(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-27
(45)【発行日】2023-11-07
(54)【発明の名称】弾性波デバイス、フィルタおよびマルチプレクサ
(51)【国際特許分類】
H03H 9/25 20060101AFI20231030BHJP
H03H 9/145 20060101ALI20231030BHJP
H03H 9/64 20060101ALI20231030BHJP
H03H 9/72 20060101ALI20231030BHJP
【FI】
H03H9/25 D
H03H9/145 Z
H03H9/64 Z
H03H9/72
(21)【出願番号】P 2019125460
(22)【出願日】2019-07-04
【審査請求日】2022-06-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】柿田 直輝
(72)【発明者】
【氏名】月舘 均
【審査官】▲高▼橋 徳浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-211187(JP,A)
【文献】特開2018-014606(JP,A)
【文献】特開2018-061258(JP,A)
【文献】実開昭51-088184(JP,U)
【文献】国際公開第2004/095699(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/208677(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H3/007-H03H3/10
H03H9/00-H03H9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板と、
前記支持基板上
に間接的に接合され、前記支持基板との間に凸部および/または凹部を有する面が設けられた圧電基板と、
前記支持基板と前記圧電基板との間に設けられた絶縁層と、
平均ピッチが第1ピッチである複数の第1電極指を備え、前記凸部および/または凹部の前記複数の第1電極指が配列する方向の平均周期が第1周期である第1領域における前記圧電基板上に設けられた第1弾性波共振器と、
平均ピッチが前記第1ピッチと異なる第2ピッチである複数の第2電極指を備え、前記凸部および/または凹部の前記複数の第2電極指が配列する方向の平均周期が前記第1周期と異なる第2周期である第2領域における前記圧電基板上に設けられた第2弾性波共振器と、
を備え
、
前記面は前記支持基板と前記絶縁層との間の界面であり、
前記第1周期は前記第1ピッチの1.2倍以上かつ2.8倍以下であり、前記第2周期は前記第2ピッチの1.2倍以上かつ2.8倍以下である弾性波デバイス。
【請求項2】
前記第1ピッチは前記第2ピッチより短く、前記第1周期は
前記第2周期より短い請求項1に記載の弾性波デバイス。
【請求項3】
前記第1領域における前記凸部の高さおよび/または前記凹部の深さは、前記第1ピッチの0.2倍以上
かつ4倍以下であり、
前記第2領域における前記凸部の高さおよび/または前記凹部の深さは、前記第2ピッチの0.2倍以上
かつ4倍以下である請求項1
または2に記載の弾性波デバイス。
【請求項4】
前記第1弾性波共振器において、前記凸部および/または凹部は前記複数の第1電極指が配列する方向に一定の周期で設けられ、
前記第2弾性波共振器において、前記凸部および/または凹部は前記複数の第2電極指が配列する方向に一定の周期で設けられている請求項1から3のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項5】
前記絶縁層の弾性定数の温度係数の符号は前記圧電基板の弾性定数の温度係数の符号と反対である請求項
1から4のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項6】
前記第1領域における前記圧電基板の前記複数の第1電極指
が設けられた表面と前記面との平均距離は前記第1ピッチ
の4倍より小さ
く、前記第2領域における前記圧電基板の前記複数の第2電極指が設けられた表面と前記面との平均距離は前記第2ピッチの4倍より小さい請求項
1から5のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項7】
請求項1から
6のいずれか一項に記載の弾性波デバイスを含むフィルタ。
【請求項8】
請求項2に記載の弾性波デバイスを含み、
前記第1弾性波共振器は第1端子と第2端子との間に直列に接続された直列共振器であり、
前記第2弾性波共振器は前記第1端子と前記第2端子との間
における並列腕に接続された並列共振器であるフィルタ。
