IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 太陽誘電株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-コイル部品及びその製造方法 図1
  • 特許-コイル部品及びその製造方法 図2
  • 特許-コイル部品及びその製造方法 図3
  • 特許-コイル部品及びその製造方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-27
(45)【発行日】2023-11-07
(54)【発明の名称】コイル部品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 17/04 20060101AFI20231030BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20231030BHJP
   H01F 41/04 20060101ALI20231030BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20231030BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20231030BHJP
   B22F 1/16 20220101ALI20231030BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20231030BHJP
   B22F 3/24 20060101ALI20231030BHJP
   B22F 1/14 20220101ALI20231030BHJP
   B22F 7/06 20060101ALI20231030BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20231030BHJP
【FI】
H01F17/04 F
H01F1/147 166
H01F41/04 B
H01F41/02 D
B22F1/00 Y
B22F1/16 100
B22F3/00 B
B22F3/24 B
B22F1/14 650
B22F7/06 A
C22C38/00 303S
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019158454
(22)【出願日】2019-08-30
(65)【公開番号】P2021039967
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2022-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100206829
【弁理士】
【氏名又は名称】相田 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100140198
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 保子
(74)【代理人】
【識別番号】100158665
【弁理士】
【氏名又は名称】奥井 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100199691
【弁理士】
【氏名又は名称】吉水 純子
(72)【発明者】
【氏名】織茂 洋子
(72)【発明者】
【氏名】柏 智男
(72)【発明者】
【氏名】中島 啓之
【審査官】後藤 嘉宏
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0267170(US,A1)
【文献】特開2017-050390(JP,A)
【文献】特開2015-142074(JP,A)
【文献】特開2015-144238(JP,A)
【文献】国際公開第2015/137493(WO,A1)
【文献】特開2015-103770(JP,A)
【文献】特開2016-167479(JP,A)
【文献】特開2019-050411(JP,A)
【文献】特開2012-049203(JP,A)
【文献】特開2013-051329(JP,A)
【文献】特開2018-170304(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0276074(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 17/04
H01F 1/147
H01F 41/04
H01F 41/02
B22F 1/00
B22F 1/16
B22F 3/00
B22F 3/24
B22F 1/14
B22F 7/06
C22C 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性金属粒子を含む磁性体と、該磁性体の内部又は表面に配置された導体とを備えたコイル部品であって、
前記磁性体中では、前記軟磁性金属粒子同士が、Siを含むガラス相を介して接合されており、
前記軟磁性金属粒子は、金属部分にFeを含むと共に、その表面に、Si及びOを含む非晶質の絶縁層を備え、
前記絶縁層中の全元素に対するSiの質量割合が、前記ガラス相中のそれに比べて大きい
ことを特徴とするコイル部品。
【請求項2】
前記ガラス相がホウケイ酸塩系ガラスである、請求項1に記載のコイル部品。
【請求項3】
前記軟磁性金属粒子中のFeの質量比率が30~98%である、請求項1又は2に記載のコイル部品。
【請求項4】
前記軟磁性金属粒子が、金属部分にSiをさらに含むと共に、該金属部分と前記絶縁層とが、Feより酸化しやすいSi以外の元素を共通して含む、請求項1から3のいずれか1項に記載のコイル部品。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のコイル部品の製造方法であって、
(a1)Feを含む軟磁性金属粉末を準備すること、
(b1)前記軟磁性金属粉末を構成する各粒子の表面に、Si含有物質を付着させること、
(d1)前記(b1)で得られた軟磁性金属粉末をガラス粉末と混合し、混合粉末を得ること、
(e1)前記(d1)で得られた混合粉末を成形して成形体を得ること、
(f1)前記(e1)で得られた成形体を、酸素濃度が800ppm以下の雰囲気中にて、500℃~1000℃の温度で熱処理して磁性体を得ること、及び
(g1)下記(1)又は(2)の少なくとも一方を行うこと
(1)前記(e1)において、前記成形体の内部又は表面に、導体若しくはその前駆体を配置すること
(2)前記(f1)を行った後に、前記磁性体の表面に導体を配置すること
を含むコイル部品の製造方法。
【請求項6】
前記(d1)に先立って、
(c1)前記(b1)で得られた軟磁性金属粉末を、不活性ガス雰囲気中にて100℃~700℃の温度で、又は酸素濃度が100ppm以下の雰囲気中にて100℃~300℃の温度で、熱処理すること、
をさらに行う、請求項5に記載のコイル部品の製造方法。
【請求項7】
前記(a1)に代えて、
(a2)Fe及びSi、並びにFeより酸化しやすいSi以外の元素を含む軟磁性金属粉末を準備すること
を行うと共に、前記(d1)に先立って、
(c2)前記軟磁性金属粉末を、酸素濃度が3ppm~100ppmの雰囲気中にて、300℃~900℃の温度で熱処理すること
をさらに行う、請求項5に記載のコイル部品の製造方法。
【請求項8】
請求項1~4のいずれか1項に記載のコイル部品の製造方法であって、
(a2)Fe及びSi、並びにFeより酸化しやすいSi以外の元素を含む軟磁性金属粉末を準備すること、
(d1)前記軟磁性金属粉末をガラス粉末と混合し、混合粉末を得ること、
(e1)前記(d1)で得られた混合粉末を成形して成形体を得ること、
