軸方向部分29を囲んでいる。
【0056】
図1及び図2に図示されるように、軸方向部分29は、複数の径方向外向き突出部30を備えている。径方向外向き突出部30は、軸方向部分29のシリンダ状外面に設けられている。図示されない代替案として、ピストン6は、環状の径方向外向き突出部を備えてもよい。突出部30は、回転可能な外側リング11の径方向部分17と、固定された内側リング10のトロイダル部分20の自由縁部と、の間に延在している。
【0057】
突出部30は、略三角形形状からなり、固定された内側リング10のトロイダル部分20の自由縁部の軸方向面に面する軸方向面を提供する。突出部30と、固定された内側リング10と、は、ともに協働し、リング10は、軸方向においてピストン6内にクランプされる。リング10は、ピストン6によって軸方向及び径方向に保持されている。
【0058】
有利には、ケージ13の環状ヒール15は、環状凹部31を備え、ピストン6の径方向外向き突出部30は、少なくとも部分的に凹部31内に配置されている。上記ケージは、ピストンとともに取り付けられた玉軸受の軸方向長さを制限することを可能にする。
【0059】
有利な一実施形態によれば、径方向外向き突出部30は、塑性変形可能な材料、例えばゴム材料から作られ、ピストン6の軸方向部分29に固定される。そして、固定される内側リング10は、ピストン6内に容易に挿入することができ、径方向外向き突出部30は、内側リング10の挿入中に弾性変形される。
【0060】
径方向外向き突出部30は、好ましくは、ピストン6の軸方向部分29上にオーバーモールドされる。本実施形態では、径方向外向き突出部30とピストン6の内側シーリング手段24とは、共通のオーバーモールドプロセス中に同じ材料から形成される。上記ピストン6は、製造が比較的シンプルであり、周知の信頼性のある製造プロセスからなる。
【0061】
図3及び図4に図示された本発明の第2実施形態によれば、ピストン6の軸方向部分29は、円錐台状リップで構成される、環状の径方向外向き突出部32を備え、図3及び図4では、同じ要素は同じ参照符号を有する。
【0062】
円錐台状リップ32は、固定された内側リング10のトロイダル部分20の自由縁部の軸方向面に対して斜めに延在している。円錐台状リップ32は、ケージ13の環状ヒール15に設けられた環状凹部31内に配置されている。
【0063】
図4に図示されるように、ピストン6は、有利には、円錐台状リップ32を補強するために複数の軸方向リブ33をさらに備える。
【0064】
有利には、内側リング10及び外側リング11は、鍛鋼から作られる。リング10,11は、有利には、金属ブランクシートからプレス加工され、シンプルなかつコスト効率のよい構造からなる。クラッチスラスト軸受装置は、接続及び接続解除機能を確実にするために複雑な形状の追加的な1つ以上の要素を必要としない。また、ピストン6は、有利には、プレス加工された金属ブランクシートから作られ、シーリング手段24,25及び径方向外向き突出部30,32は、ゴム材料からピストン6にオーバーモールドされる。あるいは、ピストン6は、剛性プラスチック材料から作られてもよい。
【0065】
クラッチスラスト軸受装置1は、以下のように働く。
【0066】
ピストン6の軸方向移動は、玉軸受4に伝えられ、後輪駆動モジュールのドライブラインシステムへの接続/接続解除は、シールチャンバ26内に加圧流体を供給することによって作動される。
【0067】
加圧流体がハウジング3のチャネル27を通じてシールキャビティ26内に供給されると、ピストン6は流体により押される。ピストン6は、内側リング10の接触面22の仲介によって、玉軸受4に軸方向前方への運動を伝達する。外側リング11の接触面18は、プレート(図示せず)に係合する連結部材(図示せず)を作動させ、車両のドライブラインシステムに1つの車輪を接続する。弾性付勢部材(図示せず)は、外側リング11の仲介による、玉軸受4の軸方向前方への移動によって軸方向に圧縮される。
【0068】
加圧流体が、シールキャビティ26に供給されないと、弾性付勢部材は、軸方向後方へ移動させるように玉軸受4を押す。外側リング11の接触面18は、連結部材を作動させず、ドライブラインシステムと1つの車輪を接続解除する。ピストン6は、内側リング10の接触面22の仲介によって、その初期位置に押し戻され、シールチャンバ26内の流体は、チャネル27を通じて除去される。
【0069】
上記において、本発明の代表的かつ非限定的な例が、添付の図面を参照して詳細に説明された。この詳細な説明は、単に、当業者に本教示の好ましい態様を実施するためのさらなる細部を教示するよう意図されており、本発明の範囲を限定するよう意図されていない。さらに、上記で開示された追加的な特徴及び教示のそれぞれは、独立して利用されるか、又は改良された玉軸受を提供するために他の特徴及び教示と組み合わせて利用されてもよい。
【0070】
さらに、上述した代表的な例のさまざまな特徴、並びに以下のさまざまな独立請求項及び従属請求項は、本教示の追加的な有益な実施形態を提供するために、具体的かつ明確に列挙されていないように組み合わせられてもよい。
【符号の説明】
【0071】
1 クラッチスラスト軸受装置、3 ハウジング、4 玉軸受、5 環状キャビティ、6 ピストン、7 内側側壁、8 外側側壁、9 底面、10 内側リング、11 外側リング、12 玉、13 環状ケージ、13 レースウェイチャンバ、14 ポケット、15 ヒール、17 径方向部分、20 トロイダル部分、21 径方向部分、23 略径方向部分、24 内側シーリング手段、25 外側シーリング手段、29 軸方向部分、30,32 径方向外向き突出部、31 環状凹部
図1
図2
図3
図4