【請求項9】
請求項
7または
8に記載のフィルタを含むマルチプレクサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は弾性波デバイス、フィルタおよびマルチプレクサに関し、例えば複数の電極指を有する弾性波デバイス、フィルタおよびマルチプレクサに関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォン等の通信機器に用いられる弾性波共振器として、弾性表面波共振器が知られている。弾性表面波共振器を形成する圧電基板を支持基板に接合することが知られている。支持基板の上面を粗面とすることが知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のように、支持基板の上面を粗面化することによりスプリアスを抑制することができる。しかしながら、ラダー型フィルタのように共振周波数の互いに異なる複数の弾性波共振器を設ける場合に、粗面の凹凸をどのように設けると複数の弾性波共振器のスプリアスを抑制できるかについては知られていない。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、複数の弾性波共振器のスプリアスを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、支持基板と、前記支持基板上に間接的に接合され、前記支持基板との間に凸部および/または凹部を有する面が設けられた圧電基板と、前記支持基板と前記圧電基板との間に設けられた絶縁層と、平均ピッチが第1ピッチである複数の第1電極指を備え、前記凸部および/または凹部の前記複数の第1電極指が配列する方向の平均周期が第1周期である第1領域における前記圧電基板上に設けられた第1弾性波共振器と、平均ピッチが前記第1ピッチと異なる第2ピッチである複数の第2電極指を備え、前記凸部および/または凹部の前記複数の第2電極指が配列する方向の平均周期が前記第1周期と異なる第2周期である第2領域における前記圧電基板上に設けられた第2弾性波共振器と、を備え、前記面は前記支持基板と前記絶縁層との間の界面であり、前記第1周期は前記第1ピッチの1.2倍以上かつ2.8倍以下であり、前記第2周期は前記第2ピッチの1.2倍以上かつ2.8倍以下である弾性波デバイスである。
【0007】
上記構成において、前記第1ピッチは前記第2ピッチより短く、前記第1周期は前記第2周期より短い構成とすることができる。
【0009】
上記構成において前記第1領域における前記凸部の高さおよび/または前記凹部の深さは、前記第1ピッチの0.2倍以上かつ4倍以下であり、前記第2領域における前記凸部の高さおよび/または前記凹部の深さは、前記第2ピッチの0.2倍以上かつ4倍以下である構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記第1弾性波共振器において、前記凸部および/または凹部は前記複数の第1電極指が配列する方向に一定の周期で設けられ、前記第2弾性波共振器において、前記凸部および/または凹部は前記複数の第2電極指が配列する方向に一定の周期で設けられている構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記絶縁層の弾性定数の温度係数の符号は前記圧電基板の弾性定数の温度係数の符号と反対である構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記第1領域における前記圧電基板の前記複数の第1電極指が設けられた表面と前記面との平均距離は前記第1ピッチの4倍より小さく、前記第2領域における前記圧電基板の前記複数の第2電極指が設けられた表面と前記面との平均距離は前記第2ピッチの4倍より小さい構成とすることができる。
【0013】
本発明は、上記弾性波デバイスを含むフィルタである。
【0014】
本発明は、上記弾性波デバイスを含み、前記第1弾性波共振器は第1端子と第2端子との間に直列に接続された直列共振器であり、前記第2弾性波共振器は前記第1端子と前記第2端子との間における並列腕に接続された並列共振器である。
【0015】
本発明は、上記フィルタを含むマルチプレクサである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、複数の弾性波共振器のスプリアスを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1(a)は、実施例1における弾性波共振器の平面図、
図1(b)は、
図1(a)のA-A断面図である。
【
図2】
図2は、シミュレーションに用いた弾性波共振器の断面図である。
【
図3】
図3(a)および