(f2)前記(e1)で得られた成形体を、酸素濃度が10ppm~800ppmの雰囲気中にて、500℃~900℃の温度で熱処理して磁性体を得ること、及び
(g1)下記(1)又は(2)の少なくとも一方を行うこと
(1)前記(e1)において、前記成形体の内部又は表面に、導体若しくはその前駆体を配置すること
(2)前記(f2)を行った後に、前記磁性体の表面に導体を配置すること
を含むコイル部品の製造方法。
【請求項9】
前記(d1)に先立って、
(c2)前記軟磁性金属粉末を、酸素濃度が3ppm~100ppmの雰囲気中にて、300℃~900℃の温度で熱処理すること
をさらに行い、かつ前記(f2)に代えて、
(f1)前記(e1)で得られた成形体を、酸素濃度が800ppm以下の雰囲気中にて、500℃~1000℃の温度で熱処理して磁性体を得ること
を行う、請求項8に記載のコイル部品の製造方法。
【請求項10】
前記ガラス粉末として、軟化点が1000℃以下のものを用いる、請求項5~9のいずれか1項に記載のコイル部品の製造方法。
【請求項11】
請求項1~4のいずれか1項に記載のコイル部品を搭載した回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル部品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コイル部品においては、磁性体及び導体の組合せにより、インダクタンス特性等の基本的な特性が決定される。特に、磁性体を構成する磁性材料がコイル部品の特性に及ぼす影響は大きいため、コイル部品の構造や使用環境等に応じて、これを使い分けるのが通常である。例えば、自動車用のコイル部品では、高電圧下での動作が要求されることから、絶縁耐力に優れるフェライト系の磁性材料が採用されることが多かった。
【0003】
しかし、近年では、自動車用のコイル部品において、フェライト系に代えて金属磁性材料が使用され始めている。これは、金属磁性材料が、フェライト系材料よりも磁気飽和しにくいため、コイル部品の小型化が可能であることによる。近年、自動車の電子化に伴って、使用される電子部品点数は増加傾向にある。他方、電子部品及びこれを搭載した基板の設置スペースは限られるため、各電子部品の小型化が要求されている。そこで、該要求に応えるべく、金属磁性材料を備えたコイル部品が採用され始めているのである。
【0004】
金属磁性材料は、磁気飽和しにくい点ではフェライト系よりも有利であるが、電気的絶縁性ではこれに劣っている。このため、金属磁性材料製の磁性体は、高電圧下では通電してしまうおそれがあった。金属磁性材料製の磁性体は、金属磁性粒子同士が互いに接触して構成されている。そこで、該磁性体の電気的絶縁性を向上させる手段として、金属磁性粒子表面を電気的に絶縁することに着目した種々のものが検討されてきた。その一例として、下記のものが報告されている。
【0005】
[1]チタンアルコキシド及びシリコンアルコキシドの混合物で、Feを含む金属磁性材料の粒子を被覆し、該粒子からなる粉末を加圧成形した後、850℃のアルゴン雰囲気中で熱処理を施して圧粉磁心を得ること(特許文献1)。
【0006】
[2]Fe-Si合金粒子を水蒸気等の弱酸化性雰囲気中で酸化反応させて、粒子表面にSiO酸化膜を形成した後、該粒子を成形し、水蒸気等の弱酸化性雰囲気にて600~1100℃の最終到達温度で焼結させてコア材を得ること(特許文献2)。
【0007】
[3]Feを含む軟磁性合金の粉末を成形した後、大気等の酸素含有雰囲気中で400~900℃の温度で熱処理し、該粉末を構成する各粒子の表面に酸化物からなる絶縁層を形成してコアを得ること(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2018-182040号公報
【文献】特開2006-49625号公報
【文献】特開2011-249774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記[1]~[3]の各手段によれば、Feを含む金属磁性粒子の表面に厚みの薄い絶縁層が形成できるため、透磁率を始めとする磁気特性の低下を抑制しつつ、電気的絶縁性を向上できると考えられていた。しかし、本発明者の調査により、前述の各手段により得られたコアないしコイル部品には、比較的低い電圧で絶縁破壊を起こすものが含まれる場合があることが明らかになった。
【0010】
そこで本発明は、絶縁破壊電圧が向上されたコイル部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するための検討過程で、本発明者は、特許文献3(段落[0047],図3(b))に示されるように、絶縁層がFeを含有することが絶縁破壊電圧の低下につながっているとの仮説に至った。すなわち、前記[1]~[3]の各手段では、酸化物からなる絶縁層を介して金属磁性粒子同士を接合することでコアの強度を得ているため、比較的高温ないし長時間の熱処理、又は強酸化性雰囲気での熱処理を行っている。こうした熱処理によれば、金属磁性粒子中のFeが、拡散によって絶縁層中に侵入し、これを通過することとなる。この侵入ないし通過の際に生じる絶縁層中の原子配置の変化が、高電圧を印加した際の電気的絶縁性の破壊に影響するということである。
【0012】
そこで本発明者は、前述の仮説に基づいて、絶縁層中へのFeの侵入を抑制すべくさらに検討を重ねた。その結果、ガラス相を介して軟磁性金属粒子同士を結合し、高温、長時間又は強酸化性雰囲気下での熱処理を不要とすることで、絶縁耐圧を向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、前記課題を解決するための本発明の第1の実施形態は、軟磁性金属粒子を含む磁性体と、該磁性体の内部又は表面に配置された導体とを備えたコイル部品であって、前記磁性体中では、前記軟磁性金属粒子同士が、ガラス相を介して接合されており、前記軟磁性金属粒子は、Feを含むと共に、その表面に、Si及びOを含む非晶質の絶縁層を備え、前記絶縁層中の全元素に対するSiの質量割合が、前記ガラス相中のそれに比べて大きいことを特徴とするコイル部品である。
【0014】
また、本発明の第2の実施形態は、軟磁性金属粒子を含む磁性体と、該磁性体の内部又は表面に配置された導体とを備えたコイル部品の製造方法であって、
(a1)Feを含む軟磁性金属粉末を準備すること、
(b1)前記軟磁性金属粉末を構成する各粒子の表面に、Si含有物質を付着させること、
(d1)前記(b1)で得られた軟磁性金属粉末をガラス粉末と混合し、混合粉末を得ること、
(e1)前記(d1)で得られた混合粉末を成形して成形体を得ること、
(f1)前記(e1)で得られた成形体を、酸素濃度が800ppm以下の雰囲気中にて、500℃~1000℃の温度で熱処理して磁性体を得ること、及び
(g1)下記(1)又は(2)の少なくとも一方を行うこと

(1)前記(e1)において、前記成形体の内部又は表面に、導体若しくはその前駆体を配置すること
(2)前記(f1)を行った後に、前記磁性体の内部又は表面に導体を配置すること

を含むコイル部品の製造方法である。
【0015】
また、本発明の第3の実施形態は、軟磁性金属粒子を含む磁性体と、該磁性体の内部又は表面に配置された導体とを備えたコイル部品の製造方法であって、
(a2)Fe及びSi、並びにFeより酸化しやすいSi以外の元素を含む軟磁性金属粉末を準備すること、
(d1)前記軟磁性金属粉末をガラス粉末と混合し、混合粉末を得ること、
(e1)前記(d1)で得られた混合粉末を成形して成形体を得ること、
(f2)前記(e1)で得られた成形体を、酸素濃度が10ppm~800ppm以下の雰囲気中にて、500℃~900℃の温度で熱処理して磁性体を得ること、及び
(g1)下記(1)又は(2)の少なくとも一方を行うこと
(1)前記(e1)において、前記成形体の内部又は表面に、導体若しくはその前駆体を配置すること