図3(b)は、シミュレーション結果を示す図である。
【
図4】
図4(a)は実施例1に係るラダー型フィルタの回路図、
図4(b)は、ラダー型フィルタの通過特性を示す模式図である。
【
図5】
図5は、実施例1に係るラダー型フィルタの平面図である。
【
図6】
図6(a)および
図6(b)は、実施例1に係るラダー型フィルタの断面図である。
【
図7】
図7は、実施例1における弾性波共振器の平面図である。
【
図8】
図8(a)から
図8(m)は、実施例1における凸部および凹部の立体形状の例を示す図である。
【
図9】
図9(a)から
図9(c)は、実施例1における凸部および凹部の立体形状の例を示す斜視図である。
【
図10】
図10は、実施例2に係るデュプレクサの回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照し本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0019】
図1(a)は、実施例1における弾性波共振器の平面図、
図1(b)は、
図1(a)のA-A断面図である。電極指の配列方向をX方向、電極指の延伸方向をY方向、支持基板および圧電基板の積層方向をZ方向とする。X方向、Y方向およびZ方向は、圧電基板の結晶方位のX軸方向およびY軸方向とは必ずしも対応しない。圧電基板が回転YカットX伝搬基板の場合、X方向は結晶方位のX軸方向となる。
【0020】
図1(a)および
図1(b)に示すように、支持基板10上に絶縁層11が設けられている。支持基板10と絶縁層11との界面50は粗面であり複数の凸部51および複数の凹部52を有する。複数の凸部51および複数の凹部52は、ほぼ一定の周期Dで設けられている。絶縁層11上に圧電基板12が設けられている。圧電基板12上に弾性波共振器20が設けられている。弾性波共振器20はIDT(Inter Digital Transducer)22および反射器24を有する。反射器24はIDT22のX方向の両側に設けられている。IDT22および反射器24は、圧電基板12上の金属膜14により形成される。
【0021】
IDT22は、対向する一対の櫛型電極18を備える。櫛型電極18は、複数の電極指15と、複数の電極指15が接続されたバスバー16と、を備える。一対の櫛型電極18の電極指15が交差する領域が交差領域25である。交差領域25の長さが開口長である。一対の櫛型電極18は、交差領域25の少なくとも一部において電極指15がほぼ互い違いとなるように、対向して設けられている。交差領域25において複数の電極指15が励振する弾性波は、主にX方向に伝搬する。一対の櫛型電極18のうち一方の櫛型電極の電極指15のピッチがほぼ弾性波の波長λとなる。すなわち、弾性波の波長λはほぼ電極指15のピッチPの2倍となる。反射器24は、IDT22の電極指15が励振した弾性波(弾性表面波)を反射する。これにより弾性波はIDT22の交差領域25内に閉じ込められる。
【0022】
圧電基板12は、単結晶タンタル酸リチウム(LiTaO3)基板、単結晶ニオブ酸リチウム(LiNbO3)基板または単結晶水晶基板であり、例えば回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム基板または回転YカットX伝搬ニオブ酸リチウム基板である。絶縁層11は、例えば酸化シリコン(SiO2)を主成分とするアモルファスおよび/または多結晶層である。絶縁層11は、酸化シリコンを主成分とし、弗素等の不純物を含んでいてもよい。絶縁層11の弾性定数の温度係数の符号は圧電基板12の弾性定数の温度係数の符号の反対である。これにより、弾性波共振器の周波数温度係数を小さくできる。
【0023】
支持基板10は、圧電基板12のX方向の線膨張係数より小さな線膨張係数を有する。これにより、弾性波共振器の周波数温度係数を小さくできる。支持基板10は、例えばサファイア基板、アルミナ基板、シリコン基板および炭化シリコン基板である。サファイア基板はr面、c面またはa面を上面とする単結晶酸化アルミニウム(Al2O3)基板である。アルミナ基板は多結晶酸化アルミニウム(Al2O3)基板である。シリコン基板は単結晶または多結晶シリコン(Si)基板である。炭化シリコン基板は単結晶または多結晶炭化シリコン(SiC)基板である。
【0024】
圧電基板12と絶縁層11との間に圧電基板12と絶縁層11とを表面活性化法を用い接合するための接合層が設けられていてもよい。接合層は、例えば酸化アルミニウム層、窒化アルミニウム層、ダイヤモンドライクカーボン層、炭化シリコン層、窒化シリコン層またはシリコン層である。接合層の厚さは例えば1nmから100nmである。
【0025】