(2)前記(f)を行った後に、前記磁性体の表面に導体を配置することを含むコイル部品の製造方法である。
【0016】
さらに、本発明の第4の実施形態は、前述のコイル部品を搭載した回路基板である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、絶縁破壊電圧が向上されたコイル部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係るコイル部品中の磁性体における微細構造の説明図
図2】本発明において絶縁層が非晶質であることの確認手順を示す説明図
図3】本発明の実施例及び比較例で作製したコイル部品の外観を示す模式図
図4】本発明の実施例及び比較例で行った3点曲げ試験における試験片の支持及び載荷の態様を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明の構成及び作用効果について、技術的思想を交えて説明する。但し、作用機構については推定を含んでおり、その正否は、本発明を制限するものではない。また、以下の実施形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。なお、数値範囲の記載(2つの数値を「~」でつないだ記載)については、下限及び上限として記載された数値をも含む意味である。
【0020】
[コイル部品]
本発明の第1の実施形態に係るコイル部品(以下、単に「第1実施形態」と記載することがある。)は、軟磁性金属粒子を含む磁性体と、該磁性体の内部又は表面に配置された導体とを備える。前記磁性体においては、軟磁性金属粒子同士がガラス相を介して接合されている。そして、前記軟磁性金属粒子は、Feを含むと共に、その表面に、Si及びOを含む非晶質の絶縁層を備える。加えて、前記絶縁層中の全元素に対するSiの質量割合が、前記ガラス相中のそれに比べて大きくなっている。
以下、第1実施形態における磁性体及び導体について詳述する。
【0021】
<磁性体について>
第1実施形態における磁性体は、図1に示すように、軟磁性金属粒子21同士が、ガラス相22を介して接合することで構成されている。
【0022】
軟磁性金属粒子21は、Feを必須成分とする。磁性体ないしコイル部品の透磁率は、軟磁性金属粒子21中のFe含有量の増加に伴って向上する。このため、所期の絶縁耐力が得られる範囲でなるべくFe含有量を多くすることが好ましい。好適なFeの含有量は30質量%以上であり、50質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましい。他方、Feの含有量が多くなりすぎると、その酸化による特性低下が懸念される。このため、Feの含有量は、98質量%以下とすることが好ましい。
【0023】
軟磁性金属粒子21は、Fe以外の元素を含有してもよい。例えば、Siを含有することにより、粒子の電気抵抗が上昇し、渦電流による磁気特性の低下を抑制することができる。また、CrやMnを始めとするFeより酸化しやすいSi以外の元素(以下、「M」ないし「M元素」と記載することがある。)を含有することにより、Feの酸化を抑制して磁気特性を安定させることができる。
【0024】
軟磁性金属粒子21としては、組成ないし粒径が一定のものでもよく、異なる組成ないし粒径を有するものが混在していてもよい。組成ないし粒径の異なる複数種類の金属粒子が適切な割合で存在することで、磁性体の磁気特性、電気的絶縁性及び機械的強度の最適化が可能となる。
【0025】
軟磁性金属粒子21は、図1に示すように、表面に形成された絶縁層212と、該絶縁層212の内部に位置する金属部分211とを備える。
絶縁層212は、構成元素としてSi及びOを含み、非晶質である。このことにより、薄い厚みで高い絶縁抵抗が得られ、かつ高い絶縁破壊電圧も達成できる。絶縁層212は、非晶質の状態が保たれていれば、Si及びO以外の元素を含有してもよく、その種類及び含有量も特に限定されない。ただし、Feについては、比較的低濃度で絶縁層が結晶化し、これにより磁性体ないしコイル部品の絶縁破壊電圧が大幅に低下してしまうため、極力含有しないことが好ましい。
【0026】
ここで、絶縁層212が非晶質であることは、以下の手順で確認する。まず、磁性体から切り出した薄片状試料を高分解能透過型電子顕微鏡(HR-TEM)で観察し、電子顕微鏡像におけるコントラスト(明度)の差異により認識される絶縁層について、フーリエ変換により逆空間図形を得る(図2の(1)参照)。なお、この逆空間図形は、ナノビーム回折で得られたものであれば、HR-TEM以外の測定装置を用いたものでもよい。次いで、得られた逆空間図形において、ビーム入射位置からの距離rごとに、信号強度の平均値Ir,avgを算出する。すなわち、ビーム入射位置から等距離rにある複数の点で信号強度Iを測定し、これらを平均する。次いで、得られたIr,avg及びrに基づいて、動径分布関数を得る(図2の(2)参照)。次いで、動径分布関数において、r=0以外の点で信号強度が最大となる点rを求める(図2の(3)参照)。最後に、ビーム入射位置からrの距離にある各点での信号強度を回転角θに対してプロットし、各点の信号強度のうち最大のものIrp,maxと最小のものIrp,minとを比較する(図2の(4)参照)。そして、Irp,maxの値がIrp,minの値の1.5倍未満となった場合に、観察した絶縁層を非晶質と判定する。
【0027】
絶縁層212と後述するガラス相22とでは、それぞれのSi含有量の最大値を比べると、絶縁層212の方がガラス相22よりもSi量が多い。これにより、軟磁性金属粒子21間の電気的絶縁性を高めることができる。
【0028】
前述のように、軟磁性金属粒子21がFe以外の元素を含有する場合には、金属部分211と絶縁層212とで、含有するFe以外の元素が共通することが好ましい。金属部分211と絶縁層212とが同種の元素を含有することで、両者の密着性が向上し、電気的絶縁性の安定化や機械的強度の向上につながる。このような軟磁性金属粒子21は、原料となる軟磁性金属粉末又はこれを含む成形体を弱酸化性雰囲気中で熱処理することで得られる。
【0029】
ここで、軟磁性金属粒子21における金属部分211及び絶縁層212、並びにガラス相22の組成は、以下の手順により確認する。
まず、コイル部品の中央部から、集束イオンビーム装置(FIB)を用いて、厚さ50nm~100nmの薄片試料を取り出した後、直ちに環状暗視野検出器及びエネルギー分散型X線分光(EDS)検出器を搭載した走査型透過電子顕微鏡(STEM)を用いて、磁性体部分の観察を行う。次いで、電子顕微鏡像のコントラスト(明度)の差異から金属部分、絶縁層及びガラス相を識別し、各部について、200nm×200nmの領域の組成をEDSによりZAF法で算出する。STEM―EDSの測定条件は、加速電圧を200kV、電子ビーム径を1.0nmとし、軟磁性金属粒子部分の各点における6.22keV~6.58keVの範囲の信号強度の積算値が25カウント以上となるように測定時間を設定する。
なお、磁性体の製造に用いた軟磁性金属粉末及びガラス粉末の組成が既知である場合には、当該既知の組成をそれぞれ金属部分211及びガラス相の組成としてもよい。
【0030】
ガラス相22は、軟磁性金属粒子21同士を接合し、これを含む磁性体の形状保持及び強度向上に寄与すると共に、該粒子21間の電気的絶縁性を向上させる。ガラス相22を構成するガラスの種類は特に限定されない。一例として、ホウケイ酸塩系ガラス、リン酸塩系ガラス及びビスマス酸塩系ガラス等が挙げられる。
【0031】
ガラス相22は、Siを含むことが、軟磁性金属粒子21との密着性が向上する点で好ましい。これは、軟磁性金属粒子21の表面に存在する絶縁層212中のSiとガラス相中のSiとが分子結合を形成することに起因する。また、ガラス相は、耐食性を高めるために、Al、Zr又はTi等の元素を含有してもよい。
【0032】
第1実施形態における磁性体は、所期の特性が得られる範囲で、前述した軟磁性金属粒子及びガラス相以外の各種フィラー等を含んでもよい。
【0033】
<導体について>
導体の材質、形状及び配置は特に限定されず、要求特性に応じて適宜決定すればよい。材質の一例としては、銀若しくは銅、又はこれらの合金等が挙げられる。また、形状の一例としては、直線状、ミアンダー状、平面コイル状、螺旋状等が挙げられる。さらに、配置の一例としては、被覆付きの導線を磁性体の周囲に巻回したものや、各種形状導体を磁性体内部に埋め込んだもの等が挙げられる。
【0034】
[コイル部品の製造方法1]
本発明の第2実施形態に係るコイル部品の製造方法(以下、単に「第2実施形態」と記載することがある。)は、下記の処理ないし操作を含む。
(a1)Feを含む軟磁性金属粉末を準備すること。
(b1)前記軟磁性金属粉末を構成する各粒子の表面に、Si含有物質を付着させること。
(d1)前記(b1)で得られた軟磁性金属粉末をガラス粉末と混合し、混合粉末を得ること。
(e1)前記(d1)で得られた混合粉末を成形して成形体を得ること。
(f1)前記(e1)で得られた成形体を、酸素濃度が800ppm以下の雰囲気中にて、500℃~1000℃の温度で熱処理して磁性体を得ること
(g1)(1)前記(e1)において、前記成形体の内部又は表面に、導体若しくはその前駆体を配置すること、又は(2)前記(f1)を行った後に、前記磁性体の表面に導体を配置することの少なくとも一方を行うこと。
以下、前記処理操作について詳述する。なお、第2実施形態では、該処理操作以外の、当業者に知られている処理操作を行ってもよいことは言うまでもない。
【0035】
<処理操作(a1)について>
第2実施形態で使用する軟磁性金属粉末は、Feを必須成分とするものである。上述のとおり、磁性体ないしコイル部品の透磁率は、これを構成する軟磁性金属粒子中のFe含有量の増加に伴って向上する。このため、原料となる軟磁性金属粉末についても、Fe含有量の多いものを使用することが好ましい。好適なFeの含有量は30質量%以上であり、50質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましい。他方、Feの含有量が多くなりすぎると、その酸化による磁性体ないしコイル部品の特性低下が懸念される。このため、Feの含有量は、98質量%以下とすることが好ましい。
【0036】
軟磁性金属粉末は、Fe以外の元素を成分として含有してもよい。例えば、Siを含有することにより、後述する熱処理によって形成される絶縁膜の電気的絶縁性を向上させることができる。また、Feより酸化しやすいSi以外の元素(M元素)を含有することにより、後述する熱処理をした際の、絶縁膜中へのFeの侵入とこれに起因する絶縁膜の結晶化を抑制することができる。M元素としては、Cr、Mn、Al、Zr、Ti、Ni等が例示される。これらのうち、絶縁膜の結晶化をより効果的に抑制できる点で、Cr又はMnが好ましい。
【0037】
軟磁性金属粉末の粒径は特に限定されず、例えば、体積基準で測定した粒度分布から算出される平均粒径(メジアン径(D50))を0.5μm~30μmとすることができる。平均粒径は、1μm~10μmとすることが好ましい。この平均粒径は、例えば、レーザー回折/散乱法を利用した粒度分布測定装置を用いて測定することができる。
【0038】
<処理操作(b1)について>
処理操作(b1)では、軟磁性金属粉末を構成する各粒子の表面に、Si含有物質を付着させる。
使用するSi含有物質としては、テトラエトキシシラン(TEOS)を始めとするシランカップリング剤や、コロイダルシリカを始めとするシリカ微粒子等が例示される。Si含有物質の使用量は、その種類や軟磁性金属粒子の粒径等に応じて適宜決定できる。
軟磁性金属粒子の表面にSi含有物質を付着させる方法としては、これが液状である場合には、粒子に対する噴霧又は粒子の浸漬を行った後乾燥する方法が例示される。また、Si含有物質が微粒子状である場合には、乾式混合や、これが分散したスラリーとの接触(噴霧又は浸漬)後に乾燥する方法が例示される。さらに、シランカップリング剤を用いたゾルゲル法による被覆を採用してもよい。
【0039】
<処理操作(c1)について>
第2実施形態では、前述の処理操作(b1)に引き続いて、Si含有物質が表面に付着した軟磁性金属粉末を、不活性ガス雰囲気中にて100℃~700℃の温度で、又は酸素濃度が100ppm以下の雰囲気中にて100℃~300℃の温度で、熱処理すること(処理操作(c1))を含んでもよい。ここで、不活性ガスとは、N又は希ガスを意味する。これにより、軟磁性金属粉末を構成する金属粒子の表面に付着したSi含有物質が、Si及びOを含む非晶質の薄膜を形成し、また形成された薄膜の機械的強度ないし金属粒子への付着強度が向上する。該薄膜は、コイル部品中の磁性体において絶縁層として機能し、軟磁性金属粒子間を電気的に絶縁する。
【0040】
熱処理温度は、100℃以上とすることが好ましい。これにより、前述した非晶質薄膜の形成が促進される。また、形成された薄膜の機械的強度ないし金属粒子への付着強度が向上する。しかし、熱処理温度が高すぎると、軟磁性金属粉末の酸化や、非晶質薄膜の結晶化が顕著になり、得られる磁性体の特性が低下する。このため、100ppm以下の酸素を含む雰囲気中での熱処理においては、熱処理温度は300℃以下とすることが好ましい。他方、不活性雰囲気中での熱処理においては、軟磁性金属粉末の酸化はほとんど起こらないため、熱処理温度の上限を700℃とすることができる。
【0041】
熱処理温度での保持時間は特に限定されないが、非晶質薄膜の形成を十分に行う点、及び形成された薄膜の機械的強度ないし金属粒子への付着強度を十分に高める点からは、30分以上とすることが好ましく、50分以上とすることがより好ましい。他方、結晶質膜の生成を抑制すると共に、熱処理を短時間で終わらせて生産性を向上する点からは、熱処理時間を2時間以下とすることが好ましく、1.5時間以下とすることがより好ましい。
【0042】
<処理操作(c2)について>
また、第2実施形態では、軟磁性金属粉末がSi又はM元素を含む場合、前述の処理操作(c1)に代えて、Si含有物質が表面に付着した軟磁性金属粉末を、酸素濃度が3ppm~100ppmの雰囲気中にて300℃~900℃の温度で熱処理すること(処理操作(c2))を含んでもよい。これにより、軟磁性金属粉末を構成する金属粒子中のSi又はM元素の該粒子表面への拡散及び該表面での酸化が起こる。このとき、金属粒子の表面には非晶質の酸化物薄膜が形成されるため、Si含有物質に由来する非晶質薄膜と相まって、十分な厚みの非晶質薄膜を形成できる。該薄膜は、コイル部品中の磁性体において絶縁層として機能し、軟磁性金属粒子間を電気的に絶縁する。このため、電気的絶縁性に優れ、駆動時の損失が小さい磁性体ないしコイル部品を得ることができる。
【0043】
熱処理雰囲気中の酸素濃度を3ppm以上とし、熱処理温度を300℃以上とすることで、軟磁性金属粉末に含まれるSiないしM元素と酸素との反応が促進される。そして、このことにより、軟磁性金属粉末を構成する軟磁性金属粒子の表面を電気的絶縁性の高い非晶質膜で覆うことができる。他方、熱処理雰囲気中の酸素濃度を100ppm以下とし、熱処理温度を900℃以下とすることで、軟磁性金属粒子中のFe過度な酸化及びこれに起因する粒子表面での結晶質酸化物の生成を抑制できる。そして、このことにより、磁気特性及び電気的絶縁性の低下が抑止される。前記酸素濃度は、5ppm以上とすることが好ましい。また、前記酸素濃度は、50ppm以下とすることが好ましく、30ppm以下とすることがより好ましく、10ppm以下とすることがさらに好ましい。他方、記熱処理温度は、350℃以上とすることが好ましく、400℃以上とすることがより好ましい。また、前記熱処理温度は、850℃以下とすることが好ましく、800℃以下とすることがより好ましい。