金属膜14は、例えばアルミニウム(Al)、銅(Cu)またはモリブデン(Mo)を主成分とする膜であり、例えばアルミニウム膜、銅膜またはモリブデン膜である。電極指15と圧電基板12との間にTi(チタン)膜またはCr(クロム)膜等の密着膜が設けられていてもよい。密着膜は電極指15より薄い。電極指15を覆うように絶縁膜が設けられていてもよい。絶縁膜は保護膜または温度補償層として機能する。
【0026】
支持基板10の厚さは例えば50μmから500μmである。絶縁層11の厚さは、例えば0.1μmから10μmであり、例えば弾性波の波長λ以下である。圧電基板12の厚さは例えば0.1μmから20μmであり、例えば弾性波の波長λ以下である。弾性波の波長λは例えば1μmから6μmである。2本の電極指15を1対としたときの対数は例えば20対から300対である。IDT22のデュティ比は、電極指15の太さ/電極指15のピッチであり、例えば30%から80%である。IDT22の開口長は例えば10λから50λである。
【0027】
[シミュレーション]
凸部51の周期および高さを変えスプリアスの大きさのシミュレーションを行った。
図2は、シミュレーションに用いた弾性波共振器の断面図である。
図2に示すように、凸部51の断面を三角形とし、平面上に凸部51が設けられているとした。電極指15のピッチをP、凸部51の周期をD、凸部51の底面におけるスペースの幅をS、凸部51の底面の幅をWとした。凸部51の高さをHとした。絶縁層11の平均厚さをT1、圧電基板12の厚さをT2とする。絶縁層11の平均厚さT1は、絶縁層11の平面視における単位面積当たりの体積により算出できる。
【0028】
シミュレーション条件は以下である。
支持基板10:c面サファイア基板
絶縁層11:平均厚さT1が2.0μmの酸化シリコン層
圧電基板12:厚さがT2が2.0μmの42°YカットX伝搬タンタル酸リチウム基板
金属膜14:厚さが500nmのアルミニウム膜
凸部51のスペースS:0.3μm
凸部51の高さH:0.5、1.0、1.65および2.0μm
凸部51の周期D:2、3、4、6および8μm
電極指15のピッチP×2(弾性波の波長λ):4、5および6μm
【0029】
X方向の境界条件を周期境界条件とし、Y方向の幅をλ/32とし、Y方向の境界条件を周期境界条件とする2.5次元のシミュレーションを行った。電極指15の対数は、電極指15および凸部51がともに周期構造となる最小の対数とした。最小の対数が3対以下の場合は3対とした。スプリアスのアドミッタンスは、対数が100対および開口長が25λに換算した。
【0030】
図3(a)および
図3(b)は、シミュレーション結果を示す図である。
図3(a)は、λ=4、5および6μmのとき、凸部51の高さHを1.65μmとし、凸部51の周期Dに対するスプリアスのアドミッタンスの大きさ|Y|を示す図である。
図3(a)に示すように、λ=4、5および6μmにおいて、スプリアスは周期Dがそれぞれほぼ4、5および6μmのとき最小となる。周期Dがλから2μm以上離れるとスプリアスが大きくなる。このように、スプリアスは、凸部51のX方向の周期Dが電極指15が励振する弾性波の波長λ(すなわち電極指15のX方向のピッチP×2)とほぼ同じときに最小となる。また、スプリアスを抑制するためには、周期Dは、ピッチPの1.2倍以上かつ2.8倍以下が好ましく、1.6倍以上かつ2.4倍以下がより好ましく、1.8倍以上かつ2.2倍以下がさらに好ましい。
【0031】
図3(b)は、λ=4、5および6μmのとき、凸部51の周期Dを3.0μmとし、凸部51の高さHに対するスプリアスのアドミッタンスの大きさ|Y|を示す図である。
図3(b)に示すように、λ=4および5μmでは、高さHが大きくなるとスプリアスが小さくなる。λ=6μmでは、高さHが大きくなってもスプリアスの大きさはあまり変わらない。
図3(a)のように、λ=6μmのときD=3.0μmではスプリアスがあまり抑圧されない。このため、高さHを大きくしてもスプリアスの抑制効果が小さいと考えられる。λ=4および5μmのように、スプリアスの抑制効果が大きい周期Dにおいては高さHをλの0.1倍以上(すなわちピッチPの0.2倍以上)とするとスプリアスが抑制されると考えられる。高さHはピッチPの0.4倍以上が好ましい。高さHが大きくなると周期Dを小さくし難くなる。よって、高さHはピッチPの1倍以下が好ましい。
【0032】
以上のシミュレーション結果に基づく実施例1について、弾性波デバイスとしてラダー型フィルタを例に説明する。
【0033】
図4(a)は実施例1に係るラダー型フィルタの回路図、
図4(b)は、ラダー型フィルタの通過特性を示す模式図である。