【0044】
熱処理温度での保持時間は特に限定されないが、非晶質膜を十分な厚みとする点からは、30分以上とすることが好ましく、1時間以上とすることがより好ましい。他方、結晶質膜の生成を抑制すると共に、熱処理を短時間で終わらせて生産性を向上する点からは、熱処理時間を5時間以下とすることが好ましく、3時間以下とすることがより好ましい。
【0045】
ここで、前述した軟磁性金属粒子中の元素と酸素との反応(酸化)及びこれに起因する粒子表面での結晶質酸化物の生成は、熱処理雰囲気中の酸素濃度又は熱処理温度の少なくとも一方を低くするか、熱処理時間を短くすることで抑制できる。このため、例えば、熱処理雰囲気中の酸素濃度を高くする必要がある状況下で、金属ないし合金元素の酸化を極力抑えたい場合には、熱処理温度を低く、又は熱処理時間を短く設定すればよい。また、熱処理温度を高くする必要がある場合には、熱処理雰囲気中の酸素濃度を低く、又は熱処理時間を短く設定すればよい。さらに、熱処理時間を長くする必要がある場合には、熱処理雰囲気中の酸素濃度を低く、又は熱処理温度を低く設定すればよい。
【0046】
<処理操作(d1)について>
処理操作(d1)では、前記(b1)の処理操作を行った軟磁性金属粉末をガラス粉末と混合し、混合粉末を得る。
使用するガラス粉末の種類としては、ホウケイ酸塩系ガラス、リン酸塩系ガラス及びビスマス酸塩系ガラス等が例示される。軟化点が1000℃以下のガラスを使用すると、後述する(f1)の熱処理時に流動性が向上し、より広い面積で軟磁性金属粒子同士を接合できる。これにより、軟磁性金属粒子同士の接合強度が向上し、高強度の磁性体が形成される。ガラスの軟化点は、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、又はCr、Mn、Co、Zn若しくはCu等の各種元素の含有により調節できる。また、ガラス粉末は、磁性体の耐食性を高めるために、Al、Zr又はTi等の元素を含有してもよい。使用するガラス粉末の粒径は、特に限定されないが、混合粉末中で軟磁性金属粒子間に配置されやすい点で、軟磁性金属粒子よりも小径のものが好ましい。
軟磁性金属粉末とガラス粉末との混合方法としては、粉体の混合に慣用されている方法を採用できる。一例として、リボンブレンダー又はV型混合機等の各種混合機を用いる用法や、ボールミルによる混合等が挙げられる。
【0047】
<処理操作(e1)について>
処理操作(e1)では、前記(d1)で得られた混合粉末を成形して成形体を得る。
成形方法は特に限定されず、例えば、軟磁性金属粉末と樹脂とを混合して金型等の成形型に供給し、プレス等により加圧した後、樹脂を硬化させる方法が挙げられる。また、軟磁性金属粉末を含むグリーンシートを積層・圧着する方法を採用してもよい。
【0048】
金型等を用いたプレス成形で成形体を得る場合、プレスの条件は、軟磁性金属粉末及びこれと混合する樹脂の種類やこれらの配合割合等に応じて適宜決定すればよい。
軟磁性金属粉末と混合する樹脂としては、軟磁性金属粉末の粒子同士を接着して成形及び保形が可能で、かつ後述する(f1)の加熱処理によって炭素分等を残存させることなく揮発するものであれば特に限定されない。一例として、分解温度が500℃以下であるアクリル樹脂、ブチラール樹脂、及びビニル樹脂等が挙げられる。また、樹脂と共に、あるいは樹脂に代えて、ステアリン酸又はその塩、リン酸又はその塩、及びホウ酸及びその塩に代表される潤滑剤を使用してもよい。樹脂ないし潤滑剤の添加量は、成形性及び保形性等を考慮して適宜決定すればよく、例えば、軟磁性金属粉末100質量部に対して0.1~5質量部とすることができる。
【0049】
グリーンシートを積層・圧着して成形体を得る場合、吸着搬送機等を用いて個々のグリーンシートを積み重ね、プレス機を用いて熱圧着する方法が採用できる。圧着された積層体から複数のコイル部品を得る場合には、該積層体を、ダイシング機やレーザー切断機等の切断機を用いて分割してもよい。
この場合、グリーンシートは、典型的には、軟磁性金属粉末とバインダーとを含むスラリーを、ドクターブレードやダイコーター等の塗工機により、プラスチックフィルム等のベースフィルムの表面に塗布・乾燥することで製造される。使用するバインダーとしては、軟磁性金属粉末をシート状に成形し、その形状を保持できると共に、加熱により炭素分等を残存させることなく除去できるものであれば特に限定されない。一例として、ポリビニルブチラールをはじめとするポリビニルアセタール樹脂等が挙げられる。前記スラリーを調製するための溶媒も特に限定されず、ブチルカルビトールをはじめとするグリコールエーテル等を用いることができる。前記スラリー中の各成分の含有量は、採用するグリーンシートの成形方法や調製するグリーンシートの厚み等に応じて適宜調節すればよい。
【0050】
<処理操作(f1)について>
処理操作(f1)では、前記(e1)で得られた成形体を、酸素濃度が800ppm以下の雰囲気中にて、500℃~1000℃の温度で熱処理して磁性体を得る。これにより、成形体中の樹脂(バインダー)を揮発除去すると共に、成形体中のガラス粉末を軟化ないし流動化して、軟磁性金属粒子同士を接合する。成形体中の樹脂(バインダー)を揮発除去する熱処理は、処理操作(f1)に先立って、これとは別個に行ってもよい。その場合、熱処理の雰囲気は酸素濃度を10ppm以上とし、熱処理温度はFeの酸化を抑制するために400℃以下とすることが好ましい。
【0051】
熱処理雰囲気中の酸素濃度は、800ppm以下とする。これにより、軟磁性金属粒子中のFeの酸化及び非晶質膜中への侵入、並びにこれらに起因する非晶質膜の結晶化を抑制できる。前記酸素濃度は、500ppm以下とすることが好ましく、300ppm以下とすることがより好ましい。前述の処理操作(b1)、又はこれに追加して行われる処理操作(c1)又は(c2)によって非晶質膜が十分に形成されていれば、熱処理雰囲気中の酸素濃度は、0ppm、すなわち実質的に酸素を含まない熱処理雰囲気とすることもできる。この場合、雰囲気ガスとして不活性ガスを使用すればよい。他方、非晶質膜の形成が不十分である場合には、熱処理雰囲気に若干の酸素を含有させることで、その形成を促進できる。
【0052】
熱処理温度は、500℃~1000℃とする。熱処理温度を500℃以上とすることで、成形体中のガラス粉末を軟化ないし流動化させて、これと接触する軟磁性金属粒子の表面を濡らし、軟磁性金属粒子同士を接合することができる。他方、熱処理温度を1000℃以下とすることで、軟磁性金属粒子中のFeの酸化及び非晶質膜中への侵入、並びにこれらに起因する非晶質膜の結晶化を抑制できる。前記熱処理温度は、550℃以上が好ましく、600℃以上がより好ましい。また、前記熱処理温度は、950℃以下とすることが好ましく、900℃以下とすることがより好ましい。
【0053】
熱処理時間は、成形体中のガラス粉末が軟化・流動して軟磁性金属粒子間に行き渡ると共に、軟磁性金属粒子の表面に十分な厚さの非晶質膜が形成されるものであればよい。一例として、当該微細構造を得る点からは、30分以上とすることが好ましく、1時間以上とすることがより好ましい。他方、熱処理を短時間で終わらせて生産性を向上する点からは、熱処理時間を5時間以下とすることが好ましく、3時間以下とすることがより好ましい。
【0054】
ここで、前述した熱処理中のFeの酸化及び非晶質膜中への侵入は、熱処理雰囲気中の酸素濃度又は熱処理温度の少なくとも一方を低くするか、熱処理時間を短くすることで抑制できる。このため、例えば、熱処理雰囲気中の酸素濃度を高くする必要がある状況下で、金属元素の酸化を極力抑えたい場合には、熱処理温度を低く、又は熱処理時間を短く設定すればよい。また、熱処理温度を高くする必要がある場合には、熱処理雰囲気中の酸素濃度を低く、又は熱処理時間を短く設定すればよい。さらに、熱処理時間を長くする必要がある場合には、熱処理雰囲気中の酸素濃度を低く、又は熱処理温度を低く設定すればよい。
【0055】
<処理操作(g1)について>
処理操作(g1)では、導体若しくはその前駆体を配置する。ここで、導体とは、そのままコイル部品中で導体となるものであり、導体の前駆体とは、コイル部品中で導体となる導電性の材料に加えてバインダー樹脂等を含み、熱処理によって導体となるものである。導体若しくはその前駆体の配置の仕方には、下記2通りの方法がある。
【0056】
(1)前記処理操作(e1)において、前記成形体の内部又は表面に、導体若しくはその前駆体を配置すること
成形体を、上述したプレス成形で得る場合には、予め導体若しくはその前駆体を配置した金型中に軟磁性金属粉末を充填し、プレスする方法が採用できる。これにより、成形体の内部に導体若しくはその前駆体を配置できる。
【0057】
また、成形体を、上述したグリーンシートの積層・圧着で得る場合には、導体ペーストの印刷等によりグリーンシート上に導体の前駆体を配置した後、積層・圧着する方法が採用できる。これにより、積層体の内部又は表面に導体若しくはその前駆体を配置できる。
使用する導体ペーストとしては、導体粉末と有機ビヒクルとを含むものが挙げられる。導体粉末としては、銀若しくは銅又はこれらの合金等の粉末が用いられる。導体粉末の粒径は特に限定されないが、例えば、体積基準で測定した粒度分布から算出される平均粒径(メジアン径(D50))が1μm~10μmのものが用いられる。有機ビヒクルの組成は、グリーンシートに含まれるバインダーとの相性を考慮して決定すればよい。一例として、ポリビニルブチラール(PVB)等のポリビニルアセタール樹脂を、ブチルカルビトール等のグリコールエーテル系溶剤に溶解ないし膨潤させたものが挙げられる。導体ペーストにおける導体粉末及び有機ビヒクルの配合比率は、使用する印刷機に好適なペーストの粘度や形成しようとする導体パターンの膜厚等に応じて適宜調節することができる。
【0058】
前述したいずれの場合においても、配置された導体の前駆体は、引き続き行われる処理操作(f1)により導体を形成する。
【0059】
(2)前記処理操作(f1)を行った後に、前記磁性体の表面に導体を配置すること
この場合は、得られた磁性体に被覆付きの導線を巻回す方法や、該磁性体の表面に導体ペーストの印刷等により導体の前駆体を配置した後、焼成炉等の加熱装置を用いて焼付け処理を行う方法で導体を配置できる。
【0060】
[コイル部品の製造方法2]
本発明の第3実施形態に係るコイル部品の製造方法(以下、単に「第3実施形態」と記載することがある。)は、下記の処理ないし操作を含む。
(a2)Fe及びSi、並びにFeより酸化しやすいSi以外の元素を含む軟磁性金属粉末を準備すること。
(d1)前記軟磁性金属粉末をガラス粉末と混合し、混合粉末を得ること。
(e1)前記(d1)で得られた混合粉末を成形して成形体を得ること。
(f2)前記(e1)で得られた成形体を、酸素濃度が10ppm~800ppmの雰囲気中にて、500℃~900℃の温度で熱処理して磁性体を得ること。
(g1)(1)前記(e1)において、前記成形体の内部又は表面に、導体若しくはその前駆体を配置すること、又は(2)前記(f)を行った後に、前記磁性体の表面に導体を配置すること、の少なくとも一方を行うこと。
以下、前記処理操作について詳述する。ただし、前述の第2実施形態と共通する処理操作については、説明を省略する。なお、第3実施形態では、該処理操作以外の、当業者に知られている処理操作を行ってもよいことは言うまでもない。
【0061】
<処理操作(a2)について>
第3実施形態で使用する軟磁性金属粉末は、Fe及びSi、並びにFeより酸化しやすいSi以外の元素(M元素)を含むものである。Siを含む軟磁性金属粉末を原料として用いることで、後述する(f2)又は(c2)の熱処理によって軟磁性金属粉末を構成する金属粒子の表面にSiが拡散して酸化され、電気的絶縁性の高い非晶質薄膜を形成することができる。また、M元素を含む軟磁性金属粉末を原料として用いることで、後述する(f2)又は(c2)の熱処理により形成される非晶質薄膜中にこれらの元素が含有され、金属部分のFeの酸化を抑制できる。これにより、透磁率の高い磁性体ないしコイル部品を得ることが可能になる。軟磁性金属粉末におけるSi及びM元素の割合は特に制限されない。一例として、Siは1質量%~10質量%含有され、M元素は合計で0.5~5質量%含有され、残部はFe及び不可避不純物であるものが挙げられる。
【0062】
軟磁性金属粉末の粒径は、上記処理操作(a1)についての説明と同様に、特に限定されない。一例として、体積基準で測定した粒度分布から算出される平均粒径(メジアン径(D50))を0.5μm~30μmとすることができる。平均粒径は、1μm~10μmとすることが好ましい。
【0063】
<処理操作(f2)について>
処理操作(f2)では、前記(e1)で得られた成形体を、酸素濃度が10ppm~800ppmの雰囲気中にて、500℃~900℃の温度で熱処理して磁性体を得る。該熱処理により、成形体中の樹脂(バインダー)を揮発除去する。また、軟磁性金属粒子の表面にSi及びM元素を含む非晶質膜を形成すると共に、成形体中のガラス粉末を軟化ないし流動化して、軟磁性金属粒子同士を接合する。処理操作(f2)によれば、前述の処理操作(b1)又はこれと処理操作(c1)又は(c2)との組合せのような軟磁性金属粉末の処理が不要となるため、製造工程を簡略化することができる。なお、処理操作(f2)においても、上述した処理操作(f1)と同様に、成形体中の樹脂(バインダー)を揮発除去する熱処理を別個に行ってもよい。
【0064】
熱処理雰囲気中の酸素濃度は、10ppm~800ppmとする。熱処理雰囲気中の酸素濃度を10ppm以上とすることで、軟磁性金属粒子中のSi及びM元素の酸化が促進され、該粒子表面に、これらの元素及びOを含む電気的絶縁性の高い非晶質膜を形成することができる。他方、熱処理雰囲気中の酸素濃度を800ppm以下とすることで、軟磁性金属粒子中のFeの過度な酸化が防止され、磁気特性の低下を抑制できる。前記酸素濃度は、100ppm以上とすることが好ましく、200ppm以上とすることがより好ましい。
【0065】
熱処理温度は、500℃~900℃とする。熱処理温度を500℃以上とすることで、軟磁性金属粒子中のSi及びM元素の酸化及び粒子表面への拡散が促進され、該粒子表面に、これらの元素及びOを含む電気的絶縁性の高い非晶質膜を形成することができる。また、成形体中のガラス粉末を軟化ないし流動化させて、これと接触する軟磁性金属粒子の表面を濡らし、軟磁性金属粒子同士を接合することもできる。他方、熱処理温度を900℃以下とすることで、軟磁性金属粒子中のFeの酸化及び粒子表面への拡散、並びにこれらに起因する該粒子表面における結晶質膜の生成を抑制できる。前記熱処理温度は、550℃以上が好ましく、600℃以上がより好ましい。また、前記熱処理温度は、850℃以下とすることが好ましく、800℃以下とすることがより好ましい。
【0066】
熱処理時間は、成形体中のガラス粉末が軟化・流動して軟磁性金属粒子間に行き渡ると共に、軟磁性金属粒子の表面に十分な厚さの非晶質膜が形成されるものであればよい。一例として、当該微細構造を得る点からは、30分以上とすることが好ましく、1時間以上とすることがより好ましい。他方、熱処理を短時間で終わらせて生産性を向上する点からは、熱処理時間を5時間以下とすることが好ましく、3時間以下とすることがより好ましい。
【0067】