図4(a)に示すように、ラダー型フィルタは、直列共振器S1からS4および並列共振器P1からP3を備えている。直列共振器S1からS4は、入力端子Tin(第1端子)と出力端子Tout(第2端子)との間に直列に接続されている。並列共振器P1からP3は入力端子Tinと出力端子Toutとの間に並列に接続されている。並列共振器P1からP3の一端はグランド端子Tgに接続されている。直列共振器および並列共振器の個数は適宜設定できる。
【0034】
図4(b)に示すように、ラダー型フィルタは、通過帯域48および阻止帯域49を有するバンドパスフィルタとして機能する。直列共振器S1からS4の共振周波数frsは通過帯域48の中央部に位置し、反共振周波数fasは通過帯域48より高周波数側の阻止帯域49に位置する。並列共振器P1からP3の反共振周波数fapは通過帯域48の中央部に位置し、共振周波数frpは通過帯域48より低周波数側の阻止帯域49に位置する。通過帯域48の高周波端は直列共振器S1からS4の反共振周波数fasにより定まり、通過帯域48の低周波端は並列共振器P1からP3の共振周波数frpにより定まる。このように、ラダー型フィルタでは、直列共振器S1からS4と並列共振器P1からP3との共振周波数が異なる。
【0035】
図5は、実施例1に係るラダー型フィルタの平面図である。
図5に示すように、圧電基板12上に弾性波共振器20および配線26が設けられている。弾性波共振器20は直列共振器S1からS4および並列共振器P1からP3を含む。配線26はパッドPin、PoutおよびPgを含む。パッドPin、PoutおよびPgはそれぞれ入力端子Tin、出力端子Toutおよびグランド端子Tgに電気的に接続されている。直列共振器S1からS4は、配線26を介しパッドPinとPoutとの間に直列に接続され、並列共振器P1からP3は、配線26を介しパッドPinとPoutとの間に並列に接続されている。直列共振器S1からS4は領域54に設けられ、並列共振器P1からP3は領域56に設けられている。
【0036】
図6(a)および
図6(b)は、実施例1に係るラダー型フィルタの断面図である。
図6(a)および
図6(b)に示すように、領域54に設けられた直列共振器S1からS4における電極指15のピッチPaは領域56に設けられた並列共振器P1からP3における電極指15のピッチPbより小さい。これにより、直列共振器S1からS4の共振周波数は、並列共振器P1からP3の共振周波数より高くなる。
【0037】
図6(a)では、界面50として、平面に凸部51を設けた例である。凸部51は頂点を有し凹部52は平面となる。領域54における凸部51の周期はDaであり、領域56における凸部51の周期はDbである。
図6(b)では、界面50として、平面に凹部52を設けた例である。凹部52は頂点を有し凸部51は平面となる。領域54における凹部52の周期はDaであり、領域56における凹部52の周期はDbである。
【0038】
領域54おける凸部51および/または凹部52の周期Daは領域56の凸部51および/または凹部52の周期Dbより小さい。これにより、直列共振器S1からS4および並列共振器P1からP3のいずれにおいてもスプリアスを小さくできる。
【0039】
図7は、実施例1における弾性波共振器の平面図であり、IDT22、反射器24および凸部51を図示している。
図7に示すように、IDT22および反射器24の交差領域25に凸部51および/または凹部52が設けられている。凸部51および/または凹部52のX方向における周期DaまたはDbは電極指15のX方向におけるピッチPaまたはPbの約2倍である。
【0040】
図8(a)から
図8(m)は、実施例1における凸部および凹部の立体形状の例を示す図である。
図8(a)から
図8(k)は斜視図であり、凸部51のときは矢印56aのように上方向が+Z方向である。凹部52のときは矢印56bのように上方向が-Z方向である。
図8(l)および
図8(m)は平面図および断面図である。
図8(a)から
図8(m)では、凸部51および凹部52は島状またはドット状である。
【0041】
図8(a)に示すように、凸部51および凹部52は頂点51aおよび52aを有する円錐形状である。
図8(b)に示すように、凸部51は上面51bを有する円錐台形状であり、凹部52は下面52bを有する円錐台形状である。
図8(c)に示すように、凸部51および凹部52は円柱形状である。
【0042】
図8(d)に示すように、凸部51および凹部52は頂点51aおよび52aを有する三角錐形状である。
図8(e)に示すように、凸部51は上面51bを有する三角錐台形状であり、凹部52は下面52bを有する三角錐台形状である。
図8(f)に示すように、凸部51および凹部52は三角柱形状である。
【0043】
図8(g)に示すように、凸部51および凹部52は頂点51aおよび52aを有する四角錐形状である。
図8(h)に示すように、凸部51は上面51bを有する四角錐台形状であり、凹部52は下面52bを有する四角錐台形状である。
図8(i)に示すように、凸部51および凹部52は四角柱形状である。以上のように、凸部51および凹部52の立体形状は錐形状、錐台形状または柱体形状でもよい。
【0044】
図8(j)に示すように、凸部51および凹部52は半球形状である。
図8(k)に示すように、凸部51は半球形状の上を上面51bで切り取った形状、凹部52は半球形状の下を下面52bで切り取った形状である。このように、凸部51および凹部52の立体形状は球形状の一部でもよい。また、凸部51および凹部52の立体形状は長球形状または楕円体形状の一部でもよい。
図8(l)および
図8(m)に示すように、凸部51および凹部52はドーナツ形状の一部である。以上のように、凸部51および凹部52の立体形状は、凸部51および凹部52を形成するときのマスクの平面形状およびエッチング条件を適宜選択することにより任意に設定できる。
【0045】
図9(a)から
図9(c)は、実施例1における凸部および凹部の立体形状の例を示す斜視図である。凸部51のときは矢印56aのように上方向が+Z方向である。凹部52のときは矢印56bのように上方向が-Z方向である。
図9(a)から
図9(c)では、凸部51および凹部52は線状またはストライプ状である。
【0046】
図9(a)に示すように、凸部51および凹部52は断面形状が三角形状の線状である。線51cおよび52cはそれぞれ凸部51および凹部52における三角形の頂点をつなぐ線である。
図9(b)に示すように、凸部51および凹部52は断面形状が半円形状の線状である。
図9(c)に示すように、凸部51および凹部52は断面形状が四角形状の線状である。以上のように、凸部51および凹部52は直線状に延伸していてもよいし、曲線状に延伸していてもよい。
【0047】
直列共振器S1からS4と並列共振器P1からP3の一例を示す。
直列共振器S1からS4:
Pa×2=5μm、対数:100対、開口長:25λ、共振周波数:840MHz
Da=5μm、H=1.65μm、W=2.7μm、S=2.3μm
並列共振器P1からP3:
Pb×2=5.5μm、対数:80対、開口長:30λ、共振周波数:800MHz
Db=5.5μm、H=1.65μm、W=2.7μm、S=2.8μm
【0048】
実施例1によれば、圧電基板12は、支持基板10上に直接または間接的に接合され、支持基板10との間に規則的な凸部51および/または凹部52を有する界面50が設けられている。直列共振器S1からS4(第1弾性波共振器)は、平均ピッチがPa(第1ピッチ)である複数の電極指15(第1電極指)を備え、並列共振器P1からP3(第2弾性波共振器)は、平均ピッチがPb(第2ピッチ)である複数の電極指15(第2電極指)を備える。PaとPbとが異なることで、直列共振器S1からS4の共振周波数と並列共振器P1からP3の共振周波数とを異ならせることができる。
【0049】
しかしながら、
図3(a)のように、PaとPbとが異なると、スプリアスを抑制するために最適な凸部51および/または凹部52の周期が異なる。そこで、領域54(第1領域)では、凸部51および/または凹部52のX方向の平均周期をDa(第1周期)とし、領域56(第2領域)では、凸部51および/または凹部52のX方向の平均周期はDaと異なるDb(第2周期)とする。これにより、直列共振器S1からS4と並列共振器P1からP3のスプリアスをともに最適化できる。
【0050】
実施例1では、第1弾性波共振器として直列共振器S1からS4、第2弾性波共振器として並列共振器P1からP3を例に説明したが、第1弾性波共振器と第2弾性波共振器とは平均ピッチPaとPbが異なっていればよい。
図3(a)は一例であり、平均ピッチPaとPbとが異なるときに、スプリアスを抑制する最適な平均周期DaとDbとが異なっていればよい。
【0051】
図7では、凸部51および/または凹部52はX方向に規則的に配列しているが、凸部51および/または凹部52が規則的に配列する方向とX方向とは略平行であればよい。略平行とはスプリアスが抑制できる範囲で平行という意味であり、凸部51および/または凹部52が規則的に配列する方向とX方向とは例えば20°以下または10°以下の範囲で傾いていてもよい。このとき、凸部51および/または凹部52のX方向の周期は、凸部51および/または凹部52の規則的に配列する方向の周期をX方向の投影した周期となる。
【0052】
平均ピッチPaおよびPbは、IDT22のX方向の幅を電極指15の本数で除することにより算出できる。平均周期DaおよびDbはIDT22のX方向の幅をX方向における凸部51および/または凹部52の個数で除することにより算出できる。
【0053】