ここで、前述したFeの酸化及び粒子表面への拡散、並びにこれらに起因する該粒子表面における結晶質膜の生成は、熱処理雰囲気中の酸素濃度又は熱処理温度の少なくとも一方を低くするか、熱処理時間を短くすることで抑制できる。このため、例えば、熱処理雰囲気中の酸素濃度を高くする必要がある状況下で、結晶質膜の生成を極力抑えたい場合には、熱処理温度を低く、又は熱処理時間を短く設定すればよい。また、熱処理温度を高くする必要がある場合には、熱処理雰囲気中の酸素濃度を低く、又は熱処理時間を短く設定すればよい。さらに、熱処理時間を長くする必要がある場合には、熱処理雰囲気中の酸素濃度を低く、又は熱処理温度を低く設定すればよい。
【0068】
<処理操作(c2)について>
第3実施形態においては、前記(d1)に先立って、前記軟磁性金属粉末を、酸素濃度が3ppm~100ppmの雰囲気中にて、300℃~900℃の温度で熱処理すること(処理操作(c2))をさらに行ってもよい。これにより、軟磁性金属粉末を構成する金属粒子の表面に、Si及びO、並びにM元素を含む非晶質の薄膜が、均一な厚さで形成される。該薄膜は、コイル部品中の磁性体において絶縁層として機能し、軟磁性金属粒子間を電気的に絶縁する。このため、絶縁層の厚みの揃った、磁気特性に優れる磁性体ないしコイル部品を得ることができる。なお、処理操作(c2)を行う場合には、前述の処理操作(f2)に代えて、上述の処理操作(f1)を採用することができる。これは、処理操作(f2)が、ガラス粉末の軟化による軟磁性金属粒子同士の接合のみならず、絶縁層である非晶質薄膜の形成をも意図して行われることによる。処理操作(f1)を採用するメリットは、実質的に酸素を含まない雰囲気中で熱処理が可能となることにある。
【0069】
処理操作(c2)における熱処理の雰囲気、温度及び時間を前述のものとする理由は、上述した第2実施形態にて任意的に実施される処理操作(c2)と同様であるため、説明を省略する。
【0070】
以上説明した第2実施形態及び第3実施形態によれば、磁性体を構成する軟磁性金属粒子の表面に、Si及びOを含む非晶質の絶縁層を備えたコイル部品を得ることができ、これにより絶縁耐圧の向上が可能となる。
【0071】
[回路基板]
本発明の第4の実施形態に係る回路基板(以下、単に「第4実施形態」と記載することがある。)は、第1実施形態に係るコイル部品を載せた回路基板である。
回路基板の構造等は限定されず、目的に応じたものを採用すればよい。
第4実施形態は、第1実施形態に係るコイル部品を使用することで、高電圧を印加できるものとなる。
【実施例
【0072】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は該実施例に限定されるものではない。
【0073】
[実施例1]
<コイル部品及び試験用磁性体の作製>
まず、Feを94.5wt%、Siを2.0wt%及びCrを3.5wt%含み、残部が不可避不純物である、平均粒径4μmの軟磁性金属粉末を準備した。次いで、この軟磁性金属粉末を、Si及びBを主成分とするガラス粉末(Si含有量70質量%)、ポリビニルブチラール(PVB)系のバインダー樹脂及び分散媒と混合してスラリーを調製し、これを自動塗工機によりシート状に成形し、グリーンシートを得た。次いで、このグリーンシートにAgペーストを印刷して内部導体の前駆体を形成した。次いで、このグリーンシートを積層・圧着した後個片化して成形体を得た。次いで、この成形体を、酸素濃度800ppmの雰囲気下で800℃にて1時間の熱処理を行って、内部導体を備える磁性体を得た。最後に、内部導体に接続する外部電極を形成し、図3に示す形状のコイル部品を得た。
また、内部導体の前駆体を形成していない前記グリーンシートを積層・圧着し、円板状に加工した成形体を前述の条件で熱処理して、直径7mm、厚さ0.5mm~0.8mmの円板状の試験用磁性体を得た。
さらに、内部導体の前駆体を形成していない前記グリーンシートを積層・圧着し、直方体状に加工した成形体を前述の条件で熱処理して、長さ50mm、幅5mm、厚さ4mmの直方体状の試験用磁性体を得た。
【0074】
<絶縁層の構造及び組成確認>
得られたコイル部品について、磁性体中の絶縁層が非晶質であるか否かを、上述した方法で確認したところ、非晶質であることが判明した。また、絶縁層の組成を上述した方法で確認したところ、そのSi含有量は81質量%、Cr含有量は5質量%、Fe含有量は14質量%となり、ガラス相よりも多くのSiを含むことが明らかになった。
【0075】
<透磁率の測定>
得られたコイル部品について、測定装置としてLクロムメーター(アジレントテクノロジー社製 4285A)を用い、周波数10MHzにて比透磁率の測定を行った。得られた比透磁率は35であった。
【0076】
<電気的絶縁性の評価>
コイル部品の電気的絶縁性を、前述した円板状の試験用磁性体の体積抵抗率及び絶縁破壊電圧により評価した。
前述した円板状の試験用磁性体の両面全体に、スパッタリングによりAu膜を形成して評価用試料とした。
得られた評価用試料について、JIS-K6911に準じて体積抵抗率を測定した。試料の両面に形成されたAu膜を電極とし、該電極間に、電界強度が60V/cmとなるように電圧を印加して抵抗値を測定し、該抵抗値から体積抵抗率を算出した。評価用試料の体積抵抗率は5.0kΩ・cmであった。
また、得られた評価用試料の絶縁破壊電圧は、試料の両面に形成されたAu膜を電極とし、該電極間に電圧を印加して電流値を測定することで行った。印加電圧を徐々に上げて電流値を測定し、該電流値から算出される電流密度が0.01A/cmとなった電圧から算出される電界強度を破壊電圧とした。評価用試料の絶縁破壊電圧は39kV/cmであった。
【0077】
<機械的強度の評価>
コイル部品の機械的強度を、前述した直方体状の試験用磁性体(試験片)の3点曲げ試験により評価した。
前記試験片に対して、図4に示す態様で支持及び載荷を行い、これが破壊したときの最大荷重Wから、曲げモーメントMおよび断面二次モーメントIを考慮して、下記(式1)により破断応力σを算出した。前述の試験を10個の試験片について行い、破断応力σの平均値を、実施例1に係る磁性体の破断応力とした。得られた破断応力は、19kgf/mmであった。
【0078】
【数1】
【0079】
[実施例2]
<コイル部品及び試験用磁性体の作製>
原料として、Feを94.5wt%、Siを3.5wt%及びMnを2wt%含み、残部が不可避不純物である、平均粒径4μmの軟磁性金属粉末を用いた以外は実施例1と同様の方法で、実施例2に係るコイル部品及び試験用磁性体を作製した。
【0080】
<絶縁層の構造及び組成確認>
得られたコイル部品について、磁性体中の絶縁層が非晶質であるか否かを、実施例1と同様の方法で確認したところ、非晶質であることが判明した。また、絶縁層の組成を、実施例1と同様の方法で確認したところ、そのSi含有量は80質量%となり、ガラス相よりも多くのSiを含むことが明らかになった。
【0081】
<コイル部品及び試験用磁性体の評価>
得られたコイル部品及び試験用磁性体の特性を、実施例1と同様の方法で測定した。コイル部品の比透磁率は33、評価用試料の抵抗率は4.8kΩ・cm、絶縁破壊電圧は38kV/cm、磁性体の3点曲げによる破壊応力は18kgf/mmであった。
【0082】
[実施例3]
<コイル部品及び試験用磁性体の作製>
以下の点を除き、実施例1と同様の方法で、実施例3に係るコイル部品及び試験用磁性体を作製した。
実施例1と同一ロットの軟磁性金属粉末を、エタノール及びアンモニア水を含む混合溶液中に分散し、これにテトラエトキシシラン(TEOS)、エタノール及び水を含む処理液を混合・撹拌した後、ろ過により軟磁性金属粉末を分離し、これを乾燥した。
【0083】
<絶縁層の構造及び組成確認>
得られたコイル部品について、磁性体中の絶縁層が非晶質であるか否かを、実施例1と同様の方法で確認したところ、非晶質であることが判明した。また、絶縁層の組成を、実施例1と同様の方法で確認したところ、そのSi含有量は93質量%、Cr含有量は2質量%、Fe含有量は5質量%となり、ガラス相よりも多くのSiを含むことが明らかになった。
【0084】