平均ピッチPaが平均ピッチPbより短いとき、平均周期Daを平均周期Dbより短くする。これにより、スプリアスをより抑制できる。
【0054】
平均周期Daは平均ピッチPaの1.2倍以上かつ2.8倍以下であり、平均周期Dbは平均ピッチPbの1.2倍以上かつ2.8倍以下である。これにより、スプリアスをより抑制できる。
【0055】
領域54における凸部51の高さHおよび/または凹部52の深さは、平均ピッチPaの0.2倍以上であり、領域56における凸部51の高さHおよび/または凹部52の深さは、平均ピッチPbの0.2倍以上である。これにより、スプリアスをより抑制できる。
【0056】
絶縁層11が支持基板10と圧電基板12との間に設けられ、凸部51および/または凹部52が設けられた面は支持基板10と絶縁層11との間の界面50である。これにより、スプリアスをより抑制できる。支持基板10と絶縁層11との間に凸部51を形成する付加膜が設けられ、界面50は付加膜および支持基板10と絶縁層11との界面でもよい。支持基板10と圧電基板12とが直接接合されており、凸部51および凹部52の少なくとも一方は支持基板10と圧電基板12との界面に設けられていてもよい。
【0057】
絶縁層11の弾性定数の温度係数の符号は圧電基板12の弾性定数の温度係数の符号と反対である。これにより、弾性波共振器の周波数温度係数を小さくできる。
【0058】
電極指15により励振された弾性波のエネルギーは圧電基板12の上面から2λより浅い領域にほとんど分布する。よって、領域54および56における圧電基板12の電極指15が設けられた表面と界面50との平均距離T1+T2はそれぞれ平均ピッチPaおよびPbの4倍以下とすることが好ましい。これにより、スプリアスをより抑制できる。平均距離T1+T2は、平均ピッチPaおよびPbの3倍以下がより好ましく2倍以下がさらに好ましい。平均距離T1+T2が小さすぎると、圧電基板12および絶縁層11内に存在する弾性波のエネルギーが小さくなる。よって、平均距離T1+T2は平均ピッチPaおよびPbの0.2倍以上が好ましく、0.5倍以上がより好ましい。
【0059】
領域54および56における圧電基板12の厚さT2は、それぞれ平均ピッチPaおよびPbの2倍より小さいことが好ましく、1.6倍以下がより好ましい。領域54および56における圧電基板12の厚さT2は、それぞれ平均ピッチPaおよびPbの0.2倍以上が好ましく、0.4倍以上がより好ましい。これにより、弾性波のエネルギーが適切に圧電基板12内に分布できる。
【0060】
IDT22がSH(Shear Horizontal)を励振するとき、バルク波が生成されやすい。圧電基板12が36°以上かつ48°以下回転Yカットタンタル酸リチウム基板のとき、SH波が励振される。このとき、圧電基板12の厚さT2が平均ピッチPaの2倍未満のとき、損失が抑制される。また、平均距離T1+T2が平均ピッチPaおよびPbの4倍以下のとき、損失が抑制される。
【0061】
弾性波が支持基板10に漏れないように、支持基板10の音響インピーダンスは圧電基板12の音響インピーダンスより高い(すなわち支持基板10の音速は圧電基板12の音速より速い)ことが好ましい。また、絶縁層11内に弾性波が伝搬するため絶縁層11の音響インピーダンスは圧電基板12および支持基板10の音響インピーダンスより低い(すなわち絶縁層11の音速は圧電基板12および支持基板10の音速より遅い)ことは好ましい。
【実施例2】
【0062】
図10は、実施例2に係るデュプレクサの回路図である。
図10に示すように、共通端子Antと送信端子Txとの間に送信フィルタ40が接続されている。共通端子Antと受信端子Rxとの間に受信フィルタ42が接続されている。送信フィルタ40は、送信端子Txから入力された高周波信号のうち送信帯域の信号を送信信号として共通端子Antに通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。受信フィルタ42は、共通端子Antから入力された高周波信号のうち受信帯域の信号を受信信号として受信端子Rxに通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。送信フィルタ40および受信フィルタ42の少なくとも一方を実施例1のフィルタとすることができる。
【0063】
マルチプレクサとしてデュプレクサを例に説明したがトリプレクサまたはクワッドプレクサでもよい。
【0064】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0065】
10 支持基板
11 絶縁層
12 圧電基板
15 電極指
18 櫛型電極
20 弾性波共振器
22 IDT
40 送信フィルタ
42 受信フィルタ
50 界面
51 凸部
52 凹部
54、56 領域