<コイル部品及び試験用磁性体の評価>
得られたコイル部品及び試験用磁性体の特性を、実施例1と同様の方法で測定した。コイル部品の比透磁率は21、評価用試料の抵抗率は5.9kΩ・cm、絶縁破壊電圧は44kV/cm、磁性体の3点曲げによる破壊応力は16kgf/mmであった。
【0085】
[実施例4]
<コイル部品及び試験用磁性体の作製>
以下の点を除き、実施例1と同様の方法で、実施例4に係るコイル部品及び試験用磁性体を作製した。
実施例1と同一ロットの軟磁性金属粉末を、ガラス粉末との混合に先立って、酸素濃度7ppmの雰囲気下で700℃にて1時間の熱処理を行った。
【0086】
<絶縁層の構造及び組成確認>
得られたコイル部品について、磁性体中の絶縁層が非晶質であるか否かを、実施例1と同様の方法で確認したところ、非晶質であることが判明した。また、絶縁層の組成を、実施例1と同様の方法で確認したところ、そのSi含有量は90質量%、Cr含有量は9質量%、Fe含有量は1質量%となり、ガラス相よりも多くのSiを含むことが明らかになった。
【0087】
<コイル部品及び試験用磁性体の評価>
得られたコイル部品及び試験用磁性体の特性を、実施例1と同様の方法で測定した。コイル部品の比透磁率は29、評価用試料の抵抗率は5.8kΩ・cm、絶縁破壊電圧は42kV/cm、磁性体の3点曲げによる破壊応力は16kgf/mmであった。
【0088】
[実施例5]
<コイル部品及び試験用磁性体の作製>
原料として、実施例2と同一ロットの軟磁性金属粉末を用いた以外は実施例4と同様の方法で、実施例5に係るコイル部品及び試験用磁性体を作製した。
【0089】
<絶縁層の構造及び組成確認>
得られたコイル部品について、磁性体中の絶縁層が非晶質であるか否かを、実施例1と同様の方法で確認したところ、非晶質であることが判明した。また、絶縁層の組成を、実施例1と同様の方法で確認したところ、そのSi含有量は88質量%となり、ガラス相よりも多くのSiを含むことが明らかになった。
【0090】
<コイル部品及び試験用磁性体の評価>
得られたコイル部品及び試験用磁性体の特性を、実施例1と同様の方法で測定した。コイル部品の比透磁率は28、評価用試料の抵抗率は5.6kΩ・cm、絶縁破壊電圧は41kV/cm、磁性体の3点曲げによる破壊応力は17kgf/mmであった。
【0091】
[実施例6]
<コイル部品及び試験用磁性体の作製>
ガラス粉末として、Bi―ZnO―B系ガラスを用いた以外は実施例4と同様の方法で、実施例6に係るコイル部品及び試験用磁性体を作製した。
【0092】
<絶縁層の構造及び組成確認>
得られたコイル部品について、磁性体中の絶縁層が非晶質であるか否かを、実施例1と同様の方法で確認したところ、非晶質であることが判明した。また、絶縁層の組成を、実施例1と同様の方法で確認したところ、Siの含有が確認された。本実施例で使用したガラス粉末は、実質的にSiを含有しないことから、絶縁層のSi含有量の最大値は、ガラス相のそれよりも多いといえる。
【0093】
<コイル部品及び試験用磁性体の評価>
得られたコイル部品及び試験用磁性体の特性を、実施例1と同様の方法で測定した。コイル部品の比透磁率は28、評価用試料の抵抗率は4.7kΩ・cm、絶縁破壊電圧は36kV/cm、磁性体の3点曲げによる破壊応力は15kgf/mmであった。
【0094】
[比較例1]
<コイル部品及び試験用磁性体の作製>
以下の点を除き、実施例1と同様の方法で、比較例1に係るコイル部品及び試験用磁性体を作製した。
グリーンシート成形用スラリーの調製時に、ガラス粉末を混合しなかった。また、成形体の熱処理雰囲気を、大気とした。
【0095】
<絶縁層の構造及び組成確認>
得られたコイル部品について、磁性体中の絶縁層が非晶質であるか否かを、実施例1と同様の方法で確認したところ、結晶質であることが判明した。また、その組成は、Si含有量が11質量%、Cr含有量が32質量%、Fe含有量が57質量%であることも判明した。
【0096】
<コイル部品及び試験用磁性体の評価>
得られたコイル部品及び試験用磁性体の特性を、実施例1と同様の方法で測定した。コイル部品の比透磁率は28、評価用試料の抵抗率は0.10kΩ・cm、絶縁破壊電圧は1kV/cm、磁性体の3点曲げによる破壊応力は7kgf/mmであった。
【0097】
[比較例2]
<コイル部品及び試験用磁性体の作製>
以下の点を除き、実施例3と同様の方法で、比較例2に係るコイル部品及び試験用磁性体を作製した。
グリーンシート成形用スラリーの調製時に、ガラス粉末を混合しなかった。また、成形体の熱処理雰囲気を、大気とした。
【0098】
<絶縁層の構造及び組成確認>
得られたコイル部品について、磁性体中の絶縁層が非晶質であるか否かを、実施例1と同様の方法で確認したところ、結晶質であることが判明した。また、その組成は、Si含有量が35質量%、Cr含有量が28質量%、Fe含有量が37質量%であることも判明した。
【0099】
<コイル部品及び試験用磁性体の評価>
得られたコイル部品及び試験用磁性体の特性を、実施例1と同様の方法で測定した。コイル部品の比透磁率は24、評価用試料の抵抗率は0.50kΩ・cm、絶縁破壊電圧は9kV/cm、磁性体の3点曲げによる破壊応力は13kgf/mmであった。
【0100】
[比較例3]
<コイル部品及び試験用磁性体の作製>
以下の点を除き、実施例4と同様の方法で、比較例3に係るコイル部品及び試験用磁性体を作製した。
グリーンシート成形用スラリーの調製時に、ガラス粉末を混合しなかった。また、成形体の熱処理雰囲気を、大気とした。
【0101】
<絶縁層の構造及び組成確認>
得られたコイル部品について、磁性体中の絶縁層が非晶質であるか否かを、実施例1と同様の方法で確認したところ、結晶質であることが判明した。また、その組成は、Si含有量が41質量%、Cr含有量が35質量%、Fe含有量が24質量%であることも判明した。
【0102】
<コイル部品及び試験用磁性体の評価>
得られたコイル部品及び試験用磁性体の特性を、実施例1と同様の方法で測定した。コイル部品の比透磁率は33、評価用試料の抵抗率は2.3kΩ・cm、絶縁破壊電圧は18kV/cm、磁性体の3点曲げによる破壊応力は14kgf/mmであった。
【0103】
以上の結果を、まとめて表1に示す。
【0104】
【表1】
【0105】
実施例と比較例との対比から、軟磁性金属粒子同士がガラス相を介して接合されており、該軟磁性金属粒子が金属部分にFeを含むと共に、その表面にSi及びOを含む非晶質の絶縁層を備え、かつ該絶縁層中の全元素に対するSiの質量割合が、前記ガラス相中のそれに比べて大きい磁性体を備えるコイル部品は、該構成を有さない磁性体を備えるコイル部品に比べて、大きな絶縁破壊電圧を示すといえる。また、前述の構成により、磁性体の体積抵抗率も上昇し、電気的絶縁性全般に優れるコイル部品が得られるといえる。さらに、前述の構成によれば、機械的強度の高いコイル部品が得られるともいえる。
【0106】
比較例1~3ではいずれも、軟磁性金属粒子の表面に結晶質の絶縁膜が形成されていた。これらの例では、絶縁膜中のFe含有量が実施例に比べて多かったことから、金属部分から絶縁膜中へのFeの拡散が、絶縁膜の結晶化に寄与しているといえる。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明によれば、絶縁破壊電圧が向上されたコイル部品が提供される。本発明に係るコイル部品は、より高電圧下で使用できるため、自動車等の用途に好適である。また、本発明の好ましい形態によれば、機械的強度が高いコイル部品が提供されるため、振動等により応力が加わる用途にも適用が可能となる点でも、本発明は有用なものである。
【符号の説明】
【0108】
1 コイル部品
2 磁性体
21 軟磁性金属粒子
211 金属部分
212 絶縁層
22 ガラス相
3 外部電極
図1
図2
図3
図4